(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-04
(45)【発行日】2024-10-15
(54)【発明の名称】金属樹脂複合電磁波シールド材料
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20241007BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20241007BHJP
H01Q 17/00 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
H05K9/00 W
B32B15/08 D
H01Q17/00
(21)【出願番号】P 2024521080
(86)(22)【出願日】2023-09-15
(86)【国際出願番号】 JP2023033800
(87)【国際公開番号】W WO2024090069
(87)【国際公開日】2024-05-02
【審査請求日】2024-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2022171776
(32)【優先日】2022-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山本 悠貴友
【審査官】山田 拓実
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-091579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
B32B 15/08
H01Q 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N(ただし、Nは1以上の整数)枚の金属層と、M(ただし、Mは1以上の整数)枚の樹脂層とが積層された金属樹脂複合電磁波シールド材料であって、
明細書に記載の手順に従い、以下の式から算出されるVFL(Value of Forming Limit)が、VFL>0.24を満たすことを特徴とする金属樹脂複合電磁波シールド材料。
【数1】
(式中、ε
1
及びε
2
は、前記金属樹脂複合電磁波シールド材料の1mmピッチのマスについて、明細書に記載の方法により算出される最大ひずみ及び最小歪みに相当する真ひずみである。)
【請求項2】
前記金属層の導電率をσ(S/m)とし、金属層の合計厚みをd(m)としたときの見かけコンダクタンスCが、C=σ×d>1.0×10
-11(S)を満たす、請求項1に記載の金属樹脂複合電磁波シールド材料。
【請求項3】
各金属層の厚みが4~100μmである、請求項1又は2に記載の金属樹脂複合電磁波シールド材料。
【請求項4】
各樹脂層の厚みが4~600μmである、請求項1又は2に記載の金属樹脂複合電磁波シールド材料。
【請求項5】
各金属層の合計厚みが15~150μmである、請求項1又は2に記載の金属樹脂複合電磁波シールド材料。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の金属樹脂複合電磁波シールド材料を備えた電気・電子機器用の被覆材又は外装材。
【請求項7】
請求項6に記載の被覆材又は外装材を備えた電気・電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属樹脂複合電磁波シールド材料に関する。とりわけ、本発明は電気・電子機器の被覆材又は外装材として使用することができる、金属樹脂複合電磁波シールド材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題に対する関心が全世界的に高まっており、電気自動車やハイブリッド自動車といった二次電池を搭載した環境配慮型自動車の普及が進展している。これらの自動車においては、搭載した二次電池から発生する直流電流をインバータを介して交流電流に変換した後、必要な電力を交流モータに供給し、駆動力を得る方式を採用するものが多い。インバータのスイッチング動作等に起因して電磁波が発生する。電磁波は車載の音響機器や無線機器等の受信障害となることから、インバータ或いはインバータと共にバッテリーやモータ等を金属製ケース内に収容して、電磁波シールドするという対策が行われてきた。
【0003】
しかし、金属の電磁波シールド材料では、成形加工性が低く、また、金属であることから重量の問題も存在する。そこで、樹脂と電磁波シールド性フィラーとを含むインサート成形用樹脂組成物(特許文献1:特開2021-55113号公報)や、網状金属体で形成され折り曲げによりケース体の中央部とその周囲の折り曲げ辺部とを構成する平板のケース展開形状を有する網目状電磁波シールド体を金型内にてインサート成形する方法(特許文献2:特許第4811245号公報)、1本又は複数本の通常の可紡性繊維に金属線材をZ撚り及び/又はS撚りして形成した混合糸を織成してなることを特徴とする電磁波シールド織物(特許文献3:特開2011-179162号公報)が考案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-55113号公報
【文献】特許第4811245号公報
【文献】特開2011-179162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、導電性のフィラーを混ぜた樹脂を用いる場合では、厚みあたりのシールド性が乏しく、磁界のシールドで高いシールド効果を得るためにはより大きな厚みが必要となる。また、網目状シールド体や電磁波シールド織物を利用したインサート成形の場合では、成形体に隙間ができるため四隅ではシールド効果が低下する問題や、磁界のシールドでは効果が小さくなるという欠点がある。そのため、従来技術とは異なるアプローチによる、成形加工性を向上させる手法が必要とされている。
【0006】
電磁波シールド材料に使用される銅箔などの金属箔(金属層)は、一般的に厚みが数μmから数十μmであるために、樹脂フィルムと積層し、成形加工する際に割れが発生しやすい。そのため、割れを抑えて成形加工性を向上させることは重要である。
【0007】
高い成形加工性を有する金属樹脂複合材料は複雑な形状に成形することができるが、成形量が大きな場合、成形の際に内部の金属層が割れることがある。大きな金属層の割れはシールド性の低下につながる恐れがあるため、これを防ぐ必要がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、一実施形態において、高い成形加工性を有する、すなわち5mm以上の凹凸に追従することが可能な金属樹脂複合電磁波シールド材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者が鋭意検討した結果、特定のパラメータから算出されるVFL(Value of Forming Limit)が一定の条件を満たす金属樹脂複合電磁波シールド材料は、成形加工性が高いため、連続体として成形が可能であり、特に5mm以上の凹凸に追従することが可能であることを見出した。本発明は上記知見に基づき完成したものであり、以下に例示される。
【0010】
[1]
N(ただし、Nは1以上の整数)枚の金属層と、M(ただし、Mは1以上の整数)枚の樹脂層とが積層された金属樹脂複合電磁波シールド材料であって、
以下の式から算出されるVFL(Value of Forming Limit)が、VFL>0.24を満たすことを特徴とする金属樹脂複合電磁波シールド材料。
【数1】
[2]
前記金属層の導電率をσ(S/m)とし、金属層の合計厚みをd(m)としたときの見かけコンダクタンスCが、C=σ×d>1.0×10
-11(S)を満たす、[1]に記載の金属樹脂複合電磁波シールド材料。
[3]
各金属層の厚みが4~100μmである、[1]又は[2]に記載の金属樹脂複合電磁波シールド材料。
[4]
各樹脂層の厚みが4~600μmである、[1]~[3]のいずれか1項に記載の金属樹脂複合電磁波シールド材料。
[5]
各金属層の合計厚みが15~150μmである、[1]~[4]のいずれか1項に記載の金属樹脂複合電磁波シールド材料。
[6]
[1]~[5]のいずれか1項に記載の金属樹脂複合電磁波シールド材料を備えた電気・電子機器用の被覆材又は外装材。
[7]
[6]に記載の被覆材又は外装材を備えた電気・電子機器。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、高い成形加工性を有する金属樹脂複合電磁波シールド材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ISO-12004-2-2008に準じて成形限界を評価する方法を説明する図である。
【
図2】変形後の変形角及びマーキング間距離を示す図である。
【
図3】VFLを算出するために必要な最大ひずみε
1及び最小ひずみε
2の計算方法を示す図である。
【
図4】金属層を貫通する割れの様子を例示的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態を詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0014】
(1.金属層)
本発明の一実施形態に係る金属樹脂複合電磁波シールド材料を構成する金属層の材料としては特に制限はないが、金属樹脂複合電磁波シールド材料の金属層の導電率をσ(S/m)とし、金属層の合計厚みをd(m)としたときの見かけコンダクタンスCが、C=σ×d>1.0×10-11(S)を満たすことが好ましい。金属層を複数設ける場合、各層の導電率をσN(S/m)とし、各層の厚みをdN(m)としたときの金属層の合計の見かけコンダクタンスCが、C=ΣσN×dN>1.0×10-11(S)を満たすことが好ましい。これを満たすことにより、金属樹脂複合電磁波シールド材料として高いシールド効果が担保される。
【0015】
本明細書において、導電率は、JIS K7194に定義される4探針法に基づき測定されるものである。
【0016】
金属層表面には接着促進、耐環境性、耐熱及び防錆などを目的とした各種の表面処理層が形成されていてもよい。例えば、金属面が最外層となる場合に必要とされる耐環境性、耐熱性を高めることを目的として、Auめっき、Agめっき、Snめっき、Niめっき、Znめっき、Sn合金めっき(Sn-Ag、Sn-Ni、Sn-Cuなど)、クロメート処理などを施すことができる。これらの処理を組み合わせてもよい。コストの観点からSnめっきあるいはSn合金めっきが好ましい。また、金属層と樹脂層、又は金属層同士の密着性を高めることを目的として、クロメート処理、粗化処理、Niめっきなどを施すことができる。これらの処理を組み合わせてもよい。粗化処理が密着性を得られやすく好ましい。また、直流磁界に対するシールド効果を高めることを目的として、比透磁率の高い金属めっきを設けることができる。比透磁率の高い金属めっきとしてはFe-Ni合金めっき、Niめっきなどが挙げられる。
【0017】
銅箔を使用する場合、シールド性能が向上することから、純度が高いものが好ましく、純度は好ましくは99.5質量%以上、より好ましくは99.8質量%以上である。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔、メタライズによる銅箔等を用いることができるが、屈曲性及び成形加工性(成形加工性には絞り加工性を含む。以下同じ。)に優れた圧延銅箔が好ましい。銅箔中に合金元素を添加して銅合金箔とする場合、これらの元素と不可避的不純物との合計含有量が0.5質量%未満とすることが好ましい。また、銅箔中に、Sn、Mn、Cr、Zn、Zr、Mg、Ni、Si、及びAgの群から選ばれる少なくとも1種以上を合計で50~2000質量ppm、及び/又はPを10~50質量ppm含有すると、同じ厚みの純銅箔より伸びが向上するので好ましい。
【0018】
本発明の一実施形態に係る金属樹脂複合電磁波シールド材料を構成する金属層の厚みは、一枚当たり4μm以上であることが好ましい。4μm以上であれば取り扱いが難しくなることを回避でき、金属層の延性が著しく低下したり、積層体の成形加工性が不十分となったりすることを防止できる。また、一枚当たりの層の厚みが4μm未満だと優れた電磁波シールド効果を得るために多数の金属層を積層する必要が出てくるため、製造コストが上昇するという問題も生じる。このような観点から、金属層の厚みは一枚当たり10μm以上であることがより好ましく、12μm以上であることが更により好ましく、15μm以上であることが更により好ましい。一方で、一枚当たりの層の厚みが100μmを超えると成形加工性を悪化させることもあるので、層の厚みは一枚当たり100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、45μm以下であることが更により好ましく、40μm以下であることが更により好ましい。金属層の厚みの測定方法としては、例えば、定圧厚さ試験機(THICKNESS METER B-1、東洋精機製作所製)を用いてJIS K 6250:2019内のA法に準拠し、シートサンプル面内4点の測定値を平均することで求めることができる。なお、圧子の直径5mm、当該圧子への圧力1.22Nとして測定できる。仮に、積層体中の金属層の厚みを測定する場合には、厚み断面をSEMなどで観察して測定することができる。
【0019】
金属樹脂複合電磁波シールド材料を構成する金属層は一枚でもよいが、成形加工性及びシールド性能を高める観点から、金属樹脂複合電磁波シールド材料を構成する金属層は、樹脂層を介して複数枚積層することが好ましく、金属樹脂複合電磁波シールド材料の合計厚みを薄くしながらも優れた電磁波シールド特性を確保する観点から、金属層は、樹脂層を介して2枚以上積層することがより好ましい。樹脂層を介して、金属層を2枚以上積層することで、金属層の合計厚みが同じだとしても、金属層が単層の場合や、金属層を樹脂層を介さず2枚積層する場合に比べて、シールド効果が顕著に向上する。金属層同士を直接重ねても、金属層の合計厚みが増えることでシールド効果が向上するものの、顕著な向上効果を得るためには、樹脂層を介して、金属層を積層することが好ましい。すなわち、積層体を構成する金属層を樹脂層を介して複数枚積層することで、同一の電磁波シールド効果を得るのに必要な金属層の合計厚みを薄くすることができるので、積層体の軽量化と電磁波シールド効果の両立を図ることが可能となる。なお、この場合、金属層同士を直接重ねなければよく、一部又は全部の樹脂層を重ねて配置する構成も可能である。もちろん、金属層と樹脂層が交互に1枚ずつ積層された構成も可能である。
【0020】
これは、金属層間に樹脂層が存在することで電磁波の反射回数が増えて、電磁波が減衰されることによると考えられる。但し、金属層の積層枚数は多い方が電磁波シールド特性は向上するものの、積層枚数を多くすると積層工程が増えるので製造コストの増大を招き、また、シールド向上効果も飽和する傾向にあるため、金属樹脂複合電磁波シールド材料を構成する金属層は5枚以下であるのが好ましく、4枚以下であるのがより好ましく、3枚以下であることがより好ましい。
【0021】
本発明の一実施形態において、金属層を複数層形成する場合、すべての金属層が同一の材料で構成されてもよいし、層毎に異なる材料を使用してもよい。また、すべての金属層が同一の厚みでもよいし、層毎に厚みが異なってもよい。
【0022】
従って、本発明の一実施形態に係る金属樹脂複合電磁波シールド材料においては、すべての金属層の合計厚みを15~150μmとすることができ、100μm以下とすることもでき、80μm以下とすることもでき、60μm以下とすることもできる。
【0023】
(2.樹脂層)
本発明の一実施形態に係る金属樹脂複合電磁波シールド材料において、金属層と金属層の間に樹脂層を挟み込むことで、複数枚の金属層を積層することによる電磁波シールド効果の顕著な改善が得られる。金属層同士を直接重ねても、金属層の合計厚みが増えることでシールド効果が向上するものの、顕著な向上効果を得るためには、樹脂層を介して、金属層を積層することが好ましい。これは、金属層間に樹脂層が存在することで電磁波の反射回数が増えて、電磁波が減衰されることによると考えられる。
【0024】
樹脂層としては、金属層とのインピーダンスの差が大きいものの方が、優れた電磁波シールド効果を得る上では好ましい。大きなインピーダンスの差を生じさせるには、樹脂層の比誘電率が小さいことが必要であり、具体的には10.0(20℃の値。以下同じ。)以下であることが好ましく、5.0以下であることがより好ましく、3.5以下であることが更により好ましい。比誘電率は原理的には1.0より小さくなることはない。一般的に手に入る材料では低くても2.0程度であり、これ以上低くして1.0に近づけてもシールド効果の上昇は限られている一方、材料自体が特殊なものになり高価となる。コストと作用との兼ね合いを考えると、比誘電率は2.0以上であることが好ましく、2.2以上であることがより好ましい。
【0025】
具体的には、成形加工性の観点から、樹脂層を構成する材料として、特に合成樹脂が好ましい。樹脂層には炭素繊維、ガラス繊維及びアラミド繊維などの繊維強化材を混入させることも可能である。またシールド性を向上させる観点から、本発明に影響のない範囲で樹脂層には磁性材料を混入させてもよい。合成樹脂としては、入手のしやすさや成形加工性の観点から、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)及びPBT(ポリブチレンテレフタレート)等のポリエステル、ポリエチレン及びポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリアミド、ポリイミド、液晶ポリマー、ポリアセタール、フッ素樹脂、ポリウレタン、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ABS樹脂、ポリビニルアルコール、尿素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、スチレンブタジエンゴム等が挙げられ、これらの中でも成形加工性、コストの理由によりPET、PEN、ポリアミド、ポリイミドが好ましい。合成樹脂はウレタンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、スチレン系、オレフィン系、塩ビ系、ウレタン系、アミド系などのエラストマーとすることもできる。本発明の一実施形態に係る金属樹脂複合電磁波シールド材料に使用する樹脂層はすべて同一の樹脂材料で構成されもよいし、層毎に異なる樹脂材料を使用してもよい。成形性の観点から、好ましくは、樹脂層の一部又は全部が絶縁層である。
【0026】
樹脂材料はフィルム状や繊維状の形態で積層することができる。また、金属層に未硬化の樹脂組成物を塗布後に硬化させることで樹脂層を形成してもよいが、金属層に貼付可能な樹脂フィルムとするのが製造しやすさの理由により好ましい。特にPETフィルムを好適に用いることができる。特に、PETフィルムとして2軸延伸フィルムを用いることにより、シールド材の強度を高めることができる。
【0027】
樹脂層の厚みは特に制限されないが、一枚当たりの厚みが4μmより薄いとシールド材の(伸び)破断歪が低下する傾向にあることから、樹脂層の一枚当たりの厚みは4μm以上であることが好ましく、7μm以上であることがより好ましく、9μm以上であることが更により好ましく、10μm以上であることが更により好ましく、20μm以上であることが更により好ましく、40μm以上であることが更により好ましく、80μm以上であることが更により好ましく、100μm以上であることが更により好ましい。一方、一枚当たりの厚みが600μmを超えてもシールド材の(伸び)破断歪が低下する傾向にある。そこで、樹脂層の一枚当たりの厚みは600μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましく、400μm以下であることが更により好ましく、250μm以下であることが更により好ましく、200μm以下であることが更により好ましい。本発明の一実施形態において、すべての樹脂層が同一の厚みでもよいし、層毎に厚みが異なってもよい。ここで、樹脂層一枚とは、金属層が介在されずに樹脂が連続している部分を意味する。例えば、電磁波シールド材の製造過程で複数の樹脂フィルムを連続的に積層する場合でも、これらのフィルム間には金属層が介在しておらず、見かけ上は1つの連続体であるため、一枚の樹脂層として見なされる。樹脂層の厚みは、上述した金属層の厚みの測定方法と同様の方法で測定できる。
【0028】
一般的に、樹脂層は金属層と比較して延性が高い。このため、各金属層の両面を樹脂層によりサポートすることにより、シールド用金属層の延性が顕著に向上し、積層体の成形加工性が有意に向上する。成形加工性向上の観点から、金属層同士を直接重ねるより、樹脂層を介して金属層を重ねることが好ましい。
【0029】
樹脂層表面には金属層との密着性促進などを目的とした各種の表面処理が行われてもよい。例えば、樹脂層のシールド用金属層との貼合面にプライマーコートやコロナ処理を行うことでシールド用金属層との密着性を高めることができる。
【0030】
(3.電磁波シールド材料)
本発明の一実施形態において、N(ただし、Nは1以上の整数)枚の金属層と、M(ただし、Mは1以上の整数)枚の樹脂層とが積層された金属樹脂複合電磁波シールド材料であって、以下の式から算出されるVFL(Value of Forming Limit)が、VFL>0.24を満たすことを特徴とする金属樹脂複合電磁波シールド材料が提供される。
【数2】
【0031】
Nは、1以上の整数であれば特に制限されず、Nを大きくすることでより高い電磁波シールド効果を得ることができる。ただし、前述のように、典型的には、Nは1、2、3、4、又は5である。
【0032】
Mは、1以上の整数であれば特に制限されないが、金属層同士の間に樹脂層を挟み込み、電磁波シールド効果を向上させるために、典型的には、M=N+1又はM=N-1又はM=Nである。アース接続等の観点からは最外層の少なくとも一方は金属層であることが好ましい。
【0033】
以下、VFLの算出方法を詳しく説明する。前述の式から算出されるVFLが大きければ大きいほど、成形加工性が高いことを本発明者は見出している。
【0034】
FLD(成形限界線図)用の金型を用いて成形限界を評価する(
図1)。金型はISO-12004-2-2008で記載されている大きさを25%に縮小して設計する。パンチの寸法はD=22.5mm、R部R
f=2mm、4mm又は6mmとする。ダイのR部R
d=2mmとする。パンチとダイのクリアランスは2.25mmとする。しわ押えにはW型ノッチを付け、金型の押さえ圧力を初期圧として4000Nとすることで、試験片が成形時に引き込まれないようにする。試験片の設置の際には、材質や摩擦による影響を小さくするために駆動板を試験片とストリッパープレートの間に挟む。駆動板としては日東電工株式会社製ニトフロンNo.900UL(厚み0.05mm)を用いることができる。また駆動板は外形φ60mmで中央にφ2mmの穴をあけた形状とする。φ60mmの円形の試験片を切り出し、中央付近に1mmピッチのグリッド状のマーキングを施し、パンチ押し出し深さを0.5mmずつ増加させて試験片を成形加工する。1つの深さに対してn=3の試験片を用意し、各試験片の中央付近のグリッドのうち任意の4つのマスについてマイクロスコープで観測し、金属層を貫通する割れが50%以上(すなわち、合計12個の観測箇所のうち6つ以上)観測された時のパンチ押し出し深さを記録する。そして、当該パンチ押し出し深さにおける各マスの大きさ(L
1、L
2、L
3、L
4)、変形角度(θ
1、θ
2)をマイクロスコープにて測定する(
図2)。
【0035】
次に、各試験片の上記4つのマスについて、以下の式に従い、変形後のマスの平均長さ、及び、平均変形角:
を算出する。
【数3】
【数4】
【数5】
【0036】
次に、
図3を参照して、上記平均長さ、及び平均変形角に基づいて、当該マス内の最大ひずみ及び最小歪みに相当する真ひずみε
1及びε
2を計算する。
【0037】
ε
1及びε
2の計算手順は以下のとおりである。
まず、
【数6】
としたときに変形後の平行四辺形に内接する楕円は以下のように表される。
【数7】
上記「※」を直交座標(x,y)から極座標変換(r,φ)に変換すると、
【数8】
となる。
f(φ)が最大、最小となるφは(df(φ))/dφ=0と満たすため、(df(φ))/dφ=0を解くと、以下のようなφが求められる。
【数9】
φ
1,2からl
1′及びl
2′を求めると、以下のようになる。
【数10】
l
1′及びl
2′は、楕円の最大径及び最小径を示す。
格子間隔l
0と、l
1′及びl
2′を用いて真ひずみは以下のように表される。
【数11】
計算された値が大きい方を最大ひずみ、小さい方を最小ひずみとする。
【0038】
最後に、金属層を貫通する割れが50%未満となった最大の深さdを成形限界として、以下の式から各マスにおけるVFL(Value of Forming Limit)を算出する。計測ばらつきを少なくするため算出した各マスにおけるVFLを平均し、試験片のVFLとした。
【数12】
【0039】
なお、金属層を貫通する割れとは、金属層が最外層である場合、当該最外層の金属層を貫通する割れを意味し(
図4(A))、金属層の最外層ではなく、樹脂層に覆われている場合、当該樹脂層を剥がして、その樹脂層に最も近傍の内部の金属層を貫通する割れが確認されることを意味する(
図4(B))。樹脂層と金属層がともに割れた場合は観察する4つのマスにおいて金属層の割れが発生していない場合でも、すべてのマスにおいて金属層を貫通する割れがあったとする(
図4(C))。
【0040】
上記手順で計算されたVFLが0.24を超える場合、金属樹脂複合電磁波シールド材料の成形限界が5.0mm以上となることが判明し、成形加工性が高いことが分かった。そのため、VFLが0.24を超える場合、連続体として成形が可能であり、例えば、5mm以上の凹凸に追従することが可能である。この観点から、VFLは0.26以上であることが好ましく、0.28以上であることがより好ましく、0.30以上であることが更により好ましく、0.32以上であることが更により好ましく、0.34以上であることが更により好ましく、0.36以上であることが更により好ましく、0.38以上であることが更により好ましく、0.40以上であることが更により好ましい。VFLの上限は特に限定されないが、例えば生産性やコストの観点から、0.50以下とすることができる。
【0041】
VFLを向上させる方法は特に限定されないが、例えば、各層の金属層の厚みを調整することや、樹脂層の伸びを調整する方法がある。
【0042】
本発明の各実施形態に係る金属樹脂複合電磁波シールド材料は、特に電気・電子機器(例えば、インバータ、通信機、共振器、電子管・放電ランプ、電気加熱機器、電動機、発電機、電子部品、印刷回路、医療機器等)の被覆材又は外装材、電気・電子機器に接続されたハーネスや通信ケーブルの被覆材、電磁波シールドシート、電磁波シールドパネル、電磁波シールド袋、電磁波シールド箱、電磁波シールド室など各種の電磁波シールド用途に利用することが可能である。また、本発明の各実施形態に係る金属樹脂複合電磁波シールド材料をインサート部品としてインサート成形することも可能である。さらに、電磁波シールド効果を向上させるために本発明に係る金属樹脂複合電磁波シールド材料の内側及び/又は外側に本発明に影響のない範囲で磁性シートなどの電磁波シールドシートを貼り付けることもできる。
【実施例】
【0043】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらは本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0044】
金属層として、3種類の圧延銅箔(表面からEBSD(結晶方位解析)を用いて測定した場合、タイプA:結晶粒径が300μm以上;タイプB:結晶粒径が10μm以上;タイプC:結晶粒径が10μm未満。)と2種類のアルミニウム箔(タイプA:A8021材;タイプB:A8021材を300℃で1時間焼き鈍したもの。)を用意し、樹脂層として、3種類の樹脂(PET:ポリエチレンテレフタレートフィルム、PE:ポリエチレンフィルム、PC:ポリカーボネートフィルム)を用意した。各種の銅箔の厚みと導電率、及び各種樹脂の厚みは表1に示される通りである。なお、表1において、「フィラー」の欄が「×」と表示されているものはフィラーが添加されておらず、「〇」と表示されているものはフィラーを添加した樹脂である。
【0045】
各例について、表1に示される積層構造に従って積層した。積層するための接着剤としてウレタン系接着剤を使用した。積層構造に表示される各層の順番は積層の順番である。なお、「Resin」は樹脂層を意味し、「Metal」は金属層を意味する。各樹脂層と各金属層との間に接着剤層があるが、表1では表記が省略される。
【0046】
(成形加工性の評価)
各実施例及び比較例について、前述したFLD(成形限界線図)用の金型を用いて、成形限界の深さを評価するとともに、そのときの歪み量からVFLを計算した。表1のように、実施例では成形限界の深さが5.0mm以上であり、成形加工性に優れていた。このとき、VFLの数値がいずれも0.24より高かった。なお、表1において、「成形性」が「◎」と表記されるものは成形限界の深さが8.5mm以上であることを意味し、「〇」と表記されるものは成形限界の深さが5.0mm以上8.5mm未満であることを意味し、「△」と表記されるものは成形限界の深さが4.0mm以上5.0mm未満であることを意味し、「×」と表記されるものは成形限界の深さが4.0mm未満であることを意味する。
【0047】
(シールド性の評価)
そして、各実施例及び比較例について、金属層の導電率σ(S/m)と、合計厚みd(m)から、見かけコンダクタンスC=σ×d(S)を計算した。金属層の導電率は上述の4探針法により求め、金属層の厚みは樹脂と積層する前の各金属層について定圧厚さ試験機(THICKNESS METER B-1、東洋精機製作所製)を用いて上述した方法により測定した。また、各実施例及び比較例についてKEC法シールド効果測定装置(テクノサイエンス社製、JSE-KEC)の磁界測定治具とネットワークアナライザ(Keysight Technologies製、E5080)を用いて、室温(25℃)の条件下で、500kHzの周波数における磁界シールド効果を評価した。見かけコンダクタンスCの計算結果及びシールド効果の測定結果を表1に示す。本発明の実施例は、成形加工性を向上させつつ、シールド効果を維持できたことが分かる。なお、表1において、「シールド効果」が「〇」と表記されるものは500kHzの周波数帯においてKEC法で10dB以上のシールド効果を有することを意味し、「×」と表記されるものは500kHzの周波数帯においてKEC法で10dB未満のシールド効果を有することを意味する。
【0048】
【0049】
表1から分かるように、本発明の実施例の金属樹脂複合電磁波シールド材料は、VFLが0.24を超えることにより、成形加工性が優れていた。また、シールド効果も高く維持できた。また、実施例24のように樹脂層として複数の樹脂フィルムを連続して積層したが、金属層が介在されない部分をまとめて一枚の樹脂層とした。