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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】フッ素樹脂基板積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20241008BHJP
   C09J 7/35 20180101ALI20241008BHJP
   C09J 7/22 20180101ALI20241008BHJP
   C09J 179/08 20060101ALI20241008BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20241008BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
B32B27/30 D
C09J7/35
C09J7/22
C09J179/08 Z
C09J11/04
H05K1/03 610H
H05K1/03 630D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020154542
(22)【出願日】2020-09-15
(65)【公開番号】P2022048627
(43)【公開日】2022-03-28
【審査請求日】2023-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島田 麻未
(72)【発明者】
【氏名】村井 洸介
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-012026(JP,A)
【文献】国際公開第2020/012978(WO,A1)
【文献】実開昭56-114576(JP,U)
【文献】特開平05-183267(JP,A)
【文献】特開2016-204639(JP,A)
【文献】特開2003-171480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09J 1/00-201/10
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂基板と、該フッ素樹脂基板上に設けられた接着層と、を備え、
前記接着層が、(A)飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を有するマレイミド化合物と、(B)芳香族マレイミド化合物と、無機充填剤と、を含有する樹脂組成物を含み、前記無機充填剤の含有量が、前記樹脂組成物中の固形分全量に対して10~50vol%の範囲である、高周波回路用のフッ素樹脂基板積層体。
【請求項2】
前記無機充填剤の含有量が10~40vol%である、請求項1に記載の高周波回路用のフッ素樹脂基板積層体。
【請求項3】
前記フッ素樹脂基板が、ポリテトラフルオロエチレンを含む基板である、請求項1又は2に記載のフッ素樹脂基板積層体。
【請求項4】
前記(B)芳香族マレイミド化合物が、マレイミド基が芳香環に結合した構造を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のフッ素樹脂基板積層体。
【請求項5】
前記飽和又は不飽和の2価の炭化水素基の炭素数が8~100である、請求項1~4のいずれか一項に記載のフッ素樹脂基板積層体。
【請求項6】
前記飽和又は不飽和の2価の炭化水素基が、下記式(II)で表される基である、請求項1~5のいずれか一項に記載のフッ素樹脂基板積層体。
【化1】

[式(II)中、R及びRは各々独立に炭素数4~50のアルキレン基を示し、Rは炭素数4~50のアルキル基を示し、Rは炭素数2~50のアルキル基を示す。]
【請求項7】
前記(A)飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を有するマレイミド化合物が、少なくとも2つのイミド結合を有する2価の基を更に有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のフッ素樹脂基板積層体。
【請求項8】
前記少なくとも2つのイミド結合を有する2価の基が、下記式(I)で表される基である、請求項に記載のフッ素樹脂基板積層体。
【化2】

[式(I)中、Rは4価の有機基を示す。]
【請求項9】
前記(A)飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を有するマレイミド化合物の重量平均分子量が、500~10000である、請求項1~8のいずれか一項に記載のフッ素樹脂基板積層体。
【請求項10】
さらに、前記接着層上に積層された金属箔を備え、該金属箔の表面粗さ(Rz)が、0.05~2μmである、請求項1~9のいずれか一項に記載のフッ素樹脂基板積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波回路用のフッ素樹脂基板積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話に代表される移動体通信機器、その基地局装置、サーバー、ルーター等のネットワークインフラ機器、大型コンピュータなどの電子機器では使用する信号の高速化及び大容量化が年々進み、特に、5G(第5世代移動通信システム)の急成長が見込まれる。これに伴い、これらの電子機器に搭載されるプリント配線板には高周波化対応が必要となり、伝送損失の低減を可能とする低比誘電率及び低誘電正接の特性を持つ基板材料が求められている。近年、このような高周波信号を扱うアプリケーションとして、上述した電子機器のほかに、ITS分野(自動車、交通システム関連)及び室内の近距離通信分野でも高周波無線信号を扱う新規システムの実用化及び実用計画が進んでおり、今後、これらの機器に搭載するプリント配線板に対しても、伝送損失の更に低い基板材料が要求されることが予想される。
【0003】
また、近年、これらの機器にフレキシブルプリント配線板(以下FPCという)を搭載することも行われている。FPCは、信号の高速化・薄型化が進むスマートフォン他、モバイル機器の高密度実装に必要不可欠な配線板となってきており、伝送損失の低減、屈曲性が必要とされている。
【0004】
従来、低伝送損失が要求されるプリント配線板には、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリイミド(PI)、液晶ポリマー(LCP)、フッ素樹脂等の樹脂が使用されている。(例えば、特許文献1~4参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭58-69046号公報
【文献】特開2012-255059号公報
【文献】特開2014-60449号公報
【文献】特開2003-171480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フッ素樹脂は、吸湿性が低く、優れた低誘電率及び低誘電正接を有する材料であることが知られている。しかしながら、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂は、金属箔との接着強度が低いことから、表面粗さが低い金属箔(例えば、低粗化銅箔)と積層することが困難である。そのため、フッ素樹脂基板には表面粗さ(十点平均粗さ:Rz、以下同様)の大きい金属箔を接着せざるを得ず、高周波領域ではPPE、PI、LCP等から構成される基板に比べて、伝送損失が増加する傾向にある。
【0007】
更に、本発明者らの独自の検討の結果、フッ素樹脂基板と金属箔との接着のために接着層を用いた場合には屈曲性が十分保てず、FPC用途として改善の余地があることが見出された。
そこで本発明は、屈曲性が高く、優れた低誘電率及び低誘電正接を有すると共に、高周波領域における伝送損失を低減できるフッ素樹脂基板積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る一態様は、フッ素樹脂基板と、該フッ素樹脂基板上に設けられた接着層とを備え、
上記接着層が、(A)飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を有するマレイミド化合物と、(B)芳香族マレイミド化合物と、無機充填剤と、を含有する樹脂組成物を含み、上記無機充填剤の含有量が樹脂組成物中の固形分全量に対して、10~50vol%の範囲である、高周波回路用のフッ素樹脂基板積層体に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、吸湿性が低く、優れた低誘電率及び低誘電正接を有すると共に、高周波領域における伝送損失を低減できるフッ素樹脂基板積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】フッ素樹脂基板積層体の一実施形態を示す模式断面図である。
図2】フッ素樹脂基板積層体の一実施形態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されない。なお、本明細書において、高周波領域とは、0.3~300GHzの領域を指し、特に3~300GHzを指すものとする。
【0012】
<フッ素樹脂基板積層体>
図1は、フッ素樹脂基板積層体の一実施形態を示す模式断面図である。本実施形態に係る高周波回路用のフッ素樹脂基板積層体は、フッ素樹脂基板1と、フッ素樹脂基板1上に設けられた接着層2とを備える。
【0013】
[接着層]
本実施形態に係る接着層2は、(A)飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を有するマレイミド化合物と(B)芳香族マレイミド化合物とを含有する樹脂組成物を含む。接着層2は、フッ素樹脂基板1に対する接着性に優れるだけでなく、後述する金属箔との接着性にも優れている。これにより、表面粗さ(Rz:十点平均粗さ)の小さい金属箔を使用することができるので、フッ素樹脂基板積層体の高周波領域における伝送損失を低減することができる。
【0014】
接着層2の厚さは特に限定されないが、例えば、1~200μm、3~180μm、5~150μm、10~100μm、又は15~80μmであってよい。接着層2の厚さを上記の範囲とすることにより、本実施形態に係る積層体の高周波特性をより向上させることが容易となる。(上述の「~」は前後に記載する数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲である。以下同様とする)
【0015】
接着層2は、上記樹脂組成物をフッ素樹脂基板1に塗布して形成してもよく、上記樹脂組成物の樹脂フィルムを作製し、樹脂フィルムをフッ素樹脂基板1上に積層することで形成してもよい。樹脂フィルムとは、未硬化又は半硬化のフィルム状の樹脂組成物を指す。
以下、樹脂組成物が含有する各成分について詳述する。
【0016】
((A)飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を有するマレイミド化合物)
本実施形態に係る飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を有するマレイミド化合物を(A)成分ということがある。(A)成分は、(a)マレイミド基及び(c)飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を有する化合物である。(a)マレイミド基を構造(a)といい、(c)飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を構造(c)ということがある。(A)成分を用いることで、高周波特性及び接着性に優れる樹脂組成物を得ることができる。
【0017】
(A)成分は、構造(a)及び構造(c)に加えて、(b)少なくとも2つのイミド結合を有する2価の基を更に有していてもよい。(b)少なくとも2つのイミド結合を有する2価の基を構造(b)ということがある。
【0018】
(a)マレイミド基は特に限定されず、一般的なマレイミド基である。(a)マレイミド基は芳香環に結合していても、脂肪族鎖に結合していてもよいが、誘電特性の観点からは、長鎖脂肪族鎖(例えば、炭素数8~100の飽和炭化水素基)に結合していることが好ましい。(A)成分が、(a)マレイミド基が長鎖脂肪族鎖に結合した構造を有することで、樹脂組成物の高周波特性をより向上することができる。
【0019】
構造(b)としては特に限定されないが、例えば、下記式(I)で表される基が挙げられる。構造(b)は、マレイミド基を有しない基である。
【0020】
【化1】
【0021】
式(I)中、Rは4価の有機基を示す。Rは4価の有機基であれば特に限定されないが、例えば、取扱い性の観点から、炭素数1~100の炭化水素基であってもよく、炭素数2~50の炭化水素基であってもよく、炭素数4~30の炭化水素基であってもよい。
【0022】
は、置換又は非置換のシロキサン部位を含んでもよい。シロキサン部位としては、例えば、ジメチルシロキサン、メチルフェニルシロキサン、ジフェニルシロキサン等に由来する構造が挙げられる。
【0023】
が置換されている場合、置換基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、水酸基、アルコキシ基、メルカプト基、シクロアルキル基、置換シクロアルキル基、ヘテロ環基、置換ヘテロ環基、アリール基、置換アリール基、ヘテロアリール基、置換ヘテロアリール基、アリールオキシ基、置換アリールオキシ基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、シアノ基、ニトロ基、ニトロソ基、アミノ基、アミド基、-CHO、-NRC(O)-N(R、-OC(O)-N(R、アシル基、オキシアシル基、カルボキシル基、カルバメート基、スルホンアミド基等が挙げられる。ここで、R
水素原子又はアルキル基を示す。これらの置換基は目的、用途等に合わせて、1種類又は2種類以上を選択できる。
【0024】
としては、例えば、1分子中に2個以上の無水物環を有する酸無水物の4価の残基、すなわち、酸無水物から酸無水物基(-C(=O)OC(=O)-)を2個除いた4価の基が好ましい。酸無水物としては、後述するような化合物が例示できる。
【0025】
機械強度の観点から、Rは芳香族であることが好ましく、無水ピロメリット酸から2つの酸無水物基を取り除いた基であることがより好ましい。すなわち、構造(b)は下記式(III)で表される基であることがより好ましい。
【0026】
【化2】
【0027】
流動性及び回路埋め込み性の観点からは、構造(b)は、(A)成分中に複数存在すると好ましい。その場合、構造(b)は、それぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。(A)成分中の構造(b)の数は、2~40であることが好ましく、2~20であることがより好ましく、2~10であることが更に好ましい。
【0028】
誘電特性の観点から、構造(b)は、下記式(IV)又は下記式(V)で表される基であってもよい。
【0029】
【化3】
【0030】
【化4】
【0031】
構造(c)は特に限定されず、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。高周波特性の観点から、構造(c)は、脂肪族炭化水素基であることが好ましい。また、飽和又は不飽和の2価の炭化水素基の炭素数は、8~100であってもよい。構造(c)は、炭素数8~100の分岐を有していてもよいアルキレン基であることが好ましく、炭素数10~70の分岐を有していてもよいアルキレン基であるとより好ましく、炭素数15~50の分岐を有していてもよいアルキレン基であると更に好ましい。構造(c)が炭素数8以上の分岐を有していてもよいアルキレン基であると、分子構造を三次元化し易く、ポリマーの自由体積を増大させて低密度化し易い。すなわち低誘電率化できるため、樹脂組成物の高周波特性を向上し易くなる。また、(A)成分が構造(c)を有することで、樹脂組成物の可とう性が向上し、樹脂組成物から作製される接着層(樹脂フィルム)の取扱い性(タック性、割れ、粉落ち等)及び強度を高めることが可能である。
【0032】
構造(c)としては、例えば、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、テトラデシレン基、ヘキサデシレン基、オクタデシレン基、ノナデシレン基等のアルキレン基;ベンジレン基、フェニレン基、ナフチレン基等のアリーレン基;フェニレンメチレン基、フェニレンエチレン基、ベンジルプロピレン基、ナフチレンメチレン基、ナフチレンエチレン基等のアリーレンアルキレン基;及びフェニレンジメチレン基、フェニレンジエチレン基等のアリーレンジアルキレン基が挙げられる。
【0033】
高周波特性、低熱膨張特性、導体との接着性、耐熱性及び低吸湿性の観点から、構造(c)として下記式(II)で表される基が特に好ましい。
【0034】
【化5】
【0035】
式(II)中、R及びRは各々独立に炭素数4~50のアルキレン基を示す。柔軟性の更なる向上及び合成容易性の観点から、R及びRは各々独立に、炭素数5~25のアルキレン基であることが好ましく、炭素数6~10のアルキレン基であることがより好ましく、炭素数7~10のアルキレン基であることが更に好ましい。
【0036】
式(II)中、Rは炭素数4~50のアルキル基を示す。柔軟性の更なる向上及び合成容易性の観点から、Rは炭素数5~25のアルキル基であることが好ましく、炭素数6~10のアルキル基であることがより好ましく、炭素数7~10のアルキル基であることが更に好ましい。
【0037】
式(II)中、Rは炭素数2~50のアルキル基を示す。柔軟性の更なる向上及び合成容易性の観点から、Rは炭素数3~25のアルキル基であることが好ましく、炭素数4~10のアルキル基であることがより好ましく、炭素数5~8のアルキル基であることが更に好ましい。
【0038】
流動性及び回路埋め込み性の観点からは、構造(c)は、(A)成分中に複数存在すると好ましい。その場合、構造(c)はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。例えば、(A)成分中に2~40の構造(c)が存在することが好ましく、2~20の構造(c)が存在することがより好ましく、2~10の構造(c)が存在することが更に好ましい。
【0039】
樹脂組成物中の(A)成分の含有量は特に限定されない。耐熱性の観点から、(A)成分の含有量は樹脂組成物の全質量に対して2~98質量%であることが好ましく、10~50質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることが更に好ましい。
【0040】
(A)成分の分子量は特に限定されない。取扱い性、流動性及び回路埋め込み性の観点より(A)成分の重量平均分子量(Mw)は、500~10000であることが好ましく、1000~9000であることがより好ましく、1500~9000であることが更に好ましく、1500~7000であることがより一層好ましく、1700~5000であることが特に好ましい。
【0041】
(A)成分のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定することができる。
【0042】
GPCの測定条件は下記のとおりである。
ポンプ:L-6200型[株式会社日立ハイテクノロジーズ製]
検出器:L-3300型RI[株式会社日立ハイテクノロジーズ製]
カラムオーブン:L-655A-52[株式会社日立ハイテクノロジーズ製]
ガードカラム及びカラム:TSK Guardcolumn HHR-L+TSKgel G4000HHR+TSKgel G2000HHR[すべて東ソー株式会社製、商品名]
カラムサイズ:6.0×40mm(ガードカラム)、7.8×300mm(カラム)
溶離液:テトラヒドロフラン
試料濃度:30mg/5mL
注入量:20μL
流量:1.00mL/分
測定温度:40℃
【0043】
(A)成分を製造する方法は限定されない。(A)成分は、例えば、酸無水物とジアミンとを反応させてアミン末端化合物を合成した後、該アミン末端化合物を過剰の無水マレイン酸と反応させることで作製してもよい。
【0044】
酸無水物としては、例えば、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、及び3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。酸無水物は目的、用途等に合わせて、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。なお、前述のとおり、上記式(I)のRとして、上記に挙げられるような酸無水物に由来する4価の有機基を用いることができる。
より良好な誘電特性の観点から、酸無水物は、無水ピロメリット酸であることが好ましい。
【0045】
ジアミンとしては、例えば、ダイマージアミン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジヒドロキシビフェニル、1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、1,4-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、ポリオキシアルキレンジアミン、及び[3,4-ビス(1-アミノヘプチル)-6-ヘキシル-5-(1-オクテニル)]シクロヘキセンが挙げられる。ジアミンは目的、用途等に合わせて、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0046】
(A)成分としては、例えば、下記式(XIII)で表される化合物であってもよい。
【0047】
【化6】
【0048】
式中、R及びQはそれぞれ独立に2価の有機基を示す。Rは上述の構造(c)と同じものが使用でき、Qは上述のRと同じものが使用できる。また、nは1~10の整数を表す。
【0049】
(A)成分としては市販されている化合物を使用することもできる。市販されている化合物としては、例えば、Designer Molecules Inc.製の製品が挙げられ、具体的には、BMI-1500、BMI-1700、BMI-3000、BMI-5000、BMI-9000(いずれも商品名)等が挙げられる。より良好な高周波特性を得る観点から、(A)成分としてBMI-3000を使用することがより好ましい。
【0050】
((B)芳香族マレイミド化合物)
本実施形態に係る(B)芳香族マレイミド化合物を(B)成分ということがある。(B)成分は、(A)成分とは異なるマレイミド化合物である。なお、(A)成分及び(B)成分の双方に該当し得る化合物は、(A)成分に帰属するものとするが、(A)成分及び(B)成分の双方に該当し得る化合物を2種類以上含む場合、そのうち1つを(A)成分、その他の化合物を(B)成分と帰属するものとする。例えば、式(I)で表される基に含まれる芳香環を有する化合物を(A)成分とし、式(I)で表される基に含まれる芳香環以外の芳香環を有する化合物を(B)成分としてよい。(B)成分を用いることで、樹脂組成物の吸湿性を低減することができる。(A)成分と(B)成分とを含有する樹脂組成物の硬化物は、低誘電特性を備える(A)成分からなる構造単位と、低吸湿性である(B)成分からなる構造単位とを備えるポリマーを含有することで、良好な誘電特性を維持しつつ、低吸湿性を向上させることができる。
【0051】
(B)成分は、(A)成分よりも熱膨張係数が低いことが好ましい。(A)成分よりも熱膨張係数が低い(B)成分として、例えば、(A)成分よりも分子量が低いマレイミド基含有化合物、(A)成分よりも多くの芳香環を有するマレイミド基含有化合物、及び主鎖が(A)成分よりも短いマレイミド基含有化合物が挙げられる。
【0052】
樹脂組成物中の(B)成分の含有量は特に限定されない。低吸湿性及び誘電特性の観点から(B)成分の含有量は樹脂組成物の全質量に対して1~95質量%であることが好ましく、3~90質量%であることがより好ましく、5~85質量%であることが更に好ましい。
【0053】
樹脂組成物中の(A)成分と(B)成分との配合割合は特に限定されない。低吸湿性及び誘電特性の観点から、(A)成分と(B)成分の質量比(B)/(A)が0.01~3であることが好ましく、0.03~2であることがより好ましく、0.05~1であることが更に好ましい。
【0054】
(B)成分は、芳香環を有していれば、特に限定されない。芳香環は剛直で低熱膨張であるため、芳香環を有する(B)成分を用いることで、樹脂組成物の熱膨張係数を低減させることができる。マレイミド基は芳香環に結合していても、脂肪族鎖に結合していてもよいが、低熱膨張性の観点から、芳香環に結合していることが好ましい。また、(B)成分は、マレイミド基を2個以上含有するポリマレイミド化合物であってもよい。(B)成分は1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0055】
(B)成分としては、例えば、1,2-ジマレイミドエタン、1,3-ジマレイミドプロパン、ビス(4-マレイミドフェニル)メタン、ビス(3-エチル-4-マレイミドフェニル)メタン、ビス(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン、2,7-ジマレイミドフルオレン、N,N’-(1,3-フェニレン)ビスマレイミド、N,N’-(1,3-(4-メチルフェニレン))ビスマレイミド、ビス(4-マレイミドフェニル)スルホン、ビス(4-マレイミドフェニル)スルフィド、ビス(4-マレイミドフェニル)エ-テル、1,3-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-(3-マレイミドフェノキシ)フェノキシ)ベンゼン、ビス(4-マレイミドフェニル)ケトン、2,2-ビス(4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパン、ビス(4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]スルホキシド、4,4’-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ビフェニル、1,3-ビス(2-(3-マレイミドフェニル)プロピル)ベンゼン、1,3-ビス(1-(4-(3-マレイミドフェノキシ)フェニル)-1-プロピル)ベンゼン、ビス(マレイミドシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス[4-(3-マレイミドフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、及びビス(マレイミドフェニル)チオフェンが挙げられる。吸湿性及び熱膨張係数をより低下させる観点から、(B)成分として、ビス(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタンを用いてもよい。樹脂組成物から形成される樹脂フィルムの破壊強度及び金属箔引き剥がし強さを更に高める観点から、(B)成分として、2,2-ビス(4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパンを用いてもよい。
【0056】
成形性の観点から、(B)成分として、下記式(VI)で表される化合物を用いてもよい。
【0057】
【化7】
【0058】
式(VI)中、Aは下記式(VII)、(VIII)、(IX)又は(X)で表される残基を示し、Aは下記式(XI)で表される残基を示す。低熱膨張性の観点から、Aは下記式(VII)、(VIII)又は(IX)で表される残基であってよい。
【0059】
【化8】
【0060】
式(VII)中、R10は各々独立に、水素原子、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示す。
【0061】
【化9】
【0062】
式(VIII)中、R11及びR12は各々独立に、水素原子、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示し、Aは炭素数1~5のアルキレン基若しくはアルキリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、ケトン基、単結合又は下記式(VIII-1)で表される残基を示す。
【0063】
【化10】
【0064】
式(VIII-1)中、R13及びR14は各々独立に、水素原子、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示し、Aは炭素数1~5のアルキレン基、イソプロピリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、ケトン基又は単結合を示す。
【0065】
【化11】
【0066】
式(IX)中、iは1~10の整数である。
【0067】
【化12】
【0068】
式(X)中、R15及びR16は各々独立に、水素原子又は炭素数1~5の脂肪族炭化水素基を示し、jは1~8の整数である。
【0069】
【化13】
【0070】
式(XI)中、R17及びR18は各々独立に、水素原子、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、炭素数1~5のアルコキシ基、水酸基又はハロゲン原子を示し、Aは、炭素数1~5のアルキレン基若しくはアルキリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、ケトン基、フルオレニレン基、単結合、下記式(XI-1)で表される残基又は下記式(XI-2)で表される残基を示す。
【0071】
【化14】
【0072】
式(XI-1)中、R19及びR20は各々独立に、水素原子、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示し、Aは、炭素数1~5のアルキレン基、イソプロピリデン基、m-フェニレンジイソプロピリデン基、p-フェニレンジイソプロピリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、ケトン基又は単結合を示す。
【0073】
【化15】
【0074】
式(XI-2)中、R21は各々独立に、水素原子、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示し、A10及びA11は各々独立に、炭素数1~5のアルキレン基、イソプロピリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、ケトン基又は単結合を示す。
【0075】
(B)成分は、有機溶媒への溶解性、高周波特性、導体との高接着性等の観点から、アミノ基とマレイミド基とを有する化合物であってもよい。アミノ基とマレイミド基とを有する化合物は、例えば、ビスマレイミド化合物と、2個の一級アミノ基を有する芳香族ジアミン化合物とを有機溶媒中でマイケル付加反応させることにより得られる。
【0076】
芳香族ジアミン化合物としては、例えば、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチル-ジフェニルメタン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、4,4’-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、及び4,4’-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリンが挙げられる。これらは1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0077】
有機溶媒への溶解性が高く、合成時の反応率が高く、かつ耐熱性を高くできる観点からは、芳香族ジアミン化合物は、4,4’-ジアミノジフェニルメタン又は4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチル-ジフェニルメタンであってもよい。
【0078】
有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、ブチルセロソルブ、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール化合物;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン化合物;トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素;メトキシエチルアセテート、エトキシエチルアセテート、ブトキシエチルアセテート、酢酸エチル等のエステル化合物;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等の含窒素化合物が挙げられる。有機溶媒は1種類を単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、N,N-ジメチルホルムアミド及びN,N-ジメチルアセトアミドが、溶解性の観点から好ましい。
【0079】
(触媒)
本実施形態に係る樹脂組成物は、(A)成分の硬化を促進するための触媒を更に含有してもよい。触媒の含有量は特に限定されないが、樹脂組成物の全質量に対して0.1~5質量%であってもよい。触媒としては、例えば、過酸化物、アゾ化合物等を用いることができる。
【0080】
過酸化物としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、2-ブタノンパーオキサイド、tert-ブチルパーベンゾエイト、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン及びtert-ブチルヒドロパーオキシドが挙げられる。アゾ化合物としては、例えば、2,2’-アゾビス(2-メチルプロパンニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブタンニトリル)及び1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)が挙げられる。
【0081】
(無機充填剤)
本実施形態に係る樹脂組成物は、無機充填剤を更に含有してもよい。任意に適切な無機充填剤を含有させることで、接着層の低熱膨張特性、高弾性率性、耐熱性、難燃性等を向上させることができる。無機充填剤としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、マイカ、ベリリア、チタン酸バリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、炭酸アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、焼成クレー、タルク、ホウ酸アルミニウム、及び炭化ケイ素が挙げられる。これらは1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0082】
無機充填剤の形状及び粒径には特に制限はない。無機充填剤の粒径は、例えば、0.01~20μm又は0.1~10μmであってよい。粒径とは、平均粒子径を指し、粒子の全体積を100%として粒子径による累積度数分布曲線を求めた時、体積50%に相当する点の粒子径のことである。平均粒径は、レーザー回折散乱法を用いた粒度分布測定装置等で測定することができる。
【0083】
無機充填剤を用いる場合、その使用量は特に制限されないが、例えば、樹脂組成物中の固形分を全量として無機充填剤の含有比率が、10~50vol%の範囲であることが好ましく、10~40vol%であることがより好ましい。樹脂組成物中の無機充填剤の含有比率が上記の範囲である場合、良好な硬化性、成形性及び耐薬品性が得られ易くなる。
本実施形態においては、無機充填剤の含有量を一定量以下とすることが重要である。これにより、組成物に無機充填剤の特性を生かしつつ柔軟性を維持することができる。
【0084】
無機充填剤を用いる場合、無機充填剤の分散性、有機成分との密着性を向上させる等の目的で、必要に応じ、カップリング剤を併用できる。カップリング剤としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等を用いることができる。これらは1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。カップリング剤の添加量は、例えば、使用する無機充填剤100質量部に対して0.1~5質量部又は0.5~3質量部であってよい。この範囲であれば、諸特性の低下が少なく、無機充填剤の使用による特長を効果的に発揮し易くなる。
【0085】
カップリング剤を用いる場合、樹脂組成物中に無機充填剤を配合した後、カップリング剤を添加する、いわゆるインテグラルブレンド処理方式であってもよいが、予めカップリング剤を用いて、乾式又は湿式で表面処理した無機充填剤を使用する方式が好ましい。この方法を用いることで、より効果的に上記無機充填剤の特長を発現できる。
【0086】
(熱硬化性樹脂)
本実施形態の樹脂組成物は、(A)成分及び(B)成分とは異なる(C)熱硬化性樹脂(以下、「(C)成分」という場合がある。)を更に含有することができる。なお、(A)成分又は(B)成分に該当し得る化合物は、(C)成分に帰属しないものとする。(C)成分を含むことで、樹脂組成物の低熱膨張特性等を更に向上させることができる。(C)成分としては、例えば、エポキシ樹脂及びシアネートエステル樹脂が挙げられる。(C)成分は、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0087】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂等のナフタレン骨格含有型エポキシ樹脂、2官能ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、及びジヒドロアントラセン型エポキシ樹脂が挙げられる。高周波特性及び熱膨張特性の観点から、ナフタレン骨格含有型エポキシ樹脂又はビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂を用いてもよい。
【0088】
シアネートエステル樹脂としては、例えば、2,2-ビス(4-シアナトフェニル)プロパン、ビス(4-シアナトフェニル)エタン、ビス(3,5-ジメチル-4-シアナトフェニル)メタン、2,2-ビス(4-シアナトフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、α,α’-ビス(4-シアナトフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼン、フェノール付加ジシクロペンタジエン重合体のシアネートエステル化合物、フェノールノボラック型シアネートエステル化合物、及びクレゾールノボラック型シアネートエステル化合物が挙げられる。廉価性、高周波特性及びその他特性の総合バランスを考慮すると、2,2-ビス(4-シアナトフェニル)プロパンを用いてもよい。
【0089】
(硬化剤)
本実施形態に係る樹脂組成物は、(C)成分を含有する場合、(C)成分の硬化剤を更に含有してもよい。これにより、樹脂組成物の硬化物を得る際の反応を円滑に進めることができると共に、得られる樹脂組成物の硬化物の物性を適度に調節することが可能となる。硬化剤は1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0090】
エポキシ樹脂の硬化剤としては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルメタン、m-フェニレンジアミン、ジシアンジアミド等のポリアミン化合物;ビスフェノールA、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂等のポリフェノール化合物;無水フタル酸、無水ピロメリット酸等の酸無水物;カルボン酸化合物;及び活性エステル化合物が挙げられる。
【0091】
シアネートエステル樹脂の硬化剤としては、例えば、モノフェノール化合物、ポリフェノール化合物、アミン化合物、アルコール化合物、酸無水物、及びカルボン酸化合物が挙げられる。
【0092】
(硬化促進剤)
本実施形態に係る樹脂組成物には、(C)成分の種類に応じて硬化促進剤を更に配合してもよい。エポキシ樹脂の硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール系硬化促進剤、BFアミン錯体、及びリン系硬化促進剤が挙げられる。樹脂組成物の保存安定性、半硬化の樹脂組成物の取扱い性及びはんだ耐熱性の観点から、イミダゾール系硬化促進剤及びリン系硬化促進剤が好ましい。
【0093】
(熱可塑性樹脂)
本実施形態に係る樹脂組成物は、樹脂フィルムの取扱い性を高める観点から、熱可塑性樹脂を更に含有してもよい。熱可塑性樹脂の種類は特に限定されず、分子量も限定されないが、(A)成分との相溶性をより高める点から、数平均分子量(Mn)が200~60000であることが好ましい。
【0094】
フィルム形成性及び耐吸湿性の観点から、熱可塑性樹脂は、熱可塑性エラストマであることが好ましい。熱可塑性エラストマとしては、飽和型熱可塑性エラストマ等が挙げられ飽和型熱可塑性エラストマとしては、化学変性飽和型熱可塑性エラストマ、非変性飽和型熱可塑性エラストマ等が挙げられる。化学変性飽和型熱可塑性エラストマとしては、無水マレイン酸で変性されたスチレン-エチレン-ブチレン共重合体等が挙げられる。化学変性飽和型熱可塑性エラストマの具体例としては、タフテックM1911、M1913、M1943(旭化成株式会社製、商品名)等が挙げられる。一方、非変性飽和型熱可塑性エラストマとしては、非変性のスチレン-エチレン-ブチレン共重合体等が挙げられる。非変性飽和型熱可塑性エラストマの具体例としては、タフテックH1041、H1051、H1043、H1053(旭化成株式会社製、商品名)等が挙げられる。
【0095】
フィルム形成性、誘電特性及び耐吸湿性の観点から、飽和型熱可塑性エラストマは、分子中にスチレンユニットを有することがより好ましい。なお、本明細書において、スチレンユニットとは、重合体における、スチレン単量体に由来する単位を指し、飽和型熱可塑性エラストマとは、スチレンユニットの芳香族炭化水素部分以外の脂肪族炭化水素部分が、いずれも飽和結合基によって構成された構造を有するものをいう。
【0096】
飽和型熱可塑性エラストマにおけるスチレンユニットの含有比率は、特に限定されないが、飽和型熱可塑性エラストマの全質量に対するスチレンユニットの質量百分率で、10~80質量%であると好ましく、20~70質量%であるとより好ましい。スチレンユニットの含有比率が上記範囲内であると、フィルム外観、耐熱性及び接着性に優れる傾向にある。
【0097】
分子中にスチレンユニットを有する飽和型熱可塑性エラストマの具体例としては、スチレン-エチレン-ブチレン共重合体が挙げられる。スチレン-エチレン-ブチレン共重合体は、例えば、スチレン-ブタジエン共重合体のブタジエンに由来する構造単位が有する不飽和二重結合に水素添加を行うことにより得ることができる。
【0098】
熱可塑性樹脂の含有量は特に限定されないが、誘電特性を更に良好にする観点からは樹脂組成物中の固形分を全量として0.1~15質量%で、0.3~10質量%、又は0.5~5質量%であってよい。
【0099】
(難燃剤)
本実施形態に係る樹脂組成物には、難燃剤を更に配合してもよい。難燃剤としては特に限定されないが、臭素系難燃剤、リン系難燃剤、金属水酸化物等が好適に用いられる。難燃剤は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0100】
臭素系難燃剤としては、例えば、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂等の臭素化エポキシ樹脂;ヘキサブロモベンゼン、ペンタブロモトルエン、エチレンビス(ペンタブロモフェニル)、エチレンビステトラブロモフタルイミド、1,2-ジブロモ-4-(1,2-ジブロモエチル)シクロヘキサン、テトラブロモシクロオクタン、ヘキサブロモシクロドデカン、ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリスチレン、2,4,6-トリス(トリブロモフェノキシ)-1,3,5-トリアジン等の臭素化添加型難燃剤;及びトリブロモフェニルマレイミド、トリブロモフェニルアクリレート、トリブロモフェニルメタクリレート、テトラブロモビスフェノールA型ジメタクリレート、ペンタブロモベンジルアクリレート、臭素化スチレン等の不飽和二重結合基含有の臭素化反応型難燃剤が挙げられる。
【0101】
リン系難燃剤としては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、クレジルジ-2,6-キシレニルホスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)等の芳香族系リン酸エステル;フェニルホスホン酸ジビニル、フェニルホスホン酸ジアリル、フェニルホスホン酸ビス(1-ブテニル)等のホスホン酸エステル;ジフェニルホスフィン酸フェニル、ジフェニルホスフィン酸メチル、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド誘導体等のホスフィン酸エステル;ビス(2-アリルフェノキシ)ホスファゼン、ジクレジルホスファゼン等のホスファゼン化合物;及びリン酸メラミン、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラム、ポリリン酸アンモニウム、リン含有ビニルベンジル化合物、赤リン等のリン系難燃剤が挙げられる。金属水酸化物難燃剤としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0102】
本実施形態に係る樹脂組成物は、上記した各成分を均一に分散及び混合することによって得ることができる。樹脂組成物の調製手段、条件等は特に限定されない。樹脂組成物は、例えば、所定配合量の各成分をミキサー等によって十分に均一に撹拌及び混合した後、ミキシングロール、押出機、ニーダー、ロール、エクストルーダー等を用いて混練し、更に得られた混練物を冷却及び粉砕する方法で作製してもよい。
【0103】
本実施形態に係る樹脂組成物の硬化物(硬化後の接着層)の比誘電率は特に限定されないが、高周波帯で好適に用いる観点から、10GHzでの比誘電率は3.6以下であることが好ましく、3.1以下であることがより好ましく、3.0以下であることが更に好ましい。比誘電率の下限については特に限定はないが、例えば、1.0程度であってもよい。また、高周波帯で好適に用いる観点から、樹脂組成物の硬化物の誘電正接は、0.004以下であることが好ましく、0.003以下であることがより好ましい。比誘電率の下限については特に限定はなく、例えば、0.0001程度であってもよい。比誘電率及び誘電正接は後述する実施例で示す方法で測定することができる。
【0104】
積層板のそりを抑制する観点から、樹脂組成物の硬化物の熱膨張係数は、10~90ppm/℃であることが好ましく、10~45ppm/℃であることがより好ましく、10~40ppm/℃であることが更に好ましい。熱膨張係数は、IPC-TM-650 2.4.24に準拠して測定できる。
【0105】
樹脂フィルムの作製方法は限定されない。例えば、樹脂組成物を支持基材上に塗布して形成された樹脂層を乾燥することで樹脂フィルムを得てもよい。具体的には、上記樹脂組成物をキスコーター、ロールコーター、コンマコーター等を用いて支持基材上に塗布した後、加熱乾燥炉中等で、例えば70~250℃、好ましくは70~200℃の温度で、1~30分間、好ましくは3~15分間乾燥してもよい。これにより、樹脂組成物が半硬化した状態の樹脂フィルムを得ることができる。
【0106】
半硬化した状態の樹脂フィルムを、加熱炉で更に、例えば170~250℃、好ましくは185~230℃の温度で、60~150分間加熱させることによって樹脂フィルムを熱硬化させることができる。
【0107】
樹脂フィルムの厚さは特に限定されないが、フッ素樹脂基板の厚さの0.01~2.0倍、0.05~1.0倍、又は0.1~0.9倍であってよい。樹脂フィルムの厚さが2.0倍以下であると、積層体の誘電率を低減し易くなる。樹脂フィルムの厚さが0.01倍以上であると、積層体としての剛性及び寸法安定性が向上し易くなる。樹脂フィルムの厚さは、例えば、1~200μm、3~180μm、5~150μm、10~100μm、又は15~80μmであってよい。
【0108】
支持基材は特に限定されないが、ガラス、金属箔及びPETフィルムからなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。樹脂フィルムが支持基材を備えることにより、保管性及び積層体の製造に用いる際の取扱い性が良好となる傾向にある。
【0109】
[フッ素樹脂基板]
フッ素樹脂基板1を構成するフッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシエチレン重合体(PFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン重合体(FEP)、及びテトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)が挙げられる。高周波特性により優れることから、フッ素樹脂基板は、ポリテトラフルオロエチレンを含む基板であることが好ましい。
【0110】
フッ素樹脂基板の比誘電率(Dk)は、2.2~3.5又は2.8~3.1であってよい。フッ素樹脂基板の誘電正接(Df)は、0.0010~0.0020又は0.0010~0.0013であってよい。フッ素樹脂基板の熱膨張係数は、基材方向で30ppm/℃以下又は20ppm/℃以下であってよい。積層体の絶縁信頼性及びアンテナ特性が向上することから、フッ素樹脂基板の厚さは、100μm以上、110μm以上、又は120μm以上であってよく、12700μm以下、6350μm以下、又は2540μm以下であってよい。
【0111】
[金属箔]
フッ素樹脂基板と接着層とを備えるフッ素樹脂基板積層体には、更に金属箔を積層することできる。図2は、金属箔を備えるフッ素樹脂基板積層体の一実施形態を示す模式断面図である。該積層体は、フッ素樹脂基板1と、フッ素樹脂基板1上に設けられた接着層2と、接着層2上に積層された金属箔4とを備える。フッ素樹脂基板1と金属箔4とは、接着層2を介して接着されている。
【0112】
本実施形態に係る金属箔として、表面粗さの小さい金属箔(低粗化金属箔)を用いることができる。金属箔の表面粗さ(Rz)は、0.05~2μm、0.1~1.5μm又は0.15~1μmであってよい。金属箔の厚さは、5~105μm、8~70μm、10~40μm、又は10~20μmであってよい。金属箔として、ピール強度の観点から電解銅箔を用いてもよい。
【0113】
金属箔を備えるフッ素樹脂基板積層体は、フッ素樹脂基板1上に接着層2を形成した後に、金属箔4を接着層2上に積層することで作製してもよく、フッ素樹脂基板1、樹脂フィルム及び金属箔4をこの順に積層することで作製してもよい。本実施形態に係るフッ素樹脂基板積層体は、フッ素樹脂基板1の両面に接着層2が形成され、接着層2上に金属箔4が積層された積層体であってもよい。
フッ素樹脂基板積層体の比誘電率(Dk)は、2.2~3.5又は2.8~3.1であってよい。誘電正接(Df)は、0.0013~0.0023又は0.0013~0.0016であってよい。伝送損失は24GHzにて-0.30~-0.10dB/cm又は-0.20~-0.10dB/cmであってよい。
【0114】
<積層板>
本実施形態によれば、樹脂組成物の硬化物を含む樹脂層と、導体層とを有する積層板を提供することで金属張積層板を製造することができる。
【0115】
金属張積層板の製造方法は限定されない。例えば、フッ素樹脂基板の両面に、上記樹脂フィルムを1枚又は複数枚重ね、少なくとも一つの面に導体層となる金属箔を配置し、例えば、170~250℃、好ましくは185~230℃の温度及び0.5~5.0MPaの圧力で60~150分間加熱及び加圧することにより、絶縁層となる樹脂層の少なくとも一つの面に金属箔を備える金属張積層板が得られる。加熱及び加圧は、例えば、真空度は10kPa以下、好ましくは5kPa以下の条件で実施でき、効率を高める観点からは真空中で行うことが好ましい。加熱及び加圧は、開始から30分間~成形終了時間まで実施することが好ましい。金属張積層板は、フッ素樹脂基板1と接着層2とを備えるフッ素樹脂基板の接着層2上に金属箔4を配置し、加熱及び加圧することで作製してもよい。
【0116】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、これらは本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をこれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態とは異なる種々の態様で実施することができる。
【実施例
【0117】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明を更に詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0118】
[樹脂組成物]
(実施例1)
攪拌装置を備えた容器に、シリカスラリー(株式会社アドマテックス製、商品名「SC-2050KNK」)14g、トルエン106.6g、(A)成分67.4g、及び(B)成分9.0g、触媒(ジ(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、日油株式会社製、商品名「パーブチルP」)1.9gを投入し、25℃で1時間攪拌して混合した。混合物を#200ナイロンメッシュを用いてろ過し、樹脂組成物を得た。
(実施例2)
実施例1と同様にして樹脂組成物中の固形分全量に対して30vol%になるようにシリカスラリーを投入して樹脂組成物を得た。
(実施例3)
実施例1と同様にして樹脂組成物中の固形分全量に対して40vol%になるようにシリカスラリーを投入して樹脂組成物を得た。
(実施例4)
実施例1と同様にして樹脂組成物中の固形分全量に対して50vol%になるようにシリカスラリーを投入して樹脂組成物を得た。
【0119】
(比較例1)
シリカスラリーを用いなかった以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
(比較例2)
実施例1と同様にして樹脂組成物中の固形分全量に対して60vol%になるようにシリカスラリーを投入して樹脂組成物を得た。
(比較例3)
上記の樹脂組成物からなる樹脂フィルムを用いないフッ素樹脂基板である。
【0120】
(A)成分:下記式(XII-3)で表される構造を有するマレイミド化合物(Designer Molecules Inc製、商品名「BMI-1500」)を(A)成分として用いた。
【0121】
【化16】
【0122】
(B)成分:芳香族マレイミド化合物である2,2-ビス(4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニルプロパン(大和化成工業株式会社製、商品名「BMI-4000」)を(B)成分として用いた。
【0123】
[樹脂フィルム]
樹脂組成物を、コンマコーターを用いて、PETフィルム(帝人株式会社製、商品名「G2-38」、厚さ:38μm)上に塗工した後、130℃で乾燥して、半硬化状態の樹脂層を備えるPETフィルム付き樹脂フィルムを作製した。樹脂フィルム(接着層)の厚さは5μmであった。
【0124】
[積層板]
高周波用PTFE基板(Rogers社製、商品名「RO3003」、厚さ:127μm)の銅箔両面を全面エッチングしたPTFE基板の両面に、PETフィルムを剥離した樹脂フィルムを乗せ、銅箔(古河電気工業株式会社製、商品名「FZ-WS」、厚さ:18μm、表面粗さ(Rz:0.2μm以下)を積層した。次いで、積層体の上に鏡板を乗せ、200℃/3.0MPa/70分のプレス条件で加熱及び加圧成形して、両面金属張積層板を作製した。
【0125】
[評価]
両面金属張積層板及び高周波用PTFE基板について、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0126】
(誘電特性)
誘電特性である比誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)は、両面金属張積層板の外層銅箔をエッチングしたものを試験片として、空洞共振器摂動法により測定した。測定条件は、周波数10GHz、測定温度25℃とした。
【0127】
(伝送損失)
実施例1で作製した両面金属張積層板の片側の銅箔をエッチングし、長さ10cm、幅65μmのマイクロストリップラインを作製し、インピーダンス50Ω、温度25℃、湿度60%の条件で伝送損失を測定した。比較例4として、高周波用PTFE基板(Rogers社製、商品名「RO3003」、厚さ:127μm)を用いて、同様に伝送損失を測定した。
【0128】
(屈曲性)
実施例1で作製した両面金属張積層板の両側の銅箔をエッチングして試験片を作製し、屈曲試験機(商品名「マンドレル屈曲試験機」、ヨシミツ精機株式会社製)を使用して、マンドレル試験(JIS K 5600-5-1:1999に準拠)を行った。すなわち、室温(25℃)において、試験片を平面上に水平に設置して伸ばした状態から、試験片の中心部において、屈曲半径が2mm又は1mmとなるように180°折り曲げ、その後、再び伸ばして元に戻す動作を1セットとし、試験片にクラックが生じなかったセット数を屈曲性の指標とした。
【0129】
【表1】
【0130】
表1の結果から明らかのように、実施例1~4の樹脂フィルムによれば、いずれもフィルム外観に問題なく作製可能であり、屈曲性も問題ないことが確認された。加えて、Dk、Df、伝送損失に示す誘電特性も優れていることが確認された。
【0131】
表1の結果から明らかなように、比較例1~3の樹脂フィルムによれば、比較例1では屈曲性に問題はなかったが、フィルム外観が劣っていることが確認された。比較例2では誘電特性に問題はなかったが、屈曲性が劣っていることが確認された。これらのことから、屈曲性かつ優れた誘電特性を示す樹脂フィルムに関して、適切な無機充填剤量を規定することの有用性が確認された。
【符号の説明】
【0132】
1:フッ素樹脂基板
2:接着層
4:金属箔
図1
図2