IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立金属株式会社の特許一覧

特許7565696ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた送電ケーブルの製造方法
<>
  • 特許-ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた送電ケーブルの製造方法 図1
  • 特許-ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた送電ケーブルの製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた送電ケーブルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/24 20060101AFI20241004BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20241004BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20241004BHJP
   C08L 31/04 20060101ALI20241004BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20241004BHJP
   H01B 7/295 20060101ALN20241004BHJP
   H01B 9/04 20060101ALN20241004BHJP
【FI】
H01B13/24 Z
C08K3/22
C08K3/36
C08L31/04 S
H01B13/00 541
H01B7/295
H01B9/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020042060
(22)【出願日】2020-03-11
(65)【公開番号】P2021144839
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2022-07-15
【審判番号】
【審判請求日】2023-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】藤原 知也
(72)【発明者】
【氏名】中橋 正信
(72)【発明者】
【氏名】中村 孔亮
【合議体】
【審判長】須田 勝巳
【審判官】山崎 慎一
【審判官】吉田 美彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-011140(JP,A)
【文献】特開2002-042574(JP,A)
【文献】特開2016-100140(JP,A)
【文献】特開2018-092889(JP,A)
【文献】特開2017-004798(JP,A)
【文献】特開2017-027878(JP,A)
【文献】特開2012-87238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B13/24
C08K3/22
C08K3/36
C08L31/04
H01B13/00
H01B7/295
H01B9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)導体と前記導体の外周に形成された絶縁層とを有するコア部に、シース層となるノンハロゲン難燃性樹脂組成物を被覆する工程、
(b)前記シース層を水蒸気と接触させることにより架橋させる工程、
を有し、
前記シース層は、ベースポリマと、難燃剤とを含有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物からなり、
前記難燃剤は、
水酸化アルミニウムおよびシリカの併用(水酸化マグネシウム及びシリカとの併用を除く)であり、
前記難燃剤の含有量は、前記ベースポリマ100質量部に対し、150質量部であり、
前記シース層は、120℃で168時間の熱老化試験後の引張伸び残率が75%以上である、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた送電ケーブルの製造方法。
【請求項2】
(a)導体と前記導体の外周に形成された絶縁層とを有するコア部に、シース層となるノンハロゲン難燃性樹脂組成物を被覆する工程、
(b)前記シース層を水蒸気と接触させることにより架橋させる工程、
を有し、
前記シース層は、ベースポリマと、難燃剤とを含有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物からなり、
前記難燃剤は、
シリカ単独であり、
前記難燃剤の含有量は、前記ベースポリマ100質量部に対し、50質量部であり、
前記シース層は、120℃で168時間の熱老化試験後の引張伸び残率が75%以上である、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた送電ケーブルの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた送電ケーブルの製造方法において、
前記ベースポリマは、エチレン酢酸ビニル共重合体を含む、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた送電ケーブルの製造方法。
【請求項4】
導体の外周に、内側から順に内部半導電層、絶縁層および外部半導電層を形成する工程、
前記外部半導電層の外周にワイヤーを巻き付けることにより遮蔽層を形成する工程、
前記遮蔽層の外周に押えテープを巻き付けることにより押えテープ層を形成する工程、
前記押えテープ層の外周にシース層を形成する工程、を有し、
前記シース層を形成する工程は、
(a)前記押えテープ層の外周に、前記シース層となるノンハロゲン難燃性樹脂組成物を被覆する工程、
(b)前記シース層を水蒸気と接触させることにより架橋させる工程、
を含み、
前記シース層は、ベースポリマと、難燃剤とを含有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物からなり、
前記難燃剤は、
水酸化アルミニウムおよびシリカの併用(水酸化マグネシウム及びシリカとの併用を除く)であり、
前記難燃剤の含有量は、前記ベースポリマ100質量部に対し、150質量部であり、
前記シース層は、120℃で168時間の熱老化試験後の引張伸び残率が75%以上である、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた送電ケーブルの製造方法。
【請求項5】
導体の外周に、内側から順に内部半導電層、絶縁層および外部半導電層を形成する工程、
前記外部半導電層の外周にワイヤーを巻き付けることにより遮蔽層を形成する工程、
前記遮蔽層の外周に押えテープを巻き付けることにより押えテープ層を形成する工程、
前記押えテープ層の外周にシース層を形成する工程、を有し、
前記シース層を形成する工程は、
(a)前記押えテープ層の外周に、前記シース層となるノンハロゲン難燃性樹脂組成物を被覆する工程、
(b)前記シース層を水蒸気と接触させることにより架橋させる工程、
を含み、
前記シース層は、ベースポリマと、難燃剤とを含有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物からなり、
前記難燃剤は、
シリカ単独であり、
前記難燃剤の含有量は、前記ベースポリマ100質量部に対し、50質量部であり、
前記シース層は、120℃で168時間の熱老化試験後の引張伸び残率が75%以上である、
ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた送電ケーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた送電ケーブルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両などに使用されるケーブルは火災時における被害を小さくするために難燃性や、低発煙性などの特性が要求される。高い難燃性を得るには、ポリオレフィンに、塩素系や臭素系といったハロゲン系難燃剤を添加した材料が用いられている。しかしながら、これらハロゲン系難燃剤を大量に含む物質は、燃焼時に、有毒、有害なガスを多量に発生し、焼却条件によっては猛毒のダイオキシンを発生させる。このことから、火災時の安全性や環境負荷低減の観点からハロゲン物質を含まないノンハロゲン材料(ハロゲンフリー材料)を被覆材料に使用したケーブルが普及してきている。
【0003】
例えば、特許文献1には、高難燃かつ低発煙量を実現するために、シース層として、酢酸ビニル含有量が50重量%以上のエチレン酢酸ビニル共重合体を含むベースポリマと、このベースポリマ100質量部に対して、金属水和物及びシリカを合計で100質量部以上180質量部以下含有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた送電ケーブルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-100140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、送電ケーブルの被覆材の研究・開発に従事しており、被覆材として、ノンハロゲン材料であり、かつ、良好な特性を有する樹脂組成物を検討している。
【0006】
特に、送電ケーブルにおいては、長期間柔軟性が良好に保たれることが求められる。送電ケーブルの柔軟性の寿命の評価として、熱老化試験に基づく“熱老化伸び残率”において所定の基準を満たすという熱老化特性が要求される。
【0007】
また、送電ケーブルの最外の被覆材であるシース層を架橋する方法として、熱による架橋を行う場合、蒸気の熱を利用することがある。このような蒸気の熱を利用する架橋方法において、送電ケーブルに対して、直接蒸気が接触することによる劣化を防ぐために、熱伝導率の良好な防護層を外側に設け、架橋を行う場合がある。このような架橋方法では、架橋前後にそれぞれ、シース層の外側に防護層を設ける工程と、シース層の外側の防護層をはがす工程が必要となる。
【0008】
よって、蒸気を直接シース層に接触させ、架橋を行うことができれば、シース層の外側に防護層を設ける工程と、シース層の外側の防護層をはがす工程とが不要となり、生産効率が向上する。
【0009】
しかしながら、蒸気を直接シース層に接触させ、架橋を行う場合、直接蒸気が接触することによる劣化として、不所望な生成物による熱老化特性の低下、即ち、“熱老化伸び残率”が所定の基準を満たすことができないという問題がある。
【0010】
そこで、本発明では、蒸気が直接接触する架橋方法を用いた場合においても、熱老化特性が良好なノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた送電ケーブルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[1]本発明の一態様のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた送電ケーブルの製造方法は、(a)導体と前記導体の外周に形成された絶縁層とを有するコア部に、シース層となるノンハロゲン難燃性樹脂組成物を被覆する工程、(b)前記シース層を水蒸気と接触させることにより架橋させる工程、を有する。そして、前記シース層は、ベースポリマと、難燃剤とを含有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物からなり、前記難燃剤は、水酸化マグネシウム単独、水酸化アルミニウム単独、シリカ単独、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムの併用、水酸化アルミニウムおよびシリカの併用、のいずれかであり、前記難燃剤の含有量は、前記ベースポリマ100質量部に対し、50質量部以上である。
【0012】
[2][1]において、前記ベースポリマは、エチレン酢酸ビニル共重合体を含む。
【0013】
[3][1]において、前記難燃剤の含有量は、前記ベースポリマ100質量部に対し、100質量部以上150質量部以下である。
【0014】
[4][1]において、前記シース層は、120℃で168時間の熱老化試験後の引張伸び残率が75%以上である。
【0015】
[5]本発明の一態様のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた送電ケーブルの製造方法は、導体の外周に、内側から順に内部半導電層、絶縁層および外部半導電層を形成する工程、前記外部半導電層の外周にワイヤーを巻き付けることにより遮蔽層を形成する工程、前記遮蔽層の外周に押えテープを巻き付けることにより押えテープ層を形成する工程、前記押えテープ層の外周にシース層を形成する工程、を有し、前記シース層を形成する工程は、(a)前記押えテープ層の外周に、前記シース層となるノンハロゲン難燃性樹脂組成物を被覆する工程、(b)前記シース層を水蒸気と接触させることにより架橋させる工程、を含み、前記シース層は、ベースポリマと、難燃剤とを含有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物からなり、前記難燃剤は、水酸化マグネシウム単独、水酸化アルミニウム単独、シリカ単独、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムの併用、水酸化アルミニウムおよびシリカの併用、のいずれかであり、前記難燃剤の含有量は、前記ベースポリマ100質量部に対し、50質量部以上である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた送電ケーブルの製造方法によれば、蒸気が直接接触する架橋方法を用いた場合においても、熱老化特性が良好な送電ケーブルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】送電ケーブルの構成を示す断面図である。
図2】送電ケーブルの製造装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施の形態)
以下に、本実施の形態の送電ケーブルの製造方法について説明する。図1は、送電ケーブルの構成を示す断面図である。本実施の形態においては、図1に示す送電ケーブルの製造方法を例に説明する。
【0019】
図1に示す送電ケーブルは、撚り線からなる導体2と、導体2の外周に形成された内部半導電層3と、内部半導電層3の外周に形成された絶縁層4と、絶縁層4の外周に形成された外部半導電層5と、外部半導電層5の外周に形成された半導電性テープ層6と、半導電性テープ層6の外周に形成された遮蔽層7と、遮蔽層7の外周に形成された押えテープ層8と、押えテープ層8の外周に形成されたシース層9とを有する。
【0020】
まず、導体2の外周に、内部半導電層3、絶縁層4、外部半導電層5を同時に押出成形する。なお、内部半導電層3、絶縁層4、外部半導電層5を順次押出成形してもよい。
【0021】
導体2は、複数の金属線からなる素線を撚り合わせて形成されている。素線には金属めっきが施されていても良く、例えば、錫メッキ軟銅線等の線材を用いることができる。導体2は、例えば7000V以上の高電圧を送電する。
【0022】
内部半導電層3および外部半導電層5は、例えば、エチレンプロピレンゴム、ブチルゴム等のゴムにカーボン等の導電性粉末を分散して導電性を持たせた材料よりなる。内部半導電層3および外部半導電層5は、絶縁層4と導体2との間の電界や絶縁層4と遮蔽層7との間の電界の集中を緩和させるために設けられる。
【0023】
絶縁層4は、例えばエチレンプロピレンゴム、塩化ビニル、架橋ポリエチレン、シリコーンゴム、フッ素系材料等の材料よりなる。
【0024】
次に、外部半導電層5の外周に半導電性テープをケーブル軸方向に沿って螺旋状に巻き付けることにより、半導電性テープ層6を形成する。半導電性テープとしては、例えば、ナイロンまたはレーヨン、PET等からなる経糸と緯糸とを編み込んだ基布又は不織布に、エチレンプロピレンゴム、ブチルゴム等のゴムにカーボン等の導電性粉末を分散したものを含浸させることにより形成されたものを用いることができる。半導電性テープとしては、例えば厚さ0.1mm以上0.4mm以下、幅30mm以上70mm以下のものを用いることができる。半導電性テープは、例えばテープ幅の1/4以上1/2以下が重なるように重ね巻きしてもよい。
【0025】
次いで、半導電性テープ層6の外周にワイヤーをケーブル軸方向に沿って螺旋状に巻き付けることにより、遮蔽層7を形成する。ワイヤーは、例えば錫メッキ軟銅等の導電性材料からなり、例えば直径0.4mm以上0.6mm以下の線材を用いることができる。この遮蔽層7は、使用時にグランドに接続される。
【0026】
次いで、遮蔽層7の外周に押えテープをケーブル軸方向に螺旋状に沿って重ね巻きすることにより、押えテープ層8を形成する。押えテープとしては、例えば、厚さ0.03mm以上0.2mm以下、幅50mm以上90mm以下のプラスチック又はレーヨンからなるテープを用いることができる。
【0027】
これまでの導体2から押えテープ層8までの積層体をコア部Cと言う。
【0028】
次いで、コア部C(押えテープ層8)の外周に、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を押出成形することにより、シース層9を形成する。その後、シース層9の架橋を行う。
【0029】
シース層9を構成するノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、ベースポリマ(樹脂成分)と、難燃剤(金属水酸化物、シリカ)とを含有する。
【0030】
ベースポリマは、例えば、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)と、無水マレイン酸で変性したエチレン-αオレフィン系共重合体(以下、単に“マレイン酸変性エチレン共重合体”とも言う)とを含有する。
【0031】
ベースポリマ中のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)としては、その酢酸ビニル含有量が40質量%以上のものを用いることができる。酢酸ビニル含有量を40質量%以上とすることで、燃え殻がより強固となり、良好な難燃性や、低発煙性を得ることができる。
【0032】
ベースポリマ中の無水マレイン酸で変性したエチレン-αオレフィン系共重合体において、αオレフィンとしては、ケーブルの可とう性を考慮し、炭素数が3から8のαオレフィンを用いることができる。このようなαオレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン等があげられ、異性体の適用も可能である。また、αオレフィンは1種でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
なお、ベースポリマとして、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)および無水マレイン酸で変性したエチレン-αオレフィン系共重合体に、スチレンブタジエンゴムを添加してもよい。
【0034】
難燃剤としては、金属水酸化物またはシリカを用いることができる。
【0035】
金属水酸化物としては、水酸化マグネシウムまたは水酸化アルミニウムを用いることができる。このような金属水酸化物としては、シランにより表面処理されているものを用いてもよい。例えば、シランカップリング剤を用いて表面処理した水酸化マグネシウムやシランカップリング剤を用いて表面処理した水酸化アルミニウムを用いることができる。シランカップリング剤を用いた表面処理物を用いることで、機械特性(引張強さ、伸び)が良好となる。
【0036】
シリカは、非結晶シリカ、結晶シリカのいずれを用いてもよい。このシリカは燃焼時の燃え殼固化と機械特性向上のために用いられる。また、このシリカの形状は球状であり、平均粒径が0.05μm以上1.0μm以下である。より好ましい平均粒径は、0.15μm以上0.3μm以下である。このようなシリカを金属水酸化物と併用することで、難燃性、低発煙性、機械特性のバランスをとることができる。特に、球状とすることによりシリカが金属水酸化物の間に入り込み、金属水酸化物の分散性を良好にする。また、シリカの平均粒径を0.05μm以上1.0μm以下とすることで、ポリマとの相互作用が適正となり機械特性が向上する。シリカの平均粒径は、頻度の累積が丁度50%になる粒子径D50メジアン径(μm)の数値を用いることができる。なお、シリカの形状(球状であるか否か)は、電子顕微鏡にてこれを確認することができる。
【0037】
ここで、本実施の形態において、難燃剤として、(a1)水酸化マグネシウム単独、(a2)水酸化アルミニウム単独、(a3)シリカ単独、(a4)水酸化マグネシウムと水酸化アルミニウムとの併用、(a5)水酸化アルミニウムとシリカとの併用のいずれかを用いる。そして、難燃剤の添加量は、ベースポリマ100質量部に対し、50質量部以上、より好ましくは100質量部以上150質量部以下とする。
【0038】
このように、難燃剤を上記(a1)~(a5)から選択し、水酸化マグネシウムとシリカとの併用を避けることで、後述する蒸気架橋を行っても、熱老化伸び残率の低下を抑制することができる。即ち、熱老化試験後の機械特性の低下を抑制することができる。熱老化試験は、加速試験の一種と捉えることができ、熱老化試験後の特性が良好であることは、長期間、機械特性(例えば、柔軟性)を保つことができることの指標となる。
【0039】
(a4)水酸化マグネシウムと水酸化アルミニウムとを併用する場合、質量比で水酸化アルミニウム:水酸化マグネシウム=40:60~60:40とすることが好ましい。これは、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物の燃焼時において、温度上昇抑制や燃え殻固化には、段階的脱水手法がより有効であることによる。水酸化アルミニウムの脱水開始温度は210℃近傍、水酸化マグネシウムの脱水開始温度は280℃近傍であるため、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムの順に、段階的脱水が起こり、シース層の温度上昇抑制や燃え殻固化が効果的に生じる。
【0040】
上記難燃剤のうち、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムおよびシリカのいずれも、難燃性および低発煙性に寄与するが、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムは、難燃性に、シリカは、燃え殻固化による低発煙性により寄与する。
【0041】
なお、上記送電ケーブルに使用するノンハロゲン難燃性樹脂組成物には、必要に応じて、他のポリマ(他のEVA、他のマレイン酸等で変性されたポリオレフィン、変性されていないポリオレフィンなど)や架橋剤、架橋助剤、着色剤、滑剤、酸化防止剤など、を配合することもできる。
【0042】
例えば、架橋剤として過酸化物を用いてもよい。また、着色剤としてカーボンを用いてもよい。また、滑剤としてステアリン酸塩化合物を用いてもよい。滑剤を配合することにより、押出時の加工性を向上させることができる。
【0043】
図2は、送電ケーブルの製造装置を示す概略図である。図2に示す単軸押出機200は、シリンダ内に配置されたスクリュー220と、材料投入口221とを備える。材料投入口(ホッパー)221から、シース層9の材料として、上記ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を投入する。上記ノンハロゲン難燃性樹脂組成物は溶融し、押出機200から押し出され、押出ヘッド230を通過して、送出機から送り出されたコア部Cに被覆される。次いで、コア部Cおよびその外周のシース層9は、蒸気管(架橋管)240内を通過しながら架橋される。このような連続架橋装置を用いて、シース層9を直接水蒸気と接触させて架橋を行う(水蒸気中を通過させて架橋を行う)。例えば、150℃以上180℃以下の水蒸気雰囲気下において、5分以上60分以下の架橋を行う。このようにして送電ケーブル1を製造することができる。
【0044】
このように、本実施の形態の送電ケーブル1の製造方法によれば、難燃剤として水酸化マグネシウムとシリカとの複合体を用いず、上記(a1)~(a5)から選択することとしたので、蒸気架橋を行った際に生じる水酸化マグネシウムとシリカとの不所望な反応物である珪酸マグネシウムの生成を回避することができ、熱老化後伸び残率(%)の低下を抑制することができる。
【0045】
上記のとおり、本実施の形態の送電ケーブルの製造方法によれば、熱老化特性に優れたノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた送電ケーブルを製造することができる。また、本実施の形態の送電ケーブルの製造方法によれば、不所望な反応物の生成を抑えるための防護層を用いることなく、効率良く送電ケーブルを製造することができる。
【0046】
ここで、本実施の形態に係る送電ケーブルにおいて、外径(直径)は、例えば、30mm以上60mm以下であり、シース層の厚さは、例えば、2mm以上4mm以下である。
【0047】
また、本実施の形態に係る送電ケーブルは、例えば、鉄道車両に配設される特別高圧ケーブル(以下、鉄道車両用特別高圧ケーブルと呼ぶこととする。)として用いることができる。鉄道車両用特別高圧ケーブルは、例えば、鉄道車両の屋根上に配置されたパンタグラフと床下に配置された多圧器とを接続するように、屋根部や壁部に沿って配設される。ここで特別高圧とは、7000V以上の電圧をいう。
【0048】
[実施例]
以下に、本実施の形態の送電ケーブルに用いるノンハロゲン難燃性樹脂組成物について実施例に基づいてさらに具体的に説明する。
(材料名)
1)EVA:ランクセス社製「レバプレン600HV」(VA量:質量60%)
2)酸変性ポリオレフィン:酸変性エチレン-α-オレフィンコポリマー、三井化学社製「タフマーMH5040」
3)水酸化マグネシウム:ヒューバー社製「マグニフィンH10A」(ビニルシラン0.8-1.1μm)
4)水酸化アルミニウム:日本軽金属製「BF013STV」(シラン1.0μm)
5)シリカ:エルケム社製「シディスターT120U」(球状、平均粒径0.15μm)
6)t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキシルカーボネート:Nouryon製「トリゴノックス117」
7)トリアリルイソシアネート:日本化成製「TAIC」
8)酸化亜鉛:堺化学製「亜鉛華3号」
9)ブレンド系酸化防止剤:アデカ製「AO-18(AO20/412S=6/4)
10)カーボン:旭カーボン社製「FTカーボン」
11)ヒドロキステアリン酸リチウム:日東化成工業社製「LS-6」
12)ステアリン酸亜鉛:日東化成工業社製「EZ-101」
(実施例1~5)
表1に示す成分配合でノンハロゲン難燃性樹脂組成物を調整し、ロールを用いて混練を行った後、厚さ1mmのシート形状に成形した。成形したシートに対して、架橋管を用いて蒸気架橋を行った。具体的には、シート(混練したノンハロゲン難燃性樹脂組成物)に、飽和水蒸気圧1MPaの蒸気(水蒸気)を直接接触させ、180℃×10分間の架橋を行い、蒸気架橋したシートを得た。
【0049】
(比較例1~3)
成分配合を表1に示すように変えて、実施例1~5の場合と同様にして、蒸気架橋したシートを得た。
【0050】
なお、表1に示す各成分の配合量は、ベースポリマ合計100質量部に対する質量部で示してある。
【0051】
【表1】
【0052】
得られたシートについて、熱老化試験前後の機械特性を以下のとおりICE60811-1-1規格およびICE60811-1-2規格に準拠した引張試験によって評価した。
【0053】
得られたシートをダンベル6号形により打ち抜き、標線間距離が20mmの試験片を作製した。この試験片を、引張速度は200mm/minで引っ張り、破断後の標線間距離を測定した。破断後の標線間距離は、破断後の試験片を付き合せ標線間距離を求めたものである。以下の式より熱老化前伸び(%)を求めた。
【0054】
熱老化前伸び(%)=100×破断後の標線間距離(mm)/20(mm)
得られたシートを120℃のオーブンに168時間暴露した後、ダンベル6号形により打ち抜き、標線間距離が20mmの試験片を作製した。この試験片を、引張速度は200mm/minで引っ張り破断点での伸びを測定した。以下の式より熱老化後伸び(%)を求めた。
【0055】
熱老化後伸び(%)=100×破断後の標線間距離(mm)/20(mm)
さらに、以下の式より熱老化後伸び残率(%)を求めた。
【0056】
熱老化後伸び残率(%)=100×熱老化後伸び(%)/熱老化前伸び(%)
熱老化前伸び(%)および熱老化後伸び残率(%)を表1に示す。
【0057】
熱老化後伸び残率(%)が75%以上のもを「合格」とし、75%未満のもを「不合格」とした。
【0058】
表1に示すように、実施例1~5のシートは、いずれにおいても、熱老化後伸び残率(%)が75%以上であり、熱老化特性が良好であった。
【0059】
具体的に、実施例1においては、難燃剤として(a5)水酸化アルミニウムとシリカとの複合体を用いており、熱老化後伸び残率(%)が75%以上であり、熱老化特性が良好であった。
【0060】
また、実施例2においては、難燃剤として(a4)水酸化マグネシウムと水酸化アルミニウムとの複合体を用いており、熱老化後伸び残率(%)が75%以上であり、熱老化特性が良好であった。
【0061】
また、実施例3においては、難燃剤として(a3)シリカを単独で用いており、熱老化後伸び残率(%)が75%以上であり、熱老化特性が良好であった。
【0062】
また、実施例4においては、難燃剤として(a1)水酸化マグネシウムを単独で用いており、熱老化後伸び残率(%)が75%以上であり、熱老化特性が良好であった。
【0063】
また、実施例5においては、難燃剤として(a2)水酸化アルミニウムを単独で用いており、熱老化後伸び残率(%)が75%以上であり、熱老化特性が良好であった。
【0064】
さらに、上記実施例1~5においては、難燃剤の添加量がベースポリマ100質量部に対して50質量部以上であり、難燃剤の添加量が多く、ベースポリマ100質量部に対して100質量部以上の実施例1、2、4、5においては、熱老化後伸び残率(%)が90%以上であり、熱老化特性がより良好であった。
【0065】
これに対し、比較例1~3においては、難燃剤として水酸化マグネシウムとシリカとの複合体を用いており、いずれも、熱老化後伸び残率(%)が75%未満であり、熱老化特性が低かった。これらの比較例においては、難燃剤の添加量がベースポリマ100質量部に対して100質量部以上であるにもかかわらず、熱老化後伸び残率(%)が低かった。
【0066】
このような熱老化後伸び残率(%)の低下は、蒸気架橋の際の水酸化マグネシウムとシリカとの不所望な反応物である珪酸マグネシウムの生成によるものである。
【0067】
よって、上記(a1)~(a5)に示すように、水酸化マグネシウムとシリカとの併用を避けて、難燃剤を配合することにより、熱老化後伸び残率(%)を向上させ、熱老化特性を良好とすることができる。
【0068】
ここで、上記蒸気架橋を行う場合において、蒸気による不所望な反応物の生成を抑制するために、前述した、シース層を防護層で覆い蒸気架橋を行った後、防護層を剥がすことで対応することも可能であるが、この場合、防護層の形成工程と剥離工程が必要となり、生産効率が低下する。
【0069】
これに対し、本実施の形態によれば、前述のとおり難燃剤の組み合わせを調整することで、蒸気架橋を行っても、不所望な反応物(珪酸マグネシウム)が生成することがなく、生産効率を向上させつつ、熱老化伸び残率の低下を抑制することができる。
【0070】
なお、本実施例等で用いた試験片は、例えば、送電ケーブルのシース層を剥いで上記ダンベルで打ち抜いたものと対応する。
【0071】
(応用例)
上記実施の形態においては、図1に示す複数の積層体で送電ケーブルを構成したが、導体2とその周囲に設けられた絶縁層4とを有する絶縁電線をコア層としてその周囲にシース層9が設けられた送電ケーブルとしてもよい。また、複数の絶縁電線をコア層としてもよい。このような構成の送電ケーブルのシース層として、上記ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用い、上記実施の形態と同様にして、上記コア層の周囲にシース層を形成してもよい。
【0072】
本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 送電ケーブル
2 導体
3 内部半導電層
4 絶縁層
5 外部半導電層
6 半導電性テープ層
7 遮蔽層
8 押えテープ層
9 シース層
200 押出機
220 スクリュー
221 材料投入口(ホッパー)
230 押出ヘッド
240 蒸気管(架橋管)
C コア部
図1
図2