(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】造粒粉末、コンパウンド、成形体、及びボンド磁石
(51)【国際特許分類】
H01F 1/059 20060101AFI20241008BHJP
H01F 1/08 20060101ALI20241008BHJP
H01F 7/02 20060101ALI20241008BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20241008BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20241008BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20241008BHJP
C08K 9/08 20060101ALI20241008BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20241008BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20241008BHJP
【FI】
H01F1/059
H01F1/08 130
H01F7/02 A
H01F41/02 G
B22F1/00 Y
B22F3/00 C
C08K9/08
C08L63/00 C
C08L63/00 B
C22C38/00 303D
(21)【出願番号】P 2021047446
(22)【出願日】2021-03-22
【審査請求日】2024-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 輝雄
(72)【発明者】
【氏名】竹内 一雅
(72)【発明者】
【氏名】石原 千生
(72)【発明者】
【氏名】平良 有紗
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-109963(JP,A)
【文献】国際公開第2019/167182(WO,A1)
【文献】特開2006-156964(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0083851(US,A1)
【文献】特開平8-273916(JP,A)
【文献】特開2001-214054(JP,A)
【文献】特開2004-31786(JP,A)
【文献】特開2012-209484(JP,A)
【文献】国際公開第2006/64794(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/101117(WO,A1)
【文献】米国特許第4802931(US,A)
【文献】特開2010-123706(JP,A)
【文献】特開2003-166001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/059
H01F 1/08
H01F 7/02
H01F 41/02
B22F 1/00
B22F 3/00
C08K 9/08
C08L 63/00
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石粉末と第一樹脂組成物とを含む造粒粉末であって、
前記造粒粉末を構成する一つの造粒粒子が、前記磁石粉末を構成する複数の磁石粒子と前記第一樹脂組成物とを含み、
前記磁石粉末が、Sm-Fe-N系磁石を含み、
前記第一樹脂組成物が、熱硬化性樹脂を含み、
前記造粒粉末を含む成形体の残留磁束密度が、Br1と表され、
前記成形体の体積が、V1と表され、
前記成形体に含まれる前記磁石粉末自体の残留磁束密度が、Br2と表され、
前記成形体に含まれる前記磁石粉末自体の体積が、V2と表され、
前記造粒粉末の配向度が、Br1/Br2/(V2/V1)と定義され、
前記造粒粉末の前記配向度が、80%以上100%以下である、
造粒粉末。
【請求項2】
前記第一樹脂組成物が、エポキシ樹脂及び硬化剤を含む、
請求項1に記載の造粒粉末。
【請求項3】
前記第一樹脂組成物の少なくとも一部が、硬化物である、
請求項1又は2に記載の造粒粉末。
【請求項4】
前記第一樹脂組成物が、アミン化合物を含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の造粒粉末。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の造粒粉末と、第二樹脂組成物と、を含み、
前記第二樹脂組成物が、熱硬化性樹脂を含み、
前記第二樹脂組成物の少なくとも一部が、未硬化物である、
コンパウンド。
【請求項6】
前記第二樹脂組成物が、エポキシ樹脂及び硬化剤を含む、
請求項5に記載のコンパウンド。
【請求項7】
前記第二樹脂組成物の100℃での粘度が、1Pa・秒以上50Pa・秒以下であり、
100℃で30分間加熱された後の前記第二樹脂組成物の50℃での粘度が、Vfと表され、
100℃で30分間加熱される前の前記第二樹脂組成物の50℃での粘度が、Viと表され、
VfがViよりも高く、
前記第二樹脂組成物が、25℃で固体である、
請求項5又は6に記載のコンパウンド。
【請求項8】
前記第二樹脂組成物が、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、及びエポキシ基と反応する官能基を有する化合物を含む、
請求項5~7のいずれか一項に記載のコンパウンド。
【請求項9】
前記エポキシ基と反応する前記官能基が、アミノ基である、
請求項8に記載のコンパウンド。
【請求項10】
請求項5~9のいずれか一項に記載のコンパウンドを含む、
ボンド磁石用の成形体。
【請求項11】
請求項10に記載の成形体の硬化物を含む、
ボンド磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一側面は、造粒粉末、コンパウンド、成形体、及びボンド磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
ボンド磁石は、ボンド磁石用コンパウンドを高圧で所定の形状に成形し、コンパウンド中の樹脂を硬化することによって得られる磁石である。ボンド磁石用コンパウンドは、磁石粉末、熱硬化性樹脂(結着剤)、硬化剤及びカップリング剤などを含む混合物である。コンパウンドの圧縮成形により、ボンド磁石中の磁石粉末の充填率が増加し、ボンド磁石の重要な磁気特性の一つである残留磁束密度(Br)が増加する。コンパウンドは成形され易いため、ボンド磁石の形状及び寸法の自由度は、焼結磁石に比べて高い。つまり、コンパウンドの成形により、薄いリング状のボンド磁石のような多様な形状及び寸法を有するボンド磁石を容易に製造することができる。またボンド磁石は磁石粉末だけではなく結着剤を含むため、焼結磁石に比べて、ボンド磁石の割れ及び欠けは生じ難い。さらに、ボンド磁石用コンパウンドは、他の部材と一体的に成形することができる。また、ボンド磁石内では絶縁性の結着剤が磁性粒子の間に存在するため、ボンド磁石は高い電気抵抗を有することができる。以上の理由により、ボンド磁石の用途は多岐にわたる。例えば、ボンド磁石は、自動車、一般的な家電製品、通信機器、音響機器、医療機器、又は一般産業機器などに利用されている。
【0003】
ボンド磁石の耐熱性を向上するために、様々な熱硬化性樹脂を用いることが検討されている。例えば、特許文献1は、希土類ボンド磁石の高温での機械的強度を高める樹脂として、エポキシ樹脂及びポリベンゾイミダゾール其々を一定比率で含む結着剤を開示している。また、特許文献2は、希土類ボンド磁石用の結着剤として、ジヒドロベンズオキサジン環を有する化合物、ジヒドロベンズオキサジン環を有する化合物とエポキシ樹脂との混合物、又はジヒドロベンズオキサジン環を有する化合物とフェノール樹脂との混合物を開示している。また、特許文献3は、希土類ボンド磁石用の結着剤として、ポリアミドイミド樹脂を開示している。特許文献4には、樹脂量が低減された原料粉末を高圧力下で成形してもクラックの生じ難い圧粉体を用いることにより、密度の高いボンド磁石を製造することが示されている。下記特許文献5~7は、代表的な希土類磁石としてNd-Fe-B系磁石を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-273916号公報
【文献】特開2001-214054号公報
【文献】特開2004-31786号公報
【文献】特開2012-209484号公報
【文献】国際公開第2006/064794号パンフレット
【文献】国際公開第2006/101117号パンフレット
【文献】米国特許第4802931号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
希土類磁石の一種であるSm-Fe-N系磁石は、比較的安価な原料から製造することが可能な永久磁石である。Sm-Fe-N系磁石は磁化容易軸を有しており、Sm-Fe-N系磁石を含む磁石粉末から形成された異方性磁石は、従来のNd-Fe-B系磁石に匹敵する優れた磁気特性を有することができる。しかしSm-Fe-N系磁石は高温(500℃付近)で分解し易いため、Sm-Fe-N系磁石を含む磁石粉末を焼結することは困難である。したがって、Sm-Fe-N系磁石は、ボンド磁石としてモータ等の製品に適用され易い。
【0006】
磁石粉末の粒径の減少に伴い、ボンド磁石の保磁力(Hcj)は増加し易い。また磁石粉末の粒径の減少に伴い、ボンド磁石中の磁石粉末の充填率及びボンド磁石の密度が増加し易い。磁石粉末の充填率及びボンド磁石の密度の増加に伴い、ボンド磁石の残留磁束密度及び機械的強度が増加し易い。しかしながら、磁石粉末の粒径の減少に伴い、磁石粉末は凝集し易く、磁石粉末を含むコンパウンドの流動性は劣化する。コンパウンドの流動性の劣化に因り、ボンド磁石の製造過程におけるコンパウンドのハンドリングが困難になる。例えば、流動性に乏しいコンパウンドは金型の内部へ注入され難いので、流動性に乏しいコンパウンドの圧縮成型工程及びその自動化は容易ではない。また流動性に乏しいコンパウンドの射出成型工程及びその自動化も容易ではない。特に磁石粉末を構成する磁石粒子の形状が球状ではなく歪である場合(つまり、磁石粉末を構成する磁石粒子の形状が不均一である場合)、歪な磁石粒子同士は物理的に干渉し易いので、歪な磁石粒子は略球状の磁石粒子よりも回転し難い。その結果、コンパウンドの流動性が劣化し易く、各磁石粒子の磁化容易軸が磁場に沿って配向し難く、十分に高い残留磁束密度を有する異方性磁石が得られ難い。また磁場下において磁石粉末を金型で成形する工程において、成形体を構成する磁石粉末と金型の内壁との間の摩擦により、成形体における磁石粉末の配向が乱れ、成形体から製造される異方性磁石の残留磁束密度が低下する。
【0007】
本発明の一側面の目的は、流動性に優れた造粒粉末であって、且つ磁石粉末の配向性に優れたボンド磁石を形成することが可能である造粒粉末、当該造粒粉末を含むコンパウンド、当該コンパウンドを含む成形体、及び当該成形体の硬化物であるボンド磁石を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面に係る造粒粉末は、磁石粉末と第一樹脂組成物とを含む造粒粉末(granulated pоwder)であって、造粒粉末を構成する一つの造粒粒子(granular particle)が、磁石粉末を構成する複数の磁石粒子と第一樹脂組成物とを含み、磁石粉末が、Sm-Fe-N系磁石を含み、第一樹脂組成物が、熱硬化性樹脂を含み、造粒粉末を含む成形体の残留磁束密度が、Br1と表され、成形体の体積が、V1と表され、成形体に含まれる磁石粉末自体の残留磁束密度が、Br2と表され、成形体に含まれる磁石粉末自体の体積が、V2と表され、造粒粉末の配向度が、Br1/Br2/(V2/V1)と定義され、造粒粉末の配向度が、80%以上100%以下である。
【0009】
第一樹脂組成物が、エポキシ樹脂及び硬化剤を含んでよい。
【0010】
第一樹脂組成物の少なくとも一部が、硬化物であってよい。
【0011】
第一樹脂組成物が、アミン化合物を含んでよい。
【0012】
本発明の一側面に係るコンパウンドは、上記の造粒粉末と、第二樹脂組成物と、を含み、第二樹脂組成物が、熱硬化性樹脂を含み、第二樹脂組成物の少なくとも一部が、未硬化物である。
【0013】
第二樹脂組成物が、エポキシ樹脂及び硬化剤を含んでよい。
【0014】
第二樹脂組成物の100℃での粘度が、1Pa・秒以上50Pa・秒以下であってよく、100℃で30分間加熱された後の第二樹脂組成物の50℃での粘度が、Vfと表され、100℃で30分間加熱される前の第二樹脂組成物の50℃での粘度が、Viと表され、VfがViよりも高くてよく、第二樹脂組成物が、25℃で固体であってよい。
【0015】
第二樹脂組成物が、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、及びエポキシ基と反応する官能基を有する化合物を含んでよい。
【0016】
エポキシ基と反応する前記官能基が、アミノ基であってよい。
【0017】
本発明の一側面に係るボンド磁石用の成形体は、上記のコンパウンドを含む。
【0018】
本発明の一側面に係るボンド磁石は、上記の成形体の硬化物を含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一側面によれば、流動性に優れた造粒粉末であって、且つ磁石粉末の配向性に優れたボンド磁石を形成することが可能である造粒粉末、当該造粒粉末を含むコンパウンド、当該コンパウンドを含む成形体、及び当該成形体の硬化物であるボンド磁石が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、略球状である磁石粒子を含む造粒粉末の模式的断面を示す。
【
図2】
図2は、造粒粉末を含むコンパウンドから形成された成形体内において、直線的な磁場に沿って配向している略球状の磁石粒子の模式的断面を示す。
【
図3】
図3は、造粒粉末を含むコンパウンドから形成された成形体内において、曲がった磁場に沿って配向している略球状の磁石粒子の模式的断面を示す。
【
図4】
図4は、歪な磁石粒子を含む造粒粉末の模式的断面を示す。
【
図5】
図5は、造粒粉末を含むコンパウンドから形成された成形体内において、直線的な磁場に沿って配向している歪な磁石粒子の模式的断面を示す。
【
図6】
図6は、造粒粉末を含むコンパウンドから形成された成形体内において、曲がった磁場に沿って配向している歪な磁石粒子の模式的断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態が説明される。図面において、同等の構成要素には同等の符号が付される。本発明は下記実施形態に限定されるものではない。
【0022】
(造粒粉末、成形体及びボンド磁石)
図1及び
図4に示されるように、本実施形態に係る造粒粉末10は、複数の磁石粒子4から構成される磁石粉末と、第一樹脂組成物6とを含む。造粒粉末10は、磁石粉末及び第一樹脂組成物6のみからなっていてよい。造粒粉末10は複数の造粒粒子2から構成される。つまり、造粒粉末10は複数の造粒粒子2の全体である。造粒粉末10を構成する一つの造粒粒子2は、複数の磁石粒子4と第一樹脂組成物6とを含む。つまり、一つの造粒粒子2は、複数の磁石粒子4及び第一樹脂組成物6の集合である。磁石粉末は、Sm-Fe-N系磁石を含む。第一樹脂組成物6は、熱硬化性樹脂を含む。造粒粒子2は、複数の磁石粒子4及び第一樹脂組成物6のみからなっていてよい。一つの造粒粒子2は、顆粒(granule)又は二次粒子と言い換えられてよい。複数の磁石粒子4が、第一樹脂組成物6で覆われていてよい。複数の磁石粒子4が第一樹脂組成物6によって互いに結着されていてよい。第一樹脂組成物6の一部又は全部は、硬化物(Cステージの樹脂)であってよい。第一樹脂組成物6の一部又は全部は、未硬化物であってもよい。第一樹脂組成物6の一部又は全部は、半硬化物(Bステージの樹脂)であってもよい。
【0023】
本実施形態に係るコンパウンドは、上記の造粒粉末10と、第二樹脂組成物と、を含む。第二樹脂組成物は、熱硬化性樹脂を含む。第二樹脂組成物は各造粒粒子2の表面の一部又は全体を覆っていてよい。第二樹脂組成物は粉末であってもよい。コンパウンドも粉末であってよい。第二樹脂組成物の一部又は全部は、未硬化物である。第二樹脂組成物に含まれる熱硬化性樹脂は、第一樹脂組成物に含まれる熱硬化性樹脂と同じであってよい。第二樹脂組成物に含まれる熱硬化性樹脂は、第一樹脂組成物に含まれる熱硬化性樹脂と異なってもよい。
【0024】
造粒粉末10を含むコンパウンドは、原料としてボンド磁石に用いられてよい。コンパウンドを用いたボンド磁石(異方性磁石)の製造方法は、磁場中で加熱されたコンパウンドから、ボンド磁石用の成形体(cоmpact)を形成する工程(成形工程)を備えてよい。例えば成形工程では、磁場中で加熱されたコンパウンドの圧縮成形又は射出成形により、コンパウンドを含む成形体が形成されてよい。成形工程では、コンパウンドへ印加される磁場に沿って、コンパウンド中の各磁石粒子4の磁化容易軸が配向する。磁場は、静磁場、又は減衰する交番磁場であってよい。成形工程におけるコンパウンドの温度は、第一樹脂組成物中の熱硬化性樹脂の硬化温度未満であってよい。成形工程におけるコンパウンドの温度は、第二樹脂組成物中の熱硬化性樹脂の硬化温度未満であってよい。例えば、成形工程におけるコンパウンドの温度は、50℃以上150℃以下、80℃以上120℃以下、又は90℃以上110℃以下であってよい。第二樹脂組成物中の熱硬化性樹脂の硬化温度以上である温度で更に加熱されてよい。その結果、成形体中の第二樹脂組成物が硬化する。造粒粉末に含まれる第一樹脂組成物6が未硬化物である場合、成形工程後の成形体が、第一樹脂組成物6及び第二樹脂組成物其々に含まれる熱硬化性樹脂の硬化温度以上である温度で、更に加熱されてよい。その結果、成形体中の第一樹脂組成物及び第二樹脂組成物が硬化する。以上の工程を経てボンド磁石(成型体の硬化物)が製造される。
【0025】
磁石粉末を構成する各磁石粒子4は単独で存在せず造粒粒子2に含まれているので、微細な磁石粉末自体の凝集性が抑制される。換言すれば、造粒粉末10の比表面積は磁石粉末の比表面積よりも小さいので、造粒粉末10は磁石粉末よりも凝集し難い。したがって、磁石粉末自体が凝集し易く磁石粉末自体が流動し難い場合であっても、磁石粉末の粒径及び形状に関わらず、磁石粉末を内包する造粒粉末10は優れた流動性を有することができる。同様の理由から、造粒粉末10を含むコンパウンドの流動性は、造粒されていない磁石粉末を含むコンパウンドの流動性よりも優れている。本実施形態によれば、造粒粉末10及びコンパウンドの優れた流動性を維持しながら、磁石粉末の粒径の低減により、ボンド磁石の保磁力、ボンド磁石中の磁石粉末の充填率、ボンド磁石の密度、及びボンド磁石の残留磁束密度及び機械的強度を増加させることができる。
【0026】
造粒粉末10及びコンパウンドは優れた流動性を有するので、ボンド磁石の製造過程における造粒粉末10及びコンパウンドのハンドリングが容易である。例えば、流動性に優れたコンパウンドは圧縮成型用の型の内部へ注入され易いので、コンパウンドの圧縮成型工程及びその自動化が容易である。また流動性に優れたコンパウンドの射出成型工程及びその自動化も容易である。成形工程に用いる金型の内壁と磁石粒子4との間に第一樹脂組成物6(及び第二樹脂組成物)が介在することにより、金型の内壁と磁石粒子4との間の摩擦が抑制され易い。その結果、成形体における磁石粉末の配向の乱れが抑制され、成形体から製造される異方性磁石の残留磁束密度が増加する。
【0027】
造粒粉末10を含む成形体Cの残留磁束密度は、Br1と表される。造粒粉末10を含む成形体Cの体積は、V1と表される。成形体Cに含まれる磁石粉末自体の残留磁束密度は、Br2と表される。成形体Cに含まれる磁石粉末自体の体積は、V2と表される。造粒粉末10の配向度は、Br1/Br2/(V2/V1)と定義される。造粒粉末10の配向度は、80%以上100%以下である。換言すれば、100×Br1/Br2/(V2/V1)は、80以上100以下である。造粒粉末10の配向度は、87%以上93%以下であってもよい。
例えば、Br1及びBr2其々の単位は、T(テスラ)であってよい。例えば、V1及びV2其々の単位は、m3(立方メートル)であってよい。
成形体Cの残留磁束密度Br1は、ガウスメータによって測定されてよい。Br1の測定前に成形体Cへ磁場を印加することにより、成形体Cが磁化されてよい。Br1の測定前に成形体Cへ印加される磁場の強度は、例えば2.0Tであってよい。Br1の測定に用いられる成形体Cは、必ずしもボンド磁石の製造に用いられる成形体でなくてよい。例えば成形体Cは、Br1の測定用のサンプルとして作製された成形体であってよい。Br1の測定に用いられる成形体Cは、造粒粉末10に加えて、第二樹脂組成物又は注型用の樹脂等の他の成分を含んでよい。Br1の測定に用いられる成形体Cは、コンパウンド(造粒粉末10及び第二樹脂組成物)のみからなってよい。Br1の測定に用いられる成形体Cは、造粒粉末10のみからなってもよい。Br1の測定に用いられる成形体Cは、ボンド磁石の製造に用いられる成形体(硬化前のボンド磁石)であってもよい。
成形体Cの体積V1は、成形体Cの寸法から算出される成形体Cの見かけの体積である。成形体Cの体積V1は、成形体C中に形成された空隙の体積を含んでよい。体積V1は、ボンド磁石の仕様及び用途、又はBr1の測定の便宜のために調整されてよく、特に限定されない。
成形体Cに含まれる磁石粉末自体の残留磁束密度Br2は、振動試料型磁力計(Vibrating Sample Magnetometer; VSM)によって測定される。Br2は、造粒粉末10及び成形体Cの作製前に予め測定されてよい。Br2は、成形体Cを有機溶媒中で溶解することによって成形体Cから回収された磁石粉末自体の残留磁束密度であってもよい。
成形体Cに含まれる磁石粉末自体の体積V2は、成形体Cに含まれる磁石粉末自体の質量を磁石粉末自体(Sm-Fe-N系磁石)の真密度(又は真比重)で除した値であってよい。
V2/V1は、成形体Cにおける磁石粉末の充填率であってよい。
造粒粉末10の配向度が80%以上である限り、Br1、Br2、及びV2/V1は、限定されない。例えばBr1は、0.01T以上2.0T以下であってよい。Br2はBr1以上である。例えばBr2は、0.8T以上2.0T以下であってよい。例えばV2/V1は、1%以上99.9%以下であってよい。
【0028】
図1~6に示される各磁石粒子4に重なる磁気ベクトルvは、各磁石粒子4の磁化容易軸の方向を示すベクトルである。磁気ベクトルvの方向は、各磁石粒子4のS極から各磁石粒子4のN極へ向かう方向であってよい。磁気ベクトルvは、各磁石粒子4の磁気双極子モーメントとみなされてもよい。造粒粉末10の配向度が80%以上である場合、一つの造粒粒子2に含まれる複数の磁石粒子4其々の磁化容易軸は、略同じ方向に配向している。つまり、一つの造粒粒子2に含まれる複数の磁石粒子4其々の磁気ベクトルvの方向は揃っている。したがって、複数の磁石粒子4から構成される造粒粒子2が一つの磁石粒子とみなされる場合、一つの造粒粒子2の磁気ベクトルVは、一つの造粒粒子2を構成する複数の磁石粒子4其々の磁気ベクトルvの和で表されてよい。一つの造粒粒子2の磁気ベクトルVは、複数の磁石粒子4からなるクラスタの磁気ベクトルと言い換えられてよい。磁場Hが造粒粒子2に及ぼす力に因り、造粒粒子2の磁気ベクトルVの方向が磁場Hの向きと略一致するように各造粒粒子2(クラスタ)の全体が回転し、造粒粒子2中の各磁石粒子の磁化容易軸が磁場Hに沿って配向し易い。その結果、ボンド磁石が高い残留磁束密度を有し易い。特に、造粒粒子2を構成する第一樹脂組成物6の一部又は全体が、硬化物又は半硬化物である場合、一つの造粒粒子2内における各磁石粒子4の磁化容易軸の方向が固定及び維持され易く、各造粒粒子2(クラスタ)の全体が回転し易い。
【0029】
図1に示されるように、各磁石粒子4は略球状であってよい。磁石粒子4の形状が略球状である場合、隣り合う造粒粒子2は互いに滑り易く、造粒粒子2と第二樹脂組成物の摩擦が抑制され易い。したがって、コンパウンド中の各造粒粒子2は回転し易く、各造粒粒子2中の各磁石粒子4の磁化容易軸が磁場に沿って配向し易く、高い残留磁束密度が得られ易い。
【0030】
図4に示されるように、各磁石粒子4は歪であってもよい。つまり、磁石粒子4の形状は不均一であってよい。第一樹脂組成物6が歪な磁石粒子4の間に介在し、第一樹脂組成物6が造粒粒子の間に介在する。その結果、歪な磁石粒子4同士の直接的な干渉が抑制され、各造粒粒子2が回転し易くなる。その結果、各造粒粒子2中の歪な各磁石粒子4の磁化容易軸が磁場に沿って配向し易くなり、十分な残留磁束密度が得られ易い。
【0031】
図2及び
図5に示されるように、コンパウンドから成形体20Aを形成する過程において、直線的な磁場Hがコンパウンドへ印加される場合、磁場Hがコンパウンド中の各造粒粒子2に及ぼす力によって各造粒粒子2が回転し、各造粒粒子2中の各磁石粒子4の磁化容易軸は、直線的な磁場Hと略同じ方向に配向する。
図3及び
図6に示されるように、コンパウンドから成形体20Bを形成する過程において、曲がった磁場Hがコンパウンドへ印加される場合、磁場Hがコンパウンド中の各造粒粒子2に及ぼす力によって各造粒粒子2が回転し、各造粒粒子2中の各磁石粒子4の磁化容易軸は、曲がった磁場H(曲がった磁力線)に沿って配向する。例えば、ボンド磁石として、コンパウンドから極異方性(multipole anisotropic)リング磁石が製造される場合、リング磁石の外周面において複数のN極及びS極が外周方向に沿って交互に配置され、リング磁石中の各磁石粒子4の磁化容易軸は、隣り合うN極及びS極を結ぶ曲線状の磁場Hに沿って配向する。
図2、
図3、
図5及び
図6では、第二樹脂組成物が省略されているが、第二樹脂組成物は、
図2、
図3、
図5及び
図6其々に示される造粒粒子2の間に存在する。
【0032】
第二樹脂組成物の100℃での粘度(溶融粘度)は、1Pa・秒以上50Pa・秒以下であってよい。100℃で30分間加熱された後の第二樹脂組成物の50℃での粘度(溶融粘度)が、Vfと表され、100℃で30分間加熱される前の第二樹脂組成物の50℃での粘度(溶融粘度)が、Viと表され、VfがViよりも高くてよい。第二樹脂組成物は、25℃で固体であってよい。第二樹脂組成物の100℃での粘度が1Pa・秒以上50Pa・秒以下である場合、100℃近傍の温度範囲(例えば90~110℃)での成形工程において、第二樹脂組成物が適度に流動し易い。その結果、コンパウンド中の各造粒粒子2が容易に回転して、各造粒粒子2中の各磁石粒子4の磁化容易軸が磁場に沿って容易に配向し易い。また第二樹脂組成物が適度に流動し易い場合、コンパウンドの加圧に伴って余分な第二樹脂組成物が隣り合う造粒粒子2の間から容易に除去され、成形体中の磁石粉末の充填率及びボンド磁石の密度が増加し易い。以上の理由より、第二樹脂組成物の100℃での粘度が1Pa・秒以上50Pa・秒以下である場合、ボンド磁石の残留磁束密度及び機械的強度が増加し易い。VfがViよりも高い場合、成形体内における各造粒粒子2の動きが抑制され易く、成形体内における各磁石粒子4の配向方向が維持され易い。またVfがViよりも高い場合、成形体の形状が維持され易く、成形体の変形が抑制される。第二樹脂組成物が25℃で固体である場合、常温でのコンパウンドのハンドリングが容易である。
以下に記載の「粘度特性」とは、第二樹脂組成物の100℃での粘度が1Pa・秒以上50Pa・秒以下であり、VfがViよりも高く第二樹脂組成物が25℃で固体であることを意味する。第一樹脂組成物6も、第二樹脂組成物と同様の粘度特性を有してよい。
【0033】
造粒粉末10(造粒粒子2)の形状は、例えば、略球状又は扁平であってよい。略球状の造粒粉末10は優れた流動性を有し易い。造粒粉末10(造粒粒子2)の粒径は、10μm以上200μm以下、好ましくは30μm以上150μm以下、より好ましくは80μm以上120μm以下であってよい。造粒粉末10の粒径が10μm以上である場合、造粒粉末10を含むコンパウンドが十分な流動性を有し易く、成形工程の自動化が容易である。造粒粉末10の粒径が200μm以下である場合、造粒粉末10を含むコンパウンドが隙間なく金型へ充填され易く、コンパウンドの微細な成形が容易である。造粒粉末10の粒径及び粒度は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定されてよい。
【0034】
造粒粉末10中の磁石粉末の含有量は、例えば、95質量%以上99.5質量%以下、又は96質量%以上99質量%以下であってよい。造粒粉末10中の第一樹脂組成物6の含有量は、例えば、0.5質量%以上5質量%以下、又は1質量%以上4質量%以下であってよい。コンパウンド中の磁石粉末の含有量は、例えば、95質量%以上99.5質量%以下、又は96質量%以上99質量%以下であってよい。コンパウンド中の第二樹脂組成物の含有量は、例えば、0.5質量%以上5質量%以下、又は1質量%以上4質量%以下であってよい。
【0035】
(磁石粉末)
磁石粉末は、サマリウム-鉄-窒素(Sm-Fe-N)系磁石を含む。例えば、Sm-Fe-N系磁石は主相としてSm2Fe17N3を含む磁石であってよい。磁石粉末は、Sm-Fe-N系磁石のみからなっていてよい。磁石粉末は、Sm-Fe-N系磁石に加えて、ネオジム-鉄-ホウ素(Nd-Fe-B)系磁石、サマリウム-コバルト(Sm-Co)系磁石、鉄-コバルト(Fe-Co)系磁石、アルニコ(Al-Ni-Co)合金系磁石、及びフェライト系磁石からなる群より選ばれる少なくとも一種の磁石を更に含んでよい。
【0036】
磁石粉末(磁石粒子)の形状は、例えば、略球状又は扁平であってよい。例えば、扁平な磁石粒子のアスペクト比(短径/長径)は、0.3以下であってよい。磁石粉末の形状は、歪(不均一)であってもよい。磁石粉末の形状が扁平である場合、造粒粉末、成形体及びボンド磁石の内部において、複数の扁平な磁石粒子が互いに密着するように磁石粒子が整然と積層され易い。その結果、磁石粒子間の空隙及び樹脂溜まりが形成され難く、成形体及びボンド磁石における磁石粉末の充填率が増加し易い。
【0037】
磁石粉末の平均粒径は、例えば、1~50μm、好ましくは2~10μmであってよい。磁石粉末の平均粒径が上記範囲内である場合、ボンド磁石における磁石粉末の充填率、ボンド磁石の密度、保磁力、残留磁束密度及び機械的強度が増加し易い。磁石粉末の平均粒径及び粒度は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定されてよい。
【0038】
磁石粉末の製造方法は限定されてない。例えば、磁石粉末の製造方法は、Sm及びFeの合金粉末をメカニカルアロイング法によって形成する工程と、Sm及びFeの合金粉末を窒素ガス中で加熱する工程を含んでよい。磁石粉末は、急冷凝固法により製造されてもよい。急冷凝固法では、磁石合金の溶湯が回転する水冷ロールの表面へ供給される。その結果、磁石合金の溶湯が水冷ロールの表面において急冷され、凝固する。凝固した磁石合金を粉砕することにより、磁石粉末が得られる。磁石粉末は、HDDR(Hydrogenation Disproportionation Desorption Recombination)法により製造されてもよい。
【0039】
Sm-Fe-N系磁石を含む磁石粉末としては、例えば、日亜化学工業株式会社のビルドアップ工法により得られる非粉砕粉(球状の磁石粉末)が用いられてよい。Sm-Fe-N系磁石を含む磁石粉末を構成する磁石粒子の表面処理により、磁石粒子の表面が無機物の皮膜で覆われてよい。例えば、無機物の皮膜は、リン酸塩又はシリカ系化合物を含んでよい。
【0040】
(第一樹脂組成物及び第二樹脂組成物)
第一樹脂組成物は、造粒粒子に含まれる磁石粒子を互いに結着する結着材(バインダ)として機能し、各造粒粒子に機械的強度を付与する。また磁場下での造粒粉末の形成過程において、磁場に沿って配向した各磁石粒子の磁化容易軸の方向が、第一樹脂組成物によって固定及び維持される。第一樹脂組成物を硬化させることにより、第一樹脂組成物の硬化物が磁石粒子同士を更に強固に結着する。その結果、各造粒粒子の機械的強度が増加し、各磁石粒子の磁化容易軸の配向方向が維持され易い。
例えば、第一樹脂組成物は少なくともエポキシ樹脂及び硬化剤を含んでよく、第一樹脂組成物に含まれる硬化剤は、アミン化合物を含んでよい。
【0041】
第二樹脂組成物は、コンパウンドに含まれる造粒粒子を互いに結着する結着材(バインダ)として機能する。また加熱を伴うコンパウンドの成形工程において、第二樹脂組成物は溶融して造粒粒子を互いに結着するバインダとして機能し、コンパウンドから形成される成形体に機械的強度を付与する。例えば、金型を用いてコンパウンドが高圧で成形される際に、溶融した第二樹脂組成物は造粒粒子の間に充填され、造粒粒子を互いに結着する。成形体中の第二樹脂組成物を硬化させることにより、第二樹脂組成物の硬化物が造粒粒子同士を更に強固に結着して、成形体及びボンド磁石の機械的強度が増加する。
例えば、第二樹脂組成物は少なくともエポキシ樹脂及び硬化剤を含んでよい。第二樹脂組成物は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、及びエポキシ基と反応する官能基を有する化合物を含んでもよく、エポキシ基と反応する前記官能基が、アミノ基であってよい。
【0042】
第一樹脂組成物及び第二樹脂組成物其々の構成成分の具体例が、以下に説明される。原則、以下に記載の「樹脂組成物」は、第一樹脂組成物又は第二樹脂組成物を意味する。第一樹脂組成物の組成は、第二樹脂組成物の組成と異なってよい。第一樹脂組成物の組成は、第二樹脂組成物の組成と同じであってもよい。
【0043】
樹脂組成物に含まれる熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂を含んでよい。樹脂組成物が熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を含む場合、樹脂組成物が上述された所望の粘度特性を有し易い。
【0044】
エポキシ樹脂は、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ジフェニルメタン型エポキシ樹脂、硫黄原子含有型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、サリチルアルデヒド型エポキシ樹脂、ナフトール類とフェノール類との共重合型エポキシ樹脂、アラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物、ビスフェノール型エポキシ樹脂、アルコール類のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、テルペン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、シクロペンタジエン型エポキシ樹脂、多環芳香環変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ナフタレン環含有フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジル型又はメチルグリシジル型のエポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、ハロゲン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂、及びオレフィン結合を過酢酸などの過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。樹脂組成物は、上記のうち複数種のエポキシ樹脂を含んでもよい。
【0045】
樹脂組成物は、硬化剤を含んでよい。硬化剤は、低温から室温の範囲でエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤と、加熱に伴ってエポキシ樹脂を硬化させる加熱硬化型硬化剤と、に分類される。低温から室温の範囲でエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤は、例えば、脂肪族ポリアミン(トリエチレンテトラミン等)、ポリアミノアミド、及びポリメルカプタンなどである。加熱硬化型硬化剤は、例えば、芳香族ポリアミン、酸無水物、フェノール樹脂(フェノールノボラック樹脂)、及びジシアンジアミド(DICY)などである。樹脂組成物は、複数種の硬化剤を含んでよい。
【0046】
低温から室温の範囲でエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤を用いた場合、エポキシ樹脂の硬化物のガラス転移点は低く、エポキシ樹脂の硬化物は軟らかい傾向がある。その結果、造粒粉末から形成された成形体及びボンド磁石も軟らかくなり易い。
【0047】
磁場中で磁石粉末及び第一樹脂組成物から造粒粉末を形成する過程において、各磁石粒子の磁化容易軸の配向方向を維持し易い観点において、低温から室温の範囲でエポキシ樹脂を硬化させるアミン化合物(例えば、多官能のアミン系硬化剤)が第一樹脂組成物に含まれてよい。多官能のアミン系硬化剤は、ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミン及びヘキサメチレンテトラミンからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。多官能のアミン系硬化剤の質量は、第一樹脂組成物に含まれる100質量部のエポキシ樹脂に対して、1~50重量部、好ましくは5~20重量部、さらに好ましくは8~15重量部であってよい。造粒粉末の形成に用いられる後述の第一樹脂溶液におけるエポキシ樹脂及びアミン系硬化剤の含有量は、1~50質量%、好ましくは2~30質量%、さらに好ましくは5~20質量%であってよい。
【0048】
ボンド磁石の耐熱性(高温での機械的強度)を向上させる観点から、硬化剤は、好ましくは加熱硬化型の硬化剤、より好ましくはフェノール樹脂、さらに好ましくはフェノールノボラック樹脂であってよい。特に硬化剤としてフェノールノボラック樹脂を用いることで、ガラス転移点が高いエポキシ樹脂の硬化物が得られ易い。その結果、ボンド磁石の耐熱性が向上し易い。
【0049】
一部又は全部の硬化剤は、フェノール樹脂であってよい。フェノール樹脂は、例えば、アラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、サリチルアルデヒド型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、ベンズアルデヒド型フェノールとアラルキル型フェノールとの共重合型フェノール樹脂、パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂、メラミン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型ナフトール樹脂、シクロペンタジエン変性フェノール樹脂、多環芳香環変性フェノール樹脂、ビフェニル型フェノール樹脂、及びトリフェニルメタン型フェノール樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。フェノール樹脂は、二種以上の上記フェノール樹脂から構成される共重合体であってもよい。フェノール樹脂の市販品としては、例えば、荒川化学工業株式会社製のタマノル758、又は昭和電工マテリアルズ株式会社製のHP-850Nなどを用いてもよい。
【0050】
フェノールノボラック樹脂は、例えば、フェノール類及び/又はナフトール類と、アルデヒド類と、を酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られる樹脂であってよい。フェノールノボラック樹脂を構成するフェノール類は、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール及びアミノフェノールからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。フェノールノボラック樹脂を構成するナフトール類は、例えば、α-ナフトール、β-ナフトール及びジヒドロキシナフタレンからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。フェノールノボラック樹脂を構成するアルデヒド類は、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド及びサリチルアルデヒドからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0051】
硬化剤は、例えば、1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物であってよい。1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物は、例えば、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、及び置換又は非置換のビフェノールからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0052】
樹脂組成物は、硬化剤として、上記のうち一種のフェノール樹脂を含んでよい。樹脂組成物は、硬化剤として、上記のうち複数種のフェノール樹脂を含んでもよい。
【0053】
エポキシ樹脂のエポキシ当量に対するフェノール樹脂の水酸基当量の比率は、0.5以上1.5以下、0.9以上1.4以下、1.0以上1.4以下、又は1.0以上1.2以下であってよい。つまり、エポキシ樹脂中のエポキシ基と反応するフェノール樹脂中の活性基(フェノール性OH基)の比率は、エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対して、好ましくは0.5当量以上1.5当量以下、0.9当量以上1.4当量以下、1.0当量以上1.4当量以下、又は1.0当量以上1.2当量以下であってよい。フェノール樹脂中の活性基の比率が0.5当量未満である場合、硬化後のエポキシ樹脂の単位重量当たりのOH量が少なくなり、樹脂組成物(エポキシ樹脂)の硬化速度が低下する。またフェノール樹脂中の活性基の比率が0.5当量未満である場合、得られる硬化物のガラス転移温度が低下し易く、硬化物の充分な弾性率が得られ難く、ボンド磁石の耐油性が低下し易い。一方、フェノール樹脂中の活性基の比率が1.5当量を超える場合、コンパウンドから形成されたボンド磁石の機械的強度が低下する傾向がある。ただし、フェノール樹脂中の活性基の比率が上記範囲外である場合であっても、本発明に係る効果は得られる。
【0054】
樹脂組成物は硬化促進剤を含んでよい。硬化促進剤は、例えば、エポキシ樹脂と反応してエポキシ樹脂の硬化を促進させる組成物であれば限定されない。硬化促進剤は、リン系の硬化促進剤であることが好ましい。リン系硬化促進剤は、トリフェニルホスフィン-ベンゾキノン、トリス-4-ヒドロキシフェニルホスフィン-ベンゾキノン、テトラフェニルホスホニウム・テトラキス(4-メチルフェニル)ボレート、及びテトラ(n-ブチル)ホスホニウムテトラフェニルボレートからなる群より選ばれる少なくとも一種の硬化促進剤であってよい。上記硬化促進剤を含むコンパウンドから製造されたボンド磁石は、優れた機械的強度を有し易い。また上記硬化促進剤を含む造粒粉末は、高温及び高湿な環境下においても長期間にわたって安定的に保存し易い。硬化促進剤は、例えば、アルキル基置換イミダゾール、又はベンゾイミダゾールなどのイミダゾール類であってもよい。樹脂組成物は、一種の硬化促進剤を含んでよい。樹脂組成物は、複数種の硬化促進剤を含んでもよい。
【0055】
硬化促進剤の配合量は、硬化促進効果が得られる量であればよく、特に限定されない。ただし、樹脂組成物の吸湿時の硬化性及び流動性を改善する観点からは、硬化促進剤の配合量は、100質量部のエポキシ樹脂に対して、0.1質量部以上30質量部以下、又は1質量部以上15質量部以下であってよい。同様の理由から、硬化促進剤の含有量は、エポキシ樹脂及び硬化剤(例えばフェノール樹脂)の質量の合計に対して0.001質量部以上5質量部以下であってよい。硬化促進剤の配合量が0.1質量部未満である場合、十分な硬化促進効果が得られ難い。硬化促進剤の配合量が30質量部を超える場合、造粒粉末の保存安定性が低下し易い。ただし、硬化促進剤の配合量及び含有量が上記範囲外である場合であっても、本発明に係る効果は得られる。
【0056】
樹脂組成物が上述された所望の粘度特性を有し易く成形体の密度が増加し易い観点から、ICI粘度が0.5Pa・秒以下である固形エポキシ樹脂が樹脂組成物(特に第二樹脂組成物)に含まれてよい。このようなエポキシ樹脂としては、NC-3000L、NC-3000、NC-3000H、NC-7300L、EPPN-502H、RE-3035-L、(以上、日本化薬株式会社製)、jER-YX-4000、jER-YX-4000H、jER-YL-6121、(以上、三菱ケミカル株式会社製)、エピクロンHP-7200L、及びエピクロンHP4770、(以上、DIC株式会社製)等が用いられてよい。
【0057】
樹脂組成物は、半固形エポキシ樹脂が添加された固形エポキシ樹脂及び固形硬化剤を含んでよい。半固形エポキシ樹脂としては、RE-303S-L、RE-303S(以上、日本化薬株式会社製)、エピコート825、エピコート827、エピコート828、エピコート828EL、エピコート828US、エピコート828XA、エピコート1001、(以上、三菱ケミカル株式会社製)、エピクロン860、エピクロン1050、エピクロン1055、エピクロンHP-4032、及びエピクロンHP-4032D、(以上、DIC株式会社製)等が用いられてよい。
【0058】
樹脂組成物は、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂と共に、エポキシ基と反応する官能基を有する化合物を含んでよい。エポキシ基と反応する官能基は、アミノ基、フェノール性水酸基、カルボキシル基、及びチオール基からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。エポキシ基と反応する官能基を有する化合物は、カップリング剤と言い換えられてよい。100℃近傍での樹脂組成物の熱硬化反応が適度に進み易く、樹脂組成物の粘度を加熱により短時間で所定の粘度に上昇させ易い観点から、エポキシ基と反応する官能基はアミノ基であってよい。つまり、樹脂組成物(特に第二樹脂組成物)は、エポキシ基と反応する官能基を有する化合物として、アミノ基を有する化合物を含んでよい。樹脂組成物がアミノ基を有する化合物を含む場合、100℃近傍の温度範囲において造粒粉末から成形体を形成する過程において、磁場に沿った磁石粒子の配向と共に、樹脂組成物の硬化反応がある程度進行する。その結果、成形体内における磁石粒子の配向方向が固定され易い。
【0059】
アミノ基を有する化合物は、一級アミノ基又は二級アミノ基を有する化合物であってよい。造粒粉末がコンパウンド中で安定的に分散し易く、ボンド磁石の機械的強度が増加し易い観点から、アミノ基を有する化合物は、シリコン化合物(いわゆるシランカップリング剤)であってよい。アミノ基を有するシリコン化合物としては、KBM-602(N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン)、KBM-603(N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン)、KBM-903(3-アミノプロピルトリメトキシシラン)、KBE-903(3-アミノプロピルトリエトキシシラン)、KBE-9103P(3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチルブテリデン)プロピルアミン)、KBM-573(N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン)、及びKBM-6803(N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン)等の信越化学株式会社製の化合物が用いられてよい。樹脂組成物は、一種のシリコン化合物を含んでよい。樹脂組成物は、複数種のシリコン化合物を含んでもよい。
【0060】
エポキシ基と反応する官能基を有する化合物の質量は、100質量部の樹脂組成物に対して、1~20質量部であってよい。エポキシ基と反応する官能基を有する化合物の質量は、100質量部のエポキシ樹脂に対して1~30質量部であってよい。
【0061】
樹脂組成物(特に第二樹脂組成物)は、反応性希釈剤を含んでよい。樹脂組成物(特に第二樹脂組成物)は、エポキシ樹脂と反応性希釈剤とを含んでよい。エポキシ樹脂が反応性希釈剤で希釈されることで、樹脂組成物(特に第二樹脂組成物)が上述された所望の粘度特性を有し易い。反応性希釈剤は、例えば、モノエポキシ化合物、及びジエポキシ化合物のうち少なくともいずれかであってよい。反応性希釈剤は、単官能のエポキシ樹脂であってよい。反応性希釈剤は、例えば、アルキルモノグリシジルエーテル、アルキルフェノールモノグリシジルエーテル、及びアルキルジグリシジルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。アルキルモノグリシジルエーテルの市販品としては、例えば、三菱ケミカル株式会社製のYED188又はYED111N等が用いられてよい。アルキルフェノールモノグリシジルエーテルの市販品としては、例えば、DIC株式会社製のEPICLON520、又は三菱ケミカル株式会社製のYED122等が用いられてよい。アルキルジグリシジルエーテルの市販品としては、例えば、三菱ケミカル株式会社製のYED216M又はYED216D等が用いられてよい。
【0062】
樹脂組成物は、上述された成分の他、流動助剤、難燃剤、及び潤滑剤等の添加剤を含んでもよい。金属石鹸又はワックス等の潤滑剤は、造粒粉末及びコンパウンド其々の流動性を向上させ、コンパウンドの成型に用いる金型の内壁の損傷を抑制する。金型の損傷を低減するために、潤滑剤が分散した分散液が、金型(ダイス)の内壁(パンチと接触する壁面)が塗布され、塗布された分散液が乾燥されてよい。
【0063】
(造粒粉末の製造方法)
造粒粉末の製造方法は、特に限定されないが、例えば、以下の通りであってよい。
【0064】
未硬化の第一樹脂組成物(第一樹脂組成物を構成する全成分)と有機溶媒を均一に撹拌及び混合することにより、第一樹脂組成物が溶解した第一樹脂溶液が調製される。有機溶媒は、第一樹脂組成物が溶解できる溶媒である限り、限定されない。例えば、有機溶媒は、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ベンゼン、トルエン、キシレン、N-メチルピロリジノン(N-メチル-2-ピロリドン)、γ-ブチロラクトン、ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドからなる群より選ばれる少なくとも一種あってよい。作業性の観点から、有機溶媒は常温で液体であってよく、有機溶媒の沸点は60℃以上150℃以下であってよい。このような溶媒としては、例えば、アセトン又はメチルエチルケトンが用いられてよい。
【0065】
造粒粉末の形成工程(造粒工程)では、上記の第一樹脂溶液及び磁石粉末が均一に撹拌及び混合される。磁場中で第一樹脂溶液及び磁石粉末の混合物から有機溶媒を十分に除去することにより、磁場に沿って配向した磁化容易軸を有する複数の磁石粒子と磁石粒子同士を結着する第一樹脂組成物から構成される造粒粒子が形成される。つまり配向度が80%以上である造粒粉末が得られる。有機溶媒の除去に伴って、第一樹脂組成物は各磁石粒子の表面の一部又は全体に付着してよい。有機溶媒の除去方法は特に限定されない。有機溶媒の除去のために、造粒工程が真空中で実施されてよい。有機溶媒の除去のために、造粒工程において、第一樹脂溶液及び磁石粉末の混合物が加熱されてもよい。磁石粉末の酸化を抑制するために、造粒工程が不活性ガス中で実施されてもよい。例えば、不活性ガスは、窒素ガス又は希ガス(アルゴン等)であってよい。第一樹脂溶液及び磁石粉末の攪拌及び混合の方法は、磁石粉末の容器の振動による攪拌、気流による攪拌、機械的撹拌、又は磁場による撹拌であってよい。造粒粉末の粒径は、磁石粉末の粒径、第一樹脂溶液の濃度及び粘度、有機溶媒の沸点、及び乾燥温度等により制御することができる。
【0066】
造粒粉末の分級により、造粒粉末の粒径及び粒度分布が調整されてよい。分級手段は、篩であってよい。JIS Z8801-1に基づく篩の公称目開きは、25μm、32μm、38μm、45μm、53μm、63μm、75μm、90μm、106μm、125μm、150μm、212μm、250μm、300μm、355μm、425μm、500μm、600μm、710μm、1mm、1.18mm、1.4mm、及び1.7mm、2mm等である。これらの公称目開きを有する篩で造粒粉末を分級することができる。一種類の篩を用いた造粒粉末の分級より、所定の値(篩の目開き)以下の粒径を有する造粒粉末が得られてよい。目開きの異なる二種類の篩いを用いた造粒粉末の分級より、造粒粉末の粒径が所定の範囲内に調整されてもよい。
【0067】
(コンパウンドの製造方法)
未硬化の第二樹脂組成物(第二樹脂組成物を構成する全成分)と有機溶媒を均一に撹拌及び混合することにより、第二樹脂組成物が溶解した第二樹脂溶液が調製される。第二樹脂溶液が調製に用いる有機溶媒は、上述の有機溶媒であってよい。
【0068】
コンパウンドの製造では、上記の第二樹脂溶液及び造粒粉末が均一に撹拌及び混合されてよい。第二樹脂溶液及び造粒粉末の混合物から有機溶媒を十分に除去することにより、コンパウンドが得られる。有機溶媒の除去に伴って、第二樹脂組成物は各造粒粒子の表面の一部又は全体に付着してよい。有機溶媒の除去方法は特に限定されない。有機溶媒の除去のために、真空中でコンパウンドが乾燥されてよい。有機溶媒の除去のために、第二樹脂溶液及び造粒粉末の混合物が加熱されてもよい。不活性ガス中でコンパウンドが調製されてもよい。例えば、不活性ガスは、窒素ガス又は希ガス(アルゴン等)であってよい。第一樹脂溶液及び磁石粉末の攪拌及び混合の方法は、上述の方法であってよい。造粒粉末中の第一樹脂組成物の溶解を抑制し、造粒粉末中の磁石粒子の配向方向を維持するために、第二樹脂溶液及び造粒粉末の混合前に、造粒粉末中の第一樹脂組成物の一部又は全部が硬化されてよい。
【0069】
上記の第二樹脂溶液の乾燥によって得られた固形物の粉砕により、第二樹脂組成物からなる粉末が調製されてよい。第二樹脂組成物からなる粉末と造粒粉末を均一に撹拌及び混合することにより、コンパウンドが調製されてもよい。
【0070】
本発明は必ずしも上述された実施形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、本発明の種々の変更が可能であり、これ等の変更例も本発明に含まれる。例えば、コンパウンドに磁場を印加することなくコンパウンドから成形体が形成されてよく、コンパウンドから製造されるボンド磁石は等方性磁石であってもよい。造粒粉末中の第一樹脂組成物の一部又は全部が硬化していない場合、コンパウンドは造粒粉末のみからなっていてもよい。つまり、成形体及びボンド磁石が造粒粉末のみから製造されてもよい。
【実施例】
【0071】
以下の実施例及び比較例により、本発明が詳細に説明される。本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0072】
(実施例1)
[造粒粉末の作製]
エポキシ樹脂、硬化剤、及びアセトンを攪拌及び混合することにより、10質量%の第一樹脂組成物が完全に溶解した第一樹脂溶液が調製された。第一樹脂溶液に用いたエポキシ樹脂及びその質量は、下記表1に示される。第一樹脂溶液に用いた硬化剤及びその質量は、下記表1に示される。第一樹脂溶液に用いたアセトンの質量は、下記表1に示される。
【0073】
磁石粉末がガラスシャーレ内に設置され、永久磁石がガラスシャーレの下に設置された。永久磁石が磁石粉末に及ぼす磁場の強度は、下記表1に示される。10gの第一樹脂溶液をガラスシャーレ内の磁石粉末へ滴下した後、バイブレータでガラスシャーレを振動させながら磁石粉末が乾燥された。ガラスシャーレ内の液体がほぼ見られなくなった時点で、10gの第一樹脂溶液がガラスシャーレ内の磁石粉末へ更に滴下され、磁石粉末が更に乾燥された。その後、磁石粉末を室温で24時間放置することにより、造粒粉末が得られた。換言すれば、室温での第一樹脂組成物の硬化により、第一樹脂組成物によって結着された複数の磁石粒子からなる造粒粒子が形成された。上記磁場と方向が逆である磁場を造粒粉末へ印加することにより、造粒粉末が脱磁された。造粒粉末自体の磁力に因る造粒粉末自体の凝集がほぼ解消され、造粒粉末が流動する時点が、脱磁の完了時点であった。以上の方法によって作製された造粒粉末を篩で分級することにより、粒径が100μm以下である造粒粉末が得られた。
【0074】
磁石粉末として、Sm-Fe-N系磁石からなる球状粉(日亜化学株式会社製の磁石粉末)が用いられた。BET法によって測定される球状粉の比表面積は、2.557m2/gであった。球状粉の平均粒径は、2.9μmであった。実施例1の造粒粉末に用いた磁石粉末の質量は、下記表1に示される。
【0075】
[造粒粉末の観察]
走査型電子顕微鏡(SEM)で、造粒粉末が観察された。造粒粉末を構成する複数の造粒粒子其々が、複数の磁石粒子と第一樹脂組成物から構成されていた。
【0076】
[造粒粉末の流動性の測定]
造粒粉末の流動性が、JIS-Z2502に基づく以下の方法によって測定された。50gの造粒粉末が、漏斗内に導入された。漏斗の内角は60°であり、漏斗の直径の最小値(漏斗の出口の口径)は0.23mmであった。漏斗内に導入された造粒粉末の全量が漏斗内を通過する時間(流動時間)が測定された。実施例1の流動時間(単位:秒)は、下記表1に示される。流動時間が短いほど、造粒粉末は流動性に優れている。
【0077】
[造粒粉末の配向度の測定]
室温における造粒粉末及びエポキシ樹脂の注型により、円柱状の成形体Cが形成された。注型用のエポキシ樹脂としては、リファインテック株式会社製のエポマウントが用いられた。磁場を成形体Cの底面に対して垂直に印加することにより、成形体Cが磁化された。成形体Cの底面に印加された磁場の強度は、2.0Tであった。磁化された成形体Cの底面における残留磁束密度Br1が、ガウスメータによって測定された。成形体Cに含まれる磁石粉末と同量の磁石粉末自体の残留磁束密度Br2が、予めVSMによって測定された。成形体Cの底面(円)の面積と成形体Cの高さとの積により、成形体Cの見かけの体積V1が算出された。成形体Cに含まれる磁石粉末自体の質量を、磁石粉末自体の真密度で除することにより、磁石粉末自体の体積V2が算出された。Br1、Br2、V1及びV2から、造粒粉末の配向度が算出された。配向度は、Br1/Br2/(V2/V1)と定義される。実施例1の造粒粉末の配向度は、下記表1に示される。
【0078】
[コンパウンドの作製]
2.06gのエポキシ樹脂、1.44gの硬化剤、0.3gのカップリング剤、0.124gの硬化促進剤(硬化触媒)、及び25mlのアセトンを、ナス型フラスコ内で攪拌及び混合することにより、第二樹脂組成物が完全に溶解した第二樹脂溶液が調製された。
第二樹脂溶液に用いたエポキシ樹脂は、エポキシ当量が192であるビフェニル型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製のYX-4000H)であった。
第二樹脂溶液に用いた硬化剤は、水酸基当量が108であるフェノールノボラック樹脂(昭和電工マテリアルズ株式会社製のHP-850N)であった。
第二樹脂溶液に用いたカップリング剤は、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学株式会社製のKBM-573)であった。
第二樹脂溶液に用いた硬化促進剤は、テトラ(n-ブチル)ホスホニウムテトラフェニルボレート(日本化学工業株式会社製のPX-4PB)であった。
ナス型フラスコの容積は、300mlであった。
【0079】
上記の造粒粉末の全てがフラスコ内の第二樹脂溶液へ添加された後、造粒粉末及び第二樹脂溶液の混合物が10分間攪拌された。混合物の攪拌後、エバポレータを用いてアセトンが25℃で混合物から留去された。フラスコ内の液体がほぼ見られなくなった時点で、フラスコ内の固形物(塊)をほぐした後、エバポレータで30分間フラスコ内が減圧された。フラスコ内の減圧後、フラスコから回収された固形物がバット(vat)上に広げられた。バット上の固形物は真空中において常温で1日間乾燥された。乾燥には減圧乾燥機が用いられた。固形物の乾燥後、ビニール袋に入れられた固形物をハンマーで粉砕することにより、コンパウンド粉が得られた。
【0080】
[成形体の作製]
金型内に充填された上記コンパウンドを100℃で加熱しながらコンパウンドを100MPaで圧縮するにより、直方体状の成形体が得られた。金型のキャビティーの寸法は、幅7mm×奥行き7mmであった。コンパウンドの圧縮には、油圧プレス機が用いられた。成形体は乾燥機内に設置され、5℃/分の昇温速度で常温から200℃まで加熱され、更に200℃で10分間保持された。乾燥機から取り出された成形体は常温まで冷却された。
【0081】
[成形体の圧壊強度の測定]
万能圧縮試験機を用いて、圧縮圧力が上記の成形体の端面に印加された。つまり、成形体の高さ方向において、圧縮圧力が成形体へ印加された。圧縮圧力を増加させて、成形体が破壊された時の圧縮圧力が測定された。成形体が破壊された時の圧縮圧力は、圧壊強度を意味する。万能圧縮試験機としては、株式会社島津製作所製のAG-10TBRが用いられた。圧壊強度の測定におけるクロスヘッドの速度は、0.5mm/分であった。圧壊強度の測定は、室温(25℃)の大気中で行われた。実施例1の成形体の圧壊強度は、下記表1に示される。
【0082】
(実施例2~6及び比較例1~6)
実施例2~6及び比較例1~6其々の第一樹脂溶液に用いたエポキシ樹脂及びその質量は、下記表1に示される。
実施例2~6及び比較例1~6其々の第一樹脂溶液に用いた硬化剤及びその質量は、下記表1に示される。
実施例2~6及び比較例1~6其々の第一樹脂溶液に用いたアセトンの質量は、下記表1に示される。
実施例6及び比較例6其々の第一樹脂溶液は、エポキシ樹脂、硬化剤及びアセトンに加えて、硬化促進剤を含んでいた。実施例6及び比較例6其々の第一樹脂溶液に用いた硬化促進剤及びその質量は、下記表1に示される。
実施例5及び比較例5其々の造粒粉末の作製では、上記の球状粉の代わりに、住友金属鉱山株式会社製の磁石粉末が用いられた。この磁石粉末は、Sm-Fe-N系磁石の塊を粉砕することによって得られた粉砕粉であり、粉砕粉の形状は歪(不均一)であった。粉砕粉の平均粒径は、3.5μmであった。
比較例1~6其々の造粒工程では、第一樹脂溶液及び磁石粉末に磁場を印加することなく、造粒粉末が作製された。
実施例6及び比較例6其々の造粒工程では、造粒粉末を150℃で1時間加熱することにより、造粒粉末中の第一樹脂組成物が硬化された。
【0083】
上記の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例2~6及び比較例1~6其々の造粒粉末、コンパウンド及び成形体が作製された。実施例2~6及び比較例1~6其々の造粒粉末がSEMで観察された。実施例2~6及び比較例1~6のいずれの場合も、造粒粉末を構成する複数の造粒粒子其々が、複数の磁石粒子と第一樹脂組成物から構成されていた。実施例2~6及び比較例1~6其々の造粒粉末及び成形体に関する測定が、実施例1と同様の方法で実施された。実施例2~6及び比較例1~6其々の測定結果は下記表1に示される。
【0084】
下記表1中のHP-4700は、DIC株式会社製のエポキシ樹脂であり、4官能ナフタレン型エポキシ樹脂である。
下記表1中のEPPN-502Hは、日本化薬株式会社製のエポキシ樹脂であり、サリチルアルデヒドノボラック型エポキシ樹脂である。
下記表1中のTETAは、トリエチレンテトラミンである。
下記表1中HP-850Nは、昭和電工マテリアルズ株式会社製の硬化剤であり、水酸基当量が108であるフェノールノボラック樹脂である。
下記表1中の2E4MZは、四国化成工業株式会社製の硬化促進剤であり、2-エチル-4-メチルイミダゾールである。
下記表1中のMMは、造粒粉末の作製に用いた磁石粉末の質量を表す。下記表1中のMBは、第一樹脂溶液に含まれるエポキシ樹脂及び硬化剤の質量の合計を表す。
【0085】
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の一側面に係る造粒粉末は、例えば、ボンド磁石の原料に用いられる。
【符号の説明】
【0087】
2…造粒粒子、4…磁石粒子(磁石粉末)、6…第一樹脂組成物、10…造粒粉末、20A,20B…成形体。