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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ソレノイドチューブの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 7/127 20060101AFI20241008BHJP
   H01F 7/16 20060101ALI20241008BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20241008BHJP
   F16K 31/06 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H01F7/16 Q
H01F7/16 E
B23K26/21 N
F16K31/06 305G
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020039526
(22)【出願日】2020-03-09
(65)【公開番号】P2020161809
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-13
(31)【優先権主張番号】P 2019053295
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 慎太朗
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-073018(JP,A)
【文献】再公表特許第2013/157269(JP,A1)
【文献】特開2016-051699(JP,A)
【文献】特開2015-069167(JP,A)
【文献】特開2012-172786(JP,A)
【文献】国際公開第2019/026211(WO,A1)
【文献】特開平11-063281(JP,A)
【文献】特開2009-195948(JP,A)
【文献】特開2003-191084(JP,A)
【文献】特開2006-272425(JP,A)
【文献】特開2001-146981(JP,A)
【文献】特開2002-340217(JP,A)
【文献】特開昭62-145705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 7/127
H01F 7/16
B23K 26/21
F16K 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性材料により構成された管状部材からなる第1磁性部材と、前記第1磁性部材と同軸上に配置され磁性材料により構成された管状部材からなる第2磁性部材と、非磁性材料により構成され、前記第1磁性部材と前記第2磁性部材の外周側に嵌合されて前記第1磁性部材と前記第2磁性部材を繋ぐ管状の非磁性部材と、を有するソレノイドチューブの製造方法であって、
前記第1磁性部材の前記非磁性部材側端部外周面には第1段差部が形成されており、および、前記第2磁性部材の前記非磁性部材側端部外周面には第2段差部が形成されており、
前記第1磁性部材と前記非磁性部材を前記第1段差部において周方向に重なり合う部分を有するように嵌合し、前記第2磁性部材と前記非磁性部材を前記第2段差部において周方向に重なり合う部分を有するように嵌合し、
前記重なり合う部分に対し外周側から出力270W~400W、レーザ照射時間2秒~5秒、ダウンスロープ0.2秒~0.4秒、周速2秒/周~5秒/周の条件でファイバーレーザ溶接を行うことによって、溶接による溶融部分の深さが、非磁性部材の厚みの110%以上、かつ、非磁性部材の厚みと溶接部分直下の第2磁性部材の厚みの合計の85%以下、ビード幅0.66mm~1.78mm、ソレノイドチューブ内周面の真円度が3.5μm以下となるように、前記第1磁性部材と前記非磁性部材および前記第2磁性部材と前記非磁性部材を接合することを特徴とする、ソレノイドチューブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソレノイドチューブの製造方法に関し、特に溶接によるソレノイドチューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、流体の流量制御などに、ソレノイドと呼ばれる電磁弁が用いられる。ソレノイドの主要部分の構造は、チューブと呼ばれる非磁性部分を磁性体で挟んだ構造の管状部材と、チューブの外周側に配置されたコイルと、チューブの内部に収容された磁性体の可動鉄心を含む。
チューブは、例えば、図1のように、磁性材料により構成された管状部材からなる第1磁性部材10(固定磁極)と、同じく磁性材料により構成された管状部材からなる第2磁性部材12(磁性後部)とを、非磁性領域を作るために少し空間を空けて管状の非磁性部材11(ガイドパイプ)で繋いだ構造をしている。チューブの外周面側に配置されたコイルに電流を流してチューブと可動鉄心に磁気回路を形成し、その電流を制御することによって可動鉄心の位置を制御して、可動鉄心に連結されたロッドを動かし、それによって弁をオンオフする。
【0003】
従来、第1磁性部材および第2磁性部材と非磁性部材の接合にはTIG溶接が用いられていた。しかしながら、TIG溶接では、溶接の熱によってチューブが変形し、可動鉄心の摺動性が悪化するため、溶接後に内径部の高精度な加工が必要であり、大きなコストアップ要因となっていた。
【0004】
この問題を解決するため、特許文献1には、レーザ溶接によってステータ(第1磁性部材に相当)およびヨーク(第2磁性部材に相当)とリング(非磁性部材に相当)を接合する方法が記載されている。特許文献1記載のレーザ溶接では、溶接後にチューブ内径部の加工は必要ないとされている。
また、特許文献2には非磁性部材を第1磁性部材および第2磁性部材の内周側に嵌合させる構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-38780号公報
【文献】特開2014-73018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、第1磁性部材側の溶接は作業の管理が容易で効率の良い重ね合わせ溶接を行う。しかしながら、第2磁性部材側に関しては、可動鉄心の摺動面となる第2磁性部材側の内周面が溶接による熱の影響で歪む恐れがあるため、非磁性部材端部との突合せ溶接を行っている。しかしながら、特許文献1にも記載されている通り突合せ溶接では厳しい品質管理が必要である。具体的には、非磁性部材端面や第1磁性部材の段差部分に加工ばらつきがあると、溶接の不完全部分が発生するため加工精度を上げる必要があり、大きなコストアップ要因となることがわかった。
【0007】
また、特許文献1にはレーザ溶接についての詳細な記載がなく、どのようなレーザ溶接を用いているかは不明であるが、後に詳述するように、特許文献1のレーザ溶接は例えばこの手のレーザ溶接でよく用いられるYAGレーザ溶接等であると考えられる。発明者らがYAGレーザ溶接で重ね合わせ溶接を試したところ、必要な溶接強度を確保するためにはかなりのレーザ出力が必要であり、第2磁性部材の内周面が歪む恐れがあることがわかった。さらには、溶接面に多量のスパッタが付着し、外観不良となることも判明した。
【0008】
特許文献2の構造は特許文献1の上記歪みの問題を解決するとされているが、大幅な設計変更が必要となり、容易に採用することはできない。
【0009】
本発明は上記問題を解決するものであり、第1磁性部材側、第2磁性部材側の双方とも作業管理が容易で効率の良い重ね合わせ溶接を行い、かつ、溶接による熱歪みによってチューブ内周面の変形が少なく、かつ、実質的に溶接面のスパッタ付着のない、ソレノイドチューブの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的のためになされた本発明のソレノイドチューブの製造方法は、磁性材料により構成された管状部材からなる第1磁性部材と、前記第1磁性部材と同軸上に配置され磁性材料により構成された管状部材からなる第2磁性部材と、非磁性材料により構成され、前記第1磁性部材と前記第2磁性部材の外周側に嵌合されて前記第1磁性部材と前記第2磁性部材を繋ぐ管状の非磁性部材と、を有するソレノイドチューブの製造方法であって、前記第1磁性部材の前記非磁性部材側端部外周面には第1段差部が形成されており、および、前記第2磁性部材の前記非磁性部材側端部外周面には第2段差部が形成されており、前記第1磁性部材と前記非磁性部材を前記第1段差部において周方向に重なり合う部分を有するように嵌合し、前記第2磁性部材と前記非磁性部材を前記第2段差部において周方向に重なり合う部分を有するように嵌合し、前記重なり合う部分に対し外周側からファイバーレーザ溶接を行うことによって前記第1磁性部材と前記非磁性部材および前記第2磁性部材と前記非磁性部材を接合することを特徴とする。
【0011】
好ましくは、溶接による溶融部分の深さが、非磁性部材の厚みの110%以上、かつ、非磁性部材の厚みと溶接部分直下の第2磁性部材の厚みの合計の85%以下となるように、前記第1磁性部材と前記非磁性部材および前記第2磁性部材と前記非磁性部材を接合する。
【0012】
また好ましくは、前記ファイバーレーザ溶接の条件は、出力270W~400W、レーザ照射時間2秒~5秒、ダウンスロープ0.2秒~0.4秒、周速2秒/周~5秒/周である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ファイバーレーザ溶接により、工程管理の容易な重ね合わせ溶接を行っても、溶接による熱歪みによってチューブ内周面の変形が少なく、かつ、実質的に溶接面のスパッタ付着のない、ソレノイドチューブの製造方法を提供することができ、品質の向上と工程のコストダウンを両立させることが可能となる。なお、本発明において「実質的にスパッタ付着がない」とは、本発明のソレノイドチューブを外周側から目視で観察してスパッタ(溶接時に飛散する粒径1μm~数mmの粒子状付着物)が確認できないことを言う。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るソレノイドチューブの製造方法を用いて製造されるチューブを備えるソレノイドを示す断面図である。
図2】非磁性部材11と第2磁性部材12を溶接した状態を示す断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係るソレノイドチューブの製造方法を用いて製造されるチューブを示す断面図である。
図4a】本発明の実施例におけるソレノイドの外観写真である。
図4b】本発明の実施例におけるソレノイドの溶接部の断面写真である。
図5】本発明の実施例におけるソレノイドの円筒度および真円度を示すデータである。
図6a】本発明の実施例におけるソレノイドの外観写真および溶接部の断面写真である。
図6b】本発明の実施例におけるソレノイドの外観写真および溶接部の断面写真である。
図7】本発明の実施例におけるソレノイド特性のデータを示す図である。
図8】本発明の実施例および比較例におけるソレノイドの真円度を示すデータである。
図9】本発明の実施例におけるソレノイドの溶接部の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態のソレノイドチューブの製造方法によって製造されるチューブを備えるソレノイドを示す断面図である。
ソレノイド100は、第1磁性部材10、非磁性部材11、第2磁性部材12、コイル14、樹脂部材16、ケース18、可動鉄心20、ロッド22、およびスペーサ24を備える。
第1磁性部材10は軟鋼(例えばSS400)などの磁性材料によって構成される。第1磁性部材10は、軸方向と直交する面に対して略平行に設けられ可動鉄心20が対向する吸着面10aを有し、その内周側を可動鉄心20が摺動する部分10b(吸着面10aより第2磁性部材12側)と吸着面10aより第2磁性部材12の反対側の部分である10cとを含む。ソレノイドが比例タイプのソレノイドの場合、10bは外径が先端に向かって(第2磁性部材側に向かって)小さくなるような中空の円錐台形状部分を含む(図3参照)。非磁性部材11はSUS304などの非磁性材料によって構成される円筒状の部材である。第2磁性部材12は軟鋼(例えばSS400)などの磁性材料によって構成される。第2磁性部材12は、軸方向と直交する面に対して略平行で可動鉄心20が対向する面12aを有し、その内周側を可動鉄心20が摺動する部分12b(面12aより第1磁性部材側)と面12aより第1磁性部材の反対側の部分である12cとを含む。第1磁性部材10と第2磁性部材12はその外周側に非磁性部材11が嵌合する第1段差部10dと第2段差部12dを有し、第1段差部10dおよび第2段差部12dに非磁性部材11が嵌合して溶接され、ソレノイドチューブ200を形成する。すなわち、ソレノイドチューブ200は、磁性材料により構成された第1磁性部材10と、同じく磁性材料により構成された第2磁性部材12とを、非磁性領域を作るために少し空間を空けて非磁性部材11で繋いだ構造をしている。コイル14は樹脂部材16によってモールドされた状態でソレノイドチューブ200に巻回される。ケース18は、鉄などの磁性材料により筒状に形成され、かつコイル14と樹脂部材16とを外方から覆うようにソレノイドチューブ200に取り付けられる。可動鉄心20は筒状に形成され、ソレノイドチューブ200の内部空間S内に収容される。ロッド22は可動鉄心20とともにソレノイドチューブ200内を往復動可能に設けられる。スペーサ24は例えば環状に形成され、可動鉄心20の軸方向の一端部においてロッド22の外周に設けられる。
【0017】
このようなソレノイド100において、コイル14に電流を流すと磁界H(図1において一点鎖線で示す)が発生し、可動鉄心20、第1磁性部材10、第2磁性部材12が磁化される。このとき、第1磁性部材10と第2磁性部材12は、少し空間を空けて非磁性材料の非磁性部材11で繋いでいるのでこの空間が非磁性領域となり、コイル14により発生した磁界Hの磁束はこの領域を避け、第1磁性部材10、第2磁性部材12を経由して可動鉄心20に及んでいく。これによって、可動鉄心20を強く磁化することができる。コイル14に電流を流す前、可動鉄心20の第2磁性部材12側の端面が面12aに接しているが、コイル14に電流を流し発生した磁界Hにより磁化された可動鉄心20は、磁化された第1磁性部材10に引き寄せられ、可動鉄心20およびロッド22がチューブ内を図1に示す位置まで移動する。なお、ロッド22は不図示のバネ等によって面12a側に常時付勢されており、コイル14への電流の供給を止めると、可動鉄心20およびロッド22が、面12a側に移動する。
【0018】
ソレノイド100を比例ソレノイドとして用いる場合、第1磁性部材10の10b部分の先端を円錐台形状とすることにより、コイル14に流れる電流の大きさにより可動鉄心20の位置を制御することができる(図3参照)。
【0019】
第1磁性部材10および第2磁性部材12を構成する磁性材料としては上記SS400などの鉄系材料のほか、SUS430などの磁性ステンレスなどが挙げられ、また、非磁性部材11を構成する非磁性材料としては上記SUS304のほか、SUS303、SUS316、SUS321などの非磁性ステンレス、黄銅、青銅などのCu系合金、アルミニウム合金などが挙げられる。
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係るソレノイドチューブ200の製造方法について説明する。
【0021】
まず、図2のように、第2磁性部材12の第2段差部12dに非磁性部材11の一端側を嵌め込む。続いて、非磁性部材11と第2磁性部材12の12bが重なり合う部分(例えばAの位置)に対して外周側からファイバーレーザ溶接を行い、非磁性部材11と第2磁性部材12を溶接する。
【0022】
次に図3のように、非磁性部材11を溶接によって接合した第2磁性部材12の内周側に、可動鉄心20、ロッド22、スペーサ24を収容し、非磁性部材11の他端側を第1磁性部材10の第1段差部10dに嵌め込み、非磁性部材11と第1磁性部材10の10cが重なり合う部分(例えばBの位置)に対して外周側からファイバーレーザ溶接を行い、非磁性部材11と第1磁性部材10を溶接する。
【0023】
第1磁性部材10と非磁性部材11の溶接、および第2磁性部材12と非磁性部材11の溶接は、溶接による溶融部分が非磁性部材11を貫通し、それぞれ、第1磁性部材10および第2磁性部材12を貫通しないように行うが、確実に接合し、かつ、内周面に歪みを与える恐れを回避するためには、溶け込み深さ(溶融部分の深さ)が非磁性部材11の厚みの110%以上、かつ、非磁性部材11の厚みと溶接部分直下の第1磁性部材10の厚みの合計の85%以下、および、非磁性部材11の厚みと溶接部分直下の第2磁性部材12の厚みの合計の85%以下となるように行うことが好ましい。溶け込み深さは、非磁性部材11の厚みと溶接部分直下の第1磁性部材10の厚みの合計の80%以下、および、非磁性部材11の厚みと溶接部分直下の第2磁性部材12の厚みの合計の80%以下であることがより好ましい。
【0024】
非磁性部材11の第2磁性部材12への嵌め込み、可動鉄心20等の部材の収容、および非磁性部材11の第1磁性部材10への嵌め込みの一連の組み立て作業を先に行ってから、A、B2か所のファイバーレーザ溶接を続けて行ってもよい。工程の順序は各々の部品の形状等に合わせて任意である。
【0025】
図3において、Bの位置は可動鉄心20が摺動するチューブ内周面の裏側に当たらないため、特許文献1においてもここに相当する部分をレーザ溶接している。しかしながら、Aの位置は可動鉄心20が摺動するチューブ内周面のちょうど裏側に当たり、溶接の熱によってチューブが変形する(歪む)と、可動鉄心20の摺動性が悪化する。特許文献1では、この内周面が溶接の熱によって歪むのを避けるため、第2磁性部材12側は突合せ部(Cの位置)を溶接している。特許文献1にはレーザ溶接についての詳細な記載がない。唯一読み取れるのは第2磁性部材12と非磁性部材11を重ね合わせ溶接した場合、第2磁性部材12の内周面が歪む恐れがあるが、突合せ溶接した場合は歪まないということである。突合せ溶接では深さ方向だけでなく周方向(表面方向)にも溶接が可能であるため比較的出力を低くして溶接に必要な溶け込み深さを浅くできる。後述の実施例に示すように、YAGレーザによる重ね合わせ溶接で、溶け込み深さを深くして必要な溶接強度を確保するためには、かなり出力を高くする必要があり、第2磁性部材12の内周面が歪む恐れがある。したがって、特許文献1のレーザ溶接はYAGレーザ等で高出力のレーザを用いた溶接によると推測される。しかしながら、突合せ溶接は、Cの位置で非磁性部材11と段差部12dとの間に隙間があると溶接が不完全になることがあり、隙間を作らないように高い部品精度が必要となり、また厳しい工程管理が必要なため、コストアップ要因である。そこで発明者は、Aの位置で重ね合わせ溶接を行っても低出力で必要な溶け込み深さが得られる溶接方法を検討したところ、ファイバーレーザ溶接を採用し、所定の条件で溶接を行うことにより、チューブ内周面に大きな歪みを与えて変形させることなく、必要な封止特性、耐圧特性を満足する溶接強度で溶接可能であることがわかった。
【0026】
ファイバーレーザ溶接の条件は、第2磁性部材12の12b部分や非磁性部材11の材料特性および厚みにもよるが、溶融部分が非磁性部材11を貫通し、第2磁性部材12の12b部分を貫通しないように設定される。具体的には、出力270W~400W、レーザ照射時間2秒~5秒、ダウンスロープ0.2秒~0.4秒、周速2秒/周~5秒/周であることが好ましい。
【0027】
ファイバーレーザ溶接は、高い加工速度(タクトタイム3秒以内)かつ深い溶け込み深さで溶接可能で、YAGレーザなどの従来のレーザ溶接に比べて熱の影響が少ない。本発明によれば、好ましくは、内周面の真円度が10μm以下、より好ましくは、円筒度が10μm以下、真円度が5μm以下の、変形が少なく可動鉄心の摺動に問題のないチューブを製造することができる。また、そのレーザ光は強力で焦点の正確な連続波であるので、狭い領域を正確に溶接することができ、溶接跡が狭くかつ溶接部分に与える物理的歪が少ない。また、溶接跡のスパッタ付着もほとんどない。しかしながら、逆に溶接跡が狭いので突合せ溶接には比較的不向きであり、特に突合せ部分を正確に合わせないと溶接不完全な部分が発生する恐れがある。
【実施例
【0028】
[溶接状態の比較]
(実施例1)
表1の溶接手法および溶接個所につき、図2に示すように非磁性部材11と第2磁性部材12を溶接し、溶接状態と第2磁性部材12の内周面の変形を比較評価した。内周面の変形の評価はサンプル内周面の円筒度および真円度を評価することによって行った。実験に用いた非磁性部材11の厚みは0.68mm、第2磁性部材12b部分の厚み(非磁性部材11の厚みと第2段差部12d直下の厚み(1.52mm)の合計に等しい)は2.2mmである。
【0029】
【表1】
【0030】
溶接個所Aは重ね合わせ溶接、Cは突合せ溶接である。溶接条件は、溶け込み深さが表の値(1.0mm:非磁性部材11厚みの147%で第2磁性部材12b厚みの45%、および1.6mm:非磁性部材11厚みの235%で第2磁性部材12b厚みの73%)となるように調整した。具体的には、ファイバーレーザ溶接の条件は、出力は表中の値、レーザ照射時間3秒(1周)、ダウンスロープ時間0.3秒とし、TIG溶接の条件はベース電流80A、パルス電流40A、パルス周波数100Hz、周速20秒、ダウンスロープ4秒とした。溶け込み深さは、溶接断面を塩化第二鉄液でエッチングし、色調が変化している部分を溶け込み部分として評価した。
【0031】
それぞれの溶接サンプルにつき、外観の評価、および封止テスト(エア圧力0.49~0.63MPaで30秒間加圧したときのエアリーク無で〇)を行った。結果を表1に示す。実施例1-1の外観については、同条件で溶接した別サンプルの写真を図4aに示す。このサンプルは、図3に示すように、第1磁性部材10側と第2磁性部材12側の両方を実施例1-1と同条件で溶接したサンプルである。また、溶接部の断面写真を図4bに示す。また、実施例1-1について、円筒度、真円度の評価を行った。結果を図5に示す。円筒度及び真円度の評価は真円度・円筒度測定器を使用し、A部分直下、A部分直下より9mm奥側(第2磁性部材12側)の2か所について行った。円筒度は3.5μm、A部分直下の真円度は2.0μmであった。
【0032】
表1、図4a、図4bより、ファイバーレーザ溶接によって重ね合わせ溶接を行った場合、十分な溶け込み深さが得られる出力で溶接しても外観はスパッタ付着はなく、封止テストも合格であった。出力500wでは外観に少々焼けが見られたが問題ない範囲であった。また図5より、ファイバーレーザ溶接後のチューブは円筒度10μm以下、真円度5μm以下を満たしており、ほとんど歪は見られなかった。ファイバーレーザ溶接によって突合せ溶接を行った場合は、作製した100個のサンプル中1個について溶接不完全な部分(隙間)が発見された。非磁性部材11の加工ばらつきや後部磁極12への圧入作業のばらつきによって発生した隙間を溶接で埋めきれなかったものと考えられる。さらに、比較例1-2のTIG溶接の場合も外観の付着物はなかったが焼けが多く、円筒度、真円度の評価を行おうとしたが、歪が大きすぎて測定不可能であった。そこで、TIG溶接後のチューブの内周面を加工してから測定を行ったところ、円筒度17.1μm、真円度6.7μmであった。TIG溶接の場合は、突合せ溶接を行っても、円筒度、真円度ともに大きく悪化し、特にC部分の溶接個所直下の変形が著しかった。
【0033】
(実施例2)
ファイバーレーザ溶接の条件を変えて実施例1と同様の溶接サンプルを作製し、それぞれの溶け込み深さと外観の評価を行った。溶接条件と評価結果を表2に示す。なお、本実施例では非磁性部材11の厚みは0.68mm、第2磁性部材12b部分の厚み(非磁性部材11の厚みと第2段差部12d直下の厚み(1.52mm)の合計に等しい)は2.2mmである。
【0034】
【表2】
【0035】
表2からわかるように種々の溶接条件で溶け込み深さが0.8mm以上1.6mm以下(非磁性部材11厚みの118%以上235%以下で第2磁性部材12b厚みの36%以上73%以下)であった。外観については、出力500Wの条件で内周面に若干焼けが見られたものの問題のない範囲であり、すべての条件でスパッタ付着がなかった。
【0036】
(実施例3)
表3の溶接手法および溶接条件につき、図2に示すように非磁性部材11と第2磁性部材12を溶接し、溶接状態と第2磁性部材12の内周面の変形、外観の評価、および封止テストを比較評価した。内周面の変形の評価はサンプル内周面の真円度を評価することによって行った。外観評価は、スパッタ付着の有無と焼けを評価した。また封止テストは、エア圧力0.49~0.63MPaで30秒間加圧したときのエアリーク無で合格(〇)とした。実験に用いた非磁性部材11の厚みは0.67mm、非磁性部材11の厚みと第2段差部12d直下の厚み(1.525mm)の合計は2.195mmである。なお、真円度の評価位置は溶接部がA部分直下、非溶接部がA部分から10mm奥側(第2磁性部材12側)とした。溶接条件と評価結果を表3に示す。また、真円度の測定結果を図8に、溶接部分の断面図の一例として実施例3-3の断面図を図9に示す。
【0037】
【表3】
【0038】
表3からわかるように種々の溶接条件で溶け込み深さが0.80mm以上1.83mm以下(非磁性部材11厚みの119%以上273%以下で、非磁性部材11の厚みと第2段差部12d直下の厚みの合計の36%以上83%以下)であった。外観については、すべての条件でスパッタ付着がなく、焼けの状態も問題のない範囲であった。真円度についてもすべての条件でTIG溶接(内周面加工後)の真円度(比較例1-2、6.7μm、図8に合わせて示す)を下回っており、特に出力が400W以下の条件では3.5μm以下と、ほとんど歪が見られなかった。
【0039】
(比較例)
比較例として、YAGレーザ溶接の条件を変えて実施例1と同様の溶接サンプルを作製し、溶け込み深さと外観の評価を行った。溶接条件と結果を表3に示す。また、比較例2-3および2-4の外観および断面写真を図6a、図6bに示す。
【0040】
【表4】
【0041】
ファイバーレーザ溶接(実施例1-1、2-2、2-3、2-4で出力300w)と同等のピークパワー(1.8kw)で溶接した時の溶け込み深さは0.5mmであり、第2磁性部材まで達せず、非磁性部材11と第2磁性部材12を接合することができなかった。また、ピークパワーを増加させて実験した結果、溶接部分近傍にスパッタ付着が多く付着するようになり、特にピークパワー4kw(ファイバーレーザ換算出力500w)のサンプルはスパッタ付着が非常に多かった。
【0042】
[ソレノイド特性]
(実施例3)
実施形態に記載の製造方法に従って、図3のソレノイドチューブを作製した。溶接はAおよびB部分を重ね合わせ溶接とし、溶接条件は表1の実施例1-1と同じ条件とした。作製したチューブに対し、吸引力、封止、耐圧のソレノイド特性を確認した。
【0043】
・吸引力特性
まず吸引力特性を評価した。測定は吸引力測定機を用いて、電流値が0.2A、0.4A、0.6Aのストローク(可動鉄心の移動値)に対する吸引力を測定した。結果を図7に示す。図7には比較としてTIG溶接品のデータを点線で示している。
【0044】
図7からわかるように、TIG溶接の場合は溶接前後でヒステリシスの幅が大きく変化しているのに対して、ファイバーレーザ溶接の場合は溶接前後で吸引力特性がほとんど変化していない。ここからもファイバーレーザ溶接における熱歪みの影響が小さいことがわかる。
【0045】
・封止特性
次に封止特性を評価した。測定はエアリーク試験機を用いた。エア圧力0.49~0.63MPaで30秒間加圧し、リークの有無を確認したところ、リークなく、完全に封止できていることが確認された。
【0046】
・耐圧特性
静耐圧特性を確認するため、バースト試験を行った。測定は油圧ジャッキと圧力計を用いた。80MPaの高圧を付加しても油漏れがなく、十分な静耐圧特性を有していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、工程管理の容易な重ね合わせ溶接を行っても、溶接による熱歪みによるチューブ内周面の変形が少なく、かつ、実質的に溶接面のスパッタ付着物のない、ソレノイドチューブの製造方法を提供することができ、品質の向上と工程のコストダウンを両立させることが可能となる点で産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0048】
10 第1磁性部材
11 非磁性部材
12 第2磁性部材
14 コイル
16 樹脂部材
18 ケース
20 可動鉄心
22 ロッド
24 スペーサ
100 ソレノイド
200 ソレノイドチューブ
A、B、C 溶接部
図1
図2
図3
図4a
図4b
図5
図6a
図6b
図7
図8
図9