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特許7567406液体組成物セット、及び多孔質樹脂製造方法
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  • 特許-液体組成物セット、及び多孔質樹脂製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】液体組成物セット、及び多孔質樹脂製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/28 20060101AFI20241008BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20241008BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20241008BHJP
   B05D 1/26 20060101ALI20241008BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C08J9/28 CEY
B05D7/24 302Z
B05D7/00 B
B05D1/26 Z
B05D3/00 D
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020197906
(22)【出願日】2020-11-30
(65)【公開番号】P2022086087
(43)【公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】大木本 美玖
(72)【発明者】
【氏名】鷹氏 啓吾
(72)【発明者】
【氏名】野勢 大輔
(72)【発明者】
【氏名】杉原 直樹
(72)【発明者】
【氏名】後河内 透
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-117586(JP,A)
【文献】特開2004-051783(JP,A)
【文献】特開2017-131865(JP,A)
【文献】特開2021-088691(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0207881(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0093456(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0292750(US,A1)
【文献】国際公開第2019/156008(WO,A1)
【文献】特開2001-293946(JP,A)
【文献】特表2005-531011(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00- 9/42
C08F 2/00- 2/60
C08C 19/00-19/44
C08F 6/00-246/00;301/00
B05D 1/00- 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性化合物X及び溶媒Xを含む液体組成物Xと、溶媒Yを含む液体組成物Yと、を有する液体組成物セットであって、
前記液体組成物Xは、多孔質樹脂を形成し、
10.0質量%の前記液体組成物X及び90.0質量%の前記液体組成物Yからなる液体組成物Zを作製した場合において、前記液体組成物Zを300rpmで撹拌しながら測定した前記液体組成物Zの波長550nmにおける光の透過率が30%以上であり、且つ2枚の無アルカリガラス基板の間に前記液体組成物Zが充填されたヘイズ測定用素子におけるヘイズ値の上昇率が、1.0%以上であることを特徴とする液体組成物セット。
(なお、ヘイズ値の上昇率は、UV照射前のヘイズ測定用素子における測定値を基準とし、UV照射前のヘイズ測定用素子における測定値に対する、ヘイズ測定用素子に含まれる前記重合性化合物Xが重合可能な条件でUV照射後のヘイズ測定用素子における測定値の比率である。)
【請求項2】
前記液体組成物Xを300rpmで撹拌しながら測定した前記液体組成物Xの波長550nmにおける光の透過率が30%以上であり、
2枚の無アルカリガラス基板の間に前記液体組成物Xが充填されたヘイズ測定用素子におけるヘイズ値の上昇率が1.0%以上である請求項1に記載の液体組成物セット。
(なお、ヘイズ値の上昇率は、UV照射前のヘイズ測定用素子における測定値を基準とし、UV照射前のヘイズ測定用素子における測定値に対する、ヘイズ測定用素子に含まれる前記重合性化合物Xが重合可能な条件でUV照射後のヘイズ測定用素子における測定値の比率である。)
【請求項3】
前記液体組成物Zに含まれる重合性化合物を重合性化合物Zとし、前記液体組成物Zに含まれる溶媒を溶媒Zとした場合において、
前記重合性化合物Zが重合することにより形成される樹脂Zのハンセン溶解度パラメータA、前記樹脂Zの相互作用半径B、及び前記溶媒Zのハンセン溶解度パラメータから下記式1に基づいて算出される相対的エネルギー差は、1.00以上である請求項1又は2に記載の液体組成物セット。
【数1】
【請求項4】
前記液体組成物Zに含まれる重合性化合物を重合性化合物Zとし、前記液体組成物Zに含まれる溶媒を溶媒Zとした場合において、
前記重合性化合物Zのハンセン溶解度パラメータC、前記重合性化合物Zの相互作用半径D、及び前記溶媒Zのハンセン溶解度パラメータから下記式2に基づいて算出される相対的エネルギー差は、1.05以下である請求項1から3のいずれか一項に記載の液体組成物セット。
【数2】
【請求項5】
前記重合性化合物Xは、前記液体組成物Xに対して10.0質量%以上50.0質量%以下含まれ、
前記溶媒Xは、前記液体組成物Xに対して50.0質量%以上90.0質量%以下含まれる請求項1から4のいずれか一項に記載の液体組成物セット。
【請求項6】
前記液体組成物X及び前記液体組成物Yの25℃における粘度は、それぞれ独立して、1mPa・s以上150mPa・s以下である請求項1から5のいずれか一項に記載の液体組成物セット。
【請求項7】
前記重合性化合物Xは、(メタ)アクリロイル基またはビニル基を有する請求項1から6のいずれか一項に記載の液体組成物セット。
【請求項8】
前記液体組成物Yは、実質的に重合性化合物を含まない請求項1から7のいずれか一項に記載の液体組成物セット。
【請求項9】
重合性化合物X及び溶媒Xを含む液体組成物Xと、溶媒Yを含む液体組成物Yと、を用いて多孔質樹脂を製造する多孔質樹脂製造方法であって、
前記液体組成物Yを付与する付与工程Yと、前記液体組成物Xを前記液体組成物Yが付与された領域に対して付与する付与工程Xと、付与された前記液体組成物Xを硬化させる硬化工程と、を有し、
10.0質量%の前記液体組成物X及び90.0質量%の前記液体組成物Yからなる液体組成物Zを作製した場合において、前記液体組成物Zを300rpmで撹拌しながら測定した前記液体組成物Zの波長550nmにおける光の透過率が30%以上であり、且つ2枚の無アルカリガラス基板の間に前記液体組成物Zが充填されたヘイズ測定用素子におけるヘイズ値の上昇率が、1.0%以上であることを特徴とする多孔質樹脂製造方法。
(なお、ヘイズ値の上昇率は、UV照射前のヘイズ測定用素子における測定値を基準とし、UV照射前のヘイズ測定用素子における測定値に対する、ヘイズ測定用素子に含まれる前記重合性化合物Xが重合可能な条件でUV照射後のヘイズ測定用素子における測定値の比率である。)
【請求項10】
前記付与工程Yは、多孔質基材に対して前記液体組成物Yを付与する工程である請求項に記載の多孔質樹脂製造方法。
【請求項11】
前記多孔質基材は、活物質層である請求項10に記載の多孔質樹脂製造方法。
【請求項12】
前記付与工程Xは、前記液体組成物Xをインクジェット方式で吐出する工程である請求項乃至11のいずれか一項に記載の多孔質樹脂製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体組成物セット、及び多孔質樹脂製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、多孔質樹脂は様々な用途に活用できる。例えば、多孔質樹脂における空孔の形状、空孔の大きさ、及び骨格部分の表面特性等を適宜選択することで、特定の物質のみを透過または遮断する分離層を提供できる。また、別の例としては、多孔質樹脂が有する広大な表面積や空隙容積を活用することで、外部から取り込んだ気体や液体の効率的な反応場や貯蔵場を提供できる。そのため、取扱性に優れ、多用な箇所に容易に塗布可能な多孔質樹脂形成用の液体組成物を提供できれば、多孔質樹脂のアプリケーションの幅は大きく拡大する。
【0003】
このような多孔質樹脂形成用の液体組成物としては、例えば、特許文献1において、光重合性モノマー(A)と、光重合性モノマー(A)とは非相溶の有機化合物(B)と、光重合性モノマー(A)と有機化合物(B)とに相溶する共通溶媒(C)および光重合開始剤(D)を必須成分とする多孔質形成性光硬化型樹脂組成物が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、多孔質樹脂形成用の液体組成物を別の液体組成物と併用する場合において、多孔質樹脂形成用の液体組成物と別の液体組成物とが接触することで、接触領域において形成される樹脂の多孔質化が抑制される課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、重合性化合物X及び溶媒Xを含む液体組成物Xと、溶媒Yを含む液体組成物Yと、を有する液体組成物セットであって、前記液体組成物Xは、多孔質樹脂を形成し、10.0質量%の前記液体組成物X及び90.0質量%の前記液体組成物Yからなる液体組成物Zを作製した場合において、前記液体組成物Zを300rpmで撹拌しながら測定した前記液体組成物Zの波長550nmにおける光の透過率が30%以上であり、且つ2枚の無アルカリガラス基板の間に前記液体組成物Zが充填されたヘイズ測定用素子におけるヘイズ値の上昇率が1.0%以上であることを特徴とする液体組成物セットに関する。
(なお、ヘイズ値の上昇率は、UV照射前のヘイズ測定用素子における測定値を基準とし、UV照射前のヘイズ測定用素子における測定値に対する、ヘイズ測定用素子に含まれる前記重合性化合物Xが重合可能な条件でUV照射後のヘイズ測定用素子における測定値の比率である。)
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、多孔質樹脂形成用の液体組成物を別の液体組成物と併用する場合において、多孔質樹脂形成用の液体組成物と別の液体組成物とが接触したとしても、接触領域において形成される樹脂の多孔質化に優れる液体組成物セットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本実施形態の多孔質樹脂製造方法を実現するための多孔質樹脂製造装置の一例を示す模式図である。
図2図2は、マテリアルジェット方式の造形装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0009】
[液体組成物セット]
液体組成物セットは、液体組成物Xおよび液体組成物Yを有し、必要に応じてその他の液体組成物を有してもよい。また、液体組成物セットは、液体組成物Xおよび液体組成物Yがそれぞれ独立した液体の状態で存在していればよく、液体組成物Xが充填されている容器および液体組成物Yが充填されている容器が一体化している場合などに限られない。例えば、液体組成物Xおよび液体組成物Yがそれぞれ独立した容器に充填されていたとしても、液体組成物Xおよび液体組成物Yが併用されることを前提としている場合、液体組成物Xおよび液体組成物Yが併用されることを実質的に誘導している場合などは液体組成物セットの概念に含まれる。なお、液体組成物Xおよび液体組成物Yは組成が異なる液体である。
【0010】
液体組成物セットは、液体組成物セットを構成する液体組成物の一部成分である重合性化合物等が硬化(重合)させられることで多孔質樹脂を形成する。そのため、液体組成物セットは、多孔質樹脂形成用途で用いることが好ましい。また、液体組成物セットが多孔質樹脂を形成するとは、液体組成物Xおよび液体組成物Yが接触するように液体組成物セットを使用した結果として多孔質樹脂が形成される限り特に限定されない。具体的には、例えば、液体組成物Xおよび液体組成物Yが互いに接触するように付与されたとき、液体組成物Xが付与された領域と液体組成物X及び液体組成物Yの接触領域とにおいてのみ多孔質樹脂が形成され、液体組成物Yが付与された領域(液体組成物X及び液体組成物Yの接触領域は含まない)では多孔質樹脂が形成されない場合であったとしても、当該液体組成物セットが多孔質樹脂を形成するものとする。より具体的には、例えば、重合性化合物等の硬化(重合)させられることで多孔質樹脂を形成する材料が、液体組成物Xには含まれるが液体組成物Yには含まれない場合であっても、液体組成物セットを使用した結果として多孔質樹脂が形成されるのであれば、当該液体組成物セットが多孔質樹脂を形成するものとする。
なお、液体組成物セットが多孔質樹脂を形成するとは、液体組成物セットを構成する液体組成物の一部成分(重合性化合物等)が硬化(重合)させられることで多孔質樹脂を形成し、液体組成物セットを構成する液体組成物のその他成分(溶媒等)が硬化させられずに多孔質樹脂を形成しない場合等も含む意味である。
【0011】
液体組成物セットは、液体組成物セットの構成物である多孔質樹脂形成用の液体組成物と別の液体組成物とを接触させることを前提とした用途に用いられる。このような場合に本開示の液体組成物セットを使用することが好ましい理由について説明する。
多孔質樹脂形成用の液体組成物と別の液体組成物とが接触する場合、接触領域において形成される樹脂の多孔質化が抑制される懸念がある。より具体的には、例えば、多孔質樹脂形成用の液体組成物を多孔質基材に対して付与し、多孔質基材上に多孔質樹脂を形成させる場合などにおいて上記懸念が顕在化する。このような場合、多孔質樹脂形成用の液体組成物の多孔質基材に対する浸透を抑制し、多孔質樹脂を多孔質基材上に形成させることを目的として、別の液体組成物を事前に多孔質基材に付与する方法が有効である。しかし、多孔質樹脂形成用の液体組成物と別の液体組成物とが接触することで、接触領域において形成される樹脂の多孔質化が抑制される可能性がある。このような場合、多孔質基材における空孔と多孔質樹脂における空孔との連通性が、接触領域において形成される多孔質化が抑制された樹脂により損なわれ、多孔質基材および多孔質樹脂を有する複合多孔質体における物質透過性が低下してしまう。そこで、多孔質樹脂形成用の液体組成物と別の液体組成物とが接触したとしても、接触領域において形成される樹脂の多孔質化に優れる液体組成物セットの詳細、具体的には、多孔質樹脂形成用の液体組成物である液体組成物Xと別の液体組成物である液体組成物Yについての詳細を以下説明する。
【0012】
<<液体組成物X>>
液体組成物Xは、液体組成物Yと併用する液体である。また、液体組成物Xは、液体組成物Yが付与された領域に対して付与されることが好ましい。また、液体組成物Xは単独で用いたとしても(言い換えると、液体組成物Yとともに使用されなかったとしても)多孔質樹脂を形成することができる液体であり、液体組成物セットは液体組成物Xを有することで多孔質樹脂を形成することができる。なお、以降説明では、液体組成物Xを単独で用いた場合に形成される樹脂を樹脂Xと称し、樹脂Xの多孔質体を多孔質樹脂Xと称する。また、液体組成物Xが多孔質樹脂Xを形成するとは、液体組成物Xを構成する一部成分(重合性化合物X等)が硬化(重合)させられることで多孔質樹脂Xを形成し、液体組成物Xを構成するその他成分(溶媒X等)が硬化させられずに多孔質樹脂Xを形成しない場合等も含む意味である。
液体組成物Xは、重合性化合物X、溶媒X、及び必要に応じて重合開始剤などのその他成分を含む。
【0013】
<重合性化合物X>
重合性化合物Xは、重合することにより樹脂Xを形成し、液体組成物X中において重合した場合に多孔質樹脂Xを形成する。重合性化合物Xにより形成される樹脂Xは、活性エネルギー線の付与等(例えば、光の照射や熱を加えること等)で形成される網目状の構造体を有する樹脂であることが好ましく、例えば、アクリレート樹脂、メタアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ビニルエーテル樹脂、及びエン-チオール反応により形成される樹脂などが好ましい。また、反応性の高いラジカル重合を利用することが好ましい点から、(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物Xにより形成される樹脂であるアクリレート樹脂、メタアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂等や、ビニル基を有する重合性化合物Xにより形成される樹脂であるビニルエステル樹脂等が生産性の観点からより好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、樹脂の組み合わせとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、柔軟性付与のため、ウレタンアクリレート樹脂を主成分として他の樹脂を混合することが好ましい。なお、本開示ではアクリロイル基またはメタクリロイル基を有する重合性化合物を、(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物と称する。
なお、活性エネルギー線としては、液体組成物X中の重合性化合物Xの重合反応を進める上で必要なエネルギーを付与できるものであればよく、特に限定されないが、例えば、紫外線、電子線、α線、β線、γ線、X線等が挙げられる。これらの中でも紫外線であることが好ましい。なお、特に高エネルギーな光源を使用する場合には、重合開始剤を使用しなくても重合反応を進めることができる。
【0014】
重合性化合物Xは、少なくとも1つのラジカル重合性官能基を有することが好ましい。その例としては、1官能、2官能、3官能以上のラジカル重合性化合物、機能性モノマー、及びラジカル重合性オリゴマーなどが挙げられる。これらの中でも、2官能以上のラジカル重合性化合物が好ましい。
【0015】
1官能のラジカル重合性化合物としては、例えば、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2-エチルヘキシルカルビトールアクリレート、3-メトキシブチルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、イソアミルアクリレート、イソブチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、セチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、ステアリルアクリレート、スチレンモノマーなどが挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0016】
2官能のラジカル重合性化合物としては、例えば、1,3-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、EO変性ビスフェノールFジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートなどが挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0017】
3官能以上のラジカル重合性化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、HPA変性トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)、グリセロールトリアクリレート、ECH変性グリセロールトリアクリレート、EO変性グリセロールトリアクリレート、PO変性グリセロールトリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTA)、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、EO変性リン酸トリアクリレート、2,2,5,5-テトラヒドロキシメチルシクロペンタノンテトラアクリレートなどが挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0018】
液体組成物X中における重合性化合物Xの含有量は、液体組成物X全量に対して、5.0質量%以上70.0質量%以下が好ましく、10.0質量%以上50.0質量%以下がより好ましく、20.0質量%以上40.0質量%以下が更に好ましい。重合性化合物Xの含有量が70.0質量%以下である場合、得られる多孔質樹脂Xの空孔の大きさが数nm以下と小さくなりすぎず、多孔質樹脂Xが適切な空隙率を有し、液体や気体の浸透が起きにくくなる傾向を抑制することができるので好ましい。また、重合性化合物Xの含有量が5.0質量%以上である場合、樹脂Xの三次元的な網目構造が十分に形成されて多孔質構造が十分に得られ、得られる多孔質構造の強度も向上する傾向が見られるため好ましい。
【0019】
<溶媒X>
溶媒X(以降の記載において溶媒Xを「ポロジェン」とも称する)は、重合性化合物Xと相溶する液体である。また、溶媒Xは、液体組成物X中において重合性化合物Xが重合していく過程で重合物(樹脂X)と相溶しなくなる(相分離を生じる)液体である。すなわち、本開示における「溶媒X」の意味は、一般的に用いられる用語である「溶媒」の意味とは区別される。液体組成物X中に溶媒Xが含まれることで、重合性化合物Xは、液体組成物X中において重合した場合に多孔質樹脂Xを形成する。また、光または熱によってラジカル又は酸を発生する化合物(後述する重合開始剤)を溶解可能であることが好ましい。溶媒Xは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。なお、本開示において、溶媒Xは重合性を有さない。
【0020】
ポロジェンの1種単独としての沸点または2種以上を併用した場合の沸点は、常圧において、50℃以上250℃以下であることが好ましく、70℃以上200℃以下であることがより好ましい。沸点が50℃以上であることにより、室温付近におけるポロジェンの気化が抑制されて液体組成物Xの取扱が容易になり、液体組成物X中におけるポロジェンの含有量の制御が容易になる。また、沸点が250℃以下であることにより、重合後のポロジェンを乾燥させる工程における時間が短縮されて、多孔質樹脂Xの生産性が向上する。また、多孔質樹脂Xの内部に残存するポロジェンの量を抑制することができるので、多孔質樹脂Xを物質間の分離を行う物質分離層や反応場としての反応層などの機能層として利用する場合に品質が向上する。
また、ポロジェンの1種単独としての沸点または2種以上を併用した場合の沸点は、常圧において、120℃以上であることが好ましい。
【0021】
ポロジェンとしては、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエチレングリコール類、γブチロラクトン、炭酸プロピレン等のエステル類、NNジメチルアセトアミド等のアミド類等を挙げることができる。また、テトラデカン酸メチル、デカン酸メチル、ミリスチン酸メチル、テトラデカン等の比較的分子量の大きな液体も挙げることができる。また、アセトン、2-エチルヘキサノール、1-ブロモナフタレン等の液体も挙げることができる。
なお、本開示では、上記の例示された液体であれば常にポロジェンに該当するわけではない。本開示におけるポロジェンとは、上記の通り、重合性化合物Xと相溶する液体であって、且つ液体組成物X中において重合性化合物Xが重合していく過程で重合物(樹脂X)と相溶しなくなる(相分離を生じる)液体である。言い換えると、ある液体がポロジェンに該当するか否かは、重合性化合物Xおよび重合物(重合性化合物が重合することにより形成される樹脂X)との関係で決まる。
また、本開示の液体組成物Xは、重合性化合物Xとの間で上記の特定の関係を有するポロジェンを少なくとも1種類含有していればいいため、液体組成物X作製時の材料選択の幅が広がり、液体組成物Xの設計が容易になる。液体組成物X作製時の材料選択の幅が広がることで、多孔質構造の形成以外の観点で液体組成物Xに求められる特性がある場合に、対応の幅が広がる。例えば、液体組成物Xをインクジェット方式で吐出する場合、多孔質形成以外の観点として、吐出安定性等を有する液体組成物Xであることが求められるが、材料選択の幅が広いため、液体組成物Xの設計が容易になる。
なお、本開示の液体組成物Xは、上記の通り、重合性化合物Xとの間で上記の特定の関係を有するポロジェンを少なくとも1種類含有していればいいため、重合性化合物Xとの間で上記の特定の関係を有さない液体(ポロジェンではない液体)を追加的に含有していてもよい。但し、重合性化合物Xとの間で上記の特定の関係を有さない液体(ポロジェンではない液体)の含有量は、液体組成物X全量に対して10.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以下であることが更に好ましく、含まれないことが特に好ましい。
【0022】
液体組成物X中におけるポロジェンの含有量は、液体組成物X全量に対して、30.0質量%以上95.0質量%以下が好ましく、50.0質量%以上90.0質量%以下がより好ましく、60.0質量%以上80.0質量%以下が更に好ましい。ポロジェンの含有量が30.0質量%以上である場合、得られる多孔質体の空孔の大きさが数nm以下と小さくなりすぎず、多孔質体が適切な空隙率を有し、液体や気体の浸透が起きにくくなる傾向を抑制することができるので好ましい。また、ポロジェンの含有量が95.0質量%以下である場合、樹脂Xの三次元的な網目構造が十分に形成されて多孔質構造が十分に得られ、得られる多孔質構造の強度も向上する傾向が見られるため好ましい。
【0023】
液体組成物X中における重合性化合物Xの含有量とポロジェンの含有量の質量比(重合性化合物X:ポロジェン)は、1.0:0.4~1.0:19.0が好ましく、1.0:1.0~1.0:9.0がより好ましく、1.0:1.5~1.0:4.0が更に好ましい。
【0024】
<重合開始剤>
重合開始剤は、光や熱等のエネルギーによって、ラジカルやカチオンなどの活性種を生成し、重合性化合物Xの重合を開始させることが可能な材料である。重合開始剤としては、公知のラジカル重合開始剤やカチオン重合開始剤、塩基発生剤等を、1種単独もしくは2種以上を組み合わせて用いることができ、中でも光ラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。
【0025】
光ラジカル重合開始剤としては、光ラジカル発生剤を用いることができる。例えば、商品名イルガキュアーやダロキュアで知られるミヒラーケトンやベンゾフェノンのような光ラジカル重合開始剤、より具体的な化合物としては、ベンゾフェノン、アセトフェノン誘導体、例えばα-ヒドロキシ-もしくは、α-アミノセトフェノン、4-アロイル-1,3-ジオキソラン、ベンジルケタール、2,2-ジエトキシアセトフェノン、p-ジメチルアミノアセトフェン、p-ジメチルアミノプロピオフェノン、ベンゾフェノン、2-クロロベンゾフェノン、pp’-ジクロロベンゾフェン、pp’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンジルジメチルケタール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾインパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、メチルベンゾイルフォーメート、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインn-ブチルエーテル、ベンゾインn-プロピル、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モリフォリノプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(ダロキュア1173)、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルフォスフィンオキサイド、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンモノアシルホスフィンオキシド、ビスアシルホスフィンオキシド又はチタノセン、フルオレセン、アントラキノン、チオキサントン又はキサントン、ロフィンダイマー、トリハロメチル化合物又はジハロメチル化合物、活性エステル化合物、有機ホウ素化合物、等が好適に使用される。
更に、ビスアジド化合物のような光架橋型ラジカル発生剤を同時に含有させても構わない。又、熱のみで重合させる場合は通常のラジカル発生剤であるazobisisobutyronitrile(AIBN)等の熱重合開始剤を使用することができる。
【0026】
重合開始剤の含有量は、十分な硬化速度を得るために、重合性化合物Xの総質量を100.0質量%とした場合に、0.05質量%以上10.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上5.0質量%以下であることがより好ましい。
【0027】
<樹脂Xの多孔質化条件>
樹脂Xの多孔質体である多孔質樹脂Xは、液体組成物X中において生じる重合誘起相分離により形成される。重合誘起相分離は、重合性化合物Xとポロジェンは相溶するが、重合性化合物Xが重合していく過程で生じる重合物(樹脂X)とポロジェンは相溶しない(相分離を生じる)状態を表す。相分離により多孔質体を得る方法は他にも存在するが、重合誘起相分離の方法を用いることで、網目構造を有する多孔質体を形成できるために、薬品や熱に対する耐性の高い多孔質体が期待できる。また、他の方法と比較して、プロセス時間が短く、表面修飾が容易といったメリットも挙げられる。
【0028】
次に、重合誘起相分離を用いた多孔質樹脂Xの形成プロセスについて説明する。重合性化合物Xは、光照射等により重合反応を生じて樹脂Xを形成する。このプロセスの間、成長中の樹脂Xにおけるポロジェンに対する溶解度が減少し、樹脂Xとポロジェンの間における相分離が生じる。最終的に、樹脂Xは、ポロジェン等が孔を満たしている網目状の多孔質構造を形成する。これを乾燥すると、ポロジェン等は除去され、多孔質樹脂Xが残る。そのため、多孔質樹脂Xを形成するために、重合性化合物Xとポロジェンとの相溶性を表す条件、及び樹脂Xとポロジェンとの相溶性を表す条件が検討される。
【0029】
-重合性化合物Xとポロジェンとの相溶性を表す条件-
重合性化合物Xとポロジェンとが相溶することを表す条件としては、例えば、液体組成物Xを撹拌しながら測定した液体組成物Xの波長550nmにおける光の透過率が30%以上であることが挙げられる。本条件を満たすか否かを判断する測定方法は次の通りである。
まず、液体組成物Xを石英セルに注入し、攪拌子を用いて300rpmで攪拌させながら、液体組成物Xの波長550nmにおける光(可視光)の透過率を測定する。このとき、光の透過率が30%以上である場合を重合性化合物Xとポロジェンとが相溶の状態、30%未満である場合を重合性化合物Xとポロジェンとが非相溶の状態であると判断する。なお、光の透過率の測定に関する諸条件を以下に示す。
・石英セル:スクリューキャップ付き特殊ミクロセル(商品名:M25-UV-2)
・透過率測定装置:Ocean Optics社製USB4000
・撹拌速度:300rpm
・測定波長:550nm
・リファレンス:石英セル内が空気の状態で、波長550nmにおける光の透過率を測定
して取得する(透過率:100%)
【0030】
-樹脂Xとポロジェンとの相溶性を表す条件-
樹脂Xとポロジェンとが相溶しない(相分離を生じる)ことを表す条件としては、例えば、液体組成物Xを用いて作製したヘイズ測定用素子におけるヘイズ値の上昇率が1.0%以上であることが挙げられる。本条件を満たすか否かを判断する測定方法は次の通りである。
まず、無アルカリガラス基板上に、スピンコートにより樹脂微粒子を基板上に均一分散させ、ギャップ剤とする。続いて、ギャップ剤を塗布した基板を、ギャップ剤を塗布していない無アルカリガラス基板と、ギャップ剤を塗布した面を挟むようにして互いに貼り合わせる。その後、液体組成物Xを、貼り合わせた基板間に毛細管現象を利用して充填し、「UV照射前ヘイズ測定用素子」を作製する。続いて、UV照射前ヘイズ測定用素子にUV照射して液体組成物Xを硬化させる。最後に基板の周囲を封止剤で封止することで「ヘイズ測定用素子」を作製する。作製時の諸条件を以下に示す。
・無アルカリガラス基板:日本電気硝子製、40mm、t=0.7mm、OA-10G
・ギャップ剤:積水化学製、樹脂微粒子ミクロパールGS-L100、平均粒子径100μm
・スピンコート条件:分散液滴下量150μL、回転数1000rpm、回転時間30s
・充填した液体組成物X量:160μL
・UV照射条件:光源としてUV-LEDを使用、光源波長365nm、照射強度30mW/cm、照射時間20s
・封止剤:TB3035B(Three Bond社製)
次に、作製したUV照射前ヘイズ測定用素子とヘイズ測定用素子を用いてヘイズ値(曇り度)を測定する。UV照射前ヘイズ測定用素子における測定値をリファレンス(ヘイズ値0)とし、ヘイズ測定用素子における測定値(ヘイズ値)のUV照射前ヘイズ測定用素子における測定値に対する上昇率を算出する。ヘイズ測定用素子におけるヘイズ値は、重合性化合物Xが重合することにより形成される樹脂Xとポロジェンとの相溶性が低いほど高くなり、相溶性が高いほど低くなる。また、ヘイズ値が高いほど重合性化合物Xが重合することにより形成される樹脂Xが多孔質構造を形成しやすくなることを示す。このとき、ヘイズ値の上昇率が1.0%以上である場合を樹脂Xとポロジェンとが非相溶の状態、1.0%未満である場合を樹脂Xとポロジェンとが相溶の状態であると判断する。なお、測定に用いた装置を以下に示す。
・ヘイズ測定装置:Haze meter NDH5000 日本電色工業製
【0031】
<液体組成物Xの製造方法>
液体組成物Xは、重合開始剤を重合性化合物Xに溶解させる工程、ポロジェンや他の成分を更に溶解させる工程、及び均一な溶液とするために撹拌する工程などを経て作製するのが好ましい。
【0032】
<液体組成物Xの物性>
液体組成物Xの粘度は、液体組成物Xを付与する際の作業性の観点から25℃において、1.0mPa・s以上150.0mPa・s以下が好ましく、1.0mPa・s以上30.0mPa・s以下がより好ましく、1.0mPa・s以上25.0mPa・s以下が特に好ましい。液体組成物Xの粘度が1.0mPa・s以上30.0mPa・s以下であることにより、液体組成物Xをインクジェット方式に適用する場合においても、良好な吐出性が得られる。ここで、粘度は、例えば、粘度計(装置名:RE-550L、東機産業株式会社製)などを使用して測定することができる。
【0033】
<<液体組成物Y>>
液体組成物Yは、多孔質樹脂を形成する液体組成物Xと併用する液体である。液体組成物Yは、例えば、液体組成物Xの拡散を抑制し、所定の位置に多孔質樹脂を形成させるために用いられることが好ましい。具体的には、例えば、多孔質基材上に多孔質樹脂を形成させる場合において、液体組成物Xが付与される前の多孔質基材に対して液体組成物Yを付与し、液体組成物Xの多孔質基材に対する浸透を抑制するために用いられることが好ましい。液体組成物Xの多孔質基材に対する浸透が抑制されることで、多孔質樹脂の一部が多孔質基材中で形成されることにより、多孔質基材の機能が低下することを抑制することができる。
【0034】
液体組成物Yは、溶媒Y、及び必要に応じてその他成分を含む。また、液体組成物Yは、単独で用いた場合に(言い換えると、液体組成物Xとともに使用されなかった場合に)多孔質樹脂を形成しないことが好ましい。すなわち、液体組成物Yは、実質的に重合性化合物を含まないことが好ましい。なお、実質的に重合性化合物を含まないとは、液体組成物Y中における重合性化合物の有無を公知かつ本技術分野における技術常識の手法で確認した場合において、重合性化合物を検出できないことを表す。
【0035】
<溶媒Y>
溶媒Yは、液体組成物X及び液体組成物Yからなる液体組成物Zにおいて、後述する所定の要件を満たす限り特に限定されない。溶媒Yは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。なお、本開示において、溶媒Yは、溶媒Xと異なり、ポロジェンと称さない。
【0036】
溶媒Yの1種単独としての沸点または2種以上を併用した場合の沸点は、常圧において、50℃以上250℃以下であることが好ましく、70℃以上200℃以下であることがより好ましい。沸点が50℃以上であることにより、室温付近における溶媒Yの気化が抑制されて液体組成物Yの取扱が容易になり、液体組成物Y中における溶媒Yの含有量の制御が容易になる。また、沸点が250℃以下であることにより、多孔質樹脂形成後に溶媒Yを乾燥させる工程における時間が短縮されて、生産性が向上する。また、多孔質樹脂の内部に残存する溶媒Yの量を抑制することができるので、多孔質樹脂を物質間の分離を行う物質分離層や反応場としての反応層などの機能層として利用する場合に品質が向上する。
また、溶媒Yの1種単独としての沸点または2種以上を併用した場合の沸点は、常圧において、120℃以上であることが好ましい。
【0037】
溶媒Yとしては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコール類、シクロヘキサノン等のケトン類、炭酸ジエチル等のエステル類、NNジメチルアセトアミド等のアミド類等を挙げることができる。また、エタノール、1,3-ブタンジオール等の液体も挙げることができる。
なお、本開示では、上記の例示された液体であれば常に溶媒Yに該当するわけではない。本開示における溶媒Yとは、上記の通り、液体組成物X及び液体組成物Yからなる液体組成物Zにおいて後述する所定の要件を満たす液体である。
【0038】
液体組成物Y中における溶媒Yの含有量は、液体組成物Y全量に対して、60.0質量%以上が好ましく、70.0質量%以上がより好ましく、80.0質量%以上が更に好ましく、90.0質量%以上が特に好ましい。また、液体組成物Y全量(100質量%)が溶媒Yであってもよい。
【0039】
<液体組成物Yの物性>
液体組成物Yの粘度は、液体組成物Yを付与する際の作業性の観点から25℃において、1.0mPa・s以上150.0mPa・s以下が好ましく、1.0mPa・s以上30.0mPa・s以下がより好ましく、1.0mPa・s以上25.0mPa・s以下が特に好ましい。液体組成物Yの粘度が1.0mPa・s以上30.0mPa・s以下であることにより、液体組成物Yをインクジェット方式に適用する場合においても、良好な吐出性が得られる。ここで、粘度は、例えば、粘度計(装置名:RE-550L、東機産業株式会社製)などを使用して測定することができる。
【0040】
<<液体組成物Z>>
液体組成物Zは、液体組成物Xおよび液体組成物Yが接触したとしても、液体組成物Xおよび液体組成物Yの接触領域において形成される樹脂が多孔質化に優れる場合の条件を提示するための試験に用いられる液体である。従って、液体組成物Z自体は、液体組成物Xおよび液体組成物Yと異なり、液体組成物セットの構成ではない。
【0041】
液体組成物Zは、10.0質量%の液体組成物X及び90.0質量%の液体組成物Yの混合物からなる液体である。従って、液体組成物Zは、重合性化合物X、溶媒X、及び重合開始剤などの液体組成物Xに由来する成分と、溶媒Yなどの液体組成物Yに由来する成分と、を含む。
また、本開示では、液体組成物Zに含まれる重合性化合物を重合性化合物Zと表し、液体組成物Zに含まれる溶媒を溶媒Zと表す。すなわち、重合性化合物Zは重合性化合物Xなどを表し、溶媒Zは溶媒X及び溶媒Yなどを表す。
【0042】
まず、液体組成物Zを用い、液体組成物Xおよび液体組成物Yの接触領域において形成される樹脂が多孔質化に優れる場合の条件を提示するための試験を行う理由について説明する。
液体組成物Xおよび液体組成物Yを併用したことで、液体組成物Xおよび液体組成物Yが接触した場合、接触領域(液体組成物Xおよび液体組成物Yの界面付近)において液体組成物Xおよび液体組成物Yが部分的に混合して液体組成物Xおよび液体組成物Yの濃度勾配が生じる。この濃度勾配を生じた接触領域においても、液体組成物Xに含まれる重合性化合物Xを材料として多孔質樹脂を形成可能であるためには、液体組成物Xに由来する成分の濃度が低く且つ液体組成物Yに由来する成分の濃度が高い場合においても多孔質樹脂を形成可能な要件を特定できればよい。そこで、10.0質量%の液体組成物X及び90.0質量%の液体組成物Yからなる液体組成物Zにおいて多孔質樹脂を形成可能な条件を以下で詳細に説明する。なお、以降説明では、液体組成物Zを用いた場合に形成される樹脂を樹脂Zと称し、樹脂Zの多孔質体を多孔質樹脂Zと称する。
【0043】
<樹脂Zの多孔質化条件>
樹脂Zの多孔質体である多孔質樹脂Zは、液体組成物Z中において生じる重合誘起相分離により形成される。重合誘起相分離は、重合性化合物Zと溶媒Zは相溶するが、重合性化合物Zが重合していく過程で生じる重合物(樹脂Z)と溶媒Zは相溶しない(相分離を生じる)状態を表す。
【0044】
次に、重合誘起相分離を用いた多孔質樹脂Zの形成プロセスについて説明する。重合性化合物Zは、光照射等により重合反応を生じて樹脂Zを形成する。このプロセスの間、成長中の樹脂Zにおける溶媒Zに対する溶解度が減少し、樹脂Zと溶媒Zの間における相分離が生じる。最終的に、樹脂Zは、溶媒Z等が孔を満たしている網目状の多孔質構造を形成する。これを乾燥すると、溶媒Z等は除去され、多孔質樹脂Zが残る。そのため、多孔質樹脂Zを形成するために、重合性化合物Zと溶媒Zとの相溶性を表す条件、及び樹脂Zと溶媒Zとの相溶性を表す条件が検討される。
【0045】
-重合性化合物Zと溶媒Zとの相溶性を表す条件-
重合性化合物Zと溶媒Zとが相溶することを表す条件としては、例えば、液体組成物Zを撹拌しながら測定した液体組成物Zの波長550nmにおける光の透過率が30%以上であることが挙げられる。本条件を満たすか否かを判断する測定方法は次の通りである。
まず、液体組成物Zを石英セルに注入し、攪拌子を用いて300rpmで攪拌させながら、液体組成物Zの波長550nmにおける光(可視光)の透過率を測定する。このとき、光の透過率が30%以上である場合を重合性化合物Zと溶媒Zとが相溶の状態、30%未満である場合を重合性化合物Zと溶媒Zとが非相溶の状態であると判断する。なお、光の透過率の測定に関する諸条件を以下に示す。
・石英セル:スクリューキャップ付き特殊ミクロセル(商品名:M25-UV-2)
・透過率測定装置:Ocean Optics社製USB4000
・撹拌速度:300rpm
・測定波長:550nm
・リファレンス:石英セル内が空気の状態で、波長550nmにおける光の透過率を測定
して取得する(透過率:100%)
【0046】
-樹脂Zと溶媒Zとの相溶性を表す条件-
樹脂Zと溶媒Zとが相溶しない(相分離を生じる)ことを表す条件としては、例えば、液体組成物Zを用いて作製したヘイズ測定用素子におけるヘイズ値の上昇率が1.0%以上であることが挙げられる。本条件を満たすか否かを判断する測定方法は次の通りである。
まず、無アルカリガラス基板上に、スピンコートにより樹脂微粒子を基板上に均一分散させ、ギャップ剤とする。続いて、ギャップ剤を塗布した基板を、ギャップ剤を塗布していない無アルカリガラス基板と、ギャップ剤を塗布した面を挟むようにして互いに貼り合わせる。その後、液体組成物Zを、貼り合わせた基板間に毛細管現象を利用して充填し、「UV照射前ヘイズ測定用素子」を作製する。続いて、UV照射前ヘイズ測定用素子にUV照射して液体組成物Zを硬化させる。最後に基板の周囲を封止剤で封止することで「ヘイズ測定用素子」を作製する。作製時の諸条件を以下に示す。
・無アルカリガラス基板:日本電気硝子製、40mm、t=0.7mm、OA-10G
・ギャップ剤:積水化学製、樹脂微粒子ミクロパールGS-L100、平均粒子径100μm
・スピンコート条件:分散液滴下量150μL、回転数1000rpm、回転時間30s
・充填した液体組成物Z量:160μL
・UV照射条件:光源としてUV-LEDを使用、光源波長365nm、照射強度30mW/cm、照射時間20s
・封止剤:TB3035B(Three Bond社製)
次に、作製したUV照射前ヘイズ測定用素子とヘイズ測定用素子を用いてヘイズ値(曇り度)を測定する。UV照射前ヘイズ測定用素子における測定値をリファレンス(ヘイズ値0)とし、ヘイズ測定用素子における測定値(ヘイズ値)のUV照射前ヘイズ測定用素子における測定値に対する上昇率を算出する。ヘイズ測定用素子におけるヘイズ値は、重合性化合物Zが重合することにより形成される樹脂Zと溶媒Zとの相溶性が低いほど高くなり、相溶性が高いほど低くなる。また、ヘイズ値が高いほど重合性化合物Zが重合することにより形成される樹脂Zが多孔質構造を形成しやすくなることを示す。このとき、ヘイズ値の上昇率が1.0%以上である場合を樹脂Zと溶媒Zとが非相溶の状態、1.0%未満である場合を樹脂Zと溶媒Zとが相溶の状態であると判断する。なお、測定に用いた装置を以下に示す。
・ヘイズ測定装置:Haze meter NDH5000 日本電色工業製
【0047】
<樹脂Zの多孔質化条件を具備する方法>
樹脂Zの多孔質化条件を具備する方法の一例を説明する。多孔質樹脂Zを形成するためには、上記の通り、重合性化合物Zと溶媒Zとの相溶性が高く、樹脂Zと溶媒Zとの相溶性を低いことが求められる。この相溶性は、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)を通じて予測することができるため、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)について説明する。
【0048】
-ハンセン溶解度パラメータ(HSP)-
ハンセン溶解度パラメータ(HSP)とは、2種の物質の相溶性を予測するのに有用なツールであって、チャールズハンセン(Charles M.Hansen)によって発見されたパラメータである。ハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、実験的及び理論的に誘導された下記3つのパラメータ(δD、δP、及びδH)を組み合わせることにより表される。ハンセン溶解度パラメータ(HSP)の単位は、MPa0.5又は(J/cm0.5が用いられる。本開示では(J/cm0.5を用いた。
・δD:ロンドン分散力に由来するエネルギー。
・δP:双極子相互作用に由来するエネルギー。
・δH:水素結合力に由来するエネルギー。
ハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、(δD,δP,δH)のように表されるベクトル量であり、3つのパラメータを座標軸とする3次元空間(ハンセン空間)上にプロットして表される。一般的に使用される物質のハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、データベース等の公知の情報源があるため、例えば、データベースを参照することによって、所望の物質のハンセン溶解度パラメータ(HSP)を入手することができる。データベースにハンセン溶解度パラメータ(HSP)が登録されていない物質は、例えばHansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP)等のコンピュータソフトウェアを用いることによって、物質の化学構造や、後述するハンセン溶解球法からハンセン溶解度パラメータ(HSP)を計算することができる。2種以上の物質を含む混合物のハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、各物質のハンセン溶解度パラメータ(HSP)に、混合物全体に対する各物質の体積比を乗じた値のベクトル和として算出される。なお、本開示では、データベース等の公知の情報源に基づいて入手される溶媒Zのハンセン溶解度パラメータ(HSP)を「溶媒のハンセン溶解度パラメータ」と表す。
また、溶質のハンセン溶解度パラメータ(HSP)と溶液のハンセン溶解度パラメータ(HSP)とに基づく相対的エネルギー差(RED)は、下記式で表される。
【数1】
上記式中、Raは、溶質のハンセン溶解度パラメータ(HSP)と溶液のハンセン溶解度パラメータ(HSP)との相互作用間距離を示し、Roは、溶質の相互作用半径を示す。ハンセン溶解度パラメータ(HSP)間の相互作用間距離(Ra)は2種の物質の距離を示す。その値が小さいほど、3次元空間(ハンセン空間)内で、2種の物質がより接近することを意味し、互いに溶解する(相溶する)可能性がより高くなることを示す。
2種の物質(溶質A及び溶液B)に対するそれぞれのハンセン溶解度パラメータ(HSP)が下記のようであると仮定すれば、Raは下記のように計算することができる。
・HSP=(δD、δP、δH
・HSP=(δD、δP、δH
・Ra=[4×(δD-δD+(δP-δP+(δH-δH1/2
Ro(溶質の相互作用半径)は、例えば、次に説明するハンセン溶解球法により決定することができる。
【0049】
-ハンセン溶解球法-
最初に、Roを求めたい物質と、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)が公知の数十種の評価用溶媒とを準備し、各評価用溶媒に対する対象の物質の相溶性試験を行う。相溶性試験において、相溶性を示した評価用溶媒のハンセン溶解度パラメータ(HSP)と相溶性を示さなかった評価用溶媒のハンセン溶解度パラメータ(HSP)とを、ハンセン空間上に各々プロットする。プロットされた各評価用溶媒のハンセン溶解度パラメータ(HSP)に基づいて、相溶性を示した評価用溶媒群のハンセン溶解度パラメータ(HSP)を包含し、相溶性を示さなかった評価用溶媒群のハンセン溶解度パラメータ(HSP)を包含しないような仮想の球体(ハンセン球)をハンセン空間上に作成する。ハンセン球の半径が物質の相互作用半径R、中心が物質のハンセン溶解度パラメータ(HSP)となる。なお、相互作用半径R及びハンセン溶解度パラメータ(HSP)を求めたい物質と、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)が公知の評価用溶媒との間における相溶性の評価基準(相溶したか否かの判断基準)は評価者自身が設定する。本開示における評価基準は後述する。
【0050】
-重合性化合物Zのハンセン溶解度パラメータ(HSP)及び相互作用半径-
本開示における重合性化合物Zのハンセン溶解度パラメータ(HSP)、及び重合性化合物Zの相互作用半径はハンセン溶解球法により決定する。なお、上記の通り、ハンセン溶解球法における相溶性の評価基準は評価者自身が設定するものであるため、下記基準により求められる本開示における重合性化合物Zのハンセン溶解度パラメータ(HSP)を「重合性化合物Zのハンセン溶解度パラメータC」と表し、重合性化合物Zの相互作用半径を「重合性化合物Zの相互作用半径D」と表す。言い換えると、「重合性化合物Zのハンセン溶解度パラメータC」及び「重合性化合物Zの相互作用半径D」は、データベース等の公知の情報源に基づいて入手される「溶媒Zのハンセン溶解度パラメータ」と異なり、評価者自身が設定した相溶性の評価基準を含むハンセン溶解球法に基づいて入手される。
【0051】
重合性化合物Zのハンセン溶解度パラメータC及び重合性化合物Zの相互作用半径Dは、下記[1-1]および[1-2]に従い、重合性化合物Zの評価用溶媒に対する相溶性の評価(「重合性化合物Z及び評価用溶媒を含む透過率測定用組成物を撹拌しながら測定した透過率測定用組成物の波長550nmにおける光の透過率」に基づく評価)により求められる。
【0052】
[1-1]透過率測定用組成物の調製
まず、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)を求めたい重合性化合物Zと、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)が公知の数十種の評価用溶媒を準備し、重合性化合物Z、各評価用溶媒、及び重合開始剤を以下に示した比率で混合し、透過率測定用組成物を調製する。ハンセン溶解度パラメータ(HSP)が公知の数十種の評価用溶媒は、下記記載の21種類の評価用溶媒を用いる。
~透過率測定用組成物比率~
・ハンセン溶解度パラメータ(HSP)を求めたい重合性化合物Z:28.0質量%
・ハンセン溶解度パラメータ(HSP)が公知の評価用溶媒:70.0質量%
・重合開始剤(Irgacure819、BASF社製):2.0質量%
~評価用溶媒群(21種類)~
エタノール、2-プロパノール、メシチレン、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、N-メチル2-ピロリドン、γーブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、炭酸プロピレン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、アセトン、nーテトラデカン、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2-エチルヘキサノール、ジイソブチルケトン、ベンジルアルコール、1-ブロモナフタレン
【0053】
[1-2]光の透過率の測定
作製した透過率測定用組成物を石英セルに注入し、攪拌子を用いて300rpmで攪拌させながら、透過率測定用組成物の波長550nmにおける光(可視光)の透過率を測定する。本開示では、光の透過率が30%以上である場合を重合性化合物Zと評価用溶媒とが相溶の状態、30%未満である場合を重合性化合物Zと評価用溶媒とが非相溶の状態であると判断する。なお、光の透過率の測定に関する諸条件を以下に示す。
・石英セル:スクリューキャップ付き特殊ミクロセル(商品名:M25-UV-2)
・透過率測定装置:Ocean Optics社製USB4000
・撹拌速度:300rpm
・測定波長:550nm
・リファレンス:石英セル内が空気の状態で、波長550nmにおける光の透過率を測定
して取得する(透過率:100%)
【0054】
-重合性化合物Zが重合することにより形成される樹脂Zのハンセン溶解度パラメータ(HSP)及び相互作用半径-
本開示における重合性化合物Zが重合することにより形成される樹脂Zのハンセン溶解度パラメータ(HSP)、及び重合性化合物Zが重合することにより形成される樹脂Zの相互作用半径はハンセン溶解球法により決定する。なお、上記の通り、ハンセン溶解球法における相溶性の評価基準は評価者自身が設定するものであるため、下記基準により求められる本開示における重合性化合物Zが重合することにより形成される樹脂Zのハンセン溶解度パラメータ(HSP)を「樹脂Zのハンセン溶解度パラメータA」と表し、重合性化合物Zが重合することにより形成される樹脂Zの相互作用半径を「樹脂Zの相互作用半径B」と表す。言い換えると、「樹脂Zのハンセン溶解度パラメータA」及び「樹脂Zの相互作用半径B」は、データベース等の公知の情報源に基づいて入手される「溶媒Zのハンセン溶解度パラメータ」と異なり、評価者自身が設定した相溶性の評価基準を含むハンセン溶解球法に基づいて入手される。
【0055】
樹脂Zのハンセン溶解度パラメータA及び樹脂Zの相互作用半径Bは、下記[2-1]、[2-2]および[2-3]に従い、樹脂Zの評価用溶媒に対する相溶性の評価(「重合性化合物Z及び評価用溶媒を含むヘイズ測定用組成物を用いて作製したヘイズ測定用素子におけるヘイズ値(曇り度)の上昇率」に基づく評価)により求められる。
【0056】
[2-1]ヘイズ測定用組成物の調製
まず、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)を求めたい樹脂Zの前駆体(重合性化合物Z)と、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)が公知の数十種の評価用溶媒を準備し、重合性化合物Z、各評価用溶媒、及び重合開始剤を以下に示した比率で混合し、ヘイズ測定用組成物を調製する。ハンセン溶解度パラメータ(HSP)が公知の数十種の評価用溶媒は、下記記載の21種類の評価用溶媒を用いる。
~ヘイズ測定用組成物比率~
・ハンセン溶解度パラメータ(HSP)を求めたい樹脂Zの前駆体(重合性化合物Z):28.0質量%
・ハンセン溶解度パラメータ(HSP)が公知の評価用溶媒:70.0質量%
・重合開始剤(Irgacure819、BASF社製):2.0質量%
~評価用溶媒群(21種類)~
エタノール、2-プロパノール、メシチレン、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、N-メチル2-ピロリドン、γーブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、炭酸プロピレン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、アセトン、nーテトラデカン、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2-エチルヘキサノール、ジイソブチルケトン、ベンジルアルコール、1-ブロモナフタレン
【0057】
[2-2]ヘイズ測定用素子の作製
無アルカリガラス基板上に、スピンコートにより樹脂微粒子を基板上に均一分散させ、ギャップ剤とする。続いて、ギャップ剤を塗布した基板を、ギャップ剤を塗布していない無アルカリガラス基板と、ギャップ剤を塗布した面を挟むようにして互いに貼り合わせる。次に[2-1]で調製したヘイズ測定用組成物を、貼り合わせた基板間に毛細管現象を利用して充填し、「UV照射前ヘイズ測定用素子」を作製する。続いて、UV照射前ヘイズ測定用素子にUV照射してヘイズ測定用組成物を硬化させる。最後に基板の周囲を封止剤で封止することで「ヘイズ測定用素子」を作製する。作製時の諸条件を以下に示す。
・無アルカリガラス基板:日本電気硝子製、40mm、t=0.7mm、OA-10G
・ギャップ剤:積水化学製、樹脂微粒子ミクロパールGS-L100、平均粒子径100μm
・スピンコート条件:分散液滴下量150μL、回転数1000rpm、回転時間30s
・充填したヘイズ測定用組成物量:160μL
・UV照射条件:光源としてUV-LEDを使用、光源波長365nm、照射強度30mW/cm、照射時間20s
・封止剤:TB3035B(Three Bond社製)
【0058】
[2-3]ヘイズ値(曇り度)の測定
作製したUV照射前ヘイズ測定用素子とヘイズ測定用素子を用いてヘイズ値(曇り度)を測定する。UV照射前ヘイズ測定用素子における測定値をリファレンス(ヘイズ値0)とし、ヘイズ測定用素子における測定値(ヘイズ値)のUV照射前ヘイズ測定用素子における測定値に対する上昇率を算出する。ヘイズ測定用素子におけるヘイズ値は、重合性化合物Zが重合することにより形成される樹脂Zと評価用溶媒との相溶性が低いほど高くなり、相溶性が高いほど低くなる。また、ヘイズ値が高いほど重合性化合物Zが重合することにより形成される樹脂Zが多孔質構造を形成しやすくなることを示す。本開示では、ヘイズ値の上昇率が1.0%以上である場合を樹脂Zと評価用溶媒とが非相溶の状態、1.0%未満である場合を樹脂Zと評価用溶媒とが相溶の状態であると判断する。なお、測定に用いた装置を以下に示す。
・ヘイズ測定装置:Haze meter NDH5000 日本電色工業製
【0059】
-樹脂Zと溶媒Zのハンセン溶解度パラメータ(HSP)に基づく相対的エネルギー差(RED)-
上記の通り、重合性化合物Z及び評価用溶媒を含むヘイズ測定用組成物を用いて作製したヘイズ測定用素子におけるヘイズ値(曇り度)の上昇率に基づいて決定される重合性化合物Zが重合することにより形成される樹脂Zのハンセン溶解度パラメータA、当該樹脂Zの相互作用半径B、並びに溶媒Zのハンセン溶解度パラメータ、から下記式1に基づいて算出される相対的エネルギー差(RED)は、1.00以上であることが好ましく、1.10以上がより好ましく、1.20以上が更に好ましく、1.30以上が特に好ましい。
【数2】
樹脂Zと溶媒Zのハンセン溶解度パラメータ(HSP)に基づく相対的エネルギー差(RED)が1.00以上である場合、重合性化合物Zが液体組成物Z中において重合して形成される樹脂Zと溶媒Zが相分離を起こしやすくなり、多孔質樹脂がより形成されやすくなるため好ましい。
【0060】
-重合性化合物Zと溶媒Zのハンセン溶解度パラメータ(HSP)に基づく相対的エネルギー差(RED)-
上記の通り、重合性化合物Z及び評価用溶媒を含む透過率測定用組成物を撹拌しながら測定した透過率測定用組成物の波長550nmにおける光の透過率に基づいて決定される重合性化合物Zのハンセン溶解度パラメータC、当該重合性化合物Zと評価用溶媒の相溶性に基づいて決定される重合性化合物Zの相互作用半径D、並びに溶媒Zのハンセン溶解度パラメータ、から下記式2に基づいて算出される相対的エネルギー差(RED)は、1.05以下であることが好ましく、0.90以下がより好ましく、0.80以下が更に好ましく、0.70以下が特に好ましい。
【数3】

重合性化合物Zと溶媒Zのハンセン溶解度パラメータ(HSP)に基づく相対的エネルギー差(RED)が1.05以下である場合、重合性化合物Zと溶媒Zが相溶性を示しやすくなり、0に近づくに従ってより相溶性を示す。そのため、相対的エネルギー差(RED)が1.05以下であることで、重合性化合物Zを溶媒Zに溶解させてから経時的に重合性化合物Zが析出しないような高い溶解安定性を示す液体組成物Zが得られる。
【0061】
[多孔質樹脂製造装置、多孔質樹脂製造方法]
図1は、本開示の多孔質樹脂製造方法を実現するための多孔質樹脂製造装置の一例を示す模式図である。
【0062】
<<多孔質樹脂製造装置>>
多孔質樹脂製造装置100は、上記の液体組成物X及び液体組成物Yを用いて多孔質樹脂を製造する装置である。多孔質樹脂製造装置100は、印刷基材4上に、液体組成物X及び液体組成物Yをそれぞれ付与して液体組成物Xの層及び液体組成物Yの層をそれぞれ形成する工程を含む印刷工程部10と、液体組成物Xの層の重合開始剤を活性化させて重合性化合物の重合により多孔質樹脂前駆体6を得る重合工程を含む重合工程部20と、多孔質樹脂前駆体6を加熱して多孔質樹脂を得る加熱工程を含む加熱工程部30を備える。多孔質樹脂製造装置100は、印刷基材4を搬送する搬送部5を備え、搬送部5は、印刷工程部10、重合工程部20、加熱工程部30の順に印刷基材4をあらかじめ設定された速度で搬送する。
【0063】
<印刷工程部>
印刷工程部10は、印刷基材4上に液体組成物X及び液体組成物Yをそれぞれ付与する付与工程を実現する付与手段の一例である印刷装置1aと、液体組成物X及び液体組成物Yをそれぞれ収容する収容容器1bと、収容容器1bに貯留された液体組成物X及び液体組成物Yのそれぞれを印刷装置1aに供給する供給チューブ1cを備える。なお、付与手段のうち液体組成物Xを付与する手段を付与手段Xとし、液体組成物Yを付与する手段を付与手段Yとする。また、付与工程のうち液体組成物Xを付与する工程を付与工程Xとし、液体組成物Yを付与する工程を付与工程Yとする。
【0064】
収容容器1bは液体組成物X及び液体組成物Yをそれぞれ収容し(図1では、液体組成物X及び液体組成物Yを簡易的に液体組成物7と示す)、印刷工程部10は、印刷装置1aから液体組成物X及び液体組成物Yをそれぞれ吐出して、印刷基材4上に液体組成物X及び液体組成物Yをそれぞれ付与して液体組成物Xの層及び液体組成物Yの層を薄膜状に形成する。このとき、本開示における付与工程X及び付与工程Yの順番は、付与工程Yが先に実行され、付与工程Xがあとに実行される。但し、付与工程Yが先に実行される場合、付与工程Xにおいて、液体組成物Xは、液体組成物Yの付与された領域と少なくとも一部が重複するように付与されることが好ましい。
なお、収容容器1bは、多孔質樹脂製造装置100と一体化した構成であってもよいが、多孔質樹脂製造装置100から取り外し可能な構成であってもよい。また、多孔質樹脂製造装置100と一体化した収容容器や多孔質樹脂製造装置100から取り外し可能な収容容器に添加するために用いられる容器であってもよい。
【0065】
印刷装置1aは、液体組成物X及び液体組成物Yをそれぞれ付与できるものであれば、特に制限はなく、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェット印刷法等の各種印刷方法に応じた任意の印刷装置を用いることができる。
【0066】
収容容器1bや供給チューブ1cは、液体組成物X及び液体組成物Yのそれぞれを安定して貯蔵および供給できるものであれば任意に選択可能である。収容容器1bや供給チューブ1cを構成する材料は、紫外および可視光の比較的短波長領域において遮光性を有することが好ましい。これにより、液体組成物Xが外光により重合開始されることが防止される。
【0067】
<重合工程部>
重合工程部20は、図1に示すように、液体組成物を熱、光などの活性エネルギー線を照射することにより硬化させる硬化工程を実現する硬化手段の一例である光照射装置2aと、重合不活性気体を循環させる重合不活性気体循環装置2bを有する。光照射装置2aは、印刷工程部10により形成された液体組成物Xの層及び液体組成物Yの層に重合不活性気体存在下において光を照射し、液体組成物Xの層において光重合を開始させて多孔質樹脂前駆体6を得る。
【0068】
光照射装置2aは、光重合開始剤の吸収波長に応じて適宜選択され、液体組成物Xの層中の重合性化合物の重合を開始および進行させられるものならば特に限定はなく、例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、熱陰極管、冷陰極管、LED等の紫外線光源が挙げられる。ただし、短波長の光ほど一般に深部に到達しやすい傾向を持つため、形成する多孔質膜の厚みに応じて光源を選択することが好ましい。
【0069】
光照射装置2aの光源の照射強度に関しては、照射強度が強すぎると相分離が十分に起きる前に急激に重合が進行する為、多孔質構造が得られにくい傾向がある。また、照射強度が弱すぎる場合は、相分離がミクロスケール以上に進行し多孔質のばらつきや粗大化が起きやすい。また、照射時間も長くなり、生産性が低下する傾向にある。そのため、照射強度としては10mW/cm以上1W/cm以下が好ましく、30mW/cm以上300mW/cm以下がより好ましい。
【0070】
次に、重合不活性気体循環装置2bは、大気中に含まれる重合活性な酸素濃度を低下させ、液体組成物Xの層の表面近傍の重合性化合物Xの重合反応を阻害されることなく進行させる役割を担う。そのため、用いられる重合不活性気体は上記機能を満たすものならば特に制限はなく、例えば窒素や二酸化炭素やアルゴンなどが挙げられる。
【0071】
また、その流量としては阻害低減効果が効果的に得られる事を考慮して、O濃度が20%未満(大気よりも酸素濃度が低い環境)であることが好ましく、0%以上15%以下であることがより好ましく、0%以上5%以下であることが更に好ましい。また、重合不活性気体循環装置2bは安定した重合進行条件を実現させる為に、温度を調節できる温調手段が設けられていることが好ましい。
【0072】
<加熱工程部>
加熱工程部30は、図1に示すように、加熱装置3aを有し、重合工程部20により形成した多孔質樹脂前駆体6に残存する溶媒X及び溶媒Yなどを、加熱装置3aにより加熱して乾燥させて除去する溶媒除去工程を含む。これにより多孔質樹脂を形成することができる。加熱工程部30は、溶媒除去工程を減圧下で実施しても良い。
【0073】
また、加熱工程部30は、多孔質膜前駆体6を加熱装置3aにより加熱して、重合工程部20で実施した重合反応を更に促進させる重合促進工程、および多孔質膜前駆体6に残存する光重合開始剤を、加熱装置3aにより加熱して乾燥させて除去する開始剤除去工程も含む。なお、これらの重合促進工程および開始剤除去工程は、溶媒除去工程と同時ではなく、溶媒除去工程の前または後に実施されても良い。
【0074】
さらに、加熱工程部30は、溶媒除去工程後に、多孔質を減圧下で加熱する重合完了工程を含む。加熱装置3aは、上記機能を満たすものならば特に制限はなく、例えばIRヒーターや温風ヒーターなどが挙げられる。
【0075】
また、加熱温度や時間に関しては、多孔質膜前駆体6に含まれる溶媒X及び溶媒Yなどの沸点や形成膜厚に応じて適宜選択可能である。
【0076】
<印刷基材>
印刷基材4の材料としては透明、不透明を問わずあらゆる材料を用いることができる。すなわち、透明基材として、ガラス基材や各種プラスチックフィルム等の樹脂フィルム基材やまたその複合基板などが、また不透明な基材としてはシリコン基材、ステンレス等の金属基材、又はこれらを積層したものなど、種々の基材を用いることができる。
なお、印刷基材4は、普通紙、光沢紙、特殊紙、布などの記録媒体であってもよい。また、記録媒体としては、低浸透性基材(低吸収性基材)であってもよい。低浸透性基材とは、水透過性、吸収性、又は吸着性が低い表面を有する基材を意味し、内部に多数の空洞があっても外部に開口していない材質も含まれる。低浸透性基材としては、商業印刷に用いられるコート紙や、古紙パルプを中層、裏層に配合して表面にコーティングを施した板紙のような記録媒体等が挙げられる。
また、印刷基材4は、上記の通り、多孔質基材であることが好ましい。多孔質基材である場合、本発明により得られる効果が顕著になるためである。多孔質基材の具体例としては、蓄電素子において用いられる活物質層、蓄電素子又は発電素子において絶縁層として用いられる多孔質シートなどが挙げられる。
【0077】
また、形状に関しても曲面であっても凹凸形状を有するものであっても、印刷工程部10、重合工程部20に適用可能な基材ならば使用することができる。
【0078】
[多孔質樹脂]
液体組成物セットによって形成される多孔質樹脂の膜厚は、特に限定はされないが、重合時の硬化均一性を考慮して0.01μm以上500μm以下であることが好ましく、0.01μm以上100μm以下であることがより好ましく、1μm以上50μm以下であることが更に好ましく、10μm以上20μm以下であることが特に好ましい。膜厚が0.01μm以上であることで、得られる多孔質樹脂の表面積が大きくなり、多孔質樹脂による機能を十分に得ることができる。また、膜厚が500μm以下であることで、膜厚方向において重合時に用いる光や熱のムラが抑制され、膜厚方向において均一な多孔質樹脂を得ることができる。膜厚方向において均一な多孔質樹脂を作製することで多孔質樹脂の構造ムラを抑制し、液体や気体の透過性低下を抑制することができる。なお、多孔質樹脂の膜厚に関しては、多孔質樹脂が使用される用途に応じて適宜調整される。例えば、多孔質樹脂を蓄電素子用絶縁層として用いる場合は、10μm以上20μm以下であることが好ましい。
形成される多孔質樹脂は、特に限定されないが、液体や気体の良好な浸透性を確保する観点から、樹脂の硬化物の三次元分岐網目構造を骨格として有し、多孔質樹脂中の複数の空孔が連続して連結している共連続構造(モノリス構造とも称する)を有することが好ましい。すなわち、多孔質樹脂は多数の空孔を有しており、一つの空孔がその周囲の他の空孔連結した連通性を有して三次元的に広がっていることが好ましい。空孔同士が連通することで、液体や気体の浸み込みが十分に起き、物質分離や反応場といった機能を効率的に発現することができる。
なお、共連続構造を有することで得られる物性の一つとして透気度が挙げられる。多孔質樹脂の透気度は、例えば、JIS P8117に準拠して測定され、500秒/100mL以下である場合が好ましく、300秒/100mL以下である場合がより好ましい。このとき、透気度は、例えば、ガーレー式デンソメーター(東洋精機製作所製)等を用いて測定される。
形成される多孔質樹脂が有する空孔の断面形状は、略円形状、略楕円形状、略多角形状等の様々な形状及び様々な大きさであって構わない。ここで、空孔の大きさとは、断面形状における最も長い部分の長さを指すものとする。空孔の大きさは、走査電子顕微鏡(SEM)で撮影した断面写真から求めることができる。多孔質樹脂の有する空孔の大きさに関しては、特に限定はされないが、液体や気体の浸透性の観点から0.01μm以上10μm以下であることが好ましい。また、多孔質樹脂の空隙率としては、30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。多孔質樹脂の有する空孔の大きさ及び空隙率をこれらの範囲にする方法としては、特に限定されないが、例えば、液体組成物X中における重合性化合物Xの含有量を調整する方法、液体組成物X中におけるポロジェンの含有量を調整する方法、及び活性エネルギー線の照射条件を調整する方法等が挙げられる。
【0079】
<<多孔質樹脂の用途>>
【0080】
<蓄電素子用途又は発電素子用途>
本開示の液体組成物セットを用いて形成される多孔質樹脂は、例えば、蓄電素子用又は発電素子用の絶縁層として用いることができる。言い換えると、本開示の液体組成物セットは、蓄電素子又は発電素子における絶縁層を製造するための液体組成物セットとして用いることができる。これら用途として用いる場合には、例えば、電極基体上に予め形成された活物質層上へ液体組成物Y及び液体組成物Xを順に付与することで絶縁層(セパレーター)を形成することが好ましい。
蓄電素子用又は発電素子用の絶縁層としては、例えば、所定の大きさの空孔や空隙率を有するフィルム状の多孔質絶縁層等を用いることが知られている。一方で、本開示の液体組成物セットを用いた場合、重合性化合物Xの含有量、ポロジェンの含有量、活性エネルギー線の照射条件等を適宜調整することで空孔や空隙率を適宜変更することができ、蓄電素子及び発電素子の性能面における設計自由度を向上させることができる。また、本開示の液体組成物セットは、多様な付与方法に展開可能であるため、例えば、インクジェット方式で付与することができ、蓄電素子及び発電素子の形状面における設計自由度を向上させることができる。また、本開示の液体組成物セットは、活物質層の液体組成物Yが付与された領域に対して液体組成物X付与するため、液体組成物Xが硬化することにより形成される多孔質樹脂は、活物質層内に過度に入り込まずに形成される。これにより、活物質層の機能が低下することが抑制される。また、液体組成物X及び液体組成物Yの接触領域で形成される樹脂の多孔質化が優れるため、絶縁層(セパレーター)の機能が低下することも抑制される。
なお、絶縁層は、正極と負極を隔離し、かつ正極と負極との間のイオン伝導性を確保する部材である。また、本願で絶縁層と表す場合、層状の形状に限られない。
なお、本開示の液体組成物セットは、蓄電素子用又は発電素子用の絶縁層(第一の絶縁層)上に付与されることで、追加的に、多孔質樹脂層からなる絶縁層(第二の絶縁層)を形成することができる。第一の絶縁層上に第二の絶縁層を形成することで、絶縁層全体としての耐熱性、耐衝撃性、耐高温収縮性といった諸機能を追加又は向上させることができる。
【0081】
電極基体は導電性を有する基体であれば、特に制限はなく、一般に蓄電デバイスである2次電池、キャパシター、なかでもリチウムイオン2次電池に好適に用いることができる、アルミ箔、銅箔、ステンレス箔、チタニウム箔および、それらをエッチングして微細な穴を開けたエッチド箔や、リチウムイオンキャパシターに用いられる穴あき電極基体などが用いられる。また、燃料電池のような発電デバイスで用いられるカーボンペーパー繊維状の電極を不織または織状で平面にしたものや上記穴あき電極基体のうち微細な穴を有するものも使用できる。更に、太陽光デバイスの場合、上記電極に加えてガラスやプラスチックスなどの平面基体上に、インジウム・チタン系の酸化物や亜鉛酸化物のような、透明な半導体薄膜を形成したものや、導電性電極膜を薄く蒸着したものを用いることができる。
【0082】
活物質層は、粉体状の活性物質や触媒組成物を液体中に分散し、かかる液を電極基体上に塗布、固定、乾燥することによって形成されており、通常はスプレー、ディスペンサー、ダイコーターや引き上げ塗工を用いた印刷が用いられ、塗布後に乾燥して形成される。
【0083】
正極活物質は、アルカリ金属イオンを可逆的に吸蔵及び放出できる材料であれば特に限定されない。典型的には、アルカリ金属含有遷移金属化合物を正極用活物質として使用できる。例えばリチウム含有遷移金属化合物として、コバルト、マンガン、ニッケル、クロム、鉄及びバナジウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素とリチウムとを含む複合酸化物が挙げられる。例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムなどのリチウム含有遷移金属酸化物、LiFePOなどのオリビン型リチウム塩、二硫化チタン、二硫化モリブデンなどのカルコゲン化合物、二酸化マンガンなどが挙げられる。リチウム含有遷移金属酸化物は、リチウムと遷移金属とを含む金属酸化物または該金属酸化物中の遷移金属の一部が異種元素によって置換された金属酸化物である。異種元素としては、例えばNa、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、Bなどが挙げられ、なかでもMn、Al、Co、NiおよびMgが好ましい。異種元素は1種でもよくまたは2種以上でもよい。これらの正極活物質は単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。ニッケル水素電池における上記活物質としては水酸化ニッケルなどが挙げられる。
【0084】
負極活物質は、アルカリ金属イオンを可逆的に吸蔵及び放出できる材料であれば特に限定されない。典型的には、黒鉛型結晶構造を有するグラファイトを含む炭素材料を負極活物質として使用できる。そのような炭素材料として、天然黒鉛、球状又は繊維状の人造黒鉛、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)等が挙げられる。炭素材料以外の材料としては、チタン酸リチウムが挙げられる。また、リチウムイオン電池のエネルギー密度を高める観点から、シリコン、錫、シリコン合金、錫合金、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化錫等の高容量材料も負極活物質として好適に使用できる。
【0085】
ニッケル水素電池における上記活物質としては水素吸蔵合金としては、AB2系あるいはA2B系の水素吸蔵合金が例示される。
【0086】
正極または負極の結着剤には、例えばPVDF、PTFE、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロースなどが使用可能である。また、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、ヘキサジエンより選択された2種以上の材料の共重合体を用いてもよい。またこれらのうちから選択された2種以上を混合して用いてもよい。また電極に含ませる導電剤には、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維類、フッ化カーボン、アルミニウムなどの金属粉末類、酸化亜鉛やチタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、フェニレン誘導体、グラフェン誘導体などの有機導電性材料などが用いられる。
【0087】
燃料電池での活物質は一般に、カソード電極やアノード電極の触媒として、白金、ルテニウムあるいは白金合金などの金属微粒子をカーボンなどの触媒担体に担持させたものが用いられる。触媒担体の表面に触媒粒子を担持させるには、例えば触媒担体を水中に懸濁させ、触媒粒子の前駆体(塩化白金酸、ジニトロジアミノ白金、塩化第二白金、塩化第一白金、ビスアセチルアセトナート白金、ジクロロジアンミン白金、ジクロロテトラミン白金、硫酸第二白金塩化ルテニウム酸、塩化イリジウム酸、塩化ロジウム酸、塩化第二鉄、塩化コバルト、塩化クロム、塩化金、硝酸銀、硝酸ロジウム、塩化パラジウム、硝酸ニッケル、硫酸鉄、塩化銅などの合金成分を含むもの)を添加し、懸濁液中に溶解させ、アルカリを加えて金属の水酸化物を生成させると共に、触媒担体表面に担持させた触媒担体を得る。かかる触媒担体を電極上に塗布し、水素雰囲気下などで還元させることで、表面に触媒粒子(活物質)が塗布された電極を得る。
【0088】
太陽電池等の場合、活物質は、酸化タングステン粉末や酸化チタン粉末のほかSnO、ZnO、ZrO、Nb、CeO、SiO、Alといった酸化物半導体層があげられ、半導体層には、色素が担持させられており、例えば、ルテニウム・トリス型の遷移金属錯体、ルテニウム-ビス型の遷移金属錯体、オスミウム-トリス型の遷移金属錯体、オスミウム-ビス型の遷移金属錯体、ルテニウム-シス-ジアクア-ビピリジル錯体、フタロシアニン及びポルフィリン、有機-無機のペロブスカイト結晶などの化合物を挙げることができる。
【0089】
-蓄電素子用途における溶媒X、溶媒Y、及び電解質-
液体組成物セットにより形成される多孔質樹脂を蓄電素子用の絶縁層として用いる場合、溶媒X及び溶媒Yは、蓄電素子を構成する電解液に含まれる成分としても用いられることが好ましい。言い換えると、電解液は、溶媒X、溶媒Y、及び後述する電解質を含む溶液であることが好ましい。多孔質樹脂を形成するためだけでなく、電解液に含まれる成分としても好適な溶媒X及び溶媒Yを選択することで、多孔質樹脂形成後に加熱工程等により溶媒X及び溶媒Yを除去する工程および別途電解液を多孔質樹脂に含浸させる工程等を省略することができる。
加熱工程を省略することができた場合、加熱により生じ得る多孔質樹脂へのダメージや多孔質樹脂以外の構成(例えば、電極基体や活物質層など)へのダメージを抑制することができる。特に、多孔質樹脂へのダメージを抑制することで、蓄電素子における短絡や蓄電素子駆動時における反応ムラを抑制することができ、蓄電素子の性能をより向上させる。
また、加熱工程により溶媒X及び溶媒Yを除去する工程を行う場合であったとしても、多孔質中に一部溶媒X及び溶媒Yが残存するときがある。このような残留した溶媒X及び溶媒Yは、蓄電素子内部で予期しない副反応によりガスを生じさせて蓄電素子の性能を低下させる場合があるが、電解液に含まれる成分としても使用可能な溶媒X及び溶媒Y(例えば、副反応等により蓄電素子の性能を低下させにくいもの等)を選択することで、性能の低下を抑制することができる。
【0090】
多孔質樹脂を蓄電素子用の絶縁層として用いる場合に好適に選択される溶媒X及び溶媒Yとしては、それぞれ独立して、蓄電素子使用時(充放電時)に分解反応やガスの発生等が抑制されるものが好ましく、例えば、プロピレンカーボネート(炭酸プロピレン)、エチルメチルカーボネート(炭酸エチルメチル)、ジメチルカーボネート(炭酸ジメチル)、エチレンカーボネート(炭酸エチレン)、アセトニトリル、γ-ブチロラクトン、スルホラン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,2-ジメトキシエタン、1,2-エトキシメトキシエタン、ポリエチレングリコール、アルコール類、及びこれらを混合したもの等を用いることができる。これらの中でも、プロピレンカーボネート(炭酸プロピレン)、エチルメチルカーボネート(炭酸エチルメチル)、ジメチルカーボネート(炭酸ジメチル)、及びエチレンカーボネート(炭酸エチレン)から選ばれる少なくとも1つを用いることが好ましい。
【0091】
多孔質樹脂形成後に加熱工程等により除去される工程が省略される溶媒X及び溶媒Yの沸点は、加熱工程等により除去される工程を要する溶媒X及び溶媒Yの沸点に比べて高いことが好ましい。沸点が高いことで、製造中における溶媒X及び溶媒Yの気化が抑制され、電解液の組成が当初想定していた組成から変化することが抑制される。具体的には、80℃以上であることが好ましく、85℃以上であることがより好ましく、90℃以上であることが更に好ましい。なお、プロピレンカーボネート(炭酸プロピレン)の沸点は240℃であり、エチルメチルカーボネート(炭酸エチルメチル)の沸点は107℃であり、ジメチルカーボネート(炭酸ジメチル)の沸点は90℃であり、エチレンカーボネート(炭酸エチレン)の沸点は244℃である。
【0092】
なお、上記のように、蓄電素子を構成する電解液に含まれる成分としても機能する溶媒X及び溶媒Y用いる場合、図1における多孔質樹脂製造装置100は、加熱工程部30を有していないことが好ましい。
【0093】
電解質は、上記の通り、液体組成物セットにより形成される多孔質樹脂を蓄電素子用の絶縁層として用いる場合等において用いられる成分である。電解質としては、溶媒X及び溶媒Yに溶解可能な固体電解質およびイオン液体等の液体電解質などが挙げられる。液体組成物X又は液体組成物Y中に電解質が含まれることで、多孔質樹脂形成後において、残存成分を構成する溶媒X、溶媒Y、及び電解質を蓄電素子における電解液として機能させることができる。これにより、多孔質樹脂形成後に加熱工程等により溶媒X及び溶媒Yを除去する工程および別途電解液を多孔質樹脂に含浸させる工程等を省略することができる。
加熱工程を省略することができた場合、加熱により生じ得る多孔質樹脂へのダメージや多孔質樹脂以外の構成(例えば、電極基体や活物質層など)へのダメージを抑制することができる。特に、多孔質樹脂へのダメージを抑制することで、蓄電素子における短絡や蓄電素子駆動時における反応ムラを抑制することができ、蓄電素子の性能をより向上させる。
また、加熱工程により溶媒X及び溶媒Yを除去する工程を行ったとしても、多孔質中に一部溶媒X及び溶媒Yが残存する場合がある。このような残留した溶媒X及び溶媒Yは、蓄電素子内部で予期しない副反応によりガスを生じさせて蓄電素子の性能を低下させる場合があるが、電解液に含まれる成分としても使用可能な溶媒X及び溶媒Y(例えば、副反応等により蓄電素子の性能を低下させにくいもの等)を選択することで、性能の低下を抑制することができる。
【0094】
固体電解質としては、溶媒X及び溶媒Yに溶解可能である限り特に制限されず、例えば、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩等の無機イオン塩、4級アンモニウム塩、酸類の支持塩、並びにアルカリ類の支持塩などを用いることができる、より具体的には、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF、LiCFSO、LiCFCOO、KCl、NaClO、NaCl、NaBF、NaSCN、KBF、Mg(ClO、Mg(BFなどが挙げられる。
【0095】
液体電解質としては、カチオン成分とアニオン成分を含有する各種イオン液体を挙げることができる。イオン液体は、室温を含む幅広い温度領域において液体状態を維持できるものであることが好ましい。
カチオン成分としては、例えば、N,N-ジメチルイミダゾール塩、N,N-メチルエチルイミダゾール塩、N,N-メチルプロピルイミダゾール塩等のイミダゾール誘導体;N,N-ジメチルピリジニウム塩、N,N-メチルプロピルピリジニウム塩等のピリジニウム誘導体等の芳香族系の塩;トリメチルプロピルアンモニウム塩、トリメチルヘキシルアンモニウム塩、トリエチルヘキシルアンモニウム塩等のテトラアルキルアンモニウム等の脂肪族4級アンモニウム系化合物などが挙げられる。
アニオン成分としては、例えば、大気中の安定性の面でフッ素を含んだ化合物が好ましく、BF 、CFSO 、PF 、(CFSO、B(CNなどが挙げられる。
【0096】
電解質の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、電解液中において0.7mol/L以上4.0mol/L以下が好ましく、1.0mol/L以上3.0mol/L以下がより好ましく、蓄電素子の容量と出力の両立の点から、1.0mol/L以上2.5mol/L以下がより好ましい。
【0097】
<白色インク用途>
本開示の液体組成物セットは、多孔質樹脂を形成させてから溶媒X及び溶媒Yを除去することで白色化するので、例えば、記録媒体上に白色画像を付与する液体組成物セットとして用いることができる。なお、本願において白色画像を付与する液体組成物セットとは、白色の画像を形成することができるものであれば特に制限はなく、インク時に白色以外のもの(例えば、透明であるものや白色以外の色のもの)も含まれる。また、本願では、白色画像を付与する液体組成物セットを白色インクとも称する。
【0098】
白色インクとしては、酸化チタン等の無機顔料を色材として含有することで白色を呈するものが一般に知られている。しかし、このような白色インクは、色材の比重が大きいために沈降物が生じやすく、保存安定性及び吐出安定性に劣る課題がある。その点、本開示の白色インクは、顔料や染料等の白色の色材を含有しなくても白色を呈することができるため、保存安定性及び吐出安定性を向上させることができる。なお、本開示の白色インクは、白色の色材を含有してもよいが、実質的に白色の色材を含有しないことが好ましい。実質的に白色の色材を含有しない場合とは、白色の色材の含有量が、白色インクの質量に対して0.1質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることが更に好ましく、検出限界以下であることがより更に好ましく、含有されていないことが特に好ましい。このように、白色インクが実質的に白色の色材を含有しないことで、白色インクにより形成される白色画像を軽量化することができ、例えば、航空機塗装用白色インク、自動車塗装用白色インク等として好適に用いることができる。
【0099】
また、白色インクとしては、複数種類の重合性化合物を含有し、硬化の際にこれらの重合体が相分離することにより白濁するものも知られている。しかし、このような白色インクは、重合体同士の相分離により白色を呈し、空気層により白色を呈するわけではないので白色度に劣る課題がある。この点、本開示の液体組成物セットを白色インクとして用いた場合、空気層としての空孔を有する多孔質樹脂により白色を呈するため、高い白色度を発揮することができる。なお、白色とは社会通念上「白」と呼称される色であり、白色度は、例えば、X-Rite939等の分光測色濃度計により明度(L)を測定することにより評価することができ、例えば、100%duty以上又は記録媒体の表面が十分に被覆される量で付与された場合に、明度(L)および色度(a、b)が、70≦L≦100、-4.5≦a≦2、-6≦b≦2.5の範囲を示すことが好ましい。
【0100】
また、本開示の白色インクは、記録媒体上に付与されると多孔質樹脂で構成される層を形成するため、その後付与される別のインク(色材を含有するインク等)の定着性を向上させる下地層(プライマー層)を作製するプライマーインクとして用いられてもよい。
一般に、記録媒体として、コート紙、ガラス基材、樹脂フィルム基材、金属基材等の低浸透性基材又は非浸透性基材を用いる場合、当該基材に対するインクの定着性が低下する課題がある。この点、本開示の白色インク(プライマーインク)を用いた場合、白色インク(プライマーインク)の低浸透性基材又は非浸透性基材に対する定着性が高いため、下地層上に後から付与される別のインクの定着性を向上させることができる。また、後から付与される別のインク(色材を含有するインク等)が、低浸透性基材又は非浸透性基材に用いるのが困難な浸透性のインク(水性インク等)であったとしても、多孔質樹脂中にインク成分を浸透拡散させつつ色材を多孔質樹脂表面に定着させることができる。
また、白色インク(プライマーインク)は白色の受容層を形成するため、記録媒体の色や透明性を隠蔽し、後から付与される別のインク(色材を含有するインク等)の画像濃度を向上させることもできる。
【0101】
<立体造形用途>
本開示の液体組成物セットは、高さ方向の層厚を有する多孔質樹脂層を形成できるので、当該多孔質樹脂層を複数層積層することで立体造形物を造形することができる。すなわち、本開示の液体組成物セットは、立体造形物を造形するための液体組成物セットとして用いることができる。一般に、立体造形においては、硬化収縮に起因する立体造形物のゆがみが課題としてある。この点、本開示の液体組成物セットは、重合誘起相分離に伴って網目構造を有する多孔質体を形成するため、当該網目構造により重合時の内部応力が緩和され、硬化収縮による造形物のゆがみが抑制される。
【0102】
次に、立体造形物を造形する造形装置及び造形方法について図2を用いて説明する。図2は、マテリアルジェット方式の造形装置の一例を示す概略図である。図2の造形装置は、液体組成物X及び液体組成物Yをインクジェット方式等で吐出する吐出手段(付与手段の一例)と、吐出された液体組成物Xに活性エネルギー線を照射して硬化させる硬化手段と、を有し、当該吐出手段による吐出及び当該硬化手段による硬化を順次繰り返すことにより立体造形物を造形する装置である。また、図2の造形装置で実現される造形方法は、液体組成物X及び液体組成物Yをインクジェット方式で吐出する吐出工程(吐出工程の一例)と、吐出された液体組成物Xに活性エネルギー線を照射して硬化させる硬化工程と、を有し、当該吐出工程及び当該硬化工程を順次繰り返すことにより立体造形物を造形する方法である。
この造形装置及び造形方法について具体的に説明する。図2の造形装置39は、インクジェットヘッドを配列したヘッドユニット(AB方向に可動)を用いて、造形物用吐出ヘッドユニット30から第一の立体造形用組成物を、支持体用吐出ヘッドユニット31、32から第一の立体造形用組成物とは組成が異なる第二の立体造形用組成物を吐出し、隣接した紫外線照射手段33、34でこれら各立体造形用組成物を硬化しながら積層するものである。より具体的には、例えば、造形物支持基板37上に、第二の立体造形用組成物を支持体用吐出ヘッドユニット31、32から吐出し、活性エネルギー線を照射して固化させて溜部を有する第一の支持体層を形成した後、当該溜部に第一の立体造形用組成物を造形物用吐出ヘッドユニット30から吐出し、活性エネルギー線を照射して固化させて第一の造形物層を形成する工程を、積層回数に合わせて、上下方向に可動なステージ38を下げながら複数回繰り返すことで、支持体層と造形物層を積層して立体造形物35を製作する。その後、必要に応じて支持体積層部36は除去される。なお、図2では、造形物用吐出ヘッドユニット30は1つしか設けていないが、2つ以上設けることもできる。
【0103】
<積層体用途>
本開示の液体組成物セットは、基材等の様々な対象物に対して付与されることで、基材等の様々な対象物に対して多孔質樹脂層を積層することができる。言い換えると、本開示の液体組成物セットは、基材等の対象物及び当該対象物上に形成された多孔質樹脂層を有する積層体を形成するための積層体形成用の液体組成物セットとして用いられることが好ましい。具体的には、上述した通り、蓄電素子用又は発電素子用に用いられる液体組成物セット、白色インク用に用いられる液体組成物セット、及び立体造形用に用いられる液体組成物セットなどが挙げられる。蓄電素子用又は発電素子用に用いられる液体組成物セットは活物質層に対して付与されることで絶縁層としての多孔質樹脂層を積層し、白色インク用に用いられる液体組成物セットは記録媒体に付与されることで白色画像としての多孔質樹脂層を積層し、立体造形用に用いられる液体組成物セットは硬化工程後の多孔質樹脂層に付与されることで立体造形物の所定の層としての多孔質樹脂層を積層する。一般に、基材等の対象物に層を積層させる場合、対象物と層の間には界面が存在するため、当該界面における密着性が弱いときは、対象物と層の剥離が生じやすくなる。特に、重合反応により層形成を行って積層させる場合、重合時において重合物に歪みが生じやすく、対象物と層の剥離が生じる原因となりやすい。この点、本開示の液体組成物セットを積層体用途として用いた場合、重合誘起相分離に伴って網目構造を有する多孔質体を形成するため、当該網目構造により重合時の内部応力が緩和され、硬化収縮による造形物の歪みが抑制され、結果として対象物と層の剥離が抑制されるので好ましい。
【0104】
<担持体用途>
本開示の液体組成物セットを機能性物質と混合して多孔質樹脂を形成させた場合、多孔質樹脂の表面に機能性物質が担持された担持体を作製することができる。言い換えると、本開示の液体組成物セットは、機能性物質を担持した担持体を製造するための担持体形成用の液体組成物セットとして用いることができる。ここで、多孔質樹脂の表面とは、多孔質樹脂の外部表面だけでなく外部と連通する内部表面も含む意味である。このように、外部と連通する空隙に機能性物質を担持させることができるので、機能性物質を担持可能な表面積が増加する。
【0105】
本開示の担持体形成用の液体組成物セットを用いた場合、重合性化合物Xの含有量、ポロジェンの含有量、活性エネルギー線の照射条件等を適宜調整することで空孔や空隙率を変更することができ、担持体の性能面における設計自由度を向上させることができる。また、本開示の担持体形成用の液体組成物セットは、多様な付与方法に展開可能であるため、例えば、インクジェット方式で付与することができ、担持体の形状面における設計自由度を向上させることができる。具体的には、平面だけでなく曲面に対しても担持体を均一に形成することができ、対象の形状に合わせて担持体を切削等して形状調整する手間も省略することができる。また、インクジェット方式で吐出することで液滴を形成し、飛翔中の液滴または基材上に付着した独立した液滴に対して活性エネルギー線を照射することで、粒子の形状を有する担持体を形成することもできる。
【0106】
機能性物質は、直接的又は間接的に所定の機能を発揮する物質であって、多孔質樹脂に担持される面積の増加に伴って当該機能も増加又は向上する物質であることが好ましく、担持される機能性物質が外部表面又は外部と連通する内部表面に位置することで当該機能が発揮される物質であること(言い換えると、外部と連通しない内部表面に位置した場合に当該機能の発揮が抑制される物質)がより好ましい。また、機能性物質は、液体組成物X又は液体組成物Yに溶解する物質でも分散する物質でもよいが、分散する物質であることが好ましい。機能性物質の一例としては、特に制限されないが、光触媒、生理活性物質などが挙げられる。
【0107】
光触媒は、特定の波長域にある光(光触媒の価電子帯と導電帯の間のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光)を照射されることにより光触媒活性を示す物質である。光触媒は、当該光触媒活性を示すことにより、抗菌作用、消臭・脱臭作用、揮発性有機化合物(VOC)等の有害物質分解作用等の種々の作用を発揮することができる。
【0108】
光触媒としては、例えば、アナターゼ型又はルチル型の酸化チタン(IV)(TiO)、酸化タングステン(III)(W)、酸化タングステン(IV)(WO)、酸化タングステン(VI)(WO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化鉄(III)(Fe)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、酸化ビスマス(III)(Bi)、バナジン酸ビスマス(BiVO)、酸化スズ(II)(SnO)、酸化スズ(IV)(SnO)、酸化スズ(VI)(SnO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化セリウム(II)(CeO)、酸化セリウム(IV)(CeO)、チタン酸バリウム(BaTiO)、酸化インジウム(III)(In)、酸化銅(I)(CuO)、酸化銅(II)(CuO)、タンタル酸カリウム(KTaO)、ニオブ酸カリウム(KNbO)などの金属酸化物;硫化カドミウム(CdS)、硫化亜鉛(ZnS)、硫化インジウム(InS)などの金属硫化物;セレン酸カドミウム(CdSeO)、セレン化亜鉛(ZnSe)などの金属セレン化物;窒化ガリウム(GaN)などの金属窒化物などが挙げられるが、酸化チタン(IV)(TiO)、酸化スズ(IV)(SnO)、酸化タングステン(III)(W)、酸化タングステン(IV)(WO)、及び酸化タングステン(VI)(WO)から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、アナターゼ型の酸化チタン(IV)(TiO)を含むことがより好ましい。
【0109】
生理活性物質は、生体に生理的効果を発揮させるために用いられる有効成分であり、例えば、医薬化合物、食品化合物、化粧料化合物などを含む低分子化合物の他、抗体、酵素等のタンパク質及びDNA、RNA等の核酸などの生体高分子を含む高分子化合物などが挙げられる。また、「生理的効果」とは、生理活性物質が目的部位で生理活性を発揮することにより生じる効果であり、例えば、生体、組織、細胞、タンパク質、DNA、RNA等に量的及び/又は質的な変化、影響をもたらすことである。また、「生理活性」とは、生理活性物質が目的部位(例えば、標的組織等)に作用して変化、影響を与えることである。目的部位としては、例えば、細胞表面又は細胞内に存在する受容体等であることが好ましい。この場合は、生理活性物質が特定の受容体に結合する生理活性によって細胞にシグナルが伝わり、結果として生理的効果が発揮される。生理活性物質は、生体内の酵素により成熟型に変換された上で特定の受容体に結合し、生理的効果が発揮される物質であってもよい。この場合、本願では、成熟型に変換される前の物質も生理活性物質に含まれるものとする。なお、生理活性物質は、生物(ヒト又はヒト以外の生物)が作り出す物質であってもよいし、人工的に合成された物質であってもよい。このような生理活性物質を含有する液体組成物X又は液体組成物Yを用いてシート状の担持体を形成した場合、長期的に薬剤を放出し続ける徐放性シートとして用いることができる。
【0110】
<表面改質用途>
本開示の液体組成物セットにより形成される多孔質樹脂の外部表面は、多孔質に由来する微細な凹凸が形成されており、これにより濡れ性を制御することができる。具体的には、多孔質樹脂を構成する樹脂が親水性である場合、多孔質樹脂の外部表面に、当該樹脂により形成される平面状表面における親水性より高い親水性を機能付与することができる。また、多孔質樹脂を構成する樹脂が撥水性である場合、多孔質樹脂の外部表面に、当該樹脂により形成される平面状表面における撥水性より高い撥水性を機能付与することができる。従って、対象物表面に対し、本開示の液体組成物セットを付与することで表面改質層を形成させ、対象物表面の濡れ性を容易に改変することができる。
【0111】
また、本開示の液体組成物セットを用いた場合、重合性化合物Xの含有量、ポロジェンの含有量、活性エネルギー線の照射条件等を適宜調整することで多孔質の外部表面における凹凸(空孔や空隙率に由来する凹凸)を変更することができ、表面改質層の性能面における設計自由度を向上させることができる。また、本開示の液体組成物セットは、多様な付与方法に展開可能であるため、例えば、インクジェット方式で付与することができ、表面改質層の形状面における設計自由度を向上させることができる。具体的には、平面だけでなく曲面に対しても表面改質層を均一に形成することができる。
【0112】
<分離層用途又は反応層用途>
本開示の液体組成物セットにより形成される多孔質樹脂において液体や気体などの流体が透過可能である場合、当該多孔質樹脂を流体の流路として用いることができる。多孔質樹脂を流体の流路として用いることができる場合、多孔質樹脂は、流体から所定の物質を分離する分離層としての用途や流体に微小な反応場を提供する反応層(マイクロリアクター)としての用途等に用いることができる。言い換えると、本開示の液体組成物は、分離層形成用又は反応層形成用の液体組成物セットとして用いることができる。これら用途に用いられる多孔質樹脂は、多孔質樹脂内部において流体を均一かつ効率的に透過可能であることが好ましい。この点、本開示の液体組成物セットにより形成される多孔質樹脂は、多孔質が相分離により形成されることから、空隙同士が連続して接続されており、流体を均一かつ効率的に透過可能な構造を有している。
なお、多孔質樹脂が液体や気体などの流体を透過可能である場合とは、特に限定されないが、例えば、JIS P8117に準拠して測定される透気度が500秒/100mL以下である場合が好ましく、300秒/100mL以下である場合がより好ましい。このとき、透気度は、例えば、ガーレー式デンソメーター(東洋精機製作所製)等を用いて測定される。
なお、分離とは、流体である混合物に含まれる所定の物質を除去または濃縮できることをいう。また、除去は、流体である混合物から所定の物質が完全に取り除かれる場合に限られず、一部量が取り除かれる場合であってもよい。
なお、反応場とは、流体に含まれる所定の物質が通過することで所定の化学反応が進行する場所をいう。
【0113】
分離層用途に用いる場合、本開示の液体組成物Xは、流体に含まれる所定の物質と相互作用可能な官能基を有する重合性化合物Xを含有することが好ましい。当該液体組成物Xを有する液体組成物セットを用いて多孔質樹脂を形成すると、多孔質樹脂の表面(内部表面及び外部表面)に所定の物質と相互作用可能な官能基が配され、効果的に所定の物質の分離を行うことができる。流体に含まれる所定の物質と相互作用可能な官能基を有する重合性化合物Xは、液体組成物に含まれる重合性化合物Xの一部であってもよく、全部であってもよい。なお、本願において所定の物質と相互作用可能な官能基とは、当該官能基自体が所定の物質と相互作用可能である場合に加え、追加的にグラフト重合がなされることにより所定の物質と相互作用可能となる場合も含む。
【0114】
反応層用途に用いる場合、本開示の液体組成物Xは、流体に反応場を提供する官能基を有する重合性化合物Xを含有することが好ましい。当該液体組成物Xを有する液体組成物セットを用いて多孔質樹脂を形成すると、多孔質樹脂の表面(内部表面及び外部表面)に流体に反応場を提供する官能基が配され、効果的に反応場を提供することができる。流体に反応場を提供する官能基を有する重合性化合物Xは、液体組成物に含まれる重合性化合物Xの一部であってもよく、全部であってもよい。なお、本願において流体に反応場を提供する官能基とは、当該官能基自体が反応場を提供可能である場合に加え、追加的にグラフト重合がなされることにより反応場を提供可能となる場合も含む。
【0115】
上記分離層及び反応層は、例えば、ガラス管等の流体流入部及び流体流出部を形成可能な容器に液体組成物X及び液体組成物Yを充填して硬化させることで形成する。また、液体組成物X及び液体組成物Yをインクジェット方式などで基材に対して印刷することにより、多孔質樹脂で形成される所望の形状の流路を有する分離層及び反応層を作製(描画)することもできる。分離層及び反応層の流路が印刷可能であることにより、目的に応じて流路を適宜変更可能な分離層及び反応層を提供することができる。
【0116】
また、本開示の分離層形成用及び反応層形成用の液体組成物セットを用いた場合、重合性化合物Xの含有量、ポロジェンの含有量、活性エネルギー線の照射条件等を適宜調整することで多孔質樹脂の空孔や空隙率を変更することができ、分離層及び反応層の性能面における設計自由度を向上させることができる。
【実施例
【0117】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0118】
<重合性化合物のハンセン溶解度パラメータC及び相互作用半径Dの算出>
以下の手順に従い、次の2種類の重合性化合物において、ハンセン溶解度パラメータC及び相互作用半径Dを算出した。
・重合性化合物P1:トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(ダイセル・オルネクス株式会社製)
・重合性化合物P2:ε-カプロラクトン変性トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート(新中村化学工業株式会社製)
【0119】
-透過率測定用組成物の調製-
まず、ハンセン溶解度パラメータC及び相互作用半径Dを算出したい重合性化合物と、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)が公知の下記の21種の評価用溶媒を準備し、重合性化合物、各評価用溶媒、及び重合開始剤を以下に示した比率で混合し、透過率測定用組成物を調製した。
~透過率測定用組成物比率~
・ハンセン溶解度パラメータCを求めたい重合性化合物:28.0質量%
・ハンセン溶解度パラメータ(HSP)が公知の評価用溶媒:70.0質量%
・重合開始剤(Irgacure819、BASF社製):2.0質量%
~評価用溶媒群(21種類)~
エタノール、2-プロパノール、メシチレン、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、N-メチル2-ピロリドン、γーブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、炭酸プロピレン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、アセトン、nーテトラデカン、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2-エチルヘキサノール、ジイソブチルケトン、ベンジルアルコール、1-ブロモナフタレン
【0120】
-光の透過率の測定(相溶性評価)-
作製した透過率測定用組成物を石英セルに注入し、攪拌子を用いて300rpmで攪拌させながら、透過率測定用組成物の波長550nmにおける光(可視光)の透過率を測定した。本実施例では、光の透過率が30%以上である場合を重合性化合物と評価用溶媒とが相溶の状態、30%未満である場合を重合性化合物と評価用溶媒とが非相溶の状態であると判断した。なお、光の透過率の測定に関する諸条件を以下に示す。
・石英セル:スクリューキャップ付き特殊ミクロセル(商品名:M25-UV-2)
・透過率測定装置:Ocean Optics社製USB4000
・撹拌速度:300rpm
・測定波長:550nm
・リファレンス:石英セル内が空気の状態で、波長550nmにおける光の透過率を測定
して取得する(透過率:100%)
表1において、重合性化合物と評価用溶媒の相溶性評価の結果を次の評価基準に沿って示す。
(評価基準)
a:重合性化合物と評価用溶媒が相溶している
b:重合性化合物と評価用溶媒が相溶していない
【0121】
【表1】
【0122】
-ハンセン溶解球法による算出-
相溶性評価において、相溶性を示した評価用溶媒のハンセン溶解度パラメータ(HSP)と相溶性を示さなかった評価用溶媒のハンセン溶解度パラメータ(HSP)とを、ハンセン空間上に各々プロットした。プロットされた各評価用溶媒のハンセン溶解度パラメータ(HSP)に基づいて、相溶性を示した評価用溶媒群のハンセン溶解度パラメータ(HSP)を包含し、相溶性を示さなかった評価用溶媒群のハンセン溶解度パラメータ(HSP)を包含しないような仮想の球体(ハンセン球)をハンセン空間上に作成した。ハンセン球の中心をハンセン溶解度パラメータC、ハンセン球の半径を相互作用半径Dとして算出した。
【0123】
-算出されたハンセン溶解度パラメータC及び相互作用半径D-
算出された重合性化合物のハンセン溶解度パラメータC及び相互作用半径Dを以下に示す。
・重合性化合物P1:ハンセン溶解度パラメータC(17.21,8.42,7.98)、相互作用半径D(11.8)
・重合性化合物P2:ハンセン溶解度パラメータC(18.51,9.04,4.75)、相互作用半径D(9.5)
【0124】
<重合性化合物が重合することにより形成される樹脂のハンセン溶解度パラメータA及び相互作用半径Bの算出>
以下の手順に従い、次の2種類の重合性化合物が重合することにより形成される樹脂において、ハンセン溶解度パラメータA及び相互作用半径Bを算出した。
・重合性化合物P1:トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(ダイセル・オルネクス株式会社製)
・重合性化合物P2:ε-カプロラクトン変性トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート(新中村化学工業株式会社製)
【0125】
-ヘイズ測定用組成物の調製-
まず、ハンセン溶解度パラメータA及び相互作用半径Bを算出したい樹脂の前駆体(重合性化合物)と、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)が公知の21種の評価用溶媒を準備し、重合性化合物、各評価用溶媒、及び重合開始剤を以下に示した比率で混合し、ヘイズ測定用組成物を調製した。
~ヘイズ測定用組成物比率~
・ハンセン溶解度パラメータAを求めたい樹脂の前駆体(重合性化合物):28.0質量%
・ハンセン溶解度パラメータ(HSP)が公知の評価用溶媒:70.0質量%
・重合開始剤(Irgacure819、BASF社製):2.0質量%
~評価用溶媒群(21種類)~
エタノール、2-プロパノール、メシチレン、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、N-メチル2-ピロリドン、γーブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、炭酸プロピレン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、アセトン、nーテトラデカン、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2-エチルヘキサノール、ジイソブチルケトン、ベンジルアルコール、1-ブロモナフタレン
【0126】
-ヘイズ測定用素子の作製-
無アルカリガラス基板上に、スピンコートにより樹脂微粒子を基板上に均一分散させ、ギャップ剤とした。続いて、ギャップ剤を塗布した基板を、ギャップ剤を塗布していない無アルカリガラス基板と、ギャップ剤を塗布した面を挟むようにして互いに貼り合わせた。次に、調製したヘイズ測定用組成物を、貼り合わせた基板間に毛細管現象を利用して充填し、UV照射前ヘイズ測定用素子を作製した。続いて、UV照射前ヘイズ測定用素子にUV照射してヘイズ測定用組成物を硬化させた。最後に基板の周囲を封止剤で封止することでヘイズ測定用素子を作製した。作製時の諸条件を以下に示す。
・無アルカリガラス基板:日本電気硝子製、40mm、t=0.7mm、OA-10G
・ギャップ剤:積水化学製、樹脂微粒子ミクロパールGS-L100、平均粒子径100μm
・スピンコート条件:分散液滴下量150μL、回転数1000rpm、回転時間30s
・充填したヘイズ測定用組成物量:160μL
・UV照射条件:光源としてUV-LEDを使用、光源波長365nm、照射強度30mW/cm、照射時間20s
・封止剤:TB3035B(Three Bond社製)
【0127】
-ヘイズ値(曇り度)の測定(相溶性評価)-
作製したUV照射前ヘイズ測定用素子とヘイズ測定用素子を用いてヘイズ値(曇り度)を測定した。UV照射前ヘイズ測定用素子における測定値をリファレンス(ヘイズ値0)とし、ヘイズ測定用素子における測定値(ヘイズ値)のUV照射前ヘイズ測定用素子における測定値に対する上昇率を算出した。本実施例では、ヘイズ値の上昇率が1.0%以上である場合を樹脂と評価用溶媒とが非相溶の状態、1.0%未満である場合を樹脂と評価用溶媒とが相溶の状態であると判断した。なお、測定に用いた装置を以下に示す。
・ヘイズ測定装置:Haze meter NDH5000 日本電色工業製
表2において、重合性化合物が重合することにより形成される樹脂と評価用溶媒の相溶性評価の結果を次の評価基準に沿って示す。
(評価基準)
a:重合性化合物が重合することにより形成される樹脂と評価用溶媒が相溶してない
b:重合性化合物が重合することにより形成される樹脂と評価用溶媒が相溶している
【0128】
【表2】
【0129】
-ハンセン溶解球法による算出-
ヘイズ値(曇り度)の測定(相溶性評価)において、相溶性を示した評価用溶媒のハンセン溶解度パラメータ(HSP)と相溶性を示さなかった評価用溶媒のハンセン溶解度パラメータ(HSP)とを、ハンセン空間上に各々プロットした。プロットされた各評価用溶媒のハンセン溶解度パラメータ(HSP)に基づいて、相溶性を示した評価用溶媒群のハンセン溶解度パラメータ(HSP)を包含し、相溶性を示さなかった評価用溶媒群のハンセン溶解度パラメータ(HSP)を包含しないような仮想の球体(ハンセン球)をハンセン空間上に作成した。ハンセン球の中心をハンセン溶解度パラメータA、ハンセン球の半径を相互作用半径Bとして算出した。
【0130】
-算出されたハンセン溶解度パラメータA及び相互作用半径B-
算出された重合性化合物が重合することにより形成される樹脂のハンセン溶解度パラメータA及び相互作用半径Bを以下に示す。
・重合性化合物P1が重合することにより形成される樹脂:ハンセン溶解度パラメータA(20.02,5.22,6.15)、相互作用半径B(8.3)
・重合性化合物P2が重合することにより形成される樹脂:ハンセン溶解度パラメータA(19.89,10.47,7.32)、相互作用半径B(8.2)
【0131】
<実施例1>
以下に示す割合で材料を混合し液体組成物X及び液体組成物Yを調製した。なお、本実施例では、先に付与される液体である液体組成物Yを先塗り液、後で付与される液体である液体組成物Xを後塗り液とも称する。
-液体組成物X(後塗り液)-
・重合性化合物X(重合性化合物P1):28.0質量%
・溶媒X(2-プロパノール):70.0質量%
・重合開始剤(Irgacure819(BASF社製)):2.0質量%
-液体組成物Y(先塗り液)-
・溶媒Y(エタノール):100.0質量%
【0132】
次に、10.0質量%の液体組成物X及び90.0質量%の液体組成物Yからなる液体組成物Zを調整した。液体組成物Zに含まれる重合性化合物を重合性化合物Zとし、液体組成物Zに含まれる溶媒を溶媒Zとした場合、重合性化合物Zは重合性化合物P1(トリシクロデカンジメタノールジアクリレート)であり、溶媒Zは溶媒X(2-プロパノール)及び溶媒Y(エタノール)の混合液である。従って、重合性化合物Zのハンセン溶解度パラメータCは上記の重合性化合物P1のハンセン溶解度パラメータCと同一であり、重合性化合物Zの相互作用半径Dは上記の重合性化合物P1の相互作用半径Dと同一である。また、樹脂Zのハンセン溶解度パラメータAは上記の重合性化合物P1が重合することにより形成される樹脂のハンセン溶解度パラメータAと同一であり、樹脂Zの相互作用半径Bは上記の重合性化合物P1が重合することにより形成される樹脂の相互作用半径Bと同一である。また、溶媒Zのハンセン溶解度パラメータは、溶媒Xのハンセン溶解度パラメータを下記のようにHSPと表し、溶媒Yのハンセン溶解度パラメータを下記のようにHSPと表した場合、下記のようにHSPと表される。
・HSP=(δD、δP、δH
・HSP=(δD、δP、δH
・HSP=0.1(δD、δP、δH)+0.9(δD、δP、δH
このとき、重合性化合物Zのハンセン溶解度パラメータC、重合性化合物Zの相互作用半径D、及び溶媒Zのハンセン溶解度パラメータから下記式2に基づいて算出される相対的エネルギー差(RED)は、0.972であった。
【数4】
また、樹脂Zのハンセン溶解度パラメータA、樹脂Zの相互作用半径B、及び溶媒Zのハンセン溶解度パラメータから下記式1に基づいて算出される相対的エネルギー差(RED)は、1.905であった。
【数5】
【0133】
また、液体組成物X及び液体組成物Yの25℃における粘度を粘度計(装置名:RE-550L、東機産業株式会社製)を用いて測定したところ、30.0mPa・s以下であった。
【0134】
<各種実施例、比較例>
実施例1において、表3~4の組成に変更した以外は、実施例1の調製と同様にして、各種実施例、比較例の液体組成物X及び液体組成物Yを得た。表3~4における組成の各数字の単位は「質量%」である。また、表3~4において、実施例1と同様に液体組成物Zにおいて、式2に基づいて算出される相対的エネルギー差(RED)(表3~4において「重合性化合物Zと溶媒ZのRED」と表す)、及び式1に基づいて算出される相対的エネルギー差(RED)(表3~4において「樹脂Zと溶媒ZのRED」と表す)についても示した。
また、実施例1~11の液体組成物X及び液体組成物Yの25℃における粘度を粘度計(装置名:RE-550L、東機産業株式会社製)を用いて測定したところ、実施例7における液体組成物Yを除き30.0mPa・s以下であった。なお、実施例7における液体組成物Yの25℃における粘度は、30.0mPa・sより大きく、100.0mPa・s以下であった。
【0135】
【表3】
【0136】
【表4】
【0137】
次に、実施例1~11の液体組成物Xにおいて、光の透過率の評価、及びヘイズ変化率の評価を行った。
【0138】
[光の透過率]
調整した各実施例の液体組成物Xを用い、以下の手順に従って、光の透過率の測定を行った。
作製した液体組成物Xを石英セルに注入し、攪拌子を用いて300rpmで攪拌させながら、液体組成物Xの波長550nmにおける光(可視光)の透過率を測定した。本実施例では、光の透過率が30%以上である場合を重合性化合物Xとポロジェンとが相溶の状態、30%未満である場合を重合性化合物Xとポロジェンとが非相溶の状態であると判断した。なお、光の透過率の測定に関する諸条件を以下に示す。
・石英セル:スクリューキャップ付き特殊ミクロセル(商品名:M25-UV-2)
・透過率測定装置:Ocean Optics社製USB4000
・撹拌速度:300rpm
・測定波長:550nm
・リファレンス:石英セル内が空気の状態で、波長550nmにおける光の透過率を測定
して取得する(透過率:100%)
光の透過率の結果を次の評価基準に従って表5に表す。
(評価基準)
a:光の透過率が30%以上である
b:光の透過率が30%未満である
【0139】
[ヘイズ変化率]
調整した各実施例の液体組成物Xを用い、以下の手順に従って、ヘイズ測定用素子の作製、ヘイズ値(曇り度)の測定を行った。
【0140】
-ヘイズ測定用素子の作製-
無アルカリガラス基板上に、スピンコートにより樹脂微粒子を基板上に均一分散させ、ギャップ剤とした。続いて、ギャップ剤を塗布した基板を、ギャップ剤を塗布していない無アルカリガラス基板と、ギャップ剤を塗布した面を挟むようにして互いに貼り合わせた。次に、調製した液体組成物Xを、貼り合わせた基板間に毛細管現象を利用して充填し、UV照射前ヘイズ測定用素子を作製した。続いて、UV照射前ヘイズ測定用素子にUV照射して液体組成物Xを硬化させた。最後に基板の周囲を封止剤で封止することでヘイズ測定用素子を作製した。作製時の諸条件を以下に示す。
・無アルカリガラス基板:日本電気硝子製、40mm、t=0.7mm、OA-10G
・ギャップ剤:積水化学製、樹脂微粒子ミクロパールGS-L100、平均粒子径100μm
・スピンコート条件:分散液滴下量150μL、回転数1000rpm、回転時間30s
・充填した液体組成物X:160μL
・UV照射条件:光源としてUV-LEDを使用、光源波長365nm、照射強度30mW/cm、照射時間20s
・封止剤:TB3035B(Three Bond社製)
【0141】
-ヘイズ値(曇り度)の測定-
作製したUV照射前ヘイズ測定用素子とヘイズ測定用素子を用いてヘイズ値(曇り度)を測定した。UV照射前ヘイズ測定用素子における測定値をリファレンス(ヘイズ値0)とし、ヘイズ測定用素子における測定値(ヘイズ値)の、UV照射前ヘイズ測定用素子における測定値に対する上昇率を算出した。本実施例では、ヘイズ値の上昇率が1.0%以上である場合を樹脂とポロジェンとが非相溶の状態、1.0%未満である場合を樹脂とポロジェンとが相溶の状態であると判断した。なお、測定に用いた装置を以下に示す。
・ヘイズ測定装置:Haze meter NDH5000 日本電色工業製
【0142】
ヘイズ値の上昇率の結果を次の評価基準に従って表5に表す。
(評価基準)
a:ヘイズ値の上昇率が1.0%以上である
b:ヘイズ値の上昇率が1.0%未満である
【0143】
【表5】
【0144】
上記表5に示す通り、実施例1~11の液体組成物Xは、上記の光の透過率が30%以上であり、且つ上記のヘイズ値の上昇率が1.0%以上であった。また、これら条件を満たすことで、実施例1~11の液体組成物Xは、単独で用いたとしても多孔質樹脂を形成することができる液体であった。
【0145】
次に、各実施例及び比較例の液体組成物Zにおいて、光の透過率の評価、及びヘイズ変化率の評価を行った。
また、各実施例及び比較例の液体組成物セット(液体組成物X及び液体組成物Y)を用いて形成した多孔質樹脂において、液体組成物X及び液体組成物Yが接触し、接触領域(液体組成物Xおよび液体組成物Yの界面付近)において形成された樹脂の多孔質性の評価を行った。
【0146】
[光の透過率]
調整した各実施例、比較例の液体組成物Zを用い、以下の手順に従って、光の透過率の測定を行った。
作製した液体組成物Zを石英セルに注入し、攪拌子を用いて300rpmで攪拌させながら、液体組成物Zの波長550nmにおける光(可視光)の透過率を測定した。本実施例では、光の透過率が30%以上である場合を重合性化合物Zと溶媒Zとが相溶の状態、30%未満である場合を重合性化合物Zと溶媒Zとが非相溶の状態であると判断した。なお、光の透過率の測定に関する諸条件を以下に示す。
・石英セル:スクリューキャップ付き特殊ミクロセル(商品名:M25-UV-2)
・透過率測定装置:Ocean Optics社製USB4000
・撹拌速度:300rpm
・測定波長:550nm
・リファレンス:石英セル内が空気の状態で、波長550nmにおける光の透過率を測定
して取得する(透過率:100%)
光の透過率の結果を次の評価基準に従って表6に表す。
(評価基準)
a:光の透過率が30%以上である
b:光の透過率が30%未満である
【0147】
[ヘイズ変化率]
調整した各実施例、比較例の液体組成物Zを用い、以下の手順に従って、ヘイズ測定用素子の作製、ヘイズ値(曇り度)の測定を行った。
【0148】
-ヘイズ測定用素子の作製-
無アルカリガラス基板上に、スピンコートにより樹脂微粒子を基板上に均一分散させ、ギャップ剤とした。続いて、ギャップ剤を塗布した基板を、ギャップ剤を塗布していない無アルカリガラス基板と、ギャップ剤を塗布した面を挟むようにして互いに貼り合わせた。次に、調製した液体組成物Zを、貼り合わせた基板間に毛細管現象を利用して充填し、UV照射前ヘイズ測定用素子を作製した。続いて、UV照射前ヘイズ測定用素子にUV照射して液体組成物Zを硬化させた。最後に基板の周囲を封止剤で封止することでヘイズ測定用素子を作製した。作製時の諸条件を以下に示す。
・無アルカリガラス基板:日本電気硝子製、40mm、t=0.7mm、OA-10G
・ギャップ剤:積水化学製、樹脂微粒子ミクロパールGS-L100、平均粒子径100μm
・スピンコート条件:分散液滴下量150μL、回転数1000rpm、回転時間30s
・充填した液体組成物Z:160μL
・UV照射条件:光源としてUV-LEDを使用、光源波長365nm、照射強度30mW/cm、照射時間20s
・封止剤:TB3035B(Three Bond社製)
【0149】
-ヘイズ値(曇り度)の測定-
作製したUV照射前ヘイズ測定用素子とヘイズ測定用素子を用いてヘイズ値(曇り度)を測定した。UV照射前ヘイズ測定用素子における測定値をリファレンス(ヘイズ値0)とし、ヘイズ測定用素子における測定値(ヘイズ値)の、UV照射前ヘイズ測定用素子における測定値に対する上昇率を算出した。本実施例では、ヘイズ値の上昇率が1.0%以上である場合を樹脂Zと溶媒Zとが非相溶の状態、1.0%未満である場合を樹脂Zと溶媒Zとが相溶の状態であると判断した。なお、測定に用いた装置を以下に示す。
・ヘイズ測定装置:Haze meter NDH5000 日本電色工業製
【0150】
ヘイズ値の上昇率の結果を次の評価基準に従って表6に表す。なお、上記の光の透過率の評価において、液体組成物Z中の成分が相溶していない判断となった液体組成物Zについては評価を行わず、表6では「-」と表示する。
(評価基準)
a:ヘイズ値の上昇率が1.0%以上である
b:ヘイズ値の上昇率が1.0%未満である
【0151】
[接触領域において形成される樹脂の多孔質性]
まず、各実施例及び比較例の液体組成物セット(液体組成物X及び液体組成物Y)を用いて多孔質樹脂を形成した。具体的には、直径5cmのガラス製シャーレに液体組成物Yを5mL入れ、液体組成物Y上に液体組成物Xを20μL滴下した後、N雰囲気下でUVを照射して硬化物を作製した。ピンセットで硬化物をつかみ、硬化物における接触領域側の面が上面となるように基材上に置き、ホットプレートを用いて、100℃で1分間加熱することで、溶媒X及び溶媒Yを除去し、多孔質樹脂を形成した。UV照射条件を以下に示す。
・光源:UV-LED(Phoseon社製、商品名:FJ800)
・光源波長:365nm
・照射強度:30mW/cm
・照射時間:20s
・UV照射光量を測定する装置:ウシオ電機社製、紫外線積算光量計UIT-250
次に、多孔質樹脂の接触領域側の面をSEMで観察した。接触領域において形成される樹脂の多孔質性を次の評価基準に従って表6に表す。なお、上記の光の透過率の評価において、液体組成物Z中の成分が相溶していない判断となった液体組成物セットについては評価を行わず、表6では「-」と表示する。
(評価基準)
a:孔径0.01μm以上10μm以下の空孔が観察される
b:孔径0.01μm以上10μm以下の空孔が観察されない
【0152】
なお、実施例1~11の液体組成物セットを用い、上記の[接触領域において形成される樹脂の多孔質性]に関する評価で作製された多孔質樹脂は、いずれも空隙率が30.0%以上であり、かつ樹脂中の複数の空孔が連続して連結している共連続構造を有していた。
【0153】
【表6】
【0154】
表3~4、6の結果より、液体組成物Zにおいて上記式2に基づいて算出される相対的エネルギー差(RED)が1.05以下である場合、重合性化合物Zと溶媒Zの相溶性が高いことを示している。また、液体組成物Zにおいて上記式1に基づいて算出される相対的エネルギー差(RED)が1.00以上である場合、樹脂Zと溶媒Zの相溶性が低いことを示している。
これは、適切な組み合わせの液体組成物X及び液体組成物Yを有する液体組成物セットを用いたことで、液体組成物X及び液体組成物Yが接触したとしても、接触領域において形成される樹脂の多孔質化に優れる液体組成物セットを提供できることを表す。
【0155】
<液体組成物セットを用いた蓄電素子の作製例>
-負極の作製-
負極活物質であるグラファイト粒子(平均粒径10μm)97.0質量部と、増粘剤であるセルロース1.0質量部と、バインダーであるアクリル樹脂2.0質量部と、を水中で均一に分散させて負極活物質分散体を得た。この分散体を負極電極基体である厚み8μmの銅箔に塗布し、得られた塗膜を120℃で10分乾燥後、プレスし、厚みが60μmの電極合材部を得た。次に、これを50mm×33mmに切り出して負極を作製した。
【0156】
-正極の作製-
正極活物質であるニッケル、コバルト、及びアルミの混合粒子94.0質量部と、導電助剤であるケッチェンブラック3.0質量部と、バインダーであるポリフッ化ビニリデン樹脂3.0質量部と、を溶媒としてのN-メチルピロリドン中で均一に分散させて正極活物質分散体を得た。この分散体を電極基体である厚み15μmのアルミ箔にダイコートで塗布し、得られた塗膜を120℃で10分乾燥後、プレスし、厚みが50μmの電極合材部を得た。次に、これを43mm×29mmに切り出して正極を作製した。
【0157】
-セパレータの作製-
実施例1の液体組成物セットに含まれる液体組成物X及び液体組成物YをGEN5ヘッド(リコープリンティングシステムズ株式会社製)搭載のインクジェット吐出装置に充填し、上記の通り作製した負極に対し、液体組成物Yを吐出してベタ画像状の塗布領域を形成した。次に、直ちに、負極上の当該塗布領域に対し重なるように、液体組成物Xを吐出してベタ画像状の塗布領域を形成した。その後、直ちに、N雰囲気下において、塗布領域に対してUV照射(光源:UV-LED(Phoseon社製、商品名:FJ800)、波長:365nm、照射強度:30mW/cm、照射時間:20s)して硬化物を得た。次に、ホットプレートを用い、硬化物を120℃で1分間加熱することで溶媒X及び溶媒Yを除去し、セパレータとして機能する多孔質樹脂と一体化した負極を得た。
【0158】
-蓄電素子の作製-
多孔質樹脂と一体化した負極と上記の通り作製した正極とを対向させ、電解液を注入し、外装としてラミネート外装材を用いて封止し、蓄電素子を作製した。なお、電解液としては、炭酸エチレン(EC)及び炭酸ジメチル(DMC)の混合物(質量比が「EC:DMC=1:1」の混合物)に対し、電解質であるLiPFが濃度1.5mol/Lとなるように添加されている溶液を用いた。
【符号の説明】
【0159】
1a:印刷装置
1b:容器
1c:供給チューブ
2a:光照射装置
2b:重合不活性気体循環装置
3a:加熱装置
4:印刷基材
5:搬送部
6:多孔質樹脂前駆体
7:液体組成物
10:印刷工程部
20:重合工程部
30:加熱工程部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0160】
【文献】特許第4426157号
図1
図2