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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】評価方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20241008BHJP
   B29C 64/106 20170101ALI20241008BHJP
   B29C 64/386 20170101ALI20241008BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20241008BHJP
   B33Y 50/00 20150101ALI20241008BHJP
   G09B 23/28 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
A61B5/055 390
A61B5/055 311
A61B5/055 382
B29C64/106
B29C64/386
B33Y10/00
B33Y50/00
G09B23/28
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020213410
(22)【出願日】2020-12-23
(65)【公開番号】P2022099574
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】松村 貴志
(72)【発明者】
【氏名】新美 達也
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 拓也
【審査官】佐藤 賢斗
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-535856(JP,A)
【文献】特開昭61-247440(JP,A)
【文献】特開2018-035271(JP,A)
【文献】特開2017-024253(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0192077(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108210072(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
B29C 64/00 - 64/40
B33Y 10/00 - 99/00
G01R 33/00 - 33/64
G09B 23/00 - 23/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロゲルを含有したモデルの生体に対する精度を評価する評価方法であって、
前記生体をMRIで撮像することにより取得される生体形状を示す生体形状情報と、前記モデルをMRIで撮像することにより取得されるモデル形状を示すモデル形状情報と、前記生体をMRE測定することにより取得される生体物性を示す生体物性情報と、前記モデルをMRE測定することにより取得されるモデル物性を示すモデル物性情報と、に基づき前記精度を評価する評価工程を含むことを特徴とする評価方法。
【請求項2】
前記生体形状情報は、生体内部形状情報を含む、請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記評価工程は、医用3Dデータに含まれる前記生体形状情報と、モデル3Dデータに含まれる前記モデル形状情報と、を比較することで前記精度を評価する工程であり、
前記医用3Dデータは、前記生体を医用画像撮像装置で撮像することにより取得される医用画像データに基づいて作成され、
前記モデル3Dデータは、前記モデルを医用画像撮像装置で撮像することにより取得されるモデル画像データに基づいて作成される、請求項1又は2に記載の評価方法。
【請求項4】
前記医用3Dデータは、前記医用画像データに基づいて作成される複数のボクセルと、
ボクセルごとに付与された前記医用画像データにおける画像濃度を示す画像濃度情報と、を含み、
前記モデル3Dデータは、前記モデル画像データに基づいて作成される複数のボクセルと、ボクセルごとに付与された前記モデル画像データにおける画像濃度を示す画像濃度情報と、を含む、請求項3に記載の評価方法。
【請求項5】
前記モデルは、前記生体内部形状情報に基づいて造形され、前記生体内部形状情報に対応する生体内部形状を有する、請求項2に記載の評価方法。
【請求項6】
前記モデルは、ヒトの臓器モデルである、請求項1から5のいずれか一項に記載の評価方法。
【請求項7】
前記モデルは、前記生体物性情報に基づいて造形され、前記生体物性の分布に対応する強度物性の分布を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の評価方法。
【請求項8】
前記モデルは、マテリアルジェッティング方式の3Dプリンタを用いて造形される、請求項1からのいずれか一項に記載の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元立体造形技術の進歩はめざましく、熱溶融積層法、バインダージェッティング法、光造形法、粉末焼結積層造形法、マテリアルジェッティング法などの様々な3Dプリンタが製造業において用いられている。また、3Dプリンタで用いる材料としては、従来から知られている金属及び樹脂に加え、多様な材料が開発されている。これら多様な材料に対応した新規用途も提案されており、産業分野のみならず、医療分野及びヘルスケア分野等への応用も期待されている。医療分野における3Dプリンタの応用例としては、例えば、チタン、ハイドロキシアパタイト、PEEK等によるインプラント可能な人工骨の造形、細胞の直接積層による人工臓器の研究などへの応用が挙げられる。ヘルスケア分野における3Dプリンタの応用例としては、例えば、個人特有の形状を反映する必要のある補聴器具や義肢などへの応用が挙げられる。このように、応用の幅が広がった背景としては、例えば、3Dスキャナー、CT、MRI等を用いることで容易に3Dデータを取得できるようになったことがある。
【0003】
医療分野における3Dプリンタの他の応用例としては、手術トレーニングやシミュレーションを目的とし、実際の臓器形状や生体を模した立体造形物への応用が期待される。このような立体造形物への応用が期待される背景として、近年、医療機器の開発が進み、従来の大きく切り開き取り除く医療から、カテーテル、内視鏡、ロボットアシスト等による患者への負担が少ない低侵襲型医療が主流になりつつある点が挙げられる。これら医療機器を用いた手術オペレーションは、非常に高度な技術と熟練を要するため、医療事故防止の観点から適切な立体造形物を用いた手術トレーニングの重要性が認識されているためである。また、実施事例の少ない難手術においては、事前に対象部位の詳細を再現した立体造形物を得ることができれば、綿密な術前シミュレーションをすることが可能になる。
【0004】
従来から知られている臓器等を模した立体造形物としては、3Dプリンタで作製され、アクリル系樹脂及びウレタン系樹脂等のハードマテリアルで構成される立体造形物や、鋳型を用いて注型法で作製され、特許文献1で開示されているようなシリコーンエラストマー及びポリビニルアルコール等の水性ゲルで構成される立体造形物が挙げられる。また、3Dプリンタを用いて作製され、特許文献2で開示されているようなハイドロゲルで構成される立体造形物なども挙げられる。しかし、このような立体造形物は、対象となる臓器の3Dデータを基に作成しても、臓器を完全に再現することは困難である。
【0005】
更に、対象部位となる臓器は患者の体内にあり、形状を測定することが困難であるため、臓器を模した立体造形物を仮に作製したとしても、この立体造形物が実際の臓器の形状を精度よく再現できていることを評価することは困難である。
【0006】
また、特許文献3には、CTスキャナによって体内器官を測定することで得られた器官3Dデータが示す体内器官形状と、CTスキャナによってモデルを測定することで得られたモデル3Dデータが示すモデル形状を比較する方法が開示されている。
【0007】
しかし、CTスキャナによる測定は、濃度分解能が比較的低く、また、臓器内部の血管等の形状を細かく測定できないため、立体造形物の実際の臓器に対する精度を詳細に評価することが困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、生体を模した立体造形物の当該生体に対する精度を詳細に評価する評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ハイドロゲルを含有したモデルの生体に対する精度を評価する評価方法であって、前記生体をMRIで撮像することにより取得される生体形状を示す生体形状情報と、前記モデルをMRIで撮像することにより取得されるモデル形状を示すモデル形状情報と、に基づき前記精度を評価する評価工程を含む評価方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生体を模した立体造形物の当該生体に対する精度を評価する評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、医用画像データセットの一例を示す模式図である。
図2図2は、医用3Dデータの一例を示す模式図である。
図3図3は、医用3Dデータの一例を示す模式図である。
図4図4は、医用3Dデータをボクセル領域分割することで取得される領域別医用3Dデータの一例を示す模式図である。
図5図5は、領域別医用3Dデータをサーフェースモデル変換することで取得されるSTL形式のデータの一例を示す模式図である。
図6図6は、領域別医用3DデータをFAVフォーマット変換することで取得されるFAV形式のデータの一例を示す模式図である。
図7図7は、高強度造形用組成物及び低強度造形用組成物の配置パターンにより表現される7階調の強度物性の一例を示す模式図である。
図8図8は、鉱物としての水膨潤性層状粘土鉱物、及び水膨潤性層状粘土鉱物を水中で分散させた状態の一例を示す模式図である。
図9図9は、ハイドロゲル立体造形物の造形装置の一例を示す模式図である。
図10図10は、ハイドロゲル立体造形物を支持体から剥離した一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.評価方法
本発明の評価方法は、生体を模した立体造形物(以降の記載において「モデル」とも称する)の当該生体に対する精度を評価する評価方法である。本評価方法は、生体形状を示す生体形状情報と、モデル形状を示すモデル形状情報と、に基づき、モデルの当該生体に対する精度を評価する評価工程を含む。また、本発明の評価方法は、必要に応じて、上記評価工程より前に実行される工程として、生体形状情報を取得する生体形状情報取得工程と、モデル形状情報を取得するモデル形状情報取得工程と、を含んでいてもよい。
【0013】
本開示において「生体」とは、ヒト又はヒト以外の生物を物理的に構成する少なくとも一部を表し、生体は1つにまとまった部位であってもよいし複数の部位に分かれていてもよい。生体とほぼ同一のモデルも、生体に含むものとする。なお、ヒト又はヒト以外の生物を構成する少なくとも一部とは、例えば、生体中における所定の領域、生体中における所定の臓器、血管、及び筋組織などの組織を表す。ヒト又はヒト以外の生物を構成する少なくとも一部は、ヒト又はヒト以外の生物から摘出されていてもよい。生体中における所定の領域とは、例えば、胸部や腹部、頭部、体幹部、上半身、下半身など、医学的に一領域と認識され得る領域又はその組み合わせのほか、生体を任意の方向(例えば体軸断方向、矢状断方向、冠状断方向など)に仮想的に切り分けた一の領域なども含まれる。生体中における所定の臓器とは、例えば心臓や肝臓等の臓器であるが、血管や弁など臓器の一部であってもよい。
【0014】
本開示において「モデル」とは、生体を模した立体造形物を意味する。かかるモデルは特定の対象の生体を模擬したものであっても一般的な形状を模したものであってもよく、例えば特定の対象の生体の形状データを基に作成したものや、複数のヒトの生体の形状を平均化したデータを基に作成したものであり得る。
【0015】
(1)生体形状情報取得工程
本発明の評価方法は、評価工程より前に実行される工程として、生体形状情報を取得する生体形状情報取得工程を有することが好ましい。生体形状情報は、医用3Dデータに含まれる情報として取得されることが好ましい。本開示において「医用3Dデータ」とは、生体を医用画像撮像装置で撮像することにより取得される医用画像データに基づき作成されるデータを表す。
【0016】
本開示において「生体形状情報」とは、生体を医用画像撮像装置で測定する(以下、「撮像する」と称する場合がある)ことにより取得される、生体の形状を示す情報である。生体形状は、生体外部形状と生体内部形状とを含む概念である。また、「生体外部形状」とは、生体の外表面の形状を表す。「生体外部形状」は、生体が臓器である場合には、臓器又は骨の外表面の形状を表す。生体が生体中における所定の領域である場合には、該領域に含まれる臓器又は骨の各外表面の形状を表す。「生体内部形状」とは、生体の内部要素の形状を表し、例えば血管等の形状を表す。また、「生体内部形状」は、生体が臓器である場合には、臓器内部の血管の形状を表す。例えば、生体が肝臓であれば、生体内部形状は、肝臓内部の血管や胆嚢の形状を表す。「生体内部形状」は、生体が生体中における所定の領域である場合には、該領域に含まれる各臓器の内部の血管の形状を表す。例えば、生体が胸部であれば、生体内部形状は、心臓や肺などの内部の血管等の形状を表す。
【0017】
そこで、生体形状情報取得工程の一態様として、医用3Dデータを取得する医用3Dデータ取得工程について説明する。医用3Dデータ取得工程は、生体を医用画像撮像装置により撮像することで医用画像データを取得する医用画像撮像工程と、医用画像データ及び生体形状に基づき医用3Dデータを作成する医用3Dデータ作成工程と、を有する。医用3Dデータ取得工程は、生体をMRE測定することにより生体物性を取得する生体物性測定工程を有してもよい。
【0018】
(i)医用画像撮像工程
医用画像撮像工程は、生体を医用画像撮像装置により撮像することで医用画像データを取得する工程である。医用画像撮像工程により、医用画像撮像装置は、生体形状情報を取得する。医用画像撮像装置は、モダリティとも称され、被検体である生体をスキャンして医用画像データを取得する装置である。医用画像撮像装置としては、例えば、CT(Computed Tomography)装置、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置、超音波診断装置などが挙げられる。
【0019】
医用画像撮像装置は、生体の断面を複数回撮像するスライス断層撮像を行う。これにより、図1に示すように、生体の断面を示す画像である医用画像を示す医用画像データを複数取得できる。この複数の医用画像データ(「医用画像データセット」とも称する)は、それぞれ、医療画像交換に関する国際標準規格であるDICOM形式の画像であることが好ましい。また、医用画像データは、医用画像撮像装置により取得される画像濃度を示す画像濃度情報を含む。画像濃度は、例えば、医用画像撮像装置としてCT装置を用いた場合はCT値(X線透過率)であり、MRI装置を用いた場合はMRI信号値であり、超音波診断装置を用いた場合は反射強度である。
【0020】
医用画像撮像装置としては、生体外部形状を撮像する場合は、CT装置、MRI装置,超音波診断装置のいずれを使用することもできる。なお、医用画像撮像装置の中でも、MRI装置は水素原子核を信号源とし、生体は水を含むため、生体外部形状に加えて生体内部形状も撮像できる観点から、MRI装置を用いることが好ましい。また、後述する生体物性測定工程におけるMRE測定を行うことができる観点からも、MRI装置を用いることが好ましい。また、患者が被曝することなく撮像できる観点からも、MRI装置を用いることが好ましい。
【0021】
(ii)生体物性測定工程
生体物性測定工程は、生体をMRE測定などにより、生体の粘弾性やその分布等の生体物性を取得する工程である。MRE測定とは、磁気共鳴エラストグラフィー(MRE:Magnetic Resonance Elastography)の手法により測定することを表す。本手法は、加振装置を用いて被検体内部にせん断波を生成しながらMRI装置で撮像することで、被検体内部の粘弾性分布を測定する非侵襲的な手法である。即ち、生体をMRE測定することで取得される生体物性とは粘弾性であることが好ましい。なお、生体の粘弾性を取得する方法としては、MRE測定を行う方法以外に、超音波エラストグラフィーによる測定を行う方法が挙げられる。
【0022】
この点、超音波エラストグラフィーによる測定は得られる情報が1次元であるのに対し、MRE測定は得られる情報が2次元であって3Dデータの生成が容易であるため、MRE測定を行うことが好ましい。なお、測定対象が、血管等の臓器自体が周期的な運動を伴うものである場合、この運動に伴う臓器の変形量を計測し、力学モデル等に基づいて計測値から生体物性を推測する方法も挙げられる。しかし、この方法で得られる生体物性はあくまで推測値であり、生体の正確な情報取得性の観点でMRE測定に劣る。加えて、この方法を用いることができるのは、測定対象が血管等の周期的な運動を伴う臓器である場合に限定されるため、周期的な運動を伴わない臓器又は周期的な運動に伴う変形量の計測が困難である臓器も測定対象にすることができる点でMRE測定を行うことが好ましい。
【0023】
また、MRE測定は、MRI装置のオプション機能としてシステムに含まれることが多く、医用画像撮像工程及び生体物性測定工程を同一のMRI装置により実行できる点でも好ましい。これに付随して、MRI装置による医用画像撮像工程とMRI装置による生体物性測定工程は、ほぼ同時に行うことができる。ほぼ同時に行えることで、患者等の被検体の負担を軽減できる点、医用画像データの取得時と生体物性の取得時がほぼ同時となり正確な生体の情報を得ることができる点などで好ましい。特に、後者の点に関しては、撮像及び測定の対象が、経時的に形状、物性等の面で変化を生じやすい性質を有する生体であることを考慮すると、重要な観点となる。なお、ほぼ同時とは、医用画像撮像工程の時間及び生体物性測定工程の時間の少なくとも一部が重複している場合、一度のMRI装置の使用で医用画像撮像工程及び生体物性測定工程の両方を実行できる場合などを表す。
【0024】
医用画像撮像装置は、被撮像者が横になるベッドを有する。医用画像撮像工程又は生体物性測定工程において、摘出された臓器等の生体を撮像又は測定する場合は、直接的にベッドの上に置いてもよいが、間接的に置く方が好ましい。間接的に置くとは、生体とベッドの間にサポート台を設けることや、生体を液体又はゲルに浸漬させた状態でベッドの上に置くことである。これにより、生体がベッドと接して変形することを防止し、体内にあった状態に近い形状で生体を撮像又は測定することができる。なお、サポート台とは、生体がベッドと接して変形することを防止するものであればよく、例えば、ゲル状の軟らかい台などが挙げられる。
【0025】
(iii)医用3Dデータ作成工程
医用3Dデータ作成工程は、医用画像撮像工程で取得した医用画像データ及び生体物性測定工程で取得した生体物性情報に基づき医用3Dデータを作成する工程である。本開示において「生体物性情報」とは、生体をMRE測定などにより取得される生体物性を示す情報である。
【0026】
医用3Dデータは、医用画像データに基づいて作成される複数のボクセルと、ボクセルごとに付与された医用画像データにおける画像濃度を示す画像濃度情報と、ボクセルごとに付与された生体物性を示す生体物性情報と、を含む情報である。言い換えると、医用3Dデータは、ボクセル、画像濃度情報、及び生体物性情報が関連付けられた情報である。なお、医用3Dデータ作成工程において生体物性測定工程は任意の工程である。生体物性測定工程を設けなかった場合は、医用画像データに基づいて作成される複数のボクセルと、ボクセルごとに付与された医用画像データにおける画像濃度を示す画像濃度情報と、のみに基づき医用3Dデータを作成することもできる。この場合、医用3Dデータは、医用画像データに基づいて作成される複数のボクセルと、ボクセルごとに付与された医用画像データにおける画像濃度を示す画像濃度情報と、を含む情報である。
【0027】
医用3Dデータを作成する方法について具体的に説明する。
まず、医用画像撮像工程で取得した医用画像データから、医用画像撮像装置又は当該医用画像撮像装置と関連する画像処理装置(「医用画像撮像装置等」とも称する)により、3D画像処理に対応する医用3Dデータが作成される。医用3Dデータは、図2に示すような立方体等の最小単位を少なくとも1つ含むボクセルの集合体であり、ボクセルごとに様々な情報を関連付けることができる。
【0028】
次に、医用画像撮像装置等が、ボクセルごとに、医用画像撮像工程で取得した医用画像データにおける画像濃度を示す画像濃度情報を関連付ける。更に、医用画像撮像装置等が、ボクセルごとに、生体物性測定工程で取得した生体物性を示す生体物性情報を関連付ける。これにより、図3に示すように、ボクセル、画像濃度情報、及び生体物性情報が関連付けられた情報である医用3Dデータを作成できる。医用3Dデータは、画像濃度情報を用い、ボクセル領域分割(セグメンテーション)を行うことができる。ボクセル領域分割とは、画像濃度が近いボクセルを分類してセグメント化(区分化)することを表す。これにより、医用3Dデータに基づき、生体外部形状及び生体内部形状を含む生体形状の認識、構造分割、組織分析、及び3D画像解析等が可能になり、例えば、生体における所定の領域の医用3Dデータから肝臓等の所定の組織の医用3Dデータを取得することができる。
【0029】
本開示では、図4に示すように、医用3Dデータをボクセル領域分割することで取得される部分領域における医用3Dデータを領域別医用3Dデータと称する。なお、領域別医用3Dデータは、医用3Dデータに含まれる一概念であるとする。「生体形状情報」とは、生体をMRI測定などすることにより取得される生体形状を示す情報である。生体形状情報は、例えば、医用3Dデータにおいて、ボクセルと画像濃度情報が関連付けられた情報や、ボクセルと生体形状が関連付けられた情報が挙げられる。「生体形状情報」には、「生体外部形状情報」及び「生体内部形状情報」が含まれる。
【0030】
(2)モデル物性情報取得工程
本発明の評価方法は、評価工程より前に実行される工程として、モデル形状情報を取得するモデル形状情報取得工程を有することが好ましい。モデル形状情報は、モデル3Dデータに含まれる情報として取得されることが好ましい。本開示において「モデル3Dデータ」とは、モデルを医用画像撮像装置で撮像することにより取得されるモデル画像データに基づき作成されるデータを表す。
【0031】
本開示において「モデル形状情報」とは、モデルを医用画像撮像装置で測定する(以下、「撮像する」と称する場合がある)ことにより取得される、モデルの形状を示す情報である。モデル形状は、モデル外部形状とモデル内部形状とを含む概念である。
【0032】
また、「モデル外部形状」とは、モデルの外表面の形状を表す。「モデル外部形状」は、モデルが臓器又は骨である場合には、臓器又は骨の外表面の形状を表す。モデルが生体中における所定の領域である場合には、該領域に含まれる臓器又は骨の各外表面の形状を表す。「モデル内部形状」とは、モデルの内部要素の形状を表し、例えば、血管等の形状を表す。また、「モデル内部形状」は、モデルが臓器のモデルである場合には、臓器内部の血管の形状を表す。例えば、モデルが肝臓のモデルであれば、モデル内部形状は、肝臓内部の血管や胆嚢の形状を表す。「モデル内部形状」は、モデルが生体中における所定の領域のモデルである場合には、該領域に含まれる各臓器内部の血管の形状を表す。例えば、モデルが胸部のモデルであれば、モデル内部形状は、心臓や肺などの内部の血管等の形状を表す。
【0033】
そこで、モデル形状情報取得工程の一態様として、モデル3Dデータを取得するモデル3Dデータ取得工程について説明する。モデル3Dデータ取得工程は、モデルを医用画像撮像装置により撮像することでモデル画像データを取得するモデル画像撮像工程と、モデル画像データ及びモデル形状に基づきモデル3Dデータを作成するモデル3Dデータ作成工程と、を有する。モデル3Dデータ取得工程は、モデルをMRE測定することによりモデル物性を取得するモデル物性測定工程を有してもよい。
【0034】
(i)モデル画像撮像工程
モデル画像撮像工程は、モデルを医用画像撮像装置により撮像することでモデル画像データを取得する工程である。モデル画像撮像工程により、医用画像撮像装置は、モデル形状情報を取得する。医用画像撮像装置は、上記の医用画像撮像工程で使用できる装置と同様の装置であり、例えば、CT装置、MRI装置、超音波診断装置などが挙げられる。
【0035】
医用画像撮像装置は、モデルの断面を複数回撮像するスライス断層撮像を行う。これにより、上記の医用画像撮像工程と同様に、モデルの断面を示す画像であるモデル画像を示すモデル画像データを複数取得できる。この複数のモデル画像データ(「モデル画像データセット」とも称する)は、それぞれ、医療画像交換に関する国際標準規格であるDICOM形式の画像であることが好ましい。また、モデル画像データは、医用画像撮像装置により取得される画像濃度を示す画像濃度情報を含む。画像濃度は、例えば、医用画像撮像装置としてCT装置を用いた場合はCT値(X線透過率)であり、MRI装置を用いた場合はMRI信号値であり、超音波診断装置を用いた場合は反射強度である。
【0036】
医用画像撮像装置としては、モデル外部形状を撮像する場合は、CT装置、MRI装置,超音波診断装置のいずれを使用することもできる。なお、医用画像撮像装置の中でも、MRI装置は水素原子核を信号源とし、ハイドロゲルを含有するモデルを撮像すると、モデル外部形状に加えてモデル内部形状も撮像できる観点から、MRI装置を用いることが好ましい。なお、ハイドロゲルを含有するとは、モデルの少なくとも一部がハイドロゲルからなることを意味する。また、後述する生体物性測定工程におけるMRE測定を行うことができる観点からも、MRI装置を用いることが好ましい。
【0037】
(ii)モデル物性測定工程
モデル物性測定工程は、モデルをMRE測定などにより、モデルの粘弾性やその分布等のモデル物性を取得する工程である。MRE測定は、上記の生体物性測定工程におけるMRE測定と同様の方法による測定である。即ち、モデルをMRE測定することで取得されるモデル物性とは粘弾性であることが好ましい。なお、モデルの粘弾性を取得する方法としては、MRE測定を行う方法以外に、超音波エラストグラフィーによる測定を行う方法が挙げられる。この点、超音波エラストグラフィーによる測定は得られる情報が1次元であるのに対し、MRE測定は得られる情報が2次元であって3Dデータの生成が容易であるため、MRE測定を行うことが好ましい。また、MRE測定は、MRI装置のオプション機能としてシステムに含まれることが多く、モデル画像撮像工程及びモデル物性測定工程を同一のMRI装置により実行できる点でも好ましい。これに付随して、MRI装置によるモデル画像撮像工程とMRI装置によるモデル物性測定工程は、ほぼ同時に行うことができる。ほぼ同時に行えることで、モデル画像データの取得時とモデル物性の取得時がほぼ同時となり正確なモデルの情報を得ることができる点などで好ましい。なお、ほぼ同時とは、モデル画像撮像工程の時間及びモデル物性測定工程の時間の少なくとも一部が重複している場合、一度のMRI装置の使用でモデル画像撮像工程及びモデル物性測定工程の両方を実行できる場合などを表す。
なお、モデル物性測定工程は、上記の通り、モデルをMRE測定することでモデル物性を取得する工程である。これは、モデルを構成する材料の主成分の一つとして、水素原子核を信号源とするMRE測定に適している水が含まれていることを表す。即ち、モデルは、後述するようなハイドロゲルが含有されていることが好ましい。
【0038】
医用画像撮像装置は、被撮像者が横になるベッドを有する。モデル画像撮像工程又はモデル物性測定工程において、摘出された臓器等のモデルを撮像又は測定する場合は、直接的にベッドの上に置いてもよいが、間接的に置く方が好ましい。間接的に置くとは、モデルとベッドの間にサポート台を設けることや、モデルを液体又はゲルに浸漬させた状態でベッドの上に置くことである。これにより、モデルがベッドと接して変形することを防止しながらモデルを撮像又は測定することができる。なお、サポート台とは、モデルがベッドと接して変形することを防止するものであればよく、例えば、ゲル状の軟らかい台である。
【0039】
(iii)モデル3Dデータ作成工程
モデル3Dデータ作成工程は、モデル画像撮像工程で取得したモデル画像データ及びモデル物性測定工程で取得したモデル物性に基づきモデル3Dデータを作成する工程である。本開示において「モデル物性情報」とは、モデルをMRE測定することにより取得されるモデル物性を示す情報である。
【0040】
モデル3Dデータは、モデル画像データに基づいて作成される複数のボクセルと、ボクセルごとに付与されたモデル画像データにおける画像濃度を示す画像濃度情報と、ボクセルごとに付与されたモデル物性を示すモデル物性情報と、を含む情報である。言い換えると、モデル3Dデータは、ボクセル、画像濃度情報、及びモデル物性情報が関連付けられた情報である。なお、モデル3Dデータ作成工程においてモデル物性測定工程は任意の工程である。モデル物性測定工程を設けなかった場合は、医用画像データに基づいて作成される複数のボクセルと、ボクセルごとに付与された医用画像データにおける画像濃度を示す画像濃度情報とのみに基づきモデル3Dデータを作成することもできる。この場合、モデル3Dデータは、モデル画像データに基づいて作成される複数のボクセルと、ボクセルごとに付与されたモデル画像データにおける画像濃度を示す画像濃度情報と、を含む情報である。
【0041】
モデル3Dデータを作成する方法について具体的に説明する。
まず、モデル画像撮像工程で取得したモデル画像データから、医用画像撮像装置又は当該医用画像撮像装置と関連する画像処理装置(「医用画像撮像装置等」とも称する)により、3D画像処理に対応するモデル3Dデータが作成される。モデル3Dデータは、上記の医用3Dデータと同様に、立方体等の最小単位を少なくとも1つ含むボクセルの集合体であり、ボクセルごとに様々な情報を関連付けることができる。
【0042】
次に、医用画像撮像装置等が、ボクセルごとに、モデル画像撮像工程で取得したモデル画像データにおける画像濃度を示す画像濃度情報を関連付ける。更に、医用画像撮像装置等が、ボクセルごとに、モデル物性測定工程で取得したモデル物性を示すモデル物性情報を関連付ける。これにより、上記の医用3Dデータと同様に、ボクセル、画像濃度情報、及びモデル物性情報が関連付けられた情報であるモデル3Dデータを作成できる。モデル3Dデータは、画像濃度情報を用い、ボクセル領域分割(セグメンテーション)を行うことができる。これにより、モデル3Dデータに基づき、モデル形状及びモデル内部形状を含むモデル形状の認識、構造分割、及び3D画像解析等が可能になり、例えば、モデルのモデル3Dデータから所定の部位のモデル3Dデータを取得することができる。
【0043】
本開示では、上記の領域別医用3Dデータと同様に、モデル3Dデータをボクセル領域分割することで取得される部分領域におけるモデル3Dデータを領域別モデル3Dデータと称する。なお、領域別モデル3Dデータは、モデル3Dデータに含まれる一概念であるとする。「モデル形状情報」とは、モデルをMRI測定などすることにより取得されるモデル形状を示す情報である。モデル形状情報は、例えば、モデル3Dデータにおいて、ボクセルと画像濃度情報が関連付けられた情報や、ボクセルとモデル形状が関連付けられた情報が挙げられる。
【0044】
(3)評価工程
本発明の評価方法は、生体形状を示す生体形状情報と、モデル形状を示すモデル形状情報と、に基づきモデルの当該生体に対する精度を評価する評価工程を有する。モデルの当該生体に対する精度は、モデルがどれだけ正しく生体を再現できたかを表す。評価工程は、特にモデルの形状がどれだけ正しく生体の形状を再現できているかを評価する工程であり、例えば、コンピュータを用いて、生体形状情報とモデル形状情報との具体的な差異を算出して表示したり、閾値と算出した差異を比較して精度の大小を判定したりすることにより、精度を評価することができる。また、生体形状情報とモデル形状情報と差異の有無を判定してもよい。また、評価工程では、生体形状情報及びモデル形状情報の全体に対して精度を評価してもよいし、生体形状情報及びモデル形状情報の一部や、ボクセルごとに精度を評価してもよい。また、生体形状情報及びモデル形状情報に基づいて、所定の切断面の画像を作成し、当該画像を重畳表示させたり、並べて表示したりしてもよいし、当該画像を印刷し、判定者が重畳したり並べたりして観察してもよい。
【0045】
本発明の評価方法は、少なくとも形状に基づいて精度を評価するが、形状に加えて、粘弾性等の物性やその他の性質に基づいて精度を評価してもよい。
評価工程は、医用3Dデータに含まれる生体形状情報と、モデル3Dデータに含まれるモデル形状情報とに基づきモデルの当該生体に対する精度を評価する工程であることが好ましい。上記の通り、生体形状情報は医用3Dデータに含まれる情報として取得されることが好ましく、モデル形状情報はモデル3Dデータに含まれる情報として取得されることが好ましいためである。なお、本工程は、人が実行してもよいし、パソコン等の情報処理装置が実行してもよい。
【0046】
生体形状情報及びモデル形状情報に基づきモデルの当該生体に対する精度を評価する方法について具体的に説明する。
モデルの当該生体に対する精度を評価する方法としては、例えば、Materialise社のMaterialise Mimicsを用いることができる。この場合、医用3Dデータに含まれる生体形状情報と、モデル3Dデータに含まれるモデル形状情報とを重ね合わせ、形状情報の差分から精度を評価する。他にも、生体及びモデルの対応する部位においてほぼ同一の生体形状及びモデル形状を有しているかを判断することで精度を評価する方法などが挙げられる。
【0047】
生体及びモデルの対応する部位とは、例えば、生体及びモデルに対して同じ基準で座標を割り当てた場合においてほぼ同一の座標となる生体中の部位及びモデル中の部位、生体中の特定構造を有する部位(例えば、腫瘍部)及び生体中の当該特定構造を有する部位を模したモデル中の部位(例えば、腫瘍部を模した部位)などが挙げられる。
生体及びモデルの対応する部位においてほぼ同一の生体形状及びモデル形状を有しているかを判断する基準の一例としては、当該対応する部位においてモデル形状の生体物性に対する差異が5%以内であることが挙げられる。なお、差異に関しては、5%以内に限られず、求められる精度の程度により適宜選択でき、例えば、50%以内、40%以内、30%以内、20%以内、10%以内などであってもよいが、高精度であることを評価できる観点から差異が小さいことが好ましい。
【0048】
モデルの当該生体に対する精度を評価する際には、生体及びモデルの対応する部位において外部形状を比較するのみではなく、内部形状も比較することが好ましい。生体及びモデルを医用画像撮像装置のベッドの上に置くことによる外部形状の変形が、評価結果に与える影響を抑えるためである。内部形状を比較して精度を評価する方法としては、外部形状の一部と内部形状の一部とを指定して位置の相対関係を比較する方法、内部形状の一部と内部形状の一部を指定して位置の相対関係を比較する方法などが挙げられる。
外部形状の一部としては、臓器の表面であって他の臓器と繋がる太い血管の根本や、骨の表面などが挙げられる。内部形状の一部としては、血管の分岐部から数センチメートルのところが挙げられる。
【0049】
なお、上記のように、生体及びモデルの対応する部位における生体形状情報及びモデル形状情報を比較するためには、生体形状が測定された生体中の位置を示す情報及びモデル形状が測定されたモデル中の位置を示す情報もあることが好ましい。そのため、モデルの当該生体に対する精度を評価する場合、ボクセルと画像濃度情報が関連付けられた情報である医用3Dデータと、ボクセルと、画像濃度情報が関連付けられた情報であるモデル3Dデータと、を用い、これらデータにそれぞれ含まれる生体形状情報及びモデル形状情報を比較することが好ましい。ボクセルが上記の位置を示す情報に相当するためである。
【0050】
2.モデルの造形方法
本発明の評価方法で評価されるモデルの造形方法について説明する。
造形方法としては特に限定されず、例えば、3Dプリンタを用いて造形する方法、鋳型に材料を注入して造形する方法などが挙げられるが、3Dプリンタを用いて造形する方法が好ましい。また、生体の医用3Dデータに基づき、3Dプリンタを用いて立体造形物を造形する造形工程を有することがより好ましい。また、このような造形工程を有する造形方法を実行する場合、必要に応じて、上記造形工程より前に実行される工程として、生体の医用3Dデータを取得する医用3Dデータ取得工程と、医用3Dデータに基づいて造形用3Dデータを生成する生成工程と、を有してもよい。以下、モデルの造形方法の一例として、医用3Dデータ取得工程と、生成工程と、造形工程と、を有する場合について説明する。
【0051】
なお、本開示において「生体の医用3Dデータに基づき、3Dプリンタを用いて立体造形物を造形する」とは、医用3Dデータを3Dプリンタに入力して立体造形物を造形するような直接的に医用3Dデータを用いる場合に限定されず、医用3Dデータに基づいて生成された造形用3Dデータなどを3Dプリンタに入力して立体造形物を造形するような間接的に医用3Dデータを用いる場合も表す。
【0052】
(1)医用3Dデータ取得工程
造形方法は、生体の医用3Dデータを取得する医用3Dデータ取得工程を有することが好ましい。モデルの造形方法における本医用3Dデータ取得工程は、生体を医用画像撮像装置により撮像することで医用画像データを取得する医用画像撮像工程と、生体をMRE測定することにより生体物性を取得する生体物性測定工程と、医用画像データ及び生体物性に基づき医用3Dデータを作成する医用3Dデータ作成工程と、を有する。各工程に関する説明は、上記の生体物性情報取得工程の一態様として説明した医用3Dデータ取得工程における各工程の説明と同様の説明を適用できる。
【0053】
(2)生成工程
造形方法は、医用3Dデータに基づいて造形用3Dデータを生成する生成工程を有することが好ましい。本開示において「造形用3Dデータ」とは、医用3Dデータに基づいて生成されるデータであって、3Dプリンタに入力されるデータを表す。造形用3Dデータは、1つのデータから構成されてもよいし、複数のデータから構成されてもよい。以下、造形用3Dデータを生成する方法の具体例2つを説明するが、本方法としてはこれらに限定されない。
【0054】
(i)STL形式のデータを含む造形用3Dデータの生成
医用3Dデータに基づいてSTL(Standard Triangulated Language)形式のデータを含む造形用3Dデータを生成する場合について説明する。
この場合、図5に示すように、医用3Dデータをボクセル領域分割して取得された領域別医用3Dデータに対し、サーフェースモデル変換を行うことで領域別医用3Dデータに対応するSTL形式のデータを作成する。なお、STL形式のデータはサーフェースデータであるため、サーフェースモデル変換を行うことで領域別医用3Dデータのボクセルごとに付与された生体物性情報は失われる。そのため、サーフェースモデル変換とは別に、領域別医用3Dデータから、ボクセルの位置を示す位置情報と、位置情報ごとに付与された生体物性情報と、を含む3D造形用生体物性情報を作成する。なお、位置情報ごとに付与された生体物性情報とは、位置情報の示す位置にあったボクセルに関連付けられていた生体物性情報である。即ち、本発明でいう造形用3Dデータは、STL形式のデータと3D造形用生体物性情報とを含む。
【0055】
(ii)FAV形式のデータを含む造形用3Dデータの生成
医用3Dデータに基づいてFAV(FAbricatable Voxel)形式のデータを含む造形用3Dデータを生成する場合について説明する。
この場合、図6に示すように、医用3Dデータをボクセル領域分割して取得された領域別医用3Dデータに対し、FAVフォーマット変換を行うことで領域別医用3Dデータに対応するFAV形式のデータを作成する。なお、FAV形式のデータは、STL形式のデータのようにサーフェースデータではなく、ボクセルデータとして定義されている。これにより、画像濃度情報や生体物性情報等が付与されたボクセルデータである医用3Dデータを、画像濃度情報や生体物性情報等が付与されたままFAV形式のデータに変換することができる。即ち、STL形式のデータに変換したときのように、別途、生体物性情報等の必要情報に関するデータ処理を行う工程を省ける点で好ましい。
【0056】
(3)造形工程
造形方法は、生体の医用3Dデータに基づき、3Dプリンタを用いて立体造形物を造形する造形工程を有することが好ましい。また、上記の通り、本開示において「生体の医用3Dデータに基づき、3Dプリンタを用いて立体造形物を造形する」とは、医用3Dデータを3Dプリンタに入力して立体造形物を造形するような直接的に医用3Dデータを用いる場合に限定されず、医用3Dデータに基づいて生成された造形用3Dデータなどを3Dプリンタに入力して立体造形物を造形するような間接的に医用3Dデータを用いる場合も表す。
以下、医用3Dデータに基づいて生成された造形用3Dデータを3Dプリンタに入力して立体造形物を造形する場合を一例に造形工程について説明する。
【0057】
まず、上記のSTL形式のデータを含む造形用3Dデータが3Dプリンタに入力される場合について説明する。この場合、造形用3Dデータは、STL形式のデータと3D造形用生体物性情報とを含む。これらデータは同時に入力されてもよいし、別々に入力されてもよい。
3Dプリンタは、入力されたSTL形式のデータを印刷用2D画像データセットに変換する。印刷用2D画像データセットとは、複数の印刷用2D画像データを含むデータセットであり、印刷用2D画像データとは、Z軸方向における3Dプリンタの解像度に合わせてSTL形式のデータをスライスすることで得られる二次元のスライスデータである。
【0058】
次に、3Dプリンタは、入力された3D造形用生体物性情報に基づき、印刷用2D画像データの各領域における強度物性を示す強度物性情報を付与する。この印刷用2D画像データ及び印刷用2D画像データの各領域における強度物性情報に基づき、3Dプリンタで複数種類の造形用組成物をそれぞれ所定の領域に所定の吐出量で吐出し硬化する工程を繰り返すことにより、生体物性の分布に対応する強度物性の分布を有する立体造形物を造形することができる。ここで、本開示において「強度物性」とは、3Dプリンタにより造形される立体造形物の物性を表し、生体物性に対応する物性である。例えば、生体物性が粘弾性である場合には強度物性も粘弾性である。また、造形用3DデータがSTL形式のデータさえ含んでいれば、生体形状に対応する生体形状を有する立体造形物を造形することができる。
【0059】
次に、上記のFAV形式のデータを含む造形用3Dデータが3Dプリンタに入力される場合について説明する。
3Dプリンタは、入力されたFAV形式のデータを、上記同様のスライスデータである印刷用2D画像データセットに変換する。但し、印刷用2D画像データセットに含まれる各印刷用2D画像データは、FAV形式のデータに含まれる生体物性情報に基づき、各領域における強度物性を示す強度物性情報が付与されている。この印刷用2D画像データ及び印刷用2D画像データの各領域における強度物性情報に基づき、3Dプリンタで複数種類の造形用組成物をそれぞれ所定の領域に所定の吐出量で吐出し硬化する工程を繰り返すことにより、生体物性の分布に対応する強度物性の分布を有する立体造形物を造形することができる。
【0060】
造形工程において使用される3Dプリンタとしては、例えば、複数種類の造形用組成物をそれぞれ所定の領域に所定の吐出量で吐出することにより、造形される立体造形物の強度物性を部位ごとに制御できるプリンタが挙げられる。具体的には、インクジェットヘッドで造形用組成物を吐出するマテリアルジェッティング方式(MJ方式)の3Dプリンタが挙げられる。
【0061】
上記のように、3Dプリンタを用いて強度物性を生体物性と対応させる方法としては、強度物性の階調を表現できる3Dプリンタを用いる方法が挙げられる。そこで、本方法の一例を説明する。
まず、高い強度物性を有する立体造形物を造形可能な高強度造形用組成物と、低い強度物性を有する立体造形物を造形可能な低強度造形用組成物と、を準備する。これら造形用組成物は、少なくともそれぞれ1種類用いるが、それぞれ複数種類を用いてもよい。このとき、高強度造形用組成物により造形される立体造形物の強度物性は生体中における生体物性の最大値以上であることが好ましく、低強度造形用組成物により造形される立体造形物の強度物性は生体中における生体物性の最小値以下であることが好ましい。
【0062】
次に、立体造形物の強度物性を、あるグリッド領域を埋めるために配置する造形用組成物のパターンにより制御する。例えば、図7に示すように、7階調の強度物性による表現が必要な場合、6区画を最小単位としたグリッドを高強度造形用組成物及び低強度造形用組成物で埋める組み合わせパターンにより、7階調の強度表現が可能になる。単位グリッドの区画数を増やすことで様々な階調表現が可能になる。これはXY平面で配置することにより平面方向、Z方向で配置することにより、縦方向の強度分布を設定することができ、これにより生体物性の分布に対応する強度物性の分布を有する立体造形物を造形することができる。即ち、本開示において「生体物性の分布に対応する強度物性の分布」とは、分布内における強度物性が対応する位置における生体物性と同一である場合に限定されず、階調表現により実現される強度物性が対応する位置における生体物性と近似する場合も含まれる。近似する場合としては、例えば、強度物性(上記のモデル物性と同義)の生体物性に対する差異が5%以内である場合などが挙げられる。
【0063】
なお、本方法は、ボクセルとして表現可能なため、FAVなどのボクセルフォーマットと対応させると効率がよい。また、単位区画を埋める造形用組成物の液滴数は任意の構成でよい。
また、3Dプリンタで表現できる階調における強度物性を、事前にMRE測定などで把握しておくことで、より正確に、生体物性の分布に対応する強度物性の分布を有する立体造形物を造形することができる。
【0064】
3.造形用組成物
造形工程において用いられる造形用組成物について説明する。造形用組成物は、3Dプリンタで造形物を造形するための前駆体としての組成物である。造形用組成物は、生体物性の分布に対応する強度物性の分布を有する立体造形物を造形することができる組成物であると好ましく、例えば、エラストマー及びゲル等からなる造形物を造形するための前駆体としての組成物が挙げられる。これらの中でも、構成する材料の主成分の一つとして、生体と同様に水を含むハイドロゲルからなる造形物を造形するための前駆体としての組成物(「ハイドロゲル立体造形用組成物」と称する)が好ましい。ハイドロゲル立体造形用組成物以下、造形用組成物の一例としてハイドロゲル立体造形用組成物について説明する。
【0065】
ハイドロゲル立体造形用組成物は、水及び重合性化合物を含有し、必要に応じて、鉱物、有機溶剤、金属イオン、その他成分を含有してもよい。
本開示において「ハイドロゲル立体造形用組成物」とは、光などの活性エネルギー線又は熱を照射されることで硬化してハイドロゲルを形成する液体組成物であって、特にハイドロゲルを含有する立体造形物を造形するために用いられる液体組成物を意味する。また、本開示において「ハイドロゲル」とは、ポリマーを含む三次元網目構造の中に水が包含されている構造体を表し、かかる三次元網目構造が、ポリマーと鉱物とが複合化して形成される三次元網目構造である場合、特に「有機無機複合ハイドロゲル」という。なお、ハイドロゲルは水を主成分として含み、具体的には、水の含有量がハイドロゲルの全量に対して30.0質量%以上であることが好ましく、40.0質量%以上であることがより好ましく、50.0質量%以上であることが更に好ましい。
【0066】
(1)水
ハイドロゲル立体造形物造形用組成物は水を含む。水としては、一般的に溶媒として用い得るものであれば特に限定されず、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、及び蒸留水等の純水、並びに超純水などを用いることができる。
水の含有量は、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、ハイドロゲル立体造形物造形用組成物を医療用モデルの造形に用いる場合、ハイドロゲル立体造形物造形用組成物の全量に対して30.0質量%以上90.0質量%以下であることが好ましく、40.0質量%以上90.0質量%以下であることがより好ましい。
なお、水には、保湿性付与、抗菌性付与、導電性付与、硬度調整などの目的に応じて有機溶媒等のその他の成分を溶解又は分散させてもよい。
【0067】
(2)重合性化合物
ハイドロゲル立体造形用組成物は重合性の官能基を有する化合物である重合性化合物を含む。重合性化合物としては、モノマー、オリゴマー等が挙げられる。重合性化合物は、活性エネルギー線又は熱を照射されることで重合してポリマーの少なくとも一部を形成する。即ち、ポリマーは、重合性化合物に由来する構造単位を有する。また、ポリマーは、鉱物と架橋して複合化し、ハイドロゲル中で三次元網目構造を形成する。ここで、重合性化合物は、水溶性であることが好ましい。水溶性とは、例えば、30℃の水100g及びモノマー1gを混合して撹拌したとき、モノマーの90質量%以上が溶解することを表す。
【0068】
重合性化合物は、重合性の官能基を有する化合物であれば特に制限はないが、光重合性の官能基を有する化合物であることが好ましい。本開示において「重合性官能基」とは、活性エネルギー線の照射や熱の付加により重合反応を起こす官能基を意味し、「光重合性官能基」は特に活性エネルギー線の照射により重合反応を起こす官能基を意味する。光重合性官能基としては、これに限定するものではないが、例えば(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等のエチレン性不飽和結合を有する基、エポキシ基などの環状エーテル基が挙げられる。エチレン性不飽和結合を有する基を含む化合物の具体例としては、例えば、(メタ)アクリルアミド基を有する化合物、(メタ)アクリレート化合物、(メタ)アクリロイル基を有する化合物、ビニル基を有する化合物、アリル基を有する化合物などが挙げられる。
【0069】
(i)モノマー
重合性化合物として用い得るモノマーは、好ましくは不飽和炭素-炭素結合などの重合性官能基を1つ以上有する化合物であり、例えば、単官能モノマー、多官能モノマーなどが挙げられる。更に、多官能モノマーとしては、二官能モノマー、三官能以上のモノマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0070】
(A)単官能モノマー
単官能モノマーとしては、例えば、アクリルアミド、N-置換アクリルアミド誘導体、N,N-ジ置換アクリルアミド誘導体、N-置換メタクリルアミド誘導体、N,N-ジ置換メタクリルアミド誘導体、アクリル酸、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、カプロラクトン(メタ)アクリレート、エトキシ化ノニルフェノール(メタ)アクリレート、アクリル酸カリウム、アクリル酸亜鉛、メタクリル酸カリウム、アクリル酸マグネシウム、アクリル酸カルシウム、メタクリル酸亜鉛、メタクリル酸マグネシウム、アクリル酸アルミニウム、メタクリル酸ネオジウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウムなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、ヒドロキシエチルアクリルアミド、イソボルニル(メタ)アクリレートなどが好ましい。
【0071】
単官能モノマーの含有量としては、ハイドロゲル立体造形用組成物の全量に対して、0.5質量%以上30.0質量%以下が好ましい。
【0072】
(B)二官能モノマー
二官能モノマーとしては、例えば、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸エステルジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化オペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール200ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール400ジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0073】
(C)三官能以上のモノマー
三官能以上のモノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート、ε-カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート,プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート,プロポキシ化グリセリルトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタ(メタ)アクリレートエステルなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0074】
多官能モノマーの含有量としては、ハイドロゲル立体造形用組成物の全量に対して、0.01質量%以上10.0質量%以下が好ましい。
【0075】
(ii)オリゴマー
オリゴマーは、上記単官能モノマーの低重合体や末端に反応性不飽和結合基を有する低重合体である。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0076】
(3)鉱物
ハイドロゲル立体造形物造形用組成物は鉱物を含む。鉱物は、上記重合性化合物から形成されるポリマーと結合することが可能な鉱物であれば特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、層状粘土鉱物、特に水膨潤性層状粘土鉱物などが挙げられる。
水膨潤性層状粘土鉱物について図8を用いて説明する。図8は、鉱物としての水膨潤性層状粘土鉱物、及び水膨潤性層状粘土鉱物を水中で分散させた状態の一例を示す模式図である。図8の上図に示すように、水膨潤性層状粘土鉱物は、単一層の状態で存在しており、単位格子を結晶内に持つ二次元円盤状の結晶が積み重なった状態を呈している。そして、図8の上図の水膨潤性層状粘土鉱物を水中で分散させると、図8の下図に示すように、各単一層が分離して、複数の二次元円盤状の結晶となる。
なお、水膨潤性とは、図8に示すように層状粘土鉱物の各単一層の間に水分子が挿入され、水中に分散される性質を意味する。また、水膨潤性層状粘土鉱物の単一層の形状は円盤状に限定されず、他の形状であってもよい。
【0077】
水膨潤性層状粘土鉱物としては、例えば、水膨潤性スメクタイト、水膨潤性雲母などが挙げられる。より具体的には、ナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリナイト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、高弾性のハイドロゲルが得られる点から、水膨潤性ヘクトライトが好ましい。
水膨潤性ヘクトライトは、適宜合成したものであってもよいし、市販品であってもよい。市販品としては、例えば、合成ヘクトライト(ラポナイトXLG、RockWood社製)、SWN(Coop Chemical Ltd.製)、フッ素化ヘクトライトSWF(Coop Chemical Ltd.製)などが挙げられる。これらの中でも、ハイドロゲルの弾性率を向上させる点から、合成ヘクトライトが好ましい。
【0078】
鉱物の含有量としては、ハイドロゲル立体造形用組成物の全量に対して、1.0質量%以上40.0質量%以下が好ましい。
【0079】
(4)有機溶媒
ハイドロゲル立体造形用組成物は必要に応じて有機溶剤を含んでもよい。有機溶媒は、例えば、ハイドロゲルの保湿性を高めること等を目的として含有される。
有機溶媒としては、例えば、炭素数1~4のアルキルアルコール類、アミド類、ケトン類、ケトンアルコール類、エーテル類、多価アルコール類、ポリアルキレングリコール類、多価アルコールの低級アルコールエーテル類、アルカノールアミン類、N-メチル-2-ピロリドンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、保湿性の点から、多価アルコールが好ましく、具体的にはエチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6-ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類が良好に使用される。
有機溶媒の含有量としては、ハイドロゲル立体造形用組成物の全量に対して、1.0質量%以上10.0質量%以下が好ましい。
【0080】
(5)金属イオン
ハイドロゲル立体造形用組成物は必要に応じて金属イオンを含んでもよい。金属イオンとは、イオン化した金属元素のことであり、通常、金属塩の状態で添加される。金属塩とは、酸の水素原子を金属イオンと置換した化合物の総称である。
金属塩としては、例えば、一価の金属塩、二価の金属塩、三価の金属塩などが挙げられる。これらの中でも、より強固な架橋構造が形成でき、破断応力及び伸び率が高いモデルを造形できる点から、二価以上の多価金属塩が好ましい。
【0081】
一価の金属塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられる。
二価の金属塩としては、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、ニッケル塩、二価鉄塩、銅塩、マンガン塩、コバルト塩、亜鉛塩、カドミウム塩、ベリリウム塩などが挙げられる。
三価の金属塩としては、例えば、アルミニウム塩、三価鉄塩、ガリウム塩、ネオジウム塩、ガドリニウム塩、セリウム塩などが挙げられる。
【0082】
また、金属塩は、イオン性であることが好ましく、金属塩を構成する金属イオンとしては、例えば、Li、Na、K等のアルカリ金属イオン、Be2+、Mg2+、Ca2+等のアルカリ土類金属イオン、Cu2+、Fe3+、Ni2+、Mn2+、Co2+等の遷移金属イオン、Al3+、Ga3+、Zn2+、Cd2+等の卑金属イオン、Nd3+、Gd3+、Ce3+等のランタノイドイオンなどが挙げられる。
【0083】
なお、上記二価鉄塩としては、例えば、塩化鉄(II)などが挙げられる。上記カルシウム塩としては、例えば、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、酢酸カルシウムなどが挙げられる。上記マグネシウム塩としては、例えば、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウムなどが挙げられる。上記ニッケル塩としては、例えば、塩化ニッケルなどが挙げられる。上記アルミニウム塩としては、硝酸アルミニウムなどが挙げられる。また、これらは、無水物であってもよいし、水和物であってもよい。
【0084】
(6)その他成分
ハイドロゲル立体造形用組成物は必要に応じてその他成分を含んでもよい。
その他成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、安定化剤、表面処理剤、重合開始剤、着色剤、粘度調整剤、接着性付与剤、酸化防止剤、老化防止剤、架橋剤、紫外線吸収剤、可塑剤、防腐剤、フィラー、金属微粒子、分散剤などが挙げられる。
【0085】
(i)安定化剤
安定化剤は、鉱物を安定して分散させ、ハイドロゲル立体造形用組成物のゾル状態を保つために含有される。又はハイドロゲル立体造形用組成物を液滴として吐出する方式に用いる場合、液体としての特性安定化を目的として安定化剤が含有される。
安定化剤としては、例えば、高濃度リン酸塩、グリコール、非イオン界面活性剤などが挙げられる。
【0086】
(ii)表面処理剤
表面処理剤としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、シリコーン樹脂、クマロン樹脂、脂肪酸エステル、グリセライド、ワックスなどが挙げられる。
【0087】
(iii)重合開始剤
重合開始剤としては、例えば、熱重合開始剤、光重合開始剤などが挙げられる。これらの中でも、保存安定性の点から、活性エネルギー線を照射することによりラジカル又はカチオンを生成する光重合開始剤が好ましい。
光重合開始剤としては、光(特に波長220nm以上400nm以下の紫外線)の照射によりラジカルを生成する任意の物質を用いることができる。
熱重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アゾ系開始剤、過酸化物開始剤、過硫酸塩開始剤、レドックス(酸化還元)開始剤などが挙げられる。
【0088】
(7)ハイドロゲル立体造形用組成物の物性
ハイドロゲル立体造形用組成物の25℃における粘度は、3.0mPa・s以上20.0mPa・s以下が好ましく、6.0mPa・s以上12.0mPa・s以下がより好ましい。粘度が3.0mPa・s以上20.0mPa・s以下であることで、3Dプリンタ(特にマテリアルジェッティング方式)における液滴吐出などに好適に適用することができる。なお、粘度の測定は、例えば、回転粘度計(VISCOMATE VM-150III、東機産業株式会社製)などを用いて測定することができる。
【0089】
ハイドロゲル立体造形用組成物の表面張力は、20mN/m以上45mN/m以下が好ましく、25mN/m以上34mN/m以下がより好ましい。表面張力が、20mN/m以上であると、吐出安定性を向上でき、45mN/m以下であると、造形用の吐出ノズル等にハイドロゲル立体造形用組成物を充填しやすくなる。なお、表面張力の測定は、例えば、表面張力計(自動接触角計DM-701、協和界面科学株式会社製)などを用いて測定することができる。
【0090】
4.3Dプリンタを用いて立体造形物を造形する方法
3Dプリンタ(以下、「造形装置」とも称する)で立体造形物を造形する方法の一例として、マテリアルジェッティング方式の3Dプリンタで上記のハイドロゲル立体造形用組成物を用いてハイドロゲル立体造形物を造形する方法について説明する。
【0091】
マテリアルジェッティング方式によるハイドロゲル立体造形物の造形方法は、ハイドロゲル立体造形用組成物の液滴を付与して液膜を形成する液膜形成工程と、ハイドロゲル立体造形用組成物の液膜を硬化させる硬化工程と、を有し、液膜形成工程及び硬化工程を順次繰り返すことを特徴とする。なお、ハイドロゲル立体造形物の造形方法は、必要に応じて、ハイドロゲル立体造形物を支持する支持体を造形する支持体造形工程、その他工程を有してもよい。
マテリアルジェッティング方式によるハイドロゲル立体造形物の造形装置は、ハイドロゲル立体造形用組成物を収容している収容手段と、収容されていたハイドロゲル立体造形用組成物の液滴を付与して液膜を形成する液膜形成手段と、ハイドロゲル立体造形用組成物の液膜を硬化させる硬化手段と、を有し、液膜形成手段による液膜形成及び硬化手段による硬化を順次繰り返すことを特徴とする。
【0092】
まず、図9及び図10を用いてマテリアルジェッティング方式について説明する。図9は、ハイドロゲル立体造形物の造形装置の一例を示す模式図である。図10は、ハイドロゲル立体造形物を支持体から剥離した一例を示す模式図である。図9に示すマテリアルジェッティング方式のハイドロゲル立体造形物の造形装置10は、インクジェットヘッドを配列したヘッドユニットを用い、ハイドロゲル立体造形用組成物噴射ヘッドユニット11からハイドロゲル立体造形用組成物収容容器に収容されていたハイドロゲル立体造形用組成物を、支持体造形用組成物噴射ヘッドユニット12から支持体造形用組成物収容容器に収容されていた支持体造形用組成物を、造形体支持基板14に向けて噴射し、隣接した紫外線照射機13でハイドロゲル立体造形用組成物及び支持体造形用組成物を硬化しながら積層する。ここで、支持体造形用組成物とは、光などの活性エネルギー線又は熱を照射されることで硬化し、ハイドロゲル立体造形物を支持する支持体を造形する液体組成物を表し、例えば、アクリル系材料などが挙げられる。なお、造形装置10は、噴射されたハイドロゲル立体造形用組成物を平坦化する平滑化部材16を有してもよい。
【0093】
造形装置10は、ハイドロゲル立体造形用組成物噴射ヘッドユニット11、支持体造形用組成物噴射ヘッドユニット12、及び紫外線照射機13と、立体造形物(ハイドロゲル)17及び支持体(サポート材)18とのギャップを一定に保つため、積層回数に合わせて、ステージ15を下げながら積層する。
【0094】
造形装置10における紫外線照射機13は、矢印A、Bいずれの方向に移動する際も使用され、紫外線照射に伴って発生する熱により、積層表面が平滑化され、結果として立体造形物17の寸法安定性が向上する。
【0095】
造形装置10における造形が終了後、図10に示すように立体造形物17と支持体18を水平方向に引っ張ることにより、支持体18は一体として剥離され、立体造形物17を容易に取り出すことができる。
【0096】
(1)液膜形成工程
液膜形成工程においてハイドロゲル立体造形用組成物を付与する方法としては、液滴が適切な精度で目的の位置に付与できる方式であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知の液滴吐出方式を用いることができる。液滴吐出方式の具体例としては、例えば、ディスペンサー方式、スプレー方式、インクジェット方式などが挙げられるが、インクジェット方式であることが好ましい。
【0097】
ハイドロゲル立体造形用組成物の液滴の体積は、例えば、2pL以上60pL以下が好ましく、15pL以上30pL以下がより好ましい。液滴の体積が2pL以上であると吐出安定性を向上でき、60pL以下であると、造形用の吐出ノズル等にハイドロゲル立体造形用組成物を充填する際に、充填が容易になる。
【0098】
(2)硬化工程
硬化工程においてハイドロゲル立体造形用組成物の液膜を硬化させる硬化手段は、例えば、紫外線(UV)照射ランプ、電子線などが挙げられる。紫外線(UV)照射ランプの種類としては、例えば、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドなどが挙げられる。
ハイドロゲル立体造形用組成物に対する硬化手段としては、UV-LED(Ultra Violet-Light Emitting Diode:紫外線発光ダイオード)が好適に使用される。LEDの発光波長としては特に制限するものではなく、一般的には365nm、375nm、385nm、395nm、405nm等があるが、造形物への色の影響を考慮すると、開始剤の吸収が大きくなるように、短波長発光の方が有利である。また、UV-LEDは、一般的に用いられる紫外線照射ランプ(高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ)、電子線などにくらべ、硬化時に生じる熱エネルギーが小さく、ハイドロゲルの熱損傷が小さくなる。特に、ハイドロゲル立体造形用組成物により造形されるハイドロゲル立体造形物は、水を含有する状態で使用されるため、この効果は顕著なものである。
【0099】
ハイドロゲル立体造形物の造形方法は、ハイドロゲル立体造形用組成物の液滴を付与して液膜を形成する液膜形成工程と、ハイドロゲル立体造形用組成物の液膜を硬化させる硬化工程と、を有し、液膜形成工程及び硬化工程を順次繰り返す。このとき、繰り返し回数としては、特に制限はなく、造形するハイドロゲル立体造形物の大きさ、形状などに応じて適宜選択することができる。また、硬化後の1層あたりの平均厚みは、10μm以上50μm以下が好ましい。平均厚みが10μm以上50μm以下であることで、精度よく、且つ剥離を少なく造形することが可能である。
【0100】
(3)支持体造形工程
支持体造形工程において使用される支持体造形用組成物は、光などの活性エネルギー線又は熱を照射されることで硬化し、ハイドロゲル立体造形物を支持する支持体を造形する液体組成物である。支持体造形用組成物の組成は、ハイドロゲル立体造形用組成物とは異なる。具体的には、硬化性材料及び重合開始剤などを含み、水及び鉱物は含まないことが好ましい。硬化性材料としては、活性エネルギー線(紫外線、電子線等)照射、加熱等により重合反応を生じて硬化する化合物であり、例えば、活性エネルギー線硬化性化合物、熱硬化性化合物などが挙げられる。これらの中でも、常温で液体の材料が好ましい。
支持体造形用組成物は、ハイドロゲル立体造形用組成物とは異なる位置に付与される。これは、支持体造形用組成物とハイドロゲル立体造形用組成物とが重ならないことを意味し、支持体造形用組成物とハイドロゲル立体造形用組成物とが隣接していてもよい。
支持体造形用組成物を付与する方法としては、ハイドロゲル立体造形用組成物を付与する方法と同様の方法が挙げられる。
【0101】
(4)その他工程
その他の工程としては、例えば、液膜を平滑化させる工程、剥離工程、立体造形物の研磨工程、立体造形物の清浄工程などが挙げられるが、液膜を平滑化させる工程を含むことが好ましい。液膜形成工程にて形成された液膜は、全ての位置で狙いの膜厚(層厚)になっているとは限らないためである。例えば、インクジェット方式で液膜形成する場合、不吐出やドット間段差が生じる場合などがあり、高精度な立体造形物を形成することが困難になることがある。これら課題に対しては、液膜を形成した後に機械的に平滑化する(均す)、液膜を硬化して得られるハイドロゲル薄膜を機械的に削り取る、平滑度を検知して次の層の積層時に製膜量をドットレベルで調整する、などの方法が考えられる。
【0102】
なお、ハイドロゲル立体造形物が臓器モデルを対象として造形される場合、ハイドロゲルの硬度は比較的柔らかいため、平滑化の方法としては、液膜を機械的に均す方法が好ましい。機械的に平滑化する方法とは、例えば、ブレード形状の部材で均す、ローラー形状の部材で均すなどの方法が挙げられる。
【0103】
(5)強度物性が異なる部位を有するハイドロゲル立体造形物の造形方法
次に、ハイドロゲル立体造形物の造形方法のより具体的な説明として、強度物性が異なる部位を有するハイドロゲル立体造形物の造形方法の一例について説明する。以下の説明では、組成の異なる2種類のハイドロゲル立体造形用組成物を用いる態様を例として詳細を説明するが、かかる態様に限定されるものではない。当業者であれば、かかる説明からさらなる態様(例えば、3種類以上のハイドロゲル立体造形用組成物を用いる態様など)について容易に理解するものである。
【0104】
強度物性が異なる部位を有するハイドロゲル立体造形物の造形方法は、組成の異なる複数のハイドロゲル立体造形用組成物の液滴をそれぞれ付与することで、組成の異なる複数の領域を有する液膜を形成する液膜形成工程と、液膜を硬化させる硬化工程と、を有し、液膜形成工程及び硬化工程を順次繰り返すことを特徴とする。
なお、上記造形方法は、組成の異なる複数のハイドロゲル立体造形用組成物をそれぞれ収容している収容手段と、収容されていた組成の異なる複数のハイドロゲル立体造形用組成物の液滴をそれぞれ付与することで、組成の異なる複数の領域を有する液膜を形成する液膜形成手段と、液膜を硬化させる硬化手段と、を有し、液膜形成手段による液膜形成及び硬化手段による硬化を順次繰り返すことを特徴とするハイドロゲル立体造形物の造形装置を用いる。
【0105】
具体的には、まず、第一のハイドロゲル立体造形用組成物と、第一のハイドロゲル立体造形用組成物とは組成の異なる第二のハイドロゲル立体造形用組成物と、を用い、各ハイドロゲル立体造形用組成物の液滴の、それぞれ、付与する位置及び付与量を制御することにより、組成が異なる複数の領域を連続的に有する液膜を形成する。なお、第一のハイドロゲル立体造形用組成物は上記の高強度造形用組成物の一例であるとし、第二のハイドロゲル立体造形用組成物は上記の低強度造形用組成物の一例であるとする。次に、この液膜を硬化させて上記領域を連続的に有する1層分の硬化膜を形成する。その後、液膜の形成と硬化とを順次繰り返すことで硬化膜を積層し、強度物性が異なる複数の部位を連続的に有するハイドロゲル立体造形物を造形する。なお、ハイドロゲル立体造形物における強度物性が異なる複数の部位は、1層分の硬化膜の中で強度物性が異なることにより存在していてもよいし、硬化膜間で強度物性が異なることにより存在していてもよい。
【0106】
4.モデルの用途
モデルの用途としては、例えば、臓器を模した臓器モデルなどが挙げられるが、ヒトの臓器モデルであることが好ましい。ここで、臓器とは、生体を構成する機能器官である。従って、臓器は、内臓に限らず、骨、皮膚、血管など生体を構成するあらゆる器官を含む。
また、臓器モデルの用途としては2つに大別できる。1つは汎用用途における臓器モデルであり、もう1つは個別用途における臓器モデルである。汎用用途における臓器モデルとしては、例えば、医療機器開発における性能確認、校正、トレーニング、教育現場における構造確認などに用いられる臓器モデルである。この場合の臓器モデルは、対象とする臓器の平均的な形状・物性を有する。また、この場合の臓器モデルは、主に健常者のデータを基に造形され、単独もしくは複数人のデータが平均化されたモデルであることが好ましい。個別用途における臓器モデルとしては、例えば、医療現場におけるインフォームドコンセント、術前シミュレーション、術式トレーニングなどに用いられる臓器モデルである。この場合の臓器モデルは、対象とする患者個人の患部を含む臓器の形状・物性を有する。また、この場合の臓器モデルは、患者個人のデータを基に造形され、患部が再現されたモデルであることが好ましい。
【0107】
モデルをヒトの臓器モデルとして用いる場合、モデルを形成するハイドロゲルなどの材料における水の含有量は、モデル全量に対して70質量%以上85質量%以下であることが好ましい。70質量%以上85質量%以下であることで、ヒトの臓器モデルが対象とする実際のヒトの臓器と同等の水分含有量とすることができ、好適に使用することができる。なお、具体的には、ヒトの心臓モデルであれば約80質量%であることが好ましく、ヒトの腎臓モデルであれば約83質量%であることが好ましく、ヒトの脳又は腸のモデルであれば約75質量%であることが好ましい。従って、モデルにおける水の含有量は、モデル全量に対して75質量%以上83質量%以下であることがより好ましい。
【実施例
【0108】
以下、本発明の例を説明するが、本発明はこれら例に何ら限定されるものではない。
【0109】
<高強度造形用組成物Aの作製>
まず、イオン交換水に減圧脱気を30分間実施して純水を準備し、この純水580.0質量部を撹拌させながら、水膨潤性粘土鉱物である合成ヘクトライト(ラポナイトRD、BYK社製)67.0質量部を少しずつ添加し、更に撹拌して混合液を作製した。次に、混合液に合成ヘクトライトの分散剤としてエチドロン酸(東京化成工業株式会社製)5.0質量部を添加して分散液を得た。
次に、得られた分散液に、モノマーとして、活性アルミナのカラムを通過させ重合禁止剤を除去したジメチルアクリルアミド(DMAA、東京化成工業株式会社製)262.0質量部を添加した。また、架橋剤としてN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAA、東京化成工業株式会社製)2.4質量部、ポリエチレングリコールジアクリレート(A-400、新中村化学工業株式会社製)8.0質量部を添加した。更に、乾燥防止剤としてグリセリン(阪本薬品工業株式会社製)300.0質量部を添加して混合した。
次に、重合促進剤としてN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TEMED、東京化成工業株式会社製)6.7質量部を添加した。また、界面活性剤としてエマルゲンLS-106(花王株式会社製)を5.3質量部添加して混合した。
次に、氷浴で冷却しながら、光重合開始剤(イルガキュア184、BASF社製)のメタノール4質量%溶液を12.3質量部添加し、攪拌混合の後、減圧脱気を20分間実施した。続いて、ろ過を行い、不純物等を除去し、均質な高強度造形用組成物Aを得た。
【0110】
-高強度造形用組成物Aの硬化物における粘弾性の測定-
まず、高強度造形用組成物Aを用いてハイドロゲルを作製した。具体的には、31mm×31mm(厚さ10mm)の容器を準備し、高強度造形用組成物Aで内部を満たし、紫外線照射機(ウシオ電機株式会社製、SPOT CURE SP5-250DB)を用いて硬化させた。照射条件は、波長:365nm、照射強度:350mJ/cm、照射時間:60秒であった。
次に、作製したハイドロゲルの物性をレオメーターにより測定したところ、貯蔵弾性率:8320Pa,損失弾性率:2540Paであった。
【0111】
<低強度造形用組成物Bの作製>
まず、イオン交換水に減圧脱気を30分間実施して純水を準備し、この純水580.0質量部を撹拌させながら、水膨潤性粘土鉱物である合成ヘクトライト(ラポナイトRD、BYK社製)67.0質量部を少しずつ添加し、更に撹拌して混合液を作製した。次に、混合液に合成ヘクトライトの分散剤としてエチドロン酸(東京化成工業株式会社製)5.0質量部を添加して分散液を得た。
次に、得られた分散液に、モノマーとして、活性アルミナのカラムを通過させ重合禁止剤を除去したジメチルアクリルアミド(DMAA、東京化成工業株式会社製)262.0質量部を添加した。また、架橋剤としてN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAA、東京化成工業株式会社製)0.6質量部、ポリエチレングリコールジアクリレート(A-400、新中村化学工業株式会社製)2.0質量部を添加した。更に、乾燥防止剤としてグリセリン(阪本薬品工業株式会社製)300.0質量部を添加して混合した。
次に、重合促進剤としてN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TEMED、東京化成工業株式会社製)6.7質量部を添加した。また、界面活性剤としてエマルゲンLS-106(花王株式会社製)を5.3質量部添加して混合した。
次に、氷浴で冷却しながら、光重合開始剤(イルガキュア184、BASF社製)のメタノール4質量%溶液を12.3質量部添加し、攪拌混合の後、減圧脱気を20分間実施した。続いて、ろ過を行い、不純物等を除去し、均質な低強度造形用組成物Bを得た。
【0112】
-低強度造形用組成物Bの硬化物における粘弾性の測定-
まず、低強度造形用組成物Bを用いてハイドロゲルを作製した。具体的には、31mm×31mm(厚さ10mm)の容器を準備し、低強度造形用組成物Bで内部を満たし、紫外線照射機(ウシオ電機株式会社製、SPOT CURE SP5-250DB)を用いて硬化させた。照射条件は、波長:365nm、照射強度:350mJ/cm、照射時間:60秒であった。
次に、作製したハイドロゲルの物性をレオメーターにより測定したところ、貯蔵弾性率:4415Pa,損失弾性率:3104Paであった。
【0113】
<医用3Dデータの取得>
MRE測定が可能なMRI装置を用い、脂肪肝を患う患者の肝臓部分を含む医用3Dデータを取得した。本医用3Dデータは、患者をMRI装置で撮像することにより取得される医用画像データと、患者をMRE測定することにより取得される生体物性と、に基づいて作成されていた。具体的には、本医用3Dデータは、医用画像データに基づいて作成される複数のボクセルと、ボクセルごとに付与された医用画像データにおける画像濃度(MRI信号値)を示す画像濃度情報と、ボクセルごとに付与された生体物性(粘弾性)を示す生体物性情報と、を含んでいた。
なお、MRE測定により取得された肝臓部分における生体物性(粘弾性)は、いずれの部位においても、高強度造形用組成物Aの硬化物における粘弾性と低強度造形用組成物Bの硬化物における粘弾性の範囲内であった。
【0114】
<造形用3Dデータの生成>
まず、医用3Dデータをボクセル領域分割し、肝臓部分を示す領域別医用3Dデータを取得した。次に、領域別医用3Dデータに対し、FAVフォーマット変換を行うことで造形用3DデータであるFAV形式のデータを作成した。
【0115】
<肝臓モデル1の造形例>
高強度造形用組成物A及び低強度造形用組成物Bを、それぞれ、図9に示すようなマテリアルジェッティング方式であって、且つ強度物性の階調を表現できる3Dプリンタに収容し、3Dプリンタのインクジェットヘッドに充填した。次に、3Dプリンタに造形用3Dデータを入力し、造形用3Dデータを基に、生体物性の分布に対応する強度物性の分布を有する立体造形物である肝臓モデル1の造形を行った。具体的には、インクジェットヘッドから各造形用組成物を噴射させ、液膜形成と硬化を順次繰り返すことで造形した。
【0116】
<造形用組成物Cの作製>
高強度造形用組成物Aの作製において、光重合開始剤(イルガキュア184、BASF社製)のメタノール4質量%溶液の代わりに開始剤(過硫酸カリウム)の水4質量%溶液を用いた以外は同様にして造形用組成物Cを得た。
【0117】
<肝臓モデル2の造形例>
まず、造形用3Dデータを基に、患者の肝臓部分をかたどった注型用鋳型を3Dプリンタ(Form2、formlab社製)で作製した。次に、この注型用鋳型に造形用組成物Cを注入し、室温で24時間保持することで硬化させて肝臓モデル2を得た。
【0118】
<モデル3Dデータの取得>
MRE測定が可能なMRI装置を用い、肝臓モデル1及び肝臓モデル2のモデル3Dデータをそれぞれ取得した。本モデル3Dデータは、肝臓モデル1及び肝臓モデル2をそれぞれMRI装置で撮像することにより取得されるモデル画像データと、肝臓モデル1及び肝臓モデル2をそれぞれMRE測定することにより取得されるモデル物性と、に基づいて作成されていた。具体的には、本モデル3Dデータは、モデル画像データに基づいて作成される複数のボクセルと、ボクセルごとに付与されたモデル画像データにおける画像濃度(MRI信号値)を示す画像濃度情報と、ボクセルごとに付与されたモデル物性(粘弾性)を示すモデル物性情報と、を含んでいた。
【0119】
[モデルの物性精度評価]
(例1)
取得した肝臓部分の医用3Dデータに含まれる生体物性情報と、肝臓モデル1のモデル3Dデータに含まれるモデル物性情報と、に基づき、肝臓モデル1の肝臓部分に対する精度を、Materialise社のMaterialise Mimicsを用いて評価した。具体的には、肝臓部分と肝臓モデル1の対応する部分におけるモデル物性の生体物性に対する差異を算出したところ1%であった。
【0120】
(例2)
取得した肝臓部分の医用3Dデータに含まれる生体物性情報と、肝臓モデル2のモデル3Dデータに含まれるモデル物性情報と、に基づき、肝臓モデル2の肝臓部分に対する精度を、Materialise社のMaterialise Mimicsを用いて評価した。具体的には、肝臓部分と肝臓モデル2の対応する部分におけるモデル物性の生体物性に対する差異を算出したところ70%であった。
【0121】
[モデルの形状精度評価]
(例1)
取得した肝臓部分の医用3Dデータに含まれる生体形状情報と、肝臓モデル1のモデル3Dデータに含まれるモデル形状情報と、に基づき、肝臓モデル1の肝臓部分に対する形状の精度を、Materialise社のMaterialise Mimicsを用いて評価する。MaterialiseMaterialise具体的には、肝臓部分と肝臓モデル1の対応する部分におけるモデル形状の生体形状に対する差異を算出すると、約9%になる。
【0122】
(例2)
取得した肝臓部分の医用3Dデータに含まれる生体形状情報と、肝臓モデル2のモデル3Dデータに含まれるモデル形状情報と、に基づき、肝臓モデル2の肝臓部分に対する形状の精度を、Materialise社のMaterialise Mimicsを用いて評価する。MaterialiseMaterialise具体的には、肝臓部分と肝臓モデル1の対応する部分におけるモデル形状の生体形状に対する差異を算出すると、約4%になる。
【0123】
以上より、肝臓モデル1の肝臓部分に対する精度は高く、肝臓モデル2の肝臓部分に対する精度は低いことが評価できる。
【符号の説明】
【0124】
10 造形装置
11 ハイドロゲル立体造形用組成物噴射ヘッドユニット
12 支持体造形用組成物噴射ヘッドユニット
13 紫外線照射機
14 造形体支持基板
15 ステージ
16 平滑化部材
17 立体造形物(ハイドロゲル)
18 支持体(サポート材)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0125】
【文献】特開2015-069054号公報
【文献】特開2017-26680号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10