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特許7566405変形性関節症の緩和又は治療するためのカスパーゼ阻害剤の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】変形性関節症の緩和又は治療するためのカスパーゼ阻害剤の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4725 20060101AFI20241007BHJP
   A61K 38/05 20060101ALI20241007BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
A61K31/4725
A61K38/05
A61P19/02
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2023508024
(86)(22)【出願日】2021-08-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-30
(86)【国際出願番号】 KR2021010209
(87)【国際公開番号】W WO2022030987
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-03-10
(31)【優先権主張番号】10-2020-0098151
(32)【優先日】2020-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ジェ・ウク・ベク
(72)【発明者】
【氏名】ジュン・ギュ・パク
(72)【発明者】
【氏名】スン・ウォン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ヒョン・ソ・パク
(72)【発明者】
【氏名】セイ・ヒョン・チェ
(72)【発明者】
【氏名】ミョン・ウォン・ジン
(72)【発明者】
【氏名】ミン・キョン・イ
【審査官】川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/023952(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0323968(US,A1)
【文献】J. Physiol. Pharmacol.,2015年,Vol. 66, No. 4,pp. 473-483
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量のカスパーゼ阻害剤を薬学的に許容される担体とともに含む、変形性関節症の緩和又は治療するための医薬組成物であって、前記医薬組成物は、4週以上の周期で投与されるように用いられ、前記カスパーゼ阻害剤が、ニボカサン、エムリカサン及びその薬学的に許容される塩よりなる群から選ばれることを特徴とする医薬組成物
【請求項2】
前記ニボカサンの薬学的に許容される塩が、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、酒石酸、ギ酸、クエン酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、グルコン酸、安息香酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸及びナフタレンスルホン酸よりなる群から選ばれることを特徴とする請求項に記載の変形性関節症の緩和又は治療するための医薬組成物。
【請求項3】
前記医薬組成物が、鎮痛効果又は疼痛軽減効果をもたらすことを特徴とする請求項1に記載の変形性関節症の緩和又は治療するための医薬組成物。
【請求項4】
前記医薬組成物が、軟骨構造改善効果をもたらすことを特徴とする請求項1に記載の変形性関節症の緩和又は治療するための医薬組成物。
【請求項5】
注射用剤形であることを特徴とする請求項1に記載の変形性関節症の緩和又は治療するための医薬組成物。
【請求項6】
前記注射用剤形が、局所投与用であることを特徴とする請求項に記載の変形性関節症の緩和又は治療するための医薬組成物。
【請求項7】
前記注射用剤形が、関節腔内に投与されることを特徴とする請求項に記載の変形性関節症の緩和又は治療するための医薬組成物。
【請求項8】
投与効果が、1カ月以上持続することを特徴とする請求項1に記載の変形性関節症の緩和又は治療するための医薬組成物。
【請求項9】
投与効果が、3カ月以上持続することを特徴とする請求項に記載の変形性関節症の緩和又は治療するための医薬組成物。
【請求項10】
投与効果が、6カ月以上持続することを特徴とする請求項に記載の変形性関節症の緩和又は治療するための医薬組成物。
【請求項11】
8週以上の周期で投与されることを特徴とする請求項に記載の変形性関節症の緩和又は治療するための医薬組成物。
【請求項12】
12週以上の周期で投与されることを特徴とする請求項11に記載の変形性関節症の緩和又は治療するための医薬組成物。
【請求項13】
24週以上の周期で投与されることを特徴とする請求項12に記載の変形性関節症の緩和又は治療するための医薬組成物。
【請求項14】
哺乳動物投与用であることを特徴とする請求項1に記載の変形性関節症の緩和又は治療するための医薬組成物。
【請求項15】
前記哺乳動物が、ヒトであることを特徴とする請求項14に記載の変形性関節症の緩和又は治療するための医薬組成物。
【請求項16】
前記ニボカサンが、遊離塩基に基づいて1~50mgの用量でヒトに投与されることを特徴とする請求項に記載の変形性関節症の緩和又は治療するための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変形性関節症の緩和又は治療するためのカスパーゼ阻害剤の使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カスパーゼは、α2β2四量体の形で存在するシステインプロテアーゼである。その一つであるカスパーゼ-1(ICE)は、サイトカインの一種類であり、不活性のプロインターロイキン-1β(prointerleukin-1β)を活性化のインターロイキン-1βに変換することに関与する酵素である。インターロイキン-1には、インターロイキン-1αとインターロイキン-1βがあり、いずれも単球(monocytes)内で31KDaの前駆体として合成される。プロインターロイキン-1βのみがICEによって活性化される。カスパーゼ-1によって加水分解される位置は、Asp27-Gly28とAsp116-Ala117である。後者の位置の加水分解により、インターロイキン-1βが得られる。インターロイキン-1βは、炎症を引き起こす重要な媒介体として作用することが報告されている。カスパーゼ-1は、1989年に初めて発見され、2つの独立した研究グループにおいて、X線結晶構造分析によりその3次元構造が明らかになった。
カスパーゼ-3(CPP-32)は、その役割や作用機序について広く研究されており、その3次元構造は1996年に明らかになった。プロカスパーゼ-3から活性化されたカスパーゼ-3(apopain)(P4)Asp-X-XAsp(P1)モチーフを加水分解し、既知の基質には、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ、U1 70,000Mrの小核リボ核酸タンパク質、及び460,000MrのDNA-依存性プロテインキナーゼの触媒サブユニットなどがある。カスパーゼ-7のX線構造は、カスパーゼ-3と非常に類似していることが報告された。
【0003】
カスパーゼ-8と9は、カスパーゼ-3,6,7の上流に存在し、これらのカスパーゼは、アポトーシスカスケードに関与することが知られている。カスパーゼ-8のX線構造は1999年に明らかになり、特に阻害剤は、アポトーシスに関連する疾患の治療に有利に使用される可能性がある。
【0004】
カスパーゼ阻害剤とは、カスパーゼの活性を阻害し、カスパーゼ活性によって誘発される炎症、アポトーシスなどの症状を制御する化合物を指す。カスパーゼ阻害剤の中でも不可逆的阻害剤は、アポトーシスを抑制する酵素を不可逆的に不活性化するため、より効果的な阻害活性を示すことが知られている。カスパーゼが関与する疾患としては、認知症、脳卒中、糖尿病、胃潰瘍、虚血性心臓疾患などが知られている。
【0005】
変形性関節症(osteoarthritis)は、関節軟骨とその下にある骨組織の破壊によって引き起こされる疾患であり、一般的症状は、関節の痛みと硬直である。最初は動く時だけ痛みを感じるが、慢性化すると持続的に痛みを感じる。これまで、変形性関節症の根本的な治療法はなく、対症療法として鎮痛目的の関節腔ステロイド経口又は局所の非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)などが使用されてきた。しかし、ステロイドの場合、体の代謝に影響を与える様々な副作用のために使用が制限され、繰り返して使用すると徐々に効果に対する耐性が生じる。最近、ステロイドの徐放性製剤が承認されたが、長期使用における安定性は慎重に注視されている。また、経口NSAIDの場合、胃腸への悪影響と血管リスクの増加により、その使用は制限されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の技術的課題は、根本的な治療剤がなく、疼痛を緩和するための対症療法しかない従来から使用されている治療薬の副作用や抵抗性のリスクがなく、1回の投与で長期的な鎮痛効果と軟骨の機能・構造を改善することができる変形性関節症を緩和又は治療するための組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、治療有効量のカスパーゼ阻害剤を薬学的に許容される担体と共に含む、単回の投与で長期間効果が持続する変形性関節症の緩和又は治療するための医薬組成物を提供する。
また、本発明は、治療有効量のカスパーゼ阻害剤を、それを必要とする対象に単回投与で投与することを含む、長期にわたって変形性関節症を緩和又は治療する方法を提供する。
【0008】
さらに、本発明は、変形性関節症を単回投与で長期間にわたって和又は治療するためのカスパーゼ阻害剤の使用を提供する。
【0009】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0010】
本発明では、治療有効量のカスパーゼ阻害剤を薬学的に許容される担体とともに含む、単回投与で長期間効果が持続する変形性関節症の緩和又は治療するための医薬組成物を提供する。
【0011】
カスパーゼ(caspase)阻害剤は、アポトーシス、壊死及び炎症に重要な役割を果たすカスパーゼの活動を阻害することにより、肝細胞保護薬や炎症関連疾患などの治療薬として注目されてきた。本発明者らは、カスパーゼ阻害剤を変形性関節症に適用すると、長期的な鎮痛効果だけでなく、単回の投与で軟骨構造の改善効果を発揮するという驚くべき結果を確認することにより、本発明を完成した。
【0012】
本発明の一実施形態によれば、前記カスパーゼ阻害剤が、ニボカサン、IDN-1965、エムリカサン、MX-1013、プラルナカサン、RU-36384、ベルナカサン及びその薬学的に許容される塩よりなる群から選ばれるが、これらに限定されない。
【0013】
ニボカサン(Nivocasan)は、下記式(1)の(R)-N-((2S,3S)-2-(フルオロメチル)-2-ヒドロキシ-5-オキソテトラヒドロフラン-3-イル)-5-イソプロピル-3-(イソキノリン-1-イル)-4,5-ジヒドロイソオキサゾール-5-カルボキサミドである。
【0014】
【化1】
【0015】
IDN-1965は、下記式(2)の3-[2(S)-(1,3-ジメチル-1H-インドール-2-イルカルボキシアミド)-3-メチルブタンアミド]-5-フルオロ-4-オキソペンタン酸である。
【0016】
【化2】
【0017】
エムリカサン(Emricasan;IDN-6556)は、下記式(3)のN-(2-tert-ブチルフェニル)-2-オキソグリシル-N-[1(S)-カルボキシメチル]-2-オキソ-3-(2,3,5,6-テトラフルオロフェノキシ)プロピル]-L-アラニンアミドである。
【0018】
【化3】
【0019】
MX-1013は、下記式(4)のN-(ベンジルオキシカルボニル)-L-バリル-DL-アスパルチルフルオロメタンである。
【0020】
【化4】
【0021】
プラルナカサン(Pralnacasan)は、下記式(5)のN-[2(R)-エトキシ-5-オキソテトラヒドロフラン-3(S)-イル]-9(S)-(1-イソキノリニルカルボキシアミド)-6,10-ジオキソオクタヒドロ-6H-ピリダジノ[1,2-a][1,2]ジアゼピン-1(S)-カルボキサミドである。
【0022】
【化5】
【0023】
RU-36384は、下記式(6)の3(S)-[9(S)-(1-イソキノリニルカルボキシアミド)-6,10-ジオキソオクタヒドロ-6H-ピリダジノ[1,2-a][1,2]ジアゼピン-1(S)-イルカルボキシアミド]-4-オキソブタン酸である。
【0024】
【化6】
【0025】
ベルナカサン(Belnacasan)は、下記式(7)のN-(4-アミノ-3-クロロベンゾイル)-3-メチル-L-バリル-N-[2(R)-エトキシ-5-オキソペルヒドロフラン-3(S)-イル]-L-プロリンアミドである。
【0026】
【化7】
【0027】
本発明の別の実施形態によれば、前記カスパーゼ阻害剤は、ニボカサン又はその薬学的に許容される塩である。前記ニボカサンの製造方法は、国際公開番号WO2006/090997号(国際公開日:2006.08.31.)に詳細に記載されており、前記文献は参照により本明細書に援用される。
【0028】
本発明による別の実施形態において、前記ニボカサンの薬学的に許容される塩の例としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸などの無機酸、酒石酸、ギ酸、クエン酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、グルコン酸、安息香酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸などの有機カルボン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸又はナフタレンスルホン酸などのスルホン酸による酸付加塩が挙げられるが、これらに限定さされない。
【0029】
本発明の別の実施形によれば、前記カスパーゼ阻害剤が、エムリカサン又はその薬学的に許容される塩である。
【0030】
本発明による別の実施形態において、前記長期間効果は、鎮痛効果又は疼痛軽減効果である。
【0031】
本発明による別の実施形態では、前記長期間効果は軟骨構造改善効果である。
【0032】
本発明による化合物は、様々な薬学的に投与される剤形として製剤化することができる。本発明の医薬組成物を製造する場合、有効成分、具体的には、カスパーゼ阻害剤又はその薬学的に許容される塩は、製造される剤形を考慮して選択された薬学的に許容される担体と混合される。例えば、本発明の医薬組成物は、必要に応じて注射剤、経口剤などに製剤化することができる。
【0033】
本発明による別の実施形態では、前記医薬組成物は、注射用剤形である。本発明において注射用剤形、例えば、滅菌注射用水性又は油性懸濁液は、既知の技術に従って適切な分散剤、湿潤剤、又は懸濁剤を使用することにより製造することができる。この目的に有用な溶媒には水、リンゲル溶液及び等張性NaCl溶液が含まれ、滅菌固定油も通常的に溶媒又は懸濁媒体として慣用的に使用される。モノ-、ジ-グリセリドを含む任意の非刺激性固定油をこの目的に使用でき、オレイン酸又はポリソルベート80(Tween 80)などの脂肪酸を注射用製剤に使用することができる。
【0034】
本発明による別の実施形態では、前記注射用剤形は局所投与用である。
【0035】
本発明による別の実施形態では、前記注射用剤形は関節腔内に投与される。
【0036】
本発明による別の実施形態では、前記医薬組成物の投与効果が長期間、例えば、1カ月以上、2カ月以上、3カ月以上、4カ月以上、5カ月以上又は6カ月以上持続することができる。
【0037】
本発明による別の実施形態では、前記医薬組成物は、4週以上、5週以上、6週以上、7週以上、8週以上、9週以上、10週以上、11週以上、12週以上、13週以上、14週以上、15週以上、16週以上、17週以上、18週以上、19週以上、20週以上、21週以上、22週以上、23週以上、24週以上又は25週以上の周期で投与することができる。
【0038】
本発明による別の実施形態では、前記医薬組成物は、哺乳動物への投与のために製造することができる。本発明による別の実施形態では、前記哺乳動物はヒトである。
【0039】
本発明による別の実施形態において、個々の対象に対する「治療有効量」は、前記した薬理学的効果、すなわち治療効果を達成するのに十分な量を意味する。化合物の量は、対象の状態及び重症度、投与方法、及び治療対象の年齢に応じて変化し得るが、当業者は自分らの知識に基づいて決めることができる。
【0040】
本発明による別の実施形態において、前記ニボカサンは、遊離塩基形態に基づいて、1~50mgの用量でヒトに投与することができる。本発明による別の実施形態では、前記ニボカサンは、遊離塩基形態に基づいて、1mg以上、2mg以上、2mg以上、3mg以上、4mg以上、5mg以上、6mg以上、7mg以上、8mg以上、9mg以上、10mg以上、11mg以上、12mg以上、13mg以上、14mg以上、15mg以上、16mg以上、17mg以上、18mg以上、19mg以上、20mg以上、30mg以下、31mg以下、32mg以下、33mg以下、34mg以下、35mg以下、36mg以下、37mg以下、38mg以下、39mg以下、40mg以下、41mg以下、42mg以下、43mg以下、44mg以下、45mg以下、46mg以下、47mg以下、48mg以下、49mg以下、50mg以下、又はそれらの組み合わせの用量でヒトに投与することができる。
【0041】
本発明において、「医薬組成物」は、本発明の有効成分に加え、担体、希釈剤、賦形剤などの他の成分を含んでいてもよい。したがって、前記医薬組成物には、必要に応じて、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、又はそれらの組み合わせを含むことができる。医薬組成物は、体内への化合物の投与を容易にする。
本明細書において、「担体(carrier)」とは、細胞又は組織への化合物の投入を容易にする化合物を意味する。例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)は、生きている細胞又は組織内への多くの有機化合物の投入を容易にする従来の担体である。
【0042】
本明細書において、「希釈剤(diluent)」とは、対象化合物の生物学的に活性な形態を安定化するだけでなく、化合物を溶解する溶媒に希釈される化合物を意味する。この分野では、緩衝液に溶解した塩が希釈剤として使用される。従来使用されている緩衝液は、体液中の塩の形態を模倣したリン酸緩衝食塩水である。緩衝溶液は、低濃度で溶液のpHを制御できるため、緩衝希釈剤は化合物の生物学的活性をほとんど変更しない。
【0043】
本明細書において、「薬学的に許容される」とは、化合物の生物学的活性と物性を損なわない性質を意味する。
【0044】
本明細書において、「緩和(alleviation)とは、疾患及び/又はそれに伴う症状を全部又は部分的に軽減させることを意味する。
【0045】
本明細書において、「治療」とは、疾患の症状を示す対象における疾患の進行を抑止、遅延又は緩和させることを意味する。
【発明の効果】
【0046】
本発明による医薬組成物は、副作用の危険がなく、効果に耐性がなく、単回投与で長期にわたる鎮痛効果を示すだけでなく、軟骨の機能及び構造を改善する効果を示すことによって、変形性関節症を効果的に緩和又は治療することができる。特に、侵襲性が高く、投与対象が感じる痛みや不快感が大きい注射剤形の場合、単回投与で長期にわたる変形性関節症の緩和又は治療効果を発揮できるため、投与周期を長く、例えば12週以上の周期で投与することができ、投与対象の疼痛を軽減し、コストも節減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】THP-1細胞におけるLPS/ニゲリシンに誘導されたIL-1β分泌抑制効果を測定した結果を示すグラフである。
図2】ヒト由来末梢血単核細胞におけるLPS誘導IL-1β分泌抑制効果を測定した結果を示すグラフである。
図3】ヒト由来軟骨細胞におけるTNF-αによるアポトーシス抑制効果を測定した結果を示すグラフである。
図4】変形性関節症動物モデルにおけるニボカサンの関節腔内投与による歩行能力改善効果を測定した結果を示すグラフである。
図5】変形性関節症動物モデルにエムリカサンを関節腔内単回投与した後の歩行能力改善効果を測定した結果をニボカサンと比較して示すグラフである。
図6】変形性関節症動物モデルにおけるニボカサン及びエムリカサンの関節腔内単回投与後の関節構造に対する効果をMRIにより評価した結果を示すグラフである。
図7】変形性関節症動物モデルにおける解剖検査後の関節への影響を組織病理学的に評価した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、実施例により本発明より詳細に説明する。しかし、本発明の保護範囲はこれらの例に限定されないことを理解すべきである。
【実施例
【0049】
実施例1:THP-1細胞におけるLPS/ニゲリシン誘導IL-1β分泌に対する抑制効果
ニボカサンの炎症遮蔽効果を評価するために、リポ多糖体(LPS)/ニゲリシン(nigericin)処理によって炎症が誘発された条件下、THP-1細胞のIL-1β分泌を測定した。LPS処理前日、THP-1細胞を2.5×105細胞/ウェル(24ウェルプレート)でRPMI-1640培地に播種し、マクロファージ分化のために0.5μMホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA)で処理した。次に、培地をOpti-MEM培地に交換し、細胞をLPS100ng/mL(プロ-IL-1βアップレギュレーションの最初の炎症シグナル)とともに24時間培養した。その後、細胞をPBSで2回洗浄し、Opti-MEM培地でニボカサン又はDMSOで30分間処理した後、5μMニゲリシン及び1mM ATPとともに1時間培養して、インフラマソーム(inflammasome)を活性化(NLRP3活性化及びIL-1β分泌)させた。分泌されたIL-1βは、R&DSystems社製のQuantikine humanIL-1β(検出限界:7.8pg/mL)を使用して細胞培地から測定した後、その結果を図1に示した。図1からわかるように、ニボカサンは、THP-1細胞におけるLPS/ニゲリシンによるIL-1β分泌を用量依存的に抑制することが確認された。
【0050】
実施例2:ヒト由来末梢血単核細胞(PMBC)におけるLPS誘発性IL-1β分泌抑制効果
ヒト末梢血単核細胞(PBMCs)におけるインフラマソーム活性化に対するニボカサンの抑制効果は、LPS誘導性IL-1β分泌を測定することによって評価された。新たに単離したPBMCを2.5×105細胞/ウェル(24ウェルプレート)でRPMI-1640培地に播種し、ニボカサン又はDMSOで30分間処理した。その後、100ng/mLのLPSと24時間培養して炎症を誘導した。PBMC上清中のIL-1βレベルをELISA(R&D Systems社製、Quantikine human IL-1β;検出限界:7.8pg/mL)で測定し、その結果を図2に示した。図2から分かるように、ニボカサンは、LPSによるPBMCからIL-1β分泌を用量依存的に抑制し、0.3μMで最大の効果を示すことが確認された。
【0051】
実施例3:ヒト由来軟骨細胞におけるTNF-α誘導アポトーシスに対する保護効果
TNF-α誘導アポトーシスに対するニボカサンの保護効果は、ヒト軟骨細胞で評価された。ヒト正常軟骨細胞を軟骨細胞培地(Prigrow IV培地;Applied Biological Materials Inc.製)に1×105細胞/ウェル(コラーゲン被覆24ウェルプレート)で播種し、一晩培養した。細胞をニボカサン又はDMSOで30分間処理した後、10ng/mLヒのト組換えTNF-α及び1μg/mLアクチノマイシンDと18時間培養して、アポトーシスを誘導した。アポトーシスは、細胞死検出ELISAキットを使用して測定し、その結果を図3に示した。図3から分かるように、ニボカサンは、用量依存的にヒト軟骨細胞のTNF-α誘導アポトーシスを防止することが確認れた。
【0052】
実施例4:変形性関節症動物モデルにおける歩行能力改善効果の評価
ビーグル犬はOrient Bio社から購入し、1週間の検疫サイクルの後、健康な動物を実験に使用した。
内側半月板切除術を伴う外科的前十字靭帯切除(surgical anterior cruciate ligament transection with medial meniscectomy)から1週間の回復後、変形性関節症を誘発するために毎日30分間の強制運動を行った。動物の両膝を脱毛した後、麻酔下で変形性関節症を誘発するための手術を行った。ポビドンと70%エタノールで切開部位を広く消毒した後、右膝の皮膚を切開した。周辺組織の鈍的切開(blunt dissection)により、大腿骨遠位骨端の関節面を露出させた。内側関節面に欠損創を作り、半月板及び前十字靭帯を切除した。4-0ナイロン縫合糸を使用して創傷閉鎖を行った。左膝の場合、前十字靱帯の切断のみ行った。正常(偽)群の動物の場合、両膝を切開し、半月板又は前十字靱帯を切除せずに縫合した。抗生剤と鎮痛剤は、術後7日間を投与した。手術7日目から試験物投与前日まで毎日30分間の強制運動を行った。
【0053】
変形性関節症動物の疼痛状態及び機能レベルを評価するための歩行能力に関する評価は、Pashuckらによって提案された方法に従って実施(Troy D. Pashuck et al., J Orthop Res, 2016, 34(10): 1772-1779)され、下記表1に示す跛行スコアを試験終了まで記録した。
【0054】
【表1】
【0055】
変形性関節症誘発ビーグル犬の跛行スコアが平均3.5以上に到達したとき、犬を1群5匹の群に分け、各群の平均値を均一にした。変形性関節症動物モデルにおけるニボカサンの効能は、単回の関節腔投与後、週に2回跛行スコアを評価することにより測定した。関節腔投与のための注射液は、試験物質0.1、0.3、1、3又は10mgを0.4%(重量比)ポリソルベート80(Tween 80)及び0~25mM NaOH溶液が含まれた100mMのリン酸緩衝溶液1mLに溶解して調製し、最終pHは7.0~7.4であった。各動物の関節腔に、媒体又は0.1、0.3、1、3及び10mg/膝用量のニボカサン溶液を投与した。動物を麻酔した後、C-arm(Siemens社製)を使用してニボカサン注射溶液を右膝の関節腔内に投与した。
【0056】
変形性関節症動物モデルにおける単回関節腔投与による歩行能力の改善に対するニボカサンの有効性の評価は、3カ月間、週2回行われ、その結果を図4に示した。図4から分かるように、ニボカサンは、用量依存的に歩行能力の改善効果を示し、3カ月間持続することが確認された。
【0057】
内側半月板切除術を伴う外科的前十字靭帯切除(surgical anterior cruciate ligament transection with medial meniscectomy)後、1週間の回復後、毎日30分間の強制運動によって誘発された変形性関節症のイヌモデルにおいて、図5から分かるように、汎カスパーゼ阻害剤であるエムリカサンは、10mgを関節腔内単回投与は、ニボカサン10mgと同様の歩行能力の改善効能を示した。
【0058】
実施例5:変形性関節症の動物モデルにおける関節構造への影響のMRI評価
内側半月板切除術を伴う外科的前十字靭帯切除後の毎日の強制運動によって誘発されたた変形性関節症のビーグル犬モデルにおいて、単回関節腔投与の前とその後3カ月の関節のMRI(SIGNA Pioneer 3.0T MR, GE Healthcare Co., USA)を撮影することによって関節構造への影響を評価した。試験物質の関節構造への影響は、Hunterらが提案した方法に従って(David J. Hunter et al., Osteoarthritis and Cartilage 2011, 19, 990-1002)、下記表2に示されるように評価した。汎カスパーゼ阻害剤であるニボカサンとエムリカサンは、変形性関節症の動物モデルに単回関節腔投与前と3カ月後にMRIを比較すると、骨髄病変と滑膜炎の改善を示した。
【0059】
【表2】
【0060】
実施例6:変形性関節症の動物モデルにおける関節への影響の組織病理学的評価
内側半月板切除術を伴う外科的前十字靭帯切除後の毎日の強制運動によって誘発されたた変形性関節症のビーグル犬モデルにおいて、単回関節腔投与の3カ月後に剖検を行い、関節を採取して固定した。固定された組織は、脱塩、トリミング、脱水、パラフィン包埋、薄切化などの従来の組織処理に供され、組織病理学的検査のための検体を製作した後、ヘマトキシリン・エオジン及びサフラニン-o染色を行った。光学顕微鏡(オリンパス社製;BX53)を使用して組織病理学的変化を観察した。
【0061】
組織病理学的評価は、Cookらが提案した方法(Cook et al., Osteoarthritis Cartilage. 2010;18 Suppl 3:S66-S79)に従って、下記表3~8に示すようにスコア化して群間で比較することにより行われた。その結果を図7に示した。
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
【表5】
【0065】
【表6】
【0066】
【表7】
【0067】
【表8】
【0068】
図7から分かるように、ニボカサンの単回関節腔投与3カ月後に剖検により採取された関節の組織病理学的評価において、用量依存的な組織病理学的改善が示されたことが確認された。
【0069】
以上の前記実施例4~6の結果から、ニボカサンの繰返し投与や徐放性への製剤化を伴わない単回投与でも、少なくとも3カ月以上の長期にわたる鎮痛効果を反映した歩行能力の改善効果だけでなく、抗炎症作用により軟骨構造の改善の効果があることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7