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特許7565671シリカゾルの製造方法及びシリカゾル中の中間生成物の抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】シリカゾルの製造方法及びシリカゾル中の中間生成物の抑制方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/141 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
C01B33/141
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018209547
(22)【出願日】2018-11-07
(65)【公開番号】P2020075830
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-07-29
【審判番号】
【審判請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】京谷 智裕
(72)【発明者】
【氏名】住谷 直子
【合議体】
【審判長】深草 祐一
【審判官】宮澤 尚之
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/117559(WO,A1)
【文献】特開2002-45681(JP,A)
【文献】特表2016-521242(JP,A)
【文献】特開2010-269985(JP,A)
【文献】特開2009-256184(JP,A)
【文献】特表2017-532397(JP,A)
【文献】特開2012-246201(JP,A)
【文献】国際公開第2008/015943(WO,A1)
【文献】特開2018-80331(JP,A)
【文献】特開2020-47832(JP,A)
【文献】特開2018-107293(JP,A)
【文献】米国特許第4327065(US,A)
【文献】中国特許出願公開第105948533(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B33/00-33/193
C08G77/00-77/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(1)及び工程(2)を含み、分散剤を添加する工程を含まず、二重結合を一つ以上有するアニオン性化合物を添加する工程を含まず、スルホン酸基に変換する工程を含まない、シリカゾルの製造方法。
工程(1)テトラアルコキシシランをアンモニア存在下で加水分解し縮合し、シリカゾル反応液を得る工程。
工程(2)前記シリカゾル反応液に、過酸化水素を含む酸化剤を添加する工程であって、該酸化剤の添加量が、加水分解反応・縮合反応に供したテトラアルコキシシランのシリカ換算含有量100質量部に対して、5質量部以下である工程。
【請求項2】
加水分解反応・縮合反応に供したテトラアルコキシシランのシリカ換算含有量100質量部に対して、酸化剤を0.005質量部~5質量部添加する、請求項1に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項3】
工程(2)の後に以下の工程(3)を含む、請求項1又は2に記載のシリカゾルの製造方法。
工程(3)前記酸化剤を添加したシリカゾル反応液を加温する工程。
【請求項4】
テトラアルコキシシランをアンモニア存在下で加水分解し縮合して得たシリカゾル反応液に、過酸化水素を含む酸化剤を添加する、シリカゾル中の中間生成物の抑制方法であって、該酸化剤の添加量が、加水分解反応・縮合反応に供したテトラアルコキシシランのシリカ換算含有量100質量部に対して、5質量部以下であり、分散剤を添加する工程を含まず、二重結合を一つ以上有するアニオン性化合物を添加する工程を含まず、スルホン酸基に変換する工程を含まない、シリカゾル中の中間生成物の抑制方法。
【請求項5】
加水分解反応・縮合反応に供したテトラアルコキシシランのシリカ換算含有量100質量部に対して、酸化剤を0.005質量部~5質量部添加する、請求項に記載のシリカゾル中の中間生成物の抑制方法。
【請求項6】
酸化剤を添加したシリカゾル反応液を加温する、請求項4又は5に記載のシリカゾル中の中間生成物の抑制方法。
【請求項7】
金属硝酸塩又は金属硫酸塩を添加する工程を含まない請求項1~のいずれか1項に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項8】
金属硝酸塩又は金属硫酸塩を添加する工程を含まない請求項のいずれか1項に記載のシリカゾル中の中間生成物の抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカゾルの製造方法に関する。また、本発明は、シリカゾル中の中間生成物の抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属や無機化合物等の材料の表面を研磨する方法として、研磨液を用いた研磨方法が知られている。中でも、半導体用のプライムシリコンウェハやこれらの再生シリコンウェハの最終仕上げ研磨、及び、半導体デバイス製造時の層間絶縁膜の平坦化、金属プラグの形成、埋め込み配線形成等の化学的機械的研磨(CMP)では、その表面状態が半導体特性に大きく影響するため、これらの部品の表面や端面は、極めて高精度に研磨されることが要求されている。
【0003】
このような精密研磨においては、シリカゾルを含む研磨組成物が採用されており、その主成分である砥粒として、コロイダルシリカが広く用いられている。コロイダルシリカは、その製造方法の違いにより、四塩化珪素の熱分解によるもの(ヒュームドシリカ等)、水ガラス等の珪酸アルカリの脱イオンによるもの、アルコキシシランの加水分解反応・縮合反応によるもの(一般に「ゾルゲル法」と称される)等が知られている。
【0004】
コロイダルシリカを含むシリカゾルの製造方法に関し、これまで多くの検討がなされてきた。例えば、特許文献1~3には、アルコキシシランの加水分解反応・縮合反応によりシリカゾルを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-60232号公報
【文献】国際公開第2008/123373号
【文献】国際公開第2004/000922号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、アルコキシシランの加水分解反応・縮合反応によるシリカゾルの製造時又は製造後において、中間生成物が発生することがある。この中間生成物は、成長不十分なまま固体として残存したシリカや製造後に溶存ケイ酸から析出したシリカ等と考えられる。このような中間生成物は、所望のコロイダルシリカよりも低い縮合度のシリカと考えられるため、得られるシリカゾル中のコロイダルシリカの機械的特性を悪化させ、研磨速度を低下させる等、得られる研磨液の研磨特性に悪影響を及ぼす。また、得られる研磨液中に縮合度の低いシリカが含まれるため、得られる研磨液の研磨後の被研磨体からの除去性に劣る。更に、シリカゾルや研磨液のシリカの凝集、沈降、増粘、ゲル化等の問題が生じやすく、得られるシリカゾルや得られる研磨液が不安定な挙動を示し、保存安定性に劣る。
【0007】
特許文献1~3に開示されているアルコキシシランの加水分解反応・縮合反応によりシリカゾルを製造する方法は、このような中間生成物の対処について何ら記載されておらず、製造条件次第では中間生成物を多く含むシリカゾルが得られてしまう。その結果、得られる研磨液の研磨特性に悪影響を及ぼし、得られる研磨液の研磨後の被研磨体からの除去性に劣り、得られるシリカゾルや得られる研磨液の保存安定性に劣る。
【0008】
本発明は、このような課題を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、中間生成物の少ないシリカゾルの製造方法を提供することにある。また、本発明のもう1つの目的は、中間生成物を少なくするシリカゾル中の中間生成物の抑制方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従来、中間生成物を含むシリカゾルが多く存在し、そのまま中間生成物を除去せずに研磨液として用いられてきたため、得られる研磨液の研磨特性や保存安定性が十分とは言えなかった。しかしながら、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、中性酸化剤に代表される酸化剤をシリカゾルに添加することで、中間生成物の少ないシリカゾルが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、以下の通りである。
[1]以下の工程(1)及び工程(2)を含む、シリカゾルの製造方法。
工程(1)テトラアルコキシシランを加水分解し縮合し、シリカゾル反応液を得る工程。
工程(2)前記シリカゾル反応液に酸化剤を添加する工程。
[2]酸化剤が、中性酸化剤である、[1]に記載のシリカゾルの製造方法。
[3]加水分解反応・縮合反応に供したテトラアルコキシシランのシリカ換算含有量100質量部に対して、酸化剤を0.005質量部~5質量部添加する、[1]又は[2]に記載のシリカゾルの製造方法。
[4]工程(2)の後に以下の工程(3)を含む、[1]~[3]のいずれかに記載のシリカゾルの製造方法。
工程(3)前記酸化剤を添加したシリカゾル反応液を加温する工程。
[5]テトラアルコキシシランを加水分解し縮合して得たシリカゾル反応液に、酸化剤を添加する、シリカゾル中の中間生成物の抑制方法。
[6]酸化剤が、中性酸化剤である、[5]に記載のシリカゾル中の中間生成物の抑制方法。
[7]加水分解反応・縮合反応に供したテトラアルコキシシランのシリカ換算含有量100質量部に対して、酸化剤を0.005質量部~5質量部添加する、[5]又は[6]に記載のシリカゾル中の中間生成物の抑制方法。
[8]酸化剤を添加したシリカゾル反応液を加温する、[5]~[7]のいずれかに記載のシリカゾル中の中間生成物の抑制方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のシリカゾルの製造方法は、中間生成物の少ないシリカゾルを得ることができ、得られる研磨液の研磨特性に優れ、得られる研磨液の研磨後の被研磨体からの除去性に優れ、得られるシリカゾルや得られる研磨液の保存安定性に優れる。また、本発明のシリカゾル中の中間生成物の抑制方法は、シリカゾル中の中間生成物を簡便に少なくすることができ、得られる研磨液の研磨特性に優れ、得られる研磨液の研磨後の被研磨体からの除去性に優れ、得られるシリカゾルや得られる研磨液の保存安定性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例2で得られたシリカゾルのFE-SEMの画像である。
図2】比較例1で得られたシリカゾルのFE-SEMの画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明について詳述するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。尚、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0014】
(シリカゾルの製造方法)
本発明のシリカゾルの製造方法は、以下の工程(1)及び工程(2)を含む。
工程(1)テトラアルコキシシランを加水分解し縮合し、シリカゾル反応液を得る工程。
工程(2)前記シリカゾル反応液に酸化剤を添加する工程。
【0015】
(工程(1))
工程(1)は、テトラアルコキシシランを加水分解し縮合し、シリカゾル反応液を得る工程である。テトラアルコキシシランを加水分解し縮合し、シリカゾル反応液を得る方法は、公知の製造方法を用いればよい。
【0016】
テトラアルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン等が挙げられる。これらのテトラアルコキシシランは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのテトラアルコキシシランの中でも、加水分解反応・縮合反応が早く、未反応物が残留しづらく、生産性に優れ、安定なシリカゾルを容易に得ることができることから、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランが好ましく、テトラメトキシシランがより好ましい。
【0017】
コロイダルシリカを構成する原料は、テトラアルコキシシラン以外に、テトラアルコキシシランを部分的に加水分解し縮合して得られる低縮合物等を用いてもよい。
【0018】
加水分解反応・縮合反応を行う際の反応に用いる溶媒・分散媒は、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール等が挙げられる。これらの溶媒・分散媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの溶媒・分散媒の中でも、加水分解反応・縮合反応で用いるものと副生するものとが同一で、製造上の利便性に優れることから、水、アルコールが好ましく、水、メタノールがより好ましい。
【0019】
加水分解反応・縮合反応を行う際、触媒存在下であってもよく、無触媒下であってもよいが、加水分解反応・縮合反応を促進できることから、触媒存在下が好ましい。
触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、ギ酸、クエン酸等の酸触媒、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、アンモニア、尿素、エタノールアミン、テトラメチル水酸化アンモニウム等のアルカリ触媒等が挙げられる。これらの触媒の中でも、触媒作用に優れ、粒子形状を制御しやすいことから、アルカリ触媒が好ましく、金属不純物の混入を抑制することができ、揮発性が高く縮合反応後の除去性に優れることから、アンモニアがより好ましい。
【0020】
工程(1)と工程(2)の間に、他の工程を含んでもよい。
工程(1)と工程(2)の間に、シリカゾル反応液中の成分のうち、不必要な成分を除去し、必要な成分を添加する工程を含むことが好ましい。例えば、アルコール等の溶媒・分散媒、アンモニア等の触媒を除去し、所望の含有率となるように水を添加することが挙げられる。
【0021】
(工程(2))
工程(2)は、シリカゾル反応液に酸化剤を添加する工程である。
【0022】
酸化剤は、シリカゾル中の中間生成物を抑制する効果を有し、例えば、過酸化水素、過酸化ベンゾイル等の中性酸化剤;硫酸、硝酸等の酸性酸化剤等が挙げられる。これらの酸化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの酸化剤の中でも、シリカゾル中のコロイダルシリカの物性を維持しつつ、効率よく中間生成物を抑制することができ、シリカゾルのpHを中性付近に維持することができることから、中性酸化剤が好ましく、過酸化水素がより好ましい。
【0023】
本明細書において、中間生成物は、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて倍率10万倍~20万倍で撮影したFE-SEMの画像において、図1図2でいう黒い線で囲まれた部分のように見える箇所をいう。
この中間生成物は、アルコキシシランの加水分解反応・縮合反応によるシリカゾルの製造時又は製造後における、成長不十分なまま固体として残存したシリカや製造後に溶存ケイ酸から析出したシリカ等と考えられる。
【0024】
シリカゾル反応液への酸化剤の添加量は、加水分解反応・縮合反応に供したテトラアルコキシシランのシリカ換算含有量100質量部に対して、0.005質量部~5質量部が好ましく、0.01質量部~1質量部がより好ましい。酸化剤の添加量が0.005質量部以上であると、効率よく中間生成物を抑制することができる。また、酸化剤の添加量が5質量部以下であると、シリカゾル中のコロイダルシリカの物性を維持することができる。
加水分解反応・縮合反応に供したテトラアルコキシシランのシリカ換算含有量とは、加水分解反応・縮合反応に供したテトラアルコキシシラン全量が加水分解反応・縮合反応を経てシリカになった際の、シリカの理論量をいう。
【0025】
工程(2)の後に、他の工程を含んでもよい。
効率よく中間生成物を抑制することができることから、工程(2)の後に、酸化剤を添加したシリカゾル反応液を加温する工程(3)を含むことが好ましい。
【0026】
工程(3)において加温する温度は、30℃~100℃が好ましく、40℃~95℃がより好ましい。工程(3)において加温する温度が30℃以上であると、効率よく中間生成物を抑制することができる。また、工程(3)において加温する温度が100℃以下であると、シリカゾルの分散媒や酸化剤の揮発を抑制することができる。
【0027】
(シリカゾル中の中間生成物の抑制方法)
本発明のシリカゾル中の中間生成物の抑制方法は、テトラアルコキシシランを加水分解し縮合して得たシリカゾル反応液に、酸化剤を添加する方法であり、前述した工程(1)及び工程(2)を行えばよく、必要に応じて、前述した工程(3)を行えばよい。
【0028】
(シリカゾルの好適特性)
シリカゾル中のコロイダルシリカの含有率は、シリカゾル100質量%中、3~50質量%が好ましく、4~40質量%がより好ましく、5~30質量%が更に好ましい。コロイダルシリカの含有率が3質量%以上であると、シリコンウェハに代表される被研磨体に対する研磨レートに優れる。また、コロイダルシリカの含有率が50質量%以下であると、コロイダルシリカの凝集・沈降を抑制し、シリカゾル中でコロイダルシリカの濃度ムラを抑制することができる。
【0029】
シリカゾル中の溶媒・分散媒の含有率は、シリカゾル100質量%中、50~97質量%が好ましく、60~96質量%がより好ましく、70~95質量%が更に好ましい。溶媒・分散媒の含有率が50質量%以上であると、コロイダルシリカの凝集・沈降を抑制し、シリカゾル中でコロイダルシリカの濃度ムラを抑制することができる。また、溶媒・分散媒の含有率が97質量%以下であると、シリコンウェハに代表される被研磨体に対する研磨レートに優れる。
【0030】
シリカゾル中のコロイダルシリカや溶媒・分散媒の含有率は、前述したシリカゾル反応液中の成分のうち、不必要な成分を除去し、必要な成分を添加する工程により、所望の範囲に設定することができる。
【0031】
シリカゾル中の溶媒・分散媒は、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール等が挙げられる。これらの溶媒・分散媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの溶媒・分散媒の中でも、コロイダルシリカとの親和性に優れることから、水、アルコールが好ましく、水がより好ましい。
【0032】
シリカゾルのpHは、6~9が好ましく、7~8がより好ましい。シリカゾルのpHが6以上であると、シリカゾルの長期間の保存安定性に優れる。また、シリカゾルのpHが9以下であると、コロイダルシリカの凝集・沈降を抑制し、シリカゾル中でコロイダルシリカの濃度ムラを抑制することができる。
【0033】
シリカゾル中の金属不純物含有率は、1ppm以下が好ましく、0.5ppm以下がより好ましく、0.1ppm以下が更に好ましい。
【0034】
半導体デバイスのシリコンウェハの研磨において、金属不純物が被研磨体の表面に付着・汚染することで、ウェハ特性に悪影響を及ぼすと共に、ウェハ内部に拡散して品質が劣化するため、このようなウェハによって製造された半導体デバイスの性能が著しく低下する。
また、シリカゾル中に金属不純物が存在すると、酸性を示す表面シラノール基と金属不純物とが配位的な相互作用が発生し、表面シラノール基の化学的性質(酸性度等)を変化させたり、コロイダルシリカ表面の立体的な環境(コロイダルシリカの凝集のしやすさ等)を変化させたり、研磨レートに影響を及ぼす。
【0035】
シリカゾル中の金属不純物含有率は、高周波誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)により測定したものとする。具体的には、シリカゾル2gを正確に量り取り、硫酸とフッ酸を加え、加温・溶解・蒸発させ、残存した硫酸滴に総量が正確に10gとなるよう純水を加えて試験液を作成し、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置を用いて測定するものとする。対象の金属は、ナトリウム、カリウム、鉄、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、コバルト、クロム、銅、マンガン、鉛、チタン、銀、ニッケルとする。
【0036】
シリカゾル中の金属不純物含有率は、テトラアルコキシシランを主原料として加水分解反応・縮合反応を行ってシリカゾルを得ることで、1ppm以下とすることができる。
水ガラス等の珪酸アルカリの脱イオンによる方法では、原料由来のナトリウム等が残存するため、シリカゾル中の金属不純物含有率を1ppm以下とすることが困難である。
【0037】
また、シリカゾル中の金属不純物含有率を低減させるためには、シリカゾルの製造で用いる分散剤や添加剤等として金属含有率が極めて低い又は全く含まないものを用い、反応容器等として金属汚染性が極めて低いものを用い、更に、製造場所を金属汚染性が極めて低い環境となるように保つ設備とすることが好ましい。
【0038】
シリカゾル中のコロイダルシリカの平均1次粒子径は、10nm~200nmが好ましく、15nm~100nmがより好ましい。コロイダルシリカの平均1次粒子径が10nm以上であると、シリコンウェハに代表される被研磨体に対する研磨レートに優れ、シリカゾルの保存安定性に優れる。また、コロイダルシリカの平均1次粒子径が200nm以下であると、研磨時のシリコンウェハに代表される被研磨体の表面粗さや傷を低減でき、コロイダルシリカの沈降を抑制することができる。
コロイダルシリカの平均1次粒子径は、BET法により測定したものとする。具体的には、比表面積自動測定装置を用いてコロイダルシリカの比表面積を測定し、下記式(1)を用いて平均1次粒子径を算出するものとする。
平均1次粒子径(nm)=6000/(比表面積(m/g)×密度(g/cm)) ・・・ (1)
【0039】
コロイダルシリカの平均1次粒子径は、公知の条件・方法により、所望の範囲に設定することができる。
【0040】
シリカゾル中のコロイダルシリカの平均2次粒子径は、20nm~300nmが好ましく、30nm~200nmがより好ましい。コロイダルシリカの平均2次粒子径が20nm以上であると、シリコンウェハに代表される被研磨体に対する研磨レートに優れ、研磨後の洗浄における粒子等の除去性に優れ、シリカゾルの保存安定性に優れる。コロイダルシリカの平均2次粒子径が300nm以下であると、研磨時のシリコンウェハに代表される被研磨体の表面粗さや傷を低減でき、研磨後の洗浄における粒子等の除去性に優れ、コロイダルシリカの沈降を抑制することができる。
コロイダルシリカの平均2次粒子径は、DLS法により測定したものとする。具体的には、動的光散乱粒子径測定装置を用いて測定するものとする。
【0041】
コロイダルシリカの平均2次粒子径は、公知の条件・方法により、所望の範囲に設定することができる。
【0042】
シリカゾル中のコロイダルシリカのcv値は、15~50が好ましく、20~40がより好ましい。コロイダルシリカのcv値が15以上であると、シリコンウェハに代表される被研磨体に対する研磨レートに優れ、シリコンウェハの生産性に優れる。また、コロイダルシリカのcv値が50以下であると、研磨時のシリコンウェハに代表される被研磨体の表面粗さや傷を低減でき、研磨後の洗浄における粒子等の除去性に優れる。
コロイダルシリカのcv値は、動的光散乱粒子径測定装置を用いてコロイダルシリカの平均2次粒子径を測定し、下記式(2)を用いてcv値を算出するものとする。
cv値=(標準偏差(nm)/平均2次粒子径(nm))×100 ・・・ (2)
【0043】
シリカゾル中のコロイダルシリカの会合比は、1.2~2.5が好ましく、1.5~2.2がより好ましい。コロイダルシリカの会合比が1.2以上であると、シリコンウェハに代表される被研磨体に対する研磨レートに優れ、シリコンウェハの生産性に優れる。また、コロイダルシリカの会合比が2.5以下であると、研磨時のシリコンウェハに代表される被研磨体の表面粗さや傷を低減でき、コロイダルシリカの凝集を抑制することができる。
コロイダルシリカの会合比は、前述の測定方法にて測定した平均1次粒子径と前述の測定方法にて測定した平均2次粒子径とから、下記式(3)を用いて会合比を算出するものとする。
会合比=平均2次粒子径/平均1次粒子径 ・・・ (3)
【0044】
シリカゾルの粘度は、1mPa・s~50mPa・sが好ましく、2mPa・s~40mPa・sがより好ましい。シリカゾルの粘度が1mPa・s以上であると、シリコンウェハに代表される被研磨体に対する研磨レートに優れる。また、シリカゾルの粘度が50mPa・s以下であると、中間生成物の除去が十分にできていて、シリコンウェハに代表される被研磨体の研磨後の洗浄における粒子等の除去性に優れ、シリカゾルの保存安定性に優れる。
シリカゾルの粘度は、25℃、ずり速度150/秒の条件で、E型粘度計を用いて測定した値とする。
【0045】
(研磨液)
シリカゾルは、水溶性高分子を溶解させることで、研磨液を得ることができる。
水溶性高分子は、シリコンウェハに代表される被研磨体に対する研磨液の濡れ性を高める。水溶性高分子は、水親和性の高い官能基を保有する高分子であることが好ましく、この水親和性の高い官能基とコロイダルシリカの表面シラノール基との親和性が高く、研磨液中でより近傍にコロイダルシリカと水溶性高分子とが安定して分散する。そのため、シリコンウェハに代表される被研磨体への研磨の際、コロイダルシリカと水溶性高分子との効果が相乗的に機能する。
【0046】
水溶性高分子としては、例えば、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドン骨格を有する共重合体、ポリオキシアルキレン構造を有する重合体等が挙げられる。
セルロース誘導体としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、加水分解処理を施したヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。
ポリビニルピロリドン骨格を有する共重合体としては、例えば、ポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとのグラフト共重合体等が挙げられる。
ポリオキシアルキレン構造を有する重合体としては、例えば、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの共重合体等が挙げられる。
これらの水溶性高分子は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの水溶性高分子の中でも、コロイダルシリカの表面シラノール基との親和性が高く、相乗的に作用して被研磨体の表面に良好な親水性を与えることから、セルロース誘導体が好ましく、ヒドロキシエチルセルロースがより好ましい。
【0047】
水溶性高分子の質量平均分子量は、1,000~3,000,000が好ましく、5,000~2,000,000がより好ましく、10,000~1,000,000が更に好ましい。水溶性高分子の質量平均分子量が1,000以上であると、研磨液の親水性が向上する。また、水溶性高分子の質量平均分子量が3,000,000以下であると、シリカゾルとの親和性に優れ、シリコンウェハに代表される被研磨体に対する研磨レートに優れる。
【0048】
水溶性高分子の質量平均分子量は、ポリエチレンオキサイド換算で、0.1mol/LのNaCl溶液を移動相とする条件で、サイズ排除クロマトグラフィーにより測定するものとする。
【0049】
水溶性高分子の含有率は、研磨液100質量%中、0.02~10質量%が好ましく、0.05~5質量%がより好ましい。水溶性高分子の含有率が0.02質量%以上であると、研磨液の親水性が向上する。また、水溶性高分子の含有率が10質量%以下であると、研磨液調製時のコロイダルシリカの凝集・沈降を抑制することができる。
【0050】
研磨液のpHは、8~12が好ましく、9~11がより好ましい。研磨液のpHが8以上であると、研磨液中のコロイダルシリカの凝集・沈降を抑制することができる。また、研磨液のpHが12以下であると、コロイダルシリカの溶解を抑制することができる。
研磨液のpHは、pH調整剤を添加することで、所望の範囲に設定することができる。
【0051】
(用途)
本発明のシリカゾルの製造方法により製造されたシリカゾル及びそれを含む研磨液は、研磨用途に好適に用いることができ、例えば、シリコンウェハ等の半導体材料の研磨、ハードディスク基板等の電子材料の研磨、集積回路を製造する際の平坦化工程における研磨(化学的機械的研磨)、フォトマスクや液晶に用いる合成石英ガラス基板の研磨、磁気ディスク基板の研磨等に用いることができ、中でもシリコンウェハの研磨や化学的機械的研磨に特に好適に用いることができる。
シリカゾル及び研磨液の研磨への使用の際は、公知の研磨と同様に行えばよい。例えば、シリコンウェハを研磨する際は、濃度を調製、添加剤を添加した上、研磨機の常盤にセットされた研磨パッド上に滴下して研磨すればよい。
【実施例
【0052】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0053】
(金属不純物含有率)
製造例で得られたシリカゾル反応液2gを正確に量り取り、硫酸とフッ酸を加え、加温・溶解・蒸発させ、残存した硫酸滴に総量が正確に10gとなるよう純水を加えて試験液を作成し、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS、機種名「ELEMENT2」、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて、金属不純物含有率を測定した。
金属不純物含有率は、ナトリウムが0.220ppm、カリウムが0.028ppm、鉄が0.003ppm、アルミニウムが0.027ppm、カルシウムが0.015ppm、亜鉛が0.014ppm、マグネシウム、コバルト、クロム、銅、マンガン、鉛、チタン、銀、ニッケルがいずれも0.001ppm未満であった。
【0054】
(シリカゾル中の中間生成物の測定)
実施例2・比較例1で得られたシリカゾルについて、以下の操作により中間生成物の面積の割合を算出した。
まず、シリカゾルを分取して、超純水で5,000倍に希釈した。5,000倍に希釈した希釈液を5μL分取して、ミラーシリコンウエハ(株式会社エレクトロニクスエンドマテリアルズコーポレーション製)に滴下して、50℃で10分間乾燥させた。それを、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM、機種名「S-5200型」、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)に装着して、加速電圧5kVで、倍率15万倍で、100個~200個のコロイダルシリカの粒子を観察し、画像を撮影した。
コロイダルシリカの粒子と中間生成物との識別は、撮影した画像を、画像解析式粒度分布測定ソフトウエア(ソフト名「Mac-View Ver.4」、株式会社マウンテック製)へ取り込み、実施した。中間生成物の面積をa、コロイダルシリカの粒子の面積をbとしたとき、下記式(4)を用い、中間生成物の面積の割合を算出した。
中間生成物の面積の割合(%)={a/(a+b)}×100 ・・・ (4)
実施例2で得られたシリカゾルのFE-SEMの画像を図1に、比較例1で得られたシリカゾルのFE-SEMの画像を図2に示す。中間生成物は、FE-SEMの画像において、図1図2でいう黒い線で囲まれた部分のように見える箇所をいう。
【0055】
(シリカゾルの粘度の測定)
実施例・比較例で得られたシリカゾル2mLをサンプルカップに装填し、25℃、ずり速度150/秒の条件で、E型粘度計(機種名「TVE-25」、東機産業株式会社製)を用いて、シリカゾルの粘度を測定した。
【0056】
(平均1次粒子径の測定)
実施例・比較例で得られたシリカゾルを凍結乾燥し、比表面積自動測定装置(機種名「フローソーブII」、株式会社島津製作所製)を用いて、コロイダルシリカの比表面積を測定し、下記式(1)を用い、密度を2.2g/cmとして、平均1次粒子径を算出した。
平均1次粒子径(nm)=6000/(比表面積(m/g)×密度(g/cm)) ・・・ (1)
【0057】
(平均2次粒子径・cv値の測定)
実施例・比較例で得られたシリカゾルを、動的光散乱粒子径測定装置(DLS、機種名「ゼーターサイザーナノZS」、マルバーン社製)を用いて、コロイダルシリカの平均2次粒子径を測定し、下記式(2)を用いてcv値を算出した。
cv値=(標準偏差(nm)/平均2次粒子径(nm))×100 ・・・ (2)
【0058】
(会合比の算出)
測定した平均1次粒子径と平均2次粒子径とから、下記式(3)を用いて会合比を算出した。
会合比=平均2次粒子径/平均1次粒子径 ・・・ (3)
【0059】
[製造例]
テトラメトキシシランとメタノールとを3:1(体積比)で混合し、原料溶液を調製した。温度計、攪拌機、供給管、留出ラインを備えた反応槽に、予めメタノール、純水、アンモニアを混合した反応溶媒を仕込んだ。反応溶媒中の水の濃度は32質量%、反応溶媒中のアンモニアの濃度は1.5質量%であった。
反応溶媒の温度を33℃に保持しながら、反応溶媒と原料溶液とを2.3:1(体積比)とし、原料溶液を180分間、均等速度で反応槽へ滴下し、シリカゾル反応液を得た。得られたシリカゾル反応液を、コロイダルシリカの含有率が約20質量%になるように、液量を純水追加で調整しながら、温度を上げてメタノールとアンモニアの除去を行い、コロイダルシリカの含有率が約20質量%のシリカゾル反応液を得た。
【0060】
[実施例1]
製造例で得られたシリカゾル反応液に、加水分解反応・縮合反応に供したテトラアルコキシシランのシリカ換算含有量100質量部に対して、過酸化水素が0.5質量部となるよう、35質量%の過酸化水素水を添加し、シリカゾルを得た。
得られたシリカゾルの評価結果を、表1に示す。
【0061】
[実施例2]
製造例で得られたシリカゾル反応液に、加水分解反応・縮合反応に供したテトラアルコキシシランのシリカ換算含有量100質量部に対して、過酸化水素が0.5質量部となるよう、35質量%の過酸化水素水を添加し、ヒーターで加温し、50℃で1時間保持し、更に、80℃で1時間保持し、シリカゾルを得た。
得られたシリカゾルの評価結果を、表1に示す。
【0062】
[比較例1]
製造例で得られたシリカゾル反応液をそのままシリカゾルとした。
得られたシリカゾルの評価結果を、表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1、図1及び図2からも分かるように、酸化剤を添加する工程を含む実施例2の製造方法で得られたシリカゾルは、酸化剤を添加する工程を含まない比較例1の製造方法で得られたシリカゾルと比較して、中間生成物の面積の割合が低く、中間生成物の量が抑制されることが分かる。
また、表1からも分かるように、酸化剤を添加する工程を含む実施例の製造方法で得られたシリカゾルと、酸化剤を添加する工程を含まない比較例の製造方法で得られたシリカゾルとで、平均1次粒子径、平均2次粒子径、cv値及び会合比のコロイダルシリカの物性がほぼ一緒であるにもかかわらず、中間生成物の発生に起因したシリカゾルの粘度差を有することから、酸化剤を添加する工程を含むことで、シリカゾル中のコロイダルシリカの物性を維持しつつ、効率よく中間生成物を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のシリカゾルの製造方法により製造されたシリカゾル及びそれを含む研磨液は、研磨用途に好適に用いることができ、例えば、シリコンウェハ等の半導体材料の研磨、ハードディスク基板等の電子材料の研磨、集積回路を製造する際の平坦化工程における研磨(化学的機械的研磨)、フォトマスクや液晶に用いる合成石英ガラス基板の研磨、磁気ディスク基板の研磨等に用いることができ、中でもシリコンウェハの研磨や化学的機械的研磨に特に好適に用いることができる。
図1
図2