(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ジブクレーンの給電装置用防滴カバー
(51)【国際特許分類】
B66C 13/12 20060101AFI20241008BHJP
B66C 23/02 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
B66C13/12 Z
B66C23/02 B
(21)【出願番号】P 2021022730
(22)【出願日】2021-02-16
【審査請求日】2023-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】青木 公佑
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-049783(JP,U)
【文献】特開平07-111175(JP,A)
【文献】実開昭54-111076(JP,U)
【文献】特開2011-250561(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0291505(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/00- 15/06
B66C 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻上機を具備し水平面上で旋回する腕部と、該腕部を旋回可能に支持する支柱部とから構成されるジブクレーンのこれら腕部と支柱部との接続部分に取り付けられているスリップリング方式の給電装置の防滴カバーであって、上端及び下端が開口しており且つ該給電装置を上方から覆うカバー部と、該カバー部の上端に設けられており、該支柱部の天板の下面側に接合される環状部とからなることを特徴とするジブクレーンの給電装置用防滴カバー。
【請求項2】
前記カバー部が逆おわん形状を有していることを特徴とする、請求項1に記載のジブクレーンの給電装置用防滴カバー。
【請求項3】
前記カバー部が、撥水性の表面を有する樹脂製であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のジブクレーンの給電装置用防滴カバー。
【請求項4】
前記支柱部において前記給電装置に対向する位置に設けられている点検口を介して出し入れ可能な大きさを有していることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のジブクレーンの給電装置用防滴カバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジブクレーンの支柱部の内側に取り付けられているスリップリング方式給電装置用の防滴カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
各種工場内における荷物の運搬や岸壁での荷役等において、ジブクレーンが多用されている。ジブクレーンは、
図1に示すように、床面にスタッドボルト等で堅固に固定されている金属製の筒状体から構成される支柱部(ポストとも称する)1と、支柱部1の上端部から水平方向に延在する一般にI型鋼からなる腕部(ジブ)2と、腕部2に沿って移動するモーター駆動の走行機構(トロリーとも称する)を備えた巻上機(ホイストとも称する)3とから一般に構成され、腕部2は支柱部1を中心として水平面上で旋回できるように回転可能に取り付けられている。
【0003】
上記構造のジブクレーンは、図示しない電源から巻上機3のモーターに給電するため、給電ケーブル4が巻上機3に接続されている。この給電ケーブル4の巻上機3側の端部は、支柱部1の内側を経由して上部から延出しており、該巻上機3の走行に追従できるように、腕部2に沿って移動自在に設けられている釣支部(ツリテとも称する)5によって所々で釣支されている。
【0004】
上記のように、腕部2は支柱部1を中心として旋回するので、その際、支柱部1内の給電ケーブル4が捻じれ等により損傷するのを防ぐため、例えば特許文献1、2に開示されているようなスリップリング方式の給電機構6が、支柱部1の上部において腕部2と接続する部分に設けられている。このスリップリング方式の給電装置6は、複数個の金属製の環状体からなるリング部と、該リング部の各環状体の外周面に摺接することで常時電気的接続状態を維持するブラシ部とから構成され、通常は旋回する腕部2側にリング部が取り付けられており、ブラシ部は支柱部1側に取り付けられている。
【0005】
ところで、上記のジブクレーンは屋外に据付けられることが多く、そのため、日中に暖められたジブクレーンの支柱部1の内側の空気は、夜間に外気により冷却された金属製の支柱部1の内側面に触れると水蒸気を結露させる。特に東南アジアのように高湿度かつ昼夜の温度差が大きい地域(例えば、フィリピンのマニラでは、8月の平均最高気温32.3℃、平均最低気温25.4℃、平均相対湿度81%になる)では、結露の発生が顕著になる。
【0006】
上記のスリップリング方式の給電装置6自体は、支柱部1の天板に取り付けられているため外気に直接触れることはなく、また、支柱部1の天板に比べて外気の温度が伝わりにくいため、結露はほとんど生じない。しかしながら、支柱部1の天板の下面側では激しい結露が生じやすく、その結果、該スリップリング方式の給電装置6に天板で生じた水滴が落下してショート等の問題が生じるおそれがある。
【0007】
上記の結露の対策として、支柱部1の内側を結露が生じにくい雰囲気にすることが考えられる。例えば特許文献3、4には、スリップリング方式の給電装置の周囲の雰囲気温度及び湿度を調整する技術が開示されており、これにより結露を防止できると記載されている。また、支柱部1の内側を密閉構造にしたり、支柱部1の内側に乾燥ガスを常時流通させたりすることも考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】実開昭57-131579号公報
【文献】実開昭61-49783号公報
【文献】特開平7-23546号公報
【文献】特開平2-206339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献3、4では、高価な温湿度調整装置が必要になるので設備コストがかかりすぎることが問題になる。また、ジブクレーンの支柱部1には点検口が設けられており、この点検口から空気が入り込まないように蓋を気密構造にするのは現実的ではないうえ、支柱部1の内側に常時窒素などの乾燥ガスを流通させるのは運転コストがかかりすぎる。本発明は、上記のジブクレーンが抱える問題に鑑みてなされたものであり、ジブクレーンの支柱部の内側に取り付けられているスリップリング方式の給電装置が、該支柱部の天板での結露により生じた水滴でショート等の悪影響を受けるのを低コストで防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係るジブクレーンの給電装置用防滴カバーは、巻上機を具備し水平面上で旋回する腕部と、該腕部を旋回可能に支持する支柱部とから構成されるジブクレーンのこれら腕部と支柱部との接続部分に取り付けられているスリップリング方式の給電装置の防滴カバーであって、上端及び下端が開口しており且つ該給電装置を上方から覆うカバー部と、該カバー部の上端に設けられており、該支柱部の天板の下面側に接合される環状部とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高湿度かつ昼夜の温度差が大きい環境下で使用されるジブクレーンであっても、その支柱部の内側に取り付けられているスリップリング方式の給電装置が、結露により生じる水滴でショート等の悪影響を受けるのを低コストで防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る給電装置用防滴カバーが取り付けられる一般的なジブクレーンの斜視図である。
【
図2】本発明の一具体例の給電装置用防滴カバーが、
図1のジブクレーンの支柱内の給電装置に取り付けられている状態を示す斜視図である。
【
図3】本発明の一具体例の給電装置用防滴カバーで保護される一般的なスリップリング方式の給電装置の縦断面図である。
【
図4】本発明の給電装置用防滴カバーの一具体例を示す斜視図である。
【
図5】本発明の給電装置用防滴カバーの他の具体例を示す斜視図である。
【
図6】本発明の給電装置用防滴カバーの更に他の具体例を示す斜視図である。
【
図7】本発明の給電装置用防滴カバーを構成するカバー部の上端と環状部との接合部分の具体例を示す部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
先ず、本発明の給電装置用防滴カバーで覆われるスリップリング方式の給電装置について説明する。
図1に示すように、スリップリング方式の給電装置6は、巻上機3を具備し水平面上で旋回する腕部2と、腕部2を旋回可能に支持する支柱部1とから構成されるジブクレーンのこれら支柱部1と腕部2との接続部分に取り付けられている。例えば
図2に示すように、スリップリング方式の給電装置6は、複数個の導電性金属製の環状体からなるリング部10と、このリング部10を構成する各環状体の外周面に摺接するブラシ部11とから構成され、それぞれの端子部に巻上機3に給電する給電ケーブル4が接続している。
【0014】
そして、ジブクレーンの支柱部1の天板にボルト留めされている金属製円板1aにブラシ部11の上端部が取り付けられており、この天板の上部に位置する図示しない腕部2の回動部分にリング部10の上端部が取り付けられている。これにより、腕部2の旋回に伴ってリング部10が回転しても、ブラシ部11は静止したままの状態でリング部10の該環状体の外面側に摺接するので、給電ケーブル4の捻じれや絡まりによる損傷、断線の問題を生じさせることなく導通状態を維持することができる。
【0015】
次に、上記のスリップリング方式の給電装置6を覆う本発明の給電装置用防滴カバーの一具体例について説明する。
図3に示すように、この本発明の一具体例の給電装置用防滴カバー20は、上端部及び下端部が開口しており、給電装置6を上方から覆うカバー部21と、カバー部21の上端部に設けられており、ジブクレーンの支柱部1の天板の下面側に接合される環状部22とから構成される。かかる構成により、ジブクレーンの天板の下面側において結露により生じた水滴が落下しても、給電装置6に出来るだけかからないようにできるので、ショート等の問題が生ずるのを防止することができる。
【0016】
上記のカバー部21の形状は、落下する水滴が出来るだけかからないように給電装置6を上方から覆うことができ、且つ給電装置6のリング部の回動を阻害しない形状であれば特に限定はなく、例えば
図4(a)のような下方に向うに従って傾斜角が急になる逆おわん形状、
図4(b)のような逆に下方に向うに従って傾斜角がゆるやかになるホーン形状(ベルマウス形状とも称する)、
図4(c)のような傾斜角が一定の切頭円錐形状などを挙げることができる。あるいは、上記のような水平方向に切断した断面が円形の形状に代えて、
図5(a)に示す切頭四角錐形状のような断面多角形のものを用いてもよい。更に、
図5(b)や
図5(c)に示すように下側を円筒状又は角筒状に形成してもよい。上記の各種形状の中では、支柱部1の内側で大きくかさばることなく給電装置6を全体的に覆うことが可能な逆おわん形状が好ましい。
【0017】
一方、上記の環状部22の形状は、支柱部1の天板の下面側に接着剤や両面テープ等の接合手段で接合できるように上端が平坦になっているのが好ましく、その幅は5~20mm程度が好ましく、安定的に天板の下面側に接合できるように10mm以上がより好ましい。給電装置用防滴カバー20を取り付けたり取り外したりするときは、この環状部22の内側に給電装置6を通す必要があるので、環状部22の内径は給電装置6のサイズに応じてある程度の大きさを確保する必要があるが、あまり大きすぎると落下する水滴を遮る効果が得られなくなるので、給電装置6の最大外径部よりも5~10mm程度大きいのが好ましい。
【0018】
給電装置用防滴カバー20の高さも、給電装置6のサイズや使用する給電装置用防滴カバー20の形状により変わりうるが、給電装置6の側面をほぼ全面的に覆う場合は、300~500mm程度が好ましく、約400mm程度がより好ましい。なお、給電装置用防滴カバー20は、
図3に示すように、支柱部1において給電装置6に対向する位置に設けられている点検口1bを介して出し入れ可能な大きさを有しているのが好ましい。
【0019】
給電装置用防滴カバー20の材質は、プラスチック、ビニル、ウレタン等の樹脂や木材等の熱伝導率の低い材料を用いることが好ましく、これにより給電装置用防滴カバー20の内側での結露を防止することができる。これらの中では、湿度の高い雰囲気で使用しても耐久性があり、平坦な表面を有する軽量な材質であるプラスチックやビニルが好ましい。特に、可撓性を有するものが好ましく、これにより、給電装置用防滴カバー20の大きさが前述した点検口1bよりも多少大きい場合であっても、撓ませることで点検口1bを介して出し入れすることが可能になる。
【0020】
図6に示すように、給電装置用防滴カバー20はその中心軸を含む面で周方向の1箇所が上端から下端まで切断されていてもよく、これにより、給電装置6に給電ケーブル4が結線された状態のままで、給電装置用防滴カバー20を取り付けたり取り外したりすることが可能になるうえ、点検口1bにおける出し入れも容易になる。更に、環状部22の内径を給電装置6の最も外径が大きい部分よりも小さくすることができるので、天板から落下する水滴をより確実に遮ることが可能になる。
【0021】
カバー部21の表面はワックス等を用いたコーティングにより撥水性を持たせてもよく、これにより水滴がカバー部21の表面に沿って流れ落ちるようにできるので、カバー部21の内側で結露が生じても給電装置6に水滴がかかるのをより確実に防止できる。カバー部21の材質は透明又は半透明が好ましく、これにより点検時に給電装置6の状態を給電装置用防滴カバー20をつけたまま目視にて容易に確認することができる。環状部22は磁石で形成してもよく、この場合は
図7に示すように、カバー部21の上端部を外側に屈曲させてフランジ状にし、このフランジ状部分を挟み込むようにして該磁石からなる環状部22を金属製円板1aに磁力で付着させることで、給電装置用防滴カバー20を容易に着脱することが可能になる。
【実施例】
【0022】
透明なプラスチックを用いて
図4(a)に示すような逆おわん形状の給電装置用防滴カバー20を作製した。具体的には、給電装置用防滴カバー20の環状部22は、幅10mm、高さ10mm、内径100mmとし、カバー部21は高さ400mm、下端開口部の内径400mmとした。この給電装置用防滴カバー20をフィリピンのマニラで稼働中のジブクレーンの支柱部1の内側に点検口1bから入れ、給電ケーブル4の結線を一時的に外しておいたスリップリング方式の給電装置6に下側から取り付けると共に、支柱部1の天板にボルトで固定されている鉄製の円板1aの下面と環状部22の上端面とを両面テープで貼り付けた。その後、給電装置6に給電ケーブル4を結線した。この状態で約1年間ジブクレーンを運転したところ、このスリップリング方式の給電装置6において特にトラブルは発生しなかった。
【0023】
比較のため、フィリピンのマニラで稼働中の他のジブクレーンに対して、上記の給電装置用防滴カバー20を取り付けずに運転したところ、スリップリング方式の給電装置6のショートのトラブルが約2~3か月に1回の頻度で発生した。その際、ジブクレーンの支柱部1の内部を目視にて点検した結果、鉄製の円板1aの下面に多数の水滴が付着しており、これらが落下して給電装置6をショートさせたものと思われる。
【符号の説明】
【0024】
1 支柱部
1a 金属製円板
1b 点検口
2 腕部
3 巻上機
4 給電ケーブル
5 釣支部
6 給電装置
10 リング部
11 ブラシ部
20 給電装置用防滴カバー
21 カバー部
22 環状部