IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社リコーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】衝撃吸収体および包装体
(51)【国際特許分類】
   B65D 81/02 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
B65D81/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021029026
(22)【出願日】2021-02-25
(65)【公開番号】P2022130071
(43)【公開日】2022-09-06
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100090527
【弁理士】
【氏名又は名称】舘野 千惠子
(72)【発明者】
【氏名】末廣 真也
【審査官】宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】実開平01-076456(JP,U)
【文献】米国特許第03016177(US,A)
【文献】特開2004-001804(JP,A)
【文献】特開2014-231363(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102267596(CN,A)
【文献】米国特許第05151312(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 57/00-59/08
B65D 81/00-81/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天面が閉じられ、底面が開口し、内部が中空である立体構造の衝撃吸収体であって、
前記天面に、前記天面の外形線の間を繋ぐ、少なくとも1つの溝形状が設けられ、
前記天面における前記内部と反対側の面であって前記溝形状を除く外表面は、被包装体と接触して荷重を受ける面であり、
前記溝形状の深さが、前記衝撃吸収体の厚みの2倍以上、かつ、前記衝撃吸収体の前記天面から前記底面までの高さの5分の1以下の範囲であることを特徴とする衝撃吸収体。
【請求項2】
前記溝形状が、2つ以上設けられた
ことを特徴とする請求項1に記載の衝撃吸収体。
【請求項3】
2つの前記溝形状が、直交するように設けられた
ことを特徴とする請求項2に記載の衝撃吸収体。
【請求項4】
前記溝形状の断面形状が、U字と、コの字と、V字とのうちのいずれかの形状である
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の衝撃吸収体。
【請求項5】
前記衝撃吸収体の外形が、角柱状または円柱状である
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の衝撃吸収体。
【請求項6】
前記溝形状を上面から見た形状が、直線と曲線との少なくとも一方を繋ぎ合わせた連続する線で形成されるI字形状または十字形状である
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の衝撃吸収体。
【請求項7】
前記溝形状の幅が、前記衝撃吸収体の厚みの2倍以上、かつ、前記天面の幅の3分の1より小さい長さで設けられる
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の衝撃吸収体。
【請求項8】
前記衝撃吸収体がパルプモールドで形成された
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の衝撃吸収体。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の衝撃吸収体が少なくとも1箇所設けられた包装体。
【請求項10】
前記衝撃吸収体と前記包装体とがパルプモールドで形成された
ことを特徴とする請求項に記載の包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃吸収体および包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
持続可能な地球環境を目指す上での循環型社会の実現に向けた、シングルユースプラスチックの使用量低減、また昨今挙げられている海洋プラスチックごみ問題にあたり、化石資源由来のプラスチック製包装材の使用規制が強まる中で、資源回収性及びリサイクル性が優れるパルプモールド製包装材の使用価値が一層高まっている。
パルプモールド製の包装体において、被包装体が物流過程において受け得る振動・落下衝撃に対し、パルプモールド成型緩衝材の変形・座屈作用により緩衝することで、被包装体に掛かる衝撃即ち衝撃加速度(G’s)を低減する技術が考えられ既に知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかしながら、パルプモールド成型緩衝材を用いる精密機器の包装体において、被包装体の耐衝撃強度が低く、被包装体が破損するという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、被包装体に掛かる衝撃加速度を低減する衝撃吸収体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために、本発明は、天面が閉じられ、底面が開口し、内部が中空である立体構造の衝撃吸収体であって、
前記天面に、前記天面の外形線の間を繋ぐ、少なくとも1つの溝形状が設けられ、
前記天面における前記内部と反対側の面であって前記溝形状を除く外表面は、被包装体と接触して荷重を受ける面であり、
前記溝形状の深さが、前記衝撃吸収体の厚みの2倍以上、かつ、前記衝撃吸収体の前記天面から前記底面までの高さの5分の1以下の範囲であるものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、被包装体に掛かる衝撃加速度を低減する衝撃吸収体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】比較例のパルプモールド製の包装体の一例を説明する図である。
図2】比較例の衝撃緩衝用リブの一例を説明する図である。
図3】比較例の衝撃緩衝リブの側壁部構造が圧縮または圧潰される状態例を説明する図である。
図4】歪みと緩衝係数との関係例を説明するグラフである。
図5】被包装体と緩衝材との配置例を説明する図である。
図6】比較例の衝撃緩衝リブが被包装体から偏荷重を受けた際に生じる問題を説明する図である。
図7】本発明に係る実施形態の衝撃吸収体の一例としての衝撃緩衝リブの構成を説明する図である。
図8】溝形状の大きさを説明する図である。
図9】衝撃緩衝リブの構造を説明する図である。
図10】溝形状の深さが大きい場合の不具合を説明する図である。
図11】衝撃緩衝リブの構造上部の剛性が強化される剛性強化部を説明する図である。
図12】衝撃緩衝リブの側壁部構造が圧縮または圧潰される状態の一例を説明する図である。
図13】衝撃緩衝リブが圧縮または圧潰される状態の他の例を説明する図である。
図14】衝撃緩衝リブが圧縮または圧潰される状態のさらに他の例を説明する図である。
図15】実施形態1の衝撃緩衝リブの構成例を説明する図である。
図16】実施形態2の衝撃緩衝リブの形状例を説明する図である。
図17】実施形態4の衝撃緩衝リブが有する溝形状の一例を説明する図である。
図18】波状に連続する外形線の剛性について説明する図である。
図19】溝形状の幅が大きすぎる場合に生じる不具合を説明する図である。
図20】衝撃緩衝リブを、衝撃緩衝リブの天面部が被包装体に当接するように設けた包装体の一例を説明する図である。
図21】衝撃緩衝リブを、衝撃緩衝リブの開口面側が被包装体に当接するように設けた包装体の一例を説明する図である。
図22】試験に用いた衝撃緩衝リブを説明する図である。
図23】試験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付の図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の実施の形態を説明するための各図面において、同一の機能もしくは形状を有する部材や構成部品等の構成要素については、判別が可能な限り同一符号を付すことにより一度説明した後ではその説明を省略する。
【0009】
以下、被包装体を包装する包装体と、包装体に設けられ、被包装体に掛かる衝撃を吸収する衝撃吸収体との実施形態について説明する。また、包装体の一例としてのパルプモールド製の包装体と、衝撃吸収体の一例としてのパルプモールド製の衝撃緩衝リブと、を適宜用いて説明する。
一般に、パルプモールド緩衝材は、衝撃緩衝機能を成す円柱状または角柱状構造の衝撃緩衝用リブを設けて構成されることを基本としている。
【0010】
まず、比較例を用いて、衝撃緩衝リブの構造について説明する。
図1は、比較例のパルプモールド製の包装体の一例を説明する図である。図2は、比較例の衝撃緩衝用リブの一例を説明する図である。
包装体200pは、パルプモールドにより形成された衝撃緩衝リブ1pを設けている。破線で囲む領域は、被包装体収容空間210pとなる。
衝撃緩衝リブは、円柱状または角柱状の構造において、天面が閉じられ、底面が開口し、内部が中空である立体構造を有する。図2では、(A)に角柱状の衝撃緩衝リブ1pを、(B)に円柱状の衝撃緩衝リブ2pを示す。
【0011】
ここで、比較例の衝撃緩衝リブの衝撃緩衝メカニズムについて説明する。
図3は、比較例の衝撃緩衝リブの側壁部構造が圧縮または圧潰される状態例を説明する図である。図3において、(A)は衝撃緩衝リブ1pの一例であり、(B)は(A)に示すA-A線に沿った衝撃緩衝リブ1pと、衝撃緩衝リブ1pに当接する被包装体300との断面の状態例であり、左側が衝撃を受ける前、右側が衝撃を受けた後を示す。
図3(B)では、(A)に示す衝撃緩衝リブ1pを設けた包装体で、衝撃緩衝リブ1pの天面に被包装体300が接するように包装した包装貨物を用い、包装貨物が衝撃を受けたときに、衝撃緩衝リブ1pが被包装体300から荷重を受けたときの状態例を示す。
【0012】
衝撃緩衝リブにおける衝撃緩衝メカニズムは、図3(B)に示す圧縮・圧潰部15pのように、包装貨物として落下された際に生じる、被包装体から受ける動荷重に対し、主に衝撃緩衝リブ側壁の断面面積で製品動荷重を支え、側壁の構造が圧縮されることに対抗する圧縮または圧潰の応力により、衝撃を緩衝するメカニズムである。
【0013】
一般に、緩衝設計においては、G(衝撃加速度)=C(緩衝係数)×h(落下高さ)/t(緩衝材厚み)の基本式を用いる。図4は、歪みと緩衝係数との関係例を説明するグラフである。
基本式で表されるように、緩衝材の応力特性から決まる緩衝係数Cの値を低くするよう狙うこと、また一方で、包装貨物内部で被包装体の外形が底当たりしないことを考慮した上で、前述の被包装体荷重の支持面積の調整により、衝撃緩衝リブの瞬間歪み量は、通常0.4から0.6となるよう設計される。
図5は、被包装体と緩衝材との配置例を説明する図である。緩衝設計では、包装貨物が衝撃を受けたときに、被包装体の外形が底当たりしないように、被包装体と外箱の底との間に隙間を設けるように緩衝材を配置する。
【0014】
上述した衝撃緩衝リブ構造及び設計技法に従うと、比較例のような既存形態における衝撃加速度の低減限界値は決まってしまう。このため、更なる衝撃緩衝機能の向上にあたっては、緩衝係数値が既存のものよりも低くなる、新たな衝撃緩衝リブ構造を見出すことが望まれる。
また、比較例の衝撃緩衝リブにおいて、衝撃緩衝リブ構造が被包装体から偏荷重を受けた際、本来動荷重により、圧縮また圧潰することで応力が生じ緩衝する機能に対し、構造が曲がるようになり、狙う応力を発揮できないという問題があった。
【0015】
図6は、比較例の衝撃緩衝リブが被包装体から偏荷重を受けた際に生じる問題を説明する図である。図6は、図3(A)に示すA-A線に沿った衝撃緩衝リブ1pと、衝撃緩衝リブ1pに当接する被包装体300との断面の状態例であり、左側が衝撃を受ける前、右側が衝撃を受けた後を示す。図6は、図3と同様の包装貨物を用いている。
図6に示すように、本来圧縮また圧潰により消費されるエネルギー吸収効果が、相対的にエネルギー吸収量が小さい曲げ応力作用で消費される。このため、衝撃緩衝性を損ない、結果として緩衝リブ構造は過度に歪み、被包装体に掛かる衝撃加速度は高くなる。
なお、この問題は、被包装体が落下される毎の姿勢のばらつきや、被包装体の重心位置に従い確率として高頻度で発生し、衝撃緩衝特性が損なわれている状況であった。
なお、図3、6では、角柱状の衝撃緩衝リブ1pを用いて説明しているが、円柱状の衝撃緩衝リブ2pも同様である。
【0016】
上述の課題を解消するため、本発明に係る実施形態の衝撃吸収体の一例は、パルプモールド製の包装体の、衝撃緩衝機能を成す衝撃緩衝リブ構造において、被包装体に掛かる衝撃加速度を低減する構造形態を有するものとする。
衝撃吸収体は、例えば、既存の衝撃緩衝リブ構造における、偏った荷重支持姿勢になることによる、衝撃エネルギー吸収量の損失を解消し、確実に圧縮また圧潰のメカニズムを発揮させる構造形態として、構造の天面に、溝形状を設け、溝形状の大きさを特定する。
【0017】
以下、本発明に係る実施形態の衝撃吸収体の構造及び機能の一例について説明する。
衝撃緩衝リブは、天面が閉じられ、底面が開口し、内部が中空である立体構造であって、構造天面に、天面の外形線上(天面の外側の線上)の間を繋ぐ、1つ以上の溝形状を設けた緩衝構造とする。また、衝撃緩衝リブは、例えば、パルプモールド(パルプモールド緩衝材)により形成される。
図7は、本発明に係る実施形態の衝撃吸収体の一例としての衝撃緩衝リブの構成を説明する図である。図7では、(A)に、溝形状11を設けた角柱状の衝撃緩衝リブ1を示し、(B)に、溝形状21を設けた円柱状の衝撃緩衝リブ2を示す。以降の説明では、衝撃緩衝リブ1を主に参照して説明するが、衝撃緩衝リブ2も特に明記しない限り同様の特徴を有する。
【0018】
また、衝撃緩衝リブ1は、溝形状11の大きさを特定する。
図8は、溝形状の大きさを説明する図である。
図9は、衝撃緩衝リブの構造を説明する図である。図9では、(A)は衝撃緩衝リブ1の一例であり、(B)は(A)に示すB-B線に沿った衝撃緩衝リブ1の断面を示す。
【0019】
溝形状11は、深さhbを、衝撃緩衝リブ1の厚みtの2倍以上、かつ、衝撃緩衝リブ1の構造高さhaの1/5以下の範囲とするとよい。
ここで、衝撃緩衝リブ1および溝形状11に関係する距離を、例えば、以下のように設定する。
【0020】
溝形状11の深さhbは、天面から溝の底までの距離とする。
溝形状11の長さlgは、溝形状11が形成された、天面の外形線上の2箇所の間を繋いた距離とする。
溝形状11の幅bbは、天面における溝形状11の長さlgと交わる方向(直交する方向)の距離とする。
天面の幅baは、溝形状11の幅bbと同じ方向で、天面の外形線上の2箇所を繋いだ距離とし、一つに決まらないときには、最も長い距離(例えば、円形のときには直径の長さ)とする。
【0021】
衝撃緩衝リブ1の厚みtは、内部を中空とする立体構造の厚さとする。また、立体構造の厚さが場所により異なる場合には、例えば、最小値以上最大値以下の範囲の値を用いるものとし、一つに定めなくてもよい。このとき、最小値以上最大値以下の範囲の値を、天面あるいは剛性強化部13(図11参照)などの厚さに限定して用いてもよい。図9(B)に衝撃緩衝リブ1の厚みtの一例を示す。
【0022】
溝形状11の深さhbを、衝撃緩衝リブの厚みtの略2倍以上の深さにすると、剛性強化の程度を確実に確保し、狙いの効果を発揮させるために、溝形状11が成型時に明確に設けられることを確保できる。これは、部材の厚み同等また略2倍以下に設定された場合においては、成型時のばらつき等から、溝形状11が明確に形成されないケースが懸念されるからである。
【0023】
また、溝形状11の深さhbを、衝撃緩衝リブ1の構造高さhaの略1/5以下にすると、溝形状11の深さが大きいことにより生じる不具合を抑制できる。図10は、溝形状11の深さが大きい場合の不具合を説明する図である。詳細には、溝部が衝撃緩衝リブ1の構造高さhaの1/5より深い場合(図10(A))、溝部の支点111の位置が中央に寄ることから、後述の剛性強化部13が溝側に倒れる、狙いとする作用が生じ難くなる。
一方で、溝形状11の深さが極端に大きい場合(図10(B))、剛性強化部13の長さが大きいことにより構造的に内側に倒れ易くなりすぎるようになり、安定して圧縮・圧潰を促す効果を損失する。加えて、衝撃緩衝リブ1は、その構造高さhaの半分程度を変形させて衝撃を緩衝することから、溝形状11の深さが極端に大きい場合(図10(C))、変形にあたり、溝部が底当たりすることで衝撃緩衝効果を阻害する不具合が生じる。
【0024】
また、衝撃緩衝リブ1は、図11に示すように、溝形状11の底の位置から天面までの上方部分において、剛性が強化される剛性強化範囲となる剛性強化部13を有する。図11は、衝撃緩衝リブの構造上部の剛性が強化される剛性強化部を説明する図である。剛性強化部13は、溝形状11の設置で側壁が増えること等により、二つの矢印で示す、曲がり難い曲げ方向を有する。曲がり難い曲げ方向は、溝形状11に応じて異なるが、図11では、例えば、溝形状11の長さ方向に沿った円弧状の方向または溝形状11の長さ方向に沿った方向となる。
【0025】
このようにすると、緩衝メカニズムにおいて、剛性の高い上部構造が変形することなく、剛性強化部13が溝側に適度に倒れながら下部の外壁構造の断面に対して垂直に被包装体の動荷重を加えることができ、被包装体の衝撃エネルギーを十分に吸収し、衝撃緩衝性を向上することができる。
なお、上述する溝形状の大きさにすることで、構造上部の剛性強化と、溝が深すぎることにより適度に溝側に倒れる作用が損失することの抑制と、を両立して発揮することができる。
これにより、偏った荷重支持姿勢になることによる、衝撃エネルギー吸収量の損失を解消し、確実に圧縮また圧潰のメカニズムを発揮させる構造形態とし、天面周りの上部構造の剛性を強化することができる。
【0026】
また、偏荷重を受けた際、剛性の高い衝撃緩衝リブ1の上部が倒れて曲がることなく、傾かず安定して側壁断面の垂直方向に荷重が加わり、狙いとする圧縮また圧潰応力を発揮させることが可能である。
図12は、衝撃緩衝リブの側壁部構造が圧縮または圧潰される状態の一例を説明する図である。図12は、図9(A)に示すB-B線に沿った衝撃緩衝リブ1と、衝撃緩衝リブ1に当接する被包装体300との断面の状態例であり、左側が衝撃を受ける前、右側が衝撃を受けた後を示す。
図12では、図9(A)に示す衝撃緩衝リブ1を設けた包装体で、衝撃緩衝リブ1の天面に被包装体300が接するように包装した包装貨物を用い、包装貨物が衝撃を受けたときに、衝撃緩衝リブ1が被包装体300から偏荷重を受けたときの状態例を示す。
溝形状11を有する衝撃緩衝リブ1を包装体に設けた場合には、被包装体300から偏荷重を受けたときにも、圧縮・圧潰部15を生じさせるにとどまり、図6に示すような、曲げ・屈曲部を生じさせることがなくなる。
従って、衝撃エネルギー吸収量の損失は解消し、被包装体に掛かる衝撃加速度を低減することができる。
【0027】
なお、衝撃緩衝リブは、図9(B)に示すように、成型上テーパー(α度、例えば、5度)を設けていることから、剛性強化部13を基点に圧縮また圧潰が進むにつれ、剛性の高い領域が側壁の間に沈み込むような懸念(例えば、図13の状態)が生じる。
図13は、衝撃緩衝リブが圧縮または圧潰される状態の他の例を説明する図である。図13では、(A)は衝撃緩衝リブ1の一例であり、(B)は(A)に示すC-C線に沿った衝撃緩衝リブ1と、衝撃緩衝リブ1に当接する被包装体300との断面の状態例であり、圧縮・圧潰部15と曲げ・屈曲部17とが生じた状態を示す。図13は、図12と同様の包装貨物を用いている。
【0028】
図14は、衝撃緩衝リブが圧縮または圧潰される状態のさらに他の例を説明する図である。図14では、図13(A)に示すC-C線に沿った衝撃緩衝リブ1と、衝撃緩衝リブ1に当接する被包装体300との断面を示す。図14は、図12と同様の包装貨物を用いている。
図14に示すように、空けられた溝形状11の空隙に溝形状11の支柱部113が倒れるようにして自然に姿勢を修正し、衝撃緩衝リブ1の側壁に荷重を加えることが可能であり、緩衝メカニズムにおいて、剛性の高い上部構造が変形することなく、溝形状11の支柱部113が溝側に適度に倒れながら下部の外壁構造の断面に対して垂直に被包装体の動荷重を加える。
従って、衝撃緩衝リブが確実に圧縮または圧潰されることを促すことができ、衝撃エネルギー吸収量の損失は解消し、被包装体に掛かる衝撃加速度を低減することができる。
以下、上述した溝形状を有する衝撃緩衝リブの各実施形態について説明する。
【0029】
実施形態1.
実施形態1では、2以上の溝形状を設けた衝撃緩衝リブについて説明する。
図15は、実施形態1の衝撃緩衝リブの構成例を説明する図である。
衝撃緩衝リブ1aは、溝形状11が2つ設けられている。衝撃緩衝リブ1aは、溝形状11を増やすことにより、剛性をさらに強化することができる。
また、2つの溝形状が、交差するように設けられるとよく、特に、直交するように設けられることが好ましい。
このようにすると、衝撃緩衝リブ1a上部の剛性強化により確実に狙いの効果を発揮し、また空けられた溝形状の空隙に、溝形状の支柱部が倒れる作用が複数方向で柔軟に発揮でき、狙いの効果を最大限に発揮することができる。
衝撃緩衝リブ1a上部の剛性強化部13を拡大する構造とすることになり、狙いの効果を最大限に発揮させることができる。
【0030】
1つの溝形状11は、例えば、天面の外形線上の2箇所の間を繋ぎ、天面を2つの領域に分けるように形成される。また、溝形状11は、天面を略均等に分割するように形成されるとよい。
2以上の溝形状を有する衝撃緩衝リブとして、溝形状は、例えば、天面の外形線上の3箇所以上の間を繋ぎ、天面を3つ以上の領域に分けるように形成されてもよい。
複数の溝形状は、相互に交わるものに限られることはなく、例えば、外形線上の4箇所を、2箇所の間を繋ぐ溝と、他の2箇所の間を繋ぐ溝とが交わることなく、天面の領域を3つの領域に分けるものであってもよい。
【0031】
実施形態2.
実施形態2では、溝形状11の断面形状の変形例について説明する。
溝形状11の断面形状は、例えば、U字、コの字、またはV字形状としてもよい。溝形状11の断面形状は、衝撃緩衝リブ1の天面から溝形状11の底までの、溝の凹みの形状であり、例えば、溝形状11の壁面と底とからなる形状(U字形状、コの字形状)、または、溝形状11の壁面からなる形状(V形状)とする。また、溝の壁面と底とからなる形状において、溝の壁面は、V字形状のように傾斜していてもよい。
図16は、実施形態2の衝撃緩衝リブの形状例を説明する図である。
【0032】
実施形態3.
実施形態3では、衝撃緩衝リブの外形について図7を参照して説明する。
衝撃緩衝リブは、内部が中空である立体構造の外形(衝撃緩衝リブの外形)を、角柱状または円柱状とするとよい。図7において、(A)は角柱状の衝撃緩衝リブ1の一例であり、(B)は円柱状の衝撃緩衝リブ2の一例である。
【0033】
角柱状は、例えば、角錐台(例えば、図7(A))または角柱とする。また、天面または底面の形状は、多角形状とし、多角形状の一部分に直線または曲線による変形部分(例えば、凹凸形状)を有する形状であってもよい。
円柱状は、例えば、円錐台(例えば、図7(B))または円柱とする。また、天面または底面の形状は、円形または楕円形を基本とし、円形または楕円形の一部に直線または曲線による変形部分を有する形状であってもよい。
【0034】
実施形態4.
実施形態4では、溝形状の変形例を説明する。
溝形状を上面から見た形状は、直線と曲線との少なくとも一方(直線、曲線、または、曲線及び直線のいずれか)を連続的に繋ぎ合わせた波状に連続する外形線で形成され、形成された外形線がI字形状または十字形状であるとよい。ここで、溝形状を上面から見た形状は、天面と同じ面の形状とし、例えば、溝形状11が天面から溝の底に向かって変形するときには、溝の底の形状が天面側の形状と異なっていてもよい。
【0035】
図17は、実施形態4の衝撃緩衝リブが有する溝形状の一例を説明する図である。図17では、四角錐台の衝撃緩衝リブに形成される溝形状の一例を示したものであり、(A)は直線のI字形状、(B)は直線の十字形状、(C)は直線および曲線のI字形状、(D)は直線および曲線の十字形状、の一例を示す。
このような形状にすると、剛性強化の効果を確保することができる。
なお、図17(C)、(D)に示すような溝形状では、衝撃緩衝リブ1の外形が円錐台の場合には、溝形状11の端部が曲線となり、溝形状は、曲線を繋ぎ合わせた波状に連続する外形線といえる。
【0036】
図18は、波状に連続する外形線の剛性について説明する図である。
図18に示すように、溝形状が波状に連続する外形線に形成された場合には、多方向から受ける力に対して剛性が強化され、より確実に狙いの効果を発揮させることができる。
【0037】
実施形態5.
実施形態5では、溝形状11の幅について説明する。衝撃緩衝リブ1および溝形状11に関する距離は、図8、9に示している。
溝形状11の幅bbは、衝撃緩衝リブの厚みtの略2倍以上の長さで設けられるとよい。
衝撃緩衝リブ1は、剛性強化部13が溝形状11に適度に倒れることで効果を発揮する(図10、14等参照)。このため、溝形状11の両側に位置する、双方の剛性強化部13が溝側に倒れてもそれぞれが干渉しないようにすることが望まれる。従って、剛性強化部13の間に存在する溝形状11は、溝形状11の幅bbに十分な距離を設けることが好ましい。
【0038】
一方で、溝形状11の幅bbは、衝撃緩衝リブ1の天面の幅baの略1/3より小さい長さで設けられるとよい。
図19は、溝形状の幅が大きすぎる場合に生じる不具合を説明する図である。
衝撃緩衝リブ1は、溝形状11の両側に位置する、双方の剛性強化部13の幅が小さいことにより、溝側に倒れ易くなりすぎる状態を回避することが望まれる。従って、溝形状11の幅bbを適正な長さとすることにより、本来の効果を損なう不具合を抑制できる。
【0039】
上述したように、溝形状11の幅bbは、衝撃緩衝リブの厚みtの略2倍以上の長さ、かつ、衝撃緩衝リブ天面の幅baの略1/3より小さい長さとすることがより好ましい。
【0040】
実施形態6.
実施形態6では、上記各実施形態の衝撃緩衝リブを設置した、パルプモールド製の包装体について説明する。
包装体は、上述の衝撃緩衝リブを少なくとも1箇所設ける。このようにすると、上述の衝撃緩衝リブの効果を奏することができる。
【0041】
また、包装体は、衝撃緩衝リブを、衝撃緩衝リブの天面部が被包装体に当接するように設けるとよい。図20は、衝撃緩衝リブを、衝撃緩衝リブの天面部が被包装体に当接するように設けた包装体の一例を説明する図である。包装体200は、被包装体収容空間210に被包装体を収納すると、衝撃緩衝リブ1の、溝形状11が設けられた天面が被包装体に当接するように構成される。
このようにすると、被包装体の意図した位置に荷重を加えるにあたり有効な配置構成とすることができる。
【0042】
さらに、包装体は、衝撃緩衝リブを、衝撃緩衝リブの開口面側(底面側)が被包装体に当接するように設けるとよい。図21は、衝撃緩衝リブを、衝撃緩衝リブの開口面側が被包装体に当接するように設けた包装体の一例を説明する図である。図21は、包装体200を被包装体収納空間と反対側から見た図であり、衝撃緩衝リブ1の、溝形状11が設けられた天面が配置されている状態を示している。
このようにすると、被包装体の側面がフラットである場合、包装体の製品収容面と被包装体側面を面接触することで、安定的に製品を保持することができる。
さらに加えて、上述の包装体を、例えば、画像形成システム製品に用いるとよい。
【0043】
その他の実施形態.
上記各実施形態では、パルプモールド製の包装体と、パルプモールドで形成された衝撃緩衝リブとを用いて説明したが、パルプモールド製に限られるものではない。衝撃吸収体と包装体とは、例えば、他の材質の緩衝材(例えば、非樹脂製のプラスチック緩衝材)を用いてもよい。
【0044】
上記各実施形態で説明した通り、本発明に係る実施形態の衝撃吸収体の一例としての衝撃緩衝リブ、および衝撃緩衝リブを設けた包装体によれば、被包装体に高い衝撃力が掛からない構造形態を適用することで、被包装体が破損する問題を解消する効果が発揮できる。
また、前述の効果により、被包装体を保護する包装体としての品質が格段に向上し、お客様に製品を破損無く届けることに繋がる。
さらに、パルプモールド緩衝材における従来の固有課題を解消することで、資源回収性及びリサイクル性が優れる材料の使用を促進でき、循環型社会の実現やプラスチック環境問題の解消に向け、貢献度を高めることができる。
【0045】
以下、実施形態および比較例の衝撃緩衝リブを用いた検証結果について説明する。
<試験の内容>
試験では、比較例の衝撃緩衝リブを設けた包装体と、実施形態の衝撃緩衝リブを設けた包装体とを用いて、被包装体の応答加速度を測定した。
図22は、試験に用いた衝撃緩衝リブを説明する図であり、(A)は比較例の衝撃緩衝リブ、(B)は実施形態の衝撃緩衝リブである。
【0046】
比較例として、既存のベーシック構造の四角錐台の衝撃緩衝リブ1pを用いた。実施形態の衝撃緩衝リブとして、溝形状11を設けた四角錐台の衝撃緩衝リブ1を用いた。
以下条件の落下テストを行い、衝撃応答加速度を測定した。
・ウェイト:m1=1.02kg アルミ材
・緩衝材:段ボール古紙パルプモールド緩衝材 厚みt=2mm
・条件:80cm 自由落下
【0047】
<試験結果>
図23は、試験結果を示す表である。
試験NoのN1からN5の5回の試験を行い、製品外部部品衝撃応答加速度(G’s)を測定し、平均加速度(G’s)と、測定値標準偏差(1δ)とを算出した。
衝撃応答加速度は、平均加速度で、比較例の50.76G’sに対し、実施形態では43.79G’sとなった。
また、ばらつきを示す測定値標準偏差は、比較例の6.97に対し、実施形態では、半減の3.16となった。
このように、相対的に優れる結果を得た。
【0048】
なお、本発明は上記に示す実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲において、上記実施形態の各要素を、当業者であれば容易に考えうる内容に変更、追加、変換すること、上記各実施形態を適宜組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0049】
1、1a、2 衝撃緩衝リブ
11、21 溝形状
13 構造強化範囲
15 圧縮・圧潰部
17 曲げ・座屈部
111 支点
113 支柱部
200 包装体
210 被包装体収容空間
300 被包装体
【先行技術文献】
【特許文献】
【0050】
【文献】特開2007‐022591号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23