(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】圧電フィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 7/00 20060101AFI20241008BHJP
H10N 30/857 20230101ALI20241008BHJP
C08J 9/00 20060101ALI20241008BHJP
C08L 23/10 20060101ALI20241008BHJP
C08K 11/00 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C08J7/00 D
H10N30/857
C08J9/00 A CES
C08L23/10
C08K11/00
(21)【出願番号】P 2020039332
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2023-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2019052191
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 至
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕人
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】根本 友幸
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-089495(JP,A)
【文献】特開2010-089494(JP,A)
【文献】特開2013-162051(JP,A)
【文献】特開2017-055114(JP,A)
【文献】特開2014-194010(JP,A)
【文献】国際公開第2012/102241(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0212358(US,A1)
【文献】特開2011-084735(JP,A)
【文献】特開2020-131545(JP,A)
【文献】特開2011-074214(JP,A)
【文献】特開2021-097107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C71/04
C08J7/00-7/02
7/12-9/42
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
H10N30/857
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂及びβ晶核剤を含む樹脂組成物からなり、空孔率が0%以上35%以下で、透気度が40000sec/dL以上である圧電フィルム
であって、前記樹脂組成物がポリプロピレン系樹脂を主成分として含有し、前記β晶核剤がアミド化合物である圧電フィルム。
【請求項2】
前記β晶核剤の含有量が前記ポリプロピレン系樹脂100質量部に対し0.0001質量部以上5.0質量部以下である請求項1に記載の圧電フィルム。
【請求項3】
β晶生成能が80%以上である請求項1又は2に記載の圧電フィルム。
【請求項4】
全光線透過率が30%以上である請求項1~3のいずれか1項に記載の圧電フィルム。
【請求項5】
圧電定数が50pC/N以上10000pC/N以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の圧電フィルム。
【請求項6】
50kPaの被圧下における圧電定数が50pC/N以上10000pC/N以下である請求項1~5のいずれか1項に記載の圧電フィルム。
【請求項7】
厚さが1μm以上100μm以下である請求項1~6のいずれか1項に記載の圧電フィルム。
【請求項8】
平均アスペクト比が4.0以上である孔を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の圧電フィルム。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の圧電フィルムを備えた圧電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電フィルムに関し、特にアクチュエーター、発振器、ソナー、振動発電、センサー等に好適に用いることができる圧電フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
多孔性樹脂フィルムを用いたエレクトレットは、優れた圧電効果を示すことが知られており、アクチュエーター、発振器、ソナー、振動発電、センサー等に広く用いられている。優れた圧電性を有するエレクトレットとするためには、電荷注入の際により高い電圧でフィルムを分極処理し、より多くの電荷を注入することが必要になる。
【0003】
多孔性樹脂フィルムとして、樹脂中に気体を導入してインフレートすることで発泡度を高くした発泡フィルム状プラスチック製品が知られている(特許文献1)。このようなフィルムは、表面の均一性に劣り、印加電圧を上げていくと局所的な放電集中が発生してしまい、多孔性樹脂フィルムの絶縁耐性を超えてフィルムが部分的に破壊されてしまう問題点があった。
【0004】
このような課題に対し、ポリプロピレン系樹脂のβ晶を利用した微多孔膜を用いたエレクトレットが提案されている(特許文献2)。
ポリプロピレン系樹脂は極性が小さい高分子であり、化学構造的に分子内骨格に電荷を局在化させるのは難しいため、単体では高い圧電定数が得られない。そのため、空孔内に誘電率の異なる空気を導入し、電荷をトラップすることで、高い圧電定数を実現している。
【0005】
また、β晶を利用した微多孔膜は多孔構造の均一性が高く、絶縁耐性が高いため、高電圧で分極処理することができ、得られたエレクトレットは優れた圧電性を有することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表平10-504853号公報
【文献】特開2017-055114公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年フレキシブルエレクトロニクスの発展により、圧電フィルムを感圧材に用いた折り曲げ可能なデバイスの研究が進められている。微多孔膜を用いたエレクトレットは大面積を低コストで製造することができるため、折り曲げ可能なデバイス用途として注目されている。
しかし、微多孔膜を用いたエレクトレットは、常に面圧がかかる状態で使用すると圧電性が悪化する場合があった。
そして、従来、樹脂フィルム厚み方向の平均孔径といった一次元的な情報と圧電性との関係は知られていたものの、空孔率や空孔アスペクト比といったパラメータと圧電性及び耐圧性との関係は詳細に検討されていなかった。
【0008】
そこで、本発明は、耐圧性に優れ、かつ、良好な圧電性を有する圧電フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を重ねた結果、かかる課題を解決することに着目し本発明を完成するに至った。本発明は、その一態様において以下の[1]~[9]を要旨とする。
[1] ポリプロピレン系樹脂及びβ晶核剤を含む樹脂組成物からなり、空孔率が0%以上35%以下で、透気度が40000sec/dL以上である圧電フィルム。
[2] 前記β晶核剤がアミド化合物である[1]に記載の圧電フィルム。
[3] β晶生成能が80%以上である[1]又は[2]に記載の圧電フィルム。
[4] 全光線透過率が30%以上である[1]~[3]のいずれか1つに記載の圧電フィルム。
[5] 圧電定数が50pC/N以上10000pC/N以下である[1]~[4]のいずれか1つに記載の圧電フィルム。
[6] 50kPaの被圧下における圧電定数が50pC/N以上10000pC/N以下である[1]~[5]のいずれか1つに記載の圧電フィルム。
[7] 厚さが1μm以上100μm以下である[1]~[6]のいずれか1つに記載の圧電フィルム。
[8] 平均アスペクト比が4.0以上である孔を有する、[1]~[7]のいずれか1つに記載の圧電フィルム。
[9] [1]~[8]のいずれか1つに記載の圧電フィルムを備えた圧電素子。
【発明の効果】
【0010】
本発明の圧電フィルムは耐圧性に優れ、かつ良好な圧電性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態について詳細に説明する。但し、本発明の内容が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0012】
1.圧電フィルム
本発明の圧電フィルムは、ポリプロピレン系樹脂及びβ晶核剤を含む樹脂組成物からなり、空孔率が0%以上35%以下で、透気度が40000sec/dL以上である。
以下、本フィルムの特性について説明する。
【0013】
(1)圧電定数
本フィルムの圧電定数d33は50pC/N以上が好ましく、60pC/N以上がより好ましく、70pC/N以上がさらに好ましい。特に、100pC/N以上がより好ましく、150pC/N以上がさらに好ましく、200pC/N以上がよりさらに好ましい。一方で圧電定数d33は、10000pC/N以下が好ましく、8000pC/N以下がより好ましく、5000pC/Nがさらに好ましい。
圧電定数d33が50pC/N以上であることで、センサーとして使用した場合に十分な感度を得ることができる。一方で、圧電定数d33が10000pC/N以下であることで、センサーやアクチュエーターとして組み込んだ際の火花放電のリスクを低減することができる。
なお、本発明の圧電フィルムの圧電定数は後述の方法で測定される。
【0014】
(2)空孔率
本フィルムの空孔率は、本フィルムの空間部分の割合を示す数値である。本フィルムの空孔率は35%以下であり、好ましくは30%以下、より好ましくは25%以下である。一方で空孔率は、0%以上であればよく、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上である。
空孔率が35%以下であることで優れた耐圧性を有する圧電フィルムとすることができる。
空孔率の測定方法は以下のとおりである。
測定試料の実質量W1を測定し、樹脂組成物の密度に基づいて空孔率が0%の場合の質量W0を計算し、これらの値から下記式に基づいて空孔率を算出する。
空孔率(%)={(W0-W1)/W0}×100
【0015】
(3)厚さ
本フィルムの厚さは1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、5μm以上がさらに好ましい。一方で本フィルムの厚さは、上限に関して100μm以下であることが好ましく、80μm以下がより好ましく、60μm以下がさらに好ましく、50μm以下がよりさらに好ましく、30μm以下が特に好ましい。
厚さが1μm以上であれば、圧電性の高い圧電フィルムを得ることができる。一方で、厚さが100μm以下であれば、ロールtoロールで搬送・捲回することができ、後の加工が容易である。
【0016】
(4)透気度
本フィルムの透気度は、40000sec/dL以上であり、60000sec/dL以上であることが好ましく、80000sec/dL以上であることがより好ましい。一方で本フィルムの透気度の上限は特に限定されず、99999sec/dL以下であればよい。
本フィルムの透気度を40000sec/dL以上とすることで、本フィルムの耐圧性が良好となる。
透気度は、圧電フィルムの厚み方向の空気の通り抜け難さを表し、具体的には100mlの空気が当該圧電フィルムを通過するのに必要な秒数で表現されている。そのため、数値が小さい方が通り抜け易く、数値が大きい方が通り抜け難いことを意味する。すなわち、透気度が小さいほど圧電フィルムの厚み方向の連通性が良いことを意味し、透気度が大きいほど圧電フィルムの厚み方向の連通性が悪いことを意味する。連通性とは圧電フィルムの厚み方向の孔のつながり度合いである。
透気度(sec/dL)は、JIS P 8117に準拠して測定でき、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
【0017】
(5)50kPaの被圧下における圧電定数
本発明の圧電フィルムは耐圧性に優れることが特徴である。耐圧性の指標としては被圧下における圧電定数を測定することで評価することができる。
本フィルムの50kPaの被圧下における圧電定数d33は50pC/N以上が好ましく、60pC/N以上がより好ましく、70pC/N以上がさらに好ましい。特に、100pC/N以上がより好ましく、150pC/N以上がさらに好ましく、200pC/N以上がよりさらに好ましい。一方で50kPaの被圧下における圧電定数d33は、10000pC/N以下が好ましく、8000pC/N以下がより好ましく、5000pC/Nがさらに好ましい。
50kPaの被圧下における圧電定数d33が50pC/N以上であることで、十分な耐圧性を得ることができる。一方で、50kPaの被圧下における圧電定数d33が10000pC/N以下であることで、センサーやアクチュエーターとして組み込んだ際の火花放電のリスクを低減することができる。
なお、本発明の圧電フィルムの50kPaの被圧下における圧電定数は後述の方法で測定される。
【0018】
(6)透明性
本発明の圧電フィルムは、例えば透明圧電フィルムであり、透明性が高いことが好ましい。
圧電フィルムは、ロールtoロールで印刷やラミネートによって多様な層が積層され、最終的には圧電素子、デバイスに組み込まれる。例えば、圧電フィルムに導電層を積層する場合、導電層は不透明なことが多く、工程上で異物や欠陥を光学的に確認することが難しく、誤認されるおそれがある。そこで、圧電フィルムの透明性が高いと、圧電フィルムの裏面から検査を行うことができ、検査を容易にすることができるため好ましい。
本フィルムの全光線透過率は30%以上が好ましく、35%以上がより好ましく、40%以上がさらに好ましく、50%以上がよりさらに好ましく、60%以上が特に好ましい。
【0019】
(7)平均アスペクト比
本発明の圧電フィルムは、平均アスペクト比が4.0以上である孔を有することが好ましい。当該平均アスペクト比は5.0以上がより好ましく、7.0以上がさらに好ましい。
孔の平均アスペクト比が4.0以上であると、ポリプロピレンマトリクスが配向結晶化して高強度となるため、圧電フィルムに高圧力が付加されても空孔がつぶれにくくなり、圧電性を保持することができる。平均アスペクト比は、上限に関して特に限定されないが、例えば30以下、好ましくは25以下、より好ましくは20以下である。
なお、本発明の圧電フィルムの平均アスペクト比は後述の方法で測定される。
【0020】
2.樹脂組成物
以下、本フィルムを構成する樹脂組成物の成分について説明する。
【0021】
(1)ポリプロピレン系樹脂
本発明の圧電フィルムは、ポリプロピレン系樹脂を主成分として含有することが好ましい。ポリプロピレン系樹脂を主成分として含有する場合、圧電フィルムにおけるポリプロピレン系樹脂の含有量は50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上99.9999質量%以下、より好ましくは80質量%以上99.999質量%以下、さらに好ましくは90質量%以上99.99質量%以下である。
【0022】
本発明におけるポリプロピレン系樹脂としては、ホモポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、又はプロピレンとエチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン若しくは1-デセンなどのα-オレフィンとのランダム共重合体又はブロック共重合体などが挙げられる。この中でも、機械的強度の観点からホモポリプロピレンがより好適に使用される。
【0023】
また、ポリプロピレン系樹脂は、立体規則性を示すアイソタクチックペンタッド分率が80%以上99%以下であることが好ましく、より好ましくは83%以上98%以下、さらに好ましくは85%以上97%以下である。
アイソタクチックペンタッド分率が80%以上であれば、機械的強度が良好である。一方、アイソタクチックペンタッド分率の上限については現時点において工業的に得られる上限値で規定しているが、将来的に工業レベルでさらに規則性の高い樹脂が開発された場合においてはこの限りではない。
アイソタクチックペンタッド分率とは、任意の連続する5つのプロピレン単位で構成される炭素-炭素結合による主鎖に対して側鎖である5つのメチル基がいずれも同方向に位置する立体構造あるいはその割合を意味する。メチル基領域のシグナルの帰属は、A.Zambelli et al.(Macromol.8,687(1975))に準拠する。
【0024】
また、ポリプロピレン系樹脂は、分子量分布を示すパラメータであるMw/Mnが1.5以上10.0以下であることが好ましい。より好ましくは2.0以上8.0以下、さらに好ましくは2.0以上6.0以下である。
Mw/Mnが小さいほど分子量分布が狭いことを意味するが、Mw/Mnを1.5以上とすることで、十分な押出成形性が得られ、工業的に大量生産が可能である。一方、Mw/Mnを10.0以下とすることで、十分な機械的強度を確保することができる。
Mw/MnはGPC(ゲルパーエミッションクロマトグラフィー)法によって測定される。
【0025】
また、ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は特に制限されるものではないが、0.5g/10分以上15g/10分以下であることが好ましく、1.0g/10分以上10g/10分以下であることがより好ましい。
MFRを0.5g/10分以上とすることで、成形加工時において十分な溶融粘度を有し、高い生産性を確保することができる。一方、MFRを15g/10分以下とすることで、十分な強度を確保することができる。
なお、MFRはJIS K7210-1(2014年)に準拠して温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定される。
【0026】
なお、ポリプロピレン系樹脂の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の重合用触媒を用いた公知の重合方法、例えばチーグラー・ナッタ型触媒に代表されるマルチサイト触媒やメタロセン系触媒に代表されるシングルサイト触媒を用いた重合方法等が挙げられる。
【0027】
本発明に好適に用いることのできるポリプロピレン系樹脂としては、例えば、商品名「ノバテックPP」「WINTEC」「WAYMAX」(日本ポリプロ社製)、「バーシファイ」「ノティオ」「タフマーXR」(三井化学社製)、「ゼラス」「サーモラン」(三菱ケミカル社製)、「住友ノーブレン」「タフセレン」(住友化学社製)、「プライムポリプロ」「プライム TPO」(プライムポリマー社製)、「Adflex」「Adsyl」「HMS-PP(PF814)」(サンアロマー社製)、「インスパイア」(ダウケミカル)など市販されている商品を使用できる。
【0028】
本発明の圧電フィルムは、結晶形態の一つであるβ晶を多く含むポリプロピレン系樹脂を主成分とする樹脂組成物からなることが好ましい。β晶を多く含むポリプロピレン系樹脂を主成分とする樹脂組成物からなる無孔膜状物はそのものでも帯電処理後に優れた圧電性を示すが、延伸し多孔構造とすることで、より優れた圧電性が得られる。β晶を利用した多孔構造形成は、延伸過程においてポリプロピレン系樹脂中のβ晶が、α晶に転移する過程で多孔化が生じるため、多孔構造は緻密であり、従来公知である無機フィラーや非相溶性有機物の添加による多孔化と比較し、粒径や分散径に依存しないことから、多孔構造の調整に有利である。
【0029】
本発明の圧電フィルムは、β晶活性を有する。本発明の圧電フィルムのβ晶活性は、延伸前の無孔膜状物においてポリプロピレン系樹脂がβ晶を生成していたことを示す一指標と捉えることができる。延伸前の無孔膜状物中のポリプロピレン系樹脂がβ晶を生成していれば、その後延伸を施すことで微細かつ均一な孔が多く形成されるため、機械特性に優れ、微細かつ均一な孔形成により優れた耐電圧性を得ることができる。
【0030】
本発明の圧電フィルムのβ晶活性の有無は、示差走査型熱量計を用いて、圧電フィルムの示差熱分析を行い、ポリプロピレン系樹脂のβ晶に由来する結晶融解ピーク温度が検出されるか否かで判断される。具体的には、示差走査型熱量計で圧電フィルムを25℃から240℃まで加熱速度10℃/分で昇温後1分間保持し、次に240℃から25℃まで冷却速度10℃/分で降温後1分間保持し、さらに25℃から240℃まで加熱速度10℃/分で再昇温させた際に、再昇温時にポリプロピレン系樹脂のβ晶に由来する結晶融解ピーク温度(Tmβ)が検出された場合、β晶活性を有すると判断される。
【0031】
前記β晶活性の有無は、特定の熱処理を施した圧電フィルムのX線回折測定により得られる回折プロファイルでも判断することができる。
詳細には、ポリプロピレン系樹脂の結晶融解ピーク温度を超える温度である170~190℃の熱処理を施し、徐冷してβ晶を生成・成長させた圧電フィルムについてX線回折測定を行い、ポリプロピレン系樹脂のβ晶の(300)面に由来する回折ピークが2θ=16.0°~16.5°の範囲に検出された場合、β晶活性があると判断される。ポリプロピレン系樹脂のβ晶構造とX線回折測定に関する詳細は、Macromol.Chem.187,643-652(1986)、Prog.Polym.Sci.Vol.16,361-404(1991)、Macromol.Symp.89,499-511(1995)、Macromol.Chem.75,134(1964)、及びこれらの文献中に挙げられた参考文献を参照することができる。
【0032】
前述したポリプロピレン系樹脂のβ晶活性を得る方法としては、ポリプロピレン系樹脂のα晶の生成を促進させる物質を添加しない方法や、特許第3739481号公報に記載されているように過酸化ラジカルを発生させる処理を施したポリプロピレン系樹脂を添加する方法、及びβ晶核剤を添加する方法などが挙げられるが、本発明においては、β晶核剤を添加してβ晶活性を得ることが特に好ましい。β晶核剤を添加することで、より均質に効率的にポリプロピレン系樹脂のβ晶の生成を促進させることができ、β晶活性を有する圧電フィルムを得ることができる。
【0033】
前記β晶活性の程度については、β晶生成能を測定することで定量化ができる。圧電フィルムに含まれるポリプロピレン系樹脂のβ晶生成能は好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。
β晶生成能が80%以上であることで、圧電フィルムとした際に好適な圧電性を発揮することができる。上限については特に制限はないが100%以下であることが好ましい。
なお、β晶生成能は後述の方法により算出される。
【0034】
(2)β晶核剤
本発明の圧電フィルムは優れた圧電性を得るために、β晶核剤が含まれていることが重要である。β晶核剤が含まれていることによって、β晶活性を有することができる。
【0035】
本発明において、β晶核剤としては、例えばアミド化合物;テトラオキサスピロ化合物;キナクリドン類;ナノスケールのサイズを有する酸化鉄;1,2-ヒドロキシステアリン酸カリウム、安息香酸マグネシウム若しくはコハク酸マグネシウム、フタル酸マグネシウムなどに代表されるカルボン酸のアルカリ若しくはアルカリ土類金属塩;ベンゼンスルホン酸ナトリウム若しくはナフタレンスルホン酸ナトリウムなどに代表される芳香族スルホン酸化合物;二若しくは三塩基カルボン酸のジ若しくはトリエステル類;フタロシアニンブルーなどに代表されるフタロシアニン系顔料;有機二塩基酸である成分Aと周期表第2族金属の酸化物、水酸化物若しくは塩である成分Bとからなる二成分系化合物;環状リン化合物とマグネシウム化合物からなる組成物などが挙げられる。必要に応じて、これらの中から2種類以上のβ晶核剤を混合して用いてもよい。
【0036】
これらのβ晶核剤の中でも、得られる圧電フィルムの圧電性の面でアミド化合物が好ましい。アミド化合物としては、N,N’-ジシクロヘキシル-2,6-ナフタレンジ
カルボキシアミド、N,N’-ジシクロヘキシルテレフタルアミド、N,N’-ジフェニ
ルヘキサンジアミド等が挙げられ、中でもN,N’-ジシクロヘキシル-2,6-ナフタ
レンジカルボキシアミドが好ましい。アミド化合物は極性が高いアミド基を有するため、結晶構造中に電荷を局在化させることができ、高い圧電性を有すると考えられる。
【0037】
アミド化合物のように極性が高い化合物は、極性が低いポリプロピレン系樹脂とは静電的な相互作用により分散性が悪く、凝集しやすいという問題がある。
しかしながら、一般的なβ晶核剤は、一定の温度域ではポリプロピレン系樹脂に溶解するという特性を有している。
この特性により、ポリプロピレン系樹脂にβ晶核剤が均一に分散され、β晶核剤由来の結晶が均一に析出されやすくなる。
よって、極性が低いポリプロピレン系樹脂中に極性の高いアミド化合物の結晶が均一に分散され、高い圧電性を有することができると考えられる。
【0038】
市販されているβ晶核剤の具体例としては、新日本理化社製β晶核剤「エヌジェスターNU-100」、β晶核剤の添加されたプロピレン系樹脂の具体例としては、Aristech社製ポリプロピレン「Bepol B-022SP」、Borealis社製ポリプロピレン「Beta(β)-PP BE60-7032」、mayzo社製ポリプロピレン「BNX BETAPP-LN」などが挙げられる。
【0039】
本発明の圧電フィルム中のβ晶核剤の含有量は、β晶核剤の種類又はポリプロピレン系樹脂の組成などにより適宜調整することができるが、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対し0.0001質量部以上5.0質量部以下が好ましく、0.001質量部以上3.0質量部以下がより好ましく、0.01質量部以上1.0質量部以下がさらに好ましい。
β晶核剤の含有量が0.0001質量部以上であれば、製造時において十分にポリプロピレン系樹脂のβ晶を生成成長させ、十分なβ晶活性が確保でき、圧電フィルムの圧電性が良好となる。また、延伸して多孔フィルムとした際にも十分なβ晶活性が確保でき、帯電処理することで所望の圧電性を有する圧電フィルムが得られる。
一方、5.0質量部以下の添加であれば、経済的にも有利になるほか、フィルム表面へのβ晶核剤のブリードなどがなく好ましい。
【0040】
3.その他
本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲において、ポリプロピレン系樹脂及びβ晶核剤以外の成分を含有してもよい。
例えば、ポリプロピレン系樹脂以外の樹脂を含有してもよく、当該樹脂としては、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、塩素化ポリエチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリメチルペンテン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリブチレンサクシネート系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリエチレンオキサイド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアミドビスマレイミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリサルフォン系樹脂、アラミド系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0041】
また、本発明の圧電フィルムには、その性質を損なわない程度に添加剤が含まれていてもよい。
当該添加剤としては、成形加工性、生産性および圧電フィルムの諸物性を改良・調整する目的で添加される、耳などのトリミングロス等から発生するリサイクル樹脂や、シリカ、タルク、カオリン、炭酸カルシウム等の無機粒子、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料、難燃剤、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、溶融粘度改良剤、架橋剤、滑剤、核剤、可塑剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、着色剤などの添加剤が挙げられる。
【0042】
さらに、本発明の圧電フィルムは、ポリプロピレン系樹脂を主成分とする層以外に保護層、導電層などの機能層を本発明の趣旨を逸脱しない範囲で積層しても良い。
【0043】
4.圧電フィルムの製造方法
以下、本発明の圧電フィルムの製造方法について説明するが、以下の説明は、本発明の圧電フィルムを製造する方法の一例であり、本発明の圧電フィルムは以下に説明する製造方法により製造される圧電フィルムに限定されるものではない。
【0044】
本発明の圧電フィルムは、製膜工程、延伸工程及び帯電処理工程を経て製造することが好ましい。ただし、延伸工程は省略してもよい。
以下、製膜工程、延伸工程、帯電処理工程について順次説明する。
【0045】
(1)製膜工程
製膜工程では、圧電フィルムを構成する材料よりなる無孔膜状物が製膜される。製膜工程においては、圧電フィルムを構成する材料を公知の方法で製膜する限り特に限定されないが、例えば圧電フィルムを構成する樹脂組成物(材料樹脂)を加熱溶融してフィルム状に製膜すればよく、具体的には、Tダイ法、インフレーション法などにより製膜すればよく、中でもTダイ法を採用するのが好ましい。
また、実用的には、Tダイから材料樹脂を溶融押出してキャストロール(チルロール、キャストドラムなど)によりキャスト成形するのが好ましい。
【0046】
圧電フィルムを構成する材料は混練装置において混練された後に製膜されてもよい。混練を行う際、用いる混練装置は特に限定されない。例えば単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機など、公知の押出機を用いることができる。
また、押出機には、設備構造および必要性に応じて、ベント口に減圧機を接続し、水分や低分子量物質を除去してもよい。
【0047】
上記のとおりキャストロールを使用する場合、Tダイから押出されたフィルム状の溶融樹脂(樹脂組成物)をキャストロール上に押し出し、回転するキャストロール上に密着させながら引き取りフィルム状物に成形するとよい。キャストロールにフィルム状物を密着させるために、タッチロール、エアナイフ、電気密着装置などをキャストロールに付けてもよい。
【0048】
また、溶融樹脂(樹脂組成物)を冷却しながらフィルムに成形する際、キャストロールの温度は100℃以上が好ましい。より好ましくは110℃以上で、さらに好ましくは120℃以上である。本発明ではポリプロピレン系樹脂の結晶部分と非晶部分での延伸工程時による開孔によっても、空孔率の増加が可能であるため、キャストロールの温度を100℃以上とし、高い結晶化度の無孔膜状物を得ることが好ましい。
また、キャストロール温度の上限は140℃以下が好ましく、より好ましくは135℃以下で、さらに好ましくは130℃以下である。キャストロールの温度を140℃以下とすることで、フィルム製膜時にキャストロールからの剥離が容易である。
【0049】
得られる無孔膜状物において、両端部を除いた有効部分の厚さは20μm以上800μm以下であることが好ましく、中でも30μm以上がより好ましく、40μm以上がさらに好ましく、50μm以上がよりさらに好ましく、また700μm以下がより好ましく、その中でも600μm以下であることがさらに好ましく、500μm以下がよりさらに好ましい。
無孔膜状物の厚さが20μm以上であれば、延伸時に破断を防ぐことができ、無孔膜状物の厚さが800μm以下であれば、無孔膜状物の延伸を行いやすくすることができる。
本発明の圧電フィルムの無孔膜状物での層構成に関しては、上記の単層構成のみだけでなく、他の層を組み合わせた構成であってもよい。
【0050】
(2)延伸工程
得られた無孔膜状物はそのまま帯電処理を行ってもよいが、無孔膜状物に対して延伸処理を行ってもよい。無孔膜状物に対して延伸処理を行うことで、無孔膜状物を容易に多孔フィルムにすることができる。
延伸処理では、無孔膜状物に対して一軸延伸あるいは二軸延伸を行うとよいが、一軸延伸が好ましい。一軸延伸は縦一軸延伸であってもよいし、横一軸延伸であってもよい。二軸延伸は同時二軸延伸であってもよいし、逐次二軸延伸であってもよい。これらのうち逐次二軸延伸を採用すると、多孔構造の制御が比較的容易であり、機械強度や収縮率など他の諸物性とのバランスがとりやすい。
なお、膜状物の流れ方向(MD)への延伸を「縦延伸」といい、流れ方向に対して垂直方向(TD)への延伸を「横延伸」という。
【0051】
延伸温度は、用いる樹脂組成物の組成、結晶融解ピーク温度、結晶化度等によって適時選択する必要があるが、縦延伸温度は、好ましくは60℃以上140℃以下であり、より好ましくは80℃以上120℃以下である。
縦延伸温度を140℃以下とすることで、主成分であるポリプロピレン系樹脂の融点以下で破断なく延伸が可能となるため好ましい。一方で、縦延伸温度を60℃以上とすることで、延伸時の破断が抑制できるため好ましい。
【0052】
横延伸温度は、好ましくは90℃以上160℃以下であり、より好ましくは100℃以上150℃以下である。前記横延伸温度が規定された範囲内であることによって、空孔が十分に形成され、空孔率を高めることができ、十分な圧電性を有することができる。
また、逐次二軸延伸の場合には、例えば縦延伸時に生じた空孔が拡大されて多孔層の空孔率を増加することができ、十分な圧電性を有することができる。
【0053】
なお、以上説明した温度は、一軸延伸又は逐次二軸延伸の場合の温度であるが、同時二
軸延伸の場合の延伸温度は、上記観点から、好ましくは90℃以上160℃以下、より好
ましくは100℃以上150℃以下の範囲内で調整すればよい。
【0054】
延伸倍率は、所望する空孔率に合わせて任意に選択すればよいが、一軸延伸あたりの延伸倍率は1.1倍以上20倍以下が好ましく、より好ましくは1.5倍以上18倍以下であり、さらに好ましくは4倍以上16倍以下であり、よりさらに好ましくは4倍以上10倍以下である。
一軸延伸あたりの延伸倍率を1.1倍以上とすることで白化が進行して、延伸による多孔化が十分に生じる。また、延伸倍率を20倍以下とすることで、空孔率が抑制され、耐圧性に優れる多孔フィルムを得ることができる。
また、逐次二軸延伸の場合には、各軸あたり上記で規定した延伸倍率で延伸することによって、先の延伸時に生じた空孔が後の延伸時に変形することもない。
【0055】
(3)帯電処理工程
製膜工程で得られた無孔膜状物、又は延伸工程を経て得られた多孔フィルムに帯電処理を行うことで本発明の圧電フィルムを得ることができる。帯電処理は連続式であってもよいし、バッチ式であってもよい。帯電処理を行う際の電極は、フィルムの表裏に針状電極、ワイヤー電極、ロール状電極、板状電極などの電極間にフィルムを通し、電極間に電界を印加する方式でも良いし、フィルムの表裏に直接、塗布や蒸着により電極を形成した後に、電界を印加する方式でも良い。
印加する電界としては好ましくは0.1MV/m以上10MV/m以下、より好ましくは0.2MV/m以上8MV/m以下、さらに好ましくは0.3MV/m以上6MV/m以下である。0.1MV/m以上であることで優れた圧電性を有することができる。10MV/m以下であることで、帯電処理時の絶縁破壊を低減するという効果がある。
【0056】
さらに、本発明の圧電フィルムには、本発明を損なわない範囲で必要に応じてコロナ処理、プラズマ処理、印刷、コーティング、蒸着等の表面加工、さらにはミシン目加工などを施すことができ、用途に応じて本発明の圧電フィルムを数枚重ねることも可能である。
【0057】
<圧電フィルムの用途>
本発明の圧電フィルムは、例えばアクチュエーター、発振器、ソナー、振動発電、センサーなどに使用することができる。圧電フィルムは、特に限定されないが、例えばリード線の実装や絶縁膜の形成を施して圧電素子とすることで、圧電フィルムに作用された圧力を電圧に変換して、圧電フィルムに作用される圧力を検知したり、発電したりすることができる。
【実施例】
【0058】
以下に実施例および比較例を示し、本発明の圧電フィルムについてさらに詳しく説明するが、本発明は何ら制限を受けるものではない。
【0059】
実施例、比較例で使用する材料は以下のとおりである。
(ポリプロピレン系樹脂)
・A-1;ホモポリプロピレン(ノバテックPP FY6HA、MFR:2.4g/10分[230℃、2.16kg荷重]、Mw/Mn=3.2、日本ポリプロ社製)
(β晶核剤)
・B-1:N,N’-ジシクロヘキシル-2,6-ナフタレンジカルボキシアミド(新日本理化(株)製、NU-100)
・B-2:3,9-ビス[4-(N-シクロヘキシルカルバモイル)フェニル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン
(酸化防止剤)
・C-1;トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイトとテトラキス[3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリスリトールとの1:1混合物(IRGANOX-B225、BASF社製)
【0060】
(実施例1)
ポリプロピレン系樹脂(A-1)100質量部、β晶核剤(B-1)0.2質量部、酸化防止剤(C-1)0.1質量部を混合して、二軸押出機にて280℃で溶融押出することで樹脂組成物1を得た。リップ開度1mmのTダイに繋がれた押出機に前記樹脂組成物1を投入して成形を行い、キャストロールに導かれて厚さが30μmの無孔膜状物を得た。
得られた無孔膜状物をアース板に乗せ、針状電極を使用し、電極間距離20mmで10kVの電圧をかけ帯電処理を行うことで、厚さ30μmの圧電フィルムを得た。
【0061】
(実施例2)
リップ開度1mmのTダイに繋がれた押出機に前記樹脂組成物1を投入して成形を行い、キャストロールに導かれて厚さが100μmの無孔膜状物を得た。
その後、フィルムテンター設備(京都機械社製)にて、延伸温度100℃で横方向に7倍延伸し、多孔フィルムを得た。得られた多孔フィルムをアース板に乗せ、針状電極を使用し、電極間距離20mmで10kVの電圧をかけ帯電処理を行うことで、圧電フィルムを得た。
【0062】
(実施例3)
β晶核剤(B-1)に代えてβ晶核剤(B-2)を投入し樹脂組成物2を得た。その後、実施例1と同様にして、圧電フィルムを得た。
【0063】
(実施例4)
リップ開度1mmのTダイに繋がれた押出機に前記樹脂組成物2を投入して成形を行い、キャストロールに導かれて厚さが120μmの無孔膜状物を得た。
その後、フィルムテンター設備(京都機械社製)にて、延伸温度100℃で横方向に4倍延伸し、さらに延伸温度150℃で横方向に4倍延伸し、多孔フィルムを得た。得られた多孔フィルムをアース板に乗せ、針状電極を使用し、電極間距離20mmで10kVの電圧をかけ帯電処理を行うことで、圧電フィルムを得た。
【0064】
(実施例5)
リップ開度1mmのTダイに繋がれた押出機に前記樹脂組成物1を投入して成形を行い、キャストロールに導かれて厚さが40μmの無孔膜状物を得た。
その後、フィルムテンター設備(京都機械社製)にて、延伸温度100℃で横方向に3倍延伸し、多孔フィルムを得た。得られた多孔フィルムをアース板に乗せ、針状電極を使用し、電極間距離20mmで10kVの電圧をかけ帯電処理を行うことで、圧電フィルムを得た。
【0065】
(実施例6)
リップ開度1mmのTダイに繋がれた押出機に前記樹脂組成物1を投入して成形を行い、キャストロールに導かれて厚さが55μmの無孔膜状物を得た。
その後、フィルムテンター設備(京都機械社製)にて、延伸温度100℃で横方向に7倍延伸し、多孔フィルムを得た。得られた多孔フィルムをアース板に乗せ、針状電極を使用し、電極間距離20mmで10kVの電圧をかけ帯電処理を行うことで、圧電フィルムを得た。
【0066】
(実施例7)
リップ開度1mmのTダイに繋がれた押出機に前記樹脂組成物2を投入して成形を行い、キャストロールに導かれて厚さが120μmの無孔膜状物を得た。
その後、フィルムテンター設備(京都機械社製)にて、延伸温度100℃で横方向に4倍延伸し、多孔フィルムを得た。得られた多孔フィルムをアース板に乗せ、針状電極を使用し、電極間距離20mmで10kVの電圧をかけ帯電処理を行うことで、圧電フィルムを得た。
【0067】
(実施例8)
リップ開度1mmのTダイに繋がれた押出機に前記樹脂組成物2を投入して成形を行い、キャストロールに導かれて厚さが120μmの無孔膜状物を得た。
その後、フィルムテンター設備(京都機械社製)にて、延伸温度100℃で横方向に2倍延伸し、さらに延伸温度150℃で横方向に2倍延伸し、多孔フィルムを得た。得られた多孔フィルムをアース板に乗せ、針状電極を使用し、電極間距離20mmで10kVの電圧をかけ帯電処理を行うことで、圧電フィルムを得た。
【0068】
(比較例1)
リップ開度1mmのTダイに繋がれた押出機に前記樹脂組成物1を投入して成形を行い、キャストロールに導かれて厚さが80μmの無孔膜状物を得た。
その後、縦延伸機を用いて、105℃に設定したロール間において、ドロー比65%を3段(縦延伸倍率4.5倍)掛けて縦延伸を行った。縦延伸後のフィルムは、フィルムテンター設備(京都機械社製)にて、予熱温度150℃、予熱時間12秒間で予熱した後、延伸温度150℃で横方向に2.1倍延伸し、155℃で熱処理を行い、多孔フィルムを得た。得られた積層多孔フィルムをアース板に乗せ、針状電極を使用し、電極間距離20mmで10kVの電圧をかけ帯電処理を行うことで、圧電フィルムを得た。
【0069】
(比較例2)
β晶核剤(B-1)を投入しなかった点以外は、実施例1と同様にして、圧電フィルムを得た。
【0070】
実施例及び比較例で得られた圧電フィルムに関して、厚さ、空孔率、β晶生成能、透気度、圧電性、耐圧性、全光線透過率及び平均アスペクト比について以下の方法で測定した。
【0071】
(1)厚さ
1/1000mmのダイアルゲージを用いて圧電フィルムの厚さを無作為に10点測定して、その平均値を求めた。
【0072】
(2)空孔率
圧電フィルムを幅100mm×長さ100mmに切り出し、測定用サンプルとした。
測定用サンプルの実質量W1を測定し、樹脂組成物の密度に基づいて空孔率が0%の場合の質量W0を計算し、これらの値から下記式に基づいて空孔率を算出した。
空孔率(%)={(W0-W1)/W0}×100
【0073】
(3)β晶生成能
以下に示す方法で、圧電フィルムのDSC測定を行った。まず、窒素雰囲気下で40℃から200℃まで10℃/分で昇温し、1分間保持した後、40℃まで10℃/分で冷却した。1分保持後、再度10℃/分で昇温した際に観測される融解ピークについて、145~157℃の温度領域にピークが存在する融解をβ晶の融解ピーク、158℃以上にピークが観察される融解をα晶の融解ピークとして、高温側の平坦部を基準に引いたベースラインとピークに囲まれる領域の面積から、それぞれの融解熱量を求め、α晶の融解熱量をΔHα、β晶の融解熱量をΔHβとし、以下の式により算出した。
β晶生成能(%)=〔ΔHβ/(ΔHα+ΔHβ)〕×100
【0074】
(4)25℃での透気度
25℃の空気雰囲気下にて、JIS P 8117に準拠して透気度を測定した。測定機器として、デジタル型王研式透気度専用機(旭精工社製)を用いた。
【0075】
(5)圧電定数
圧電フィルムを幅50mm×長さ50mmに切り出し、測定用サンプルとした。
リードテクノ社製ピエゾメーターにて、測定用サンプルの表面と裏面をそれぞれ上にして各5箇所について厚み方向の圧電定数(d33)を准静的法により測定し(便宜上 表面:dA、dB、dC、dD、dE 裏面:dF、dG、dH、dI、dJ と表記する)、その平均値を求めた。ピエゾメーターの端子はφ8mm円筒状とし、クランプ荷重を1N、動荷重を1.3Nとして測定を行った。
なお、測定用サンプルの表面と裏面でそれぞれ測定値の正負が反対になるため、圧電定数の平均値は下記の式により算出した。
圧電定数=|dA+dB+dC+dD+dE-dF-dG-dH-dI-dJ|/10
【0076】
(6)圧電性
圧電フィルムの圧電性を下記の判断基準により評価した。
A(better):圧電定数が100pC/N以上である。
B(good):圧電定数が50pC/N以上100pC/N未満である。(実用範囲内)
C(poor):圧電定数が50pC/N未満である。
【0077】
(7)50kPaの被圧下における圧電定数
ピエゾメーターのクランプ荷重及び動荷重を調整することで圧電フィルムに圧力を付加した後、上記(5)と同様にして圧電定数を求めた。なお、ピエゾメーターの端子はφ8mm円筒状とし、クランプ荷重を2.51N、動荷重を2.81Nとして測定を行った。
【0078】
(8)耐圧性
圧電フィルムの耐圧性を下記の判断基準により評価した。
A(better):50kPaの被圧下における圧電定数が100pC/N以上である。
B(good):50kPaの被圧下における圧電定数が50pC/N以上100pC/N未満である。
C(poor):50kPaの被圧下における圧電定数が50pC/N未満である。
【0079】
(9)全光線透過率
JIS K 7136に準拠して、ヘーズメーター「HM-150」(株式会社村上色彩技術研究所製)により、全光線透過率を測定した。
【0080】
(10)孔断面アスペクト比平均値
実施例2、実施例4~8及び比較例1の圧電フィルムの断面SEM画像から100個以上の空孔を選択し、各空孔の延伸方向長さとフィルム厚み方向長さから各空孔のアスペクト比(延伸方向長さ/フィルム厚み方向長さ)を算出し、平均値を求めた。
なお、二軸延伸を行った場合には、延伸倍率の高い延伸方向の断面の空孔アスペクト比を採用し、比較例1では縦延伸方向を採用した。
【0081】
表1に実施例、比較例に関する評価結果を示した。
【0082】
【0083】
実施例1~8の圧電フィルムは、ポリプロピレン系樹脂及びβ晶核剤を含有し、空孔率が0%以上35%以下であり、透気度が40000sec/dL以上であることによって、圧電性及び耐圧性が良好であった。
特に、実施例2、4~6の圧電フィルムは、平均アスペクト比が4.0以上である孔を有することによって、耐圧性がより良好となった。
一方で、比較例1では空孔率が高すぎるため、耐圧性が不十分であった。比較例2では、β晶核剤を有しないため、圧電性が不十分であった。