(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】摩擦帯電ユニット、並びに該摩擦帯電ユニットを備えた摩擦発電デバイス及び集塵デバイス
(51)【国際特許分類】
B03C 3/28 20060101AFI20241008BHJP
H02N 1/04 20060101ALI20241008BHJP
F24F 7/003 20210101ALN20241008BHJP
【FI】
B03C3/28
H02N1/04
F24F7/003
(21)【出願番号】P 2020118268
(22)【出願日】2020-07-09
【審査請求日】2023-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2019169565
(32)【優先日】2019-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦野 年由
(72)【発明者】
【氏名】水上 潤二
(72)【発明者】
【氏名】小森 尭
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-026388(JP,A)
【文献】特開2015-178346(JP,A)
【文献】特開2003-304990(JP,A)
【文献】特開2017-205006(JP,A)
【文献】特表2016-526870(JP,A)
【文献】特開昭59-182731(JP,A)
【文献】実開昭48-102224(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B03C 3/00-11/00
F24F 7/00-7/007
F24F 8/00-8/99
H02K 24/00-27/30
H02K 31/00-31/04
H02K 35/00-35/06
H02K 39/00
H02K 47/00-47/30
H02K 53/00
H02K 99/00
H02N 1/00-1/12
H02N 3/00-99/00
B29C 48/00-48/96
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正帯電部材と、該正帯電部材に接触し得るよう配置された負帯電部材と、を有し、該正帯電部材と該負帯電部材との摩擦により帯電し得る摩擦帯電ユニットであって、
前記正帯電部材がフィルム状であり、
前記負帯電部材が、
フィルム状の、ビカット軟化温度75℃以上の塩化ビニル樹脂である、摩擦帯電ユニット。
【請求項2】
正帯電部材用の基材に前記正帯電部材が支持され、負帯電部材用の基材に前記負帯電部材が支持されており、前記基材が導電性を有する部材である、請求項1に記載の摩擦帯電ユニット。
【請求項3】
前記負帯電部材は、厚さが0.1μm以上5mm以下である、請求項1
又は2に記載の摩擦帯電ユニット。
【請求項4】
前記負帯電部材が塗布成形樹脂体である、請求項1
~3のいずれか1項に記載の摩擦帯電ユニット。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の摩擦帯電ユニットを備えた、集塵デバイス。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の摩擦帯電ユニットを備えた、発電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦により発生した電荷を帯電し得る摩擦帯電ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、部材を摩擦により帯電させ、これにより空気中の微細な埃を集めたり、あるいは部材の汚れを取り除いたりすることが行われている。例えば特許文献1には、摩擦して帯電させた集塵板を用いて、静電的に集塵を行う集塵デバイスが開示されている。
【0003】
特許文献1では、集塵デバイスで用いる集塵板及び摩擦板として、アクリルとナイロン、及びポリエステルとナイロンの組み合わせが例示されており、帯電列の位置関係が遠いと帯電力が大きくなり好ましいとされている。そのため、摩擦により帯電させる集塵部材としては、帯電序列として最も負帯電が起こりやすいという理由から、負帯電材としてPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)樹脂が用いられることがほとんどであった。(非特許文献1参照)。
【0004】
したがって、どのような正帯電材と組み合わせて摩擦帯電させる場合でも、PTFE樹脂を負帯電部材として用いることが、最も帯電量を大きくできるため好ましいと理解されている。一方、正帯電部材としては典型的にはナイロンが使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】静電気ドクター"帯電列"、[online]、株式会社キーエンス、[2019年4月22日検索]、インターネット<URL:https://www.keyence.co.jp/ss/products/static/static-electricity/basic/nature.jsp
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、PTFE等のフッ素含有樹脂は、摩擦帯電性は優れているが、耐久性が十分とは言えなかった。本発明は、摩擦帯電性と耐久性とを両立できる、摩擦帯電ユニットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、PTFEを負帯電部材として用いた場合と同程度の摩擦帯電性を有すると同時に、PTFE以上の耐久性を持つ材料を検討したところ、驚くべきことに帯電序列から見ると、正帯電部材からの距離がPTFEと比較して小さくなり、摩擦帯電性が大きく劣ると考えられている塩化ビニル樹脂を負帯電部材として用いることで、上記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
そしてさらに、塩化ビニル樹脂でも特定の性質を有する塩化ビニル樹脂を負帯電部材として使用することにより、より耐久性が高く、帯電性にも優れるものが得られることを見出した。
【0009】
本発明は、以下のものを含む。
[1]正帯電部材と、該正帯電部材に接触し得るよう配置された負帯電部材と、を有し、
該正帯電部材と該負帯電部材との摩擦により帯電し得る摩擦帯電ユニットであって、
前記負帯電部材が塩化ビニル樹脂である、摩擦帯電ユニット。
[2]前記負帯電部材は、厚さが0.1μm以上5mm以下である、[1]に記載の摩擦帯電ユニット。
[3] 前記負帯電部材は、ビカット軟化温度75℃以上の塩化ビニル樹脂である、[1
]または[2]に記載の摩擦帯電ユニット。
[4]前記負帯電部材が塗布成形樹脂体である、[1]~[3]のいずれかに記載の摩擦帯電ユニット。
[5][1]~[4]のいずれかに記載の摩擦帯電ユニットを備えた、集塵デバイス。
[6][1]~[4]のいずれかに記載の摩擦帯電ユニットを備えた、発電デバイス。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、高い集塵能力を発生させる負帯電部材と正帯電部材とを有する摩擦帯電ユニットを提供できる。好ましい形態では、より耐久性が高く、帯電性にも優れる摩擦帯電ユニットを提供できる。更に当該摩擦帯電ユニットを用いた、集塵デバイスや発電デバイスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】摩擦帯電ユニットを備えた発電デバイスの一実施形態を示す模式図である。
【
図2】負帯電材塗布成膜体の作成方法の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0013】
本発明の一実施形態は、正帯電部材と、該正帯電部材に接触し得るよう配置された負帯電部材と、を有し、該正帯電部材と該負帯電部材との摩擦により帯電し得る摩擦帯電ユニットである。そして、負帯電部材として塩化ビニル樹脂を用いるものである。
正帯電部材と負帯電部材とは、互いが摺動することで、及び/又は互いが接触と離反を繰り返すことで、電荷を発生させて帯電する。本実施形態では、摩擦により発生した負の電荷を帯電させる負帯電部材に塩化ビニル樹脂を用いる。なお、該摺動及び該接触・離反により電荷を発生させることを「摩擦」と称する。
【0014】
正帯電部材としては、負帯電部材を負帯電できる部材であれば特段限定されず、負帯電樹脂とし用いられる塩化ビニル樹脂との組み合わせにおいて自らが負帯電する可能性が高い材料を避ければよい。典型的にはナイロンが用いられるが、これに限られない。
【0015】
以下、図に示す具体的な実施形態により、本発明を説明する。
図1は、本実施形態の摩擦帯電ユニットを摩擦発電デバイスに適用した形態である。
摩擦発電デバイス10は、正帯電部材用の基材1に正帯電部材3が支持され、負帯電部材用の基材2に負帯電部材4が支持されている。正帯電用部材3と負帯電用部材4とは固定されておらず、正帯電用部材3と負帯電用部材4とが摺動することで、及び/又は正帯電用部材3と負帯電用部材4とが接触・離反を繰り返すことで、正帯電用部材3には正の電荷が、負帯電用部材4には負の電荷がそれぞれ発生する。正帯電用部材3と負帯電用部材4との摩擦は、既知の駆動方法を用いて正帯電用部材3と負帯電用部材4とを動かし、摩擦すればよい。
【0016】
帯電部材を支持する基材1及び2は導電性を有する部材であり、基材1及び基材2と電気的に接続された配線5から発生した電気を取り出すことができる。なお、摩擦帯電ユニ
ットを集塵デバイスとして用いる場合には、基材と電気的に接続した配線の一端をアースしてもよい。
基材1及び基材2は、必ずしも必要なものではないが、取り扱い性等の点で有することが好ましい。また、帯電部材を支持できる十分な強度を有していれば、特に限定されない。また、基材と帯電部材との間に接着層を設けてもよい。この場合の接着層は、基材との密着性を向上させる等の目的で設けることができる。
【0017】
負帯電部材4は塩化ビニル樹脂であり、少なくとも正帯電部材3と接触する最外層が塩化ビニル樹脂であれば、塩化ビニル樹脂と他の部材との積層体であってもよい。
正帯電部材3は、負帯電部材4として用いる塩化ビニル樹脂を負帯電できる部材であれば特段限定されず、典型的にはナイロンである。正帯電部材3はフィルム状であってもよく、また静電気の発生量を増加させるために、ブラシ状であってもよい。
【0018】
塩化ビニル樹脂は、塩化ビニル(クロロエチレン)の重合反応で得られる高分子化合物であり、特には高いビカット軟化温度が得られる、塩化ビニル樹脂に塩素化処理を施した高分子化合物であることが好ましい。その重量平均分子量は、一般に3000以上のものが用いられる。特に、耐摩耗性を考慮した場合には10000以上であることが好ましい。
【0019】
塩化ビニル樹脂は、テフロン(登録商標)(フッ素樹脂)よりも強度の高いものが好ましく、具体的には、通常のテフロン(登録商標)(フッ素樹脂)のショアD硬度は50~55程度であるため、これよりショアD硬度の高いものであることが好ましく、ショアD硬度で55以上、好ましくは60以上であるものが好ましい。上限は特に限定されないが、通常85以下である。
【0020】
また、本発明に用いられる塩化ビニル樹脂は、ビカット軟化温度が好ましくは75℃以上、より好ましくは78℃以上、さらに好ましくは90℃以上である。また上限としては特に限定されないが、通常140℃以下のものが用いられ、好ましくは130℃以下のものが用いられる。上記範囲とすることで、樹脂中に含有する塩素の塩素化率が高い傾向にあり、高い負の帯電列特性を誘起させ高い摩擦帯電電圧と集塵特性が与えることが容易になるため好ましい。
さらに好ましい具体的な構造としては、国際公開第2013/081133号や、非特許文献である“塩ビファクトブック”(塩ビ工業・環境協会編集 2005年2月出版)の74ページに記載されている塩素化塩化ビニル樹脂は、80℃以上の高いビカット軟化温度が得られやすく好ましい。
【0021】
ビカット軟化温度が75℃より著しく低くなると、成形性には優れるが、塩素化率が低くなりやすく負の帯電列特性が低下し、摩擦帯電特性が低下しやすい。一方ビカット軟化温度が140℃より著しく高くなると、成形性が著しく低下し薄膜成形が困難になる。また、高いビカット軟化温度を得る手法として、塩化ビニル以外の樹脂を配合することが出来るが、樹脂の配合に伴い塩素化率が低下し摩擦帯電特性が低下しやすくなる。
なお、ビカット軟化温度は、JIS K7206に準じて測定する。特に問題がないかぎり、B50法を使用する。
【0022】
また、塩化ビニル樹脂には、本発明の特性を得られる範囲で、補助的な化合物を添加してもよく、可塑剤、充填剤、滑剤、安定剤、さらには難燃剤や酸化防止剤、紫外線吸収剤等を添加してよい。
可塑剤としては、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、エポキシ化大豆油(ESBO)などを用いることができる。マトリクスとなる塩化ビニル樹脂の分子量にもよるが、耐摩耗性を高い状態にするためには、その添加量は塩化ビニル樹脂に対し、10%以下で
あることが好ましい。
充填剤としては、希望のデザインにするために各種の顔料を添加でき、主に白色にする場合であれば、炭酸カルシウム、酸化チタン、タルク等のSi系化合物、等を用いてもよい。
滑剤は、炭化水素系のもの、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、脂肪酸など一般的に添加されるものを使ってよい。
安定化剤としては、鉛系、スズ系、亜鉛系などが用いられ、ジブチルスズ化合物や、ジオクチルスズ化合物などが挙げられる。
【0023】
次に、負帯電部材である塩化ビニル樹脂部材の製造例を説明する。
本実施形態において負帯電部材として用いる塩化ビニル樹脂の形状については特に限定されないが、一般に厚さ5mm以下のフィルム状で用いられるが特に限定されず、2mm以下であってよい。また下限も限定されず通常0.1μm以上であり、1μm以上であってよく、5μm以上であってよい。特に好ましくは膜厚が0.1mm以上で1mm以下、さらに好ましくは0.3mm以上0.8mm以下のものが、帯電特性が高くなりやすく好ましい。
【0024】
塩化ビニル樹脂部材の製造方法としては、通常知られている製造方法を採用でき、特に制限はない。膜状にするためには圧縮成形、射出成形、塗布(コーティング)成形法などを用いることができるが、溶剤あるいは無溶剤の塩化ビニル樹脂負帯電材塗布溶液を基材1或いは仮基材上に室温から200℃で、好ましくは室温から150℃で塗布された塩化ビニル樹脂塗布成形体が、摩擦帯電利用する集塵特性向上に有効な面内均一に優れ、特には正帯電部材に長時間摩擦された時の耐摩耗性に有利な厚膜系形成体を短時間で大面積に得られるため好ましい。
【0025】
塗布成形法を用いた塩化ビニル樹脂の製造方法の例を
図2に示す。
図2に示す樹脂シート成膜装置20は、基材24上にスリットコータ22が配置される。スリットコータ22又は基材24は図中水平に移動可能となっており、スリットコータに導入された負帯電材料塗布溶液21が基板24上に滴下されるとともに、スリットコータ22又は基材24が図中水平に移動することで、基材24上に負帯電材料塗布溶液がコートされる。コートされた負帯電材料塗布溶液は、必要に応じて加熱及び/又は乾燥により溶剤を蒸発させて硬化し、負帯電シート25(成形体)となる。その後切断機26で所望の大きさに切断され、所望の大きさに個片化された負帯電シート積層体23が得られる。
【0026】
スリットコータ22は、基材24上に塗布溶液を塗布できればよく、ダイコータ、ロールコータなどの他の塗布装置を用いてもよい。負帯電材料塗布溶液は、負帯電材料を構成する樹脂を有機溶剤に溶かして調製してもよく、負帯電材料を構成する樹脂を熱により溶解することで調製してもよい。本実施形態では負帯電材料は塩化ビニル樹脂である。
さらに負帯電シート25は、必要に応じてロール、またはテンター方式の延伸機により延伸してもよい。
【0027】
例えば、二軸延伸フィルムを製造する場合、塩化ビニル樹脂原料を押出機でダイから溶融押し出しし、溶融シートを冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る。この場合、シートの平面性を向上させるためシートと冷却ロールとの密着性を高めることが好ましく、静電印加密着法や液体塗布密着法が好ましく採用される。
【0028】
次に得られた未延伸シートを一方向にロールまたはテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常70~120℃、好ましくは80~110℃であり、延伸倍率は通常1.1~7倍、好ましくは2~6倍である。
次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に、通常70~170℃で、延伸倍率は通常1.1~7倍、好ましくは2~6倍で延伸する。引き続き80~270℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸配向フィルムを得る方法が挙げられる。上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。
【0029】
本発明の一実施形態である摩擦帯電集塵ユニットの摩擦による帯電を利用した摩擦発電機を例に、摩擦帯電発生原理について説明する。該摩擦発電機は電極と帯電部材とを有する一対の電極部材が対向した構造を有する。対向する帯電部材同士の表面が摺動したり、接触と離反を繰り返す際に、その表面層が互いに反対の極性に帯電する。帯電部材同士が接触と離反を繰り返す際には、帯電部材同士が接触している時には正負の電荷が外部に形成する電場が打ち消し合うために、電極間の電位差は等しい。帯電部材同士が離れると、両電極間に電位差が生じる。負荷抵抗を介して、両電極を電気的に接続すると、この接続部を通って電荷が流れる。電荷は電極間の電位差がゼロになるまで流れ、この流れがすなわち電流となる。
【0030】
該摩擦による帯電を集塵に利用する場合、負帯電部材とそれを帯電させる正帯電部材とを少なくとも有する。帯電部材の表面と摩擦体とが摩擦することにより帯電部材の摺動面が帯電し、この帯電表面を利用して空気中の帯電粒子を捕集することができる。
また、負帯電部材上に捕捉された空気中の帯電粒子集積体を、正帯電部材の物理刺激により負帯電部材から除去させるため、負帯電部材は離型性を有することが好ましい。
【0031】
本実施形態の摩擦帯電ユニットが用いられた上述のようなデバイスは、PTFE負帯電部材として用いた従来の摩擦帯電ユニットより耐久性に優れるため、帯電部材の交換等の頻度を減らすことができ、好ましい。
また、さらに本実施形態の摩擦帯電ユニットは摩擦発電デバイスの発電源、センサーの発電源、集塵デバイスの集塵部材などの用途に活用することも可能である。
センサーの発電源となる場合であっても摩擦発電機の発電源と同様、電極と帯電部材を有する一対の電極部材が対向した構造を有する。電極部材における帯電部材の表面同士が摺動乃至は接触と離反を繰り返す際に流れる電荷を信号として検出することで、センサーとして利用することもできる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を示し、本発明をより詳細に説明するが、実施例の具体的な説明により本発明が限定さることはない。
<実施例1>
負帯電部材として、厚さ0.5mm、幅1.5cm、長さ10cmの、片端部を半円状に成形されたサンハヤト(株)デジタル静電気探知機(静帯電電圧測定計)の付属品であるPVC標準校正板(塩化ビニル樹脂)を用い後述の集塵評価と静帯電電圧強度の評価を行った。
【0033】
<比較例1>
負帯電部材として、厚さ1mm、幅1.5cm、長さ10cmの、片端部を半円状に成形した中興化成工業(株)"PTFEシート"のPTFE樹脂部材を用い後述の集塵評価と静帯電電圧強度の評価を行った。
【0034】
<摩擦帯電電圧評価方法>
実施例1の負帯電部材を幅200mm長さ200mmのアースに繋げられたアルミニウム基板(Al基板)上に置き、負帯電部材の半円形状でない端部にアースを繋ぎ負帯電部材の半円形状端から5cmまでの部材部分に73g、幅20mm、長さ50mmの重りを載せ加重した後、負帯電部材のアースした端部を持ち、重りを載せた状態で負帯電部材を
毎秒10mmで40mm移動させた。継いで、重りと共に負帯電部材をAl基板から持ち上げ離し、重りを負帯電部材からはずした後、静帯電電圧測定計を用いてアルミと接触していた負帯電部材表面の半円形端から25mmの部分の摩擦帯電電圧を測定した。この測定操作をAl基板から重りの乗った負帯電部材を外してから摩擦帯電電圧測定終了まで10秒以内で行った。結果を表1に示す。
【0035】
上記実施例1の負帯電部材に変えて、比較例1の負帯電部材を用い、摩擦帯電電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0036】
<集塵強度評価方法>
同様に温度25℃湿度60%下で、摩擦帯電電圧評価方法で使用したAl基板上に重さ53mg、幅30mm、長さ150mmの王子ネピア(株)社製"ローソンセレクト"の紙フィルムを載せ、片端部を紙テープで固定した。固定していない側のフィルムの端部と端部から5cmまでのフィルム部分を、摩擦帯電電圧評価方法と同様の方法で帯電させた負帯電部材の半円端部と端部から50mmまでの部分であって、Al基板表面と接していた面に重ねあわせ、その後毎秒10mmの速度で負帯電部材を上昇させた。紙フィルムの端部は負帯電部材に貼り付き一緒に持ち上げられるが、紙フィルムは持ち上げられることで紙の重さの増加で、負帯電部材から離れる。その時の負帯電部材の高さ(貼り付き高さ)
を測定した。結果を表1に示す。
【0037】
【0038】
表1から明らかなとおり、塩化ビニル樹脂板は、従来品用いられている帯電順位がより負電位側にあるとされているPTFE樹脂板より、同じ膜厚、同じ摺動条件で、より高い帯電電圧を実現できていることがわかる。
また部材寿命に関しては、実験するまでもなく、価格が高く膜厚化に制約があるPTFEより価格が低く、柔軟性や硬質性など多岐にわたる種類が開発されている塩化ビニル樹脂の方が、寿命に必要な厚膜化やの物性を適宜選択することが可能なため、負帯電部材として用いた場合、例えば集塵用途であれば、より多くの塵を集め、かつ寿命も長くなることが期待できる。
【0039】
<実施例2~6>
負帯電部材として、以下の表2に示す厚さ0.5mmから1.0mmの塩化ビニル樹脂シートを、幅1.5cm長さ10cm、片端部を半円状に成形した負帯電部材サンプルを作成し、静帯電電圧強度と集塵評価の評価を行った。
【0040】
<摩擦帯電電圧強度評価方法2>
・負帯電部材サンプルの摩擦帯電電圧測定:
温度25℃湿度40%下で、筐体にアースを繋いだサンハヤト(株)デジタル静電気探知機EG-1(静帯電電圧測定計)と、負帯電サンプルを用意した。負帯電サンプルを幅
200mm長さ200mmのアースに繋げられたアルミニウム基板(Al基板)上に置き、負帯電サンプルの半円形状でない端部にアースを繋ぎ、負帯電サンプルの半円形状端から5cmまでの部材部分にアースしたアクリル除電ブラシを用い、ブラシ毛の腹部分が負帯電サンプルを100gで押すように、毎秒10mmで50mm移動させた。この摩擦操作を15回繰り返し、飽和帯電状態にした。
次いで、負帯電サンプルをAl基板から持ち上げ離し1分後放置、静帯電電圧測定計を用いてアルミニウムと接触していた負帯電サンプル表面の半円形端から25mmの部分の摩擦帯電電圧を測定した。測定結果を表2に示す。
【0041】
得られた実施例2~6の負帯電サンプルの摩擦帯電電圧の値を、実施例6に係る負帯電サンプルの摩擦帯電電圧の値で割り、相対摩擦帯電電圧を求めた。評価値は、大きいほど帯電特性が高いことを示している。測定結果を表2に示す。
【0042】
<集塵強度評価方法2>
同様に温度25℃湿度40%下で、摩擦帯電電圧強度評価方法で使用したAl基板上に重さ53mg、幅30mm、長さ150mmの王子ネピア(株)社製“ローソンセレクト”の紙フィルムを載せ、片端部を紙テープで固定した。固定していない側のフィルムの端部と端部から5cmまでのフィルム部分を、摩擦帯電電圧強度評価方法と同様の方法で帯電させた負帯電サンプルのAl基板表面と接していた面に重ねあわせ、その後毎秒10mmの速度で負帯電部材サンプルを上昇させた。なお、負帯電部材サンプルの半円端部と端部から50mmまでの部分に、紙フィルムの端部を重ね合わせた。紙フィルムの端部は負帯電部材サンプルに貼り付き一緒に持ち上げられるが、高さが高くなると負帯電部材サンプルから離れる。紙フィルムと負帯電部材サンプルが離れた時の高さ(貼り付き高さ)を
測定した。
継いで、実施例2から5の帯電電圧と負帯電部材サンプルの貼り付き高さを、実施例6の帯電電圧(-7kV)と負帯電部材サンプルの貼り付き高さ(6.5cm)で割り、相対集塵強度を求めた。評価値は、大きいほど集塵特性が高いことを示している。測定結果を表2に示す。
【0043】
【0044】
この結果から、ビカット軟化温度が高いほど、帯電電圧が高く、集塵率も優れていることが判る。
この理由は、塩ビ樹脂のエテニル骨格に導入された塩素は、エテニル骨格上の炭素に結
合し高い極性を有する炭素-塩素基、あるいは一つの炭素上に2個の塩素が結合した塩素-炭素-塩素基を生成する。これら高極性基はお互いに強い相互作用を有する為、塩化ビニル樹脂分子間の回転や振動などの運動を抑制し、その結果ビカット軟化温度を上昇させる。一方その陰極性の塩素の増加は塩化ビニル樹脂の高い負帯電列特性を発生させ、その結果、摩擦帯電ブラシとの帯電列差を大きくし、高い摩擦帯電電圧と高い集塵特性が得られたと考えられる。
【符号の説明】
【0045】
10 発電デバイス
1、2 基材
3 正帯電部材
4 負帯電部材
5 配線
20 樹脂シート成膜装置
21 負帯電材料塗布溶液
22 スリットコータ
23 負帯電シート積層体
24 基材
25 負帯電シート
26 切断機