(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】N-メチルアミノ酸の取り込みを増強するtRNAのTステムの改変
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20241007BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20241007BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20241007BHJP
C40B 40/08 20060101ALI20241007BHJP
C40B 40/10 20060101ALI20241007BHJP
C07K 1/00 20060101ALI20241007BHJP
C07K 7/00 20060101ALN20241007BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12M1/00 A
C12P21/02 C
C40B40/08
C40B40/10
C07K1/00
C07K7/00
(21)【出願番号】P 2019209114
(22)【出願日】2019-11-19
【審査請求日】2022-09-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(CREST)、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【氏名又は名称】山田 拓
(72)【発明者】
【氏名】菅 裕明
(72)【発明者】
【氏名】加藤 敬行
(72)【発明者】
【氏名】岩根 由彦
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/033154(WO,A1)
【文献】KATOH, T., et al.,Ribosomal Incorporation of Consecutive β-Amino Acids.,Journal of the American Chemical Society,2018年,Vol.140,pp.12159-12167
【文献】KATOH, T., et al.,Logical engineering of D-arm and T-stem of tRNA that enhances D-amino acid incorporation.,Nucleic Acids Research,2017年,Vol.45, No.22,pp.12601-12610
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12M 1/00- 3/10
C12P 1/00-41/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Genbank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N
1N
2GGN
3及びN
4CCN
5Uが対合するTステムを有する、N-メチルアミノ酸をコードするtRNA。
(N
1はG又はAであり、N
2及びN
5は一方がGであり、他方がCであり、N
3及びN
4は対合する任意の塩基である。)
【請求項2】
GN
2
GGG及びCCCN
5
Uが対合するTステムを有するか、AN
2
GGG及びCCCN
5
Uが対合するTステムを有する、N-メチルアミノ酸をコードするtRNA。
(N
2
及びN
5
は一方がGであり、他方がCである。)
【請求項3】
AGGGN
3
及びN
4
CCCUが対合するTステムを有するか、GCGGN
3
及びN
4
CCGUが対合するTステムを有する、N-メチルアミノ酸をコードするtRNA。
(N
3
及びN
4
は対合する任意の塩基である。)
【請求項4】
GCGGG及びCCCGUが対合するTステムを有するか、AGGGG及びCCCCUが対合するTステムを有する、N-メチルアミノ酸をコードするtRNA。
【請求項5】
請求項1
~4のいずれか1項に記載のtRNA及びEF-Tuタンパク質を含む、翻訳系。
【請求項6】
請求項1
~4のいずれか1項に記載のtRNA
、又は請求項
5に記載の翻訳系を用いて、無細胞翻訳系で翻訳する工程を含む、ペプチドライブラリの製造方法。
【請求項7】
請求項1
~4のいずれか1項に記載のtRNA
、又は請求項
5に記載の翻訳系を用いて、無細胞翻訳系で翻訳する工程を含む、ペプチドと該ペプチドをコードするmRNAとの複合体ライブラリの製造方法。
【請求項8】
請求項1
~4のいずれか1項に記載のtRNA
、又は請求項
5に記載の翻訳系を準備する工程を含み、当該準備する工程において、N-メチルアミノ酸をチャージする前にN
1N
2GGN
3及びN
4CCN
5Uが対合するTステムを有するtRNAであるか、N
1N
2GGN
3及びN
4CCN
5Uが対合するTステムを有する以外のtRNAにチャージすることを決定する、請求項
6又は
7に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1
~4のいずれか1項に記載のtRNA
、又は請求項
5に記載の翻訳系を準備する工程を含み、当該準備する工程において、N-メチルアミノ酸をチャージする前にAGGGN
3及びN
4CCCUが対合するTステムを有するtRNA並びにGCGGN
3及びN
4CCGUが対合するTステムを有するtRNAであるか、それら以外のtRNAにチャージすることを決定する、請求項
8に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1
~4のいずれか1項に記載のtRNA
、又は請求項
5に記載の翻訳系を準備する工程を含み、当該準備する工程において、N-メチルアミノ酸をチャージする前にAGGGG(N
6
)
mCCCCU(配列番号1)を有するtRNA及びGCGGG(N
6
)
mCCCGU(配列番号2)を有するtRNAであるか、それら以外のtRNAにチャージすることを決定
し、mは1以上の整数であり、N
6
は任意の塩基である、請求項
8に記載の製造方法。
【請求項11】
N-メチルアミノ酸をチャージしたtRNAとEF-Tuとの親和性として、ΔG(kcal/mol)が-7.5~-10となるtRNAを選択して、N-メチルアミノ酸をtRNAにチャージする、請求項
6~
10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項
6、
8~
11のいずれか1項に記載の方法によって製造される、N-メチルアミノ酸を含むペプチドを含むペプチドライブラリ、又は請求項
7~
11のいずれか1項に記載の方法によって製造される、N-メチルアミノ酸を含むペプチド-mRNA複合体を含むペプチド-mRNA複合体ライブラリ。
【請求項13】
同一ペプチド構造内に2以上のN-メチルアミノ酸を含むペプチドを含む、請求項
12に記載のペプチドライブラリ又はペプチド-mRNA複合体ライブラリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N-メチルアミノ酸の取り込みを増強するtRNAのTステムの改変に関する。
【背景技術】
【0002】
中分子としてのペプチドは、大きな表面認識特性(非特許文献1-3)を有する標的タンパク質に対して高い親和性と選択性を有するため、新しい薬物足場として大きな注目を集めている。中でも、天然に存在する生理活性ペプチドは、しばしば複数の主鎖N-メチル修飾を有し、このようなN-メチル化は、ペプチド分子上の膜透過性およびプロテアーゼ耐性を増加させることが明らかにされている(非特許文献1-11)。
このような理想的な薬物動態特性を有する新規なペプチドベースの薬物を発見するために、薬物動態特性をさらに改善するために、豊富な多様な異なるN‐メチルアミノ酸(MeAA)を含む非標準ペプチドライブラリを開発するのことは理想的である。
しかしながら、MeAAが翻訳機構のための基質として最適ではないという実際的な障害があり、翻訳の早期終結が起こり得るか、あるいは不正確なアミノ酸が所望のMeAAの代わりに誤って取り込まれ得るため、N-メチル化ペプチド合成の取り込み効率及び精度が低下する(非特許文献12-14)。非特許文献14には、19のMeAAのうち、5つのMeAAのみが効率的な取込み効率(>80%がタンパク質性アミノ酸(pAA)対照)を示し、6つのMeAAが中等度(10~80%)であり、他の8つのMeAAは貧弱で検出不能(<10%)であることが開示されている。
モデルペプチドへの単一のMeAAの取込み効率を改善するためのいくつかの工夫が報告されているが(非特許文献12、15及び16)、複数の異なるMeAAを同じペプチドに同時に取り込むことは依然として困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Passioura, T., Katoh, T., Goto, Y. & Suga, H. Selection-based discovery of druglike macrocyclic peptides. Annu. Rev. Biochem. 83, 727-752, doi:10.1146/annurev-biochem-060713-035456 (2014).
【文献】Driggers, E. M., Hale, S. P., Lee, J. & Terrett, N. K. The exploration of macrocycles for drug discovery--an underexploited structural class. Nat. Rev. Drug Discov. 7, 608-624, doi:10.1038/nrd2590 (2008).
【文献】Koehn, F. E. & Carter, G. T. The evolving role of natural products in drug discovery. Nat. Rev. Drug Discov. 4, 206-220, doi:10.1038/nrd1657 (2005).
【文献】Handschumacher, R. E., Harding, M. W., Rice, J., Drugge, R. J. & Speicher, D. W. Cyclophilin: a specific cytosolic binding protein for cyclosporin A. Science 226, 544-547 (1984).
【文献】Takahashi, N., Hayano, T. & Suzuki, M. Peptidyl-Prolyl Cis-Trans Isomerase Is the Cyclosporin-a-Binding Protein Cyclophilin. Nature 337, 473-475, doi:DOI 10.1038/337473a0 (1989).
【文献】Walsh, C. T., Zydowsky, L. D. & McKeon, F. D. Cyclosporin A, the cyclophilin class of peptidylprolyl isomerases, and blockade of T cell signal transduction. J. Biol. Chem. 267, 13115-13118 (1992).
【文献】Altschuh, D., Vix, O., Rees, B. & Thierry, J. C. A conformation of cyclosporin A in aqueous environment revealed by the X-ray structure of a cyclosporin-Fab complex. Science 256, 92-94 (1992).
【文献】Conradi, R. A., Hilgers, A. R., Ho, N. F. & Burton, P. S. The influence of peptide structure on transport across Caco-2 cells. II. Peptide bond modification which results in improved permeability. Pharm. Res. 9, 435-439 (1992).
【文献】Haviv, F. et al. Effect of N-methyl substitution of the peptide bonds in luteinizing hormone-releasing hormone agonists. J. Med. Chem. 36, 363-369 (1993).
【文献】Chikhale, E. G., Ng, K. Y., Burton, P. S. & Borchardt, R. T. Hydrogen bonding potential as a determinant of the in vitro and in situ blood-brain barrier permeability of peptides. Pharm. Res. 11, 412-419 (1994).
【文献】Miller, S. M. et al. Comparison of the Proteolytic Susceptibilities of Homologous L-Amino-Acid, D-Amino-Acid, and N-Substituted Glycine Peptide and Peptoid Oligomers. Drug Dev. Res. 35, 20-32, doi:DOI 10.1002/ddr.430350105 (1995).
【文献】Roberts, R. W. & Szostak, J. W. RNA-peptide fusions for the in vitro selection of peptides and proteins. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 94, 12297-12302 (1997).
【文献】Murakami, H., Ohta, A., Ashigai, H. & Suga, H. A highly flexible tRNA acylation method for non-natural polypeptide synthesis. Nat. Methods 3, 357-359, doi:10.1038/nmeth877 (2006).
【文献】Ohta, A., Murakami, H., Higashimura, E. & Suga, H. Synthesis of polyester by means of genetic code reprogramming. Chem. Biol. 14, 1315-1322, doi:10.1016/j.chembiol.2007.10.015 (2007).
【文献】Goto, Y. et al. Reprogramming the translation initiation for the synthesis of physiologically stable cyclic peptides. ACS chemical biology 3, 120-129, doi:10.1021/cb700233t (2008).
【文献】Goto, Y., Murakami, H. & Suga, H. Initiating translation with D-amino acids. RNA 14, 1390-1398, doi:10.1261/rna.1020708 (2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、改良された膜透過性およびタンパク質分解に対する安定性を有する高次にN-メチル化されたペプチドを発見することを可能にする、複数の異なるN-メチルアミノ酸の同時取込みを可能にする新規なペプチドの合成方法を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討した結果、アミノアシルtRNAのTステムに着目し、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
本発明は以下のとおりである。
(1)
N1N2GGN3及びN4CCN5Uが対合するTステムを有する、N-メチルアミノ酸をコードするtRNA。
(N1はG又はAであり、N2及びN5は一方がGであり、他方がCであり、N3及びN4は対合する任意のアミノ酸である。)
(2)
(1)に記載のtRNA及びEF-Tuタンパク質を含む、翻訳系。
(3)
(1)に記載のtRNA又は(2)に記載の翻訳系を用いて、無細胞翻訳系で翻訳する工程を含む、ペプチドライブラリの製造方法。
(4)
(1)に記載のtRNA又は(3)に記載の翻訳系を用いて、無細胞翻訳系で翻訳する工程を含む、ペプチドと該ペプチドをコードするmRNAとの複合体ライブラリの製造方法。
(5)
(1)に記載のtRNA又は(2)に記載の翻訳系を準備する工程を含み、当該準備する工程において、N-メチルアミノ酸をチャージする前にN1N2GGN3及びN4CCN5Uが対合するTステムを有するtRNAであるか、N1N2GGN3及びN4CCN5Uが対合するTステムを有する以外のtRNAにチャージすることを決定する、(3)又は(4)に記載の製造方法。
(6)
(1)に記載のtRNA又は(2)に記載の翻訳系を準備する工程を含み、当該準備する工程において、N-メチルアミノ酸をチャージする前にAGGGN3及びN4CCCUが対合するTステムを有するtRNA並びにGCGGN3及びN4CCGUが対合するTステムを有するtRNAであるか、それら以外のtRNAにチャージすることを決定する、(5)に記載の製造方法。
(7)
(1)に記載のtRNA又は(2)に記載の翻訳系を準備する工程を含み、当該準備する工程において、N-メチルアミノ酸をチャージする前にAGGGG(N4)mCCCCU(配列番号1)を有するtRNA及びGCGGG(N4)mCCCGU(配列番号2)を有するtRNAであるか、それら以外のtRNAにチャージすることを決定する、(5)に記載の製造方法。
(8)
N-メチルアミノ酸をチャージしたtRNAとEF-Tuとの親和性として、ΔG(kcal/mol)がー7.5~―10となるtRNAを選択して、N-メチルアミノ酸をtRNAにチャージする、(3)~(8)に記載の製造方法。
(9)
(3)、(5)~(8)のいずれかに記載の方法によって製造されるペプチドライブラリ又は(4)~(8)のいずれかに記載の方法によって製造されるペプチド-mRNA複合体ライブラリ。
(10)
同一ペプチド構造内に2以上のN-メチルアミノ酸を含むペプチドを含む、(9)に記載のペプチドライブラリ又はペプチド-mRNA複合体ライブラリ。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高次にN-メチル化されたペプチドを発見することを可能にする、複数の異なるN-メチルアミノ酸の同時取込みを可能にする新規なペプチドの合成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、EF-TuとアミノアシルtRNAとの間の相互作用の概略図を示す。
図1aは、リボソームへのタンパク質を構成するアミノ酸(proteinogenic amino acid:pAA)-tRNAのEF-Tu媒介性送達を示す。
図1bは、N-メチルアミノ酸(
MeAA)-tRNAの相互作用の仮説的障害を模式的に示す。pAA-tRNAとの競合下でのEF-Tuとの不十分な親和性を意味する。
図1cは、本発明におけるコンセプトの模式図を示す。
図1dは、用いたN-メチルアミノ酸を示す。
MeG:N-メチルグリシン、
MeS:N-メチルセリン、
MeA:N-メチルアラニン、
MeF:N-メチルフェニルアラニン、
MeL:N-メチルロイシン、
MeM:N-メチルメチオニン、
MeT:N-メチルスレオニン、
MeY:N-メチルチロシン、
MeD:N-メチルアスパラギン酸、
MeV:N-メチルバリン、
MeNl:N-メチルノルロイシン、
MeNv:N-メチルノルバリン、
MeYm:N-メチル-p-メトキシフェニルアラニン、
AcK:ε-N-アセチルリジン。
【
図2】
図2は、
MeAA-tRNAの弱いEF-Tu親和性及び
MeAA含有ペプチドの不正確な合成の相関を示す。
図2aは、標準的なpAA-tRNAのEF-Tu親和性を示す。エラーバーは、標準偏差を意味する。
図2bは、多くの
MeAA-tRNA
AsnE2
GACsと
AcK-tRNA
AsnE2
GACとの弱いEF-Tu親和性を示す。
図2cは、
MeAA-tRNAの弱いEF-Tu親和性の原因を示す。この図は、EF-Tu及びPhe-tRNA
Pheの共結晶構造(PDB ID:1TTT)から作成された(参考文献1)。
図2dは、
MeAA又は
AcKのそれぞれを含むペプチドの翻訳精度の結果を示す。各実験において、GUCコドンを含むmRNA12を、目的のnpAA-tRN
AAsnE2
GACを含むFITシステムで翻訳した。†ピークは、非タンパク質性アミノ酸(non proteinogenic amino acid:npAA)の代わりにIleを含む副生成物に対応する。
【
図3】
図3は、Tステム置換戦略によるアミノアシルtRNAのEF-Tu親和性の強化を示す。
図3aは、
MeAA-tRNAの弱いEF-Tu親和性を強化するための戦略を示す。
MeAA‐tRNAのTステム配列を、異なるEF‐Tu親和性を有する3種類の異なる配列で置き換えた。元のTステムはTステムNo.2とし、新たに調製したTステムはTステムNo.1、3及び4とした。これらのEF-Tu親和性は、No.が増加するにつれて増大すると考えられる。
図3b及び
図3cは、異なるTステム配列を有するPhe-tRNA
AsnE2
GAC(b)及び
MeF-tRNA
AsnE2
GAC(c)のEF-Tu親和性の定量化。アスタリスクは、親和性が検出できないレベル(ΔG > -6kcal/mol)であることを示す。エラーバーは、標準偏差を意味する。
図3cでは、コントロールとして、非チャージのtRNAを用いた。
【
図4】
図4は、適切なTステムを選択することにより、翻訳の精度と効率が向上することを示す。
図4a及び
図4bは、15分間の翻訳反応後のペプチド産物のMALDI-TOF-MSを示す。GUCコドンは、異なるTステム配列を有するPhe-tRNA
AsnE2
GAC(a)及び
MeF-tRNA
AsnE2
GAC(b)で翻訳された。†ピークは、Phe(a)及び
MeF(b)の代わりにIleを含む副産物に対応する。
図4c及び
図4dは、Phe-tRNA
AsnE2
GAC(c)及び
MeF-tRNA
AsnE2
GAC(d)を含むFITシステムにおけるペプチド発現レベルの時間経過を示す。
【
図5】
図5は、最適条件下で6つの異なる
MeAAを含むモデルペプチドの正確で効率的な合成を示す。
図5aは、EF-Tu親和性チューニングの概要を示す。
図5bは、フレキシザイム触媒アシル化の効率に基づく各
MeAA-tRNA濃度の調整を示す。
図5cは、mRNA13とその結果として生じるP13ペプチドの配列を示す。矢印は配列官の関連性を示す。
図5dは、15のpAAと共に6の
MeAAをコードするリプログラミングされた遺伝子を示す。
図5e及び
図5fは、トリシン‐SDS‐PAGE(e)及びMALDI‐TOF‐MS(f)によるペプチド産物の分析に基づく従来システムと最適システムとの比較を示す。
【
図6】
図6は、15のpAAと共に9つの異なる
MeAAを含む高度にN-メチル化されたペプチドの発現を示す。
図6aは、mRNA14とその結果として生じるP14ペプチドの配列を示す。CUC、UUG、GUC、CUG、AUC、GCG、UUC、GUG及びGCCコドンは、それぞれ、
MeS-tRNA
AsnE2TS5
GAG、
MeG-tRNA
AsnE2TS5
CAA、
MeV-tRNA
AsnE2TS1
GAC、
MeNl-tRNA
AsnE2TS1
CAG、
MeY-tRNA
AsnE2TS3
GAU、
MeA-tRNA
AsnE2TS3
CGC、
MeYm-tRNA
AsnE2TS1
GAA、
MeNv-tRNA
AsnE2TS3
CAC及び
MeF-tRNA
AsnE2TS3
GGCによって翻訳された。
図6bは、9の
MeAA及び15のpAAをコードするリプログラミングされた遺伝子を示す。
図6cは、EF-Tu親和性チューニングの概要を示す。
図6d及び
図6eは、9の異なる
MeAAを含むP14ペプチドの発現を示す。mRNAは、20pAA(対照として)を含むFITシステム又は15のpAA(Phe、Leu、Ile、Val及びAlaを除く)及び9の
MeAA-tRNAを含むFITシステムのいずれかで翻訳された。ペプチド産物をMALDI‐TOF‐MS(d)及びトリシン‐SDS‐PAGE(e)により分析した。
【
図8】
図8は、非チャージのtRNAがEF-Tuに結合しないことを確認するための制御実験結果を示す。
【
図9】
図9は、
MeAA-tRNA及び
AcK-tRNAのEF-Tu親和性を強化することによる、向上された翻訳精度を示す。
図9aは、mRNA12とその結果として生じるP12-npAAペプチドの配列を示す。GUCコドンは、目的のnpAA-tRNA
AsnE2
GACによって翻訳された。
図9b~
図9fは、異なるTステム配列を有する
MeG‐tRNA
AsnE2
GAC(b)、
MeS‐tRNA
AsnE2
GAC(c)、
MeA‐tRNA
AsnE2
GAC(d)、
MeL‐tRNA
AsnE2
GAC(e)及び
AcK‐tRNA
AsnE2
GAC(f)について、EF‐Tu親和性及び翻訳精度に対するそれらの効果を調査した。アスタリスクは親和性が検出できないレベル(ΔG > -6kcal/mol)であることを示す。エラーバーは、標準偏差を示す。†ピークはnpAAの代わりにIleを含む副生成物に対応する。
【
図10】
図10は、他の
MeAA-tRNAに対するEF-Tu親和性強化を示す。
図10a~
図10hは、異なるTステム配列を含む
MeM-tRNA
AsnE2
GAC(a)、
MeT-tRNA
AsnE2
GAC(b)、
MeY-tRNA
AsnE2
GAC(c)、
MeD-tRNA
AsnE2
GAC(d)、
MeV-tRNA
AsnE2
GAC(e)、
MeNv-tRNA
AsnE2
GAC(f)、
MeNl-tRNA
AsnE2
GAC(g)及び
MeYm-tRNA
AsnE2
GAC(h)のEF-Tu親和性を示す。アスタリスクは親和性が検出できないレベル(ΔG > -6kcal/mol)であることを示す。エラーバーは、標準偏差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のtRNAは、N1N2GGN3及びN4CCN5Uが対合するTステムを有する、N-メチルアミノ酸をコードするtRNAである。
Tステムを形成するN1N2GGN3及びN4CCN5Uにおいて、N1はG又はAであり、N2及びN5は一方がGであり、他方がCであり、N3及びN4は対合する任意のアミノ酸である。
【0010】
本発明者らは、N-メチルアミノ酸の非効率的な取り込みの原因を以下のように仮定した。リボソームはEF-Tu(Elongation Factor Thermo unstable)の触媒作用によって、アミノ酸がチャージされたtRNAであるアミノアシルtRNAをリボソームA部位に入れる(
図1a)。EF-Tuは、アミノ酸部位とTステム部位の2つの異なる部位でアミノアシルtRNAに結合する。アミノ酸部位における前者の相互作用のみを考慮すると、結合親和性はアミノ酸の種類によって大きく異なる。異なる親和性を補うために、天然においてはTステム構造を進化させて、EF-Tuと20個のアミノアシルtRNAのそれぞれの親和性が等価になるようにしている。この等価な親和性により、EF-Tuは、20種類のタンパク質性アミノアシルtRNA(pAA-tRNA)をすべて、同様の効率でリボソームに送達することができる(
図1b)。対照的に、もしEF-TuとN-メチルアミノアシルtRNA(
MeAA-tRNA)間の親和性が弱ければ、
MeAA-tRNAはpAA-tRNAとの競合下でEF-Tuに結合できず、
MeAA含有ペプチドの合成効率の低下をもたらす。この仮説が観察された非効率の実際の原因であるならば、
MeAA-tRNAのEF-Tu親和性の同調は翻訳効率を改善することができ、それによって種々の
Me AAを同じペプチドに同時に組み込むことができるかもしれないと考えた。
本発明において、ほとんどの
MeAA-tRNAの親和性がpAA-tRNAの平均値よりも小さいことを実験的に確認し、
MeAA-tRNAは十分な強度でEF-Tuに結合できないという考えが支持された(
図1c)。次いで、
MeAA-tRNAの弱いEF-Tu親和性をpAA-tRNAの平均値に同調させる方法を開発した(
図1c)。得られた最適化FITシステムは、N-メチル化ペプチドの合成効率と精度の改善を示した。これらの結果から、本発明により新しい方法が、高度にN‐メチル化されたペプチドのライブラリを合成することを可能にし、これは将来の改善された薬物動態特性を有する実用的な非標準ペプチド薬剤の発見を促進すると期待される。
【0011】
本発明のtRNAにおける、他の構造、すなわち、アクセプターステム、アンチコドンステム、アンチコドンループ、バリアブルループ、Dアームの塩基配列は、任意であってよい。中でも、アンチコドンループは、N-メチルアミノ酸を割り当てるコドンに対応した塩基配列を適宜有していればよい。
tRNAの3’末端は、CCA配列を有し、任意のアミノ酸と結合する。本発明のtRNAは、N-メチルアミノ酸と結合している。
本明細書では、tRNAがN-メチルアミノ酸をコードするとは、tRNAが、N-メチルアミノ酸とtRNAのCCA配列を介して結合していることを意味する。
【0012】
本発明のtRNAにおけるTステムにおいて、それぞれ、N
1N
2GGN
3及びN
4CCN
5Uが塩基対を形成する限り、N
1~N
5として任意の塩基を選択してよいが、本発明においては、特に、N
1はG又はAであり、N
2及びN
5は一方がGであり、他方がCであり、N
3及びN
4は対合する任意のアミノ酸である。
ここで、N
2及びN
5は一方がGであり、他方がCであるとは、N
2がGである場合、N
5はCであり、N
2がCである場合、N
5はGである。
また、N
3及びN
4は対合する任意のアミノ酸であるとは、N
3及びN
4はそれぞれ任意の塩基であり得るが、N
3及びN
4が対合する塩基対であることを必要とする。
Tステムを形成するN
1N
2GGN
3及びN
4CCN
5Uは、AN
2GGN
3及びN
4CCN
5Uであるか、GN
2GGN
3及びN
4CCN
5Uであることが好ましく、AGGGN
3及びN
4CCCUであるか、GCGGN
3及びN
4CCGUであることがより好ましい。
Tステムは、Tループをなす塩基配列と結合して、Tアームを形成する。
N
3及びN
4は対合する塩基対であるが、本発明におけるTステムの好ましい態様である、AGGGが、CCCUと塩基対を形成し、GCGGが、CCGUと塩基対を形成するTステム上の塩基対は、
図3aとして示される。
【0013】
Tループの塩基配列は、ループを形成する限り特に限定されないが、例えば、配列番号3で示される塩基配列が挙げられる。
UUCGAAU (配列番号3)
配列番号3で示される塩基配列は、tRNAにおけるTループを形成し、Tステムを形成するN1N2GGN3及びN4CCN5Uと結合する。
配列番号3で示される塩基配列が、Tステムと結合する際には、他の塩基を介して結合していてもよい。
配列番号3で示される塩基配列においては、1又は複数の塩基が置換、欠失又は挿入されていてもよい。
塩基が複数置換されるとは、配列番号1の塩基配列のTループを形成する7個の塩基において、2個、3個、4個、5個、6個、7個の塩基が置換されていてもよいことを意味し、1~4個の塩基が置換されていてもよく、1~3個の塩基が置換されていてもよく、1~2個の塩基が置換されていてもよく、1個の塩基が置換されていてもよい。
塩基が複数欠失されるとは、配列番号1の塩基配列のTループを形成する7個の塩基において、2個、3個、4個、5個、6個、7個の塩基が欠失されていてもよいことを意味し、1~4個の塩基が欠失されていてもよく、1~3個の塩基が欠失されていてもよく、1~2個の塩基が欠失されていてもよく、1個の塩基が欠失されていてもよい。
塩基が複数挿入されるとは、配列番号1の塩基配列のTループを形成する7個の塩基において、1~4個の塩基が挿入されていてもよく、1~3個の塩基が挿入されていてもよく、1~2個の塩基が挿入されていてもよく、1個の塩基が挿入されていてもよい。
また、配列番号3で示される塩基配列においては、当該塩基配列と相同性が、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上であってよい。
【0014】
本発明のtRNAは、N1N2GGN3及びN4CCN5Uが対合するTステムを有し、配列番号3で示される塩基配列を有するTループをさらに有することが好ましい。なお、ここで、配列番号3で示される塩基配列は、1又は複数の塩基が置換、欠失又は挿入されていてもよく、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の相同性を有する塩基配列であってもよい。
本発明のtRNAは、配列番号4で示される塩基配列を有するTアームを有することが好ましく、配列番号1又は配列番号2で示される塩基配列を有するTアームを有することがより好ましく、配列番号5又は配列番号6で示される塩基配列を有するTアームを有することがさらに好ましい。
N1N2GGN3(N6)mN4CCN5U (配列番号4)
AGGGG(N6)mCCCCU (配列番号1)
GCGGG(N6)mCCCGU (配列番号2)
AGGGGUUCGAAUCCCCU (配列番号5)
GCGGGUUCGAAUCCCGU (配列番号6)
配列番号1、2及び4において、N1~N5は、前記と同義であり、N6は、任意の塩基であり、mは、1以上の整数である。なお、(N6)mはTループを構成する塩基配列であることが好ましい。
また、配列番号4において、N1N2GGN3及びN4CCN5Uは、それぞれ、前述した好ましい塩基配列であってもよい。
配列番号1、2、4~6においては、1又は複数の塩基が置換、欠失又は挿入されていてもよく、好ましくは、Tループを構成する塩基配列において1又は複数の塩基が置換、欠失又は挿入されていてもよい。
配列番号1、2、4~6の塩基配列において、塩基が置換されるとは、配列番号1、2、4~6の塩基配列のTアーム及びTループを形成する塩基配列において、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個の塩基が欠失されていてもよいことを意味し、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個の塩基が置換されていてもよく、1個の塩基が置換されていてもよい。
配列番号1、2、4~6の塩基配列において、塩基が欠失されるとは、配列番号1、2、4~6の塩基配列のTアーム及びTループを形成する塩基において、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個の塩基が欠失されていてもよいことを意味し、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個の塩基が欠失されていてもよく、1個の塩基が欠失されていてもよい。
配列番号1、2、4~6の塩基配列において、塩基が挿入されるとは、配列番号1、2、4~6の塩基配列のTアーム及びTループを形成する塩基において、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個の塩基が挿入されていてもよいことを意味し、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個の塩基が挿入されていてもよく、1個の塩基が挿入されていてもよい。
ただし、配列番号1、2、4~6の塩基配列において、1又は複数の塩基が置換、欠失又は挿入されている場合、N1N2GGN3及びN4CCN3UのTアームの塩基配列については、置換、欠失又は挿入されていないことが好ましい。すなわち、Tループ部分における塩基配列において、置換、欠失又は挿入であることが好適である。
【0015】
配列番号1、2及び4において、mは、(N6)mがTループを形成し得る限り特に限定されないが、2、3、4、5、6、7、8、9、10の整数であり得、5~9の整数であることが好ましく、6~8の整数であることがより好ましく、(N6)mは配列番号3で示される塩基配列であることがより好ましい。また、(N6)mは、配列番号3で示される塩基配列を含む配列であってもよい。例えば、(N6)mは(N7)m1UUCGAAU(N8)m2であってもよい。m1及びm2は、それぞれ独立して0~5の整数であり得、0~4、0~3、0~2、0~1、1又は0の整数であってもよい。N7とN8は、配列番号3で示される塩基配列が形成するTループ構造を阻害しない限り、任意の塩基であってよく、配列番号3で示される塩基配列と一緒になって、Tループを形成してもよく、配列番号3で示される塩基配列は(N7)m1及び(N8)m2とは独立して、あるいは、一部の塩基と一緒になって、Tループを形成してもよい。
【0016】
本発明に用いられるtRNAにおいて、Tアーム以外の塩基配列については、野生型tRNAに由来する配列であってもよく、大腸菌由来野生型tRNAに由来する配列であってもよく、in vitroの転写で調製した人工tRNAであってもよい。
また、本発明におけるtRNAについては、tRNAPro1E1やtRNAPro1E2の有するDアームを有さない場合であってもよい。具体的には、本発明におけるtRNAは、tRNAPro1E2(CGG)、tRNAPro1E2(GAU)、tRNAPro1E2(GGU)又はtRNAPro1E2(GUG)として知られるtRNAのDアームの塩基配列とは異なる塩基配列のDアームを有していてよい。より具体的には、GCGC及びCGCGが対合するDステムを有さないことが考えられ、一般化すると、配列番号134で示される塩基配列を含有するRNAの有するDアームを有さない場合であってよい。
N9N10GCN11N12N13N14N15N16N17N18N19GCN20N21(配列番号134)
(配列番号134において、N9~N21は、それぞれ任意の塩基を示し、N11~N19はDループを形成し、N9N10GCが、N21N20CGと塩基対を形成する。)
本発明におけるtRNAについては、tRNAGluE2(CGG)の有するDアームを有さない場合であってもよい。具体的には、本発明におけるtRNAは、tRNAGluE2(CGG)、tRNAPro1E2(GAU)、tRNAPro1E2(GGU)又はtRNAPro1E2(GUG)として知られるtRNAのDアームの塩基配列とは異なる塩基配列のDアームを有していてよい。より具体的には、GCGC及びCGCGが対合するDステムを有さないことが考えられ、一般化すると、配列番号134で示される塩基配列を含有するRNAの有するDアームを有さない場合であってもよい。配列番号134の塩基配列は、
N9N10GCGCAGCCUGGUAGCGCN20N21(配列番号135)
(配列番号135において、N9、N10、N29及びN21は、前記と同義であり、N9N10GCが、N21N20CGと塩基対を形成するDステムである。)であってもよく、GCGCGCAGCCUGGUAGCGCGC(配列番号136)であってもよい。
本発明のtRNAは、tRNAPro1E2(CGG)、tRNAPro1E2(GAU)、tRNAPro1E2(GGU)、tRNAPro1E2(GUG)及びtRNAGluE2(CGG)の有する塩基配列を有さなくてもよい。
これらのtRNAの塩基配列は、国際公開2019/077887号に開示されている。
【0017】
本発明において、翻訳系は、本発明のtRNAを含み、当該tRNAを含むことにより、一般的には連続導入が難しいN-メチルアミノ酸が連続して結合するペプチドを合成することができる翻訳系となるが、より具体的には、2以上のN-メチルアミノ酸が連続して結合するペプチドを合成することができる翻訳系となる。また、同時に2種以上のN-メチルアミノ酸を、好ましくは、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上のN-メチルアミノ酸を割り当てたコドン表を用いた翻訳系でペプチドライブラリを調製することも可能である。
翻訳系には、本発明のtRNAを含む限り、特に限定されずに、無細胞翻訳系で用いられる構成要素を含む。
翻訳系は、EF-Tuタンパク質を含有することが好適である。また、従来公知の無細胞翻訳系において用いられる他の構成要素を含むことが好ましい。
本発明の翻訳系においては、本発明のtRNAを含み、タンパク質性アミノ酸をチャージするtRNAを含むことが好ましい。タンパク質性アミノ酸をチャージするtRNAは、天然型tRNAであり、Tアームが天然に存在する天然型tRNAのTアームを有していることがより好ましい。中でも、タンパク質性アミノ酸がチャージされたtRNAとして天然型のチャージされたtRNAであることが好ましい。天然型のチャージされたtRNAとしては、天然の翻訳系に存在するtRNAであり得る。すなわち、チャージする前のtRNAにおいて、人工的な改変が加えられていないtRNAにアミノ酸がチャージされる場合、アミノ酸がチャージされたtRNAにおいて、天然型tRNAのTアームを有することになる。
タンパク質性アミノ酸がコドン表において再構成されない場合には、天然の翻訳系に存在する当該タンパク質性アミノ酸をチャージしたtRNAを用いてもよい。タンパク質性アミノ酸がコドン表において再構成される場合には、天然の翻訳系に存在するtRNAであって、割り当てられたコドンに対応するtRNAに当該タンパク質性アミノ酸をチャージしてもよい。
本明細書において、「チャージする」、「チャージされた」という用語は、「結合する」、「結合した」あるいは「連結する」、「連結した」と同義で用いられる。したがって、「タンパク質性アミノ酸をチャージするtRNA」とは、タンパク質性アミノ酸がtRNAにアシル化されているtRNAであることを意味し、タンパク質性アミノ酸がtRNAに「アミノアシル化」されていることとも同義となる。
また、本発明の翻訳系では、本発明のtRNAを複数有していてもよく、複数含まれる本発明のtRNAは、チャージされるN-メチルアミノ酸が異なる場合(この場合、N-メチルアミノ酸に割り当てられたコドンが対応する)もあれば、Tアームが異なるtRNAを複数含んでいてもよい。
すなわち、配列番号4で示される塩基配列のTアームを有するtRNAから、複数のtRNAが選択された翻訳系であってもよく、配列番号4で示される塩基配列のTアームを有するtRNAが複数種である場合には、それらは、前述した好ましい塩基配列の中から選択される2種以上であってもよい。例えば、配列番号4で示される塩基配列において、Tアームの塩基配列N1N2GGN3及びN4CCN5Uの組合せとして、tRNAとして2種が用いられる場合には、AN2GGN3及びN4CCN5Uと、GN2GGN3及びN4CCN5Uとの組み合わせや、AGGGN3及びN4CCCUと、GCGGN3及びN4CCGUとの組み合わせが挙げられる。
より具体的には、本発明の翻訳系においては、配列番号1で示される塩基配列のTアームを有するtRNA及び/又は配列番号2で示される塩基配列のTアームを有するtRNAを含む翻訳系であってもよく、配列番号5で示される塩基配列のTアームを有するtRNA及び/又は配列番号6で示される塩基配列のTアームを有するtRNAを含む翻訳系であってもよい。
本発明においては、配列番号1で示される塩基配列のTアームを有するtRNAと、配列番号2で示される塩基配列のTアームを有するtRNAとを含む翻訳系であってもよく、配列番号5で示される塩基配列のTアームを有するtRNAと、配列番号6で示される塩基配列のTアームを有するtRNAとを含む翻訳系であってもよい。また、本発明の翻訳系では、配列番号1で示される塩基配列のTアームを有するtRNAと、配列番号2で示される塩基配列のTアームを有するtRNAとを対比した場合に、配列番号2で示される塩基配列のTアームを有するtRNAの方が、EF-Tu親和性が高いため、配列番号2で示される塩基配列のTアームを有するtRNAに、ペプチドへの導入が難しいN-メチルアミノ酸をチャージさせることが好適である。
本発明の翻訳系としては、配列番号1で示される塩基配列のTアームを有するtRNAと、配列番号2で示される塩基配列のTアームを有するtRNAとに、EF-Tu親和性を考慮して、適宜、N-メチルアミノ酸をチャージしてもよい。
また、そもそも、本発明のTステムを有するtRNAを用いなくても、N-メチルアミノ酸がアミノアシル化されたtRNAにおいて、EF-Tu親和性を有する場合については、N-メチルアミノ酸に対応するアミノ酸(例えば、N-メチルグリシンに対応するアミノ酸はグリシンである。)がチャージされている天然型tRNAにチャージしてもよい。また、N-メチルグリシンが割り当てられたコドンに対応する天然型tRNAにチャージしてもよい。そのようなN-メチルアミノ酸としては、N-メチルグリシンとN-メチルセリンが挙げられる。すなわち、N-メチルグリシンとN-メチルセリンについては、本発明のtRNAにチャージしてもよいが、本発明の翻訳系においては、本発明のtRNAにチャージされていなくても構わない。
【0018】
本発明においては、本発明の翻訳系とする際に、N1N2GGN3及びN4CCN5Uが対合するTステムを有するtRNAにN-メチルアミノ酸をチャージして本発明のN-メチルアミノ酸がチャージされたtRNAを準備する。
また、本発明においては、本発明における翻訳すなわち、ペプチドライブラリの製造方法やペプチドと該ペプチドをコードするmRNAとの複合体ライブラリの製造方法において、本発明のtRNAを含む翻訳系を準備する。当該翻訳系においては、EF-Tuタンパク質を含むことが好適である。。
本発明においては、本発明のtRNA又は翻訳系を用いて、無細胞翻訳系で翻訳する工程を含み、当該無細胞翻訳系で翻訳する前には、本発明の翻訳系を準備する工程を含むことが好適である。
本発明の翻訳系を準備する工程としては、無細胞翻訳系で翻訳するための翻訳系を準備する。中でも、本発明においては、当該準備する工程において、N-メチルアミノ酸をチャージする前にAGGGN3及びN4CCCUが対合するTステムを有するtRNA並びにGCGGN3及びN4CCGUが対合するTステムを有するtRNAであるか、それら以外のtRNAにチャージすることを決定することが好ましい。
N-メチルアミノ酸はtRNAにチャージすることで無細胞翻訳系による翻訳でペプチドのアミノ酸配列に取り込まれる。
翻訳の効率化のため、N-メチルアミノ酸をチャージしたtRNAとEF-Tuとの親和性が他のアミノ酸(N-メチルアミノ酸を含む)をチャージしたtRNAにおけるEF-Tuとの親和性が等価であることが好ましい。
そこで、準備工程においては、EF-Tuとの親和性を考慮して、N-メチルアミノ酸をチャージする前にAGGGN3及びN4CCCUが対合するTステムを有するtRNA並びにGCGGN3及びN4CCGUが対合するTステムを有するtRNAであるか、それら以外のtRNAにチャージすることを決定することが好ましい。
EF-Tuとの親和性を考慮して用意されるアミノ酸(N-メチルアミノ酸を含む)がチャージされたtRNAは、ペプチドのアミノ酸配列に取り込まれる際の取り込み効率が同等であることが好ましい。
準備工程においては、N-メチルアミノ酸をチャージするtRNAとして、AGGGG(N4)mCCCCU(配列番号1)を有するtRNA及びGCGGG(N4)mCCCGU(配列番号2)を有するtRNAであるか、それら以外のtRNAが選択されることが好ましい。
【0019】
配列番号1で示される塩基配列のTアームを有するtRNAと、配列番号2で示される塩基配列のTアームを有するtRNA、天然型tRNAの選択に関しては、EF-Tu親和性が特定範囲になるような、tRNAを選択することが好ましい。
tRNAとEF-Tuとの親和性の指標として、ΔG(kcal/mol)が、-7.5~-10の範囲内であることが好ましく、かかる範囲内で、下限値は、-8以上であることが好ましく、上限値が、-9.5以下であることが好ましく、-9以下であることがより好ましい。
【0020】
本発明における翻訳系では、フレキシザイムを利用したコドンの再割当において、NNNとして適宜選択したコドンに対して、N-メチルアミノ酸を割り当てる。
本発明における翻訳系では、天然の翻訳系を使用してもよい。天然の翻訳系においては、各アミノ酸に対応したアンチコドンを有するtRNAが存在し、各tRNAは、アンチコドンループ以外の領域においてもそれぞれ固有の配列を有する。
本発明においては、本発明のTステムの塩基配列を導入すれば、他の配列については、それら天然の翻訳系におけるtRNAの固有の配列を割り当てられるという意味で、アクセプターステム、アンチコドンステム、アンチコドンループ、バリアブルループの塩基配列は、任意であり得る。
【0021】
本発明における翻訳系では、フレキシザイムを利用し、NNNのすべてに任意のアミノ酸を再割当してもよく(Nは任意の塩基である。)、その場合、tRNAをすべて人工のものとしてもよいが、天然型と人工型の組み合わせとしていてよい。この場合、翻訳系に加える各NNNに対応する伸長tRNAは、全長の85%以上又は90%以上が同一の塩基配列からなるものであってもよく、アンチコドンを除いた配列のうち、ほとんど配列が同じである伸長tRNA群を用いることもできる。
本明細書において、アンチコドンループとは、tRNAにおけるアンチコドンを含む一本鎖のループ部分を示す。アンチコドンループの配列は、コドン-アンチコドンの相互作用を相補するように、当業者が適宜決定することが可能である。
【0022】
本発明においては、ペプチドライブラリの各ペプチドをコードするmRNAを含み、各mRNAが1又は複数の、好ましくは複数のN-メチルアミノ酸をコードするNNNを含むmRNAライブラリを調製する工程と;
NNNのいずれかのコドンに対するアンチコドンを有し、該コドンに対応するN-メチルアミノ酸がチャージされたtRNAを加えた無細胞翻訳系で、mRNAライブラリの各mRNAを翻訳する工程と、を含む。ペプチドライブラリの製造方法とすることができる。
かかる翻訳系として、上記した様に、本発明のTステム乃至Tアームを有するtRNAを選択した翻訳系とすることが好ましい。
すなわち、無細胞翻訳系とする際に、天然型tRNAと、配列番号1で示される塩基配列のTアームを有するtRNAと、配列番号2で示される塩基配列のTアームを有するtRNAのいずれかのtRNAにN-メチルアミノ酸がチャージされていることが好ましい。タンパク質性アミノ酸は、天然型tRNAにチャージされていてよく、翻訳系は、N-メチルアミノ酸がチャージされた配列番号1で示される塩基配列のTアームを有するtRNA及び/又はN-メチルアミノ酸がチャージされた配列番号2で示される塩基配列のTアームを有するtRNAを含むことが好ましく、双方のtRNAを含むことがより好ましい。
【0023】
本発明においては、N-メチルアラニン、N-メチルグリシン、N-メチルセリンは、天然型tRNAにチャージすることが好ましく、N-メチルアラニンは、本発明のtRNAにチャージしてもよく、配列番号1で示される塩基配列のTアームを有するtRNAにチャージしてもよく、配列番号5で示される塩基配列のTアームを有するtRNAにチャージしてもよい。
配列番号1で示される塩基配列のTアームを有するtRNAか配列番号5で示される塩基配列のTアームを有するtRNAにチャージしてもよいN-メチルアミノ酸としては、N-メチルグリシン、N-メチルセリン以外のN-メチルアミノ酸が挙げられる。
非天然アミノ酸のN-メチル化体を本発明のtRNAにチャージしてもよい。
配列番号2で示される塩基配列のTアームを有するtRNAか配列番号6で示される塩基配列のTアームを有するtRNAにチャージしてもよいN-メチルアミノ酸としては、本発明のtRNA以外のtRNAにチャージせず、配列番号1で示される塩基配列のTアームを有するtRNAか配列番号5で示される塩基配列のTアームを有するtRNAにチャージしてもよいN-メチルアミノ酸が挙げられ、特に限定されるものではないが、中でもN-メチルバリンが挙げられる。
N―メチルバリン、N-メチルグリシン、N-メチルセリン以外のN-メチルアミノ酸については、配列番号1、2、5、6で示される塩基配列のTアームを有するtRNAにチャージしてよい。そのようなN-メチルアミノ酸としては、
図1dに記載するN-メチルアミノ酸が挙げられる。なお、
AcKをN-メチルアミノ酸に代えてtRNAにチャージする場合も本発明の翻訳系で用いてよい。
【0024】
本発明において、ペプチド-mRNA複合体ライブラリの製造方法は、上述したペプチドライブラリの製造方法において、mRNAライブラリを調製する際、各mRNAのORF(Open reading frame)の下流領域にピューロマイシンを結合させることによって行われる。ピューロマイシンは、ペプチドや核酸で構成されるリンカーを介してmRNAに結合させてもよい。mRNAのORF下流領域にピューロマイシンを結合させることにより、mRNAのORFを翻訳したリボソームがピューロマイシンを取り込み、mRNAとペプチドの複合体が形成される。このようなペプチド-mRNA複合体は、遺伝子型と表現型を対応付けることができ、in vitroディスプレイに応用できる。
【0025】
本発明においては、まず、N-メチルアミノ酸を割り当てるNNNを選択し、NNNのアンチコドンをアンチコドンループ内に有し、N-メチルアミノ酸をコードするtRNAをフレキシザイム等を用いて調製する。
次いで、各mRNAが1又は複数のN-メチルアミノ酸をコードするNNNを含むmRNAライブラリを調製し、翻訳することで、割り当てられたN-メチルアミノ酸を含むペプチドを発現させることができる。
【0026】
本明細書において、「NNN」は、アミノ酸を指定するコドンを意味し、コドンを形成する3つのNは、それぞれ独立に、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)及びウラシル(U)から選択される。1つのmRNAには、N-メチルアミノ酸がコードされたNNNが複数含まれていてよい。
【0027】
本発明においては、N-メチルアミノ酸をコードしないNNNには、任意のアミノ酸が再割当されていてもよいし、天然の遺伝暗号に基づいたコドンとアミノ酸との関係を用いてもよい。
再割当においては、天然の遺伝暗号表におけるコドンとアミノ酸の関係とは異なるものを割り当てることもできるし、同一のものを割り当てることもできる。
「天然の遺伝暗号表」とは、生体においてmRNAのトリプレット(コドン)に割り当てられたアミノ酸を示した表であり、下記表1に示す。
【0028】
【0029】
各コドンに対する、天然の遺伝暗号表とは異なるアミノ酸の割り当ては、例えば、人工アミノアシル化RNA触媒フレキシザイム(Flexizyme)を利用したコドン再割当によって実現される。フレキシザイムによれば、任意のアンチコドンを有するtRNAに所望のアミノ酸を結合させることができるので、任意のコドンに任意のアミノ酸を割り当てることが可能となる。
【0030】
本明細書において、アミノ酸としては、タンパク質性アミノ酸に加え、人工のアミノ酸変異体や誘導体を含み、例えば、タンパク質性L-アミノ酸、アミノ酸の特徴である当業界で公知の特性を有する化学的に合成された化合物等が挙げられる。
タンパク質性アミノ酸(proteinogenic amino acids)は、当業界に周知の3文字表記により表すと、Arg、His、Lys、Asp、Glu、Ser、Thr、Asn、Gln、Cys、Gly、Pro、Ala、Ile、Leu、Met、Phe、Trp、Tyr、及びValである。
N-メチルアミノ酸以外の非タンパク質性アミノ酸が用いられていてもよく、非タンパク質性アミノ酸(non-proteinogenic amino acids)としては、タンパク質性アミノ酸以外の天然又は非天然のアミノ酸を意味する。
非天然アミノ酸としては、例えば、主鎖の構造が天然型と異なる、α,α-二置換アミノ酸(α-メチルアラニンなど)、N-アルキル-α-アミノ酸、D-アミノ酸、β-アミノ酸、α-ヒドロキシ酸や、側鎖の構造が天然型と異なるアミノ酸(ノルロイシン、ホモヒスチジンなど)、側鎖に余分のメチレンを有するアミノ酸(「ホモ」アミノ酸、ホモフェニルアラニン、ホモヒスチジンなど)、及び側鎖中のカルボン酸官能基がスルホン酸基で置換されるアミノ酸(システイン酸など)等が挙げられる。非天然アミノ酸の具体例としては、国際公開第2015/030014号に記載のアミノ酸が挙げられる。
非タンパク質性アミノ酸が、D-アミノ酸、β-アミノ酸又はα,α-二置換アミノ酸であることが好適であり、D-アミノ酸又はβ-アミノ酸であることがより好適である。
【0031】
本発明においては、ペプチドを1×106種以上含むペプチドライブラリを製造することができる。
各ペプチドに含まれるNNNでコードされるアミノ酸の数は、N-メチルアミノ酸が含まれる限り、特に限定されないが、例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、15個、20個、30個等とすることができるが、1~10個であってもよい。各mRNAにおける非タンパク質性アミノ酸をコードするNNNの位置は特に限定されず、本発明のtRNAを用いることで、非タンパク質性アミノ酸をコードするNNNが連続して配置されるmRNAからも、タンパク質性アミノ酸のライブラリ合成と同程度で、非タンパク質性アミノ酸が連続して配置されたペプチドが翻訳される。
【0032】
コドン再割当には、翻訳系の構成因子を目的に合わせて自由に取り除き、必要な成分だけを再構成してできる翻訳系を利用できる。例えば、特定のアミノ酸を除去した翻訳系を再構成すると、当該アミノ酸に対応するコドンが、いずれのアミノ酸もコードしない空きコドンになる。そこで、フレキシザイム等を利用して、その空きコドンに相補的なアンチコドンを有するtRNAに任意のアミノ酸を連結し、これを加えて翻訳を行うと、当該任意のアミノ酸がそのコドンでコードされることになり、除去したアミノ酸の代わりに当該任意のアミノ酸が導入されたペプチドが翻訳される。
【0033】
本明細書において「無細胞翻訳系」とは、細胞を含まない翻訳系をいい、無細胞翻訳系としては、例えば、大腸菌抽出液、小麦胚芽抽出液、ウサギ赤血球抽出液、昆虫細胞抽出液等を用いることができる。また、それぞれ精製したリボソームタンパク質、アミノアシルtRNA合成酵素(aaRS)、リボソームRNA、アミノ酸、rRNA、GTP、ATP、翻訳開始因子(IF)、伸長因子(EF)、終結因子(RF)、およびリボソーム再生因子(RRF)、ならびに翻訳に必要なその他の因子を再構成することで構築した、再構成型の無細胞翻訳系を用いても良い。
DNAからの転写を併せて行うためにRNAポリメラーゼを含む系としてもよい。市販されている無細胞翻訳系として、大腸菌由来の系としてはロシュ・ダイアグノスティックス社のRTS-100(登録商標)、再構成型翻訳系としてはPGI社のPURESYSTEM(登録商標)やNew England BioLabs社のPURExpressR In Vitro Protein Synthesis Kit等、小麦胚芽抽出液を用いた系としてはゾイジーン社やセルフリーサイエンス社のもの等を使用できる。
また、大腸菌のリボソームを用いる系として、例えば次の文献に記載された技術が公知である:H. F. Kung et al., 1977. The Journal of Biological Chemistry Vol. 252, No. 19, 6889-6894; M. C. Gonza et al., 1985, Proceeding of National Academy of Sciences of the United States of America Vol. 82, 1648-1652; M. Y. Pavlov and M. Ehrenberg, 1996, Archives of Biochemistry and Biophysics Vol. 328, No. 1, 9-16; Y. Shimizu et al., 2001, Nature Biotechnology Vol. 19, No. 8, 751-755; H. Ohashi et al., 2007, Biochemical and Biophysical Research Communications Vol. 352, No. 1, 270-276。
無細胞翻訳系によれば、発現産物を精製することなく純度の高い形で得ることができる。
なお、本発明の無細胞翻訳系は、転写に必要な因子を加えて、翻訳のみならず転写に用いてもよい。
【0034】
本発明において得られるペプチドは、環状ペプチドであってもよく、例えば、下記表2に示す官能基1を有するアミノ酸と、対応する官能基2を有するアミノ酸が環状化した環状ペプチドとすることができる。
官能基1と2はどちらがN末端側にきてもよく、N末端とC末端に配置してもよいし、一方を末端アミノ酸、他方を非末端アミノ酸としてもよいし、両方を非末端アミノ酸としてもよい。
官能基1と官能基2により形成される結合が、環状ペプチドにおける分子環状構造を形成するための化学架橋構造といえる。
【0035】
【表2】
式中、X
1は脱離基であり、脱離基としては、例えば、Cl、Br及びI等のハロゲン原子が挙げられ、Arは置換基を有していてもよい芳香環である。
【0036】
(A-1)の官能基を有するアミノ酸としては、例えば、クロロアセチル化したアミノ酸を用いることができる。クロロアセチル化アミノ酸としては、N-chloroacetyl-L-alanine、N-chloroacetyl-L-phenylalanine、N-chloroacetyl-L-tyrosine、N-chloroacetyl-L-tryptophan、N-3-(2-chloroacetamido)benzoyl-L-phenylalanine、N-3-(2-chloroacetamido)benzoyl-L-tyrosine、N-3-(2-chloroacetamido)benzoyl-L-tryptophan、β-N-chloroacetyl-L-diaminopropanoic acid、γ-N-chloroacetyl-L-diaminobutyric acid、δ-N-chloroacetyl-L-ornithine、ε-N-chloroacetyl-L-lysine、及びこれらに対応するD-アミノ酸誘導体等が挙げられる。
(A-1)の官能基を有するアミノ酸としては、N-chloroacetyl-L-tryptophan及びN-chloroacetyl-L-tyrosineが好適に用いられ、D体であることがより好適である。
なお、本明細書において、L体であることを明示して記載する場合があるが、L体であってもよく、D体であってもよいことを意味し、また、L体とD体の任意の割合での混合物であってもよい。L体及びD体であることを明示して記載していない場合についても、L体であってもよく、D体であってもよいことを意味し、また、L体とD体の任意の割合での混合物であってもよい。
【0037】
(A-2)の官能基を有するアミノ酸としては、例えばcysteine、homocysteine、mercaptonorvaline、mercaptonorleucine、2-amino-7-mercaptoheptanoic acid、及び2-amino-8-mercaptooctanoic acid等が挙げられる。
(A-2)の官能基を有するアミノ酸としては、cysteineが好適に用いられる。
【0038】
(A-1)の官能基を有するアミノ酸と(A-2)の官能基を有するアミノ酸による環状化方法は、例えば、Kawakami, T. et al., Nature Chemical Biology 5, 888-890 (2009);Yamagishi, Y. et al., ChemBioChem 10, 1469-1472 (2009);Sako, Y. et al., Journal of American Chemical Society 130, 7932-7934 (2008);Goto, Y. et al., ACS Chemical Biology 3, 120-129 (2008);Kawakami T. et al, Chemistry & Biology 15, 32-42 (2008)、及び国際公開第2008/117833号等に記載された方法が挙げられる。
【0039】
(B-1)の官能基を有するアミノ酸としては、例えば、propargylglycine、homopropargylglycine、2-amino-6-heptynoic acid、2-amino-7-octynoic acid、及び2-amino-8-nonynoic acid等が挙げられる。
4-pentynoyl化や5-hexynoyl化したアミノ酸を用いてもよい。
4-pentynoyl化アミノ酸としては、例えば、N-(4-pentenoyl)-L-alanine、N-(4-pentenoyl)-L-phenylalanine、N-(4-pentenoyl)-L-tyrosine、N-(4-pentenoyl)-L-tryptophan、N-3-(4-pentynoylamido)benzoyl-L-phenylalanine、N-3-(4-pentynoylamido)benzoyl-L-tyrosine、N-3-(4-pentynoylamido)benzoyl-L-tryptophan、β-N-(4-pentenoyl)-L-diaminopropanoic acid、γ-N-(4-pentenoyl)-L-diaminobutyric acid、σ-N-(4-pentenoyl)-L-ornithine、ε-N-(4-pentenoyl)-L-lysine、及びこれらに対応するD-アミノ酸誘導体等が挙げられる。
5-hexynoyl化アミノ酸としては、4-pentynoyl化アミノ酸として例示した化合物において、4-pentynoyl基が、5-hexynoyl基に置換されたアミノ酸が挙げられる。
【0040】
(B-2)の官能基を有するアミノ酸としては、例えば、azidoalanine、2-amino-4-azidobutanoic acid、azidoptonorvaline、azidonorleucine、2-amino-7-azidoheptanoic acid、及び2-amino-8-azidooctanoic acid等が挙げられる。
azidoacetyl化や3-azidopentanoyl化したアミノ酸を用いることもできる。
azidoacetyl化アミノ酸としては、例えば、N-azidoacetyl-L-alanine、N-azidoacetyl-L-phenylalanine、N-azidoacetyl-L-tyrosine、N-azidoacetyl-L-tryptophan、N-3-(4-pentynoylamido)benzoyl-L-phenylalanine、N-3-(4-pentynoylamido)benzoyl-L-tyrosine、N-3-(4-pentynoylamido)benzoyl-L-tryptophan、β-N-azidoacetyl-L-diaminopropanoic acid、γ-N-azidoacetyl-L-diaminobutyric acid、σ-N-azidoacetyl-L-ornithine、ε-N-azidoacetyl-L-lysine、及びこれらに対応するD-アミノ酸誘導体等が挙げられる。
3-azidopentanoyl化アミノ酸としては、azidoacetyl化アミノ酸として例示した化合物において、azidoacetyl基が、3-azidopentanoyl基に置換されたアミノ酸が挙げられる。
【0041】
(B-1)の官能基を有するアミノ酸と(B-2)の官能基を有するアミノ酸による環状化方法は、例えば、Sako, Y. et al., Journal of American Chemical Society 130, 7932-7934 (2008)、及び国際公開第2008/117833号等に記載された方法が挙げられる。
【0042】
(C-1)の官能基を有するアミノ酸としては、例えば、N-(4-aminomethyl-benzoyl)-phenylalanine (AMBF)及び3-aminomethyltyrosine等が挙げられる。
(C-2)の官能基を有するアミノ酸としては、例えば、5-hydroxytryptophan(WOH)等が挙げられる。
(C-1)の官能基を有するアミノ酸と(C-2)の官能基を有するアミノ酸による環状化方法は、例えば、Yamagishi, Y. et al., ChemBioChem 10, 1469-1472 (2009)及び国際公開第2008/117833号に記載された方法等が挙げられる。
【0043】
(D-1)の官能基を有するアミノ酸としては、例えば、2-amino-6-chloro-hexynoic acid、2-amino-7-chloro-heptynoic acid、及び2-amino-8-chloro-octynoic acid等が挙げられる。
(D-2)の官能基を有するアミノ酸としては、例えばcysteine、homocysteine、mercaptonorvaline、mercaptonorleucine、2-amino-7-mercaptoheptanoic acid、及び2-amino-8-mercaptooctanoic acid等が挙げられる。
(D-1)の官能基を有するアミノ酸と(D-2)の官能基を有するアミノ酸による環状化方法は、例えば、国際公開第2012/074129号に記載された方法等が挙げられる。
【0044】
(E-1)のアミノ酸としては、例えば、N-3-chloromethylbenzoyl-L-phenylalanine、N-3-chloromethylbenzoyl-L-tyrosine、N-3-chloromethylbenzoyl-L-tryptophane、及びこれらに対応するD-アミノ酸誘導体等が挙げられる。
(E-2)のアミノ酸としては、例えば、cysteine、homocysteine、mercaptonorvaline、 mercaptonorleucine、2-amino-7-mercaptoheptanoic acid、及び2-amino-8- mercaptooctanoic acid等が挙げられる。
(E-1)の官能基を有するアミノ酸と(E-2)の官能基を有するアミノ酸による環状化方法は、例えば、(A-1)と(A-2)の環状化方法や(D-1)と(D-2)の環状化方法を参考にして行うことができる。
【0045】
環形成アミノ酸としては、(A-1)の官能基を有するアミノ酸と(A-2)の官能基を有するアミノ酸との組み合わせが好ましく、脱離基でHが置換されたN-アセチルトリプトファンとcysteineの組み合わせがより好ましく、N-haloacetyl-D-tyrosine又はN-haloacetyl-D-tryptophan、好適にはN-chloroacetyl-D-tyrosine又はN-chloroacetyl-D-tryptophanとcysteine(Cys)の組み合わせがさらに好ましい。
【0046】
本発明においては、ペプチドライブラリ又はペプチド-mRNA複合体ライブラリも提供する。
本発明のtRNAを用いてペプチドライブラリを製造することで、L-アミノ酸からなるペプチドの発現レベルと同程度で、N-メチルアミノ酸を含むペプチドを合成できるため、従来のペプチドライブラリに比して、1つのペプチド内に、N-メチルアミノ酸の導入において多様性に富むペプチドライブラリとすることができる。
中でも、2以上のN-メチルアミノ酸を含むペプチドを含むライブラリとすることができる。
本発明のtRNAを用いてペプチド-mRNA複合体ライブラリを製造することで、L-アミノ酸からなるペプチドの発現レベルと同程度で、N-メチルアミノ酸を含むペプチドを合成できるため、従来のペプチド-mRNA複合体ライブラリに比して、N-メチルアミノ酸の導入において多様性に富むペプチド-mRNA複合体ライブラリとすることができる。
【0047】
本発明においては、本発明に係るtRNAを用いて製造されたペプチドライブラリを用いた、標的物質に結合するペプチドを同定するためのスクリーニング方法も提供する。
スクリーニング方法としては、本発明に係るtRNAを用いて製造されたペプチドライブラリと標的物質を接触させてインキュベートする工程を含む。
本明細書において、標的物質は特に限定されず、低分子化合物、高分子化合物、核酸、ペプチド、タンパク質、糖、脂質等とすることができる。
スクリーニング方法としては、標的物質と結合したペプチドを選択する工程をさらに含む。標的物質と結合したペプチドの選択は、例えば、ペプチドを公知の方法に従って検出可能に標識し、上記接触工程の後、緩衝液で固相担体表面を洗浄し、標的物質に結合している化合物を検出して行う。
検出可能な標識としては、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等の酵素、125I、131I、35S、3H等の放射性物質、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ダンシルクロリド、フィコエリトリン、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、近赤外蛍光材料等の蛍光物質、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、エクオリン等の発光物質、金コロイド、量子ドットなどのナノ粒子が挙げられる。酵素の場合、酵素の基質を加えて発色させ、検出することもできる。また、ペプチドにビオチンを結合させ、酵素等で標識したアビジン又はストレプトアビジンを結合させて検出することもできる。
【0048】
ペプチド-mRNA複合体ライブラリの場合、TRAPディスプレイ法を応用してスクリーニングを行うことができる。
この場合、まず、ペプチド-mRNA複合体ライブラリに対して逆転写反応を行った後、当該ライブラリと標的物質とを接触させる。標的物質に結合する複合体を選択し、このDNAをPCRで増幅する。このDNAをTRAP反応系に加えることで、再度ペプチド-mRNA複合体ライブラリを作製し、同様の操作を繰り返す。
これにより、標的物質に高い親和性を有するペプチド-mRNA複合体が濃縮されるので、濃縮された複合体のDNAの配列を解析して、標的物質に結合するペプチドを効率よく同定することができる。
【0049】
本明細書において引用されるすべての非特許文献及び参考文献の開示は、全体として本明細書に参照により組み込まれる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。当業者は、本発明の意義を逸脱することなく様々な態様に本発明を変更することができ、かかる変更も本発明の範囲に含まれる。
【0051】
tRNA、フレキシザイム、mDNA、mRNAの調製
表3に記載のオリゴヌクレオチドは全て、ユーロフィン(日本)から購入した。なお、表3中、G(Me)は、2’-O-メチルグアノシンを意味する。本実施例で調製したtRNA転写物の配列を表4に示した。tRNAをコードする二本鎖DNA鋳型を、プライマー伸長後にPCRによって以下のようにして調製した:適当なForwardプライマー及びReverseプライマー(各1μM、使用したプライマーについては表5を参照)を、100μLのPCR混合物(10mM Tris-HCl(pH9.0)、50mM KCl、2.5mM MgCl2、各dNTP、0.1%(v/v) Triton X-100及び45nM Taq DNAポリメラーゼ)中で混合した。プライマー伸長は、変性(95℃で1分)に続いて5サイクルのアニーリング(50℃で1分)及び伸長(72℃で1分)によって行った。得られた反応混合物1μLを、各々の適切なForward及びReverseプライマー(各0.5μM、使用したプライマーについては表5を参照)を含むPCR混合物199μLで200倍希釈し、12サイクルの変性(95℃で40秒)、アニーリング(50℃で40秒)及び伸長(72℃で40秒)によってPCRを行った。PCR産物の増幅を、3%アガロースゲル電気泳動及びエチジウムブロマイド染色によって確認した。得られたDNAをフェノール/クロロホルム抽出及びエタノール沈殿により精製し、次いで水20μLに溶解した。tRNAの濃度は、10倍希釈溶液のA260によって測定した。
転写反応は、200μLの転写混合物(40mM Tris―HCl(pH8.0)、1mM spermidine、0.01%(v/v)Triton X-100、10mM DTT、22.5mM MgCl2、各NTP、5mM GMP、22.5mM KOH、10%(v/v)DNA鋳型及び120nM T7 RNAポリメラーゼ)を37℃で一晩インキュベートすることによって行った。転写混合物をMnCl2(100mM、4μL)及びRQ1 RNアーゼフリーDNアーゼ(1U/μL、1μL、Promega)と混合し、37℃で30分間インキュベートした。得られたtRNA転写物をイソプロパノールにより沈殿させ、水に溶解した。tRNA転写物を8%変性PAGE及びエタノール沈殿により精製し、次いで10μLの水に溶解した。
フレキシザイム(dFxおよびeFx)は、非特許文献13及び参考文献2に記載の方法に従って調製した。 ADDIN EN.CITE ADDIN EN.CITE.DATA
mRNAをコードする二本鎖DNA鋳型(mDNA,mRNA配列については表6を参照)を、プライマー伸長およびPCRにより調製した(用いたプライマーについては表7を参照)。得られたmDNAを、フェノール/クロロホルム抽出およびエタノール沈殿により精製し、次いで10μLの水に溶解した。濃度は、対照として100bpのQuick-Load DNA Ladders(New England BioLabs)を用いた8%NATIVE PAGE及びエチジウムブロマイド染色によって測定した。
mRNAを以下のようにしてin vitro転写により調製した:200μL転写混合物(40mM Tris・HCl(pH8.0)、1mMスペルミジン、0.01%(v/v)Triton X-100、10mM DTT、30mM MgCl2、各NTPs5mM、30mM KOH、10%(v/v)DNA鋳型及び120nM T7 RNAポリメラーゼ)を37℃で一晩インキュベートした。転写混合物をMnCl2(100mM、4μL)及びRQ1 RNアーゼフリーDNアーゼ(1U/μL、1μL、Promega)と混合し、37℃で30分間インキュベートした。得られたmRNAをイソプロパノールにより沈殿させ、水に溶解した。tRNA転写物を8%変性PAGE及びエタノール沈殿により精製し、次いで10μLの水に溶解した。mRNAの濃度は、10倍希釈溶液のA260によって測定した。
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
表3に記載の塩基配列は、それぞれ順に、配列番号8~78に該当する。また、表4に記載の塩基配列は、それぞれ、配列番号79~122に該当する。本発明のtRNAの塩基配列は、表4において、No.3又はNo.4として記載される塩基配列を有していてもよい。
【0058】
屈曲体によるアミノアシルtRNAの合成
適切なエステル基(Phe-CME、Tyr-CME、Ser-DBE、MeG-DBE、Me S-DBE、MeA-DBE、MeF-CME、MeL-DBE、MeM-DBE、MeT-DBE、MeY-CME、MeD-DBE、MeV-DBE、MeNl-DBE、MeYm-CME、MeNv-DBE及びAcK-DBE;ここで、CMEは、シアノメチルエステルを、DBEは、3,5-ジニトロベンジルエステルを意味する。)で活性化されたアミノ酸を、非特許文献13及び15並びに参考文献3に記載の方法に従って合成した。
アミノアシルtRNAを、以下のようにして調製した: ADDIN EN.CITE ADDIN EN.CITE.DATA 42μMのtRNAと42μMのフレキシザイム(CME活性化アミノ酸についてはeFx、DBE活性化アミノ酸についてはdFx)を含む12μLのHEPES-KOH緩衝液(pH7.5、83mM)を95℃で2分間加熱し、5分間25℃に冷却した。3M MgCl2(4μL)を添加し、混合物を25℃で5分間インキュベートした。反応は、25mM DMSO(4μL)中の活性化アミノ酸基質の添加によって開始し、氷上でアシル化(インキュベーション時間:Phe-CME、Tyr-CME、MeG-DBE、MeA-DBE及びAcK-DBEについては2時間;Ser-DBE、MeS-DBE、MeF-CME、MeL-DBE、MeM-DBE、MeM-DBE及びMeYm-CMEについては6時間;MeT-DBE、MeD-DBE、MeV-DBE、MeV-DBEMeNl-DBE及びMeNv-DBEについては10時間)のためにインキュベートした。アシル化後、反応を80μLの0.3M酢酸ナトリウム(pH5.2)の添加により停止し、RNAをエタノール沈殿により沈殿させた。ペレットを0.1M酢酸ナトリウム(pH5.2)を含む70%エタノールで2回洗浄し、70%エタノールで1回洗浄した。得られたアミノアシルtRNAを、翻訳溶液に添加する直前に1mM酢酸ナトリウム(pH5.2)に溶解した。
【0059】
フレキシザイム触媒によるアミノアシル化の効率の測定
pAA又はnpAAで予めチャージしたエタノール沈殿50pmol tRNAのペレットを、0.52μLの10mM酢酸ナトリウム(pH5.2)に溶解し、酸性PAGE充填緩衝液(83%(v/v)ホルムアミド、150mM酢酸ナトリウム(pH5.2)及び10mM EDTA)5.0μLと混合した。溶液を酸変性ポリアクリルアミドゲル(12%(w/v)アクリルアミド/ビスアクリルアミド(19:1)、8M尿素及び50mM酢酸ナトリウム(pH5.2))に負荷し、300V(約10V/cm)で20時間電気泳動を行った。ゲルを臭化エチジウムで染色し、Typhoon FLA 7000(GEヘルスケア)を用いて分析した。アミノアシル化効率は、アミノアシルtRNA(A)及び遊離tRNA(T)のバンド強度に基づいて計算され、(A)/[(A)+(T)]として表した。
【0060】
tRNAの5′末端または3′末端の放射性標識
tRNAの5′末端を、以下のようにして放射性標識した:4μLの脱リン酸化反応混合物(1μM tRNA、50mM Bis-Tris-Propane-HCl(pH6.0)、1mM MgCl2、0.1mM ZnCl2及び0.5U アンタークティックホスファターゼ(New England BioLabs))を37℃で30分間インキュベートした後、70℃で5分間インキュベートした。溶液(4μL)を、9.1μLの水、2.0μLの10×緩衝液(700mM Tris-HCl(pH7.6)、100mM MgCl2、50mM DTT)、2.9μLの1.7μM [γ-32P]-ATP及び2.0μLの10U/μL T4ポリヌクレオチドキナーゼ(New England BioLabs)と混合した。得られた20μLのキナーゼ反応混合物を37℃で60分間インキュベートした。32P標識tRNA(4pmol)を非標識tRNA(121pmol)と混合した。tRNAをフェノール/クロロホルム抽出及びエタノール沈殿により精製し、次いで10μLの水に溶解した。tRNAの濃度は、50倍希釈溶液のA260によって測定した。
tRNAの3′末端を、以下のようにして放射性標識した:3′末端アデノシンを欠く7.5μLの16.7μM tRNAを80℃で3分間インキュベートした後、氷上に10分間置いた。25μLのCCA添加反応混合物(120mMのGly-NaOH(pH9.0)、75mM MgCl2、30mM DTT、上記で調製した3′末端アデノシンを欠く5μMのtRNA、10mM 非放射性標識ATP
、0.67μM[α-32P]-ATP及び200nM CCA添加酵素)を37℃で20分間インキュベートした。tRNAを、フェノール/クロロホルム抽出、Micro Bio-Spin 30カラム(Bio-Rad)及びエタノール沈殿により精製し、次いで5μLの水に溶解した。tRNAの濃度は100倍希釈溶液のA260によって測定した。
【0061】
EF-TuとアミノアシルtRNA間の親和性の定量
アミノアシルtRNAは、3′-放射性標識tRNA(10%)と非放射性標識tRNA(90%)の混合物を用いてアシル化反応を行った以外は、上記のように調製した。得られたアミノアシルtRNAペレットを、3.2μLの10mM酢酸ナトリウム(pH5.2)に溶解した。アミノアシルtRNAの濃度を、以下のようにして調整した:0.7μLのアミノアシルtRNA溶液を、69.3μLの10mM酢酸ナトリウム(pH5.2)で100倍希釈し、tRNA及びフレキシザイムの濃度を希釈溶液のA260によって測定した。アミノアシルtRNAの濃度は、tRNA濃度及びフレキシザイム触媒アシル化効率に基づいて算出した。アミノアシルtRNAの濃度を、適切な容量の10mM酢酸ナトリウム(pH5.2)を加えることによって2.0μMに調整した。使用の直前に、2.0μMのアミノアシルtRNA溶液を緩衝液A(50mM HEPES-KOH(pH7.6)、100mM KOAc、12mM Mg(OAc)2、1mM GTP、1mM DTT、20mMクレアチンリン酸、2mMスペルミジン、3mMホスホエノールピルビン酸及び0.1μg/μLウサギ筋肉由来ピルビン酸キナーゼ(Sigma)と混合することにより、アミノアシルtRNAの濃度を100nMに調整した。
EF-Tu溶液を緩衝液A中で37℃で30分間インキュベートすることにより、GDP結合形態で保存したEF-TuをGTP結合形態に変換した。通常1.5nM~25μMの範囲の異なる濃度のEF-Tuを含む各試料は、氷上で2倍の連続希釈により調製した。9.6μLのEF-Tu溶液を2.4μLの100nMアミノアシルtRNAと混合し、氷上で20分間インキュベートした。平衡結合条件下で、各溶液10μLを氷上で1mg/mL RNアーゼA(Sigma)1μLと混合した。20秒後、0.1mg/mLの未分画酵母tRNAを含む10%(v/v)トリクロロ酢酸(TCA)50μLを氷上に添加することにより反応をクエンチした。沈殿物をBio-Dot精密濾過装置(Bio-Rad)に組み立てた0.45μM孔径のニトロセルロース膜を用いて濾過し、5%(v/v)TCA200μLで6回洗浄した。膜を95% (v/v)エタノールに5分間浸漬し、乾燥した膜をTyphoon FLA 7000(GE Healthcare)を用いたオートラジオグラフィーにより分析した。RNアーゼAによる20秒の処理後に残るであろうアミノアシルtRNA由来のバックグラウンドシグナルを補正するために、EF-Tuなしを対照として並行して分析して、その放射活性を実験データから差し引いた。得られた放射活性を、20、4、0.8及び0.16nMのtRNAを含む緩衝液A中の較正アミノアシルtRNA試料によって決定した変換係数を用いて、三元複合体の濃度に変換した。平衡解離定数は、KaleidaGraphプログラム(Hulinks)を用いて結合データを次式(3)に適合させることによって決定した。
KD式は次のように定義される。aatRNA、EFTu及びaatRNA・EFTuは、それぞれアミノアシルtRNA、EF-Tu及びそれらの複合体を表す。
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
アミノアシルtRNAの濃度は多段階調製のため各実験でわずかに変動したので、KDとアミノアシルtRNA濃度は適合解析の変数として設定した。
【0066】
in vitro翻訳
再構成した無細胞翻訳系(参考文献4)は、RF1を除く翻訳に必要なすべての成分を含んでいた。翻訳成分の濃度は、各図について特段の記載をしない限り、以下のように最適化されている(参考文献2):50 mM HEPES-KOH(pH7.6)、100mM KOAc、2mM GTP、2mM ATP、1mM CTP、1mM UTP、20mM クレアチンリン酸、12-20mM Mg(OAc)
2、2mM スペルミジン、1mM DTT、100μM 10-ホルミル-5,6,7,8-テトラ葉酸、1.2μM リボソーム、2.7μM IF1、0.4μM IF2、1.5μM IF3、10μM EF-Tu、10μM EF-Ts、0.26μM EF-G、0.25μM RF2、0.17μM RF3、0.5μM RRF、0.6μM MTF、4μg/mL クレアチンキナーゼ、3μg/mL ミオキナーゼ、0.1μM ピロホスファターゼ、0.1μM ヌクレオチド二リン酸キナーゼ、0.1μM T7 RNAポリメラーゼ、0.73μM AlaRS、0.03μM ArgRS、0.38μM AsnRS、0.13μM AspRS、0.02μM CysRS、0.06μM GlnRS、0.23μM GluRS、0.09μM GlyRS、0.02μM HisRS、0.4μM IleRS、0.04μM LeuRS、0.11μM LysRS、0.03μM MetRS、0.68μM PheRS、0.16μM ProRS、0.04μM SerRS、0.09μM ThrRS、0.03μM TrpRS、0.02μM TyrRS、0.02μM ValRS、1.5mg/mL native E. coli tRNA混合物(Roche)、200μM 各3―20のpAA、10-50μM 各npAAでチャージしたtRNA
Asn
E2及び各0.25μM mDNA又は6.0μM mRNA。
翻訳産物は、トリシン-SDS-PAGEの後にMALDI-TOF-MS及び/又はオートラジオグラフィーにより分析した。MALDI-TOF-MS分析では、翻訳反応混合物1.0~10μLを37℃で3~120分間インキュベートした。反応後、混合物を同じ容量のFLAG精製緩衝液(100mM Tris-HCl(pH7.6)、300mM NaCl)で希釈した。発現したペプチドを、25℃で1時間インキュベートすることにより、抗FLAG M2アガロースビーズ(Sigma)上に固定化した。25μLの洗浄緩衝液(50mM Tris-HCl(pH7.6)、150mM NaCl)でビーズを洗浄した後、固定化ペプチドを15μLの0.2%TFAで溶出した。精製後、ペプチドをSPE C-チップ(日京テクノス)で脱塩し、マトリックス(R)-cyano-4-ヒドロキシケイ皮酸(Bruker Daltonics)で50%飽和した80%アセトニトリル、0.5%酢酸溶液1μLで溶出した。MALDI-TOF-MS測定は、反射/陽性モードのultraflextreme(Bruker Daltonics)を用いて行い、ペプチド較正標準II(Bruker Daltonics)及び/又はタンパク質較正標準I(Bruker Daltonics)で外部較正した。オートラジオグラフィー分析のために、200μMの非放射性のAspの代わりに50μM [
14C]-Aspの存在下で翻訳反応を行った。翻訳生成物を15%トリシン-SDS-PAGE及びTyphoon FLA 7000(GE Healthcare)を用いたオートラジオグラフィーによってFLAG精製なしで分析した。ペプチド生成物の量は、レーンに存在する和強度(すなわち、未反応遊離Asp及びペプチド生成物の和強度)に対するペプチド生成物の相対バンド強度に基づいて定量した。
mRNA12~14(
図2、
図4~
図7及び
図9)の翻訳のために、
MeAA-tRNAを調製する方法を以下のように変更した。まず、フレキシザイム触媒アシル化後のエタノール沈殿物を、300μLの0.3M酢酸ナトリウム(pH5.2)に溶解し、2回目のエタノール沈殿によって沈殿させた。この沈殿は、共沈したMg塩を洗い流すために行われた。ペレットを、0.1M酢酸ナトリウム(pH5.2)を含む70%エタノールで2回洗浄し、70%エタノールで1回洗浄した。得られたアミノアシルtRNAを、翻訳溶液に添加する直前に1mM酢酸ナトリウム(pH5.2)に溶解した。アミノアシルtRNAの濃度を以下のようにして調整した:0.25μLのアミノアシルtRNA溶液を1250μLの1mM酢酸ナトリウム(pH5.2)で5000倍希釈し、tRNA及びフレキシザイムの濃度を希釈溶液のA
260によって測定した。アミノアシルtRNAの濃度は、tRNA濃度及びフレキザイム触媒アシル化効率に基づいて算出した。
【0067】
多くの
Me
AA-tRNAが十分な強度でEF-Tuに結合できないことを示す実験的証拠
最初に、標準的pAA‐tRNAと
MeAA‐tRNAのEF‐Tu親和性を比較した。対照として、3つの標準的pAA‐tRNA(Phe‐tRNA
Phe、Tyr‐tRNA
Tyr及びSer‐tRNA
Ser)を人工アミノアシル化リボザイムであるフレキシザイム(非特許文献13)の触媒により調製し、それらのEF‐Tu親和性をRNアーゼA保護アッセイにより定量した。以前に報告されたように、それらは-8~-9.4kcal/molの範囲で類似した親和性を示した(
図2a)。観察されたアフィニティー値は、以前に報告された値(-9.5~-10.5kcal/mol)(参考文献5)よりわずかに低かった。差異の原因は、緩衝液組成の差異又は本研究で用いたEF-TuのC末端におけるHis6タグの存在に起因すると考えられた。
MeAA‐tRNAのEF‐Tu親和性を測定するために、14種類の
MeAAを直交tRNA
AsnE2
GACにチャージさせ、そのボディシークエンスを内因性AARS(非特許文献14、参考文献2及び6)によるアミノアシル化を、フレキシザイム触媒アミノアシル化によって避けるように操作した。標準的なpAA-tRNAとは対照的に、多くの
MeAA-tRNA
AsnE2
GACは、
MeG-tRNA
AsnE2
GAC、
MeS-tRNA
AsnE2
GAC及び
MeA-tRNA
AsnE2
GACを除いて、弱いEF-Tu親和性の検出不可能なレベルを示した(
図2b)。チャージしたアミノ酸のα-アミノ基がEF-Tu残基からなるポケットに収容されていることを考えると(
図2c)、N-メチル修飾は
MeAAとポケットの間に立体障害を引き起こし、これによりEF-Tu親和性が低下すると考えられる。
MeG-tRNA
AsnE2
GAC、
MeS-tRNA
AsnE2
GAC及び
MeA-tRNA
AsnE2
GACCの3つの例外は、それらの側鎖(-H、-CH3、および-OH基)をポケットに配置することによって立体障害を緩和する可能性がある。
次に、6種類の
MeAA-tRNA
AsnE2
GACを用いて、FIT(Flexible In vitro Translation)システム(非特許文献13-16並びに参考文献2及び3)と呼ばれる改良in vitro翻訳システムを用いて、単一の
MeAAを含むモデルペプチド(
図2d)のリボソーム合成を行った。このシステムは、フレキシザイムの触媒作用によりnpAAを予めチャージした合成tRNAを補足した再構成大腸菌無細胞翻訳システム(参考文献4)に依拠している。mRNAテンプレートは、抗FLAG M2アガロースによる精製後のMALDI‐TOF‐MSによる翻訳精度を決定するように設計した。GUCコドンの遺伝コードは、FITシステムから対応するValを除外し、代わりに
MeAA-tRNA
AsnE2
GACの1つを補足することによって再プログラムした。強いEF‐Tu親和性を示す
MeG-tRNA
AsnE2
GACと
MeS-tRNA
AsnE2
GACを用いたとき、正しいペプチドがMALDI-TOF-MSの単一主要ピークとして観察された。一方、弱いEF‐Tu親和性を示す
MeAA‐tRNA
AsnE2
GACを用いた場合、
MeAAの代わりにLeu又はIleのいずれかを含む望ましくない副生成物が正しいペプチド生成物と共にMALDI-TOF-MS中に検出された(
図2d)。例外として、
MeF-tRNA
AsnE2
GACは検出可能なレベルのEF-Tu親和性を示さなかったが、
MeFについて単一の主要ピークが観察された。補足実験では、副生成物はIleがFITシステムで供給されたときのみ観察されるので、誤って取り込まれたアミノ酸はLeuではなくIleであることが明らかになった(
図7)。同様の弱いEF‐Tu親和性と翻訳不正確性は、本研究の一般性を確認するために検討した別のタイプのnpAA、ε‐N‐アセチルリジン(
AcK)で観察された(
図2b及び
図2d)。まとめると、本実験は、多くの
MeAA-tRNA
AsnE2
GACのEF-Tu親和性は、標準的なpAA-tRNAの平均値よりもはるかに弱く、弱いEF-Tu親和性は、しばしばリボソームポリペプチド合成の間の翻訳不正確さを引き起こすことを示した。
【0068】
Me
AA-tRNAの弱いEF-Tu親和性を強化する方法の開発
多くの
MeAA-tRNAが十分な強度でEF-Tuに結合できないという事実が発見されたことから、
MeAA-tRNAの弱いEF-Tu親和性を強化する新しい方法を開発することが奨励された。EF-TuとPhe-tRNA
Phe間の結合親和性は、そのTステム配列に依存して変化することが報告されている(参考文献7)から、
MeAA-tRNAのEF-Tu親和性は、異なるTステム配列を使用することによって変化し得るのではないかと、本発明者らは考えた。本思考に基づき、3つのTステム配列(TステムNo.1、No.3及びNo.4)を選択した(
図3a、参考文献7)。
図3aにおいて示す、当初のTステムはTステムNo.2とした。以前の研究に基づき、本発明者らは、これら4つの
MeAA-tRNAのEF-Tu親和性は、Tステム数がNo.1、2、4と増加するにつれて増加すると考察した。
Phe-tRNA
AsnE2
GAC及び
MeF-tRNA
AsnE2
GACを用いて、Tステム置換による親和性強化の実行可能性を確認した。Phe-tRNA
AsnE2
GACのTステム配列を他のTステム配列と置き換えると、EF-Tu親和性は予期した順序に従って変化した(
図3b)。
MeF-tRNA
AsnE2
GACにおいても、Tステム配列No.2、No.3及びNo.4のEF-Tu親和性に同様の変化が認められた(
図3c)。非チャージのtRNA
AsnE2
GACを用いた対照実験により、これらのtRNAはアミノ酸をチャージしない限りEF-Tuに結合しないことが明らかになった(
図8)。
翻訳精度及び効率におよぼすEF‐Tu親和性強化の効果をPhe-tRNA
AsnE2
GAC及び
MeF-tRNA
AsnE2
GACを用いて調べた。mRNAテンプレートは、トリシン-SDS-PAGE(C末端FLAGペプチド領域における[
14C]-Aspのオートラジオグラフィー検出)によってペプチド発現レベルを決定するように設計され、解読の精度は抗FLAG M2アガロースによる精製後にMALDI-TOF-MSによって評価した(
図4a及び
図4b)。TステムNo.1を用いた場合、MALDI-TOF-MSにおいてPheと
MeFの代わりにIleを含む副産物が観察されたが、比較的強力なTステムを有するtRNAを使用すると、正しいペプチドのみが得られた(
図4a及び
図4b)。Ileを含まないFIT系を用いてPhe含有ペプチドの翻訳効率を定量すると、合成速度はEF-Tu親和性が増加するにつれて減少した(
図4c)。合成速度の低下の原因は、(1)より強いTステムを有するPhe-tRNA
AsnE2
GACがEF-Tuに優勢に結合し、正準pAA-tRNAの結合を妨げ、全長ペプチドの合成速度を低下させるか、あるいは(2)EF-Tuと置換されたTステムとの間のあまりに強い相互作用が、以前の研究で観察されたように、EF-TuからリボソームへのアミノアシルtRNAの迅速な送達を妨げるかもしれないという仮説(参考文献8及び9)が原因であると考えられる。正確な理由を特定するためには、さらなる調査が必要である。
MeF-tRNA
AsnE2
GACの場合、TステムNo.2及びNo.3の使用は、TステムNo.1又はNo.4(
図4d)と比較して、最速の合成速度を示した。このことは、TステムNo.1が
MeF-tRNA
AsnE2
GACには弱すぎることを示唆している。まとめると、本結果は、アミノアシルtRNAのEF-Tu親和性は、Tステム置換戦略によって劇的に変化することができ、4つの候補から最良のTステムを選択することによって翻訳の正確さ及び効率を改善することができることを実証した。翻訳精度に及ぼすEF-Tu親和性の影響を、他の4種類の
MeAA-tRNA
AsnE2
GAC及び
AcK-tRNA
AsnE2
GACについても調べた(
図9)。全例において、Tステム置換によりEF‐Tu親和性の強化が達成され、従って、翻訳精度は改善された。特に、
MeL及び
AcKの取り込みの場合、TステムNo.2を使用したとき、副生成物が主ピークとして観察されたが、望ましくない副生成物は、TステムをNo.4配列に置き換えることによって抑制された。他の8種類の
MeAA-tRNA
AsnE2
GACについても、EF-Tu親和性強化が確認された(
図10)。
【0069】
Me
AA-tRNAに対するEF-Tu親和性チューニングを介した高次にN-メチル化されたペプチドの発現
EF-Tu親和性チューニング戦略により改良されたN-メチルペプチド合成を実証するために、次に、6つの異なる
MeAAを含む高次にN-メチル化されたペプチドを発現することを試みた。本実験では2つの改良を行った。まず、
MeAA-tRNAのEF-Tu親和性を、個々の
MeAA-tRNAに適したTステム配列を選択することにより、pAA-tRNAの範囲に調整した(
図5a)。この条件下では、EF-TuはすべてのpAA-tRNA及び
MeAA-tRNAに同等の親和性をもって結合することができる。第二に、各
MeAA-tRNAの濃度を、フレキシザイム触媒アシル化効率(典型的には20~50%)に基づいて調整し、予めチャージした
MeAA-tRNAの濃度を10μMに調整した;一方、従来の方法では、
MeAAで予めチャージした各tRNAをアシル化効率を考慮せずに50μM添加した(
図5b)。本実験では、14のpAAと共に6の
MeAAからなるモデルペプチドをFIT系で発現させ、5つのpAA(Phe、Leu、Ile、Val及びAla)を除外し、その代わりに、6つの
MeAA-tRNA(
MeY-tRNA
AsnE2TS3
GAA、
MeA-tRNA
AsnE2TS3
GAU、
MeF-tRNA
AsnE2TS3
GGC、
MeV-tRNA
AsnE2TS1
GAC、
MeG-tRNA
AsnE2TS5
CAG及び
MeS-tRNA
AsnE2TS5
GAG)を用いた(
図5c及び
図5d)。翻訳を従来のシステム(参考文献6)で行うと、
MeAAの代わりにpAAを含む所望のペプチドおよび種々の副産物の混合物を合成し、混合物の発現レベルは合計で0.7μMであった(
図5e及び
図5f)。他方、本研究で開発した最適化システムは、1.8μMの発現レベルが改善された所望のペプチドのみを生み出した。この結果は、翻訳障害の原因が
MeAA‐tRNAのEF‐Tu親和性の不足に起因する可能性があり、親和性チューニング戦略はN‐メチルペプチドの合成効率と精度を劇的に改善できることを示した。
次に、
MeAAの種類をさらに9つに増やし、9の異なる
MeAAsと14のpAAからなる32-merモデルペプチドP14を発現させた(
図6a-
図6c)。本実験では、非天然の側鎖を有する3種類の
MeAAをレパートリーに加えた。20のpAAを用いた対照翻訳と比較して、9のN-メチル修飾を有するP14ペプチドは、MALDI-TOF-MSによって確認されるように維持された翻訳精度を有する対照に対して34%の効率で発現された(
図6d及び
図6e)。これらの結果は、EF‐Tu親和性チューニング戦略が、同時に使用できる
MeAAの種類を最大9まで劇的に拡大し、高度にN‐メチル化されたペプチドを発現することを可能にすることを実証した。
【0070】
本実施例の結果において示したとおり、本発明により、多種類の
MeAAを含む非標準ペプチドのリボソーム合成を達成する新しい方法を提供することができる。
最初に、本実施例において、EF‐Tuと多くの
MeAA‐tRNA間の結合親和性が弱いことを定量的に実証した(
図2)。このことは、非効率的な
MeAA取込みの原因は
MeAA‐tRNAのリボソームへのEF‐Tu媒介送達の障害に起因するという我々の仮説を支持した。また、本実施例において、
MeAA-tRNAの弱いEF-Tu親和性が、Tステム置換戦略によって強化され得ることを示した(
図3、
図9及び
図10)。特に、EF-Tu結合親和性を強すぎる値に変化させると、対応するペプチドの合成効率が低下した(
図4)。これは、pAAsおよび蛍光npAAを調べた以前の報告と一致した(参考文献8及び9)。
EF-Tuと各
MeAA-tRNA間の親和性の調整は、6の異なる
MeAAを含むモデルペプチドの合成効率と精度を改善することに成功した(
図5)。さらに、開発した翻訳システムは、9種類もの異なる
MeAAを含む高N‐メチル化ペプチドの合成も達成した(
図6)。これにより、同時に使用可能な
MeAAの種類は3から9に拡大した(参考文献6及び10)。特に、9種類の
MeAAは、リボソームポリペプチド合成の不適合基質として報告されている
MeVを含む(参考文献3)。さらに、本実施例により達成された24の構成ブロック(15のpAAs及び9の
MeAA)の多様性は、23種(20のpAAs及び3のnpAA)(参考文献11及び12)の以前の限界を克服した。これらの本実施例により示される事実は、高N‐メチル化ペプチドの合成効率と精度の改善を明確に実証した。
npAA取込みの非効率は、(1)対応するnpAA-tRNAのEF-Tu媒介デリバリーの障害、(2)npAAが関与するゆっくりしたペプチジル転移反応、及び(3)出口トンネルを通るnpAAを含有する新生ポリペプチドの排出の障害に起因すると考えられる。従来技術においては、どのプロセスが非効率化に関する真の原因であるかは同定されていなかったが、本発明により、
MeAA‐tRNAの不十分なEF‐Tu親和性を調整することによって、N‐メチル化ペプチドの合成効率と精度を劇的に改善することができることが示された。この事実は、同じ戦略が、
MeAAと同様に、豊富な多様なnpAAの効率的な取り込みを促進できることを意味する。このような例は、本実施例において
AcKについて実証されている(
図9)。
本発明によるペプチド翻訳システムは、充分な精度と効率で高N‐メチル化ペプチドライブラリを合成することを可能にする。このようなペプチドライブラリとペプチドスクリーニング技術との統合は、将来、望ましい薬理学的特性を有する実用的な非標準ペプチド薬剤の発見を促進することが期待される。
【0071】
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【配列表フリーテキスト】
【0072】
配列番号1、2及び4~6は、Tアームの塩基配列を示す。
配列番号3は、Tループの塩基配列を示す。
配列番号123~125は、表6に記載のmRNAの塩基配列を示す。
配列番号126~128は、図中で記載する翻訳される領域にあたるmRNAの塩基配列を示す。
配列番号129~133は、翻訳されたペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号134~136は、Dアームの塩基配列を示す。
【配列表】