(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】距離計測装置及び距離計測方法
(51)【国際特許分類】
G01S 17/10 20200101AFI20241008BHJP
【FI】
G01S17/10
(21)【出願番号】P 2021006693
(22)【出願日】2021-01-19
【審査請求日】2023-11-14
(31)【優先権主張番号】P 2020048495
(32)【優先日】2020-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】竹中 博一
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/175344(WO,A1)
【文献】特表2013-538342(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0197937(US,A1)
【文献】特開2017-167120(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0158533(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48 - G01S 7/51
G01S 17/00 - G01S 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数変調させた光を物体に向けて照射する投光部と、
前記物体に反射して戻ってきた光を受光する受光部と、
前記投光部及び前記受光部を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記投光部に第1の変調周波数で光を照射させ前記受光までの時間を第1の回数だけ計測する第1の計測を行い、
前記投光部に前記第1の変調周波数よりも低い第2の変調周波数で光を照射させ前記受光までの時間を前記第1の回数より少ない第2の回数だけ計測する第2の計測を行い、
前記第1の計測は、前記投光部に前記第1の変調周波数で第1の照射時間だけ光を照射させる計測と、前記投光部に前記第1の変調周波数で前記第1の照射時間より長い第2の照射時間だけ光を照射させる計測と、を含み、
前記第2の計測は、前記投光部に前記第2の変調周波数で第3の照射時間だけ光を照射させる計測を含み、
前記第3の照射時間は、前記第1の照射時間より長く前記第2の照射時間より短い、
距離計測装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1の計測で計測されたデータと前記第2の計測で計測されたデータとに基づいて、前記物体までの距離情報を求める、
請求項1に記載の距離計測装置。
【請求項3】
前記第1の計測は、前記投光部に前記第1の変調周波数で
前記第
2の照射時間だけ光を照射させる計測を複数回含む、
請求項1に記載の距離計測装置。
【請求項4】
前記第2の計測は、前記投光部に前記第2の変調周波数で
前記第3の照射時間だけ光を照射させる計測を複数回含む、
請求項1に記載の距離計測装置。
【請求項5】
前記第1の計測の、前記投光部に前記第1の変調周波数で前記第1の照射時間だけ光を照射させる計測及び前記投光部に前記第1の変調周波数で前記第2の照射時間だけ光を照射させる計測の後に、前記第2の計測を行う、
請求項1に記載の距離計測装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記第1の計測において、前記投光部に前記第1の変調周波数で前記第
2の照射時間だけ光を照射させる計測ごとに、前記受光部に前記第
2の照射時間だけ受光量を取得し、該計測ごとの受光量を加算し、加算された受光量に基づいて前記投光部による照射から前記受光部による受光までの時間を計測する、
請求項
3に記載の距離計測装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記第2の計測において前記受光部の受光量が飽和したか否かという情報に基づき、前記第1の計測で計測されたデータに対してエイリアシング回避のための処理を行う、
請求項1から請求項6のうち、いずれか一項に記載の距離計測装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記第1の計測および前記第2の計測において前記受光部の受光量が下限受光量以上であるときに、計測データを有効として扱い、前記第2の計測における下限受光量が前記第1の計測における下限受光量より小さくなるようにする、
請求項1から請求項6のうち、いずれか一項に記載の距離計測装置。
【請求項9】
周波数変調させた光を物体に向けて照射し、前記物体に反射して戻ってきた光を受光し、前記照射から前記受光までの時間に基づいて、前記物体までの距離を計測する距離計測方法であって、
第1の変調周波数で光を照射し前記受光までの時間を第1の回数だけ計測する第1の計測ステップと、
前記第1の変調周波数よりも低い第2の変調周波数で光を照射し前記受光までの時間を前記第1の回数より少ない第2の回数だけ計測する第2の計測ステップと、
前記第1の計測ステップで計測されたデータと前記第2の計測ステップで計測されたデータとに基づいて距離情報を求める計算ステップと、
を含
み、
前記第1の計測ステップは、前記第1の変調周波数で第1の照射時間だけ光を照射する計測と、前記第1の変調周波数で前記第1の照射時間より長い第2の照射時間だけ光を照射する計測と、を含み、
前記第2の計測ステップは、前記第2の変調周波数で第3の照射時間だけ光を照射する計測を含み、
前記第3の照射時間は、前記第1の照射時間より長く前記第2の照射時間より短い、
距離計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、距離計測装置及び距離計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
距離計測装置から計測対象までの測距の手法の一つに、TOF(Time of Flight)方式と呼ばれる、計測対象に向けて測距光を照射し、その反射光の時間差から距離を算出する方法が既に知られている。赤外光は、数MHz以上の変調周波数によって変調された正弦波、矩形波、もしくはそれに類する波形形状で照射され、撮像素子によって、物体に反射して返ってきた光の位相を計測することで、位相から時間差を計算し、最終的に距離を求める方法、すなわち位相検出方式のTOFカメラがある。TOF方式で高精度に距離計測を行うためには、光の変調周波数を高くすることが効果的であり、理論的には、変調周波数を2倍にすると、距離計測のばらつきは1/2に抑えられる。しかし、一方で、位相検出方式においては、位相の周期性に起因する曖昧さ(エイリアシング)が残ることがある。
【0003】
特許文献1には、飛行時間(TOF)システムにおいて、複数の変調周波数を用いて位相データを得るとともに、複数の変調周波数からの位相データを組み合わせて、位相データにおけるノイズを平均化することが記載されている。これにより、エイリアシングを低減でき、距離を正確に測定できるとされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、エイリアシングを低減できるが、遠距離の低反射率物体と近距離の高反射率物体とが同じシーンに存在するときに、撮像素子のダイナミックレンジの限界を超えてしまう可能性がある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、エイリアシングの低減とダイナミックレンジの確保とを両立化できる距離計測装置及び距離計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、周波数変調させた光を物体に向けて照射する投光部と、投光部及び受光部を制御する制御部と、を備え、制御部は、投光部に第1の変調周波数で光を照射させ、受光までの時間を第1の回数だけ計測する第1の計測を行い、投光部に第1の変調周波数よりも低い第2の変調周波数で光を照射させ、受光までの時間を第1の回数より少ない第2の回数だけ計測する第2の計測を行い、第1の計測は、投光部に第1の変調周波数で第1の照射時間だけ光を照射させる計測と、投光部に第1の変調周波数で第1の照射時間より長い第2の照射時間だけ光を照射させる計測と、を含み、第2の計測は、投光部に第2の変調周波数で第3の照射時間だけ光を照射させる計測を含み、第3の照射時間は、第1の照射時間より長く前記第2の照射時間より短い、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、エイリアシングの低減とダイナミックレンジの確保とを両立化できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態にかかる距離計測装置のハードウェア構成を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態にかかる距離計測装置による距離算出原理を示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態における受光量と測距精度との関係を示す図である。
【
図4】
図4は、実施形態におけるハイダイナミックレンジ計測を示す図である。
【
図5】
図5は、実施形態における計測シーケンスを示す図である。
【
図6】
図6は、実施形態における3回目の計測についての受光量と測距値のばらつきとの関係を示す図である。
【
図7】
図7は、実施形態における計測結果を用いて高精度な距離算出を行う手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施形態)
実施形態にかかる距離計測装置は、被写体までの測距を、TOF(Time of Flight)方式で行う。TOF方式では、測定対象の物体に向けて測距光を照射し、その物体から来る反射光の時間差から距離を算出する。距離計測装置は、所定の照射パターンにより強度変調された赤外光による測距光を光源から物体に向けて照射した後、物体によって反射された反射光を赤外線用の受光素子で受光する。距離計測装置は、赤外光の照射パターンにより、照射から受光までの時間差を画素ごとに検出、距離を算出する。距離計測装置は、算出された距離値を画素ごとにビットマップ状に集め、「距離画像」として保存する。このような距離計測装置は、TOFカメラと呼ばれる。
【0010】
具体的には、距離計測装置は、赤外光を、数MHz以上の変調周波数によって変調された正弦波、矩形波、もしくはそれに類する波形形状で物体に向けて照射する。距離計測装置は、受光素子により、物体に反射して返ってきた光の位相を計測することで、位相から時間差を計算し、最終的に距離を求める。このような方式の距離計測装置は、位相検出方式のTOFカメラと呼ばれる。
【0011】
TOFカメラにおいて、広い距離範囲を計測しようとすると、ダイナミックレンジが問題になり得る。すなわち、遠距離の物体を計測するためには、光の強度を上げる、もしくは、露光時間を延ばす必要があるが、その設定において近距離の物体を計測すると、受光する光量が大きくなりすぎ、撮像素子の容量を超えて飽和してしまうことがある。さらに、計測する物体の反射率によっても受光光量は変化するため、遠距離の低反射率物体と、近距離の高反射率物体が同じシーンに存在するときに、撮像素子のダイナミックレンジの限界を超えてしまうことで、同時に計測することが不可能となる場合がある。
【0012】
また一方で、TOFカメラにおいて、高精度に距離計測しようとすると、エイリアシングが問題になり得る。高精度計測のためには、光の変調周波数を高くすることが効果的であり、理論的には、変調周波数を2倍にすると、距離計測のばらつきは1/2に抑えられる。一方で、位相検出方式においては、位相は2πの周期性を持つため、位相から距離を求める際には、位相の周期性を要因とする曖昧さが残ることがある。例えば、10MHzの変調周波数の光を用いた場合には、位相1周期に相当する距離が約15mとなるため、15m周期の曖昧さが残る。すなわち、位相検出結果がπだったとすると、nを非負整数として、距離(7.5+15×n)[m]である可能性がある。このような位相の周期性に起因する曖昧さが残る問題をエイリアシングと呼ぶ。
【0013】
TOFカメラにおいて、広い距離範囲の計測と高精度な計測を両立するためには、ダイナミックレンジの問題とエイリアシングの問題とを両方解決することが望まれる。
【0014】
そこで、本実施形態では、距離計測装置において、高周波変調モードと低周波変調モードとの2つのモードを設け、高周波変調モードで、露光時間もしくは光強度を変更した複数回の計測を行うとともに、高周波変調モードでの最長露光時間よりも長い露光時間、もしくは最高光強度よりも高い光強度の条件で、低周波変調モードでの計測を行うことで、ダイナミックレンジの拡大とエイリアシングの低減との両立化を図る。
【0015】
具体的には、距離計測装置は、高周波変調モードと低周波変調モードとの2つのモードを設け、高周波変調させた変調光を用いた計測と低周波変調させた変調光を用いた計測との2種類の計測を行う。距離計測装置は、高周波変調モードで、露光時間もしくは光強度を変更した複数回の計測を行う。これにより、信号のダイナミックレンジを拡大しつつ高精度に計測を行うことができる。また、距離計測装置は、高周波変調モードでの最長露光時間よりも長い露光時間、もしくは最高光強度よりも高い光強度の条件で、低周波変調モードでの計測を行うことで、低周波変調モードでの計測を高周波変調モードよりも少ない回数での計測とする。例えば、複数回の高周波変調モードでの計測結果のエイリアシング回避を、1回の低周波変調モードでの計測によって行う。これにより、この計測結果に含まれるエイリアシングを低減できる。この結果、ダイナミックレンジの拡大とエイリアシングの低減とを両立化できる。
【0016】
より具体的には、距離計測装置1は、
図1に示すように構成され得る。
図1は、距離計測装置1のハードウェア構成を示す図である。
図1では、距離計測装置1の構成として、全画角180度超の魚眼TOFカメラを組み合わせて全天球TOFカメラを実現する構成を例示している。
【0017】
距離計測装置1は、MHz程度に変調された矩形波もしくはサイン波の変調光(照射光)を測定対象の物体に向けて照射し、その物体に当たって反射してきた変調光(反射光)を受光して強度を測定する。距離計測装置1は、例えば
図1に示すような、投光部10、受光部20、及び制御部30を有する。
【0018】
投光部10は、制御部30から変調信号を受ける。変調信号は、MHz程度に変調された矩形波もしくはサイン波であってもよい。投光部10は、変調信号に応じて、測定対象の物体に向けて変調光(照射光)を照射する。変調光は、変調信号に応じて変調された光である。投光部10は、光源11及びレンズ12を有する。光源11は、VCSEL2次元アレイとして実現され得る。レンズ12は、光源11から発光される変調光を必要な画角に広げて、物体に向け照射する。光源11は、距離計測装置1の筐体1a内に収容され、レンズ12は、筐体1aの表面に露出される。
【0019】
受光部20は、物体に当たって反射してきた変調光(反射光)を受光し、受光強度に応じた信号を制御部30へ供給する。受光部20は、レンズ21及び受光センサー22を有する。受光センサー22は、複数の受光素子が2次元アレイとなっているTOFセンサーとして実現され得る。レンズ21は、物体に当たって反射してきた変調光を受光センサー22の受光面に集光させる。受光センサー22は、受光素子ごとに受光強度に応じた信号を生成して制御部30へ供給する。レンズ21は、筐体1aの表面に露出され、受光センサー22は、筐体1a内に収容される。
【0020】
制御部30は、投光部10の光源11の発光パターン、タイミング等を制御するとともに、受光部20の受光センサー22の受光時間、タイミング等を投光部10の制御と同期させながら制御する。制御部30は、受光センサー22から供給された受光素子ごとの信号に基づき、物体に反射して返ってきた光の位相を測定し、位相から時間差を計算し、最終的に、物体までの距離を求める。制御部30は、例えばCPU等で実装され、筐体1a内に収容される。
【0021】
次に、距離計測装置1による距離算出原理について
図2を用いて説明する。
図2は、距離計測装置1による距離算出原理を示す図である。
【0022】
距離計測装置1は、位相検出方式のTOFカメラであり、1つの受光素子に2つの電荷蓄積部P1,P2を持ち、どちらに電荷を蓄積するかを高速に切り替えることができる。2つの電荷蓄積部P1,P2は、互いに独立して電荷蓄積動作が可能なように構成されている。これにより、一つの矩形波に対して、真逆の位相信号2つを同時に検出可能である。例えば0度と180度の組み合わせ、もしくは90度と270度の組み合わせが同時検出可能である。すなわち、少なくとも2回の照射及び受光のプロセスにより、距離計測できる。
【0023】
図2では、照射光、反射光に対する電荷蓄積部P1,P2の蓄積タイミングをグラフ化しており、斜線エリアの分だけ、電荷が蓄積されることになる。照射光は、投光部10から測定対象の物体へ向けて照射された変調光である。反射光は、測定対象の物体で反射されて受光部20で受光された変調光である。なお、実際には、蓄積される電荷量を増やすため、照射は一回の矩形波ではなく、Duty50%の矩形波の繰り返しパターンにし、それに応じて電荷蓄積部1,2の切り替えも繰り返し行う。
【0024】
4つの位相信号A0、A90、A180、A270は、それぞれ照射光のパルス周期に対して、時間的に0°、90°、180°、270°の関係にある露光時間に応じて反射光に応じた電荷を蓄積して得られた信号である。すなわち、4つの位相信号A0、A90、A180、A270は、時間的に0°、90°、180°、270°の4つの位相に分割された位相信号である。このため、制御部30は、次の数式1を用いて位相差角φを求めることができる。
【0025】
φ=Arctan{(A90-A270)/(A0-A180)}・・・数式1
【0026】
制御部30は、位相差角φを用いて、遅延時間Tdを、次の数式2から求めることができる。
【0027】
Td={φ/(2π)}×T・・・数式2
【0028】
数式2において、照射光のパルス幅をT0とすると、T=2T0である。制御部30は、数式2で求められた遅延時間Tdと光の速度Cとを用いて、対象物までの距離値Dを、次の数式3により求めることができる。
【0029】
D=Td×C/2・・・数式3
【0030】
次に、受光部20の受光量と制御部30で求められる測距精度との関係について
図3を用いて説明する。
図3は、受光量と測距精度との関係を示す図である。
図3において、縦軸は、測距精度を測距値のばらつきで示し、値が小さいほど測距精度が高いことを示している。横軸は、受光部20の受光量を示している。
【0031】
図3において、投光部10による照射光の波形は50MHz変調の矩形波とする。受光部20の受光量が大きくなるほど、距離値のばらつきが小さくなり、測距精度が高くなる。ここで、TOFカメラの精度仕様を50mm以下とすると、
図3のグラフより、受光量の有効範囲がデジタル値で100LSBから1000LSBの間であることが求められる。100LSB未満であると、距離値のばらつきが50mm以上となってしまう。また、1000LSBを超えると、受光素子の各電荷蓄積部P1,P2がその容量を超えて飽和してしまう。すなわち、ダイナミックレンジは、1000LSB/100LSBで10倍となる。
【0032】
次に、ハイダイナミックレンジ計測について
図4を用いて説明する。
図4は、ハイダイナミックレンジ計測を示す図である。
【0033】
ここで、測距すべき距離範囲を1m~5m、反射率範囲を20%~80%とする。一般的に、受光量は、物体との距離の2乗に反比例し、また、物体の反射率に比例する。すなわち、受光量は、(反射率)/(距離)2に比例する。
【0034】
また一方で、受光量は、照射量にも比例する。照射量については制御可能なパラメータであり、照射時間に対応する露光時間を変化させたり、矩形波もしくは正弦波の振幅を変えたりすることで変化させる。
【0035】
まとめると、受光量は、「(照射量)×(反射率)/(距離)2」に比例する。
【0036】
よって、受光量の有効範囲の広さ、すなわちダイナミックレンジを考えると、距離範囲をカバーするためには52=25倍、反射率範囲をカバーするためには4倍の有効範囲の広さが必要となる。すなわち、全体として、25×4=100倍のダイナミックレンジが必要となる。これをシーンのダイナミックレンジと呼ぶ。
【0037】
前述のとおり、TOFカメラのダイナミックレンジは10倍のため、シーンのダイナミックレンジ100倍を満たすことができない。ただし、TOFカメラの露光時間を変えて複数回撮影する手法により、1回撮影のダイナミックレンジ10倍を超えてカバーすることができる。なお、露光時間とは
図2に示す変調された照射光を所定の周波数で連続して照射する時間に対応する。すなわち、本実施形態においては以下の記載で露光時間とは投光部10による照射時間と同じであるものとする。
【0038】
まず、最も遠距離で低反射率な条件、すなわち距離5mで反射率20%の条件(図中で点Aに対応)を100LSBで受光できるような露光時間を設定し、1回目の距離計測をする。例えば、その露光時間が1msだとする。そのとき、受光量100LSBとなる条件は、点Aを通る曲線1となる。また、同じ露光時間で1000LSBとなる条件は曲線2となる。すなわち、1回目の距離計測では、曲線1と曲線2とで挟まれる範囲を計測できる。
【0039】
次に、露光時間を0.1倍、すなわち0.1msにして2回目の距離計測をする。すると、受光量も0.1倍となり、100LSBとなる条件が曲線2に対応し、1回目の距離計測で1000LSBとなる条件と一致する。また、1000LSBとなる条件は曲線3に対応し、これは、最も近距離で高反射率である条件に対応する点Bを通る曲線である。すなわち、2回目の距離計測では、曲線2と曲線3で挟まれる範囲を計測できる。
【0040】
よって、露光時間を振った2回の計測により、曲線1と曲線3で挟まれる範囲を計測できるため、計測すべき領域である点線の矩形領域をカバーできる。
【0041】
本実施形態では、1回目の最高受光量条件(1000LSB)が、2回目の下限受光量条件(100LSB)と一致するようにする場合を例示しているが、受光部20のダイナミックレンジや、距離計測したい距離範囲、反射率範囲によっては、1回目の範囲と2回目の範囲とが一部重複するようにし、ロバスト性を持たせることも有効である。また、受光部20のダイナミックレンジに比べて、距離範囲や反射率範囲が広い場合には、3回以上の計測によって範囲をカバーすることも可能である。
【0042】
次に、エイリアシング回避のための計測シーケンスについて
図5を用いて説明する。
図5は、実施形態における計測シーケンスを示す図である。
【0043】
高精度に測距するためには、照射の変調周波数を高くすることが効果的である。検出位相の分解能が固定であるとすると、次の数式4から考えて、理論上は、変調周波数が倍になれば、距離分解能も倍になる。
D=(C/2)×{φ/(2πf)}・・・数式4
【0044】
数式4において、Dは距離、Cは光速、fは変調周波数、φは検出位相を表す。ただし、位相検出方式においては、位相φの検出において、2π周期の任意性を持つ。よって、「0≦φ<2π」とし、「k」を任意の非負整数とすると、数式4は、次の数式5のようになる。
【0045】
D=(C/2)×{φ/(2πf)}+(C/2)×(k/f)・・・数式5
【0046】
数式5に示されるように、距離(C/2f)を超えるような広い距離範囲を計測する際には、一意に距離Dを決めることが困難になる。これをエイリアシングと呼ぶ。
【0047】
例えば、変調周波数が50MHzのときに周期3mの任意性を持ち、変調周波数が12.5MHzのときには周期12mの任意性を持つ。
【0048】
図4に示す複数回によるハイダイナミックレンジ計測においては、計測結果が曲線1と曲線3との間の領域内であるため、距離が12m未満である。よって、変調周波数として例えば12.5MHzを用いれば、エイリアシングの問題は発生しない。
【0049】
しかし、より高精度な距離計測をしたい場合には、12.5MHz程度では不十分である。
図3を用いて説明したように、距離値のばらつきが閾値40mm以下になることを達成するには、50MHz変調で、100~1000LSBの受光量で計測する必要がある。この場合、3m周期のエイリアシングが発生し得る。
【0050】
これを解決するためには、例えば、12.5MHzでの計測を追加する。複数回のハイダイナミックレンジ計測をベースとするならば、通常は、下記のように露光時間を同一にする条件で変調周波数を変更して計測する。なお、ここでの露光時間は投光部10により所定の周波数で変調された光を照射し、1回分の計測が完了する時間である。
【0051】
1回目:変調周波数50MHz、露光時間1msで計測
2回目:変調周波数50MHz、露光時間0.1msで計測
3回目:変調周波数12.5MHz、露光時間1msで計測
4回目:変調周波数12.5MHz、露光時間0.1msで計測
【0052】
しかし、本実施形態では、エイリアシング回避のための低周波数での計測は、1回もしくは高周波数での計測回数よりも少なくする。具体的には、下記のような計測を行う。
【0053】
1回目:変調周波数50MHz、露光時間1msで計測
2回目:変調周波数50MHz、露光時間0.1msで計測
3回目:変調周波数12.5MHz、露光時間0.8msで計測
【0054】
3回目の低周波数での計測は、1,2回目の高周波数での計測の露光時間の一方より大きく、他方より小さい値とすることが望ましい。また、3回目については、受光量を80-1000LSBの領域を有効データとして活用する。3回目の計測のデータは、エイリアシング回避のために使われるデータであり、1,2回目の計測の3m周期の何周目かが判断できれば良いため、それほど高精度は求められない。例えば、距離値のばらつきの最大値が3mより小さければ良い。よって、高精度計測の下限の受光量よりも小さい受光量のデータを活用する。
【0055】
3回目の計測について、下限受光量80LSBの条件は、
図5の曲線1となり、1回目の計測の受光量が100LSB条件と重なる。最高受光量1000LSBの条件は、
図5の曲線4となる。すなわち、3回目の計測結果は、曲線1と曲線4とで挟まれる領域に存在する。
【0056】
このことから、1,2回目の計測における範囲は曲線1と曲線3で挟まれる領域であるため、3回目の計測では、曲線4と曲線3で挟まれる領域はカバーできておらず、受光量が1000LSBを超えて飽和してしまう。ただし、この領域は、距離範囲で言うと3m未満に収まっている。すなわち、3回目の計測で受光量データが飽和したときには、3m未満の距離であることが確定する。1,2回目の計測におけるエイリアシングの周期は3mであるため、3m未満であることが分かれば、エイリアシングを回避し、距離を確定することができる。
【0057】
次に、3回目の計測における受光量と距離ばらつきの関係について
図6を用いて説明する。
図6は、3回目の計測についての受光量と測距値のばらつきとの関係を示す図である。
【0058】
3回目の計測は、変調周波数が12.5MHzであることから、1,2回目の変調周波数が50MHzの計測に比べ、距離値のばらつきが4倍となり得る。
図6にグラフを示す。これを参照すると、下限受光量80LSBのときの距離ばらつきは約220mmであることが分かる。これは、3m周期の複数の距離候補の中から一つを特定するには十分な精度である。
【0059】
80LSBより受光量が大きい領域は、距離値のばらつきが小さくなるため、結局、80LSB~1000LSBの領域において、エイリアシング回避に十分な計測精度があることが分かる。
【0060】
なお、繰り返しになるが、受光量が1000LSBを超えて飽和する場合には、
図5の曲線4と曲線3で挟まれる領域に存在することが分かり、距離範囲は3m未満であるから、3m周期の距離候補の中に一つだけ含まれる3m未満の距離データを特定することができる。
【0061】
上述の実施形態では、1回目の高周波数での計測の露光時間(照射時間)と2回目の高周波数での計測の露光時間(照射時間)とを異ならせた。この他、1回の計測での露光時間(照射時間)を一定にして多数回計測することで同様の効果を得ることができる。以下に、このような他の実施形態について記載する。
【0062】
本実施形態の場合、投光部10の一例として、半導体レーザーであるVCSLEL2次元アレイを用いている。このような半導体レーザーを用いた投光部10は、安定した光量で変調光を照射できる連続照射時間が、様々な要因で制約されることがある。
【0063】
具体的には、投光部10に連続して長時間の照射を行った場合、投光部10自体の発熱量により照射する光量が変動し、計測精度が悪化する可能性がある。また、制御部30の計測回路の規模等により、1回の計測時間が制約される場合がある。そこで、本実施形態では、1回の計測での照射時間を一定として、複数回の測定を行う。
【0064】
1回の計測において、投光部10で安定した連続照射を行うことが可能な時間が、例えば0.5msである場合、制御部30は、下記のような計測制御を行う。
【0065】
1回目:変調周波数50MHz、照射時間0.5msで計測
2回目:変調周波数50MHz、照射時間0.5msで計測
3回目:変調周波数50MHz、照射時間0.1msで計測
4回目:変調周波数12.5MHz、照射時間0.4msで計測
5回目:変調周波数12.5MHz、照射時間0.4msで計測
【0066】
ここで、1回目-3回目の計測は変調周波数が高周波数である第1の計測に対応し、4回目-5回目の計測は変調周波数が低周波数である第2の計測に対応する。それぞれの計測の間に、投光部10の温度等を安定するように休止時間を設けても良い。
【0067】
制御部30は、1回目の計測結果と2回目の受光量の計測結果を加算する。これにより、変調周波数50MHz、照射時間1.0msで得られる測定結果と同様の測定結果を得ることができる。同様に、制御部30は、4回目の受光量の測定結果と5回目の測定結果を加算する。これにより、照射時間0.8msでの測定結果と同等測定結果を得ることができる。このように、複数回の測定結果を加算平均することで最終的な測定ばらつきを低減することができる。
【0068】
このように、1回の計測での照射時間を、投光部10が安定して照射できる連続照射時間以内に設定する。これにより、安定した照射量での計測が可能となり、さらに複数回の測定の加算処理により照射時間を長くしたときと同等の計測精度を得ることができるとともにエイリアシングを解消することができる。
【0069】
さらに、変調周波数が高周波数である50MHzでの計測における照射時間が低周波数である12.5MHzでの計測における照射時間を同一の時間とすることもできる。例えば、下記のように計測することができる。
【0070】
1回目-10回目:変調周波数50MHz、照射時間0.1msで計測
11回目:変調周波数50MHz、照射時間0.1msで計測
12回目-19回目:変調周波数12.5MHz、照射時間0.1msで計測
【0071】
各計測の照射時間を全て同一の0.1msとしていることで、投光部10の駆動条件を一定にすることができるため、発熱量を一定に保つことができ安定して光を照射することができる。ここで、1回目-10回目の計測と11回目の計測(11回分の計測)が第1の計測の例であり、12回目-19回目の計測(8回分の計測)が第2の計測の例である。
【0072】
制御部30は、1回目-10回目のそれぞれの計測ごとに、受光部20から受光量を取得し加算することで、加算された受光量を取得する。同様に制御部30は、12回目-19回目のそれぞれの計測ごとに受光部20から受光量を取得し、加算された受光量を取得する。これらの加算された受光量に基づいて、制御部30は照射から受光までの時間を計測し、計測した時間に基づいて距離値を算出する。1回の計測ごとの照射時間および露光時間が0.1msと短いが、受光量を加算することで、1回目-10回目の計測では1msの照射時間での計測と同等の測定ばらつきとすることができ、12回目-19回目の測定では0.8msの照射時間での計測と同等のばらつきとすることができる。
【0073】
次に、計測結果を用いて高精度な距離算出を行う手順について
図7を用いて説明する。
図7は、計測結果を用いて高精度な距離算出を行う手順を示す図である。
【0074】
この手順は、1,2,3回目の計測終了後の処理を想定しているが、全ての計測終了を待たずに、処理をスタートすることも可能である。
【0075】
距離計測装置1において、制御部30は、1,2回目の計測データから、周期性を残して距離候補を計算する(S1)。制御部30は、一般的な位相検出TOFカメラの距離算出式を用いることができる。1,2回目の計測データの使い分けについては、露光時間が長い1回目の受光量データが飽和していれば、2回目の計測データを用いるようにすれば良い。
【0076】
制御部30は、3回目の計測結果が飽和しているか否かを判定する(S2)。距離計測装置1は、飽和している場合(S2:Yes)、距離候補のうち、1周期目を正しい距離として採用し(S3)、処理を終わる。3回目の計測結果が飽和している場合のため、3m未満の距離範囲に存在していると判断できるためである。
【0077】
制御部30は、3回目の計測結果が飽和していない場合(S2:No)、3回目の計測データから距離を求める(S4)。距離計測装置1は、周期が12mであり、反射率100%未満の計測できた物体が12m以内に存在していることが分かっているため、周期性による曖昧さのない距離を求められる。ただし、変調周波数が低いため、精度は高くない。
【0078】
制御部30は、S1で求めた距離候補の中から、S4で求めた距離に最も近いものを正しい距離として採用する(S5)。このようにして、距離計測装置1は、S1で求めた距離のエイリアシングを回避することができる。
【0079】
以上のように、本実施形態では、距離計測装置1において、高周波変調モードと低周波変調モードとの2つのモードを設け、高周波変調モードで、露光時間もしくは光強度を変更した複数回の計測を行う。それとともに、高周波変調モードでの最長露光時間よりも長い露光時間、もしくは最高光強度よりも高い光強度の条件で、低周波変調モードでの計測を行う。これにより、ダイナミックレンジの拡大とエイリアシングの低減とを両立化できる。
【0080】
また、本実施形態では、距離計測装置1において、第1の変調周波数で複数回の計測を行う際に、露光時間を変えて計測する。これにより、ダイナミックレンジを広く取れる。
【0081】
また、本実施形態では、距離計測装置1において、第1の変調周波数で複数回の計測を行う際に、少なくとも2回、露光時間は装置の取りうる最大値に固定して計測することが可能である。これにより、ダイナミックレンジ拡大効果は小さいが、最大距離を延ばすことができる。
【0082】
また、本実施形態では、距離計測装置1において、第2の変調周波数での距離計測の際、露光時間は、第1の変調周波数での複数の距離計測のうちの最大の露光時間以下であり、最小の露光時間よりも大きい。これにより、複数の距離計測結果のエイリアシング回避に用いるデータ計測のため、間の露光時間にすることができる。
【0083】
また、本実施形態では、距離計測装置1において、第2の変調周波数での距離計測データにおいて受光量が飽和したか否かという情報に基づき、第1の変調周波数での距離計測データのエイリアシング回避を行う。これにより、飽和したかどうかの情報で、エイリアシング回避の一部を実施できる。
【0084】
また、本実施形態では、距離計測装置1において、各距離計測において下限受光量を設定し、下限受光量以上もしくはそれを超えたときに、データを有効として扱い、かつ、第2の変調周波数での下限受光量は、第1の変調周波数の下限受光量より小さい。これにより、エイリアシング回避のデータは高精度でなくても良いので、下限受光量を小さくしてダイナミックレンジを増やすことができる。
【符号の説明】
【0085】
1 距離計測装置
10 投光部
20 受光部
30 制御部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0086】