(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】収縮率推定装置、収縮率推定方法、プログラム、記録媒体および押出成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/44 20060101AFI20241008BHJP
G01L 1/00 20060101ALI20241008BHJP
B29C 48/154 20190101ALI20241008BHJP
B29C 48/92 20190101ALI20241008BHJP
【FI】
G01N33/44
G01L1/00 M
B29C48/154
B29C48/92
(21)【出願番号】P 2020199972
(22)【出願日】2020-12-02
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大賀 裕太
(72)【発明者】
【氏名】加賀 雅文
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-105541(JP,A)
【文献】特開2014-189623(JP,A)
【文献】特開2019-181801(JP,A)
【文献】特開平09-262887(JP,A)
【文献】特表2016-509616(JP,A)
【文献】国際公開第2019/009238(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00-33/46
G01L 1/00
B29C 48/154
B29C 48/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂の収縮率を推定する収縮率推定装置であって、
前記収縮率推定装置は、前記樹脂を押し出す際にかかる引落応力に基づいて前記樹脂の前記収縮率を推定する収縮率推定部を備
え、
前記収縮率推定部は、前記樹脂の粘度に関連する定数と前記樹脂の押出条件を含む数式1および数式2に基づいて、前記引落応力を推定する、収縮率推定装置。
【数5】
ここで、
σ:引落応力
η
0
:粘度定数
α:粘度の温度係数
T:樹脂の温度
v
f
:線速
L:ダイの出口から水槽までの距離
D:引落比
n:粘度指数
【数6】
ここで、
d
w
:ダイの開口部の直径
d
d
:製品外径
【請求項2】
請求項1に記載の収縮率推定装置において、
前記引落応力と前記収縮率とは、相関関係を有する、収縮率推定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の収縮率推定装置において、
前記数式1に含まれる前記粘度定数と前記粘度の温度係数と前記粘度指数は、
粘度の測定結果及び以下に示す数式3
に基づいて算出される、収縮率推定装置。
【数7】
ここで、
η:粘度
η
0:粘度定数
α:粘度の温度係数
T:樹脂の温度
dγ/dt:歪み速度
n:粘度指数
【請求項4】
請求項
3に記載の収縮率推定装置において、
前記収縮率推定装置は、
前記温度と前記歪み速度との組み合わせと前記粘度とを関連付けた既知データ群を入力する既知データ群入力部と、
前記既知データ群を教師データとして、入力を前記温度と前記歪み速度とするとともに出力を前記粘度とするニューラルネットワークを学習させることにより、前記粘度定数と前記粘度の温度係数と前記粘度指数を決定する定数決定部と、
を有し、
前記収縮率推定部は、前記定数決定部で決定された前記粘度定数と前記粘度の温度係数と前記粘度指数を代入した前記数式1に基づいて、前記押出条件から前記引落応力を推定する引落応力推定部を含む、収縮率推定装置。
【請求項5】
樹脂の収縮率を推定する収縮率推定方法であって、
前記収縮率推定方法は、前記樹脂を押し出す際にかかる引落応力に基づいて前記樹脂の前記収縮率を推定する収縮率推定工程を備
え、
前記収縮率推定工程は、前記樹脂の粘度に関連する定数と前記樹脂の押出条件を含む数式1および数式2に基づいて、前記引落応力を推定する、収縮率推定方法。
【数8】
ここで、
σ:引落応力
η
0
:粘度定数
α:粘度の温度係数
T:樹脂の温度
v
f
:線速
L:ダイの出口から水槽までの距離
D:引落比
n:粘度指数
【数9】
ここで、
d
w
:ダイの開口部の直径
d
d
:製品外径
【請求項6】
樹脂の収縮率を推定する処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記プログラムは、前記樹脂を押し出す際にかかる引落応力に基づいて、前記樹脂の前記収縮率を推定する収縮率推定処理を備
え、
前記収縮率推定処理は、前記樹脂の粘度に関連する定数と前記樹脂の押出条件を含む数式1および数式2に基づいて、前記引落応力を推定する、プログラム。
【数10】
ここで、
σ:引落応力
η
0
:粘度定数
α:粘度の温度係数
T:樹脂の温度
v
f
:線速
L:ダイの出口から水槽までの距離
D:引落比
n:粘度指数
【数11】
ここで、
d
w
:ダイの開口部の直径
d
d
:製品外径
【請求項7】
請求項
6に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項8】
押出機を使用した押出成形品の製造方法であって、
樹脂を押し出す際にかかる引落応力に基づいて、押出成形された前記樹脂の収縮率を推定する収縮率推定工程を備
え、
前記収縮率推定工程は、前記樹脂の粘度に関連する定数と前記樹脂の押出条件を含む数式1および数式2に基づいて、前記引落応力を推定する、押出成形品の製造方法。
【数12】
ここで、
σ:引落応力
η
0
:粘度定数
α:粘度の温度係数
T:樹脂の温度
v
f
:線速
L:ダイの出口から水槽までの距離
D:引落比
n:粘度指数
【数13】
ここで、
d
w
:ダイの開口部の直径
d
d
:押出成形品の外径
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂の収縮率を推定する収縮率推定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平9-262887号公報(特許文献1)には、結晶性樹脂の成形過程における結晶化を考慮して比容積および収縮率の変化を予測する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ケーブルは、絶縁性を確保するために導線を樹脂で被覆した構造を有しており、導線を被覆する樹脂は、例えば、押出成形技術によって形成される。その後、押出成形技術によって形成された樹脂に対して、アニール処理が行われるが、アニール処理後に樹脂が収縮することが知られている。例えば、ケーブルの長手方向に樹脂が収縮すると、ケーブルの外径が太くなる外径変動が生じたり、ケーブルの端部から導線(心線)が露出する不具合が生じるおそれがある。このことから、樹脂の収縮率を小さくすることが望まれている。
【0005】
この点に関し、ケーブル製造後に生じる樹脂の事後収縮(シュリンクバック)を低減する技術が開発されている。特に、押出成形における押出条件を適切にコントロールすることによって、押出成形後の樹脂に生じる事後収縮を低減できることがわかっている。このことから、押出条件に基づいて樹脂の収縮率を推定する収縮率推定技術が開発されている。
【0006】
この技術では、押出条件を適切に設定することによって、樹脂の収縮率を低減することが可能であるが、樹脂の材料特性(粘度や結晶化度)までは考慮していない。このため、樹脂の材料特性が変化した場合、その都度、押出条件を適正化する必要がある。
【0007】
すなわち、樹脂の収縮率は、押出条件だけでなく、樹脂の材料特性にも影響を受けることから、押出条件だけでなく樹脂の材料特性も考慮に入れて樹脂の収縮率を推定できる技術を開発することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施の形態における収縮率推定装置は、樹脂を押し出す際にかかる引落応力に基づいて樹脂の収縮率を推定する収縮率推定部を備える。
【0009】
一実施の形態における収縮率推定方法は、樹脂を押し出す際にかかる引落応力に基づいて樹脂の収縮率を推定する収縮率推定工程を備える。
【0010】
この収縮率推定方法は、プログラムを用いて、樹脂の収縮率を推定する処理をコンピュータに実行させることにより実現できる。例えば、このプログラムは、樹脂を押し出す際にかかる引落応力に基づいて、樹脂の前記収縮率を推定する収縮率推定処理を備える。
【0011】
一実施の形態におけるプログラムは、例えば、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録することができる。
【0012】
一実施の形態における押出成形品の製造方法は、押出機を使用する。ここで、押出成形品の製造方法は、樹脂を押し出す際にかかる引落応力に基づいて、押出成形された前記樹脂の収縮率を推定する収縮率推定工程を備える。
【発明の効果】
【0013】
一実施の形態によれば、押出条件だけでなく樹脂の材料特性も考慮に入れて樹脂の収縮率を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】導線の外周を樹脂で被覆する押出成形工程を説明する模式図である。
【
図2】ダイから押し出された樹脂で導線を被覆する様子を示す模式図である。
【
図4】16種類の実験条件(押出条件:温度、線速、回転数、外径)と、16種類の実験条件のそれぞれで測定された収縮率と、(数式1)に基づいて推定された「引落応力」とを示す表である。
【
図5】「引落応力」と「収縮率」との関係を示すグラフである。
【
図6】収縮率推定装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図7】収縮率推定装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
【
図8】機械学習によって、粘度定数と粘度の温度係数と粘度指数を決定する構成を説明する図である。
【
図9】機械学習によって、応答関数を決定する構成を説明する図である。
【
図10】収縮率推定装置の基本動作を説明するフローチャートである。
【
図11】収縮率推定装置の応用動作を説明するフローチャートである。
【
図12】収縮率推定技術を利用した押出成形品の製造方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0016】
<ケーブルの製造方法>
本実施の形態では、導線を樹脂で被覆するケーブルの製造方法の中で、押出成形技術を使用して導線の外周を樹脂で被覆する工程について説明する。
【0017】
図1は、導線の外周を樹脂で被覆する押出成形工程を説明する模式図である。
【0018】
図1において、被覆材料の原料となる原料ペレット10を押出機11に投入して混練すると、クロスヘッド12を介してダイ13から溶融した樹脂が押し出される。押し出された樹脂は、走行ラインに沿って移動する導線14の表面に被覆される。そして、導線14の表面に被覆された樹脂は、ダイ13から押し出された直後から空冷された後、水槽15で水冷される。このようにして、ダイ13から押し出された樹脂は、空冷および水冷による冷却過程で固化する。ここで、導線14は、銅の撚線などから構成される。また、原料ペレット(プラスチック材料)10は、熱可塑性ポリウレタン樹脂などから構成される。
【0019】
その後、押出成形技術によって形成された樹脂に対して、アニール処理が行われるが、アニール処理後に樹脂が収縮することが知られている。樹脂の収縮は、ケーブルの品質に悪影響を及ぼすことから、樹脂の収縮率を小さくすることが望ましい。
【0020】
この点に関し、樹脂の収縮率を推定する収縮率推定技術が存在するが、この技術には、改善の余地が存在する。以下では、この技術に存在する改善の余地について説明する。
【0021】
<改善の余地>
例えば、押出成形工程における押出条件(樹脂の温度や導線の線速や押出機のスクリュの回転数など)を適切に制御することによって、成形後における樹脂の収縮を低減できることがわかっている。このことから、これまでの収縮率推定技術では、押出条件の入力に基づいて収縮率を推定することが行われている。
【0022】
ところが、樹脂の収縮率は、押出条件だけでなく、樹脂の材料特性(粘度や結晶化度)にも影響を受けるため、押出条件だけに基づく収縮率の推定技術では、材料特性が変化するごとに押出条件を適正化する必要がある。
【0023】
この点に関し、例えば、背景技術に挙げた特許文献1では、樹脂の結晶化度を考慮して収縮率を推定することが行われている。しかしながら、結晶化度は測定で求める必要があるパラメータであり、例えば、ケーブルの製造工程において、特許文献1に記載された技術をリアルタイムに運用することは困難である。
【0024】
このように樹脂の収縮率は、押出条件と材料特性の両方に依存するが、現状の収縮率推定技術では、押出条件と材料特性の両方を考慮して収縮率を推定することは行われていない。なぜなら、収縮率自体を推定する場合、押出条件と材料特性の両方を考慮することが難しいだけでなく、ケーブルの製造工程においてリアルタイムに導入可能な収縮率推定技術の構築が難しいからである。したがって、押出条件と材料特性の両方を考慮可能であるとともに、ケーブルの製造工程に導入可能な収縮率推定技術が望まれている。
【0025】
つまり、現状では、押出条件と材料特性の両方を考慮しながら、ケーブルの製造工程に導入可能な収縮率推定技術を提供する観点から改善の余地が存在する。
【0026】
そこで、本実施の形態では、上述した改善の余地に対する工夫を施している。以下では、この工夫を施した本実施の形態における技術的思想について説明する。
【0027】
<実施の形態における基本思想>
本実施の形態における基本思想は、樹脂の収縮率を推定するために、収縮率自体を直接推定するのではなく、収縮率と相関関係のある物理量に着目して、この物理量を推定することによって、物理量と相関関係のある収縮率を間接的に推定する思想である。
【0028】
この基本思想は、例えば、以下に示す利点を有する。
【0029】
例えば、収縮率自体を高精度に推定するには、押出条件と樹脂の材料特性の両方を考慮する必要がある。しかしながら、収縮率自体を定式化する収縮率推定技術では、押出条件と樹脂の材料特性の両方を考慮して収縮率自体を定式化することが難しいだけでなく、「結晶化度」という測定が必要なパラメータも含まれる。この結果、収縮率自体を定式化する技術では、押出成形品の製造工程においてリアルタイムに導入することが困難である。
【0030】
これに対し、基本思想によれば、収縮率自体を定式化する必要はなく、収縮率と相関関係のある物理量を定式化できれば、定式化された物理量から収縮率を間接的に推定することができる。このとき、物理量の定式化において、押出条件と樹脂の材料特性の両方を考慮することが容易であるとともに、「結晶化度」という測定が必要なパラメータを含まずに定式化できれば、収縮率を高精度に推定できるとともに、押出成形品の製造工程においてリアルタイムに導入することも可能となる。つまり、収縮率と相関関係のある物理量として、「結晶化度」という測定が必要なパラメータを含まない一方、押出条件と材料特性を考慮した定式化が実現できる物理量が見出されれば、収縮率を高精度に推定できるとともに、押出成形品の製造工程においてリアルタイムに導入することも可能となる。
【0031】
そこで、本発明者は、このような物理量を見出すために鋭意検討した結果、「引落応力」という物理量に着目したので、以下では、「引落応力」について説明する。
【0032】
<「引落応力」>
図2は、ダイから押し出された樹脂で導線を被覆する様子を示す模式図である。
【0033】
図2において、ダイ13の出口から押し出された溶融樹脂20は、一定の線速で移動する導線14の表面に被覆される。そして、導線14の表面に被覆された溶融樹脂20は、水槽15で冷却されて結晶化する。このとき、
図2に示すように、ダイ13の出口から押し出された溶融樹脂20は、走行ラインに沿って移動する導線14に引っ張られる。この結果、ダイ13の出口から押し出されてから導線14に被覆されるまでに溶融樹脂20に斜め方向に加わる応力が「引落応力σ」である。
【0034】
本発明者は、この「引落応力」が押出条件と材料特性の両方を考慮して定式化できる物理量であることに着目し、以下に示すような定式化を試みているので、この点を説明する。
【0035】
<「引落応力」の定式化>
本発明者の検討によると、「引落応力」は、以下に示す(数式1)で表される。
【0036】
【0037】
ここで、
σ:引落応力
η0:粘度定数
α:粘度の温度係数
T:樹脂の温度
vf:線速
L:ダイの出口から水槽までの距離
D:引落比
n:粘度指数
【0038】
そして、(数式1)に含まれる「引落比D」は、以下に示す(数式2)で表される。
【0039】
【0040】
ここで、
dw:ダイの開口部の直径
dd:製品外径(ケーブル径)
【0041】
さらに、(数式1)に含まれる「粘度定数η0」と「温度係数α」と「粘度指数n」は、以下に示す(数式3)に含まれる。
【0042】
【0043】
ここで、
η:粘度
η0:粘度定数
α:粘度の温度係数
T:樹脂の温度
dγ/dt:歪み速度
n:粘度指数
【0044】
<歪み速度の説明>
ここで、(数式3)に含まれる「歪み速度」について説明する。
【0045】
【0046】
図3において、ダイ13の出口の断面積が「S
d」で示されている。このダイ13の出口から溶融樹脂20が押し出される。このとき、ダイ13の出口から押し出される溶融樹脂20の平均流速が「v
d」である。ダイ13の出口から平均流速「v
d」で押し出された溶融樹脂20は、線速「v
f」が加わることによって引き延ばされる。ここで、
図13に示される「S
f」は、溶融樹脂20で被覆された導線からなる成形物の断面積である。また、
図3に示される「L」は、ダイ13の出口から水槽15までの距離である。
【0047】
このような構成において、「歪み速度」は、以下に示す(数式4)で表される。
【0048】
【0049】
ここで、
dγ/dt:歪み速度
vd:ダイの出口での溶融樹脂の平均流速
vf:線速
L:ダイの出口から水槽までの距離
【0050】
すなわち、「歪み速度」は、平均流速「vd」と線速「vf」との差分をダイ13の出口から水槽15までの距離「L」で割った物理量として定義される。このように定義される「歪み速度」は、例えば、平均流速「vd」と線速「vf」とが等しければゼロとなる。つまり、平均流速「vd」と線速「vf」とが等しいということは、定性的に溶融樹脂20に歪みが加わらないと考えることができることから、溶融樹脂20の歪みに関する物理量である「歪み速度」がゼロとなることは理解できる。また、平均流速「vd」と線速「vf」との差分が大きくなればなるほど溶融樹脂に加わる歪みは大きくなると考えることができることから、「歪み速度」が(数式4)で表されることは妥当である。
【0051】
<定式化された「引落応力」の定性的理解>
例えば、「引落応力σ」を定式化した(数式1)には、「粘度η」を表す(数式3)に含まれる「粘度定数η0」と「温度係数α」と「粘度指数n」が含まれており、(数式1)と(数式3)から、「引落応力σ」∝「粘度η」の関係が導き出される。このように、「引落応力」を定式化した(数式1)は、樹脂の粘度という材料特性が考慮されており、定性的に粘度が大きくなると「引落応力」も大きくなると考えられることから、(数式1)による定式化は定性的理解に合致しているといえる。
【0052】
次に、(数式1)には、導線14の「線速vf」と「引落距離L」と「引落比D」が含まれており、これらは押出条件を規定する。したがって、(数式1)は、樹脂の粘度という材料特性だけでなく、押出条件も考慮した数式になっていることがわかる。
【0053】
ここで、「線速vf」(例えば、5~25m/min)が大きくなると「引落応力」は大きくなると考えられるとともに、「引落距離L」(例えば、100mm)が大きくなると「引落応力」が小さくなると考えられる。このことから、この点においても、(数式1)による定式化は定性的理解と合致する。
【0054】
さらに、「引落比D」自体は、押出条件であることは明らかでないが、この「引落比D」は、(数式2)で表されていることを考慮すると、「引落比D」が押出条件であるスクリュの回転数と関係していることを理解することができる。すなわち、押出機11のスクリュの回転数が高くなると、ダイ13から押し出される樹脂量は多くなる。このことは、導線14を被覆する樹脂の厚さが厚くなることを意味し、この結果、製品外径が大きくなる。このことは、(数式2)における分母が大きくなることを表していることから、「引落比D」は小さくなる。この「引落比D」が小さくなると、(数式1)から「引落応力」が大きくなる。このことは、押出機11のスクリュの回転数が高くなって、ダイ13から押し出される樹脂量が多くなると「引落応力」が大きくなると考えられるという定性的理解と合致するといえる。以上のことから、「引落応力」を定式化した(数式1)は、感覚的な定性的理解と合致しており、妥当な定式化であるということができる。
【0055】
<定式化された「引落応力」の有用性>
「引落応力」を定式化した(数式1)は、以下に示す有用性を有する。
【0056】
(1)(数式1)は、樹脂の粘度という材料特性と、線速と引落距離と引落比(スクリュの回転数に相当)という押出条件の両方を考慮した関係式となっている。これにより、材料特性だけを考慮した定式化や押出条件だけを考慮した定式化と比較して、高精度に「引落応力」を推定することができる。そして、このことは、「引落応力」と樹脂の「収縮率」とが高い相関関係にあれば、材料特性と押出条件の両方を考慮して高精度に「収縮率」を推定できることを意味する。このことから、(数式1)による定式化の意義は大きい。
【0057】
(2)次に、「引落応力」を定式化した(数式1)には、「結晶化度」が含まれていない。なぜなら、
図2に示すように、ダイ13から押し出される樹脂(例えば、樹脂の温度は、180℃~200℃)は、溶融樹脂20であり、この溶融樹脂20は、水槽15で冷却されて結晶化する。したがって、水槽15に到達する前段階では、樹脂は溶融状態にあり「結晶化度」を考慮する必要はない。すなわち、「引落応力」は、パラメータとして「結晶化度」が含まれない点で大きな意義を有する。すなわち、「引落応力」に着目して、この「引落応力」を定式化した(数式1)には、「結晶化度」という測定が必要なパラメータが含まれないことから、押出成形品の製造工程においてリアルタイムに容易に導入することが可能となる点で大きな意義を有しているといえる。
【0058】
ただし、上述した有用性は、「引落応力」と「収縮率」が高い相関関係があることが前提にある。なぜなら、「引落応力」と「収縮率」との間に高い相関関係がなければ、たとえ、(数式1)によって「引落応力」を高精度に推定することができても、「収縮率」を高精度に推定できることにはつながらないからである。したがって、「引落応力」と「収縮率」との相関関係が重要となってくる。この点に関し、本発明者は、「引落応力」と「収縮率」との間に高い相関関係が存在することを新規に見出している。
【0059】
<相関関係を推測した理由>
まず、本発明者が「引落応力」と「収縮率」との間に相関関係があると推測するに至った理由について説明する。本発明者が「引落応力」と「収縮率」との間に相関関係があると推測したのは、以下に示す収縮メカニズムを把握した結果である。
【0060】
そこで、本発明者が把握した収縮メカニズムについて説明する。
【0061】
押出成形技術では、ダイから押し出された溶融樹脂を延伸させて所望の寸法の製品を製造することが行われる。このとき、押し出された溶融樹脂に加わる「引落応力」により、溶融樹脂の構成材料である高分子の高分子鎖が伸長し、高分子鎖が伸長した状態で溶融樹脂が水冷される。その後、アニール処理によって再び高温状態に曝されたとき、樹脂に加わっている「引落応力」が解消される結果、樹脂に収縮が発生する。以上のようなメカニズムによって樹脂に収縮が発生する。したがって、このメカニズムによると、「引落応力」が樹脂の収縮の一因となっていることがわかる。このことを考慮して、本発明者は、「引落応力」と「収縮率」との間に相関関係があると推測するに至ったのである。
【0062】
以下では、本発明者の知見が正しいことを裏付ける検証結果について説明する。つまり、「引落応力」と「収縮率」との間には、高い相関関係が存在することを裏付ける検証結果について説明する。
【0063】
<相関関係の検証結果>
「引落応力」と「収縮率」との相関関係を検証するため、例えば、
図1に示す構成を有する押出成形システムを使用して押出実験を実施する。具体的に、押出実験では、熱可塑性ポリウレタン樹脂を使用し、押出条件として樹脂の温度と導線の線速とスクリュの回転数を採用する。各押出条件で押出実験を実施することにより得られた複数のサンプルは、それぞれ500mmにカットされた後、複数のサンプルのそれぞれに対して、130℃、3時間のアニール処理が実施される。そして、アニール処理を実施した後における樹脂の収縮量を測定することにより、複数のサンプルのそれぞれの収縮量が評価される。
【0064】
一方、複数のサンプルのそれぞれについて測定した粘度から(数式3)を使用して、「粘度定数η0」と「温度係数α」と「粘度指数n」を決定した後、決定したこれらの定数を(数式1)に代入する。具体的には、温度を185℃~210℃で変化させるとともに、歪み速度を6.08(1/s)~6080(1/s)で変化させたときの粘度をキャピラリ型レオメータで測定し、これらの測定結果に基づいて、(数式3)から「粘度定数η0」と「温度係数α」と「粘度指数n」を決定する。このようにして決定された定数を(数式1)に代入するとともに、各押出条件(温度、線速、スクリュの回転数)を(数式1)に代入することにより、「引落応力」を推定する。このとき、(数式1)に含まれる「引落比D」は、スクリュの回転数に関係するが、実際には、(数式2)に基づいて、ダイの開口部の直径と実験で得られたサンプルの外径に基づいて決定される。
【0065】
複数のサンプルは、
図4に示す16種類(実験No1~実験No16)の実験条件に対して、材料特性(粘度特性)の異なる3種類のロットのそれぞれを適用した数だけ存在する。すなわち、複数のサンプルは、16×3=48種類のサンプルから構成される。
【0066】
図4は、16種類の実験条件(押出条件:温度、線速、回転数、外径)と、16種類の実験条件のそれぞれで測定された収縮率と、(数式1)に基づいて推定された「引落応力」とを示す表である。
図4に示される16種類の実験条件は、例えば、「Box-behnken法」で最適化された16種類の条件である。この「Box-behnken法」は、高精度な予測を得るために充分で、かつ、実験回数を最小化できる実験条件を見出すことができる手法であり、
図4に示される16種類の実験条件は、「Box-behnken法」で見出された必要最小限の条件である。
【0067】
次に、上述した16×3=48種類のサンプルに基づく実験結果について説明する。
【0068】
図5は、「引落応力」と「収縮率」との関係を示すグラフである。
図5において、横軸は(数式1)に基づいて推定された「引落応力」を示している一方、縦軸は、実験で測定された「収縮率」を示している。
図5において、「サンプルA」と「サンプルB」と「サンプルC」は、それぞれ材料特性(粘度特性)の異なる3種類のロットに対応しており、「サンプルA」と「サンプルB」と「サンプルC」のそれぞれについて16種類の実験条件で実験が行われている。この結果、
図5には、3×16=48個の測定点が存在する。
【0069】
図5に示すグラフを検証した結果、「引落応力」と「収縮率」との間の相関係数は、「0.8057」であり、相関係数が1に近づくほど相関関係が高くなることを考慮すると、「引落応力」と「収縮率」との間には、高い相関関係が存在することがわかる。
【0070】
上述した実験結果から、「引落応力」と「収縮率」との間には、高い相関関係が存在することが裏付けられており、「引落応力」と「収縮率」との間に高い相関関係が存在するであろうという本発明者の推測が正しいことが確認されたことになる。したがって、(数式1)で定式化された「引落応力」に基づいて、樹脂の「収縮率」を推定する技術的思想は、材料特性と押出条件の両方を考慮している点と、押出成形品の製造工程においてリアルタイムに容易に導入することが可能となる点で有用であることがわかる。
【0071】
<収縮率推定装置の構成>
以下では、上述した技術的思想を具現化する収縮率推定装置について説明する。
【0072】
<<ハードウェア構成>>
まず、本実施の形態おける収縮率推定装置のハードウェア構成について説明する。
【0073】
図6は、本実施の形態における収縮率推定装置100のハードウェア構成の一例を示す図である。なお、
図6に示す構成は、あくまでも収縮率推定装置100のハードウェア構成の一例を示すものであり、収縮率推定装置100のハードウェア構成は、
図6に記載されている構成に限らず、他の構成であってもよい。
【0074】
図6において、収縮率推定装置100は、プログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)101を備えている。このCPU101は、バス113を介して、例えば、ROM(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory)103、および、ハードディスク装置112と電気的に接続されており、これらのハードウェアデバイスを制御するように構成されている。
【0075】
また、CPU101は、バス113を介して入力装置や出力装置とも接続されている。入力装置の一例としては、キーボード105、マウス106、通信ボード107、および、スキャナ111などを挙げることができる。一方、出力装置の一例としては、ディスプレイ104、通信ボード107、および、プリンタ110などを挙げることができる。さらに、CPU101は、例えば、リムーバルディスク装置108やCD/DVD-ROM装置109と接続されていてもよい。
【0076】
収縮率推定装置100は、例えば、ネットワークと接続されていてもよい。例えば、収縮率推定装置100がネットワークを介して他の外部機器と接続されている場合、収縮率推定装置100の一部を構成する通信ボード107は、LAN(ローカルエリアネットワーク)、WAN(ワイドエリアネットワーク)やインターネットに接続されている。
【0077】
RAM103は、揮発性メモリの一例であり、ROM102、リムーバルディスク装置108、CD/DVD-ROM装置109、ハードディスク装置112の記録媒体は、不揮発性メモリの一例である。これらの揮発性メモリや不揮発性メモリによって、収縮率推定装置100の記憶装置が構成される。
【0078】
ハードディスク装置112には、例えば、オペレーティングシステム(OS)201、プログラム群202、および、ファイル群203が記憶されている。プログラム群202に含まれるプログラムは、CPU101がオペレーティングシステム201を利用しながら実行する。また、RAM103には、CPU101に実行させるオペレーティングシステム201のプログラムやアプリケーションプログラムの少なくとも一部が一次的に格納されるとともに、CPU101による処理に必要な各種データが格納される。
【0079】
ROM102には、BIOS(Basic Input Output System)プログラムが記憶され、ハードディスク装置112には、ブートプログラムが記憶されている。収縮率推定装置100の起動時には、ROM102に記憶されているBIOSプログラムおよびハードディスク装置112に記憶されているブートプログラムが実行され、BIOSプログラムおよびブートプログラムにより、オペレーティングシステム201が起動される。
【0080】
プログラム群202には、収縮率推定装置100の機能を実現するプログラムが記憶されており、このプログラムは、CPU101により読み出されて実行される。また、ファイル群203には、CPU101による処理の結果を示す情報、データ、信号値、変数値やパラメータがファイルの各項目として記憶されている。
【0081】
ファイルは、ハードディスク装置112やメモリなどの記録媒体に記録される。ハードディスク装置112やメモリなどの記録媒体に記録された情報、データ、信号値、変数値やパラメータは、CPU101によりメインメモリやキャッシュメモリに読み出され、抽出・検索・参照・比較・演算・処理・編集・出力・印刷・表示に代表されるCPU101の動作に使用される。例えば、上述したCPU101の動作の間、情報、データ、信号値、変数値やパラメータは、メインメモリ、レジスタ、キャッシュメモリ、バッファメモリなどに一次的に記憶される。
【0082】
収縮率推定装置100の機能は、ROM102に記憶されたファームウェアで実現されていてもよいし、あるいは、ソフトウェアのみ、素子・デバイス・基板・配線に代表されるハードウェアのみ、ソフトウェアとハードウェアとの組み合わせ、さらには、ファームウェアとの組み合わせで実現されていてもよい。ファームウェアとソフトウェアは、プログラムとして、ハードディスク装置112、リムーバルディスク、CD-ROM、DVD-ROMなどに代表される記録媒体に記録される。プログラムは、CPU101により読み出されて実行される。すなわち、プログラムは、コンピュータを収縮率推定装置100として機能させるものである。
【0083】
このように、収縮率推定装置100は、処理装置であるCPU101、記憶装置であるハードディスク装置112やメモリ、入力装置であるキーボード105、マウス106、通信ボード107、出力装置であるディスプレイ104、プリンタ110、通信ボード107を備えるコンピュータである。そして、収縮率推定装置100の機能は、処理装置、記憶装置、入力装置、および、出力装置を利用して実現される。
【0084】
<<機能ブロック構成>>
次に、収縮率推定装置100の機能ブロック構成について説明する。
【0085】
図7は、収縮率推定装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
【0086】
図7において、本実施の形態における収縮率推定装置100は、入力部301と、定数決定部302と、収縮率推定部303と、判定部305と、適合条件探索部306と、出力部307と、データ記憶部308を有している。
【0087】
入力部301は、例えば、既知データ群や
図5に示すデータ群を入力するように構成されている。ここで、「既知データ群」とは、樹脂の温度と歪み速度との組み合わせと粘度とを関連付けたデータ群であって、樹脂の温度と歪み速度と粘度が既知のデータ群とし定義される。また、
図5に示すデータ群とは、「引落応力」と「収縮率」とを関連づけたデータ群として定義される。これらの「既知データ群」や「
図5に示すデータ群」は、入力部301に入力された後、データ記憶部308に記憶される。
【0088】
次に、定数決定部302は、データ記憶部308に記憶されている既知データ群に基づいて、(数式3)に含まれる「粘度定数η
0」と「温度係数α」と「粘度指数n」を決定するように構成されている。具体的に、定数決定部302は、例えば、
図8に示すように、既知データ群を教師データとして、入力を樹脂の温度と歪み速度とするとともに出力を粘度とするニューラルネットワークを学習させることにより、粘度定数と粘度の温度係数と粘度指数を決定するように構成されている。このようにして決定された粘度定数と粘度の温度係数と粘度指数は、データ記憶部308に記憶される。
【0089】
続いて、収縮率推定部303は、樹脂を押し出す際にかかる「引落応力」に基づいて樹脂の収縮率を推定するように構成されている。つまり、収縮率推定部303は、収縮率と相関関係を有する「引落応力」に基づいて、間接的に収縮率を推定するように構成されている。例えば、収縮率推定部303は、樹脂の粘度に関連する定数と樹脂の押出条件に基づいて「引落応力」を推定するように構成されており、引落応力推定部304を含む。
【0090】
引落応力推定部304は、(数式1)および(数式2)に基づいて、「引落応力」を推定するように構成されている。例えば、引落応力推定部304では、定数決定部302で決定された「粘度定数η0」と「温度係数α」と「粘度指数n」を代入した(数式1)に対して、押出条件(「樹脂の温度T」、「線速vf」、「ダイの出口から水槽までの距離L」、(数式2)で定義される「引落比D」)を(数式1)にさらに代入することにより、「引落応力」を推定するように構成されている。このようにして推定された「引落応力」は、データ記憶部308に記憶される。
【0091】
そして、収縮率推定部303は、引落応力推定部304で推定された「引落応力」に基づいて、樹脂の収縮率を推定するように構成されている。例えば、「引落応力」と収縮率との間には、
図5に示すデータ群で表される相関関係が存在することから、収縮率推定部303は、この相関関係を利用して「引落応力」から収縮率を推定するように構成されている。具体的な一例を挙げると、
図9に示すように収縮率推定部303は、データ記憶部308に記憶されている
図5に示すデータ群を教師データとして、入力を「引落応力」とするとともに出力を収縮率とするニューラルネットワークを学習させることにより、応答関数を生成するように構成され、この応答関数を使用して、収縮率との対応が未知の「引落応力」から収縮率を推定するように構成されている。
【0092】
ここで、応答関数とは、「引落応力」を入力すると、入力された「引落応力」に対応する収縮率を出力する関数として定義される。
【0093】
次に、判定部305は、収縮率推定部303で推定された収縮率が、予め設定されている「しきい値」以下であるか否かを判定するように構成されている。
【0094】
適合条件探索部306は、収縮率推定部303で推定された収縮率が予め設定されている「しきい値」以下ではないと判定部305で判定された場合に、(数式1)に含まれる押出条件を変更して「引落応力」を再推定し、再推定した「引落応力」に対応する収縮率が「しきい値」以下となる押出条件(適合条件)を探索するように構成されている。
【0095】
出力部307は、例えば、収縮率推定部303で推定された収縮率や、適合条件探索部306で探索された押出条件を出力するように構成されている。
【0096】
以上のようにして、本実施の形態における収縮率推定装置100が構成されている。
【0097】
<収縮率推定装置の動作(収縮率推定方法)>
続いて、本実施の形態における収縮率推定装置100の動作について説明する。
【0098】
<<基本動作>>
図10は、収縮率推定装置の基本動作を説明するフローチャートである。
【0099】
図10において、まず、入力部301に既知データ群が入力されると(S101)、入力された既知データ群は、データ記憶部308に記憶される。次に、定数決定部302は、データ記憶部308に記憶されている既知データ群に基づいて、(数式3)に含まれる材料特性(粘度)に関する定数(「粘度定数η
0」と「温度係数α」と「粘度指数n」)を決定する(S102)。その後、引落応力推定部304は、定数決定部302で決定した定数を代入した(数式1)に対して(S103)、さらに押出条件を入力することにより、(数式1)から「引落応力」を推定する(S104)。続いて、収縮率推定部303は、応答関数に基づいて、引落応力推定部304で推定された「引落応力」から樹脂の収縮率を推定する(S105)。そして、収縮率推定部303で推定された収縮率は、出力部307から出力される。このようにして、収縮率推定装置100での基本動作が実施される。これにより、収縮率推定装置100によれば、樹脂の収縮率を推定することができる。
【0100】
<<応用動作>>
さらに、収縮率推定装置100では、上述した基本動作に加えて、以下に示す応用動作も実施することができる。
図11は、収縮率推定装置の応用動作を説明するフローチャートである。
図11において、上述した基本動作を実施することにより、樹脂の収縮率が推定されると(S201)、その後、判定部305は、収縮率推定部303で推定された収縮率が予め設定された「しきい値」以下であるか否かを判定する(S202)。収縮率推定部303で推定された収縮率が「しきい値」以下である場合、収縮率が「しきい値」以下である旨が出力部307から出力される(S205)。一方、収縮率推定部303で推定された収縮率が「しきい値」以下ではない場合、適合条件探索部306は、(数式1)に含まれる押出条件を変更して「引落応力」を再推定し、再推定した「引落応力」に対応する収縮率が「しきい値」以下となる押出条件(適合条件)を探索する(S203)。そして、適合条件探索部306で探索された押出条件が出力部307から出力される(S204)。
【0101】
このようにして、収縮率推定装置100での応用動作が実施される。これにより、収縮率推定装置100によれば、収縮率推定部303で推定された収縮率が所定の条件を満たさない場合であっても、収縮率が所定の条件を満たすための押出条件を提示できる。
【0102】
以上のようにして、収縮率推定装置100を動作させることにより、本実施の形態における収縮率推定方法が実現される。
【0103】
<収縮率推定プログラム>
上述した収縮率推定装置100で実施される収縮率推定方法は、収縮率推定処理をコンピュータに実行させる収縮率推定プログラムにより実現することができる。
【0104】
例えば、
図6に示すコンピュータからなる収縮率推定装置100において、ハードディスク装置112に記憶されているプログラム群202の1つとして、本実施の形態における収縮率推定プログラムを導入することができる。そして、この収縮率推定プログラムを収縮率推定装置100であるコンピュータに実行させることにより、本実施の形態における収縮率推定方法を実現することができる。
【0105】
収縮率推定処理に関するデータを作成するための各処理をコンピュータに実行させる収縮率推定プログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して頒布することができる。記録媒体には、例えば、ハードディスクやフレキシブルディスクに代表される磁気記憶媒体、CD-ROMやDVD-ROMに代表される光学記憶媒体、ROMやEEPROMなどの不揮発性メモリに代表されるハードウェアデバイスなどが含まれる。
【0106】
<実施の形態における効果>
本実施の形態における技術的思想によれば、直接的に樹脂の収縮率を推定するのではなく、収縮率と相関関係のある「引落応力」に着目して、この「引落応力」に基づいて間接的に収縮率を推定している。これにより、材料特性と押出条件の両方を容易に考慮して高精度に収縮率を推定できるだけでなく、「結晶化度」という測定が必要なパラメータを考慮する必要がないことから、押出成形品の製造工程においてリアルタイムに導入可能な収縮率推定技術を提供することができる点で大きな技術的意義を有する。
【0107】
例えば、これまでは、押出成形品の製造工程においてリアルタイムに導入可能な収縮率推定技術が存在しなかったことから、作業員の経験に基づいて押出条件を調整することにより収縮率を低減することが行われていた。この点に関し、本実施の形態における技術的思想によれば、作業員の経験に頼ることなく、客観的に正確な収縮率推定技術を押出成形品の製造工程(製造ライン)に導入することができる。この結果、本実施の形態によれば、樹脂材料や押出成形品(例えば、ケーブル)の廃棄量の削減および生産効率の向上を図ることができる。つまり、本実施の形態における技術的思想は、収縮率推定技術を押出成形品の製造ラインに導入することを可能とする結果、押出成形品の製造歩留まりの向上できるという顕著な効果を得ることができる。そこで、以下では、本実施の形態における技術的思想を利用した押出成形品の製造工程について説明することにする。
【0108】
<押出成形品の製造方法>
図12は、本実施の形態における収縮率推定技術を利用した押出成形品の製造方法を説明するフローチャートである。
図12において、まず、押出条件の初期設定をする(S301)。次に、本実施の形態における収縮率推定技術を使用する。具体的には、材料特性に関連する定数を代入した(数式1)を用意して、この(数式1)に対して初期設定された押出条件を代入することにより、「引落応力」を推定し、この「引落応力」に基づいて収縮率を推定する(S302)。このとき、上述した基本動作と応用動作が実施される。
【0109】
この結果、推定された収縮率が「しきい値」以下である場合は、初期設定された押出条件が維持される。一方、推定された収縮率が「しきい値」以下ではない場合、応用動作で提示された適合条件(押出条件)に条件変更する(S303)。
【0110】
そして、維持された押出条件あるいは変更された押出条件で樹脂の押出成形が行われる(S304)。その後、樹脂に対してアニール処理が行われて(S305)、所定期間経過後(1日後~2日後)収縮率の測定が行われる(S306)。このとき、収縮率が所定値以下である場合(OK)、良品としてのケーブルが製造される(S307)。一方、収縮率が所定値以下ではない場合(NG)、このNGデータに基づいて、入力した「引落応力」から収縮率を出力する応答関数の再構築を実施する(S308)。すなわち、上述したNGデータも付け加えて、入力を「引落応力」とするとともに出力を収縮率とするニューラルネットワークを再学習させることにより、応答関数を再構築する。このようにして、本実施の形態におけるケーブルの製造方法が実現される。
【0111】
本実施の形態における押出成形品の製造方法によれば、収縮率推定技術を製造ラインに導入して予め樹脂の収縮率を推定していることから、押出成形品の製造歩留まりを向上させることができる。さらに、推定した収縮率では「OK」であっても最終的に実測した収縮率が「NG」であった場合、このNGデータに基づいて、応答関数を再構築することにより、収縮率の推定精度を向上することができる。
【0112】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0113】
前記実施の形態における技術的思想は、プラスチックやゴムを含む幅広い種類の樹脂に適用可能であり、例えば、熱可塑性ポリウレタン樹脂に限定されるものではない。また、前記実施の形態における技術的思想は、チューブ押出や電線押出あるいはダイ形状に関わらず幅広い押出形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0114】
10 原料ペレット
11 押出機
12 クロスヘッド
13 ダイ
14 導線
15 水槽
20 溶融樹脂
100 収縮率推定装置
101 CPU
102 ROM
103 RAM
104 ディスプレイ
105 キーボード
106 マウス
107 通信ボード
108 リムーバルディスク装置
109 CD/DVD-ROM装置
110 プリンタ
111 スキャナ
112 ハードディスク装置
201 オペレーティングシステム
202 プログラム群
203 ファイル群
301 入力部
302 定数決定部
303 収縮率推定部
304 引落応力推定部
305 判定部
306 適合条件探索部
307 出力部
308 データ記憶部