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  • 特許-R-T-B系焼結磁石の製造方法 図1A
  • 特許-R-T-B系焼結磁石の製造方法 図1B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】R-T-B系焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20241008BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20241008BHJP
   C22C 18/00 20060101ALI20241008BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20241008BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20241008BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241008BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20241008BHJP
   C22C 28/00 20060101ALN20241008BHJP
   C22C 19/03 20060101ALN20241008BHJP
   C22C 19/07 20060101ALN20241008BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 170
C22C18/00
C22C33/02 K
B22F3/24 K
B22F1/00 Y
C22C38/00 303D
C22C28/00 A
C22C28/00 B
C22C38/00 302Z
C22C19/03 Z
C22C19/07 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021032885
(22)【出願日】2021-03-02
(65)【公開番号】P2022133926
(43)【公開日】2022-09-14
【審査請求日】2024-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】石井 倫太郎
(72)【発明者】
【氏名】國吉 太
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-504769(JP,A)
【文献】特開2012-044203(JP,A)
【文献】特開2012-043968(JP,A)
【文献】特開2016-189398(JP,A)
【文献】特開2015-070142(JP,A)
【文献】特開2016-152247(JP,A)
【文献】特開2020-013975(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0013529(US,A1)
【文献】特開2012-169464(JP,A)
【文献】国際公開第2011/070827(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 1/057
C22C 18/00
C22C 33/02
B22F 3/24
B22F 1/00
C22C 38/00
C22C 28/00
C22C 19/03
C22C 19/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R-T-B系(Rは希土類元素のうち少なくとも1種であり、NdおよびPrの少なくとも1種を含む。Tは遷移金属元素のうち少なくとも1種であり、Feを必ず含む。Bは硼素である)合金粉末を準備する工程と、
前記R-T-B系合金粉末を成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体の表面の少なくとも一部にRH(RHはTb、DyおよびHoからなる群から選択された少なくとも1つ)を含む合金粉末を付着させる付着工程と、
前記付着工程後の成形体を900℃以上1000℃未満の範囲の温度で10時間以上100時間未満の範囲の時間で加熱する焼結工程と、を含み、
前記焼結工程は、前記合金粉末のメジアン径をd50(μm)、
前記焼結工程における加熱温度をT(℃)、焼結時間をt(h)、
得られた焼結体における、総希土類量から、酸化物、窒化物および炭化物として消費される分の希土類量を差し引いた希土類量を有効希土類量Reff(mass%)とするとき、
40×d50-10×Reff-0.65×t+1155≦T≦40×d50-10×Reff-0.65×t+1175の関係が成立する、
R-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記焼結工程において、前記付着工程後の成形体を950℃以上990℃以下の範囲の温度で50時間以上80時間以下の範囲の時間で加熱する、請求項1に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はR-T-B系焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、希土類系焼結磁石は、高い需要を示しており、その中でも、R-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素のうち少なくとも1種であり、NdおよびPrの少なくとも1種を含む。Tは主にFeであり、Bは硼素である)は、最も高性能な磁石として知られており、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)、電気自動車用(EV、HV、PHVなど)モータ、産業機器用モータなどの各種モータや家電製品などに使用されている。
【0003】
R-T-B系焼結磁石は、主としてR14B化合物からなる主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相とから構成されている。主相であるR14B化合物は、高い飽和磁化と異方性磁界を持つ強磁性材料であり、R-T-B系焼結磁石の特性の根幹をなしている。
【0004】
高温では、R-T-B系焼結磁石の保磁力HcJ(以下、単に「HcJ」という場合がある)が低下するため、不可逆熱減磁が起こる。そのため、特に電気自動車用モータに使用されるR-T-B系焼結磁石では、高いHcJを有することが要求されている。
【0005】
R-T-B系焼結磁石において、R14B化合物中のRに含まれる軽希土類元素RL(例えば、NdやPr)の一部を重希土類元素RH(例えば、TbやDy)で置換すると、HcJが向上することが知られている。RHの置換量の増加に伴い、HcJは向上する。しかし、R14B化合物中のRLをRHで置換すると、R-T-B系焼結磁石のHcJが向上する一方、残留磁束密度B(以下、単に「B」という場合がある)が低下する。
そこで近年、(焼結後の)R-T-B系焼結磁石表面から内部にRHを拡散させて主相結晶粒の外殻部にRHを濃化させることで、Bの低下を抑制しつつ、高いHcJを得る方法が提案されている。
【0006】
特許文献1には、DyおよびTb等のRHを含有する粉末を、焼結体表面に存在させた状態で、焼結温度よりも低い温度で加熱することで、前記粉末からDyおよびTb等を焼結体に拡散してHcJを向上させる方法が開示されている。
【0007】
特許文献2には、RHを含むR-M合金粉末をR-T-B系焼結磁石表面に存在させた状態で熱処理し焼結磁石へ拡散させてHcJを向上させる方法が開示されている。
【0008】
特許文献3には、R-T-B系焼結磁石の表面に粘着剤を塗布し、RL-RH-M合金または化合物の粉末を付着させて熱処理し焼結磁石へ拡散させてHcJを向上させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2008-147634号公報
【文献】特開2008-263179号公報
【文献】国際公開第2018/030187号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1~3に記載の方法により、高いBと高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石を得ることができるものの、新たに拡散工程が必要となるため、量産工程が煩雑になる。
【0011】
そこで本開示は、量産工程が煩雑になることを回避しつつも、高いBと高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石が得られる製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法は、例示的な実施形態において、R-T-B系(Rは希土類元素のうち少なくとも1種であり、NdおよびPrの少なくとも1種を含む。Tは遷移金属元素のうち少なくとも1種であり、Feを必ず含む。Bは硼素である)合金粉末を準備する工程と、前記R-T-B系合金粉末を成形して成形体を得る成形工程と、前記成形体の表面の少なくとも一部にRH(RHはTb、DyおよびHoからなる群から選択された少なくとも1つ)を含む合金粉末を付着させる付着工程と、前記付着工程後の成形体を900℃以上1000℃未満の範囲の温度で10時間以上100時間未満の範囲の時間で加熱する焼結工程と、を含み、前記焼結工程は、前記合金粉末のメジアン径をd50(μm)、前記焼結工程における加熱温度をT(℃)、焼結時間をt(h)、得られた焼結体における、総希土類量から、酸化物、窒化物および炭化物として消費される分の希土類量を差し引いた希土類量を有効希土類量Reff(mass%)とするとき、40×d50-10×Reff-0.65×t+1155≦T≦40×d50-10×Reff-0.65×t+1175の関係が成立する。
【0013】
ある実施形態において、前記焼結工程において、前記付着工程後の成形体を950℃以上990℃以下の範囲の温度で50時間以上80時間以下の範囲の時間で加熱する。
【発明の効果】
【0014】
本開示の実施形態によると、量産工程が煩雑になることを回避しつつも、高いBと高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石が得られる製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】R-T-B系焼結磁石の一部を拡大して模試的に示す断面図である。
図1B図1Aの破線矩形領域内を更に拡大して模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、本開示によるR-T-B系焼結磁石の基本構造について説明をする。R-T-B系焼結磁石は、原料合金の粉末粒子が焼結によって結合した構造を有しており、主としてR14B化合物粒子からなる主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相とから構成されている。
【0017】
図1Aは、R-T-B系焼結磁石の一部を拡大して模式的に示す断面図であり、図1B図1Aの破線矩形領域内を更に拡大して模式的に示す断面図である。図1Aには、一例として長さ5μmの矢印が大きさを示す基準の長さとして参考のために記載されている。図1Aおよび図1Bに示されるように、R-T-B系焼結磁石は、主としてR14B化合物からなる主相12と、主相12の粒界部分に位置する粒界相14とから構成されている。また、粒界相14は、図1Bに示されるように、2つのR14B化合物粒子(グレイン)が隣接する二粒子粒界相14aと、3つのR14B化合物粒子が隣接する粒界三重点14bとを含む。典型的な主相結晶粒径は磁石断面の円相当径の平均値で3μm以上10μm以下である。主相12であるR14B化合物は高い飽和磁化と異方性磁界を持つ強磁性材料である。したがって、R-T-B系焼結磁石では、主相12であるR14B化合物の存在比率を高めることによってBを向上させることができる。R14B化合物の存在比率を高めるためには、原料合金中のR量、T量、B量を、R14B化合物の化学量論比(R量:T量:B量=2:14:1)に近づければよい。
また、主相であるR14B化合物のRの一部をDy、Tb、Hoなどの重希土類元素で置換することによって飽和磁化を下げつつ、主相の異方性磁界を高められることが知られている。特に二粒子粒界相と接する主相外殻は磁化反転の起点となりやすいため、主相外殻に優先的に重希土類元素を置換できる重希土類拡散技術によれば、飽和磁化の低下を抑制しつつ効率的に高いHcJが得られる。
【0018】
本発明者らは鋭意検討した結果、R-T-B系合金粉末を成形体の表面にRH(RHはTb、DyおよびHoからなる群から選択された少なくとも1つ)を含む合金粉末を付着させた後、所定条件のもとで焼結工程を実行することにより、別途の拡散工程を不要としつつも、高いBと高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石が得られることを見出した。これは、焼結を行いつつも、同時にRHを含む合金粉末におけるRHを主相結晶粒12の中央部にほとんど導入させずに主相結晶粒12の外殻部へ導入させることができるからだと考えられる。
【0019】
(R-T-B系焼結磁石)
本開示のR-T-B系焼結磁石は、例えば以下の組成を有する。
R:27~35mass%、
B:0.80~1.20mass%、
Ga:0~1.0mass%、
Cu:0~0.5mass%、
T:60mass%以上を含有する。
【0020】
(R:27~35mass%)
Rは希土類元素のうち少なくとも1種であり、NdおよびPrの少なくとも1種を含む。Rが27mass%未満では焼結過程で液相が十分に生成せず、焼結体を充分に緻密化することが困難になる可能性がある。一方、Rが35mass%を超えると焼結時に粒成長が起こり、HcJが低下する可能性がある。Rの含有量は、好ましくは29.5~33.0mass%である。Rがこのような範囲であれば、より高いBを得ることができる。
【0021】
(B:0.80~1.20mass%)
Bが0.80mass%未満であると、Bが低下する可能性がある。一方、Bが1.20mass%を超えるとHcJが低下する可能性がある。Bの含有量は、好ましくは0.88~0.90mass%である。Bがこのような範囲であれば、より高いHcJが得られる。
【0022】
(Ga:0~1.0mass%)
Gaの含有量は、0~1.0mass%が好ましく、より好ましくは、0.2~0.7mass%である。Gaがこのような範囲であれば、より高いHcJが得られる。
【0023】
(Cu:0~0.50mass%)
Cuの含有量は、0~0.50mass%が好ましく、より好ましくは0.05~0.30mass%である。Cuがこのような範囲であれば、より高いHcJが得られる。
【0024】
(T:60mass%以上)
Tは遷移金属元素のうち少なくとも1種であり、Feを必ず含む。
焼結磁石中のTの含有量は61.5~69.5質量%が好ましい。また、Tの全量を100質量%としたとき、その10質量%以下をCoで置換できる。例えば、Tの全量の90質量%がFeであり、10質量%がCoであり得る。また、Tの全量(100質量%)をFeにしてもよい。Coを含有することにより耐食性を向上させることができるが、Coの置換量がFeの10質量%を超えると、高いBが得られない可能性がある。
本発明の焼結磁石は、任意のその他の元素を更に含んでよい。
【0025】
以下、R-T-B系焼結磁石の製造方法について説明する。
(1)R-T-B系合金粉末を準備する工程
目標組成となるようにそれぞれの元素の金属または合金を準備し、これらをストリップキャスティング法等を用いてフレーク状の合金を製造する。R-T-B系合金粉末は、RHを含有してもよいが、R-T-B系合金粉末におけるRH濃度は、成形体に付着させるRHを含む合金粉末におけるRH濃度より低いことが好ましい。RHを含む合金粉末におけるRH濃度よりもR-T-B系合金粉末のRH濃度を低く設定することにより、RHを含む合金におけるRHをより成形体内部に導入させることができる。
得られたフレーク状の合金を水素粉砕し、粗粉砕粉のサイズを例えば1.0mm以下とする。次に、粗粉砕粉をジェットミル等により微粉砕することで、例えばメジアン径d50(気流分散法によるレーザー回折法で得られた値)が2.5μm≦d50≦4.5μmの微粉砕粉(合金粉末)を得る。なお、ジェットミル粉砕前の粗粉砕粉、ジェットミル粉砕中およびジェットミル粉砕後の合金粉末に、助剤として公知の潤滑剤を使用してもよい。d50は、気流分散式レーザー回折法(JIS Z 8825:2013年改訂版に準拠する)により測定することができる。すなわち、本開示において、d50は、小粒径側からの積算粒度分布(体積基準)が50%となる粒径(メジアン径)を意味する。
なお本開示におけるd50は、Sympatec社製の粒度分布測定装置「HELOS&RODOS」において
分散圧:4bar
測定レンジ:R2
計算モード:HRLD
の条件にて測定されたd50を示す。
【0026】
(2)成形工程
得られた合金粉末を用いて磁界中成形を行い、成形体を得る。磁界中成形は、金型のキャビティー内に乾燥した合金粉末を挿入し、磁界を印加しながら成形する乾式成形法、金型のキャビティー内に該合金粉末を分散させたスラリーを注入し、スラリーの分散媒を排出しながら成形する湿式成形法を含む既知の任意の磁界中成形方法を用いてよい。
【0027】
(3)付着工程
RHを含む合金粉末として、例えば、RL-RH-M(Mは0mol%を含む)合金粉末を用意する。ここで、RLは軽希土類元素の少なくとも一種であり、Nd及びPrの少なくとも1種を含む。RHはTb、DyおよびHoからなる群から選択された少なくとも1つである。RLはNd及びPrの少なくとも1種を含むが、例えば、La及びCeの少なくとも1種を含んでもよい。MはCuを含むことが好ましい。その他のM元素として例えば、Ga、Al、Zn、Fe、Co、Niから選ばれる1種類以上を含んでもよい。RLおよびRHの合計の含有量は、RL-RH-M合金粉末全体の25mol%以上100mol%以下であり、好ましくはRL-RH-M合金粉末全体の50mol%以上100mol%以下である。
RL-RH-M合金粉末の作製方法は特に限定されない。鋳造法で作製したインゴットを粉砕してもよく、公知のアトマイズ法で作製してもよい。
また、RHを含む合金粉末として、RHを含むフッ化物、酸化物、酸フッ化物を用いてもよい。RHを含む合金粉末の形状は、特に限定されず、任意である。RH化合物は、フィルム、箔、粉末、ブロック、粒子などの形状をとり得る。また、RHを含む合金粉末のサイズは、1mm以下が好ましい。1mm以下とすることで、成形体内部へRHを導入させやすくなる。
【0028】
成形体の表面の少なくとも一部にRHを含む合金粉末を付着させる方法は、任意の方法で可能である。例えば、RHを含む合金粉末を成形体の表面に散布することにより付着させてもよく、RHを含む合金粉末を溶媒に分散させ、そのスラリーを成形体へ塗布することにより付着させてもよい。付着量は、RHを含む合金粉末が付着された成形体全体に対するRHを含む合金粉末の質量比が0.1mass%以上5.0mass量%以下である。この付着量に調整することにより、高いBと高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石を得ることができる。
【0029】
(4)焼結工程。
焼結工程で成形体を焼結しつつ、同時にRHを含む合金粉末におけるRHを成形体内部へ導入する。これにより新たに拡散工程を行わなくともよいため、量産工程が煩雑にならない。R-T-B系焼結磁石は、従来、組成にもよるが所望の磁気特性を得るために十分に焼結がされるように1100℃付近で行われる。しかし、この温度でRHを含む合金粉末におけるRHを成形体内部へ導入させると、主相結晶粒の中央部にRHが導入されてしまい、高いBと高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石を得ることができない。主相結晶粒の内部への導入を抑制するためには、1000℃未満で加熱する必要がある。しかし、上述したように焼結には1100℃付近の加熱が必要であるため、1000℃未満では十分な焼結が出来ずに磁気特性が低下してしまう。そのため、焼結と効果的なRHの成形体内部への導入を同時に行うことは困難だと考えられてきた。これに対し、本発明者らは検討の結果、前記付着工程後の成形体を900℃以上1000℃未満の範囲の温度で10時間以上100時間未満の範囲の時間で加熱し、かつ、以下の詳述する式1を満足する焼結工程を行うことで、焼結を行いつつ、同時にRHを含む合金粉末におけるRHを主相結晶粒の中央部にほとんど導入させずに主相結晶粒の外殻部へ導入させることができることを見出した。これにより、拡散工程を不要としつつも、高いBと高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石が得られる。焼結温度が900℃未満であると、焼結が不十分となりBおよびHcJが大幅に低下する可能性がある。一方、焼結温度が1000℃以上であると、RHを含む合金粉末におけるRHが主相結晶粒の中央部に導入されてしまい、高いBと高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石が得られない可能性がある。焼結時間が10時間未満であると、RHを含む合金粉末におけるRHの成形体内部への導入が不十分となり、HcJが低下する可能性がある。一方、焼結時間が100時間以上であると、焼結時間が長すぎるために量産性が悪化する可能性がある。より高いBと高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石を得るためには、好ましくは、前記付着工程後の成形体を950℃以上990℃以下の範囲の温度で50時間以上80時間以下の範囲の時間で加熱する。
【0030】
本開示の焼結工程は
前記焼結工程は、前記合金粉末のメジアン径をd50(μm)、
前記焼結工程における加熱温度をT(℃)、焼結時間をt(h)、
得られた焼結体における、総希土類量から、酸化物、窒化物および炭化物として消費される分の希土類量を差し引いた希土類量を有効希土類量Reff(mass%)とするとき、
40×d50-10×Reff-0.65×t+1155≦T≦40×d50-10×Reff-0.65×t+1175(式1)
の関係が成立する。
焼結体の有効希土類量は、合金の組成、製造条件、微粉砕粉の性状等と相関がある。したがって、焼結体における有効希土類量として、合金の組成や製造工程から過去のデータをもとに予測した値を用いて、式1を満たすように制御することができる。また、前もって同条件でサンプルを作製し、分析を行った値を用いてもよい。
【0031】
本発明者は、検討の結果、焼結を行いつつ、同時にRHを含む合金粉末におけるRHを主相結晶粒の中央部にほとんど導入させずに主相結晶粒の外殻部へ導入させるための最適な加熱温度や焼結時間は、合金粉末の粒径や焼結体における希土類量を考慮することが重要だということが分かった。また、焼結体における希土類量は製造過程において酸素、窒素、炭素と結合し消費されてしまうため、焼結時に有効に作用する、金属としての希土類量は製造過程で変化してしまう。そのため、焼結体における総希土類量(以下、「TRE」と記載する場合がある)から焼結体における酸素量(mass%)をα、窒素量(mass%)をβ、炭素量(mass%)をγとしたとき6α+10β+8γを差し引いた有効希土類量Reff(mass%) を用いることが有効である。すなわち、本開示の有効希土類量Reff(mass%)は、焼結体に含まれる酸素量をα(mass%)、窒素量をβ(mass%)、炭素量をγ(mass%)としたとき、TRE-(6α+10β+8γ)の式により算出した値である。
これらの知見をもとに検討を重ねた結果、本発明者は上記(式1)を満足することにより、焼結を行いつつ、RHを含む合金粉末におけるRHを主相結晶粒の中央部にほとんど導入させずに主相結晶粒の外殻部へ導入させることができること見出した。これにより新たに拡散工程を行わなくともよいため、量産工程が煩雑になることを回避しつつも、高いBと高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石が得られる。
【0032】
(5)熱処理工程
本開示の実施形態によって得られた焼結磁石に対して、更に磁気特性を向上させることを目的として熱処理を行ってもよい。例えば、焼結温度よりも低い温度(400℃以上600℃以下)で一段熱処理を行ってもよい。あるいは、相対的に高い温度(700℃以上焼結温度以下)で第一熱処理を行った後、相対的に低い温度(400℃以上600℃以下)で第二熱処理を行ってもよい(二段熱処理)。二段熱処理の具体例は、750℃以上850℃以下の温度で5分から500分程度の第一熱処理、および、440℃以上550℃以下の温度で5分から500分程度の第二熱処理を含み得る。第一熱処理と第二熱処理との間において、室温まで冷却したり、または、440℃以上550℃以下の温度まで冷却してもよい。
焼結や熱処理は、いずれも、真空雰囲気または不活性ガス(ヘリウムやアルゴンなど)で行うことが望ましい。
【実施例
【0033】
実施例によりさらに詳細に説明するが、本開示はそれらに限定されるものではない。
【0034】
実施例1
表1のNo.A~Lに示す組成となるように各元素を秤量してストリップキャスト法により鋳造し、フレーク状の合金を得た。得られたフレーク状の合金を水素加圧雰囲気で水素脆化させた後、550℃まで真空中で加熱、冷却する脱水素処理を施し、粗粉砕粉を得た。次に、得られた粗粉砕粉に対して、気流式粉砕機(ジェットミル装置)を用いて微粉砕し、メジアン径d50(μm)がNo.A~Fは3.1μm、No.G~Lは3.6μmのR-T-B系合金粉末を得た。得られたR-T-B系合金粉末の成分分析結果を表1のNo.A~Lに示す。表1における各成分は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)を使用して測定した。なお、以下、RHを含む合金粉末、R-T-B系焼結磁石の組成も同様にして測定した。得られたR-T-B系合金粉末に潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を微粉砕粉末100質量%に対して0.05質量%添加、混合した後、磁界中で成形し、成形体を得た。なお、成形装置には、磁界印加方向と加圧方向とが直交する、いわゆる直角磁界成形装置(横磁界成形装置)を用いた。
【0035】
【表1】
【0036】
表2に示す組成のRHを含む合金粉末を準備した。具体的には、No.aとして32μm以下のTb酸化物粉末、No.bとして32μm以下のTbフッ化物粉末を準備した。また、No.cとして1mm以下のTbメタルの切粉を準備した。また、No.dおよびNo.eとしてアトマイズ法により106μm以下のTbを含む合金粉末を作製した。
【0037】
【表2】
【0038】
次に、前記RHを含む合金粉末を前記成形体に表3および表4に示す条件で散布することにより付着させた(付着工程)。なお、表3のNo.1~12はRHを含む合金粉末の成形体への付着は行っていない。表3におけるNo.13は、No.AのR-T-B系合金粉末を用いて成形体を作製し、該成形体の表面にNo.aの合金粉末を1.0mass%付着させたものである。付着量はRHを含む合金粉末が付着された成形体全体に対するRHを含む合金粉末の質量比である。表3および表4のNo.14~60も同様の方法で記載している。
【0039】
前記付着工程後の成形体を、表5および表6に示す温度(焼結温度)及び時間(焼結時間)にて焼結した。焼結温度および焼結時間は成形体に熱電対をとりつけることにより測定した。また、表5および表6に焼結工程が本開示の40×d50-10×Reff-0.65×t+1155≦T≦40×d50-10×Reff-0.65×t+1175(式1))を満たしている場合は〇と、満たしていない場合は×と記載した。焼結後のR-T-B系焼結磁石に対して、真空中で900℃で2時間保持した後室温まで冷却し、次いで真空中で500℃で2時間保持した後、室温まで冷却する熱処理を施しR-T-B系焼結磁石(No.1~60)を得た。得られたR-T-B系焼結磁石の成分を表5および表6に示す。また、焼結後の焼結体に対して、RHを含む合金粉末を付着させて拡散処理を行った比較例を準備した(No.61および62)。具体的には、表4および表6のNo.61および62に示すように、No.EおよびFのR-T-B系合金粉末をそれぞれ成形し、得られた成形体を1020℃で4時間焼結して焼結体を得た。得られた焼結体の表面にNo.cのRHを含む合金を付着させた。その後、950℃で10時間の拡散処理を行った。拡散処理後のR-T-B系焼結磁石に対してさらに前記熱処理を行った。得られたR-T-B系焼結磁石の組成を表6のNo.61および62に示す。No.61および62は、No.41および42とほぼ同じ組成である。熱処理後の焼結磁石(No.1~62)に機械加工を施し、縦7mm、横7mm、厚み7mmの試料を作製し、B-Hトレーサによって各試料の特性(B及びHcJ)を測定した。測定結果を表5および表6に示す。
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
【表5】
【0043】
【表6】
【0044】
表6のNo.41および42(本発明例)とNo.61および62(比較例)に示すように、本開示の焼結工程をおこなったNo.41および42は、拡散工程を行ったNo.61および62とほぼ同じBおよびHcJが得られており、拡散工程を不要としつつも、高いBと高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石が得られている。また、本開示の式1を満たしていないNo.13~18は、高いBおよび高いHcJが得られておらず、RHを含む合金粉末を付着させていないNo.1~6と比較してもBおよびHcJが同等以下となっている。これに対し、本発明例のR-T-B系焼結磁石は、いずれもRHを含む合金粉末からRHを成形体内部に導入する前のR-T-B系焼結磁石(No.1~12)と比べてHcJが向上しており、拡散工程を不要としつつ、高いBと高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石が得られている。
【符号の説明】
【0045】
12 R14B化合物からなる主相
14 粒界相
14a 二粒子粒界相
14b 粒界三重点

図1A
図1B