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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】光学フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
G02B5/30
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020219540
(22)【出願日】2020-12-28
(65)【公開番号】P2022104366
(43)【公開日】2022-07-08
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 恭輔
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-26909(JP,A)
【文献】特開平5-346507(JP,A)
【文献】特開2009-251011(JP,A)
【文献】特開2019-28109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性重合体を含む樹脂で形成された光学フィルムであって、前記光学フィルムが、前記結晶性重合体のガラス転移温度よりも低い沸点を有する溶媒を、0.01重量%~5重量%含み、前記光学フィルムの面内レターデーションReが10nm以下であり、前記光学フィルムのNZ係数が、1.0未満である、光学フィルム。
【請求項2】
前記結晶性重合体が、正の固有複屈折を有する、請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記結晶性重合体が、脂環式構造を含有する、請求項1又は2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
X線回折法で測定した前記結晶性重合体の結晶化度が、10%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項5】
光学フィルムの製造方法であって、
前記光学フィルムは、結晶性重合体を含む樹脂で形成され、
前記結晶性重合体のガラス転移温度よりも低い沸点を有する溶媒を、0.01重量%~5重量%含み、前記光学フィルムのNZ係数が、1.0未満である、光学フィルムであり、
前記製造方法は、
結晶性重合体を含む樹脂で形成され、光学等方性を有する樹脂フィルムを用意する工程(i)と、
前記樹脂フィルムを、前記結晶性重合体のガラス転移温度よりも低い沸点を有する溶媒に接触させて、厚み方向の複屈折Rth/dを変化させる工程(ii)と、を含み、
前記工程(ii)において、前記溶媒との接触によって生じる前記厚み方向の複屈折Rth/dの変化量が、1.0×10 -3 以上である、光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記樹脂フィルムと接触する前記溶媒の温度が、30℃~80℃であり、且つ、前記溶媒の沸点未満である、請求項5に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項7】
結晶性重合体を含む樹脂で形成され、光学等方性を有する樹脂フィルムを用意する工程(i)と、
前記樹脂フィルムを溶媒に接触させて、厚み方向の複屈折Rth/dを変化させる工程(ii)と、を含み、
前記工程(ii)において、前記溶媒との接触によって生じる前記厚み方向の複屈折Rth/dの変化量が、1.0×10 -3 以上であり、
前記樹脂フィルムと接触する前記溶媒の温度が、30℃~80℃であり、且つ、前記溶媒の沸点未満である、光学フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記溶媒が、前記結晶性重合体のガラス転移温度よりも低い沸点を有する、請求項7に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項9】
工程(i)が、前記樹脂を溶融押出することを含む、請求項5~8のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項10】
工程(ii)の後に、樹脂フィルムを延伸する工程(iii)を含む、請求項5~9のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項11】
製造される光学フィルムに含まれる溶媒の量が、1重量%以下である、請求項10に記載の光学フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂を用いたフィルムの製造技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/065222号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂を用いて、屈折率に異方性を有する光学フィルムを製造することがある。このように屈折率に異方性を有する光学フィルムは、複屈折を有しうる。複屈折を有する光学フィルムは、例えば、反射抑制フィルム、視野角補償フィルムなどのフィルムとして表示装置に設けられうる。
【0005】
光学フィルムを表示装置に設ける場合、厚み方向の複屈折と、この厚み方向に垂直な面内方向の複屈折とのバランスを適切に調整することが求められる。厚み方向の複屈折と面内方向の複屈折とのバランスは、光学フィルムのNZ係数によって表すことができる。例えば、NZ係数が1.0未満の光学フィルムが得られれば、その光学フィルムによって、表示装置の視野角、コントラスト、画質等の表示品質の改善が可能になる。
【0006】
NZ係数が1.0未満の光学フィルムの製造方法は、従来、知られている。しかし、従来の製造方法では、NZ係数が1.0未満の光学フィルムを簡単に製造することができなかった。例えば、特許文献1に記載の方法では、フィルムの延伸及び収縮を組み合わせて実施する必要があったり、厚みを精密に調整した複数の層を備えるフィルムを用いる必要があったりした。そのため、制御項目が多くなったり工程数が多かったりするので、製造方法が複雑になる傾向があった。
【0007】
前記の事情に鑑みて、本発明者は、NZ係数が1.0未満の光学フィルムを簡単に製造できる製造方法を検討した。その結果、本発明者は、結晶性重合体を含む樹脂で形成された樹脂フィルムを溶媒と接触させると、その樹脂フィルムの厚み方向の複屈折を変化させうることを見い出した。そして、このような樹脂フィルムと溶媒との接触を利用すれば、NZ係数が1.0未満の光学フィルムを製造可能であるとの知見を得た。
【0008】
しかし、樹脂フィルムと溶媒との接触を経て製造される光学フィルムは、多くの溶媒を含む傾向があった。光学フィルムに含まれる溶媒の量を完全にゼロにすることは困難であるものの、その溶媒の量はなるべく少なくすることが望ましい。
【0009】
また、樹脂フィルムと溶媒との接触による厚み方向の複屈折の変化を利用して光学フィルムを製造する方法では、厚み方向の複屈折の大きな変化を得るために、長い接触時間が要求されることがあった。製造効率を高めるためには、樹脂フィルムと溶媒との接触による厚み方向の複屈折の変化速度を、速くすることが望ましい。
【0010】
本発明は、前記の課題に鑑みて創案されたものである。
具体的には、本発明の第一の課題は、1.0未満のNZ係数を有し、且つ、溶媒の含有量が少ない光学フィルム及びその製造方法を提供することである。
本発明の第二の課題は、樹脂フィルムと溶媒との接触によって樹脂フィルムの厚み方向の複屈折を変化させることを含む光学フィルムの製造方法であって、樹脂フィルムと溶媒との接触による厚み方向の複屈折の変化速度を速められる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記の課題を解決するべく鋭意検討した。その結果、本発明者は、結晶性重合体を含む樹脂で形成された樹脂フィルムを、その結晶性重合体のガラス転移温度よりも低い沸点を有する溶媒に接触させて、厚み方向の複屈折を変化させる工程を含む光学フィルムの製造方法によれば、第一の課題を解決できることを見い出した。また、本発明者は、結晶性重合体を含む樹脂で形成された樹脂フィルムを、特定の温度の溶媒に接触させて、厚み方向の複屈折を変化させる工程を含む光学フィルムの製造方法によれば、第二の課題を解決できることを見い出した。本発明は、前記の知見に基づいて完成されたものである。すなわち、本発明は、下記のものを含む。
【0012】
〔1〕 結晶性重合体を含む樹脂で形成された光学フィルムであって、
前記光学フィルムが、前記結晶性重合体のガラス転移温度よりも低い沸点を有する溶媒を、0.01重量%~5重量%含み、
前記光学フィルムのNZ係数が、1.0未満である、光学フィルム。
〔2〕 前記結晶性重合体が、正の固有複屈折を有する、〔1〕に記載の光学フィルム。
〔3〕 前記結晶性重合体が、脂環式構造を含有する、〔1〕又は〔2〕に記載の光学フィルム。
〔4〕 X線回折法で測定した前記結晶性重合体の結晶化度が、10%以上である、〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の光学フィルム。
〔5〕 〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法であって;
結晶性重合体を含む樹脂で形成された樹脂フィルムを用意する工程(i)と、
前記樹脂フィルムを、前記結晶性重合体のガラス転移温度よりも低い沸点を有する溶媒に接触させて、厚み方向の複屈折を変化させる工程(ii)と、を含む、光学フィルムの製造方法。
〔6〕 前記樹脂フィルムと接触する前記溶媒の温度が、30℃~80℃であり、且つ、前記溶媒の沸点未満である、〔5〕に記載の光学フィルムの製造方法。
〔7〕 結晶性重合体を含む樹脂で形成された樹脂フィルムを用意する工程(i)と、
前記樹脂フィルムを溶媒に接触させて、厚み方向の複屈折を変化させる工程(ii)と、を含み、
前記樹脂フィルムと接触する前記溶媒の温度が、30℃~80℃であり、且つ、前記溶媒の沸点未満である、光学フィルムの製造方法。
〔8〕 前記溶媒が、前記結晶性重合体のガラス転移温度よりも低い沸点を有する、〔7〕に記載の光学フィルムの製造方法。
〔9〕 工程(i)が、前記樹脂を溶融押出することを含む、〔5〕~〔8〕のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
〔10〕 工程(ii)の後に、樹脂フィルムを延伸する工程(iii)を含む、〔5〕~〔9〕いずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
〔11〕 製造される光学フィルムに含まれる溶媒の量が、1重量%以下である、〔10〕に記載の光学フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、第一に、1.0未満のNZ係数を有し、且つ、溶媒の含有量が少ない光学フィルム及びその製造方法を提供できる。又は、本発明によれば、第二に、樹脂フィルムと溶媒との接触によって樹脂フィルムの厚み方向の複屈折を変化させることを含む光学フィルムの製造方法であって、樹脂フィルムと溶媒との接触による厚み方向の複屈折の変化速度を速められる製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0015】
以下の説明において、フィルムの面内レターデーションReは、別に断らない限り、Re=(nx-ny)×dで表される値である。また、フィルムの面内方向の複屈折は、別に断らない限り、(nx-ny)で表される値であり、よってRe/dで表される。さらに、フィルムの厚み方向のレターデーションRthは、別に断らない限り、Rth=[{(nx+ny)/2}-nz]×dで表される値である。また、フィルムの厚み方向の複屈折は、別に断らない限り、[{(nx+ny)/2}-nz]で表される値であり、よってRth/dで表される。さらに、フィルムのNZ係数は、別に断らない限り、(nx-nz)/(nx-ny)で表される値である。ここで、nxは、フィルムの厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。nyは、フィルムの前記面内方向であってnxの方向に垂直な方向の屈折率を表す。nzは、フィルムの厚み方向の屈折率を表す。dは、フィルムの厚みを表す。測定波長は、別に断らない限り、590nmである。
【0016】
以下の説明において、正の固有複屈折を有する材料とは、別に断らない限り、延伸方向の屈折率がそれに垂直な方向の屈折率よりも大きくなる材料を意味する。よって、正の固有複屈折を有する重合体とは、別に断らない限り、延伸方向の屈折率がそれに垂直な方向の屈折率よりも大きくなる重合体を意味する。また、負の固有複屈折を有する材料とは、別に断らない限り、延伸方向の屈折率がそれに垂直な方向の屈折率よりも小さくなる材料を意味する。よって、負の固有複屈折を有する重合体とは、別に断らない限り、延伸方向の屈折率がそれに垂直な方向の屈折率よりも小さくなる重合体を意味する。
【0017】
以下の説明において、「長尺」の形状とは、幅に対して、5倍以上の長さを有する形状をいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムの形状をいう。長さの上限に特段の制限は無いが、通常、幅に対して10万倍以下である。
【0018】
以下の説明において、要素の方向が「平行」、「垂直」及び「直交」とは、別に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±5°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0019】
「偏光板」、「円偏光板」及び「波長板」とは、別に断らない限り、剛直な部材だけでなく、例えば樹脂製のフィルムのように可撓性を有する部材も含む。
【0020】
[1.第一実施形態に係る光学フィルムの概要]
本発明の第一実施形態に係る光学フィルムは、下記の要件(A)~(C)を組み合わせて満たす。
要件(A):光学フィルムが、結晶性重合体を含む樹脂で形成されている。
要件(B):光学フィルムが、結晶性重合体のガラス転移温度よりも低い沸点を有する溶媒を、0.01重量%~5重量%含む。
要件(C):光学フィルムのNZ係数が、1.0未満である。
【0021】
前記の光学フィルムは、従来は製造が困難であったが、後述する特定の製造方法を用いた場合に、容易に製造することが可能である。
【0022】
[2.結晶性重合体を含む樹脂]
第一実施形態に係る光学フィルムは、結晶性重合体を含む樹脂で形成されている。結晶性重合体とは、結晶性を有する重合体を表す。結晶性を有する重合体とは、融点Tmを有する〔すなわち、示差走査熱量計(DSC)で融点Tmを観測することができる〕重合体を表す。以下の説明において、結晶性重合体を含む樹脂を「結晶性樹脂」ということがある。この結晶性樹脂は、好ましくは熱可塑性樹脂である。よって、光学フィルムは、結晶性樹脂を含むこと好ましく、結晶性樹脂のみからなることがより好ましい。
【0023】
結晶性重合体は、負の固有複屈折を有していてもよいが、正の固有複屈折を有することが好ましい。正の固有複屈折を有する結晶性重合体を用いる場合、NZ係数が1.0未満の光学フィルムを容易に製造できる。
【0024】
結晶性重合体は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン;等でもよく、特に限定されることはないが、脂環式構造を含有することが好ましい。脂環式構造を含有する結晶性重合体を用いる場合、光学フィルムの機械特性、耐熱性、透明性、低吸湿性、寸法安定性及び軽量性を良好にできる。脂環式構造を含有する重合体とは、分子内に脂環式構造を有する重合体を表す。このような脂環式構造を含有する重合体は、例えば、環状オレフィンを単量体として用いた重合反応によって得られうる重合体又はその水素化物でありうる。
【0025】
脂環式構造としては、例えば、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が挙げられる。これらの中でも、熱安定性などの特性に優れる光学フィルムが得られ易いことから、シクロアルカン構造が好ましい。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数は、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下である。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数が上記範囲内にあることで、機械的強度、耐熱性、及び成形性が高度にバランスされる。
【0026】
脂環式構造を含有する結晶性重合体において、全ての構造単位に対する脂環式構造を有する構造単位の割合は、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上である。脂環式構造を有する構造単位の割合が前記のように多い場合、耐熱性を高めることができる。全ての構造単位に対する脂環式構造を有する構造単位の割合は、100重量%以下としうる。また、脂環式構造を含有する結晶性重合体において、脂環式構造を有する構造単位以外の残部は、格別な限定はなく、使用目的に応じて適宜選択しうる。
【0027】
脂環式構造を含有する結晶性重合体としては、例えば、下記の重合体(α)~重合体(δ)が挙げられる。これらの中でも、耐熱性に優れる光学フィルムが得られ易いことから、重合体(β)が好ましい。
重合体(α):環状オレフィン単量体の開環重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(β):重合体(α)の水素化物であって、結晶性を有するもの。
重合体(γ):環状オレフィン単量体の付加重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(δ):重合体(γ)の水素化物であって、結晶性を有するもの。
【0028】
具体的には、脂環式構造を含有する結晶性重合体としては、ジシクロペンタジエンの開環重合体であって結晶性を有するもの、及び、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物であって結晶性を有するものがより好ましい。中でも、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物であって結晶性を有するものが特に好ましい。ここで、ジシクロペンタジエンの開環重合体とは、全構造単位に対するジシクロペンタジエン由来の構造単位の割合が、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは100重量%の重合体をいう。
【0029】
ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物は、ラセモ・ダイアッドの割合が高いことが好ましい。具体的には、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物における繰り返し単位のラセモ・ダイアッドの割合は、好ましくは51%以上、より好ましくは70%以上、特に好ましくは85%以上である。ラセモ・ダイアッドの割合が高いことは、シンジオタクチック立体規則性が高いことを表す。よって、ラセモ・ダイアッドの割合が高いほど、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物の融点が高い傾向がある。
ラセモ・ダイアッドの割合は、後述する実施例に記載の13C-NMRスペクトル分析に基づいて決定できる。
【0030】
上記重合体(α)~重合体(δ)としては、国際公開第2018/062067号に開示されている製造方法により得られる重合体を用いうる。
【0031】
結晶性重合体の融点Tmは、好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上であり、好ましくは290℃以下である。このような融点Tmを有する結晶性重合体を用いる場合、成形性と耐熱性とのバランスに更に優れた光学フィルムを得ることができる。
【0032】
通常、結晶性重合体は、ガラス転移温度Tgを有する。結晶性重合体の具体的なガラス転移温度Tgは、特に限定されないが、通常は85℃以上、通常170℃以下である。
【0033】
重合体のガラス転移温度Tg及び融点Tmは、以下の方法によって測定できる。まず、重合体を、加熱によって融解させ、融解した重合体をドライアイスで急冷する。続いて、この重合体を試験体として用いて、示差走査熱量計(DSC)を用いて、10℃/分の昇温速度(昇温モード)で、重合体のガラス転移温度Tg及び融点Tmを測定しうる。
【0034】
結晶性重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上であり、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下である。このような重量平均分子量を有する結晶性重合体は、成形加工性と耐熱性とのバランスに優れる。
【0035】
結晶性重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上であり、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下である。ここで、Mnは数平均分子量を表す。このような分子量分布を有する結晶性重合体は、成形加工性に優れる。
【0036】
重合体の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、テトラヒドロフランを展開溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算値として測定しうる。
【0037】
光学フィルムに含まれる結晶性重合体の結晶化度は、好ましくは10%以上、より好ましくは13%以上、特に好ましくは15%以上である。上限は特に制限は無く、例えば、70%以下でありうる。結晶性重合体の結晶化度は、X線回折法によって測定できる。一般に、結晶化した結晶性重合体のX線回折測定を行うと、特定の回折角度2θにおいて回折X線強度にピークが生じる。光学フィルムに含まれる結晶性重合体についてX線回折測定を行った場合、特定の回折角度2θにピークが測定されうるので、このピークによって光学フィルムに含まれる結晶性重合体の結晶化度を測定できる。光学フィルムに含まれる結晶性重合体についてX線回折測定を行った場合には、前記特定の回折角度2θには、ブロードなピークが測定されることがありうる。よって、本発明者は、光学フィルムに含まれる結晶性重合体の前記の結晶化度の値には、結晶性重合体の結晶化以外の要素による回折の影響が含まれていることもありうると考える。しかし、光学フィルムに含まれる結晶性重合体の前記の高い結晶化度は、少なくともX線の回折を生じうる程度の規則性を有する配向状態を、光学フィルムに含まれる結晶性重合体の分子が有していることを表している。よって、前記の結晶化度は、光学フィルムに含まれる結晶性重合体の分子の配向状態を表すパラメータであるから、本実施形態に係る光学フィルムが有する光学特性に関連を有していると考えられる。
【0038】
結晶性重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0039】
結晶性樹脂における結晶性重合体の割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。結晶性重合体の割合が前記範囲の下限値以上である場合、光学フィルムの複屈折の発現性及び耐熱性を高めることができる。結晶性重合体の割合の上限は、100重量%以下でありうる。
【0040】
結晶性樹脂は、結晶性重合体に加えて、任意の成分を含みうる。任意の成分としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等の酸化防止剤;ヒンダードアミン系光安定剤等の光安定剤;石油系ワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリアルキレンワックス等のワックス;ソルビトール系化合物、有機リン酸の金属塩、有機カルボン酸の金属塩、カオリン及びタルク等の核剤;ジアミノスチルベン誘導体、クマリン誘導体、アゾール系誘導体(例えば、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、及びベンゾチアソール誘導体)、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ナフタル酸誘導体、及びイミダゾロン誘導体等の蛍光増白剤;ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤;タルク、シリカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維等の無機充填材;着色剤;難燃剤;難燃助剤;帯電防止剤;可塑剤;近赤外線吸収剤;滑剤;フィラー;及び、軟質重合体等の、結晶性重合体以外の任意の重合体;などが挙げられる。任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。任意の成分の量は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で適宜定めうる。任意の成分の量は、例えば、光学フィルムの全光線透過率を85%以上に維持できる範囲でありうる。
【0041】
[3.光学フィルムに含まれる溶媒]
第一実施形態に係る光学フィルムは、溶媒を含む。この溶媒は、通常、後述する光学フィルムの製造方法の工程(ii)においてフィルム中に取り込まれたものである。詳細には、工程(ii)においてフィルム中に取り込まれた溶媒の全部または一部は、重合体の内部に入り込みうる。したがって、乾燥を行ったとしても、容易には溶媒を完全に除去することは難しい。よって、第一実施形態に係る光学フィルムは、溶媒を含む。
【0042】
光学フィルムが含む前記の溶媒は、結晶性重合体のガラス転移温度Tgよりも低い沸点Bpを有する。結晶性重合体のガラス転移温度Tgと溶媒の沸点Bpとの差Tg-Bpは、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは20℃以上、特に好ましくは30℃以上である。温度差Tg-Bpが前記の下限値以上である場合、結晶性重合体体のガラス転移温度Tgより低い温度で溶媒の効果的な乾燥が可能である。よって、配向緩和による光学フィルムの光学特性の変化を抑制しながら、光学フィルムに含まれる溶媒の量を効果的に下げることができる。温度差Tg-Bpの上限は、特段の制限は無いが、例えば80℃以下でありうる。
【0043】
溶媒の沸点は、JIS K 2233による1気圧における溶媒の蒸留によって、平衡還流沸点として測定できる。
【0044】
前記の溶媒としては、結晶性重合体を溶解しないものを用いうる。この溶媒は、通常、有機溶媒である。好ましい溶媒としては、例えば、シクロヘキサン、トルエン、リモネン、デカリン等の炭化水素溶媒;二硫化炭素;が挙げられる。溶媒の種類は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。
【0045】
第一実施形態に係る光学フィルム100重量%に対する、当該光学フィルムに含まれる前記の溶媒(即ち、結晶性重合体のガラス転移温度よりも低い沸点を有する溶媒)の比率としての溶媒含有率は、特定の小さい範囲にある。具体的な溶媒含有率は、通常0.01重量%以上であり、通常5重量%以下、より好ましくは2重量%以下、更に好ましくは1重量%以下、更に好ましくは0.1重量%、特に好ましくは0.05重量%以下である。このように小さい溶媒含有率を有する光学フィルムは、当該光学フィルムからの溶媒の放出が抑制されるので、経時的な光学特性の変化を抑制できる。
【0046】
光学フィルムの溶媒含有率は、実施例において説明する測定方法により測定できる。
【0047】
[4.光学フィルムのNZ係数]
第一実施形態に係る光学フィルムのNZ係数は、通常1.0未満である。このように1.0未満のNZ係数を有する光学フィルムは、表示装置に設けた場合に、その表示装置の視野角、コントラスト、画質等の表示品質の改善が可能である。
【0048】
光学フィルムのNZ係数の具体的な値は、光学フィルムの用途に応じて適切に設定しうる。
一例において、NZ係数の範囲は、好ましくは0.0未満、より好ましくは-5.0以下、更に好ましくは-10以下、更に好ましくは-20以下、更に好ましくは-40以下、更に好ましくは-70以下、特に好ましくは-110以下でありうる。この場合、下限は、好ましくは-500以上、より好ましくは-300以上、特に好ましくは-200以上でありうる。このような0.0未満のNZ係数を有する光学フィルムは、例えば、後述する光学フィルムの製造方法において、延伸前の光学フィルムとして製造しうる。
【0049】
別の一例において、NZ係数の範囲は、好ましくは0.0以上、より好ましくは0.0より大きく、更に好ましくは0.1以上、更に好ましくは0.15以上、特に好ましくは0.2以上であり、通常1.0未満、好ましくは0.9以下、更に好ましくは0.85以下、特に好ましくは0.8以下でありうる。このような0以上のNZ係数を有する光学フィルムは、例えば、後述する光学フィルムの製造方法において、延伸された光学フィルムとして製造しうる。以下の説明では、延伸された光学フィルムを「光学延伸フィルム」と呼ぶことがある。
【0050】
フィルムのNZ係数は、そのフィルムの面内レターデーションRe及び厚み方向のレターデーションRthから計算により求めうる。
【0051】
[5.光学フィルムの層構成]
第一実施形態に係る光学フィルムは、複数の層を含む複層構造を有していてもよいが、単層構造を有することが好ましい。単層構造とは、同じ組成を有する単一の層のみを有し、前記の組成とは異なる組成を有する層を備えない構造を表す。よって、光学フィルムは、前記の結晶性樹脂で形成された層を単独で有することが好ましい。
【0052】
[6.光学フィルムの特性]
第一実施形態に係る光学フィルムは、その用途に応じた適切な範囲の面内レターデーションを有することが好ましい。
例えば、光学フィルムの具体的な面内レターデーションReは、好ましくは10nm以下、より好ましくは5nm以下、特に好ましくは3nm以下でありうる。この場合、光学フィルムは、ネガティブCプレートとして機能できる。このような範囲の面内レターデーションReを有する光学フィルムは、例えば、後述する光学フィルムの製造方法において、延伸前の光学フィルムとして製造しうる。
【0053】
例えば、光学フィルムの具体的な面内レターデーションReは、好ましくは100nm以上、より好ましくは110nm以上、特に好ましくは120nm以上でありえ、また、好ましくは180nm以下、より好ましく170nm以下、特に好ましくは160nm以下でありうる。この場合、光学フィルムは、1/4波長板として機能できる。このような範囲の面内レターデーションReを有する光学フィルムは、例えば、後述する光学フィルムの製造方法において、光学延伸フィルムとして製造しうる。
【0054】
例えば、光学フィルムの具体的な面内レターデーションReは、好ましくは245nm以上、より好ましくは265nm以上、特に好ましくは270nm以上でありえ、また、好ましくは320nm以下、より好ましくは300nm以下、特に好ましくは295nm以下でありうる。この場合、光学フィルムは、1/2波長板として機能できる。このような範囲の面内レターデーションReを有する光学フィルムは、例えば、後述する光学フィルムの製造方法において、光学延伸フィルムとして製造しうる。
【0055】
第一実施形態に係る光学フィルムは、その用途に応じた適切な範囲の厚み方向のレターデーションRthを有することが好ましい。
例えば、光学フィルムの具体的な厚み方向のレターデーションRthは、好ましくは300nm以下、より好ましくは100nm以下、更に好ましくは30nm以下、更に好ましくは0nm未満であり、好ましくは-10000nm以上、より好ましくは-1000nm以上、特に好ましくは-500nm以上である。
【0056】
フィルムのレターデーションは、位相差計(AXOMETRICS社製「AxoScan OPMF-1」)により測定しうる。
【0057】
第一実施形態に係る光学フィルムは、その用途に応じた適切な範囲の面内方向の複屈折Re/dを有することが好ましい。
例えば、光学フィルムの具体的な面内方向の複屈折Re/dは、通常0.00×10-3以上、好ましくは0.01×10-3以上、特に好ましくは0.05×10-3以上であり、好ましくは1.00×10-3以下、より好ましくは0.80×10-3以下、特に好ましくは0.50×10-3以下である。このような範囲の面内方向の複屈折Re/dを有する光学フィルムは、例えば、後述する光学フィルムの製造方法において、延伸前の光学フィルムとして製造しうる。
【0058】
例えば、光学フィルムの具体的な面内方向の複屈折Re/dは、好ましくは2.0×10-3以上、より好ましくは4.0×10-3以上、特に好ましくは5.0×10-3以上であり、好ましくは30.0×10-3以下、より好ましくは20.0×10-3以下、特に好ましくは15.0×10-3以下である。このような範囲の面内方向の複屈折Re/dを有する光学フィルムは、例えば、後述する光学フィルムの製造方法において、光学延伸フィルムとして製造しうる。
【0059】
第一実施形態に係る光学フィルムは、その用途に応じた適切な範囲の厚み方向の複屈折Rth/dを有することが好ましい。
例えば、光学フィルムの具体的な厚み方向の複屈折Rth/dは、好ましくは-30.0×10-3以上、より好ましくは-20.0×10-3以上、特に好ましくは-10.0×10-3以上であり、好ましくは-1.0×10-3以下、好ましくは-2.0×10-3以下、特に好ましくは-4.0×10-3以下である。このような範囲の厚み方向の複屈折Rth/dを有する光学フィルムは、例えば、後述する光学フィルムの製造方法において、延伸前の光学フィルムとして製造しうる。
【0060】
例えば、光学フィルムの具体的な厚み方向の複屈折Rth/dは、好ましくは-1.0×10-3以上、好ましくは-0.5×10-3以上、特に好ましくは-0.1×10-3以上であり、好ましくは30.0×10-3以下、より好ましくは10.0×10-3以下、特に好ましくは5.0×10-3以下である。このような範囲の厚み方向の複屈折Rth/dを有する光学フィルムは、例えば、後述する光学フィルムの製造方法において、光学延伸フィルムとして製造しうる。
【0061】
光学フィルムは、高い透明性を有することが好ましい。光学フィルムの具体的な全光線透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、特に好ましくは88%以上である。フィルムの全光線透過率は、紫外・可視分光計を用いて、波長400nm~700nmの範囲で測定しうる。
【0062】
光学フィルムは、小さいヘイズを有することが好ましい。光学フィルムのヘイズは、好ましくは1.0%未満、より好ましくは0.8%未満、特に好ましくは0.5%未満であり、理想的には0.0%である。このようにヘイズが小さい光学フィルムは、表示装置に設けた場合に、その表示装置に表示される画像の鮮明性を高くできる。フィルムのヘイズは、ヘイズメーター(例えば、日本電色工業社製「NDH5000」)を用いて測定しうる。
【0063】
光学フィルムは、延伸処理を施されていないフィルムであってもよく、延伸処理を施された光学延伸フィルムであってもよい。光学フィルムが光学延伸フィルムである場合、当該光学延伸フィルムは一軸延伸フィルムであることが好ましい。一軸延伸フィルムとは、積極的に延伸処理をするのは一の方向のみであり、それ以外の方向への積極的な延伸処理が行われていないフィルムを表す。一軸延伸フィルムは、一方向のみへの延伸によって製造できるので、製造工程をシンプルにでき、よって簡単な製造を実現できる。
【0064】
光学フィルムは、枚葉のフィルムであってもよく、長尺の形状を有する長尺フィルムであってもよい。光学フィルムが長尺の形状を有する場合、光学フィルムと長尺の偏光フィルムとを貼り合わせて、偏光板を連続的に製造することが可能である。
【0065】
光学フィルムの厚みは、光学フィルムの用途に応じて適切に設定できる。光学フィルムの具体的な厚みは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、特に好ましくは30μm以上であり、好ましくは400μm以下、より好ましくは300μm以下で、特に好ましくは200μm以下である。
【0066】
[7.第一実施形態に係る光学フィルムの製造方法]
第一実施形態に係る光学フィルムは、
結晶性樹脂で形成された樹脂フィルムを用意する工程(i)と、
樹脂フィルムを、結晶性重合体のガラス転移温度Tgよりも低い沸点を有する溶媒に接触させて、厚み方向の複屈折を変化させる工程(ii)と、
を含む製造方法によって、製造できる。
【0067】
前記の製造方法によって光学フィルムが得られる仕組みを、本発明者は下記の通りであると推察する。ただし、本発明の技術的範囲は、下記の仕組みによって制限されるものではない。
【0068】
結晶性重合体を含む結晶性樹脂で形成された樹脂フィルムを溶媒と接触させると、その溶媒が樹脂フィルム中に浸入する。浸入した溶媒の作用により、フィルム中の結晶性重合体の分子にミクロブラウン運動が生じ、分子鎖が配向する。本発明者の検討によれば、この分子鎖の配向の際には、結晶性重合体の溶媒誘起結晶化現象が進行することがありうると考えられる。
【0069】
ところで、樹脂フィルムの表面積は、主表面であるオモテ面及びウラ面が大きい。よって、溶媒の浸入速度は、前記のオモテ面又はウラ面を通った厚み方向への浸入速度が、大きい。そうすると、前記の結晶性重合体の分子の配向は、当該重合体の分子が厚み方向に配向するように進行しうる。結晶性重合体の分子が厚み方向に配向することにより、厚み方向の複屈折が変化するので、樹脂フィルムのNZ係数を調整することができる。よって、溶媒との接触後の樹脂フィルムを、1.0未満のNZ係数を有する光学フィルムとして得ることができる。
【0070】
また、前記の溶媒は、結晶性重合体のガラス転移温度Tgよりも低い沸点を有する。よって、結晶性重合体のガラス転移温度Tgより低い温度において、溶媒の乾燥を効果的に進行させることができる。そうすると、高温による結晶性重合体の配向状態の変化を抑制しながら溶媒を除去できるので、NZ係数等の光学特性の変化を抑制しながらフィルム中の溶媒量を効果的に減らすことができる。したがって、所望の光学特性を有し、且つ、溶媒含有率の低い光学フィルムを得ることができる。
【0071】
上述した光学フィルムの製造方法は、工程(i)及び工程(ii)に組み合わせて、更に任意の工程を含んでいてもよい。例えば、光学フィルムの製造方法は、工程(ii)の後で樹脂フィルムを延伸する工程(iii)を含んでいてもよい。工程(iii)を行う場合、その工程(iii)における延伸によって特性を調整された樹脂フィルムとして、光学フィルム(即ち、光学延伸フィルム)を得ることができる。また、例えば、光学フィルムの製造方法は、工程(ii)の後で、樹脂フィルムを乾燥する(iv)を含んでいてもよい。
【0072】
[8.樹脂フィルムを用意する工程(i)]
第一実施形態に係る光学フィルムの製造方法は、結晶性重合体を含む結晶性樹脂で形成された樹脂フィルムを用意する工程(i)を含む。工程(i)で用意される樹脂フィルムの材料としての結晶性樹脂は、光学フィルムが含む結晶性樹脂と同じでありうる。
【0073】
ただし、樹脂フィルムに含まれる結晶性重合体の結晶化度は、小さいことが好ましい。具体的な結晶化度は、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、特に好ましくは3%未満である。溶媒と接触する前の樹脂フィルムに含まれる結晶性重合体の結晶化度が低いと、溶媒との接触によって多くの結晶性重合体の分子を厚み方向に配向させられるので、広い範囲でのNZ係数の調整が可能となる。
【0074】
樹脂フィルムは、溶媒の含有量が小さいことが好ましく、溶媒を含まないことがより好ましい。樹脂フィルムの重量100%に対する当該樹脂フィルムに含まれる溶媒の比率(溶媒含有率)は、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下、特に好ましくは0.1%以下であり、理想的には0.0%である。溶媒と接触する前の樹脂フィルムに含まれる溶媒の量が少ないことにより、溶媒との接触によって多くの結晶性重合体の分子を厚み方向に配向させられるので、広い範囲でのNZ係数の調整が可能となる。
樹脂フィルムの溶媒含有率は、密度によって測定しうる。
【0075】
樹脂フィルムは、好ましくは、光学等方性を有する。よって、樹脂フィルムは、面内方向の複屈折Re/dが小さいことが好ましく、厚み方向の複屈折の絶対値|Rth/d|が小さいことが好ましい。具体的には、樹脂フィルムの面内方向の複屈折Re/dは、好ましくは1.0×10-3未満、より好ましくは0.5×10-3未満、特に好ましくは0.3×10-3未満である。また、樹脂フィルムの厚み方向の複屈折の絶対値|Rth/d|は、好ましくは1.0×10-3未満、より好ましくは0.5×10-3未満、特に好ましくは0.3×10-3未満である。このように光学等方性を有することは、樹脂フィルムに含まれる結晶性重合体の分子の配向性が低く、実質的に無配向状態となっていることを表す。このような光学等方性の樹脂フィルムを用いた場合、当該樹脂フィルムの光学特性の精密な制御が不要であり、よって結晶性重合体の分子の配向性の精密な制御が不要であるので、光学フィルムの製造方法をシンプルにできる。さらに、光学等方性の樹脂フィルムを用いた場合、通常は、ヘイズが小さい光学フィルムを得ることができる。
【0076】
樹脂フィルムのヘイズは、好ましくは1.0%未満、好ましくは0.8%未満、より好ましくは0.5%未満であり、理想的には0.0%である。樹脂フィルムのヘイズが小さいほど、得られる光学フィルムのヘイズを小さくし易い。
【0077】
樹脂フィルムの厚みは、製造しようとする光学フィルムの厚みに応じて設定することが好ましい。通常、工程(ii)で溶媒と接触させることにより、厚みは大きくなる。他方、工程(iii)において延伸を行う場合、その延伸によって厚みは小さくなる。したがって、前記のような工程(ii)以降の工程における厚みの変化を考慮して、樹脂フィルムの厚みを設定してもよい。
【0078】
樹脂フィルムは、枚葉のフィルムであってもよいが、長尺のフィルムであることが好ましい。長尺の樹脂フィルムを用いることにより、ロール・トゥ・ロール法による光学フィルムの連続的な製造が可能であるので、光学フィルムの生産性を効果的に高めることができる。
【0079】
樹脂フィルムの製造方法としては、溶媒を含まない樹脂フィルムが得られることから、射出成形法、押出成形法、プレス成形法、インフレーション成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法、注型成形法、圧縮成形法等の樹脂成型法が好ましい。これらの中でも、厚みの制御が容易であることから、結晶性樹脂を溶融押出することを含む押出成形法が好ましい。
【0080】
押出成形法における製造条件は、好ましくは下記の通りである。シリンダー温度(溶融樹脂温度)は、好ましくはTm以上、より好ましくは「Tm+20℃」以上であり、好ましくは「Tm+100℃」以下、より好ましくは「Tm+50℃」以下である。また、フィルム状に押し出された溶融樹脂が最初に接触する冷却体は特に限定されないが、通常はキャストロールを用いる。このキャストロール温度は、好ましくは「Tg-50℃」以上であり、好ましくは「Tg+70℃」以下、より好ましくは「Tg+40℃」以下である。このような条件で樹脂フィルムを製造する場合、厚み1μm~1mmの樹脂フィルムを容易に製造できる。ここで、「Tm」は、結晶性重合体の融点を表し、「Tg」は結晶性重合体のガラス転移温度を表す。
【0081】
[9.樹脂フィルムと溶媒とを接触させる工程(ii)]
第一実施形態に係る光学フィルムの製造方法は、工程(i)の後に、樹脂フィルムと溶媒とを接触させる工程(ii)を含む。この工程(ii)により、樹脂フィルムの厚み方向の複屈折が変化するので、溶媒接触前とは異なる厚み方向の複屈折を有する光学フィルムを得ることができる。
【0082】
溶媒としては、光学フィルムに含まれる溶媒として上述した範囲のものを用いる。よって、工程(ii)では、樹脂フィルムに含まれる結晶性重合体のガラス転移温度Tgよりも低い沸点Bpを有する溶媒が、樹脂フィルムに接触する。
【0083】
樹脂フィルムと溶媒との接触方法は、制限は無い。接触方法としては、例えば、樹脂フィルムに溶媒をスプレーするスプレー法;樹脂フィルムに溶媒を塗布する塗布法;溶媒中に樹脂フィルムを浸漬する浸漬法;などが挙げられる。中でも、連続的な接触を容易に行えることから、浸漬法が好ましい。
【0084】
樹脂フィルムに接触させる溶媒の温度は、溶媒が液体状態を維持できる範囲で任意であり、よって、溶媒の融点より高く沸点未満の範囲に設定しうる。中でも、樹脂フィルムと溶媒との接触による厚み方向の複屈折の変化速度を速める観点では、溶媒の温度は、常温よりも高い特定の温度範囲にあることが好ましい。前記の特定の温度範囲は、好ましくは30℃以上、より好ましくは35℃以上、特に好ましくは40℃以上であり、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、特に好ましくは60℃以下である。
【0085】
樹脂フィルムと溶媒との接触時間は、所望の光学特性を有する光学フィルムが得られる範囲で、適切に設定しうる。具体的な接触時間は、好ましくは0.5秒以上、より好ましくは1.0秒以上、特に好ましくは5.0秒以上であり、好ましくは120秒以下、より好ましくは80秒以下、特に好ましくは60秒以下である。接触時間が前記範囲の下限値以上である場合、溶媒との接触によって厚み方向の複屈折を効果的に変化させることができる。他方、浸漬時間を長くしても複屈折の変化量は大きく変わらない傾向がある。よって、接触時間が前記範囲の上限値以下である場合、光学フィルムの品質を損なわずに生産性を高めることができる。
【0086】
溶媒と接触させられることにより、樹脂フィルムの厚み方向の複屈折Rth/dは、変化する。溶媒との接触によって生じる樹脂フィルムの厚み方向の複屈折Rth/dの変化量は、好ましくは1.0×10-3以上、より好ましくは2.0×10-3以上、特に好ましくは4.0×10-3以上であり、好ましくは50.0×10-3以下、より好ましくは30.0×10-3以下、特に好ましくは20.0×10-3以下である。前記の厚み方向の複屈折Rth/dの変化量とは、厚み方向の複屈折Rth/dの変化の絶対値を表す。具体的な厚み方向の複屈折Rth/dの変化量は、溶媒接触後の樹脂フィルムの厚み方向の複屈折Rth/dから、溶媒接触前の樹脂フィルムの厚み方向の複屈折Rth/dを引き算し、その絶対値として求められる。好ましくは、厚み方向の複屈折Rth/dは、樹脂フィルムと溶媒との接触によって小さくなる(即ち、負の方向に変化する)。
【0087】
樹脂フィルムの面内方向の複屈折Re/dは、溶媒との接触によって変化してもよく、変化しなくてもよい。光学フィルムの面内レターデーションReの制御を簡単にする観点では、溶媒との接触によって樹脂フィルムに生じる面内方向の複屈折Re/dの変化は小さいことが好ましく、変化を生じないことがより好ましい。溶媒との接触によって生じる樹脂フィルムの面内方向の複屈折Re/dの変化量は、好ましくは0.0×10-3~1.0×10-3、より好ましくは0.0×10-3~0.5×10-3、特に好ましくは0.0×10-3~0.3×10-3である。前記の面内方向の複屈折Re/dの変化量とは、面内方向の複屈折Re/dの変化の絶対値を表す。具体的な面内方向の複屈折Re/dの変化量は、溶媒接触後の樹脂フィルムの面内方向の複屈折Re/dから、溶媒接触前の樹脂フィルムの面内方向の複屈折Re/dを引き算し、その絶対値として求められる。
【0088】
樹脂フィルムに接触した溶媒が樹脂フィルム中に浸入することにより、工程(ii)においては、通常、樹脂フィルムの厚みが大きくなる。この際の樹脂フィルムの厚みの変化率の下限は、例えば、1%以上、10%以上、又は20%以上でありうる。また、厚みの変化率の上限は、例えば、80%以下、50%以下、又は40%以下でありうる。前記の樹脂フィルムの厚みの変化率とは、溶媒接触前の樹脂フィルムと溶媒接触後の樹脂フィルムとの厚みの差を、溶媒接触前の樹脂フィルムの厚みで割って得られる比率である。
【0089】
前記のように、工程(ii)によって樹脂フィルムの厚み方向の複屈折Rth/dが変化する。このように厚み方向の複屈折Rth/dの変化によって、所望の光学特性を有する樹脂フィルムが得られる場合、その樹脂フィルムを光学フィルムとして得ることができる。
【0090】
[10.樹脂フィルムを延伸する工程(iii)]
第一実施形態に係る光学フィルムの製造方法は、工程(ii)の後に、樹脂フィルムを延伸する工程(iii)を含んでいてもよい。延伸により、樹脂フィルムに含まれる結晶性重合体の分子を延伸方向に応じた方向に配向させることができる。よって、この延伸によれば、樹脂フィルムの面内方向の複屈折Re/d、面内レターデーションRe、厚み方向の複屈折Rth/d、厚み方向のレターデーションRth、NZ係数等の光学特性;並びに、厚みdを調整することができる。
【0091】
例えば、負の固有複屈折を有する結晶性重合体を用いた場合、工程(ii)における溶媒との接触によって樹脂フィルム中の結晶性重合体の分子が厚み方向に配向すると、1.0より大きいNZ係数を有する樹脂フィルムが得られうる。この場合、工程(iii)で延伸を行うことにより、当該延伸によってNZ係数を1.0未満に調整して、延伸処理を経て製造された光学延伸フィルムとしての光学フィルムを得ることができる。
【0092】
また、例えば、工程(ii)における溶媒との接触によって、1.0未満のNZ係数を有する光学フィルムとしての樹脂フィルムが得られる場合がありうる。この場合、その樹脂フィルムを延伸して、用途に応じた適切な光学特性を有する光学延伸フィルムとして光学フィルムを得ることができる。
【0093】
延伸方向に制限はなく、例えば、長手方向、幅方向、斜め方向などが挙げられる。ここで、斜め方向とは、厚み方向に対して垂直な方向であって、幅方向に平行でもなく垂直でもない方向を表す。また、延伸方向は、一方向でもよく、二以上の方向でもよい。よって、延伸方法としては、例えば、樹脂フィルムを長手方向に一軸延伸する方法(縦一軸延伸法)、樹脂フィルムを幅方向に一軸延伸する方法(横一軸延伸法)等の、一軸延伸法;樹脂フィルムを長手方向に延伸すると同時に幅方向に延伸する同時二軸延伸法、樹脂フィルムを長手方向及び幅方向の一方に延伸した後で他方に延伸する逐次二軸延伸法等の、二軸延伸法;樹脂フィルムを斜め方向に延伸する方法(斜め延伸法);などが挙げられる。中でも、一方向のみに延伸を行う一軸延伸法が好ましく、延伸方向以外の方向に拘束力を加えない自由一軸延伸が更に好ましい。
【0094】
延伸倍率は、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上であり、好ましくは20.0倍以下、より好ましくは10.0倍以下、更に好ましくは5.0倍以下、特に好ましくは2.0倍以下である。具体的な延伸倍率は、製造したい光学フィルムの光学特性、厚み、機械的強度などの要素に応じて適切に設定することが望ましい。延伸倍率が前記範囲の下限値以上である場合、延伸によって複屈折を大きく変化させることができる。また、延伸倍率が前記範囲の上限値以下である場合、遅相軸の方向を容易に制御したり、フィルムの破断を効果的に抑制したりできる。
【0095】
延伸温度は、好ましくは「Tg+5℃」以上、より好ましくは「Tg+10℃」以上であり、好ましくは「Tg+100℃」以下、より好ましくは「Tg+90℃」以下である。ここで、「Tg」は結晶性重合体のガラス転移温度を表す。延伸温度が前記範囲の下限値以上である場合、樹脂フィルムを十分に軟化させて延伸を均一に行うことができる。また、延伸温度が前記範囲の上限値以下である場合、結晶性重合体の結晶化の進行による樹脂フィルムの硬化を抑制できるので、延伸を円滑に行うことができ、また、延伸によって大きな複屈折を発現させることができる。さらに、通常は、得られる樹脂フィルムのヘイズを小さくして透明性を高めることができる。
【0096】
前記の延伸処理を施すことにより、延伸された樹脂フィルムとしての光学延伸フィルムを得ることができる。通常、延伸時に与えられる熱により、樹脂フィルム中に含まれていた溶媒は蒸発して除去されるので、溶媒含有率の低い光学延伸フィルムを得ることが可能である。よって、得られる光学延伸フィルムは、当該光学延伸フィルムが含む溶媒の量を特に低くできる。具体的には、光学延伸フィルムに含まれる溶媒の比率(溶媒含有率)は、好ましくは1重量%以下、より好ましは0.1重量%以下、特に好ましくは0.05重量%以下であり、通常0.01重量%以上である。光学延伸フィルムの溶媒含有率は、実施例において説明する測定方法により測定できる。
【0097】
[11.樹脂フィルムを乾燥する工程(iv)]
第一実施形態に係る光学フィルムの製造方法は、工程(ii)の後に、樹脂フィルムを乾燥する工程(iv)を含んでいてもよい。乾燥によれば、樹脂フィルムの溶媒含有率を低下させて、上述したように溶媒含有率の低い光学フィルムを得ることができる。樹脂フィルムを乾燥する工程(iv)は、工程(iii)の前に行ってもよく、工程(iii)の後に行ってもよい。
【0098】
乾燥は、通常、乾燥時の熱による結晶性重合体の配向状態の変化を抑制する観点から、結晶性重合体のガラス転移温度Tg未満の乾燥温度で行う。このような乾燥温度であっても、溶媒の沸点Bpが結晶性重合体のガラス転移温度Tgよりも低い場合、溶媒の効果的な除去が可能である。具体的な乾燥温度は、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは70℃以上であり、好ましくはTg未満、より好ましくはTg-5℃以下、更に好ましくはTg-10℃以下である。
【0099】
乾燥時間は、好ましくは30秒以上、より好ましくは1分以上、特に好ましくは5分以上であり、好ましくは6時間以下、より好ましく3時間以下、特に好ましくは1時間以下である。
【0100】
[12.任意の工程]
第一実施形態に係る光学フィルムの製造方法は、上述した工程に組み合わせて、更に任意の工程を含んでいてもよい。任意の工程としては、例えば、工程(iii)の前に樹脂フィルムを予熱する工程、光学フィルムに熱処理を施して結晶性重合体の結晶化を促進する工程、光学フィルムを熱収縮させてフィルム中の残留応力を除去する工程、などが挙げられる。
【0101】
また、上述した製造方法によれば、長尺の樹脂フィルムを用いて、長尺の光学フィルムを製造することができる。光学フィルムの製造方法は、このように製造された長尺の光学フィルムをロール状に巻き取る工程を含んでいてもよい。さらに、光学フィルムの製造方法は、長尺の光学フィルムを所望の形状に切り出す工程を含んでいてもよい。
【0102】
[13.第二実施形態に係る光学フィルムの製造方法]
上述した第一実施形態に係る光学フィルムの製造方法で説明したように、結晶性樹脂で形成された樹脂フィルムを溶媒に接触させて厚み方向の複屈折を変更させることにより、光学フィルムを製造する製造方法において、溶媒の温度を常温よりも高い特定の温度範囲にした場合、樹脂フィルムと溶媒との接触による厚み方向の複屈折の変化速度を速めることができる。溶媒の温度を特定の温度範囲にすることで得られる前記の利点は、結晶性重合体のガラス転移温度未満の沸点を有する溶媒を用いた場合だけでなく、結晶性重合体のガラス転移温度以上の沸点を有する溶媒を用いた場合にも、得られる。また、前記の利点は、NZ係数が1.0未満の光学フィルムを製造する場合だけでなく、NZ係数が1.0以上の光学フィルムを製造する場合にも、得られる。この利点を利用して、下記の第二実施形態に係る光学フィルムの製造方法を実施してもよい。
【0103】
本発明の第二実施形態に係る光学フィルムの製造方法は、
結晶性樹脂で形成された樹脂フィルムを用意する工程(i)と、
樹脂フィルムを溶媒に接触させて、厚み方向の複屈折を変化させる工程(ii)と、
を含む。また、樹脂フィルムと接触する溶媒の温度を、常温よりも高い前記特定の温度範囲に設定する。
【0104】
この製造方法によれば、樹脂フィルムと溶媒との接触による厚み方向の複屈折の変化速度を速めることができる。よって、所望の光学特性を有する光学フィルムを製造する時間を短縮できるので、光学フィルムの製造効率を向上させることができる。また、短い時間で樹脂フィルムの厚み方向の複屈折を大きく変化させられるので、樹脂フィルムと溶媒との接触時間が制限されている場合でも、高い自由度で光学フィルムの光学特性を調整することが可能である。
【0105】
第二実施形態に係る光学フィルムの製造方法は、結晶性重合体のガラス転移温度以上の沸点を有する溶媒を用いてもよいこと以外は、第一実施形態に係る光学フィルムの製造方法と同じでありうる。中でも、第二実施形態に係る光学フィルムの製造方法において、溶媒は、結晶性重合体のガラス転移温度Tgよりも低い沸点を有することが好ましい。
【0106】
第二実施形態に係る製造方法によって製造される光学フィルムは、第一実施形態において説明した要件(B)及び要件(C)を必ずしも満たさなくてもよいこと以外は、第一実施形態に係る光学フィルムと同じでありうる。中でも、第二実施形態に係る製造方法で製造される光学フィルムは、結晶性重合体のガラス転移温度Tgよりも低い沸点を有する溶媒を、要件(B)で説明した溶媒含有率で含むことが好ましい。また、第二実施形態に係る製造方法で製造される光学フィルムは、要件(C)で説明した範囲のNZ係数を有することが好ましい。特に、第二実施形態に係る光学フィルムの製造方法が、樹脂フィルムを延伸する工程(iii)を含む場合、製造される光学フィルムとしての光学延伸フィルムは、第一実施形態で説明した低い溶媒含有率(好ましくは1重量%以下)を達成できる。
【0107】
[14.光学フィルムの用途]
上述した第一実施形態に係る光学フィルム、及び、第二実施形態に係る製造方法で製造された光学フィルムの用途に制限は無い。これらの光学フィルムは、それ単独又は他の部材と組み合わせて、光学分野の広範な用途に使用しうる。光学フィルムの用途の例としては、当該基材フィルム上に任意の層を形成するための基材フィルム;偏光板保護フィルム;液晶表示装置用の視野角補償フィルム、円偏光板に設けられる1/4波長板等の位相差フィルム;などが挙げられる。
【実施例
【0108】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り、重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温常圧(23℃1気圧)大気中の条件において行った。
【0109】
[評価方法]
(重合体の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnの測定方法)
重合体の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)システム(東ソー社製「HLC-8320」)を用いて、ポリスチレン換算値として測定した。測定の際、カラムとしてはHタイプカラム(東ソー社製)を用い、溶媒としてはテトラヒドロフランを用いた。また、測定時の温度は、40℃であった。
【0110】
(重合体の水素化率の測定方法)
重合体の水素化率は、オルトジクロロベンゼン-dを溶媒として、145℃で、H-NMR測定により測定した。
【0111】
(ガラス転移温度Tg及び融点Tmの測定方法)
重合体のガラス転移温度Tg及び融点Tmの測定は、以下のようにして行った。まず、重合体を、加熱によって融解させ、融解した重合体をドライアイスで急冷した。続いて、この重合体を試験体として用いて、示差走査熱量計(DSC)を用いて、10℃/分の昇温速度(昇温モード)で、重合体のガラス転移温度Tg及び融点Tmを測定した。
【0112】
(重合体のラセモ・ダイアッドの割合の測定方法)
重合体のラセモ・ダイアッドの割合の測定は以下のようにして行った。オルトジクロロベンゼン-dを溶媒として、200℃で、inverse-gated decoupling法を適用して、重合体の13C-NMR測定を行った。この13C-NMR測定の結果において、オルトジクロロベンゼン-dの127.5ppmのピークを基準シフトとして、メソ・ダイアッド由来の43.35ppmのシグナルと、ラセモ・ダイアッド由来の43.43ppmのシグナルとを同定した。これらのシグナルの強度比に基づいて、重合体のラセモ・ダイアッドの割合を求めた。
【0113】
(フィルムのレターデーション、NZ係数及び遅相軸方向の測定方法)
フィルムの面内レターデーションRe、厚み方向のレターデーションRth、NZ係数及び遅相軸方向は、位相差計(AXOMETRICS社製「AxoScan OPMF-1」)により測定した。測定波長は590nmであった。
【0114】
(結晶性重合体の結晶化度の測定方法)
フィルムに含まれる結晶性重合体の結晶化度は、JIS K 0131に準じて、X線回折により確認した。具体的には、広角X線回折装置(リガク社製「RINT 2000」)を用いて、結晶化部分からの回析X線強度を求め、全体の回析X線強度との比から、下記式(I)によって結晶化度を求めた。
Xc=K・Ic/It (I)
上記式(I)において、Xcは被検試料の結晶化度、Icは結晶化部分からの回析X線強度、Itは全体の回析X線強度、Kは補正項を、それぞれ表す。
【0115】
(フィルムの溶媒含有率の測定方法)
後述する実施例及び比較例では、測定対象としての試料フィルム(実施例1~3及び5並びに比較例1では、光学フィルム。実施例4では、光学延伸フィルム)の溶媒含有量を、下記の方法で測定した。
測定対象の光学フィルムから、フィルム片を切り取り、フィルム片を0.5mg秤量した。ただし、ピークが飽和するサンプルの場合は0.2mgを秤量した。ここで秤量されたフィルム片の重量を、W0とした。秤量したフィルムサンプルについて、下記条件でGC/MS(ガスクロマトグラフ質量分析)によるアウトガス測定を実施し、重量W0の光学フィルム中の含有溶媒重量Stを求めた。含有溶媒重量Stは、n-デカンを標準試料として換算した値を用いた。溶媒含有率はSt/W0×100(%)で求めた。
【0116】
<GC/MS測定条件>
パージ流量:180℃×30min(40℃/min) 30mL/min
トラップ:-130℃
INJ:300℃×5min Init 2min
カラム:HP-5ms 0.25mm×30m df=0.25μm
オーブン:40℃×3min、次いで10℃/minで120℃まで昇温し、次いで40℃/minで280℃まで昇温
インターフェース:280℃
He流量:1.0mL/min
TDS:splitless
CIS:split 1/50
測定イオン:29~550
【0117】
[製造例1.結晶性樹脂の製造]
金属製の耐圧反応器を、充分に乾燥した後、窒素置換した。この金属製耐圧反応器に、シクロヘキサン154.5部、ジシクロペンタジエン(エンド体含有率99%以上)の濃度70%シクロヘキサン溶液42.8部(ジシクロペンタジエンの量として30部)、及び1-ヘキセン1.9部を加え、53℃に加温した。
【0118】
テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)錯体0.014部を0.70部のトルエンに溶解し、溶液を調製した。この溶液に、濃度19%のジエチルアルミニウムエトキシド/n-ヘキサン溶液0.061部を加えて10分間攪拌して、触媒溶液を調製した。この触媒溶液を耐圧反応器に加えて、開環重合反応を開始した。その後、53℃を保ちながら4時間反応させて、ジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液を得た。得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、8,750および28,100であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は3.21であった。
【0119】
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部に、停止剤として1,2-エタンジオール0.037部を加えて、60℃に加温し、1時間攪拌して重合反応を停止させた。ここに、ハイドロタルサイト様化合物(協和化学工業社製「キョーワード(登録商標)2000」)を1部加えて、60℃に加温し、1時間攪拌した。その後、濾過助剤(昭和化学工業社製「ラヂオライト(登録商標)#1500」)を0.4部加え、PPプリーツカートリッジフィルター(ADVANTEC東洋社製「TCP-HX」)を用いて吸着剤と溶液を濾別した。
【0120】
濾過後のジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部(重合体量30部)に、シクロヘキサン100部を加え、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム0.0043部を添加して、水素圧6MPa、180℃で4時間水素化反応を行なった。これにより、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物を含む反応液が得られた。この反応液は、水素化物が析出してスラリー溶液となっていた。
【0121】
前記の反応液に含まれる水素化物と溶液とを、遠心分離器を用いて分離し、60℃で24時間減圧乾燥して、正の固有複屈折を有する結晶性重合体としてジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物28.5部を得た。この水素化物の水素化率は99%以上、ガラス転移温度Tgは93℃、融点(Tm)は262℃、ラセモ・ダイアッドの割合は89%であった。
【0122】
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物100部に、酸化防止剤(テトラキス〔メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン;BASFジャパン社製「イルガノックス(登録商標)1010」)1.1部を混合後、内径3mmΦのダイ穴を4つ備えた二軸押出し機(製品名「TEM-37B」、東芝機械社製)に投入した。ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物及び酸化防止剤の混合物を、熱溶融押出し成形によりストランド状の成形した後、ストランドカッターにて細断して、結晶性樹脂のペレットを得た。前記の二軸押出し機の運転条件は、以下の通りであった。
・バレル設定温度=270~280℃
・ダイ設定温度=250℃
・スクリュー回転数=145rpm
【0123】
[実施例1]
(1-1.押出成膜)
結晶性樹脂のペレットを、Tダイを備える熱溶融押出しフィルム成形機(Optical Control Systems社製「Measuring Extruder Type Me-20/2800V3」)を用いて溶融押し出しし、1.5m/分の速度でロールに巻き取って、およそ幅120mmの長尺の樹脂フィルムを得た。フィルム成形機の運転条件を、以下に箇条書きで記す。
・バレル温度設定=280℃~300℃
・ダイ温度=300℃
・スクリュー回転数=30rpm
・キャストロール温度=80℃
【0124】
得られた樹脂フィルムの厚みは50μmであった。樹脂フィルムの測定波長590nmにおけるレターデーションを測定したところ、面内レターデーションRe=4nm、厚み方向のレターでションRth=8nmであった。
【0125】
(1-2.溶媒接触)
前記の樹脂フィルムを、120mm×120mmの矩形にカットした。この矩形の樹脂フィルムを、バットに貯められた溶媒としての二硫化炭素(沸点46.3℃)中に1分間浸漬して、光学フィルムを得た。このとき、溶媒の温度は常温であった。光学フィルムを溶媒から取り出し、フィルム表面の溶媒をキムタオルで拭った。この光学フィルムのレターデーションを測定したところ、面内レターデーションRe=19nm、厚み方向のレターデーションRth=-481nmであった。また、光学フィルムの厚みは61μmであった。
【0126】
(1-3.乾燥)
80℃の乾燥機に、光学フィルムを入れて、30分間乾燥した。乾燥後、光学フィルムを乾燥機から取り出した。この乾燥後の光学フィルムについて、当該光学フィルムに含まれる結晶性重合体の結晶化度、及び、当該光学フィルムの溶媒含有量を測定した。また、乾燥後の光学フィルムのレターデーションを測定したところ、面内レターデーションRe=18nm、厚み方向のレターデーションRth=-499nmであった。
【0127】
[実施例2]
工程(1-1)におけるライン速度を変更して、長尺の樹脂フィルムの厚みを39μmに変更した。また、工程(1-2)において、溶媒の種類をシクロヘキサン(沸点80.75℃)に変更し、溶媒の温度を40℃に変更した。以上の事項以外は実施例1と同じ方法によって、光学フィルムの製造及び評価を行った。
【0128】
[実施例3]
工程(1-1)におけるライン速度を変更して、長尺の樹脂フィルムの厚みを39μmに変更した。また、工程(1-2)において、溶媒の種類をシクロヘキサン(沸点80.75℃)に変更し、溶媒の温度を50℃に変更した。以上の事項以外は実施例1と同じ方法によって、光学フィルムの製造及び評価を行った。
【0129】
[実施例4]
工程(1-1)におけるライン速度を変更して、長尺の樹脂フィルムの厚みを25μmに変更した。また、工程(1-2)において、溶媒の種類をシクロヘキサン(沸点80.75℃)に変更し、溶媒の温度を50℃に変更した。以上の事項以外は実施例1と同じ方法によって、光学フィルムの製造及び評価を行った。
【0130】
バッチ式二軸延伸装置(エトー社製)を用意した。この延伸装置は、オーブンユニットと、フィルムを固定可能な延伸用のクリップとを備えていた。この延伸装置を用いれば、オーブン内でクリップによってフィルムを引っ張って、前記のフィルムを延伸することが可能である。
【0131】
光学フィルムを100mm×100mmの矩形にカットした。この矩形の光学フィルムの両端を、それぞれ、前記の延伸装置の5つのクリップで把持した。クリップで光学フィルムを引っ張って、押出成膜工程で得られた長尺の樹脂フィルムの長手方向に、自由一軸延伸した。延伸温度は170℃で倍率は1.2倍であった。この自由一軸延伸により、延伸後の光学フィルムとして光学延伸フィルムを得た。光学延伸フィルムの測定波長590nmにおけるレターデーションを測定したところ、面内レターデーションRe=280nm、厚み方向のレターデーションRth=3nmであった。また、光学延伸フィルムの厚みは27μmであった。この光学延伸フィルムについて、当該光学フィルムに含まれる結晶性重合体の結晶化度、及び、当該光学延伸フィルムの溶媒含有量を測定した。
【0132】
[実施例5]
工程(1-1)におけるライン速度を変更して、長尺の樹脂フィルムの厚みを39μmに変更した。また、工程(1-2)において、溶媒の種類をシクロヘキサン(沸点80.75℃)に変更した。以上の事項以外は実施例1と同じ方法によって、光学フィルムの製造及び評価を行った。
【0133】
この実施例5では、実施例2及び3と同じ条件で溶融押出を行って長尺の樹脂フィルムを製造した。実施例5で得られた樹脂フィルムのレターデーション及びNZ係数は、実施例2及び3とは相違している。しかし、この相違の程度は十分に小さく、通常の誤差の範囲内である。
【0134】
[比較例1]
工程(1-2)において、溶媒の種類をトルエン(沸点110.6℃)に変更し、溶媒の温度を110.6℃に変更した。以上の事項以外は実施例1と同じ方法によって、光学フィルムの製造及び評価を行った。
【0135】
[結果]
前記の実施例及び比較例の結果を、下記の表に記載した。下記の表において、略称の意味は、下記の通りである。
CS2:二硫化炭素。
Cy:シクロヘキサン。
Tl:トルエン。
【0136】
【表1】
【0137】
[検討]
実施例1~5においては、溶媒との接触によって樹脂フィルムの厚み方向の複屈折Rth/dを変化させて、1.0未満のNZ係数を有する光学フィルムが得られている。また、これら実施例1~5では、結晶性重合体のガラス転移温度Tgよりも低い沸点を有する溶媒を用いたので、溶媒の乾燥を効果的に行って、小さい溶媒含有率が達成されている。よって、実施例1~5において、1.0未満のNZ係数を有し、且つ、溶媒の含有量が少ない光学フィルムを実現できることが確認された。
【0138】
また、同じ溶媒を使用した実施例2~5を対比すると、樹脂フィルムに対して常温の溶媒を接触させた実施例5に比べ、樹脂フィルムに対して常温よりも高い特定の温度範囲の溶媒を接触させた実施例2~4では、溶媒との接触によって厚み方向の複屈折を大きく変化させることができた。実施例2~5は樹脂フィルムと溶媒との接触時間が同じであることから、実施例2~4において複屈折の変化量が大きいことは、それらの実施例2~4における樹脂フィルムと溶媒との接触による厚み方向の複屈折の変化速度が、実施例5に比べて速いことを表す。よって、実施例2~4において、樹脂フィルムと溶媒との接触による厚み方向の複屈折の変化速度を速めることができることが確認された。