(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】樹脂層形成用組成物、塩化ビニル樹脂積層シート及びその製造方法、並びに積層体
(51)【国際特許分類】
C08L 29/04 20060101AFI20241008BHJP
C08K 5/56 20060101ALI20241008BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20241008BHJP
B60K 37/00 20240101ALI20241008BHJP
C08L 33/26 20060101ALI20241008BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20241008BHJP
C08L 39/00 20060101ALI20241008BHJP
C08L 1/00 20060101ALI20241008BHJP
C08L 3/00 20060101ALI20241008BHJP
C08L 5/08 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C08L29/04
C08K5/56
B32B27/30 101
B60K37/00 A
C08L33/26
C08L23/26
C08L39/00
C08L1/00
C08L3/00
C08L5/08
(21)【出願番号】P 2021508895
(86)(22)【出願日】2020-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2020008970
(87)【国際公開番号】W WO2020195611
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2019059176
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100217135
【氏名又は名称】山崎 誠
(72)【発明者】
【氏名】西村 翔太
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-174969(JP,A)
【文献】特開平02-091178(JP,A)
【文献】特開2006-199843(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170220(WO,A1)
【文献】特開平09-216498(JP,A)
【文献】特開昭62-053831(JP,A)
【文献】特開平08-104852(JP,A)
【文献】国際公開第2017/146151(WO,A1)
【文献】特開昭49-094768(JP,A)
【文献】特開平05-096671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
B32B27
B60K37
B60R13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂Aおよび有機金属化合物を含む樹脂層形成用組成物であって、
前記樹脂AのSP値が14(cal/cm
3)
1/2以上であり、
前記樹脂Aの重合度が300以上であり、
前記有機金属化合物の含有量が、前記樹脂A100質量部に対して
4.00質量部以上
6.00質量部以下であり、
前記樹脂Aが、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリN-ビニルホルムアミド、水溶性デンプン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、またはキトサンであ
り、
前記有機金属化合物が、ヒドロキシカルボン酸および/またはその塩を含有するチタンキレート化合物である、樹脂層形成用組成物。
【請求項2】
塩化ビニル樹脂および可塑剤を含む塩化ビニル樹脂成形シートと、
前記塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の少なくとも一方側に配置された樹脂層Lと、を有する塩化ビニル樹脂積層シートであって、
前記樹脂層Lが、請求項
1に記載の樹脂層形成用組成物を用いて形成される、塩化ビニル樹脂積層シート。
【請求項3】
自動車インスツルメントパネル表皮用である、請求項
2に記載の塩化ビニル樹脂積層シート。
【請求項4】
塩化ビニル樹脂および可塑剤を含む塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の少なくとも一方側に、請求項
1に記載の樹脂層形成用組成物を塗布する塗布工程と、
前記塗布された樹脂層形成用組成物を乾燥させて樹脂層Lを形成する樹脂層形成工程と、
を含む、塩化ビニル樹脂積層シートの製造方法。
【請求項5】
発泡ポリウレタン成形体と、
請求項
2または
3に記載の塩化ビニル樹脂積層シートと、
を有する積層体であり、
前記発泡ポリウレタン成形体と前記塩化ビニル樹脂成形シートとの間に前記樹脂層Lが配置される、積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂層形成用組成物、塩化ビニル樹脂積層シート及びその製造方法、並びに積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル樹脂は、一般に、耐寒性、耐熱性、耐油性などの特性に優れているため、種々の用途に用いられている。
具体的には、例えば、従来、自動車インスツルメントパネル等の自動車内装部品の形成には、塩化ビニル樹脂組成物をシート状に成形した塩化ビニル樹脂成形体(以下、「塩化ビニル樹脂成形シート」と称することがある。)からなる表皮や当該塩化ビニル樹脂成形シートからなる表皮に発泡ポリウレタン等の発泡体を裏打ちしてなる積層体などの自動車内装材が用いられている。
【0003】
そして、塩化ビニル樹脂成形シートの材料としては、塩化ビニル樹脂と可塑剤とを含む塩化ビニル樹脂組成物が使用されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-173974号公報
【文献】特開2012-7026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、塩化ビニル樹脂成形シートからなる表皮に発泡ポリウレタン等の発泡体を裏打ちしてなる積層体を自動車内装材として使用した場合、塩化ビニル樹脂成形シートに含まれる可塑剤が発泡体へ移行し、塩化ビニル樹脂成形シート中の可塑剤の量が減少することで、塩化ビニル樹脂成形シート(即ち、表皮)の柔軟性の低下等の劣化が生じ得る。そのため、上述した自動車内装材として使用される積層体においては、塩化ビニル樹脂成形シートから発泡体への可塑剤の移行を良好に抑制することが求められる。
【0006】
そこで、本発明者は、可塑剤を含む塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の少なくとも一方側に、SP値が所定の範囲にある樹脂を主成分として有する樹脂層を配置してなる塩化ビニル樹脂積層シートを使用すれば、このような問題を解決し得ることを見出した。具体的には、本発明者らは、上記塩化ビニル樹脂積層シートにおける樹脂層が配置されている側の面に発泡ポリウレタン成形体を裏打ちして(即ち、樹脂層を介して塩化ビニル樹脂成形シートと発泡ポリウレタン成形体とが接着するように)、積層体を作製した場合、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制できることを見出した。
【0007】
しかしながら、本発明者が更に検討したところ、上述した塩化ビニル樹脂積層シートを用いて積層体を作製した場合、上述したSP値が所定の範囲にある樹脂を主成分として有する樹脂層は、高湿高温(例えば、湿度80%RH以上、温度80℃以上)条件下における耐久性(即ち、耐湿熱性)に改善の余地があることがわかった。
【0008】
そこで、本発明は、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制し得ると共に、耐湿熱性に優れる樹脂層を形成可能な樹脂層形成用組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制し得ると共に、樹脂層の耐湿熱性に優れる塩化ビニル樹脂積層シートおよびその製造方法を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制し得ると共に、耐湿熱性に優れる積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、SP値および重合度がそれぞれ所定値以上である樹脂と、有機金属化合物とを含む樹脂層形成用組成物を用いれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制し得ると共に、耐湿熱性に優れる樹脂層を形成可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の樹脂層形成用組成物は、樹脂Aおよび有機金属化合物を含む樹脂層形成用組成物であって、前記樹脂AのSP値が14(cal/cm3)1/2以上であり、前記樹脂Aの重合度が300以上であることを特徴とする。このように、SP値および重合度がそれぞれ所定値以上である樹脂と、有機金属化合物とを含む樹脂層形成用組成物であれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制し得ると共に、耐湿熱性に優れる樹脂層を形成可能である。
【0011】
ここで、SP値とは、溶解度パラメーターのことを意味する。
そして、SP値は、Hansen Solubility Parameters A User’s Handbook,2ndEd(CRCPress)で紹介される方法を用いて算出することができる。
また、有機化合物のSP値は、その有機化合物の分子構造から推算することも可能である。具体的には、SMILEの式からSP値を計算できるシミュレーションソフトウェア(例えば「HSPiP」(http=//www.hansen-solubility.com))を用いて計算しうる。このシミュレーションソフトウェアでは、Hansen SOLUBILITY PARAMETERS A User’s Handbook SecondEdition、Charles M.Hansenに記載の理論に基づき、SP値が求められている。
【0012】
また、重合度とは、樹脂を構成する重合体(ポリマー)中に含まれる単量体単位(モノマー単位)の数を指す。
例えば、樹脂Aとしてポリビニルアルコールを用いる場合、樹脂Aとしてのポリビニルアルコールの重合度は、JIS K6726に記載された方法に従って測定される平均重合度として求めることができる。
【0013】
ここで、本発明の樹脂層形成用組成物は、前記有機金属化合物の含有量が、前記樹脂A100質量部に対して3.00質量部以上10.00質量部以下であることが好ましい。このように、有機金属化合物の含有量が上記所定範囲内であれば、形成される樹脂層の耐湿熱性を更に高め得ると共に、樹脂層形成用組成物の貯蔵安定性を高めることができる。
【0014】
また、本発明の樹脂層形成用組成物は、前記有機金属化合物が有機チタン化合物を含むことが好ましい。このように、有機金属化合物が有機チタン化合物を含めば、形成される樹脂層の耐湿熱性を更に高めることができる。
【0015】
さらに、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の塩化ビニル樹脂積層シートは、塩化ビニル樹脂および可塑剤を含む塩化ビニル樹脂成形シートと、前記塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の少なくとも一方側に配置された樹脂層Lと、を有する塩化ビニル樹脂積層シートであって、前記樹脂層Lが、上述したいずれかの樹脂層形成用組成物を用いて形成されることを特徴とする。このように、塩化ビニル樹脂および可塑剤を含む塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の少なくとも一方側に、上述したいずれかの樹脂層形成用組成物を用いて樹脂層Lを形成してなる塩化ビニル樹脂積層シートは、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制し得ると共に、樹脂層の耐湿熱性に優れている。
【0016】
また、本発明の塩化ビニル樹脂積層シートは、自動車インスツルメントパネル表皮用であることが好ましい。本発明の塩化ビニル樹脂積層シートを自動車インスツルメントパネルの表皮として用いれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制して、当該表皮の劣化を防止することができる。
【0017】
さらに、本発明の塩化ビニル樹脂積層シートの製造方法は、塩化ビニル樹脂および可塑剤を含む塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の少なくとも一方側に、上述したいずれかの樹脂層形成用組成物を塗布する塗布工程と、前記塗布された樹脂層形成用組成物を乾燥させて樹脂層Lを形成する樹脂層形成工程と、を含むことを特徴とする。このように、塩化ビニル樹脂および可塑剤を含む塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の少なくとも一方側に、上述したいずれかの樹脂層形成用組成物を塗布した後に、塗布された樹脂層形成用組成物を乾燥させて樹脂層Lを形成して製造される塩化ビニル樹脂積層シートは、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制できると共に、樹脂層の耐湿熱性に優れている。
【0018】
さらに、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の積層体は、発泡ポリウレタン成形体と、上述したいずれかの塩化ビニル樹脂積層シートとを有する積層体であり、前記発泡ポリウレタン成形体と前記塩化ビニル樹脂成形シートとの間に前記樹脂層Lが配置されることを特徴とする。このように、発泡ポリウレタン成形体と、上述したいずれかの塩化ビニル樹脂積層シートとを有し、前記発泡ポリウレタン成形体と前記塩化ビニル樹脂成形シートとの間に前記樹脂層Lが配置される積層体であれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制することができると共に、耐湿熱性に優れている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制し得ると共に、耐湿熱性に優れる樹脂層を形成可能な樹脂層形成用組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制し得ると共に、樹脂層の耐湿熱性に優れる塩化ビニル樹脂積層シートおよびその製造方法を提供することができる。
さらに、本発明によれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制し得ると共に、耐湿熱性に優れる積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の樹脂層形成用組成物は、例えば、本発明の塩化ビニル樹脂積層シートの製造に用いることができる。また、本発明の塩化ビニル樹脂積層シートは、本発明の樹脂層形成用組成物を用いて形成された樹脂層Lを備えている。さらに、本発明の塩化ビニル樹脂積層シートは、例えば、本発明の積層体の製造に用いることができる。そして、本発明の塩化ビニル樹脂積層シートは、例えば、自動車インスツルメントパネルなどの自動車内装部品の表皮等の、自動車内装材として好適に用いることができる。さらに、本発明の塩化ビニル樹脂積層シートは、本発明の塩化ビニル樹脂積層シートの製造方法により製造することができる。
【0021】
(樹脂層形成用組成物)
本発明の樹脂層形成用組成物は、SP値および重合度がそれぞれ所定値以上である樹脂Aと、有機金属化合物とを含むことを特徴とする。本発明の樹脂層形成用組成物を用いれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制し得ると共に、耐湿熱性に優れる樹脂層を形成可能である。
なお、本発明の樹脂層形成用組成物は、任意で、上記樹脂Aおよび有機金属化合物以外のその他の成分を含んでいてもよい。
また、本発明の樹脂層形成用組成物は、通常、上記樹脂A、有機金属化合物、およびその他の成分を、既知の溶媒中に分散または溶解させたものである。
【0022】
<樹脂A>
樹脂Aは、樹脂層形成用組成物を用いて形成される樹脂層Lにおいてマトリックス樹脂(基材)として機能し、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制し得る成分である。
なお、樹脂層形成用組成物中の樹脂Aの含有割合は、本発明の所望の効果が得られる範囲内で任意に調整することができる。
【0023】
ここで、樹脂AのSP値は14(cal/cm3)1/2以上であることが必要であり、15(cal/cm3)1/2以上であることが好ましく、16(cal/cm3)1/2以上であることがより好ましい。樹脂AのSP値が14(cal/cm3)1/2以上であれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制することができる。また、樹脂AのSP値は30(cal/cm3)1/2以下であることが好ましく、25(cal/cm3)1/2以下であることがより好ましく、22(cal/cm3)1/2以下であることが更に好ましく、20(cal/cm3)1/2以下であることが特に好ましい。樹脂AのSP値が30(cal/cm3)1/2以下であれば、樹脂層Lの柔軟性を高めることができる。
【0024】
また、樹脂Aの重合度は、300以上であることが必要であり、320以上であることが好ましく、350以上であることがより好ましく、380以上であることが更に好ましく、400以上であることが一層好ましく、1000以下であることが好ましく、800以下であることがより好ましく、600以下であることが更に好ましい。樹脂Aの重合度が上記下限以上であると、形成される樹脂層の耐湿熱性を高めることができる。一方、樹脂Aの重合度が上記上限以下であれば、得られる樹脂層形成用組成物は塗装時のハンドリング性に優れる。
【0025】
さらに、樹脂Aの分子量としては、特に制限はないが、THFを溶媒としたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、21000以上であることが好ましく、22000以上であることがより好ましく、24000以上であることが更に好ましく、70000以下であることが好ましく、56000以下であることがより好ましく、42000以下であることが更に好ましい。樹脂Aの重量平均分子量が上記下限以上であれば、形成される樹脂層の耐湿熱性を更に高めることができる。一方、樹脂Aの重量平均分子量が上記上限以下であれば、得られる樹脂層形成用組成物は塗装時のハンドリング性に優れる。
【0026】
上述した樹脂Aとしては、例えば、ポリビニルアルコール(ポリ酢酸ビニルからの完全ケン化物またはポリ酢酸ビニル部分ケン化物ともいう。ポリ酢酸ビニルからのケン化度が60%以上でSP値が14(cal/cm3)1/2以上となる)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVA樹脂とも称する)、ポリアクリルアミド(SP値=19.2(cal/cm3)1/2、以下本明細書中におけるSP値の単位はこれに同じ)、ポリメタクリルアミド(SP値=19.2)、ポリN-ビニルホルムアミド(SP値=17.2)、水溶性デンプン(SP値=23.5)、ヒドロキシエチルセルロース(SP値=19.3)、ヒドロキシプロピルセルロース(SP値=18.0)、メチルセルロース(SP値=17.4)、エチルセルロース(SP値=16.2)、キトサン(SP値=20.4)などを用いることができる。
中でも、樹脂Aとしては、ヒドロキシル基(-OH基)を有する樹脂を用いることが好ましく、ポリビニルアルコールを用いることが特に好ましい。樹脂Aとしてヒドロキシル基(-OH基)を有する樹脂を用いれば、樹脂Aを構成するポリマー同士を後述する有機金属化合物によって良好に架橋して、形成される樹脂層の耐湿熱性を更に高めることができる。さらに、樹脂Aとしてポリビニルアルコールを用いれば、形成される樹脂層は、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を更に良好に抑制することができる。なお、上記における「ヒドロキシル基(-OH基)」には、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等のアクリル系樹脂が有するカルボキシル基(-COOH)中の-OHの構造は含まれないものとする。
【0027】
そして、ポリビニルアルコールにおけるポリ酢酸ビニルからのケン化度は、60%以上とすることができ、61%以上であることが好ましく、62%以上であることがより好ましく、63%以上であることが更に好ましく、65%以上であることが一層好ましく、100%とすることができ、100%未満であることが好ましく、90%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましく、70%以下であることが更に好ましい。ポリビニルアルコールにおけるポリ酢酸ビニルからのケン化度が、上記下限以上であれば、形成される樹脂層は、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を更に良好に抑制することができる。一方、ポリビニルアルコールにおけるポリ酢酸ビニルからのケン化度が、上記上限以下であれば、形成される樹脂層の柔軟性を高めることができる。
なお、ポリビニルアルコールにおけるポリ酢酸ビニルからのケン化度は、JIS K6726(ポリビニルアルコール試験方法)に準拠して測定することができる。
【0028】
樹脂Aとして使用し得るポリビニルアルコールの具体例としては、ポリ酢酸ビニルからの完全ケン化物(SP値=23.4)、ポリ酢酸ビニルからのケン化度が90%のもの(SP値=19.1)、ポリ酢酸ビニルからのケン化度が80%のもの(SP値=17.5)、ポリ酢酸ビニルからのケン化度が65%のもの(SP値=16.4)などが挙げられる。中でも、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を更に良好に抑制すると共に、樹脂層Lの塩化ビニル樹脂成形シートに対する接着性を高める観点から、ポリ酢酸ビニルからのケン化度が65%のものを用いることが好ましい。
【0029】
<有機金属化合物>
有機金属化合物は、上述した樹脂Aを構成するポリマー同士を架橋する架橋剤として機能し、形成される樹脂層の耐湿熱性を高め得る成分である。
【0030】
有機金属化合物としては、樹脂Aを構成するポリマー同士を良好に架橋し得るものであれば、特に限定されず、例えば、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物などを用いることができる。中でも、形成される樹脂層の耐湿熱性を更に高める観点から、有機チタン化合物を用いることが好ましい。
【0031】
そして、有機チタン化合物としては、例えば、チタンキレート化合物を用いることが好ましい。
ここで、チタンキレート化合物は、チタン原子に配位する能力を持ったキレート剤を含有する。チタンキレート化合物としては、例えば、キレート剤として、乳酸等のヒドロキシカルボン酸および/またはその塩;トリエタノールアミネート等のトリアルコールアミン;2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール;などを含有するチタンキレート化合物を用いることができる。
中でも、形成される樹脂層の耐湿熱性を一層高める観点から、キレート剤としてヒドロキシカルボン酸および/またはその塩を含有するチタンキレート化合物を用いることが好ましく、キレート剤として乳酸および/またはその塩を含有するチタンキレート化合物を用いることがより好ましく、キレート剤として乳酸の塩を含有するチタンキレート化合物を用いることが更に好ましく、キレート剤として乳酸のアンモニウム塩を含有するチタンキレート化合物を用いることが特に好ましい。
【0032】
キレート剤としてヒドロキシカルボン酸および/またはその塩を含有するチタンキレート化合物の具体例としては、チタンラクテート(示性式:Ti(OH)2[OCH(CH3)COOH]2;ジヒドロキシビス(ラクテート)チタニウムと称することもある。)、チタンラクテートアンモニウム塩(示性式:Ti(OH)2[OCH(CH3)COO-]2(NH4
+)2;ジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウムと称することもある。)等が挙げられる。
キレート剤としてトリアルコールアミンを含有するチタンキレート化合物の具体例としては、チタントリエタノールアミネート(示性式:Ti(O-i-C3H7)2(C6H14O3N)2;チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)と称することもある。)等が挙げられる。
キレート剤として2-(2-アミノエチルアミノ)エタノールを含有するチタンキレート化合物の具体例としては、チタンアミノエチルアミノエタノレート(示性式:(i-C3H7O)Ti(OC2H4NHC2H4NH2)3)等が挙げられる。
【0033】
なお、形成される樹脂層の耐湿熱性を一層高める観点から、チタンキレート化合物としては、上述したチタンラクテート(示性式:Ti(OH)2[OCH(CH3)COOH]2)、チタンラクテートアンモニウム塩(示性式:Ti(OH)2[OCH(CH3)COO-]2(NH4
+)2)等の、チタン原子に直接結合するヒドロキシル基を有するチタンキレート化合物を用いることが好ましい。
【0034】
ここで、有機金属化合物としては、市販品を用いることもできる。
例えば、有機チタン化合物としては、マツモトファインケミカル社製の「TC-300」(チタンラクテートアンモニウム塩)、「TC-310」(チタンラクテート)、「TC-315」(チタンラクテート)、「TC-335」(チタンラクテート)、「TC-400」(チタントリエタノールアミネート)、「TC-510」(チタンアミノエチルアミノエタノレート)等を用いることができる。
また、有機ジルコニウム化合物としては、マツモトファインケミカル社製の「ZC-126」(塩化ジルコニウム化合物)等を用いることもできる。
【0035】
樹脂層形成用組成物中の有機金属化合物の含有量は、樹脂A100質量部に対して、3.00質量部以上であることが好ましく、3.50質量部以上であることがより好ましく、4.00質量部以上であることが更に好ましく、10.00質量部以下であることが好ましく、8.00質量部以下であることがより好ましく、6.00質量部以下であることが更に好ましい。樹脂層形成用組成物中の有機金属化合物の含有量が上記下限以上であれば、形成される樹脂層の耐湿熱性を更に高めることができる。一方、樹脂層形成用組成物中の有機金属化合物の含有量が上記上限以下であれば、樹脂層形成用組成物のpHが過度に高まることなく、樹脂層形成用組成物中の成分が沈殿することを抑制し、樹脂層形成用組成物の貯蔵安定性を高めることができる。
【0036】
<その他の成分>
本発明の樹脂層形成用組成物は、任意で、上述した樹脂Aおよび有機金属化合物以外のその他の成分を含んでいてもよい。
このようなその他の成分としては、例えば、バインダー、樹脂層用可塑剤、分散剤などを用いることができる。
【0037】
<<バインダー>>
本発明の樹脂層形成用組成物は、任意で、バインダーを含んでいてもよい。樹脂層形成用組成物がバインダーを含むことにより、形成される樹脂層の塩化ビニル樹脂成形シートに対する接着性を高めることができる。なお、バインダーは上述した樹脂Aとは異なる成分であるものとする。
【0038】
上述したバインダーとしては、ウレタン系バインダーおよびアクリルエステル系バインダーを用いることが好ましく、ウレタン系バインダーを用いることがより好ましい。バインダーとして、ウレタン系バインダーおよびアクリルエステル系バインダーの少なくとも一方を用いれば、形成される樹脂層の塩化ビニル樹脂成形シートに対する接着性を更に高めることができる。
【0039】
ここで、ウレタン系バインダーは、イソシアネート類とポリオール類などとを反応させて得られるポリウレタンである。そして、ウレタン系バインダーとしては、ポリオール類としてポリエステルポリオールを用いて得られるポリエステル系ポリウレタン;ポリオール類としてポリカーボネートポリオールを用いて得られるポリカーボネート系ポリウレタン;ポリオール類としてポリエーテルポリオールを用いて得られるポリエーテル系ポリウレタン;ポリオール類としてポリカーボネートポリオールおよびポリエステルポリオールの混合物を用いて得られるポリカーボネートポリエステル系ポリウレタン;ポリオール類としてポリエステルポリオールおよびポリエーテルポリオールの混合物を用いて得られるポリエステルポリエーテル系ポリウレタン;などを用いることができる。
そして、形成される樹脂層の塩化ビニル樹脂成形シートに対する接着性を一層高める観点から、ウレタン系バインダーとしては、ポリエステル系ポリウレタン、ポリカーボネート系ポリウレタン、およびポリカーボネートポリエステル系ポリウレタンを用いることが好ましく、ポリエステル系ポリウレタンおよびポリカーボネート系ポリウレタンを用いることがより好ましく、ポリエステル系ポリウレタンを用いることが更に好ましい。
【0040】
なお、ウレタン系バインダーとして用い得るポリウレタンは、イソシアネート類として芳香族系ポリイソシアネートを用いて得られる黄変型ポリウレタン、および、イソシアネート類として脂肪族ポリイソシアネートを用いて得られる無黄変型ポリウレタンのいずれであってもよいが、形成される樹脂層の塩化ビニル樹脂成形シートに対する接着性を一層高める観点から、イソシアネート類として芳香族系ポリイソシアネートを用いて得られる黄変型ポリウレタンがより好ましい。
【0041】
ウレタン系バインダーとしては、市販品を用いることもできる。市販品のウレタン系バインダーとしては、トウペ社製「トアタンS」(ポリカーボネートポリエステル系ポリウレタン)、第一工業製薬社製「スーパーフレックス(登録商標)460」(無黄変型ポリカーボネート系ポリウレタン)、第一工業製薬社製「スーパーフレックス(登録商標)740」(黄変型ポリエステル系ポリウレタン)などを好適に用いることができる。
【0042】
また、アクリルエステル系バインダーとしては、バインダーとして機能し得る既知のアクリルエステル系重合体を用いることができる。ここで、アクリルエステル系重合体とは、(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構造単位を含む重合体である。そしてアクリルエステル系重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体と、任意に、酸性基含有単量体、α,β-不飽和ニトリル単量体、その他の単量体を含む単量体組成物を重合して得られる。なお、上記各単量体としては、既知の単量体を用いることができる。
【0043】
樹脂層形成用組成物中におけるバインダーの含有量は、乾燥質量換算で、樹脂A100質量部に対して、2.5質量部以上であることが好ましく、3.3質量部以上であることがより好ましく、4.0質量部以上であることが更に好ましく、5.0質量部以上であることが一層好ましく、25.0質量部以下であることが好ましく、20.0質量部以下であることがより好ましく、15.0質量部以下であることが更に好ましく、10.0質量部以下であることが特に好ましく、7.5質量部以下であることが最も好ましい。樹脂層形成用組成物中におけるバインダーの含有量が上記下限以上であれば、形成される樹脂層の塩化ビニル樹脂成形シートに対する接着性を更に高めることができる。一方、樹脂層形成用組成物中におけるバインダーの含有量が上記上限以下であれば、形成される樹脂層は塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を更に良好に抑制することができる。
【0044】
<<樹脂層用可塑剤>>
本発明の樹脂層形成用組成物は、任意で、樹脂層用可塑剤を含んでいてもよい。樹脂層形成用組成物が樹脂層用可塑剤を含むことにより、形成される樹脂層は、優れた柔軟性を発揮することができる。したがって、当該樹脂層を備える塩化ビニル樹脂積層シートの柔軟性を高めることができる。ここで、樹脂層用可塑剤は、樹脂Aとしてポリビニルアルコールを使用した場合に、特に優れた柔軟性を形成される樹脂層に付与し得る。
【0045】
樹脂層用可塑剤としては、メチレングリコール、エチレングリコール、n-プロピレングリコール、n-ブチレングリコールなどの、炭素数1~4のジオール化合物;メチルポリグリコール、エチルポリグリコールなどの、末端アルキル変性ポリアルキレンオキシド;を用いることが好ましく、末端アルキル変性ポリアルキレンオキシドを用いることがより好ましい。上述した化合物を樹脂層用可塑剤として使用すれば、形成される樹脂層の柔軟性を更に高めることができる。
【0046】
ここで、形成される樹脂層の柔軟性を一層高める観点から、末端アルキル変性ポリアルキレンオキシドにおける末端アルキル基は炭素数1~4のアルキル基であることが好ましく、メチル基および/またはエチル基であることがより好ましく、メチル基であることが更に好ましい。なお、末端アルキル変性ポリアルキレンオキシドは、両末端アルキル変性および片末端アルキル変性のいずれであってもよいが、片末端アルキル変性であることが好ましい。
【0047】
また、形成される樹脂層の柔軟性を一層高める観点から、末端アルキル変性ポリアルキレンオキシドの調製に用いるポリアルキレンオキシドは、ポリエチレンオキシドおよび/またはポリプロピレンオキシドであることが好ましく、ポリエチレンオキシドであることがより好ましい。なお、当該ポリアルキレンオキシドの数平均重合度は、2以上であることが好ましく、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。
【0048】
したがって、末端アルキル変性ポリアルキレンオキシドとしては、片末端メチル変性ポリエチレンオキシドであるメチルポリグリコール(「ポリエチレングリコールモノメチルエーテル」とも称する)を用いることが特に好ましい。
【0049】
樹脂層形成用組成物中における樹脂層用可塑剤の含有量は、樹脂A100質量部に対して、2.5質量部以上であることが好ましく、3.3質量部以上であることがより好ましく、3.5質量部以上であることが更に好ましく、4.0質量部以上であることが一層好ましく、5.0質量部以上であることがより一層好ましく、20.0質量部以下であることが好ましく、15.0質量部以下であることがより好ましく、10.0質量部以下であることが更に好ましく、8.0質量部以下であることが一層好ましく、7.0質量部以下であることがより一層好ましい。樹脂層形成用組成物中における樹脂層用可塑剤の含有量が上記下限以上であれば、形成される樹脂層の柔軟性を更に高めることができる。一方、樹脂層形成用組成物中における樹脂層用可塑剤の含有量が上記上限以下であれば、形成される樹脂層は塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を更に良好に抑制することができる。
【0050】
<<分散剤>>
本発明の樹脂層形成用組成物は、任意で、分散剤を含んでいてもよい。そして、樹脂層形成用組成物が分散剤を含むことにより、樹脂層形成用組成物中に任意のバインダー等の成分を良好に分散させることができる。したがって、樹脂層形成用組成物の貯蔵安定性を高めることができる。
【0051】
分散剤としては、特に限定されることはなく、既知の分散剤を使用することができるが、特に界面活性剤を分散剤として好適に用いることができる。界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等のノニオン性界面活性剤;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤;ドデシルアンモニウムクロリド等のカチオン性界面活性剤;等が挙げられる。中でも、ノニオン性界面活性剤がより好ましい。なお、樹脂層形成用組成物中の分散剤の含有量は、本発明の所望の効果が得られる範囲内で任意に調整することができる。
【0052】
<溶媒>
樹脂層形成用組成物は、通常、上述した樹脂A、有機金属化合物、およびその他の成分を既知の溶媒中に溶解または分散させたものである。そして、溶媒としては、樹脂Aおよび有機金属化合物などの特性に応じて、水、ギ酸、酢酸、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ジアセトンアルコール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル等の既知の溶媒を使用することができる。なお、これらの溶媒は1種を単独で用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。
樹脂層形成用組成物中の溶媒の含有量は、本発明の所望の効果が得られる範囲内で適宜調整することができる。
【0053】
<樹脂層形成用組成物の調製方法>
本発明の樹脂層形成用組成物を調製する方法は、上述した樹脂Aおよび有機金属化合物を含む組成物が得られる限り、特に制限されることはない。
例えば、上述した溶媒中に、樹脂A、有機金属化合物、および任意のその他の成分を添加し、攪拌等の方法により混合することで、樹脂層形成用組成物を調製することができる。なお、上記各成分の添加および混合の際は、各成分の性質に応じて、溶媒を適宜加温または冷却し、各成分が良好に溶解または分散し得る温度に調整してもよい。
例えば、溶媒中に、樹脂A、および、必要に応じて樹脂層用可塑剤および分散剤などを添加し、樹脂A等の成分が溶媒中に溶解または分散するまで、好ましくは40℃以上50℃以下の温度で加温しながら攪拌混合し、その後、好ましくは35℃以下、より好ましくは室温(23℃)まで冷却した後、有機金属化合物、および、必要に応じてバインダー(例えば、ウレタン系バインダー)を更に添加して混合することにより、樹脂層形成用組成物を調製することができる。
【0054】
(塩化ビニル樹脂積層シート)
本発明の塩化ビニル樹脂積層シートは、塩化ビニル樹脂および可塑剤を含む塩化ビニル樹脂成形シートと、塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の少なくとも一方側に配置された樹脂層Lとを有し、樹脂層Lが上述した樹脂層形成用組成物を用いて形成されることを特徴とする。
【0055】
そして、本発明の塩化ビニル樹脂積層シートは、塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の少なくとも一方側に、上述した樹脂層形成用組成物を用いて形成された樹脂層Lが配置されているため、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制することができると共に、樹脂層の耐湿熱性に優れている。
【0056】
従って、本発明の塩化ビニル樹脂積層シートは、自動車内装部材として、具体的には、例えば、自動車インスツルメントパネルおよびドアトリム等の自動車内装部品の表皮として好適に用いられ、特に、自動車インスツルメントパネルの表皮用に好適に用いられる。
【0057】
<塩化ビニル樹脂成形シート>
塩化ビニル樹脂および可塑剤を含む塩化ビニル樹脂成形シートは、塩化ビニル樹脂と可塑剤とを含む塩化ビニル樹脂組成物をシート状に成形することにより得られる。
【0058】
<<塩化ビニル樹脂組成物>>
塩化ビニル樹脂組成物は、塩化ビニル樹脂と、可塑剤とを含み、任意に、各種の添加剤などを更に含有してもよい。
【0059】
[塩化ビニル樹脂]
ここで、塩化ビニル樹脂組成物が含む塩化ビニル樹脂としては、例えば、1種類又は2種類以上の塩化ビニル樹脂粒子を含有することができ、任意に、1種類又は2種類以上の塩化ビニル樹脂微粒子を更に含有することができる。中でも、塩化ビニル樹脂は、少なくとも塩化ビニル樹脂粒子を含有することが好ましく、塩化ビニル樹脂粒子および塩化ビニル樹脂微粒子を含有することがより好ましい。
なお、本明細書において、「樹脂粒子」とは、粒子径が30μm以上の粒子を指し、「樹脂微粒子」とは、粒子径が30μm未満の粒子を指す。そして、塩化ビニル樹脂粒子は、通常、マトリックス樹脂(基材)として機能し、塩化ビニル樹脂微粒子は、通常、ダスティング剤(粉体流動性改良剤)として機能する。なお、塩化ビニル樹脂粒子は、懸濁重合法により製造することが好ましく、塩化ビニル樹脂微粒子は、乳化重合法により製造することが好ましい。
また、塩化ビニル樹脂は、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法など、従来から知られているいずれの製造法によっても製造され得る。
【0060】
-組成-
塩化ビニル樹脂としては、塩化ビニル単量体単位からなる単独重合体の他、塩化ビニル単量体単位を好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上含有する塩化ビニル系共重合体が挙げられる。塩化ビニル系共重合体を構成し得る、塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体(共単量体)の具体例としては、エチレン、プロピレンなどのオレフィン類;塩化アリル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、三フッ化塩化エチレンなどのハロゲン化オレフィン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類;イソブチルビニルエーテル、セチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;アリル-3-クロロ-2-オキシプロピルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどのアリルエーテル類;アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジエチル、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸、そのエステルまたはその酸無水物類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類;アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドなどのアクリルアミド類;アリルアミン安息香酸塩、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドなどのアリルアミンおよびその誘導体類;などが挙げられる。以上に例示される単量体は、共単量体の一部に過ぎず、共単量体としては、近畿化学協会ビニル部会編「ポリ塩化ビニル」日刊工業新聞社(1988年)第75~104頁に例示されている各種単量体が使用され得る。これらの共単量体は、1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。なお、上記塩化ビニル樹脂には、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、塩素化ポリエチレンなどの樹脂に、(1)塩化ビニルまたは(2)塩化ビニルと前記共単量体とがグラフト重合された樹脂も含まれる。
ここで、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味する。
【0061】
-SP値-
なお、塩化ビニル樹脂として用いられる重合体のSP値は8(cal/cm3)1/2以上であることが好ましく、9(cal/cm3)1/2以上であることがより好ましく、11(cal/cm3)1/2以下であることが好ましく、10(cal/cm3)1/2以下であることがより好ましい。塩化ビニル樹脂として用いられる重合体のSP値が上記所定の範囲内であれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を更に良好に抑制することができる。
【0062】
[可塑剤]
塩化ビニル樹脂組成物は可塑剤を更に含む。塩化ビニル樹脂組成物が可塑剤を含まなければ、塩化ビニル樹脂組成物を用いて塩化ビニル樹脂成形シートを良好に得ることができない。
【0063】
なお、塩化ビニル樹脂組成物に使用する「可塑剤」は、上述した樹脂層形成用組成物に用い得る(即ち、後述する樹脂層Lに含まれ得る)「樹脂層用可塑剤」とは異なる成分である。そして、本明細書中において、単に「可塑剤」と表記されるものは、樹脂層Lに含まれ得る「樹脂層用可塑剤」を指すものではなく、塩化ビニル樹脂組成物に使用する「可塑剤」、即ち、塩化ビニル樹脂成形シートに含まれる「可塑剤」を指すものとする。
【0064】
-含有量-
ここで、可塑剤の含有量は、上記塩化ビニル樹脂100質量部に対して70質量部以上であることが好ましく、80質量部以上であることがより好ましく、92質量部以上であることが更に好ましく、97質量部以上であることが一層好ましく、200質量部以下であることが好ましく、150質量部以下であることがより好ましく、100質量部以下であることが更に好ましい。可塑剤の含有量が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物に優れた柔軟性を付与し、例えば塩化ビニル樹脂成形シートへと加工し易くできると共に、得られる塩化ビニル樹脂成形シートに低温下での良好な引張伸びを付与することができるからである。また、可塑剤の含有量が上記上限以下であれば、得られた塩化ビニル樹脂成形シートの表面のべた付きをより抑制し、表面滑り性をより高めることができるからである。
【0065】
-種類-
ここで、可塑剤の具体例としては、以下の一次可塑剤及び二次可塑剤などが挙げられる。
いわゆる一次可塑剤としては、トリメリット酸トリメチル、トリメリット酸トリエチル、トリメリット酸トリ-n-プロピル、トリメリット酸トリ-n-ブチル、トリメリット酸トリ-n-ペンチル、トリメリット酸トリ-n-ヘキシル、トリメリット酸トリ-n-ヘプチル、トリメリット酸トリ-n-オクチル、トリメリット酸ジ-n-オクチル-モノ-n-デシル、トリメリット酸モノ-n-オクチル-ジ-n-デシル、トリメリット酸トリ-n-ノニル、トリメリット酸トリ-n-デシル、トリメリット酸トリ-n-ウンデシル、トリメリット酸トリ-n-ドデシル、トリメリット酸トリ-n-トリデシル、トリメリット酸トリ-n-テトラデシル、トリメリット酸トリ-n-ペンタデシル、トリメリット酸トリ-n-ヘキサデシル、トリメリット酸トリ-n-ヘプタデシル、トリメリット酸トリ-n-ステアリル、トリメリット酸トリ-n-アルキルエステル(ここで、トリメリット酸トリ-n-アルキルエステルが有するアルキル基の炭素数は一分子中で互いに異なっていてもよい。)などの、エステルを構成するアルキル基が直鎖状である直鎖状トリメリット酸エステル〔なお、これらのトリメリット酸エステルは、単一化合物からなるものであっても、混合物であってもよい。〕;
トリメリット酸トリ-i-プロピル、トリメリット酸トリ-i-ブチル、トリメリット酸トリ-i-ペンチル、トリメリット酸トリ-i-ヘキシル、トリメリット酸トリ-i-ヘプチル、トリメリット酸トリ-i-オクチル、トリメリット酸トリ-(2-エチルヘキシル)、トリメリット酸トリ-i-ノニル、トリメリット酸トリ-i-デシル、トリメリット酸トリ-i-ウンデシル、トリメリット酸トリ-i-ドデシル、トリメリット酸トリ-i-トリデシル、トリメリット酸トリ-i-テトラデシル、トリメリット酸トリ-i-ペンタデシル、トリメリット酸トリ-i-ヘキサデシル、トリメリット酸トリ-i-ヘプタデシル、トリメリット酸トリ-i-オクタデシル、トリメリット酸トリアルキルエステル(ここで、トリメリット酸トリアルキルエステルが有するアルキル基の炭素数は一分子中で互いに異なっていてもよい。)などの、エステルを構成するアルキル基が分岐状である分岐状トリメリット酸エステル〔なお、これらのトリメリット酸エステルは、単一化合物からなるものであっても、混合物であってもよい。〕;
ピロメリット酸テトラメチル、ピロメリット酸テトラエチル、ピロメリット酸テトラ-n-プロピル、ピロメリット酸テトラ-n-ブチル、ピロメリット酸テトラ-n-ペンチル、ピロメリット酸テトラ-n-ヘキシル、ピロメリット酸テトラ-n-ヘプチル、ピロメリット酸テトラ-n-オクチル、ピロメリット酸テトラ-n-ノニル、ピロメリット酸テトラ-n-デシル、ピロメリット酸テトラ-n-ウンデシル、ピロメリット酸テトラ-n-ドデシル、ピロメリット酸テトラ-n-トリデシル、ピロメリット酸テトラ-n-テトラデシル、ピロメリット酸テトラ-n-ペンタデシル、ピロメリット酸テトラ-n-ヘキサデシル、ピロメリット酸テトラ-n-ヘプタデシル、ピロメリット酸テトラ-n-ステアリル、ピロメリット酸テトラ-n-アルキルエステル(ここで、ピロメリット酸テトラ-n-アルキルエステルが有するアルキル基の炭素数は一分子中で互いに異なっていてもよい。)などの、エステルを構成するアルキル基が直鎖状である直鎖状ピロメリット酸エステル〔なお、これらのピロメリット酸エステルは、単一化合物からなるものであっても、混合物であってもよい。〕;
ピロメリット酸テトラ-i-プロピル、ピロメリット酸テトラ-i-ブチル、ピロメリット酸テトラ-i-ペンチル、ピロメリット酸テトラ-i-ヘキシル、ピロメリット酸テトラ-i-ヘプチル、ピロメリット酸テトラ-i-オクチル、ピロメリット酸テトラ-(2-エチルヘキシル)、ピロメリット酸テトラ-i-ノニル、ピロメリット酸テトラ-i-デシル、ピロメリット酸テトラ-i-ウンデシル、ピロメリット酸テトラ-i-ドデシル、ピロメリット酸テトラ-i-トリデシル、ピロメリット酸テトラ-i-テトラデシル、ピロメリット酸テトラ-i-ペンタデシル、ピロメリット酸テトラ-i-ヘキサデシル、ピロメリット酸テトラ-i-ヘプタデシル、ピロメリット酸テトラ-i-オクタデシル、ピロメリット酸テトラアルキルエステル(ここで、ピロメリット酸テトラアルキルエステルが有するアルキル基の炭素数は一分子中で互いに異なっていてもよい。)などの、エステルを構成するアルキル基が分岐状である分岐状ピロメリット酸エステル〔なお、これらのピロメリット酸エステルは、単一化合物からなるものであっても、混合物であってもよい。〕;
ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ-(2-エチルヘキシル)フタレート、ジ-n-オクチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジフェニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジトリデシルフタレート、ジウンデシルフタレート、ジベンジルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジノニルフタレート、ジシクロヘキシルフタレートなどのフタル酸誘導体;
ジメチルイソフタレート、ジ-(2-エチルヘキシル)イソフタレート、ジイソオクチルイソフタレートなどのイソフタル酸誘導体;
ジ-(2-エチルヘキシル)テトラヒドロフタレート、ジ-n-オクチルテトラヒドロフタレート、ジイソデシルテトラヒドロフタレートなどのテトラヒドロフタル酸誘導体;
ジ-n-ブチルアジペート、ジ-(2-エチルヘキシル)アジペート、ジイソデシルアジペート、ジイソノニルアジペートなどのアジピン酸誘導体;
ジ-(2-エチルヘキシル)アゼレート、ジイソオクチルアゼレート、ジ-n-ヘキシルアゼレートなどのアゼライン酸誘導体;
ジ-n-ブチルセバケート、ジ-(2-エチルヘキシル)セバケート、ジイソデシルセバケート、ジ-(2-ブチルオクチル)セバケートなどのセバシン酸誘導体;
ジ-n-ブチルマレエート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジ-(2-エチルヘキシル)マレエートなどのマレイン酸誘導体;
ジ-n-ブチルフマレート、ジ-(2-エチルヘキシル)フマレートなどのフマル酸誘導体;
トリエチルシトレート、トリ-n-ブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、アセチルトリ-(2-エチルヘキシル)シトレートなどのクエン酸誘導体;
モノメチルイタコネート、モノブチルイタコネート、ジメチルイタコネート、ジエチルイタコネート、ジブチルイタコネート、ジ-(2-エチルヘキシル)イタコネートなどのイタコン酸誘導体;
ブチルオレエート、グリセリルモノオレエート、ジエチレングリコールモノオレエートなどのオレイン酸誘導体;
メチルアセチルリシノレート、ブチルアセチルリシノレート、グリセリルモノリシノレート、ジエチレングリコールモノリシノレートなどのリシノール酸誘導体;
n-ブチルステアレート、ジエチレングリコールジステアレートなどのステアリン酸誘導体(但し、12-ヒドロキシステアリン酸およびそのエステルを除く);
ジエチレングリコールモノラウレート、ジエチレングリコールジペラルゴネート、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルなどのその他の脂肪酸誘導体;
トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ-(2-エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェートなどのリン酸誘導体;
ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジ-(2-エチルブチレート)、トリエチレングリコールジ-(2-エチルヘキソエート)、ジブチルメチレンビスチオグリコレートなどのグリコール誘導体;
グリセロールモノアセテート、グリセロールトリアセテート、グリセロールトリブチレートなどのグリセリン誘導体;
エポキシヘキサヒドロフタル酸ジイソデシル、エポキシトリグリセライド、エポキシ化オレイン酸オクチル、エポキシ化オレイン酸デシルなどのエポキシ誘導体;
アジピン酸系ポリエステル、セバシン酸系ポリエステル、フタル酸系ポリエステルなどのポリエステル系可塑剤;
などが挙げられる。
【0066】
また、いわゆる二次可塑剤としては、塩素化パラフィン、トリエチレングリコールジカプリレートなどのグリコールの脂肪酸エステル、ブチルエポキシステアレート、フェニルオレエート、ジヒドロアビエチン酸メチルなどが挙げられる。
【0067】
なお、これらの可塑剤は、1種のみを用いてもよく、例えば、一次可塑剤、二次可塑剤などの2種以上を併用してもよい。また、二次可塑剤を用いる場合は、当該二次可塑剤と等質量以上の一次可塑剤を併用することが好ましい。
【0068】
そして、上述した可塑剤の中でも、塩化ビニル樹脂組成物の成形性をより良好にする観点からは、トリメリット酸エステル及び/又はピロメリット酸エステルを用いることが好ましく、トリメリット酸エステルを用いることがより好ましく、直鎖状トリメリット酸エステルを用いることが更に好ましく、炭素数が異なるアルキル基を分子内に2つ以上有する直鎖状トリメリット酸エステルを用いることが一層好ましい。また、当該アルキル基の炭素数は8~10であることが好ましく、当該アルキル基がn-オクチル基、n-デシル基であることがより好ましい。そして、上記トリメリット酸エステルと共にエポキシ化大豆油を更に用いることが好ましい。
【0069】
-SP値-
なお、塩化ビニル樹脂組成物に用いられる可塑剤のSP値は7(cal/cm3)1/2以上であることが好ましく、8(cal/cm3)1/2以上であることがより好ましく、12(cal/cm3)1/2以下であることが好ましく、10(cal/cm3)1/2以下であることがより好ましい。塩化ビニル樹脂として用いられる可塑剤のSP値が上記所定の範囲内であれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を更に良好に抑制することができる。
【0070】
[添加剤]
塩化ビニル樹脂組成物は、上述した成分以外に、各種添加剤を更に含有してもよい。添加剤としては、特に限定されることなく、シリコーンオイルなどの滑剤;過塩素酸処理ハイドロタルサイト、ゼオライト、β-ジケトン、脂肪酸金属塩などの安定剤;離型剤;上記塩化ビニル樹脂微粒子以外のダスティング剤;およびその他の添加剤;などが挙げられる。
【0071】
-シリコーンオイル-
塩化ビニル樹脂組成物が含有し得るシリコーンオイルとしては、エーテル変性シリコーンオイル、脂肪酸アミド変性シリコーンオイル、未変性シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0072】
ここで、シリコーンオイルの含有量は、上記塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.01質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.15質量部以上であることが更に好ましく、1.5質量部以下であることが好ましく、1.0質量部以下であることがより好ましく、0.5質量部以下であることが更に好ましく、0.4質量部以下であることが一層好ましい。シリコーンオイルの含有量が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂成形シートの表面のべた付きを十分に低減して表面滑り性を向上し得るからである。また、シリコーンオイルの含有量が上記上限以下であれば、例えば、塩化ビニル樹脂成形シートを連続成形した場合であっても、過度の量のシリコーンオイルに起因して成形用金型等の表面が汚染されてしまうことを抑制し得るからである。
【0073】
-過塩素酸処理ハイドロタルサイト-
塩化ビニル樹脂組成物が含有し得る、過塩素酸処理ハイドロタルサイトは、例えば、ハイドロタルサイトを過塩素酸の希薄水溶液中に加えて撹拌し、その後必要に応じて、ろ過、脱水または乾燥することによって、ハイドロタルサイト中の炭酸アニオン(CO3
2-)の少なくとも一部を過塩素酸アニオン(ClO4
-)で置換(炭酸アニオン1モルにつき過塩素酸アニオン2モルが置換)することにより、過塩素酸導入型ハイドロタルサイトとして容易に製造することができる。上記ハイドロタルサイトと上記過塩素酸とのモル比は任意に設定できるが、一般には、ハイドロタルサイト1モルに対し、過塩素酸0.1モル以上2モル以下が好ましい。
【0074】
ここで、未処理(過塩素酸アニオンを導入していない未置換)のハイドロタルサイト中の炭酸アニオンの過塩素酸アニオンへの置換率は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは85モル%以上である。また、未処理(過塩素酸アニオンを導入していない未置換)のハイドロタルサイト中の炭酸アニオンの過塩素酸アニオンへの置換率は、好ましくは95モル%以下である。未処理(過塩素酸アニオンを導入していない未置換)のハイドロタルサイト中の炭酸アニオンの過塩素酸アニオンへの置換率が上記の範囲内にあることにより、塩化ビニル樹脂成形シートをより容易に製造することができるからである。
【0075】
なお、ハイドロタルサイトは、一般式:[Mg1-xAlx(OH)2]x+[(CO3)x/2・mH2O]x-で表される不定比化合物で、プラスに荷電した基本層[Mg1-xAlx(OH)2]x+と、マイナスに荷電した中間層[(CO3)x/2・mH2O]x-とからなる層状の結晶構造を有する無機物質である。ここで、上記一般式中、xは0より大きく0.33以下の範囲の数である。天然のハイドロタルサイトは、Mg6Al2(OH)16CO3・4H2Oである。合成されたハイドロタルサイトとしては、Mg4.5Al2(OH)13CO3・3.5H2Oが市販されている。合成ハイドロタルサイトの合成方法は、例えば特開昭61-174270号公報に記載されている。
【0076】
ここで、過塩素酸処理ハイドロタルサイトの含有量は、特に制限されることなく、上記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、7質量部以下が好ましく、6質量部以下がより好ましい。過塩素酸処理ハイドロタルサイトの含有量が上記範囲であれば、塩化ビニル樹脂組成物を成形してなる塩化ビニル樹脂成形シートに、低温下での引張伸びをより良好に維持することができるからである。
【0077】
-ゼオライト-
塩化ビニル樹脂組成物は、ゼオライトを安定剤として含有し得る。ゼオライトは、一般式:Mx/n・[(AlO2)x・(SiO2)y]・zH2O(一般式中、Mは原子価nの金属イオン、x+yは単子格子当たりの四面体数、zは水のモル数である)で表される化合物である。当該一般式中のMの種類としては、Na、Li、Ca、Mg、Znなどの一価又は二価の金属及びこれらの混合型が挙げられる。
【0078】
ここで、ゼオライトの含有量は、特に制限されることなく、塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、5質量部以下が好ましい。
【0079】
-β-ジケトン-
β-ジケトンは、塩化ビニル樹脂組成物を成形してなる塩化ビニル樹脂成形シートの初期色調の変動をより効果的に抑えるために用いられる。β-ジケトンの具体例としては、ジベンゾイルメタン、ステアロイルベンゾイルメタン、パルミトイルベンゾイルメタンなどが挙げられる。これらのβ-ジケトンは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
なお、β-ジケトンの含有量は、特に制限されることなく、塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.01質量部以上が好ましく、5質量部以下が好ましい。
【0081】
-脂肪酸金属塩-
塩化ビニル樹脂組成物が含有し得る脂肪酸金属塩は、特に制限されることなく、任意の脂肪酸金属塩とすることができる。中でも、一価脂肪酸金属塩が好ましく、炭素数12~24の一価脂肪酸金属塩がより好ましく、炭素数15~21の一価脂肪酸金属塩が更に好ましい。脂肪酸金属塩の具体例としては、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ストロンチウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、ラウリン酸亜鉛、2-エチルヘキサン酸バリウム、2-エチルヘキサン酸亜鉛、リシノール酸バリウム、リシノール酸亜鉛等である。脂肪酸金属塩を構成する金属としては、多価陽イオンを生成しうる金属が好ましく、2価陽イオンを生成しうる金属がより好ましく、周期表第3周期~第6周期の、2価陽イオンを生成しうる金属が更に好ましく、周期表第4周期の、2価陽イオンを生成しうる金属が特に好ましい。最も好ましい脂肪酸金属塩はステアリン酸亜鉛である。
【0082】
ここで、脂肪酸金属塩の含有量は、特に制限されることなく、上記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、0.03質量部以上がより好ましく、5質量部以下が好ましく、1質量部以下がより好ましく、0.5質量部以下が更に好ましい。脂肪酸金属塩の含有量が上記範囲であれば、塩化ビニル樹脂組成物を成形してなる塩化ビニル樹脂成形シートの色差の値を小さくできるからである。
【0083】
-離型剤-
離型剤としては、特に制限されることなく、例えば、12-ヒドロキシステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸エステルおよび12-ヒドロキシステアリン酸オリゴマーなどの12-ヒドロキシステアリン酸系潤滑剤が挙げられる。ここで、離型剤の含有量は、特に制限されることなく、上記塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.01質量部以上5質量部以下とすることができる。
【0084】
-その他のダスティング剤-
塩化ビニル樹脂組成物が含有し得る、上記塩化ビニル樹脂微粒子以外の、その他のダスティング剤としては、炭酸カルシウム、タルク、酸化アルミニウムなどの無機微粒子;ポリアクリロニトリル樹脂微粒子、ポリ(メタ)アクリレート樹脂微粒子、ポリスチレン樹脂微粒子、ポリエチレン樹脂微粒子、ポリプロピレン樹脂微粒子、ポリエステル樹脂微粒子、ポリアミド樹脂微粒子などの有機微粒子;が挙げられる。中でも、平均粒径が10nm以上100nm以下の無機微粒子が好ましい。
【0085】
ここで、その他のダスティング剤の含有量は、特に制限されることなく、塩化ビニル樹脂100質量部に対して30質量部以下が好ましく、25質量部以下がより好ましい。その他のダスティング剤は、1種類を単独で、又は2種類以上を併用してもよく、また、上述した塩化ビニル樹脂微粒子と併用してもよい。
【0086】
-その他の添加剤-
塩化ビニル樹脂組成物が含有し得るその他の添加剤としては、特に制限されることなく、例えば、着色剤(顔料)、耐衝撃性改良剤、過塩素酸処理ハイドロタルサイト以外の過塩素酸化合物(過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム等)、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等の、エポキシ化植物油系熱安定剤;酸化防止剤、防カビ剤、難燃剤、帯電防止剤、充填剤、光安定剤、発泡剤等が挙げられる。
【0087】
着色剤(顔料)の具体例は、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ポリアゾ縮合顔料、イソインドリノン系顔料、銅フタロシアニン系顔料、チタンホワイト、カーボンブラックである。1種又は2種以上の顔料が使用される。
キナクリドン系顔料は、p-フェニレンジアントラニル酸類が濃硫酸で処理されて得られ、黄みの赤から赤みの紫の色相を示す。キナクリドン系顔料の具体例は、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ、キナクリドンバイオレットである。
ペリレン系顔料は、ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸無水物と芳香族第一級アミンとの縮合反応により得られ、赤から赤紫、茶色の色相を示す。ペリレン系顔料の具体例は、ペリレンレッド、ペリレンオレンジ、ペリレンマルーン、ペリレンバーミリオン、ペリレンボルドーである。
ポリアゾ縮合顔料は、アゾ色素が溶剤中で縮合されて高分子量化されて得られ、黄、赤系顔料の色相を示す。ポリアゾ縮合顔料の具体例は、ポリアゾレッド、ポリアゾイエロー、クロモフタルオレンジ、クロモフタルレッド、クロモフタルスカーレットである。
イソインドリノン系顔料は、4,5,6,7-テトラクロロイソインドリノンと芳香族第一級ジアミンとの縮合反応により得られ、緑みの黄色から、赤、褐色の色相を示す。イソインドリノン系顔料の具体例は、イソインドリノンイエローである。
銅フタロシアニン系顔料は、フタロシアニン類に銅を配位した顔料で、黄みの緑から鮮やかな青の色相を示す。銅フタロシアニン系顔料の具体例は、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルーである。
チタンホワイトは、二酸化チタンからなる白色顔料で、隠蔽力が大きく、アナタース型とルチル型がある。
カーボンブラックは、炭素を主成分とし、酸素、水素、窒素を含む黒色顔料である。カーボンブラックの具体例は、サーマルブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、ボーンブラックである。
【0088】
耐衝撃性改良剤の具体例は、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体、塩素化ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、クロロスルホン化ポリエチレンなどである。塩化ビニル樹脂組成物では、1種又は2種以上の耐衝撃性改良剤が使用できる。なお、耐衝撃性改良剤は、塩化ビニル樹脂組成物中で微細な弾性粒子の不均一相となって分散する。塩化ビニル樹脂組成物では、当該弾性粒子にグラフト重合した鎖及び極性基が塩化ビニル樹脂と相溶し、塩化ビニル樹脂組成物を成形してなる塩化ビニル樹脂成形シートの耐衝撃性が向上する。
【0089】
酸化防止剤の具体例は、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、亜リン酸塩などのリン系酸化防止剤などである。
【0090】
防カビ剤の具体例は、脂肪族エステル系防カビ剤、炭化水素系防カビ剤、有機窒素系防カビ剤、有機窒素硫黄系防カビ剤などである。
【0091】
難燃剤の具体例は、ハロゲン系難燃剤;リン酸エステル等のリン系難燃剤;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の無機水酸化物;などである。
【0092】
帯電防止剤の具体例は、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル類、スルホン酸塩類等のアニオン系帯電防止剤;脂肪族アミン塩類、第四級アンモニウム塩類等のカチオン系帯電防止剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル類等のノニオン系帯電防止剤;などである。
【0093】
充填剤の具体例は、シリカ、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、クレーなどである。
【0094】
光安定剤の具体例は、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ニッケルキレート系等の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤などである。
【0095】
発泡剤の具体例は、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン等のニトロソ化合物、p-トルエンスルホニルヒドラジド、p,p-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)等のスルホニルヒドラジド化合物などの有機発泡剤;フロンガス、炭酸ガス、水、ペンタン等の揮発性炭化水素化合物、これらを内包したマイクロカプセルなどの、ガス系の発泡剤;などである。
【0096】
[塩化ビニル樹脂組成物の調製方法]
塩化ビニル樹脂組成物は、特に制限されることなく、上述した成分を混合して調製することができる。
ここで、上記塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、必要に応じて更に使用される各種添加剤との混合方法としては、特に限定されることなく、例えば、塩化ビニル樹脂微粒子を含むダスティング剤を除く成分をドライブレンドにより混合し、その後、ダスティング剤を添加、混合する方法が挙げられる。ここで、ドライブレンドには、ヘンシェルミキサーの使用が好ましい。また、ドライブレンド時の温度は、特に制限されることなく、50℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、200℃以下が好ましい。
【0097】
<<塩化ビニル樹脂成形シートの成形方法>>
そして、塩化ビニル樹脂成形シートは上述した塩化ビニル樹脂組成物をシート状に成形することにより得られる。塩化ビニル樹脂組成物を成形する方法としては、特に限定されることはなく、既知の成形方法を用いることができるが、粉体成形を用いることが好ましく、パウダースラッシュ成形を用いることがより好ましい。
ここで、パウダースラッシュ成形時の金型温度は、特に制限されることなく、200℃以上とすることが好ましく、220℃以上とすることがより好ましく、300℃以下とすることが好ましく、280℃以下とすることがより好ましい。
【0098】
そして、塩化ビニル樹脂成形シートを製造する際には、特に限定されることなく、例えば、以下の方法を用いることができる。即ち、上記温度範囲の金型に本発明の塩化ビニル樹脂組成物を振りかけて、5秒以上30秒以下の間放置した後、余剰の塩化ビニル樹脂組成物を振り落とし、さらに、任意の温度下、30秒以上3分以下の間放置する。その後、金型を10℃以上60℃以下に冷却し、得られた塩化ビニル樹脂成形シートを金型から脱型する。そして、脱型された塩化ビニル樹脂成形シートは、例えば、金型の形状をかたどったシート状の成形体として得られる。
なお、得られる塩化ビニル樹脂成形シートの厚みは、特に限定されないが、0.8mm以上であることが好ましく、1.0mm以上であることがより好ましく、1.6mm以下であることが好ましく、1.4mm以下であることがより好ましい。
【0099】
<樹脂層L>
本発明の塩化ビニル樹脂積層シートは、上述した塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の少なくとも一方側に配置された所定の樹脂層Lを有する。なお、当該所定の樹脂層Lは、塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の両側に配置されていてもよいし、塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の一方側のみに配置されていてもよいが、通常、塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の一方側のみに配置されている。
【0100】
また、塩化ビニル樹脂積層シートの厚み方向の一方側または両側の表面は、一部が所定の樹脂層Lで構成されていてもよいし、全部が所定の樹脂層Lで構成されていてもよい。
【0101】
ここで、所定の樹脂層Lは、通常、塩化ビニル樹脂成形シートに直接接着している。
【0102】
そして、当該所定の樹脂層Lは、上述した樹脂層形成用組成物を用いて形成される。
ここで、樹脂層形成用組成物に含まれていた有機金属化合物は、樹脂Aを構成するポリマー同士を架橋する反応に消費されるが、形成された樹脂層L中にも一部残存していてもよい。
そして、樹脂層形成用組成物に含まれていた樹脂Aは、樹脂層L中にも含まれているが、樹脂層L中では、樹脂Aを構成するポリマーの少なくとも一部同士が、有機金属化合物に由来する構造によって架橋されている。
なお、樹脂層形成用組成物中に含まれていた樹脂Aおよび有機金属化合物以外のその他の成分は樹脂層L中にも含まれる。
また、樹脂層形成用組成物中に含まれていた溶媒は後述する乾燥工程等によって除去されるため、形成される樹脂層L中に溶媒は通常含まれないが、本発明の所望の効果が得られる範囲内で、樹脂層L中に溶媒が残存していてもよいものとする。
【0103】
ここで、一般に、塩化ビニル樹脂成形シートは、例えば、発泡ウレタン成形体などの他の樹脂部材等と直接接触した状態に置かれると、塩化ビニル樹脂成形シート中の可塑剤が他の樹脂部材に移行することで、塩化ビニル樹脂成形シート中の可塑剤の量が減少し、塩化ビニル樹脂成形シートの劣化が発生すると考えられている。しかしながら、上述したSP値が所定の範囲にある樹脂Aを含む樹脂層Lを有する本発明の塩化ビニル樹脂積層シートであれば、塩化ビニル樹脂成形シートと他の樹脂部材等との間に当該樹脂層Lを介在させることで、可塑剤が塩化ビニル樹脂成形シートから樹脂層Lを通過して他の樹脂部材等に到達することが困難になり、結果として、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制することができると推測される。また、通常、樹脂層形成用組成物に含まれる樹脂Aの耐湿熱性は低いが、樹脂層形成用組成物に有機金属化合物を更に含ませることで、形成される樹脂層Lでは、樹脂Aを構成するポリマーの少なくとも一部同士が、有機金属化合物に由来する構造によって架橋されるため、樹脂層Lが水等の溶媒に対して不溶となり、これにより樹脂層Lの耐湿熱性を高めることができる。
【0104】
<<厚み>>
そして、樹脂層Lの厚みは、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることが更に好ましく、10μm以上であることが特に好ましく、1000μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることが更に好ましく、30μm以下であることが特に好ましい。樹脂層Lの厚みが0.1μm以上であれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を更に良好に抑制することができる。一方、樹脂層Lの厚みが1000μm以下であれば、樹脂層L全体の重量を少なくすることができる。
【0105】
<<樹脂層Lの形成方法>>
樹脂層Lは、塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の少なくとも一方側に形成される。
ここで、塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の少なくとも一方側に樹脂層Lを形成する方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
1)樹脂層形成用組成物を塩化ビニル樹脂成形シートの少なくとも一方側に塗布し、次いで乾燥する方法;
2)樹脂層形成用組成物に塩化ビニル樹脂成形シートを浸漬後、これを乾燥する方法;および
3)樹脂層形成用組成物を離型基材上に塗布し、乾燥して樹脂層Lを作製し、得られた樹脂層Lを塩化ビニル樹脂成形シートの少なくとも一方側に転写し積層する方法。
これらの中でも、前記1)の方法が、樹脂層Lの層厚制御をしやすいことから特に好ましい。前記1)の方法は、詳細には、樹脂層形成用組成物を塩化ビニル樹脂成形シートの少なくとも一方側に塗布する工程(塗布工程)と、塗布された樹脂層形成用組成物を乾燥させて樹脂層Lを形成する工程(樹脂層形成工程)を含む。
【0106】
[塗布工程]
そして、塗布工程において、樹脂層形成用組成物を塩化ビニル樹脂成形シートの少なくとも一方側に塗布する方法としては、特に制限は無く、例えば、バーコート法、ドクターブレード法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法、スプレーコート法などの方法が挙げられる。中でも、塩化ビニル樹脂成形シートが曲面形状などの複雑な構造である際に対応しやすいことから、スプレーコート法を用いることが好ましい。
【0107】
[樹脂層形成工程]
また、樹脂層形成工程において、塗布された樹脂層形成用組成物を乾燥させる方法としては、例えば、温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、赤外線や電子線などの照射による乾燥が挙げられる。塗布された樹脂層形成用組成物を乾燥させることで、樹脂Aと有機金属化合物とが架橋反応し、樹脂Aを構成するポリマー同士が有機金属化合物を介して架橋される。これにより、形成される樹脂層Lの耐湿熱性を高めることができる。
なお、乾燥条件は特に限定されないが、乾燥温度は10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、30℃以上であることが更に好ましく、40℃以上であることが特に好ましく、150℃以下であることが好ましく、110℃以下であることがより好ましく、70℃以下であることが更に好ましい。乾燥温度が上記下限以上であれば、乾燥効率の向上及び架橋反応が促進される。一方、乾燥温度が上記上限以下であれば、樹脂層にピンホールが発生せず、均一な樹脂層が形成される。また、乾燥時間は本発明の所望の効果が得られる範囲内で任意に調整することができる。
【0108】
(塩化ビニル樹脂積層シートの製造方法)
本発明の塩化ビニル樹脂積層シートの製造方法は、塩化ビニル樹脂および可塑剤を含む塩化ビニル樹脂成形シートの厚み方向の少なくとも一方側に、上述した樹脂層形成用組成物を塗布する塗布工程と、塗布された樹脂層形成用組成物を乾燥させて樹脂層Lを形成する樹脂層形成工程と、を含むことを特徴とする。本発明の塩化ビニル樹脂積層シートの製造方法によれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制し得ると共に、樹脂層Lの耐湿熱性に優れる塩化ビニル樹脂積層シートを製造することができる。
【0109】
ここで、本発明の塩化ビニル樹脂積層シートの製造方法に用いる塩化ビニル樹脂成形シートとしては、「塩化ビニル樹脂積層シート」の項で上述した塩化ビニル樹脂成形シートを用いることができる。また、本発明の塩化ビニル樹脂積層シートの製造方法に用いる樹脂層形成用組成物としては、上述した本発明の樹脂層形成用組成物を用いることができる。
また、本発明の塩化ビニル樹脂積層シートの製造方法における塗布工程および樹脂層形成工程としては、例えば、「塩化ビニル樹脂積層シート」の項で上述した樹脂層Lの形成方法に含まれる塗布工程および樹脂層形成工程をそれぞれ実施することができる。
【0110】
(積層体)
本発明の積層体は、発泡ポリウレタン成形体と、上述した塩化ビニル樹脂積層シートとを有する。そして、本発明の積層体は、発泡ポリウレタン成形体と塩化ビニル樹脂成形シートとの間に上述した所定の樹脂層Lが介在した構造を有する。なお、通常、発泡ポリウレタン成形体は、塩化ビニル樹脂積層シートの一方側に樹脂層Lを介在させて裏打ちされており、発泡ポリウレタン成形体と塩化ビニル樹脂積層シートとは積層方向に隣接して(即ち、発泡ポリウレタン成形体と塩化ビニル樹脂成形シートとは樹脂層Lを介して積層方向に積層されて)いる。
【0111】
そして、本発明の積層体は、発泡ウレタン成形体と塩化ビニル樹脂成形シートとの間に樹脂層Lが介在しているため、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制することができると共に、耐湿熱性に優れている。従って、本発明の積層体は、例えば、自動車インスツルメントパネルおよびドアトリム等といった自動車内装部品の自動車内装材として好適に用いられ、特に、自動車インスツルメントパネル用に好適に用いられる。
【0112】
ここで、積層方法は、特に限定されることなく、例えば、以下の方法を用いることができる。即ち、塩化ビニル樹脂積層シートの樹脂層Lが設けられている側の表面上で発泡ポリウレタン成形体の原料となるイソシアネート類とポリオール類などとを反応させて重合を行うと共に、公知の方法によりポリウレタンの発泡を行うことにより、塩化ビニル樹脂積層シート上に発泡ポリウレタン成形体を直接形成する。
なお、発泡ポリウレタン成形体を構成するポリウレタン樹脂のSP値は、通常8(cal/cm3)1/2以上であり、好ましくは9(cal/cm3)1/2以上であり、通常12(cal/cm3)1/2以下であり、好ましくは11(cal/cm3)1/2以下である。
【実施例】
【0113】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
そして、樹脂層形成用組成物の貯蔵安定性;樹脂層Lの厚みおよび耐湿熱性;加熱後の塩化ビニル樹脂成形シート中の可塑剤の減少率は、下記の方法で測定または評価した。
【0114】
<樹脂層形成用組成物の貯蔵安定性>
各実施例および比較例において、樹脂層形成用組成物を調製後、23℃の条件下で1週間静置した。その後、樹脂層形成用組成物を目視にて観察し、貯蔵安定性を下記の基準により評価した。なお、樹脂層形成用組成物中に観察される沈殿が少ないほど、樹脂層形成用組成物は貯蔵安定性に優れていることを示す。
A:樹脂層形成用組成物中に沈殿物が全く観察されない。
B:樹脂層形成用組成物中に沈殿物が僅かに観察される。
C:樹脂層形成用組成物中に沈殿物が明らかに観察される。
【0115】
<樹脂層Lの厚み>
各実施例および比較例で得られた積層体が有する樹脂層Lの断面をデジタルマイクロスコープ(KEYENCE社製「VHX-900」)で観察することにより、樹脂層Lの厚みを測定した。断面の観察および厚みの測定は、積層体の両長辺付近で各1点ずつ、および積層体の面上中央付近の1点の合計3点で実施し、最も小さい数値を測定結果とした。
【0116】
<樹脂層Lの耐湿熱性>
各実施例および比較例で得られた塩化ビニル樹脂積層シートを温度80℃、湿度80%RHの条件下に300時間静置する耐湿熱性試験を行なった。その後、塩化ビニル樹脂積層シートの樹脂層L側の表面を目視にて観察し、下記の基準により樹脂層Lの耐湿熱性を評価した。観察される液滴が少ないほど、樹脂層Lは高湿高温条件下で溶けにくく、耐湿熱性に優れていることを示す。
A:樹脂層Lは全く溶けておらず、液滴は観察されない。
B:樹脂層Lがわずかに溶けていて、液滴が少数観察される。
C:樹脂層Lが明らかに溶けていて、液滴が多数観察される。
【0117】
<加熱前後での塩化ビニル樹脂成形シート中の可塑剤の減少率>
各実施例および比較例で得られた積層体から塩化ビニル樹脂成形シートのみを剥離し、当該塩化ビニル樹脂成形シートから50±0.2mgを採取し、テトラヒドロフラン(THF)に溶解させた。更にメタノールで50mLにメスアップした後に、上澄み溶液を下記の条件のHPLC(高速液体クロマトグラフィー)により分析することで、加熱前の塩化ビニル樹脂成形シート中の可塑剤の含有割合A(%)を測定した。
【0118】
高速液体クロマトグラフ分析装置:Agilent社製「LC1260-II」
カラム:Agilent社製「ZORBAX Eclipse XDB-C8」
カラム温度:40℃
移動相A:アセトニトリル
移動相B:イオン交換水
グラジエント条件:0min(20体積%移動相B)、2.5min(0体積%移動相B)、8.0min(0体積%移動相B)
流速:1.0mL/min
検出器:ダイオードアレイ検出器(DAD)
シグナル:254nm
Ref:360nm
注入量:1μm
【0119】
また、各実施例および比較例で得られた積層体をオーブンに入れ、温度130℃の環境下で100時間、加熱を行なったこと以外は、上述した操作と同様にして、加熱後の塩化ビニル樹脂成形シート中の可塑剤の含有割合B(%)を測定した。
【0120】
以上より、可塑剤以外のその他の成分(塩化ビニル樹脂等)の含有量がW(g)である塩化ビニル樹脂成形シートを上述した条件で加熱した場合、加熱前後の塩化ビニル樹脂成形シートにおける可塑剤およびその他の成分それぞれの含有量(g)と含有割合(%)とが、上記A、BおよびWを用いて表1のように示される。そこで、下記の算出式(I)により、可塑剤の減少率X(%)を算出した。なお、加熱前後において、塩化ビニル樹脂成形シートにおけるその他の成分の含有量W(g)は変化しないものとする。
【0121】
【0122】
可塑剤の減少率X(%)
=100×{(加熱前の可塑剤の含有量)-(加熱後の可塑剤の含有量)}/(加熱前の可塑剤の含有量)
=100×{W×A/(100-A)-W×B/(100-B)}/[W×A/(100-A)]
=100×[1-{B×(100-A)}/{A×(100-B)}]・・・(I)
【0123】
(実施例1)
<塩化ビニル樹脂組成物の調製>
表2に示す配合成分のうち、可塑剤(トリメリット酸エステル)と、安定剤であるエポキシ化大豆油と、ダスティング剤である塩化ビニル樹脂微粒子とを除く成分をヘンシェルミキサーに入れて混合した。そして、混合物の温度が80℃に上昇した時点で上記可塑剤と安定剤としてのエポキシ化大豆油とを全て添加し、更に昇温することにより、ドライアップ(可塑剤が、塩化ビニル樹脂である塩化ビニル樹脂粒子に吸収されて、上記混合物がさらさらになった状態をいう。)させた。その後、ドライアップさせた混合物が温度100℃以下に冷却された時点でダスティング剤である塩化ビニル樹脂微粒子を添加し、塩化ビニル樹脂組成物を調製した。
【0124】
<塩化ビニル樹脂成形シートの形成>
上述で得られた塩化ビニル樹脂組成物を、温度250℃に加熱したシボ付き金型に振りかけ、8秒~20秒程度の任意の時間放置して溶融させた後、余剰の塩化ビニル樹脂組成物を振り落とした。その後、当該塩化ビニル樹脂組成物を振りかけたシボ付き金型を、温度200℃に設定したオーブン内に静置し、静置から60秒経過した時点で当該シボ付き金型を冷却水で冷却した。金型温度が40℃まで冷却された時点で、200mm×300mm×1.2mmの塩化ビニル樹脂成形シートを金型から脱型した。
【0125】
<樹脂層形成用組成物の調製>
容器中に、溶媒としての水230部、およびイソプロピルアルコール(関東化学社製)360部;樹脂層用可塑剤としてのメチルポリグリコール(数平均重合度:4)5部;並びに分散剤としてのポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキル(C12-14)エーテル(花王社製「エマルゲンLS-114」)10部を投入し、室温(23℃)下で攪拌を開始した。そこに、樹脂Aとしてのポリビニルアルコール(PVA、日本酢ビ・ポバール(株)社製「JMR-20M」、ポリ酢酸ビニルからのケン化度:65%、平均重合度:400、SP値:16.4(cal/cm3)1/2)100部を投入し、攪拌しながら加温を開始した。約45℃まで加温し、PVAが溶解したところで加温をやめ、撹拌しながら室温付近まで放冷した。その後、攪拌しながら、バインダーとしての黄変型ポリエステル系ポリウレタン(第一工業製薬社製「スーパーフレックス(登録商標)740」)を乾燥質量換算で5部投入し、さらに、有機金属化合物としてのジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム(マツモトファインケミカル社製「オルガチックスTC-300」)を乾燥質量換算で4.10部投入し、混合して、樹脂層形成用組成物を調製した。そして、得られた樹脂層形成用組成物の貯蔵安定性を評価した。結果を表3に示す。
【0126】
<塩化ビニル樹脂積層シートの作製(樹脂層Lの形成)>
得られた塩化ビニル樹脂成形シートのシボ付き面とは反対の面に、上記方法により得られた樹脂層形成用組成物をスプレーにより塗布した。その後、40℃の温風により1日間乾燥させることにより、塩化ビニル樹脂成形シートの片面に樹脂層Lが形成された塩化ビニル樹脂積層シートを作製した。また、得られた塩化ビニル樹脂積層シートを用いて、樹脂層Lの耐湿熱性の評価を行なった。結果を表3に示す。
【0127】
<積層体の形成>
作製された塩化ビニル樹脂積層シートを、温度100℃に設定したオーブンに2時間静置し、その後200mm×300mm×10mmの金型の中に、シボ付き面を下にして敷いた。
別途、プロピレングリコールのPO(プロピレンオキサイド)・EO(エチレンオキサイド)ブロック付加物(水酸基価28、末端EO単位の含有量=10%、内部EO単位の含有量4%)を50部、グリセリンのPO・EOブロック付加物(水酸基価21、末端EO単位の含有量=14%)を50部、水を2.5部、トリエチレンジアミンのエチレングリコ-ル溶液(東ソー社製、商品名「TEDA-L33」)を0.2部、トリエタノールアミンを1.2部、トリエチルアミンを0.5部、および整泡剤(信越化学工業製、商品名「F-122」)を0.5部混合して、ポリオール混合物を得た。また、得られたポリオール混合物とポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(ポリメリックMDI)とを、イソシアネートインデックスが98になる比率で混合した混合液を調製した。そして、調製した混合液を、上述の通り金型中に敷かれた塩化ビニル樹脂積層シートの上に注いだ。その後、348mm×255mm×10mmのアルミニウム板で上記金型に蓋をして、金型を密閉した。金型を密閉してから5分間放置することにより、表皮としての塩化ビニル樹脂積層シート(厚み:1.22mm)に隣接して、発泡ポリウレタン成形体(厚み:8.78mm、密度:0.18g/cm3、SP値:10.0(cal/cm3)1/2)が裏打ち(積層)された積層体が、金型内で形成された。
そして、形成された積層体を金型から取り出して、上述の方法に従って、加熱前後での塩化ビニル樹脂成形シート中の可塑剤の減少率を測定した。結果を表3に示す。なお、積層体を用いて、樹脂層Lの厚みを測定したところ、30μmであった。
【0128】
(実施例2)
実施例1の樹脂層形成用組成物の調製において、有機金属化合物としてのジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウムの使用量を4.10部から6.15部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形シート、樹脂層形成用組成物、塩化ビニル樹脂積層シート、および積層体を製造し、各種の測定または評価を行なった。結果を表3に示す。なお、樹脂層Lの厚みを測定したところ、30μmであった。
【0129】
(実施例3)
実施例1の樹脂層形成用組成物の調製において、有機金属化合物としてのジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウムの使用量を4.10部から12.30部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形シート、樹脂層形成用組成物、塩化ビニル樹脂積層シート、および積層体を製造し、各種の測定または評価を行なった。結果を表3に示す。なお、樹脂層Lの厚みを測定したところ、30μmであった。
【0130】
(比較例1)
実施例1の塩化ビニル樹脂積層シートの作製において、塩化ビニル樹脂成形シートのシボ付き面とは反対の面に樹脂層Lを形成せず(即ち、塩化ビニル樹脂積層シートを作製せず)、実施例1の積層体の形成において、塩化ビニル樹脂積層シートに代えて、樹脂層Lを備えていない塩化ビニル樹脂成形シートをそのまま使用して積層体を製造したこと以外は、実施例1と同様にして、塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形シート、および積層体を製造した。
そして、得られた積層体について、加熱前後での塩化ビニル樹脂成形シート中の可塑剤の減少率を測定した。結果を表3に示す。
【0131】
(比較例2)
実施例1の樹脂層形成用組成物の調製において、樹脂Aとして、平均重合度が400で、SP値が16.4(cal/cm3)1/2であるPVA(日本酢ビ・ポバール(株)社製「JMR-20M」)100部に代えて、平均重合度が250で、SP値が16.4(cal/cm3)1/2であるPVA(日本酢ビ・ポバール(株)社製「JMR-10M」)100部を用い、有機金属化合物としてのジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウムを使用せず、溶媒としての水の使用量を230部から160部に変更し、溶媒としてのイソプロピルアルコールの使用量を360部から240部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形シート、樹脂層形成用組成物、塩化ビニル樹脂積層シート、および積層体を製造し、各種の測定または評価を行なった。結果を表3に示す。なお、樹脂層Lの厚みを測定したところ、30μmであった。
【0132】
(比較例3)
実施例1の樹脂層形成用組成物の調製において、有機金属化合物としての有機金属化合物としてのジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウムを使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形シート、樹脂層形成用組成物、塩化ビニル樹脂積層シート、および積層体を製造し、各種の測定または評価を行なった。結果を表3に示す。なお、樹脂層Lの厚みを測定したところ、30μmであった。
【0133】
(比較例4)
比較例2の樹脂層形成用組成物の調製において、有機金属化合物としての有機金属化合物としてのジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウムの使用量を0部から6.15部に変更したこと以外は、比較例2と同様にして、塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形シート、樹脂層形成用組成物、塩化ビニル樹脂積層シート、および積層体を製造し、各種の測定または評価を行なった。結果を表3に示す。なお、樹脂層Lの厚みを測定したところ、30μmであった。
【0134】
【0135】
1)新第一塩ビ社製、製品名「ZEST(登録商標)1700ZI」(懸濁重合法、SP値:9.6(cal/cm3)1/2)
2)新第一塩ビ社製、製品名「ZEST PQLTX」(乳化重合法、SP値:9.6(cal/cm3)1/2)
3)東ソー社製、製品名「リューロンペースト(登録商標)860」(乳化重合法、SP値:9.6(cal/cm3)1/2)
4)花王社製、製品名「トリメックスN-08」(SP値:9.0(cal/cm3)1/2)
5)信越化学工業社製、製品名「X-50-1039A」
6)ADEKA社製、製品名「アデカサイザーO-130S」
7)協和化学工業社製、製品名「アルカマイザー(登録商標)5」
8)水澤化学工業社製、製品名「MIZUKALIZER DS」
9)昭和電工社製、製品名「カレンズDK-1」
10)堺化学工業社、製品名「SAKAI SZ2000」
11)ADEKA社製、製品名「アデカスタブ LS-12」
12)大日精化社製、製品名「DA PX 1720(A)ブラック」
【0136】
【0137】
表3より、SP値および重合度がそれぞれ所定値以上である樹脂と、有機金属化合物とを含む実施例1~3の樹脂層形成用組成物を用いれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制し得ると共に、耐湿熱性に優れる樹脂層を形成可能であることがわかる。
一方、比較例1から、上記所定の樹脂層形成用組成物を用いて形成された樹脂層Lを備えていない塩化ビニル樹脂成形シート単体は、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制することができないことがわかる。
さらに、上記所定の樹脂層形成用組成物以外の組成物を用いて形成された比較例2~4の樹脂層は、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制できるものの、耐湿熱性には劣ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明によれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制し得ると共に、耐湿熱性に優れる樹脂層を形成可能な樹脂層形成用組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制し得ると共に、樹脂層の耐湿熱性に優れる塩化ビニル樹脂積層シートおよびその製造方法を提供することができる。
さらに、本発明によれば、塩化ビニル樹脂成形シートからの可塑剤の移行を良好に抑制し得ると共に、耐湿熱性に優れる積層体を提供することができる。