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特許7566726樹脂組成物、硬化成形物、繊維強化プラスチック成形用材料、繊維強化プラスチック、繊維強化プラスチック積層成形体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】樹脂組成物、硬化成形物、繊維強化プラスチック成形用材料、繊維強化プラスチック、繊維強化プラスチック積層成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/10 20060101AFI20241007BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20241007BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20241007BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
C08L71/10
C08L63/00 A
C08L69/00
C08J5/04 CEZ
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021509500
(86)(22)【出願日】2020-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2020013322
(87)【国際公開番号】W WO2020196617
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2019057952
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019066082
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 惠子
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 浩之
(72)【発明者】
【氏名】椋代 純
(72)【発明者】
【氏名】安藤 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】藤野 健一
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-070065(JP,A)
【文献】特開2006-104329(JP,A)
【文献】特開平05-302025(JP,A)
【文献】特開2015-081333(JP,A)
【文献】国際公開第2018/124215(WO,A1)
【文献】特開2000-177256(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0220036(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00-71/14
C08L 63/00-63/10
C08J 5/04、5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の樹脂と、前記第1の樹脂とは異なる第2の樹脂とを含有する熱架橋による硬化性を示す樹脂組成物であって、
前記第1の樹脂が、ポリヒドロキシポリエーテルであって、重量平均分子量が4,000以上10,000未満の2官能型のエポキシ樹脂、及び、重量平均分子量が10,000以上200,000以下のフェノキシ樹脂よりなる群から選ばれる1種以上であり、
前記第2の樹脂が、ポリカーボネート樹脂であり、
前記第1の樹脂と前記第2の樹脂との含有比率(第1の樹脂:第2の樹脂)が重量比で9:1~3:7の範囲内であり、280℃~320℃の範囲内の温度で不可逆的に架橋硬化することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記第1の樹脂と前記第2の樹脂が、いずれも分子内にビスフェノール骨格を有する請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂組成物を熱架橋させた硬化物の動的粘弾性測定(DMA)により測定されるガラス転位点温度(Tg)が100℃以上であり、かつ、前記硬化物が融点(Tm)を持たない請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂組成物を熱架橋させた硬化物の動的粘弾性測定(DMA)における25℃から300℃の範囲内の温度での測定後のプローブの変位量が、測定前を基準にして-1mm未満である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の樹脂組成物の硬化物を含む硬化成形物。
【請求項6】
強化繊維基材と、該強化繊維基材に付着した、請求項1に記載の樹脂組成物の粉末と、を有する繊維強化プラスチック成形用材料。
【請求項7】
強化繊維基材と、該強化繊維基材に付着した、請求項1に記載の樹脂組成物の硬化物と、を有する繊維強化プラスチック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、この樹脂組成物を利用した硬化成形物、繊維強化プラスチック成形用材料、繊維強化プラスチック、繊維強化プラスチック積層成形体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)に代表される繊維強化プラスチック(FRP)は、軽量かつ高強度の材料として自転車やテニスラケットなどのスポーツ用品から、自動車や鉄道車両、航空機などの各種部材にまで幅広く用いられている。
【0003】
熱可塑性樹脂であるフェノキシ樹脂は、良成形性を備え、接着性に優れるとともに、架橋剤を使用することよって高耐熱性の熱硬化性樹脂と同様の性質を発現させることが可能な樹脂である。フェノキシ樹脂を利用する技術として、例えば、フェノキシ樹脂、又はフェノキシ樹脂に結晶性エポキシ樹脂と架橋剤としての酸無水物を配合した樹脂組成物の粉体を、粉体塗装法により強化繊維基材に塗工してプリプレグを作製し、これを熱プレスにて成形硬化して繊維強化プラスチック(FRP)を製造することが提案されている(特許文献1)。
【0004】
一方、熱可塑性樹脂であるポリカーボネート樹脂は、機械的強度、耐熱性等に優れた樹脂であり、各種の電気・電子機器、自動車など工業的用途に広く利用されている。また、ガラス繊維によって強化されたポリカーボネート樹脂は、強度・剛性に優れるため、各種の電気・電子機器などの筐体に利用されている。
【0005】
FRPの機械的強度などの性能を改善することを目的として、例えば、ポリカーボネート樹脂に少量のフェノキシ樹脂またはエポキシ樹脂から選ばれた1種以上のヒドロキシ基含有重合体を混合する提案(特許文献2)がされている。また、ポリアリールエーテルスルホン、ポリアリールエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルイミドなどの芳香族重縮合ポリマーに少量のフェノキシ樹脂を混合する提案(特許文献3)がなされている。
ただし、特許文献2では、樹脂成分におけるヒドロキシ基含有重合体の比率が50重量%を超えると十分な機械的強度が得られなくなる、とされている。また、特許文献3では、フェノキシ樹脂の濃度が繊維も含む総組成物重量の約30重量%以下とされており、上記特許文献2よりもさらに少量である。また、特許文献3には、ポリカーボネート樹脂にフェノキシ樹脂を添加した実施例などの具体的開示はない。
【0006】
ところで、近年はCFRPに耐衝撃性やリサイクル性などを付与するため、熱可塑性樹脂の利用が積極的に検討されている。例えば、単純にマトリックス樹脂を熱可塑性樹脂に置き換えるだけで無く、エポキシ樹脂マトリックスに熱可塑性樹脂の微粒子を配合することや、CFRPの中間層に熱可塑性樹脂フィルムを配置すること(特許文献4)が提案されている。
【0007】
また、熱可塑性樹脂を使用したCFRPの最外層に接着層としてフェノキシ樹脂を含む層を配置すること(特許文献5)や、2種類の異なる熱可塑性樹脂を短繊維の強化繊維からなるマット状の基材のそれぞれの面に配置したCFRP成形用材料(特許文献6)なども提案されている。
【0008】
これらの特許文献4~6において好適に使用される樹脂として記載されるポリカーボネート樹脂は、熱可塑性樹脂の中でも特に耐衝撃性に優れていることが特徴であるが、他の樹脂との接着性がやや劣るという欠点がある。このため、構造部材に使用される用途においては、外部からの応力によって剥離が発生して構造体としての強度が大きく低下する恐れがあり、用途や適用箇所が制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開WO2016/152856号
【文献】特許第2968388号公報
【文献】特表2005-536597号公報
【文献】特許6278286号公報
【文献】WO2018/124215
【文献】特許5626330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、優れた耐熱性と機械的強度を有し、例えばFRPなどの材料として有用な新規な樹脂組成物及びその用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の樹脂組成物は、第1の樹脂と、前記第1の樹脂とは異なる第2の樹脂とを含有する熱架橋による硬化性を示す樹脂組成物である。
本発明の樹脂組成物は、前記第1の樹脂が、重量平均分子量が4,000以上である2官能型のエポキシ樹脂、及び、フェノキシ樹脂よりなる群から選ばれる1種以上であり、前記第2の樹脂が、ポリカーボネート樹脂である。
【0012】
本発明の樹脂組成物は、前記第1の樹脂と前記第2の樹脂との含有比率(第1の樹脂:第2の樹脂)が重量比で9:1~3:7の範囲内であってもよい。
【0013】
本発明の樹脂組成物は、前記第1の樹脂と前記第2の樹脂が、いずれも分子内にビスフェノール骨格を有するものであってよい。
【0014】
本発明の樹脂組成物は、前記樹脂組成物を熱架橋させた硬化物の動的粘弾性測定(DMA)により測定されるガラス転位点温度(Tg)が100℃以上であってもよく、かつ、前記硬化物が融点(Tm)を持たなくてもよい。
【0015】
本発明の樹脂組成物は、前記樹脂組成物を熱架橋させた硬化物の動的粘弾性測定(DMA)における25℃から300℃の範囲内の温度での測定後のプローブの変位量が、測定前を基準にして-1mm未満であってもよい。
【0016】
本発明の硬化成形物は、上記いずれかに記載の樹脂組成物の硬化物を含むものである。
【0017】
本発明の繊維強化プラスチック成形用材料は、強化繊維基材と、該強化繊維基材に付着した、上記いずれかの樹脂組成物の粉末と、を有するものである。
【0018】
本発明の繊維強化プラスチックは、強化繊維基材と、該強化繊維基材に付着した、上記いずれかの樹脂組成物の硬化物と、を有するものである。
【0019】
また、本発明の繊維強化プラスチック積層成形体は、フェノキシ樹脂及びポリカーボネート樹脂と、強化繊維と、を含有し、複数層からなる繊維強化プラスチック積層成形体である。本発明の繊維強化プラスチック積層成形体は、前記フェノキシ樹脂を含有する層と、前記ポリカーボネート樹脂を含有する層とが両者の積層界面において架橋反応により接合されている層間接合部位を1以上含むことを特徴とする。
【0020】
本発明の繊維強化プラスチック積層成形体は、前記フェノキシ樹脂を含有する層と前記ポリカーボネート樹脂を含有する層とが交互に積層されていてもよい。
【0021】
本発明の繊維強化プラスチック積層成形体において、前記架橋反応により接合されている層間接合部位は、ILSS法により測定される層間せん断強度が40MPa以上であってもよい。
【0022】
本発明の繊維強化プラスチック積層成形体は、前記強化繊維が、炭素繊維、ガラス繊維、セラミックス系繊維、金属繊維、及び、有機繊維から選ばれる少なくとも1種以上から選択される連続繊維であってもよい。
【0023】
本発明の第1の観点に係る繊維強化プラスチック積層成形体の製造方法は、上記いずれかの繊維強化プラスチック積層成形体を製造する方法であって、
フェノキシ樹脂をマトリックス樹脂として有する繊維強化プラスチック成形用材料と、ポリカーボネート樹脂をマトリックス樹脂として有する繊維強化プラスチック成形用材料とを積層し、260℃以上の温度で成形加工を行うことを特徴とする。
【0024】
本発明の第2の観点にかかる繊維強化プラスチック積層成形体の製造方法は、上記いずれかの繊維強化プラスチック積層成形体を製造する方法であって、
強化繊維基材の片方の面がフェノキシ樹脂で被覆されており、もう片方の面がポリカーボネート樹脂で被覆されている繊維強化プラスチック成形用材料を複数準備する工程と、
複数の前記繊維強化プラスチック成形用材料を、フェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂とが接する積層境界を含むように積層し、260℃以上の温度で成形加工を行う工程と、
を含むことを特徴とする。
【0025】
本発明の第2の観点に係る繊維強化プラスチック積層成形体の製造方法において、複数の前記繊維強化プラスチック成形用材料の間に、フェノキシ樹脂をマトリックス樹脂として有する繊維強化プラスチック成形用材料及び/又はポリカーボネート樹脂をマトリックス樹脂として有する繊維強化プラスチック成形用材料を介在させて積層してもよい。
【0026】
本発明の第2の観点に係る繊維強化プラスチック積層成形体の製造方法において、複数の前記繊維強化プラスチック成形用材料の間に、フェノキシ樹脂フィルム及び/又はポリカーボネート樹脂フィルムを介在させて積層してもよい。
【0027】
本発明の第3の観点にかかる繊維強化プラスチック積層成形体の製造方法は、上記いずれかの繊維強化プラスチック積層成形体を製造する方法であって、
フェノキシ樹脂をマトリックス樹脂として有する繊維強化プラスチック成形用材料と、ポリカーボネート樹脂フィルムとを積層し、260℃以上の温度で成形加工を行うことを特徴とする。
【0028】
本発明の第4の観点にかかる繊維強化プラスチック積層成形体の製造方法は、上記いずれかの繊維強化プラスチック積層成形体を製造する方法であって、
ポリカーボネート樹脂をマトリックス樹脂として有する繊維強化プラスチック成形用材料と、フェノキシ樹脂フィルムとを積層し、260℃以上の温度で成形加工を行うことを特徴とする。
【0029】
本発明の繊維強化プラスチック成形用材料は、強化繊維基材と、前記強化繊維基材の片方の面に形成されているフェノキシ樹脂の被覆層と、前記強化繊維基材のもう片方の面に形成されているポリカーボネート樹脂の被覆層と、を備えている。
【0030】
本発明の繊維強化プラスチック成形用材料は、前記強化繊維基材が、連続繊維からなる織布または連続繊維を一方向に引きそろえたUD材であってもよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明の樹脂組成物によれば、優れた耐熱性と機械的強度を有する樹脂材料を提供することが可能となる。そのため、本発明の樹脂組成物は、耐熱性や強度が要求される各種の樹脂成形体や、FRPなどの複合材料の製造に好ましく利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の一実施の形態に係るFRP積層成形体の製造方法の概略を説明する図面である。
図2】本発明の他の実施の形態に係るFRP積層成形体の製造方法の概略を説明する図面である。
図3】本発明の別の実施の形態に係るFRP積層成形体の製造方法の概略を説明する図面である。
図4】本発明のさらに別の実施の形態に係るFRP積層成形体の製造方法の概略を説明する図面である。
図5】実施例及び比較例で得た樹脂組成物の粘度の測定結果を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0034】
[樹脂組成物]
本実施の形態の樹脂組成物は、第1の樹脂と、第1の樹脂とは異なる第2の樹脂とを含有する熱架橋による硬化性を示す樹脂組成物である。
第1の樹脂は、重量平均分子量が4,000以上である2官能型のエポキシ樹脂(以下、「2官能型エポキシ樹脂」と記すことがある)、及び、フェノキシ樹脂から選ばれる1種以上である。第2の樹脂は、ポリカーボネート樹脂である。
本実施の形態の樹脂組成物は、第1の樹脂と第2の樹脂のいずれか一方又は両方を主成分とする。ここで、「主成分」とは、樹脂成分の中で最も多く含まれている成分を意味する。本実施の形態の樹脂組成物は、発明の効果を発現するため、樹脂成分の合計100重量部に対し、第1の樹脂と第2の樹脂の合計量が、50重量部以上であることが好ましく、80重量部以上100重量部以下であることがより好ましい。なお、「樹脂成分」には、2官能型エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂及びポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂が含まれるが、架橋剤などの非樹脂成分は含まれない。
【0035】
<2官能型エポキシ樹脂>
第1の樹脂としての重量平均分子量が4,000以上である2官能型エポキシ樹脂とは、より具体的には重量平均分子量(Mw)が4,000以上10,000未満の範囲内にある直鎖状の高分子量体であるエポキシ樹脂であって、分子鎖の両末端にエポキシ基を有するエポキシ樹脂を意味する。Mwが4,000未満のエポキシ樹脂は、軟化点が低くなるために、ブロッキングしやすくなり、混練時の作業性や樹脂組成物としての取扱いが難しくなるので適さない。また、Mwが10,000以上の2官能型エポキシ樹脂は、後述するフェノキシ樹脂と呼称される熱可塑性樹脂として一般的には取り扱われる。
なお、Mwはゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した値を示す。
【0036】
第1の樹脂としての2官能型エポキシ樹脂は、先に説明したように重量平均分子量が4,000以上である直鎖状の2官能型のエポキシ樹脂であれば、従来公知のものを特に制限なく使用することができるが、軟化点が90℃以上でビスフェノール骨格を有する2官能型エポキシ樹脂であることが好ましい。さらに、2官能型エポキシ樹脂の軟化点は100℃以上であることが好ましく、110℃以上であることがより好ましい。
このようなビスフェノール骨格を有する2官能型エポキシ樹脂とは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製エポトートYD-014、YD-017、YD-019、三菱ケミカル株式会社製JER1010等)、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製エポトートYDF-2005RL等、三菱ケミカル株式会社製JER4007P、JER4009P等)、ビスフェノールスルフィドタイプエポキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製YSLV-120TE等)等が例示されるが、これらに限定されるものではなく、また、これらは2種類以上混合して使用しても良い。
【0037】
なお、第1の樹脂として好適な高分子量体である2官能型エポキシ樹脂とフェノキシ樹脂はその化学的構造はほぼ同様ではあるものの、以下の点で区別される。
(1)フェノキシ樹脂は、Mwが10,000以上(より一般的にはMwは40,000以上)であるのに対し、エポキシ樹脂は、Mwが10,000未満(より一般的にはMwは4,000~6,000程度)である。
(2)高分子量体の2官能型エポキシ樹脂は、その1グラム当量のエポキシ基を含むグラム数であるエポキシ当量が700~5,000g/eqであるのに対して、フェノキシ樹脂は6,000g/eq以上である。
(3)フェノキシ樹脂は、その大きなMwから熱可塑性樹脂としての性質が強く、通常、硬化剤を必要とせずに使用されることに対し、高分子量体の2官能型エポキシ樹脂は、通常の使用態様において硬化剤を必要とする。ただし、2官能型エポキシ樹脂を本実施の形態の樹脂組成物に用いる場合は、硬化剤は使用しない。
【0038】
<フェノキシ樹脂>
第1の樹脂としてのフェノキシ樹脂は、2価フェノール化合物とエピハロヒドリンとの縮合反応、あるいは2価フェノール化合物と2官能エポキシ樹脂との重付加反応から得られる熱可塑性のポリヒドロキシポリエーテル樹脂であり、溶媒中あるいは無溶媒下に従来公知の方法で得ることができる。
【0039】
本発明において好ましく使用されるフェノキシ樹脂は、常温において固形であり、200℃以上の温度における溶融粘度が3,000Pa・s以下となるものが好ましく、より好ましくは2,000Pa・s以下であり、さらに好ましくは1,500Pa・s以下であり、最も好ましくは1000Pa・s以下である。溶融粘度が3,000Pa・sを超えると、成形加工時の樹脂の流動性が低下し、樹脂が十分行き渡らずにボイドの原因となるため好ましくない。
【0040】
フェノキシ樹脂の製造に用いる2価フェノール化合物としては、例えばヒドロキノン、レゾルシン、4,4-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルケトン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)プロパン、1、3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)プロピル)ベンゼン、1、4-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)プロピル)ベンゼン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,1、1-3、3、3-ヘキサフルオロプロパン、9,9’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン等を挙げることができる。
これらの中でも、特に4,4-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルケトン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、又は9,9’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンが好ましい。
【0041】
また、フェノキシ樹脂の製造に用いる2官能エポキシ樹脂類としては、上記の2価フェノール化合物とエピハロヒドリンとの縮合反応で得られるエポキシオリゴマー、例えば、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、メチルハイドロキノンジグリシジルエーテル、クロロハイドロキノンジグリシジルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルオキシドジグリシジルエーテル、2,6-ジヒドロキシナフタレンジグリシジルエーテル、ジクロロビスフェノールAジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂、9,9’-ビス(4)-ヒドロキシフェニル)フルオレンジグリシジルエーテル等を挙げることができる。
これらの中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂、又は9,9’-ビス(4)-ヒドロキシフェニル)フルオレンジグリシジルエーテルが好ましい。
【0042】
フェノキシ樹脂の製造は、無溶媒下または反応溶媒の存在下に行うことができる。反応溶媒としては、非プロトン性有機溶媒、例えば、メチルエチルケトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトフェノン、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、スルホランなどを好適に用いることができる。また、溶媒反応で得られたフェノキシ樹脂は、脱溶媒処理をすることにより、溶媒を含まない固形状の樹脂とすることができる。また、フェノキシ樹脂の製造には、反応触媒として、従来公知の重合触媒であるアルカリ金属水酸化物、第三アミン化合物、第四アンモニウム化合物、第三ホスフィン化合物、第四ホスホニウム化合物などを好適に使用することができる。
【0043】
フェノキシ樹脂の平均分子量は、重量平均分子量(Mw)として、通常10,000~200,000であるが、好ましくは、20,000~100,000であり、より好ましくは30,000~100,000であり、最も好ましくは40,000~80,000である。フェノキシ樹脂のMwが低すぎると成形体の強度が劣り、高すぎると作業性や加工性に劣るものとなり易い。なお、Mwはゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した値を示す。
【0044】
フェノキシ樹脂の水酸基当量(g/eq)は、通常1000以下であるが、好ましくは750以下であり、特に好ましくは500以下である。より具体的には、フェノキシ樹脂の水酸基当量(g/eq)は、通常50~1,000であるが、好ましくは100~750であり、特に好ましくは200~500である。水酸基当量が低すぎると水酸基が増えることで吸水率が上がるため、機械的物性が低下する懸念がある。水酸基当量が高すぎると架橋密度が不足して硬化物の耐熱性が低下する懸念があるため好ましくない。また、水酸基当量が高すぎると水酸基が少ないので、強化繊維基材、特に炭素繊維との濡れ性が低下するため、炭素繊維強化時に十分な補強効果が望めない。ここで、本明細書でいう水酸基当量は、2級水酸基当量を意味する。なお、フェノキシ樹脂の高分子鎖末端官能基については、エポキシ基もしくは水酸基のいずれか又はその両方を有していても構わない。
【0045】
フェノキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)は、65℃以上200℃以下のものが適しており、好ましくは180℃以下であり、より好ましくは65℃~180℃の範囲内である。フェノキシ樹脂のTgが200℃よりも高いと、溶融粘度が高くなり、本実施の形態の樹脂組成物を、例えばFRPに応用する場合に強化繊維基材にボイドなどの欠陥なく含浸させることが難しくなる。また、Tgが200℃を超えるようであると成形加工の際の樹脂の流動性が低くなり、より高温での加工が必要となるためあまり好ましくない。一方、Tgの下限値については加工性に問題がなければ特に制限はないが、およそ65℃程度であれば何ら問題ない。ガラス転移温度が65℃よりも低いと成形性は良くなるが、引張弾性率保持率や寸歩変化率保持率が低下する恐れがある。
なお、フェノキシ樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量測定装置を用い、10℃/分の昇温条件で、20~280℃の範囲で測定し、セカンドスキャンのピーク値より求められる数値である。
【0046】
フェノキシ樹脂としては、市販のものを使用可能であり、例えば、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製フェノトートYP-50、フェノトートYP-50S、フェノトートYP-55U)、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製フェノトートFX-316)、ビスフェノールAとビスフェノールFの共重合型フェノキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製YP-70)、前記以外の臭素化フェノキシ樹脂やリン含有フェノキシ樹脂、スルホン基含有フェノキシ樹脂などの特殊フェノキシ樹脂(例えば日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製フェノトートYPB-43C、フェノトートFX293、YPS-007等)等を挙げることができる。これらは、単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0047】
<ポリカーボネート樹脂>
第2の樹脂としてのポリカーボネート樹脂は、例えば、2価フェノール、又は2価フェノールと少量のポリヒドロキシ化合物をカーボネート前駆体と反応させることによって得られる。
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のホスゲン法(界面重合法)や溶融法(エステル交換法)により製造したものを使用することができる。
【0048】
ポリカーボネート樹脂の中でも、2官能型エポキシ樹脂若しくはフェノキシ樹脂との相溶性を考慮すると、芳香族ジヒドロキシ化合物を原料として得られる芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-第三ブチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホキシド、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパンなどが挙げられる。これらは単独または2種類以上混合して使用することができる。
【0049】
また、カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、カルボニルエステルまたはハロホルメート等が挙げられ、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネート、2価フェノールのジハロホルメート及びそれらの混合物である。ポリカーボネート樹脂を製造するに当たり、適当な分子量調節剤や反応を促進するための触媒等も使用できる。かくして得られた芳香族ポリカーボネート樹脂の2種以上を混合しても差し支えない。
【0050】
ポリカーボネート樹脂は直鎖状であっても、分岐があっても構わない。分岐したポリカーボネート樹脂を得るには、上述した2価フェノールの一部を、例えば以下の分岐剤、即ち、フロログルシン、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ(4-ヒドロキシフェニル)ヘプテン-2、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6-ジメチル-2,4,6-トリ(4-ヒドロキシフェニルヘプテン-3、1,3,5-トリ(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1-トリ(4-ヒドロキシフェニル)エタン等のポリヒドロキシ化合物や、3,3-ビス(4-ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5-クロルイサチン、5,7-ジクロルイサチン、5-ブロムイサチン等の化合物で置換すればよい。これら置換する化合物の使用量は、2価フェノールに対して、通常0.01~10モル%であり、好ましくは0.1~2モル%である。
【0051】
ポリカーボネート樹脂としては、上述した中でも、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導されるポリカーボネート樹脂、又は、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンと他のジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体が好ましい。また、シロキサン構造を有するポリマー又はオリゴマーとの共重合体等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体であってもよい。
【0052】
ポリカーボネート樹脂を得るのに溶融法を用いると高分子鎖末端のOH基量を調整することができるが、ポリカーボネート樹脂の末端構造は本発明においては特に限定されるものではない。このため、末端基はそのままであっても良いし、末端封止剤により封止されていても良く、封止が片末端もしくは両末端封止であっても良い。
【0053】
ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)は、特に制限はなく、成形体の機械的強度の確保の観点から、10,000~250,000の範囲内であることが好ましく、15,000~200,000の範囲内がより好ましく、15,000~100,000の範囲内が最も好ましい。ポリカーボネート樹脂のMwが低すぎると、成形体の機械的物性や耐熱性が劣るものとなる恐れがあり、高すぎると作業性や加工性に劣るものとなり易い。Mwが10,000未満であると成形体の強度が劣り、高すぎると作業性や加工性に劣るものとなりやすい。なお、Mwはゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した値を示す。
【0054】
本発明において好ましく使用されるポリカーボネート樹脂は、常温において固形であり、260℃以上の温度、例えば280℃における溶融粘度が3,000Pa・s以下であることが好ましく、より好ましくは2,000Pa・s以下であり、さらに好ましくは1,500Pa・s以下である。溶融粘度が3,000Pa・sを超えると、成形加工時の樹脂の流動性が低下し、樹脂が十分行き渡らずにボイドの原因となったり、含浸性が不十分となったりして、外観や機械的強度が不充分なものとなるため好ましくない。溶融粘度の下限は100Pa・sより高いことが好ましく、300Pa・s以上がより好ましく、500Pa・s以上が最も好ましい。溶融粘度が100Pa.s以下である場合は、マトリックス樹脂が脆くなるため曲げ特性等の機械的強度を充分に得ることができない場合がある。
【0055】
ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg)は、200℃以下であれば良く、140℃~170℃の範囲内が好ましく、145℃~165℃の範囲内がさらに好ましい。ポリカーボネート樹脂のTgが200℃よりも高いと、溶融粘度が高くなり、本実施の形態の樹脂組成物を、例えばFRPに応用する場合に強化繊維基材にボイドなどの欠陥なく含浸させることが難しくなる。一方、Tgの下限値については加工性に問題が生じなければ特に制限はないが、およそ140℃以上であれば良いと思われる。
また、ポリカーボネート樹脂の融点(Tm)に関しては、あまり明瞭なTmを示さないものの200~300℃の範囲内が良く、好ましくは220~280℃であり、より好ましくは240~260℃である。融点が200℃未満であると、例えばFRPに応用する場合に強化繊維基材への含浸が不十分な状態で架橋反応が開始してしまう恐れがあり、300℃を超えると加工に際してより高温仕様の成形機が必要となる。
【0056】
<組成比>
樹脂組成物は、第1の樹脂と前記第2の樹脂との含有比率(第1の樹脂:第2の樹脂)が重量比で9:1~3:7の範囲内であることが好ましい。この組成比の範囲内であれば、樹脂組成物を熱架橋により硬化させた硬化物において、優れた耐熱性と機械的特性が奏される。かかる観点から、含有比率(第1の樹脂:第2の樹脂)は、より好ましくは9:1~4:6の範囲内であり、さらに好ましくは8:2~4:6の範囲内であり、最も好ましくは8:2~5:5の範囲内である。含有比率(第1の樹脂:第2の樹脂)が3:7を外れて第1の樹脂が少ないか、もしくは9:1を外れて第2の樹脂が少ないと、第1の樹脂と第2の樹脂の架橋硬化物の架橋密度が低下するために耐熱性や機械的強度の大きな向上効果が得られない。
【0057】
上記第1の樹脂と第2の樹脂の特に好ましい組み合わせとして、第1の樹脂と第2の樹脂が、いずれも分子内にビスフェノール骨格を有するものどうしの組み合わせがよい。第1の樹脂と第2の樹脂が、いずれも分子内にビスフェノール骨格を有することによって、相溶性が高まり、均一な硬化物が得られやすくなる。
【0058】
<任意成分>
本実施の形態の樹脂組成物は、発明の効果を損なわない範囲で、2官能型エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂及びポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を、任意成分として含むことができる。
【0059】
任意成分の熱可塑性樹脂としては、結晶性、非結晶性などその性状は特に限定されないが、例えば、ポリオレフィンおよびその酸変性物、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、AS樹脂、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等の熱可塑性芳香族ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテルおよびその変性物、ポリフェニレンスルフィド、ポリオキシメチレン、ポリアリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン等の1種以上を使用することができる。
また、任意成分の熱硬化性樹脂としては、例えば、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂等から選ばれる1種以上を好ましく使用することができる。
【0060】
ただし、樹脂組成物は、その硬化物に優れた耐熱性と機械的強度を付与する必要から、樹脂成分の合計量100重量部に対し、任意成分としての他の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の合計量を、50重量部未満とすることが好ましく、0~20重量部以下とすることがより好ましい。任意成分としての樹脂の合計量が50重量部以上になると、発明の効果が損なわれることがある。
【0061】
また、本実施の形態の樹脂組成物は、発明の効果を損なわない範囲で、任意成分として、例えば、有機溶媒、架橋剤、無機フィラー、体質顔料、着色剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、難燃剤、難燃助剤等を含有してもよい。
【0062】
<樹脂組成物の形態>
本実施の形態の樹脂組成物は、固形、粉粒状のほか、適宜の溶媒を使用して液状とするなどの任意の形態をとることができる。第1の樹脂及び第2の樹脂を溶解可能な溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、アセトン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0063】
樹脂組成物は、260℃未満の温度域における溶融粘度が3000Pa・s以下である。260℃未満の温度域における溶融粘度が3000Pa・sを超えると、樹脂組成物の流動性が低下し、加工後のボイドの原因となるため好ましくない。
【0064】
また、樹脂組成物は、260℃以上、好ましくは280℃以上の温度域における溶融粘度が8,000Pa・s以上、好ましくは10,000~1,000,000Pa・s、より好ましくは20,000~1,000,000Pa・sの範囲内である。樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂の融点(約250℃)を10~20℃超えた温度から増粘が始まり、260℃以上の温度で粘度が急激に上昇し、10,000Pa・sの範囲内に到達する。
なお、成形加工上の観点から、樹脂組成物の溶融粘度の上昇は、例えば温度が280℃のとき、30分以内で10,000Pa・s以上に達することが好ましく、20分以内で10,000Pa・s以上に達することがより好ましい。
このように、樹脂組成物は、熱架橋により熱硬化性樹脂のような挙動を示し、260℃以上の温度域で硬化して硬化物を形成する。つまり、樹脂組成物を構成する第1の樹脂及び第2の樹脂は、いずれも熱可塑性樹脂であるにもかかわらず、樹脂組成物を260℃以上、例えば280~320℃、好ましくは280~300℃の範囲内の温度に加熱することによって、不可逆的に硬化し、その後はほぼ不融となるという特徴的な挙動を示す。この場合の硬化機構は、未だ明らかではないが、2官能型エポキシ樹脂中若しくはフェノキシ樹脂中に含まれる主に2級水酸基と、ポリカーボネート樹脂中に含まれるエステル基によってエステル交換反応が生じ、2官能型エポキシ樹脂鎖若しくはフェノキシ樹脂鎖と、ポリカーボネート樹脂鎖の間に架橋を形成して3次元ネットワーク構造をとるために硬化するものと推測される。
【0065】
<樹脂組成物の調製>
本実施の形態の樹脂組成物は、第1の樹脂と第2の樹脂、さらに必要に応じて任意成分を混合状態とすることによって容易に調製することが可能である。混合方法としては、特に限定はされないが、例えば、第1の樹脂と第2の樹脂を粉粒状態で混合(ドライブレンド)する方法や、第1の樹脂と第2の樹脂を加熱溶融しながら混合する方法、第1の樹脂と第2の樹脂を溶媒に溶解して混合する方法などを挙げることができる。
また、各成分の混合に際しては、例えば、各種ブレンダーやミキサー、ドライミル、一軸若しくは二軸のルーダー、ニーダーなどを混合形態に応じて適宜選択して使用することができる。なお、加熱溶融しながら混練を行う場合、後述する硬化物が形成されない温度で実施することが好ましい。第1の樹脂と第2の樹脂を混練しながら温度を上げていくと、ポリカーボネート樹脂の融点(約250℃)を10~20℃越えた温度より増粘が始まるので、樹脂組成物調製のために行う混練(未硬化状態での混練)の温度は、例えば240℃以下が好ましく、200~240℃の範囲内とすることがより好ましい。
【0066】
[硬化物及び硬化成形物]
本実施の形態の硬化物は、上記樹脂組成物を熱架橋により硬化させたものである。本実施の形態の硬化物は、樹脂組成物を260℃以上、好ましくは280℃以上の温度で熱処理することによって得られる。熱処理に際しては、樹脂組成物に対して、例えば、圧縮成形や、一軸若しくは二軸のルーダー、ニーダーなどを使用した射出成形や押出成形などによリ、所望の形状に賦形することもできる。
なお、樹脂組成物は架橋反応により硬化して流動性がなくなるので、溶融から成形までの時間は、例えば280℃到達後20分間以内、好ましくは10分間以内である。
【0067】
本実施の形態の硬化物は、動的粘弾性測定(DMA)により測定されたガラス転位点温度(Tg)が100℃以上である。例えば、硬化物のDMAにおいては、2官能型エポキシ樹脂若しくはフェノキシ樹脂(第1の樹脂)がポリカーボネート樹脂(第2の樹脂)よりも配合量が多い(フェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂の含有比率が8:2もしくは9:1)場合、第1の樹脂のTg(例えば約110~120℃)が検出されるが、第2の樹脂のTg(例えば約160~170℃)は検出されず、消失することが確認されている。硬化物のTgは第2の樹脂の配合量が多くなるにつれて高温側にシフトしていき、第2の樹脂として使用されたポリカーボネート樹脂単独のTgに近似する。
なお、硬化物のTgは熱架橋の温度が280℃よりも低くなると、第1の樹脂のTgを示すtanδのピークと、第2の樹脂のTgを示すtanδピークは分離し、少なくとも240℃以下では明瞭な二峰のピークとなる。
また、硬化物の貯蔵弾性率E’及び損失弾性率E”は、第1の樹脂単独若しくは第2の樹脂単独に比べ大きく増加するとともに、ポリカーボネート樹脂のTmよりも高温域でも貯蔵弾性率E’が安定した挙動を示すことが確認されており、本発明の樹脂組成物の硬化物は融点を持たず、加熱しても固形状態が維持される。
【0068】
また、本実施の形態の硬化物は、DMAにおいて、25℃から300℃の範囲内の温度で測定後のプローブの変位量が測定前を基準にして-1mm未満である。つまり、硬化物は、300℃でも溶融・軟化しないことを意味しており、高い耐熱性を有している。
【0069】
以上のように、本実施の形態の硬化物は、耐熱性と機械的強度に優れたものである。そのため、種々の形状に成形してなる硬化成形物は、例えば、航空機部品、自動車部品、電気・電子部品、建築部材、各種容器、スポーツ用品、日用品、生活雑貨および衛生用品などの各種用途に利用することができる。特に、耐熱性や機械的強度が要求される種々の用途、例えば、航空機のエンジン周辺部品、航空機用部品、自動車のボディー部品やエンジン周辺部品、吸排気系部品、エンジン冷却水系部品、ノートPCやタブレット、スマートフォン等の筐体部品やLED照明の放熱部材などの電気・電子機器部材などに好ましく利用可能である。
【0070】
また、本実施の形態の硬化物は、例えば、繊維強化プラスチックにおけるマトリックス樹脂としても好ましく利用可能である。この場合、硬化物は、第1の樹脂に由来する優れた接着性、繊維との親和性を有するため、サイジング処理の有無にかかわらず、強化繊維基材への含浸性が良好であることから、優れた機械的強度を有する繊維強化プラスチックが得られる。
【0071】
[繊維強化プラスチック成形用材料]
本実施の形態の繊維強化プラスチック成形用材料(以下、「FRP成形用材料」と記すことがある)は、強化繊維基材と、該強化繊維基材に付着した、上記樹脂組成物の粉末と、を含有する。
本実施の形態のFRP成形用材料において、強化繊維としては、特に制限はないが、例えば、炭素繊維、ボロン繊維、シリコンカーバイド繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などが好ましく、炭素繊維がより好ましい。炭素繊維の種類については、例えば、PAN系、ピッチ系のいずれも使用可能であり、目的や用途に応じて、これらを単独で使用してもよいし、又は併用してもよい。また、強化繊維基材としては、例えば、チョップドファイバーを使用した不織布基材や連続繊維を使用したクロス材、一方向強化繊維基材(UD材)などを使用することができるが、補強効果の面から、クロス材やUD材の使用が好ましい。クロス材やUD材を使用する場合、フィラメントと呼称される繊維が開繊処理されているものが好ましい。
強化繊維基材の目付は、40~250g/mの範囲内であることが好ましい。40g/m未満の目付では、成形体における強化繊維数が少ないために所望の機械的物性が得られない。また、250g/mを超えると強化繊維基材の内部に樹脂を十分に含浸させることが困難になるため好ましくない。
なお、強化繊維基材は、サイジング処理の有無にかかわらず使用可能である。
【0072】
本実施の形態のFRP成形用材料において、樹脂組成物は、粉末の状態で強化繊維基材に付着している。FRP成形用材料は、例えば、樹脂組成物の微粉末を強化繊維基材に付着させる粉体塗装法によって調製することが好ましい。粉体塗装法は、原料樹脂組成物が微粒子であるが故に溶融しやすく、かつ塗装後の塗膜内に適度な空隙を持つため、空気の逃げ道となり、溶融後の樹脂にボイドが発生しにくくなる。
【0073】
粉体塗装法としては、例えば、静電塗装法、流動床法、サスペンジョン法が主な工法として挙げられる。これらの中でも、静電塗装法および流動床法は、熱可塑性樹脂に適した方法であり、工程が簡便で生産性が良好であることから好ましく、特に静電塗装法は、強化繊維基材への微粉末状の原料樹脂組成物の付着の均一性が良好であることから最も好適な手法である。
【0074】
粉体塗装法に用いる微粉末状の原料樹脂組成物の平均粒子径は、例えば10~100μmの範囲内が好ましく、40~80μmの範囲内であることがより好ましく、40~50μmの範囲内が最も好ましい。微粉末の平均粒子径が100μmを超えると、静電場における粉体塗装において、微粉末が繊維に衝突する際のエネルギーが大きくなり、強化繊維基材への付着率が低下してしまう。また、微粉末の平均粒子径が10μm未満であると、随伴気流によって粒子が飛散してしまい付着効率が低下するほか、大気中を浮遊する原料樹脂の微粉末が作業環境の悪化を引き起こす可能性がある。原料樹脂の微粉末化は、低温乾燥粉砕機(セントリドライミル)等の粉砕混合機の使用が好適であるが、これらに制限されるものではない。また、原料樹脂の粉砕に際しては、原料となる複数の成分を粉砕してから混合してもよいし、あらかじめ複数の成分を配合した後に粉砕してもよい。
【0075】
粉体塗装では、強化繊維基材への原料樹脂の微粉末の付着量(樹脂割合:RC)が、例えば、20~50%の範囲内となるように塗工することが好ましく、25~45%の範囲内がより好ましく、25~40%の範囲内がさらに好ましい。RCが50%を超えるとCFRPの引張・曲げ弾性率等の機械的物性が低下してしまい、20%を下回ると原料樹脂の付着量が極端に少ないことから強化繊維基材の内部への原料樹脂の含浸が不十分になり、熱物性、機械的物性ともに低くなる懸念がある。
【0076】
[繊維強化プラスチック]
本実施の形態の繊維強化プラスチック(以下、「FRP」と記すことがある)は、強化繊維基材と、該強化繊維基材に付着した、マトリックス樹脂としての樹脂組成物の硬化物と、を有する。
FRPの製造方法は、特に限定されず、例えば含浸法、フィルムスタック法などでもよいが、上記実施形態の樹脂組成物を有するFRP成形用材料(プリプレグ)を加熱加圧処理することによって調製することが好ましい。加熱加圧処理では、加熱によって粉粒状の原料樹脂組成物が完全に溶融して液状となり、加圧によってプリプレグ内に浸透していくが、所定の通気度に制御されたプリプレグ内では、空気の逃げ道が確保されているため、溶融樹脂が空気を追い出しながら浸透していき、比較的低い圧力でも短時間で含浸が完了し、ボイドの発生も回避できる。
【0077】
本発明のFRPは、その強化繊維の繊維体積含有率(Vf)が40~65%の範囲内にあることが好ましい。VfはFRPの用途により調整されるが、より好ましくは45~65%であり、さらに好ましくは45~60%である。Vfが65%を超えるとマトリックス樹脂量が不足し、かえってFRPとしての強度が低下する。また、Vfが40%未満であると強化繊維による補強効果が少なくなる。
【0078】
加熱加圧処理は、原料樹脂組成物の微粉末を完全に溶融させて強化繊維基材の全体に含浸させるため、第2の樹脂として使用されるポリカーボネート樹脂の融点以上であって、おおよそ230℃~350℃の範囲内の温度により行うことが好ましく、この温度範囲内において、第2の樹脂として使用したポリカーボネート樹脂の融点(Tm)+10~60℃の温度がより好ましい。上限温度を超えると、過剰な熱を加えてしまうため樹脂の分解が起きる可能性があり、また下限温度を下回ると、溶融粘度が高いために強化繊維基材への含浸が不十分になる恐れがあるだけでなく、第1の樹脂と第2の樹脂の架橋反応が起こらないため、所望の強度と耐熱性を有する硬化物が得られない。
なお、第2の樹脂として使用するポリカーボネート樹脂の融点が明瞭に確認できない場合、ガラス転移温度(Tg)+100℃以上が加熱加圧処理温度の目安となる。
【0079】
加熱加圧処理の圧力は、例えば3MPa以上が好ましく、3~5MPaの範囲内がより好ましい。上限を超えると、過剰な圧力を加えてしまうため、変形や損傷が発生する可能性があり、また下限を下回ると強化繊維基材への含浸性が悪くなる。
【0080】
加熱加圧処理の時間については、少なくとも5分間以上が好ましく、5~20分間の範囲内がより好ましい。
【0081】
加熱加圧処理と同時に所定の形状に成形処理を行うこともできる。成形処理は、あらかじめ所定の温度まで加熱した材料を速やかに低温の加圧成形機にセットして加工を行うこともできる。
また、加熱加圧処理の後で、例えばポストキュアなどの任意の処理を行うこともできる。ポストキュアは、例えば260℃以上、好ましくは280℃以上の温度で10~30分間程度の時間をかけて行うことが好ましい。
【0082】
[繊維強化プラスチック積層成形体]
本発明の一実施の形態に係る繊維強化プラスチック積層成形体(以下、「FRP積層成形体」と記すことがある)は、フェノキシ樹脂及びポリカーボネート樹脂と、強化繊維と、を含有する。本実施の形態のFRP積層成形体において、フェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂は、層状に積層された状態となっており、かつ、フェノキシ樹脂を含有する層(以下、「フェノキシ樹脂含有層」と記すことがある)とポリカーボネート樹脂を含有する層(以下、「ポリカーボネート樹脂含有層」と記すことがある)とが両者の積層界面において架橋反応により接合されている層間接合部位を1以上含んでいる。本実施の形態のFRP積層成形体は、好ましくは、ILSS法により測定される層間せん断強度が40MPa以上である。
【0083】
ILSS法とは、JIS K 7078において規定されている層間せん断強度の評価方法であり、本実施の形態のFRP積層成形体は当該方法で測定される層間せん断強度が40MPa以上となるものである。
FRP積層成形体は、プリプレグと呼称されるシート状のFRP成形用材料を複数枚積層し、熱プレス機やオートクレーブなどを用いて加熱加圧成形を行って製造する方法が一般的であるが、層間せん断強度が40MPa未満であるとFRP積層成形体に外部からの応力がかかると層間剥離を起こしてFRP積層成形体の強度が大きく低下してしまう。
なお、層間せん断強度は、高すぎると耐衝撃性の低下を招く恐れがあることから、40~65MPaの範囲内であることが好ましく、45~60MPaの範囲内にあることがより好ましい。
【0084】
本実施の形態のFRP積層成形体は、好ましくは、フェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂が層状に積層された状態となったマトリックス樹脂を有するものである。その積層状態は所望するFRP積層成形体の特性によって任意の構造をとることが可能であり、フェノキシ樹脂含有層とポリカーボネート樹脂含有層が交互に積層された状態であってもよいし、ランダムに積層された状態であっても構わない。フェノキシ樹脂含有層とポリカーボネート樹脂含有層がランダムに積層されている場合、フェノキシ樹脂含有層とポリカーボネート樹脂含有層とが接合された層間接合部位を、少なくとも1以上含むように積層されていればよいが、FRP積層成形体の機械的強度を優れたものにするため、好ましくは、すべての層間接合部位の10%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上100%以下が、フェノキシ樹脂含有層とポリカーボネート樹脂含有層とが接合された層間接合部位であることがよい。
また、フェノキシ樹脂含有層とポリカーボネート樹脂含有層は、少なくともその一部にそれぞれ強化繊維を含んでいることが好ましいが、いずれか一方の樹脂層のみが強化繊維を含んでいても良い。
【0085】
本実施の形態のFRP積層成形体は、発明の効果を損なわない範囲で、フェノキシ樹脂及びポリカーボネート樹脂以外の任意の樹脂を使用した層(例えば、任意の樹脂によるFRP成形用材料に由来する層、任意の樹脂による樹脂フィルムに由来する層など)を含むことができる。ここで、任意の樹脂としては、特に制限はないが、フェノキシ樹脂及びポリカーボネート樹脂との接着性が良好な樹脂が好ましい。一方、本実施の形態のFRP積層成形体は、優れた機械的強度を維持するため、FRP積層成形体を構成するすべての層数に対する、フェノキシ樹脂含有層及びポリカーボネート樹脂含有層の合計の比率が、例えば50%以上、より好ましくは70%以上100%以下であることが好ましい。
【0086】
本実施の形態のFRP積層成形体における繊維体積含有率(Vf)は、例えば45~67%の範囲内であることが好ましい。ここで、Vfは、FRP積層成形体中に含まれる強化繊維の体積含有率のことを指す。Vfを上記範囲とすることは、FRP積層成形体の力学特性の観点から好ましい。Vfが高すぎる場合には、強化繊維基材の空隙を熱可塑性樹脂で埋めることができず、繊維量に見合う力学特性が得られない場合がある。
【0087】
本実施の形態のFRP積層成形体は、層状に積層されたフェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂が両者の接触界面において架橋反応によって強固に結合されている層間接合部位を含んでいる。この架橋反応はフェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂の混合物の溶融粘度の著しい増加により確認されるものであり、固化物はポリカーボネート樹脂単独よりも高い弾性率を示す。架橋反応は、260℃以上、例えば280℃で10分以上の熱履歴を与えることにより顕著となり、フェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂が9:1~3:7の配合比率において広く観察される。反応機構の詳細は現時点では明らかでは無いが、ポリカーボネート樹脂の末端構造には特に制限されることなく架橋反応が起きていることから、フェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂のエステル交換反応による架橋であると推測される。すなわち、ポリカーボネート樹脂のカーボネート基-O(C=O)-O-と、フェノキシ樹脂の末端や側鎖に存在する水酸基(-OH)とのエステル交換反応によってフェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂の高分子鎖が3次元架橋を形成するために、フェノキシ樹脂単体およびポリカーボネート樹脂単体よりも強固で高い耐熱性の架橋硬化物が得られるものと考えられる。そして、この架橋反応を、フェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂の界面にて起こさせることによって、機械的強度の向上に利用したものが本実施の形態のFRP積層成形体である。
【0088】
本実施の形態のFRP積層成形体を構成するフェノキシ樹脂含有層、ポリカーボネート樹脂含有層、強化繊維について、その詳細を以下説明する。
【0089】
[フェノキシ樹脂含有層]
フェノキシ樹脂含有層は、強化繊維(基材)を含有していてもよく、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてその他の成分を含有していてもよい。含有し得るその他の成分としては、例えば、臭素化フェノキシ樹脂などの難燃剤、離型剤、染顔料、帯電防止剤、滴下防止剤、衝撃強度改良剤、その他熱可塑性樹脂(ポリアミド樹脂やポリカーボネート樹脂、フッ素樹脂など)等が挙げられる。フェノキシ樹脂含有層は、他の樹脂成分を含有せず、樹脂成分がフェノキシ樹脂のみからなることが最も好ましいが、他の樹脂成分を含有する場合には、フェノキシ樹脂含有層中の全樹脂成分100重量部に対して、フェノキシ樹脂を60重量部以上含有することが好ましく、80重量部以上含有することがより好ましく、90重量部以上含有することが更に好ましい。
【0090】
[ポリカーボネート樹脂含有層]
ポリカーボネート樹脂含有層は、強化繊維(基材)を含有していてもよく、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてその他の成分を含有していてもよい。含有し得るその他の成分としては、例えば、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル、リン酸エステル等のリン系熱安定剤やヒンダードフェノール系酸化防止剤などの酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、染顔料、帯電防止剤、難燃剤、滴下防止剤、衝撃強度改良剤、その他熱可塑性樹脂(フェノキシ樹脂など)等が挙げられる。ポリカーボネート樹脂含有層は、他の樹脂成分を含有せず、樹脂成分がポリカーボネート樹脂のみからなることが最も好ましいが、他の樹脂成分を含有する場合には、ポリカーボネート樹脂含有層中の全樹脂成分100重量部に対して、ポリカーボネート樹脂を80重量部以上含有することが好ましく、90重量部以上含有することがより好ましい。
【0091】
[強化繊維]
本実施の形態のFRP積層成形体において、強化繊維には、例えば、炭素繊維やガラス繊維、ボロンやアルミナ、シリコンカーバイドなどのセラミックス系繊維、ステンレスなどの金属繊維、アラミドなどの有機繊維等の強化繊維から幅広く選択が可能であり、チラノ繊維(登録商標)などの市販の強化繊維でもよい。これらのなかでも、炭素繊維、ガラス繊維が好ましく使用され、強度が高く、熱伝導性の良い炭素繊維を使用することが最も好ましい。炭素繊維はピッチ系、PAN系のいずれも使用可能であるが、ピッチ系の炭素繊維は、高強度であるだけでなく高熱伝導性でもあり、それ故に発生した熱を素早く拡散することができるので熱を逃がす必要のある用途ではPAN系よりも好ましい。強化繊維基材の形態は、特に制限されるものでは無く、連続繊維からなる織布または連続繊維を一方向に引きそろえたUD材が好ましく用いられ、例えば一方向材、平織りや綾織などのクロス、三次元クロス、数千本以上のフィラメントよりなるトウを使用することができる。これらの強化繊維基材は、1種類で用いることもできるし、2種類以上を併用することも可能である。
【0092】
強化繊維は、マトリックス樹脂の強化繊維への濡れ性や、取り扱い性を向上させることを目的に、その表面にサイジング剤(集束剤)やカップリング剤等の表面処理剤を付着させたり、酸化処理などを行っても良い。
サイジング剤としては、例えば、無水マレイン酸系化合物、ウレタン系化合物、アクリル系化合物、エポキシ系化合物、フェノール系化合物またはこれら化合物の誘導体などが挙げられる。カップリング剤としては、例えば、アミノ系、エポキシ系、クロル系、メルカプト系、カチオン系のシランカップリング剤などが挙げられる。
【0093】
強化繊維100重量部に対し、表面処理剤であるサイジング剤及びカップリング剤の含有量は、好ましくは0.1~10重量部、より好ましくは0.5~6重量部である。サイジング剤及びカップリング剤の含有量が0.1~10重量部であれば、マトリックス樹脂との濡れ性、取り扱い性がより優れる。
【0094】
[FRP積層成形体の製造方法]
本実施の形態のFRP積層成形体は、例えば、以下の(1)~(3)の製造方法で得られる。以下、代表例としてこれら製造方法の詳細について説明するが、本実施の形態のFRP積層成形体の製造方法はこれらに限定されるものではない。
【0095】
[製造方法(1)]
プリプレグ積層:
図1に示すように、マトリックス樹脂としてのフェノキシ樹脂と強化繊維基材を含むシート状のフェノキシ樹脂FRP成形用材料10と、マトリックス樹脂としてのポリカーボネート樹脂と強化繊維基材を含むシート状のポリカーボネート樹脂FRP成形用材料20を複数準備して、両者を交互もしくはランダムに積層し、加熱しながら加圧成形を行ってFRP積層成形体30を得る方法である。
【0096】
製造方法(1)で使用されるフェノキシ樹脂FRP成形用材料10及びポリカーボネート樹脂FRP成形用材料20は、公知の方法を用いて得られたものであれば特に問題なく使用することができるが、溶媒を使用しない方法により製造されたものであることが好ましい。このような方法として、例えば、強化繊維基材に溶融した樹脂組成物を加圧含浸する方法(フィルムスタック法)や粉末化した樹脂組成物を強化繊維基材に散布・塗工する方法(パウダーコーティング法)、樹脂組成物を紡糸した連続繊維を強化繊維と混織する方法(コミングル法)が挙げられる。
【0097】
フェノキシ樹脂FRP成形用材料10又はポリカーボネート樹脂FRP成形用材料20の樹脂割合(RC)は、後の加熱加圧成形工程において、これらの層境界でフェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂との溶融混合状態を確実に形成させ得るようにするため、例えば、25~50%の範囲内が好ましく、30~50%の範囲内がより好ましい。
【0098】
上記フェノキシ樹脂FRP成形用材料10とポリカーボネート樹脂FRP成形用材料20は、所望の成形体厚みとなるように交互もしくはランダムに積層したのち、加熱加圧成形されて本実施の形態のFRP積層成形体30に加工される。フェノキシ樹脂FRP成形用材料10とポリカーボネート樹脂FRP成形用材料20をランダムに積層する場合には、フェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂とが接する積層境界を、少なくとも1以上含むように積層すればよいが、製造するFRP積層成形体30の機械的強度を優れたものにするため、好ましくは、すべての積層境界の10%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上100%以下が、フェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂とが接する積層境界となるように積層することがよい。
また、必要に応じて、フェノキシ樹脂及びポリカーボネート樹脂以外の樹脂によるFRP成形用材料や樹脂フィルムを、フェノキシ樹脂FRP成形用材料10とポリカーボネート樹脂FRP成形用材料20の層間にインサートしてもよい。この場合も、フェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂とが接する積層境界を、少なくとも一部分に含むように積層すればよいが、製造するFRP積層成形体30の機械的強度を優れたものにするため、好ましくは、すべての積層境界の70%以上、より好ましくは75%以上100%未満が、フェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂とが接する積層境界となるように積層することがよい。
成形に際しては、例えば、平板型の熱プレス機やベルトプレス機、ロールプレス機、オートクレーブなど、FRPの成形を行ううえで一般的な加圧成形機を使用することができるが、260℃以上の成形温度で5分以上の加工条件が必要である。加工条件は、成形温度が260~300℃で5~30分間の範囲内が好ましく、280~290℃で10~20分間の範囲内がより好ましい。
なお、成形温度が260℃未満であったり、加工時間が5分未満であるとフェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂間の架橋反応が不十分となるため、両者の界面が脆弱でありFRP積層成形体として十分な機械的強度が得られない。
【0099】
[製造方法(2)]
フィルム挿入:
図2又は図3に示すように、フェノキシ樹脂FRP成形用材料10又はポリカーボネート樹脂FRP成形用材料20と、FRP成形用材料に用いられなかったいずれかの樹脂フィルムを準備し、これらを交互に積層し、加熱しながら加圧成形を行ってFRP積層成形体50A又は50Bを得る方法である。つまり、製造方法(2)では、図2に示すように、フェノキシ樹脂FRP成形用材料10に対して、ポリカーボネート樹脂フィルム40を積層してFRP積層成形体50Aを製造してもよく、あるいは、図3に示すように、ポリカーボネート樹脂FRP成形用材料20に対して、フェノキシ樹脂フィルム60を積層してFRP積層成形体50Bを製造してもよい。
【0100】
製造方法(2)で使用されるフェノキシ樹脂FRP成形用材料10及びポリカーボネート樹脂FRP成形用材料20は、製造方法(1)と同じものを使用することができる。また、フェノキシ樹脂フィルム60またはポリカーボネート樹脂フィルム40については、製法などに特に限定は無く、例えば、Tダイ法やインフレーション法を用いて自ら作製しても良いし、市販のフィルムを使用することもできる。フェノキシ樹脂フィルム60及びポリカーボネート樹脂フィルム40の厚みについては、特に制約はないが、
a)フェノキシ樹脂FRP成形用材料10又はポリカーボネート樹脂FRP成形用材料20との界面において十分な溶融混合状態を生じさせるために十分な樹脂量を確保する、
b)強化繊維が存在しない樹脂のみからなる部分の厚みを極力小さくして、得られるFPC積層成形体50A,50BのVfをなるべく低下させずに機械的強度を担保する、
との観点から、例えば10~200μmの範囲内が好ましく、20~150μmの範囲内がより好ましい。
【0101】
製造方法(2)において、FRP成形用材料と樹脂フィルムは、製造方法(1)と同様に所望の成形体厚みとなるように交互もしくはランダムに積層したのち、加熱加圧成形されて本実施の形態のFRP積層成形体50A,50Bに加工される。FRP成形用材料と樹脂フィルムをランダムに積層する場合には、フェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂とが接する積層境界を、少なくとも1以上含むように積層すればよいが、強化繊維を含まない樹脂フィルムを積層すると、FRP積層成形体50A,50BとしてのVfが低下することとなることから、製造するFRP積層成形体50A,50Bの機械的強度を優れたものにするため、好ましくは、すべての積層境界の25%以上、より好ましくは25%以上100%以下が、フェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂とが接する積層境界となるように積層することがよい。
また、必要に応じて、フェノキシ樹脂及びポリカーボネート樹脂以外の樹脂によるFRP成形用材料や樹脂フィルムを、層間にインサートしてもよい。この場合も、フェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂とが接する積層境界を、少なくとも一部分に含むように積層すればよいが、製造するFRP積層成形体50A,50Bの機械的強度を優れたものにするため、好ましくは、すべての積層境界の25%以上、より好ましくは25%以上%100%未満が、フェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂とが接する積層境界となるように積層することがよい。
成形に際しては、例えば、平板型の熱プレス機やベルトプレス機、ロールプレス機、オートクレーブなど、FRPの成形を行ううえで一般的な加圧成形機を使用することができるが、260℃以上の成形温度で5分以上の加工条件が必要である。加工条件は、成形温度が260~300℃で5~30分間の範囲内が好ましく、280~290℃で10~20分間の範囲内がより好ましい。
なお、成形温度が260℃未満であったり、加工時間が5分未満であるとフェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂間の架橋反応が不十分となるため、両者の界面が脆弱でありFRP積層成形体50A,50Bとして十分な機械的強度が得られない。
【0102】
[製造方法(3)]
ハイブリッド成形用材料の使用:
図4に示すように、強化繊維基材70の一方の面がフェノキシ樹脂、もう一方の面がポリカーボネート樹脂で覆われたハイブリッドFRP成形用材料80を準備し、このハイブリッドFRP成形用材料80を複数枚積層して加熱加圧成形を行ってFRP積層成形体90を得る方法である。
【0103】
製造方法(3)で使用されるハイブリッドFRP成形用材料80は、製造方法(1)および(2)とは異なり、強化繊維基材70の一方の面がフェノキシ樹脂、もう一方の面がポリカーボネート樹脂で覆われたものである。ここで、ハイブリッドFRP成形用材料80における片側の面のフェノキシ樹脂による被覆層は、FRP積層成形体90において「フェノキシ樹脂含有層」となる部分であり、もう片側の面のポリカーボネート樹脂による被覆層は、FRP積層成形体90において「ポリカーボネート樹脂含有層」となる部分である。
強化繊維基材70を被覆しているフェノキシ樹脂およびポリカーボネート樹脂は、膜状に強化繊維基材70の面を被覆していてもよいし、樹脂粉末が堆積・付着した状態で強化繊維基材70の面を被覆していてもよいが、膜状に被覆されていることがハイブリッドFRP成形用材料80の生産性などの面から好ましい。
【0104】
ハイブリッドFRP成形用材料80は、強化繊維基材70に、フェノキシ樹脂およびポリカーボネート樹脂を、それぞれ溶融ないし軟化する温度以上に加熱された状態で圧力を付与し、強化繊維基材70の表面を被覆させることで得られる。具体的には、
(i)図4において下向きの矢印で示すように、強化繊維基材70の厚み方向の両側から、フェノキシ樹脂フィルム60およびポリカーボネート樹脂フィルム40を重ね合わせ、加熱・加圧しながら樹脂成分を強化繊維基材70へ溶融含浸させる方法、
(ii)図4において上向きの矢印で示すように、フェノキシ樹脂FRP成形用材料10とポリカーボネート樹脂FRP成形用材料20を重ね合わせ、加熱・加圧しながら樹脂成分を溶融含浸させると同時に一体化する方法、
などが例示できる。
上記方法を実現するための設備としては、例えば、加圧成形機、ベルトもしくはロールプレス機を好適に用いることができる。
なお、上記(i)、(ii)において、フェノキシ樹脂およびポリカーボネート樹脂を、強化繊維基材70に溶融含浸させる温度は、260℃未満、好ましくは200℃~240℃の温度範囲内で行われる。260℃以上の温度で加工を行うとフェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂が架橋反応を起こしてしまうため、ハイブリッドFRP成形用材料80の賦形性が低下するために好ましくない。
ハイブリッドFRP成形用材料80の樹脂割合(RC)は、後の加熱加圧成形工程において、フェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂との溶融混合状態を確実に形成させ得るようにするため、例えば、25~50%の範囲内が好ましく、30~50%の範囲内がより好ましい。
【0105】
ハイブリッドFRP成形用材料80は、製造方法(1)および(2)と同様に所望の成形体厚みとなるように積層される。このとき、ハイブリッドFRP成形用材料80の表裏の向きに特に制限はなく、フェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂とが接する積層境界を、少なくとも一部分に含むように積層すればよいが、製造するFRP積層成形体90の機械的強度を優れたものにするため、好ましくは、すべての積層境界の50%以上、より好ましくは75%以上100%以下が、フェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂とが接する積層境界となるように積層することがよい。
また、必要に応じて、フェノキシ樹脂またはポリカーボネート樹脂によるFRP成形用材料や樹脂フィルム、あるいは、フェノキシ樹脂及びポリカーボネート樹脂以外の樹脂によるFRP成形用材料や樹脂フィルムを、複数のハイブリッドFRP成形用材料80の層間にインサートしてもよい。この場合も、フェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂とが接する積層境界を、少なくとも一部分に含むように積層すればよいが、製造するFRP積層成形体90の機械的強度を優れたものにするため、好ましくは、すべての積層境界の50%以上、より好ましくは75%以上100%以下が、フェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂とが接する積層境界となるように積層することがよい。
【0106】
複数のハイブリッドFRP成形用材料80を含むように積層された積層体は、加熱加圧成形されて本実施の形態のFRP積層成形体90に加工される。成形に際しては、例えば、平板型の熱プレス機やベルトプレス機、ロールプレス機、オートクレーブなど、FRPの成形を行ううえで一般的な加圧成形機を使用することができるが、260℃以上の成形温度で5分以上の加工条件が必要である。加工条件は、成形温度が260~300℃で5~30分間の範囲内が好ましく、280~290℃で10~20分間の範囲内がより好ましい。
なお、成形温度が260℃未満であったり、加工時間が5分未満であるとフェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂間の架橋反応が不十分となるため、両者の界面が脆弱であり、FRP積層成形体90の十分な機械的強度が得られない。
また、加熱加圧成形によって、ハイブリッドFRP成形用材料80の厚み方向の中心付近(強化繊維基材70の内部)で、浸透した被覆フェノキシ樹脂と被覆ポリカーボネート樹脂とが混合状態となって架橋形成が生じることがあるが、この強化繊維基材70の内部は「層間接合部位」に含まない。
【0107】
こうして得られたFRP積層成形体30,50A,50B,90は、その後塗装を行ったり、他の部品との締結するための穴あけ加工や、射出成形用金型にインサートしてリブなどの成形加工を行う等の後加工をすることができる。
【0108】
以上のようにして得られるFRP積層成形体30,50A,50B,90は、フェノキシ樹脂を含有する層とポリカーボネート樹脂を含有する層とを層状に積層することによって、接合部位でフェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂が混合状態となるため、安定的かつ強固な層間接合を持ち、高い機械的物性を有する。従って、FRP積層成形体30,50A,50B,90は、ポリカーボネート樹脂の特徴である優れた耐衝撃性とフェノキシ樹脂の特徴である他部材との良好な接着性を兼ね備え、曲げ加工などの加工性にも優れる。そのため、FRP積層成形体30,50A,50B,90は、自動車部材、電気・電子機器筐体、航空機部材、などの用途における実装部材として好適に適用できる。
【0109】
本実施の形態のFRP積層成形体の用途は、特に制限はなく、例えば、スポーツ用品や携帯情報端末および電気・電子機器部品、土木・建材用部品、自動車、二輪車用構造部品、航空機用部品が挙げられるが、その力学特性の観点から、高い機械的強度が要求される電気・電子機器筐体、自転車およびスポーツ用品用の構造材、自動車および航空機などの内外装の部材により好ましく用いることができる。
【実施例
【0110】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。なお、実施例における各種物性の試験及び測定方法は以下のとおりである。
【0111】
[平均粒子径(D50)]
平均粒子径は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラックMT3300EX、日機装社製)により、体積基準で累積体積が50%となるときの粒子径を測定した。
【0112】
[動的粘弾性測定(DMA)]
動的粘弾性測定装置(Perkin Elmer社製 DMA 7e)を用いて測定した。
硬化物のプローブ変位量は、25℃から300℃の範囲内の温度でDMA測定後のプローブの変位量を測定前の位置と比較した。
硬化物のTgについては、硬化物からダイヤモンドカッターで幅10mm、長さ10mmの試験片を切り出して、5℃/分の昇温条件、25℃から300℃の範囲で測定し、得られるtanδの極大ピークをTgとした。
【0113】
[溶融粘度]
レオメータ(Anton Paar社製MCR302)を用いて、測定試料約300mgをパラレルプレートに挟み、280℃まで50℃/minで昇温したのち、そのまま280℃に温度保持しながら、周波数:1Hz、振り角:0.5%、ノーマルフォース:0.1Nの条件にて最小溶融粘度及び280℃以上での溶融粘度を測定した。
【0114】
[樹脂割合(RC:%)]
マトリックス樹脂付着前の強化繊維基材の重量(W1)と、樹脂付着後のCFRP成形用材料の重量(W2)から下記の式を用いて算出した。
樹脂割合(RC:%)=(W2-W1)/W2×100
W1:樹脂付着前の強化繊維基材重量
W2:樹脂付着後のCFRP成形用材料の重量
【0115】
[繊維体積含有率(Vf:%)]
JIS K 7075:1991 炭素繊維強化プラスチックの繊維含有率及び空洞率試験方法に基づいて燃焼法により測定した。
【0116】
[機械的強度の測定]
JIS K 7074:1988 炭素繊維強化プラスチックの曲げ試験方法に基づいて、得られたCFRP成形体の機械的物性(破断点応力及び弾性率)を測定した。
具体的には、積層した成形品から全長80mm、幅15mmの短冊型に切り出したものを試験体とし、支点間距離は40mmとした。試験機はテンシロン万能材料試験機(RTA250 A&D社製)、試験速度は2mm/minで実施した。
【0117】
[層間せん断強度の測定]
JIS K 7078:1991 炭素繊維強化プラスチックの層間せん断試験方法に基づき、長さ21mm×幅10mm×厚み3mmの試験片を、万能強度試験機(オートグラフ AG-Xplus100kN 島津製作所製)を用いて測定した。
【0118】
[FRP積層成形体の機械的強度の評価]
JIS K 7074:1988 炭素繊維強化プラスチックの曲げ試験方法に基づいて、得られたFRP積層成形体の機械的物性(曲げ強度、曲げ弾性率)を測定した。
【0119】
[荷重たわみ温度の測定]
JIS K 7191-2:2015 プラスチック-荷重たわみ温度の求め方 におけるC法に基づき、長さ80mm、幅10mm、厚み1mmの試験片の荷重たわみ温度を東洋精機製作所製、HDTテスター 3M-2Vを使用して測定した。
【0120】
<フェノキシ樹脂>
・A-1:
フェノトートYP-50S(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製ビスフェノールA型、Mw=60,000、水酸基当量=284g/eq)、200℃における溶融粘度=400Pa・s、Tg=84℃
【0121】
<2官能型エポキシ樹脂>
・A-2:
エポトートYP-017(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製ビスフェノールA型、Mw=4000)、軟化点=117℃
【0122】
<ポリカーボネート樹脂>
・B-1:
ユーピロンS3000(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、Mw=45000)、280℃における溶融粘度=1,020Pa・s、Tg=149℃、Tm=240℃
・B-2:
ノバレックス7022R(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、Mw=21,000)、280℃における溶融粘度=1,200Pa・s、Tg=160℃、Tm=230~260℃
【0123】
[実施例1]
フェノキシ樹脂A-1を90重量部及びポリカーボネート樹脂B-1を10重量部準備し、それぞれ粉砕、分級して平均粒子径D50が80μmである粉体にしたものを、乾式粉体混合機(愛知電気社製、ロッキングミキサー)によってドライブレンドすることによって樹脂組成物E1を調製した。
また、得られた樹脂組成物E1を、ラボブラストミル(東洋精機社製)を用いて280℃で15分間混練することにより硬化させて硬化物E1を得た。
【0124】
[実施例2~7]
フェノキシ樹脂A-1及びポリカーボネート樹脂B-1の配合比率を表1に示すとおりに変化させた以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物E2~E7及び硬化物E2~E7を得た。
【0125】
[実施例8]
ポリカーボネート樹脂B-1の代わりにB-2を使用し、配合比率を実施例2と同じにした以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物E8及び硬化物E8を得た。
【0126】
[実施例9]
フェノキシ樹脂A-1の代わりに2官能型エポキシ樹脂A-2を使用し、ポリカーボネート樹脂B-1の代わりにB-2を使用し、配合比率を実施例3と同じにした以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物E9及び硬化物E9を得た。
【0127】
[実施例10、11]
フェノキシ樹脂A-1及びポリカーボネート樹脂B-1の配合比率を表1に示すとおりに変化させた以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物E10、E11を調製した。
また、得られた樹脂組成物E10、E11を、ラボブラストミル(東洋精機社製)を用いて280℃で15分間混練することにより硬化させて硬化物E10、E11を得た。
【0128】
実施例1~11で得た樹脂組成物E1~E11及び硬化物E1~E11について、DMA測定及び溶融粘度の測定を行った。その結果を表1に示した。いずれの実施例においてもフェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂との架橋反応による溶融粘度の増加が確認されたが、特に、硬化物E1~E9については、いずれも融点を持たず、加熱しても固形状態が維持された。
【0129】
[比較例1]
フェノキシ樹脂A-1の固化物R1について、DMA測定及び溶融粘度の測定を行った。その結果を表1に示した。
【0130】
[比較例2]
ポリカーボネート樹脂B-1の固化物R2について、DMA測定及び溶融粘度の測定を行った。その結果を表1に示した。
【0131】
[比較例3]
ポリカーボネート樹脂B-1のかわりにポリアミド樹脂(東レ製ポリアミド6、CM1013)を使用して配合比率を表1に示すとおりとした以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物R3を調製した。
得られた樹脂組成物R3は、実施例1と同様にして280℃で15分間混練したが特に大きな増粘は見られなかったため、そのまま冷却することにより固化物R3を得た。その結果を表1に示した。
【0132】
[参考例1、2]
実施例2で得られた樹脂組成物E2を260℃(参考例1)および240℃(参考例2)でそれぞれ15分間混練することにより硬化させて硬化物R4、R5を得た。その結果を表1に示した。
【0133】
【表1】
【0134】
また、上記実施例1~11、比較例1、2で得た、樹脂組成物E1~E11、R1、R2について、レオメーターを用いて、280℃に到達してから、0分後、10分後、20分後、30分後、40分後、50分後、60分後、70分後、80分後、90分後、100分後の粘度の測定結果を図5に示した。
【0135】
[実施例12]
実施例1で得た樹脂組成物E1を、サイジング剤を除去したSA3202(サカイオーベックス株式会社製、平織りの開繊炭素繊維クロス材)を強化繊維基材として、静電場において、電荷60kV、吹き付け空気量60L/minの条件で、成形後のVfが60%となるように粉体塗装を行った。その後、オーブンで250℃、3分間加熱溶融させて樹脂組成物を炭素繊維に熱融着させ、厚みが0.9mmであり、樹脂割合(RC)は30%のCFRPプリプレグAを作製した。
得られたCFRPプリプレグAを13枚使用し、280℃に加熱したプレス機で、5MPaで10分間プレスすることでCFRP成形体X1を作製した。得られたCFRP成形体X1に対し、冷却後、機械的物性(破断点応力及び弾性率)の測定を行った。その結果を表2に示した。
【0136】
[実施例13~22、比較例4~6]
実施例2~11、比較例1~3で得た樹脂組成物(又は樹脂)を用いた以外は、実施例12と同様にして、実施例のCFRPプリプレグB~K、比較例のCFRPプリプレグL~Nを作製し、さらに、実施例のCFRP成形体X2~X11、比較例のCFRP成形体W1~W3を作製し、機械的物性(破断点応力及び弾性率)の測定を行った。その結果を表2に示した。なお、使用した樹脂組成物との対応関係も表2中に示した。
【0137】
[参考例3、4]
実施例2で得た樹脂組成物E2を用いた以外は、実施例12と同様にしてCFRPプリプレグBを作製し、さらに、プレス温度を260℃(参考例3)又は240℃(参考例4)に変更した以外は、実施例12と同様にして、CFRP成形体W4、W5を作製し、機械的物性(破断点応力及び弾性率)の測定を行った。その結果を表2に示した。なお、使用した樹脂組成物との対応関係も表2中に示した。
【0138】
【表2】
【0139】
[実施例23~33、比較例7、8]
強化繊維基材として、サイジング剤を除去していないSA3202を用いた以外は、実施例12~22、比較例4、5と同様にして、実施例のCFRPプリプレグa~k、比較例のCFRPプリプレグl、mを得た。
得られたCFRPプリプレグa~k、CFRPプリプレグl、mを使用し、280℃に加熱したプレス機で、5MPaで10分間プレスすることで、実施例のCFRP成形体Y1~Y11、比較例のCFRP成形体Z1、Z2を作製し、機械的物性(破断点応力及び弾性率)の測定を行った。その結果を表3に示した。なお、使用した樹脂組成物との対応関係も表3中に示した。
【0140】
【表3】
【0141】
また、実施例13で得られたCFRP成形体X2及び実施例21で得られたCFRP成形体X10について、層間せん断強度と荷重たわみ温度を測定した。その結果について、表4に示した。
【0142】
【表4】
【0143】
[実施例34]
フェノキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂をそれぞれ粉砕、分級して平均粒子径D50が80μmである2種類のマトリックス樹脂粉末を作製した。次いで、開繊処理された炭素繊維(東レ株式会社製、T700)からなる平織の強化繊維基材を用意して、静電場において、電荷100kV、吹き付け空気圧0.1MPaの条件でそれぞれのマトリックス樹脂粉体で別々に粉体塗装を行った。その後、オーブンでフェノキシ樹脂は200℃、ポリカーボネート樹脂は260℃でそれぞれ3分間加熱溶融して樹脂を熱融着させ、フェノキシ樹脂FRP成形用材料とポリカーボネート樹脂FRP成形用材料を得た。得られたFRP成形用材料の樹脂割合(RC)は、フェノキシ樹脂FRP成形用材料が33%、ポリカーボネート樹脂FRP成形用材料が32%であった。
上記フェノキシ樹脂FRP成形用材料とポリカーボネート樹脂FRP成形用材料を最外層がフェノキシ樹脂FRP成形用材料となるように交互に積層して熱プレス機で5MPa、280℃、10minの条件で加熱加圧成形し、得られたFRP積層成形体の各種物性を測定した。これらの結果を表5に示す。
【0144】
[実施例35]
加熱加圧成形温度を260℃とした以外は実施例34と同様にしてFRP積層成形体を作製し、各種物性を測定した。これらの結果を表5に示す。
【0145】
[実施例36]
フェノキシ樹脂A-1をTダイ押出成形機を用い、ダイス幅150mm、コートハンガーダイ、リップ幅0.2mmの条件にて20μm厚のフェノキシ樹脂フィルムを得た。
実施例34にて作成したポリカーボネート樹脂FRP成形用材料と、上記フェノキシ樹脂フィルムを最外層がポリカーボネート樹脂FRP成形用材料となるように積層した。
なお、ポリカーボネート樹脂FRP成形用材料とフェノキシ樹脂フィルムは、ポリカーボネート樹脂FRP成形用材料を3枚積層する毎にフェノキシ樹脂フィルムを1枚積層することとし、両者計51枚を積層した。
ついで、熱プレス機で5MPa、280℃、10minの条件で積層体を加熱加圧成形し、得られたFRP積層成形体の各種物性を測定した。これらの結果を表5に示す。
【0146】
[実施例37]
ポリカーボネート樹脂FRP成形用材料とフェノキシ樹脂フィルムを、最外層に4枚のポリカーボネートFRP成形用材料が来るようにし、その他はポリカーボネートFRP成形用材料を6枚積層する毎にフェノキシ樹脂フィルムを1枚積層することとして両者計46枚を積層したこと以外は実施例36と同様にしてFRP積層成形体を作成し、各種物性を測定した。これらの結果を表5に示す。
【0147】
[比較例9]
加熱加圧成形温度を240℃とした以外は実施例34と同様にしてFRP積層成形体を作製し、各種物性を測定した。これらの結果を表5に示す。
【0148】
[比較例10]
加熱加圧成形温度を240℃とした以外は実施例36と同様にしてFRP積層成形体を作製し、各種物性を測定した。これらの結果を表5に示す。
【0149】
[比較例11]
加熱加圧成形温度を240℃とした以外は実施例37と同様にしてFRP積層成形体を作製し、各種物性を測定した。これらの結果を表5に示す。
【0150】
[参考例5]
フェノキシ樹脂FRP成形用材料のみを使用した以外は実施例34と同様にしてFRP積層成形体を作製し、各種物性を測定した。これらの結果を表5に示す。
【0151】
[参考例6]
ポリカーボネート樹脂FRP成形用材料のみを使用した以外は実施例34と同様にしてFRP積層成形体を作製し、各種物性を測定した。これらの結果を表5に示す。
【0152】
【表5】
【0153】
本発明のFRP積層成形体は、フェノキシ樹脂とポリカーボネート樹脂間の架橋反応によって強固な接着界面ができるため、比較例9のような架橋が不十分な状態のFRP積層成形体よりも層間せん断強度が大きく、構造材料にも使用しえる高い機械的物性を発揮することができる。
【0154】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。
【0155】
本出願は、2019年3月26日に日本国で出願された特願第2019-057952号及び2019年3月29日に日本国で出願された特願第2019-066082号に基づく優先権を主張するものであり、当該出願の全内容をここに援用する。
【符号の説明】
【0156】
10:フェノキシ樹脂FRP成形用材料
20:ポリカーボネート樹脂FRP成形用材料
30:FRP積層成形体(プリプレグ積層)
40:ポリカーボネート樹脂フィルム
50A,50B:FRP積層成形体(フィルム挿入積層)
60:フェノキシ樹脂フィルム
70:強化繊維基材
80:ハイブリッドFRP成形用材料
90:FRP積層成形体(ハイブリッドプリプレグ積層)


図1
図2
図3
図4
図5