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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】乾パスタ類
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20241007BHJP
【FI】
A23L7/109 E
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020216623
(22)【出願日】2020-12-25
(65)【公開番号】P2022102092
(43)【公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【弁理士】
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】矢崎 友彦
(72)【発明者】
【氏名】前田 航平
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-186793(JP,A)
【文献】特開2000-333630(JP,A)
【文献】特開2019-076049(JP,A)
【文献】特開2019-092402(JP,A)
【文献】特開2020-150889(JP,A)
【文献】特開2020-167943(JP,A)
【文献】特開2017-074021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/109-7/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デュラム小麦セトデュールのセモリナ粉及びセトデュール以外のデュラム小麦のセモリナ粉を含む穀粉原料を使用する乾パスタであって、
穀粉原料の全量に対して1~45質量%のデュラム小麦セトデュールのセモリナ粉を含み、乾パスタの表面が、二乗平均平方根高さSq1.7μm以上の粗さを有する前記乾パスタ。
【請求項2】
デュラム小麦セトデュールのセモリナ粉及びセトデュール以外のデュラム小麦のセモリナ粉を含む穀粉原料であって、穀粉原料の全量に対して1~45質量%のデュラム小麦セトデュールのセモリナ粉を含む穀粉原料を使用して生地を得る工程、及び
得られた生地を押出成形し、さらに乾燥して乾パスタを得る工程を含む請求項1に記載の乾パスタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乾パスタ類に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乾パスタ類において喫食時の風味(特に自然な甘味)を求められることが増加している。風味のよいパスタ類を製造するにあたり、デュラム小麦の製粉工程において原料小麦の外皮に近い部分を配合することで複雑な味を得る工夫や、押し出し後のパスタ生地(麺線)を乾燥する際の温度を高めることで香ばしい香りを付与する工夫などがとられてきたが、甘味に特化した改良は難しかった。また、原料小麦の外皮に近い画分を使用すると甘味は増すものの、苦味などの好ましくない味が感じられてしまう点や、外皮に近い画分を使用すると風味は増すものの、灰分が多いことで外観の色が悪くなる(暗く赤茶色になる)点や、皮部が切り込まれることより斑点(スペック)が目立つ点等の問題があった。パスタ生地の乾燥温度を上げた場合は香り(焼いたような香ばしさ)が付与されるものの、甘味の風味を付与することはできなかった。
パスタ類についての風味の改良について、特許文献1には、種生地を用いることで風味改善ができることが示されているが、種生地製造のための設備が必要となる。
特許文献2には、微粉砕した全粒粉を配合することで風味の豊かなパスタを得られることが示されているが、全粒粉の製造設備と粒度調整を行う設備が必要である。また、パスタとして好まれることが多いデュラム小麦粉以外の原料を配合する必要がある。
特許文献3には、冷凍で長期保存が可能で且つ解凍後も茹で立ての生パスタ類のような良好な外観と食感を有する生パスタ類の提供のため、生パスタの表面粗さを特定しているが、表面粗さがパスタの甘味に影響することについては示されていない。
特許文献4では、穀物粉と水とを乳酸発酵して得られる液種を穀物粉加工品の生地に配合することにより、甘み、弾力、つるみ、ソフト感及び口溶けの良さを有し、さらに調理後の時間経過においてもその食感を維持する穀物粉加工品が得られることが開示されているが、特殊な工程や副資材を用いることなく製造工程はできるだけ簡単であることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-127814
【文献】特開2015-226527
【文献】再表2013/191136
【文献】特開2011-182750
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、特殊な工程や副資材を用いることなく、喫食時に良好な風味(自然な甘味)に富むと同時にパスタの外観として良好なある程度の黄色味を保持している乾パスタ類を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を行った。その結果、デュラム小麦セトデュールのセモリナ粉及びセトデュール以外のデュラム小麦のセモリナ粉を含む穀粉原料を使用し、乾パスタ類の表面に所定の粗さを持たせることによって、喫食時に甘く感じると同時にパスタの外観として良好なある程度の黄色味を保持している乾パスタを提供することが出来ることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は以下の通りである。
[1]デュラム小麦セトデュールのセモリナ粉及びセトデュール以外のデュラム小麦のセモリナ粉を含む穀粉原料を使用する乾パスタであって、
穀粉原料の全量に対して1~45質量%のデュラム小麦セトデュールのセモリナ粉を含み、乾パスタの表面が、二乗平均平方根高さSq1.7μm以上の粗さを有する前記乾パスタ。
[2]デュラム小麦セトデュールのセモリナ粉及びセトデュール以外のデュラム小麦のセモリナ粉を含む穀粉原料であって、穀粉原料の全量に対して1~45質量%のデュラム小麦セトデュールのセモリナ粉を含む穀粉原料を使用して生地を得る工程、
得られた生地を押出成形し、さらに乾燥して乾パスタを得る工程を含む[1]に記載の乾パスタの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、特殊な工程や副資材を用いることなく、喫食時に良好な風味(自然な甘味)に富むと同時にパスタの外観として良好なある程度の黄色味を保持している乾パスタ類を得ることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の乾パスタ類はデュラム小麦セトデュールのセモリナ粉及びセトデュール以外のデュラム小麦のセモリナ粉を含む穀粉原料を使用する。
ここでデュラム小麦セトデュールは日本初のデュラム小麦品種であり、セトデュール以外のデュラム小麦は従来の米国産、カナダ産等の外国産のデュラム小麦品種を指す。
本発明においてセモリナ粉とはデュラム小麦などの硬質小麦の製粉工程において得られる比較的粒度の粗い状態の胚乳の粉砕物を指し、一般に目開き約300μmの篩を抜けない程度の粗さのものをいう。なお、小麦粉はセモリナ粉よりも粒度が低いものを意味する。
【0008】
本発明において使用するセモリナ粉は通常の製粉方法によって得ることができる。小麦の製粉は一般に、いわゆる段階式製粉方法と称される方法でなされ、これは破砕工程、純化工程及び粉砕工程の3段階を組み合わせて行われる。純化工程ではピュリファイヤー(純化機)を用いて、粗い状態の胚乳(セモリナ)と、混入している外皮とを分離する。破砕工程や粉砕工程でロール製粉機を通った粉砕物が、シフターと呼ばれる20~30段に積み重ねられた篩によって篩い分けされ(篩分け工程)、数種類の粒度に分けられ、次の段階のロール製粉機に送られるもの、ピュリファイヤーに送られるもの、そのままセモリナ粉や小麦粉として採取するもの、及びふすまになるものなどに分けられる。破砕工程でのブレーキロールの間隙や段数による粉砕の程度や、篩(シフター)の目開きの構成などにより目的にあった品質のセモリナ粉、小麦粉を調製することができる。品種「セトデュール」は通常の方法で製粉した場合、セモリナ粉及び小麦粉の合計量に対しセモリナ粉を80~98質量%得ることができる。
【0009】
デュラム小麦セトデュールのセモリナ粉はパスタ類の穀粉原料全体に対して1.0~45質量%使用する。好ましくは1.5~35質量%使用し、より好ましくは2.5~25質量%使用し、最も好ましくは5.0~15質量%使用する。パスタ類の穀粉原料全体に対するデュラム小麦セトデュールのセモリナ粉の配合量が増えるにつれてパスタ類の喫食時に甘味が増す傾向にあるが、同時に得られる乾パスタ類の色の黄色味が減少する傾向にある。
【0010】
本発明の乾パスタ類は、乾パスタ類の表面が、二乗平均平方根高さSq1.7μm以上の粗さを有する。好ましくは二乗平均平方根高さSq3.0μm以上、より好ましくは二乗平均平方根高さSq3.5μm以上、さらに好ましくは二乗平均平方根高さSq5.0μm以上、最も好ましくは二乗平均平方根高さSq6.0μm以上の粗さを有する。
二乗平均平方根高さ(Sq)は表面粗さの評価方法を定めた国際規格ISO 25178表面性状(面粗さ測定)にて規定されている。その中でSqは、平均面(凸凹の高さの平均)からの各凸凹までの距離の標準偏差に相当する高さのパラメータであり、数値が大きい方が、表面が粗いことを示す。
【0011】
乾パスタ類の表面の粗さが大きくなるほどパスタ類の喫食時に甘味が増す傾向にあるが、同時に得られる乾パスタ類の色味がわずかにぼやける傾向にある。
パスタの表面粗さは、例えば電子顕微鏡TM4000Plus(株式会社日立ハイテクフィールディング製)にてパスタの表面をスキャンし、スキャンした表面の平均面からの距離の標準偏差(二乗平均平方根高さ)として数値化し評価することができる。
【0012】
乾パスタ類に本発明の所定の表面粗さを付与する方法は特に限定されないが、パスタの表面に粉が吹いたような粗さを持たせることができれば、原料の種類や粒度、ミキシングや押し出し条件(例えば加水量や真空ミキサーの真空度、圧力、押し出し速度など)、ダイスの材質を任意に変更し(例えば一般的なポリテトラフルオロエチレンを真鍮やポリアセタール樹脂などに変更する)、使用してよい。例えば押し出し時に生地の加水量を減らすこと、押出し速度を上げること、ダイスにかかる圧力を上げること、パスタ類を押出すためのダイスの材質を一般的なポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))からポリアセタールや真鍮に変更することで、表面粗さを付与することが出来る。ダイスの材質を変更することが表面粗さを大きく変化させることができるという観点から好ましい。
【0013】
本発明の乾パスタ類としては、上記以外は所定の従来の製法により得ることができる。形状もスパゲッティ、スパゲッティーニ、フェデリーニ、カッペリーニ、リングイーネ、ブカティーニなどのロングパスタ、マカロニ、ペンネ、コンキリエ、ファルファッレ、フジッリなどのショートパスタが例としてあげられるがこれらに限定されない。
【0014】
本発明のパスタ類の製造は、所定の蛋白量含有量を有する国内産デュラム小麦「セトデュール」のセモリナ粉及びセトデュール以外のデュラム小麦のセモリナ粉を使用し、パスタの表面を所定の粗さとする以外は常法に従って製造することが出来る。
例えば、食感改良や用途に合わせ、原料粉を一般的なデュラムセモリナ粉又は強力小麦粉を組み合わせて使用したり、大麦粉、米粉、そば粉等などの副穀粉類を使用することもでき、食塩、澱粉、鶏卵粉、増粘剤、酒精、乳化油脂、乳粉末等の副原料を使用することができる。
【0015】
また乾パスタ類に所定の表面粗さを持たせることができれば、パスタ類の麺帯の調製、麺線の切り出しや麺線の押出しはパスタ類の種類に応じた常法により行うことができる。 例えば、押出し式機械製麺などにより行うことができる。切り出し又は押出し成形によって得られた生パスタを乾燥することによって乾パスタとすることができる。パスタの乾燥についても常法により行うことが出来、例えば湿度60~80%、温度60~75℃で水分量13%まで乾燥させることができる。
【実施例
【0016】
以下本発明を具体的に説明する為に実施例を示すが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0017】
試験例1 乾パスタの製造
表1に示す配合のとおりに、カナダ産デュラム小麦のセモリナ粉「ジョーカーA(日本製粉株式会社製)」(以下デュラムセモリナ粉と称する)及びデュラム小麦セトデュールのセモリナ粉(以下セトデュールセモリナ粉と称する)を含む穀粉原料100質量部に水を28質量部加え、麺用ミキサーで10分間ミキシングして水和生地を得た。
水和生地を約80kPaの真空度に減圧しつつ、マカロニ類成形機にて材質の異なるダイスを使い押出し成形し生パスタ麺線を得た。
生パスタ麺線を竿にかけ乾燥機内で麺の含水量が13質量%以下になるように調湿乾燥し、直径1.7mmの乾パスタを得た。
【0018】
官能評価
各乾パスタの外観を下記表の評価基準に従って熟練のパネラー10名により評価するとともに、表面粗さを測定した。また、乾パスタを沸騰水に投入し8分間茹でた後の茹でパスタの甘味を下記表の評価基準に従って熟練のパネラー10名により評価した。
甘味及び外観について、それぞれ3.0点以上が有効性ありと判断した(表1)。なお、一般に流通しているパスタを対照例とし、その外観を5点とした。またセトデュールセモリナ粉を100%使用し、表面粗さ(Sq:二乗平均平方根高さ)が6.0μmの比較例10の甘味を5点とした。結果を表1に示す。
なお、本件の条件検討において表面粗さ(Sq:二乗平均平方根高さ)が6.0μmを超える乾パスタを作製することはできなかった。
【0019】
セトデュールセモリナ粉の配合量が穀粉原料の全量に対して1~45質量%であり、乾パスタの表面が、二乗平均平方根高さSq1.7μm以上の粗さを有する実施例1~13ではいずれも喫食時に甘く感じると同時にパスタの外観として良好なある程度の黄色味を保持している乾パスタを得ることができた。セトデュールセモリナ粉の配合量が多いほど甘味は増す傾向にあったが、乾パスタの表面が、二乗平均平方根高さ2.0μm、3.2μm、6.0μmの粗さを有する場合、セトデュールセモリナ粉の配合量が50質量%となると黄色味が減少し外観について劣る結果となった(比較例4~6)。乾パスタの表面が、二乗平均平方根高さ1.5μmの粗さを有する場合についても、セトデュールセモリナ粉の配合量が多いほど甘味は増す傾向にあったが、セトデュールセモリナ粉の配合量が40%であっても甘みの改善が十分でなく、これ以上セトデュールセモリナ粉の配合量を増加させても外観が損なわれることが予測された(比較例7~9)。また表面粗さが増すほど甘味が増すが、表面が粗いとわずかに色味がぼやけることが確認された(比較例7~9、実施例8~10、実施例1~3、実施例11~13の対比)。
【0020】
評価基準表
【0021】
表1







POM:ポリアセタール
PTFE:ポリテトラフルオロエチレン(商品名 テフロン(登録商標))