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特許7566633燃料パイプ及びそれを用いた燃料輸送方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】燃料パイプ及びそれを用いた燃料輸送方法
(51)【国際特許分類】
   F16L 9/18 20060101AFI20241007BHJP
   B32B 1/08 20060101ALI20241007BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20241007BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20241007BHJP
   F16L 11/20 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
F16L9/18
B32B1/08 B
B32B27/28 102
B32B27/32 C
F16L11/20
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020559335
(86)(22)【出願日】2019-12-13
(86)【国際出願番号】 JP2019048886
(87)【国際公開番号】W WO2020122226
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-11-18
(31)【優先権主張番号】P 2018234111
(32)【優先日】2018-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 真
(72)【発明者】
【氏名】ルイテン,ワウト
(72)【発明者】
【氏名】下 浩幸
【審査官】豊島 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-024505(JP,A)
【文献】特開2002-096016(JP,A)
【文献】特開2006-062734(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 9/00 - 11/26
B32B 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内管とその外側に配置される外管とを有する二重管からなる燃料パイプであって、
内管がエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)及びエラストマー(B)を含有する樹脂組成物からなる層及びポリエチレンからなる層を有し、
外管がポリエチレンからなる層を有し、
内管の厚みが5mm以上であり、かつ該内管の厚みに対する樹脂組成物からなる層の厚みの比(樹脂組成物層/内管)が0.02~0.2であり、
内管の厚みに対する外管の厚みの比(外管/内管)が0.1~5である、燃料パイプ。
【請求項2】
エラストマー(B)が、アクリル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、スチレン系エラストマー及び共役ジエン系エラストマーからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の燃料パイプ。
【請求項3】
樹脂組成物が、エラストマー(B)として多層構造重合体粒子を含有する、請求項1又は2に記載の燃料パイプ。
【請求項4】
多層構造重合体粒子の平均一次粒子径が0.2~1μmである、請求項3に記載の燃料パイプ。
【請求項5】
多層構造重合体粒子の平均二次粒子径が1.1~10μmである、請求項3又は4に記載の燃料パイプ。
【請求項6】
多層構造重合体粒子が少なくとも最外層および最内層を有する、請求項3~5のいずれかに記載の燃料パイプ。
【請求項7】
最外層を構成する重合体成分のガラス転移温度が30℃以上であり、最内層を構成する重合体成分のガラス転移温度が-10℃以下である、請求項6に記載の燃料パイプ。
【請求項8】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のエチレン含有量が20~50モル%である、請求項1~7のいずれかに記載の燃料パイプ。
【請求項9】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)に対するエラストマー(B)の質量比(B/A)が1/99~40/60である、請求項1~8のいずれかに記載の燃料パイプ。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の燃料パイプからなる地中埋設用燃料パイプ。
【請求項11】
請求項1~9のいずれかに記載の燃料パイプを用いて燃料を輸送する、燃料輸送方法。
【請求項12】
請求項10に記載の燃料パイプを地中に埋設した後、当該燃料パイプを用いて燃料を輸送する、燃料輸送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重管からなる燃料パイプ及びそれを用いた燃料輸送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガソリンスタンド等の地中に埋設される燃料パイプとして、鋼管が使用されていた。しかしながら、地中に埋設された鋼管が腐食して燃料漏れが生じることがあった。さらに、鋼管は重いため、設置時等における作業性も悪かった。また、ナイロンのバリア層を有する樹脂からなる燃料パイプも知られている。しかしながら、ナイロンは燃料バリア性が低かったため、当該パイプからガソリン等の燃料が蒸散して土壌が汚染される場合があった。
【0003】
ところで、エチレン-ビニルアルコ-ル共重合体(以下、「EVOH」と略記する場合がある)は、ガスバリア性、保香性、耐溶剤性、耐油性、透明性等に優れており、かかる特性を生かして、食品や薬品用の包装材料、燃料や水用の容器やパイプにおけるバリア層等として広く利用されている。
【0004】
特許文献1には、給油所の地下に埋設される燃料油用配管であって、ポリエチレン樹脂からなる外層の内面に、変性ポリエチレンからなる接着剤層を介してエチレン-ビニルアルコール共重合体からなる遮蔽層が接着されてなる燃料油用配管が記載されている。しかしながら、当該配管は燃料バリア性がなお不十分であった。特に当該配管が地下に埋設された際に、地面側から荷重が加わって配管が軸に対して垂直方向に変形すると燃料バリア性が著しく低下した。
【0005】
特許文献2には、EVOH及びコアシェル構造を有する樹脂微粒子を含有する樹脂組成物層をバリア層として有する多層構造体からなる燃料パイプが記載されている。そして、当該燃料パイプは、ガソリンバリア性及び耐衝撃性に優れていたと記載されている。しかしながら、当該燃料パイプが長手方向(燃料が流れる方向)に対して垂直方向に変形すると燃料バリア性が著しく低下した。特許文献2には、燃料パイプを地中に埋設することについて何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-62734号公報
【文献】特開平10-24505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、扁平強さが高く、なおかつ長手方向(燃料が流れる方向)に対して垂直方向に変形した場合でも燃料バリア性の低下を防止できる燃料パイプを提供することを目的とする。また、燃料漏れが生じることなく安全に燃料を輸送することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、内管とその外側に配置される外管とを有する二重管からなる燃料パイプであって、内管がEVOH(A)及びエラストマー(B)を含有する樹脂組成物からなる層及びポリエチレンからなる層を有し、外管がポリエチレンからなる層を有し、内管の厚みが5mm以上であり、かつ該内管の厚みに対する樹脂組成物からなる層の厚みの比(樹脂組成物層/内管)が0.02~0.2であり、内管の厚みに対する外管の厚みの比(外管/内管)が0.1~5である、燃料パイプを提供することによって解決される。
【0009】
このとき、エラストマー(B)が、アクリル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、スチレン系エラストマー及び共役ジエン系エラストマーからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0010】
樹脂組成物が、エラストマー(B)として多層構造重合体粒子を含有することも好ましい。このとき、多層構造重合体粒子の平均一次粒子径が0.2~1μmであることが好ましい。多層構造重合体粒子の平均二次粒子径が1.1~10μmであることも好ましい。
【0011】
多層構造重合体粒子が少なくとも最外層および最内層を有することが好ましい。そして、最外層を構成する重合体成分のガラス転移温度は30℃以上であり、最内層を構成する重合体成分のガラス転移温度は-10℃以下であることがより好ましい。
【0012】
EVOH(A)のエチレン含有量が20~50モル%であることが好ましい。EVOH(A)に対するエラストマー(B)の質量比(B/A)が1/99~40/60であることも好ましい。
【0013】
上記課題は、前記燃料パイプを用いて燃料を輸送する、燃料輸送方法を提供することによっても解決される。
【0014】
前記燃料パイプからなる地中埋設用燃料パイプが本発明の好適な実施態様である。
【0015】
上記課題は、前記燃料パイプを地中に埋設した後、当該燃料パイプを用いて燃料を輸送する、燃料輸送方法を提供することによっても解決される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の燃料パイプは、扁平強さが高く、なおかつ長手方向(燃料が流れる方向)に対して垂直方向に変形した場合でも燃料バリア性の低下が防止される。しかも、本発明の燃料パイプは鋼材を用いておらず軽いため、設置時等における作業効率が高い。したがって、本発明の燃料パイプを用いて燃料を輸送すること、中でも、当該パイプを地中に埋設した後、当該パイプを用いて燃料を輸送することにより、燃料を安全に輸送することができるうえに設置費用も低減する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の燃料パイプは、内管とその外側に配置される外管とを有する二重管からなる燃料パイプであって、内管がEVOH(A)及びエラストマー(B)を含有する樹脂組成物からなる層及びポリエチレンからなる層を有し、外管がポリエチレンからなる層を有し、内管の厚みが5mm以上であり、かつ該内管の厚みに対する樹脂組成物からなる層の厚みの比(樹脂組成物層/内管)が0.02~0.2であり、内管の厚みに対する外管の厚みの比(外管/内管)が0.1~5であるものである。
【0018】
(内管)
本発明の燃料パイプに用いられる内管は、EVOH(A)及びエラストマー(B)を含有する樹脂組成物からなる層(以下、「樹脂組成物層」と略記することがある)及びポリエチレンからなる層(以下、「ポリエチレン層」と略記することがある)を有する多層構造体からなる。本発明において、内管がバリア層として樹脂組成物層を有することが重要である。内管が樹脂組成物層を有することにより、燃料バリア性が向上するとともに、燃料パイプが長手方向(燃料が流れる方向)に対して垂直方向に変形した場合であっても、燃料バリア性の低下が抑制される。
【0019】
(EVOH(A))
本発明で用いられるEVOH(A)は、エチレン単位とビニルアルコ-ル単位とを有する共重合体である。EVOH(A)は、通常、エチレン-ビニルエステル共重合体をケン化することにより得られる。エチレン-ビニルエステル共重合体の製造及びそのケン化は公知の方法により行うことができる。エチレン-ビニルエステル共重合体の製造に用いられるビニルエステルとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル及びバ-サティック酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステルが挙げられ、中でも酢酸ビニルが好ましい。
【0020】
EVOH(A)のエチレン単位含有量は20モル%以上が好ましく、25モル%以上がより好ましい。エチレン単位含有量が20モル%未満では、EVOH(A)の熱安定性が低下したり、柔軟性が低下することで燃料パイプが変形した際に燃料バリア性が低下したりするおそれがある。一方、EVOH(A)のエチレン単位含有量は50モル%以下が好ましく、35モル%以下がより好ましい。EVOH(A)のエチレン単位含有量が50モル%を超えると、燃料バリア性が低下するおそれがある。EVOH(A)のエチレン単位含有量及びケン化度は、核磁気共鳴(NMR)法により求めることができる。
【0021】
EVOH(A)のケン化度は90モル%以上が好ましく、95モル%以上がより好ましく、99モル%以上がさらに好ましい。EVOH(A)のケン化度が90モル%以上であると、得られる燃料パイプの燃料バリア性、熱安定性及び耐湿性がさらに向上する。EVOH(A)のケン化度は、通常99.97モル%以下であり、99.94モル%以下が好ましい。
【0022】
また、EVOH(A)は、本発明の目的が阻害されない範囲で、エチレン、ビニルエステル及びそのケン化物以外の他の単量体由来の単位を有していてもよい。EVOH(A)中の他の単量体由来の単位の含有量は、EVOH(A)中の全単量体単位に対して、30モル%以下が好ましく、20モル%以下がより好ましく、10モル%以下がさらに好ましく、5モル%以下が特に好ましい。EVOH(A)が他の単量体由来の単位を有する場合、その含有量は、EVOH(A)中の全単量体単位に対して、0.05モル%以上が好ましく、0.10モル%以上がより好ましい。他の単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等の不飽和酸又はその無水物、塩、又はモノ若しくはジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸又はその塩;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β-メトキシ-エトキシ)シラン、γ-メタクリルオキシプロピルメトキシシラン等ビニルシラン化合物;アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
【0023】
EVOH(A)のMFR(メルトフローレート)(190℃、2160g荷重下で測定)は0.1~100g/10分が好適である。EVOH(A)のMFRが100g/10分を超える場合には、樹脂組成物層の強度が低下するおそれがある。EVOH(A)のMFRは、50g/10分以下がより好適であり、30g/10分以下がさらに好適である。一方、EVOH(A)のMFRが0.1g/10分未満の場合には、溶融成形が困難になるおそれがある。EVOH(A)のMFRは0.5g/10分以上がより好適である。
【0024】
EVOH(A)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
(エラストマー(B))
樹脂組成物層はエラストマー(B)を含有する。これにより、燃料パイプが長手方向(燃料が流れる方向)に対して垂直方向に変形した場合であっても、燃料バリア性の低下が抑制される。エラストマー(B)の種類としては、例えばアクリル系エラストマー;エチレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン共重合体等のオレフィン系エラストマー;ウレタン系エラストマー;スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)等のスチレン系エラストマー;スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリル酸エステル-ブタジエン共重合体、これらの水素添加物等の共役ジエン系エラストマー、ポリオルガノシロキサン等のシリコーン系エラストマー;エチレン系アイオノマー共重合体;ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン-イソプレン共重合体、ポリクロロプレン、又は上述の成分を最内層に有する多層構造重合体粒子等が用いられる。これらは単独でも、複数種を組み合わせても用いられる。中でも、エラストマー(B)が、アクリル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、スチレン系エラストマー及び共役ジエン系エラストマーからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、アクリル系エラストマー又共役ジエン系エラストマーであることがより好ましい。
【0026】
アクリル系エラストマーはアクリル酸エステルを重合することにより製造される。前記アクリル系エラストマーの合成に使用されるアクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸オクチル等のアクリル酸アルキルエステルが挙げられる。中でも、アクリル酸ブチル又はアクリル酸エチルを重合したものであることが好ましい。
【0027】
アクリル系エラストマーを合成するに際して、必要に応じて、アクリル酸エステル以外の他の単官能の重合性単量体を共重合させてもよい。共重合させる他の単官能の重合性単量体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸ナフチル、メタクリル酸イソボルニル等のメタクリル酸エステル;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル等が挙げられる。アクリル系エラストマー中の全単量体単位に対する、他の単官能性単量体単位の含有量は、20質量%以下が好ましい。
【0028】
共役ジエン系エラストマーを製造するに際して、必要に応じて、共役ジエン以外の他の単官能の重合性単量体を共重合させてもよい。共重合させる他の単官能の重合性単量体としては、アクリル系エラストマーを製造するに際して、アクリル酸エステルに共重合させる他の単官能の重合性単量体として上述したものが挙げられる。共役ジエン系エラストマー中の全単量体単位に対する、他の単官能の重合性単量体単位の含有量は20質量%以下が好ましい。
【0029】
樹脂組成物が、エラストマー(B)として多層構造重合体粒子を含有することが好ましい。当該多層構造重合体粒子は、少なくとも最外層および最内層を有することがより好ましい。エラストマー(B)がこのような多層構造体粒子として樹脂組成物中に含有されることにより、燃料パイプが長手方向に対して垂直方向に変形した場合における、燃料バリア性の低下がさらに抑制される。
【0030】
樹脂組成物が、エラストマー(B)として多層構造重合体粒子を含有するとき、エラストマー(B)は、ゴム弾性を発現させるために架橋された分子鎖構造を有していることが好ましく、また、最内層を構成する重合体成分の分子鎖とそれに隣接する層中の分子鎖が化学結合によりグラフトされていることが好ましい。そのためには、最内層を構成する重合体成分を形成させるための単量体の重合において、少量の多官能の重合性単量体を架橋剤又はグラフト剤として併用することが好ましい場合がある。
【0031】
最内層を構成する重合体成分を形成させる際に用いられる多官能の重合性単量体は、分子内に炭素-炭素間二重結合を2個以上有する単量体であり、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、桂皮酸等の不飽和カルボン酸と、アリルアルコ-ル、メタリルアルコ-ル等の不飽和アルコ-ル又はエチレングリコ-ル、ブタンジオ-ル等のグリコ-ルとのエステル;フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、マレイン酸等のジカルボン酸と不飽和アルコールとのエステル等が包含される。具体的には、アクリル酸アリル、アクリル酸メタリル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸メタリル、桂皮酸アリル、桂皮酸メタリル、マレイン酸ジアリル、フタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、ジビニルベンゼン、エチレングリコ-ルジ(メタ)アクリレ-ト、ブタンジオ-ルジ(メタ)アクリレ-ト、ヘキサンジオ-ルジ(メタ)アクリレ-ト等が例示される。なお、用語「ジ(メタ)アクリレ-ト」は、「ジアクリレ-ト」と「ジメタクリレ-ト」との総称を意味する。これらは、単独でも、複数種を組み合わせても用いられる。中でも、メタクリル酸アリルが好適に用いられる。
【0032】
最内層を構成する重合体成分の全単量体単位に対する、多官能の重合性単量体単位の含有量は10質量%以下が好ましい。多官能の重合性単量体単位の含有量が多すぎると、エラストマーとしての性能が低下することにより、燃料パイプが変形する際に、燃料バリア性が低下し易くなるおそれがある。なお、共役ジエン系化合物を主成分とする単量体を用いる場合には、それ自体が架橋あるいはグラフト点として機能するため、必ずしも多官能の重合性単量体を併用しなくてもよい。
【0033】
燃料パイプの変形による燃料バリア性の低下がさらに抑制される観点から、最内層を構成する重合体成分のガラス転移温度(以下、Tgと略記することがある)が-10℃以下であることが好ましい。
【0034】
多層構造重合体粒子の最外層を構成する重合体成分のTgが30℃以上であることも好ましい。
【0035】
最外層を構成する重合体成分の合成に使用されるラジカル重合性単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸アルキル;メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸アダマンチル等の脂環骨格を有するメタクリル酸エステル;メタクリル酸フェニル等の芳香環を有するメタクリル酸エステル;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル等が例示される。これらの単量体は、単独でも、複数種を組み合わせても用いられる。好ましいラジカル重合性単量体としては、メタクリル酸メチル又はスチレンの単独もしくはそれを主成分とする2種以上のラジカル重合性単量体の組み合わせが挙げられる。
【0036】
多層構造重合体粒子は2層以上で構成されていればよく、その層構成として、以下のような例が挙げられる。
2層構造:最内層/最外層
3層構造:最内層/中間層/最外層
【0037】
多層構造重合体粒子が水酸基に対して反応性又は親和性を有する少なくとも1種の官能基を有することが好ましい。これにより、得られる樹脂組成物において、EVOH(A)のマトリクス中の多層構造重合体粒子の分散性が向上し、燃料パイプの変形による燃料バリア性の低下がさらに抑制される。このような多層構造重合体粒子は、それを製造するための重合反応において、単量体の一部として、水酸基に対して反応性もしくは親和性を有する官能基を有する重合性化合物を使用することにより得ることができる。ここで、官能基が、本発明の目的を阻害せず、かつEVOH(A)と多層構造重合体粒子を混合する際に外れる保護基で保護されていてもよい。
【0038】
水酸基に対して反応性又は親和性を有する官能基を有するラジカル重合性化合物としては、EVOH(A)と多層構造重合体粒子を混合する際に、EVOH(A)中の水酸基と反応して化学結合又は水素結合等の分子間結合を生ずることのできる官能基を有する不飽和化合物等が挙げられる。水酸基に対して反応性又は親和性を有する官能基としては、例えば、水酸基、エポキシ基、イソシアネ-ト基(-NCO)、カルボキシル基等の酸基、無水マレイン酸基等の酸無水物基等が挙げられる。
【0039】
前記不飽和化合物としては、例えば(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、クロトン酸2-ヒドロキシエチル、3-ヒドロキシ-1-プロペン、4-ヒドロキシ-1-ブテン、シス-4-ヒドロキシ-2-ブテン、トランス-4-ヒドロキシ-2-ブテン等の水酸基を有する重合性化合物;(メタ)アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエ-テル、3,4-エポキシブテン、4,5-エポキシペンチル(メタ)アクリレ-ト、10,11-エポキシウンデシルメタクリレ-ト、p-グリシジルスチレン等のエポキシ基含有重合性化合物;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、イタコン酸、マレイン酸、シトラコン酸、アコニチン酸、メザコン酸、メチレンマロン酸等のカルボン酸等である。なお、用語「ジ(メタ)アクリレ-ト」は、「ジアクリレ-ト」と「ジメタクリレ-ト」との総称を意味し、「(メタ)アクリル酸」は「アクリル酸」と「メタクリル酸」との総称を意味する。
【0040】
水酸基に対して反応性又は親和性を有する官能基を有するラジカル重合性化合物の使用量は、多層構造重合体粒子を製造するために使用する全体単量体に対して0.01~75質量%であることが好ましく、0.1~40質量%であることがより好ましい。なお、保護された官能基を有するラジカル重合性化合物としては、メタクリルカルバミン酸t-ブチル等が挙げられる。
【0041】
官能基がEVOH(A)中の水酸基に対して実質的に反応し得るか、又は分子間結合を形成し得る限りにおいて、多層構造重合体粒子のいずれかの層に存在していてもよい。樹脂組成物中の多層構造重合体粒子の一部がEVOH(A)との間で化学結合を形成していてもよく、水酸基に対して反応性又は親和性を有する官能基が最外層中の分子鎖に存在することが特に好ましい。
【0042】
多層構造重合体粒子における最内層を構成する重合体成分の含有量が50~90質量%であることが好ましい。最内層を構成する重合体成分の含有量が50質量%未満の場合、燃料パイプが変形した際に燃料バリア性が大幅に低下する場合がある。一方、最内層を構成する重合体成分の含有量が90質量%を超える場合、多層構造重合体粒子のハンドリング性が低下する場合がある。
【0043】
多層構造重合体粒子の平均一次粒子径は0.2~5μmであることが好ましい。多層構造重合体粒子の平均一次粒子径が0.2μm未満の場合、多層構造重合体粒子とEVOH樹脂をドライブレンドし、溶融押出により樹脂組成物ペレットを得た場合に、該ペレット中における、多層構造重合体粒子の平均二次粒子径が大きくなりすぎる傾向がある。ここで、二次粒子とは、一次粒子が凝集した粒子のことをいい、平均二次粒子径が大きすぎる場合には、燃料パイプが変形した際に燃料バリア性が大幅に低下する場合がある。平均一次粒子径は好ましくは0.3μm以上、より好ましくは、0.35μm以上である。一方、平均一次粒子径が5μmを超える場合も、燃料パイプが変形した際に燃料バリア性が大幅に低下する場合がある。平均一次粒子径はより好ましくは3μm以下、さらに好ましくは1μm以下、特に好ましくは0.8μm以下であり、最も好ましくは0.6μm以下である。
【0044】
樹脂組成物中における、多層構造重合体粒子の平均二次粒子径が1.1~10μmが好ましい。このように樹脂組成物中で比較的小さい多層構造重合体粒子の凝集体が形成されることにより、燃料パイプの変形による燃料バリア性の低下がさらに抑制される。平均二次粒子径はより好ましくは1.5μm以上、さらに好ましくは2μm以上である。一方、平均二次粒子径はより好ましくは8μm以下であり、さらに好ましくは6μm以下であり、特に好ましくは5μm以下である。多層構造重合体粒子の平均二次粒子径を所定の範囲に調整する方法としては、例えばドライブレンドする際のスクリュー回転数を20rpm以上とすることが挙げられる。
【0045】
多層構造重合体粒子を製造するための重合法については、特に制限がなく、例えば、通常の乳化重合法により、球状の多層構造重合体粒子を容易に得ることができる。乳化重合は、当業者が通常用いる手段に従って行われ、必要に応じて、オクチルメルカプタン、ラウリルメルカプタン等の連鎖移動剤を用いることができる。なお、乳化重合後、当業者が通常用いる方法(例えば、凝固、乾燥等の方法)に従って、共重合体ラテックスから多層構造重合体粒子が分離され、取得される。
【0046】
(樹脂組成物)
樹脂組成物における、EVOH(A)に対するエラストマー(B)の質量比(B/A)は1/99~40/60の範囲が好ましい。質量比(B/A)が1/99以上であると、燃料パイプの変形による燃料バリア性の低下がさらに抑制される。質量比(B/A)は3/97以上がより好ましく、5/95以上がさらに好ましい。一方、質量比(B/A)が40/60以下であると、燃料バリア性がさらに向上する。質量比(B/A)は30/70以下がより好ましく、25/75以下がさらに好ましい。
【0047】
樹脂組成物における、EVOH(A)及びエラストマー(B)の合計含有量は50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましい。
【0048】
(酸化防止剤(C))
樹脂組成物が酸化防止剤(C)を含有することが好ましい。酸化防止剤(C)の融点としては、例えば170℃以下が好ましい。酸化防止剤(C)の融点が170℃を超える場合には、溶融混合により樹脂組成物を製造する際に、酸化防止剤(C)が溶融せずに、樹脂組成物中に酸化防止剤(C)が局在化し、高濃度部分が着色する場合がある。
【0049】
酸化防止剤(C)の分子量は300以上が好ましい。酸化防止剤(C)の分子量が300未満の場合には、得られる燃料パイプの表面に酸化防止剤(C)がブリードアウトして、樹脂組成物の熱安定性が低下する場合がある。酸化防止剤(C)の分子量は400以上がより好ましく、500以上がさらに好ましい。一方、酸化防止剤(C)の分子量の上限は例えば分散性の観点から8000以下が好ましく、6000以下がより好ましく、4000以下がさらに好ましい。
【0050】
酸化防止剤(C)としては、ヒンダードフェノール基を有する化合物が好適に用いられる。ヒンダードフェノール基を有する化合物は、それ自身が熱安定性に優れるともに、酸化劣化の原因である酸素ラジカルを捕捉する能力があり、酸化防止剤(C)として樹脂組成物に配合した場合、酸化劣化を防止する効果に優れる。
【0051】
ヒンダードフェノール基を有する化合物としては、市販されているものを用いることができ、例えば、以下の製品が挙げられる。
(1)BASF社製「IRGANOX 1010」:融点110-125℃、分子量1178、ペンタエリスリトールテトラキス〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕
(2)BASF社製「IRGANOX 1076」:融点50-55℃、分子量531、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート
(3)BASF社製「IRGANOX 1098」:融点156-161℃、分子量637、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナミド〕
(4)BASF社製「IRGANOX 245」:融点76-79℃、分子量587、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-tert-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]
(5)BASF社製「IRGANOX 259」:融点104-108℃、分子量639、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]
(6)住友化学工業株式会社製「Sumilizer MDP-s」:融点約128℃、分子量341、2,2’-メチレン-ビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)
(7)住友化学工業株式会社製「Sumilizer GM」:融点約128℃、分子量395、2-tert-ブチル-6-(3-tert-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート
(8)住友化学工業株式会社製「Sumilizer GA-80」:融点約110℃、分子量741、3,9-ビス〔2-{3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}-1,1-ジメチルエチル〕-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン
【0052】
酸化防止剤(C)として、ヒンダードアミン基を有する化合物を用いることも好ましい。ヒンダードアミン基を有する化合物は、EVOH(A)の熱劣化を抑制するうえに、EVOH(A)の熱分解により生成するアルデヒドを捕捉する。これにより、分解ガスの発生が低減するため、成形時にボイドや気泡の発生が抑制される。
【0053】
ヒンダードアミン基を有する化合物として、ピペリジン誘導体が好ましく、中でも4位に置換基を有する2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン誘導体がより好ましい。その4位の置換基としては、カルボキシル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基が挙げられる。また、ヒンダードアミン基を有する化合物のヒンダードアミン基のN位がアルキル基で置換されていてもよい。
【0054】
ヒンダードアミン基を有する化合物としては、市販されているものを用いることができ、例えば、以下の製品を挙げることができる。
(9)BASF社製「TINUVIN 770」:融点81-85℃、分子量481、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート
(10)BASF社製「TINUVIN 765」:液状化合物、分子量509、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート及び1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルセバケート(混合物)
(11)BASF社製「TINUVIN 622LD」:融点55-70℃、分子量3100-4000、コハク酸ジメチル・1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物
(12)BASF社製「CHIMASSORB 119FL」:融点130-140℃、分子量2000以上、N,N’-ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミン・2,4-ビス〔N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ〕-6-クロロ-1,3,5-トリアジン縮合物
(13)BASF社製「CHIMASSORB 944LD」:融点100-135℃、分子量2000-3100、ポリ〔〔6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル〕(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ〕ヘキサメチレン(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペジリル)イミノ〕〕
(14)BASF社製「TINUVIN 144」:融点146-150℃、分子量685、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)〔〔3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドリキシフェニル〕メチル〕ブチルマロネート
(15)BASF社製「UVINUL 4050H」:融点157℃、分子量450、N,N’-1,6-ヘキサンジイルビス{N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-ホルムアミド}
【0055】
(16)BASF社製「UVINUL 5050H」:融点104-112℃、分子量約3500、下記構造式を有する化合物
【0056】
【化1】
【0057】
これらのヒンダードフェノール基又はヒンダードアミン基を有する化合物は単独で使用しても、また、2種以上を併用してもよい。
【0058】
樹脂組成物中の酸化防止剤(C)の含有量は、EVOH(A)100質量部に対して0.01~5質量部が好ましい。酸化防止剤(C)の含有量が0.01質量部未満であると上述した効果が得られないおそれがある。酸化防止剤(C)の含有量は、0.05質量部以上がより好ましく、0.1質量部以上がさらに好ましい。一方、酸化防止剤(C)の含有量が5質量部を超えると、酸化防止剤(C)の分散不良が生じる場合がある。酸化防止剤(C)の含有量は、EVOH(A)100質量部に対して4質量部以下がより好ましく、3質量部以下がさらに好ましい。
【0059】
本発明の効果を阻害しない範囲であれば、樹脂組成物がEVOH(A)、エラストマー(B)及び酸化防止剤(C)以外の他の添加剤を含有していてもよい。このような他の添加剤としては、EVOH(A)、及びエラストマー(B)以外の樹脂、金属塩、酸、ホウ素化合物、可塑剤、フィラ-、ブロッキング防止剤、滑剤、安定剤、界面活性剤、色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、乾燥剤、架橋剤、充填材、各種繊維等の補強材等が挙げられ、中でも、樹脂組成物の熱安定性や他樹脂との接着性の観点から金属塩及び酸が好ましい。
【0060】
金属塩としては、層間接着性をより高める観点からはアルカリ金属塩が好ましく、熱安定性の観点からはアルカリ土類金属塩が好ましい。樹脂組成物が金属塩を含む場合、その含有量は、金属元素換算で1~10000ppmが好ましい。金属塩の含有量は、金属元素換算で5ppm以上がより好ましく、10ppm以上がさらに好ましく、20ppm以上が特に好ましい。一方、金属塩の含有量は、金属元素換算で5000ppm以下がより好ましく、1000ppm以下がさらに好ましく、500ppm以下が特に好ましい。金属塩の含有量の測定方法としては、例えば乾燥EVOHペレットを凍結粉砕して得られたサンプルをICP発光分析装置で定量する方法が挙げられる。
【0061】
酸としては、溶融成形時の熱安定性を高める観点からカルボン酸化合物及びリン酸化合物が好ましい。樹脂組成物がカルボン酸化合物を含む場合、その含有量は1~10000ppmが好ましい。カルボン酸化合物の含有量は、10ppm以上がより好ましく、50ppm以上がさらに好ましい。一方、カルボン酸化合物の含有量は1000ppm以下がより好ましく、500ppm以下がさらに好ましい。酸の含有量の測定方法としては、例えば中和滴定法が挙げられる。
【0062】
樹脂組成物がリン酸化合物を含む場合、その含有量は1~10000ppmが好ましい。リン酸化合物の含有量は10ppm以上がより好ましく、30ppm以上がさらに好ましい。一方、リン酸化合物の含有量は1000ppm以下がより好ましく、300ppm以下がさらに好ましい。リン酸化合物の含有量の測定方法としては、例えば乾燥EVOHペレットを凍結粉砕して得られたサンプルをICP発光分析装置で定量する方法が挙げられる。
【0063】
樹脂組成物がホウ素化合物を含む場合、その含有量は1~2000ppmが好ましい。ホウ素化合物の含有量は10ppm以上がより好ましく、50ppm以上がさらに好ましい。一方、ホウ素化合物の含有量は、1000ppm以下がより好ましく、500ppm以下がさらに好ましい。樹脂組成物中のホウ素化合物の含有量が上記範囲内であると溶融成形時の熱安定性がさらに向上する。ホウ素化合物の含有量は上述のリン酸化合物と同様の方法で測定できる。
【0064】
上記リン酸化合物、カルボン酸又はホウ素化合物を樹脂組成物に含有させる方法としては、例えば樹脂組成物のペレット等を製造する際にEVOH組成物にそれらの化合物を添加して混練する方法が好適に採用される。EVOH組成物にそれらの化合物を添加する方法としては、例えば乾燥粉末を添加する方法、溶媒を含浸させたペーストを添加する方法、液体に懸濁させた懸濁液を添加する方法、溶媒に溶解させた溶液を添加する方法、EVOHペレットを溶液に浸漬させる方法が挙げられる。中でも、リン酸化合物、カルボン酸又はホウ素化合物を均質に分散させる観点から、溶媒に溶解させた溶液を添加する方法又はEVOHペレットを溶液に浸漬させる方法が好ましい。溶媒としては、添加剤の溶解性、コストの観点、取り扱いの容易性、作業環境の安全性等の観点から例えば水が好適に用いられる。
【0065】
樹脂組成物は、EVOH(A)、エラストマー(B)並びに必要に応じて酸化防止剤(C)及び前述の他の添加剤を混合することにより得ることができる。これらを混合する方法としては、樹脂の混合のための公知の方法を用いることができる。溶融混練法を用いる場合、EVOH(A)、エラストマー(B)、必要に応じて酸化防止剤(C)、安定剤、染料、顔料、可塑剤、滑剤、充填剤、他の樹脂等を加えた後、スクリュー型押出機等を用いて、例えば200~300℃で溶融混練することができる。
【0066】
樹脂組成物の製造に供される多層構造重合体粒子は、EVOH(A)と混合した際に粒子状に十分に分散することが可能であれば、例えば、多層構造重合体粒子の最外層が相互に融着してペレット状になったものであってもよい。
【0067】
本発明の燃料パイプの内管のポリエチレン層に用いられるポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のポリエチレン;エチレンと、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィンとを共重合したエチレン系共重合体等が挙げられる。ポリエチレンは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。中でも、内管のポリエチレン層に用いられるポリエチレンとして、高密度ポリエチレンが好ましい。
【0068】
内管のポリエチレン層に用いられるポリエチレンのMFR(メルトフローレート、190℃、2160g荷重下)は0.01~10g/10分が好ましい。ポリエチレンのMFRが0.01g/10分未満の場合、溶融成形が困難になる場合がある。一方、ポリエチレンのMFRが10g/10分を超える場合、ポリエチレン層の強度が低下する場合や押出成形が困難になる場合がある。ポリエチレンのMFRは、5g/10分以下がより好ましく、3g/10分以下がさらに好ましく、2g/10分以下が特に好ましい。
【0069】
内管において、樹脂組成物層は、ポリエチレン層等の他の層と直接接着していてもよいが、接着性樹脂層を介して接着していることが好ましい。
【0070】
接着性樹脂層に使用される樹脂としては、例えばポリウレタン系、ポリエステル系一液型あるいは二液型硬化性接着剤;カルボキシル基、カルボン酸無水物基又はエポキシ基を有するポリオレフィンを用いることが好ましい。中でも、EVOH(A)との接着性にも、ポリエチレンとの接着性にも優れている点から、カルボキシル基、カルボン酸無水物基又はエポキシ基を有するポリオレフィンがより好ましい。
【0071】
カルボキシル基を含有するポリオレフィンとしては、アクリル酸やメタクリル酸を共重合したポリオレフィン等が挙げられ、アイオノマーに代表されるようにポリオレフィン中に含有されるカルボキシル基の全部あるいは一部が金属塩の形で存在していてもよい。カルボン酸無水物基を有するポリオレフィンとしては、無水マレイン酸やイタコン酸でグラフト変性されたポリオレフィンが挙げられる。また、エポキシ基を含有するポリオレフィン系樹脂としては、グリシジルメタクリレートを共重合したポリオレフィンが挙げられる。これらカルボキシル基、カルボン酸無水物基又はエポキシ基を有するポリオレフィンのうちでも、無水マレイン酸等のカルボン酸無水物で変性されたポリオレフィン、特にポリエチレンが接着性に優れる点から好ましい。
【0072】
内管のポリエチレン層中のポリエチレンの含有量は通常50質量%以上であり、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましい。
【0073】
本発明の効果を阻害しない範囲であれば、内管のポリエチレン層がポリエチレン以外の添加剤を含有していてもよい。当該添加剤としては、樹脂組成物に含有されるEVOH(A)及びエラストマー(B)以外の添加剤として上述したものが挙げられる。
【0074】
内管のポリエチレン層の原料として、内管や後述する外管を回収再利用したものを用いてもよい。
【0075】
本発明の燃料パイプに用いられる内管は、樹脂組成物層及びポリエチレン層を有する多層パイプであり、層構成としては以下のようなものが挙げられる。この例示において、左が内側で右が外側である。
2層 (内側)樹脂組成物層/ポリエチレン層(外側)、ポリエチレン層/樹脂組成物層
3層 樹脂組成物層/接着性樹脂層/ポリエチレン層、ポリエチレン層/接着性樹脂層/樹脂組成物層、ポリエチレン層/樹脂組成物層/ポリエチレン層
4層 ポリエチレン層/樹脂組成物層/接着性樹脂層/ポリエチレン層
5層 ポリエチレン層/接着性樹脂層/樹脂組成物層/接着性樹脂層/ポリエチレン層
【0076】
内管の厚みが5mm以上である必要がある。内管の厚みが5mm未満の場合、本発明の燃料パイプの扁平強度が低下する。一方、内管の厚みは、通常、50mm以下であり、20mm以下が好ましい。ここで、扁平強度とは、燃料パイプの長手方向(燃料が流れる方向)に対して垂直方向からの圧縮に対する燃料パイプの圧縮強度である。
【0077】
内管の厚みに対する樹脂組成物層の厚みの比(樹脂組成物層/内管)が0.02~0.2である必要がある。当該厚み比(樹脂組成物層/内管)が0.02未満の場合には、燃料バリア性が不十分になる。一方、変形後の燃料バリア性の低下を抑制する観点やコスト面からは厚み比(樹脂組成物層/内管)は0.1以下が好ましい。
【0078】
内管において、樹脂組成物層を、全体厚みに対し内側寄りの位置に配置することで、全体層厚みに対して中心に配置する場合に比較して燃料バリア性に優れたパイプが得られる。その効果は中心から離れるほど大きい。
【0079】
内管の製造方法としては、例えば溶融成形する方法や、溶液コーティングする方法が挙げられる。溶融成形する場合には、共押出成形、共射出成形、押出コーティング等が採用される。また、ドライラミネーション等の多層成形方法も採用される。
【0080】
溶融成形する場合には、例えば成形直後の内管を10~70℃の水で冷却を行う工程を含むとよい。すなわち、溶融成形後、樹脂組成物層を10~70℃の水で冷却することにより、該樹脂組成物層を固化させることが好ましい。冷却水の温度が低すぎると、燃料パイプが変形した際にクラックが生じやすくなる場合がある。クラックが生じやすくなる原因の詳細は明らかでないが、成形物中の残留応力が影響しているものと推測される。この観点から、冷却水の温度は15℃以上がより好ましく、20℃以上がさらに好ましい。一方、冷却水の温度が高すぎても、燃料パイプが変形した際にクラックが生じやすくなる場合がある。この原因の詳細は明らかでないが、樹脂組成物の結晶化度が高くなりすぎるためと推定される。この観点から、冷却水の温度は60℃以下がより好ましく、50℃以下がさらに好ましい。
【0081】
上記の方法で得られた多層パイプを二次加工してもよい。二次加工法としては、公知の二次加工法を適宜用いることができるが、例えば多層パイプを80~160℃に加熱した後所望の形に変形させた状態で、1分~2時間固定することにより加工する方法が挙げられる。
【0082】
本発明の燃料パイプは、外管にポリエチレンからなる層を有する。外管のポリエチレン層としては、上述した内管のポリエチレン層と同様のものを用いることができる。外管が、ポリエチレン層以外の他の層を有していてもよく、当該他の層として、上述した内管に用いられる樹脂組成物層や接着性樹脂層と同様の層等が挙げられる。コスト面からは外管がポリエチレン層のみからなる単層パイプであることが好ましい。
【0083】
外管の厚みは、本発明の効果が阻害されない範囲であれば特に限定されないが、扁平強度が一層向上する点から、1mm以上が好ましく、2mm以上がより好ましい。一方、外管の厚みは、通常50mm以下であり、20mm以下が好ましい。外管の外径も、本発明の効果が阻害されない範囲であれば特に限定されないが、通常20~400mmである。
【0084】
外管の製造方法としては、例えば溶融成形法等の公知の方法が用いられる。溶融成形法としては、押出成形法、射出成形法等が採用される。
【0085】
こうして得られる外管に内管を挿入することにより二重管からなる本発明の燃料パイプが得られる。このような二重管とすることにより、本発明の燃料パイプは高い扁平強度を有する。さらに、変形等により、一方の管にクラック等が生じた場合でも、他方の管によって燃料の外部への流出が防止される。このような効果が阻害されない範囲であれば、外管の内径と内管の外径の差(外管の内径-内管の外径)は特に限定されず、通常0.5~10mmである。また、本発明の燃料パイプにおいて、外管の内面の一部と内管の外面の一部が接着していても構わない。外管の内面と内管の外面とを接着させる方法としては、電熱線からなる接合用ワイヤを内管の外面にコイル状に巻き付けてから、当該内管を外管に挿入した後、ワイヤに電圧を印加することにより、外管の内面と内管の外面とを融着させる方法等が挙げられる。
【0086】
本発明の燃料パイプにおいて、内管の厚みに対する外管の厚みの比(外管/内管)が0.1~5である必要があり、この範囲であると、高い扁平強度を有する燃料パイプが得られる。比(外管/内管)が0.2以上であることが好ましい。一方、比(外管/内管)が3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。
【0087】
本発明の燃料パイプは、扁平強度が高く、なおかつ長手方向(燃料が流れる方向)に対して垂直方向に変形した場合でも燃料バリア性の低下が防止される。本発明の燃料パイプは鋼材を用いておらず軽いため、設置時における施工効率が高い。このような燃料パイプを用いて燃料を輸送する、燃料輸送方法が本発明の好適な実施態様である。本発明の燃料パイプが地中埋設用燃料パイプであることが好ましい。本発明の燃料パイプは地中に埋設され地面から力が加わった場合も変形しにくいうえに、変形した場合でも燃料漏れが生じにくい。本発明の燃料パイプを地中に埋設した後、当該燃料パイプを用いて燃料を輸送する、燃料輸送方法が本発明のより好適な実施態様である。
【実施例
【0088】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。
【0089】
(1)多層構造重合体粒子の平均一次粒子径
ライカ製ウルトラミクロトーム(型式:Ultracut S/FC-S)を用いて、各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物ペレットを切削して透過型電子顕微鏡による観察用超薄切片を作製した。切削条件は以下の通りとした。
試料:-100℃
ナイフ:-100℃
切削速度:0.4~1.0mm/s
切削厚み設定値:85nm
厚み85nm
得られた超薄切片は銅製のメッシュ(1000メッシュ)に回収し、リンモリブデン酸液を用いて、電子染色を行った。
【0090】
以下の条件で、得られた超薄切片の構造観察を行った。構造観察には、LaB6電子銃を装備した日立ハイテクノロジーズ社製透過型電子顕微鏡(型式:HT7700、3DTEM対応)を用いた。
加速電圧:100kV
LaB6電子線照射量:10μA
電子線のスポットサイズ:1μm
コンデンサー絞り孔径:0.1mm(No.2)
3D用対物可動絞り孔径:0.16mm(No.3)
【0091】
撮影記録用CCDカメラには、AMT社製ボトムマウントカメラ(型式:XR81B、8メガピクセルカメラ)を用い、得られた超薄切片の観察像における粒子の長径、短径の平均値を算出した。粒子20個について同様に平均値を算出し、それら全ての平均値を多層構造重合体粒子の平均一次粒子径とした。
【0092】
(2)多層構造重合体粒子の平均二次粒子径
平均一次粒子径と同様の方法で、多層構造重合体粒子の凝集体の長径、短径の平均値を算出した。凝集体20個について同様に平均値を算出し、その平均値を多層構造重合体粒子の平均二次粒子径とした。
【0093】
(3)燃料バリア性
長さ100mmに切断された二重管の一端をアルミテープ(エフピー化工株式会社製「アルミシール」(ガソリン透過量:0g/m・day)を用いて封止した。当該二重管にモデルガソリンとしてCE10(トルエン45体積%、イソオクタン45体積%、エタノール10体積%)を500ml充填した後、他端をアルミテープで封止した。モデルガソリンが封入された二重管を防爆型恒温恒湿槽(40℃、65%RH)に放置し、7日おきに3ヶ月間、当該二重管の質量を測定した。当該二重管の質量変化から燃料透過量を算出し、以下の基準で二重管の燃料バリア性を評価した。
A:0.01g/day未満
B:0.01g/day以上0.1g/day未満
C:0.1g/day以上
【0094】
(4)扁平強度測定
二重管を長さ100mmに切断した。圧縮機(神藤金属工業所製AYS型卓上用テストプレス)を用いて、二重管を速度30mm/分にて長手方向(燃料が流れる方向)に対して垂直方向から圧縮した。当該二重管の寸法変化率が10%に達したときの圧縮強度を二重管の扁平圧縮強度とし、以下の基準で評価した。
A:1kN/100mm以上
B:0.5kN/100mm以上1kN/100mm未満
C:0.5kN/100mm未満
【0095】
なお、寸法変化率は、変形前(圧縮前)の二重管の外径Dと、変形後の二重管の短径(長手方向に対して垂直方向)dを用いて下記式により求めた。
寸法変化率(%)=(1-d/D)×100
【0096】
(5)変形後の二重管の燃料バリア性
上記「(4)扁平強度測定」と同様にして、寸法変化率が10%になるように二重管を圧縮し、その状態で24時間保持した。圧力を開放して二重管を取り出し、そのガソリン透過量を上記「(3)燃料バリア性」と同様の方法で測定した。変形前後の二重管のガソリン透過量の比(変形後の二重管の燃料透過量/変形前の二重管の燃料透過量)を算出し、以下の基準で変形による二重管の燃料バリア性の変化を評価した。
A:1.3未満
B:1.3以上3未満
C:3以上
【0097】
[EVOH-1の製造]
エチレン単位含有量32モル%、けん化度99.8モル%のEVOH樹脂2kgを、18kgの水/メタノール=40/60(質量比)の混合溶媒に入れ、60℃で6時間攪拌し、完全に溶解させた。この溶液を直径4mmのノズルより、0℃に調整した水/メタノール=90/10(質量比)の凝固浴中に連続的に押出して、ストランド状にEVOHを凝固させた。このストランドをペレタイザーに導入して、多孔質のEVOHチップを得た。
【0098】
得られた多孔質のEVOHチップを酢酸水溶液とイオン交換水を用いて洗浄した後、酢酸、リン酸二水素カリウム、酢酸ナトリウム及びオルトホウ酸を含む水溶液で浸漬処理を行った。処理用の水溶液とEVOHチップを分離して脱液した後、熱風乾燥機に入れて80℃で4時間乾燥を行い、更に100℃で16時間乾燥を行って、乾燥EVOHペレット(EVOH-1)を得た。EVOH-1の酢酸含有量は150ppm、ナトリウムイオン含有量は140ppm、リン酸化合物含有量はリン酸根換算で45ppm、ホウ素化合物の含有量はホウ素換算値で260ppmであった。またEVOH-1のMFR(ASTM-D1238、190℃、2160g荷重)は1.6g/10分であった。
【0099】
[多層構造重合体粒子P-1の製造]
窒素雰囲気下、攪拌翼、冷却管および滴下ロートを装着した重合器に、蒸留水600質量部、乳化剤としてのラウリルザルコシン酸ナトリウム0.168質量部およびステアリン酸ナトリウム2.1質量部を加え、70℃に加熱して均一に溶解させた。次いで、同温度において、アクリル酸ブチル(BA)150質量部および多官能の重合性単量体としてのメタクリル酸アリル0.15質量部を加え、30分間攪拌した後、ペルオキソ二硫酸カリウム0.15質量部を加えて重合を開始した。4時間後、ガスクロマトグラフィーで各単量体がすべて消費されたことを確認した。
【0100】
次いで、得られた共重合体ラテックスにペルオキソ二硫酸カリウム0.3質量部を加えた後、メタクリル酸メチル50質量部及びメタクリル酸グリシジル(GMA)10質量部の混合物を滴下ロートより2時間かけて滴下した。滴下終了後、70℃で、さらに30分間反応を続け、単量体が消費されたことを確認して重合を終了した。得られた共重合体ラテックスの粒子径は0.4μmであった。これを-20℃に24時間冷却して凝集させた後、凝集物を取り出し、80℃の熱水で3回洗浄した。さらに、50℃で2日間減圧乾燥して、多層構造重合体粒子P-1を得た。得られた多層構造重合体粒子P-1は、アクリル酸ブチル(BA)を主成分とする重合体成分(Tg=-39℃)からなる最内層(コア、70質量%)と、メタクリル酸グリシジル(GMA、含有量25モル%)で変性されたポリメタクリル酸メチル(PMMA、Tg=106℃)からなる最外層(シェル、30質量%)とを有する2層構造(コアシェル構造)の重合体粒子(平均一次粒子径0.4μm)であった。
【0101】
[多層構造重合体粒子P-2、P-4、P-5の製造]
アクリル酸ブチルの重合反応時間を調整して重合体粒子の平均一次粒子径を変えた以外は多層構造重合体粒子P-1と同様にして多層構造重合体粒子(P-2:0.8μm、P-4:0.2μm、P-5:4μm)を製造した。
【0102】
[多層構造重合体粒子P-3の製造]
メタクリル酸メチルの代わりにスチレン(St)50質量部を用いた以外は多層構造重合体粒子P-1と同様にして多層構造重合体粒子P-3を製造した。得られた多層構造重合体粒子P-3は、アクリル酸ブチルを主成分とする重合体成分(Tg=-39℃)からなる最内層(コア、70質量%)と、メタクリル酸グリシジル(含有量25モル%)で変性されたポリスチレン(Tg=98℃)からなる最外層(シェル、30質量%)とを有する2層構造(コアシェル構造)の重合体粒子(平均一次粒子径0.4μm)であった。
【0103】
実施例1
EVOH(A)として、EVOH-1を90質量部、エラストマー(B)として、多層構造重合体粒子P-1を10質量部、酸化防止剤(C)として、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナミド]を0.5質量部をスクリュー回転数50rpmでドライブレンドした後、30mmφの同方向二軸押出機(日本製鋼所製「TEX-30N」)を用いて、押出温度200℃で得られた混合物をペレット化して樹脂組成物ペレットを得た。
【0104】
得られた樹脂組成物ペレットを1台目の押出機に、無水マレイン酸変性ポリエチレンを2台目の押出機に、高密度ポリエチレン[密度0.96g/cc、MFR(190℃、2160g荷重下で測定)0.5g/10分]のペレットを3台目の押出機にそれぞれ投入し、3種3層の円形ダイを用いて、外径100mm、厚み6mmの内管用の多層パイプを押出成形し、直後に40℃に調整した冷却水槽を通して冷却して固化させた。得られた多層パイプの層構成は高密度ポリエチレン層(最外層)/無水マレイン酸変性ポリエチレン(接着性樹脂層)/樹脂組成物層(最内層)=5640μm/180μm/180μmであった。
【0105】
別途、上記高密度ポリエチレンのペレットを押出機に入れ、1層の円形ダイを用いて、内径105mm、厚み6mmの外管用の単層パイプを押出成形し、直後に40℃に調整した冷却水槽を通して冷却して固化させた。なお、続く二重管の製造工程において、外側表面に接合ワイヤを巻き付けた内管を外管に挿入できる程度に、外管の内径を内管の外径よりも大きくした。
【0106】
得られた内管用の多層パイプの外側表面に、高密度ポリエチレンで表面がコーティングされた電熱線からなる接合ワイヤをコイル状に巻き付けた後、当該多層パイプを外管用の単層パイプに挿入した。接合ワイヤに電圧を印加することで、内管の外側表面の一部と外管の内側表面の一部とを融着させ、二重管を得た。得られた二重管の評価を行った。結果を表1に示す。
【0107】
実施例2
内管用の多層パイプの層構成を高密度ポリエチレン層(最外層)/無水マレイン酸変性ポリエチレン(接着性樹脂層)/樹脂組成物層(最内層)=6580μm/210μm/210μmに変更したこと及び外管用の単層パイプの厚みを7mmに変更したこと以外は実施例1と同様にして燃料パイプの製造及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0108】
実施例3
内管用の多層パイプの層構成を高密度ポリエチレン層(最外層)/無水マレイン酸変性ポリエチレン(接着性樹脂層)/樹脂組成物層(最内層)=5400μm/300μm/300μmに変更したこと以外は実施例1と同様にして燃料パイプの製造及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0109】
実施例4
内管用の多層パイプの層構成を高密度ポリエチレン層(最外層)/無水マレイン酸変性ポリエチレン(接着性樹脂層)/樹脂組成物層(最内層)=7520μm/240μm/240μmに変更したこと及び外管用の単層パイプの厚みを4mmに変更したこと以外は実施例1と同様にして燃料パイプの製造及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0110】
実施例5
内管用の多層パイプの層構成を高密度ポリエチレン層(最外層)/無水マレイン酸変性ポリエチレン(接着性樹脂層)/樹脂組成物層(最内層)=4700μm/150μm/150μmに変更したこと及び外管用の単層パイプの厚みを7mmに変更したこと以外は実施例1と同様にして燃料パイプの製造及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0111】
実施例6
エラストマー(B)として多層構造重合体粒子P-2を用いたこと及びスクリュー回転数100rpmでドライブレンドした以外は実施例1と同様にして燃料パイプの製造及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0112】
実施例7
スクリュー回転数150rpmでドライブレンドした以外は実施例1と同様にして燃料パイプの製造及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0113】
実施例8
スクリュー回転数25rpmでドライブレンドした以外は実施例1と同様にして燃料パイプの製造及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0114】
実施例9
エラストマー(B)として多層構造重合体粒子P-3を用いたこと以外は実施例1と同様にして燃料パイプの製造及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0115】
実施例10
EVOH(A)の含有量を70質量部、多層構造重合体粒子の含有量を30質量部にそれぞれ変更した以外は実施例1と同様にして燃料パイプの製造及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0116】
実施例11、12
EVOH(A)として用いるEVOHのエチレン含有量を表1に示されるとおり(実施例11:EVOH-2、実施例12:EVOH-3)に変更した以外は実施例1と同様にして燃料パイプの製造及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0117】
実施例13、14
エラストマー(B)として、多層構造重合体粒子P-4(実施例13)又は多層構造重合体粒子P-5(実施例14)を用いた以外は実施例1と同様にして燃料パイプの製造及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0118】
実施例15
内管用の多層パイプの層構成を、樹脂組成物層(最外層)/無水マレイン酸変性ポリエチレン(接着性樹脂層)/高密度ポリエチレン層(最内層)=180μm/180μm/5640μmに変更した以外は実施例1と同様にして燃料パイプの製造及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0119】
実施例16~18
多層構造重合体粒子P-1の代わりに、無水マレイン酸変性エチレン-ブテン共重合体(EB、三井化学株式会社製「Tafmer MH7020」:実施例16)、ポリウレタン(TPU、BASF社製「ET890」:実施例17)又は無水マレイン酸変性スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS、旭化成株式会社製「Tuftec M1943」:実施例18)を用いた以外は実施例1と同様にして燃料パイプの製造及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0120】
比較例1
内管用の多層パイプの層構成を高密度ポリエチレン層(最外層)/無水マレイン酸変性ポリエチレン(接着性樹脂層)/樹脂組成物層(最内層)=2820μm/90μm/90μmに変更したこと及び外管用の単層パイプの厚みを3mmに変更したこと以外は実施例1と同様にして燃料パイプの製造及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0121】
比較例2
外管用の単層パイプの厚みを0.48mmに変更した以外は実施例1と同様にして燃料パイプの製造及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0122】
比較例3
内管用の多層パイプの層構成を高密度ポリエチレン層(最外層)/無水マレイン酸変性ポリエチレン(接着性樹脂層)/樹脂組成物層(最内層)=940μm/30μm/30μmに変更した以外は実施例1と同様にして燃料パイプの製造及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0123】
比較例4
内管用の多層パイプの層構成を高密度ポリエチレン層(最外層)/無水マレイン酸変性ポリエチレン(接着性樹脂層)/樹脂組成物層(最内層)=5880μm/60μm/60μmに変更した以外は実施例1と同様にして燃料パイプの製造及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0124】
比較例5
実施例1と同様にして内管用の多層パイプを製造して、外管で覆うことなくその評価を行った。結果を表2に示す。
【0125】
比較例6
厚み12mmとした以外は実施例1と同様にして内管用の多層パイプを製造して、外管で覆うことなくその評価を行った。結果を表2に示す。
【0126】
比較例7
多層構造重合体粒子を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして燃料パイプの製造及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0127】
比較例8、9
多層構造重合体粒子を添加しなかったこと及びEVOH(A)として用いるEVOHのエチレン含有量を表2に示されるとおりに変更した以外は実施例1と同様にして燃料パイプの製造及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0128】
比較例10
多層構造重合体粒子を添加しなかったこと及びEVOH(A)の代わりにナイロン-6(PA6、BASF社製「ULTRAMID A3K」)を用いた以外は実施例1と同様にして燃料パイプの製造及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0129】
【表1】
【0130】
【表2】