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特許7567747シリコン単結晶ウェーハの欠陥の種類の特定方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】シリコン単結晶ウェーハの欠陥の種類の特定方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/66 20060101AFI20241008BHJP
   G01N 21/956 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H01L21/66 J
G01N21/956 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021170918
(22)【出願日】2021-10-19
(65)【公開番号】P2023061116
(43)【公開日】2023-05-01
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 久之
【審査官】平野 崇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/049387(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0256807(US,A1)
【文献】特開2016-212009(JP,A)
【文献】国際公開第2020/240707(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2022/0236194(US,A1)
【文献】特開2018-186195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
G01N 21/956
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン単結晶ウェーハの欠陥の種類を特定する方法であって、
前記シリコン単結晶ウェーハの表面に存在する欠陥をパーティクルカウンターで検出して欠陥数および欠陥サイズを測定し、
該測定後のシリコン単結晶ウェーハの表面に窒化膜を形成し、
該窒化膜形成後のシリコン単結晶ウェーハの表面に存在する欠陥を前記パーティクルカウンターで検出して欠陥数および欠陥サイズを測定し、
前記窒化膜形成前後の前記欠陥数の変化および前記欠陥サイズの変化を評価し、
該評価の結果から、前記欠陥の種類を特定することを特徴とするシリコン単結晶ウェーハの欠陥の種類の特定方法。
【請求項2】
前記形成する窒化膜の厚さを、30~120nmとすることを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶ウェーハの欠陥の種類の特定方法。
【請求項3】
前記欠陥サイズの変化を評価するとき、
前記窒化膜形成前後で前記欠陥の位置座標を取得し、同一位置座標の欠陥について評価することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシリコン単結晶ウェーハの欠陥の種類の特定方法。
【請求項4】
前記評価の結果において、前記窒化膜形成後に前記欠陥数が減少しており、かつ、残存した欠陥の欠陥サイズが小さくなっている場合は、
前記欠陥はCOPであると特定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のシリコン単結晶ウェーハの欠陥の種類の特定方法。
【請求項5】
前記評価の結果において、前記窒化膜形成後に前記欠陥数が変化しておらず、かつ、前記欠陥の欠陥サイズが変化していない場合は、
前記欠陥はPIDであると特定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のシリコン単結晶ウェーハの欠陥の種類の特定方法。
【請求項6】
前記評価の結果において、前記窒化膜形成前に検出された欠陥が前記窒化膜形成後も残存して欠陥サイズが大きくなっているとともに、前記窒化膜形成後に新たな欠陥を検出している場合は、
前記欠陥は熱的に安定したパーティクルであると特定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のシリコン単結晶ウェーハの欠陥の種類の特定方法。
【請求項7】
前記熱的に安定したパーティクルをSiOまたはAlとすることを特徴とする請求項6に記載のシリコン単結晶ウェーハの欠陥の種類の特定方法。
【請求項8】
前記評価の結果において、前記窒化膜形成前に検出された欠陥の一部が前記窒化膜形成後に消滅しているとともに、前記窒化膜形成後に残存した欠陥の欠陥サイズが大きくなっている場合は、
前記欠陥は熱的に不安定なパーティクルであると特定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のシリコン単結晶ウェーハの欠陥の種類の特定方法。
【請求項9】
前記熱的に不安定なパーティクルを有機物とすることを特徴とする請求項8に記載のシリコン単結晶ウェーハの欠陥の種類の特定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶ウェーハの欠陥の種類の特定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンデバイスの集積化が進み、5nmノードのICが製造されている。しかし、そのICの不良要因となるパーティクルの検出に関しては12nmが最小の検出感度となっている。線幅の何倍ものサイズのパーティクルがウェーハ上に存在すれば当然ICは不良となる為、より小さなパーティクルの測定方法の確立が望まれる。
【0003】
微小パーティクルの測定方法として特許文献1ではプラズマCVDによる窒化膜形成によるレンズ効果を利用した高感度化が報告されている。
この方法は、検出できないサイズの微小パーティクルの乗ったウェーハにプラズマCVDで窒化膜を成膜すると、パーティクルを包むように窒化膜が成膜される事で、成膜後は見かけ上のパーティクルサイズが大きくなり、パーティクルカウンターで検出できるようになるという方法である。
【0004】
また、ウェーハ出荷時のパーティクルカウンターでは見つからなかったパーティクルがデバイス工程の酸化や、CVDで窒化膜成膜後のパーティクルカウンター検査で検出される場合がある。これは、ウェーハ出荷時ではパーティクルカウンターの検出下限以下のサイズであったパーティクルが、酸化や、窒化膜形成で大きくなって検出されているものと推測できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-212009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の窒化膜によるレンズ効果を利用したパーティクルサイズの拡大による欠陥検出において、もともとのパーティクルは検出できないサイズであるため、その組成、形状が分からず、発生原因の特定が難しい。パーティクルカウンターで検出できるサイズの欠陥であれば、SEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)による組成、形状の測定は可能である。一方、パーティクルカウンターで検出できないサイズの欠陥の組成、形状はSEMで見つけることが出来れば可能であるが、事実上、見つけることが出来ない。窒化膜形成後では欠陥の位置や密度の測定はできるが、窒化膜に埋もれているため、組成や形状は断面TEM(Transmission Electron Microscope:透過型電子顕微鏡)で窒化膜下の欠陥形状を確認しないと分からない。この断面TEMは時間のかかる測定である為、多くの欠陥を測定するのは難しい。
【0007】
窒化膜形成後に検出される凸部の原因となる、微小パーティクルの発生原因を特定するためには微小パーティクルがどのような物質であるのか(どのような種類の欠陥であるのか)を簡単に求める方法が必要である。
【0008】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、シリコン単結晶ウェーハの表面の欠陥の種類を簡単に特定することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、シリコン単結晶ウェーハの欠陥の種類を特定する方法であって、
前記シリコン単結晶ウェーハの表面に存在する欠陥をパーティクルカウンターで検出して欠陥数および欠陥サイズを測定し、
該測定後のシリコン単結晶ウェーハの表面に窒化膜を形成し、
該窒化膜形成後のシリコン単結晶ウェーハの表面に存在する欠陥を前記パーティクルカウンターで検出して欠陥数および欠陥サイズを測定し、
前記窒化膜形成前後の前記欠陥数の変化および前記欠陥サイズの変化を評価し、
該評価の結果から、前記欠陥の種類を特定することを特徴とするシリコン単結晶ウェーハの欠陥の種類の特定方法を提供する。
【0010】
このように窒化膜形成前後でのパーティクルカウンターで検出した欠陥の欠陥数変化、欠陥サイズ変化を求めることで、形成した窒化膜下に埋もれた、原因となる欠陥(パーティクル等)の要因を求めることが出来る。本来、この要因の特定(欠陥の種類の特定)には、時間のかかる断面TEMなどで窒化膜下のパーティクル等を評価する必要があるが、本発明であればパーティクルカウンターの測定結果から簡単に特定することができる。
【0011】
このとき、前記形成する窒化膜の厚さを、30~120nmとすることができる。
【0012】
30nmの厚さの窒化膜を形成すれば、窒化膜形成前では検出できないような微小なパーティクルを、より確実に、前述したレンズ効果によって見かけ上のサイズを大きくして検出できるようにすることができる。また、120nmの厚さもあれば十分であり、必要以上の時間やコストをかけずに済み効率的である。
【0013】
また、前記欠陥サイズの変化を評価するとき、
前記窒化膜形成前後で前記欠陥の位置座標を取得し、同一位置座標の欠陥について評価することができる。
【0014】
このように欠陥サイズの変化の評価では、ウェーハ面内における欠陥座標などを基にして同一位置座標の欠陥について評価するのが好ましい。
【0015】
また、評価結果から欠陥の種類を特定するパターン例としては、例えば以下のようなものが挙げられる。
まず、前記評価の結果において、前記窒化膜形成後に前記欠陥数が減少しており、かつ、残存した欠陥の欠陥サイズが小さくなっている場合は、
前記欠陥はCOPであると特定することができる。
また、前記評価の結果において、前記窒化膜形成後に前記欠陥数が変化しておらず、かつ、前記欠陥の欠陥サイズが変化していない場合は、
前記欠陥はPIDであると特定することができる。
また、前記評価の結果において、前記窒化膜形成前に検出された欠陥が前記窒化膜形成後も残存して欠陥サイズが大きくなっているとともに、前記窒化膜形成後に新たな欠陥を検出している場合は、
前記欠陥は熱的に安定したパーティクルであると特定することができる。
また、前記評価の結果において、前記窒化膜形成前に検出された欠陥の一部が前記窒化膜形成後に消滅しているとともに、前記窒化膜形成後に残存した欠陥の欠陥サイズが大きくなっている場合は、
前記欠陥は熱的に不安定なパーティクルであると特定することができる。
【0016】
欠陥の種類によって欠陥数の変化と欠陥サイズの変化には傾向が見られることを本発明者は見出しており、例えば上記のような変化パターンでは、各々、COP、PID、熱的に安定したパーティクル、熱的に不安定なパーティクルに特定することが可能である。
【0017】
なお現在、ウェーハ製造工程は高度に工程管理されており、プロセス起因の欠陥が検出されるようなことは極めて少ない。つまり欠陥の元となるパーティクルが何種類も同時に発生する事は実際には考えにくく、上記の欠陥数の変化、欠陥サイズの変化の組み合わせパターンが複数組み合わさって発生する事はまず無いと考えられる。したがって、評価対象のシリコン単結晶ウェーハの表面にどのような種類の欠陥が存在しているかを上記変化パターンから十分に特定することが可能である。
【0018】
このとき、前記熱的に安定したパーティクルをSiOまたはAlとすることができる。
また、前記熱的に不安定なパーティクルを有機物とすることができる。
【0019】
このようにSiOまたはAl、あるいは有機物などが、熱的に安定または不安定なパーティクルの例として挙げられる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のシリコン単結晶ウェーハの欠陥の種類の特定方法であれば、断面TEMのような時間のかかる方法に頼ることなく簡単に欠陥の種類を特定することが可能であり有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明のシリコン単結晶ウェーハの欠陥の種類の特定方法の一例を示すフローチャートである。
図2】LPDマップ(COP)である。
図3】欠陥サイズ変化グラフ(COP)である。
図4】欠陥ヒストグラム(COP)である。
図5】LPDマップ(PID)である。
図6】欠陥サイズ変化グラフ(PID)である。
図7】欠陥ヒストグラム(PID)である。
図8】パーティクルとPIDの場合における、窒化膜形成前後の欠陥サイズ変化の様子を示す模式図である。
図9】LPDマップ(熱的に安定したパーティクル:SiO)である。
図10】欠陥サイズ変化グラフ(熱的に安定したパーティクル:SiO)である。
図11】欠陥ヒストグラム(熱的に安定したパーティクル:SiO)である。
図12】共通欠陥と増加欠陥におけるSEM測定図(熱的に安定したパーティクル:SiO)である。
図13】増加欠陥における断面TEM測定図(熱的に安定したパーティクル:SiO)である。
図14】LPDマップ(熱的に不安定なパーティクル:有機物)である。
図15】欠陥サイズ変化グラフ(熱的に不安定なパーティクル:有機物)である。
図16】欠陥ヒストグラム(熱的に不安定なパーティクル:有機物)である。
図17】LPDマップ(実施例1)である。
図18】欠陥サイズ変化グラフ(実施例1)である。
図19】欠陥ヒストグラム(実施例1)である。
図20】LPDマップ(実施例2)である。
図21】欠陥サイズ変化グラフ(実施例2)である。
図22】欠陥ヒストグラム(実施例2)である。
図23】LPDマップ(実施例3)である。
図24】欠陥サイズ変化グラフ(実施例3)である。
図25】欠陥ヒストグラム(実施例3)である。
図26】LPDマップ(実施例4)である。
図27】欠陥サイズ変化グラフ(実施例4)である。
図28】欠陥ヒストグラム(実施例4)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図1は本発明のシリコン単結晶ウェーハの欠陥の種類の特定方法の一例を示すフローチャートである。
<工程1:欠陥数および欠陥サイズの測定(窒化膜形成前測定)>
まず、表面に存在する欠陥の種類(欠陥種とも言う)を特定したい評価対象のシリコン単結晶ウェーハ(以下、単にウェーハとも言う)を用意し、パーティクルカウンターを用いて表面の欠陥を検出し、その欠陥数および欠陥サイズを測定する。
このとき、使用するパーティクルカウンターは、欠陥の検出、欠陥数および欠陥サイズの測定が可能なものであれば良く、特に限定されない。例えば従来から市販されているものを用いることができ、KLA-Tencor社製のSP7などが挙げられる。このようなパーティクルカウンターを用い、LPD(Light Point Defect)マップ、すなわち、ウェーハ面内の欠陥分布を取得する。
なお、後述するように、パーティクルカウンターで検出されるLPDには、例えばパーティクル(熱的に安定なもの、熱的に不安定なもの)、COP、PIDなどが含まれる。
【0023】
このようなLPDマップを取得することにより、ウェーハ面内に存在する欠陥の数(およびその位置座標(単に座標とも言う))を測定することができる。また同時に、検出感度を調整し、検出する欠陥サイズのレベルを設定しておくことにより、所定の欠陥サイズの欠陥が面内にどの程度の数で存在するのかを、各々の位置座標とともに測定可能である。検出感度の調整は求める欠陥サイズに応じてその都度決定することができる。例えばSP7の最高感度である12nmとすることができる。欠陥サイズはLPDのサイズから測定することができる。
【0024】
なお、後述するように窒化膜を形成した後にも測定し、各測定時のウェーハ面内での各欠陥の座標に基づき比較することで、各欠陥サイズの情報と共に、例えば、窒化膜形成前の測定で検出された欠陥の欠陥数、窒化膜形成後の測定で窒化膜形成前の測定時と同様の位置に検出された欠陥の欠陥数、窒化膜形成前の測定時に検出されたが窒化膜形成後の測定では同様の位置には検出されなかった欠陥の欠陥数、窒化膜形成後の測定で新たに検出された欠陥の欠陥数など、欠陥数に関する種々のデータを取得することができる。
【0025】
<工程2:窒化膜形成>
工程1で測定後、そのウェーハの表面に窒化膜を形成する。
窒化膜の形成方法は特に限定されず、従来から知られている方法で形成することができる。例えば成膜装置を用いて、窒化条件はSiHCl+NH雰囲気、温度700-850℃、時間10分以上で、厚さ30~120nmの窒化膜を形成する。なお、形成する厚さは限定されないが、上記範囲の厚さの窒化膜を形成するのであれば、ウェーハ表面に存在しているにも関わらず、工程1のときの測定では検出できなかった微小なパーティクルを、窒化膜形成でのレンズ効果によって効率よく見かけ上大きくして、次の工程3の測定で一層確実に検出可能にすることができる。
【0026】
<工程3:欠陥数および欠陥サイズの測定(窒化膜形成後測定)>
工程2での窒化膜形成後に再度パーティクルカウンター(SP7)でウェーハの表面の欠陥を検出し、その欠陥数および欠陥サイズを測定する(LPDマップの取得)。
窒化膜上の欠陥測定条件は例えば窒化膜を形成したときに検出できる最小サイズ20nmとすることができる。この時に窒化膜のヘイズが高く、測定最小サイズ20nmが測定できない場合は成膜条件の見直しなどを適宜行うことができる。
【0027】
<工程4:窒化膜形成前後の欠陥数の変化および欠陥サイズの変化の評価>
窒化膜形成前後の欠陥数の変化および欠陥サイズの変化を評価する。
例えば、窒化膜形成前後の工程1、3で取得したLPDマップを比較し、欠陥数の変化と、面内での座標を基にして窒化膜形成前後の同一座標の欠陥のサイズ変化を求める。欠陥数の変化や欠陥サイズの変化として、各々の欠陥が全て必ずしも同じ変化の傾向でなくとも良く、全体として見た場合にある特定の変化の傾向が確認できるなど、大まかな変化パターンを把握できれば良い。
【0028】
なお欠陥サイズの変化については、上記のように窒化膜形成前後で欠陥の位置座標を取得し、同一座標の欠陥についてどのように変化したのかを評価することが好ましいが、これに限定されない。例えば検出された欠陥の全体の平均値とすることもできる。それによって、ある特定の種類の欠陥の場合に特有の変化パターンが生み出されるのであれば構わない。
【0029】
また、欠陥数の変化の評価に関しても同様であり、例えば検出された欠陥の全体数の変化に着目することもできるし、窒化膜形成前には検出されなかった位置に窒化膜形成後に新たに検出された欠陥の数(ゼロからある数値への変化)に着目することもできる。
【0030】
<工程5:欠陥の種類の特定>
工程4での評価結果から、評価対象のウェーハの表面に存在している欠陥の種類を特定する。
工程4で把握した変化パターンが、ある特定の種類の欠陥の場合に特有の変化パターンと一致している場合、評価対象のウェーハにおける欠陥がその種類の欠陥であると特定する。なお、予備実験などにより、欠陥種に応じた変化パターンを事前に把握しておくと、この工程5においてスムーズかつ確実に欠陥種の特定を行うことができるので好ましい。
【0031】
以上のように、本発明の欠陥の種類の特定方法であれば、窒化膜形成後であっても従来のように断面TEMなどの時間を要する方法を使用することなく欠陥種を特定することができる。しかも、パーティクルカウンターを用いて窒化膜形成前後の比較をし、その変化パターンから特定することができるので実に簡便である。
【0032】
以下では、代表的な欠陥種(COP、PID、熱的に安定したパーティクル、熱的に不安定なパーティクル)とその欠陥種の場合の変化パターンの関係例を種々の測定図と共に示すが、本発明は当然これらに限定されるものではない。ある特定の欠陥種に特有の変化パターンが確認できるのであれば、その互いの関係性を本発明に適用することができる。
上記の種々の測定図としては、図2、5、9、14に(1)窒化膜形成前後のLPDマップ(欠陥マップ)、図3、6、10、15に(2)窒化膜形成前後の同一座標の欠陥の欠陥サイズ変化グラフ、図4、7、11、16に(3)窒化膜形成前の全LPDサイズヒストグラムと窒化膜形成前後で共通に存在したLPDの窒化膜形成前サイズヒストグラム(欠陥ヒストグラム)を示す。
【0033】
なお(1)のLPDマップ表示でbefore SP7は窒化膜形成前の欠陥マップ、after SP7は窒化膜形成後の欠陥マップ、matchは窒化膜形成前後に座標のずれが10μm以内にあった欠陥である。つまり、matchのマークが付いていないbefore SP7は窒化膜形成で無くなった欠陥、after SP7は窒化膜形成後に新たに検出された欠陥、matchは窒化膜形成前にあり窒化膜形成後にも見つかった欠陥である。直径300mmウェーハについてのマップであり、縦軸および横軸の数値単位はμmである。
また、(2)の欠陥サイズ変化グラフは、LPDサイズ(μm)に関しており、窒化前を横軸にとり、窒化後を縦軸にとっている。
また、(3)のヒストグラムは、窒化膜形成前に検出されたすべての欠陥のヒストグラムと、窒化膜形成後に残留した欠陥(窒化膜形成前後に同一位置に欠陥がある場合)の窒化膜形成前のサイズヒストグラムを示したものであり、要するにmatchの数を示している。LPDサイズ(μm)を横軸にとり、LPDのカウント数を縦軸にとっている。
【0034】
<工程1-3における各種条件>
使用したパーティクルカウンターはSP7である。
窒化膜形成前測定での検出感度:12nm
窒化膜形成後測定での検出感度:25nm
また、窒化膜形成は、成膜装置において、SiHCl+NH雰囲気、温度700℃、時間10分、膜厚50nmとした。
【0035】
[COP]
COPが存在するシリコン単結晶ウェーハのサンプルに関して、図2にLPDマップ、図3に欠陥サイズ変化グラフ、図4に欠陥ヒストグラムを示す。
図2のマップを確認すると、中心の領域にある窒化膜形成前欠陥は窒化膜形成で大量に消えている。この大量の消滅による欠陥数の減少は図4でも確認できる。このサンプルは中心にCOPのあるサンプルであり、一般的に凹みはCVDで埋まる事が知られており、代表的な結晶欠陥であるCOPは窒化膜形成で無くなる。もしくは、残存していても小さくなることが分かった。図3に示すように、残存欠陥においては、窒化膜形成前後で欠陥サイズがほとんど変化していないものも一部見られるが、欠陥サイズが小さくなっているものがあることもCOPの場合の傾向である。
【0036】
[PID]
PIDが存在するシリコン単結晶ウェーハのサンプルに関して、図5にLPDマップ、図6に欠陥サイズ変化グラフ、図7に欠陥ヒストグラムを示す。
図5のマップや図7で確認すると、窒化膜形成前にあった欠陥の多くは窒化後にも存在している。すなわち、欠陥数は殆ど変化していない。
マップの12時と3時地点に窒化後に発生した欠陥は密集しており、マップからヘイズ悪化による疑似欠陥であることが分かった。
また図6が示すように窒化膜形成前後のサイズ変化は殆どなく、いわゆるレンズ効果が見込める欠陥ではなかった。図8に模式図を示すが、PIDは元々、パーティクルのように窒化膜の形成で欠陥サイズが大きくなることは考えにくい。そのため窒化膜形成前後で同じサイズで検出されたのは妥当な結果である。
【0037】
[熱的に安定したパーティクル]
熱的に安定したパーティクルが存在するシリコン単結晶ウェーハのサンプルに関して、図9にLPDマップ、図10に欠陥サイズ変化グラフ、図11に欠陥ヒストグラムを示す。
図9のマップを確認すると、窒化膜形成前にあった欠陥はほぼすべてが窒化膜形成後にも同じ場所にあり、減っていない。
図10に示すようにサイズはほぼすべてが大きくなっていた。
また図9に示すように窒化膜形成で新たに検出された欠陥も大量に見られた。この新たに検出された欠陥(増加欠陥)をSEMで観察すると、図12に示すようにレンズ効果で欠陥が大きくなった場合(共通欠陥)と同じ突起形状をしている。また図13に示すように断面TEMでは窒化膜形成後の突起の下に135nmのサイズのパーティクルが確認された。このように熱的に安定したパーティクルは図11に示すように、もともと、検出されていた欠陥が消滅せずに大きくなったことと、SEM/TEMの結果から窒化膜形成後に新たに検出した欠陥は初期のSP7での測定で未確認であった小さなパーティクルが窒化膜形成で顕在化し、検出されたものと考えられる。
【0038】
このサンプルは、研磨剤の除去が不十分で微小の研磨剤(SiO)がウェーハ表面に残ったサンプルであり、SiO粒子など、熱的に安定な粒子が、窒化膜形成でサイズが大きくなり、また未検出の小さなパーティクルが検出されることで、ウェーハ全体の欠陥数も増えることが分かった。
【0039】
なお、前述したように図11の欠陥ヒストグラムは、窒化膜形成前の初期の欠陥数(白色の柱状グラフ)に対する、窒化膜形成後の残留欠陥数(黒色の柱状グラフ)を欠陥サイズごとに表したもの(match数)であり、このことからすると基本的に残留欠陥数は初期の欠陥数よりも大きくはならない。図11で残留欠陥数は初期の欠陥数よりも大きくなっている理由は、[1]窒化膜形成前後の同一座標であるかどうかで判断している、[2]今回のサンプルの欠陥密度が高い、[3]窒化膜形成前の欠陥の座標近くに、窒化膜形成後の欠陥が2つある場合、窒化膜形成前の欠陥は1つと数え、窒化膜形成後に同一座標に欠陥が2つと数えてしまうアルゴリズムで計算している、というのが原因であり、窒化膜形成前の初期の欠陥が窒化膜形成後に増えているという訳ではない。
【0040】
このタイプの欠陥としては、SiOの他、Alなども挙げられる。
【0041】
[熱的に不安定なパーティクル]
熱的に不安定なパーティクルが存在するシリコン単結晶ウェーハのサンプルに関して、図14にLPDマップ、図15に欠陥サイズ変化グラフ、図16に欠陥ヒストグラムを示す。
図14のマップ上では窒化膜形成後に検出した欠陥は、発生状況から、ヘイズが悪化したことによる疑似欠陥であり、実質的に新たに発生した欠陥は無い。一方、図14のbefore SP7で有った欠陥の一部が窒化膜形成で消えていることが分かる。一部が消滅しているのは図16でも見て取れる。
また図15に示すように窒化膜形成前後の欠陥を比較すると、窒化膜形成で消えていない(残存した)欠陥はサイズが大きくなっている。
すなわち、消えなかった一部の欠陥は大きくなっているが、すべての欠陥が大きくなっているわけではなく、一部は小さくなって消えているという事である。このサンプルは、有機物のパーティクルがウェーハ上に残ったものであり、小さな有機物、または不安定な有機物はCVDの高温過程で消えてなくなり、残った有機物のパーティクルには窒化膜が形成されサイズが大きくなったものと考えられる。
【0042】
なお、例えばウェーハ表面の有機物のほぼ全てがある程度の大きさを有している場合、窒化膜形成後においてもほぼ全て残存して欠陥サイズが大きくなるケースも考えられる。つまり、上記では窒化膜形成前後で欠陥の一部が消滅する例を説明したが、窒化膜形成前後で欠陥数がほぼ変化しない場合も考えられる。
【0043】
以上のように代表的な欠陥種について説明してきたが、例えば一部の欠陥が大きくなり、一部の欠陥は消えるというのは、上記の[COP]の欠陥と、SiOなどの[熱的に安定したパーティクル]の欠陥とが一つのウェーハに混在していれば有り得る現象ではある。しかしながら、現実的に現在のシリコンウェーハ製造工程では、熱的に安定な粒子がウェーハ上に残り、かつCOPの存在するウェーハが製造されることはないので、2つの不良が同時に発生することを考慮する必要はない。
この他、前述したように現在のウェーハ製造では高度な管理下にあり、異なる欠陥要因が同時に発生することは考えにくい。
したがってそのような複雑なケースは除いて考えることがより現実的であり、基本的には本発明によって1つの欠陥種の特定を行うことができる。ただし、複数種の場合でも変化パターンを把握でき、各々を特定できるのであれば特に限定されず、当然、本発明に適用することができる。
【実施例
【0044】
以下、本発明の実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実際に窒化膜形成前後のシリコン単結晶ウェーハの表面に存在するパーティクルをパーティクルカウンターで測定して評価することで、パーティクルの原因(欠陥種)を推定した。そして、その欠陥種の推定と原因調査の結果とを比較し、その欠陥種の推定が妥当であるかの確認をした。
(実施例1)
用意したシリコン単結晶ウェーハに図1に示す本発明の工程1-3を、前述した<工程1-3における各種条件>と同様の条件で施した。窒化膜形成前後のLPDマップ、欠陥サイズ変化グラフ、サイズアップした欠陥の窒化膜形成前サイズヒストグラム(欠陥ヒストグラム)を図17-19に示す。
マップからは、中心部分のLPD(欠陥)は窒化膜形成で消えていることが確認できる。
なお、外周の新たに検出したLPDはヘイズ悪化による疑似欠陥であることは、SP7のヘイズマップから確認した。
多くの欠陥がなくなる事から、また、残存した欠陥の欠陥サイズが小さくなる傾向が見られることから、このウェーハに存在していた欠陥はCOPであると推測できる。
【0045】
そして、このウェーハの製造履歴、同ロット(同じ結晶から切り出されたウェーハ)のウェーハのSEM測定などから、このウェーハに存在していた欠陥はCOPであることが分かり、本発明による推測は正しい事を証明できた。
【0046】
(実施例2)
実施例1とは異なるシリコン単結晶ウェーハを用意し、実施例1と同様にして工程1-3を施した。窒化膜形成前後のLPDマップ、欠陥サイズ変化グラフ、サイズアップした欠陥の窒化膜形成前サイズヒストグラム(欠陥ヒストグラム)を図20-22に示す。
実施例2では実施例1とは異なり、多くの欠陥が消えずに残っていた。またLPDサイズ変化も無いことから、欠陥の多くはPIDである事が予想された。
【0047】
このウェーハの同ロットを調べると、COPを発生させるような結晶製造方法ではなく、SEMで確認するとPIDが確認された。すなわち、このウェーハに存在していたLPDは、上記予想の通りPIDであると推測される。
【0048】
実施例1、実施例2は共にウェーハ中心部に欠陥があるウェーハで、窒化膜形成前のLPDマップからだけではCOPかPIDかの区別はできないが、窒化膜形成前後のLPDマップ等で欠陥数や欠陥サイズの比較を行う事で欠陥種を特定することが出来た。
【0049】
(実施例3)
実施例1とは異なるシリコン単結晶ウェーハを用意し、実施例1と同様にして工程1-3を施した。窒化膜形成前後のLPDマップ、欠陥サイズ変化グラフ、サイズアップした欠陥の窒化膜形成前サイズヒストグラム(欠陥ヒストグラム)を図23-25に示す。
窒化膜形成後に残存するタイプの欠陥は、熱的に安定なパーティクル、すなわち、SiOの粉やAlの粉が洗浄で落としきれない場合に発生する事が多く、その場合、洗浄に起因した流れ模様のLPDになる事が多い。このウェーハにはこの流れ模様は発生していない。しかし熱的に安定なパーティクルに見られる特徴、すなわち、初期LPD(窒化膜形成前の検出欠陥)が窒化膜形成後でも消えないという特徴が見られる。さらには窒化膜形成後で新たに欠陥が検出されている。さらには窒化膜形成前後で同点のLPDのサイズが大きくなるという特徴があり、このウェーハは熱的に安定なパーティクルがウェーハ上に乗っているものと推測した。
【0050】
確認のために断面TEMで窒化膜下に埋まっていたパーティクルを確認したところ、Oを見つけることが出来た。おそらくSiOの小さな粒が原因であると思われる。通常の場合、洗浄起因であるかどうかはウェーハ上のLPD分布が非常に参考になり、たいていの場合は流れ模様になる。一方、今回は初期のLPDマップだけでは洗浄起因のLPDとは判定できない状況であったが、窒化膜形成前後の欠陥数や欠陥サイズの変化を見ることで判定が可能であることを確認できた。
【0051】
(実施例4)
実施例1とは異なるシリコン単結晶ウェーハを用意し、実施例1と同様にして工程1-3を施した。窒化膜形成前後のLPDマップ、欠陥サイズ変化グラフ、サイズアップした欠陥の窒化膜形成前サイズヒストグラム(欠陥ヒストグラム)を図26-28に示す。
窒化膜形成による新たなLPDの検出は少なく、窒化膜形成で無くなるLPDは多い。窒化膜形成前後で、LPDサイズは大きくなっており、初期のLPDのうち、小さなサイズのLPDの消える確率が高い。すなわち、熱的に不安定なパーティクルが付着しているものと予想できる。
【0052】
確認の為、このサンプルの製造履歴を確認したところ、洗浄後の出荷判定ではLPD発生は無かったが、搬送中にLPDが増えたものと分かった。すなわち、搬送中のBOX内部から発生した不純物がウェーハに付着したものと考えられ、BOXの材質であるプラスチック(ポリカーボネート)から発生した揮発成分またはプラスチック片がついたものと予想される。どちらにしても熱的に不安定な物質であり、予想通り、熱的に不安定なパーティクルが付着していたことが判明した。
【0053】
これらの実施例1-4の結果から分かるように、本発明の特定方法であれば、シリコン単結晶ウェーハ上の欠陥について、窒化膜形成前後で欠陥数(欠陥マップ)や欠陥サイズを比較するだけで元の欠陥種の推定/同定が可能となった。断面TEMなどの時間や手間のかかる方法を行わなければわからなかった従来法と比べて簡便である。
【0054】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
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