(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】粒子の製造方法および製造システム
(51)【国際特許分類】
B01D 9/02 20060101AFI20241004BHJP
C07C 51/43 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
B01D9/02 602E
C07C51/43
B01D9/02 601F
B01D9/02 603B
B01D9/02 607Z
B01D9/02 611A
B01D9/02 615A
B01D9/02 625Z
(21)【出願番号】P 2021017673
(22)【出願日】2021-02-05
【審査請求日】2024-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】大島 淳
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-216370(JP,A)
【文献】特開昭51-136572(JP,A)
【文献】特開昭49-020119(JP,A)
【文献】特開平11-077065(JP,A)
【文献】特開2003-146937(JP,A)
【文献】特公昭46-019610(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 9/00-9/04
C07C 51/00-51/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1溶液に第2溶液を添加することで固体を析出させる晶析により、粒子を製造する製造方法であって、
前記第1溶液を貯留した攪拌槽に、前記第2溶液を滴下する供給工程、
前記攪拌槽内の混合溶液を攪拌する攪拌工程、および
前記混合溶液の液面に形成される発泡層の発泡倍率を100%より大きく112%以下に調整する発泡倍率調整工程を含む、製造方法:
ここで、前記発泡倍率は、前記混合溶液の体積をV
S[m
3]、前記発泡層の体積をV
F[m
3]としたときに、以下の式(1)で規定される。
発泡倍率[%]=(V
S+V
F)/V
S ・・・(1)
【請求項2】
前記第1溶液は、酸性解離性基を有する物質を含む溶液であり、前記第2溶液は、酸を含む溶液である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第1溶液は、カルボン酸無機塩を含む物質の水溶液である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記晶析により析出した粒子のろ過比抵抗は、5×10
9m/kg以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記発泡倍率調整工程では、前記供給工程において追加して添加する溶媒の添加量、前記攪拌工程における攪拌動力、前記供給工程における第2溶液供給速度、または前記攪拌槽における混合溶液の温度のうち1つ以上を調整することにより前記発泡倍率を調整する、請求項1から4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
第1溶液に第2溶液を添加することで固体を析出させる晶析により、粒子を製造する製造システムであって、
攪拌槽と、発泡倍率調整装置とを備え、
前記発泡倍率調整装置は、前記攪拌槽内における前記晶析において、前記攪拌槽内の混合溶液の液面に形成される発泡層の発泡倍率を100%より大きく112%以下となるように調整するための装置である、製造システム:
ここで、前記発泡倍率は、前記混合溶液の体積をV
S[m
3]、前記発泡層の体積をV
F[m
3]としたときに、以下の式(1)で規定される。
発泡倍率[%]=(V
S+V
F)/V
S ・・・(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は晶析により、粒子を製造する製造方法および製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
晶析により粒子を製造する製法において、ガスが副生することにより発泡が生じることがある。過剰な発泡は、生成物の収率の低下などを引き起こす可能性がある。そのため、発泡が生じた場合、生じた泡を消泡する手段が用いられる。消泡する手段として、消泡剤の添加またはpH調整などによる化学的消泡、温度調整による熱学的消泡、機械的消泡などが従来技術として知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、機械的消泡の例として、液面より上方で回転する消泡翼により、発生した泡を機械的に消滅させる方法が開示されている。特許文献2には、攪拌槽内で発生し、蒸気排出管に流入した泡を、消泡塔内で消滅させる構成が開示されている。特許文献2では、消泡塔内において、消泡塔下部から流入した泡を、流下する液体中に溶解させることにより消滅させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-146937号公報
【文献】特開2003-146938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来技術は、製品の品質確保、後処理の必要性、付加的な設備への投資の必要性などから、系によっては適用できない場合がある。
【0006】
さらに、晶析後にろ過工程がある場合、ろ過特性が良好な粒子を製造することが所望される。
【0007】
本発明の一態様は、ろ過特性が良好な粒子を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る製造方法は、第1溶液に第2溶液を添加することで固体を析出させる晶析により、粒子を製造する製造方法であって、前記第1溶液を貯留した攪拌槽に、前記第2溶液を滴下する供給工程、前記攪拌槽内の混合溶液を攪拌する攪拌工程、および前記混合溶液の液面に形成される発泡層の発泡倍率を100%より大きく112%以下に調整する発泡倍率調整工程を含む。
【0009】
ここで、前記発泡倍率は、前記混合溶液の体積をVS[m3]、前記発泡層の体積をVF[m3]としたときに、以下の式(1)で規定される。
【0010】
発泡倍率[%]=(VS+VF)/VS ・・・(1)
また、本発明の一態様に係る製造システムは、第1溶液に第2溶液を添加することで固体を析出させる晶析により、粒子を製造する製造システムであって、攪拌槽と、発泡倍率調整装置とを備え、前記発泡倍率調整装置は、前記攪拌槽内における前記晶析において、前記攪拌槽内の混合溶液の液面に形成される発泡層の発泡倍率を100%より大きく112%以下となるように調整するための装置である、製造システム:
ここで、前記発泡倍率は、前記混合溶液の体積をVS[m3]、前記発泡層の体積をVF[m3]としたときに、以下の式(1)で規定される。
【0011】
発泡倍率[%]=(VS+VF)/VS ・・・(1)
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、ろ過特性が良好な粒子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態1に係るシステムの構成を模式的に示す系統図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係るシステムの構成を示すブロック図である。
【
図3】実施形態1に係るシステムを利用した、粒子の製造方法の大まかな流れを示すフロー図の一例である。
【
図4】反応槽内の混合溶液表面の拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態である粒子の製造方法について、これに用いるシステムと併せて、図面を用いて詳細に説明する。なお、添付の図面は本発明を説明するために用いるものであり、実際の寸法とは異なる場合がる。本明細書において、「A~B」とは、A以上B以下であることを示している。
【0015】
<粒子製造システム(システム100)>
以下では、カルボン酸無機塩を含む物質の水溶液(第1溶液A1)に、硫酸を含む溶液(第2溶液A2)を添加することにより、カルボン酸を含む物質の粒子を製造するシステム100(製造システム)について説明する。
【0016】
図1は、実施形態1に係るシステム100の構成を模式的に示す系統図である。
図2は、実施形態1に係るシステム100の構成を示すブロック図である。
【0017】
図1および
図2に示すように、本実施形態のシステム100は、粒子製造装置1と、発泡倍率調整装置10とを備えている。粒子製造装置1は、攪拌槽20と、第2溶液供給装置11と、溶媒供給装置12と、温度管理システム14と、発泡高さ測定装置15と、各経路とを備えて概略構成されている。発泡倍率調整装置10は、第2溶液供給管理部102と、溶媒供給管理部103と、温度管理部104と、攪拌動力管理部105と、発泡倍率算出部106とを備える。発泡倍率調整装置10は、攪拌槽20内の発泡倍率を調整するための装置である。発泡倍率については、後で詳述する。
【0018】
図3は、実施形態1に係るシステム100を利用した、粒子の製造方法の大まかな流れを示すフロー図の一例である。
図3に示すように、まず溶液A1を、攪拌槽20内に貯留する(仕込工程:S1)。
【0019】
続く晶析工程S2では、攪拌槽20内の混合溶液Sを攪拌しながら(攪拌工程S21)、貯留した溶液A1に、溶液A2を滴下する(供給工程S22)ことにより、カルボン酸を含む物質を析出させる。なお、混合溶液Sは、晶析工程S2において攪拌槽20内に存在している溶液を意味し、主として第1溶液A1を含む溶液である。また、晶析工程S2では、晶析中、カルボン酸無機塩の塩脱離によるカルボン酸の生成とともに、副反応として炭酸ガスが生成され得る。本実施形態の製造方法では、晶析工程S2において、混合溶液Sの反応により生成したガスにて液面に形成される発泡層Fの発泡倍率を100%より大きく112%以下に調整する(発泡倍率調整工程S23)。発泡倍率および発泡倍率調整工程については後述する。
【0020】
その後、晶析工程S2において生じた固体(カルボン酸を含む物質)を含むスラリーをろ過し(ろ過工程:S3)、ろ過後のウエットケーク(W/C)を乾燥させる(乾燥工程:S4)ことにより、製品としてのカルボン酸を含む物質の結晶を得る。
【0021】
なお、
図1および
図2に示すシステム100では、上記ろ過工程S3および乾燥工程S4を行う構成については省略している。ろ過工程S3および乾燥工程S4は、公知のろ過装置および乾燥装置を用いて実施されてよい。
【0022】
(発泡倍率の調整)
粒子の製造方法において、晶析により粒子が生成した後のろ過工程S3および乾燥工程S4を考慮した場合、ろ過特性の良好な結晶粒子を得ることが好ましい。ろ過特性は、例えば、ろ過比抵抗または含液率などで評価することができる。ろ過比抵抗が大きくなると、ろ過工程S3のサイクル時間が長くなる。また、含液率が高くなると、乾燥工程S4に要する時間が長くなる。そのため、ろ過特性としては、例えば、ろ過比抵抗が、5×109m/kg以下であることが好ましい。また、含液率は26wt%以下であることが好ましい。
【0023】
発明者らは、鋭意研究の結果、ろ過特性は、晶析工程S2における発泡倍率を調整することにより向上させることができることを見出した。本発明の製造方法では、発泡倍率を100%より大きく112%以下に調整する(発泡倍率調整工程)ことにより、ろ過特性の良好な粒子を得ることができる。
【0024】
発泡倍率とは、混合溶液Sの体積をVS[m3]、発泡層Fの体積をVF[m3]としたときに、以下の式(1)で規定される。
【0025】
発泡倍率[%]=(VS+VF)/VS ・・・(1)
ろ過特性の良好な粒子を得るためには、晶析工程S2において、第2溶液A2を滴下するときに、第2溶液A2が第1溶液A1に良好に分散されることが重要である。第2溶液A2が第1溶液A1に分散されず、第2溶液A2の濃度が局所的に高くなってしまうと、カルボン酸を含む物質の粒子として、微細な粒子が生成され得る。微細な粒子は、ろ過特性を悪化させる要因となる。
【0026】
混合溶液Sの液面に発泡層Fが適度に存在することにより、液相と気相との界面積が増加する。これにより、第2溶液A2が滴下されたときに、第2溶液A2の分散効率が向上する。そのため、発泡倍率は、100%より大きい(例えば、101%)ことが好ましい。
【0027】
一方、発泡層Fが過剰に存在すると、第2溶液A2の液相(混合溶液S)への浸入が発泡層Fによって妨げられるため、第2溶液A2の濃度が局所的に高くなる要因となる。そのため、発泡倍率は112%以下であることが好ましい。
【0028】
晶析工程S2において、第2溶液A2の供給速度を増加させると発泡倍率は増加し、供給速度を低下させると、発泡倍率は低下する。また、水(第1溶液または第2溶液の溶媒)の添加量または添加速度を増加させると発泡倍率は低下し、添加量または添加速度を低下させると、発泡倍率は増加する。また、混合溶液Sの温度を上昇させると発泡倍率は低下し、温度を低下させると発泡倍率は増加する。また、攪拌工程S21における攪拌動力を高くすると、発泡倍率は増加し、攪拌動力を低くすると、発泡倍率は低下する。
【0029】
発泡倍率調整装置10の発泡倍率算出部106は、後述する発泡高さ測定装置15から発泡層Fの上端までの高さのデータを取得し、発泡倍率を算出する。発泡倍率調整装置10は、算出された発泡倍率に基づいて、水(溶媒)の添加量、攪拌動力、第2溶液供給速度、または混合溶液の温度のうち1つ以上を調整することにより発泡倍率を100%より大きく112%以下に調整し得る。
【0030】
(粒子製造システムの各構成)
以下では、システム100の各構成について詳細に説明する。
【0031】
第2溶液供給装置11は、第2溶液A2を攪拌槽20に対して供給する装置である。より具体的には、第2溶液供給装置11は、攪拌槽20と接続され、攪拌槽20内まで延びる配管によって形成される経路L1を介して、第2溶液A2を攪拌槽20に供給することができる。第2溶液A2が、攪拌槽20内に貯留されている第1溶液A1に滴下されることにより、カルボン酸を含む物質が析出する。
【0032】
第2溶液供給装置11は、発泡倍率調整装置10と接続され得る。発泡倍率調整装置10の第2溶液供給管理部102は、第2溶液供給装置11を制御し、第2溶液A2の供給量を制御し得る。
【0033】
溶媒供給装置12は、溶媒Wを攪拌槽20に対して供給する装置である。本実施形態において、溶媒Wは水である。より具体的には、溶媒供給装置12は、攪拌槽20と接続され、攪拌槽20内まで延びる配管によって形成される経路L2を介して、溶媒を攪拌槽20に供給することができる。溶媒供給装置12は、発泡倍率調整装置10と接続され得る。発泡倍率調整装置10の溶媒供給管理部103は、溶媒供給装置12を制御し、溶媒Wの供給量または供給速度を制御し得る。
【0034】
攪拌槽20は、第1溶液A1を貯留し、槽内で晶析を行うための容器である。すなわち、攪拌槽20は、攪拌機を有する容器であればよい。第2溶液A2は、経路L1から攪拌槽20内に滴下される。攪拌槽20の上部には、攪拌槽20内で発生したガスが排出される排出口が設けられている。当該排出口は、配管によって形成される経路L3と接続されている。前記ガスは、経路L3を介してシステム1外に排出される。
【0035】
また、攪拌槽20には、電動モータ13と、攪拌翼311と、攪拌軸310とを備える攪拌機31が設けられている。電動モータ13で攪拌軸310を回転させることで、攪拌翼311を回転させ、攪拌槽20内の混合溶液Sを攪拌することができる。電動モータ13は、発泡倍率調整装置10と接続され得る。発泡倍率調整装置10の攪拌動力管理部105は、電動モータ13を制御し、攪拌機31の攪拌動力を制御し得る。
【0036】
温度管理システム14は、攪拌槽20内の混合溶液Sの温度を管理するシステムである。温度管理システム14は、温度計61と、温調システム62とを含んでおり、発泡倍率調整装置10と接続され得る。発泡倍率調整装置10の温度管理部104は、温度計61から温度データを受信し、温調システム62を制御することにより、混合溶液Sの温度を制御し得る。
【0037】
温度計61は、混合溶液Sの温度を測定するものである。温調システム62は、後述する複数の装置から構成されていてもよく、例えば、攪拌槽20内の温度を一定に保つ装置であってよい。あるいは、攪拌槽20に対して熱を供給し得る装置であってもよいし、攪拌槽20を冷却する装置であってもよい。
【0038】
温調システム62は、例えば、
図1に示すように、攪拌槽20の外表面の少なくとも一部を覆い、通液可能なジャケット141と、熱媒タンク140とを備える構成であってもよい。ジャケット141は、熱媒タンク140と、配管によって形成される経路L4および経路L5によって接続されている。熱媒タンク140の熱媒(例えば温水)は、ポンプ(不図示)によって経路L4を介してジャケット141に供給され、ジャケット141内を循環した後、経路L5を介して熱媒タンク140に戻る。温度管理部104は、温度計61から混合溶液Sの温度のデータを受信し、混合溶液Sの温度を28±3℃に維持するように、例えば、ポンプの流量を制御する。温調システム62は、上述の例に限定されない。攪拌槽20の冷却が必要な場合には、温調システム62は熱媒タンク140に代えて、冷媒タンク(例えば冷水タンク)を備えていてもよい。また、温調システム62は、攪拌槽20内に設置される熱交換プレートなどを含んでいてもよい。
【0039】
発泡高さ測定装置15は、攪拌槽20内の発泡高さを測定する装置である。発泡高さ測定装置15は、例えば、音波式液面計または攪拌槽20に付属するサイトグラスに設置した監視カメラなどを用いることができる。発泡高さ測定装置15は、攪拌槽20内における、攪拌槽20の底面からの発泡層Fの上端までの高さ(H
F+H
S:
図4参照)を測定することができる。発泡高さ測定装置15は、発泡倍率調整装置10と接続され得る。発泡倍率調整装置10の発泡倍率算出部106は、発泡高さ測定装置15から発泡層Fの上端までの高さのデータを取得し、発泡倍率を算出し得る。
【0040】
発泡倍率とは、上述のように、以下の式(1)で規定される。
【0041】
発泡倍率[%]=(VS+VF)/VS ・・・(1)
式中、VS[m3]は混合溶液Sの体積であり、VF[m3]は発泡層Fの体積である。
【0042】
図4は、攪拌槽20内の混合溶液S表面の拡大模式図である。図中、高さH
F[m]は、発泡層Fの高さであり、高さH
Sは、混合溶液Sの液高さを示している。
【0043】
攪拌槽20の底面から発泡層Fの上端までの高さ(HF+HS)は、発泡高さ測定装置15によって測定され得る。あるいは、攪拌槽20に設けられたサイトグラスおよび液面スケールを用いて、目視によって測定されてもよい。なお、発泡層Fの上端は、発泡層Fの最も高い箇所とする。目視によって測定した場合には、発泡層Fの上端までの高さのデータを、発泡倍率調整装置10の入力部(図示せず)から入力してもよい。発泡倍率算出部106は、発泡高さ測定装置15または発泡倍率調整装置10の入力部から入力された発泡層Fの上端までの高さのデータを取得し、発泡倍率を算出し得る。具体的には、発泡倍率算出部106は、発泡倍率を以下のように算出する。
【0044】
(i)底面から発泡層Fの上端までの高さ(HF+HS)に基づいて、VS+VF[m3]を算出する。(ii)上記式(1)の分母のVSに、理論値として攪拌槽20に仕込んだ第1溶液A1の仕込み量[m3]を代入し、発泡倍率を算出する。なお、VFおよびVS+VFは、発泡層Fの上端までの高さを基準に算出するため、VFおよびVS+VFの少なくとも一部は、発泡の存在しない空間であり得る。
【0045】
攪拌槽20が、上部から下部まで内径の等しい筒形の形状を有している場合、発泡倍率算出部106は、発泡倍率を以下のように算出してもよい。
【0046】
(i)攪拌槽20に仕込んだ第1溶液A1の仕込み量と、攪拌槽20の底面積[m2]から、高さHSを算出する。(ii)発泡層Fの上端までの高さ(HF+HS)から、算出した液高さHSを引くことにより、発泡高さHFを算出する。(iii)算出した発泡高さHF、液高さHSおよび攪拌槽20の底面積から、混合溶液Sの体積VSおよび、発泡層Fの体積VFを算出する。(iv)上記式(1)と、算出した混合溶液Sの体積VSおよび、発泡層Fの体積VFから、発泡倍率を算出する。
【0047】
(実証試験)
以下では、発泡倍率と、ろ過特性との関係について実験した実証試験の結果について説明する。
【0048】
表1は、実施例1、2および比較例1~4の実験条件と、実験結果をまとめたものである。
【0049】
【表1】
まず、実施例1について説明する。実施例1では、槽の内径が114mmである、容量1Lのガラス製セパラブルフラスコを用いた。当該セパラブルフラスコに、カルボン酸無機塩を含む物質の水溶液0.74kg(0.66L)を仕込んだ。当該水溶液にはカルボン酸無機塩が0.032kg、水が0.67kg含まれており、カルボン酸無機塩に対する水の重量比(weight ratio)は21WRであった。当該水溶液に対して水を0.13kg添加し、前記重量比を25WRとした。換言すると、水の添加量を調整することにより水重量比を調整した。三枚後退翼の回転により液相を攪拌した状態で、pHを4.0±0.3の範囲に到達するまで、40wt%の硫酸を一定速度で供給することにより晶析を実施した。セパラブルフラスコのジャケットには、冷却水を送液し、フラスコの内温が28±3℃となるように調整した。本実験は常圧下で実施した。晶析中の攪拌動力は0.5kW/m
3に設定し、ガス空塔速度は、4.2cm/hであった。
【0050】
(発泡倍率の測定)
硫酸を供給する過程で発生した二酸化炭素により生じた発泡層において、発泡層が最も高くなったときの、フラスコの底面から発泡層の上端までの高さを目視により測定した。測定した高さに基づき、上述したように発泡倍率を算出した。算出した結果を表1に示した。
【0051】
(ろ過比抵抗および含液率の測定)
pHが4.0±0.3に到達した時点で晶析を終了し、得られた反応晶析物質と水との混合物(スラリー)を、定量濾紙(ADVANTEC、No.5C)を備えた内径30mmの加圧ろ過器の上流側に仕込んだ。上流側の圧力を窒素で100kPaGに調整し、窒素の定量濾紙吹き抜けが確認されるまで加圧を続けた。定量濾紙を通過したろ液の経時重量を測定すると共に、窒素の吹き抜け後に定量濾紙上に残ったウエットケーク(W/C)を回収し、重量を測定した。Ruth式に基づいて算出したろ過比抵抗を表1に示した。
【0052】
回収したW/Cを、真空乾燥機を用いて50℃で24時間乾燥し、乾燥後の重量を測定した。乾燥により減少した重量を、ろ過後に測定したW/C重量で除することにより、W/C含液率を算出し、結果を表1に示した。
【0053】
(他の例について)
実施例2および比較例1については、水重量比、攪拌動力、ガス空塔速度を表1に示す条件とした以外は、実施例1と同様に実験した。
【0054】
比較例2および比較例3については、槽の内径が2500mmである、容量15m3のグラスライニング製反応機を用いた。当該グラスライニング製反応機に、カルボン酸無機塩を含む物質の水溶液9270kg(8250L)を仕込んだ。また、水重量比、攪拌動力、ガス空塔速度を表1に示す条件とした以外は、実施例1と同様に実験した。
【0055】
比較例4については、槽の内径が143mmである、容量2Lのガラス製セパラブルフラスコ攪拌容器を用いた。当該セパラブルフラスコ攪拌容器に、カルボン酸無機塩を含む物質の水溶液1.47kg(1.31L)を仕込んだ。また、水重量比、攪拌動力、ガス空塔速度を表1に示す条件とした以外は、実施例1と同様に実験した。
【0056】
表1において、実施例1、実施例2および比較例4を比較すると、攪拌動力を上げるほど、発泡倍率が大きくなることがわかる。また、実施例1と比較例1とを比較すると、水重量比が低い(水添加量が少ない)方が、発泡倍率が大きくなることがわかる。さらに、比較例1と比較例2とを比較すると、ガス空塔速度が高くなると、発泡倍率が大きくなることがわかる。なお、ガス空塔速度は、硫酸の供給速度に比例するため、硫酸の供給速度が大きくなると、発泡倍率が大きくなるということもできる。
【0057】
上述のような実験をした結果、実施例1および実施例2では、発泡倍率がいずれも100%より大きく112%以下であり、本願発明の範囲内であった。一方、比較例1~4では、本願発明の範囲外であった。
【0058】
ろ過比抵抗については、5×109m/kg以下を良好(〇)5×109m/kgより大きい場合には不良(×)と評価した。W/C含液率については、26wt%以下を良好(〇)、26wt%よりも高い場合には不良(×)と評価した。
【0059】
実施例1および実施例2では、ろ過比抵抗およびW/C含液率について良好な結果が得られた。一方、比較例1~4については、いずれもろ過比抵抗およびW/C含液率についての評価は不良であった。すなわち、発泡倍率を本願発明の範囲内に調整することにより、ろ過特性が良好な粒子が得られることが実証された。
【0060】
実施形態1では、カルボン酸無機塩を含む物質の水溶液と、硫酸を含む溶液との晶析によるカルボン酸を含む物質の粒子の製造システムについて説明した。しかしながら、本発明の粒子の製造方法および製造システムは、発泡を伴う晶析によって粒子を製造する他の例についても適用され得る。なお、反応系によっては、反応温度を制御することにより、発泡倍率を制御することも可能である。
【0061】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0062】
100 システム(製造システム)
1 粒子製造装置
10 発泡倍率調整装置
20 攪拌槽