(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】凹部を有するケイ素含有部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/302 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
H01L21/302 201A
(21)【出願番号】P 2021025628
(22)【出願日】2021-02-19
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】小野 良貴
(72)【発明者】
【氏名】林 泰夫
(72)【発明者】
【氏名】佐野 耕平
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-530743(JP,A)
【文献】特開2014-045030(JP,A)
【文献】国際公開第2019/108366(WO,A1)
【文献】特開2001-345302(JP,A)
【文献】特開昭63-032930(JP,A)
【文献】特開2013-030805(JP,A)
【文献】特開2019-201102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/302
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹部を有する
酸化物状態のケイ素を含む部材の製造方法であって、
(i)
酸化物状態のケイ素を含む部材の表面の一部に、活性材を設置し、
(ii)加熱環境下で、前記
酸化物状態のケイ素を含む部材にフッ素系ガスを供給し、
前記(ii)の後に、前記活性材の下側の前記
酸化物状態のケイ素を含む部材の前記表面に、凹部が形成される、製造方法。
【請求項2】
前記活性材は、金属のハロゲン化物、遷移金属、および遷移金属の酸化物からなる群から選定された少なくとも一つを有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記活性材は、二酸化マンガン、フッ化マンガン、金属マンガン、金属鉄、およびフッ化鉄の少なくとも一つを含む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記フッ素系ガスは、フッ素ガスおよび/またはフッ化水素ガスを含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記
酸化物状態のケイ素を含む部材は、ガラス基板である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記凹部は、溝または孔である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記凹部の深さをdとし、前記凹部の前記表面における開口の最小寸法をAとしたとき、
d/Aで表される前記凹部のアスペクト比は、0.1~100の範囲である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記(ii)のステップは、50℃から1000℃の温度で実施される、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹部を有するケイ素含有部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溝および/または孔のような凹部を有するケイ素含有部材は、様々な分野においてニーズがある。例えば、半導体の分野では、シリコン基板およびその上に設置された各種膜に対して、凹部を形成する技術が広く利用されている。
【0003】
そのような凹部は、例えば、ドライエッチング法により形成することができる。例えば、特許文献1には、ドライエッチング技術により、二酸化ケイ素膜または窒化ケイ素膜を高アスペクト比で微細加工できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ドライエッチング技術では、ケイ素含有部材(基板および膜などを含む)の表面に、高精度で凹部を形成することができる。
【0006】
しかしながら、ドライエッチング技術は、加工速度の点で問題がある。例えば、前述の特許文献1に記載のドライエッチング技術では、二酸化ケイ素膜または窒化ケイ素膜のエッチング速度は、せいぜい~200nm/分のオーダーである。このため、ドライエッチング技術では、凹部を有するケイ素含有部材を迅速に製造することは難しいという問題がある。
【0007】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、より迅速に、凹部を有するケイ素含有部材を製造することが可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、凹部を有するケイ素含有部材の製造方法であって、
(i)ケイ素含有部材の表面の一部に、活性材を設置し、
(ii)加熱環境下で、前記ケイ素含有部材にフッ素系ガスを供給し、
前記(ii)の後に、前記活性材の下側の前記ケイ素含有部材の前記表面に、凹部が形成される、製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、より迅速に、凹部を有するケイ素含有部材を製造することが可能な方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態による凹部を有するケイ素含有部材の製造方法のフローの一例を模式的に示したフロー図である。
【
図2】フォトリソグラフィー法により、ケイ素含有部材の第1の表面に活性材を設置する方法の一例を示した図である。
【
図3】フォトリソグラフィー法により、ケイ素含有部材の第1の表面に活性材を設置する方法の一例を示した図である。
【
図4】フォトリソグラフィー法により、ケイ素含有部材の第1の表面に活性材を設置する方法の一例を示した図である。
【
図5】フォトリソグラフィー法により、ケイ素含有部材の第1の表面に活性材を設置する方法の一例を示した図である。
【
図6】被処理体がホルダに支持された状態で、処理チャンバ内に収容された状態を模式的に示した図である。
【
図7】凹部を有するケイ素含有部材の断面を模式的に示した図である。
【
図8】各種活性材を塗布した基板をフッ化水素ガスでエッチング処理した際のエッチング量の増加率を示したグラフである。
【
図9】二酸化マンガンを塗布した基板のエッチング処理後の断面の一部を示した写真である。
【
図10】基板の表面に設置された活性材のパターンの形態の一部を模式的に示した上面図である。
【
図11】本発明の一実施形態により形成された溝の形態の一例を示した写真である。
【
図12】エッチング処理の際のHFガス濃度と、形成される凹部の深さの関係を示したグラフである。
【
図13】エッチング処理の時間と、形成される凹部の深さの関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0012】
前述のように、従来のドライエッチング技術では、凹部を有するケイ素含有部材を迅速に製造することは難しいという問題がある。
【0013】
係る問題に対処するため、本願発明者らは、ケイ素含有部材をより迅速に微細加工することが可能な方法について、鋭意研究開発を進めてきた。そして、本願発明者らは、ケイ素含有部材の表面に、特定の物質(以下、「活性材」と称する)を設置した状態で、所定の条件下でケイ素含有部材を処理した場合、表面のエッチング速度が有意に向上することを見出し、本願発明に至った。
【0014】
従って、本発明の一実施形態では、
凹部を有するケイ素含有部材の製造方法であって、
(i)ケイ素含有部材の表面の一部に、活性材を設置し、
(ii)加熱環境下で、前記ケイ素含有部材にフッ素系ガスを供給し、
前記(ii)の後に、前記活性材の下側の前記ケイ素含有部材の前記表面に、凹部が形成される、製造方法が提供される。
【0015】
本願において、「ケイ素含有部材」とは、ケイ素を含む全ての被処理対象物、例えば、ケイ素含有基板およびケイ素含有層などを意味する。
【0016】
また、本願において、「凹部」とは、ケイ素含有部材の対象表面のレベルよりも低いレベルを有する形態を意味する。従って、「凹部」には、溝および孔等が含まれる。
【0017】
本発明の一実施形態では、例えば、1μm/分~100μm/分のオーダーの加工速度で、ケイ素含有部材の表面に凹部を形成することができる。なお、この加工速度は、処理の際のフッ素系ガスの濃度、処理時間、処理温度、および活性材の種類等により、制御することが可能である。
【0018】
従って、本発明の一実施形態では、従来のドライエッチング技術に比べて、より迅速に凹部を有するケイ素含有部材を製造できる。
【0019】
なお、現時点では、本発明の一実施形態において、上記のような「高速の」エッチング処理が可能となる理由として、以下のことが考えられる。
【0020】
フッ化水素ガスのようなフッ素系ガスから乖離したフッ素(F)のラジカルは、フッ化水素ガスと比べて、ガラスをはじめとするケイ素含有部材との反応性が高いことが知られている。ただし、通常の場合、フッ化水素ガスは結合エネルギーが大きいため、Fのラジカルへの乖離は困難である。
【0021】
一方、遷移金属は、d軌道に電子を有し、多数の価数状態を取ることができる。また、遷移金属は、しばしば触媒として利用されていることからも明らかなように、容易に複数のエネルギー状態に変化することができる。
【0022】
従って、フッ素系ガスが遷移金属と接触すると、遷移金属の触媒作用により、フッ素系ガスからのFのラジカルの乖離が促進されると考えられる。
【0023】
このような活性なFのラジカルの乖離が促進されることにより、遷移金属とフッ素系ガスが共存する環境下では、従来に比べて有意に高いエッチング速度が得られるものと考えられる。
【0024】
本発明の一実施形態では、比較的簡単に、ケイ素含有部材の表面に、高いアスペクト比の凹部を形成することができる。従って、本発明の一実施形態は、半導体分野において利用される、深い溝および/または孔などの微細加工技術にも適用することができる。
【0025】
なお、従来から知られる高速の凹部形成技術として、レーザ加工技術がある。レーザ加工技術では、ケイ素含有部材の表面にレーザ光を照射し、これを走査させることにより、高精細の溝を加工することができる。
【0026】
しかしながら、レーザ加工技術は、大面積の被加工対象に、一度に多数の溝を形成することには不向きである。
【0027】
これに対して、本発明の一実施形態による製造方法は、従来のリソグラフィ法のような、大面積パターン化技術にも適用することができる。従って、本発明の一実施形態による製造方法は、大面積の表面を有するケイ素含有部材に対しても適用することができる。
【0028】
(本発明の一実施形態による凹部を有するケイ素含有部材の製造方法)
次に、図面を参照して、本発明の一実施形態について、より具体的に説明する。
【0029】
図1には、本発明の一実施形態による凹部を有するケイ素含有部材の製造方法(以下、「第1の製造方法」と称する)の一例を示す。第1の製造方法では、溝を有するケイ素含有部材が製造される。
【0030】
図1に示すように、第1の製造方法は、
(a)ケイ素含有部材の表面の一部に、活性材を設置する工程(S110)と、
(b)加熱環境下で、前記ケイ素含有部材にフッ素系ガスを供給するステップ(S120)と、
を有する。
【0031】
以下、各工程について説明する。
【0032】
(工程S110)
まず、ケイ素含有部材が準備される。
【0033】
ケイ素含有部材は、例えば、ケイ素を含む基板、またはケイ素を含む層の形態であってもよい。また、ケイ素含有部材に含まれるケイ素は、金属状態であっても、酸化物状態であってもよい。例えば、ケイ素含有部材は、シリコン基板またはガラス基板(例えば、石英ガラス)であってもよい。
【0034】
以下の記載では、一例として、ケイ素含有部材がガラス基板である場合を例に、各工程について説明する。
【0035】
次に、活性材が準備される。
【0036】
活性材は、以降の工程S120において、ケイ素含有部材の活性材と接触する部分がエッチングされる限り、その材料は、特に限られない。
【0037】
例えば、活性材は、金属のハロゲン化物、遷移金属、および遷移金属の酸化物からなる群から選定された少なくとも一つを有してもよい。
【0038】
このうち、金属のハロゲン化物としては、例えば、フッ化マンガン、フッ化鉄、フッ化ナトリウム、およびフッ化カルシウムのようなフッ化物が挙げられる。
【0039】
また、遷移金属としては、ニオブ、銀、チタンニッケル、銅、金、コバルト、亜鉛、鉄、およびマンガンなどが挙げられる。遷移金属は、特に、金属マンガンおよび金属鉄であることが好ましい。これらの金属は、工程S120における処理に対して、有意に高い活性を示すためである。
【0040】
また、遷移金属の酸化物としては、二酸化マンガン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化銅、酸化ニッケル、および酸化クロム等が挙げられる。
【0041】
次に、ケイ素含有部材の処理対象表面(以下、「第1の表面」と称する)上に、活性材が設置される。
【0042】
ケイ素含有部材の第1の表面に活性材を設置する方法は、特に限られない。例えば、活性材は、塗布法、コーティング法、印刷法、またはフォトリソグラフィー法等により、第1の表面に設置されてもよい。
【0043】
図2~
図5には、フォトリソグラフィー法により、ケイ素含有部材の第1の表面に活性材を設置する方法の一例を示す。
【0044】
図2に示すように、この方法では、まず、ケイ素含有部材110の第1の表面112に、フォトレジスト層120が設置される。
【0045】
次に、フォトレジスト層120を所定の形状にパターン化する。これにより、
図3に示したようなパターン化されたフォトレジスト121が形成される。例えば、
図3に示した例では、相互に平行に延在する複数の直線状のフォトレジスト121で構成されたパターンが形成される。
【0046】
次に、
図4に示すように、ケイ素含有部材110の第1の表面112に、活性材130が設置される。活性材130の設置方法は、特に限られず、例えば、スパッタリング法等の成膜方法が使用されてもよい。
【0047】
活性材130は、フォトレジスト121と、露出された第1の表面112とを覆うように設置される。
【0048】
その後、パターン化されたフォトレジスト121が除去される。これにより、
図5に示すように、第1の表面112に活性材130の線状パターンが得られる。
【0049】
以降、この活性材130のパターンを有するケイ素含有部材110を、特に「被処理体」140と称する。
【0050】
活性材130の厚さは、例えば、5nm~100nmの範囲であることが好ましい。
【0051】
活性材130の厚さを100nm以下にすることにより、以降の工程S120において、被処理体140の処理速度の低下を抑制することができる。また、活性材130の厚さを5nm以上とすることにより、現実的な速度で、ケイ素含有部材110を加工することができる。
【0052】
(工程S120)
次に、工程S110において調製された被処理体140がエッチング処理される。
【0053】
これに先立ち、被処理体140は、処理チャンバ内に収容されてもよい。
【0054】
図6には、被処理体140がホルダ152に支持された状態で、処理チャンバ150内に収容された状態を模式的に示す。
【0055】
被処理体140のエッチング処理は、被処理体140にフッ素系ガスを供給することにより実施される。例えば、
図6に示した例では、処理チャンバ150内にフッ素系ガスが供給されてもよい。
【0056】
フッ素系ガスは、例えば、フッ化水素ガスおよび/またはフッ素ガスである。
【0057】
フッ素系ガスは、単独で、または他のガスと混合した状態で、処理チャンバ150内に供給されてもよい。例えば、フッ素系ガスは、キャリアガスと混合して、供給されてもよい。キャリアガスは、例えば、窒素および/またはアルゴンガスガスのような、不活性ガスであってもよい。
【0058】
処理チャンバ150内にフッ素系ガスを供給することにより、被処理体140がエッチングされる。
【0059】
エッチング処理の条件は、形成される凹部の形態等によっても変化するが、処理時間は、例えば、5秒~30分の範囲である。フッ素系ガスの濃度は、例えば、0.1vol%~50vol%の範囲である。
【0060】
なお、エッチング処理は、被処理体140または処理チャンバ150内が加熱された状態で実施されることが好ましい。処理温度は、例えば、50℃~1000℃の範囲である。ただし、活性材の種類次第では、処理が室温で実施される場合もあり得る。
【0061】
第1の製造方法では、供給されるフッ素系ガスの濃度、処理温度、および処理時間を制御することにより、被処理体140の処理速度を調整することができる。
【0062】
処理速度は、例えば、1μm/分~100μm/分の範囲であってもよい。
【0063】
図7には、処理後の被処理体140、すなわち凹部を有するケイ素含有部材145の断面を模式的に示す。
【0064】
処理後の被処理体140の表面には、活性材130のパターンに従って、溝状の凹部160が形成される。すなわち、凹部160は、活性材130の下方で、ケイ素含有部材110の第1の表面112から、反対の表面(第2の表面)114に向かって形成される。
【0065】
なお、厳密には、この段階における被処理体140の表面142は、工程S120を実施する前のケイ素含有部材110の第1の表面112とは異なることに留意する必要がある。エッチング処理の際に、僅かではあるが、ケイ素含有部材110の第1の表面112もエッチングされるからである。
【0066】
ただし、通常の場合、工程S120における第1の表面112のエッチング速度は、20nm/分のオーダーである。従って、第1の表面112のエッチング速度は、活性材130の下側でのエッチング速度に比べて、無視できるほど小さい。
【0067】
凹部160のアスペクト比は、処理条件を制御することにより、所望の範囲に調節できる。例えば、凹部160のアスペクト比は、0.1~100の範囲で調整できる。凹部160のアスペクト比は、例えば、1以上、10以上、または20以上である。
【0068】
ここで、アスペクト比は、表面の開口の「最小寸法」に対する凹部の深さとして算定される。また、「最小寸法」は、凹部が溝の場合、溝の最小幅に対応し、凹部が円形の孔の場合、円の直径に対応する。
【0069】
以上の工程により、溝状の凹部160を有するケイ素含有部材145を製造することができる。
【0070】
第1の製造方法では、工程S120において、例えば、10μm/分以上の処理速度で、被処理体140を処理することができる。従って、第1の製造方法では、従来のドライエッチング法に比べて、より迅速に凹部160を有するケイ素含有部材145を製造できる。
【0071】
以上、第1の製造方法を例に、本発明の一実施形態による凹部を有するケイ素含有部材の製造方法について説明した。しかしながら、上記記載は、単なる一例であって、本発明の一実施形態による製造方法は、別の工程を含んでもよい。
【0072】
例えば、上記記載では、凹部160は、複数の直線状の溝で構成される。しかしながら、形成される凹部は、非直線状の溝、および/または孔等であってもよい。
【0073】
その他にも、各種変更が可能である。
【実施例】
【0074】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0075】
(予備試験)
石英ガラス製の基板の上に各種活性材(粉末状)を均一に塗布し、これを処理チャンバ内に設置した。次に、処理チャンバ内にフッ化水素(HF)ガスを供給し、基板のエッチング処理を実施した。
【0076】
HFガスは、窒素ガスと混合して供給した。HFガスの濃度は、20vol%(残りは窒素ガス)である。基板の温度は、800℃とした。
【0077】
60秒間処理した後、基板を取り出し、活性材を洗浄除去した。その後、基板の重量変化量(「W」とする)を測定した。
【0078】
図8には、各活性材において得られた結果をまとめて示す。なお、
図8において、縦軸は、エッチング量の増加率Pで表記した。この増加率Pは、活性材を塗布せず、基板のみをHF処理した際に得られた重量変化量をWrとして、以下の(1)式で求められる:
エッチング量の増加率P=W/Wr (1)式
図8から、今回選定した活性材においては、いずれの場合も、処理後の重量変化量が増加していることがわかる。特に、活性材として、二酸化マンガン、金属マンガン、金属鉄、フッ化マンガン、およびフッ化鉄を使用した実験では、活性材を塗布していない基板に比べて、極めて大きな重量変化が生じることがわかった。
【0079】
図9には、活性材として二酸化マンガンを使用した場合の基板のエッチング処理後の断面の一部を示す。
【0080】
図9から、基板の表面には、塗布した活性材の粒子形状に対応した、半円形状の孔が生じていることがわかる。他の活性材を使用した試験においても、同様の断面が認められた。
【0081】
これらの観察結果から、重量減少は、基板の活性材の直下の部分が消失することにより、生じていることが確認された。
【0082】
(パターン形成試験)
(例1)
以下の方法で、石英ガラス製の基板をエッチング処理し、基板の第1の表面に、平行に延在する複数の直線溝のパターンを形成した。
【0083】
まず、基板の第1の表面上に、活性材の線状パターンを形成した。活性材には、二酸化マンガンを使用した。活性材のパターンは、前述のようなリソグラフィ法により設置した。なお、フォトレジスト上への活性材の成膜は、スパッタリング法により実施した。
【0084】
図10には、基板の第1の表面に設置された活性材のパターンの形態の一部を模式的に示す。
【0085】
図10に示すように、第1の表面512に形成された活性材530は、相互に平行に延在する複数の線の形態を有する。
【0086】
活性材530の幅、すなわち各線の幅は、約10μmであり、線と線の間隔Tは、50μmとした。活性材530の厚さは、約10nmである。
【0087】
次に、HFガスを用いて、活性材のパターンを有する基板をエッチング処理した。
【0088】
HFガスの濃度は、20vol%(残りは窒素ガス)であり、処理温度は、800℃とした。また、処理時間は、5秒とした。
【0089】
処理後に基板を取り出し、洗浄した。
【0090】
これにより、直線溝のパターンを有する基板(以下、「サンプル1」と称する)が得られた。
【0091】
(例2~例19)
例1と同様の方法により、基板の第1の表面に直線溝のパターンを形成した。ただし、これらの例2~例19では、活性材、処理ガス、処理時間、および/または処理温度などを例1の場合とは変化させた。
【0092】
これにより、サンプル2~サンプル19が得られた。
【0093】
(例20)
例1と同様の方法により、基板の第1の表面に直線溝のパターンを形成した。ただし、この例20では、基板として、シリコン基板を使用した。また、処理時間は、60秒とした。
【0094】
これにより、サンプル20が得られた。
【0095】
(例21)
例20と同様の方法により、基板の第1の表面に直線溝のパターンを形成した。ただし、この例21では、処理時間を例20の場合とは変化させた。
【0096】
これにより、サンプル21が得られた。
【0097】
以下の表1には、サンプル1~サンプル21の作製条件をまとめて示した。
【0098】
【表1】
(評価)
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、各サンプルの断面観察を実施した。また、各サンプルにおいて、形成された溝の深さおよびアスペクト比を求めた。さらに、得られた溝の深さから、HF処理のエッチング速度を算定した。
【0099】
以下の表2には、サンプル1~サンプル21において得られた結果をまとめて示した。
【0100】
【表2】
この表2から、いずれのサンプルにおいても、有意に高いエッチング速度が得られていることがわかる。なお、サンプル15は、サンプル1~サンプル21の中で、最もエッチング速度が低い(0.3μm/分)。しかしながら、後述するように、HF濃度、処理時間、および処理温度などを調節することにより、エッチング速度は、所望の範囲に制御することが可能である。
【0101】
図11には、サンプル2において形成された溝の形態の一例を示す。
【0102】
図11から明らかなように、サンプル2では、極めてアスペクト比の高い溝が形成されていることがわかる。溝の深さは、約20μmに及ぶ。特に、サンプル2において、HFガスによる処理時間は、僅か20秒である。従って、サンプル2では、58.5μm/分という、有意に大きなエッチング速度で溝が形成された。
【0103】
このように、本発明の一実施形態では、アスペクト比の高い溝を、従来のドライエッチング法に比べてより迅速に形成できることが確認された。
【0104】
図12には、処理の際のHFガス濃度が、エッチング速度に及ぼす影響を示す。また、
図13には、処理時間がエッチング速度に及ぼす影響を示す。
【0105】
図12は、処理温度を800℃とし、処理時間を60秒とし、活性材として厚さ10nmの二酸化マンガンを使用した際に得られた、HFガス濃度とエッチング速度の関係を示す。また、
図13は、HFガス濃度を20vol%とし、処理温度を800℃とし、活性材として厚さ10nmの二酸化マンガンを使用した際に得られた、HFガス濃度とエッチング速度の関係を示す。
【0106】
これらの図から、エッチング速度は、HFガス濃度および処理時間に対して、線形的に変化することがわかる。
【0107】
このように、エッチング処理の際の条件を調節することにより、基板のエッチング速度を制御できることが確認された。
【符号の説明】
【0108】
110 ケイ素含有部材
112 第1の表面
120 フォトレジスト層
121 パターン化されたフォトレジスト
130 活性材
140 被処理体
142 被処理体の表面
145 凹部を有するケイ素含有部材
150 処理チャンバ
152 ホルダ
160 凹部
512 第1の表面
530 活性材