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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】IGZOスパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20241007BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20241007BHJP
   C04B 35/01 20060101ALI20241007BHJP
   H01L 21/363 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C23C14/08 K
C04B35/01
H01L21/363
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022003203
(22)【出願日】2022-01-12
(65)【公開番号】P2022108736
(43)【公開日】2022-07-26
【審査請求日】2023-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2021003780
(32)【優先日】2021-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】桑名 悠平
(72)【発明者】
【氏名】長田 幸三
(72)【発明者】
【氏名】村井 一貴
(72)【発明者】
【氏名】水藤 耕介
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-106003(JP,A)
【文献】国際公開第2016/136611(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
C23C 14/08
C04B 35/01
H01L 21/363
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び不可避的不純物からなる酸化物焼結体を有するスパッタリングターゲットであって、
前記酸化物焼結体の厚み方向でのバルク抵抗の最小値Rmin(mΩ・cm)および最大値Rmax(mΩ・cm)は、
Rmin≧50mΩ・cm、Rmax≦200mΩ・cm、Rmax/Rmin≦1.3
を満たす、IGZOスパッタリングターゲット。
【請求項2】
コード法で測定される前記酸化物焼結体の組織粒径が1.7~15μmであり、相対密度が97%以上である、請求項1に記載のIGZOスパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記酸化物焼結体が円形平板状、矩形平板状、または円筒形状である、請求項1または2に記載のIGZOスパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記酸化物焼結体中のIn含有量を100とするとき、原子数比率でGaが100±20、Znが100±20である、請求項1~3のいずれかに記載のIGZOスパッタリングターゲット。
【請求項5】
前記酸化物焼結体のバルク抵抗の平均値Rave(mΩ・cm)は、55~180mΩ・cmである、請求項1~4のいずれかに記載のIGZOスパッタリングターゲット。
【請求項6】
前記酸化物焼結体の厚みが15mm以下である、請求項1~5のいずれかに記載のIGZOスパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IGZOスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、FPD(フラットパネルディスプレイ)において、そのバックプレーンのTFT(薄膜トランジスタ)に、α-Si(アモルファスシリコン)が用いられてきた。しかし、α-Siでは十分な電子移動度が得られず、近年では、α-Siよりも電子移動度が高いIn-Ga-Zn-O系酸化物(IGZO)を用いたTFTの研究開発が行われている。そして、IGZO-TFTを用いた次世代高機能フラットパネルディスプレイが一部実用化され、注目を集めている。
【0003】
IGZO膜は、主として、IGZO焼結体から作製されるスパッタリングターゲットをDCスパッタリングして成膜することで得ることができる。DCスパッタリングでは、安定したDCスパッタリングを可能とするため、バルク抵抗が低いターゲットが好ましいとされており(例えば特許文献1参照)、酸化物の焼結温度、焼結時の雰囲気等を調整して当該焼結体の酸素欠損量を比較的高く制御することで、焼結体のバルク抵抗を例えば50mΩ・cm以下としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/136611号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、IGZO焼結体を有するスパッタリングターゲットでは、その酸素欠損量(バルク抵抗)が、それを用いて行うスパッタリング条件に合わせて、所望の範囲に調整されている。理由は定かでないが、スパッタリング時の酸素分圧を高く設定する場合、焼結体として、酸素欠損量が少ない、換言すればバルク抵抗が比較的高い方が好ましいことが分かっている。しかし比較的高いバルク抵抗(例えば80mΩ・cm以上)を有するIGZO焼結体を備えるスパッタリングターゲットは、スパッタリング条件を使用初期から使用終期まで同一条件とした場合、スパッタリング中のアーキング発生頻度が断続的に増加したり、得られたIGZOの膜特性・素子特性が変化することがあった。また、得られたIGZOの膜特性・素子特性を変化させないようにするため、スパッタリングターゲットのターゲットライフ(使用経過)に合わせてスパッタリング条件を微調整する必要があることがあった。
【0006】
そこで、本発明は、スパッタリングターゲットの使用時のターゲットライフによって、スパッタリング条件や得られたIGZOの膜特性への影響を抑制可能なIGZOスパッタリングターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述した従来技術の課題を解決するために鋭意検討した結果、比較的高いバルク抵抗を有するIGZO焼結体を備えるスパッタリングターゲットにおいて、当該焼結体は、厚み方向でバルク抵抗に分布が存在することを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
【0008】
本発明のIGZOスパッタリングターゲットは一実施形態において、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び不可避的不純物からなる酸化物焼結体を有するスパッタリングターゲットであって、前記酸化物焼結体の厚み方向でのバルク抵抗の最小値Rmin(mΩ・cm)および最大値Rmax(mΩ・cm)は、Rmin≧50mΩ・cm、Rmax≦200mΩ・cm、Rmax/Rmin≦1.3を満たす。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、スパッタリングターゲットの使用時のターゲットライフによって、スパッタリング条件や得られたIGZOの膜特性への影響を抑制可能なIGZOスパッタリングターゲットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)を詳細に説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本実施形態のIGZOスパッタリングターゲット(以下、「スパッタリングターゲット」とも称す)は、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び不可避的不純物からなる酸化物焼結体を有するスパッタリングターゲットである。本実施形態のスパッタリングターゲットは、半導体膜を形成するために用いることができ、具体的には有機エレクトロルミネッセンス(EL)やフレキシブルディスプレイなどのFPD(フラットパネルディスプレイ)用のTFT(薄膜トランジスタ)等を形成するために用いることができる。
【0012】
ここで、本実施形態のスパッタリングターゲットの酸化物焼結体は、In23-Ga23-ZnOを主成分とし、主としてインジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)の複合酸化物から構成されている。なお、酸化インジウム、酸化ガリウム、酸化亜鉛の単独の酸化物を含んでもよい。
より詳細には、たとえば酸化物焼結体中のIn含有量を100としたときのGa含有量目標値100、Zn含有量目標値100の組成では、原子数比率でGaが100±20、Znが100±20であることが好ましく、より好ましくは、Gaが100±10、Znが100±10であり、さらに好ましくは、Gaが100±3、Znが100±3である。なお、酸化物焼結体中のIn、Ga、Znの含有量は、蛍光X線、ICP-AESなどの方法で測定することができる。
【0013】
また、本実施形態において、酸化物焼結体は、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)の他に、酸化物として他の添加元素を更に含有することができ、具体的には、Sn、Zr、Mg、Al、Si、Y、Tiの群から選ばれる少なくとも1種以上の酸化物を含有してもよい。これらの他の添加元素の総量は、金属量換算で50~1000質量ppmであることが好ましく、より好ましくは、100~500質量ppmである。これら他の添加元素の総量を、1000質量ppm以下とすることにより、バルク抵抗値を調整することができ、50質量ppm以上とすることにより、添加元素を添加することによる効果を十分に得ることができる。なおここでの添加元素は粉砕メディア摩耗による不可避的不純物としての混入も含む。
また、本実施形態においては、酸化物焼結体は、酸化物として他の添加元素をさらに含有する場合には、少なくとも錫(Sn)を含有することが好ましく、これにより、酸化物焼結体のバルク抵抗を比較的大きくすることができる。また、少なくとも錫を含有する場合には、錫の含有量は1000質量ppm以下が好ましく、より好ましくは500ppm以下である。
【0014】
また、不可避的不純物とは、概ね金属あるいは金属酸化物製品において、原料中に存在したり、製造工程において不可避的に混入したりするもので、例えば原料粉粉砕時のメディアなどが挙げられる。本来は不要なものであるが、微量であり、金属あるいは金属酸化物製品の特性に影響を及ぼさないため、許容されている不純物である。本実施形態に係るスパッタリングターゲットにおいて、不可避的不純物の総量は一般的には1000質量ppm以下であり、典型的には500質量ppm以下であり、より典型的には200質量ppm以下である。
【0015】
本実施形態のスパッタリングターゲットの酸化物焼結体において、酸化物焼結体の厚み方向でのバルク抵抗の最小値をRmin(mΩ・cm)とし、最大値をRmax(mΩ・cm)とする。
この場合において、本実施形態では、Rmin(mΩ・cm)、Rmax(mΩ・cm)が、
Rmin≧50mΩ・cm、Rmax≦200mΩ・cm、Rmax/Rmin≦1.3
を満たしている。
本実施形態において、酸化物焼結体の厚み方向でのバルク抵抗の最小値Rmin(mΩ・cm)、最大値Rmax(mΩ・cm)が上記関係を有することにより、スパッタリングターゲットの使用時のターゲットライフによって、スパッタリング条件や得られたIGZOの膜特性への影響を抑制することができる。具体的には、厚み方向でのバルク抵抗の最小値Rminが50mΩ・cm以上であることにより、酸素欠損量が少ない酸化物焼結体を備えるスパッタリングターゲットを得ることができ、スパッタリング時の酸素分圧を高く設定することができる。また、厚み方向でのバルク抵抗の最大値Rmaxが200mΩ・cm以下であることにより、スパッタリングターゲットをDCスパッタリングすることができる。さらに、Rmax/Rmin≦1.3であることにより、厚み方向でのバルク抵抗の分布を抑制することができ、それゆえに、スパッタリングターゲットの使用時のターゲットライフによって、スパッタリング条件や得られたIGZOの膜特性への影響を抑制することができる。
【0016】
なお、酸化物焼結体の厚み方向でのバルク抵抗の最小値Rmin(mΩ・cm)は、スパッタリングターゲット中の酸素欠損量低減の観点から、好ましくはRmin≧80mΩ・cmである。
また、酸化物焼結体の厚み方向でのバルク抵抗の最大値Rmax(mΩ・cm)は、スパッタリングターゲットを効果的にDCスパッタリングする観点から、好ましくはRmax≦180mΩ・cmである。
さらに、厚み方向でのバルク抵抗の分布をより低減する観点からは、好ましくはRmax/Rmin≦1.2である。
【0017】
スパッタリングターゲット中の酸化物焼結体の厚み方向でのバルク抵抗は、酸化物焼結体の、最表面からk(mm)(k=1~7の整数)研削して現れる面の合計7面(研削した面が7面)のそれぞれにおいて、任意の3点でバルク抵抗を四探針法により測定し、その算術平均値を当該厚み方向位置(当該特定の面)についてのバルク抵抗値とした。また、バルク抵抗の最小値Rmin、最大値Rmaxは、上記7面のバルク抵抗値のうち最小であるものを最小値Rmin、最大であるものを最大値Rmaxとした。酸化物焼結体のバルク抵抗の平均値Raveは、上記7面についてのバルク抵抗値の算術平均を意味する。また、バルク抵抗の測定は、四探針法により行った。
【0018】
なお、本実施形態において、酸化物焼結体の厚み方向でのバルク抵抗の最小値Rmin(mΩ・cm)、バルク抵抗の最大値Rmax(mΩ・cm)、バルク抵抗の比Rmax/Rmin、および後述のバルク抵抗の平均値Rave(mΩ・cm)のそれぞれの値は、酸化物焼結体を得るための原料の成型体を焼結する際、高い酸素分圧下で行うとともに、焼成温度、焼成時間、焼成雰囲気、昇降温速度の調整、焼成後のアニール処理、組成の微調整等により、制御することができ、具体的には、これら条件を複雑に調整することにより所望の範囲のバルク抵抗とすることができる。
より具体的には、酸化物焼結体の形成時の最高焼成温度によって、InZnGaO4相の形成過程における、酸素が焼成雰囲気から金属原子へ吸着される程度が変わるとともに、また、焼結体表面からの酸素成分昇華による酸素欠損の発生の程度も変わる。より具体的には、酸化物焼結体の形成時の焼成温度が相対的に低温度の領域では、InZnGaO4相の形成過程において、酸素欠損が形成されやすく(バルク抵抗が小さくなりやすく)、焼成温度が相対的に中温度の領域では、酸素が焼成雰囲気から金属原子へ吸着されやすい(酸素欠損が形成されにくくバルク抵抗が大きくなりやすい)。一方、焼結体表面からの酸素成分昇華の観点では、焼成温度が相対的に低温度の領域では、酸素成分昇華が生じにくく、それ故に、酸素欠損が形成されにくい(バルク抵抗が大きい)。また、焼成温度が相対的に高くなるに従い、酸素成分昇華が生じやすくなり、それ故に、酸素欠損が形成されやすい(バルク抵抗が小さい)。
また、酸化物焼結体の形成時の最高焼成温度の保持時間によって、焼結体表面から焼結体全体への酸素行きわたりの程度(浸透の程度)も変わる。酸素成分昇華が生じにくい、焼成温度が相対的に低温度の領域および中温度の領域では、保持時間が長いほど、焼結体表面から焼結体全体へ酸素行きわたり酸素欠損の程度が平衡状態に達しやすい(バルク抵抗の比Rmax/Rminが1に近づく)。
なお、本実施形態のスパッタリングターゲットの酸化物焼結体を所望のバルク抵抗にするための条件としては、例えば、後述する実施例の欄に記載の各実施例が例示される。
【0019】
また従来技術(特開2015-189630)には、焼成工程で得られた酸化物焼結体を不活性ガス中での還元処理(熱処理)を実施することで、酸化物焼結体のバルク抵抗をターゲット全体で均一化することができるという報告もあるが、後述する実施例の欄に記載する比較例に示すように、本実施形態のスパッタリングターゲットにおいては、顕著な効果は確認されなかった。
【0020】
また、酸化物焼結体のバルク抵抗の平均値Rave(mΩ・cm)は、55~180mΩ・cmであることが好ましく、より好ましくは60~130mΩ・cmであり、さらに好ましくは80~120mΩ・cmである。
バルク抵抗の平均値Rave(mΩ・cm)を55mΩ・cm以上とすることにより、酸素欠損量が少ない、すなわち含有酸素量が相対的に多い酸化物焼結体を備えるスパッタリングターゲットを得ることができ、スパッタリング時の酸素分圧を低く設定することができる。また、平均値Rave(mΩ・cm)を180mΩ・cm以下とすることにより、スパッタリングターゲットをDCスパッタリングすることができる。
【0021】
また、本実施形態において、コード法で測定される酸化物焼結体の組織粒径が1.7μm以上15μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは3.0μm以上10μm以下である。当該組織粒径が大きく15μm超となる場合、スパッタリング時に粗大パーティクルが生じる懸念がある。また、当該組織粒径が1.7μm未満となる場合、焼結が不十分となり十分な密度が得られない懸念がある。
【0022】
また、コード法で測定される組織粒径は、まず、ターゲットから観察用サンプルを切り出し、切り出したサンプルの表面について鏡面研磨を施し、鏡面研磨されたサンプルの表面の組織写真を走査型電子顕微鏡(SEM)で1000倍の倍率で5視野撮影し、撮影した画像上に2本直線を引いて、各直線が結晶粒子と交わる長さの算術平均値の結晶粒径を測定し、算術平均値を組織粒径(結晶粒径)とした。
コード法で測定される酸化物焼結体の組織粒径は、焼結最高温度、焼結保持時間、焼結雰囲気などを調整することで制御することができる。
【0023】
本実施形態のスパッタリングターゲットの酸化物焼結体は、相対密度が97%以上であることが好ましい。相対密度が97%以上であることにより、スパッタリング時のノジュール発生を抑制することができる。
なお、相対密度は、組成によって定まる理論密度に対するアルキメデス密度の比で求められる。
【0024】
ここで、上記理論密度は、スパッタリングターゲットの酸化物焼結体の各構成元素において、酸素を除いた元素の酸化物の理論密度から算出される密度の値である。酸化物焼結体の成分分析を行い、それにより得られる構成元素In、Ga、Znの合計100at%に対するIn、Ga、Znのそれぞれの原子比(at%)から換算して求めた酸化物質量比(質量%)、並びにIn23、Ga23及びZnOの単体密度を用いて理論密度を算出する。具体的には、In23の単体密度を7.18(g/cm3)、Ga23の単体密度を5.95(g/cm3)、ZnOの単体密度を5.61(g/cm3)とし、また、In23の質量比をWIn2O3(質量%)、Ga23の質量比をWGa2O3(質量%)、ZnOの質量比をWZnO(質量%)として、理論密度(g/cm3)=(7.18×WIn2O3+5.95×WGa2O3+5.61×WZnO)/100で算出される。
【0025】
なお、この相対密度は、スパッタリングターゲットの焼結体をIn23、Ga23、ZnOの混合物と仮定して計算される理論密度を基準とするものであり、対象とする焼結体の密度の真の値は上記の理論密度より高くなることもあることから、ここでいう相対密度は100%を超えることもあり得る。
【0026】
本実施形態のスパッタリングターゲットの酸化物焼結体の相対密度は、焼結最高温度、焼結保持時間、焼結雰囲気などを調整することにより上記の範囲に制御することができる。
【0027】
ここで、本実施形態において、酸化物焼結体はスパッタリングターゲットの一部として、必要に応じてバッキングプレートとボンディング材により接合されたものとすることができるが、スパッタリングターゲット中の酸化物焼結体は、円形平板状、矩形平板状、または円筒形状とすることができる。
また、スパッタリングターゲットの酸化物焼結体の厚みは、20mm以下とすることができ、好ましくは3.0~15mmであり、より好ましくは6.0~12mmである。ターゲットの厚みが厚すぎると、焼結時に十分な密度を得られなかったり、バルク抵抗の最大値と最小値の比が所定の範囲になりくい傾向があることから、20mm以下であることが好ましい。また、厚みが3.0mm以上であることにより、ターゲットの使用期間を長くすることができ、スパッタ装置のダウンタイムを減少させ、生産性を向上させることができる。
【0028】
つづいて、本実施形態のスパッタリングターゲットの製造方法を説明する。
本実施形態のスパッタリングターゲットは、原料の混合粉砕工程、造粒工程、成型工程、焼成工程の各工程を経て作製することができる。
混合粉砕工程では、原料粉として、酸化インジウム(In23)粉、酸化ガリウム(Ga23)粉、酸化亜鉛(ZnO)粉を準備する。原料粉の酸化インジウム粉としては、メジアン径(D50):0.5~3.0μm、比表面積:4.0~10m2/g、であり、酸化ガリウム粉としては、メジアン径(D50):0.5~4.0μm、比表面積:6.0~30m2/g、であり、酸化亜鉛粉としては、メジアン径(D50):0.1~2.0μm、比表面積:2.0~20m2/gを使用することが好ましい。
【0029】
次に、各原料粉を所望の組成比となるように秤量後、混合粉砕を行う。粉砕方法には求める粒度、被粉砕物質に応じて様々な方法があるが、湿式または乾式によるボールミル、振動ミル、ビーズミル等を用いることができる。均一で微細な結晶粒を得るには、短時間で凝集体の解砕効率が高く、添加物の分散状態も良好となるビーズミル混合法が好ましい。
【0030】
次に、造粒工程において、微粉砕したスラリーの造粒を行う。これは、造粒により粉体の流動性を向上させることで、次工程のプレス成型時に粉体を均一に金型へ充填し、均質な成型体を得るためである。造粒には様々な方式があるが、プレス成型に適した造粒粉を得る方法の一つに、噴霧式乾燥装置(スプレードライヤー)を用いる方法がある。これは粉体をスラリーとし、熱風中に液滴として分散させ、瞬間的に乾燥させる方法であり、10~500μmの球状の造粒粉を連続的に得ることができる。
【0031】
スプレードライヤーによる乾燥では、熱風の入口温度、および出口温度の管理が重要である。入口と出口との温度差が大きければ単位時間当たりの乾燥量が増加し生産性が向上するが、入口温度が高すぎる場合には粉体、および添加したバインダーが熱により変質し、望まれる特性が得られない場合がある。また、出口温度が低すぎる場合は造粒粉が十分に乾燥されない場合がある。
【0032】
また、スラリー中にポリビニルアルコール(PVA)等のバインダーを添加し造粒粉中に含有させることで、成型体の強度を向上させることができる。PVAの添加量は、PVA6質量%含有水溶液を原料粉に対して50~250cc/kg添加することができる。さらに、バインダーに適した可塑剤も添加することで、プレス成型時の造粒粉の圧壊強度を調節することもできる。また、得られた造粒粉に、少量の水を添加し湿潤させることで成型体の強度を向上する方法もある。
【0033】
次いで、成型工程において、造粒粉に対して、金型プレスまたは冷間静水圧プレス(CIP)により、例えば1ton/cm2以上の圧力で1~3分間保持して成型を施し、成型体を得る。
【0034】
続いて、焼成工程において、例えば電気炉を使用し、常圧焼結法のほか、ホットプレス、酸素加圧、熱間静水圧等の加圧焼結法も採用することができる。ただし、製造コストの低減、大量生産の可能性、容易に大型の焼結体を製造できるといった観点から、常圧焼結法を採用することが好ましい。
【0035】
また焼成工程における焼成雰囲気は、雰囲気中に酸素が含まれることが好ましく、より好ましくは酸素雰囲気である。酸素を含むことで(酸素分圧を高くすることで)、酸化物焼結体のバルク抵抗を比較的大きく、また所望の範囲にしやすくすることができる。
また、常圧焼結法では、通常、成型体を大気中にて焼成して焼結させるところ、酸素を導入して焼成する場合の酸素流量としては、5.0~2000L/minが好ましい。
【0036】
焼成工程における最高焼成温度は、1200~1500℃とすることができ、好ましくは1220~1360℃である。当該最高焼成温度を当該範囲にすることにより、酸化物焼結体のバルク抵抗の最小値Rmin(mΩ・cm)、最大値Rmax(mΩ・cm)およびバルク抵抗の比Rmax/Rminを所望の範囲にしやすくすることができる。
また、最高焼成温度での保持時間は、10~100時間とすることができ、好ましくは20~80時間である。当該最高焼成温度の保持時間を当該範囲にすることにより、焼結体の組織粒径を所望の範囲に保ちながら、酸化物焼結体のバルク抵抗の最小値Rmin(mΩ・cm)、最大値Rmax(mΩ・cm)およびバルク抵抗の比Rmax/Rminを所望の範囲にしやすくすることができる。
【0037】
さらに、焼結に際しての昇温速度は、1000℃以上の温度範囲における昇温速度を0.1~5.0℃/minであることが好ましく、より好ましくは0.3~3.0℃/minであり、さらに好ましくは0.5~2.0℃/minである。この温度範囲での昇温速度を5.0℃/min超とすると量産時の工程安定性の観点から好ましくない。また、この温度範囲での昇温速度を0.1℃/min未満とすると生産性の観点から好ましくない。
また、上記の所定の温度範囲外における昇温速度は、特に限定されず任意の昇温速度で行うことができる。
【0038】
さらに、焼結後の成型体(焼結体)の600℃以上の温度範囲での降温を、降温速度10℃/min以下で行うことができる。降温速度を10℃/min以下にすることにより、熱応力による焼結体の割れを抑制することができる。なお、ここで、降温速度を10℃/min以下とする温度範囲を600℃以上とするのは、焼結体の降温時において600℃以上の焼結体で熱応力が大きくなりやすいためである。
なお、降温速度は5.0℃/min以下であることが好ましく、より好ましくは3.0℃/min以下である。また、降温速度は、生産性の観点から0.1℃/min以上であることが好ましく、より好ましくは0.5℃/min以上である。
また、上記の所定の温度範囲外における降温速度は、特に限定されず任意の降温速度で行うことができる。
【0039】
本実施形態のスパッタリングターゲットの製造方法において、上記の焼成工程を経て得られた焼結体は、必要に応じて、平面研削機、円筒研削機、マシニング等の加工機で所望の形状に加工することにより、スパッタリングターゲットを作製できる。スパッタリングターゲットの形状には特に制約はない。例えば、円盤状、矩形状、円筒状などとすることができる。スパッタリングターゲットは必要に応じてバッキングプレートとボンディング材により接合して用いてもよい。
【0040】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明のスパッタリングターゲットは、上記の例に限定されることは無く、適宜変更を加えることができる。
【実施例
【0041】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例になんら限定されるものではない。
【0042】
(スパッタリングターゲットの作製)
実施例1~22、及び比較例1~17のスパッタリングターゲットの酸化物焼結体の原料粉として、酸化インジウム(In23)粉、酸化ガリウム(Ga23)粉、酸化亜鉛(ZnO)粉を準備した。
実施例1~3、6、8、14、18~22、及び比較例3、8、15~17のスパッタリングターゲットでは、酸化インジウム粉として、メジアン径(D50):1.6μm、比表面積:4.2m2/g、酸化ガリウム粉として、メジアン径(D50):1.7μm、比表面積:11.7m2/g、酸化亜鉛粉として、メジアン径(D50):0.6μm、比表面積:3.9m2/gであるものを使用した。
実施例4、5、7、9~13、15~17、及び比較例1、2、4~7、9~14のスパッタリングターゲットでは、酸化インジウム粉として、メジアン径(D50):1.4μm、比表面積:5.0m2/g、酸化ガリウム粉として、メジアン径(D50):1.7μm、比表面積:11.7m2/g、酸化亜鉛粉として、メジアン径(D50):0.6μm、比表面積:3.9m2/gであるものを使用した。また、実施例4、5、7、9~13、15~17、及び比較例1、2、4~7、9~14では、原料として酸化錫(SnO2)粉も表1に記載の量で含有させており(表1では錫原子の含有量)、酸化錫粉は、メジアン径(D50):1.5μm、比表面積:5.7m2/gであるものを使用した。
【0043】
次に、各原料粉を表1に記載の組成比(原子比率)となるように秤量後、ビーズミルにて湿式で混合粉砕を行った。なお、粉砕した後のスラリー中の各原料粉末は粒度が0.6μmであった。次いで、粉砕したスラリーの造粒を行った。造粒は粉体をスラリーとし、スプレードライヤーを用いて熱風中に液滴として分散させ、瞬間的に乾燥させることで、49μmの球状の造粒粉を連続的に得た。
【0044】
次に、実施例1、2、9~13、15~18、20~22及び比較例3、6~9、11~17については、造粒粉を金型に充填しコールドプレスののち、1800kgf/cm2の圧力を、1分間保持して成型し、直径130mm、厚さ21mmの円盤状の成型体を得た。また、実施例14、19、比較例4、10については、造粒粉をゴム型に充填し、1800kgf/cm2の圧力を、1分間保持して成型後切削加工により、軸方向長さ1600mm、外径197mm、内径157mmの円筒状の成型体を得た。また、実施例3~8、比較例1、2、5については、造粒粉を金型に充填しコールドプレスののち、1800kgf/cm2の圧力を、1分間保持して成型し、幅550mm、長さ595mm、厚さ16mmの矩形状の成型体を得た。
そして、それらの成型体を、電気炉を使用し、表1の雰囲気下で焼成して酸化物焼結体を得た。具体的には、表1に記載の条件で、成型体を昇温した後、表1に記載の焼結温度および時間で焼成した。なお、1000℃から最高温度に到達するまでの昇温速度は1℃/minとし、最高温度保持完了後、600℃に冷却されるまでの降温速度は1.5℃/minとした。
【0045】
得られた酸化物焼結体から、実施例1、2、9~13、15~18、20~22及び比較例3、6~9、11~17については、直径100mm、厚さ15mmの円盤状に加工し、実施例14、19、比較例4、10については、軸方向長さ50mm、外径153mm、内径135mmの円筒状に加工した。また、実施例3~8、比較例1、2、5では、幅450mm、長さ450mm、厚さ10mmの矩形状に加工した。
各酸化物焼結体について、後述する評価を行った。
【0046】
なお、比較例13では、比較例12で得られた焼結体を、窒素雰囲気下600℃で5時間の還元処理を行い、また、比較例14では、比較例12で得られた焼結体を、酸素雰囲気下600℃で5時間の熱処理を行った。
また、各成型体を焼成するために用いた電気炉は、炉容積2.2m3のものと(表1では炉(大)と表記)、炉容積0.06m3のもの(表1では炉(小)と表記)を用いた。
【0047】
【表1】
【0048】
得られた酸化物焼結体について、下記のような評価を行った。下記の評価結果について、表2に示す。
(1)酸化物焼結体の密度および相対密度
JIS R 1634に準拠して、アルキメデス法により下記式により算出した焼結体の体積と乾燥重量からかさ密度を算出し、これを理論密度で除することにより相対密度とした。
焼結体体積=(抱水重量-水中重量)/水の密度
焼結体の理論密度は、構成元素In、Ga、Znの合計100at%に対するIn、Ga、Znのそれぞれの原子比(at%)から換算して求めたIn23の質量比WIn2O3(質量%)、Ga23の質量比WGa2O3(質量%)、ZnOの質量比WZnO(質量%)、並びに、In23の単体密度7.18(g/cm3)、Ga23の単体密度5.95(g/cm3)、ZnOの単体密度5.61(g/cm3)を用いて、下記式のように算出した。
理論密度(g/cm3)=(7.18×WIn2O3+5.95×WGa2O3+5.61×WZnO)/100
【0049】
(2)コード法で測定される酸化物焼結体の組織粒径
コード法で測定される酸化物焼結体の組織粒径は、研磨材で表面仕上げした後の酸化物焼結体から観察用サンプルを切り出し、切り出したサンプルの表面について鏡面研磨を施した。鏡面研磨されたサンプルの表面の組織写真を走査型電子顕微鏡(SEM)で1000倍の倍率で5視野撮影し、コード法の評価方法で複数視野(5視野)の結晶粒径(組織粒径)を算術平均値として算出した。コード法では、各表面組織写真に任意の長さの2本の直線を引き、直線が横切った粒子の数で当該直線の長さを割り、この値を表面組織写真の縮尺に当てはめて換算し、合計10本の直線から得た値に基づいて算術平均の結晶粒径を算出した。
なお、表2の組織粒径の項目中の「-」は、測定結果がないことを意味する。
【0050】
(3)バルク抵抗の厚み方向での最小値Rmin(mΩ・cm)および最大値Rmax(mΩ・cm)、平均値Rave(mΩ・cm)
酸化物焼結体の厚み方向でのバルク抵抗は、酸化物焼結体の最表面からk(mm)(k=1~7の整数)研削して現れた面の合計7面のそれぞれにおいて、任意の3点でバルク抵抗を四探針法により測定し、その算術平均値を当該面のバルク抵抗値とした。バルク抵抗の最小値Rmin、最大値Rmaxは、上記7面のバルク抵抗値のうち最小であるものを最小値Rmin、最大であるものを最大値Rmaxとした。酸化物焼結体のバルク抵抗の平均値Raveは、上記7面についてのバルク抵抗値の算術平均した値とした。
【0051】
(4)スパッタリング評価
実施例3、7、8、比較例5で得られた焼結体を、それぞれ127mm×254mmの大きさに加工し、その2枚を組み合わせて127mm×508mmサイズとしたスパッタリングターゲットを作製した。当該スパッタリングターゲットを用いて、DCスパッタリング装置(シンクロン社製、型番:BSC-7011)を使用し、Ar+O2 10vol%雰囲気、全ガス流量300sccm、スパッタ圧力0.6Pa、パワー2.3W/cm2の条件でスパッタリングを行った。実施例3、7、8の焼結体より得たスパッタリングターゲットでは、安定して放電していることが確認され、一方、比較例5の焼結体より得たスパッタリングターゲットでは、断続的にアーキング回数が急増することが確認され、すなわち、バルク抵抗の比をRmax/Rmin≦1.3とすることにより、スパッタリングターゲットの使用時のターゲットライフによって、スパッタリング条件や得られたIGZOの膜特性への影響を抑制可能であることが分かる。
【0052】
【表2】
【0053】
表2に示されるように、酸化物焼結体の厚み方向でのバルク抵抗の最小値Rmin(mΩ・cm)、バルク抵抗の最大値Rmax(mΩ・cm)、バルク抵抗の比Rmax/Rminのそれぞれの値は、酸化物焼結体を得るための原料の成型体を焼結する際、高い酸素分圧下で行うとともに、焼成温度、焼成時間、焼成雰囲気、昇降温速度の調整、焼成後のアニール処理、組成の微調整等により、所望の範囲にすることができる。
なお、比較例12~14の酸化物焼結体は、比較例1で得られた焼結体を上記のような熱処理を行ったものであるが、熱処理を行うことで、バルク抵抗の最小値Rmin(mΩ・cm)、バルク抵抗の最大値Rmax(mΩ・cm)、バルク抵抗の比Rmax/Rminが所望の範囲外になることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、スパッタリングターゲットの使用時のターゲットライフによって、スパッタリング条件や得られたIGZOの膜特性への影響を抑制可能なIGZOスパッタリングターゲットを提供することができる。