(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-03
(45)【発行日】2024-10-11
(54)【発明の名称】二酸化炭素製造装置、二酸化炭素製造方法、二酸化炭素製造装置の設計方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/50 20170101AFI20241004BHJP
C04B 7/36 20060101ALI20241004BHJP
F27D 17/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C01B32/50 ZAB
C04B7/36
F27D17/00 104Z
F27D17/00 101A
(21)【出願番号】P 2022175789
(22)【出願日】2022-11-01
(62)【分割の表示】P 2018069893の分割
【原出願日】2018-03-30
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】島 裕和
(72)【発明者】
【氏名】小松 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 佳典
(72)【発明者】
【氏名】高田 佳明
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-269785(JP,A)
【文献】特開昭60-255651(JP,A)
【文献】特開2012-50931(JP,A)
【文献】特開2012-143699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/50
C04B 7/36,7/43
F27D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を含むガスを循環させるガス循環ラインと、前記ガス循環ラインに順に配された熱交換器、反応器
、分離器
および循環ポンプと、前記ガス循環ラインに接続された原料粉体供給ライン、二酸化炭素回収ライン、および反応温度低下手段と、を備え、
前記熱交換器は、前記ガス循環ラインと、該ガス循環ラインの温度よりも高温の高温雰囲気場との間で熱交換を行い、
前記原料粉体供給ラインは、前記反応器と前記熱交換器との間、または前記反応器に接続されて、前記ガス循環ラインに二酸化炭素の生成原料粉体を導入し、
前記反応器は、前記熱交換器で加熱された前記二酸化炭素を含むガスに前記生成原料粉体を接触させて脱炭酸反応によって二酸化炭素を生成し、
前記分離器は、前記生成原料粉体と前記二酸化炭素を含むガスとを分離し、
前記反応温度低下手段は、前記反応器を減圧する減圧ポンプによって、前記反応器での脱炭酸反応の反応温度を低下させ、前記反応器の圧力を0.1atm以上、大気圧(1atm)未満の範囲とする構成とされており、
前記二酸化炭素回収ラインは、二酸化炭素濃度が95vol%以上の前記二酸化炭素を含むガスを前記ガス循環ラインの系外に回収する
構成とされており、
前記分離器と前記循環ポンプとの間には、前記ガス循環ラインにおいて前記二酸化炭素回収ラインの接続位置よりも下流側でかつ前記熱交換器の上流側を流れるガスと熱交換する第2熱交換器が配設されていることを特徴とする二酸化炭素製造装置。
【請求項2】
前記高温雰囲気場は、セメント製造装置におけるセメントキルン、クリンカクーラー、プレヒーター、仮焼炉、および前記クリンカクーラーと前記仮焼炉とを接続する抽気ダクトのうち、少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする請求項1記載の二酸化炭素製造装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の二酸化炭素製造装置を用いた二酸化炭素製造方法であって、
前記高温雰囲気場の前記熱交換器で前記二酸化炭素を含むガスを加熱する加熱工程と、
前記加熱工程で加熱された前記二酸化炭素を含むガスに前記生成原料粉体を直接接触させて加熱し、脱炭酸反応を生じさせて二酸化炭素を生成する反応工程と、
前記生成原料粉体と前記二酸化炭素を含むガスとを分離する固気分離工程と、
前記反応工程で生じた二酸化炭素生成量に相当する量の前記二酸化炭素を含むガスを回収し、残りの前記二酸化炭素を含むガスを前記ガス循環ラインに還流させる回収工程と、を備えたことを特徴とする二酸化炭素製造方法。
【請求項4】
前記反応工程では、前記ガス循環ラインの内圧および前記加熱工程で加熱された後の前記二酸化炭素を含むガスの温度に基づいて、二酸化炭素の生成量が最大値±10%の範囲内になるように、前記脱炭酸反応における反応圧力と前記生成原料粉体の前記ガス循環ラインへの供給量とを制御することを特徴とする請求項3記載の二酸化炭素製造方法。
【請求項5】
前記反応工程では、前記反応温度低下手段によって、前記脱炭酸反応の反応圧力を大気圧未満にすることを特徴とする請求項3または4記載の二酸化炭素製造方法。
【請求項6】
請求項1または2記載の二酸化炭素製造装置の設計方法であって、
前記ガス循環ラインの内圧および前記熱交換器で加熱された後の前記二酸化炭素を含むガスの温度に基づいて、二酸化炭素の生成量が最大値±10%の範囲内になるように、前記脱炭酸反応における反応圧力と前記生成原料粉体の前記ガス循環ラインへの供給量とを決定し、この決定に基づいて二酸化炭素製造装置の設計を行うことを特徴とする二酸化炭素製造装置の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばセメント製造装置で生じる熱を用いて、セメント原料精粉や石灰石などを加熱して、高濃度の二酸化炭素を製造するための二酸化炭素製造装置、二酸化炭素製造方法、および二酸化炭素製造装置の設計方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的かつ全産業にわたって、地球温暖化の主因である二酸化炭素(CO2)を削減する試みが推進されている。例えばセメント産業は、電力や鉄鋼等と共に二酸化炭素の排出量が多い産業の一つであり、日本における二酸化炭素の全排出量の約4%を占めている。このため、セメント製造プロセスで生じる二酸化炭素を含む排ガスを大気中に放出せずに回収することが考えられている。
【0003】
回収した二酸化炭素は、地中に貯留したり、植物や藻類の育成、液体炭酸として食品原料、工業原料に用いるなど、幅広く再利用することができる。一方、回収した二酸化炭素を産業的に有効利用するためには、二酸化炭素の濃度を例えば95~100vol%といった高濃度に高める必要がある。例えば、セメント製造プロセスで生じる排ガスに含まれる二酸化炭素は、石炭や石油コークス、可燃性廃棄物の燃焼により発生するもの以外にセメント原料精粉に含まれる石灰石から発生する二酸化炭素を含むため、一般の燃焼ガスより高いものの、その濃度は20vol%程度である。また、回収した二酸化炭素を植物や藻類の育成や食品原料に用いる場合、有害成分を含まないことも重要である。
【0004】
二酸化炭素の濃度を高める濃縮方法として、例えば、アミン吸収法が挙げられる。アミン吸収法は、アミン等のアルカリ性水溶液(吸収液)に二酸化炭素を含むガスを接触させて二酸化炭素を選択的に吸収させた後、この吸収液を加熱して、高濃度の二酸化炭素を分離、回収するものである。しかし、アミン吸収法によって二酸化炭素を高濃度に濃縮する場合、多量の吸収液が必要になるなどコストが高く、セメント製造プロセスで生じる二酸化炭素の濃縮方法としては、未だに実用化には至っていない。
【0005】
また、セメント製造装置のセメントキルンや仮焼炉において、石炭、石油、天然ガス等の熱エネルギーを純酸素で燃焼させて得られる二酸化炭素を含む排ガスを利用する場合、この排ガス中には燃焼ガス由来の揮発性有機化合物(VOC)、一酸化炭素、窒素酸化物、硫黄酸化物等の人体や植物に有害な不純物が含まれる。このため、得られた二酸化炭素を含む排ガスを地中貯留したり、植物や藻類の育成や食品原料に用いる場合には、これら不純物を除去して二酸化炭素の濃度を高める必要があり、二酸化炭素の濃縮方法としてはコストが高く、未だに実用化には至っていない。
【0006】
一方、特許文献1には、セメント原料精粉に含まれる石灰石から発生する二酸化炭素を間接的に加熱することによって、高濃度の二酸化炭素を回収する方法が記載されている。これは、セメント原料精粉を隔壁越しに加熱したり、過熱させた仮焼済のセメント原料などの熱媒体を仮焼時に生じた二酸化炭素を含む排ガスに接触させて、高濃度の二酸化炭素を得る方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に示されたセメント製造設備における二酸化炭素の回収方法によれば、セメント製造に伴い生じる排ガスから、濃度100vol%といった高濃度の二酸化炭素を回収することが可能である。しかしながら、回収する二酸化炭素の濃度を高くするほど、反応温度も高くする必要があり、加熱に要するコストが掛かる。このため、より低い反応温度で高濃度の二酸化炭素を低コストに製造することが可能な二酸化炭素の製造方法が望まれていた。
【0009】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、有害成分を殆ど含まない高濃度の二酸化炭素を低コストに製造することが可能な二酸化炭素製造装置、およびこれを用いた二酸化炭素製造方法、二酸化炭素製造装置の設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の二酸化炭素製造装置は、二酸化炭素を含むガスを循環させるガス循環ラインと、前記ガス循環ラインに順に配された熱交換器、反応器、分離器および循環ポンプと、前記ガス循環ラインに接続された原料粉体供給ライン、二酸化炭素回収ライン、および反応温度低下手段と、を備え、前記熱交換器は、前記ガス循環ラインと、該ガス循環ラインの温度よりも高温の高温雰囲気場との間で熱交換を行い、前記原料粉体供給ラインは、前記反応器と前記熱交換器との間、または前記反応器に接続されて、前記ガス循環ラインに二酸化炭素の生成原料粉体を導入し、前記反応器は、前記熱交換器で加熱された前記二酸化炭素を含むガスに前記生成原料粉体を接触させて脱炭酸反応によって二酸化炭素を生成し、前記分離器は、前記生成原料粉体と前記二酸化炭素を含むガスとを分離し、 前記反応温度低下手段は、前記反応器を減圧する減圧ポンプによって、前記反応器での脱炭酸反応の反応温度を低下させ、前記反応器の圧力を0.1atm以上、大気圧(1atm)未満の範囲とする構成とされており、前記二酸化炭素回収ラインは、二酸化炭素濃度が95vol%以上の前記二酸化炭素を含むガスを前記ガス循環ラインの系外に回収する構成とされており、前記分離器と前記循環ポンプとの間には、前記ガス循環ラインにおいて前記二酸化炭素回収ラインの接続位置よりも下流側でかつ前記熱交換器の上流側を流れるガスと熱交換する第2熱交換器が配設されていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、前記高温雰囲気場は、セメント製造装置におけるセメントキルン、クリンカクーラー、プレヒーター、仮焼炉、および前記クリンカクーラーと前記仮焼炉とを接続する抽気ダクトのうち、少なくともいずれか1つを含むことが好ましい。
【0012】
本発明の二酸化炭素製造方法は、前記各項記載の二酸化炭素製造装置を用いた二酸化炭素製造方法であって、前記高温雰囲気場の前記熱交換器で前記二酸化炭素を含むガスを加熱する加熱工程と、前記加熱工程で加熱された前記二酸化炭素を含むガスに前記生成原料粉体を直接接触させて加熱し、脱炭酸反応を生じさせて二酸化炭素を生成する反応工程と、前記生成原料粉体と前記二酸化炭素を含むガスとを分離する固気分離工程と、前記反応工程で生じた二酸化炭素生成量に相当する量の前記二酸化炭素を含むガスを回収し、残りの前記二酸化炭素を含むガスを前記ガス循環ラインに還流させる回収工程と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、前記反応工程では、前記ガス循環ラインの内圧および前記熱交換器で加熱された後の前記二酸化炭素を含むガスの温度に基づいて、二酸化炭素の生成量が最大値±10%の範囲内になるように、前記脱炭酸反応における反応圧力と前記生成原料粉体の前記ガス循環ラインへの供給量とを制御することが好ましい。
【0014】
また、本発明は、前記反応工程では、前記反応温度低下手段によって、前記脱炭酸反応の反応圧力を大気圧未満にすることが好ましい。
【0015】
本発明の二酸化炭素製造装置の設計方法は、前記各項記載の二酸化炭素製造装置の設計方法であって、前記ガス循環ラインの内圧および前記加熱工程で加熱された後の前記二酸化炭素を含むガスの温度に基づいて、二酸化炭素を生成量が最大になるように、前記脱炭酸反応における反応圧力と前記生成原料粉体の前記ガス循環ラインへの供給量とを決定し、この決定に基づいて二酸化炭素製造装置の設計を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、有害成分を殆ど含まない高濃度の二酸化炭素を低コストに製造することが可能な二酸化炭素製造装置、およびこれを用いた二酸化炭素製造方法、二酸化炭素製造装置の設計方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態の二酸化炭素製造装置およびこの二酸化炭素製造装置が設置されるセメント製造装置を示す模式図である。
【
図4】石灰石の主成分であるCaCO
3の脱炭酸反応における二酸化炭素の平衡蒸気圧曲線を示したグラフである。
【
図5】本発明の二酸化炭素製造方法を段階的に示したフローチャートである。
【
図6】二酸化炭素生成量と石灰石投入量との関係を示すグラフである。
【
図7】石灰石反応率と二酸化炭素生成量との関係を示すグラフである。
【
図8】石灰石反応率と石灰石投入量との関係を示すグラフである。
【
図9】反応後温度と石灰石反応率との関係を示すグラフである。
【
図10】エンタルピー一定のもとでの二酸化炭素温度と二酸化炭素流量の関係を示すグラフである。
【
図11】二酸化炭素の温度および(R/L)ごとに、最大二酸化炭素生成量とその時の石灰石投入量との関係をプロットした計算例を示すグラフである。
【
図12】二酸化炭素の温度および流量と反応圧力ごとに、最大二酸化炭素生成量とその時の石灰石投入量との関係をプロットした計算例を示すグラフである。
【
図14】
図13に示す矩形の領域を、更に10等分させた説明図である。
【
図15】石灰石投入量と二酸化炭素の生成量との関係を示すグラフである。
【
図16】石灰石投入量と二酸化炭素の生成量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態の二酸化炭素製造装置、およびこれを用いた二酸化炭素製造方法について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0019】
(二酸化炭素製造装置)
まず最初に、本発明の二酸化炭素製造装置における生成原料粉体の供給源や高温雰囲気場となるセメント製造装置の構成について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態の二酸化炭素製造装置およびこの二酸化炭素製造装置が設置されるセメント製造装置を示す模式図である。
なお、以下の説明において、高濃度の二酸化炭素とは、例えば液化炭酸の原料として利用することを想定し、濃度範囲を90%以上、100%以下、望ましくは95%以上、100%以下、より望ましくは98%以上、100%以下とする。また、
図1において、実線矢印は二酸化炭素を含むガスなど気体の流れを示し、点線矢印は、生成原料粉体など固体(粉体)の流れを示す。
【0020】
図1に示すセメント製造装置30は、プレヒーター31、セメントキルン32、クリンカクーラー33、仮焼炉34を備えている。なお、
図1に示すセメント製造装置30は、セメント製造プロセスの要部である焼成工程を行うための構成であり、この焼成工程の前工程である原料工程においては、原料粉砕機や原料混合機(図示略)が備えられ、また、焼成工程の後工程である仕上工程においては、クリンカ粉砕機や分級機(図示略)が備えられている。
【0021】
プレヒーター31は、鉛直方向に配置された複数段のサイクロン31A~31Dが連結されたものから構成され、鉛直方向に隣り合う段どうしのサイクロン31A~31Dは、互いに水平方向にずらして配置されている。なお、本実施形態では、2組のプレヒーター31,31が互いに並列して配置された構成となっている。プレヒーター31は、1組だけであっても、3組以上設けられていてもよい。
【0022】
最上段のサイクロン31Aにはセメント原料供給ライン42が接続され、前工程である原料工程から、このセメント原料供給ライン42を介して最上段のサイクロン31Aにセメント原料精粉Mが供給される。セメント原料精粉Mは、主成分が粉体の石灰石(CaCO3)であり、その他に粘土成分(SiO2,Al2O3,Fe2O3)などを含んでいる。
【0023】
一方、最下段のサイクロン31Dには、仮焼炉34から排出される高温の排ガスC1が供給され、最上段のサイクロン31Aに向かって流れる。そして、最上段のサイクロン31Aに達した排ガスC1は、排気ファン35によって排気ライン36を介して排気される。
【0024】
最上段のサイクロン31Aに供給されたセメント原料精粉Mは、下段のサイクロン31B,31Cに順次落下するにしたがって、最上段のサイクロン31Aに向かって流れる高温の排ガスC1によって予熱される。下段のサイクロン31Cに達したセメント原料精粉Mは、例えば約750℃程度まで加熱されており、この後、原料配管37を介して仮焼炉34に送られる。セメント原料精粉Mは、この仮焼炉34で石炭バーナー34aによって更に850℃程度まで加熱される。
【0025】
原料配管37の途中からは、後述する二酸化炭素製造装置10のガス循環ライン11に接続される原料粉体供給ライン21が分岐する。この原料粉体供給ライン21には、下段のサイクロン31Cから排出されたセメント原料精粉Mの一部が入り、二酸化炭素製造装置10のガス循環ライン11に仮焼後のセメント原料精粉Mを供給する。
【0026】
仮焼炉34によって加熱されたセメント原料精粉Mは、仮焼炉排気ダクト38を介して再びプレヒーター31に戻され、最下段のサイクロン31Dから移送管39を介してセメントキルン32の窯尻部32aに送られる。
【0027】
セメントキルン32は、例えば、回転可能な円筒形の炉体32bと、この炉体32bの内部を加熱する主バーナ32cを備える。窯尻部32aから導入された予備加熱後のセメント原料精粉Mは、炉体32bの内部で主バーナ32cによって加熱される。
【0028】
セメントキルン32で例えば1450℃程度まで加熱されたセメント原料精粉Mは、以下の式(1)~(5)に示す反応が生じる。
CaCO3→CaO+CO2 ・・・(1)
3CaO+SiO2→3CaO・SiO2 ・・・(2)
2CaO+SiO2→2CaO・SiO2 ・・・(3)
3CaO+Al2O3→3CaO・Al2O3 ・・・(4)
4CaO+Al2O3+Fe2O3→4CaO・Al2O3・Fe2O3 ・・・(5)
これにより、最終的にセメントクリンカを構成するケイ酸カルシウム化合物であるエーライト(3CaO・SiO2)およびビーライト(2CaO・SiO2)並びに間隙相であるアルミネート相(3CaO・Al2O3)およびフェライト相(4CaO・Al2O3・Fe2O3)が生成される。
【0029】
クリンカクーラー33は、例えば冷却ファンなどから構成され、セメントキルン32で生成された高温のセメントクリンカを冷却する。こうして冷却されたセメントクリンカは、仕上工程において更に粉砕や分級が行われてセメントとなる。
【0030】
一方、このクリンカクーラー33で高温のセメントクリンカを冷却する際に生じた高温の抽気ガスC2は、クリンカクーラー33と仮焼炉34とを接続する抽気ダクト41を介して仮焼炉34に送られる。この抽気ガスC2は、例えば、800~1000℃程度に加熱されている。本実施形態では、この抽気ダクト41は、後述する二酸化炭素製造装置10における高温雰囲気場Hを構成する。
【0031】
次に、本発明の二酸化炭素製造装置の構成、作用を説明する。二酸化炭素製造装置10は、二酸化炭素を含むガスGを循環させるガス循環ライン11と、このガス循環ライン11に順に配された第1熱交換器(熱交換器)12、反応器13、および分離器14と、ガス循環ライン11に接続された原料粉体供給ライン21、二酸化炭素回収ライン22、および反応温度低下手段23とを備えている。また、ガス循環ライン11には、さらに第2熱交換器15および循環ポンプ16が配されている。
【0032】
ガス循環ライン11は、二酸化炭素を含むガスGが流れるガス流路であり、環状に形成されて、二酸化炭素を含むガスGが循環する。
図1においては、反時計回り方向に二酸化炭素を含むガスGが循環している。なお、このガス循環ライン11の一部区間には、後述する生成原料粉体であるセメント原料精粉Mも流れる。また、ガス循環ライン11を流れる二酸化炭素を含むガスGの二酸化炭素の濃度は、ガス循環ライン11全体で必ずしも一様とは限らず、区間によって二酸化炭素の濃度が異なることもある。本実施形態においては、ガス循環ライン11を流れる二酸化炭素を含むガスGに含まれる二酸化炭素の濃度は、95vol%以上、100vol%以下の範囲とされる。
【0033】
ガス循環ライン11は、高温環境、例えば800℃以上の温度に耐えうる材料、例えば炭化ケイ素やアルミナ、ジルコニアなど、またはそれらを含む材料によって形成されている。更に、これら材料のうち、石灰石に対して反応性の低い材料を用いることがより好ましい。なお、ガス循環ライン11のうち、第1熱交換器12や反応器13が形成されている部分は、更に高温の850℃程度まで耐えうる材料によって形成されていればよい。
【0034】
第1熱交換器12(熱交換器)は、ガス循環ライン11を流れる二酸化炭素を含むガスGと、高温雰囲気場H、即ち抽気ダクト41を流れる高温の抽気ガスC2との間で熱交換を行う。高温雰囲気場Hは、第1熱交換器12に流入する側のガス循環ライン11の温度よりも高温とする。例えば、第1熱交換器12に入る部分のガス循環ライン11の温度は600℃程度であり、高温雰囲気場Hは900℃程度である。こうした高温雰囲気場Hとの間で熱交換を行うことにより、ガス循環ライン11を流れる二酸化炭素を含むガスGは、例えば850℃程度まで加熱される。
【0035】
図2は、第1熱交換器の一例を示す模式図である。
第1熱交換器12は、本実施形態においては、高温雰囲気場Hの一例であるセメント製造装置30の抽気ダクト41に形成されている。この抽気ダクト41の内部には、クリンカクーラー33から仮焼炉34に向かう例えば800~1000℃程度の高温の抽気ガスC2が流れている。
【0036】
第1熱交換器12は、内管12aと外管12bとを備えた二重管構造を成し、第1熱交換器12に流入した二酸化炭素を含むガスGは内管12aの内側を流れ、内管12aの端部から外管12bの内側に流出して、更に内管12aと外管12bとの間を流れる。ガス循環ライン11は、第1熱交換器12においては、内管12aと外管12bとからなる二酸化炭素を含むガスGの流路から構成される。
【0037】
第1熱交換器12を構成する内管12aや外管12bは、例えば炭化ケイ素(SiC)によって形成されている。炭化ケイ素は、1000℃程度の高温環境であっても、二酸化炭素を含むガスGや、セメント製造装置30のプレヒーター31、セメントキルン32、クリンカクーラー33、仮焼炉34などから排出される燃焼ガス由来の揮発性有機化合物(VOC)、一酸化炭素、窒素酸化物、硫黄酸化物等の不純物を含むガスなどに対して優れた耐蝕性を有し、かつ、熱伝導性に優れている。このような構成の第1熱交換器12によれば、二酸化炭素を含むガスGと抽気ガスC2との間で、長期間にわたって効率的に熱交換を行うことができる。
【0038】
再び
図1を参照して、本実施形態では、第1熱交換器12において、ガス循環ライン11と熱交換を行う高温雰囲気場Hは、セメント製造装置30におけるクリンカクーラー33と仮焼炉34とを接続する抽気ダクト41の内部としているが、高温雰囲気場Hは、抽気ダクト41の内部以外にも、セメント製造装置30における高温部分、例えば温度が800~1000℃程度となるセメントキルン32、クリンカクーラー33、プレヒーター31、仮焼炉34のうち、少なくともいずれか1つであればよい。
【0039】
ガス循環ライン11における第1熱交換器12の下流側の反応器13には、二酸化炭素の生成原料粉体であるセメント原料精粉Mを供給する原料粉体供給ライン21が接続される。この原料粉体供給ライン21は、セメント製造装置30のプレヒーター31で例えば750℃程度まで加熱されたセメント原料精粉(生成原料粉体)Mを反応器13に供給する。原料粉体供給ライン21から供給されたセメント原料精粉Mは、反応器13内で第1熱交換器12で加熱された二酸化炭素を含むガスGに直接接触して、脱炭酸反応を生じる。
【0040】
なお、本実施形態では、原料粉体供給ライン21は、反応器13に接続される構成になっているが、これ以外にも、例えば、第1熱交換器12と反応器13との間(反応器13の上流側)に接続される構成であってもよい。また、二酸化炭素の生成原料粉体は、セメント原料精粉M以外にも、高純度の石灰石粉末などであってもよい。
【0041】
図3は、反応器の一例を示す模式図である。
反応器13は、例えば、筒状の反応容器25を備える。この反応容器25は、例えば、ガスGの滞留時間を長くして、反応促進を促すため、ガス循環ライン11を構成する配管よりも直径以上の反応管であればよい。反応容器25はガス循環ライン11の一部を成し、一端25aから他端25bに向けて第1熱交換器12で加熱された二酸化炭素を含むガスGが流れる。また、この反応容器25の一端25a寄りには原料粉体供給ライン21が接続され、反応容器25内にセメント原料精粉Mが所定の流量で供給される。
【0042】
反応器13は、反応容器25内において、第1熱交換器12によって850℃程度まで加熱された二酸化炭素を含むガスGに対して、プレヒーター31で750℃程度まで加熱されたセメント原料精粉Mを接触させることにより、セメント原料精粉Mを加熱して、セメント原料精粉Mの主成分である石灰石(CaCO3)の脱炭酸反応(熱分解反応:下記の式(6)を参照)を起こさせる。
CaCO3→CaO+CO2 ・・・(6)
【0043】
なお、必ずしも投入されたセメント原料精粉Mの全量が反応器13内で脱炭酸反応が完結するとは限らず、例えば、反応器13から下流側の分離器14に至るガス循環ライン11の配管内で脱炭酸反応が生じる場合もあり、脱炭酸反応の発生領域を限定するものでは無い。
【0044】
反応器13(およびこれを含むガス循環ライン11全体)では、ガス循環ライン11に接続された二酸化炭素回収ライン22の途中に設けられた反応温度低下手段23によって、脱炭酸反応が生じる反応温度の下限が低くされている。具体的には、本実施形態では、反応温度低下手段23は減圧ポンプ24からなり、この減圧ポンプ24によって、反応器13を含むガス循環ライン11全体が減圧されている。
【0045】
ここで、濃度範囲を90%以上、100%以下、望ましくは95%以上、100%以下、より望ましくは98%以上、100%以下とされた高濃度の二酸化炭素で満たされた空間内で石灰石(CaCO3)の脱炭酸が生じる温度を反応温度と定義する。以下の説明において、反応温度といった場合、上述したように定義された温度を意味する。
【0046】
図4は、石灰石の主成分であるCaCO
3の脱炭酸反応における二酸化炭素の平衡蒸気圧曲線である。この
図4に示すグラフによれば、反応時の圧力が低くなる程、反応温度は低下している。例えば、圧力が1atmの場合、893℃以上でないと式(4)に示す石灰石の脱炭酸反応は進行しない。一方、圧力が0.33atmの場合、823℃以上であれば式(4)に示す石灰石の脱炭酸反応が進行する。よって、反応器13内を減圧することにより、反応温度を低下させることができる。本実施形態では、減圧ポンプ24によって、反応器13内の圧力を0.33atmにしている。これにより、大気圧環境での脱炭酸反応と比較して、反応温度を約70℃低下させることができる。
【0047】
このように、反応器13でセメント原料精粉Mの主成分である石灰石を脱炭酸反応させることによって二酸化炭素が生成され、ガス循環ライン11を流れる二酸化炭素の量が増加する。なお、この反応器13で生じた二酸化炭素の生成量に相当する分の二酸化炭素を含むガスGは、後述する二酸化炭素回収ライン22で回収される。
【0048】
分離器14は、ガス循環ライン11を流れる二酸化炭素を含むガスGと、反応器13で生じた生石灰(CaO)および未反応のセメント原料精粉Mとを分離(固気分離)する。ここで分離された生石灰(CaO)および未反応のセメント原料精粉Mは、セメント製造装置30に送られて、セメント原料精粉Mとして利用される。
【0049】
第2熱交換器15は、ガス循環ライン11において、二酸化炭素回収ライン22が接続された位置を挟んだ上流側と下流側との間で、ガス循環ライン11を流れる二酸化炭素を含むガスGどうしの熱交換を行う。具体的には、反応器13で脱炭酸反応を行った750℃程度の二酸化炭素を含むガスGと、下流側で二酸化炭素を含むガスGの一部が二酸化炭素回収ライン22に回収された残りの比較的低温、例えば300℃程度の二酸化炭素を含むガスGとの間で熱交換が行われる。これによって、反応器13で脱炭酸反応を行った二酸化炭素を含むガスGは300℃程度まで温度が低下し、一方で第1熱交換器12に入る直前の二酸化炭素を含むガスGは600℃程度まで温度が高められる。
【0050】
循環ポンプ16は、ガス循環ライン11全体で二酸化炭素を含むガスGを循環させる。この循環ポンプ16を前述した第2熱交換器15の下流側に配置することにより、第2熱交換器15による熱交換で温度が300℃程度まで下げられた二酸化炭素を含むガスGが循環ポンプ16に流入するので、例えば500℃以上の高温ガスの流入による循環ポンプ16の破損や劣化を防止できる。
【0051】
二酸化炭素回収ライン22は、循環ポンプ16の下流側に接続され、ここから高濃度の二酸化炭素を含むガスGが回収される。この二酸化炭素回収ライン22で回収される二酸化炭素を含むガスGの量(単位時間当たりの回収量)は、例えば、反応器13でセメント原料精粉Mの脱炭酸反応により生成させた二酸化炭素の生成量(単位時間当たりの生成量)と同一になるように調整される。これにより、ガス循環ライン11を流れる二酸化炭素を含むガスGの流量は一定に保たれる。
【0052】
二酸化炭素回収ライン22を介してガス循環ライン11の系外に回収される高濃度の二酸化炭素を含むガスGは、二酸化炭素の濃度が95vol%以上、例えば二酸化炭素の濃度が100vol%である。反応器13でセメント原料精粉Mに含まれる石灰石の脱炭酸反応を行うことにより、このような高濃度の二酸化炭素を含むガスGを得ることができる。
【0053】
反応温度低下手段23は、例えば、ガス循環ライン11に接続される二酸化炭素回収ライン22の途中に設けられている。本実施形態では、反応温度低下手段23として、ガス循環ライン11を介して反応器13を減圧可能な減圧ポンプ24を備えている。こうした減圧ポンプ24によって反応器13を大気圧よりも減圧させることで、セメント原料精粉Mに含まれる石灰石の脱炭酸反応の反応温度を低下させることができる。
なお、この反応温度低下手段23を成す減圧ポンプ24は、二酸化炭素回収ライン22に接続する以外にも、反応器13を減圧可能であれば、ガス循環ライン11の任意の場所に接続することができる。
【0054】
(二酸化炭素製造方法)
以上のような構成の二酸化炭素製造装置10を用いた、本発明の二酸化炭素製造方法を説明する。
図5は、本発明の二酸化炭素製造方法を段階的に示したフローチャートである。
二酸化炭素製造装置10を用いて、95vol%以上の高濃度の二酸化炭素を製造する際には、まず、循環ポンプ16によって、ガス循環ライン11に二酸化炭素を含むガスGを循環させる。
【0055】
また、セメント製造装置30のプレヒーター31から、例えば、750℃程度まで加熱されたセメント原料精粉(生成原料粉体)Mを、原料粉体供給ライン21を介してガス循環ライン11に供給する。また、反応温度低下手段23である減圧ポンプ24を動作させて、ガス循環ライン11を介して反応器13を例えば0.33atm程度まで減圧させる。
【0056】
そして、セメント製造装置30に設けられた高温雰囲気場Hである抽気ダクト41に形成された第1熱交換器(熱交換器)12において、抽気ダクト41を流れる高温の抽気ガスC2と、ガス循環ライン11を流れる二酸化炭素を含むガスGとの間で熱交換を行い、反応器13に入る二酸化炭素を含むガスGの温度を例えば850℃程度まで加熱する(加熱工程S1)。
【0057】
なお、第1熱交換器12を設ける高温雰囲気場Hは、クリンカクーラー33と仮焼炉34とを接続する抽気ダクト41以外にも、セメント製造装置30における高温部分、例えばセメントキルン32、クリンカクーラー33、プレヒーター31、仮焼炉34のうち、少なくともいずれか1つであればよい。
【0058】
次に、反応器13において、加熱工程S1で加熱された二酸化炭素を含むガスGを熱源として用いてセメント原料精粉Mを加熱する。セメント原料精粉Mは、高温の二酸化炭素を含むガスGによって、例えば850℃~900℃程度まで加熱される。これにより、セメント原料精粉Mの主成分である石灰石(CaO3)は、脱炭酸反応によって二酸化炭素を生成する(反応工程S2)。
【0059】
反応器13は、反応温度低下手段23である減圧ポンプ24によって、例えば、0.33atm程度まで減圧されている。これにより、石灰石の脱炭酸反応が生じる反応温度は、823℃程度まで低下している(
図4を参照)。セメント原料精粉Mは、こうした減圧ポンプ24による減圧によって、大気圧での反応温度である893℃よりも低い850℃程度であっても脱炭酸反応が進行し、主成分である石灰石は二酸化炭素と生石灰(CaO)に分解する。
【0060】
反応温度低下手段23によって反応器13を減圧する際に、反応器13の圧力は0.1atm以上、大気圧(1atm)未満の範囲にすることが好ましい。セメント原料精粉Mに含まれる石灰石の脱炭酸反応の反応圧力が大気圧以上であると、脱炭酸反応の反応温度が最低でも893℃以上となり、セメント製造装置30の高温雰囲気場Hなどで二酸化炭素を含むガスGを加熱しても昇温が不十分となり、脱炭酸反応が進行しない虞がある。 一方、セメント原料精粉Mの脱炭酸反応の反応圧力が0.1atm以下であると、反応温度は低下するが、そのような低温では反応速度が大きく低下するため単位時間当たりの二酸化炭素の生成量の増加が期待できず実用的ではない。
【0061】
反応器13においては、セメント原料精粉Mの主成分である石灰石(CaCO3)が、それぞれの粒子の外側から内側に向かって脱炭酸反応が進行する。このため、石灰石(CaCO3)のそれぞれの粒子は、反応時間が経過するほど、粒子の外側に反応済みの物質(CaO)が堆積し、中心側の未反応のCaCO3から生じた二酸化炭素は、この反応済みの物質(CaO)を通過して粒子の外部に放出される。よって、反応時間が経過するほど、CaCO3のそれぞれの粒子は、反応速度が低下する。
【0062】
このような、CaCO3粒子の脱炭酸反応の反応速度は、以下の式(7)で示される。 K=(1-X)2/3×A・exp(-E/RGT)×{1-(PAll・PCO2)/PCO2_eq}…(7)
K:反応速度[1/s]
A:2.2×108[1/s]
E:2.0×105[J/mol]
RG:気体定数 8.314
T:温度[K]
PAll:全圧[atm]
PCO2:CO2分圧[atm]
PCO2_eq:平衡CO2分圧[atm]
X:反応率
【0063】
この式(7)では、CaCO3粒子を球形とした場合の反応速度を示しており、二酸化炭素ガス境膜拡散による影響を考慮し、所定温度での二酸化炭素の平衡分圧を求め、反応器13内の二酸化炭素分圧と全圧の積との比で補正している。反応量は反応速度係数と反応器13の滞留時間の積により算出した。平衡分圧の温度依存性は熱天秤などによる実測値を用いることができる。
【0064】
こうした反応工程S2では、ガス循環ライン11の内圧および加熱工程S1で加熱された後の二酸化炭素を含むガスGの温度に基づいて、二酸化炭素の生成量が計算上の最大値±10%の範囲になるように、脱炭酸反応における反応圧力とセメント原料精粉(生成原料粉体)Mのガス循環ライン11への供給量とを制御する。
【0065】
以下、反応工程S2における脱炭酸反応の制御について説明する。
例えば、
図1に示すセメント製造装置30など、セメント製造プロセスからセメント原料精粉Mなどの石灰石粉末を一部分取する場合、二酸化炭素製造装置10がセメント製造装置30に近接して配置されていれば、石灰石の温度は大きく変動しないと考えることができる。よって、反応器13における反応時間も流動層などでは一定と見做せるので、考慮すべき項目は石灰石の投入量、圧力(またはCO
2分圧)、および反応器13内を流れる二酸化炭素を含むガスGのガス温度である。
【0066】
本発明の発明者らは、二酸化炭素を含むガスGの全圧(またはCO2分圧)および第1熱交換器(熱交換器)12において加熱された後の二酸化炭素を含むガスGの温度を測定し、その温度に応じて、その時々での二酸化炭素生成量(またはCO2濃度)を最大にするための製造条件である脱炭酸反応の反応圧力(またはCO2分圧)、および石灰石粉末の投入量)を、化学工学計算にて事前に決定し、これによって反応器13における脱炭酸反応を制御する手法を見出した。
【0067】
まず、予め実測もしくは計算によって、反応圧力ごとの石灰石投入量と二酸化炭素生成量の関係から、最小二乗法を用いて近似曲線を作成する。そして、各条件における最大の二酸化炭素生成量とその時の石灰石投入量を求める。なお、石灰石反応率と二酸化炭素生成量との関係、石灰石反応率と石灰石投入量との関係、および脱炭酸反応の反応後温度と、石灰石反応率から求めても良い。
【0068】
こうした関係を示す計算例として、
図6に、二酸化炭素生成量と石灰石投入量との関係のグラフを示す。また、
図7に、石灰石反応率と二酸化炭素生成量との関係のグラフを示す。また、
図8に、石灰石反応率と石灰石投入量との関係のグラフを示す。また、
図9に、反応後温度と石灰石反応率との関係のグラフを示す。なお、これら計算例は、反応圧力を0.15atm,0.20atm,0.25atm,0.30atmにそれぞれ設定し、濃度100%の二酸化炭素をガス循環ラインに循環させた場合を条件として設定している。
【0069】
次に、熱交換性能を一定にする、二酸化炭素のエンタルピーを一定とするなどの条件の下、二酸化炭素の温度ごとに、最大二酸化炭素生成量とその時の石灰石投入量とを求める。これにより得られた値を石灰石投入量と最大二酸化炭素生成量のグラフに描画する。その際、基準となる石灰石投入量(L)で横軸を無次元化し、縦軸は単位時間当たりモル基準で最大二酸化炭素生成量CをLで除算した値(C/L)、二酸化炭素を含むガスGのガス循環ライン内での循環量RをLで除算した値も同様に(R/L)として表記する。
【0070】
図10にエンタルピー一定のもとでの二酸化炭素温度と二酸化炭素流量の関係のグラフを示す。そして、
図11に、二酸化炭素の温度および(R/L)ごとに、最大二酸化炭素生成量とその時の石灰石投入量との関係をプロットした計算例のグラフを示す。
図11のグラフにおいて、全圧が同じ条件を結ぶ近似曲線(以下、等圧線と称する)を作成する。また、二酸化炭素温度が同じ条件を結ぶ近似曲線(以下、等温線と称する)を作成する。
【0071】
また、
図11に示すグラフを作成するにあたって、750℃の石灰石を、ガス循環ライン内を流れる熱交換後の二酸化炭素が900℃、12000L/min(0℃換算)となるように生成する二酸化炭素量を調整した、脱炭酸反応を生じる反応器13での反応時間を10秒と仮定し、エンタルピー一定の条件で熱交換後のガス温度が850℃、875℃、900℃、925℃、950℃、さらに全圧を0.15atm、0.20atm、0.30atmの条件で、石灰石投入量を0kg/時から100kg/時まで段階的に変化させた際の二酸化炭素生成量、反応率、反応後温度から、各条件における最大値の二酸化炭素の生成量となる石灰石投入量を求めている。
図12に、二酸化炭素の温度および流量と反応圧力ごとに、最大二酸化炭素生成量とその時の石灰石投入量との関係をプロットした計算例のグラフを示す。
【0072】
そして、
図13(
図12のグラフの要部拡大図)に示すように、所望する二酸化炭素生成量と、想定される石灰石投入量の値を石灰石投入量と最大二酸化炭素生成量のグラフ中に描き、点Xとする。この点Xを囲む2本の等圧線と2本の等温線のそれぞれの交点を点A,B,C,Dとする。
【0073】
こうして作成した交点A,B,C,Dをそれぞれ結ぶ線分A-B,B-C,C-D,A-Dで区画される矩形の領域を、
図14に示すように、例えば10等分程度に分割する。この分割数を細かくするほど、計算精度を高めることができる。そして、分割点同士を結ぶ格子状の補助線(
図14中の一点鎖線)を作成する。
【0074】
そして、所望する二酸化炭素生成量と、想定される石灰石投入量を示す点Xと、この点Xを囲む等圧線、等温線との距離を調べ、距離に応じて案分することによって、点Xを満たす反応圧力と二酸化炭素温度を求めることができる。
【0075】
なお、線分A-B,B-C,C-D,A-Dが等圧線、等温線から著しく外れる場合は、等圧線もしくは等温線の間隔を狭めることで計算精度を高めることができる。
以上のように、脱炭酸反応における反応圧力とセメント原料精粉(生成原料粉体)Mのガス循環ライン11への供給量とを予め算出して制御することにより、二酸化炭素を生成量を最大にすることができ、効率的に脱炭酸反応による二酸化炭素の生成を行うことができる。
【0076】
図12、13に示した反応工程S2での算出例は、二酸化炭素の生成量を33L/min、石灰石投入量を30kg/時を満たす、反応圧力と二酸化炭素温度を算出したものである。
二酸化炭素温度を(925×5+900×5)/10=912.5(℃)、反応圧力を(0.30×4+0.25×6)/10=0.27(atm)とすると、二酸化炭素生成量:32.9L/min、石灰石投入量:30.9kg/時となり、二酸化炭素の生成量を33L/min、石灰石投入量を30kg/時に設定した場合に、それぞれ-0.5%、+3.0%の誤差で算出することができる。
【0077】
なお、点Xを通るまで分割数を増やすことでさらに予測精度を高めることもできる。このような実施形態において作成した図は、基準となる石灰石投入量(L)を19.24kg/時(192.2mol/時)として無次元化することで、
図11と同様のものを得ることができる。
【0078】
反応器13の下流側のガス循環ライン11には、二酸化炭素を含むガスGと、脱炭酸反応で生じた生石灰および反応器13で反応せずに残った未反応のセメント原料精粉Mなどが分離器14に向けて流れる。
【0079】
なお、こうした制御において、実際の運転における高温場の温度や減圧ポンプの出力などの変動に伴う二酸化炭素生成量の変動や、過大な量の石灰石を投入するための設備大型化に伴う二酸化炭素の生成量とのコストパフォーマンスを考慮すると、
図15および
図16に示すように、計算における二酸化炭素の最大生成量から±10%の範囲となるように石灰石の投入量を制御すれば、同等の効果を得ることが出来ることから、二酸化炭素の生成量が計算上の最大値±10%の範囲となるように制御することが好ましい。
【0080】
分離器14では、二酸化炭素を含むガス(気体)Gと、脱炭酸反応で生じた生石灰および未反応のセメント原料精粉Mなどの粉体(固体)とが分離される(固気分離工程S3)。この分離器14で分離された生石灰(CaO)および未反応のセメント原料精粉Mは抽気ダクト41に導入され、セメント製造装置30の仮焼炉34に送られて、セメント原料精粉Mとして有効利用される。
【0081】
分離器14を経て固気分離された二酸化炭素を含むガスGは温度が750℃程度であり、このままガス循環ライン11の下流側の循環ポンプ16に入ると循環ポンプ16が熱によって損傷する懸念がある。本実施形態では、循環ポンプ16と分離器14との間に第2熱交換器15を配している。そして、この第2熱交換器15に流入する750℃程度の二酸化炭素を含むガスGは、二酸化炭素回収ライン22の接続位置よりも下流側で温度が300℃程度まで低下した、ガス循環ライン11を流れる二酸化炭素を含むガスGとの間で熱交換を行う。
【0082】
これにより、循環ポンプ16に流入する二酸化炭素を含むガスGは、温度が例えば300℃程度まで低下し、循環ポンプ16の熱による破損や劣化を防止する。一方、循環によって第1熱交換器12に流入する二酸化炭素を含むガスGは、この第2熱交換器15によって例えば600℃程度まで昇温され、第1熱交換器12において二酸化炭素を含むガスGを850℃程度まで確実に昇温させるのに役立つ。
なお、こうした第2熱交換器15は、必ず設ける必要は無く、循環ポンプ16の特性や第1熱交換器12に流入する二酸化炭素を含むガスGの温度によっては省略することもできる。
【0083】
循環ポンプ16を経た二酸化炭素を含むガスGの一部は、ガス循環ライン11に接続された二酸化炭素回収ライン22から、ガス循環ライン11の系外に回収される(回収工程S4)。二酸化炭素回収ライン22を介して回収される二酸化炭素を含むガスGの二酸化炭素の濃度は、95vol%以上、例えば100vol%である。
【0084】
この回収工程S4においては、二酸化炭素回収ライン22を経て回収される二酸化炭素を含むガスGの量(単位時間当たりの回収量)は、例えば、反応器13でセメント原料精粉Mの脱炭酸反応により生成させた二酸化炭素の生成量(単位時間当たりの生成量)と同一になるように調整される。これにより、ガス循環ライン11を循環する二酸化炭素を含むガスGの流量、圧力を一定に保つことができる。
【0085】
この後、二酸化炭素回収ライン22で回収されなかった二酸化炭素を含むガスGは、第2熱交換器15によって例えば600℃程度まで加熱された後、再び加熱工程S1から上述した各工程を繰り返す。
【0086】
以上のように、本発明の二酸化炭素製造装置10、およびこれを用いた二酸化炭素製造方法によれば、ガス循環ライン11に二酸化炭素を含むガスGを循環させ、高温雰囲気場Hで二酸化炭素を含むガスGを加熱し、この加熱されたガスを熱源として用いて、ガス循環ラインに供給されたセメント原料精粉(生成原料粉体)Mを加熱して脱炭酸反応を生じさせることにより、95vol%以上の高濃度の二酸化炭素を含むガスGを連続して効率的に生成することができる。高濃度の二酸化炭素は、直接、液化することが可能であり、回収後の二酸化炭素を効率的に運搬、貯蔵することができる。
【0087】
そして、脱炭酸反応を行う際に、反応温度低下手段、例えば真空ポンプによって反応器13を減圧して反応温度を低下させることにより、大気圧環境での脱炭酸反応のような900℃近い高温にする必要が無いので、最高温度が800~850℃程度のセメント製造装置の高温雰囲気場Hを利用して二酸化炭素を含むガスGを加熱し、このガスを熱源にしてセメント原料精粉Mから二酸化炭素を低コストに生成することができる。
【0088】
また、本発明によれば、高濃度の二酸化炭素を含むガスGの生成源として、石炭、石油、天然ガス等の化石燃料を燃焼させて生じる二酸化炭素を含まないので、これら燃焼排ガスに含まれる揮発性有機化合物(VOC)、一酸化炭素、窒素酸化物、硫黄酸化物等の人体や植物に有害な不純物を含む懸念が無く、食品原料などに適用可能な高濃度の二酸化炭素を効率的に製造することができる。
【0089】
更に、セメント原料精粉Mに含まれる石灰石に脱炭酸反応を起こさせるための熱源となる二酸化炭素を含むガスGを加熱する第1熱交換器には、石灰石を含むセメント原料精粉などの固体(粉体)は流入しないので、第1熱交換器(熱交換器)12にこれら固体(粉体)が付着して流路を閉塞することが無く、低メンテナンスコストで安定して高濃度の二酸化炭素を製造することができる。
【0090】
本発明の二酸化炭素製造方法によれば、反応工程において、ガス循環ライン11の内圧および加熱工程S1で加熱された後の二酸化炭素を含むガスの温度に基づいて、二酸化炭素の生成量が最大になるように、脱炭酸反応における反応圧力と生成原料粉体のガス循環ライン11への供給量とを制御することによって、最大限効率的に二酸化炭素を生成させることができる。これにより、高濃度の二酸化炭素を低コストで大量に製造することができる。
【0091】
(二酸化炭素製造装置の設計方法)
本発明の二酸化炭素製造装置の設計方法は、ガス循環ラインの内圧および加熱工程で加熱された後の二酸化炭素を含むガスの温度に基づいて、二酸化炭素の生成量が最大値±10%の範囲内になるように、脱炭酸反応における反応圧力と生成原料粉体のガス循環ラインへの供給量とを決定し、この決定に基づいて二酸化炭素製造装置の設計を行うものである。
【0092】
具体的には、二酸化炭素製造装置の設計にあたっては、上述した二酸化炭素製造方法に基づいて、所定の反応圧力になるように反応温度低下手段である真空ポンプの能力を設定し、また、第1熱交換器(熱交換器)において二酸化炭素を含むガスの熱交換において必要となる加熱温度を設定することで、第1熱交換器を設置するための高温雰囲気場Hを選定するなど、二酸化炭素の生成効率を最大限に高めた二酸化炭素製造装置を設計することができる。
【0093】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0094】
10…二酸化炭素製造装置
11…ガス循環ライン
12…第1熱交換器(熱交換器)
13…反応器
14…分離器
15…第2熱交換器
16…循環ポンプ
21…原料粉体供給ライン
22…二酸化炭素回収ライン
23…反応温度低下手段
24…減圧ポンプ
25…反応容器
31…プレヒーター
32…セメントキルン
33…クリンカクーラー
34…仮焼炉
H…高温雰囲気場
G…二酸化炭素を含むガス
M…セメント原料精粉