IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】電子顕微鏡による分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2251 20180101AFI20241008BHJP
   H01J 37/22 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
G01N23/2251
H01J37/22 502B
H01J37/22 502H
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020202565
(22)【出願日】2020-12-07
(65)【公開番号】P2021124495
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-07-10
(31)【優先権主張番号】P 2020017053
(32)【優先日】2020-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】高須賀 博史
【審査官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-173301(JP,A)
【文献】特開2014-146079(JP,A)
【文献】特開2001-074437(JP,A)
【文献】特開2019-200920(JP,A)
【文献】特開2015-170539(JP,A)
【文献】特開平09-092191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N23/00-G01N23/2276
G01B15/00-G01B15/08
H01J37/00-H01J37/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDream3)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造中または製造後の金属単体粒子および金属酸化物粒子の少なくともいずれかを電子顕微鏡で分析する方法であって、
所定の倍率且つ所定の解像度の通常モードと、前記通常モードに比べて低倍率且つ高解像度の高速モードとから選択するモード選択工程と、
前記モード選択工程にて選択したモードにて前記金属単体粒子および前記金属酸化物粒子の少なくともいずれかを分析する分析工程と、
を有し、
前記モード選択工程では、所定期間内に行うべき分析件数が少ない場合に前記通常モードを選択し、所定期間内に行うべき分析件数が多い場合に前記高速モードを選択する、電子顕微鏡による分析方法。
【請求項2】
前記高速モードでの倍率は、前記通常モードでの倍率の0.5倍とし、前記高速モードでの解像度は、前記通常モードでの解像度の2倍とする、請求項1に記載の電子顕微鏡による分析方法。
【請求項3】
前記分析工程では走査型電子顕微鏡を使用する、請求項1または2に記載の電子顕微鏡による分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡による分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象物の拡大像を得るために電子顕微鏡が使用される。電子顕微鏡には走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査透過型電子顕微鏡(STEM)などが知られている。SEMに関しては、非特許文献1に記載のように試験方法が規定されてもいる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】JIS K 0132:1997「走査電子顕微鏡試験方法通則」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電子顕微鏡は、測定対象物を詳細に分析することに使用される。その一方、本発明者は、電子顕微鏡による詳細な分析が困難な事態に直面した。具体的に言うと、金属単体粒子および金属酸化物粒子の少なくともいずれかを製造する際のラインにおいて、中間体または最終製品を検査する際に、本発明者は、そのような困難な事態に直面した。
【0005】
所定の期間内に製造すべき金属単体粒子および金属酸化物粒子の少なくともいずれかの量が比較的少ない場合は、該粒子を製造する速度が小さくて済み、電子顕微鏡による詳細な分析を行っても製造工程全般にはさほど影響を与えない。
【0006】
その一方、所定の期間内に製造すべき金属単体粒子および金属酸化物粒子の少なくともいずれかの量が比較的多い場合は、該粒子を製造する速度を大きくしなければならず、これは、限られた時間で分析を数多くこなさければならないことを意味する。そのような状況で、電子顕微鏡による検査に時間をかけてしまうと、検査が、製造工程全般におけるボトルネックとなってしまい、製造量の目標を達成できないおそれがある。とはいえ、電子顕微鏡による分析を省略と言わないまでも簡略化しすぎると、今度は金属単体粒子および金属酸化物粒子の少なくともいずれかの中間体または最終製品の品質の保証が難しくなる。
【0007】
本発明の課題は、所定期間内にて行うべき分析件数の多寡にかかわらず電子顕微鏡による適切な分析を行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の知見に基づいて成された本発明の態様は、以下の通りである。
本発明の第1の態様は、
製造中または製造後の金属単体粒子および金属酸化物粒子の少なくともいずれかを電子顕微鏡で分析する方法であって、
高倍率且つ低解像度の通常モードと、低倍率且つ高解像度の高速モードとから選択するモード選択工程と、
前記モード選択工程にて選択したモードにて前記金属単体粒子および金属酸化物粒子の少なくともいずれかを分析する分析工程と、
を有する、電子顕微鏡による分析方法である。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発明において、
前記高速モードでの倍率は、前記通常モードでの倍率の0.5倍とし、前記高速モードでの解像度は、前記通常モードでの解像度の2倍とする。
【0010】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に記載の発明において、
前記モード選択工程では、所定期間内にて行うべき分析件数の多寡に応じてモードを選択する。
【0011】
本発明の第4の態様は、第1~第3のいずれかの態様に記載の発明において、
前記分析工程では走査型電子顕微鏡を使用する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、所定期間内にて行うべき分析件数の多寡にかかわらず電子顕微鏡による適切な分析を行える。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。本明細書において「~」は所定の値以上且つ所定の値以下を指す。
【0014】
本実施形態は以下の構成を有する。
「製造中または製造後の金属単体粒子および金属酸化物粒子の少なくともいずれかを電子顕微鏡で分析する方法であって、
高倍率且つ低解像度の通常モードと、低倍率且つ高解像度の高速モードとから選択するモード選択工程と、
前記モード選択工程にて選択したモードにて前記金属単体粒子および前記金属酸化物粒子の少なくともいずれかを分析する分析工程と、
を有する、電子顕微鏡による分析方法。」
【0015】
本実施形態で用いる電子顕微鏡としては、例えばSEM、TEM、STEMが挙げられる。本実施形態においてはSEMを使用する場合を例示する。SEMの場合、金属単体粒子および金属酸化物粒子の少なくともいずれかの表面観察を行うのに好適である。また、SEMの場合、電子線照射により発生する特性X線を検出し、エネルギーで分光することによって、元素分析や組成分析を行うEDS分析が可能となるため好ましい。
【0016】
分析内容(いわゆる検査内容)には限定は無いが、例えば、金属単体粒子および金属酸化物粒子の少なくともいずれかであるところの製造物に異物が混入する可能性があり、この異物を検出すべく該製造物を分析してもよい。なお、この製造物は、製造後の最終製品のみならず、製造中の物質いわゆる中間物も含む。
【0017】
電子顕微鏡による分析が可能であれば、金属単体粒子および金属酸化物粒子の少なくともいずれかの種類、形状には限定は無い。
【0018】
上記異物としては、例えば、製造物であるところの金属単体粒子および金属酸化物粒子の少なくともいずれかの金属種類とは異なる金属を含有する導電性粒子(以降、金属異物とも称する。)が挙げられる。
【0019】
つまり、分析内容としては、金属単体粒子および金属酸化物粒子の少なくともいずれかである製造物から該金属異物を電子顕微鏡により発見し、分析することが例示可能である。
【0020】
該金属異物に対する分析内容としては、例えば、該金属異物の数、寸法等を、定性、定量評価することが挙げられる。この場合、本実施形態に係る分析方法は、複数の粒子中に含まれる金属異物検出方法でもある。
【0021】
本実施形態においては、高倍率且つ低解像度の通常モードと、低倍率且つ高解像度の高速モードとから、製造物であるところの金属単体粒子および金属酸化物粒子の少なくともいずれかの製造量に応じて選択するモード選択工程を行う。
【0022】
本明細書において「倍率」とは、反射電子像を撮像する際の観察倍率を指し、「解像度」とは、反射電子像を撮像する際の解像度(単位:pixel)を指す。また、上段落の「高」「低」は、通常モードと高速モードとの間の相対的なものである。通常モードにしても高速モードにしても、倍率、解像度の絶対的な数値には限定は無い。
【0023】
「通常モード」は、製造物であるところの金属単体粒子および金属酸化物粒子の少なくともいずれかを通常に分析するためのモードである。その一方、通常モードでは倍率を比較的高く設定するのが好ましい。例えば後掲の実施例に示すように50倍以上に設定してもよく、100倍以上に設定するのが更によい。その場合、該製造物をより拡大して分析できる。そのため、解像度が比較的低くても(例えば解像度を512pixelに設定しても)、分析精度にはさほど影響を与えない。
【0024】
その一方、「高速モード」は、その名の通り、製造物であるところの金属単体粒子および金属酸化物粒子の少なくともいずれかを高速で分析するためのモードである。高速モードでは、通常モードに比べて倍率を低く設定する一方、通常モードでの解像度よりも高い解像度に設定すればよい。
【0025】
高速モードにおいて、倍率を下げる度合い、解像度を上げる度合いには限定は無い。但し、好適には、通常モードの解像度のn倍(nは2以上の自然数)(更に好適には2倍)の値を高速モードでの解像度として採用する。そして、好適には、通常モードの倍率の0.4~0.6倍(更に好適には解像度にて乗じた値nの逆数倍、例えば0.5倍)の値を高速モードでの倍率として採用する。一例では、高速モードだと、低倍率化による観察視野数の低減のおかげで、通常モードに要する時間から5割以上減ずることが可能となる。
【0026】
そして、本実施形態では、上記2つのモードを、所定の期間内での必要となる分析件数の多寡(一例としては金属単体粒子および金属酸化物粒子の少なくともいずれかの目標製造量の多寡)に応じて選択する。例えば、金属単体粒子および金属酸化物粒子の少なくともいずれかの製造量(所定の期間内での目標製造量)を、製造量が少ない方から5段階に分け、1~3段階目の場合は通常モードのままとし、4、5段階目の場合、高速モードを選択してもよい。
【0027】
なお、モード選択は、操作者が手動で行う方式でもよいし、システムに入力された金属単体粒子および金属酸化物粒子の少なくともいずれかの製造量に応じて自動で選択される方式としてもよい。
【0028】
自動選択方式を採用する場合、分析件数(例えば金属単体粒子および金属酸化物粒子の少なくともいずれかの製造量)を入力する入力部と、分析件数(例えば金属単体粒子および金属酸化物粒子の少なくともいずれかの製造量)に応じて上記2つのモードから1つを選択するモード選択部と、を備えた電子顕微鏡による分析システムを構築してもよい。この分析システムは分析部を備え、この分析部は電子顕微鏡(例えばSEM)が該当する。
【0029】
また、自動選択方式を採用する場合、分析件数(例えば金属単体粒子および金属酸化物粒子の少なくともいずれかの製造量)を入力する入力部、分析件数(例えば金属単体粒子および金属酸化物粒子の少なくともいずれかの製造量)に応じて上記2つのモードから1つを選択するモード選択部、分析部、としてコンピュータを機能させるプログラムにも本発明の技術的思想を具体化した態様の一つである。
【0030】
本実施形態における分析工程では、モード選択工程にて選択したモードにて金属単体粒子および金属酸化物粒子の少なくともいずれかを分析できれば限定は無く、先ほども述べたように金属異物の表面観察を行ってもよいし、撮像画像から金属異物を自動検出するとともに粒子形状および寸法の少なくともいずれかを自動計測してもよい。また、自動検出された金属異物に対してエネルギー分散型X線分光器(EDS)を用いたEDX分析を行ってもよい。そのことから、分析工程ではSEM-EDX装置を使用するのが好ましい。
【0031】
その際に用いられる装置には限定は無く、公知のSEM装置やTEM装置を使用すればよい。該装置により、高速モードの際、撮像画像から金属異物の自動検出も適切に行われ、且つ、高速モードに要する時間は通常モードに要する時間の5割以上減じることが可能となる。
【0032】
分析工程において、金属単体粒子および金属酸化物粒子の少なくともいずれかを導電性粘着部材に付着させ、該導電性粘着部材を上記装置にセットし、分析を行うのがよい。これにより、SEM観察に伴う特別な前処理(金属の蒸着等)を行うことなく分析が可能となる。導電性粘着部材の形状、材料の種類等には限定は無いが、例えばカーボンテープが挙げられる。
【0033】
本実施形態によれば、所定期間内にて行うべき分析件数の多寡にかかわらず電子顕微鏡による適切な分析を行うことが可能となる。
【0034】
なお、本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0035】
例えば、本実施形態では製造物であるところの金属単体粒子および金属酸化物粒子の少なくともいずれかの目標製造量に応じてモード選択を行う例を挙げたが、それ以外にも、単に分析件数が多く、そのせいで時間を要するときに、時間を節約すべく上記モード選択にて高速モードを選択しても構わない。
【0036】
また、本実施形態における分析内容として、金属異物を発見し、該金属異物を分析する例を挙げたが、それ以外にも、製造物であるところの金属単体粒子および金属酸化物粒子の少なくともいずれかを定性的および/または定量的に分析してもよい。例えば、樹脂にて包埋された金属単体粒子および金属酸化物粒子の少なくともいずれか自体に対し、本実施形態に係る手法を適用してもよい。これらの例をまとめて「金属単体粒子および金属酸化物粒子の少なくともいずれかを電子顕微鏡で分析する」と称する。
【0037】
本発明は、通常モードと高速モードとの間での切り替え(例えば1回の切り替え(例:通常モード→高速モード)、好ましくは2回の切り替え(例:通常モード→高速モード→通常モード))を含めばよい。この条件を満たすのならば、例えば2回の切り替え後に、通常モードで規定された解像度はそのままで倍率を半減させたSEM観察を行うことは妨げない。
【実施例
【0038】
以下、本実施例について説明する。なお、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
[通常モードで採用する倍率および解像度の決定]
以下に述べる試験により、通常モードにおける倍率および解像度の条件出しを行う。
【0040】
所定の金属異物を含有する試料(金属酸化物粉末)に対し、50μm以上の寸法を有する該金属の粒子を3個検出するのに要する時間を調べた。具体的には、8mm×40mmのカーボンテープの粘着面上に粉末試料を付着させ、該カーボンテープをSEM-EDX装置(株式会社日立ハイテク製 FlexSEM1000、EDSに関しては、オックスフォード・インストゥルメンツ社製 Aztec、加速電圧:20kV)にセットし、検出を行った(以降、同様の手法を採用)。その結果を示すのが以下の表1である。
【表1】
「画素サイズ」は、1画素(pixel)あたりの実空間内の寸法である。
「検出粒子サイズ」は、自動検出の対象となる粒子の画像上での輝度の閾値である。この項目の値が20の場合、輝度閾値以上のピクセル数が20以上集まって存在する場合、この集まりを所定の金属異物として検出する。
「デュエルタイム」は、反射電子像を撮像する際の電子ビームの1スキャンに要する時間である。
「EDX収集時間」は、EDX分析時の積算時間である。
「測定時間」は、上記試験を終了するまでに要した時間である。
【0041】
表1の結果を鑑み、今回の試験では、通常モードの倍率を100倍、解像度を512pixelに設定した。それに伴い、高速モードの倍率を50倍、解像度を1024pixelに設定した。
【0042】
[高速モードにおける測定時間]
以下に述べる試験により、高速モードにおける測定時間を得た。
【0043】
上記の所定の金属の粒子を含有する試料に対し、20μm以上の寸法を有する該金属の粒子の自動検出が完了するのに要する時間を調べた。その結果を示すのが以下の表2である。
【表2】
なお、実施例2は、実施例1での測定を同一試料にて再度行った試験である。
【0044】
表2に示すように、比較例1では、倍率を通常モードの倍率の0.5倍とする一方、解像度は通常モードと同じ値にしたが、測定時間10分で1個しか検出できなかった。比較例2では検出粒子サイズを緩い条件にしたものの、測定時間10分で7個しか検出できなかった。
【0045】
その一方、実施例1、2では、通常モードの条件出しの試験に要した測定時間に比べ、測定時間を5割以上減じることができた。しかも、測定時間10分強であるにもかかわらず、40個弱の金属異物を検出できた。
【0046】
本実施例により、スピーディー且つ適切な分析が行えた。これは、所定期間内にて行うべき分析件数の多寡に応じてモードを切り替えることにより、電子顕微鏡による適切な分析が行えることを意味する。