(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】活性エネルギー線硬化性組成物、活性エネルギー線硬化性印刷インキ及び印刷物
(51)【国際特許分類】
C08F 283/02 20060101AFI20241008BHJP
C08F 283/01 20060101ALI20241008BHJP
C09D 11/101 20140101ALI20241008BHJP
【FI】
C08F283/02
C08F283/01
C09D11/101
(21)【出願番号】P 2020056722
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】成田 優香
(72)【発明者】
【氏名】小澤 匡弘
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-199727(JP,A)
【文献】特開2016-199726(JP,A)
【文献】特開2005-154748(JP,A)
【文献】特開2018-016688(JP,A)
【文献】特開2016-040353(JP,A)
【文献】特開2019-026675(JP,A)
【文献】特開平05-262870(JP,A)
【文献】特開昭61-076562(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 283/02
C08F 283/01
C09D 11/101
C08F 2/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂(A)及び3官能以上のラジカル重合性化合物(B)を含む活性エネルギー線硬化性組成物であって、
前記ポリエステル樹脂(A)が
、カルボン酸又はその無水物若しくはそのエステルである原料(a1)と
、アルコールである原料(a2)
とを用いて得られたポリエステル樹脂であって、原料(a2)由来の構成単位のモル数が原料(a1)由来の構成単位のモル数以上であり、かつ、原料(a1)由来の構成単位100モルに対して、3価以上のアルコール由来の構成単位が70モル以上であ
り、
前記原料(a1)は、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、セバシン酸、イソデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アジピン酸、フランジカルボン酸、及びそれらの酸無水物又はエステルから選ばれる少なくとも1種を含み、
前記原料(a2)は、ソルビトール、1,2,5,6-ヘキサンテトラオール、1,4-ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、グリセロール、2-メチル-1,2,3-プロパントリオール、2-メチル-1,2,4-ブタントリオール、トリメチロールプロパン、1,3,5-トリヒドロキシメチルベンゼンから選ばれる少なくとも1種を含み、
前記3官能以上のラジカル重合性化合物(B)は、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、並びに、これらのアルキレンオキサイド付加変性物又はε-カプロラクトン開環付加変性物から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記ポリエステル樹脂(A)の重量平均分子量が1500以上10000未満である、
活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項2】
前記活性エネルギー線硬化性組成物の25℃におけるE型粘度が1500~100000mPa・sである請求項1に記載の活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項3】
さらに、開始剤(C)を含有する請求項1
又は2に記載の活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化性組成物であって、さらに顔料を含有する活性エネルギー線硬化性印刷インキ。
【請求項5】
請求項
4に記載の活性エネルギー線硬化性印刷インキの硬化物が基材の表面に定着している印刷物。
【請求項6】
請求項
4に記載の活性エネルギー線硬化性印刷インキを基材に印刷し、活性エネルギー線を照射して硬化させて当該インキを定着させる工程を含む請求項
5に記載の印刷物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂と3官能以上のラジカル重合性化合物を含む活性エネルギー線硬化性組成物であって、特にこの組成物からなる活性エネルギー線硬化性印刷インキに関する。また、本発明は、当該インキで印刷した印刷物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
活性エネルギー線硬化性組成物は、印刷インキ、クリヤーワニス、塗料、接着剤、フォトレジスト等の分野では用いられている。活性エネルギー線硬化性組成物を印刷インキとして用いた活性エネルギー線硬化性印刷インキは、ジアリルフタレート樹脂(以下「DAP樹脂」という)に代表される融点50℃以上の非反応性樹脂(インナート樹脂)又はラジカル重合性オリゴマー、及びラジカル重合性モノマーを含み、ラジカル重合開始剤や光増感剤、顔料、諸種の添加剤などが適宜配合されている。
【0003】
非反応性樹脂としては、オルソないしイソタイプのDAP樹脂が広く使用されている。ラジカル重合性オリゴマーとしては、例えばアルキッドアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタン変性アクリレート等が使用されている。ラジカル重合性モノマーとしては、例えばビスフェノールAアルキレンオキサイド付加体ジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、テトラメチロールメタン(トリ又は)テトラアクリレート、ジペンタエリスリトール(ペンタ又は)ヘキサアクリレート等が使用されている。ラジカル重合開始剤や光増感剤としては、例えばベンゾイン系、(ジアルキルジアミノ)アリールケトン系、キサントン系のものが使用されている。
しかし、非反応性樹脂としてDAP樹脂を使用した印刷インキは、ポリエチレンテレフタレート樹脂製フィルム(以下「PETフィルム」という)への密着性が不十分である。そのため、DAP樹脂の代わりにポリエステル樹脂を使用してPETフィルムへの密着性を向上する方法が検討されている。
【0004】
さらに印刷分野では印刷の高速化が進められている。これに適応するために、印刷時の汚れが少なく、乳化し易いなどの印刷適性の優れた活性エネルギー線硬化性印刷インキが求められている。特許文献1では、印刷適性を改良するために、多塩基酸と多価アルコール、そして一塩基酸を用いて得られる飽和ポリエステルを非反応性樹脂として配合した活性エネルギー線硬化性印刷インキが提案されている。しかし、このインキは飽和ポリエステルがラジカル重合性化合物に溶解し難く、溶解させるためには140℃という高温にしなければならないという問題があった。
【0005】
一方、特許文献2では、印刷適性を改良する為に高価なアルミニウム錯体をゲル化剤として配合した活性エネルギー線硬化性印刷インキが提案されている。しかし、低コスト化の観点から高価なゲル化剤を使用しないか、又は少量の使用で印刷適性が良好な活性エネルギー線硬化性印刷インキが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-320555号公報
【文献】特開2001-335728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、高温にすることなく製造でき、高価なゲル化剤に頼らなくても印刷インキとして用いた場合に印刷適正が良好な活性エネルギー線硬化性組成物、活性エネルギー線硬化性印刷インキ、当該インキを用いて印刷した印刷物、及び当該印刷物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリエステル樹脂(A)及び3官能以上のラジカル重合性化合物(B)を含む活性エネルギー線硬化性組成物であって、前記ポリエステル樹脂(A)が、少なくとも多価カルボン酸又はその無水物若しくはそのエステルを含むカルボン酸又はその無水物若しくはそのエステルである原料(a1)と、少なくとも多価アルコールを含むアルコールである原料(a2)を用いて得られたポリエステル樹脂であって、原料(a2)由来の構成単位のモル数が原料(a1)由来の構成単位のモル数以上であり、かつ、原料(a1)由来の構成単位100モルに対して、3価以上のアルコール由来の構成単位が70モル以上である、活性エネルギー線硬化性組成物である。
また、本発明は、前記活性エネルギー線硬化性組成物であって、さらに顔料を含有する活性エネルギー線硬化性印刷インキである。
また、本発明は、前記活性エネルギー線硬化性印刷インキの硬化物が基材の表面に定着している印刷物である。
また、本発明は、前記活性エネルギー線硬化性印刷インキを基材に印刷し、活性エネルギー線を照射して硬化させて当該インキを定着させる工程を含む前記の印刷物の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高温にすることなく製造でき、印刷インキとして用いた場合に印刷適性が良好な活性エネルギー線硬化性組成物を提供できる。また本発明によれば、高温にすることなく製造でき、印刷適性が良好な活性エネルギー線硬化性印刷インキ、当該インキを用いて印刷した印刷物、及びその印刷物の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明を実施の形態例に基づいて説明する。但し、本発明は以下に説明する形態に限定されるものではない。
【0011】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、ポリエステル樹脂(A)と3官能以上のラジカル重合性化合物(B)を含む。
【0012】
[ポリエステル樹脂(A)]
ポリエステル樹脂(A)は、少なくとも多価カルボン酸又はその無水物若しくはそのエステルを含むカルボン酸又はその無水物若しくはそのエステルである原料(a1)と、少なくとも多価アルコールを含むアルコールである原料(a2)を用いて得られたポリエステル樹脂である。
ポリエステル樹脂(A)において、原料(a2)由来の構成単位のモル数は、原料(a1)由来の構成単位のモル数以上である。
また、ポリエステル樹脂(A)において、(a1)由来の構成単位100モルに対して、3価以上のアルコール由来の構成単位は70モル以上である。3価以上のアルコール由来の構成単位の割合をこのようにすると、印刷インキに用いた場合に印刷適性におけるミスチング性が良好となる。また、ポリエステル樹脂(A)の3官能以上のラジカル重合性化合物(B)への溶解性が良好となる傾向がある。
【0013】
<原料(a1)>
原料(a1)は、カルボン酸又はその無水物若しくはそのエステル(以下、まとめて「カルボン酸類」ということがある)であり、少なくとも多価カルボン酸又はその無水物若しくはそのエステルを含む。原料(a1)は、一価のカルボン酸類を含んでいてもよい。多価カルボン酸としては、2価のカルボン酸を含むことが好ましい。
【0014】
2価のカルボン酸としては、例えば、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、セバシン酸、イソデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アジピン酸、フランジカルボン酸などカルボン酸が挙げられる。原料(a1)としては、それら2価のカルボン酸の酸無水物又はエステルも使用できる。前記エステルとしては、例えば、モノメチル、モノエチル、ジメチル、ジエチルエステルなどの低級アルキルモノエステル又は低級アルキルジエステルが挙げられる。テレフタル酸、イソフタル酸の低級アルキルエステルとしては、例えば、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、イソフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジブチル、イソフタル酸ジブチルが挙げられる。原料(a1)としては、ハンドリング性及びコストに優れる点で、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フランジカルボン酸のいずれかを含むことが好ましい。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0015】
3価以上のカルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸、1,2,5-ヘキサントリカルボン酸、1,2,7,8-オクタンテトラカルボン酸が挙げられる。原料(a1)としては、それら3価以上のカルボン酸の酸無水物又はエステルも使用できる。前記エステルとしては、低級アルキルのモノ又はポリエステルなどが挙げられる。3価以上のカルボン酸又はその無水物としては、沸点が高く、印刷インキから発生する揮発成分の原因物質になりにくいトリメリット酸又はその無水物が好ましい。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
1価のカルボン酸としては、例えば、安息香酸、p-メチル安息香酸等の炭素数30以下の芳香族カルボン酸;パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸等の炭素数30以下の脂肪族カルボン酸;桂皮酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の不飽和二重結合を分子内に1つ以上有する不飽和カルボン酸が挙げられる。原料(a1)としては、1価のカルボン酸の酸無水物又はエステルも使用できる。前記エステルとしては、低級アルキルエステルなどが挙げられる。1価のカルボン酸は、ポリエステル樹脂(A)の末端官能基数の調整などの目的で適宜使用される。1価のカルボン酸は、入手しやすさの観点より安息香酸やパルミチン酸が好ましい。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
<原料(a2)>
原料(a2)は、アルコールであり、少なくとも多価アルコールを含む。原料(a2)は、1価のアルコールを含んでいてもよい。ポリエステル樹脂(A)には、原料(a1)由来の構成単位100モルに対して、3価以上のアルコール由来の構成単位を70モル%以上含む必要があるので、原料(a2)としては3価以上のアルコールを用いる必要がある。
3価以上のアルコールとしては、例えば、ソルビトール、1,2,5,6-ヘキサンテトラオール、1,4-ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、グリセロール、2-メチル-1,2,3-プロパントリオール、2-メチル-1,2,4-ブタントリオール、トリメチロールプロパン、1,3,5-トリヒドロキシメチルベンゼンなどが挙げられる。これらの中でも、グリセロール、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンが好ましく、重合速度の調整しやすさの観点より、グリセロール、トリメチロールプロパンが特に好ましい。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
印刷インキの印刷適正をより向上させるためには、原料(a2)として3価以上のアルコールと2価のアルコールを併用することが好ましい。
【0018】
2価のアルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ポリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、シクロペンタンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール水素添加ビスフェノールA、スピログリコール、ジオキサングリコール、ズルシッド、ヘキシッド、イソソルバイド、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物{例えばポリオキシエチレン-(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(2.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(2.2)-ポリオキシエチレン-(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(6)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(2.4)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(3.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン}が挙げられる。この中でも樹脂の着色性が低減しやすく、且つ原料の入手しやすさの観点より、エチレングリコール、ネオペンチルグリコ―ル、1,4-シクロヘキサンジメタノールが好ましい。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
原料(a2)としては、ポリエステル樹脂(A)の末端官能基数の調整や、ポリエステル樹脂(A)以外の活性エネルギー線硬化性組成物の成分の分散性向上目的で、多価アルコールに加えて1価のアルコールを併用してもよい。
1価のアルコールとしては、例えば、ベンジルアルコール等の炭素数30以下の芳香族アルコール;オレイルアルコール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等の炭素数30以下の脂肪族アルコールなどが挙げられる。これら1価のアルコールは、それぞれ1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
<ポリエステル樹脂(A)の特性値>
ポリエステル樹脂(A)の酸価(AV)は、0.1~90mgKOH/gが好ましく、0.1~85mgKOH/gがより好ましく、0.1~80mgKOH/gがさらに好ましい。AVは、高いほど重合速度の制御が容易になる傾向にあり、低いほど吸湿を抑制できる傾向にある。AVは、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0021】
ポリエステル樹脂(A)の水酸基価(OHV)は、1~500mgKOH/gが好ましく、20~400mgKOH/gがより好ましい。この範囲であれば、重合速度の調整が容易で分子量が制御しやすいため、テトラヒドロフラン(以下「THF」ともいう)等の溶剤不溶解分が少なくなる傾向にある。OHVは、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0022】
ポリエステル樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は、1500~20000が好ましく、2000~15000がより好ましく、2400~10000がさらに好ましい。ポリエステル樹脂のMwは、大きいほど活性エネルギー線硬化性印刷インキに用いた場合に硬化性が向上する傾向にあり、小さいほど3官能以上のラジカル重合性化合物(B)への溶解性が向上する傾向にある。
ポリエステル樹脂(A)のピークトップ分子量(Mp)は、700~20000が好ましく、800~10000がより好ましく、900~5000がさらに好ましい。
ポリエステル樹脂のMw及びMpは、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0023】
[ポリエステル樹脂(A)の製造]
ポリエステル樹脂(A)は、例えば、重合触媒の存在下に、原料(a1)及び原料(a2)と、必要に応じて他の成分を配合した原料単量体混合物を公知のポリエステル重合方法により重合することで製造できる。
【0024】
<重合触媒>
ポリエステル樹脂(A)の製造に用いられる重合触媒としては、公知の触媒が利用できる。なかでもチタン系触媒は反応活性が高いのでポリエステル樹脂の生産性が高くなることに加えて、オリゴマー量を低減できる点で好ましい。ポリエステル樹脂の着色を低減させたい場合には、ゲルマニウム系触媒を使用してもよい。スズ系触媒やアンチモン系触媒は反応活性が高いという点で好ましい。
【0025】
チタン系触媒としては、有機チタン化合物及び無機チタン化合物などが利用できる。
有機チタン化合物としては、例えば、アルコキシ基を有するチタンアルコキシド、カルボン酸チタン、カルボン酸チタニル、カルボン酸チタニル塩、チタンキレートが挙げられる。
【0026】
アルコキシ基を有するチタンアルコキシドとしては、例えば、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラ-n-ブトキシチタン、テトラペントキシチタン、テトラオクトキシチタンが挙げられる。
【0027】
カルボン酸チタンとしては、例えば、蟻酸チタン、酢酸チタン、プロピオン酸チタン、オクタン酸チタン、シュウ酸チタン、コハク酸チタン、マレイン酸チタン、アジピン酸チタン、セバシン酸チタン、ヘキサントリカルボン酸チタン、イソオクタントリカルボン酸チタン、オクタンテトラカルボン酸チタン、デカンテトラカルボン酸チタン、安息香酸チタン、フタル酸チタン、テレフタル酸チタン、イソフタル酸チタン、1,3-ナフタレンジカルボン酸チタン、4,4-ビフェニルジカルボン酸チタン、2,5-トルエンジカルボン酸チタン、アントラセンジカルボン酸チタン、トリメリット酸チタン、2,4,6-ナフタレントリカルボン酸チタン、ピロメリット酸チタン、2,3,4,6-ナフタレンテトラカルボン酸チタンが挙げられる。
【0028】
カルボン酸チタニルとしては、例えば、安息香酸チタニル、フタル酸チタニル、テレフタル酸チタニル、イソフタル酸チタニル、1,3-ナフタレンジカルボン酸チタニル、4,4-ビフェニルジカルボン酸チタニル、2,5-トルエンジカルボン酸チタニル、アントラセンジカルボン酸チタニル、トリメリット酸チタニル、2,4,6-ナフタレントリカルボン酸チタニル、ピロメリット酸チタニル、2,3,4,6-ナフクレンテトラカルボン酸チタニルが挙げられる。
【0029】
カルボン酸チタニル塩としては、例えば、上記のカルボン酸チタニルに対するアルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウムなど)塩もしくはアルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム、バリウムなど)塩が挙げられる。
【0030】
有機チタン化合物としては、反応性と水分散液の粒径の観点で、テトラブトキシチタン、テトラプロポキシチタンが好ましい。また、チタンキレートを用いる場合は、配位子が、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル、オクチレングリコール、トリエタノールアミン、乳酸、乳酸アンモニウムから選ばれることが好ましい。
有機チタン化合物は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
無機チタン化合物としては、例えば、チタン、酸化チタン、窒化チタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸鉛、チタン酸バリウム、チタン酸カリウム、二酸化チタンが挙げられる。
無機チタン化合物は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
<ポリエステル樹脂(A)の製造条件>
ポリエステル樹脂(A)の製造において、原料単量体混合物の各原料の仕込み比率は得られるポリエステル樹脂(A)の構成単位の比率と必ずしも一致しないので、得られるポリエステル樹脂(A)が次の条件を満足するように仕込み比率を設定する必要がある。
前述したように、ポリエステル樹脂(A)において、原料(a2)由来の構成単位のモル数は、原料(a1)由来の構成単位のモル数以上である。
また、ポリエステル樹脂(A)の3価以上のアルコール由来の構成単位は、原料(a1)由来の構成単位100モルに対して70モル%以上であり、70~180モルが好ましく、75~150モルがより好ましい。
ポリエステル樹脂(A)は2価のアルコール由来の構成単位を有していてもよく、2価のアルコール由来の構成単位及び3価以上のアルコール由来の構成単位の総量は、原料(a1)由来の構成単位100モルに対して100~200モルが好ましく、105~180モルがより好ましく、110~170モルがさらに好ましく、50~150モルが最も好ましい。
【0033】
ポリエステル樹脂(A)の製造において、重合温度は180~280℃が好ましく、200~270℃がより好ましい。重合温度は、高いほど生産性が良好となる傾向にあり、低いほどポリエステル樹脂の分解や、臭気の要因となる揮発分の副生成を抑制できる傾向にある。
【0034】
重合終点は、例えば軟化温度で決定できる。軟化温度は、例えば、攪拌翼のトルクの値により知ることができるので、所望の軟化温度を示すトルク値になるまで縮合反応を行って、重合を終了させればよい。重合の終了は、例えば、反応物の攪拌を停止し、反応装置内部を常圧(大気圧付近)まで降圧し、ついで装置内部を窒素で加圧して装置下部より反応物を取り出して100℃以下に冷却することで達成できる。
【0035】
ポリエステル樹脂の重合安定性を向上させる目的で、原料単量体混合物に安定剤を添加して重合してもよい。安定剤としては、例えば、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、ヒンダードフェノール化合物が挙げられる。
【0036】
[3官能以上のラジカル重合性化合物(B)]
3官能以上のラジカル重合性化合物(B)(以下「化合物(B)」という)は、(メタ)アクリロイル基やビニル基などのラジカル重合性基を1分子中に3個以上有する化合物である。化合物(B)としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート及びペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の3官能の(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の4官能の(メタ)アクリレート;ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の5官能の(メタ)アクリレート;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の6官能の(メタ)アクリレート、並びに、これら3官能以上の(メタ)アクリレートのアルキレンオキサイド付加変性物又はε-カプロラクトン開環付加変性物等の各種変性物が挙げられる。
【0037】
これらのなかでも、特に印刷インキとしての硬化性に優れる点からジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド付加ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート及びアルキレンオキサイド付加ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0038】
[活性エネルギー線硬化性組成物]
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、ポリエステル樹脂(A)と化合物(B)を含む。ポリエステル樹脂(A)と化合物(B)の合計に対して、ポリエステル樹脂(A)は1~80質量%が好ましく、10~70質量%がより好ましい。また、化合物(B)は20~99質量%が好ましく、30~90質量%がより好ましい。
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、例えば、ポリエステル樹脂(A)を化合物(B)に溶解させることにより製造できる。
【0039】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物の25℃におけるE型粘度は、1500~100000mPa・sの範囲が好ましい。粘度は高いほど硬化性が良好となる傾向があり、低いほど基材への転写時にインキによる紙剥けが抑制でき、高速印刷時に付着効率が良好となる傾向がある。粘度はポリエステル樹脂(A)と化合物(B)の配合比率や配合量により調節することができる。また、粘度調整剤によっても調整できる。
【0040】
[開始剤(C)]
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は開始剤(C)を含んでいてもよい。開始剤(C)としては、例えば、分子内開裂型光重合開始剤及び水素引き抜き型光重合開始剤等の光重合開始剤が挙げられる。
【0041】
分子内開裂型光重合開始剤としては、例えば、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]-フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2,2-ジエトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン等のアセトフェノン系化合物;1-[4-(フェニルチオ)-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]、1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)等のオキシム系化合物、3,6-ビス(2-メチル-2-モルフォリノプロパノニル)-9-ブチルカルバゾール等のカルバゾール系化合物、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾイン系化合物;2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)ブタン-1-オン、2-(ジメチルアミノ)-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルフォリノフェニル)ブタン-1-オン、2-メチル-2-モルホリノ((4-メチルチオ)フェニル)プロパン-1-オン等のアミノアルキルフェノン系化合物;ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルフォスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキシド系化合物;ベンジル、メチルフェニルグリオキシエステル等が挙げられる。
【0042】
水素引き抜き型光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル-4-フェニルベンゾフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルサルファイド、アクリル化ベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物;2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン等のチオキサントン系化合物;4,4’-ビスジメチルアミノベンゾフェノン、4,4’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン等のアミノベンゾフェノン系化合物;その他10-ブチル-2-クロロアクリドン、2-エチルアンスラキノン、9,10-フェナンスレンキノン、カンファーキノン等が挙げられる。
これらの光重合開始剤は、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0043】
これらの開始剤の配合量は、本発明の活性エネルギー線硬化性組成物中のポリエステル樹脂(A)と化合物(B)の合計100質量部に対し、1~20質量部が好ましい。開始剤の配合量は多いほど硬化性が良好になる傾向があり、少ないほど未反応の開始剤が硬化物中に残存することによるマイグレーション、耐溶剤性、耐候性等の物性低下が少なくなる傾向がある。これらの性能バランスがより良好なものとなる点から、開始剤の配合量は、本発明の活性エネルギー線硬化性組成物中のポリエステル樹脂(A)と化合物(B)の合計100質量部に対し、3~15質量部がより好ましい。
【0044】
活性化エネルギー線硬化型樹脂組成物中の溶剤量は、活性化エネルギー線を照射して硬化塗膜とする際の硬化性の点から少ない方が好ましく、ラジカル重合性化合物100質量部に対して5質量部以下がより好ましく、実質0質量部であることが最も好ましい。
【0045】
[光増感剤]
活性化エネルギー線硬化型樹脂組成物に紫外線を照射して硬化する場合、前記の開始剤(C)の他に、光増感剤を配合することで硬化性を一層向上させることが可能である。光増感剤としては、例えば、脂肪族アミン等のアミン化合物、o-トリルチオ尿素等の尿素類、ナトリウムジエチルジチオホスフェート、s-ベンジルイソチウロニウム-p-トルエンスルホネート等の硫黄化合物が挙げられる。光増感剤の配合量は、硬化性向上の点から活性エネルギー線硬化性組成物中のポリエステル樹脂(A)と化合物(B)の合計100質量部に対して1~20質量部が好ましい。
【0046】
[活性エネルギー線硬化性印刷インキ]
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、活性エネルギー線硬化性印刷インキとして有用である。印刷インキとして用いる場合、顔料、染料、体質顔料、有機フィラー、無機フィラー、帯電防止剤、消泡剤、粘度調整剤、耐光安定剤、耐候安定剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、顔料分散剤、ワックス等の添加剤を配合することができる。
【0047】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物、とりわけ活性エネルギー線硬化性印刷インキは、基材に印刷後、活性エネルギー線を照射することで硬化させることができる。
活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、α線、β線、γ線等の電離放射線が挙げられる。これらのなかでも硬化性の点から紫外線が好ましい。活性エネルギー線のエネルギー源又は硬化装置としては、例えば、殺菌灯、紫外線用蛍光灯、UV-LED、カーボンアーク、キセノンランプ、複写用高圧水銀灯、中圧又は高圧水銀灯、超高圧水銀灯、無電極ランプ、メタルハライドランプ、自然光等を光源とする紫外線、又は走査型、カーテン型電子線加速器による電子線が挙げられる。
【0048】
活性エネルギー線硬化性印刷インキに用いることができる顔料としては、公知公用の着色用有機顔料を挙げることができる。有機顔料は、例えば「有機顔料ハンドブック(著者:橋本勲、発行所:カラーオフィス、2006年初版)」に掲載されている印刷インキ用有機顔料等が挙げられる。具体的な有機顔料としては、例えば、溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、金属フタロシアニン顔料、無金属フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、イソインドリノン顔料、イソインドリン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン顔料、金属錯体顔料、ジケトピロロピロール顔料、カーボンブラック顔料、その他多環式顔料が挙げられる。
【0049】
活性エネルギー線硬化性印刷インキには、体質顔料として無機微粒子を用いることができる。無機微粒子としては、例えば、酸化チタン、クラファイト、亜鉛華等の無機着色顔料;炭酸石灰粉、沈降性炭酸カルシウム、石膏、クレー(ChinaClay)、シリカ粉、珪藻土、タルク、カオリン、アルミナホワイト、硫酸バリウム、ステアリン酸アルミニウム、炭酸マグネシウム、バライト粉、砥の粉等の無機体質顔料等の無機顔料や、シリコーン、ガラスビーズが挙げられる。これら無機微粒子をインキ中に配合することにより、インキの流動性の調整、ミスチングの防止、紙等の印刷基材への浸透防止といった効果を得ることができる。その際の無機微粒子の配合量はインキ中に0.1~20質量%が好ましい。
【0050】
本発明の活性エネルギー線硬化性印刷インキに適する印刷基材としては、例えば、カタログ、ポスター、チラシ、CDジャケット、ダイレクトメール、パンフレット、化粧品や飲料、医薬品、おもちゃ、機器等のパッケージ等に用いる紙基材;ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の各種食品包装用資材に用いられる樹脂フィルム;アルミニウム等の金属ホイル;合成紙;その他従来から印刷基材として使用されている各種基材が挙げられる。
【0051】
[印刷物及び印刷方法]
本発明の印刷物は、本発明の活性エネルギー線硬化性印刷インキの硬化物が基材の表面に定着している印刷物である。この印刷物は、本発明の活性エネルギー線硬化性印刷インキを基材に印刷し、活性エネルギー線を照射して硬化させて当該インキを定着させる工程を経て製造することができる。その際の印刷方法としては、例えば、平版オフセット印刷、凸版印刷、グラビア印刷、グラビアオフセット印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷が挙げられる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、評価は以下の方法で行った。
【0053】
<酸価(AV)>
樹脂の酸価は、以下のようにして測定した。
樹脂約0.2gを枝付き三角フラスコ内に精秤し(A(g))、ベンジルアルコール10mLを加え、窒素雰囲気下として230℃のヒーターにて15分加熱しポリエステル樹脂を溶解した。室温まで放冷後、ベンジルアルコール10mL、クロロホルム20mL、フェノールフタレイン溶液数滴を加え、0.02規定のKOH溶液にて滴定した(滴定量=B(mL)、KOH溶液の力価=p)。ブランク測定を同様に行い(滴定量=C(mL))、以下の式に従って算出した。
酸価(mgKOH/g)={(B-C)×0.02×56.11×p}/A
【0054】
<水酸基価(OHV)>
樹脂の水酸基価は、以下のようにして測定した。
樹脂約5.0gを三角フラスコ内に精秤し(A(g))、THF50mL加え、完全に溶解させた。ジメチルアミノピリジン/THF溶液30mLを加え、無水酢酸/THF溶液10mLを加えた後、15分撹拌した。さらに蒸留水3mLを加え、15分撹拌した後、THF50mL及び0.5規定のKOH溶液25mLを加えた。指示薬としてフェノールフタレイン溶液数滴を加え、0.5規定のKOH溶液にて滴定した(滴定量=B(mL)、KOH溶液の力価=f)。ブランク測定を同様に行い(滴定量=C(mL))、以下の式に従って算出した。
水酸基価(mgKOH/g)=(C-B)×56.11×f÷A+酸価
【0055】
<平均分子量(Mn、Mw)及びピークトップ分子量(Mp)>
GPC法により、得られた溶出曲線のピーク値に相当する保持時間からピークトップ分子量(Mp)及び、各平均分子量(Mn、Mw)を標準ポリスチレン換算により求めた。なお、溶出曲線のピーク値とは、溶出曲線が極大値を示す点であり、極大値が2点以上ある場合は、溶出曲線が最大値を与える点のことである。
装置:東ソー製、HLC8020
カラム:東ソー製、TSKgelGMHXL(カラムサイズ:7.8mm(ID)×30.0cm(L))を3本直列に連結
オーブン温度:40℃
溶離液:THF
試料濃度:4mg:樹脂/10mL:THF
濾過条件:0.45μmテフロン(登録商標)メンブレンフィルターで試料溶液を濾過
流速:1mL/分
注入量:0.1mL
検出器:RI
検量線作成用標準ポリスチレン試料:東洋ソーダ工業製TSK standard、A-500(分子量5.0×102)、A-2500(分子量2.74×103)、F-2(分子量1.96×104)、F-20(分子量1.9×105)、F-40(分子量3.55×105)、F-80(分子量7.06×105)、F-128(分子量1.09×106)、F-288(分子量2.89×106)、F-700(分子量6.77×106)、F-2000(分子量2.0×107)。
【0056】
<ポリエステル樹脂の構成単位の組成分析>
超伝導核磁気共鳴装置を用いて分析を行った。
装置:日本電子製 Excalibur 270 超伝導FT-NMR
マグネット:JNM-GSX270型 超伝導マグネット
スペクトロメーター:JNM-EX270型
観測周波数:1H 270MHz、13C 67MHz
溶媒:重クロロホルム溶液
温度:35℃
積算回数:1H:16回、13C:1024回
1H-NMR、13C-NMRを測定し、各構成単位由来の帰属ピークの積分比からカルボン酸、多価ポリオールの共重合比率を求めた。
【0057】
[溶解性]
ポリエステル樹脂(A)を20質量部、化合物(B)としてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬社製「KAYARAD DPHA」、以下「DPHA」という)20質量部、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(Miwon社製「Miramer M410」、以下「DTMPTA」という)60質量部を配合し、70℃に加温して混合して得られた混合物の状態を目視で観察した。溶解性の評価は次の2段階で行った。
〇:不溶解物は無かった。
×:不溶解物が見られた。
【0058】
[流動特性]
(ミスチング評価)
溶解性の評価に用いた混合物と同様に配合した混合物をインコメーター((株)東洋精機製作所社製)に1.31mlのせ、32℃において400rpmで60秒間、その後800rpmで60秒間、1200rpmで60秒間を連続的に回転させ、ロール下に置いた定型紙への飛散量を目視で観察した。飛散量の評価は次の3段階で行った。
A:わずかしかミスチングしない。
B:少しミスチングする。
X:ミスチングが多い。
【0059】
(平行板粘度)
溶解性の評価に用いた混合物と同様に配合した混合物を規格平行板粘度計で25℃、一分後のインキの流動半径値(ミリメートル)を測定した。
【0060】
(E型粘度)
溶解性の評価に用いた混合物と同様に配合した混合物の25℃におけるE型粘度をE型粘度計TVE-20H(東機産業社製)を用いて測定した。
【0061】
[硬化性]
ポリエステル樹脂(A)を20質量部、化合物(B)としてDPHA 20質量部及びDTMPTA 60質量部、開始剤(C)としてベンゾフェノン(大同化成社製、以下「BNP」という)4質量部、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド(iGM社製「Omnirad TPO H」、以下「TPO」という)1質量部、顔料として酸化チタン(石原産業社製「CR-97」)を5質量部配合した。硬化性組成物をガラス基材上に、硬化後の厚みが10μmとなるように、バーコーターを用いて塗布した。高圧水銀灯を用いて照射強度50mW/cm2、積算光量50mJ/cm2で紫外線を照射して硬化させた。得られた硬化物の指触乾燥性到達(タックフリー)までの積算光量を算出した。
〇:積算光量250mJ/cm2
△:積算光量300mJ/cm2
【0062】
<実施例1>
<ポリエステル樹脂の製造>
表1に示す仕込み組成のカルボン酸及びアルコールを含む原料単量体混合物と、全カルボン酸重量対して500ppmのテトラブトキシチタンを蒸留塔備え付けの反応容器に投入した。
次いで昇温を開始し、反応系内の温度が265℃になるように加熱し、この温度を保持し、反応系からの水の留出がなくなるまでエステル化反応を行った。次いで、反応系内の温度を200℃とし、反応容器内を減圧し、反応系からポリアルコールを留出させながら縮合反応を行った。縮合反応は減圧開始時を0分(大気圧)として、20分後に1.0kPa以下になる様に減圧操作を実施後、反応装置の攪拌を停止し、装置内部を常圧(大気圧)とし、次いで装置内部を窒素により加圧して装置下部より反応物を取り出して100℃以下に冷却し、ポリエステル樹脂(A)を製造した。
得られたポリエステル樹脂(A)の構成単位の組成分析を行った結果を共重合組成として表1に示した。また、ポリエステル樹脂(A)の酸価、水酸基価、分子量を測定し、結果を表1に示した。また、ポリエステル樹脂(A)の溶解性について評価を行った結果を表1に示した。
【0063】
<活性エネルギー線硬化性組成物(印刷インキ)の製造>
ポリエステル樹脂(A)20部に対して、化合物(B)としてDPHA 20質量部及びDTMPTA 60質量部、光重合開始剤(C)としてBNP 4質量部及びTPO 1質量部、顔料として酸化チタン(TiO2)5質量部を70℃に加温して均一になるよう混合することにより活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(印刷インキ)を製造した。得られた活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化性について評価を行った結果を表1に示した。また、BNP、TPO及び顔料を含まない状態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の流動特性について評価を行った結果も表1に示した。
【0064】
<実施例2~4、比較例1>
表1に示す仕込み組成に変更した以外は実施例1と同様の手順で実施例2~4、比較例1を行った。製造したポリエステル樹脂の共重合組成、酸価、水酸基価、分子量を測定した。これらの結果を表1に示した。また、ポリエステル樹脂(A)の溶解性、並びに活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の流動特性及び硬化性についての評価結果を表1に示した。なお、比較例3では、ポリエステル樹脂が化合物(B)に溶解しなかったので、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の評価は実施しなかった。
【0065】
<比較例2>
表1に示す仕込み組成のカルボン酸及びアルコールを含む原料単量体混合物と、全カルボン酸重量対して500ppmのテトラブトキシチタンを蒸留塔備え付けの反応容器に投入した。
次いで昇温を開始し、反応系内の温度が265℃になるように加熱し、この温度を保持し、反応系からの水の留出がなくなるまでエステル化反応を行った。次いで、反応系内の温度を235℃とし、反応容器内を減圧し、反応系からポリアルコールを留出させながら縮合反応を行った。縮合反応の終点は、反応途中に約2gの樹脂をサンプリングして分子量測定を行い表1記載の所定の分子量になった時点とした。重合終点となった時点で反応装置の攪拌を停止し、装置内部を常圧(大気圧)とし、次いで装置内部を窒素により加圧して装置下部より反応物を取り出して100℃以下に冷却し、ポリエステル樹脂を製造した。
得られたポリエステル樹脂の構成単位の組成分析を行った結果を共重合組成として表1に示した。また、ポリエステル樹脂の酸価、水酸基価、分子量を測定し、結果を表1に示した。また、ポリエステル樹脂の溶解性の評価を行ったところ、化合物(B)に溶解しなかったので、流動特性と硬化性の評価は実施しなかった。
<比較例3>
表1に示す仕込み組成のカルボン酸及びアルコールを含む原料単量体混合物と、全カルボン酸重量対して500ppmのテトラブトキシチタンを蒸留塔備え付けの反応容器に投入した。
次いで昇温を開始し、反応系内の温度が265℃になるように加熱し、この温度を保持し、反応系からの水の留出がなくなるまでエステル化反応を行った。次いで、反応系内の温度を200℃とし、反応容器内を減圧し、反応系からポリアルコールを留出させながら縮合反応を行った。縮合反応は減圧開始時を0分(大気圧)として、攪拌翼にトルクが出始めた5分後(75kPa到達)に減圧操作及び、反応装置の攪拌を停止し、装置内部を常圧(大気圧)とし、次いで装置内部を窒素により加圧して装置下部より反応物を取り出して100℃以下に冷却し、ポリエステル樹脂(A)を製造した。
得られたポリエステル樹脂(A)の構成単位の組成分析を行った結果を共重合組成として表1に示した。また、ポリエステル樹脂(A)の酸価、水酸基価、分子量を測定し、結果を表1に示した。また、ポリエステル樹脂(A)の溶解性について評価を行った結果を表1に示した。また、ポリエステル樹脂の溶解性の評価を行ったところ、化合物(B)に溶解しなかったので、流動特性と硬化性の評価は実施しなかった。
【0066】
【0067】
実施例1~4の活性エネルギー線硬化性組成物は、用いたポリエステル樹脂の溶解性が良好であるので、高温にすることなく製造できた。また、この組成物は印刷インキとして用いた場合に印刷適正が良好であった。
【0068】
比較例1の活性エネルギー線硬化性組成物は、用いたポリエステル樹脂が原料(a1)由来の構成単位100モルに対して、3価以上のアルコール由来の構成単位が70モル未満の60モルであったので、印刷適正におけるミスチングの評価が低位であった。
比較例2では、製造したポリエステル樹脂が原料(a1)由来の構成単位100モルに対して、3価以上のアルコール由来の構成単位が5モルと非常に少なかったので、溶解性が低位であった。
比較例3では、製造したポリエステル樹脂が原料(a2)由来の構成単位のモル数が原料(a1)由来の構成単位のモル数未満であったので、溶解性が低位であった。