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特許7565807メッキ処理用樹脂部材およびその製造方法
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  • 特許-メッキ処理用樹脂部材およびその製造方法 図1
  • 特許-メッキ処理用樹脂部材およびその製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】メッキ処理用樹脂部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/02 20060101AFI20241004BHJP
   C23C 28/02 20060101ALI20241004BHJP
   B23K 26/364 20140101ALI20241004BHJP
   C23C 14/14 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C23C14/02 A
C23C28/02
B23K26/364
C23C14/14 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021008134
(22)【出願日】2021-01-21
(65)【公開番号】P2022112335
(43)【公開日】2022-08-02
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】香村 友美
(72)【発明者】
【氏名】草谷 光晴
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-132131(JP,A)
【文献】特開2005-007738(JP,A)
【文献】特開平02-150344(JP,A)
【文献】特開2015-091642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/02
C23C 28/02
B23K 26/364
C23C 14/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムメッキ処理用の樹脂部材であって、該樹脂部材はメッキ処理する面に深さ1~15μmの複数の溝を有し、該複数の溝の間隔bが10~500μmであり、該溝は開口部周辺に5~30μmの高さaを有するバリを有し、該バリの高さaは該複数の溝の間隔bと下記式(1)の関係を有し、
式(1) b≦35a-24
前記樹脂部材が、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド及び液晶ポリマーからなる群より選ばれる何れかの樹脂により形成されている、樹脂部材。
【請求項2】
前記溝の開口部の幅cが50~200μmである請求項1に記載の樹脂部材。
【請求項3】
樹脂部材にアルミニウムメッキしたメッキ処理樹脂部材を製造する方法であって、該製造方法が、該樹脂部材のメッキ処理する表面に、深さ1~15μmの複数の溝であって、該複数の溝の間隔bが10~500μmであり、該溝が開口部周辺に5~30μmの高さaのバリを有し、該バリの高さaが該複数の溝の間隔bと下記式(1)の関係を有する溝をレーザー光の照射により形成する工程を有し、
式(1) b≦35a-24
前記樹脂部材が、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド及び液晶ポリマーからなる群より選ばれる何れかの樹脂により形成されている、メッキ処理樹脂部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メッキ処理用樹脂部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、樹脂部材に金属をメッキする用途が増加しており、そのメッキと樹脂部材との密着性の要求が厳しくなっている。例えば、スマホ等の携帯機器では、樹脂部材にメッキにより直接電極を形成し軽量化を図ることや(特許文献1)、メッキした樹脂部材が電磁シールドとして使用されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-184090号公報
【文献】特開2020-195105号公報
【文献】特開2019-131839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの携帯機器は、多様な取り扱い方がされることから、樹脂部材からメッキがはがれることがあり、これが携帯機器の直接の故障原因となることがあった。メッキ処理の前に樹脂部材のメッキする表面をレーザーで粗化したのち薬剤で処理すること等が行われていたが、それだけでは十分ではなかった(特許文献3)。
【0005】
本発明は、密着性のよいメッキを施すための樹脂部材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的は、下記によって達成された。
【0007】
1. アルミニウムメッキ処理用の樹脂部材であって、該樹脂部材はメッキ処理する面に深さ1~15μmの複数の溝を有し、該複数の溝の間隔bが10~500μmであり、該溝は開口部周辺に5~30μmの高さaを有するバリを有し、該バリの高さaは該複数の溝の間隔bと下記式(1)の関係を有し、
式(1) b≦35a-24
前記樹脂部材が、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド及び液晶ポリマーからなる群より選ばれる何れかの樹脂により形成されている、樹脂部材。
2.記溝の開口部の幅cが50~200μmである前記1に記載の樹脂部材。
. 樹脂部材にアルミニウムメッキしたメッキ処理樹脂部材を製造する方法であって、該製造方法が、該樹脂部材のメッキ処理する表面に、深さ1~15μmの複数の溝であって、該複数の溝の間隔bが10~500μmであり、該溝が開口部周辺に5~30μmの高さaのバリを有し、該バリの高さaが該複数の溝の間隔bと下記式(1)の関係を有する溝をレーザー光の照射により形成する工程を有し、
式(1) b≦35a-24
前記樹脂部材が、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド及び液晶ポリマーからなる群より選ばれる何れかの樹脂により形成されている、メッキ処理樹脂部材の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、密着性のよいメッキを施すための樹脂部材およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の複数の溝を示す断面概略図である。
図2】本発明の式(1)を算出した実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に述べる。
【0011】
<樹脂部材>
本発明の樹脂部材は、メッキ処理用の樹脂部材であって、該樹脂部材はメッキ処理する面に深さ1~15μmの複数の溝を有し、該溝は開口部周辺に5μm以上の高さaを有するバリを有し、該バリの高さaは該複数の溝の間隔bと下記式(1)の関係を有することを特徴とする。
式(1) b≦35a-24
【0012】
<樹脂>
本発明の樹脂部材を形成する樹脂としては、メッキすることができるものであれば特に限定はない。例えばポリエチレンテレフタレート(PET),ポリブチレンテレフタレート(PBT)、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド、ポリアセタール(POM)、ABS樹脂、環状ポリオレフィン(COC)等の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0013】
これらの樹脂は、ガラスフィラーやミネラルフィラー等の無機フィラーを含有してもよい。また、これらの樹脂は、単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい
【0014】
<溝>
本発明の樹脂部材のメッキ処理する面には、深さ1~15μmの溝を複数有する。図1の断面概略図を使用して説明する。
【0015】
本発明の樹脂部材のメッキ処理する面には、深さ1~15μmの複数の溝が形成されている。図1中のaは、溝の開口部周辺に形成された樹脂部材の平坦部からのバリの高さを示す。bは、複数の溝の間隔を、cは、溝の幅を、dは複数の溝のピッチを各々示す。
【0016】
溝の開口部周辺とは、溝開口部から平坦部に向けて30μm程度の範囲を示す。バリの高さaは溝開口部から平坦部に向けて30μm程度の範囲の中で最も高い位置を示す。バリは溝の開口部の周囲全てに形成されていなくても良いが、少なくとも開口部の周囲の60%以上、より好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上の部分に形成されることで良好なメッキ密着性が得られる。
【0017】
バリの高さaは5μm以上であり、5~30μmであることが好ましく、5~20μmがさらに好ましい。複数の溝は、間隔b毎に形成されており、溝の数はメッキ処理する面積によって適宜定められる。間隔bはメッキ処理する面においてすべて同じでなくてもよい。バリの高さaが30μmを超えると、外観不良に加え、バリ側面のメッキの定着不良などで電磁波シールド性が低下することがある。
【0018】
複数の溝は両端が繋がった溝を等高線のように並べて設けても良いし、交差しない縞状に形成されても、溝が交差する格子状に形成されてもよく、水玉状に形成されてもよい。溝を格子状に形成する場合は、ひし形状であっても良い。
【0019】
溝の長さは特に限定されるものでなく、溝が短い場合、開口部の形状は四角形であってもよいし、丸形や楕円形であってもよい。アンカー効果を得るためには、溝は長い方が好ましい。
【0020】
本発明の隣り合う溝の間隔bは、溝の幅cの0.5倍以上4倍以下、すなわち溝の幅cが100μmであれば50μm以上400μm以下、であることが好ましく、溝の幅の1倍以上2倍以下、すなわち溝の幅が100μmであれば100μm以上200μm以下、であることがより好ましい。
【0021】
隣り合う溝の間隔bは、600μm以下であることが好ましく、500μ以下が更に好ましく、300μm以下が特に好ましい。
本発明において、バリの高さaと溝の間隔bとは式(1)の関係を有する。
式(1) b≦35a-24
式(1)は、図2に示す実験データによって得られたバリの高さaと溝の間隔bとの関係式である。
【0022】
<溝の形成方法>
本発明の樹脂部材の溝の形成は、溝を形成する前の樹脂部材の表面にレーザー光を照射して、樹脂を一部除去することにより行うのが好ましい。レーザー光の種類や波長、出力や照射時間などの条件は、対象となる樹脂部材を構成する樹脂組成物に応じて適宜選択すればくよく、バリを平坦部から5μm以上、溝の深さを1~15μmとなるように調節することが好ましい。
【0023】
形成する溝の面積は、画質及び密着強度を確保する意味で、メッキの面積に対し20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、40%以上であることがさらに好ましく、50%以上であることが特に好ましい。バリが形成されることで密着性が向上するため、上限は90%以下が好ましく、80%以下が更に好ましく、70%以下が特に好ましい。
【0024】
特に無機繊維を含む樹脂部材はメッキ部全面にわたってレーザー光照射による溝が形成されると、レーザー処理により無機繊維が剥き出しとなり、メッキ処理をした場合、剥き出しとなった無機繊維部から剥がれてしまうことがある。また、レーザー処理時間を短縮させる意味でもメッキ部の全面処理は避けるべきである。
【0025】
なお、溝部のラマン分光分析によって、樹脂の炭化層が存在することが確認できれば、溝がレーザー光照射によって形成されたものであると判断することができる。
【0026】
本発明の樹脂部材にはレーザー光を効率的に吸収させるため染料や顔料などの着色剤(光吸収剤)、樹脂への色相に影響を与えない透明な近赤外吸収剤などを添加することも好ましく、有機系の着色剤よりも無機系の着色剤(例えばカーボンブラック)を添加することがより好ましい。
【実施例
【0027】
以下実施例をもって、本発明を詳細に説明する。なお評価は、特に断りのない限り23℃、50%RHの雰囲気下で行った。
【0028】
<試験体の形成>
≪溝形成のための樹脂部材の形成≫
ポリプラスチックス株式会社製の下記樹脂を用いて、100mm×100mm×3mmの平板状の樹脂部材の試験体を射出成形により形成した。
1.LCP樹脂 ラペロス(製品名)LCP E130i(ガラス繊維 30%)
2.PPS樹脂 ジュラファイド(製品名)PPS 1140A6(ガラス繊維 40%)
3.PBT樹脂 ジュラネックス(製品名)PBT 733LD(ガラス繊維 30%)
[成形条件]
・LCP樹脂 シリンダー温度CT350℃ 金型温度100℃ 射出速度1m/min
・PPS樹脂 シリンダー温度CT320℃ 金型温度140℃ 射出速度1m/min
・PBT樹脂 シリンダー温度CT260℃ 金型温度80℃ 射出速度1m/min
【0029】
≪樹脂部材のバリの形成:レーザー処理≫
射出成形した試験体のメッキ処理を施す面の任意の20mm×20mm部分に、キーエンス製レーザーマーカ:MD-X1520を用いて、波長1064nmにてレーザー光を照射し、幅80μm、長さ20mm、深さ10μm、ピッチ200、300、500μmの格子状の溝を形成した。
【0030】
≪バリの高さa及び間隔bの測定≫
レーザー顕微鏡を用いて測定した。
≪試験体の形成:メッキ処理≫
溝を形成した樹脂部材に、真空蒸着(アルミメッキ)によりメッキを行い、メッキ処理を施した試験体を形成した。メッキの厚みは80nmである。
【0031】
<密着性試験:碁盤目剥離試験(クロスカット法)>
JIS K-5600-5-6に準じて、メッキした試験体のメッキ面にカッターナイフを使用して、縦及び横方向に1mm間隔でそれぞれ6本の傷を入れ、合計25個の1mm四方のマス目を形成し、そのマス目の上に市販のセロハンテープを貼り付け、上から指で良くこすって塗装面に密着させた後、セロハンテープの一端を指でつまんで一挙にテープを剥がし、メッキ面の剥離状況を観察した。試験は23℃50%RHの雰囲気下で行った。JIS K-5600-5-6の0~5点までの分類うち、2点以下を合格とした。結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
表1の結果をグラフにしたのが、図2である。合格を●、不合格を×としたa(横軸、単位μm)とb(縦軸、単位μm)の関係をグラフで示す。図2中の直線が式(1)の等号数式である。この結果から判るように、式(1)の関係を満たす範囲では、密着性が良好である。
【0034】
式(1)は、実験データからの臨界点5点から導かれる回帰式であり、相関係数は85%を超えている。
【符号の説明】
【0035】
a バリの高さ
b 溝の間隔
c 溝の開口部の幅
d 溝のピッチ
図1
図2