(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ポリエーテルポリカーボネートジオール及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 64/00 20060101AFI20241008BHJP
C08G 18/44 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C08G64/00
C08G18/44
(21)【出願番号】P 2020125482
(22)【出願日】2020-07-22
【審査請求日】2023-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2019145523
(32)【優先日】2019-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】井澤 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】山下 亮
(72)【発明者】
【氏名】小林 光治
(72)【発明者】
【氏名】草野 一直
(72)【発明者】
【氏名】谷口 翔平
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/170374(WO,A1)
【文献】特開2014-208791(JP,A)
【文献】特開2015-214599(JP,A)
【文献】特開2006-124486(JP,A)
【文献】特開2006-124485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 64/02
C08G 18/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全末端基数に対する、アルコキシ末端基数とアリーロキシ末端基数の合計の割合が0.20%以上7.5%以下であるポリエーテルポリカーボネートジオール
であって、
該ポリエーテルポリカーボネートジオールをメタノール及び25重量%水酸化ナトリウム水溶液と混合し、75℃で30分間加熱して加水分解することで、水酸基価が220mg-KOH/g以上750mg-KOH/g以下のポリテトラメチレンエーテルグリコールが加水分解物として得られるポリエーテルポリカーボネートジオール。
【請求項2】
前記アルコキシ末端基がメトキシ末端基を含む請求項1に記載のポリエーテルポリカーボネートジオール。
【請求項3】
前記アルコキシ末端基がブトキシ末端基を含む請求項1又は2に記載のポリエーテルポリカーボネートジオール。
【請求項4】
水酸基価が11mg-KOH/g以上320mg-KOH/g以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のポリエーテルポリカーボネートジオール。
【請求項5】
請求項1乃至
4のいずれか1項に記載のポリエーテルポリカーボネートジオールを製造する方法であって、
水酸基価が220mg-KOH/g以上750mg-KOH/g以下のポリテトラメチレンエーテルグリコールとカーボネート化合物とを反応させる工程を含むポリエーテルポリカーボネートジオールの製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至
4のいずれか1項に記載のポリエーテルポリカーボネートジオールと、複数のイソシアネート基を有する化合物とを含む原料を付加重合反応させるポリウレタンの製造方法。
【請求項7】
前記ポリウレタンがポリウレタンエラストマーである請求項
6に記載のポリウレタンの製造方法。
【請求項8】
前記ポリウレタンエラストマーがポリウレタンフォームである請求項
7に記載のポリウレタンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン、ポリウレタンウレア等の原料となるポリエーテルポリカーボネートジオール及びその製造方法に関する。本発明はまた、このポリエーテルポリカーボネートジオールを用いたポリウレタンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンは、ウレタンフォーム、塗料、接着剤、シーラント、エラストマー等、幅広い用途に使用されている。ポリウレタンは、イソシアネート、鎖延長剤から構成されるハードセグメントとポリオールを主成分とするソフトセグメントから構成されている。ポリウレタンの主原料の一つであるポリオールは、分子鎖構造の違いにより、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリブタジエンポリオール、アクリルポリオールなどに分類され、ポリウレタンの要求性能に応じたポリオールが選択される。ポリエーテルポリオールの中でもポリテトラメチレンエーテルグリコール(以下、PTMGと略記することがある)は、結晶性が高いことから、イソシアネート類との反応で得られるポリウレタンは、優れた耐摩耗性、耐加水分解性、耐引裂性を発現する。このようなポリウレタンの主な用途は、スパンデックス、熱可塑性エラストマー、熱硬化性エラストマー、人工皮革、合成皮革などである。
【0003】
このように優れた特性から、ポリテトラメチレンエーテルグリコールから得られるポリウレタンは多様な用途に用いられているが、ポリテトラメチレンエーテルグリコールは、融点や粘度が高く、ハンドリング性に課題があり、一部用途では、得られるポリウレタンの耐薬品性などの耐久性にも改善余地が残されていた。
【0004】
特許文献1では、重合単位の一部の側鎖にメチル基を導入することで非晶性とし、常温液状性のポリエーテルポリオールを得ている。
また、分子量の小さいポリテトラメチレンエーテルグリコールから製造したポリエーテルポリカーボネートジオール(以下、PEPCDと略記することがある)は、常温液状性のポリオールとして知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭61-120830号公報
【文献】特開2002-256069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のポリエーテルポリオールから得られたポリウレタンは耐久性が低いという欠点がある。
特許文献2のPEPCDによれば、耐久性が改善されるものの、ウレタン重合反応性の制御が難しく、合成皮革等に使用される重量平均分子量20万程度のポリウレタンを得ることができない。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、合成皮革等に使用できる重量平均分子量が20万程度のポリウレタンを簡便な方法で製造できるポリエーテルポリカーボネートジオールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、全末端基数に対する、アルコキシ末端基数とアリーロキシ末端基数の合計の割合を好適範囲に制御したポリエーテルポリカーボネートジオールを用いることで、ウレタン重合反応の制御が容易となり、急速な重合反応を抑制して、所望の分子量のポリウレタンを得ることができることを見出した。
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0009】
[1] 全末端基数に対する、アルコキシ末端基数とアリーロキシ末端基数の合計の割合が0.20%以上7.5%以下であるポリエーテルポリカーボネートジオール。
【0010】
[2] 前記アルコキシ末端基がメトキシ末端基を含む[1]に記載のポリエーテルポリカーボネートジオール。
【0011】
[3] 前記アルコキシ末端基がブトキシ末端基を含む[1]又は[2]に記載のポリエーテルポリカーボネートジオール。
【0012】
[4] 水酸基価が11mg-KOH/g以上320mg-KOH/g以下である[1]乃至[3]のいずれかに記載のポリエーテルポリカーボネートジオール。
【0013】
[5] [1]乃至[4]のいずれかに記載のポリエーテルポリカーボネートジオールであって、該ポリエーテルポリカーボネートジオールをメタノール及び25重量%水酸化ナトリウム水溶液と混合し、75℃で30分間加熱して加水分解して得られる加熱分解物の水酸基価が220mg-KOH/g以上750mg-KOH/g以下であるポリエーテルポリカーボネートジオール。
【0014】
[6] [1]乃至[5]のいずれかに記載のポリエーテルポリカーボネートジオールを製造する方法であって、水酸基価が220mg-KOH/g以上750mg-KOH/g以下のポリテトラメチレンエーテルグリコールとカーボネート化合物とを反応させる工程を含むポリエーテルポリカーボネートジオールの製造方法。
【0015】
[7] [1]乃至[5]のいずれかに記載のポリエーテルポリカーボネートジオールと、複数のイソシアネート基を有する化合物とを含む原料を付加重合反応させるポリウレタンの製造方法。
【0016】
[8] 前記ポリウレタンがポリウレタンエラストマーである[7]に記載のポリウレタンの製造方法。
【0017】
[9] 前記ポリウレタンエラストマーがポリウレタンフォームである[8]に記載のポリウレタンの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポリエーテルポリカーボネートジオールによれば、ポリウレタン製造時の重合反応を容易に制御することができ、所望の分子量を持つポリウレタンを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態をより詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に記載の態様に限定されない。
【0020】
[ポリエーテルポリカーボネートジオール]
本発明のポリエーテルポリカーボネートジオール(以下、「PEPCD」と略記することがある。)は、全末端基数に対する、アルコキシ末端基数とアリーロキシ末端基数の合計の割合(以下、「末端アルコキシ/アリーロキシ割合」と称す場合がある。)が0.20%以上7.5%以下であることを特徴とする。
【0021】
本発明において、ポリエーテルポリカーボネートジオールとは「ポリエーテルポリカーボネートの繰り返し単位を有する化合物」をさし、本発明のポリエーテルポリカーボネートジオールは、通常、ポリエーテルポリカーボネートの繰り返し単位を有し、異なる末端基を有する複数種の化合物の混合物として構成される。
【0022】
PEPCDは、アルキレンカーボネート、ジアルキルカーボネート、ジアリールカーボネート等のカーボネート化合物とポリエーテルポリオール化合物と、必要に応じて用いられるポリエーテルポリオール化合物とは異なるジオール化合物とを反応させることで製造される。この反応において、目的生成物である両末端が水酸基のPEPCDと共に、副生成物としてジアルキルカーボネートとポリエーテルポリオール化合物との反応によるアルコキシ末端基や、ジアリールカーボネートとポリエーテルポリオール化合物との反応によるアリーロキシ末端基が生成する(以下、これらのアルコキシ末端基とアリーロキシ末端基をまとめて「アルコキシ/アリーロキシ末端」と称す場合がある。)。
また、これらのアルコキシ/アリーロキシ末端は、PEPCDの製造原料として用いられるPTMG等のポリエーテルポリオ-ル化合物中の不純物として反応系に持ち込まれ、得られるPEPCD中に混入する場合がある。
また、アルコキシ/アリーロキシ末端はPEPCDの精製工程における加熱によってもPEPCDに混入することとなる。
本発明者は、この反応副生成物として生成するアルコキシ/アリーロキシ末端や、原料化合物中に混入して反応系に持ち込まれる結果、生成物中に混入するアルコキシ/アリーロキシ末端の量を、末端アルコキシ/アリーロキシ割合が0.2%以上75%以下となるように制御することにより、ウレタン重合反応の制御が容易となり、急速な重合反応を抑制して、ポリウレタンとしての各種用途に好適な所望の分子量のポリウレタンを製造することができることを見出した。
【0023】
<末端アルコキシ/アリーロキシ割合>
本発明のPEPCDにおいて、全末端基数に対する、アルコキシ末端基数とアリーロキシ末端基数の合計の割合(末端アルコキシ/アリーロキシ割合)は0.20%~7.5%である。末端アルコキシ/アリーロキシ割合が7.5%を超えるとウレタン重合反応が十分に進行せず、一方、末端アルコキシ/アリーロキシ割合が0.20%未満ではウレタン重合反応速度が速くなり過ぎ、反応制御が困難であり、いずれの場合も所望の分子量のポリウレタンを得ることができない。
本発明のPEPCDにおける、末端アルコキシ/アリーロキシ割合は0.20%~7.0%であることが好ましく、0.30%~6.5%であることがより好ましく、0.30%~6.0%であることがさらに好ましく、0.40%~5.5%であることが特に好ましい。
【0024】
なお、PEPCDの末端アルコキシ/アリーロキシ割合は、後述の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0025】
<アルコキシ/アリーロキシ末端>
本発明のPEPCDに含まれるアルコキシ/アリーロキシ末端は、前述の通り、主としてPEPCD製造原料のポリエーテルポリオール化合物やカーボネート化合物に由来するものである。
【0026】
アルコキシ末端基としては、メトキシ末端、エトキシ末端、プロピオキシ末端、ブトキシ末端などが挙げられるが、PEPCD品質の観点から、好ましくはメトキシ末端、或いはブトキシ末端である。
【0027】
アリーロキシ末端基の具体例としては置換された又は無置換のフェノキシ末端基が挙げられる。
【0028】
本発明のPEPCDには、これらのアルコキシ/アリーロキシ末端の1種のみが含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。2種以上のアルコキシ/アリーロキシ末端を含む場合、これらの合計の含有量が前述の範囲となるようにする。
【0029】
<末端アルコキシ/アリーロキシ割合の制御方法>
本発明のPEPCDの末端アルコキシ/アリーロキシ割合を制御する方法は特に限定されないが、
(1)アルコキシ/アリーロキシ末端を含むPEPCDとアルコキシ/アリーロキシ末端を含まないPEPCDとを混合する方法
(2)蒸留、抽出などの操作によりアルコキシ/アリーロキシ末端を含むPEPCD中のアルコキシ/アリーロキシ末端濃度を調整する方法
(3)PEPCDの原料となるポリエーテルポリオール化合物、カーボネート化合物、ジオール化合物中のアルコキシ/アリーロキシ末端の含有量を制御する方法
(4)PEPCD製造時に反応により生成する副生成物としてのアルコキシ/アリーロキシ末端量を溶液のpHを調整するなどして制御する方法
などが挙げられる。
【0030】
<PEPCDの製造方法>
本発明のPEPCDは、上記の末端アルコキシ/アリーロキシ割合の制御を行うこと以外は、通常のPEPCDの製造方法に従って、カーボネート化合物とポリエーテルポリオール化合物とを反応させて製造される。反応時には、必要に応じて、ポリエーテルポリオール化合物とは異なるジオール化合物を共重合させてもよい。
【0031】
(カーボネート化合物)
カーボネート化合物としては、アルキレンカーボネート、ジアルキルカーボネート、ジアリールカーボネートを用いることができる。
【0032】
アルキレンカーボネートとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられる。
ジアルキルカーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート等の対称ジアルキルカーボネート、メチルエチルカーボネート等の非対称ジアルキルカーボネートが挙げられる。
ジアリールカーボネートとしては、ジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート等の対称ジアリールカーボネートの他、フェニルナフチルカーボネート等の非対称ジアリールカーボネートが挙げられる。
また、クロロ炭酸メチル、クロロ炭酸フェニルなどのクロロ炭酸エステル、ホスゲンやその等価体、炭酸ガスもカーボネート源として使用することができる。
【0033】
この中でも好ましくは、アルキレンカーボネート又はジアルキルカーボネートであり、より好ましくはエチレンカーボネート、ジメチルカーボネートであり、さらに好ましくはエチレンカーボネートである。
なお、上記のカーボネート化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
(ポリエーテルポリオール化合物)
ポリエーテルポリオール化合物は、環状エーテルの開環重合で製造することができる。
【0035】
環状エーテルを構成する炭素原子数は通常2~10であり、好ましくは3~7である。
環状エーテルとしては、具体的には、テトラヒドロフラン(THF)、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、オキセタン、テトラヒドロピラン、オキセパン、1,4-ジオキサンなどが挙げられる。また、環状の炭化水素鎖の一部がアルキル基、ハロゲン原子などで置換された環状エーテルも使用することができる。具体的には、3-メチル-テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランなどが挙げられる。これらの環状エーテルは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよいが、1種類で使用することが好ましい。
【0036】
具体的なポリエーテルポリオール化合物には、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどの低分子量ポリエテールポリオールや水酸基から求めた数平均分子量100以上3000以下のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、酸化エチレンと酸化プロピレンの共重合体、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)、THFと3-メチル-テトラヒドロフランの共重合体、ジプロピレングリコールポリエチレングリコールなどが挙げられる。
【0037】
これらの中でも、水酸基価が220mg-KOH/g以上750mg-KOH/g以下、特に280mg-KOH/g以上700mg-KOH/g以下、とりわけ370mg-KOH/g以上660mg-KOH/g以下のPTMGが、得られるポリウレタンの引張物性、耐久性の観点から好ましい。水酸基価が750mg-KOH/g以下のPTMGであれば、得られるPEPCDの結晶性、融点の上昇を抑制することができる。また、PTMGの水酸基価が220mg-KOH/g以上であれば、得られるPEPCDの粘度が高くなりすぎず、取り扱い性に優れる。
また、このPTMGは、水酸基から求めた数平均分子量(Mn)が100以上3000以下、特に150以上2000以下、とりわけ200以上850以下であることが、得られるポリウレタンの引張物性、耐久性の観点から好ましい。数平均分子量が100以上のPTMGであれば、得られるPEPCDに結晶性、融点の上昇を抑制することができる。また、PTMGの数平均分子量が3000以下であれば、得られるPEPCDの粘度が高くなりすぎず、取り扱い性に優れる。
【0038】
ここで、水酸基価、及び水酸基価から求めた数平均分子量(Mn)は、例えば、以下の方法で測定される。
<水酸基価・数平均分子量>
JIS K1557-1に準拠して、アセチル化試薬を用いた方法にてポリエーテルポリオール化合物の水酸基価を測定する。
測定された水酸基価から、下記式(I)により数平均分子量(Mn)を求める。
数平均分子量=2×56.1/(水酸基価×10-3) …(I)
【0039】
なお、PTMGの原料となるTHFは、従来から公知である製法で得ることが可能である。例えば、原料ブタジエン、酢酸及び酸素を用いてアセトキシ化反応を行って得られる中間体であるジアセトキシブテンを得て、そのジアセトキシブテンを水添、加水分解することで得る1,4-ブタンジオールを環化脱水して得る方法;マレイン酸、コハク酸、無水マレイン酸及び/又はフマル酸を原料として、それらを水素化して得られる1,4-ブタンジオールを環化脱水して得る方法;アセチレンを原料としてホルムアルデヒド水溶液と接触させて得られるブチンジオールを水素化して得られる1,4-ブタンジオールを環化脱水して得る方法;プロピレンの酸化を経由して得られる1,4-ブタンジオールを環化脱水して得る方法;発酵法により得たコハク酸を水添して得られる1,4-ブタンジオールを環化脱水して得る方法;糖などのバイオマスから直接発酵により得た1,4-ブタンジオールを環化脱水して得る方法;バイオマスから得られるフルフラールを脱カルボニル化、還元して得る方法;などである。
【0040】
(ジオール化合物)
PEPCDを製造する際には、必要に応じてポリエーテルポリオール化合物以外のジオール化合物を共重合させてもよい。このジオール化合物としては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-14-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオールなどの鎖状アルキルジオール、シクロヘキサンジメタノール、イソソルビドなどの環状アルキルジオールが挙げられる。
これらの他のジオール化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0041】
(原料の使用割合)
PEPCDの製造において、カーボネート化合物の使用量は、特に限定されないが、通常ポリエーテルポリオール化合物1モルに対するモル比率で、下限が好ましくは0.35、より好ましくは0.50、さらに好ましくは0.60であり、上限は好ましくは1.00、より好ましくは0.98、さらに好ましくは0.97である。カーボネート化合物の使用量が上記上限以下であれば得られるPEPCDの末端基が水酸基でないものの割合を抑え、数平均分子量を所定の範囲とし易い。カーボネート化合物の使用量が前記下限以上であれば所定の数平均分子量まで重合を進行させ易い。
【0042】
上記のその他のジオール化合物を用いる場合、その他のジオール化合物の使用量は、ポリエーテルポリオール化合物1モルに対するモル比率で、下限が好ましくは0.05、より好ましくは0.10、さらに好ましくは0.20であり、上限は好ましくは2.0、より好ましくは1.0、さらに好ましくは0.60である。この場合、カーボネート化合物の使用量は、ポリエーテルポリオール化合物とその他のジオール化合物との合計1モルに対するモル比で上記範囲内であることが好ましい。
【0043】
(触媒)
PEPCDの製造時には、エステル交換反応で用いられる触媒を用いることが好ましい。この触媒としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム、チタン、コバルト、ゲルマニウム、スズ、鉛、アンチモン、セリウム等の金属、金属アルコキシド、金属塩、金属酸化物等が挙げられ、好ましくはアルカリ金属・アルカリ土類金属・亜鉛・チタン・鉛の、炭酸塩・カルボン酸塩・ホウ酸塩・ケイ酸塩・炭酸塩・酸化物・有機金属化合物であり、特に有機チタン化合物、有機マグネシウム化合物が好ましい。
【0044】
エステル交換触媒の使用量は、通常、出発原料のポリエーテルポリオール化合物と必要に応じて用いられるその他のジオール化合物の合計の1モルに対して、10μmol以上1500μmol以下が好ましく、下限は20μmolがより好ましく、30μmolがさらに好ましく、50μmolが特に好ましい。上限は1000μmolがより好ましく、500μmolがさらに好ましく、300μmolが特に好ましく、200μmolが最も好ましい。触媒量が上記下限以上であれば、反応時間を短縮して、生産効率を高め、得られるPEPCDの着色も抑制できる。また、触媒量が上記上限以下であれば、PEPCDの着色やポリウレタン製造時の着色を抑制し、更にウレタン重合反応速度が速くなりすぎず、反応制御が容易になる傾向にある。
【0045】
(反応条件)
PEPCD製造時の反応温度は、通常70~250℃、好ましくは80~220℃である。反応初期は、原料カーボネート化合物の沸点付近、具体的には100~150℃とし、反応の進行に伴い、徐々に温度を上げて更に反応を進行させることが好ましい。反応副生物のアルコール、フェノール等は蒸留により分離される。この時、留出されるアルコール等とともに、原料カーボネート化合物も蒸留されてロスが多い場合には、棚段塔や充填塔を具備した反応器を用いて、ロス量を抑制することが好ましい。また、ロスを低減するために、留出した原料カーボネート化合物を回収し、反応系にリサイクルして使用してもよい。原料カーボネート化合物のロスがある場合、PEPCD製造のための原料カーボネート化合物とポリエーテルポリオール化合物乃至その他のジオール化合物の理論モル比はカーボネート化合物nモルに対して、ポリエーテルポリオール化合物乃至その他のジオール化合物(n+1)モルであるが、ロスを勘案し、理論モル比に対して1.1~1.3倍とするのが好ましい。尚、ポリエーテルポリオール化合物乃至その他のジオール化合物は反応初期に仕込んでおいてもよいし、途中から加えてもよい。
【0046】
<PEPCDの水酸基価・数平均分子量・分子量分布>
本発明のPEPCDの水酸基価は特に制限されるものではないが、水酸基価の下限は通常11mg-KOH/g、好ましくは22.4mg-KOH/g、より好ましくは28.1mg-KOH/g、さらに好ましくは37.4mg-KOH/gで、上限は通常320mg-KOH/g、好ましくは187.0mg-KOH/g、より好ましくは140.3mg-KOH/g、さらに好ましくは112.2mg-KOH/gである。水酸基価が上記下限以上であれば、粘度が高くなりすぎず、該PEPCDを原料としてポリウレタンとする際のハンドリングが容易となる傾向があり、上記上限以下であれば、得られるポリウレタンの柔軟性が良好となる傾向がある。
【0047】
また、本発明のPEPCDは、当該PEPCDをメタノール及び25重量%水酸化ナトリウム水溶液と混合し、75℃で30分間加熱して加水分解した場合に、得られる加水分解物の水酸基価が220mg-KOH/g以上750mg-KOH/g以下であることが好ましい。この加水分解物の水酸基価が220mg-KOH/g以上であれば、当該PEPCDは結晶性及び融点の上昇が抑制される。一方、この加水分解物の水酸基価が750mg-KOH/g以下であれば、当該PEPCDは粘度が高くなりすぎず、取り扱い性に優れる。これらの観点から該加水分解物の水酸基価は280mg-KOH/g以上であることがより好ましく、370mg-KOH/g以上であることがさらに好ましく、700mg-KOH/g以下であることがより好ましく、660mg-KOH/g以下であることがさらに好ましい。
PEPCDの加水分解の具体的な方法は後掲の実施例の項に記載される通りである。
【0048】
本発明のPEPCDの分子量は特に制限されるものではないが、好ましくは水酸基から求めた数平均分子量(Mn)で下限が通常600、好ましくは800、より好ましくは1000、上限が通常5000、好ましくは4000、より好ましくは3000である。PEPCDの数平均分子量(Mn)が600以上であれば、得られるポリウレタンの柔軟性が十分なものとなり、5000以下であれば粘度が高くなりすぎず、ハンドリングに優れる。
【0049】
ここで、PEPCD及びその加水分解物の水酸基価、PEPCDの数平均分子量(Mn)は、前述のポリエーテルポリオール化合物の水酸基価と数平均分子量(Mn)と同様に測定される。
【0050】
本発明のPEPCDの分子量分布(Mw/Mn)は、通常1以上、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.5以上であり、一方上限は通常3以下、好ましくは2.5以下、より好ましくは2.2以下である。
分子量分布が3以下であれば、高分子量体の増加、粘度の増加が抑えられ、ハンドリング性に優れるほか、引張強度等の各種ポリウレタン物性も良好となる傾向にある。一方、分子量分布の下限は通常1以上である。
ここで、PEPCDの分子量分布は、以下の方法で測定された値である。
【0051】
<分子量分布(Mw/Mn)>
PEPCDのテトラヒドロフラン溶液を調製後、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)〔東ソー社製、製品名「HLC-8220」、カラム:TskgelSuperHZM-N(4本)〕を用いて測定した重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値(Mw/Mn)をPEPCDの分子量分布とした。GPCのキャリブレーションには、英国POLYMER LABORATORIES社のPOLYTETRAHYDROFURANキャリブレーションキットを使用した。
【0052】
<添加剤>
本発明のPEPCDには、必要に応じて各種の添加剤を添加することができる。
例えば、本発明のPEPCDには、酸化による劣化を抑制するために、酸化防止剤を添加することができる。この場合、酸化防止剤は、酸化防止剤添加後のPEPCD中の酸化防止剤濃度が、通常10重量ppm以上、好ましくは50重量ppm以上、より好ましくは100重量ppm以上で、通常1000重量ppm以下、好ましくは500重量ppm以下、より好ましくは300重量ppm以下となるように添加される。
酸化防止剤濃度が上記上限以下であればプロセス内で固体析出による閉塞の問題を抑制できる。一方、酸化防止剤濃度が上記下限以上であれば酸化反応の防止効果が十分となる。
酸化防止剤としては、効果や安定性の観点から2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(BHT)が好ましい。
【0053】
[PEPCDの用途]
本発明のPEPCDは、その優れたウレタン重合反応制御性から、弾性繊維、熱可塑性ポリウレタン、コーティング材などの用途に好適なポリウレタンの原料として有用である。
このような用途において、本発明のPEPCDからポリウレタン溶液や水系ポリウレタンエマルションを製造して用いることができる。
本発明のPEPCDの用途については更に後述する。
本発明のPEPCDは、末端を変性させることによりUV硬化型塗料や電子線硬化型塗料、プラスチックコーティング、レンズ等の成形剤、封止剤、接着剤等の原料として用いることができる。
本発明のPEPCDは、ナノファイバーセルロースやカーボンナノファイバー、金属ナノ粒子等のナノ材料を分散するのに用いることができる。
【0054】
<水系ポリウレタンエマルション>
本発明のPEPCDを用いて、水系ポリウレタンエマルションを製造する場合、本発明のPEPCDを含むポリオールと過剰のポリイソシアネートを反応させてプレポリマーを製造する際に、少なくとも1個の親水性官能基と少なくとも2個のイソシアネート反応性の基とを有する化合物を混合してプレポリマーを形成し、親水性官能基の中和塩化工程、水添加による乳化工程、鎖延長反応工程を経て水系ポリウレタンエマルションとすることができる。
【0055】
ここで使用する少なくとも1個の親水性官能基と少なくとも2個のイソシアネート反応性の基とを有する化合物の親水性官能基とは、例えばカルボキシル基やスルホン酸基であって、アルカリ性基で中和可能な基である。また、イソシアネート反応性基とは、水酸基、1級アミノ基、2級アミノ基等の一般的にイソシアネートと反応してウレタン結合、ウレア結合を形成する基であり、これらが同一分子内に混在していてもかまわない。
【0056】
少なくとも1個の親水性官能基と少なくとも2個のイソシアネート反応性の基とを有する化合物としては、具体的には、2,2’-ジメチロールプロピオン酸、2,2-メチロール酪酸、2,2’-ジメチロール吉草酸等が挙げられる。また、ジアミノカルボン酸類、例えば、リジン、シスチン、3,5-ジアミノカルボン酸等も挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらを実際に用いる場合には、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン等のアミンや、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等のアルカリ性化合物で中和して用いることができる。
【0057】
水系ポリウレタンエマルションを製造する場合、少なくとも1個の親水性官能基と少なくとも2個のイソシアネート反応性の基とを有する化合物の使用量は、水に対する分散性能を上げるために、その下限は、本発明のPEPCDとそれ以外のポリオールとの総重量に対して、好ましくは1重量%、より好ましくは5重量%、更に好ましくは10重量%である。一方、ポリカーボネートジオールの特性を維持するために、その上限は好ましくは50重量%、より好ましくは40重量%、更に好ましくは30重量%である。
【0058】
水系ポリウレタンエマルションを製造する場合、プレポリマー工程においてメチルエチルケトンやアセトン、あるいはN-メチル-2-ピロリドン等の溶媒の共存下に反応させてもよいし、無溶媒で反応させてもよい。また、溶媒を使用する場合は、水性エマルションを製造した後に蒸留によって溶媒を留去させるのが好ましい。
【0059】
本発明のPEPCDを原料として、無溶媒で水系ポリウレタンエマルションを製造する際には、用いるPEPCDの水酸基価から求めた数平均分子量の上限は好ましくは5000、より好ましくは4500、更に好ましくは4000である。また、PEPCDの数平均分子量の下限は好ましくは300、より好ましくは500、更に好ましくは800である。水酸基価から求めた数平均分子量が上記範囲内であれば、エマルション化が容易となる傾向がある。
【0060】
また、水系ポリウレタンエマルションの合成、あるいは保存にあたり、高級脂肪酸、樹脂酸、酸性脂肪アルコール、硫酸エステル、スルホン酸高級アルキル、スルホン酸アルキルアリール、スルホン化ひまし油、スルホコハク酸エステルなどに代表されるアニオン性界面活性剤、第一級アミン塩、第二級アミン塩、第三級アミン塩、第四級アミン塩、ピリジニウム塩等のカチオン系界面活性剤、あるいはエチレンオキサイドと長鎖脂肪アルコール又はフェノール類との公知の反応生成物に代表される非イオン性界面活性剤等を併用して、乳化安定性を保持してもよい。
【0061】
また、水系ポリウレタンエマルションとする際に、プレポリマーの有機溶媒溶液に、必要に応じて中和塩化工程なしに、乳化剤の存在下、水を機械的に高せん断で混合して、エマルションを製造することもできる。
【0062】
このようにして製造された水系ポリウレタンエマルションは、様々な用途に使用することが可能である。特に、最近は環境負荷の小さな化学品原料が求められており、有機溶剤を使用しない目的としての従来品からの代替が可能である。
【0063】
水系ポリウレタンエマルションの具体的な用途としては、例えば、コーティング剤、水系塗料、接着剤、合成皮革、人工皮革への利用が好適である。特に本発明のPEPCDを用いて製造される水系ポリウレタンエマルションは、PEPCDが所定の末端アルコキシ/アリーロキシ割合となるようにアルコキシ/アリーロキシ末端を含むことから、柔軟性がありコーティング剤等として従来のポリカーボネートジオールやPTMGを使用した水系ポリウレタンエマルションに比べて有効に利用することが可能である。特に、従来のPTMGを用いた水系ポリウレタンエマルションに比べて、親水基を持つため、水への親和性がよく、より高分子量の当該発明のPEPCDを使用することができるため、コーティング塗膜や合成皮革、人工皮革等によりソフト感と透明性を付与できる。また、水への分散性に優れることから水系ポリウレタンエマルションの分子設計の自由度が増すため、組成を調整することにより、マット性も出すことが可能である。
【0064】
有機溶剤および/又は水を使用し、本発明のPEPCDを用いて製造したポリウレタン溶液および水系ポリウレタンエマルションの保存安定性は、該溶液もしくは該エマルション中のポリウレタンの濃度(以下、「固形分濃度」と称する場合がある)を1~80重量%に調整し、特定の温度条件で保管した上で、該溶液もしくは該エマルションの変化の有無を目視などで測ることができる。例えば、前述の二段法により、本発明のPEPCD、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートおよびイソホロンジアミンを用いて製造されるポリウレタン溶液(N,N-ジメチルホルムアミド/トルエン混合液、固形分濃度 30重量%)の場合、10℃で保管した際に、目視でポリウレタン溶液に変化が見られない期間が好ましくは1か月、よりに好ましくは3か月以上、さらに好ましくは6か月以上である。
【0065】
[ポリウレタンの製造方法]
本発明のポリウレタンの製造方法は、本発明のPEPCDと、複数のイソシアネート基を有する化合物(以下、「ポリイソシアネート化合物」又は「ポリイソシアネート」と称す場合がある。)とを含む原料を付加重合反応させてポリウレタン(以下、「本発明のポリウレタン」と称す場合がある。)を製造する方法である。
本発明のポリウレタンの製造方法は、本発明のPEPCDを用いることを特徴とするものであり、通常、本発明のPEPCDと、ポリイソシアネート化合物と鎖延長剤とを用いること以外は、通常のポリウレタン化反応により本発明のポリウレタンを製造することができる。
【0066】
例えば、本発明のPEPCDとポリイソシアネート化合物及び鎖延長剤を常温から200℃の範囲で反応させることにより、本発明のポリウレタンを製造することができる。
また、本発明のPEPCDと過剰のポリイソシアネート化合物とをまず反応させて末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを製造し、さらに鎖延長剤を用いて重合度を挙げて、本発明のポリウレタンを製造することができる。
【0067】
<ポリイソシアネート化合物>
本発明のポリウレタンの製造原料として使用されるポリイソシアネート化合物は、イソシアネート基を2以上有するものであればよく、脂肪族、脂環族又は芳香族の各種公知のポリイソシアネート化合物が挙げられる。
【0068】
例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート及びダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート化合物;1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1-メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1-メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート及び1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンなどの脂環族ジイソシアネート化合物;キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、トルエンジイソシアネート(2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート)、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、フェニレンジイソシアネート及びm-テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート化合物等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
これらの中でも、PEPCDとの反応性や得られるポリウレタンの硬化性の高さから芳香族ポリイソシアネート化合物が好ましく、特に工業的に安価に多量に入手が可能な点で、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、「MDI」と称する場合がある)、トルエンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネートが好ましい。
【0070】
<鎖延長剤>
本発明のポリウレタンの製造原料として使用される鎖延長剤は、イソシアネート基と反応する活性水素を少なくとも2個有する低分子量化合物であり、ポリオール及びポリアミンから選ばれる。
【0071】
その具体例としては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール等の直鎖ジオール類;2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2,4-ヘプタンジオール、1,4-ジメチロールヘキサン、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、ダイマージオール等の分岐鎖を有するジオール類;ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のエーテル基を有するジオール類;1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ジヒドロキシエチルシクロヘキサン等の脂環構造を有するジオール類、キシリレングリコール、1,4-ジヒドロキシエチルベンゼン、4,4’-メチレンビス(ヒドロキシエチルベンゼン)等の芳香族基を有するジオール類;グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のポリオール類;N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン等のヒドロキシアミン類;エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、イソホロンジアミン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、4,4’-ジフェニルメタンジアミン、メチレンビス(o-クロロアニリン)、キシリレンジアミン、ジフェニルジアミン、トリレンジアミン、ヒドラジン、ピペラジン、N,N’-ジアミノピペラジン等のポリアミン類;等を挙げることができる。
【0072】
これらの鎖延長剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
これらの中でも得られるポリウレタンのソフトセグメントとハードセグメントの相分離性に優れることによる柔軟性と弾性回復性に優れる点、工業的に安価に多量に入手が可能な点で、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオールが好ましい。
【0074】
<鎖停止剤>
本発明のポリウレタンを製造する際には、得られるポリウレタンの分子量を制御する目的で、必要に応じて1個の活性水素基を持つ鎖停止剤を使用することができる。
これらの鎖停止剤としては、一個の水酸基を有するメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族モノオール類、一個のアミノ基を有するジエチルアミン、ジブチルアミン、n-ブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、モルフォホリン等の脂肪族モノアミン類が例示される。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0075】
<触媒>
本発明のポリウレタンを製造する際のポリウレタン形成反応において、トリエチルアミン、N-エチルモルホリン、トリエチレンジアミンなどのアミン系触媒又は酢酸、リン酸、硫酸、塩酸、スルホン酸等の酸系触媒、トリメチルチンラウレート、ジブチルチンジラウレート、ジオクチルチンジラウレート、ジオクチルチンジネオデカネートなどのスズ系の化合物、さらにはチタン系化合物などの有機金属塩などに代表される公知のウレタン重合触媒を用いることもできる。ウレタン重合触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
<本発明のPEPCD以外のポリオール>
本発明のポリウレタンを製造する際のポリウレタン形成反応においては、必要に応じて本発明のPEPCD以外のポリオールを併用してもよい。ここで、本発明のPEPCD以外のポリオールとは、通常のポリウレタン製造の際に用いるものであれば特に限定されず、例えばポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオ-ル、ポリエーテルポリオールが挙げられる。これらの中でもポリエーテルポリオールが好ましく、特にPEPCDと近いウレタン物性を得ることができるポリテトラメチレンエーテルグリコールが好ましい。ここで、本発明のPEPCDとそれ以外のポリオールを合わせた重量に対する、本発明のPEPCDの重量割合は30%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。本発明のPEPCDの重量割合が上記下限以上であれば、ウレタン重合反応の制御性や得られるポリウレタンの柔軟性が良好となる。
【0077】
<ポリウレタンの製造方法>
上述の反応試剤を用いて本発明のポリウレタンを製造する方法としては、一般的に実験ないし工業的に用いられる製造方法が使用できる。
その例としては、本発明のPEPCD、必要に応じて用いられるそれ以外のポリオール、ポリイソシアネート化合物及び鎖延長剤を一括に混合して反応させる方法(以下、「一段法」と称する場合がある)や、まず本発明のPEPCD、必要に応じて用いられるそれ以外のポリオール及びポリイソシアネート化合物を反応させて両末端がイソシアネート基のプレポリマーを調製した後に、そのプレポリマーと鎖延長剤を反応させる方法(以下、「二段法」と称する場合がある)等がある。
【0078】
二段法は、本発明のPEPCDとそれ以外のポリオールとを予め1当量以上のポリイソシアネート化合物と反応させることにより、ポリウレタンのソフトセグメントに相当する部分の両末端イソシアネート中間体を調製する工程を経るものである。このように、プレポリマーを一旦調製した後に鎖延長剤と反応させると、ソフトセグメント部分の分子量の調整が行いやすい場合があり、ソフトセグメントとハードセグメントの相分離を確実に行う必要がある場合には有用である。
【0079】
(一段法)
一段法とは、ワンショット法とも呼ばれ、本発明のPEPCD、それ以外のポリオール、ポリイソシアネート化合物及び鎖延長剤を一括に仕込むことで反応を行う方法である。
一段法におけるポリイソシアネート化合物の使用量は、特に限定はされないが、本発明のPEPCDとそれ以外のポリオールとの総水酸基数と、鎖延長剤の水酸基数とアミノ基数との総計を1当量とした場合、下限は、好ましくは0.7当量、より好ましくは0.8当量、さらに好ましくは0.9当量、特に好ましくは0.95当量であり、上限は、好ましくは3.0当量、より好ましくは2.0当量、さらに好ましくは1.5当量、特に好ましくは1.1当量である。
【0080】
ポリイソシアネート化合物の使用量が上記上限以下であれば、未反応のイソシアネート基が副反応を起こし、得られるポリウレタンの粘度が高くなりすぎて取り扱いが困難となったり、柔軟性が損なわれたりするおそれがなく、上記下限以上であれば、ポリウレタンの分子量が十分に大きくなり、十分な強度が得られる傾向がある。
【0081】
また、鎖延長剤の使用量は、特に限定されないが、本発明のPEPCDとそれ以外のポリオールの総水酸基数をポリイソシアネート化合物のイソシアネート基数から引いた数を1当量とした場合、下限は、好ましくは0.7当量、より好ましくは0.8当量、さらに好ましくは0.9当量、特に好ましくは0.95当量であり、上限は好ましくは3.0当量、より好ましくは2.0当量、さらに好ましくは1.5当量、特に好ましくは1.1当量である。鎖延長剤の使用量が上記上限以下であれば、得られるポリウレタンが溶媒に溶け易く加工が容易になる傾向があり、上記下限以上であれば、得られるポリウレタンが軟らかすぎず、十分な強度や硬度、弾性回復性能や弾性保持性能が得られ、また、耐熱性も良好となる。
【0082】
(二段法)
二段法は、プレポリマー法ともよばれ、主に以下の方法がある。
(a)予め本発明のPEPCD、それ以外のポリオールと、過剰のポリイソシアネート化合物とを、ポリイソシアネート化合物/(本発明のPEPCDとそれ以外のポリオール)の反応当量比が1を超える量から10.0以下で反応させて、分子鎖末端がイソシアネート基であるプレポリマーを製造し、次いでこれに鎖延長剤を加えることによりポリウレタンを製造する方法。
(b)予めポリイソシアネート化合物と、過剰の本発明のPEPCD及びそれ以外のポリオールとを、ポリイソシアネート化合物/(本発明のPEPCDとそれ以外のポリオール)の反応当量比が0.1以上から1.0未満で反応させて分子鎖末端が水酸基であるプレポリマーを製造し、次いでこれに鎖延長剤として末端がイソシアネート基のポリイソシアネート化合物を反応させてポリウレタンを製造する方法。
【0083】
二段法は無溶媒でも溶媒共存下でも実施することができる。
二段法によるポリウレタン製造は以下に記載の(1)~(3)のいずれかの方法によって行うことができる。
(1) 溶媒を使用せず、まず直接ポリイソシアネート化合物と本発明のPEPCDとそれ以外のポリオールとを反応させてプレポリマーを合成し、そのまま鎖延長反応に使用する。
(2) (1)の方法でプレポリマーを合成し、その後溶媒に溶解し、以降の鎖延長反応に使用する。
(3) 初めから溶媒を使用し、ポリイソシアネート化合物と本発明のPEPCDとそれ以外のポリオールとを反応させ、その後鎖延長反応を行う。
【0084】
(1)の方法の場合には、鎖延長反応にあたり、鎖延長剤を溶媒に溶かしたり、溶媒に同時にプレポリマー及び鎖延長剤を溶解したりするなどの方法により、ポリウレタンを溶媒と共存する形で得ることが重要である。
二段法(a)の方法におけるポリイソシアネート化合物の使用量は、特に限定はされないが、本発明のPEPCDとそれ以外のポリオールの総水酸基の数を1当量とした場合のイソシアネート基の数として、下限が好ましくは1.0当量を超える量、より好ましくは1.2当量、さらに好ましくは1.5当量であり、上限が好ましくは10.0当量、より好ましくは5.0当量、さらに好ましくは3.0当量の範囲である。
【0085】
このポリイソシアネート化合物使用量が上記上限以下であれば、過剰のイソシアネート基による副反応を抑制して所望のポリウレタンの物性まで到達し易い傾向があり、上記下限以上であれば、得られるポリウレタンの分子量を十分に上げて強度や熱安定性を高めることができる。
鎖延長剤の使用量については特に限定されないが、プレポリマーに含まれるイソシアネート基の数1当量に対して、下限が、好ましくは0.1当量、より好ましくは0.5当量、さらに好ましくは0.8当量であり、上限が好ましくは5.0当量、より好ましくは3.0当量、さらに好ましくは2.0当量の範囲である。
【0086】
上記鎖延長化反応を行う際に、分子量を調整する目的で、一官能性の有機アミン類やアルコール類を共存させてもよい。
また、二段法(b)の方法における末端が水酸基であるプレポリマーを作成する際のポリイソシアネート化合物の使用量は、特に限定はされないが、本発明のPEPCDとそれ以外のポリオールの総水酸基の数を1当量とした場合のイソシアネート基の数として、下限が好ましくは0.1当量、より好ましくは0.5当量、さらに好ましくは0.7当量であり、上限が好ましくは0.99当量、より好ましくは0.98当量、さらに好ましくは0.97当量である。
【0087】
このポリイソシアネート化合物使用量が上記下限以上であれば、続く鎖延長反応で所望の分子量を得るまでの工程が長すぎず生産効率が良好となる傾向にあり、上記上限以下であれば、粘度が高くなりすぎて得られるポリウレタンの柔軟性が低下したり、取扱いが悪く生産性が劣ったりすることが抑制される。
鎖延長剤の使用量については特に限定されないが、プレポリマーに使用した本発明のPEPCDとそれ以外のポリオールの総水酸基の数を1当量とした場合、プレポリマーに使用したイソシアネート基の当量を加えた総当量として、下限が好ましくは0.7当量、より好ましくは0.8当量、さらに好ましくは0.9当量であり、上限が好ましくは1.0当量未満、より好ましくは0.99当量、さらに好ましくは0.98当量の範囲である。
【0088】
上記鎖延長化反応を行う際に、分子量を調整する目的で、一官能性の有機アミン類やアルコール類を共存させてもよい。
鎖延長反応は通常、0℃~250℃で反応させるが、この温度は溶剤の量、使用原料の反応性、反応設備等により異なり、特に制限はない。上記下限以上の温度であれば反応の進行が速く、原料や重合物の溶解性も高いために製造時間が短縮される。上記上限以下の温度であれば副反応や得られるポリウレタンの分解を抑制できる。鎖延長反応は、減圧下で脱泡しながら行ってもよい。
【0089】
また、鎖延長反応には必要に応じて、触媒や安定剤等を添加することもできる。
触媒としては例えばトリエチルアミン、トリブチルアミン、ジブチル錫ジラウレート、オクチル酸第一錫、酢酸、燐酸、硫酸、塩酸、スルホン酸等の化合物が挙げられ、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。安定剤としては例えば2,6-ジブチル-4-メチルフェノール、ジステアリルチオジプロピオネート、N,N’-ジ-2-ナフチル-1,4-フェニレンジアミン、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト等の化合物が挙げられ、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。尚、鎖延長剤が短鎖脂肪族アミン等の反応性の高いものの場合は、触媒を添加せずに実施してもよい。
また、亜リン酸トリス(2-エチルヘキシル)等の反応抑制剤を用いることもできる。
【0090】
<添加剤>
本発明のポリウレタンには、熱安定剤、光安定剤、着色剤、充填剤、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、粘着防止剤、難燃剤、老化防止剤、無機フィラー等の各種の添加剤を、本発明のポリウレタンの特性を損なわない範囲で、添加、混合することができる。
【0091】
熱安定剤として使用可能な化合物としては、燐酸、亜燐酸の脂肪族、芳香族又はアルキル基置換芳香族エステルや次亜燐酸誘導体、フェニルホスホン酸、フェニルホスフィン酸、ジフェニルホスホン酸、ポリホスホネート、ジアルキルぺンタエリスリトールジホスファイト、ジアルキルビスフェノールAジホスファイト等のリン化合物;フェノール系誘導体、特にヒンダードフェノール化合物;チオエーテル系、ジチオ酸塩系、メルカプトベンズイミダゾール系、チオカルバニリド系、チオジプロピオン酸エステル系等のイオウを含む化合物;スズマレート、ジブチルスズモノオキシド等のスズ系化合物等を使用することができる。
【0092】
ヒンダードフェノール化合物の具体例としては、「Irganox1010」(商品名:BASFジャパン株式会社製)、「Irganox1520」(商品名:BASFジャパン株式会社製)、「Irganox245」(商品名:BASFジャパン株式会社製)等が挙げられる。
リン化合物としては、「PEP-36」、「PEP-24G」、「HP-10」(いずれも商品名:株式会社ADEKA社製)、「Irgafos 168」(商品名:BASFジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0093】
イオウを含む化合物の具体例としては、ジラウリルチオプロピオネート(DLTP)、ジステアリルチオプロピオネート(DSTP)などのチオエーテル化合物が挙げられる。
光安定剤の例としては、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系化合物等が挙げられ、具体的には「TINUVIN622LD」、「TINUVIN765」(以上、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ株式会社製)、「SANOL LS-2626」、「SANOL LS-765」(以上、三共株式会社製)等が使用可能である。
【0094】
紫外線吸収剤の例としては、「TINUVIN328」、「TINUVIN234」(以上、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ株式会社製)等が挙げられる。
【0095】
着色剤としては、直接染料、酸性染料、塩基性染料、金属錯塩染料などの染料;カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、マイカなどの無機顔料;及びカップリングアゾ系、縮合アゾ系、アンスラキノン系、チオインジゴ系、ジオキサゾン系、フタロシアニン系等の有機顔料等が挙げられる。
【0096】
無機フィラーの例としては、ガラス短繊維、カーボンファイバー、アルミナ、タルク、グラファイト、メラミン、白土等が挙げられる。
【0097】
難燃剤の例としては、燐及びハロゲン含有有機化合物、臭素あるいは塩素含有有機化合物、ポリ燐酸アンモニウム、水酸化アルミニウム、酸化アンチモン等の添加及び反応型難燃剤が挙げられる。
【0098】
これらの添加剤は、単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で組み合わせて用いてもよい。
【0099】
これらの添加剤の添加量は、ポリウレタンに対する重量比として、下限が、好ましくは0.01重量%、より好ましくは0.05重量%、さらに好ましくは0.1重量%、上限は、好ましくは10重量%、より好ましくは5重量%、さらに好ましくは1重量%である。添加剤の添加量が上記下限以上であればその添加効果を十分に得ることができ、上記上限以下であればポリウレタン中で析出したり、濁りを発生したりするおそれがない。
【0100】
<ポリウレタンの分子量>
本発明のポリウレタンの分子量は、その用途に応じて適宜調整され、特に制限はないが、GPCにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)として5万~40万であることが好ましく、10万~30万であることがより好ましい。Mwが上記下限以上であれば、十分な強度や硬度が得られ、上記上限以下であれば加工性などハンドリング性に優れる傾向がある。
【0101】
<ポリウレタンの用途>
本発明のポリウレタンは、耐溶剤性に優れ、良好な柔軟性、機械強度を有することから、フォーム、エラストマー、弾性繊維、塗料、繊維、粘着剤、接着剤、床材、シーラント、医療用材料、人工皮革、合成皮革、コーティング剤、水系ポリウレタン塗料、活性エネルギー線硬化性重合体組成物等に広く用いることができる。
【0102】
特に、人工皮革、合成皮革、透湿防水布、防水布、水系ポリウレタン、接着剤、弾性繊維、医療用材料、床材、塗料、コーティング剤等の用途に、本発明のポリウレタンを用いると、耐溶剤性、柔軟性、機械強度の良好なバランスを有するため、人の皮膚に触れたり、コスメティック用薬剤や消毒用のアルコールが使われたりする部分において耐久性が高く、また柔軟性も十分で、かつ物理的な衝撃などにも強いという良好な特性を付与することができる。また、耐熱性が必要とされる自動車用途や、耐候性が必要とされる屋外用途に好適に使用できる。
【0103】
本発明のポリウレタンは、ポリウレタンエラストマー、例えば注型ポリウレタンエラストマーに使用できる。その具体的用途として、圧延ロール、製紙ロール、事務機器、プレテンションロール等のロール類、フォークリフト、自動車車両ニュートラム、台車、運搬車等のソリッドタイヤ、キャスター等、工業製品として、コンベアベルトアイドラー、ガイドロール、プーリー、鋼管ライニング、鉱石用ラバースクリーン、ギア類、コネクションリング、ライナー、ポンプのインペラー、サイクロンコーン、サイクロンライナー等がある。また、OA機器のベルト、紙送りロール、複写用クリーニングブレード、スノープラウ、歯付ベルト、サーフローラー等にも使用できる。
【0104】
本発明のポリウレタンは、また、熱可塑性エラストマーとしての用途にも適用される。例えば、食品、医療分野で用いる空圧機器、塗装装置、分析機器、理化学機器、定量ポンプ、水処理機器、産業用ロボット等におけるチューブやホース類、スパイラルチューブ、消防ホース等に使用できる。また、丸ベルト、Vべルト、平ベルト等のベルトとして、各種伝動機構、紡績機械、荷造り機器、印刷機械等に用いられる。また、履物のヒールトップや靴底、カップリング、パッキング、ポールジョイント、ブッシュ、歯車、ロール等の機器部品、スポーツ用品、レジャー用品、時計のベルト等に使用できる。さらに自動車部品としては、オイルストッパー、ギアボックス、スペーサー、シャーシー部品、内装品、タイヤチェーン代替品等が挙げられる。また、キーボードフィルム、自動車用フィルム等のフィルム、カールコード、ケーブルシース、ベロー、搬送ベルト、フレキシブルコンテナー、バインダー、合成皮革、ディピンイング製品、接着剤等に使用できる。
【0105】
本発明のポリウレタンよりなるポリウレタンエラストマーは、更に、発泡ポリウレタンエラストマー、又はポリウレタンフォームとすることができる。ポリウレタンエラストマーを発泡又はフォームとする方法としては、例えば、水などを用いた化学発泡やメカニカルフロスなどの機械発泡のいずれでもよく、その他スプレー発泡やスラブ、注入、モールド成型で得られる硬質フォームや、同じくスラブ、モールド成型で得られる軟質フォーム等が挙げられる。
具体的な発泡ポリウレタンエラストマー又はポリウレタンフォームの用途としては電子機器、鉄道レールおよび建築の断熱材や防振材、自動車シート、自動車の天井クッション、マットレスなどの寝具、インソール、ミッドソールや靴底等が挙げられる。
【0106】
本発明のポリウレタンは、溶剤系二液型塗料としての用途にも適用可能であり、楽器、仏壇、家具、化粧合板、スポーツ用品等の木材製品に適用できる。また、タールエポキシウレタンとして自動車補修用にも使用できる。
【0107】
本発明のポリウレタンは、湿気硬化型の一液型塗料、ブロックイソシアネート系溶媒塗料、アルキド樹脂塗料、ウレタン変性合成樹脂塗料、紫外線硬化型塗料、水系ウレタン塗料等の成分として使用可能であり、例えば、プラスチックバンパー用塗料、ストリッパブルペイント、磁気テープ用コーティング剤、床タイル、床材、紙、木目印刷フィルム等のオーバープリントワニス、木材用ワニス、高加工用コイルコート、光ファイバー保護コーティング、ソルダーレジスト、金属印刷用トップコート、蒸着用ベースコート、食品缶用ホワイトコート等に適用できる。
【0108】
本発明のポリウレタンは、また、粘着剤や接着剤として、食品包装、靴、履物、磁気テープバインダー、化粧紙、木材、構造部材等に適用でき、また、低温用接着剤、ホットメルトの成分としても用いることができる。
本発明のポリウレタンは、バインダーとして、磁気記録媒体、インキ、鋳物、焼成煉瓦、グラフト材、マイクロカプセル、粒状肥料、粒状農薬、ポリマーセメントモルタル、レジンモルタル、ゴムチップバインダー、再生フォーム、ガラス繊維サイジング等に使用可能である。
【0109】
本発明のポリウレタンは、繊維加工剤の成分として、防縮加工、防皺加工、撥水加工等に使用できる。
【0110】
本発明のポリウレタンを弾性繊維として使用する場合のその繊維化の方法は、紡糸できる方法であれば特に制限なく実施できる。例えば、一旦ペレット化した後、溶融させ、直接紡糸口金を通して紡糸する溶融紡糸方法が採用できる。本発明のポリウレタンから弾性繊維を溶融紡糸により得る場合、紡糸温度は好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以上235℃以下である。
【0111】
本発明のポリウレタンよりなる弾性繊維はそのまま裸糸として使用したり、また、他繊維で被覆して被覆糸として使用したりすることができる。他繊維としては、ポリアミド繊維、ウール、綿、ポリエステル繊維など従来公知の繊維を挙げることができるが、なかでもポリエステル繊維が好ましく用いられる。また、本発明のポリウレタンよりなる弾性繊維は、染着タイプの分散染料を含有していてもよい。
【0112】
本発明のポリウレタンは、シーラント・コーキングとして、コンクリート打ち壁、誘発目地、サッシ周り、壁式PC(Precast Concrete)目地、ALC(Autoclaved Light-weight Concrete)目地、ボード類目地、複合ガラス用シーラント、断熱サッシシーラント、自動車用シーラント、屋上防水シート等に使用できる。
【0113】
本発明のポリウレタンは、医療用材料としての使用が可能であり、血液適合材料として、チューブ、カテーテル、人工心臓、人工血管、人工弁等、また、使い捨て素材としてカテーテル、チューブ、バッグ、手術用手袋、人工腎臓ポッティング材料等に使用できる。
【0114】
本発明のポリウレタンは、末端を変性させることによりUV硬化型塗料、電子線硬化型塗料、フレキソ印刷版用の感光性樹脂組成物、光硬化型の光ファイバー被覆材組成物等の原料として用いることができる。
【0115】
[ポリウレタンの用途]
以下に、本発明のポリウレタンの用途について用途別に詳述する。
【0116】
<透湿防水フィルム、透湿防水膜、透湿防水布>
本発明のPEPCDを用いたポリウレタンは、透湿防水フィルムとしての性能に優れている。透湿防水向けポリウレタン原料には主にポリエステルポリオールやポリエーテルポリオールが使用されているが、ポリエステルポリオールの場合、耐加水分解性が悪いという致命的な欠点がある。一方でポリエーテルポリオールを使用したウレタンの場合は耐光性や耐熱性に劣るという欠点がある。さらに最近では、ポリカーボネートジオール(PCD)あるいはエステル変性ポリカーボネートジオールを使用して耐加水分解性などの耐久性を向上させた透湿防水布用ポリウレタンが出ている。しかしながら、ポリカーボネートジオールを用いた透湿防水布は湿式製法によりミクロポアを形成させることで透湿性を出すことができるが、フィルムにした場合には透湿性能を十分に持たせることができない。そのためポリエチレングリコール(PEG)とポリカーボネートジオールをブレンドして使用する場合があるが、混合性が悪い、十分な強度がでない、接着性や風合いが悪い、等の問題点がある。
【0117】
PEPCDはエーテル結合とカーボネート結合からなることから、酸素含有量が多く、無孔質タイプでも十分な透湿性を発現できる。すなわちひとつのポリオールで、PEGの透湿性能とPCDの耐久性を兼ね備えたポリオールである。そのため耐水圧としては10,000mm以上、さらに20,000mm以上を達成可能である。その上透湿性については、10,000g/m2-24hrs以上、さらには15,000g/m2-24hrs以上の性能を発現させることができる。
【0118】
また、PEPCDはカーボネート結合を有し、十分な強度、耐水圧を出すことが可能であるので、多孔質タイプでの設計も可能である。多孔質タイプにした場合には、さらに透湿性に優れ、厚みが増しても耐水圧としては10,000mm以上、さらに20,000mm以上を達成可能である。その上透湿性については10,000g/m2-24hrs以上、さらには15,000g/m2-24hrs以上の性能を発現させることができる。
【0119】
透湿防水の塗膜の形成方法としては、方法は選ばない。無孔質のタイプの製造方法としては、たとえば、離型紙上に、フィルム同士のくっつきを防止するためにブロッキング防止剤や顔料を添加した表皮層用ポリウレタン溶液をコーティングし、乾燥してフィルム化する。その上に、ポリウレタン、架橋剤、溶剤、触媒などからなる接着層用ポリウレタン溶液をコーティングし、基材に圧着して貼り合わせる。乾燥機で接着層の溶剤を揮発させ、エージングで硬化反応を完結させる。離型紙をはく離すると、無孔膜タイプの透湿防水布が得られる。
【0120】
本発明のPEPCDを用いたポリウレタンは、多孔質タイプの透湿防水布のコーティングにも適用できる。多孔質タイプの製造方法としては、たとえば、溶液が必要以上に入り込まないよう前処理を施した基材に表皮層用ポリウレタン溶液をコーティングして、凝固浴中に浸漬する。浸漬中にポリウレタン溶液中の溶剤が抽出され、樹脂が析出、凝固し、空隙を多数有する多孔構造のポリウレタン層が形成される。その後乾燥すると、微多孔膜タイプの透湿防水布が得られる。PEPCDは、カーボネート結合とエーテル結合のバランスから適度な親水性と柔軟性を持ち、透湿防水性能のみならず、着衣時の快適さという点で優れた透湿防水布を与える。
【0121】
本発明のPEPCDを用いて製造した透湿防水布は、アウトドア用レインウェア、ウインドブレーカー、防寒ウェア、シューズ、テント、リュックサック、鞄、及び靴等に好適に用いられる。
【0122】
<セルロースナノファイバー処理剤>
本発明のPEPCDを用いたポリウレタンはセルロースナノファイバー処理剤として用いることができる。セルロースナノファイバー(CNF)は、直径が3~50nmでアスペクト比(繊維長/繊維幅)が100以上の極細の繊維状物質で、木材や竹などに由来する植物繊維をさまざまな方法で解繊処理することによって得られる。CNFの特長は軽い(比重1.3~1.5g/cm3、鋼の1/5程度)、強い(強度3GPa、鋼の約5倍)、比表面積が大きい(250m2/g以上)、吸着特性が高い、硬い(引張弾性率140GPa程度、アラミド繊維相当)、熱による伸び縮みが小さい(線膨張係数0.1~0.2ppm/K、ガラスの1/50程度)、ガラス並みに熱を伝えやすい、生体適合性に優れている、などが挙げられ各種プラスチックの補強用フィラーとして極めて有望な材料である。しかしながら、強い親水性のCNFを通常疎水性のプラスチックに混練するのは困難であり、普及に向けた大きな課題であった。
本発明のPEPCDを用いたポリウレタンはポリオール中のエーテル結合濃度を制御することにより適度な親水性を有するポリマーとなり、ポリウレタンエマルションとしてCNFの表面に吸着させることができる。その結果、CNF表面の極性を疎水性に変換することができ、疎水性の汎用樹脂、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、PET、PBT、ポリカーボネート、ポリアミド等に混練することが可能になる。樹脂中に微細にかつ均一に分散したCNFは強固なネットワークを形成し、効率よく補強効果を発揮し強度、弾性率を高め、線膨張係数を大幅に低減することができる。
【0123】
<自動車内装用塗料>
本発明のPEPCDを用いたポリウレタンは自動車用内装塗料に用いることができる。自動車内装に用いる大型プラスチック部品はその成形欠陥を隠蔽し同時に保護しながら意匠性を付与する目的で通常塗装される。その使用環境は人の手が触れたり、強い直射日光にさらされることから高い耐光性、耐熱性と耐薬品性、耐擦傷性が要求され、かつ、良好な触感や高度な意匠性が必要とされる。また、生産性を向上し省エネルギー化するために、低温短時間での乾燥硬化性が要求されている。
本発明のPEPCDを用いたポリウレタンはカーボネート結合及びエーテル結合の濃度と分子量、官能基数を制御することにより高い耐久性と優れた触感を有し、粘着性が低いことからタックフリータイムが短く低温硬化が可能である。また、圧縮永久歪みが小さいことから、爪などによる擦り傷は自然に修復される自己治癒型の塗膜となる。したがって、インスツルメンタルパネル、センターコンソール等の自動車内装部品用塗料の主剤として用いることができる。
【0124】
<家電筐体用塗料>
本発明のPEPCDを用いたポリウレタンは家電筐体用塗料に用いることができる。家電製品のプラスチック製筐体は防眩、防汚、保護、触感、意匠性付与を目的として塗装することがある。塗膜にはポリスチレン、ABS、ポリカーボネート等の基材に対する接着性の他、酸、アルカリ、油脂等に対する耐薬品性、スプレー塗装性、低温乾燥性、包材による輸送中の耐傷付性が必要とされる。
本発明のPEPCDを用いたポリウレタンはカーボネート結合/エーテル結合濃度を制御し、分子量、官能基数を調整し、ジイソシアネート、鎖延長剤の選択、ハードセグメント含有量、分子量の調節をすることにより優れた耐薬品性、接着性、耐傷付性を可能とし家電筐体用塗料の主剤として用いることができる。
【0125】
<グラビアインキ>
本発明のPEPCDを用いたポリウレタンはグラビアインキに用いることができる。グラビアインキは長尺のフィルムや紙を高速で印刷でき多色高精細の印刷物が得られるので、食品の包装材料フィルム、建材の壁紙、化粧シート等に広く用いられている。包装用グラビアインキは高度な印刷適性が要求され、とりわけインキの再溶解性、印刷後の耐酸性、耐アルカリ性、耐油性の要求が厳しい。
本発明のPEPCDを用いたポリウレタンはポリカーボネートに由来する耐久性とエーテル結合濃度を調整することによって得られる溶解性によって包装用グラビアインキのバインダー樹脂として用いることができる。
また、建材用グラビアインキにおいては耐候性、耐汚染性と印刷時の巻取りによるブロッキングを防止する耐ブロッキング性が要求される。本発明のPEPCDを用いたポリウレタンはポリカーボネートに由来する高い耐候性を有し官能基数を制御しエーテル結合濃度を最適化することで再溶解性を高めウレタン結合及びジアミン系鎖延長剤により導入されるウレア結合の濃度を制御することでフィルム裏面へのブロッキングを抑制でき、建材用各種フィルム印刷用グラビアインキのバインダー樹脂として用いることができる。
【0126】
<建築外装用塗料>
本発明のPEPCDを用いたポリウレタンは建築外装用塗料に用いることができる。建築外装用塗料は高光沢の外観、耐汚染性、長期の風雨、日射に耐える高い耐候性が必要とされる。一方で、従来の溶剤系から刺激の少ない弱溶剤系にシフトし、さらに環境にやさしい水性化が進行している。水系化によって要求性能の維持は困難になりつつある。
本発明のPEPCDを用いたポリウレタンはカーボネート結合/エーテル結合濃度を制御し親水性を最適化することでエマルション粒子径の微細化が可能であり、水系塗料としたときに塗膜表面の凹凸が少ない高光沢の外観が得られる。また、ポリカーボネート由来の高い耐候性があるため建築外装用塗料の樹脂として最適である。さらに塗膜表面の親水性を最大限に高めることで親油性の汚染物の付着力を弱め洗浄を容易にする低汚染塗膜を形成する。
【0127】
<屋上防水>
本発明のPEPCDを用いたポリウレタンは屋上防水に用いることができる。屋上防水処理にはシート防水と塗膜防水がある。塗膜防水には従来ポリプロピレングリコールとジイソシアネートとから得られるプレポリマーの芳香族ジアミン架橋による硬化塗膜が広く用いられてきた。これらはシート防水と比較して施工が容易である反面、耐候性が低く耐用年数が短く改修時期がシート防水の半分約10年程度であった。
本発明のPEPCDを用いたポリウレタンはポリカーボネートに由来する高い耐候性を有しエーテル結合濃度を適度に制御し官能基数を調整することで高い防水性能を発揮することが可能であり耐用年数の長い屋上塗膜防水材の主剤として用いることができる。
【0128】
<情報電子材料用封止剤>
本発明のPEPCDを用いたポリウレタンは情報電子材料用封止剤に用いることができる。情報電子材料の各分野において、各種の機能素子を環境から保護するために、種々の封止剤が用いられている。これらの封止剤にはバリアー性、耐熱性、耐加水分解性、透明性、耐光性、接着性、柔軟性、機械的強度等が求められる。
本発明のPEPCDを用いたポリウレタンはポリカーボネートに由来する高い耐候性を有し、ポリエーテル結合濃度と官能基数を制御することで酸素、水蒸気バリアー性を高め、ジイソシアネート、鎖延長剤の種類、ハードセグメント含有量を調整することでその他の要求性能をバランスよく調節することができ、フラットパネルディスプレーの発光素子、太陽電池パネル等の封止剤用樹脂として用いることができる。
【0129】
<超低硬度低圧縮永久歪み非フォーム樹脂>
本発明のPEPCDを用いたポリウレタンは超低硬度低圧縮永久歪み非フォーム樹脂に用いることができる。低硬度にするためには架橋間分子量を大きくし分子鎖のフレキシビリティを高めるため柔軟なエーテル構造を導入する必要がある。また、低圧縮歪みにするためには官能基数を高め、架橋構造の欠損をできるだけ少なくする必要がある。PEGは機械的物性が不足、PTMGは多官能化が困難、PPGは末端OH基が2級炭素に結合するため反応性が低くかつ一定の比率で脱水によりオレフィン化してしまうため、いずれもこの目的のためには使用に耐えない。
本発明のPEPCDは一級炭素に結合するOH基を有する多官能アルコールを原料として用いる限り必ず末端に反応性の高い一級炭素に結合したOH基が残るので、架橋間分子量を高くしつつ完全な架橋構造のポリウレタンが得られ、ポリカーボネートに由来する高い耐候性を有することから高耐久性でフォーム並みの柔軟性と圧縮永久歪みの非フォーム成形物として印刷機や複写機に用いられる各種特殊ロールの素材として有効である。
【0130】
<ポリウレタン軟質フォーム>
本発明のPEPCDを用いたポリウレタンは軟質ポリウレタンフォームに用いることができる。低硬度にするためには架橋間分子量を大きくし分子鎖のフレキシビリティを高めるため柔軟なエーテル構造を導入する必要がある。また、低圧縮歪みにするためには官能基数を高め、架橋構造の欠損をできるだけ少なくする必要がある。PEGは機械的物性が不足、PTMGは多官能化が困難、PPGは末端OH基が2級炭素に結合するため反応性が低くかつ一定の比率で脱水によりオレフィン化してしまうため、いずれもこの目的のためには使用に耐えない。
本発明のPEPCDは一級炭素に結合するOH基を有する多官能アルコールを原料として用いる限り必ず末端に反応性の高い一級炭素に結合したOH基が残るので、架橋間分子量を高くしつつ完全な架橋構造のポリウレタンが得られ、ポリカーボネートに由来する高い耐候性を有することから高耐久性で柔軟性と低圧縮永久歪みで高反発弾性のフォーム成形物として印刷機や複写機に用いられる各種特殊ロール、靴のソール、ウレタンバット、鉄道レール用の枕木や防振材の素材として有効である。特に発泡密度が0.1g/cc以上の高密度のフォームにおいてこの特性が顕著である。
【0131】
[ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂]
本発明のPEPCDを、ポリイソシアネートとヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを付加反応させることによりウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマー(以下、「本発明のウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマー」と称す場合がある。)を製造することができる。その他の原料化合物であるポリオール、及び鎖延長剤等を併用する場合は、ウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーは、ポリイソシアネートに、更にこれらのその他の原料化合物も付加反応させることにより製造することができる。本発明のウレタン(メタ)アクリレートは、他の原料とブレンドすることにより、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を与える。この活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、各種表面加工分野および注型成型品用途に広く用いることができる。この活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、硬化させて硬化膜とした場合に、硬度と伸度のバランス、耐溶剤性、ハンドリング性に優れるという特徴を有し、UV硬化型塗料、電子線硬化型塗料、フレキソ印刷版用の感光性樹脂組成物および光硬化型の光ファイバー被覆材組成物などの原料として用いることができる。
【0132】
本発明のウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーは、本発明のPEPCDの他に、ポリイソシアネートおよびヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート並びに必要に応じて他化合物を添加して製造することができる。ウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーを製造する際に使用可能なポリイソシアネートとしては、前記有機ジイソシアネートの他、トリス(イソシアナトヘキシル)イソシアヌレートなどのポリイソシアネートも挙げられる。
また、使用可能なヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートに代表される様に、1個以上のヒドロキシル基と1個以上の(メタ)アクリロイル基とを併せ持つ化合物であれば特に限定されない。さらに本発明のPEPCDに加えて、必要に応じて他のポリオール及び/又はポリアミンなど活性水素を少なくとも2個有する化合物を添加してもよく、また、これらを任意に組み合わせ用いてもよい。
【0133】
本発明のウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーを含む活性エネルギー線硬化性樹脂組成物には、本発明のウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマー以外の活性エネルギー線反応性モノマー、活性エネルギー線硬化性オリゴマー、重合開始剤および光増加剤並びに他の添加剤などを混合してもよい。
【0134】
本発明のウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーを含む活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化膜は、インキおよびエタノールなどの一般家庭汚染物に対する耐汚染性および保護性に優れる膜とすることが可能である。
前記硬化膜を各種基材への皮膜として用いた積層体は、意匠性および表面保護性に優れており、塗装代替用フィルムとして用いることができ、例えば、内装または外装用の建装材並びに自動車および家電などの各種部材などに有効に適用することが可能である。
【0135】
[ポリエステル系エラストマーの用途]
本発明のPEPCDは、ポリエステル系エラストマーとして使用することができる。ポリエステル系エラストマーとは、主として芳香族ポリエステルからなるハードセグメントと、主として脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル又は脂肪族ポリカーボネートからなるソフトセグメントから構成される共重合体である。本発明のPEPCDをポリエステル系エラストマーのソフトセグメントの構成成分として使用すると、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステルを用いた場合に比べて、耐熱性、耐水性等の物性が優れる。また、公知のポリカーボネートポリオールと比較しても、溶融時の流動性、つまりブロー成形、押出成形に適したメルトフローレートを有し、且つ機械強度その他の物性とのバランスに優れたポリエーテルカーボネートエステルエラストマーとなり、繊維、フィルム、シートをはじめとする各種成形材料、例えば弾性糸及びブーツ、ギヤ、チューブ、パッキンなどの成形材料に好適に用いることができる。具体的には耐熱性、耐久性を要求される自動車、家電部品等などのジョイントブーツや、電線被覆材等の用途に有効に適用することが可能である。
【0136】
[(メタ)アクリル樹脂の用途]
本発明のPEPCDは末端水酸基の一方あるいは両方を(メタ)アクリレート化することにより新規な(メタ)アクリレートに誘導することができる。(メタ)アクリレートの製造方法は、該当する(メタアクリレート)の無水物、ハロゲン化物、エステル体のいずれを用いても構わない。
この(メタ)アクリレートは他の原料とブレンドすることにより、活性エネルギー線重合性組成物((メタ)アクリル樹脂)を与える。
【0137】
この活性エネルギー線重合性組成物は、紫外線などの活性エネルギー線により短時間で重合により硬化する特性を持ち、一般的に透明性に優れ、硬化物に強靭性、柔軟性、耐擦傷性、耐薬品性等の優れた特性を持たせることが可能になる。この点から、プラスチックへのコーティング剤や、レンズの成型剤、封止剤、接着剤等の様々な分野に用いることができる。
【実施例】
【0138】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0139】
〔評価方法〕
以下の実施例及び比較例で得られたPEPCD及びポリウレタンの評価方法は下記の通りである。
【0140】
[PEPCDの末端アルコキシ/アリーロキシ割合]
PEPCDをCDCl3に溶解して400MHz 1H-NMR(日本電子株式会社製ECZ-400)を測定し、各成分のシグナルの積分値より算出した。
-OCH3末端基:δ3.33(s、3H)
-OCH2CH2CH2CH3末端基:δ0.91(t、3H)
【0141】
[PEPCDの粘度]
PEPCD 0.4mLを、40℃に設定したE型回転粘度計(東機産業(株)製、VISCOMETER TV-22L、ローター;3°R14)で測定した値を、PEPCDの粘度とした。
なお、PEPCDは液状で、その粘度は300~5000mPa・sの範囲であることが好ましい。
【0142】
[PEPCDの水酸基価・数平均分子量]
JIS K1557-1に準拠して、アセチル化試薬を用いた方法にてPEPCDの水酸基価を測定した。
測定された水酸基価から、下記式(I)により数平均分子量(Mn)を求めた。
数平均分子量=2×56.1/(水酸基価×10-3) …(I)
【0143】
[PEPCDの加水分解物の水酸基価]
PEPCD1gをメタノール45mL及び25重量%水酸化ナトリウム水溶液5mLと混合し、75℃で30分間加熱して加水分解した。その後、17.5重量%塩酸水溶液を7mL添加し溶液を中和した後、溶液全体の容量が100mLとなる様メタノールを添加した。得られた加水分解物の水酸基価を上記PEPCDの水酸基価と同様にして測定した。
【0144】
[PTMGの水酸基価・数平均分子量]
上記のPEPCDの水酸基価及び数平均分子量と同様にして測定した。
【0145】
[ポリウレタンの分子量]
ポリウレタンをジメチルアセトアミドに溶解し、濃度が0.14重量%になるようにジメチルアセトアミド溶液とした。GPC装置〔東ソー社製、製品名「HLC-8220」(カラム:TskgelGMH-XL・2本)〕を用いて、該ジメチルアセトアミド溶液を注入し、標準ポリスチレン換算で、ポリウレタンの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を測定した。
【0146】
[ポリウレタンの引張試験]
JIS K6301(2010)に準じ、実施例及び比較例で得られた厚さ1mmのシート状のポリウレタンエラストマーを幅10mm、長さ120mmのダンベル状とした試験片を切り出し(スーパーダンベルカッター 型式:SDK-100)、引張試験機(オリエンテック社製、製品名「テンシロンUTM-III -100」)を用いて、チャック間距離50mm、引張速度500mm/分にて、温度23℃、相対湿度55%で引張試験を実施し、試験片の破断伸度と破断強度を測定した。この破断伸度が800%以上、破断強度が20MPa以上のものは高い弾性率を有している。
【0147】
〔化合物略号〕
実施例および比較例における化合物の略号は以下の通りである。
PTMG:ポリオキシテトラメチレングリコール
EC:エチレンカーボネート
Mg(acac)2:マグネシウム(II)アセチルアセトナート
BG:1,4-ブタンジオール
MDI:4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート
TEHP:亜リン酸トリス(2-エチルヘキシル)
【0148】
[実施例1]
磁気撹拌子、留出液トラップ、圧力調整装置、400mmヴィグリュー管を備えた1Lガラス製4口フラスコにPTMG1(水酸基価:613.1mg-KOH/g、数平均分子量:183)を515g、ECを285g、Mg(acac)2を250mg入れ、窒素ガス置換した。撹拌下、内温を150℃まで昇温して、内容物を加熱溶解した。その後、2時間常圧で反応した後、圧力を80~40kPaまで下げて、エチレングリコールとECを系外へ除去しながら12時間反応させた。次いでECを37g加え、圧力を40~20kPaまで下げて、150℃で8時間反応した。さらにECを37g加え、さらに40~18kPaまで減圧し、10時間反応を続けた。
その後、生成物に8.5%リン酸水溶液:1.1mLを加えて触媒を失活させた。その後、ヴィグリュー管を取り外し、1kPa以下、168~178℃で残存モノマーを除去することで、粗PEPCDを得た。
【0149】
得られた粗PEPCDを20g/分の流量で薄膜蒸留装置に送液し、薄膜蒸留(温度:210℃、圧力:53Pa)を行ってPEPCDを得た。薄膜蒸留装置としては、直径50mm、高さ200mm、面積0.0314m2の内部コンデンサー、ジャケット付きの柴田科学株式会社製、分子蒸留装置MS-300特型を使用した。得られたPEPCD及びその加水分解物の分析値と物性値を表1に示した。
【0150】
<ポリウレタンエラストマーの製造>
予め90℃に加熱した300mLのSUSタイプの撹拌機を具備した反応器に、90℃に加熱したPEPCDを80g、MDIを33.6g、ウレタン化反応への抑制剤としてTEHPを0.77g仕込んだ。次いで反応器に蓋をして減圧条件下(10torr以下)、2000rpmで撹拌混合しながら90分程度反応した。反応後、発熱が収まってから反応器へBG7.6gを徐々に添加し、2分間撹拌した後に反応器の蓋を外した。ガラス板の上にフッ素樹脂シート(フッ素テープ ニトフロン900、厚さ0.1mm、日東電工株式会社製)を張り付け、さらにその上にシリコン製の型(寸法:10cm×10cm、厚さ2mm)を設置した。反応液をこのシリコン製の型へ注入し、下側にフッ素樹脂シートを張り付けたガラス板によりシリコン製の型上部を覆った。次いで型上部のガラス板の上に4.5kgの重りを載せ、乾燥器内に挿入した。該乾燥器内で窒素雰囲気下、加熱(110℃×1時間)することにより乾燥した。
【0151】
<溶融成形>
得られたポリウレタンエラストマー(寸法10cm×10cm、厚さ2mm)を一晩放置後にシリコン型から取り外した。その後、真空乾燥器(ヤマト科学株式会社製、製品名「真空乾燥器 ADP300」)を用いて、10torr以下、70℃で6時間以上乾燥させた。
【0152】
予め180℃に加熱しておいた加熱プレス機(東洋精機製作所製、製品名「ミニテストプレス」)のプレートの上にフッ素樹脂シート、溶融成形用の金型の順に設置した。溶融成形用の金型は20cm×20cm×厚さ1mm(穴の大きさ15cm×8cm×厚さ1mm×2個)を用いた。金型にポリウレタンエラストマーを入れ、さらにその上からフッ素樹脂シートで覆った。加熱プレス機のプレートを用いてポリウレタンラストマーを溶融した(圧力:0.5MPa×温度:180℃×時間:5分間)。溶融後に加熱プレス機の圧力設定を徐々に上げ、最大で10MPaで5分間加熱し成形した。その後、加熱プレス機の圧力を下げてポリウレタンエラストマー成形品を取り外し、予め冷却水を流して冷やしておいた冷却用プレス機(東洋精機製作所製、製品名「ミニテストプレス」)に設置して急冷(圧力10MPa×時間2分)することでシート状のポリウレタンエラストマー成形品を得た。ポリウレタンエラストマー成形品の物性の評価結果を表1に示す。
【0153】
[実施例2]
反応の中途でECを反応器に添加しなかったこと以外は実施例1と同様にしてPEPCDを得た。該PEPCD及びその加水分解物の分析値と物性値を表1に示した。
更に、該PEPCDを用い、表1に示す仕込量としたこと以外は実施例1と同様にしてポリウレタンエラストマーを合成し、同様にポリウレタンエラストマー成形品を得た。この成形品の物性の評価結果を表1に示す。
【0154】
[実施例3]
PTMG1の代りに、PTMG4(水酸基価:461.7mg-KOH/g、数平均分子量:243)を515g、ECを285g、Mg(acac)2を250mg、追加ECを74g用いたこと以外は実施例1と同様にしてPEPCDを得た。該PEPCD及びその加水分解物の分析値と物性値を表1に示した。
更に、該PEPCDを用い、表1に示す仕込量としたこと以外は実施例1と同様にしてポリウレタンエラストマーを合成し、同様にポリウレタンエラストマー成形品を得た。この成形品の物性の評価結果を表1に示す。
【0155】
[比較例1]
PTMG1の代りに、PTMG2(水酸基価:461.5mg-KOH/g、数平均分子量:243)を2453g、ECを1022g、Mg(acac)2を360mg、追加ECを667g用いたこと以外は実施例1と同様にしてPEPCDを得た。該PEPCD及びその加水分解物の分析値と物性値を表1に示した。
更に、該PEPCDを用い、表1に示す仕込量としたこと以外は実施例1と同様にしてポリウレタンエラストマーを合成し、同様にポリウレタンエラストマー成形品を得た。この成形品の物性の評価結果を表1に示す。
【0156】
[比較例2]
PTMG1の代りに、PTMG3(水酸基価:431.5mg-KOH/g、数平均分子量:260)を202g、ECを79g、Mg(acac)2を38mg、追加ECを20g用いたこと以外は実施例1と同様にしてPEPCDを得た。該PEPCD及びその加水分解物の分析値と物性値を表1に示した。
更に、該PEPCDを用い、表1に示す仕込量としたこと以外は実施例1と同様にしてポリウレタンエラストマーを合成し、同様にポリウレタンエラストマー成形品を得た。この成形品の物性の評価結果を表1に示す。
【0157】
【0158】
実施例1,2,3及び比較例1,2の結果から、末端アルコキシ/アリーロキシ割合が本発明の規定範囲内である本発明のPEPCDを用いることにより、引張特性に優れ、合成皮革等に使用できるポリウレタンを容易に製造することができることが分かる。