(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】積層構造体、ケーブル及びチューブ
(51)【国際特許分類】
B32B 25/08 20060101AFI20241008BHJP
B32B 25/20 20060101ALI20241008BHJP
F16L 11/04 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
B32B25/08
B32B25/20
F16L11/04
(21)【出願番号】P 2021019099
(22)【出願日】2021-02-09
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樫村 誠一
(72)【発明者】
【氏名】末永 和史
(72)【発明者】
【氏名】木部 有
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 かなこ
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特許第6723489(JP,B1)
【文献】特開2011-221518(JP,A)
【文献】特開2012-077267(JP,A)
【文献】特開2020-038824(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0352848(US,A1)
【文献】国際公開第2012/160894(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
F16L 9/00-11/26
A61L 15/00-33/18
H01B 7/17-7/288
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材となる第1の層と、
ゴム成分、表面に凹凸を付与するための第1の微粒子及びUV-C光を遮蔽するための第2の微粒子を含むゴム組成物から形成され、前記第1の層に積層された第2の層と、
を備え、
前記第2の層のラマン散乱測定により得られるラマン散乱スペクトルに含まれる前記第2の微粒子の振動に由来する第1のピーク
及び前記第1の微粒子の振動に由来する第2のピークを用いた、前記第1の微粒子及び前記第2の微粒子に対するラマンマッピング解析によるマッピング像に関し、前記第1の微粒子が存在する領域よりも前記第1の微粒子が存在しない領域
の方に、前記第2の微粒子が多く存在する、
積層構造体。
【請求項2】
前記ゴム成分はシリコーンゴムであり、
前記第1の微粒子が、前記シリコーンゴムよりもUV-C光に対する耐性が高い、Siを含有する材料からなる、
請求項1に記載の積層構造体。
【請求項3】
前記第1の微粒子が、シリコーンレジン微粒子及び/又はシリカ微粒子である、
請求項1又は2に記載の積層構造体。
【請求項4】
前記第2の微粒子が、酸化チタン微粒子である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の積層構造体。
【請求項5】
前記第2の層のTi濃度が1.5質量%以上である、
請求項4に記載の積層構造体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の積層構造体からなる絶縁体を備えた、
ケーブル。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の積層構造体からなる絶縁体を備えた、
チューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層構造体、ケーブル及びチューブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微粒子を含むシリコーンゴムからなり、シースを覆うように設けられた被膜を備えた医療機器用ケーブルが知られている(特許文献1参照)。シリコーンゴムは、従来シースの材料として一般的に用いられてきたポリ塩化ビニル(PVC)と比較して、時間の経過に伴う変色がほとんどないなどの優位点があるが、表面の滑り性が低い傾向にある。
【0003】
特許文献1に記載のケーブルの被膜は微粒子を含むシリコーンゴムからなるため、その表面には、微粒子に由来する凹凸が形成されている。この凹凸により、被膜と他の部材とが接触したときに接触面積を小さくすることができ、被膜表面の滑り性、すなわちケーブルの滑り性を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、医療機器用ケーブルの殺菌方法として、簡便、安価、かつ確実に殺菌することができる、UV-C光の照射による殺菌方法が注目されているが、UV-C光の照射による殺菌を実施するためには、ケーブルのUV-C光への耐性が問題となる。シリコーンゴムからなるシースを備えたケーブルも、UV-C光の照射を繰り返すと、シースが劣化するのでケーブルを曲げるなどの応力が作用するとシースにクラックが入ることが確認されている。
【0006】
本発明の目的は、シリコーンゴムを母材とする積層構造体であって、UV-C光への耐性に優れる積層構造体、並びにその積層構造体からなる絶縁体を備えたケーブル及びチューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、基材となる第1の層と、ゴム成分、表面に凹凸を付与するための第1の微粒子及びUV-C光を遮蔽するための第2の微粒子を含むゴム組成物から形成され、前記第1の層に積層された第2の層と、を備え、前記第2の層のラマン散乱測定により得られるラマン散乱スペクトルに含まれる前記第2の微粒子の振動に由来する第1のピーク及び前記第1の微粒子の振動に由来する第2のピークを用いた、前記第1の微粒子及び前記第2の微粒子に対するラマンマッピング解析によるマッピング像に関し、前記第1の微粒子が存在する領域よりも前記第1の微粒子が存在しない領域の方に、前記第2の微粒子が多く存在する、積層構造体を提供する。
【0008】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、上記の積層構造体からなる絶縁体を備えた、ケーブル又はチューブを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シリコーンゴムを母材とする積層構造体であって、UV-C光への耐性に優れる積層構造体、並びにその積層構造体からなる絶縁体を備えたケーブル及びチューブを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る積層構造体の垂直断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の第2の実施の形態に係る超音波プローブケーブルの構成を模式的に示す平面図である。
【
図3】
図3(a)は、超音波プローブケーブルのケーブルの径方向の断面図である。
図3(b)は、
図2に記載の切断線A-Aで切断された超音波プローブケーブルの径方向の断面図である。
【
図4】
図4(a)~(c)は、それぞれ本発明の第2の実施の形態に係る医療用チューブの径方向の断面図である。
【
図5】
図5(a)は、試料A1の引張試験の結果を示すグラフである。
図5(b)は、試料A2の引張試験の結果を示すグラフである。
【
図6】
図6(a)は、試料A3の引張試験の結果を示すグラフである。
図6(b)は、試料A4の引張試験の結果を示すグラフである。
【
図7】
図7(a)は、試料A1~A4の、UV-C光の照射時間と基体の破断時の応力との関係を示すグラフである。
図7(b)は、試料A1~A4の、UV-C光の照射時間と基体の破断時の伸びとの関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、試料B1のある点において測定されたラマン散乱スペクトルを示すグラフである。
【
図9】
図9(a)は、マッピング解析によって得られた試料B1のマッピング像である。
図9(b)は、
図9(a)のマッピング像を二値化した二値化解析画像である。
【
図10】
図10(a)は、マッピング解析によって得られた試料B2のマッピング像である。
図10(b)は、
図10(a)のマッピング像を二値化した二値化解析画像である。
【
図11】
図11(a)は、マッピング解析によって得られた試料B3のマッピング像である。
図11(b)は、
図11(a)のマッピング像を二値化した二値化解析画像である。
【
図12】
図12(a)は、マッピング解析によって得られた試料B4のマッピング像である。
図12(b)は、
図12(a)のマッピング像を二値化した二値化解析画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔第1の実施の形態〕
(積層構造体の構成)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る積層構造体1の垂直断面図である。積層構造体1は、シリコーンゴムを母材とする第1の層10と、第1の層10上に積層された、シリコーンゴムを母材111とし、表面に凹凸を付与するための第1の微粒子112とUV-C光を吸収及び/又は散乱により遮蔽するための第2の微粒子113を含む第2の層11とを備える。
【0012】
第1の微粒子112は、シリコーンゴムよりもUV-C光に対する耐性が高い、シリコーンレジンやシリカなどのSiを含有する材料からなる。また、第2の微粒子113の平均粒径は、第1の微粒子112の平均粒径よりも小さい方が好ましい。例えば、第2の微粒子113の平均粒径は、第1の微粒子112の平均粒径の1/2以下、さらには1/5以下であることが好ましい。これにより、第2の微粒子113を第1の微粒子112の周囲に偏析させ、第2の層11の面内方向の第1の微粒子112が存在しない領域に第2の微粒子113を選択的に配置させることができる。ここで、UV-C光は、200~280nmの波長域の紫外光である。
【0013】
第1の層10と第2の層11の母材であるシリコーンゴムは、シリコーン樹脂の一種である。シリコーンゴムは、従来、医療用途に使用されるケーブルやチューブの材料として一般的に用いられているポリ塩化ビニルと比較して紫外線(UV-A光、UV-B光)に対する耐性が高い。
【0014】
また、シリコーンゴムは、シリコーンレジン微粒子、シリカ(酸化シリコン)微粒子などのSiを含む微粒子である第1の微粒子112を添加し表面に凹凸を形成することにより、表面のべたつき(タック)を抑え、滑り性(摺動性)を向上させることができる。そのため、第1の微粒子112を含まないシリコーンゴムからなる第1の層10上に第1の微粒子112を添加したシリコーンゴムからなる第2の層11を積層してその表面を覆うことにより、シリコーンゴムの表面のべたつきを抑えて滑り性を向上させることができる。
【0015】
一方で、第1の微粒子112を含まないシリコーンゴムは、第1の微粒子112を含むシリコーンゴムと比較して、基体としての性能(例えば、他の物品を保護または収容する機能など)を有するように、ある程度の厚みが必要である。このため、ケーブルやチューブの絶縁体などとして積層構造体1を用いる場合には、生産性に優れた押出し等により第1の層10を形成し、この上にコーティング等の方法により第2の層11を積層することが好ましい。
【0016】
積層構造体1は、その用途に応じて様々な形態をとり得る。例えば、ケーブルやチューブの絶縁体に用いられる場合は管状に成形され、高紫外線耐性の恒温室ハウス用シートや殺菌室などからの紫外線漏れを遮蔽するための紫外線遮蔽シート(紫外線遮蔽カーテン)などに用いられる場合はシート状に成形される。
【0017】
(第2の層の構成)
第2の層11は、第1の微粒子112を含んでいるため、表面に凹凸形状が形成されている。これによって、表面が平坦な場合と比較して、第2の層11が接触物と接触したときの接触面積が小さくなり、滑り性が高くなる。
【0018】
第2の層11の母材111であるシリコーンゴムとしては、例えば、付加反応型のシリコーンゴムコーティング剤又は縮合反応型のシリコーンゴムコーティング剤を用いることができる。特に、シリコーンゴムを母材とする第1の層10との密着性及び耐摩耗性の観点から、付加反応型のシリコーンゴムコーティング剤を用いることが好ましい。
【0019】
第2の層11によって積層構造体1の表面の良好な滑り性及び所定の拭き取り耐性を得るためには、第2の層11の厚さが3μm以上であることが好ましい。また、第2の層11は第1の層10の両面に積層されていてもよい。なお、第2の層11の厚さの上限は特に制限されるものではないが、生産性、高可撓性及び高屈曲性の観点から100μm以下であることが好ましい。
【0020】
第1の微粒子112は、例えば、シリコーンレジン微粒子、シリカ微粒子、又はこれらの2種を混合したものである。第1の微粒子112は、シリコーンゴムからなる母材111よりも高い硬度(例えば、ショア(デュロメータA)硬さで1.1倍程度以上の硬さ)を有することが好ましい。
【0021】
反応基(例えば、メチル基)の数がシリコーンゴムよりも少ないシリコーンレジンは、シリコーンゴムよりも硬度が高く、反応基を有しないシリカは、さらに硬度が高い。また、質量についても、シリカが最も大きく、シリコーンレジンが次に大きく、シリコーンゴムが最も小さい。
【0022】
第2の層11が接触物と接触した際の表面の凹凸の変形を抑える観点からは、第1の微粒子112の材料として、硬度が高いシリカが最も好ましく、シリコーンレジンが次に好ましい。これは、接触物により第2の層11の表面に押し付け圧力が加わった際に、第1の微粒子112の硬度が高いほど第2の層11の表面の凹凸の変形を抑えることができるためである。これにより、第2の層11の接触物との接触面積の増加を抑え、滑り性を維持することができる。
【0023】
一方で、シリカは上述のように質量が大きいため、シリカからなる第1の微粒子112は第2の層11の製造過程において母材となるシリコーンゴムコーティング剤中で沈降しやすく、シリコーンレジンからなる第1の微粒子112と比べて、シリコーンゴム(第2の層11)中に分散させることが難しい。したがって、シリコーンゴム(第2の層11)中の分散の均一性を高める観点からは、シリコーンレジンからなる第1の微粒子112を用いることが好ましい。
【0024】
したがって、第2の層11が接触物と接触した際の滑り性の維持と、母材であるシリコーンゴム中の第1の微粒子112の分散の均一性とを両立させるためには、シリコーンレジンからなる第1の微粒子112を用いることが好ましい。
【0025】
第1の微粒子112の平均粒径は、例えば、1μm以上10μm以下である。また、第2の層11中の第1の微粒子112の濃度(質量%)は、例えば、10質量%以上60質量%以下である。ここで、本願明細書における「平均粒径」は、レーザー回折散乱法により測定されたものをいう。
【0026】
また、上述のように、第1の微粒子112は、母材111の材料であるシリコーンゴムよりもUV-C光に対する耐性が高い。これは、第1の微粒子112の材料であるシリコーンレジンやシリカの分子構造における原子間の結合エネルギーが、シリコーンゴムの分子構造における原子間の結合エネルギーよりも高いためである。
【0027】
例えば、シリコーンゴムに多く含まれるC-H結合は、結合エネルギー(およそ4.27eV)がUV-C光のエネルギー(およそ6.2eV)よりも小さいため、UV-C光の照射により結合が切れるが、シリコーンレジンに多く含まれるSi-O結合は、結合エネルギー(およそ6.52eV)がUV-C光のエネルギーよりも大きいため、UV-C光の照射により結合が切れない。
【0028】
第2の微粒子113は、酸化チタン(TiO2)、カーボン(C)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化鉄(Fe2O3)などのUV-C光を吸収及び/又は散乱することにより遮蔽する性質を有する材料からなる。第2の微粒子113がUV-C光を遮蔽することにより、シリコーンゴムからなる母材111のUV-C光による劣化を抑えることができる。第2の微粒子113の材料としての酸化チタンは、アナターゼ型、ルチル型、又はブルッカイト型のいずれであってもよく、2つ以上の混合物であってもよい。また、酸化チタンには、ニオブ酸化物を添加して、安定性を持たせるようにしてもよい。
【0029】
上述のように、第2の微粒子113の平均粒径は、第1の微粒子112の平均粒径よりも小さいことが好ましい。第2の微粒子113の平均粒径を小さくすることにより、第1の微粒子112の隙間スペースに、第2の微粒子113を存在させることができるようになる。そして、第2の微粒子113の平均粒径を第1の微粒子112の平均粒径よりも小さくすることにより、第2の微粒子113を第1の微粒子112の周囲に偏析させ、第2の層11の面内方向の第1の微粒子112が存在しない領域に第2の微粒子113を選択的に配置させることができる。例えば、第2の微粒子113の平均粒径は、第1の微粒子112の平均粒径の1/2以下さらに好ましくは1/5以下とすることにより、より効果的に第2の微粒子113を第1の微粒子112の周囲に偏析させることができる。なお、第2の微粒子113の平均粒径の下限は特に制限されるものではないが、入手性の観点から第2の微粒子113の平均粒径は10nm以上であることが好ましい。ここで、第2の微粒子113における「平均粒径」は、レーザー回折散乱法により測定されたものをいう。
【0030】
第2の層11を表面から観察した際に第1の微粒子112が存在しない領域(第1の微粒子112間に位置する領域)は、シリコーンゴムからなる母材111のみが存在する、UV-C光に対する耐性が低い領域である。本願発明者は、この領域に第2の微粒子113を選択的に配置して、UV-C光を遮蔽させることにより、UV-C光に対する耐性を効率的に向上させることができることを見出した。
【0031】
(第1の層の構成)
第1の層10は、第2の層11を透過したUV-C光による劣化を抑えるため、第2の微粒子113を含む第2の層11と同様に、UV-C光を吸収するための第2の微粒子102を含むことが好ましい。この場合、第1の層10は、
図1に示されるように、シリコーンゴムを母材101とし、母材101中に分散する第2の微粒子102を含む。なお、母材101の材料としては、ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、クロロプレンゴム、ポリビニルクロライド(PVC)、ポリウレタンなども用いることができる。中でも、耐薬品性や耐熱性の観点からはシリコーンゴムやクロロプレンゴムが好ましい。なお、第1の層10をシース材料として用いる場合には、各種架橋剤、架橋触媒、老化防止剤、可塑剤、滑剤、充填剤、難燃剤、安定剤、着色剤等の一般的な配合剤が添加された絶縁材料とすることができる。また、母材101中に分散する第2の微粒子102の代わりに、有機系紫外線吸収剤を配合してもよい。
【0032】
第2の微粒子102の材料には、第2の微粒子113の材料と同じもの、例えば、酸化チタンやカーボンを用いることができる。ただし、第1の層10のUV-C光に対する耐性が場所ごとにばらつかないように、第2の微粒子102は母材101中に均一に分散することが好ましい。このため、第2の微粒子102の平均粒径は、特に限定されるものではないが、例えば、10nm以上1μm以下であることが好ましい。ここで、第2の微粒子102における「平均粒径」は、レーザー回折散乱法により測定されたものをいう。
【0033】
〔第2の実施の形態〕
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態に係る積層構造体1からなる絶縁体を備えたケーブル又はチューブである。以下、その一例として、医療用の超音波プローブケーブルに用いられるケーブルについて説明する。
【0034】
近年、医療用途に使用されるケーブルでは、シースの材料として、耐熱性や耐薬品性に優れたシリコーンゴムを使用することが検討されている。しかしながら、上述のように、シリコーンゴムは滑り性が悪いという問題点を有する。そのため、シリコーンゴムをケーブルのシースの材料に用いる場合には、ケーブルが他の部材に引っ掛かりやすくなるとともに、ケーブルの表面に埃がつきやすくなるといった問題が生じる。
【0035】
特に、ケーブルが他の部材と引っ掛かりやすくなると、例えば、超音波撮像装置などの医療機器と接続されるケーブルでは、取扱いが困難になる。なぜなら、超音波撮像装置では、プローブケーブルに接続された超音波プローブを人体上で動かしながら検査することから、プローブケーブルが他のケーブルや衣服などに引っ掛かりやすくなると、スムーズに超音波プローブを動かすことができなくなるからである。したがって、医療用途に使用されるケーブルにおいては、べたつきがなく、表面の滑り性が良好(静止摩擦係数0.5以下)であることが望まれる。
【0036】
図2は、本発明の第2の実施の形態に係る超音波プローブケーブル2の構成を模式的に示す平面図である。超音波プローブケーブル2においては、
図2に示されるように、ケーブル20の一端部に、この一端部を保護するブーツ31を介して、超音波プローブ32が取り付けられている。一方、ケーブル20の他端部には、超音波撮像装置の本体部と接続されるコネクタ33が取り付けられている。
【0037】
図3(a)は、超音波プローブケーブル2のケーブル20の径方向の断面図である。ケーブル20の内部には、例えば、複数の同軸ケーブルに代表される電線21が収納されており、この複数の電線21を覆うように編組シールドなどのシールド22が設けられている。そして、シールド22を覆うようにシース23が設けられている。さらに、ケーブル20においては、上述したシース23の周囲を覆い、かつ、シース23と密着する被膜24が形成されている。
【0038】
図3(b)は、
図2に記載の切断線A-Aで切断された超音波プローブケーブル2の径方向の断面図である。ブーツ31は、
図3(b)に示されるように、被膜24上に接着層34を介して被膜24を覆うように取り付けられる。接着層34は、例えば、シリコーン系接着剤やエポキシ系接着剤から形成される。また、ブーツ31は、例えば、PVC、シリコーンゴム、クロロプレンゴム等で形成されてもよく、第1の層10と同様に、UV-C光を遮蔽するための第2の微粒子102や有機系紫外線吸収剤を含むことが好ましい。
【0039】
ケーブル20のシース23と被膜24は、それぞれ積層構造体1の第1の層10と第2の層11からなる。すなわち、ケーブル20において、シース23及び被膜24として積層構造体1が用いられている。滑り性に優れる第2の層11からなる被膜24を用いることにより、シース23の表面のべたつきに起因する超音波プローブケーブル2の引っ掛かりを抑制することができる。被膜24の厚さは、例えば、3μm以上100μm以下である。なお、シース23中の第2の微粒子102と、被膜24中の第1の微粒子112及び第2の微粒子113の図示は省略する。
【0040】
次に、本実施の形態における超音波プローブケーブル2の製造方法の一例について説明する。まず、複数本(例えば100本以上)の電線21を一括に束ねる。そして、束ねた複数本の電線21を覆うようにシールド22を形成する。
【0041】
続いて、シールド22を覆うように、積層構造体1の第1の層10と第2の層11を順に形成し、シース23と被膜24を形成する。シース23は、例えば、押出機を用いる押出成形によって形成される。被膜24は、例えば、ディッピング法やスプレー塗布法やロール塗布法などによって形成される。ディッピング法では、シース23まで形成された超音波プローブケーブル2を液状の被膜材中を通して引き上げることにより、シース23の表面に被膜24を形成する。このディッピング法は、形成される被膜24の膜厚の均一性において、スプレー塗布法やロール塗布法に比べて優れている。
【0042】
ディッピング法で使用される液状のコーティング剤は、第1の微粒子112と第2の微粒子113を含む液状のシリコーンゴムであり、n-ヘプタンなどの溶剤を含む。この液状のコーティング剤に含まれる第1の微粒子112と第2の微粒子113の含有量を調整することにより、被膜24に含まれる第1の微粒子112と第2の微粒子113の含有量を制御することができる。
【0043】
また、以下に、積層構造体1からなる絶縁体を備えたケーブル又はチューブの他の一例として、カテーテルなどの医療用途に使用されるチューブ(中空管)の構成について説明する。
【0044】
図4(a)~(c)は、それぞれ本発明の第2の実施の形態に係る医療用チューブの径方向の断面図である。
図4(a)に示される医療用チューブ40aは、チューブ本体41の外表面41aに外側被膜42を備える。
図4(b)に示される医療用チューブ40bは、チューブ本体41の内表面41bに内側被膜43を備える。
図4(c)に示される医療用チューブ40cは、チューブ本体41の外表面41aと内表41bにそれぞれ外側被膜42と内側被膜43を備える。
【0045】
医療用チューブ40a、40b、40cに例示されるように、本実施の形態に係るチューブは、チューブ本体41と、チューブ本体41の外表面41aを覆う外側被膜42、チューブ本体41の内表面41bを覆う内側被膜43、又は外側被膜42と内側被膜43の両方を備える。医療用チューブ40a、40b、40cのチューブ本体41は、積層構造体1の第1の層10からなり、外側被膜42及び内側被膜43は積層構造体1の第2の層11からなる。
【0046】
本実施の形態に係るチューブは、内表面や外表面の滑り性に優れるため、例えば、カテーテル等の医療用チューブなどのように、チューブ内に器具を挿入して使用する場合に、器具のスムーズな挿抜が可能となる。その他、本実施の形態に係るチューブは、内視鏡手術器用チューブセット、超音波手術器用チューブセット、血液分析器用チューブ、酸素濃縮器内配管、人工透析血液回路、人工心肺回路、気管内チューブなどに用いることができる。
【0047】
(実施の形態の効果)
上記第1の実施の形態に係る積層構造体1によれば、第2の層11が第1の微粒子112を含むために表面の滑り性に優れ、また、第1の微粒子112の周囲に第2の微粒子113が偏析しているためにUV-C光に対する耐性に優れる。また、上記第2の実施の形態に係る超音波プローブケーブル2や医療用チューブ40a、40b、40cなどによれば、積層構造体1を絶縁体に用いるため、表面の滑り性に優れ、また、UV-C光に対する耐性に優れる。
【0048】
なお、上記第1の実施の形態においては、積層構造体1の第2の層11における母材111の材料にシリコーンゴムを用いたが、シリコーンゴムの代わりにクロロプレンゴムなどのシリコーンゴム以外のゴム成分を用いても同様の効果が得られる。
【実施例1】
【0049】
(積層構造体1の作製)
積層構造体1の第2の層11におけるUV-C光の遮蔽効果を検証するための4種の試料(試料A1~A4とする)を作製した。まず、直径約0.25mmの同軸ケーブル200本を撚り合わせたものを編組線で覆い、ケーブルコアを作製した。続いて、押出機を用いて、ケーブルコアの外周にシース材料を5m/分の速度で押出被覆し、積層構造体1の第1の層10としての厚さ0.8mmのシース23を形成した(ケーブル外径約8mm)。ここで、試料A1のシース材料には、一般に用いられているPVCを用いた。また、試料A2~A4のシース材料には、チタン酸化物入りのカラーバッチ(信越化学工業株式会社製の「KE-color-W」と「KE-174-U」を混合したもの)を用いた。走査電子顕微鏡(SEM)に搭載されたエネルギー分散型X線分析装置(EDS)により分析(横125μm×縦95μmの測定領域での平均値)したTi濃度が0.12質量%となるように混合した。ここまでの工程により、積層構造体1の第2の層11としての被膜24を有しない試料A1、A2が作製された。
【0050】
続いて、試料A3の被膜24を形成するための材料を調製した。母材111となるゴム成分として、付加反応型シリコーンゴムコーティング剤(商品名:SILMARK-TM、信越化学工業株式会社製)を準備した。また、第1の微粒子112として、平均粒径が5μmのシリコーンレジン微粒子(商品名:X-52-1621、信越化学工業株式会社製)を準備した。このゴム成分100質量部に対して、シリコーンレジン微粒子を120質量部、粘度調整用の溶媒としてトルエンを600質量部、架橋剤(商品名:CAT-TM、信越化学工業株式会社製)8質量部、硬化触媒(商品名:CAT-PL-2、信越化学工業株式会社製)0.3質量部を混合し、被膜24に対する第1の微粒子112の割合が55質量%となるコーティング溶液を調製した。なお、上記の被膜24中の第1の微粒子112の含量は、コーティング剤がほぼ質量減少無しに硬化するもの(配合質量比とほぼ等価である)と仮定して、算出した。
【0051】
続いて、ケーブルコア上に設けられたシース23の表面を洗浄した。その後、ケーブルコアにシース23が設けられたものを、ディップコーティング法により、上記コーティング溶液に浸漬させて、シース表面にシリコーンゴムからなる塗膜を製膜した。その後、塗膜に150℃の温度で十分に乾燥・硬化処理を施すことで、表面に凹凸を有する被膜24を形成した。得られた試料A3の被膜24の膜厚は15μmであった。以上の工程により、試料A3が作製された。
【0052】
次に、試料A4の被膜24を形成するための材料を調製した。試料A4の被膜24のために、試料A3の被膜24に用いたものと同じ母材111となるゴム成分及び第1の微粒子112としてのシリコーンレジン微粒子に加えて、第2の微粒子113として、平均粒径が250nmのチタン酸化物(アナターゼ型のTiO2)微粒子を準備した。そして、ゴム成分100質量部に対して、シリコーンレジン微粒子を120質量部、チタン酸化物微粒子、粘度調整用の溶媒としてトルエンを600質量部、架橋剤(商品名:CAT-TM、信越化学工業株式会社製)8質量部、硬化触媒(商品名:CAT-PL-2、信越化学工業株式会社製)0.3質量部を混合し、被膜23に対する第1の微粒子112の割合が55質量%、被膜23に対する第2の微粒子113の割合が所定濃度となるコーティング溶液を調製した。なお、第2の微粒子113であるチタン酸化物微粒子の濃度は、走査電子顕微鏡(SEM)に搭載されたエネルギー分散型X線分析装置(EDS)により求められる被膜24中(横125μm×縦95μmの測定領域での平均値)のチタンの濃度が0.6質量%となるように、調整を行った。また、上記の被膜24中の第1の微粒子112の含量は、コーティング剤がほぼ質量減少無しに硬化するもの(配合質量比とほぼ等価である)と仮定して、算出した。
【0053】
続いて、試料A3の被膜24と同様に、シース23の表面の洗浄、ディップコーティング法による塗膜の製膜、及び塗膜の乾燥・硬化処理を実施して、表面に凹凸を有する被膜24を形成した。得られた試料A4の被膜24の膜厚は15μmであった。以上の工程により、試料A4が作製された。
【0054】
(UV-C光遮蔽効果の検証)
積層構造体1の第2の層11におけるUV-C光遮蔽効果を検証するため、UV-C光照射前後の試料A1~A4の引張試験を実施した。まず、上記の方法で作製したケーブル状の試料A1~A4のシース23(試料A3、A4においては被膜24で覆われたシース23)に長さ方向に沿った切れ目を入れて、シース23内の内容物を除去し、シース23を開いた。そして、開いたシース23を6号ダンベルで打ち抜いてダンベル試験片(厚さ0.8mm)を作製した。ここで、試料A1、A2、A3、A4のシース23(試料A3、A4においては被膜24で覆われたシース23)から形成されたダンベル試験片をそれぞれ試料B1、B2、B3、B4とする。以下の表1に、試料B1~B4の構成を示す。
【0055】
【0056】
引張試験は、“JIS K6251(1994)”に規定される試験であり、上記の試料B1~B4に対して、環境温度15~35℃、環境湿度28~65RH%、大気圧の条件で実施した。また、UV-C光照射は、殺菌灯付保管庫(大信工業株式会社DM-5、ランプGL-10)を用いて、庫内温度25~40℃、庫内湿度28~65%、庫内圧力1気圧(大気圧)、波長253.7nm、照度1.3mW/cm2、照射時間100時間と200時間の条件で実施した。照度計は、エムケー・サイエンティフィック製のUVC-254Aを使用した。
【0057】
図5(a)は、試料B1の引張試験の結果を示すグラフである。
図5(a)の“未照射”は、UV-C光が照射されていない状態の試料B1を示し、“照射後”は、上記のUV-C光を200時間照射した後の試料B1を示している。
図5(a)に示されるように、UV-C光の照射後の方が、照射前よりも強度(基体が破断したときの応力の大きさ)、及び伸びが小さく、試料B1がUV-C光の照射により劣化(破断しやすくなるような変質)することが確認された。また、試料B1はグレー色のPVCであったため、UV-C光の照射により黄色み掛かる変色が生じることが目視で確認できた。なお、伸び100%とは、ダンベル試験片の長さが当初の長さの2倍になったことを示す。
【0058】
図5(b)は、試料B2の引張試験の結果を示すグラフである。
図5(b)の“未照射”は、UV-C光が照射されていない状態の試料B2を示し、“照射後”は、上記のUV-C光を200時間照射した後の試料B2を示している。
図5(b)に示されるように、UV-C光の照射後の方が、照射前よりも強度、及び伸びが小さく、試料B2がUV-C光の照射により劣化(変質)することが確認された。なお、シリコーンゴムからなる試料B2(白色)には、UV-C光の照射による変色は目視で確認されなかった。一方で、
図5(a)のグラフと比較すると、PVCよりもシリコーンゴムの方がUV-C光の照射による劣化の度合いが大きいことがわかる。
【0059】
なお、試料B2にはUV-C光を吸収する第2の微粒子としてのTiO2微粒子が含まれているが、低濃度(シース23中のTi濃度が0.12質量%)であるため、UV-C光に対する耐性にはほとんど影響を及ぼさなかったものと考えられる。また、試料B2は第2の層11に対応する被膜を有しないため、試料B3、B4と比較すると、表面の滑り性に劣る。
【0060】
図6(a)は、試料B3の引張試験の結果を示すグラフである。
図6(a)の“未照射”は、UV-C光が照射されていない状態の試料B3を示し、“照射後”は、上記のUV-C光を200時間照射した後の試料B3を示している。
図6(a)に示されるように、UV-C光の照射後の方が、照射前よりも強度、及び伸びが小さく、試料B3がUV-C光の照射により劣化することが確認された。また、試料B3(白色)は、試料B2と同様に、UV-C光の照射による変色は目視で確認されなかった。
【0061】
図6(a)によれば、伸びが50%を超えたあたりで第2の層11に対応する被膜23にクラックが生じている。試料B3の被膜23には、UV-C光に対する耐性に優れる第1の微粒子112としてのシリコーンレジン微粒子が含まれているが、主にこのシリコーンレジン微粒子が存在しない領域のシリコーンゴムが劣化し、クラックが生じたものと考えられる。
【0062】
図6(b)は、試料B4の引張試験の結果を示すグラフである。
図6(b)の“未照射”は、UV-C光が照射されていない状態の試料B4を示し、“照射後”は、上記のUV-C光を200時間照射した後の試料B4を示している。
図6(b)に示されるように、UV-C光の照射前後で、強度、及び伸びがほぼ等しく、試料B4のUV-C光の照射による劣化が効果的に抑えられていることが確認された。また、試料B4(白色)は、試料B2と同様に、UV-C光の照射による変色は目視で確認されなかった。
【0063】
試料B4の試験結果を試料B3の試験結果と比較すると、第2の層11に対応する被膜に含まれる第2の微粒子としてのチタン酸化物微粒子がUV-C光を遮蔽し、劣化が抑えられたことがわかる。
【0064】
図7(a)は、試料B1~B4の、UV-C光の照射時間と基体の破断時の応力との関係を示すグラフである。また、
図7(b)は、試料B1~B4の、UV-C光の照射時間と基体の破断時の伸びとの関係を示すグラフである。
【0065】
図7(a)、(b)によれば、第2の層11に対応する被膜に第2の微粒子としてのチタン酸化物微粒子を含まない試料B3は、UV-C光の照射時間の増加とともに、強度と伸びが低下している。一方で、第2の層11に対応する被膜に第2の微粒子としてのチタン酸化物微粒子を含む試料B4は、UV-C光の照射時間が増加しても、強度と伸びに変化がない。また、試料B4は、UV-C光の照射前の伸びは試料B1よりも劣るが、UV-C光を200時間照射した後の伸びは試料B1よりも優れている。これらの結果からも、試料B4の被膜に含まれるチタン酸化物微粒子により、UV-C光による劣化の進行を抑制できることがわかる。
【実施例2】
【0066】
積層構造体1の第2の層11における第2の微粒子113の分布状態を調べるため、ラマンマッピング解析を実施した。ラマンマッピング解析は、試料の表面にレーザーを走査させながらラマン散乱測定を実施し、各測定点のラマン散乱スペクトルから得られる情報を二次元にマッピングするものである。ラマンマッピング解析は、UV-C光照射前の試料を用いて行った。
【0067】
以下の表2と表3に、それぞれラマン散乱測定の測定条件とマッピング条件を示す。ラマン散乱測定は、ナノフォトン株式会社製のRAMANforce Standard VIS-NIR-HSを用いて実施した。ラマン散乱測定は、環境温度15~35℃、環境湿度25~65RH%、大気圧の環境下で実施した。
【0068】
【0069】
【0070】
本実施例に係るマッピング解析を、4種の第2の層11としてのシート状のシリコーンゴム膜(試料C1~C4とする)の表面に対して実施した。試料C1~C4のいずれも、母材111としてのシリコーンゴム、第1の微粒子112としての平均粒径が約2μmのシリコーンレジン微粒子、及び第2の微粒子113としての平均粒径が約250nmのアナターゼ型のTiO2微粒子を主に含むチタン酸化物微粒子を含む。試料C1~C4のシリコーンレジン粒子の含量は、いずれも60質量%である。なお、試料C1~C4のシリコーンレジン微粒子の含量は、シリコーンゴムコーティング剤がほぼ質量減少無しに硬化するもの(配合質量比とほぼ等価である)と仮定して、算出した。具体的には、シリコーンレジン微粒子の質量を、シリコーンレジン微粒子とチタン酸化物微粒子とシリコーンゴムの合計質量で割ってパーセント表示したものである。
【0071】
以下の表4に、試料C1~C4における、第1の微粒子112としてのシリコーンレジン粒子と各試料におけるシリコーンレジン濃度、及び第2の微粒子113としてのチタン酸化物微粒子の平均粒径と各試料におけるTi濃度を示す。表中のTi濃度は、SEM-EDS(横125μm×縦95μmの測定領域での平均値)により求めた。なお、試料C1が、試料A4(B4)に相当するものである。
【0072】
【0073】
試料C1~C4は、第2の微粒子113としてのチタン酸化物微粒子の配合量において異なる。試料C1、C2、C3、C4のTi濃度(SEM-EDSによる評価結果)は、それぞれ、0.6質量%、1.1質量%、1.5質量%、4.4質量%である。
【0074】
図8に、測定されるラマン散乱スペクトルの一例として、試料C1のある点において測定されたラマン散乱スペクトルを示す。ラマン散乱スペクトルにおける約640cm
-1付近(例えば、640±20cm
-1)のピーク(第1のピークとする)は、主にアナターゼ型のTiO
2の格子振動Egに由来する、(アナターゼ型のTiO
2微粒子を主に含む)チタン酸化物微粒子の散乱スペクトルのうちの特に強度の高いピークであり、約2915cm
-1付近(例えば、2915±33cm
-1)のピーク(第2のピークとする)は、シリコーンレジンのCH伸縮に由来する、シリコーンレジンの散乱スペクトルのうちの特に強度の高いピークである。本実施例に係るラマンマッピング解析においては、これら第1のピークと第2のピークの強度を用いて、チタン酸化物微粒子とシリコーンレジン微粒子の分布をマッピングした。なお、チタン酸化物微粒子にルチル型のTiO
2微粒子が主に含まれる場合は、第1のピークとして格子振動Egに由来する約445cm
-1付近(例えば、445±45cm
-1)のピークを用いることが好ましい。また、チタン酸化物微粒子にブルッカイト型のTiO
2微粒子が主に含まれる場合は、第1のピークとして約150cm
-1付近(例えば、150±15cm
-1)のピークを用いることが好ましい。
【0075】
図9(a)、
図10(a)、
図11(a)、
図12(a)は、それぞれ、マッピング解析によって得られた試料C1、C2、C3、C4のマッピング像である。これらのマッピング像の大きさ(マッピング領域)は、22.5μm×22.5μmである。
【0076】
マッピング解析は、ナノフォトン株式会社製の解析ソフトウェアRaman Viewer Ver.4.5.54を用いて実施した。
図9(a)、
図10(a)、
図11(a)、
図12(a)のチタン酸化物微粒子を示す領域の濃淡は、上記の第1のピークの強度が大きくなるほど濃くなるように、強度20~3500の範囲内で設定した。そして、1760~3500の範囲内の値について、チタン酸化物微粒子が存在すると設定した。また、シリコーンレジン微粒子を示す領域の濃淡は、上記の第2のピークの強度が大きくなるほど濃くなるように、強度400~3000の範囲内で設定した。そして、1700~3000の範囲内の値について、シリコーンレジン微粒子が存在すると設定した。シリコーンレジン微粒子及びチタン酸化物微粒子を示すラマンピークのどちらも観察されない領域、すなわち母材111であるシリコーンゴム領域は、これらの領域とは色が異なって観察される。
【0077】
図9(a)、
図10(a)、
図11(a)、
図12(a)によれば、チタン酸化物微粒子がシリコーンレジン微粒子の周囲に偏析し、シリコーンレジン微粒子が存在しない領域(シリコーンレジン粒子間に位置する領域)を効率的に埋めていることがわかる。これは、チタン酸化物微粒子の平均粒径がシリコーンレジン微粒子の平均粒径よりも小さい(例えば、1/2以下、さらに好ましくは1/5以下)ためである。また、チタン酸化物微粒子の配合量の増加に伴って、シリコーンレジン微粒子が存在しない領域におけるチタン酸化物微粒子に占められる領域の割合が増加し、Ti濃度が1.5質量%以上の場合にシリコーンレジン微粒子が存在しない領域(UV-C光に対する耐性が低い領域)におけるほぼすべての領域がチタン酸化物微粒子に占められる。
【0078】
すなわち、第2の層11は、シリコーンレジン微粒子が存在しない領域に優先的にチタン酸化物微粒子が存在するために、シリコーンレジン微粒子が存在する領域(
図9(a)、
図10(a)、
図11(a)、
図12(a)において、円状に白く見える領域:領域A)における第1のピークの強度が、シリコーンレジン微粒子が存在しない領域(シリコーンレジン微粒子間に位置する領域:領域B)における第1のピークの強度よりも小さくなる領域を有する。このように、第2の層11において、チタン酸化物微粒子は均一に分散しておらず、チタン酸化物微粒子がシリコーンレジン微粒子の周囲に偏析している。
【0079】
【0080】
この二値化解析は、上記の解析ソフトウェアRaman Viewer Ver.4.5.54の「面積比解析」機能により実施した。また、この二値化解析において、第1のピークの積分範囲38.7cm-1の積分強度を第1のピークの強度として計算に適用し、第2のピークの積分範囲35.2cm-1の積分強度を第2のピークの強度として計算に適用した。なお、Raman Viewer Ver.4.5.54では、二値化解析における強度計算法はエリア計算と呼ばれる。
【0081】
図9(b)、
図10(b)、
図11(b)、
図12(b)に示される二値化解析画像によれば、チタン酸化物微粒子の面積とチタン酸化物微粒子以外の面積(すなわち、シリコーンレジン微粒子とシリコーンゴムの合計面積)の比率は、それぞれ6.4対93.6、12.8対87.2、22.7対77.3、35.2対64.8である。
【0082】
上記の結果から、上記の条件で実施される二値化解析画像におけるチタン酸化物微粒子とシリコーンレジン微粒子の合計面積に対するチタン酸化物微粒子の面積の割合が22.7%以上である場合に、シリコーンレジン微粒子が存在しない領域におけるほぼすべての領域がチタン酸化物微粒子に占められ、第2の層11がUV-C光に対する優れた耐性を有することがわかった。なお、この第2の層11がUV-C光に対する優れた耐性を有するための条件は、第1の微粒子112としてのシリコーンレジン微粒子をシリカ微粒子などの他の微粒子に変更した場合や、第2の微粒子113としてのチタン酸化物微粒子をカーボン微粒子などの他の微粒子に変更した場合であっても成立すると考えられる。なお、静止摩擦係数の低減の観点から、ある程度のシリコーンレジン微粒子が存在する領域が必要であるため、二値化解析画像におけるチタン酸化物微粒子とシリコーンレジン微粒子の合計面積に対するチタン酸化物微粒子の面積の割合の上限は、50%以下であることが好ましい。
【0083】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0084】
[1]基材となる第1の層(10)と、ゴム成分(111)、表面に凹凸を付与するための第1の微粒子(112)及びUV-C光を遮蔽するための第2の微粒子(113)を含むゴム組成物から形成され、前記第1の層(10)に積層された第2の層(11)と、を備え、前記第2の層(11)のラマン散乱測定により得られるラマン散乱スペクトルに含まれる前記第2の微粒子(113)の振動に由来する第1のピーク及び前記第1の微粒子(112)の振動に由来する第2のピークを用いた、前記第1の微粒子(112)及び前記第2の微粒子(113)に対するラマンマッピング解析によるマッピング像に関し、前記第1の微粒子(112)が存在する領域よりも前記第1の微粒子(112)が存在しない領域の方に、前記第2の微粒子(113)が多く存在する、積層構造体(1)。
【0085】
[2]前記ゴム成分(111)はシリコーンゴムであり、前記第1の微粒子(112)が、前記シリコーンゴムよりもUV-C光に対する耐性が高い、Siを含有する材料からなる、上記[1]に記載の積層構造体(1)。
【0086】
[3]前記第1の微粒子(112)が、シリコーンレジン微粒子及び/又はシリカ微粒子である、上記[1]又は[2]に記載の積層構造体(1)。
【0087】
[4]前記第2の微粒子(113)が、酸化チタン微粒子である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の積層構造体(1)。
【0088】
[5]前記第2の層のTi濃度が1.5質量%以上である、上記[4]に記載の積層構造体。
【0089】
[6]上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の積層構造体(1)からなる絶縁体を備えた、ケーブル(20)。
【0090】
[7]上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の積層構造体(1)からなる絶縁体を備えた、チューブ(40a、40b、40c)。
【0091】
[8]シリコーンゴムを母材とする第1の層(10)と、前記第1の層(10)上に積層された、シリコーンゴムを母材(111)とし、表面に凹凸を付与するための第1の微粒子(112)とUV-C光を吸収するための第2の微粒子(113)を含む第2の層(11)と、を備え、前記第1の微粒子(112)が、前記シリコーンゴムよりもUV-C光に対する耐性が高い、Siを含有する材料からなり、前記第2の微粒子(113)の平均粒径が、前記第1の微粒子(112)の平均粒径の1/2以下である、積層構造体(1)。
【0092】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、本発明は、上記実施の形態及び実施例に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。また、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0093】
1 積層構造体
10 第1の層
111 母材
112 第1の微粒子
113 第2の微粒子
11 第2の層
2 超音波プローブケーブル
20 ケーブル
23 シース
24 被膜
40a、40b、40c 医療用チューブ
41 チューブ本体
42 外側被膜
43 内側被膜