(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】絶縁形コンバータの試験方法
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
H02M3/28 Z
(21)【出願番号】P 2020140667
(22)【出願日】2020-08-24
【審査請求日】2023-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】阿部 徹
【審査官】白井 孝治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/092911(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/117241(WO,A1)
【文献】特開2013-132128(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0023741(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/00~ 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を交流電力に変換する直流/交流変換手段と、入力側巻線と出力側巻線との巻数比がn:m(ただしnとmは自然数でn≠mである)の第一の高周波トランスと、交流電力を直流電力に変換する交流/直流変換手段とを含み、前記第一の高周波トランスの入力側巻線が前記直流/交流変換手段と接続し、前記第一の高周波トランスの出力側巻線が前記交流/直流変換手段と接続する絶縁形コンバータの試験方法であって、
前記絶縁形コンバータの前記第一の高周波トランスと前記交流/直流変換手段との間に、入力側巻線と出力側巻線との巻数比がm:nである第二の高周波トランスを設け、
前記第一の高周波トランスの出力側巻線を前記第二の高周波トランスの入力側巻線と接続し、前記第二の高周波トランスの出力側巻線を前記交流/直流変換手段と接続し、
前記交流/直流変換手段の出力側と前記直流/交流変換手段の入力側とを接続して、前記交流/直流変換手段の出力電力を前記直流/交流変換手段の入力側に回生させる絶縁形コンバータの試験方法。
【請求項2】
請求項1に記載の絶縁形コンバータの試験方法であって、
前記絶縁形コンバータがLLC共振駆動方式であって、前記第一の高周波トランスの入力側
に接続する第一の共振インダクタ
及び第一の共振コンデンサを含む第一の共振回路と、前記第二の高周波トランスの出力側
に接続する第二の共振インダクタ
及び第二の共振コンデンサを含む第二の共振回路を有する、絶縁形コンバータの試験方法。
【請求項3】
請求項1に記載の絶縁形コンバータの試験方法であって、
前記絶縁形コンバータがLLC共振駆動方式であって、前記第一の高周波トランスの入力側に接続する第一の共振コンデンサを含む第一の共振回路と、前記第二の高周波トランスの出力側に接続する第二の共振コンデンサを含む第二の共振回路を有しており、
前記第一の高周波トランス
における入力側巻線側の漏れインダクタンス
成分を第一の共振インダクタとして
、前記第一の共振回路に用い、
前記第二の高周波トランス
における出力側巻線側の漏れインダクタンス
成分を第二の共振インダクタとして
、前記第二の共振回路に用いる、絶縁形コンバータの試験方法。
【請求項4】
請求項1
または2に記載の絶縁形コンバータの試験方法であって、
前記第一の高周波トランスと前記第二の高周波トランスとが同一仕様である、絶縁形コンバータの試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換用途に使用される絶縁形コンバータの試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車の車載充電回路として多用されている方式にLLC絶縁形コンバータがある。このLLC絶縁形コンバータの一般的な試験装置を
図2に示す。直流/交流変換手段2は平滑キャパシタCiと4個のMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor:金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)M1、M2、M3、M4からなる。図示されていない制御部と駆動部によってM1~M4は所定の周波数とデューティ比によってオンオフ駆動される。
【0003】
図2において、直流入力電源1からの入力電圧Viは直流/交流変換手段2によって交流電圧に変換され、共振インダクタ3、高周波トランス5の1次巻線、共振キャパシタ4に印加される。前記交流電圧は、矩形波状の電圧波形であるが、LLC絶縁形コンバータの制御においては、共振インダクタ3と共振キャパシタ4によって定まる共振周波数に近接した周波数で駆動され、このため1次巻線には正弦波状の負荷電流成分と三角波状の励磁電流成分の合成波が流れる。
【0004】
高周波トランス5では、入力側巻線の1次巻線と出力側巻線の2次巻線の巻数比Np:Nsに応じた電圧変換が成され、交流/直流変換手段6によって直流の出力電圧Voが生成される。交流/直流変換手段6はダイオードD1、D2、D3、D4からなるダイオードブリッジと平滑キャパシタCoからなっている。
【0005】
本試験装置での絶縁形コンバータの通電評価は、例えばLLC絶縁形コンバータから負荷抵抗7に対して所定の出力電圧Voと所定の出力電流Ioを供給した時の高周波トランス5と共振インダクタ3の温度上昇を測定することである。温度上昇は専ら高周波トランス5と共振インダクタ3の鉄損や銅損に由来するが、それぞれの温度上昇分が所定の数値以下である場合には、絶縁形コンバータの性能として良評価と判定する。一方、温度上昇分が所定の数値を超える場合には、不良評価と判定する。
【0006】
従来の絶縁形コンバータ試験装置が提示されたものとして非特許文献1がある。提示された双方向絶縁形コンバータの試験回路を
図3に示す。本コンバータはDAB(Dual Active Bridge)方式と言われるもので、直流/交流変換手段21は平滑キャパシタと4個のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラートランジスタ)Q1~Q4からなるブリッジ部で構成される。交流/直流変換手段61は4個のIGBTQ5~Q8からなるブリッジ部と平滑キャパシタで構成される。直流/交流変換手段21と交流/直流変換手段61のブリッジ部との間にはインダクタ30、31と高周波トランス51が配置されている。なおインダクタは高周波トランスの漏れインダクタンスで代用可能である。
本コンバータは出力を可変するため、直流/交流変換手段21のブリッジ部と交流/直流変換手段61のブリッジ部の位相差を制御しながら各IGBTが駆動されており、これ故にDAB方式と呼ばれている。ここで高周波トランス51の1次巻線と2次巻線の巻数比Np:Nsは1:1である。コンバータの入力電圧Viと出力電圧Voは同じ350Vであり、出力電力は直接入力側に回生される。
【0007】
非特許文献1によれば、当該コンバータの出力電力は10kWであるが、入力側電源から供給されている電力は335Wである。この335Wは試験回路内での各部品で生じた損失の合計であり、この試験回路内の損失分のみを入力側電源は供給しているので、コンバータ出力電力に比べて極めて小さい電源容量で試験を行うことができる。またコンバータ出力電力は入力側に回生されてコンバータ内を循環するので負荷は無い。よって
図2の試験装置では必要であった大型の直流入力電源1、負荷抵抗7、その冷却設備(図示無し)などは不要である。
【0008】
また非特許文献2には、従来の絶縁形共振コンバータの試験装置の他の例が開示されている。提示された絶縁形共振コンバータの評価回路を
図4に示す。図示のように上段コンバータと下段コンバータを有し、それぞれ、直流/交流変換手段120、260、トランス52、53、直流/交流変換手段160、220、共振インダクタ32、33、共振コンデンサ42、43を含む。入力上段コンバータ出力は下段コンバータ入力に直結しており、下段コンバータ出力は上段コンバータ入力側に回生されている。ここではMVとLVという別の2つの直流電圧値が設けられている。MV電圧は2kVであるが、MV側回路はハーフブリッジ構成となっているためMV側のトランス52、53の巻線電圧は半分の1kVである。LV電圧は400Vであり、LV側回路はフルブリッジ構成となっているためLV側のトランス52、53の巻線電圧は同じ400Vとなる。よってトランス52、53の巻数比Np:Nsは2:5となっている。上段コンバータ100の入力電圧ViはLV側で400Vであり、上段コンバータ100の出力電圧VoはMV側で2kVである。さらに下段コンバータ200の入力側はMV側2kVであり、下段コンバータ200の出力側はLV側400Vである。非特許文献2で提示された定格電力は166kWであるが、前述のようにこの大電力は上段コンバータ100と下段コンバータ200の間を循環しており、当該試験装置の入力側の電源容量は8kWで賄えると非特許文献2では述べられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】井上 重徳、赤木 泰文著 「次世代3.3kV/6.6kV電力変換システムのコア回路としての双方向絶縁型DC/DCコンバータ」 電気学会論文誌D(産業応用部門誌)126巻(2006年)3号
【文献】G.Ortiz,M.Leibl,J.E.Huber,J. W. Kolar.著 「Design and Experimental Testing of a Resonant DC-DC Converter for Solid- State Transformers」 IEEE. Transactions on Power Electronics, Vol.32, No.10 (October 2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の絶縁形コンバータの試験方法では、非特許文献1のように高周波トランスの巻数比が1:1の場合は出力電力をそのまま入力側に回生できるが、非特許文献2のように実際は多くの場合で巻数比は異なっている。このような場合では出力電圧を入力電圧と同じ電圧値に変換するためにもう1台の絶縁形コンバータが必要とされる。さらに制御部や駆動部も、もう1台分必要となるため、全体の回路構成は複雑であり、制御方法も煩雑なものとなるという課題がある。そこで本発明は、回路構成と制御方法の簡素な絶縁形コンバータの試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、直流電力を交流電力に変換する直流/交流変換手段と、入力側巻線と出力側巻線との巻数比がn:m(ただしnとmは自然数でn≠mである)の第一の高周波トランスと、交流電力を直流電力に変換する交流/直流変換手段とを含み、前記第一の高周波トランスの入力側巻線が前記直流/交流変換手段と接続し、前記第一の高周波トランスの出力側巻線が前記交流/直流変換手段と接続する絶縁形コンバータの試験方法であって、前記絶縁形コンバータの前記第一の高周波トランスと前記交流/直流変換手段との間に、入力側巻線と出力側巻線との巻数比がm:nである第二の高周波トランスを設け、前記第一の高周波トランスの出力側巻線を前記第二の高周波トランスの入力側巻線と接続し、前記第二の高周波トランスの出力側巻線を前記交流/直流変換手段と接続し、前記交流/直流変換手段の出力側と前記直流/交流変換手段の入力側とを接続して、前記交流/直流変換手段の出力電力を前記直流/交流変換手段の入力側に回生させる絶縁形コンバータの試験方法である。
【0012】
本発明においては、前記絶縁形コンバータがLLC共振駆動方式であって、前記第一の高周波トランスの入力側又は出力側に接続する第一の共振インダクタと第一の共振コンデンサを含む第一の共振回路と、前記第二の高周波トランスの出力側又は入力側に接続する第二の共振インダクタと第二の共振コンデンサを含む第二の共振回路を有するのが好ましい。
【0013】
本発明においては、前記第一の高周波トランストの漏れインダクタンスを第一の共振インダクタとして用い、前記第二の高周波トランストの漏れインダクタンスを第二の共振インダクタとして用いることができる。
【0014】
本発明においては、前記第一の高周波トランスと前記第二の高周波トランスとが同一仕様であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、絶縁形コンバータの高周波トランスの巻数比がn:m(n≠mで、nとmは自然数)であっても、追加の絶縁形コンバータは不要であるため、回路構成と制御方法の簡素な絶縁形コンバータの試験補法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施態様による絶縁形コンバータの試験方法での測定回路構成図である。
【
図2】一般的なLLC絶縁形コンバータの試験方法での測定回路構成図である。
【
図3】従来の回生式DAB絶縁形コンバータの試験方法での測定回路構成図である。
【
図4】従来の回生式共振形コンバータの試験方法での回路構成図である。
【
図5】本発明の他の実施態様による絶縁形コンバータの試験方法での測定回路構成図である。
【
図6】本発明の他の実施態様に用いる漏れインダクタンスの大きい高周波トランスの斜視図である。
【
図7】本発明の他の実施態様に用いる漏れインダクタンスの大きい高周波トランスの断面図である。
【
図8】本発明の更に他の実施態様による絶縁形コンバータの試験方法での測定回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施例について説明する。
【0018】
図1は本発明の一実施態様による絶縁形コンバータの試験方法での測定回路の構成図である。既述した
図2のLLC絶縁形コンバータの試験方法での測定回路構成と異なる点は、高周波トランス5と交流/直流変換手段6との間に、高周波トランス55と共振インダクタ35と共振キャパシタ45を設け、交流/直流変換手段6の出力側と直流/交流変換手段2の入力側とを接続し、出力電力を入力側に回生させたことである。
【0019】
共振インダクタ3と共振インダクタ35、共振キャパシタ4と共振キャパシタ45は夫々同一仕様である。また、高周波トランス5と高周波トランス55も仕様が同一である。ここで仕様が同一とは、電気的特性が実質的に同一と見做せることである。例えば高周波トランスであれば、それを構成する磁心の構成材料、形状、磁路断面積などの大きさが同じで、巻線の形状、巻径、巻回方向、ターン数や、配置位置などが同じであり、工業的に同一の仕様として認識され得るものである。なお対象として具体的な構造体で無い等価的な回路素子である場合を含み、例えば共振インダクタは後述する高周波トランスの漏れインダクタンスであっても良く、電気的特性が等価な漏れインダクタンスであれば、それらは同一仕様として見做すことが出来る。
【0020】
同一仕様であっても共振インダクタのインダクタンス値や共振キャパシタのキャパシタンス値の電気的特性は例えば±5%程度の偏差を有していても良く、ばらつきがあっても同一と見做せる。電気的特性のばらつきで共振インダクタ3と共振キャパシタ4を含む共振回路の共振特性と、共振インダクタ35と共振キャパシタ45を含む共振回路の共振特性とでは、僅かな差異が有るが、コンバータの周波数制御により十分補正できる。同一仕様の高周波トランスでは、使用する部材や巻数比等が同じに構成され、重要な巻数比は厳格に管理されて製作されている。
【0021】
なお同一仕様の高周波トランス5、55のそれぞれで、入力側巻線と出力側巻線を、使用される際に入力側となる巻線か出力側となる巻線かで区別し示している。よって
図1に示すような高周波トランス5の出力側巻線側と高周波トランス55の入力側巻線側が直接結線される状態では、高周波トランス5の入力側巻線と出力側巻線との巻数比がn:mで、高周波トランス55の入力側巻線と出力側巻との巻数比はm:nであるので、高周波トランス5の入力側巻線側から高周波トランス55の出力側巻線側を見た2個の高周波トランスの合成巻数比はn:n、つまり1:1となる。
よって回路構成全体では、入力電圧Viと同じ電圧値の出力電圧Voが生成され、出力電力を入力側に回生させることができる。
【0022】
なお、一般的な高周波トランスは入力側巻線と出力側巻線間の結合度を極力高くなるように設計、製作される。
図1の高周波トランス5、55は入力側巻線と出力側巻線間の結合度を高くしたものである。但し、高周波トランス5、55において小さな漏れインダクタンスは存在するが、共振インダクタ3、35のインダクタンス値に比較して僅かであるので図では表記を省略している。入力側巻線と出力側巻線間の結合度を高める手法は、入力側巻線と出力側巻線の対向する面積を大きくし、対向距離を短くすることである。例えば入力側巻線と出力側巻線を夫々多分割し、且つ入力側巻線と出力側巻線を交合に配置することで対抗面積を増大させて、入力側巻線と出力側巻線間の結合度を高くすることできる。
【0023】
図2の従来例と
図1の実施態様とで、高周波トランス5を同じ入力電圧、駆動周波数、出力電力で動作試験した場合、
図1に示した実施態様は高周波トランス55側の励磁電流成分が重畳される点で従来例と差異がある。これに関しては、高周波トランス55の励磁電流成分の影響が僅かな場合は、
図1の回路構成で高周波トランス5と55を一度に試験できる。励磁電流成分の影響がある場合でも、
図2の従来例の高周波トランス5と
図1の実施態様では高周波トランス55は同条件駆動となるので、温度上昇の評価では高周波トランス55側の測定結果を採用すれば良い。前述のように、高周波トランス5と高周波トランス55とは同一仕様であるので、高周波トランス5の測定結果が必要な場合は、
図1の回路構成で高周波トランス5と高周波トランス55を入れ換えて試験を行えば良い。
【0024】
ここまでは高周波トランス5、55の試験に関して説明したが、同様に共振インダクタ3、35の試験、共振キャパシタ4、45の試験にも適用できる。
【0025】
図5は、本発明の他の実施態様のLLC絶縁形コンバータの試験方法であり、その測定回路の構成図である。前述した
図1の実施態様の回路構成と異なる点は、共振インダクタ3、35が無くなり、高周波トランス5、55に代わって、漏れインダクタンスLr1、Lr2を有する高周波トランス56、57を設けたことである。
【0026】
高周波トランス56、57は夫々漏れインダクタンスLr1、Lr2を有する。厳密に言えば
図1に示した実施態様の高周波トランス5、55も夫々漏れインダクタンス成分を有するが、LLC絶縁形コンバータとして必要なインダクタンス値としては小さく、共振インダクタ3、35がこの役割を果たしている。
図5の本発明の第二の実施例の高周波トランス56、57は入力側巻線と出力側巻線間の結合度を下げて漏れインダクタンスLr1とLr2を大きくし、LLC絶縁形コンバータとして必要なインダクタンス値を得たものである。
【0027】
ここで漏れインダクタンスの大きい高周波トランス56、57の構成の一例を示す。
図6は高周波トランスの斜視図であり、
図7はその断面図である。高周波トランスは例えば一対の磁心301、302と、巻線351、352と、巻線間に配置された絶縁体360を含む。磁心301、302は、中脚と、その両側に間隔をもって配置された一対の側脚と、中脚と側脚を繋ぐ連結部を有し、
図6に示すように、断面形状がアルファベットのE字状となっている。巻線351と巻線352は絶縁体360によって分離して配置されているため、巻線間の結合度は低くなり漏れインダクタンスは大きくなる。なお前述のように高周波トランス56、57は同じ仕様であるので、ここでは巻線351、352について入力側巻線、出力側巻線の区別はしていない。
【0028】
図5の回路構成図では高周波トランス56の入力側巻線側に漏れインダクタンスLr1は配置して図示されているが、厳密には高周波トランス56の漏れインダクタンスは入力側巻線側と出力側巻線側の両方に存在する。
図5では出力側巻線側の漏れインダクタンス成分を等価的に含めたものとして漏れインダクタンスLr1は表現されている。また、高周波トランス57も同様に構成されていて、その漏れインダクタンスLr2も同様である。
【0029】
ここでも高周波トランス56と57は同一仕様であり、重要な巻数比は厳格に管理されて製作されている。よって高周波トランス56の出力側巻線と高周波トランス57の入力側巻線が直接結線される状態では、高周波トランス56の入力側巻線から高周波トランス57の出力側巻線を見た2個の高周波トランスの合成巻数比は1:1となる。よって回路構成全体では、入力電圧Viと同じ電圧値の出力電圧Voが生成され、出力電力を入力側に回生させることができる。
【0030】
前述の実施態様と同様に高周波トランス56の入力側巻線側には高周波トランス57の励磁電流成分が重畳されているので、この場合もまた、本来の駆動条件である高周波トランス57側の測定結果を採用すれば良い。高周波トランス56の測定結果が必要な場合は、
図5の回路構成で高周波トランス56と高周波トランス57を入れ換えて試験を行えば良い。さらに高周波トランス56の励磁電流成分の影響が僅かな場合は、高周波トランス56と57を一度に試験できる。
【0031】
図8は他の実施態様によるDAB絶縁形コンバータの試験方法であり、その測定回路の構成図である。既述した
図3の従来例の回路構成と異なる点は、高周波トランス51に代わって高周波トランス58と59を設けたことである。
【0032】
ここでも高周波トランス58と59は同一仕様であり、重要な巻数比は厳格に管理されて製作されている。よって高周波トランス58の出力側巻線と高周波トランス59の入力側巻線が直接結線される状態では、高周波トランス58の入力側巻線から高周波トランス59の出力側巻線を見た2個の高周波トランスの合成巻数比は1:1となる。よって回路構成全体では、入力電圧Viと同じ電圧値の出力電圧Voが生成され、出力電力を入力側に回生させることができる。
【0033】
前述の実施態様と同様に高周波トランス58の入力側巻線には高周波トランス59の励磁電流成分が重畳されているので、本来の駆動条件である高周波トランス59側の測定結果を採用すれば良い。高周波トランス58の測定結果が必要な場合は、
図8の回路構成で高周波トランス58と高周波トランス59を入れ換えて試験を行えば良い。さらに高周波トランス59の励磁電流成分の影響が僅かな場合は、高周波トランス58と59を一度に試験できる。
【実施例】
【0034】
図1に示すLLC絶縁形コンバータの試験装置にて、高周波トランス5と55、共振インダクタ3と35の評価試験を行った。高周波トランスの磁心には、日立金属株式会社製のML29Dを使用し、高周波トランス5では、入力側巻線を8ターンとし出力側巻線を6ターンとして巻数比n:mを4:3とした。高周波トランス55は高周波トランス5と同じ仕様であり、高周波トランス55の入力側巻線は、高周波トランス5では出力側巻線(6ターン)に対応し、出力側巻線は、高周波トランス5では入力側巻線(8ターン)に対応する。高周波トランス55の一次巻線と二次巻線との巻数比m:nは3:4とである。また、共振インダクタの磁心には日立金属株式会社製のML29Dを使用した。表1に共振インダクタのインダクタンス値、共振キャパシタのキャパシタンス値を示す。
【0035】
【0036】
直流/交流変換手段2に使用したSiC( Silicon carbide:炭化ケイ素)MOSFETと交流/直流変換手段6に使用したSiCダイオードの製品名を表2に示す。全て米国Cree社製である。
【0037】
【0038】
本評価試験での電気的条件を表3に示す。回生式の評価試験であるので、出力電力は7474Wであるが、入力側電力は406.6Wしか無く、省エネルギーで試験は行われた。
【0039】
【0040】
評価試験結果である共振インダクタ3と35、高周波トランス5と55の各部位の温度上昇分δT(℃)を表4に示す。温度測定は熱電対法で行い、それぞれの部位にT型熱電対を密着させた状態で試験を行った。
【0041】
【0042】
本評価試験では、共振インダクタ3、35、高周波トランス5、55は水冷ジャケットに装着されており、冷却水温度は20℃に設定した。絶縁形コンバータは各部の温度上昇が十分飽和するように2時間動作させ、各部位の飽和温度から冷却水温度20℃を減じた値をδTとし、60℃以下で良とした。全測定部位のδTが60℃以下であったので絶縁形コンバータの性能は良評価と判定された。しかも共振インダクタと高周波トランスの2組分を一回の評価試験で判定することが出来た。
【符号の説明】
【0043】
1 直流入力電源
2、21 直流/交流変換手段
3、35 共振インダクタ
4、45 共振キャパシタ
5、55、56,57、58,59 高周波トランス
6、61 交流/直流変換手段
7 負荷抵抗
301、302 磁心
351、352 巻き線
360 絶縁体