(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】磁気テープカートリッジおよび磁気テープ装置
(51)【国際特許分類】
G11B 5/78 20060101AFI20241004BHJP
G11B 5/73 20060101ALI20241004BHJP
G11B 5/738 20060101ALI20241004BHJP
G11B 5/735 20060101ALI20241004BHJP
G11B 23/107 20060101ALI20241004BHJP
G11B 15/43 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
G11B5/78
G11B5/73
G11B5/738
G11B5/735
G11B23/107
G11B15/43
(21)【出願番号】P 2020214222
(22)【出願日】2020-12-23
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】笠田 成人
【審査官】川中 龍太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/093447(WO,A1)
【文献】特開2020-140757(JP,A)
【文献】特開2020-155190(JP,A)
【文献】特許第6590102(JP,B1)
【文献】特許第6635217(JP,B1)
【文献】特許第6669302(JP,B1)
【文献】特開2002-050030(JP,A)
【文献】特開2002-133817(JP,A)
【文献】特開2005-285268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/62 - 5/82
G11B 23/107
G11B 15/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気テープと、カートリッジリールと、を含む磁気テープカートリッジであって、
前記磁気テープは、非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有し、前記非磁性支持体の前記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を更に有し、
前記バックコート層は、下記式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物を含み、
【化1】
式1中、Rは炭素数7以上のアルキル基または炭素数7以上のフッ化アルキル基を表し、Z
+
はアンモニウムカチオンを表し、
前記磁気テープは、磁気テープの長手方向に0.30Nのテンションをかけて前記カートリッジリールに巻返された後に測定される巻ずれ発生最小荷重が250N以下であ
り、
前記巻ずれ発生最小荷重は、以下の測定方法により測定される、磁気テープカートリッジ。
(a)雰囲気温度23℃相対湿度50%の環境において、以下の方法によって求められる。
(b)測定対象の磁気テープカートリッジは、磁気テープ装置に取り付けられていない未使用の磁気テープカートリッジとする。
(c)この磁気テープカートリッジ内でカートリッジリールに巻回されている磁気テープを、一時巻取り用リールに巻取ることによって、磁気テープ全長を磁気テープカートリッジから一旦取り出す。取り出しは、磁気テープの長手方向に0.30Nのテンションをかけて行う。
(d)その後、一時巻取り用リールに巻回されている磁気テープを、磁気テープの長手方向に0.30Nのテンションをかけてカートリッジリールに巻返すことで、磁気テープ全長を再びカートリッジリールに巻回させて磁気テープカートリッジに収容する。
(e)その後、磁気テープ全長が巻回されているカートリッジリールを、磁気テープカートリッジから取り出す。
(f)フランジを有するカートリッジリールについては、切断手段によってフランジを除去し、磁気テープが巻回しているテープ巻き面を両面それぞれ露出させる。
(g)その後、リールハブを受け台に設置する。
(h)受け台に設置された巻回状態の磁気テープのテープ巻き面上に、外径が90mmで内径が80mmのアルミニウム製リングを、リールハブの回転中心とアルミニウム製リングの中心が一致するように置く。ここでの「一致」に関しては、完全に一致する場合のみに限定されず、3mm以下のずれは許容されるものとする。
(i)このアルミニウム製リングの上に、平面視形状が100mm×100mmの正方形で厚みが3mmのアルミニウム製プレートを置く。
(j)このプレートの上から荷重を印加して10分間保持し、その後、荷重を除去する。
(k)荷重印加前のプレート上面の鉛直方向位置をAとし、荷重除去後のプレート上面の鉛直方向位置をBとし、「A-B≧1mm」の場合、巻回された磁気テープに巻ずれが発生したと判定する。
(l)同じ磁気テープに対して、荷重印加は5Nから開始し、5N刻みで増加させながら上記測定を行い、巻ずれが発生した最小荷重を、「巻ずれ発生最小荷重」とする。
【請求項2】
前記非磁性支持体はポリエステル支持体である、請求項1に記載の磁気テープカートリッジ。
【請求項3】
前記磁気テープは、前記非磁性支持体と前記磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を更に有する、請求項2に記載の磁気テープカートリッジ。
【請求項4】
前記磁気テープのテープ厚みは5.6μm以下である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の磁気テープカートリッジ。
【請求項5】
前記磁気テープのテープ厚みは5.3μm以下である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の磁気テープカートリッジ。
【請求項6】
前記巻ずれ発生最小荷重は10N以上250N以下である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の磁気テープカートリッジ。
【請求項7】
前記磁気テープの垂直方向角型比は0.60以上である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の磁気テープカートリッジ。
【請求項8】
巻取りリールと磁気テープカートリッジのカートリッジリールとの間で、磁気テープを該磁気テープの長手方向にテンションをかけた状態で走行させ、該テンションの最大値は0.50N以上であり、かつ
前記テンションをかけた状態で走行させた後の磁気テープを、該磁気テープの長手方向に0.30N以下のテンションをかけて前記カートリッジリールに巻取る磁気テープ装置において使用される、請求項1~
7のいずれか1項に記載の磁気テープカートリッジ。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の磁気テープカートリッジを含む磁気テープ装置。
【請求項10】
前記磁気テープカートリッジと、
巻取りリールと、
を含み、
前記巻取りリールと前記磁気テープカートリッジのカートリッジリールとの間で、前記磁気テープを該磁気テープの長手方向にテンションをかけた状態で走行させ、該テンションの最大値は0.50N以上であり、かつ
前記テンションをかけた状態で走行させた後の磁気テープを、該磁気テープの長手方向に0.30N以下のテンションをかけて前記磁気テープカートリッジのカートリッジリールに巻取る、請求項
9に記載の磁気テープ装置。
【請求項11】
前記走行時、前記磁気テープの長手方向にかけるテンションを変化させる、請求項
10に記載の磁気テープ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気テープカートリッジおよび磁気テープ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体にはテープ状のものとディスク状のものがあり、データバックアップ、アーカイブ等のデータストレージ用途には、テープ状の磁気記録媒体、即ち磁気テープが主に用いられている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気テープへのデータの記録は、通常、磁気テープ装置(通常、「ドライブ」と呼ばれる。)内で磁気テープを走行させ、磁気ヘッドを磁気テープのデータバンドに追従させてデータバンド上にデータを記録することにより行われる。これにより、データバンドにデータトラックが形成される。また、記録されたデータの再生時には、磁気テープ装置内で磁気テープを走行させ、磁気ヘッドを磁気テープのデータバンドに追従させてデータバンド上に記録されたデータの読み取りを行う。そして、かかる記録後または再生後、磁気テープは、磁気テープカートリッジ内にリール(以下、「カートリッジリール」と記載する。)に巻回された状態で、次に記録および/または再生が行われるまで、保管される。
【0005】
上記保管後、記録および/または再生が行われる際、磁気テープの変形によってデータを記録および/または再生するための磁気ヘッドが狙いのトラック位置からずれてデータの記録および/または再生を行ってしまうと、記録済データの上書き、再生不良等の現象が発生してしまう。他方、近年、データストレージ分野では、アーカイブ(archive)と呼ばれる、データの長期保管に対するニーズが高まっている。しかし、一般に、保管期間が長くなるほど磁気テープの変形は生じ易い傾向がある。したがって、保管後の上記現象の発生を抑制することが、今後一層求められることが予想される。
【0006】
以上に鑑み、本発明の一態様は、保管後の磁気テープに対するデータの記録および/または再生において、良好に記録および/または再生を行うことを可能にするための手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
磁気テープと、カートリッジリールと、を含む磁気テープカートリッジであって、
上記磁気テープは、磁気テープの長手方向に0.30N(ニュートン)のテンションをかけて上記カートリッジリールに巻返された後に測定される巻ずれ発生最小荷重(以下、単に「巻ずれ発生最小荷重」とも記載する。)が250N以下である、磁気テープカートリッジ、
に関する。
【0008】
一形態では、上記磁気テープは、非磁性支持体と強磁性粉末を含む磁性層とを有することができ、上記非磁性支持体はポリエステル支持体であることができる。
【0009】
一形態では、上記磁気テープは、上記非磁性支持体と上記磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を更に有することができる。
【0010】
一形態では、上記磁気テープは、上記非磁性支持体の上記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を更に有することができる。
【0011】
一形態では、上記磁気テープのテープ厚みは、5.6μm以下であることができる。
【0012】
一形態では、上記磁気テープのテープ厚みは、5.3μm以下であることができる。
【0013】
一形態では、上記巻ずれ発生最小荷重は、10N以上250N以下であることができる。
【0014】
一形態では、上記磁気テープの垂直方向角型比は、0.60以上であることができる。
【0015】
一形態では、上記磁気テープカートリッジを、磁気テープ装置において使用することができる。上記磁気テープ装置は、巻取りリールと磁気テープカートリッジのカートリッジリールとの間で、磁気テープを磁気テープの長手方向にテンションをかけた状態で走行させ、このテンションの最大値は0.50N以上であり、かつ上記テンションをかけた状態で走行させた後の磁気テープを磁気テープの長手方向に0.30N以下のテンションをかけて上記カートリッジリールに巻取る磁気テープ装置であることができる。
【0016】
本発明の一態様は、上記磁気テープカートリッジを含む磁気テープ装置に関する。
【0017】
一形態では、上記磁気テープ装置は、
上記磁気テープカートリッジと、
巻取りリールと、
を含み、
上記巻取りリールと上記磁気テープカートリッジのカートリッジリールとの間で、上記磁気テープを磁気テープの長手方向にテンションをかけた状態で走行させ、このテンションの最大値は0.50N以上であり、かつ上記テンションをかけた状態で走行させた後の磁気テープを磁気テープの長手方向に0.30N以下のテンションをかけて上記磁気テープカートリッジのカートリッジリールに巻取る磁気テープ装置、
であることができる。
【0018】
一形態では、上記走行時、上記磁気テープの長手方向にかけるテンションを変化させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様によれば、保管後の磁気テープに対するデータの記録および/または再生において、良好に記録および/または再生を行うことを可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】データバンドおよびサーボバンドの配置例を示す。
【
図3】LTO(Linear Tape-Open) Ultriumフォーマットテープのサーボパターン配置例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一態様は、磁気テープとカートリッジリールとを含む磁気テープカートリッジに関する。上記磁気テープは、磁気テープの長手方向に0.30Nのテンションをかけて上記カートリッジリールに巻返された後に測定される巻ずれ発生最小荷重が、250N以下である。
【0022】
また、本発明の一態様は、上記磁気テープカートリッジを含む磁気テープ装置に関する。
【0023】
上記磁気テープカートリッジは、磁気テープとカートリッジリールとを含む。データの記録および/または再生のために磁気テープ装置に取り付けられる前の未使用の磁気テープカートリッジでは、磁気テープは、通常、カートリッジリールに巻回された状態で収容されている。磁気テープ装置では、カートリッジリール(供給リール)と巻取りリールとの間で磁気テープを走行させて、磁気テープへのデータの記録および/または記録されたデータの再生を行うことができる。そして、データの記録後または再生後、磁気テープは、カートリッジリールに巻返され、次に記録および/または再生が行われるまで、磁気テープカートリッジ内でカートリッジリールに巻回された状態で保管される。
保管中、磁気テープカートリッジに収容された磁気テープにおいて、カートリッジリールに近い部分はテープ厚み方向の圧縮応力によって初期より幅広に変形し、カートリッジリールから遠い部分はテープ長手方向の引っ張り応力によって初期より幅狭に変形するという、位置によって異なる変形が起こると推察される。位置によって大きく異なる変形が起こると、保管後に記録および/または再生が行われる際、磁気ヘッドが狙いのトラック位置からずれてデータの記録および/または再生を行ってしまうことの原因になり得ると考えられる。
上記変形について、本発明者は検討を重ねる中で、
(1)カートリッジリールに巻返す際に磁気テープの長手方向にかけるテンションを0.30N以下の低テンションとすること;および
(2)磁気テープカートリッジに含まれる磁気テープが、かかる低テンションで巻返された際に強く巻き締ることなくカートリッジリールに巻回される磁気テープであること、
によって、保管中の磁気テープに上記変形が発生することを抑制することが可能になると考えるに至った。この点に関して、上記磁気テープカートリッジは、磁気テープの長手方向に0.30Nのテンションをかけてカートリッジリールに巻返された後に測定される巻ずれ発生最小荷重が250N以下である。上記巻ずれ発生最小荷重が250N以下であることは、上記のような低テンションで巻返された際に強く巻き締ることなくカートリッジリールに巻回され得ることを示していると本発明者は考えている。かかる磁気テープカートリッジによれば、保管後の磁気テープに対するデータの記録および/または再生において、良好に記録および/または再生を行うことが可能になることが、本発明者が鋭意検討を重ねた結果、新たに見出された。
【0024】
以下、上記磁気テープカートリッジおよび磁気テープ装置について、更に詳細に説明する。以下では、図面を参照して上記磁気テープカートリッジおよび磁気テープ装置の一形態を説明することがある。ただし、上記磁気テープカートリッジおよび磁気テープ装置は、図面に示された形態に限定されるものではない。
【0025】
[磁気テープ装置の構成]
図1に示す磁気テープ装置10は、制御装置11からの命令により記録再生ヘッドユニット12を制御し、磁気テープMTへのデータの記録および再生を行う。
磁気テープ装置10は、カートリッジリール130と巻取りリール16を回転制御するスピンドルモーター17A、17Bおよびそれらの駆動装置18A、18Bから磁気テープの長手方向にかかるテンションの検出および調整が可能な構成を有している。
磁気テープ装置10は、磁気テープカートリッジ13を装着可能な構成を有している。
磁気テープ装置10は、磁気テープカートリッジ13内のカートリッジメモリ131について読み取りおよび書き込みが可能なカートリッジメモリリードライト装置14を有している。
磁気テープ装置10に装着された磁気テープカートリッジ13からは、磁気テープMTの端部またはリーダーピンが自動のローディング機構または手動により引き出され、磁気テープMTの磁性層表面が記録再生ヘッドユニット12の記録再生ヘッド表面に接する向きでガイドローラー15A、15Bを通して記録再生ヘッド上をパスし、磁気テープMTが巻取りリール16に巻取られる。
制御装置11からの信号によりスピンドルモーター17Aとスピンドルモーター17Bの回転およびトルクが制御され、磁気テープMTが任意の速度とテンションで走行される。テープ速度の制御には、磁気テープ上に予め形成されたサーボパターンを利用することができる。テンションの検出のために、磁気テープカートリッジ13と巻取りリール16との間にテンション検出機構を設けてもよい。テンションの調整は、スピンドルモーター17Aおよび17Bによる制御の他に、ガイドローラー15Aおよび15Bを用いて行ってもよい。
カートリッジメモリリードライト装置14は、制御装置11からの命令により、カートリッジメモリ131の情報の読み出しと書き込みが可能に構成されている。カートリッジメモリリードライト装置14とカートリッジメモリ131との間の通信方式としては、例えば、ISO(International Organization for Standardization)14443方式を採用できる。
【0026】
制御装置11は、例えば、制御部、記憶部、通信部等を含む。
【0027】
記録再生ヘッドユニット12は、例えば、記録再生ヘッド、記録再生ヘッドのトラック幅方向の位置を調整するサーボトラッキングアクチュエータ、記録再生アンプ19、制御装置11と接続するためのコネクタケーブル等から構成される。記録再生ヘッドは、例えば、磁気テープにデータを記録する記録素子、磁気テープのデータを再生する再生素子および磁気テープ上に記録されたサーボ信号を読み取るサーボ信号読み取り素子から構成される。1つの磁気ヘッド内に、記録素子、再生素子、サーボ信号読み取り素子は、例えば、それぞれ1個以上搭載されている。または、磁気テープの走行方向に応じた複数の磁気ヘッド内に別々にそれぞれの素子を有していてもよい。
【0028】
記録再生ヘッドユニット12は、制御装置11からの命令に応じて、磁気テープMTに対してデータを記録することが可能に構成されている。また、制御装置11からの命令に応じて、磁気テープMTに記録されたデータを再生することが可能に構成されている。
【0029】
制御装置11は、磁気テープMTの走行時にサーボバンドから読み取られるサーボ信号から磁気テープの走行位置を求め、狙いの走行位置(トラック位置)に記録素子および/または再生素子が位置するように、サーボトラッキングアクチュエータを制御する機構を有している。このトラック位置の制御は、例えば、フィードバック制御により行われる。制御装置11は、磁気テープMTの走行時に隣り合う2本のサーボバンドから読み取られるサーボ信号から、サーボバンド間隔を求める機構を有している。またサーボバンド間隔が狙いの値になるように、スピンドルモーター17Aおよびスピンドルモーター17Bのトルクおよび/またはガイドローラー15Aおよび15Bを制御して磁気テープの長手方向にかけるテンションを調整して変化させ得る機構を有している。このテンションの調整は、例えば、フィードバック制御により行われる。また、制御装置11は、求めたサーボバンド間隔の情報を、制御装置11の内部の記憶部、カートリッジメモリ131、外部の接続機器等に保存することができる。
【0030】
上記磁気テープ装置において、記録時および/または再生時、磁気テープの長手方向にテンションをかけることができる。記録時および/または再生時、磁気テープの長手方向にかけるテンションは、一形態では一定値であり、他の一形態では変化する。本発明および本明細書におけるテンションに関して、磁気テープ装置において磁気テープの長手方向にかけるテンションの値は、磁気テープの長手方向にかけるべきテンションとして、磁気テープ装置の制御装置が上記のテンションを調整する機構を制御するために使用するテンションの値とする。また、磁気テープ装置において磁気テープの長手方向に実際にかかるテンションは、例えば、先に記載したように、
図1中、磁気テープカートリッジ13と巻取りリール16との間にテンション検出機構を設けて検出することができる。更に、例えば、最小テンションが規格等により定められた値または推奨された値を下回らないように、および/または、最大テンションが規格等により定められた値または推奨された値を上回らないように、磁気テープ装置の制御装置等により制御することもできる。
【0031】
[磁気テープカートリッジ]
磁気テープ装置に装着される前および磁気テープ装置から取り出された後の磁気テープカートリッジには、一般に、カートリッジ本体内部に磁気テープがカートリッジリールに巻回されて収容されている。カートリッジリールは、カートリッジ本体内部に回転可能に備えられている。磁気テープカートリッジとしては、カートリッジ本体内部にリールを1つ具備する単リール型の磁気テープカートリッジおよびカートリッジ本体内部にリールを2つ具備する双リール型の磁気テープカートリッジが広く用いられている。上記磁気テープ装置に含まれる磁気テープカートリッジは、一形態では単リール型の磁気テープカートリッジであることができ、他の一形態では双リール型の磁気テープカートリッジであることができる。双リール型の磁気テープカートリッジについて、カートリッジリールとは、データの記録および/または再生後の磁気テープが保管される際に主に巻取られる側のリールをいうものとし、他方のリールを巻取りリールというものとする。単リール型の磁気テープカートリッジは、磁気テープへのデータの記録および/または再生のために磁気テープ装置に装着されると、磁気テープカートリッジから磁気テープが引き出されて、例えば
図1に示されているように、磁気テープ装置の巻取りリールに巻取られる。磁気テープカートリッジから巻取りリールまでの磁気テープ搬送経路には、磁気ヘッドが配置されている。磁気テープカートリッジのカートリッジリール(「供給リール」とも呼ばれる。)と磁気テープ装置の巻取りリールとの間で、磁気テープの送り出しと巻取りが行われることによって、磁気テープが走行する。この間、磁気ヘッドと磁気テープの磁性層表面とが接触し摺動することにより、データの記録および/または再生が行われる。これに対し、双リール型の磁気テープカートリッジには、供給リールと巻取りリールの両リールが、磁気テープカートリッジ内部に具備されている。
【0032】
上記磁気テープカートリッジは、一形態では、カートリッジメモリを含むことができる。カートリッジメモリは、例えば不揮発メモリであることができ、テンション調整情報が既に記録されているか、またはテンション調整情報が記録される。テンション調整情報は、磁気テープの長手方向にかかるテンションを調整するための情報である。カートリッジメモリについては、先の記載も参照できる。
【0033】
[走行時のテンション、カートリッジリールへの巻取り時のテンション]
磁気テープ装置では、カートリッジリール(供給リール)と巻取りリールとの間で磁気テープを走行させて、磁気テープへのデータの記録および/または記録されたデータの再生を行うことができる。上記磁気テープ装置において、かかる走行時、磁気テープの長手方向にテンションをかけることができる。より大きなテンションを磁気テープの長手方向にかけるほど、磁気テープの幅方向の寸法をより大きく収縮させることができ(即ち、より幅狭にすることができ)、そのテンションを小さくするほど、その収縮の程度を小さくすることができる。したがって、磁気テープ装置内で走行している磁気テープの長手方向にかけるテンションの値によって、磁気テープの幅方向の寸法を制御することができる。上記磁気テープ装置では、一形態では、長手方向に最大で0.50N以上のテンションがかけられた状態で磁気テープを走行させることができる。このような大きなテンションがかけられた状態での走行後にそのまま磁気テープが磁気テープカートリッジ内で保管されると、保管中に磁気テープの変形が生じやすくなると考えられる。先に記載したように、保管中、磁気テープカートリッジに収容された磁気テープにおいて、カートリッジリールに近い部分はテープ厚み方向の圧縮応力によって初期より幅広に変形し、カートリッジリールから遠い部分はテープ長手方向の引っ張り応力によって初期より幅狭に変形するという、位置によって異なる変形が起こると推察され、大きなテンションがかかった状態のままで収容された磁気テープでは、位置によって変形がより大きく異なるものになり易いと考えられる。
そこで、一形態では、上記磁気テープ装置では、最大で0.50N以上のテンションが長手方向にかけられた状態で走行が行われた後の磁気テープをカートリッジリールに巻取る際、磁気テープの長手方向にかけるテンションを0.30N以下とすることが好ましい。これにより、走行時に長手方向にかかったテンションよりも小さなテンションでカートリッジリールに磁気テープを巻取って磁気テープカートリッジ内で保管することが可能になるため、先に記載した変形により生じ得る現象の発生を抑制することができると本発明者は考えている。また、走行中にテンションがかけられたか否かおよびテンションの値にかかわらず、走行が行われた後の磁気テープをカートリッジリールに巻取る際、磁気テープの長手方向にかけるテンションを0.30N以下とすることは、先に記載した変形により生じ得る現象の発生を抑制するうえで好ましいと、本発明者は推察している。
【0034】
上記磁気テープ装置において走行中の磁気テープの長手方向にテンションをかける場合、かかるテンションの最大値は、0.50N以上であることができ、0.60N以上、0.70N以上または0.80N以上であることもできる、また、かかる最大値は、例えば、1.50N以下、1.40N以下、1.30N以下、1.20N以下、1.10N以下または1.00N以下であることができる。走行時に磁気テープの長手方向にかけるテンションは、一定値であることができ、変化させることもできる。一定値の場合、一定値のテンションが磁気テープの長手方向にかかるように、例えば磁気テープ装置の制御装置によって、磁気テープの長手方向にかけるテンションを制御することができる。一方、走行時に磁気テープの長手方向にかけるテンションを変化させる場合、例えば、サーボ信号を利用して走行中の磁気テープの幅方向の寸法情報を取得し、取得された寸法情報に応じて磁気テープの長手方向にかけるテンションを調整して変化させることができる。これにより、磁気テープの幅方向の寸法を制御することができる。そのようなテンション調整の一形態については、先に
図1を参照して説明した通りである。ただし、上記磁気テープ装置は、例示した形態に限定されるものではない。上記磁気テープ装置において、走行中の磁気テープの長手方向にかけるテンションを変化させる場合、その最小値は、例えば0.10N以上、0.20N以上、0.30N以上または0.40N以上であることができる。また、かかる最小値は、一形態では、例えば0.40N以下または、0.40N未満であることができ、他の一形態では0.60N以下または、0.50N以下であることができる。
【0035】
磁気テープ装置において、データの記録および/または再生のために磁気テープを走行させる際、磁気テープの走行の具体的形態としては、以下の形態を挙げることができる。
形態1:データの記録および/または再生のための走行終了時、磁気テープの全長が、巻取りリールに巻取られている。
形態2:データの記録および/または再生のための走行終了時、磁気テープの全長が、カートリッジリールに巻取られている。
形態3:データの記録および/または再生のための走行終了時、磁気テープの一部はカートリッジリールに巻かれ、一部は巻取りリールに巻かれている。
【0036】
走行させた後の磁気テープを磁気テープの長手方向にテンションをかけてカートリッジリールに巻取る際のテンション(以下、「巻返しテンション」とも記載する。)とは、以下のテンションを言うものとする。
形態1においては、巻返しテンションは、磁気テープカートリッジに収容するために磁気テープ全長をカートリッジリールに巻取る際に磁気テープの長手方向にかけるテンションである。
形態2においては、まずカートリッジリールから巻取りリールへ磁気テープを巻取る。この際に磁気テープの長手方向にかけるテンションは特に限定されるものではない。一定値であってもよく、変化させてもよく、走行中のテンションの値に関する先の記載にしたがってもよく、したがわなくてもよい。その後にカートリッジリールに巻取る際に磁気テープの長手方向にかけるテンションが、巻返しテンションである。かかるテンションは、巻取りリールからカートリッジリールへ磁気テープ全長を巻取る際に磁気テープの長手方向にかけるテンションである。
形態3は、以下の2つの形態のいずれかであることができる。1つ目の形態(形態3-1)は、データの記録および/または再生のための走行終了時、磁気テープにおいてカートリッジリールに巻かれている部分が、カートリッジリールへの巻取り時に長手方向にテンションをかけて巻取られた形態である。この巻取り時のテンションが、巻返しテンションである。2つ目の形態(形態3-2)は、形態3の形態3-1以外の形態である。磁気テープ全長をカートリッジリールに巻取りカートリッジに収容するために、形態3-1においては、カートリッジリールに巻かれていない磁気テープをカートリッジリールに巻取る際に磁気テープの長手方向にかけるテンションが巻返しテンションである。形態3-2については、形態2と同様である。即ち、まずカートリッジリールから巻取りリールへ磁気テープを巻取る。その後に巻取りリールからカートリッジリールへ磁気テープ全長を巻取る際に磁気テープの長手方向にかけるテンションが巻返しテンションである。
以上の形態1、形態2および形態3のいずれにおいても、カートリッジリールに巻取る際に磁気テープの長手方向にかけるテンション(巻返しテンション)は、0.30N以下であることが好ましい。巻返しテンションは、一定値であってもよく、変化させてもよい。一形態では、巻返しテンションは、0.30N以下の一定値であってもよく、0.30N以下の範囲で変化させてもよい。変化させる場合、カートリッジリールに巻取る際に磁気テープの長手方向にかけるテンションの最大値が0.30N以下であることが好ましく、例えば0.25N以下であることもできる。カートリッジリールに巻取る際に磁気テープの長手方向にかけるテンションの最小値は、例えば0.10N以上、0.20N以上もしくは0.20N超であることができ、または、ここで例示した値を下回ってもよい。カートリッジリールへの巻取り時のテンション(巻返しテンション)は、例えば磁気テープ装置の制御装置によって制御することができる。また、磁気テープへのデータの記録および/または再生後に設定した巻返しテンションを磁気テープの長手方向にかけてカートリッジリールへの巻取りが行われるようにカートリッジメモリに動作プログラムを記録し、このプログラムを制御装置が読み出して巻取り動作が実行されるようにしてもよい。
【0037】
[磁気テープ]
<巻ずれ発生最小荷重>
上記磁気テープカートリッジに含まれる磁気テープは、磁気テープの長手方向に0.30Nのテンションをかけてカートリッジリールに巻返された後に測定される巻ずれ発生最小荷重が、250N以下である。上記巻ずれ発生最小荷重が250N以下であることは、保管後の磁気テープに対するデータの記録および/または再生において、良好に記録および/または再生を行うことを可能にすることに寄与し得る。この点から、上記巻ずれ発生最小荷重は、200N以下であることがより好ましく、150N以下であることが更に好ましく、100N以下であることが一層好ましい。また、磁気テープカートリッジに収容する際等における磁気テープの巻取り安定性の向上の観点から、上記巻ずれ発生最小荷重は、5N以上であることが好ましく、10N以上であることがより好ましく、15N以上であることが更に好ましく、20N以上であることが一層好ましい。
【0038】
本発明および本明細書において、上記巻ずれ発生最小荷重は、雰囲気温度23℃相対湿度50%の環境において、以下の方法によって求められる。
測定対象の磁気テープカートリッジは、磁気テープ装置に取り付けられていない未使用の磁気テープカートリッジとする。
この磁気テープカートリッジ内でカートリッジリールに巻回されている磁気テープを、一時巻取り用リールに巻取ることによって、磁気テープ全長を磁気テープカートリッジから一旦取り出す。取り出しは、磁気テープの長手方向に0.30Nのテンションをかけて行う。
その後、一時巻取り用リールに巻回されている磁気テープを、磁気テープの長手方向に0.30Nのテンションをかけてカートリッジリールに巻返すことで、磁気テープ全長を再びカートリッジリールに巻回させて磁気テープカートリッジに収容する。
以上の巻取りおよび巻返しは、例えば、先に記載したテンションを調整する機構を有する磁気テープ装置を用いて行うことができる。一時巻取り用リールは、例えば、磁気テープ装置の巻取りリールであることができる。巻取りおよび巻返しにおいて長手方向にかけるテンションは、先に記載したテンションと同様に、磁気テープの長手方向にかけるべきテンションとして、磁気テープ装置の制御装置が上記のテンションを調整する機構を制御するために使用するテンションの値とする。
その後、磁気テープ全長が巻回されているカートリッジリールを、磁気テープカートリッジから取り出す。カートリッジリールは、少なくとも、軸心部を構成する円筒状部材であるリールハブを含む。また、カートリッジリールは、通常、リールハブの上端部および下端部からそれぞれ半径方向外側に張り出すフランジ(上フランジおよび下フランジ)を有する。フランジを有するカートリッジリールについては、公知の切断手段(超音波カッター等)によってフランジを除去し、磁気テープが巻回しているテープ巻き面を両面それぞれ露出させる。フランジの除去は、テープ巻き面に垂直方向負荷がかからないように留意して行う。リールハブにより近い側を「内側」と呼び、より遠い側を「外側」と呼び、磁気テープの内側の端部を「内側端部」と呼び、他方の端部を「外側端部」と呼ぶ。外側端部にリーダーピンが接合されている場合には、リーダーピンを除去し、巻回状態を保持するために磁気テープの外側端部を粘着テープで内側のテープに対して固定する。固定時に磁気テープを引っ張る際には、磁気テープの弛みが除去できる程度の低テンション(目安として長手方向でのテンションが0.1N以下)で引っ張る。その後、リールハブを受け台に設置する。リールハブにギアが一体成形されている場合には、ギア面で支えるように、リールハブを受け台に設置することができる。受け台に設置する際、この後に以下に記載のようにプレートが置かれて荷重が印加される側のテープ巻き面が、受け台が置かれた床面から、鉛直方向距離として、5cm以上離れるようにリールハブを受け台に設置する。荷重が印加される側のテープ巻き面は、どちら側のテープ巻き面でもよく、無作為に任意に選択される。受け台に設置された巻回状態の磁気テープのテープ巻き面上に、外径が90mmで内径が80mmのアルミニウム製リングを、リールハブの回転中心とアルミニウム製リングの中心が一致するように置く。ここでの「一致」に関しては、完全に一致する場合のみに限定されず、3mm以下のずれは許容されるものとする。このアルミニウム製リングの上に、平面視形状が100mm×100mmの正方形で厚みが3mmのアルミニウム製プレートを置く。このプレートの上から荷重を印加して10分間保持し、その後、荷重を除去する。荷重の印加は、公知の方法で行うことができる。例えば、プレート上に重りを載せること、または押圧装置によりプレートを押圧することによって、荷重を印加することができる。荷重の印加は、プレート全面に一様の荷重が加わるように行うことが好ましい。ここでの「一様」には、公知の方法での荷重印加時に通常生じ得る範囲で、印加される荷重が異なる部分があることも包含される。また、集中荷重とする場合には、プレートにおいて荷重が印加される領域は、上記リングの中心から径方向で25mmまでの範囲の上方に位置する円形領域の一部または全部とする。荷重印加前のプレート上面の鉛直方向位置をAとし、荷重除去後のプレート上面の鉛直方向位置をBとし、「A-B≧1mm」の場合、巻回された磁気テープに巻ずれが発生したと判定する。鉛直方向位置の測定は、プレートの変形の影響を受けることを回避するために、リングの上の位置とする。測定を行う位置は、リングの円周方向60°毎に合計6つとし、荷重印加前に6つの位置で得られた値の算術平均を上記Aとし、荷重除去後に6つの位置で得られた値の算術平均を上記Bとする。Aを求めるための測定を行う位置と、Bを求めるための測定を行う位置は、同じであっても異なってもよい。同じ磁気テープに対して、荷重印加は5Nから開始し、5N刻みで増加させながら上記測定を行い、巻ずれが発生した最小荷重を、「巻ずれ発生最小荷重」とする。
【0039】
磁気テープの上記巻ずれ発生最小荷重の制御について、本発明者の検討によれば、以下の傾向が見られた。
磁気テープのテープ厚みが薄いほど、上記巻ずれ発生最小荷重の値は小さくなる傾向がある。
磁性層における強磁性粉末の分散性を高めることは、上記巻ずれ発生最小荷重の値を小さくすることに寄与し得る。これは、磁性層表面が平滑になるほど、巻き締まりが生じ難くなる傾向があるためと推察される。
バックコート層を有する磁気テープでは、バックコート層における非磁性粉末の分散性を高めることは、上記巻ずれ発生最小荷重の値を小さくすることに寄与し得る。これは、バックコート層の表面平滑性を高めることによって、バックコート層の表面粗さ形状が磁性層表面に転写されて磁性層の表面平滑性が低下することを抑制できるためと推察される。
上記の点の詳細は、後述する。
【0040】
<垂直方向角型比>
一形態では、上記磁気テープの垂直方向角型比は、例えば0.55以上であることができ、0.60以上であることが好ましい。上記磁気テープの垂直方向角型比が0.60以上であることは、電磁変換特性向上の観点から好ましい。角型比の上限は、原理上、1.00以下である。上記磁気テープの垂直方向角型比は、1.00以下であることができ、0.95以下、0.90以下、0.85以下または0.80以下であることができる。磁気テープの垂直方向角型比の値が大きいことは、電磁変換特性向上の観点から好ましい。磁気テープの垂直方向角型比は、垂直配向処理の実施等の公知の方法によって制御することができる。
【0041】
本発明および本明細書において、「垂直方向角型比」とは、磁気テープの垂直方向において測定される角型比である。角型比に関して記載する「垂直方向」とは、磁性層表面と直交する方向であり、厚み方向ということもできる。本発明および本明細書において、垂直方向角型比は、以下の方法によって求められる。
測定対象の磁気テープから振動試料型磁力計に導入可能なサイズのサンプル片を切り出す。このサンプル片について、振動試料型磁力計を用いて、最大印加磁界3979kA/m、測定温度296K、磁界掃引速度8.3kA/m/秒にて、サンプル片の垂直方向(磁性層表面と直交する方向)に磁界を印加し、印加した磁界に対するサンプル片の磁化強度を測定する。磁化強度の測定値は、反磁界補正後の値として、かつ振動試料型磁力計のサンプルプローブの磁化をバックグラウンドノイズとして差し引いた値として得るものとする。最大印加磁界における磁化強度をMs、印加磁界ゼロにおける磁化強度をMrとしたとき、角型比SQ(Squareness Ratio)は、SQ=Mr/Msとして算出される値である。測定温度はサンプル片の温度をいい、サンプル片の周囲の雰囲気温度を測定温度にすることにより、温度平衡が成り立つことによってサンプル片の温度を測定温度にすることができる。
【0042】
以下、上記磁気テープについて、更に詳細に説明する。
【0043】
<磁性層>
(強磁性粉末)
上記磁気テープは、非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有することができる。磁性層に含まれる強磁性粉末としては、各種磁気記録媒体の磁性層において用いられる強磁性粉末として公知の強磁性粉末を1種または2種以上組み合わせて使用することができる。強磁性粉末として平均粒子サイズの小さいものを使用することは記録密度向上の観点から好ましい。この点から、強磁性粉末の平均粒子サイズは50nm以下であることが好ましく、45nm以下であることがより好ましく、40nm以下であることが更に好ましく、35nm以下であることが一層好ましく、30nm以下であることがより一層好ましく、25nm以下であることが更に一層好ましく、20nm以下であることがなお一層好ましい。一方、磁化の安定性の観点からは、強磁性粉末の平均粒子サイズは5nm以上であることが好ましく、8nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることが更に好ましく、15nm以上であることが一層好ましく、20nm以上であることがより一層好ましい。
【0044】
六方晶フェライト粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、六方晶フェライト粉末を挙げることができる。六方晶フェライト粉末の詳細については、例えば、特開2011-225417号公報の段落0012~0030、特開2011-216149号公報の段落0134~0136、特開2012-204726号公報の段落0013~0030および特開2015-127985号公報の段落0029~0084を参照できる。
【0045】
本発明および本明細書において、「六方晶フェライト粉末」とは、X線回折分析によって、主相として六方晶フェライト型の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。主相とは、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが帰属する構造をいう。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが六方晶フェライト型の結晶構造に帰属される場合、六方晶フェライト型の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。X線回折分析によって単一の構造のみが検出された場合には、この検出された構造を主相とする。六方晶フェライト型の結晶構造は、構成原子として、少なくとも鉄原子、二価金属原子および酸素原子を含む。二価金属原子とは、イオンとして二価のカチオンになり得る金属原子であり、ストロンチウム原子、バリウム原子、カルシウム原子等のアルカリ土類金属原子、鉛原子等を挙げることができる。本発明および本明細書において、六方晶ストロンチウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がストロンチウム原子であるものをいい、六方晶バリウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がバリウム原子であるものをいう。主な二価金属原子とは、この粉末に含まれる二価金属原子の中で、原子%基準で最も多くを占める二価金属原子をいうものとする。ただし、上記の二価金属原子には、希土類原子は包含されないものとする。本発明および本明細書における「希土類原子」は、スカンジウム原子(Sc)、イットリウム原子(Y)、およびランタノイド原子からなる群から選択される。ランタノイド原子は、ランタン原子(La)、セリウム原子(Ce)、プラセオジム原子(Pr)、ネオジム原子(Nd)、プロメチウム原子(Pm)、サマリウム原子(Sm)、ユウロピウム原子(Eu)、ガドリニウム原子(Gd)、テルビウム原子(Tb)、ジスプロシウム原子(Dy)、ホルミウム原子(Ho)、エルビウム原子(Er)、ツリウム原子(Tm)、イッテルビウム原子(Yb)、およびルテチウム原子(Lu)からなる群から選択される。
【0046】
以下に、六方晶フェライト粉末の一形態である六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、更に詳細に説明する。
【0047】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、好ましくは800~1600nm3の範囲である。上記範囲の活性化体積を示す微粒子化された六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、優れた電磁変換特性を発揮する磁気テープの作製のために好適である。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、好ましくは800nm3以上であり、例えば850nm3以上であることもできる。また、電磁変換特性の更なる向上の観点から、六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、1500nm3以下であることがより好ましく、1400nm3以下であることが更に好ましく、1300nm3以下であることが一層好ましく、1200nm3以下であることがより一層好ましく、1100nm3以下であることが更により一層好ましい。六方晶バリウムフェライト粉末の活性化体積についても、同様である。
【0048】
「活性化体積」とは、磁化反転の単位であって、粒子の磁気的な大きさを示す指標である。本発明および本明細書に記載の活性化体積および後述の異方性定数Kuは、振動試料型磁力計を用いて保磁力Hc測定部の磁場スイープ速度3分と30分とで測定し(測定温度:23℃±1℃)、以下のHcと活性化体積Vとの関係式から求められる値である。尚、異方性定数Kuの単位に関して、1erg/cc=1.0×10-1J/m3である。
Hc=2Ku/Ms{1-[(kT/KuV)ln(At/0.693)]1/2}
[上記式中、Ku:異方性定数(単位:J/m3)、Ms:飽和磁化(単位:kA/m)、k:ボルツマン定数、T:絶対温度(単位:K)、V:活性化体積(単位:cm3)、A:スピン歳差周波数(単位:s-1)、t:磁界反転時間(単位:s)]
【0049】
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、好ましくは1.8×105J/m3以上のKuを有することができ、より好ましくは2.0×105J/m3以上のKuを有することができる。また、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のKuは、例えば2.5×105J/m3以下であることができる。ただしKuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。
【0050】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含んでいてもよく、含まなくてもよい。六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、鉄原子100原子%に対して、0.5~5.0原子%の含有率(バルク含有率)で希土類原子を含むことが好ましい。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一形態では、希土類原子表層部偏在性を有することができる。本発明および本明細書における「希土類原子表層部偏在性」とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により部分溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子表層部含有率」または希土類原子に関して単に「表層部含有率」と記載する。)が、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により全溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子バルク含有率」または希土類原子に関して単に「バルク含有率」と記載する。)と、
希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0
の比率を満たすことを意味する。後述の六方晶ストロンチウムフェライト粉末の希土類原子含有率とは、希土類原子バルク含有率と同義である。これに対し、酸を用いる部分溶解は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部を溶解するため、部分溶解により得られる溶解液中の希土類原子含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部における希土類原子含有率である。希土類原子表層部含有率が、「希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0」の比率を満たすことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。本発明および本明細書における表層部とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面から内部に向かう一部領域を意味する。
【0051】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、希土類原子含有率(バルク含有率)は、鉄原子100原子%に対して0.5~5.0原子%の範囲であることが好ましい。上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることは、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することに寄与すると考えられる。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末が上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることにより、異方性定数Kuを高めることができるためと推察される。異方性定数Kuは、この値が高いほど、いわゆる熱揺らぎと呼ばれる現象の発生を抑制すること(換言すれば熱的安定性を向上させること)ができる。熱揺らぎの発生が抑制されることにより、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の粒子表層部に希土類原子が偏在することが、表層部の結晶格子内の鉄(Fe)のサイトのスピンを安定化することに寄与し、これにより異方性定数Kuが高まるのではないかと推察される。
また、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末を磁性層の強磁性粉末として用いることは、磁気ヘッドとの摺動によって磁性層表面が削れることを抑制することにも寄与すると推察される。即ち、磁気テープの走行耐久性の向上にも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末が寄与し得ると推察される。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面に希土類原子が偏在することが、粒子表面と磁性層に含まれる有機物質(例えば、結合剤および/または添加剤)との相互作用の向上に寄与し、その結果、磁性層の強度が向上するためではないかと推察される。
繰り返し再生における再生出力の低下を抑制する観点および/または走行耐久性の更なる向上の観点からは、希土類原子含有率(バルク含有率)は、0.5~4.5原子%の範囲であることがより好ましく、1.0~4.5原子%の範囲であることが更に好ましく、1.5~4.5原子%の範囲であることが一層好ましい。
【0052】
上記バルク含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる含有率である。本発明および本明細書において、特記しない限り、原子について含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められるバルク含有率をいうものとする。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子として1種の希土類原子のみ含んでもよく、2種以上の希土類原子を含んでもよい。2種以上の希土類原子を含む場合の上記バルク含有率は、2種以上の希土類原子の合計について求められる。この点は、本発明および本明細書における他の成分についても同様である。即ち、特記しない限り、ある成分は、1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。2種以上用いられる場合の含有量または含有率とは、2種以上の合計についていうものとする。
【0053】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、含まれる希土類原子は、希土類原子のいずれか1種以上であればよい。繰り返し再生における再生出力の低下を抑制する観点から好ましい希土類原子としては、ネオジム原子、サマリウム原子、イットリウム原子およびジスプロシウム原子を挙げることができ、ネオジム原子、サマリウム原子およびイットリウム原子がより好ましく、ネオジム原子が更に好ましい。
【0054】
希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、偏在の程度は限定されるものではない。例えば、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は1.0超であり、1.5以上であることができる。「表層部含有率/バルク含有率」が1.0より大きいことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。また、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は、例えば、10.0以下、9.0以下、8.0以下、7.0以下、6.0以下、5.0以下、または4.0以下であることができる。ただし、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、上記の「表層部含有率/バルク含有率」は、例示した上限または下限に限定されるものではない。
【0055】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の部分溶解および全溶解について、以下に説明する。粉末として存在している六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、部分溶解および全溶解する試料粉末は、同一ロットの粉末から採取する。一方、磁気テープの磁性層に含まれている六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、磁性層から取り出した六方晶ストロンチウムフェライト粉末の一部を部分溶解に付し、他の一部を全溶解に付す。磁性層からの六方晶ストロンチウムフェライト粉末の取り出しは、例えば、特開2015-91747号公報の段落0032に記載の方法によって行うことができる。
上記部分溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認できる程度に溶解することをいう。例えば、部分溶解により、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子について、粒子全体を100質量%として10~20質量%の領域を溶解することができる。一方、上記全溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認されない状態まで溶解することをいう。
上記部分溶解および表層部含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。ただし、下記の試料粉末量等の溶解条件は例示であって、部分溶解および全溶解が可能な溶解条件を任意に採用できる。
試料粉末12mgおよび1mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度70℃のホットプレート上で1時間保持する。得られた溶解液を0.1μmのメンブレンフィルタでろ過する。こうして得られたろ液の元素分析を誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)分析装置によって行う。こうして、鉄原子100原子%に対する希土類原子の表層部含有率を求めることができる。元素分析により複数種の希土類原子が検出された場合には、全希土類原子の合計含有率を、表層部含有率とする。この点は、バルク含有率の測定においても、同様である。
一方、上記全溶解およびバルク含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。
試料粉末12mgおよび4mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度80℃のホットプレート上で3時間保持する。その後は上記の部分溶解および表層部含有率の測定と同様に行い、鉄原子100原子%に対するバルク含有率を求めることができる。
【0056】
磁気テープに記録されたデータを再生する際の再生出力を高める観点から、磁気テープに含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、希土類原子を含むものの希土類原子表層部偏在性を持たない六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含まない六方晶ストロンチウムフェライト粉末と比べてσsが大きく低下する傾向が見られた。これに対し、そのようなσsの大きな低下を抑制するうえでも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末は好ましいと考えられる。一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のσsは、45A・m2/kg以上であることができ、47A・m2/kg以上であることもできる。一方、σsは、ノイズ低減の観点からは、80A・m2/kg以下であることが好ましく、60A・m2/kg以下であることがより好ましい。σsは、振動試料型磁力計等の磁気特性を測定可能な公知の測定装置を用いて測定することができる。本発明および本明細書において、特記しない限り、質量磁化σsは、磁場強度15kOeで測定される値とする。1[kOe]=106/4π[A/m]である。
【0057】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の構成原子の含有率(バルク含有率)に関して、ストロンチウム原子含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば2.0~15.0原子%の範囲であることができる。一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、この粉末に含まれる二価金属原子がストロンチウム原子のみであることができる。また他の一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、ストロンチウム原子に加えて1種以上の他の二価金属原子を含むこともできる。例えば、バリウム原子および/またはカルシウム原子を含むことができる。ストロンチウム原子以外の他の二価金属原子が含まれる場合、六方晶ストロンチウムフェライト粉末におけるバリウム原子含有率およびカルシウム原子含有率は、それぞれ、例えば、鉄原子100原子%に対して、0.05~5.0原子%の範囲であることができる。
【0058】
六方晶フェライトの結晶構造としては、マグネトプランバイト型(「M型」とも呼ばれる。)、W型、Y型およびZ型が知られている。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、いずれの結晶構造を取るものであってもよい。結晶構造は、X線回折分析によって確認することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によって、単一の結晶構造または2種以上の結晶構造が検出されるものであることができる。例えば一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によってM型の結晶構造のみが検出されるものであることができる。例えば、M型の六方晶フェライトは、AFe12O19の組成式で表される。ここでAは二価金属原子を表し、六方晶ストロンチウムフェライト粉末がM型である場合、Aはストロンチウム原子(Sr)のみであるか、またはAとして複数の二価金属原子が含まれる場合には、上記の通り原子%基準で最も多くをストロンチウム原子(Sr)が占める。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の二価金属原子含有率は、通常、六方晶フェライトの結晶構造の種類により定まるものであり、特に限定されるものではない。鉄原子含有率および酸素原子含有率についても、同様である。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、少なくとも、鉄原子、ストロンチウム原子および酸素原子を含み、更に希土類原子を含むこともできる。更に、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、これら原子以外の原子を含んでもよく、含まなくてもよい。一例として、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、アルミニウム原子(Al)を含むものであってもよい。アルミニウム原子の含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば0.5~10.0原子%であることができる。繰り返し再生における再生出力低下を抑制する観点からは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子を含み、これら原子以外の原子の含有率が、鉄原子100原子%に対して、10.0原子%以下であることが好ましく、0~5.0原子%の範囲であることがより好ましく、0原子%であってもよい。即ち、一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子以外の原子を含まなくてもよい。上記の原子%で表示される含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる各原子の含有率(単位:質量%)を、各原子の原子量を用いて原子%表示の値に換算して求められる。また、本発明および本明細書において、ある原子について「含まない」とは、全溶解してICP分析装置により測定される含有率が0質量%であることをいう。ICP分析装置の検出限界は、通常、質量基準で0.01ppm(parts per million)以下である。上記の「含まない」とは、ICP分析装置の検出限界未満の量で含まれることを包含する意味で用いるものとする。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一形態では、ビスマス原子(Bi)を含まないものであることができる。
【0059】
金属粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、強磁性金属粉末を挙げることもできる。強磁性金属粉末の詳細については、例えば特開2011-216149号公報の段落0137~0141および特開2005-251351号公報の段落0009~0023を参照できる。
【0060】
ε-酸化鉄粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、ε-酸化鉄粉末を挙げることもできる。本発明および本明細書において、「ε-酸化鉄粉末」とは、X線回折分析によって、主相としてε-酸化鉄型の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークがε-酸化鉄型の結晶構造に帰属される場合、ε-酸化鉄型の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。ε-酸化鉄粉末の製造方法としては、ゲーサイトから作製する方法、逆ミセル法等が知られている。上記製造方法は、いずれも公知である。また、Feの一部がGa、Co、Ti、Al、Rh等の置換原子によって置換されたε-酸化鉄粉末を製造する方法については、例えば、J. Jpn. Soc. Powder Metallurgy Vol. 61 Supplement, No. S1, pp. S280-S284、J. Mater. Chem. C, 2013, 1, pp.5200-5206等を参照できる。ただし、上記磁気テープの磁性層において強磁性粉末として使用可能なε-酸化鉄粉末の製造方法は、ここで挙げた方法に限定されない。
【0061】
ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、好ましくは300~1500nm3の範囲である。上記範囲の活性化体積を示す微粒子化されたε-酸化鉄粉末は、優れた電磁変換特性を発揮する磁気テープの作製のために好適である。ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、好ましくは300nm3以上であり、例えば500nm3以上であることもできる。また、電磁変換特性の更なる向上の観点から、ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、1400nm3以下であることがより好ましく、1300nm3以下であることが更に好ましく、1200nm3以下であることが一層好ましく、1100nm3以下であることがより一層好ましい。
【0062】
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。ε-酸化鉄粉末は、好ましくは3.0×104J/m3以上のKuを有することができ、より好ましくは8.0×104J/m3以上のKuを有することができる。また、ε-酸化鉄粉末のKuは、例えば3.0×105J/m3以下であることができる。ただしKuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し、好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。
【0063】
磁気テープに記録されたデータを再生する際の再生出力を高める観点から、磁気テープに含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、一形態では、ε-酸化鉄粉末のσsは、8A・m2/kg以上であることができ、12A・m2/kg以上であることもできる。一方、ε-酸化鉄粉末のσsは、ノイズ低減の観点からは、40A・m2/kg以下であることが好ましく、35A・m2/kg以下であることがより好ましい。
【0064】
本発明および本明細書において、特記しない限り、強磁性粉末等の各種粉末の平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡を用いて、以下の方法により測定される値とする。
粉末を、透過型電子顕微鏡を用いて撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントするか、またはディスプレイに表示する等して、粉末を構成する粒子の写真を得る。得られた粒子の写真から目的の粒子を選びデジタイザーで粒子の輪郭をトレースし粒子(一次粒子)のサイズを測定する。一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。
以上の測定を、無作為に抽出した500個の粒子について行う。こうして得られた500個の粒子の粒子サイズの算術平均を、粉末の平均粒子サイズとする。上記透過型電子顕微鏡としては、例えば日立製透過型電子顕微鏡H-9000型を用いることができる。また、粒子サイズの測定は、公知の画像解析ソフト、例えばカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて行うことができる。後述の実施例に示す平均粒子サイズは、特記しない限り、透過型電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H-9000型、画像解析ソフトとしてカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて測定された値である。本発明および本明細書において、粉末とは、複数の粒子の集合を意味する。例えば、強磁性粉末とは、複数の強磁性粒子の集合を意味する。また、複数の粒子の集合とは、集合を構成する粒子が直接接触している形態に限定されず、後述する結合剤、添加剤等が、粒子同士の間に介在している形態も包含される。粒子との語が、粉末を表すために用いられることもある。
【0065】
粒子サイズ測定のために磁気テープから試料粉末を採取する方法としては、例えば特開2011-048878号公報の段落0015に記載の方法を採用することができる。
【0066】
本発明および本明細書において、特記しない限り、粉末を構成する粒子のサイズ(粒子サイズ)は、上記の粒子写真において観察される粒子の形状が、
(1)針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粒子を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、
(2)板状または柱状(ただし、厚みまたは高さが板面または底面の最大長径より小さい)の場合は、その板面または底面の最大長径で表され、
(3)球形、多面体状、不定形等であって、かつ形状から粒子を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
【0067】
また、粉末の平均針状比は、上記測定において粒子の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粒子の(長軸長/短軸長)の値を求め、上記500個の粒子について得た値の算術平均を指す。ここで、特記しない限り、短軸長とは、上記粒子サイズの定義で(1)の場合は、粒子を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚みまたは高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、特記しない限り、粒子の形状が特定の場合、例えば、上記粒子サイズの定義(1)の場合、平均粒子サイズは平均長軸長であり、同定義(2)の場合、平均粒子サイズは平均板径である。同定義(3)の場合、平均粒子サイズは、平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)である。
【0068】
磁性層における強磁性粉末の含有率(充填率)は、磁性層の全質量に対して、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。磁性層において強磁性粉末の充填率が高いことは、記録密度向上の観点から好ましい。
【0069】
(結合剤)
上記磁気テープは塗布型の磁気テープであることができ、磁性層に結合剤を含むことができる。結合剤とは、1種以上の樹脂である。結合剤としては、塗布型磁気記録媒体の結合剤として通常使用される各種樹脂を用いることができる。例えば、結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等を共重合したアクリル樹脂、ニトロセルロース等のセルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルキラール樹脂等から選ばれる樹脂を単独で用いるか、または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂、および塩化ビニル樹脂である。これらの樹脂は、ホモポリマーでもよく、コポリマー(共重合体)でもよい。これらの樹脂は、後述する非磁性層および/またはバックコート層においても結合剤として使用することができる。
以上の結合剤については、特開2010-24113号公報の段落0028~0031を参照できる。結合剤として使用される樹脂の平均分子量は、重量平均分子量として、例えば10,000以上200,000以下であることができる。結合剤は、強磁性粉末100.0質量部に対して、例えば1.0~30.0質量部の量で使用することができる。
【0070】
(硬化剤)
結合剤として使用可能な樹脂とともに硬化剤を使用することもできる。硬化剤は、一形態では加熱により硬化反応(架橋反応)が進行する化合物である熱硬化性化合物であることができ、他の一形態では光照射により硬化反応(架橋反応)が進行する光硬化性化合物であることができる。硬化剤は、磁性層形成工程の中で硬化反応が進行することにより、少なくとも一部は、結合剤等の他の成分と反応(架橋)した状態で磁性層に含まれ得る。この点は、他の層を形成するために用いられる組成物が硬化剤を含む場合に、この組成物を用いて形成される層についても同様である。好ましい硬化剤は、熱硬化性化合物であり、ポリイソシアネートが好適である。ポリイソシアネートの詳細については、特開2011-216149号公報の段落0124~0125を参照できる。硬化剤は、磁性層形成用組成物中に、結合剤100.0質量部に対して例えば0~80.0質量部、磁性層の強度向上の観点からは好ましくは50.0~80.0質量部の量で使用することができる。
【0071】
(添加剤)
磁性層には、必要に応じて1種以上の添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、一例として、上記の硬化剤が挙げられる。また、磁性層に含まれる添加剤としては、非磁性粉末(例えば無機粉末、カーボンブラック等)、潤滑剤、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤等を挙げることができる。例えば、潤滑剤については、特開2016-126817号公報の段落0030~0033、0035および0036を参照できる。後述する非磁性層に潤滑剤が含まれていてもよい。非磁性層に含まれ得る潤滑剤については、特開2016-126817号公報の段落0030、0031、0034~0036を参照できる。分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061および0071を参照できる。また、ポリアルキレンイミン鎖およびビニルポリマー鎖を有する化合物は、強磁性粉末の分散性向上のための分散剤としての働きを示すことができる。更に、上記化合物は、磁性層の強度向上にも寄与し得る。磁性層の強度を高めることは、後述する裏写りの発生を抑制して磁性層の表面平滑性を高めることにつながり得る。ポリアルキレンイミン鎖およびビニルポリマー鎖を有する化合物については、特開2019-169225号公報の段落0024~0064および同公報の実施例を参照できる。上記化合物は、磁性層に、強磁性粉末100.0質量部あたり18.0質量部以上含まれることが好ましく、20.0質量部以上含まれることがより好ましい。また、上記化合物の磁性層における含有量は、強磁性粉末100.0質量部あたり35.0質量部以下とすることが好ましく、30.0質量部以下とすることがより好ましい。尚、上記化合物等の分散剤の1種以上を非磁性層形成用組成物に添加してもよい。非磁性層形成用組成物に添加し得る分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061を参照できる。また、磁性層に含まれ得る非磁性粉末としては、研磨剤として機能することができる非磁性粉末、磁性層表面に適度に突出する突起を形成する突起形成剤として機能することができる非磁性粉末(例えば非磁性コロイド粒子等)等が挙げられる。尚、後述の実施例に示すコロイダルシリカ(シリカコロイド粒子)の平均粒子サイズは、特開2011-048878号公報の段落0015に平均粒径の測定方法として記載されている方法により求められた値である。添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して、または公知の方法で製造して、任意の量で使用することができる。研磨剤を含む磁性層に研磨剤の分散性を向上するために使用され得る添加剤の一例としては、特開2013-131285号公報の段落0012~0022に記載の分散剤を挙げることができる。
【0072】
以上説明した磁性層は、非磁性支持体表面上に直接、または非磁性層を介して間接的に、設けることができる。
【0073】
<非磁性層>
次に非磁性層について説明する。上記磁気テープは、非磁性支持体表面上に直接磁性層を有していてもよく、非磁性支持体表面上に非磁性粉末を含む非磁性層を介して磁性層を有していてもよい。非磁性層に使用される非磁性粉末は、無機物質の粉末でも有機物質の粉末でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質の粉末としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の粉末が挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2011-216149号公報の段落0146~0150を参照できる。非磁性層に使用可能なカーボンブラックについては、特開2010-24113号公報の段落0040および0041も参照できる。非磁性層における非磁性粉末の含有率(充填率)は、非磁性層の全質量に対して、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。
【0074】
非磁性層は、結合剤を含むことができ、添加剤を含むこともできる。非磁性層の結合剤、添加剤等のその他詳細については、非磁性層に関する公知技術を適用できる。また、例えば、結合剤の種類および含有量、添加剤の種類および含有量等に関しては、磁性層に関する公知技術も適用できる。
【0075】
本発明および本明細書において、非磁性層には、非磁性粉末とともに、例えば不純物として、または意図的に、少量の強磁性粉末を含む実質的に非磁性な層も包含されるものとする。ここで実質的に非磁性な層とは、この層の残留磁束密度が10mT以下であるか、保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であるか、または、残留磁束密度が10mT以下であり、かつ保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下である層をいうものとする。非磁性層は、残留磁束密度および保磁力を持たないことが好ましい。
【0076】
<バックコート層>
上記磁気テープは、一形態では、非磁性支持体の磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を有することができる。また、他の一形態では、上記磁気テープは、バックコート層を有さない磁気テープであることもできる。上記磁気テープがバックコート層を有する場合、バックコート層の非磁性粉末については、下記の記載を参照できる。バックコート層は、結合剤を含むことができ、1種以上の添加剤を含むこともできる。バックコート層に含まれ得る結合剤および各種添加剤については、バックコート層に関する公知技術を適用することができ、磁性層および/または非磁性層の処方に関する公知技術を適用することもできる。例えば、特開2006-331625号公報の段落0018~0020および米国特許第7,029,774号明細書の第4欄65行目~第5欄38行目の記載を、バックコート層について参照できる。
【0077】
磁気テープの製造工程等において、ロール状に巻かれた状態で磁性層表面と裏面とが接触した状態で、裏面の表面形状が磁性層表面に転写されること(いわゆる裏写り)によって、磁性層表面に凹みが形成され得る。かかる凹みの形成を抑制して磁性層の表面平滑性を高めることは、上記巻ずれ発生最小荷重の値を小さくすることに寄与し得る。上記裏面とは、バックコート層を有する場合にはバックコート層表面であり、有さない場合には支持体表面である。磁性層表面の凹みの形成を抑制するための手段の一例としては、裏面の表面形状を調整すべく、例えばバックコート層を形成するための組成物に添加する成分の種類を選択することを挙げることができる。この点から、バックコート層の非磁性粉末としては、カーボンブラックとカーボンブラック以外の非磁性粉末を併用するか、またはカーボンブラックを用いる(即ち、バックコート層の非磁性粉末がカーボンブラックからなる)ことが好ましい。カーボンブラック以外の非磁性粉末としては、例えば、非磁性層に含有され得るものとして先に例示した非磁性粉末を挙げることができる。バックコート層の非磁性粉末について、非磁性粉末全量100.0質量部に占めるカーボンブラックの割合が、50.0~100.0質量部の範囲であることが好ましく、70.0~100.0質量部の範囲であることがより好ましく、90.0~100.0質量部の範囲であることが更に好ましい。また、バックコート層の非磁性粉末の全量がカーボンブラックであることも好ましい。バックコート層における非磁性粉末の含有率(充填率)は、バックコート層の全質量に対して、50~90質量%の範囲であることが好ましく、60~90質量%の範囲であることがより好ましい。
【0078】
上記の裏写りの発生を抑制するためには、バックコート層形成用組成物は、この組成物に含まれる非磁性粉末の分散性を高めることができる成分(分散剤)を含むことが好ましい。そのような分散剤の一例としては、下記式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物を挙げることができる。下記式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物は、カーボンブラックの分散性向上に寄与することができる。尚、「アルキルエステルアニオン」は、「アルキルカルボキシラートアニオン」と呼ぶこともできる。
【0079】
【0080】
式1中、Rは炭素数7以上のアルキル基または炭素数7以上のフッ化アルキル基を表し、Z+はアンモニウムカチオンを表す。
【0081】
また、一形態では、上記塩構造を有する化合物を形成し得る2種以上の成分を、バックコート層形成用組成物の調製時に使用することができる。これにより、バックコート層形成用組成物の調製時、それら成分の少なくとも一部が、上記塩構造を有する化合物を形成し得る。
【0082】
特記しない限り、以下に記載されている基は置換基を有してもよく無置換であってもよい。また、置換基を有する基について「炭素数」とは、特記しない限り、置換基の炭素数を含まない炭素数を意味するものとする。本発明および本明細書において、置換基としては、例えば、アルキル基(例えば炭素数1~6のアルキル基)、ヒドロキシ基、アルコキシ基(例えば炭素数1~6のアルコキシ基)、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、アシル基、カルボキシ基、カルボキシ基の塩、スルホン酸基、スルホン酸基の塩等を挙げることができる。
【0083】
以下、式1について更に詳細に説明する。
【0084】
式1中、Rは、炭素数7以上のアルキル基または炭素数7以上のフッ化アルキル基を表す。フッ化アルキル基は、アルキル基を構成する水素原子の一部または全部がフッ素原子により置換された構造を有する。Rで表されるアルキル基またはフッ化アルキル基は、直鎖構造であってもよく、分岐を有する構造であってもよく、環状のアルキル基またはフッ化アルキル基でもよく、直鎖構造であることが好ましい。Rで表されるアルキル基またはフッ化アルキル基は、置換基を有していてもよく、無置換であってもよく、無置換であることが好ましい。Rで表されるアルキル基は、例えばCnH2n+1-で表すことができる。ここでnは7以上の整数を表す。また、Rで表されるフッ化アルキル基は、例えばCnH2n+1-で表されるアルキル基を構成する水素原子の一部または全部がフッ素原子により置換された構造を有することができる。Rで表されるアルキル基またはフッ化アルキル基の炭素数は、7以上であり、8以上であることが好ましく、9以上であることがより好ましく、10以上であることが更に好ましく、11以上であることが一層好ましく、12以上であることがより一層好ましく、13以上であることが更に一層好ましい。また、Rで表されるアルキル基またはフッ化アルキル基の炭素数は、20以下であることが好ましく、19以下であることがより好ましく、18以下であることが更に好ましい。
【0085】
式1中、Z+はアンモニウムカチオンを表す。アンモニウムカチオンは、詳しくは、以下の構造を有する。本発明および本明細書において、化合物の一部を表す式中の「*」は、その一部の構造と隣接する原子との結合位置を表す。
【0086】
【0087】
アンモニウムカチオンの窒素カチオンN+と式1中の酸素アニオンO-とが塩架橋基を形成して式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造が形成され得る。式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物がバックコート層に含まれていることは、磁気テープについてX線光電子分光法(ESCA;Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)、赤外分光法(IR;infrared spectroscopy)等により分析を行うことによって確認できる。
【0088】
一形態では、Z+で表されるアンモニウムカチオンは、例えば、含窒素ポリマーの窒素原子がカチオンとなることによってもたらされ得る。含窒素ポリマーとは、窒素原子を含むポリマーを意味する。本発明および本明細書において、「ポリマー」および「重合体」との語は、ホモポリマーとコポリマーとを包含する意味で用いられる。窒素原子は、一形態ではポリマーの主鎖を構成する原子として含まれることができ、また一形態ではポリマーの側鎖を構成する原子として含まれることができる。
【0089】
含窒素ポリマーの一形態としては、ポリアルキレンイミンを挙げることができる。ポリアルキレンイミンは、アルキレンイミンの開環重合体であって、下記式2で表される繰り返し単位を複数有するポリマーである。
【0090】
【0091】
式2中の主鎖を構成する窒素原子Nが窒素カチオンN+となって式1中のZ+で表されるアンモニウムカチオンがもたらされ得る。そしてアルキルエステルアニオンと、例えば以下のようにアンモニウム塩構造を形成し得る。
【0092】
【0093】
以下、式2について更に詳細に説明する。
【0094】
式2中、R1およびR2は、それぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表し、n1は2以上の整数を表す。
【0095】
R1またはR2で表されるアルキル基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基を挙げることができ、好ましくは炭素数1~3のアルキル基であり、より好ましくはメチル基またはエチル基であり、更に好ましくはメチル基である。R1またはR2で表されるアルキル基は、好ましくは無置換アルキル基である。式2中のR1およびR2の組み合わせとしては、一方が水素原子であって他方がアルキル基である形態、両方が水素原子である形態および両方がアルキル基(同一または異なるアルキル基)である形態があり、好ましくは両方が水素原子である形態である。ポリアルキレンイミンをもたらすアルキレンイミンとして、環を構成する炭素数が最少の構造はエチレンイミンであり、エチレンイミンの開環により得られたアルキレンイミン(エチレンイミン)の主鎖の炭素数は2である。したがって、式2中のn1は2以上である。式2中のn1は、例えば10以下、8以下、6以下または4以下であることができる。ポリアルキレンイミンは、式2で表される繰り返し構造として同一構造のみを含むホモポリマーであってもよく、式2で表される繰り返し構造として2種以上の異なる構造を含むコポリマーであってもよい。式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物を形成するために使用可能なポリアルキレンイミンの数平均分子量は、例えば200以上であることができ、300以上であることが好ましく、400以上であることがより好ましい。また、上記ポリアルキレンイミンの数平均分子量は、例えば10,000以下であることができ、5,000以下であることが好ましく、2,000以下であることがより好ましい。
【0096】
本発明および本明細書において、平均分子量(重量平均分子量および数平均分子量)とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC;Gel Permeation Chromatography)により測定され、標準ポリスチレン換算により求められる値をいうものとする。後述の実施例に示す平均分子量は、特記しない限り、GPCを用いて下記測定条件により測定された値を標準ポリスチレン換算して求めた値(ポリスチレン換算値)である。
GPC装置:HLC-8220(東ソー社製)
ガードカラム:TSKguardcolumn Super HZM-H
カラム:TSKgel Super HZ 2000、TSKgel Super HZ 4000、TSKgel Super HZ-M(東ソー社製、4.6mm(内径)×15.0cm、3種カラムを直列連結)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)、安定剤(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール)含有
溶離液流速:0.35mL/分
カラム温度:40℃
インレット温度:40℃
屈折率(RI;Refractive Index)測定温度:40℃
サンプル濃度:0.3質量%
サンプル注入量:10μL
【0097】
また、含窒素ポリマーの他の一形態としては、ポリアリルアミンを挙げることができる。ポリアリルアミンは、アリルアミンの重合体であって、下記式3で表される繰り返し単位を複数有するポリマーである。
【0098】
【0099】
式3中の側鎖のアミノ基を構成する窒素原子Nが窒素カチオンN+となって式1中のZ+で表されるアンモニウムカチオンがもたらされ得る。そしてアルキルエステルアニオンと、例えば以下のようにアンモニウム塩構造を形成し得る。
【0100】
【0101】
式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物を形成するために使用可能なポリアリルアミンの重量平均分子量は、例えば 200以上であることができ、1,000以上であることが好ましく、1,500以上であることがより好ましい。また、上記ポリアルキレンイミンの重量平均分子量は、例えば15,000以下であることができ、10,000以下であることが好ましく、8,000以下であることがより好ましい。
【0102】
式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物として、ポリアルキレンイミンまたはポリアリルイミン由来の構造を有する化合物がバックコート層に含まれることは、バックコート層表面を飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS:Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)等により分析することによって確認できる。
【0103】
式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物は、含窒素ポリマーと炭素数7以上の脂肪酸および炭素数7以上のフッ化脂肪酸からなる群から選ばれる脂肪酸類の1種以上との塩であることができる。塩を形成する含窒素ポリマーは、1種または2種以上の含窒素ポリマーであることができ、例えばポリアルキレンイミンおよびポリアリルアミンからなる群から選択される含窒素ポリマーであることができる。塩を形成する脂肪酸類は、炭素数7以上の脂肪酸および炭素数7以上のフッ化脂肪酸からなる群から選ばれる脂肪酸類の1種または2種以上であることができる。フッ化脂肪酸は、脂肪酸においてカルボキシ基COOHと結合しているアルキル基を構成する水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換された構造を有する。例えば、含窒素ポリマーと上記脂肪酸類とを室温で混合することによって、塩形成反応は容易に進行し得る。室温とは、例えば20~25℃程度である。一形態では、バックコート層形成用組成物の成分として含窒素ポリマーの1種以上と上記脂肪酸類の1種以上を使用し、バックコート層形成用組成物の調製工程においてこれらを混合することによって、塩形成反応を進行させることができる。また、一形態では、バックコート層形成用組成物の調製前に、含窒素ポリマーの1種以上と上記脂肪酸類の1種以上とを混合して塩を形成した後に、この塩をバックコート層形成用組成物の成分として使用してバックコート層形成用組成物を調製することができる。尚、含窒素ポリマーと上記脂肪酸類とを混合して式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩を形成する際、併せて含窒素ポリマーを構成する窒素原子と上記脂肪酸類のカルボキシ基とが反応して下記構造が形成される場合もあり、そのような構造を含む形態も上記化合物に包含される。
【0104】
【0105】
上記脂肪酸類としては、先に式1中のRとして記載したアルキル基を有する脂肪酸および先に式1中のRとして記載したフッ化アルキル基を有するフッ化脂肪酸を挙げることができる。
【0106】
式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物を形成するために使用する含窒素ポリマーと上記脂肪酸類との混合比は、含窒素ポリマー:上記脂肪酸類の質量比として、3:97~97:3であることができる。また、式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物は、バックコート層形成用組成物の調製時、カーボンブラック100.0質量部に対して、例えば1.0~20.0質量部使用することができ、1.0~10.0質量部使用することが好ましい。また、例えばバックコート層形成用組成物の調製時、カーボンブラック100.0質量部あたり、0.1~10.0質量部の含窒素ポリマーを使用することができ、0.5~8.0質量部の含窒素ポリマーを使用することが好ましい。上記脂肪酸類は、カーボンブラック100.0質量部あたり、例えば0.05~10.0質量部使用することができ、0.1~5.0質量部使用することが好ましい。
【0107】
<非磁性支持体>
非磁性支持体(以下、単に「支持体」とも記載する。)としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフタレートが好ましい。
【0108】
上記磁気テープの非磁性支持体は、一形態では、ポリエステル支持体であることができる。本発明および本明細書において、「ポリエステル」とは、複数のエステル結合を含む樹脂を意味する。「ポリエステル支持体」とは、少なくとも1層のポリエステルフィルムを含む支持体を意味する。「ポリエステルフィルム」とは、このフィルムを構成する成分の中で質量基準で最も多くを占める成分がポリエステルであるフィルムをいうものとする。本発明および本明細書における「ポリエステル支持体」には、この支持体に含まれる樹脂フィルムがすべてポリエステルフィルムであるものと、ポリエステルフィルムと他の樹脂フィルムとを含むものとが包含される。ポリエステル支持体の具体的形態としては、単層のポリエステルフィルム、構成成分が同じ2層以上のポリエステルフィルムの積層フィルム、構成成分が異なる2層以上のポリエステルフィルムの積層フィルム、1層以上のポリエステルフィルムおよび1層以上のポリエステル以外の樹脂フィルムを含む積層フィルム等を挙げることができる。積層フィルムにおいて隣り合う2層の間に接着層等が任意に含まれていてもよい。また、ポリエステル支持体には、一方または両方の表面に蒸着等によって形成された金属膜および/または金属酸化物膜が任意に含まれていてもよい。以上については、本発明および本明細書における「芳香族ポリエステル支持体」、「ポリエチレンテレフタレート支持体」および「ポリエチレンナフタレート支持体」についても同様である。
【0109】
ポリエステル支持体は、芳香族ポリエステル支持体であることができる。本発明および本明細書において、「芳香族ポリエステル」とは、芳香族骨格および複数のエステル結合を含む樹脂を意味し、「芳香族ポリエステル支持体」とは、少なくとも1層の芳香族ポリエステルフィルムを含む支持体を意味する。
【0110】
芳香族ポリエステルが有する芳香族骨格に含まれる芳香環は特に限定されるものではない。芳香環の具体例としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環等を挙げることができる。
例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)は、ベンゼン環を含むポリエステルであって、エチレングリコールとテレフタル酸および/またはテレフタル酸ジメチルとの重縮合によって得られる樹脂である。本発明および本明細書における「ポリエチレンテレフタレート」には、上記成分に加えて1種以上の他の成分(例えば、共重合成分、末端または側鎖に導入される成分等)を有する構造のものも包含される。
ポリエチレンナフタレート(PEN)は、ナフタレン環を含むポリエステルであって、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチルとエチレングリコールとのエステル化反応を行い、その後にエステル交換反応および重縮合反応を行って得られる樹脂である。本発明および本明細書における「ポリエチレンナフタレート」には、上記成分に加えて1種以上の他の成分(例えば、共重合成分、末端または側鎖に導入される成分等)を有する構造のものも包含される。
【0111】
また、非磁性支持体は、二軸延伸フィルムであることができ、コロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理等が施されたフィルムであってもよい。
【0112】
<各種厚み>
磁気テープの厚み(総厚)に関して、近年の情報量の莫大な増大に伴い、磁気テープには記録容量を高めること(高容量化)が求められている。高容量化のための手段としては、磁気テープの厚みを薄くし、磁気テープカートリッジ1巻あたりに収容される磁気テープ長を増すことが挙げられる。この点から、上記磁気テープの厚み(総厚)は、5.6μm以下であることが好ましく、5.5μm以下であることがより好ましく、5.4μm以下であることがより好ましく、5.3μm以下であることが更に好ましく、5.2μm以下であることが一層好ましく、5.1μm以下であることがより一層好ましい。先に記載したように、磁気テープの厚みを薄くすることは、上記巻ずれ発生最小荷重の値を小さくすることに寄与し得る。また、磁気テープの厚みは、ハンドリングの容易性の観点からは、3.0μm以上であることが好ましく、3.5μm以上であることがより好ましい。
【0113】
磁気テープの厚み(総厚)は、以下の方法によって測定することができる。
磁気テープの任意の部分からテープサンプル(例えば長さ5~10cm)を10枚切り出し、これらテープサンプルを重ねて厚みを測定する。測定された厚みを10分の1して得られた値(テープサンプル1枚当たりの厚み)を、テープ厚みとする。上記厚み測定は、0.1μmオーダーでの厚み測定が可能な公知の測定器を用いて行うことができる。
【0114】
非磁性支持体の厚みは、好ましくは3.0~5.0μmである。
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量、ヘッドギャップ長、記録信号の帯域等により最適化することができ、一般には0.01μm~0.15μmであり、高密度記録化の観点から、好ましくは0.02μm~0.12μmであり、更に好ましくは0.03μm~0.1μmである。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する二層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。二層以上に分離する場合の磁性層の厚みとは、これらの層の合計厚みとする。
非磁性層の厚みは、例えば0.1~1.5μmであり、0.1~1.0μmであることが好ましい。
バックコート層の厚みは、0.9μm以下が好ましく、0.1~0.7μmが更に好ましい。
磁性層の厚み等の各種厚みは、以下の方法により求めることができる。
磁気テープの厚み方向の断面を、イオンビームにより露出させた後、露出した断面において走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡によって断面観察を行う。断面観察において任意の2箇所において求められた厚みの算術平均として、各種厚みを求めることができる。または、各種厚みは、製造条件等から算出される設計厚みとして求めることもできる。
【0115】
<製造工程>
(各層形成用組成物の調製)
磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための組成物を調製する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程を含むことができる。個々の工程はそれぞれ二段階以上に分かれていてもかまわない。各層形成用組成物の調製に用いられる成分は、どの工程の最初または途中で添加してもかまわない。溶媒としては、塗布型磁気記録媒体の製造に通常用いられる各種溶媒の1種または2種以上を用いることができる。溶媒については、例えば特開2011-216149号公報の段落0153を参照できる。また、個々の成分を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、結合剤を混練工程、分散工程および分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。上記磁気テープを製造するためには、公知の製造技術を各種工程において用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダ等の強い混練力をもつものを使用することが好ましい。混練処理の詳細については、特開平1-106338号公報および特開平1-79274号公報を参照できる。分散機は公知のものを使用することができる。各層形成用組成物を調製する任意の段階において、公知の方法によってろ過を行ってもよい。ろ過は、例えばフィルタろ過によって行うことができる。ろ過に用いるフィルタとしては、例えば孔径0.01~3μmのフィルタ(例えばガラス繊維製フィルタ、ポリプロピレン製フィルタ等)を用いることができる。
【0116】
(塗布工程)
磁性層は、磁性層形成用組成物を、非磁性支持体表面上に直接塗布するか、または非磁性層形成用組成物と逐次もしくは同時に重層塗布することにより形成することができる。バックコート層は、バックコート層形成用組成物を、非磁性支持体の非磁性層および/または磁性層を有する(または非磁性層および/または磁性層が追って設けられる)表面とは反対側の表面に塗布することにより形成することができる。各層形成のための塗布の詳細については、特開2010-231843号公報の段落0066を参照できる。
【0117】
(その他の工程)
磁気テープの製造のためのその他の各種工程については、公知技術を適用できる。各種工程については、例えば特開2010-231843号公報の段落0067~0070を参照できる。例えば、磁性層形成用組成物の塗布層には、この塗布層が湿潤状態にあるうちに、配向ゾーンにおいて配向処理を行うことができる。配向処理については、特開2010-24113号公報の段落0052の記載をはじめとする各種公知技術を適用することができる。例えば、垂直配向処理は、異極対向磁石を用いる方法等の公知の方法によって行うことができる。配向ゾーンでは、乾燥風の温度、風量および/または配向ゾーンにおける搬送速度によって塗布層の乾燥速度を制御することができる。また、配向ゾーンに搬送する前に塗布層を予備乾燥させてもよい。
各種工程を経ることによって、長尺状の磁気テープ原反を得ることができる。得られた磁気テープ原反は、公知の裁断機によって、磁気テープカートリッジに巻装すべき磁気テープの幅に裁断(スリット)される。上記の幅は規格にしたがい決定され、通常、1/2インチである。1/2インチ=12.65mmである。
スリットして得られた磁気テープには、通常、サーボパターンが形成される。サーボパターンについて、詳細は後述する。
【0118】
(熱処理)
一形態では、上記磁気テープは、以下のような熱処理を経て製造された磁気テープであることができる。また、他の一形態では、以下のような熱処理を経ずに製造された磁気テープであることができる。
【0119】
熱処理としては、スリットして規格にしたがい決定された幅に裁断された磁気テープを、芯状部材に巻き付け、巻き付けた状態で行う熱処理を行うことができる。
【0120】
一形態では、熱処理用の芯状部材(以下、「熱処理用巻芯」と呼ぶ。)に磁気テープを巻き付けた状態で上記熱処理を行い、熱処理後の磁気テープを磁気テープカートリッジのカートリッジリールに巻取り、磁気テープがカートリッジリールに巻装された磁気テープカートリッジを作製することができる。
熱処理用巻芯は、金属製、樹脂製、紙製等であることができる。熱処理用巻芯の材料は、スポーキング等の巻き故障の発生を抑制する観点から、剛性が高い材料であることが好ましい。この点から、熱処理用巻芯は、金属製または樹脂製であることが好ましい。また、剛性の指標として、熱処理用巻芯の材料の曲げ弾性率は0.2GPa(ギガパスカル)以上が好ましく、0.3GPa以上がより好ましい。他方、高剛性の材料は一般に高価であるため、巻き故障の発生を抑制できる剛性を超える剛性を有する材料の熱処理用巻芯を用いることはコスト増につながる。以上の点を考慮すると、熱処理用巻芯の材料の曲げ弾性率は250GPa以下が好ましい。曲げ弾性率は、ISO(International Organization for Standardization)178にしたがい測定される値であり、各種材料の曲げ弾性率は公知である。また、熱処理用巻芯は中実または中空の芯状部材であることができる。中空状の場合、剛性を維持する観点から、肉厚は2mm以上であることが好ましい。また、熱処理用巻芯は、フランジを有していてもよく、有さなくてもよい。
熱処理用巻芯に巻き付ける磁気テープとして最終的に磁気テープカートリッジに収容する長さ(以下、「最終製品長」と呼ぶ。)以上の磁気テープを準備し、この磁気テープを熱処理用巻芯に巻き付けた状態で熱処理環境下に置くことにより熱処理を行うことが好ましい。熱処理用巻芯に巻き付ける磁気テープ長は最終製品長以上であり、熱処理用巻芯等への巻取りの容易性の観点からは、「最終製品長+α」とすることが好ましい。このαは、上記の巻取りの容易性の観点からは5m以上であることが好ましい。熱処理用巻芯への巻取り時のテンションは、0.1N以上が好ましい。また、製造時に過度な変形が発生することを抑制する観点から、熱処理用巻芯への巻取り時のテンションは1.5N以下が好ましく、1.0N以下がより好ましい。熱処理用巻芯の外径は、巻き付けの容易性およびコイリング(長手方向のカール)の抑制の観点から、20mm以上が好ましく、40mm以上がより好ましい。また、熱処理用巻芯の外径は100mm以下が好ましく、90mm以下がより好ましい。熱処理用巻芯の幅は、この巻芯に巻き付ける磁気テープの幅以上であればよい。また、熱処理後、熱処理用巻芯から磁気テープを取り外す際には、取り外す操作中に意図しないテープ変形が生じることを抑制するために、磁気テープおよび熱処理用巻芯が十分冷却された後に磁気テープを熱処理用巻芯から取り外すことが好ましい。取り外した磁気テープは、一度別の巻芯(「一時巻取り用巻芯」と呼ぶ。)に巻取り、その後、一時巻取り用巻芯から磁気テープカートリッジのカートリッジリール(一般に外径は40~50mm程度)へ磁気テープを巻取ることが好ましい。これにより、熱処理時の磁気テープの熱処理用巻芯に対する内側と外側との関係を維持して、磁気テープカートリッジのカートリッジリールへ磁気テープを巻取ることができる。一時巻取り用巻芯の詳細およびこの巻芯へ磁気テープを巻取る際のテンションについては、熱処理用巻芯に関する先の記載を参照できる。上記熱処理を「最終製品長+α」の長さの磁気テープに施す形態においては、任意の段階で、「+α」の長さ分を切り取ればよい。例えば、一形態では、一時巻取り用巻芯から磁気テープカートリッジのリールへ最終製品長分の磁気テープを巻取り、残りの「+α」の長さ分を切り取ればよい。切り取って廃棄される部分を少なくする観点からは、上記αは20m以下であることが好ましい。
【0121】
上記のように芯状部材に巻き付けた状態で行われる熱処理の具体的形態について、以下に説明する。
熱処理を行う雰囲気温度(以下、「熱処理温度」と呼ぶ。)は、40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましい。一方、過度な変形を抑制する観点からは、熱処理温度は75℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、65℃以下が更に好ましい。
熱処理を行う雰囲気の重量絶対湿度は、0.1g/kg Dry air以上が好ましく、1g/kg Dry air以上がより好ましい。重量絶対湿度が上記範囲の雰囲気は、水分を低減するための特殊な装置を用いずに準備できるため好ましい。一方、重量絶対湿度は、結露が生じて作業性が低下することを抑制する観点からは、70g/kg Dry air以下が好ましく、66g/kg Dry air以下がより好ましい。熱処理時間は、0.3時間以上が好ましく、0.5時間以上がより好ましい。また、熱処理時間は、生産効率の観点からは、48時間以下が好ましい。
【0122】
(サーボパターン)
「サーボパターンの形成」は、「サーボ信号の記録」ということもできる。サーボ信号を利用して走行中の磁気テープの幅方向の寸法情報を取得し、取得された寸法情報に応じて磁気テープの長手方向にかかるテンションを調整して変化させることによって、磁気テープの幅方向の寸法を制御することができる。
【0123】
以下に、サーボパターンの形成について説明する。
【0124】
サーボパターンは、通常、磁気テープの長手方向に沿って形成される。サーボ信号を利用する制御(サーボ制御)の方式としては、タイミングベースサーボ(TBS)、アンプリチュードサーボ、周波数サーボ等が挙げられる。
【0125】
ECMA(European Computer Manufacturers Association)―319(June 2001)に示される通り、LTO(Linear Tape-Open)規格に準拠した磁気テープ(一般に「LTOテープ」と呼ばれる。)では、タイミングベースサーボ方式が採用されている。このタイミングベースサーボ方式において、サーボパターンは、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(「サーボストライプ」とも呼ばれる。)が、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置されることによって構成されている。サーボシステムとは、サーボ信号を利用してヘッドトラッキングを行うシステムである。本発明および本明細書において、「タイミングベースサーボパターン」とは、タイミングベースサーボ方式のサーボシステムにおけるヘッドトラッキングを可能とするサーボパターンをいう。上記のように、サーボパターンが互いに非平行な一対の磁気ストライプにより構成される理由は、サーボパターン上を通過するサーボ信号読み取り素子に、その通過位置を教えるためである。具体的には、上記の一対の磁気ストライプは、その間隔が磁気テープの幅方向に沿って連続的に変化するように形成されており、サーボ信号読み取り素子がその間隔を読み取ることによって、サーボパターンとサーボ信号読み取り素子との相対位置を知ることができる。この相対位置の情報が、データトラックのトラッキングを可能にする。そのために、サーボパターン上には、通常、磁気テープの幅方向に沿って、複数のサーボトラックが設定されている。
【0126】
サーボバンドは、磁気テープの長手方向に連続するサーボパターンにより構成される。このサーボバンドは、通常、磁気テープに複数本設けられる。例えば、LTOテープにおいて、その数は5本である。隣接する2本のサーボバンドに挟まれた領域が、データバンドである。データバンドは、複数のデータトラックで構成されており、各データトラックは、各サーボトラックに対応している。
【0127】
また、一形態では、特開2004-318983号公報に示されているように、各サーボバンドには、サーボバンドの番号を示す情報(「サーボバンドID(identification)」または「UDIM(Unique DataBand Identification Method)情報」とも呼ばれる。)が埋め込まれている。このサーボバンドIDは、サーボバンド中に複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のものを、その位置が磁気テープの長手方向に相対的に変位するように、ずらすことによって記録されている。具体的には、複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のもののずらし方を、サーボバンド毎に変えている。これにより、記録されたサーボバンドIDはサーボバンド毎にユニークなものとなるため、一つのサーボバンドをサーボ信号読み取り素子で読み取るだけで、そのサーボバンドを一意に(uniquely)特定することができる。
【0128】
尚、サーボバンドを一意に特定する方法には、ECMA―319(June 2001)に示されているようなスタッガード方式を用いたものもある。このスタッガード方式では、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置された、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(サーボストライプ)の群を、サーボバンド毎に磁気テープの長手方向にずらすように記録する。隣接するサーボバンド間における、このずらし方の組み合わせは、磁気テープ全体においてユニークなものとされているため、2つのサーボ信号読み取り素子によりサーボパターンを読み取る際に、サーボバンドを一意に特定することも可能となっている。
【0129】
また、各サーボバンドには、ECMA―319(June 2001)に示されている通り、通常、磁気テープの長手方向の位置を示す情報(「LPOS(Longitudinal Position)情報」とも呼ばれる。)も埋め込まれている。このLPOS情報も、UDIM情報と同様に、一対のサーボストライプの位置を、磁気テープの長手方向にずらすことによって記録されている。ただし、UDIM情報とは異なり、このLPOS情報では、各サーボバンドに同じ信号が記録されている。
【0130】
上記のUDIM情報およびLPOS情報とは異なる他の情報を、サーボバンドに埋め込むことも可能である。この場合、埋め込まれる情報は、UDIM情報のようにサーボバンド毎に異なるものであってもよいし、LPOS情報のようにすべてのサーボバンドに共通のものであってもよい。
また、サーボバンドに情報を埋め込む方法としては、上記以外の方法を採用することも可能である。例えば、一対のサーボストライプの群の中から、所定の対を間引くことによって、所定のコードを記録するようにしてもよい。
【0131】
サーボパターン形成用ヘッドは、サーボライトヘッドと呼ばれる。サーボライトヘッドは、通常、上記一対の磁気ストライプに対応した一対のギャップを、サーボバンドの数だけ有する。通常、各一対のギャップには、それぞれコアとコイルが接続されており、コイルに電流パルスを供給することによって、コアに発生した磁界が、一対のギャップに漏れ磁界を生じさせることができる。サーボパターンの形成の際には、サーボライトヘッド上に磁気テープを走行させながら電流パルスを入力することによって、一対のギャップに対応した磁気パターンを磁気テープに転写させて、サーボパターンを形成することができる。各ギャップの幅は、形成されるサーボパターンの密度に応じて適宜設定することができる。各ギャップの幅は、例えば、1μm以下、1~10μm、10μm以上等に設定可能である。
【0132】
磁気テープにサーボパターンを形成する前には、磁気テープに対して、通常、消磁(イレース)処理が施される。このイレース処理は、直流磁石または交流磁石を用いて、磁気テープに一様な磁界を加えることによって行うことができる。イレース処理には、DC(Direct Current)イレースとAC(Alternating Current)イレースとがある。ACイレースは、磁気テープに印加する磁界の方向を反転させながら、その磁界の強度を徐々に下げることによって行われる。一方、DCイレースは、磁気テープに一方向の磁界を加えることによって行われる。DCイレースには、更に2つの方法がある。第一の方法は、磁気テープの長手方向に沿って一方向の磁界を加える、水平DCイレースである。第二の方法は、磁気テープの厚み方向に沿って一方向の磁界を加える、垂直DCイレースである。イレース処理は、磁気テープ全体に対して行ってもよいし、磁気テープのサーボバンド毎に行ってもよい。
【0133】
形成されるサーボパターンの磁界の向きは、イレースの向きに応じて決まる。例えば、磁気テープに水平DCイレースが施されている場合、サーボパターンの形成は、磁界の向きがイレースの向きと反対になるように行われる。これにより、サーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号の出力を、大きくすることができる。尚、特開2012-53940号公報に示されている通り、垂直DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、単極パルス形状となる。一方、水平DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、双極パルス形状となる。
【0134】
<磁気ヘッド>
本発明および本明細書において、「磁気テープ装置」とは、磁気テープへのデータの記録および磁気テープに記録されたデータの再生の少なくとも一方を行うことができる装置を意味するものとする。かかる装置は、一般にドライブと呼ばれる。上記磁気テープ装置に含まれる磁気ヘッドは、磁気テープへのデータの記録を行うことができる記録ヘッドであることができ、磁気テープに記録されたデータの再生を行うことができる再生ヘッドであることもできる。また、上記磁気テープ装置は、一形態では、別々の磁気ヘッドとして、記録ヘッドと再生ヘッドの両方を含むことができる。他の一形態では、上記磁気テープ装置に含まれる磁気ヘッドは、記録素子と再生素子の両方を1つの磁気ヘッドに備えた構成を有することもできる。再生ヘッドとしては、磁気テープに記録された情報を感度よく読み取ることができる磁気抵抗効果型(MR;Magnetoresistive)素子を再生素子として含む磁気ヘッド(MRヘッド)が好ましい。MRヘッドとしては、公知の各種MRヘッド(例えば、GMR(Giant Magnetoresistive)ヘッド、TMR(Tunnel Magnetoresistive)ヘッド等)を用いることができる。また、データの記録および/またはデータの再生を行う磁気ヘッドには、サーボパターン読み取り素子が含まれていてもよい。または、データの記録および/またはデータの再生を行う磁気ヘッドとは別のヘッドとして、サーボパターン読み取り素子を備えた磁気ヘッド(サーボヘッド)が上記磁気テープ装置に含まれていてもよい。例えば、データの記録および/または記録されたデータの再生を行う磁気ヘッド(以下、「記録再生ヘッド」とも呼ぶ。)は、サーボ信号読み取り素子を2つ含むことができ、2つのサーボ信号読み取り素子のそれぞれが、データバンドを挟んで隣り合う2本のサーボバンドを同時に読み取ることができる。2つのサーボ信号読み取り素子の間に、1つまたは複数のデータ用素子を配置することができる。データの記録のための素子(記録素子)とデータの再生のための素子(再生素子)を、「データ用素子」と総称する。
【0135】
再生素子として再生素子幅が狭い再生素子を使用してデータの再生を行うことにより、高密度記録されたデータを高感度に再生することができる。この観点から、再生素子の再生素子幅は、0.8μm以下であることが好ましい。再生素子の再生素子幅は、例えば0.3μm以上であることができる。ただし、この値を下回ることも上記観点からは好ましい。
他方、再生素子幅が狭くなるほど、オフトラックに起因する再生不良等の現象が発生し易くなる。このような現象の発生を抑制するために、走行中、磁気テープの長手方向にかけるテンションを調整して変化させることによって、磁気テープの幅方向の寸法を制御する磁気テープ装置は好ましい。
ここで「再生素子幅」とは、再生素子幅の物理的な寸法をいうものとする。かかる物理的な寸法は、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡等により測定が可能である。
【0136】
データの記録および/または記録されたデータの再生の際には、まず、サーボ信号を利用したヘッドトラッキングを行うことができる。即ち、サーボ信号読み取り素子を所定のサーボトラックに追従させることによって、データ用素子が、目的とするデータトラック上を通過するように制御することができる。データトラックの移動は、サーボ信号読み取り素子が読み取るサーボトラックを、テープ幅方向に変更することにより行われる。
また、記録再生ヘッドは、他のデータバンドに対する記録および/または再生を行うことも可能である。その際には、先に記載したUDIM情報を利用してサーボ信号読み取り素子を所定のサーボバンドに移動させ、そのサーボバンドに対するトラッキングを開始すればよい。
【0137】
図2に、データバンドおよびサーボバンドの配置例を示す。
図2中、磁気テープMTの磁性層には、複数のサーボバンド1が、ガイドバンド3に挟まれて配置されている。2本のサーボバンドに挟まれた複数の領域2が、データバンドである。サーボパターンは、磁化領域であって、サーボライトヘッドにより磁性層の特定の領域を磁化することによって形成される。サーボライトヘッドにより磁化する領域(サーボパターンを形成する位置)は規格により定められている。例えば業界標準規格であるLTO Ultriumフォーマットテープには、磁気テープ製造時に、
図3に示すようにテープ幅方向に対して傾斜した複数のサーボパターンが、サーボバンド上に形成される。詳しくは、
図3中、サーボバンド1上のサーボフレームSFは、サーボサブフレーム1(SSF1)およびサーボサブフレーム2(SSF2)から構成される。サーボサブフレーム1は、Aバースト(
図3中、符号A)およびBバースト(
図3中、符号B)から構成される。AバーストはサーボパターンA1~A5から構成され、BバーストはサーボパターンB1~B5から構成される。一方、サーボサブフレーム2は、Cバースト(
図3中、符号C)およびDバースト(
図3中、符号D)から構成される。CバーストはサーボパターンC1~C4から構成され、DバーストはサーボパターンD1~D4から構成される。このような18本のサーボパターンが5本と4本のセットで、5、5、4、4、の配列で並べられたサブフレームに配置され、サーボフレームを識別するために用いられる。
図3には、説明のために1つのサーボフレームを示した。ただし、実際には、タイミングベースサーボ方式のヘッドトラッキングが行われる磁気テープの磁性層には、各サーボバンドに、複数のサーボフレームが走行方向に配置されている。
図3中、矢印は走行方向を示している。例えば、LTO Ultriumフォーマットテープは、通常、磁性層の各サーボバンドに、テープ長1mあたり5000以上のサーボフレームを有する。
【実施例】
【0138】
以下に、本発明の一形態を実施例に基づき説明する。ただし、本発明は実施例に示す形態に限定されるものではない。以下に記載の「部」、「%」の表示は、特に断らない限り、「質量部」、「質量%」を示す。「eq」は、当量(equivalent)であり、SI単位に換算不可の単位である。
また、以下の各種工程および操作は、特記しない限り、温度20~25℃および相対湿度40~60%の環境において行った。
【0139】
[非磁性支持体]
後述の表1中、「PEN」はポリエチレンナフタレート支持体を示し、「PET」はポリエチレンテレフタレート支持体を示す。
【0140】
[強磁性粉末]
表1中、強磁性粉末の種類の欄における「BaFe」は、平均粒子サイズ(平均板径)21nmの六方晶バリウムフェライト粉末を示す。
【0141】
表1中、強磁性粉末の種類の欄における「SrFe1」は、以下のように作製された六方晶ストロンチウムフェライト粉末を示す。
SrCO3を1707g、H3BO3を687g、Fe2O3を1120g、Al(OH)3を45g、BaCO3を24g、CaCO3を13g、およびNd2O3を235g秤量し、ミキサーにて混合し原料混合物を得た。
得られた原料混合物を、白金ルツボで溶融温度1390℃で溶融し、融液を撹拌しつつ白金ルツボの底に設けた出湯口を加熱し、融液を約6g/秒で棒状に出湯させた。出湯液を水冷双ローラーで圧延急冷して非晶質体を作製した。
作製した非晶質体280gを電気炉に仕込み、昇温速度3.5℃/分にて635℃(結晶化温度)まで昇温し、同温度で5時間保持して六方晶ストロンチウムフェライト粒子を析出(結晶化)させた。
次いで六方晶ストロンチウムフェライト粒子を含む上記で得られた結晶化物を乳鉢で粗粉砕し、ガラス瓶に粒径1mmのジルコニアビーズ1000gと濃度1%の酢酸水溶液を800mL加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った。その後、得られた分散液をビーズと分離させステンレスビーカーに入れた。分散液を液温100℃で3時間静置させてガラス成分の溶解処理を行った後、遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、炉内温度110℃の加熱炉内で6時間乾燥させて六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の平均粒子サイズは18nm、活性化体積は902nm3、異方性定数Kuは2.2×105J/m3、質量磁化σsは49A・m2/kgであった。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって部分溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、ネオジム原子の表層部含有率を求めた。
別途、上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって全溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、ネオジム原子のバルク含有率を求めた。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の鉄原子100原子%に対するネオジム原子の含有率(バルク含有率)は、2.9原子%であった。また、ネオジム原子の表層部含有率は8.0原子%であった。表層部含有率とバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は2.8であり、ネオジム原子が粒子の表層に偏在していることが確認された。
【0142】
上記で得られた粉末が六方晶フェライトの結晶構造を示すことは、CuKα線を電圧45kVかつ強度40mAの条件で走査し、下記条件でX線回折パターンを測定すること(X線回折分析)により確認した。上記で得られた粉末は、マグネトプランバイト型(M型)の六方晶フェライトの結晶構造を示した。また、X線回折分析により検出された結晶相は、マグネトプランバイト型の単一相であった。
PANalytical X’Pert Pro回折計、PIXcel検出器
入射ビームおよび回折ビームのSollerスリット:0.017ラジアン
分散スリットの固定角:1/4度
マスク:10mm
散乱防止スリット:1/4度
測定モード:連続
1段階あたりの測定時間:3秒
測定速度:毎秒0.017度
測定ステップ:0.05度
【0143】
表1中、強磁性粉末の種類の欄における「SrFe2」は、以下のように作製された六方晶ストロンチウムフェライト粉末を示す。
SrCO3を1725g、H3BO3を666g、Fe2O3を1332g、Al(OH)3を52g、CaCO3を34g、BaCO3を141g秤量し、ミキサーにて混合し原料混合物を得た。
得られた原料混合物を、白金ルツボで溶融温度1380℃で溶解し、融液を撹拌しつつ白金ルツボの底に設けた出湯口を加熱し、融液を約6g/秒で棒状に出湯させた。出湯液を水冷双ロールで圧延急冷して非晶質体を作製した。
得られた非晶質体280gを電気炉に仕込み、645℃(結晶化温度)まで昇温し、同温度で5時間保持し六方晶ストロンチウムフェライト粒子を析出(結晶化)させた。
次いで六方晶ストロンチウムフェライト粒子を含む上記で得られた結晶化物を乳鉢で粗粉砕し、ガラス瓶に粒径1mmのジルコニアビーズ1000gと濃度1%の酢酸水溶液を800mL加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った。その後、得られた分散液をビーズと分離させステンレスビーカーに入れた。分散液を液温100℃で3時間静置させてガラス成分の溶解処理を行った後、遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、炉内温度110℃の加熱炉内で6時間乾燥させて六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の平均粒子サイズは19nm、活性化体積は1102nm3、異方性定数Kuは2.0×105J/m3、質量磁化σsは50A・m2/kgであった。
【0144】
表1中、「ε-酸化鉄」は、以下のように作製されたε-酸化鉄粉末を示す。
純水90gに、硝酸鉄(III)9水和物8.3g、硝酸ガリウム(III)8水和物1.3g、硝酸コバルト(II)6水和物190mg、硫酸チタン(IV)150mg、およびポリビニルピロリドン(PVP)1.5gを溶解させたものを、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、大気雰囲気中、雰囲気温度25℃の条件下で、濃度25%のアンモニア水溶液4.0gを添加し、雰囲気温度25℃の温度条件のまま2時間撹拌した。得られた溶液に、クエン酸1gを純水9gに溶解させて得たクエン酸水溶液を加え、1時間撹拌した。撹拌後に沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄し、炉内温度80℃の加熱炉内で乾燥させた。
乾燥させた粉末に純水800gを加えて再度粉末を水に分散させて分散液を得た。得られた分散液を液温50℃に昇温し、撹拌しながら濃度25%アンモニア水溶液を40g滴下した。50℃の温度を保ったまま1時間撹拌した後、テトラエトキシシラン(TEOS)14mLを滴下し、24時間撹拌した。得られた反応溶液に、硫酸アンモニウム50gを加え、沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄し、炉内温度80℃の加熱炉内で24時間乾燥させ、強磁性粉末の前駆体を得た。
得られた強磁性粉末の前駆体を、大気雰囲気下、炉内温度1000℃の加熱炉内に装着し、4時間の熱処理を施した。
熱処理した強磁性粉末の前駆体を、4mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中に投入し、液温を70℃に維持して24時間撹拌することにより、熱処理した強磁性粉末の前駆体から不純物であるケイ酸化合物を除去した。
その後、遠心分離処理により、ケイ酸化合物を除去した強磁性粉末を採集し、純水で洗浄を行い、強磁性粉末を得た。
得られた強磁性粉末の組成を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES;Inductively Coupled Plasma-Optical Emission Spectrometry)により確認したところ、Ga、CoおよびTi置換型ε-酸化鉄(ε-Ga0.28Co0.05Ti0.05Fe1.62O3)であった。また、先に六方晶ストロンチウムフェライト粉末SrFe1に関して記載した条件と同様の条件でX線回折分析を行い、X線回折パターンのピークから、得られた強磁性粉末が、α相およびγ相の結晶構造を含まない、ε相の単相の結晶構造(ε-酸化鉄型の結晶構造)を有することを確認した。
得られたε-酸化鉄粉末の平均粒子サイズは12nm、活性化体積は746nm3、異方性定数Kuは1.2×105J/m3、質量磁化σsは16A・m2/kgであった。
【0145】
上記の六方晶ストロンチウムフェライト粉末およびε-酸化鉄粉末の活性化体積および異方性定数Kuは、各強磁性粉末について、振動試料型磁力計(東英工業社製)を用いて、先に記載の方法により求められた値である。
また、質量磁化σsは、振動試料型磁力計(東英工業社製)を用いて磁場強度1194kA/m(15kOe)で測定された値である。
【0146】
[実施例1]
<磁気テープカートリッジの作製>
(1)アルミナ分散物の調製
アルファ化率約65%、BET(Brunauer-Emmett-Teller)比表面積20m2/gのアルミナ粉末(住友化学社製HIT-80)100.0部に対し、3.0部の2,3-ジヒドロキシナフタレン(東京化成社製)、極性基としてSO3Na基を有するポリエステルポリウレタン樹脂(東洋紡社製UR-4800(極性基量:80meq/kg))の32%溶液(溶媒はメチルエチルケトンとトルエンの混合溶媒)を31.3部、溶媒としてメチルエチルケトンとシクロヘキサノン1:1(質量比)の混合溶液570.0部を混合し、ジルコニアビーズ存在下で、ペイントシェーカーにより5時間分散させた。分散後、メッシュにより分散液とビーズとを分け、アルミナ分散物を得た。
【0147】
(2)磁性層形成用組成物処方
(磁性液)
強磁性粉末 100.0部
平均粒子サイズ(平均板径)21nmの六方晶バリウムフェライト粉末(表1中、「BaFe」)
磁性層分散剤 表1参照
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂 14.0部
重量平均分子量:70,000、SO3Na基:0.2meq/g
シクロヘキサノン 150.0部
メチルエチルケトン 150.0部
(研磨剤液)
上記(1)で調製したアルミナ分散物 6.0部
(シリカゾル(突起形成剤液))
コロイダルシリカ(平均粒子サイズ:120nm) 2.0部
メチルエチルケトン 1.4部
(その他の成分)
ステアリン酸 2.0部
ステアリン酸アミド 0.2部
ブチルステアレート 2.0部
ポリイソシアネート(東ソー社製コロネート(登録商標)L) 2.5部
(仕上げ添加溶媒)
シクロヘキサノン 200.0部
メチルエチルケトン 200.0部
【0148】
上記分散剤は、特開2019-169225号公報において、実施例1の磁性層形成用組成物の成分として記載されている化合物(ポリアルキレンイミン鎖およびビニルポリマー鎖を有する化合物)である。磁性層形成用組成物の成分として、上記化合物の合成後に得られた反応溶液を使用した。後述の表1に示されている磁性層の分散剤の含有量は、かかる反応溶液中の上記化合物の量である。
【0149】
(3)非磁性層形成用組成物処方
非磁性無機粉末:α-酸化鉄 100.0部
平均粒子サイズ(平均長軸長):0.15μm
平均針状比:7
BET比表面積:52m2/g
カーボンブラック 20.0部
平均粒子サイズ:20nm
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂 18.0部
重量平均分子量:70,000、SO3Na基:0.2meq/g
ステアリン酸 2.0部
ステアリン酸アミド 0.2部
ブチルステアレート 2.0部
シクロヘキサノン 300.0部
メチルエチルケトン 300.0部
【0150】
(4)バックコート層形成用組成物処方
カーボンブラック 100.0部
DBP(Dibutyl phthalate)吸油量74cm3/100g
ニトロセルロース 27.0部
スルホン酸基および/またはその塩を含有するポリエステルポリウレタン樹脂
62.0部
ポリエステル樹脂 4.0部
ポリエチレンイミン(日本触媒社製、数平均分子量600) 表1参照
ステアリン酸 表1参照
アルミナ粉末(BET比表面積:17m2/g) 0.6部
メチルエチルケトン 600.0部
トルエン 600.0部
ポリイソシアネート(東ソー社製コロネートL) 15.0部
【0151】
(5)各層形成用組成物の調製
磁性層形成用組成物を、以下の方法により調製した。上記磁性液の成分をバッチ式縦型サンドミルを用いて24時間分散(ビーズ分散)することにより、磁性液を調製した。分散ビーズとしては、ビーズ径0.5mmのジルコニアビーズを使用した。上記サンドミルを用いて、調製した磁性液、上記研磨剤液ならびに他の成分(シリカゾル、その他の成分および仕上げ添加溶媒)を混合し5分間ビーズ分散した後、バッチ型超音波装置(20kHz、300W)で0.5分間処理(超音波分散)を行った。その後、0.5μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過を行い磁性層形成用組成物を調製した。
非磁性層形成用組成物を、以下の方法により調製した。潤滑剤(ステアリン酸、ステアリン酸アミドおよびブチルステアレート)を除く上記成分を、オープンニーダにより混練および希釈処理し、その後、横型ビーズミル分散機により分散処理を実施した。その後、潤滑剤(ステアリン酸、ステアリン酸アミドおよびブチルステアレート)を添加して、ディゾルバー撹拌機にて撹拌および混合処理を施して非磁性層形成用組成物を調製した。
バックコート層形成用組成物を、以下の方法により調製した。ポリイソシアネートを除く上記成分を、ディゾルバー撹拌機に導入し、周速10m/秒で30分間撹拌した後、横型ビーズミル分散機により分散処理を実施した。その後、ポリイソシアネートを添加して、ディゾルバー撹拌機にて撹拌および混合処理を施し、バックコート層形成用組成物を調製した。
【0152】
(6)磁気テープおよび磁気テープカートリッジの作製方法
表1に記載の種類および厚みの二軸延伸された支持体の表面上に、乾燥後の厚みが表1に記載の値となるように上記(5)で調製した非磁性層形成用組成物を塗布および乾燥させて非磁性層を形成した。次いで、非磁性層上に乾燥後の厚みが表1に記載の値となるように上記(5)で調製した磁性層形成用組成物を塗布して塗布層を形成した。その後に、磁性層形成用組成物の塗布層が湿潤状態にあるうちに、磁場強度0.3Tの磁場を塗布層の表面に対し垂直方向に印加して垂直配向処理を行った後、乾燥させ、磁性層を形成した。その後、支持体の非磁性層および磁性層を形成した表面とは反対側の表面に、乾燥後の厚みが表1に記載の厚みとなるように上記(5)で調製したバックコート層形成用組成物を塗布および乾燥させてバックコート層を形成した。
その後、金属ロールのみから構成されるカレンダロールを用いて、速度100m/分、線圧300kg/cm、および90℃のカレンダ温度(カレンダロールの表面温度)にて、表面平滑化処理(カレンダ処理)を行った。
その後、長尺状の磁気テープ原反を雰囲気温度70℃の熱処理炉内に保管することにより熱処理を行った(熱処理時間:36時間)。熱処理後、1/2インチ幅にスリットして、磁気テープを得た。得られた磁気テープの磁性層に市販のサーボライターによってサーボ信号を記録することにより、LTO(Linear Tape-Open) Ultriumフォーマットにしたがう配置でデータバンド、サーボバンド、およびガイドバンドを有し、かつサーボバンド上にLTO Ultriumフォーマットにしたがう配置および形状のサーボパターン(タイミングベースサーボパターン)を有する磁気テープを得た。こうして形成されたサーボパターンは、JIS(Japanese Industrial Standards) X6175:2006およびStandard ECMA-319(June 2001)の記載にしたがうサーボパターンである。
上記サーボ信号記録後の磁気テープ(長さ960m)を熱処理用巻芯に巻取り、この巻芯に巻き付けた状態で熱処理した。熱処理用巻芯としては、曲げ弾性率0.8GPaの樹脂製の中実状の芯状部材(外径:50mm)を使用し、巻取り時のテンションは0.6Nとした。熱処理は、熱処理温度55℃で5時間行った。熱処理を行った雰囲気の重量絶対湿度は、10g/kg Dry airであった。
上記熱処理後、磁気テープおよび熱処理用巻芯が十分冷却された後に磁気テープを熱処理用巻芯から取り外し、一時巻取り用巻芯に巻取り、その後、一時巻取り用巻芯から磁気テープカートリッジ(LTO Ultrium7データカートリッジ)のリール(リール外径:44mm)へ最終製品長さ分(950m)の磁気テープを巻取り、残り10m分は切り取り、切り取り側の末端に、市販のスプライシングテープによって、Standard ECMA(European Computer Manufacturers Association)-319(June 2001) Section 3の項目9にしたがうリーダーテープを接合させた。一時巻取り用巻芯としては、熱処理用巻芯と同じ材料製で同じ外径を有する中実状の芯状部材を使用し、巻取り時のテンションは0.6Nとした。
以上により、長さ950mの磁気テープがリールに巻装された単リール型の実施例1の磁気テープカートリッジを作製した。
【0153】
以上の工程を繰り返し、3つの磁気テープカートリッジを作製した。3つの磁気テープカートリッジの中で、1つの磁気テープカートリッジは下記(7)~(9)のために使用し、他の1つの磁気テープカートリッジは下記(10)のために使用し、もう1つの磁気テープカートリッジは下記(11)のために使用した。
【0154】
磁気テープのバックコート層にポリエチレンイミンとステアリン酸により形成された、式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を含む化合物が含まれることは、以下の方法により確認できる。
磁気テープからサンプルを切り出し、バックコート層表面(測定領域:300μm×700μm)においてESCA装置を用いてX線光電子分光分析を行う。詳しくは、下記測定条件でESCA装置によりワイドスキャン測定を行う。測定結果では、エステルアニオンの結合エネルギーの位置およびアンモニウムカチオンの結合エネルギーの位置にピークが確認される。
装置:島津製作所製AXIS-ULTRA
励起X線源:単色化Al-Kα線
スキャン範囲:0~1200eV
パスエネルギー:160eV
エネルギー分解能 1eV/step
取り込み時間:100ms/step
積算回数:5
また、磁気テープから長さ3cmのサンプル片を切り出し、バックコート層表面のATR-FT-IR(Attenuated total reflection-fourier transform-infrared spectrometer)測定(反射法)を行い、測定結果において、COO-の吸収に対応する波数(1540cm-1または1430cm-1)、およびアンモニウムカチオンの吸収に対応する波数(2400cm-1)に吸収が確認される。
【0155】
(7)保管前の磁気テープへのデータの記録および記録されたデータの再生
保管前の記録および再生を、
図1に示した構成の磁気テープ装置を用いて行った。記録再生ヘッドユニットに搭載された記録再生ヘッドは、再生素子(再生素子幅:0.8μm)および記録素子を32チャンネル以上有し、その両側にサーボ信号読み取り再生素子を有する。
記録および再生を行う環境に馴染ませるために、磁気テープカートリッジを雰囲気温度23℃相対湿度50%の環境に5日間置いた。その後、同環境において、以下のように記録および再生を行った。
磁気テープ装置に磁気テープカートリッジをセットし、磁気テープをローディングする。次にサーボトラッキングを行いながら記録再生ヘッドユニットにより磁気テープに特定のデータパターンを有する疑似ランダムデータの記録を行う。その際のテープ長手方向にかけるテンションは0.50Nの一定値とする。データの記録と同時に、テープ全長のサーボバンド間隔の値を長手位置の1m毎に測定し、カートリッジメモリに記録する。
次に、サーボトラッキングを行いながら記録再生ヘッドユニットにより磁気テープに記録されたデータの再生を行う。その際、再生と同時にサーボバンド間隔の値を測定し、カートリッジメモリに記録された情報に基づき、同じ長手位置における記録時のサーボバンド間隔との差分の絶対値が0に近づくように、テープ長手方向にかけるテンションを変化させる。再生時は、サーボバンド間隔の測定とそれに基づいたテンション制御がリアルタイムに連続して行われる。かかる再生時、磁気テープ装置の制御装置によって、磁気テープの長手方向にかけるテンションを0.50N~0.85Nの範囲で変化させた。したがって、上記再生時、磁気テープの長手方向にかけたテンションの最大値は0.85Nである。
上記再生の終了時、磁気テープの全長は磁気テープカートリッジのカートリッジリールに巻取られていた。
【0156】
(8)カートリッジリールへの巻返し(保管前巻返し)および保管
引き続き上記環境において、上記磁気テープ装置内で、磁気テープを走行させて磁気テープ全長を磁気テープ装置の巻取りリールに巻取った。この巻取り時に磁気テープの長手方向にかけるテンションは0.50Nの一定値とした。
その後、磁気テープの長手方向に0.30Nの一定値でテンションをかけて、磁気テープ全長をカートリッジリールに巻取った(「保管前巻返し」とも記載する。)。
上記保管前巻返し後、磁気テープを収容した磁気テープカートリッジを、雰囲気温度60℃相対湿度20%の環境に72時間保管した。
【0157】
(9)保管後の記録再生品質の評価
上記保管後、再生を行う環境に馴染ませるために、磁気テープカートリッジを雰囲気温度23℃相対湿度50%の環境に5日間置いた。その後、同環境において、上記(7)の保管前の再生と同様に再生を行った。即ち、磁気テープの長手方向にかけるテンションを先に記載したように変化させて再生を行った。
上記再生におけるチャンネル数は32チャンネルであり、保管後の再生において、32チャンネルすべてのデータが正しく読み取られた場合に記録再生品質「3」と評価し、31~28チャンネルのデータが正しく読み取られた場合に記録再生品質「2」と評価し、それ以外の場合を記録再生品質「1」と評価した。
【0158】
(10)巻ずれ発生最小荷重
先に記載した方法によって磁気テープの巻ずれ発生最小荷重を求めた。上フランジおよび下フランジの除去には、超音波カッターを使用した。荷重の印加は、プレート全面に一様の荷重が加わるように、押圧装置によりプレートを押圧することによって行った。
【0159】
(11)テープ厚み
磁気テープカートリッジから取り出した磁気テープの任意の部分からテープサンプル(長さ5cm)を10枚切り出し、これらテープサンプルを重ねて厚みを測定した。厚みの測定は、MARH社製Millimar 1240コンパクトアンプとMillimar 1301誘導プローブのデジタル厚み計を用いて行った。測定された厚みを10分の1して得られた値(テープサンプル1枚当たりの厚み)を、テープ厚みとした。
【0160】
[実施例2~24、比較例1~18]
表1中の項目を表1に示されているように変更した点以外、実施例1と同様に磁気テープカートリッジの作製および各種評価を行った。
【0161】
表1中、「走行中のテンション変化」の欄に「あり」と記載されている実施例および比較例では、実施例1と同様の最小値~最大値の範囲内で磁気テープの長手方向にかけるテンションを変化させて保管前の再生を行った。
表1中、「走行中のテンション変化」の欄に「なし」と記載されている実施例では、0.50Nの一定値で磁気テープの長手方向にテンションをかけて保管前の再生を行った。
【0162】
表1中、「保管前巻返しテンション」の欄にテンションの値が記載されている実施例および比較例については、上記(8)のカートリッジリールへの巻返し(保管前巻返し)時に磁気テープの長手方向にかけるテンションを、表1に示す値とした。
表1中、「保管前巻返しテンション」の欄に「巻返しなし」と記載されている比較例については、上記(7)の再生後、巻返しを行うことなく、磁気テープを収容した磁気テープカートリッジを雰囲気温度60℃相対湿度20%の環境に72時間保管した。
【0163】
実施例および比較例において、それぞれ、保管後の再生は、保管前の再生と同様に行った。即ち、保管後の再生時、磁気テープの長手方向にかけるテンションおよびテンション変化の有無は保管前の再生と同様とした。
【0164】
以上の結果を、表1(表1-1~表1-4)に示す。
【0165】
【0166】
【0167】
【0168】
【0169】
表1に示す結果から、実施例において、保管後に良好な記録再生品質を得ることができたことが確認できる。
【0170】
磁気テープ作製時に垂直配向処理を行わなかった点以外、実施例1と同様の方法で磁気テープカートリッジを作製した。
上記磁気テープカートリッジから取り出した磁気テープからサンプル片を切り出した。このサンプル片について、振動試料型磁力計として玉川製作所製TM-TRVSM5050-SMSL型を用いて、先に記載した方法によって垂直方向角型比を求めたところ、0.55であった。
実施例1の磁気テープカートリッジからも磁気テープを取り出し、この磁気テープから切り出したサンプル片について同様に垂直方向角型比を求めたところ、0.60であった。
【0171】
上記2つの磁気テープカートリッジから取り出した磁気テープを、それぞれ1/2インチリールテスターに取り付け、以下の方法によって電磁変換特性(SNR;Signal-to-Noise Ratio)を評価した。その結果、実施例1の磁気テープカートリッジから取り出した磁気テープについて、垂直配向処理なしで作製された上記磁気テープと比べて、2dB高いSNRの値が得られた。
温度23℃相対湿度50%の環境において、磁気テープの長手方向に0.7Nのテンションをかけて記録および再生を10パス行った。磁気テープと磁気ヘッドとの相対速度は6m/秒とし、記録は、記録ヘッドとしてMIG(Metal-in-gap)ヘッド(ギャップ長0.15μm、トラック幅1.0μm)を使用し、記録電流を各磁気テープの最適記録電流に設定して行った。再生は、再生ヘッドとしてGMR(Giant-magnetoresistive)ヘッド(素子厚み15nm、シールド間隔0.1μm、再生素子幅0.8μm)を使用して行った。線記録密度300kfciの信号を記録し、再生信号をシバソク社製のスペクトラムアナライザーで測定した。単位kfciとは、線記録密度の単位(SI単位系に換算不可)である。信号としては、磁気テープ走行開始後に信号が十分に安定した部分を使用した。
【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明の一態様は、アーカイブ等の各種データストレージの技術分野において有用である。