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特許7566767超音波探触子、超音波プローブおよび超音波診断装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】超音波探触子、超音波プローブおよび超音波診断装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/00 20060101AFI20241007BHJP
【FI】
A61B8/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021553487
(86)(22)【出願日】2020-10-21
(86)【国際出願番号】 JP2020039521
(87)【国際公開番号】W WO2021079902
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2022-04-07
【審判番号】
【審判請求日】2023-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2019191792
(32)【優先日】2019-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】大澤 敦
(72)【発明者】
【氏名】吉弘 達矢
【合議体】
【審判長】橿本 英吾
【審判官】宮澤 浩
【審判官】井口 猶二
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-288977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC A61B 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッキング材と、
前記バッキング材の表面上に配列形成された複数の圧電振動子と、
前記複数の圧電振動子の上に配置された音響整合層と
を備え、
前記音響整合層は、エレベーション方向の中央部から両端部に向かうほど超音波の送受信周波数が低くなる第1整合層を含み、
前記第1整合層は、複数の微粒子が分散された母材から形成され、且つ、前記エレベーション方向の中央部から両端部に向かうほど前記微粒子の分散度が高い超音波探触子。
【請求項2】
前記第1整合層は、前記エレベーション方向の中央部に配置された高周波数領域用整合部と前記エレベーション方向の両端部に配置された低周波数領域用整合部とを有し、
前記高周波数領域用整合部の前記エレベーション方向における長さは、前記第1整合層の前記エレベーション方向における全長に対して1/2よりも長い請求項1に記載の超音波探触子。
【請求項3】
前記エレベーション方向の中央部から両端部にかけて前記第1整合層における単位体積あたりの前記微粒子の数が同一である請求項1または2に記載の超音波探触子。
【請求項4】
前記第1整合層は、互いに異なる音響インピーダンスを有する複数の層からなる多層構造を有する請求項1~3のいずれか一項に記載の超音波探触子。
【請求項5】
前記音響整合層は、前記複数の圧電振動子とは反対側の前記第1整合層の表面上に配置され且つエレベーション方向に均一な材質からなる第2整合層を含む請求項1~4のいずれか一項に記載の超音波探触子。
【請求項6】
前記微粒子は、0.01μm以上100.00μm以下の直径を有する請求項1~5のいずれか一項に記載の超音波探触子。
【請求項7】
前記微粒子は、1.00μm以上10.00μm以下の直径を有する請求項6に記載の超音波探触子。
【請求項8】
前記微粒子は、鉄、タングステン、アルミナ、ジルコニアまたはシリカからなる請求項1~7のいずれか一項に記載の超音波探触子。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の超音波探触子を有する超音波プローブ。
【請求項10】
請求項9に記載の超音波プローブを有する超音波診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探触子、その超音波探触子を有する超音波プローブ、および、その超音波プローブを有する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、被検体の内部の画像を得るものとして、超音波診断装置が知られている。超音波診断装置は、一般的に、複数の圧電振動子がアジマス方向に配列された振動子アレイが備えられた超音波プローブを備えている。この超音波プローブを被検体の体表に接触させた状態において、振動子アレイから被検体内に向けて超音波ビームが送信され、被検体からの超音波エコーを振動子アレイで受信して超音波エコーに対応する電気信号が取得される。さらに、超音波診断装置は、得られた電気信号を電気的に処理して、被検体の当該部位に対する超音波画像を生成する。
【0003】
近年では、被検体の体表から5mm~20mm程度の深さにある筋構造、神経束等の組織を超音波画像に高精細に描出し、より詳細な観察を行うために、例えば12MHz~15MHz程度の高周波数の超音波を被検体に送信する要望が高くなってきている。このような浅い領域において、いわゆるエレベーション方向に狭い幅を有する超音波ビームを形成する方法として、例えば特許文献1に開示されるように、エレベーション方向にも複数の圧電振動子が配列された超音波探触子を用い、エレベーション方向における超音波の送受信の開口幅を制御することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-278918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されているように、エレベーション方向にも複数の圧電振動子が配列されている超音波探触子を用い、エレベーション方向における超音波の送受信の開口幅を制御する場合には、アジマス方向およびエレベーション方向の双方において、深度に関わらず狭い幅を有する超音波ビームを形成することにより、深度に関わらず高い画質を有する超音波画像を得ることが可能であるが、超音波探触子の構成が複雑になり、超音波を送受信するためのシステムも複雑となってしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、このような従来の問題点を解決するためになされたものであり、単純な構成を有しながらも、深度に関わらず高い画質を有する超音波画像を得ることができる超音波探触子、その超音波探触子を有する超音波プローブ、および、その超音波プローブを有する超音波診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る超音波探触子は、バッキング材と、バッキング材の表面上に配列形成された複数の圧電振動子と、複数の圧電振動子の上に配置された音響整合層とを備え、音響整合層は、エレベーション方向の中央部から両端部に向かうほど超音波の送受信周波数が低くなる第1整合層を含み、第1整合層は、複数の微粒子が分散された母材から形成され、且つ、エレベーション方向の中央部から両端部に向かうほど微粒子の分散度が高いことを特徴とする。
【0008】
第1整合層は、エレベーション方向の中央部に配置された高周波数領域用整合部とエレベーション方向の両端部に配置された低周波数領域用整合部とを有し、高周波数領域用整合部のエレベーション方向における長さは、第1整合層のエレベーション方向における全長に対して1/2よりも長いことが好ましい。
また、エレベーション方向の中央部から両端部にかけて第1整合層における単位体積あたりの微粒子の数が同一であることが好ましい。
【0009】
また、第1整合層は、互いに異なる音響インピーダンスを有する複数の層からなる多層構造を有することができる。
また、音響整合層は、複数の圧電振動子とは反対側の第1整合層の表面上に配置され且つエレベーション方向に均一な材質からなる第2整合層を含むことができる。
【0010】
また、微粒子は、0.01μm以上100.00μm以下の直径を有することが好ましく、1.00μm以上10.00μm以下の直径を有することがより好ましい。
また、微粒子は、鉄、タングステン、アルミナ、ジルコニアまたはシリカからなることができる。
【0011】
本発明に係る超音波プローブは、本発明の超音波探触子を有することを特徴とする。
本発明に係る超音波診断装置は、本発明の超音波プローブを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、超音波探触子が、バッキング材と、バッキング材の表面上に配列形成された複数の圧電振動子と、複数の圧電振動子の上に配置された音響整合層とを備え、音響整合層は、エレベーション方向の中央部から両端部に向かうほど超音波の送受信周波数が低くなる第1整合層を含み、第1整合層は、複数の微粒子が分散された母材から形成され、且つ、エレベーション方向の中央部から両端部に向かうほど微粒子の分散度が高いため、単純な構成を有しながらも、深度に関わらず高い画質を有する超音波画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態1に係る超音波探触子の斜視図である。
図2】本発明の実施の形態1に係る超音波探触子の断面図である。
図3】本発明の実施の形態1における第1整合層を構成する高周波数領域用整合層部材と低周波数領域用整合層部材を示す図である。
図4】本発明の実施の形態1における第1整合層を示す図である。
図5】本発明の実施の形態1において、バッキング材、圧電振動子、第1音響整合層、第2音響整合層、引出し電極が互いに貼り付けられた積層体を示す図である。
図6】本発明の実施の形態1において、積層体の引出し電極にフレキシブルプリント基板がはんだ付けされた状態を示す図である。
図7】本発明の実施の形態1に係る超音波探触子を有する超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
図8】本発明の実施の形態1における送受信回路の内部構成を示すブロック図である。
図9】本発明の実施の形態1における画像生成部の内部構成を示すブロック図である。
図10】本発明の実施の形態2に係る超音波探触子の断面図である。
図11】本発明の実施の形態3に係る超音波探触子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、「同一」、「同じ」は、技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含むものとする。
【0015】
実施の形態1
図1に示すように、本発明の実施の形態1に係る超音波探触子1は、バッキング材2を備えており、バッキング材2の表面上においてアジマス方向に配列ピッチPで配列された複数の圧電振動子3が配置され、複数の圧電振動子3の表面上にそれぞれ音響整合層4が配置され、複数の音響整合層4の表面上に音響レンズ7が配置されている。また、複数の音響整合層4は、それぞれ、圧電振動子3の表面上に配置されている第1整合層5と、第1整合層5の表面上に配置されている第2整合層6を有している。また、隣り合う圧電振動子3間および隣り合う音響整合層4間に、エポキシ樹脂等が充填された分離部8が形成されている。
【0016】
なお、複数の圧電振動子3に、図示しない引出し電極がそれぞれ接続され、バッキング材2の側面に、複数の引出し電極に接続された図示しないフレキシブルプリント基板が配置されるが、説明のために省略されている。また、以下では、説明のために、複数の圧電振動子3および複数の音響整合層4が配列するアジマス方向をX方向、バッキング材2、圧電振動子3、音響整合層4および音響レンズ7の積層方向をZ方向、X方向およびZ方向に対して直交するエレベーション方向をY方向と呼ぶ。
【0017】
圧電振動子3は、超音波探触子1に接続された図示しないパルサ等から供給される駆動信号に従って超音波を発生すると共に、超音波エコーを受信して、超音波エコーに基づく信号を出力するものである。圧電振動子3は、例えば、PZT(Lead Zirconate Titanate:チタン酸ジルコン酸鉛)に代表される圧電セラミック、PVDF(Poly Vinylidene Di Fluoride:ポリフッ化ビニリデン)に代表される高分子圧電素子およびPMN-PT(Lead Magnesium Niobate-Lead Titanate:マグネシウムニオブ酸鉛-チタン酸鉛固溶体)に代表される圧電単結晶等からなる圧電体の両端に電極を形成することにより構成される。
【0018】
バッキング材2は、複数の圧電振動子3を支持すると共に、複数の圧電振動子3から発せられて後方に伝搬した超音波を吸収するものである。バッキング材2は、例えば、フェライトゴム等のゴム材により形成される。
音響レンズ7は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂およびポリメチルペンテン樹脂等の樹脂材料およびシリコンゴム等のゴム材料等から形成される。
【0019】
音響整合層4は、超音波探触子1が接触する被検体と圧電振動子3との間の音響インピーダンスを整合して、被検体内に超音波を入射させやすくするためのものである。一般的に、圧電振動子3の音響インピーダンスは、音響レンズ7および被検体内の音響インピーダンスよりも高いことが多いため、音響整合層4は、圧電振動子3の音響インピーダンスよりも低く且つ音響レンズおよび被検体内の音響インピーダンスよりも高い音響インピーダンスを有する材料により形成されることができる。また、音響整合層4に含まれる第1整合層5は、圧電振動子3から発せられ且つ第1整合層5中を伝搬する超音波を共振させて超音波の強度を増強するために、第1整合層5中を伝搬する超音波の波長の4分の1程度の厚さを有することが望ましい。また、第2整合層6についても、同様にして、第2整合層6中を伝搬する超音波の波長の4分の1程度の厚さを有することが望ましい。
【0020】
音響整合層4の第2整合層6は、第1整合層5の表面上に形成され且つY方向に均一な材質からなるものであり、第1整合層5の音響インピーダンスよりも低い音響インピーダンスを有する。例えば、第2整合層6の材料として、エポキシ樹脂またはウレタン樹脂等の樹脂材料を使用することができる。
【0021】
音響整合層4の第1整合層5は、図2に示すように、複数の微粒子Gが分散された母材Bから形成されている。
第1整合層5の母材Bは、例えば、エポキシ樹脂またはウレタン樹脂等の樹脂材料から形成される。
微粒子Gは、金属またはセラミックスから形成され、その材料として、例えば、鉄、タングステン、アルミナ、ジルコニアまたはシリカ等が用いられる。微粒子Gは、第1整合層5中の超音波の減衰を低減するために、0.01μm以上100.00μm以下の直径を有することが好ましく、1.00μm以上10.00μm以下の直径を有することがより好ましい。
【0022】
また、第1整合層5において、Y方向の中央部から両端部に向かうほど微粒子Gの分散度が高くなっており、Y方向の中央部から両端部にかけて第1整合層5における単位体積あたりの微粒子Gの数が同一である。ここで、微粒子Gの分散度とは、母材B中において互いに隣接する微粒子G間の距離のバラつきを表す指標であり、母材B中の微粒子Gの配置位置が均一に分布しているほど分散度が高く、微粒子G同士が局所的に接近し、母材B中の微粒子Gの配置位置が不均一に分布しているほど分散度が低い。図2に示す例では、Y方向の中央部において、互いに接触または近接している微粒子Gが多い、すなわち、微粒子Gの分散度が低い高周波数領域用整合部A1が形成され、Y方向の両端部において、互いに離れている微粒子Gが多く且つ母材B中の微粒子Gの配置位置の分布がより均一である、すなわち、微粒子Gの分散度が高い低周波数領域用整合部A2が形成されている。ここで、第1整合層5のY方向の中央部から両端部にかけて、単位体積あたりの微粒子Gの数が同一であるため、高周波数領域用整合部A1の音響インピーダンスと低周波数領域用音響インピーダンスは、互いにほぼ同一である。
【0023】
ところで、互いに異なる音響インピーダンスを有する2つの材料が互いに接触しており、その境界面を音波が透過する場合に、音波の位相が影響を受けることにより、2つの材料の境界面において音波の進行方向の群速度が低くなる現象が知られている。図2に示すように、第1整合層5の高周波数領域用整合部A1では、互いに接触または近接している微粒子Gが多いため、第1整合層5中をZ方向に進行する超音波の伝搬経路上における、母材Bと微粒子Gとの実効的な境界面の総量が比較的少なく、低周波数領域用整合部A2では、複数の微粒子Gがより均一に分布しているため、第1整合層5中をZ方向に進行する超音波の伝搬経路上における、母材Bと微粒子Gとの実効的な境界面の総量が比較的多い。そのため、例えば、第1整合層5中を圧電振動子3から音響レンズ7側に伝搬する超音波のZ方向の群速度は、高周波数領域用整合部A1において比較的高くなり、低周波数領域用整合部A2において比較的低くなる。
【0024】
ここで、音波の群速度をV、周波数をF、波長をWとして、V=F×Wの関係が知られている。第1整合層5の厚さに起因する共振条件により、一定の波長Wを有する超音波が強められるため、波長Wを一定とすると、第1整合層5の高周波数領域用整合部A1を伝搬する超音波の群速度は比較的速いため、その周波数Fは高くなり、低周波数領域用整合部A2を伝搬する超音波の群速度は比較的遅いため、その周波数Fは低くなることがわかる。
【0025】
また、高周波数領域用整合部A1は、音響整合層4のY方向における中央部に配置されているため、音響整合層4のY方向の全体の幅に比べて比較的狭い開口幅を有している。一方、低周波数領域用整合部A2は、音響整合層4のY方向における両端部に配置されているため、比較的広い開口幅を有している。そのため、高周波数領域用整合部A1を透過した超音波が音響レンズ7により収束された超音波ビームのY方向の幅は、比較的狭くなり、低周波数領域用整合部A2を透過した超音波が音響レンズ7により収束された超音波ビームのY方向の幅は、比較的広くなる。
【0026】
また、一般的に、超音波ビームの周波数が高いほど高い画質を有する超音波画像を得ることができるが、超音波ビームが減衰しやすく、超音波ビームの周波数が低いほど超音波ビームが減衰しにくいという特徴が知られている。
そのため、被検体内の浅部においては、比較的高い周波数を有し且つY方向において狭い幅を有する超音波ビームに起因する高い画質を有する超音波画像を得ることができ、被検体の深部においては、比較的低い周波数を有し且つY方向において広い幅を有する超音波ビームに起因する高い画質を有する超音波画像を得ることができる。
【0027】
ここで、従来から、深度に応じて超音波ビームのY方向における幅を調節するための方法として、Y方向にも複数の圧電振動子を配列させて、Y方向において使用される複数の圧電振動子を選択することにより、Y方向における超音波の送受信の開口幅を制御する方法が知られている。しかしながら、この方法では、超音波探触子の構成が複雑になり、超音波を送受信するためのシステムの制御も複雑となってしまうという問題があった。
本発明の実施の形態1に係る超音波探触子1によれば、単純な構成を有しながらも、深度に関わらず高い画質を有する超音波画像を得ることができる。
【0028】
次に、本発明の実施の形態1に係る超音波探触子1において特徴的な部材である第1整合層5の製造方法について説明する。
まず、鉄、タングステン、アルミナ、ジルコニアまたはシリカ等から形成される微粒子Gに対して表面処理がなされる。
【0029】
微粒子Gに対する表面処理としては、例えば、炭化水素油、エステル油、ラノリン等による油剤処理、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等によるシリコーン処理、パーフルオロアルキル基含有エステル、パーフルオロアルキルシラン、パーフルオロポリエーテルおよびパーフルオロアルキル基を有する重合体等によるフッ素化合物処理、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等によるシランカップリング剤処理、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルピロホスフェート)チタネート等によるチタンカップリング剤処理、金属石鹸処理、アシルグルタミン酸等によるアミノ酸処理、水添卵黄レシチン等によるレシチン処理、コラーゲン処理、ポリエチレン処理、保湿性処理、無機化合物処理、メカノケミカル処理、リン酸、亜リン酸、リン酸塩、亜リン酸塩等によるリン酸化合物処理等の処理方法が用いられる。中でも、微粒子Gの分散度を制御する観点から、リン酸化合物処理が行われることが好ましい。
【0030】
この際に、表面処理の度合いが大きい高周波数領域用の微粒子Gと、表面処理の度合いが小さい低周波数領域用の微粒子Gが得られる。例えば、同一の表面処理剤を用いる場合でも、表面処理の際に表面処理剤の量を多くするほど、母材Bに対する分散度が高い微粒子Gを得ることができ、表面処理剤の量を少なくするほど、母材Bに対する分散度が低い微粒子Gを得ることができる。また、例えば、表面処理の回数を多くするほど、母材Bに対する分散度が高い微粒子Gを得ることができ、表面処理の回数を少なくするほど、母材Bに対する分散度が低い微粒子Gを得ることができる。
【0031】
ここで、微粒子Gは、圧電振動子3から発せられ且つ第1整合層5中を伝搬する超音波の減衰を低減するために、0.01μm以上100.00μm以下の直径を有することが好ましく、1.00μm以上10.00μm以下の直径を有することがより好ましいが、微粒子Gの直径は、次のように計測されることができる。まず、十分に表面処理がなされた微粒子Gを0.5質量%となるようにメタノールに添加し、10分間超音波にかけることにより、メタノール中に微粒子Gを分散させる。このようにしてメタノール中に分散した微粒子Gの粒度分布を、レーザ解析散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製、商品名:LA950V2)により測定し、測定された粒度分布に基づいて体積基準メジアン径を算出することにより、微粒子Gの直径を得ることができる。この際の体積基準メジアン径とは、粒度分布を累積分布として表した場合の累積50%に相当する粒子径である。
【0032】
次に、母材Bとして、エポキシ樹脂またはウレタン樹脂等の加熱により硬化する樹脂材料を用意し、硬化前の樹脂材料に高周波数領域用の微粒子Gを添加して、樹脂材料と高周波数領域用の微粒子Gをいわゆる遊星式のミキサ等により混合することにより、高周波数領域用の混合物を得る。また、硬化前の樹脂材料に低周波数領域用の微粒子Gを添加して、樹脂材料と低周波数領域用の微粒子Gを遊星式のミキサ等により混合することにより、低周波数領域用の混合物を得る。このようにして得られた硬化前の高周波数領域用の混合物と、硬化前の低周波数領域用の混合物を、それぞれ加熱して硬化し、硬化後の混合物を板状に成型することにより、図3に示すような、高周波数領域用整合部材M1と、低周波数領域用整合部材M2が得られる。なお、硬化後の混合物を板状に成型する際には、研磨およびいわゆるダイシングソー等によるダイシングがなされる。
【0033】
さらに、エポキシ接着剤等の接着剤を用いて、図3に示すように、得られた高周波数領域用整合部材M1の両端に、それぞれ、低周波数領域用整合部材M2を接着することにより、図4に示すような第1整合層5が得られる。高周波数領域用整合部材M1は、高周波数領域用整合部A1に相当し、低周波数領域用整合部材M2は、低周波数領域用整合部A2に相当している。このようにして得られた第1整合層5は、第1整合層5を伝搬する超音波の波長の4分の1の厚さ等、所望の厚さとなるように研磨される。
【0034】
続いて、本発明の実施の形態1に係る超音波探触子1の製造方法を説明する。
図5に示すように、圧電振動子3に引出し配線9を電気的に接続したものをバッキング材2に貼り付け、圧電振動子3上に第1整合層5を貼り付け、第1整合層5上に第2整合層6を貼り付ける。この状態において、ダイシングソー等を用い、圧電振動子3、第1整合層5および第2整合層6をYZ面に沿って一緒に切断することにより、圧電振動子3、第1整合層5および第2整合層6を複数の断片に分断する。これにより、圧電振動子3、第1整合層5および第2整合層6の複数の断片が、X方向に沿って配列される。
【0035】
ここで、第1整合層5は、高周波数領域用整合部材M1と低周波数領域用整合部材M2が互いに接着されることにより構成されているが、高周波数領域用整合部材M1と低周波数領域用整合部材M2は、互いに同一の材料により構成されているため、第1整合層5が切断される際に、ダイシングソー等へのダメージが生じにくく、ダイシングの品質を向上させることができる。特に、12MHz~15MHz程度の高い周波数の超音波を発生させるためには、圧電振動子3の配列ピッチPを非常に短くするように精密な切断加工をする必要があるが、このような場合でも、圧電振動子3、第1整合層5および第2整合層6を短い配列ピッチPで容易に切断することができる。
【0036】
このようにして圧電振動子3、第1整合層5および第2整合層6が切断されると、X方向に隣接する圧電振動子3、第1整合層5および第2整合層6の間がエポキシ樹脂等の充填剤で埋められて、図1に示す分離部8が形成される。
【0037】
次に、図6に示すように、バッキング材2のY方向の側面にフレキシブルプリント基板(FPC:Flexible Printed Circuit)10が取り付けられ、フレキシブルプリント基板10と圧電振動子3から引き出された引出し配線9とが互いに電気的に接続される。図6に示す例において、フレキシブルプリント基板10と引出し配線9とが、はんだSにより互いに電気的に接続されている。なお、フレキシブルプリント基板10の代わりに、プリント回路版(PCB:Printed Circuit Board)がバッキング材2のY方向の側面に配置されることもできる。
最後に、第2整合層6上に音響レンズ7が装着されることにより、図1に示すように、超音波探触子1が製造される。
【0038】
次に、本発明の実施の形態1に係る超音波探触子1を有する超音波診断装置について説明する。図7に示すように、超音波診断装置11において、超音波探触子1に、送受信回路12、画像生成部13、表示制御部14およびモニタ15が順次接続されている。また、送受信回路12、画像生成部13および表示制御部14に、装置制御部16が接続されている。また、装置制御部16に、入力装置17が接続されている。また、装置制御部16に、図示しないメモリが接続されている。
また、超音波診断装置11は、超音波探触子1および送受信回路12を含む超音波プローブ21を備えている。また、画像生成部13、表示制御部14および装置制御部16により超音波診断装置11用のプロセッサ22が構成されている。
【0039】
送受信回路12は、装置制御部16による制御の下で、超音波探触子1から超音波を送信し且つ超音波探触子1により取得された受信信号に基づいて音線信号を生成する。送受信回路12は、図8に示すように、超音波探触子1に接続されるパルサ23と、超音波探触子1から順次直列に接続される増幅部24、AD(Analog Digital:アナログデジタル)変換部25、フィルタ回路26およびビームフォーマ27を有している。
【0040】
パルサ23は、例えば、複数のパルス発生器を含んでおり、装置制御部16からの制御信号に応じて選択された送信遅延パターンに基づいて、超音波探触子1の複数の圧電振動子3から送信される超音波が超音波ビームを形成するようにそれぞれの駆動信号を、遅延量を調節して複数の圧電振動子3に供給する。このように、圧電振動子3の電極にパルス状または連続波状の電圧が印加されると、圧電振動子3が伸縮し、それぞれの圧電振動子3からパルス状または連続波状の超音波が発生して、それらの超音波の合成波から、超音波ビームが形成される。
【0041】
送信された超音波ビームは、例えば、被検体内の組織等において反射され、超音波プローブ21の超音波探触子1に向かって伝搬する。超音波探触子1のそれぞれの圧電振動子3は、このようにして超音波探触子1に向かって伝搬する超音波エコーを受信することにより伸縮して、電気信号である受信信号を発生させ、これらの受信信号を増幅部24に出力する。
【0042】
増幅部24は、超音波探触子1のそれぞれの圧電振動子3から入力された信号を増幅し、増幅した信号をAD変換部25に送信する。AD変換部25は、増幅部24から送信された信号をデジタルの受信データに変換し、これらの受信データをフィルタ回路26に送信する。フィルタ回路26は、いわゆるローパスフィルタおよびハイパスフィルタを含んでおり、超音波ビームの焦点深さ以上の浅部においては定められた下限値以下の低周波数成分の信号をカットし、超音波ビームの焦点深さよりも深部においては定められた上限値以上の高周波数成分の信号をカットする。これにより、いわゆるS/N比(シグナル/ノイズ比:Signal/Noise ratio)の低い信号を排除する。
【0043】
フィルタ回路26によりフィルタ処理を施された受信データは、ビームフォーマ27に送信される。ビームフォーマ27は、装置制御部16からの制御信号に応じて選択された受信遅延パターンに基づいて設定される音速または音速の分布に従い、フィルタ回路26によりフィルタ処理を施された各受信データに対してそれぞれの遅延を与えて加算することにより、いわゆる受信フォーカス処理を行う。この受信フォーカス処理により、AD変換部25で変換された各受信データが整相加算され且つ超音波エコーの焦点が絞り込まれた音線信号が取得される。
【0044】
画像生成部13は、図9に示されるように、信号処理部28、DSC(Digital Scan Converter:デジタルスキャンコンバータ)29および画像処理部30が順次直列に接続された構成を有している。
信号処理部28は、送受信回路12のビームフォーマ27により生成された音線信号に対し、超音波の反射位置の深度に応じて距離による減衰の補正を施した後、包絡線検波処理を施すことにより、被検体内の組織に関する断層画像情報であるBモード画像信号を生成する。
【0045】
DSC29は、信号処理部28で生成されたBモード画像信号を通常のテレビジョン信号の走査方式に従う画像信号に変換(ラスター変換)する。
画像処理部30は、DSC29から入力されるBモード画像信号に階調処理等の各種の必要な画像処理を施した後、Bモード画像信号を表示制御部14に出力する。本発明では、画像処理部30により画像処理が施されたBモード画像信号を、単に、超音波画像と呼ぶ。
【0046】
表示制御部14は、装置制御部16の制御の下、画像生成部13により生成された超音波画像に所定の処理を施して、超音波画像をモニタ15に表示する。
モニタ15は、表示制御部14による制御の下、画像生成部13により生成された超音波画像を表示するものであり、例えば、LCD(Liquid Crystal Display:液晶ディスプレイ)、有機ELディスプレイ(Organic Electroluminescence Display)等のディスプレイ装置を含む。
【0047】
装置制御部16は、予め記憶している制御プログラム等に基づいて、超音波診断装置11の各部の制御を行う。
入力装置17は、ユーザが入力操作を行うためのものであり、キーボード、マウス、トラックボール、タッチパッドおよびタッチパネル等を備えて構成することができる。
【0048】
図示しないが、装置制御部16に接続されるメモリは、超音波診断装置11の制御プログラム等を記憶するものであり、メモリとしては、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disc Drive:ハードディスクドライブ)、SSD(Solid State Drive:ソリッドステートドライブ)、FD(Flexible Disc:フレキシブルディスク)、MOディスク(Magneto-Optical disc:光磁気ディスク)、MT(Magnetic Tape:磁気テープ)、RAM(Random Access Memory:ランダムアクセスメモリ)、CD(Compact Disc:コンパクトディスク)、DVD(Digital Versatile Disc:デジタルバーサタイルディスク)、SDカード(Secure Digital card:セキュアデジタルカード)、USBメモリ(Universal Serial Bus memory:ユニバーサルシリアルバスメモリ)等の記録メディア、またはサーバ等を用いることができる。
【0049】
なお、画像生成部13、表示制御部14および装置制御部16を有するプロセッサ22は、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)、および、CPUに各種の処理を行わせるための制御プログラムから構成されるが、FPGA(Field Programmable Gate Array:フィードプログラマブルゲートアレイ)、DSP(Digital Signal Processor:デジタルシグナルプロセッサ)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit:アプリケーションスペシフィックインテグレイテッドサーキット)、GPU(Graphics Processing Unit:グラフィックスプロセッシングユニット)、その他のIC(Integrated Circuit:集積回路)を用いて構成されてもよく、もしくはそれらを組み合わせて構成されてもよい。
【0050】
また、プロセッサ22の画像生成部13、表示制御部14および装置制御部16は、部分的にあるいは全体的に1つのCPU等に統合させて構成されることもできる。
【0051】
本発明の実施の形態1における超音波診断装置11は、本発明の実施の形態1に係る音響整合層4を有する超音波探触子1を備えているため、超音波探触子1のエレベーション方向における超音波の送受信の開口幅について複雑な制御をすることなく、深度に関わらず高い画質を有する超音波画像を得ることができる。
【0052】
なお、図2に示す例において、第1整合層5のY方向の中央部に高周波数領域用整合部A1が配置され、第1整合層5のY方向の両端部にそれぞれ低周波数領域用整合部A2が配置されているが、高周波数領域用整合部A1のY方向における長さは、それぞれの低周波数領域用整合部A2のY方向における長さと同一にすることができる。
【0053】
また、高周波数領域用整合部A1のY方向の長さを低周波数領域用整合部A2のY方向の長さよりも長くすることにより、高周波数領域用整合部A1を通して送受信される超音波の割合を増加させることができる。高い周波数を有する超音波ほど減衰しやすいが、高周波数領域用整合部A1をY方向に長くすることにより、比較的高周波数の超音波が被検体内において減衰したとしても、高周波数領域用整合部A1を通して受信される超音波エコーの量を十分に確保して、比較的浅部の超音波の輝度が低下することを防止することができる。そのため、より均一な画質を有する超音波画像を得ることができる。
【0054】
この場合に、例えば、高周波数領域用整合部A1のY方向における長さは、第1整合層5のY方向における全長に対して1/2よりも長いことが好ましい。具体的には、例えば、高周波数領域用整合部A1のY方向における長さは、低周波数領域用整合部A2のY方向における長さの2倍であってもよく、3倍であってもよい。
【0055】
また、第1整合層5における母材Bに対する微粒子Gの分散度は、微粒子Gに表面処理を施すことにより調整されているが、微粒子Gの分散度を調整する方法は、表面処理に限定されない。例えば、微粒子Gを母材B中に機械的に混合する方法を変えることにより、母材B中における微粒子Gの分散度を変化させることができる。例えば、いわゆるプロペラ式のミキサを使用して母材B中に微粒子Gを混合することにより、遊星式のミキサを使用して微粒子Gを混合する場合よりも、微粒子Gの分散度を低くすることができる。そのため、高周波数領域用の混合物を作製する場合には、プロペラ式のミキサを使用して母材B中に微粒子Gを混合し、低周波数領域用の混合物を作製する場合には、遊星式のミキサを使用して母材B中に微粒子Gを混合することができる。
また、例えば、母材B中に微粒子Gを混合する時間を変化させることによっても、微粒子Gの分散度を変化させることができる。
【0056】
また、例えば、母材Bの硬化に要する時間を変えることによっても、微粒子Gの分散度を変化させることができる。例えば、母材Bと微粒子Gの混合物を加熱する温度を低くして母材Bの硬化に要する時間を長くすると、微粒子Gの分散度を低くすることができ、母材Bと微粒子Gの混合物を加熱する温度を高くして母材Bの硬化に要する時間を短くすると、微粒子Gの分散度を高くすることができる。
【0057】
また、超音波探触子1は、音響レンズ7を有しているが、例えば、超音波診断装置11の送受信回路12により、超音波探触子1から発せられる超音波ビームの焦点を調節することができるため、必ずしも音響レンズ7を有さなくてもよい。
【0058】
また、送受信回路12のフィルタ回路26は、超音波ビームの焦点深さよりも深部において、定められた上限以上の高周波数成分の信号をカットすることが説明されているが、例えば、深度が深くなるほど徐々に低周波数成分の信号の割合が多くなるように、高周波数成分の信号を徐々にカットすることもできる。これにより、深度に関わらず、より高い画質を有する超音波画像を得ることができる。
【0059】
実施の形態2
実施の形態1では、第1整合層5が高周波数領域用整合部A1と低周波数領域用整合部A2の2種類の領域により構成される例が説明されているが、Y方向の中央部から両端部に向かうほど超音波の送受信周波数が低くなるように、Y方向の中央部から両端部に向かうほど母材B中の微粒子Gの分散度が高くなっていれば、微粒子Gの分散度が異なる3種類以上の領域により第1整合層5を構成することもできる。
【0060】
図10に示すように、本発明の実施の形態2に係る超音波探触子1Aは、図1および図2に示す実施の形態1の超音波探触子1において、音響整合層4の代わりに音響整合層4Aを備えたものである。また、音響整合層4Aは、実施の形態1における音響整合層4において、第1整合層5の代わりに第1整合層5Aを有している。第1整合層5Aは、Y方向の中央部に第1周波数領域用整合部A3と、第1周波数領域用整合部A3のY方向の両端部に隣接する第2周波数領域用整合部A4と、第1整合層5AのY方向の両端部に位置する第3周波数領域用整合部A5とを有している。
【0061】
母材B中の微粒子Gの分散度は、第1周波数領域用整合部A3が最も低く、第2周波数領域用整合部A4が次に低く、第3周波数領域用整合部A5が最も高いため、第1周波数領域用整合部A3を透過した超音波が最も周波数が高く、第2周波数領域用整合部A4を透過した超音波が次に周波数が高く、第3周波数領域用整合部A5を透過した超音波が最も周波数が低い。また、第1周波数領域用整合部A3が第1整合層5AのY方向の中央部に位置し、第2周波数領域用整合部A4が第1周波数領域用整合部A3のY方向の両端部に隣接し、第3周波数領域用整合部A5が第1整合層5AのY方向の両端部に位置しているため、超音波を送受信する開口幅は、第1周波数領域用整合部A3が最も狭く、第2周波数領域用整合部A4が次に狭く、第3周波数領域用整合部A5が最も広い。そのため、それぞれの整合部を透過した超音波が音響レンズ7により収束されて形成される超音波ビームのY方向の幅は、第1周波数領域用整合部A3を透過する超音波ビームが最も狭く、第2周波数領域用整合部A4を透過する超音波ビームが次に狭く、第3周波数領域用整合部A5を透過する超音波ビームが最も広くなる。
【0062】
高い周波数を有する超音波ビームほど被検体内において減衰しやすいため、比較的浅部の領域においては、主に、高い周波数を有する超音波ビームにより超音波画像が形成され、中程度の深さの領域においては、主に、中程度の周波数を有する超音波ビームにより超音波画像が形成され、比較的深部の領域においては、主に、低い周波数を有する超音波ビームにより超音波画像が形成される。
したがって、本発明の実施の形態2に係る超音波探触子1Aによれば、単純な構成を有しながらも、深度に関わらず、より高い画質を有する超音波画像を得ることができる。
【0063】
なお、図10には、第1整合層5Aが第1周波数領域用整合部A3と、第2周波数領域用整合部A4と、第3周波数領域用整合部A5の3種類の領域により構成される例が示されているが、第1整合層5Aを、微粒子Gの分散度が異なる4種類以上の領域により構成することもできる。また、第1整合層5AのY方向の中央部から両端部に向かうほど母材B中の微粒子Gの分散度が連続的に高くなるように第1整合層5Aを構成することもできる。これにより、より均一な画質を有する超音波画像を得ることができる。
【0064】
また、図示しないが、実施の形態1の超音波プローブ21と同様にして、実施の形態2に係る超音波探触子1Aを含む超音波プローブを構成することができ、さらに、実施の形態1の超音波診断装置11と同様にして、この超音波プローブを備える超音波診断装置を構成することができる。
【0065】
実施の形態3
実施の形態1では、第1整合層5は、1つの層により構成されているが、複数の層により構成されることもできる。
図11に示すように、本発明の実施の形態3に係る超音波探触子1Bは、図1および図2に示す実施の形態1の超音波探触子1において、音響整合層4の代わりに音響整合層4Bを備えている。また、音響整合層4Bは、実施の形態1における音響整合層4において、第1整合層5の代わりに第1整合層5Bを有している。第1整合層5Bは、圧電振動子3側に配置された振動子側第1整合層31Aと、音響レンズ7側に配置されたレンズ側第1整合層31Bとを有している。
【0066】
振動子側第1整合層31Aとレンズ側第1整合層31Bは、実施の形態1における第1整合層5と同様に、第1整合層5BのY方向の中央部に配置された高周波数領域用整合部A1と、第1整合層5BのY方向の両端部に配置された低周波数領域用整合部A2を有している。また、振動子側第1整合層31Aとレンズ側第1整合層31Bは、互いに同一の母材Bと微粒子Gを含んでいる。しかしながら、母材Bにおいて単位体積あたりに含まれる微粒子Gの数は、レンズ側第1整合層31Bよりも振動子側第1整合層31Aの方が多い。これにより、振動子側第1整合層31Aは、レンズ側第1整合層31Bの音響インピーダンスよりも高い音響インピーダンスを有している。
【0067】
このように、第1整合層5Bが、互いに異なる音響インピーダンスを有する複数の層からなる多層構造を有することにより、超音波探触子1Bが接触する被検体と圧電振動子3との間の音響インピーダンスを精度良く整合させ、被検体内に超音波をより入射させやすくすることができる。また、振動子側第1整合層31Aとレンズ側第1整合層31Bにおいて、同一の母材Bが使用されているため、例えば、超音波探触子1Bの製造工程において、圧電振動子3および音響整合層4Bがダイシングソー等により切断される際に、ダイシングソー等へのダメージが発生しにくく、ダイシングの品質を向上させることができる。特に、12MHz~15MHz程度の高い周波数の超音波を発生させるためには、圧電振動子3の配列ピッチPを非常に短くするように精密な切断加工をする必要があるが、このような場合でも、圧電振動子3、音響整合層4Bを短い配列ピッチPで容易に切断することができる。
【0068】
なお、振動子側第1整合層31Aに対して音響インピーダンスが比較的高い母材Bを使用し、レンズ側第1整合層31Bに対して音響インピーダンスが比較的低い母材Bを使用することもできる。この場合でも、超音波探触子1Bが接触する被検体と圧電振動子3との間の音響インピーダンスを精度良く整合させ、被検体内に超音波をより入射させやすくすることができる。
【0069】
また、図11に示す例では、第1整合層5Bは、振動子側第1整合層31Aとレンズ側第1整合層31Bの2つの層により構成されているが、第1整合層5Bは、例えば、互いに異なる音響インピーダンスを有する3つ以上の層により構成されることもできる。これにより、超音波探触子1Bが接触する被検体と圧電振動子3との間の音響インピーダンスをさらに精度良く整合させ、被検体内に超音波を入射させやすくすることができる。
【0070】
また、図示しないが、実施の形態1の超音波プローブ21と同様にして、実施の形態3に係る超音波探触子1Bを含む超音波プローブを構成することができ、さらに、実施の形態1の超音波診断装置11と同様にして、この超音波プローブを備える超音波診断装置を構成することができる。
また、実施の形態3の態様は実施の形態1に適用されることが示されているが、実施の形態2に対しても同様に適用されることができる。
【符号の説明】
【0071】
1,1A 超音波探触子、2 バッキング材、3 圧電振動子、4,4A,4B 音響整合層、5,5A,5B 第1整合層、6 第2整合層、7 音響レンズ、8 分離部、9 引出し配線、10 フレキシブルプリント基板、11 超音波診断装置、12 送受信回路、13 画像生成部、14 表示制御部、15 モニタ、16 装置制御部、17 入力装置、21 超音波プローブ、22 プロセッサ、23 パルサ、24 増幅部、25 AD変換部、26 フィルタ回路、27ビームフォーマ、28 信号処理部、29 DSC、30 画像処理部、31A 振動子側第1整合層、31B レンズ側第1整合層、A1 高周波数領域用整合部、A2 低周波数領域用整合部、A3 第1周波数領域用整合部、A4 第2周波数領域用整合部、A5 第3周波数領域用整合部、B 母材、G 微粒子、M1 高周波数領域用整合部材、M2 低周波数領域用整合部材、P 配列ピッチ、S はんだ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11