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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】火災検出手段及び火災検出方法
(51)【国際特許分類】
   G08B 17/00 20060101AFI20241007BHJP
   G08B 17/10 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
G08B17/00 C
G08B17/10 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020025366
(22)【出願日】2020-02-18
(65)【公開番号】P2021131614
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2023-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003403
【氏名又は名称】ホーチキ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079359
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 進
(72)【発明者】
【氏名】江幡 弘道
(72)【発明者】
【氏名】岡安 克也
(72)【発明者】
【氏名】野田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】金 天海
(72)【発明者】
【氏名】内海 熙大
(72)【発明者】
【氏名】西岡 拓馬
【審査官】松原 徳久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/189125(WO,A1)
【文献】特開2004-341661(JP,A)
【文献】特開2008-077303(JP,A)
【文献】特開平06-325270(JP,A)
【文献】米国特許第07969296(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08B17/00-17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視領域の火災を検出する火災検出手段であって、
火災に関する所定の物理量を検出する検出手段と、
前記検出手段で検出した物理量の検出値が所定の火災判断条件を充足したときに火災と判断する火災判断手段と、
前記検出手段で検出した前記物理量の検出値に基づいて前記監視領域の状態として、前記監視領域が火災、非火災又は通常に該当する状態のいずれであるかを推定する状態推定手段と、
を備え、
前記状態推定手段で推定した結果に基づいて前記火災判断条件を変更する、
ことを特徴とする火災検出手段。
【請求項2】
請求項1記載の火災検出手段に於いて、
前記状態推定手段は、前記監視領域の状態がラベリングされた前記物理量の検出値に基づく教師データを入力して機械学習された上で、前記監視領域状態推定する、
ことを特徴とする火災検出手段。
【請求項3】
請求項1又は2記載の火災検出手段に於いて、
前記状態推定手段で前記火災に該当する状態を推定して記火災判断条件を火災と判断しやすい条件に変更した後、は前記状態推定手段で前記非火災に該当する状態を推定して記火災判断条件を火災と判断しにくい条件に変更した後に前記状態推定手段で前記通常に該当する状態と推定したときには、変更した火災判断条件を初期設定された火災判断条件に戻す、
ことを特徴とする火災検出手段。
【請求項4】
監視領域の火災を検出する火災検出手段であって、
火災に関する所定の物理量として前記監視領域の煙濃度と温度の組を検出する検出手段と、
前記検出手段で検出した前記物理量の検出値が所定の火災判断条件を充足したときに火災と判断する火災判断手段と、
前記検出手段で検出した前記物理量の検出値に基づいて前記監視領域の状態を推定する状態推定手段と、
を備え、
前記状態推定手段で推定した結果に基づいて前記火災判断条件を変更する、
ことを特徴とする火災検出手段。
【請求項5】
監視領域の火災を検出する火災検出方法であって、
検出手段により、火災に関する所定の物理量を検出し、
火災判断手段により、前記検出手段で検出した物理量の検出値が所定の火災判断条件を充足したときに火災と判断し、
状態推定手段により、前記検出手段で検出した前記物理量の検出値に基づいて前記監視領域の状態として、前記監視領域が火災、非火災又は通常に該当する状態のいずれであるかを推定し、
前記状態推定手段で推定した結果に基づいて前記火災判断条件を変更する、
ことを特徴とする火災検出方法。
【請求項6】
請求項5記載の火災検出方法に於いて、
前記状態推定手段は、前記監視領域の状態がラベリングされた前記物理量の検出値に基づく教師データを入力して機械学習された上で、前記監視領域状態推定する、
ことを特徴とする火災検出方法。
【請求項7】
請求項5又は6記載の火災検出方法に於いて、
前記状態推定手段で前記火災に該当する状態を推定して記火災判断条件を火災と判断しやすい条件に変更した後、は前記状態推定手段で前記非火災に該当する状態を推定して記火災判断条件を火災と判断しにくい条件に変更した後に前記状態推定手段で前記通常に該当する状態と推定したときには、変更した火災判断条件を初期設定された火災判断条件に戻す、
ことを特徴とする火災検出方法。
【請求項8】
監視領域の火災を検出する火災検出方法であって、
検出手段により、火災に関する所定の物理量として、前記監視領域の煙濃度と温度の組を検出し、
火災判断手段により、前記検出手段で検出した前記物理量の検出値が所定の火災判断条件を充足したときに火災と判断し、
状態推定手段により、前記検出手段で検出した前記物理量の検出値に基づいて前記監視領域の状態を推定し、
前記状態推定手段で推定した結果に基づいて前記火災判断条件を変更する、
ことを特徴とする火災検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災を判断する感知器等の火災検出手段及び火災検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、感知器等の火災検出手段は、例えば、火災による煙濃度や温度が所定の火災判断条件を充足したときに火災と判断し、例えば、受信機で火災警報動作を行わせている。
【0003】
一方、近年にあっては、火災に関連する煙濃度や温度等の検出値を用いた機械学習により火災を判断する火災検出手段が提案されている(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-325211号公報
【文献】特開2019-144869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、感知器等は予め火災判断条件を決め、この火災判断条件を充足したときに火災と判断しており、どのようにして火災を判断したかの根拠を確定できるが、火災でない場合でも火災判断条件を充足すると火災と判断してしまうため、わずらわしさを生じるという問題があった。一方、機械学習による火災検出手段は、火災と火災でない事象を区別して判定することにより火災の判断の正確性が向上することが期待できる。しかし、どのようにして火災を判断したかの根拠が未確定であり、火災判断が不確実になる可能性があり、機械学習の火災判断に基づき火災警報動作を行うことは、リスクが高いという問題がある。
【0006】
本発明は、機械学習との連携により迅速で確実な火災判断を可能とする火災検出手段及び火災検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(火災検出手段1:火災、非火災又は通常に該当する状態の推定)
本発明は、監視領域の火災を検出する火災検出手段であって、
火災に関する所定の物理量を検出する検出手段と、
検出手段で検出した物理量の検出値が所定の火災判断条件を充足したときに火災と判断する火災判断手段と、
検出手段で検出した物理量の検出値に基づいて監視領域の状態として、監視領域が火災、非火災又は通常に該当する状態のいずれであるかを推定する状態推定手段と、
状態推定手段で推定した結果に基づいて火災判断条件を変更する、
ことを特徴とする。
【0010】
(機械学習による推定)
状態推定手段は、監視領域の状態がラベリングされた物理量の検出値に基づく教師データを入力して機械学習された上で、監視領域状態推定する。
【0011】
(火災判断条件の変更)
状態推定手段で火災に該当する状態を推定して、火災判断条件を火災と判断しやすい条件に変更した後、は状態推定手段で非火災に該当する状態を推定して、火災判断条件を火災と判断しにくい条件に変更した後に、状態推定手段で通常に該当する状態と推定したときには、変更した火災判断条件を初期設定された火災判断条件に戻す
【0013】
火災検出手段2:煙濃度と温度の組の検出
また、本発明は、監視領域の火災を検出する火災検出手段であって、
火災に関する所定の物理量として監視領域の煙濃度と温度の組を検出する検出手段と、
検出手段で検出した物理量の検出値が所定の火災判断条件を充足したときに火災と判断する火災判断手段と、
検出手段で検出した物理量の検出値に基づいて監視領域の状態を推定する状態推定手段と、
を備え、
状態推定手段で推定した結果に基づいて前記火災判断条件を変更する、
ことを特徴とする
【0014】
(火災検出方法1:火災、非火災又は通常に該当する状態の推定)
本発明は、監視領域の火災を検出する火災検出方法であって、
検出手段により、火災に関する所定の物理量を検出し、
火災判断手段により、検出手段で検出した物理量の検出値が所定の火災判断条件を充足したときに火災と判断し、
状態推定手段により、検出手段で検出した物理量の検出値に基づいて監視領域の状態として、監視領域が火災、非火災又は通常に該当する状態のいずれであるかを推定し、
状態推定手段で推定した結果に基づいて火災判断条件を変更する、
ことを特徴とする。
【0015】
火災検出方法2:煙濃度と温度の組の検出
また、本発明は、監視領域の火災を検出する火災検出方法であって、
検出手段により、火災に関する所定の物理量として、監視領域の煙濃度と温度の組を検出し、
火災判断手段により、検出手段で検出した物理量の検出値が所定の火災判断条件を充足したときに火災と判断し、
状態推定手段により、検出手段で検出した物理量の検出値に基づいて監視領域の状態を推定し、
状態推定手段で推定した結果に基づいて火災判断条件を変更する、
ことを特徴とする。
【0016】
(機械学習による推定)
状態推定手段は、監視領域の状態がラベリングされた物理量の検出値に基づく教師データを入力して機械学習された上で、監視領域状態推定する。
【0017】
(火災判断条件の変更)
状態推定手段で火災に該当する状態を推定して、火災判断条件を火災と判断しやすい条件に変更した後、は状態推定手段で非火災に該当する状態を推定して、火災判断条件を火災と判断しにくい条件に変更した後に、状態推定手段で通常に該当する状態と推定したときには、変更した火災判断条件を初期設定された火災判断条件に戻す
【発明の効果】
【0018】
(火災検出手段の効果)
本発明の火災検出手段によれば、一例として、監視領域の煙濃度を検出して火災を判断する場合に、監視領域が火災による煙が存在する火災に該当する状態であるかを推定し、この推定結果に基づいて、煙濃度による火災判断条件を変更することで、火災に該当する状態であれば迅速且つ確実に火災と判断する。
【0019】
(非火災を推定する状態推定手段の効果)
本発明の火災検出手段によれば、一例として、監視領域の煙濃度を検出して火災を判断する場合に、監視領域が湯気や煙草の煙などが存在する非火災に該当する状態であるかを推定し、この推定結果に基づいて、煙濃度による火災判断条件を変更することで、非火災に該当する状態であれば、湯気や煙草の煙などによる煙濃度から誤って火災と判断して非火災報を出してしまうことを抑制可能とする。
【0020】
(火災又は非火災に該当する状態の機械学習による推定の効果)
状態推定手段は、火災教師データと非火災教師データにより機械学習された手段により、監視領域が火災に該当する状態であるか及び又は非火災に該当する状態であるかを推定して火災判断条件を変更しており、機械学習により火災を直接判断するものではないことから、機械学習によりどのように火災を判断したかが未確定であっても、火災判断に対するリスクは少ない。また、機械学習に基づく火災又は非火災に該当する状態の推定結果により火災判断条件が変更されることで、火災に該当する状態での迅速且つ確実な火災判断が可能となり、また、湯気や煙草の煙等の非火災に該当する状態での非火災報を確実に防止可能とする。
【0021】
(通常に該当する状態の機械学習による推定の効果)
また、状態推定手段は、更に、通常教師データにより機械学習することで、通常に該当する状態であるかを推定することができ、この場合には、火災判断条件を変更することなく維持するといった対応が可能となる。
【0022】
(火災判断条件の変更による効果)
火災に該当する状態を推定したときは、火災と判断しやすくするように、すなわち感度を高くするように火災判断条件を変更することで、迅速且つ確実な火災判断が可能となる。また、非火災に該当する状態を推定したときは、火災と判断しにくくするように、すなわち感度を低下させるように火災判断条件を変更することで、湯気や煙草の煙などによる非火災に該当する状態での煙濃度から誤って火災と判断して非火災報を出してしまうことを抑制可能とする。
【0023】
(閾値及び又は蓄積時間の変更による効果)
また、火災に該当する状態を推定したときは、火災に該当する状態と推定していないときと比較して、閾値を低くする、蓄積時間を短くする、及び又は検出値を大きくするように火災判断条件を変更することで、火災と判断しやすくすることができる。また、非火災に該当する状態を推定したときは、非火災に該当する状態と推定していないときと比較して、閾値を高くする、蓄積時間を長くする、及び又は物理量の検出値を小さくするように火災判断条件を変更することで、火災と判断しにくくすることができる。
【0024】
(煙濃度と温度の組による効果)
検出手段は、火災に関する物理量として監視領域の煙濃度と温度の組を検出しており、例えば火災判断条件は煙濃度に基づいて判断し、一方、学習モデルは、事前に検出された煙濃度と温度を組とする火災教師データ、非火災教師データ、通常教師データにより機械学習し、学習後に、実時間で検出した煙濃度と温度の組を入力して火災、非火災及び又は通常に該当する状態の何れであるかを推定して火災判断条件を適切に変更可能とする。
【0025】
(火災検出方法の効果)
本発明火災検出方法あっては、前述した火災検出手段と同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の火災検出手段の具体的な実施の形態を示した説明図である。
図2図1の状態推定部の機能構成を示した説明図である。
図3】火災検出手段の処理動作を示したフローチャートである。
図4図1の火災検出手段を適用した火災報知設備の実施の形態を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明に係る火災検出手段及び火災検出方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により、この発明が限定されるものではない。
【0028】
[実施の形態の基本的な概念]
実施の形態は、概略的に、火災検出手段及び火災検出方法に関するものである。
【0029】
「火災検出手段」とは、監視領域の火災を検出する手段であり、例えば、煙感知器、火災感知器、火災警報器等を含む概念である。
【0030】
ここで、「監視領域」とは、火災検出手段により監視の対象となる領域であり、一定の広がりをもった屋外或いは屋内の空間であり、例えば、建物の部屋、廊下、階段等の領域を含む概念である。
【0031】
火災検出手段は、一例として受信機と感知器で構成される火災報知設備に適用される手段であり、検出手段、火災判断手段及び状態推定手段を備え、例えば、検出手段は感知器に設けられ、火災判断手段と状態推定手段は受信機に設けられる。
【0032】
「検出手段」とは、火災に関する所定の物理量を検出する手段である。ここで、「火災に関する所定の物理量」とは、例えば、火災により発生する煙、熱、二酸化炭素、一酸化炭素等を含む概念であり、「所定の物理量を検出する」とは、煙濃度、温度、二酸化炭素濃度、一酸化炭素濃度等を検出することである。一例として「煙の煙濃度を検出する」とは、検出手段に流入した煙に発光素子からの検出光を当てたときに散乱する光を受光素子で受光して電気信号に変換し、受光素子が受光信号として出力する電気信号(光電変換信号)を煙濃度の検出値とすることである。
【0033】
また、「火災判断手段」とは、火災に関する所定の物理量の検出値が所定の火災判断条件を充足したときに火災と判断する手段であり、例えば、煙濃度が所定の火災判断条件を充足したときに火災と判断するものである。
【0034】
また、火災判断手段は、火災判断条件として、例えば、第1の火災判断条件又は第2の火災判断条件を設定する。ここで「第1の火災判断条件」とは、火災に関する所定の物理量の検出値が閾値以上のときに火災と判断する条件である。また、「第2の火災判断条件」とは、火災に関する所定の物理量の検出値が所定の閾値以上となっている時間が所定の蓄積時間以上続いたときに火災と判断する条件である。
【0035】
また、「状態推定手段」とは、火災に関する検出手段で検出した物理量の検出値、例えば煙濃度に基づいて監視領域が火災又は非火災に該当する状態であるかを推定する手段である。ここで、「監視領域が火災に該当する状態」とは、所定の物理量例えば煙濃度が、火災による煙により検出されている監視領域の状態をいう。また、「監視領域が非火災に該当する状態」とは、所定の物理量例えば煙濃度が、火災以外の要因例えば湯気や煙草の煙などにより検出されている監視領域の状態をいう。
【0036】
また、状態推定手段は、更に、火災教師データと非火災教師データを入力して機械学習した学習モデル(機械学習アルゴリズム)を備え、監視領域が火災又は非火災に該当する状態であるかを推定する手段である。ここで、「機械学習」とは、機械(コンピュータ)が学習することであり、実施の形態は、例えば、教師ありの機械学習を行うものである。「教師ありの機械学習」とは、入力に対し正解となる出力が解っている事前に与えられた教師ありデータから入力と出力の関係を学習するアルゴリズムであり、学習後に、未知のデータを入力して出力を推定する。また「学習モデル」とは、公知の多層(深層)ニューラルネットワーク(DNN)、ランダムフォレスト、サポートベクトルマシン(SVM)等を含む概念である。また、「火災教師データ」とは、火災に該当する状態がラベリング(付与)された物理量の検出値に基づく値の組、例えば煙濃度と温度の組を含む教師ありデータである。また「非火災教師データ」とは、非火災に該当する状態がラベリング(付与)された物理量の検出値に基づく値の組、例えば煙濃度と温度の組を含む教師ありデータである。
【0037】
また、状態推定手段は、更に、通常教師データを入力して機械学習し、当該学習結果に基づいて監視領域が通常に該当する状態であるかを推定する手段である。ここで、「監視領域が通常に該当する状態」とは、火災に関する所定の物理量の検出値例えば煙濃度が、有意な値として検出されていない監視領域の状態をいう。
【0038】
また、「火災判断手段」は、更に、状態推定手段で推定した結果に基づいて、火災判断条件を変更して火災を判断する手段である。このため、火災判断手段は、状態推定手段で監視領域の火災に該当する状態を推定したときは、火災判断条件を火災と判断しやすくするように変更して、感度を上げる。ここで、「火災判断条件を火災と判断しやすくするように変更する」とは、火災に該当する状態と推定していないときと比較して、
閾値を低くする、
蓄積時間を短くする、及び又は
火災に関する所定の物理量の検出値を大きくする、
ことを意味する。
【0039】
また、火災判断手段は、更に、状態推定手段で監視領域の非火災に該当する状態を推定したときは、火災判断条件を火災と判断しにくくするように変更して、感度を下げる。ここで、「火災判断条件を火災と判断しにくくするように変更する」とは、非火災に該当する状態と推定していないときと比較して、
閾値を高くする、
蓄積時間を長くする、及び又は
火災に関する所定の物理量の検出値を小さくする、
ことを意味する。
【0040】
以下、具体的な実施の例を説明する。以下に示す具体的な実施の形態では、「監視領域」が「建物の部屋」であり、「火災に関する所定の物理量の検出値」が「煙濃度及び温度」であり、「状態推定手段の学習モデル」が「多層ニューラルネットワーク」である場合について説明する。
【0041】
[実施の形態の具体的内容]
次に、実施の形態の具体的内容について説明する。その内容については以下のように分けて説明する。
a.火災検出手段
b.火災判断条件の変更
c.火災検出手段の処理動作
d.火災報知設備
e.本発明の変形例
【0042】
[a.火災検出手段]
まず火災検出手段の実施の形態について、より詳細に説明する。図1に示すように、火災検出手段は、検出手段となる検出部10、火災判断手段となる火災判断部12、状態推定手段となる状態推定部14で構成される。
【0043】
(検出部)
検出部10は、監視領域となる建物の部屋の火災に関する所定の物理量を検出するものであり、その構成や機能は任意であるが、一例として、煙濃度検出部10aと温度検出部10bを備える。煙濃度検出部10aは、例えば公知の散乱光式の煙濃度検出部であり、遮光された検煙空間に流入した煙に発光素子からの検出光を当てたときに散乱する光を受光素子で受光して電気信号に変換し、煙濃度の検出値となる電気信号(光電変換信号)を出力する。温度検出部10bは、サーミスタやPN接合の半導体素子等の温度検出素子を備え、部屋の温度または火災による熱気流を受けたときの温度の検出値となる電気信号を出力する。以下の説明では、検出した煙濃度をDとし、温度をTとする、文字記号で示す場合がある。
【0044】
(火災判断部)
火災判断部12は、検出部10の煙濃度検出部10aで検出した煙濃度Dを入力し、所定の火災判断条件を充足したときに火災と判断する。火災判断部12には火災判断条件として、第1の火災判断条件又は第2の火災判断条件が予め設定されている。
【0045】
第1の火災判断条件は、煙濃度Dが所定の閾値Dth以上のときに火災と判断する。例えば第1の火災判断条件が2種感度の感知器相当であったとすると、煙濃度Dが2種感度に対応した閾値Dth=10(%/m)以上となったときに火災と判断する。
【0046】
なお、「2種感度の感知器」とは、法令で定められた公称作動濃度10(%/m)の感知器のことであり、作動試験として、公称作動濃度×1.5(%/m)の濃度の煙を含む風速20cm~40cm/secの気流に投入したとき、30秒以内に作動し、且つ、不作動試験として、公称作動濃度×0.5(%/m)の濃度の煙を含む風速20cm~40cm/secの気流に投入したとき、5分間以内に作動しない感知器を意味する。これ以外に公称作動濃度5(%/m)の「1種感度の感知器」と、公称作動感度15(%/m)の「3種感度の感知器」があり、第1の火災判断条件を1種感度又は3種感度の感知器相当としてもよい。
【0047】
また、第2の火災判断条件は、煙濃度Dが所定の閾値Dth以上となる状態が所定の蓄積時間DT以上続いたときに火災と判断する。例えば、第2の火災判断条件は、2種感度の感知器相当とすると、煙濃度Dが2種感度に対応した閾値Dth=10(%/m)以上となる状態が所定の蓄積時間DT、例えばDT=15秒以上続いたときに火災と判断する。
【0048】
(状態推定部)
状態推定部14は、検出部10の煙濃度検出部10aで検出した煙濃度Dと温度検出部10bで検出した温度Tに基づいて監視領域が火災、非火災又は通常に該当する状態の何れであるかを推定する。
【0049】
(機械学習モデル)
状態推定部14の構成及び機能は任意であるが、例えば、図2に示すように、機械学習モデルにより構成される。図2に示す機械学習モデルとして機能する状態推定部14は、入力データ生成部16、学習モデル部18及び判定部20で構成される。
【0050】
(入力データ生成部)
入力データ生成部16は、所定のサンプリング周期、例えば1秒毎に、煙濃度Dをx1とし、温度Tをx2として入力し、現時点(入力時点)から所定の単位時間前までのn個の煙濃度の時系列データ(x11,x12,・・・・x1n)及び温度の時系列データ(x21,x22,・・・x2n)を順次生成し、学習モデル部18に並列的に入力する。
【0051】
(学習モデル部)
学習モデル部18は、教師ありの学習データにより機械学習された学習モデルであり、その構成及び機能は任意であるが、例えば多値分類を行う多層ニューラルネットワークとする。多値分類の多層ニューラルネットワークは、公知のように、入力層、複数の中間層、出力層で構成され、出力層の活性化関数として例えばソフトマックス関数が使用されている。本実施の形態では、火災に該当する状態の推定値y1、非火災に該当する状態の推定値y2及び通常に該当する状態の推定値y3を出力する3値分類の多層ニューラルネットワークとする。
【0052】
学習モデル部18(多値分類の多層ニューラルネットワーク)は、入力データ生成部16から煙濃度Dの時系列データ(x11,x12,・・・・x1n)及び温度Tの時系列データ(x21,x22,・・・x2n)を入力し、火災に該当する状態の推定値y1、非火災に該当する状態の推定値y2及び通常に該当する状態の推定値y3を出力する。推定値y1~y3はそれぞれの確率を示す0~1の範囲の値をとり、その総和y1+y2+y3=1の関係にある。
【0053】
(機械学習)
学習モデル部18の機械学習は別のコンピュータで行われ、機械学習の済んだ学習モデル部18が状態推定部14に設けられる。学習モデル部18の機械学習は、事前に得られた火災教師データ、非火災教師データ及び通常教師データに基づき、公知のバックプロパゲーション法により教師ありの機械学習が行われている。火災教師データは、火災に該当する状態が例えば(y1,y2,y3)=(1,0,0)としてラベリングされた物理量の検出値、例えば煙濃度Dの時系列データ及び温度Tの時系列データの組を含むデータである。また、非火災教師データは、非火災に該当する状態が例えば(y1,y2,y3)=(0,1,0)としてラベリングされた物理量の検出値、例えば煙濃度Dの時系列データ及び温度Tの時系列データの組を含むデータである。さらに、通常教師データは、通常に該当する状態が例えば(y1,y2,y3)=(0,0,1)としてラベリングされた物理量の検出値、例えば煙濃度Dの時系列データ及び温度Tの時系列データの組を含むデータである。また、公知のように、学習データの全体の7~8割程度を訓練データとして学習に使用し、残り2~3割程度をテストデータとして学習結果の検証に使用する。
【0054】
(判定部)
判定部20は、学習モデル部18から出力される火災に該当する状態の推定値y1、非火災に該当する状態の推定値y2、通常に該当する状態の推定値y3を入力して、所定の判定条件を充足した推定値を確定した推定値yとして出力する。判定部20の判定条件は任意であるが、例えば、推定値y1~y3の中の例えば最大値となる推定値を、確定した推定値yと判定し、推定結果として図1の火災判断部12へ出力する。また、判定部20は、最大値となる状態が所定回数又は所定時間継続する蓄積条件を充足したときに、確定した推定値yと判定してもよい。
【0055】
[b.火災判断条件の変更]
火災判断部12は、状態推定部14で火災に該当する状態を推定したときは、火災判断条件を火災と判断しやすくするように変更する。また、火災判断部12は、状態推定部14で非火災に該当する状態を推定したときは、火災判断条件を火災と判断しにくくするように変更する。さらに、火災判断部12は、状態推定部14で通常に該当する状態を推定したときは、初期設定した火災判断条件を維持するか、それまでに火災判定条件を火災と判断しにくくするか又は火災と判断しやすくするように変更していた場合は、初期設定した火災判断条件に戻すように変更する。
【0056】
(第1の火災判断条件の変更)
火災判断部12で、煙濃度Dが所定の閾値Dth以上のときに火災と判断する第1の火災判断条件を設定している場合、状態推定部14で火災に該当する状態を推定したとき、火災判断部12は、第1の火災判断条件の閾値Dthをそれより低い他の所定の閾値Dth1に変更して火災を判断しやすくする。
【0057】
例えば、火災判断部12の火災判断条件が2種感度の感知器に相当する場合、火災判断部12は煙濃度Dが2種感度に対応した閾値Dth=10(%/m)以上となったときに火災と判断する第1の火災判断条件を設定しているが、状態推定部14で火災に該当する状態を推定したとき、火災判断部12は第1の火災判断条件の閾値Dth=10(%/m)をそれより低い例えば1種感度に対応した閾値Dth1=5(%/m)に変更して火災と判断しやすくし、感度を上げる。
【0058】
これにより、火災と判断のための閾値Dthが低い閾値Dth1に変更され、火災により増加する煙濃度が変更された閾値Dth1に到達するまでの時間が短くなり、迅速且つ確実に火災と判断して警報することを可能とする。
【0059】
一方、状態推定部14で非火災に該当する状態を推定したとき、火災判断部12は、第1の火災判断条件の閾値Dthをそれより高い他の所定の閾値Dth2に変更して火災を判断しにくくし、感度を下げる。例えば、火災判断部12は第1の火災判断条件の閾値Dth=10(%/m)をそれより高い例えば3種感度に対応した閾値Dth2=15(%/m)に変更して火災と判断しにくくする。
【0060】
これにより湯気やタバコの煙などによる煙濃度であった場合には、火災と判断するための閾値Dthが高い閾値Dth2に変更され、変更された高い閾値Dth2に到達するまでに時間がかかるか、又は、到達することができず、火災と判断して非火災報となることを抑制可能とする。
【0061】
(第2の火災判断条件の変更)
火災判断部12で、煙濃度Dが所定の閾値Dth以上例えばDth=10(%/m)以上となる状態が所定の蓄積時間DT例えばDT=15秒以上続いたときに火災と判断する第2の火災判断条件を設定している場合、状態推定部14で火災に該当する状態を推定したとき、火災判断部12は、蓄積時間DT例えばDT=15秒をそれより短い他の所定の蓄積時間DT1例えばDT1=10秒に変更して火災と判断しやすくする。
【0062】
これにより、蓄積時間DTがそれより短い蓄積時間DT1に変更され、火災と判断するまでの時間が短くなり、迅速且つ確実に火災と判断して警報することを可能とする。
【0063】
一方、状態推定部14で非火災に該当する状態を推定したとき、火災判断部12は、蓄積時間DT例えばDT=15秒をそれより長い他の所定の蓄積時間DT2例えばDT2=20秒に変更して火災と判断しにくくする。
【0064】
これにより湯気や煙草の煙などによる煙濃度Dであった場合には、蓄積時間DTがそれより長い蓄積時間DT2に変更され、煙濃度Dが閾値Dth以上となる状態が変更した長い蓄積時間DT2以上続く可能性は低くなり、火災と判断して非火災報となることを抑制可能とする。
【0065】
なお、第2の火災判断条件の変更では、火災又は非火災に該当する状態を推定したときに蓄積時間を変更しているが、閾値及び蓄積時間の両方を変更しても良い。
【0066】
(煙濃度の変更)
また、火災判断部12で、煙濃度が所定の閾値Dth以上のときに火災と判断する第1の火災判断条件を設定している場合、状態推定部14で火災に該当する状態を推定したとき、火災判断部12は、検出した煙濃度Dをそれより高い煙濃度D1に変更して火災を判断しやすくする。例えば、火災判断部12は、検出した煙濃度Dに1を超える所定の係数K1、例えばK1=1.5を乗じて、それより高い煙濃度D1(=K1・D)に変更する。
【0067】
これにより検出された煙濃度Dがそれより高い煙濃度D1に変更され、閾値Dthに到達するまでの時間が短くなり、迅速且つ確実に火災と判断して警報することを可能とする。
【0068】
一方、状態推定部14で非火災に該当する状態を推定したとき、火災判断部12は、検出した煙濃度Dをそれより低い煙濃度D2に変更して火災を判断しにくくする。例えば、火災判断部12は、検出した煙濃度Dに1未満の所定の係数K2、例えばK2=0.5を乗じて、それより低い煙濃度D2(=K2・D)に変更する。
【0069】
これにより湯気や煙草の煙などによる煙濃度であった場合には、検出された煙濃度Dがそれより低い煙濃度D2に変更されることで、閾値Dthに到達するまでに時間がかかるか、又は、閾値Dthに到達することができず、火災と判断して非火災報となることを抑制可能とする。
【0070】
[c.火災検出手段の処理動作]
次に、図3のフローチャートを参照して、図1及び図2の火災検出手段による処理動作を説明する。図3に示すように、火災検出手段は、ステップS1で検出部10により煙濃度と温度を検出して、状態推定部14の入力データ生成部16により現時点から所定の単位時間前までの検出値を含む煙濃度と温度の時系列データを生成して学習モデル部18に出力する。なお、検出部10で検出された煙濃度は火災判断部12に出力している。
【0071】
学習モデル部18はステップS2で煙濃度と温度の時系列データに基づき監視領域の状態を推定する。詳細には、学習モデル部18は、0~1の範囲の値をもつ火災状態の推定値y1、非火災状態の推定値y2、通常状態の推定値y3を出力し(但し、y1+y2+y3=1)、判定部20が推定値y1~y3の内の例えば最大となる推定値を確定した推定値yとして出力する。
【0072】
続いて、火災判断部12は、ステップS3で状態推定部14による火災に該当する状態の推定を判別するとステップS4に進み、火災を判断しやすくする火災判断条件に変更し、ステップS8で変更した火災判断条件の充足を判別すると火災と判断し、ステップS9で火災検出信号を出力し、所定の火災警報動作を行わせる。
【0073】
また、火災判断部12は、ステップS3で火災に該当する状態の推定が判別されないときはステップS5に進み、非火災に該当する状態の推定を判別するとステップS6に進み、火災を判断しにくくする火災判断条件に変更し、ステップS8で変更した火災判断条件の充足を判別すると火災と判断し、ステップS9で火災検出信号を出力する。
【0074】
また、火災判断部12は、ステップS5で非火災に該当する状態の推定が判別されないときはステップS7に進み、これは通常に該当する状態の推定であることから、それまでに火災判断条件の変更がなければ初期設定した火災判断条件を維持し、また、それまでに火災判断条件の変更があれば初期設定した火災判断条件に戻し、ステップS8で初期設定した火災判断条件の充足を判別すると火災と判断し、ステップS9で火災検出信号を出力する。
【0075】
[d.火災報知設備]
次に図1の火災検出手段を適用した火災報知設備の実施の形態を、図4を参照して詳細に説明する。図4はR型(Record-type)の火災報知設備であり、受信機22と固有のアドレスを設定した感知器24の間で信号を伝送することにより、感知器24毎に(感知器単位に)火災を監視する。
【0076】
受信機22から監視領域に引き出された信号線25には、複数の感知器24を接続している。なお、図4では1台の感知器24を代表して示している。信号線25はプラス信号線25aとマイナス信号線(コモン信号線)25bを備え、受信機22から感知器24へ電源を供給すると共に受信機22と感知器24の間で所定の伝送方式により信号を送受信する。
【0077】
(受信機)
受信機22は、感知器24で検出した火災に関する所定の物理量の検出値であるアナログデータ、例えば煙濃度及び又は温度を受信し、これに基づき火災を判断して火災警報動作を行うものであり、その構成や機能は任意であるが、例えば、受信機制御部36、伝送部38、表示部40、操作部42、警報部44及び移報部46を備える。受信機制御部36は、CPU、メモリ及び各種の入出力ポートを備えたコンピュータ回路で構成され、図1に示した火災検出手段における火災判断部12と状態推定部14の機能が設けられる。
【0078】
(感知器)
感知器24は、火災に関する所定の物理量の検出値であるアナログデータ、例えば煙濃度及び又は温度をして検出して受信機22に送信するものであり、その構成、機能、種類は任意であるが、例えば、感知器制御部48、伝送部50、電源部52、発光駆動部58、受光増幅部60を備え、所謂アナログ式の感知器として知られている。感知器機制御部48は、CPU、メモリ及び各種の入出力ポートを備えたコンピュータ回路で構成される。また、感知器24には、図1に示した煙濃度検出部10aと温度検出部10bが設けられる。煙濃度検出部10aは、遮光された検煙空間に外部から流入した煙に発光駆動部58により間欠的に発光駆動される発光素子54からの光を照射し、煙により散乱した光を受光素子56で受光して受光増幅部60で増幅し、煙濃度検出信号として感知器制御部48に出力している。温度検出部10bは温度検出素子で検出した温度検出信号を感知器制御部48に出力している。感知器制御部48は、伝送部50に指示し、検出した煙濃度と温度及び自己アドレスを含む検出信号を受信機22に送信している。
【0079】
(火災監視動作)
受信機22に設けられた火災判断部12は、感知器24から受信した煙濃度Dに基づき、所定の火災判断条件により火災を判断している。状態推定部14は感知器24から受信した煙濃度Dと温度Tに基づき、感知器24を設置している監視領域の状態が火災、非火災又は通常の何れに該当する状態かを推定しており、推定結果に応じて火災判断部12は火災判断条件を変更している。
【0080】
火災判断部12は、感知器24から受信した煙濃度Dが火災判断条件を充足すると火災と判断し、火災警報動作を行う。この火災警報動作は、表示部40の火災代表灯を作動すると共に火災発生地区を示す地区表示灯を作動し、また、警報部44により警報音声メッセージを含む主音響警報を出力すると共に火災が発生した監視領域に設置している地区音響装置の作動による地区音響警報を行い、また、移報部46に指示して防排煙機器の連動制御等を行う。
【0081】
[e.本発明の変形例]
本発明の変形となる実施の形態について、より詳細に説明する。
【0082】
(火災に関する物理量の検出値)
上記の実施形態では、火災に関する物理量の検出値として、煙濃度と温度を例にとっているが、これに限定されず任意であり、例えば、二酸化炭素濃度、一酸化炭素濃度等としてもよい。また、火災に関する物理量の検出値そのもの(実数値)に限定されず、例えば検出値の分散、微分、積分などの値を用いてもよい。
【0083】
(学習モデル部)
上記の実施形態は、学習モデル部として火災に該当する状態の推定値y1、非火災に該当する状態の推定値y2、及び通常に該当する状態の推定値y3を出力する多値分類の多層ニューラルネットワークを例にとっているが、火災に該当する状態推定値y1と非火災該当する状態の推定値y2を出力する2値分類の多層ニューラルネットワークとしてもよい。2値分類の多層ニューラルネットワークは、出力層の活性化関数を例えばシグモイド関数としており、また、学習モデル部18の機械学習は、火災教師データと非火災教師データを用いて行い、更に、判定部20は例えば所定の閾値例えば0.7以上となる推定値y1又はy2を確定した推定値yとする。また、上記の実施形態の多層ニューラルネットワークでは、火災に関連する物理量の検出値を、煙濃度及び温度としているが、単独の検出値、例えば煙濃度のみとしてもよいし、更に、二酸化炭素濃度や一酸化炭素濃度などを追加してもよい。
【0084】
また、上記の実施形態は、学習モデル部として多層ニューラルネットワークを例にとっているが、これに限定されず任意であり、例えば、サポートベクトルマシン(SVM)やランダムフォレストなどの機械学習モデルとしても良い。
【0085】
(サポートベクトルマシン)
公知のサポートベクトルマシンの場合は、一例として、事前に得られた煙濃度x1と温度x2についての火災及び非火災の教師データを入力して学習することで、火災クラスk1と非火災クラスk2の2クラスに分類するための一次式(境界線)が決定され、学習後に検出された煙濃度と温度をクラスの境界線に入力してベクトル値を求め、ベクトル値が正であれば火災クラスk1、負であれば非火災クラスk2と推定する。また、火災、非火災、通常の3クラスの分類では、煙濃度x1と温度x2についての火災、非火災、通常の教師データを入力して学習することで、火災クラスk1、非火災クラスk2、通常クラスk3の3クラスに分類するための3つ一次式(3本の境界線)が決定され、これらを1対他方式あるいは1対1方式として組み合わせ、学習後に検出された煙濃度と温度を各クラスの境界線に入れてベクトル値を求め、大きいものをクラスの推定結果とする。
【0086】
(ランダムフォレスト)
公知のランダムフォレストの場合は、一例として、ランダムサンプリングされた煙濃度と温度とランダムに選択された説明変数例えば煙濃度と温度の閾値等を用いることにより、相関の低い決定木群を作成し、作成した決定木群に検出した煙濃度と温度を入力して各決定木の出力の多数決を推定結果とする。
【0087】
(火災報知設備)
上記の実施形態は、R型(Record-type)の火災報知設備に本実施の形態による火災検出手段を適用しているが、P型(Proprietary-type)の火災報知設備に適用してもよい。P型の火災報知設備は、受信機から例えば建物の階別ごとに信号回線が引き出され、所謂オンオフ型として知られた感知器を信号回線に接続し、受信機が感知器を接続した信号線ごと(信号線単位に)に火災を監視する設備である。オンオフ型の感知器は、検出した煙濃度又は温度から火災を判断して火災検出信号を受信機に送信するものであり、この感知器に本実施形態の火災検出手段を構成する検出部10、火災判断部12及び状態推定部14を設ける。なお、感知器に設ける状態推定部14は、図2に示した入力データ生成部16、学習済みの学習モデル部18及び判定部20とし、機械学習部及び学習データ記憶部による学習モデル部18による機械学習は、例えば外部のサーバ等で行い、学習済みの学習モデル部18を感知器に実装する。なお、検出部10、火災判断部12及び状態推定部14を備えた感知器は例えばR型の火災報知設備などの適宜の火災報知設備に適用してもよい。
【0088】
(火災警報器)
上記の実施形態は、受信機と感知器を備えた火災報知設備に本実施の形態の火災検出手段を適用しているが、火災を警報する機能を備えた例えば住宅用の火災警報器に本実施の形態による火災検出手段を適用してもよい。火災警報器の場合には、前述したP型火災報知設備の感知器の場合と同様に、火災警報器に本実施形態の火災検出手段を構成する検出部10、火災判断部12及び状態推定部14を設ける。このとき状態推定部14は、図2に示した入力データ生成部16、学習済みの学習モデル部18及び判定部20とし、機械学習部及び学習データ記憶部による学習モデル部18の機械学習は、例えば外部のサーバ等で行い、学習済みの学習モデル部18を火災警報器に実装する。
【0089】
(火災判断条件の変更)
また、火災判断部12は、学習モデル部18の火災状態の推定値y1の値に基づいて段階的に火災判断条件を変化させてもよい。例えば、火災状態の推定値y1の値に基づいて検出した煙濃度Dを煙濃度D1=K1・Dとするときは、y1≦0.5であるとき所定の係数K1=1.2とし、0.5<y1≦0.75であるとき所定の係数K1=1.75とし、0.75<y1であるとき所定の係数K1=2.0としてもよい。また蓄積時間DT1については、例えば、y1≦0.5であるときDT1=10秒とし、0.5<y1≦0.75であるときDT1=5秒とし、0.75<y1であるときDT1=0秒としてもよい。また、同様に例えば、非火災状態の推定値y2の値に基づいて火災判断条件を変更する場合、例えば検出した煙濃度Dを煙濃度D2=K2・Dとするときには、y2≦0.5であるとき所定の係数K2=0.75とし、0.5<y2≦0.75であるとき所定の係数K2=0.6とし、0.75<y2であるとき所定の係数K2=0.5としてもよい。また蓄積時間DT2については、例えば、y2≦0.5であるときDT2=20秒とし、0.5<y2≦0.75であるときDT2=24秒とし、0.75<y2であるときDT2=30秒としてもよい。更に火災状態の推定値y1又は非火災状態の推定値y2の値に基づいて連続的に火災判断条件を変化させてもよい。
【0090】
(その他)
また、本発明は、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に、上記の実施の形態に示した数値による限定は受けない。
【符号の説明】
【0091】
10:検出部
10a:煙濃度検出部
10b:温度検出部
12:火災判断部
14:状態推定部
16:入力データ生成部
18:学習モデル部
20:判定部
22:受信機
24:感知器
36:受信機制御部
48:感知器制御部
図1
図2
図3
図4