(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】セパレータ材料および非水系電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 50/403 20210101AFI20241008BHJP
H01M 50/411 20210101ALI20241008BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20241008BHJP
H01M 50/437 20210101ALI20241008BHJP
H01M 50/44 20210101ALI20241008BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20241008BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20241008BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20241008BHJP
H01M 50/497 20210101ALI20241008BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20241008BHJP
【FI】
H01M50/403 D
H01M50/411
H01M50/434
H01M50/437
H01M50/44
H01M50/446
H01M50/451
H01M50/489
H01M50/497
H01M50/443 M
(21)【出願番号】P 2021512058
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014274
(87)【国際公開番号】W WO2020203872
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2019068348
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】米丸 裕之
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-139888(JP,A)
【文献】特開平08-241731(JP,A)
【文献】特開2016-045987(JP,A)
【文献】特開2016-134283(JP,A)
【文献】特開2006-179244(JP,A)
【文献】特開平01-319269(JP,A)
【文献】特開2011-204585(JP,A)
【文献】特開2011-258462(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0024121(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが300μm以下の多孔性薄膜材料に対して電解質組成物を含浸させてなり、
前記電解質組成物は、少なくとも1種のイオン性物質と、有機組成物とを含有し、且つ、温度100℃の大気圧下において液状であり、
前記有機組成物は、温度5℃の大気圧下において固体である化合物を80質量%以上の割合で含み、大気圧下における沸点が130℃未満の低沸点有機化合物の含有割合が0質量%以上20質量%以下であ
り、
前記電解質組成物は、温度-20℃におけるイオン伝導度が1.0×10
-4
S/cm以上である、セパレータ材料。
【請求項2】
前記有機組成物は、温度40℃の大気圧下において液体である有機化合物の含有割合が0質量%以上20質量%以下である、請求項1に記載のセパレータ材料。
【請求項3】
厚さが300μm以下の多孔性薄膜材料に対して電解質組成物を含浸させてなり、
前記電解質組成物は、少なくとも1種のイオン性物質と、有機組成物とを含有し、且つ、温度100℃の大気圧下において液状であり、
前記有機組成物は、温度5℃の大気圧下において固体である化合物を80質量%以上の割合で含み、大気圧下における沸点が130℃未満の低沸点有機化合物の含有割合が0質量%以上20質量%以下であ
り、温度40℃の大気圧下において液体である有機化合物の含有割合が0質量%以上20質量%以下である、セパレータ材料。
【請求項4】
前記有機組成物は、温度5℃の大気圧下において固体である化合物を2種類以上含む、請求項1
~3の何れかに記載のセパレータ材料。
【請求項5】
前記有機組成物は、温度5℃の大気圧下において固体である化合物を3種類以上含む、請求項1
~4の何れかに記載のセパレータ材料。
【請求項6】
前記有機組成物は、難燃剤を更に含有する、請求項1~
5の何れかに記載のセパレータ材料。
【請求項7】
前記電解質組成物は、高分子成分を更に含有する、請求項1~
6の何れかに記載のセパレータ材料。
【請求項8】
前記多孔性薄膜材料が融点を有するものである、請求項1~
7の何れかに記載のセパレータ材料。
【請求項9】
前記多孔性薄膜材料の表面に不燃性の微粒子が付着している、請求項1~
8の何れかに記載のセパレータ材料。
【請求項10】
請求項1~9の何れかに記載のセパレータ材料を備える、非水系電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セパレータ材料および当該セパレータ材料を用いた非水系電気化学デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウム一次電池等の一次電池;リチウムイオン二次電池、リチウム金属二次電池、ナトリウムイオン二次電池、カリウムイオン二次電池、マグネシウム二次電池、アルミニウム二次電池等の非水系二次電池;色素増感型太陽電池等の太陽電池;電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等のキャパシタ;エレクトロクロミック表示デバイス;電気化学発光素子;電気二重層トランジスタ;電気化学アクチュエータなどの非水系電気化学デバイスでは、正極と負極とを隔離して正極と負極との間の短絡を防ぐ部材としてセパレータが用いられている。
【0003】
そして、例えば特許文献1には、エチレンカーボネート、ジメチルスルホンおよびテトラフルオロほう酸リチウム(LiBF4)の混合物よりなる電解液と、ガラス繊維フィルター(製品名:Whatman(登録商標)、厚み:675μm)よりなるセパレータとを備えるリチウムイオン二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、非水系電気化学デバイスには、安全性の観点から、異常発熱等により内部から着火した場合や、火災等に巻き込まれて外部から着火した場合であっても、燃焼し難く、且つ、外部への物質漏えいが少ないことが求められている。
【0006】
しかし、従来の非水系電気化学デバイスには、燃焼性を低下させると共に着火等により外装が破壊された際の外部への物質漏えいを抑制して安全性を高めるという点において改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、内部または外部から着火した場合であっても、燃焼し難く、且つ、外部への物質漏えいが少ない非水系電気化学デバイスが得られる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、所定の性状を有する多孔性薄膜材料に所定の組成を有する電解質組成物を含浸させてなるセパレータ材料を用いれば、内部または外部から着火した場合であっても安全性に優れる非水系電気化学デバイスが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のセパレータ材料は、厚さが300μm以下の多孔性薄膜材料に対して電解質組成物を含浸させてなり、前記電解質組成物は、少なくとも1種のイオン性物質と、有機組成物とを含有し、且つ、温度100℃の大気圧下において液状であり、前記有機組成物は、温度5℃の大気圧下において固体である化合物を80質量%以上の割合で含み、大気圧下における沸点が130℃未満の低沸点有機化合物の含有割合が0質量%以上20質量%以下であることを特徴とする。このように、上述した所定の厚さを有する多孔性薄膜材料に対して上述した所定の組成および性状を有する電解質組成物を含浸させれば、燃焼性が低く、加熱による穴あきなどの多孔性薄膜材料の損傷が生じにくく、且つ、着火等により外装が破壊された場合であっても外部に物質が漏えいし難いセパレータ材料が得られる。
なお、本発明において、多孔性薄膜材料の「厚さ」は、JIS K7130に準拠して測定した厚みを指す。また、本発明において、「沸点」は、標準大気圧下で沸騰させて還流を行い、蒸気の再凝縮温度を温度計で計測することにより測定することができる。
【0010】
ここで、本発明のセパレータ材料において、前記有機組成物は、温度5℃の大気圧下において固体である化合物を2種類以上含むことが好ましく、3種類以上含むことがより好ましい。温度5℃の大気圧下において固体である化合物の種類が多いほど、イオン性物質が溶解し易くなると共に、電解質組成物の性能が向上するからである。
【0011】
また、本発明のセパレータ材料において、前記有機組成物は、難燃剤を更に含有することが好ましい。有機組成物が難燃剤を含有していれば、セパレータ材料を更に燃焼し難くすることができる。
【0012】
更に、本発明のセパレータ材料において、前記電解質組成物は、高分子成分を更に含有することが好ましい。電解質組成物が高分子成分を含有していれば、セパレータ材料を更に燃焼し難くすることができる。
なお、本発明において、「高分子成分」とは、JIS K7252に準拠して測定した重量平均分子量が10000以上の成分を指す。
【0013】
また、本発明のセパレータ材料は、前記多孔性薄膜材料が融点を有するものであることが好ましい。多孔性薄膜材料が加熱により溶融すれば、セパレータ材料が燃焼するのを抑制することができる。
【0014】
更に、本発明のセパレータ材料は、前記多孔性薄膜材料の表面に不燃性の微粒子が付着していることが好ましい。表面に不燃性の微粒子が付着した多孔性薄膜材料を使用すれば、セパレータ材料を更に燃焼し難くすることができる。
【0015】
また、本発明のセパレータ材料において、前記電解質組成物は、温度-20℃におけるイオン伝導度が1.0×10-4S/cm以上であることが好ましい。電解質組成物のイオン伝導度が上記下限値以上であれば、セパレータ材料を用いた非水系電気化学デバイスにおいて電気化学反応を良好に進行させることができる。
なお、本発明において、「イオン伝導度」は、交流法にて測定したイオン伝導度を指し、測定温度±1℃に制御した恒温槽中で、サンプルを2枚のステンレス製の平行極板に挟んで10~100mVの範囲の交流を印可して得られたナイキストプロットの円弧直径から算出される体積固有抵抗を逆数にすることにより求めることができる。
【0016】
そして、本発明のセパレータ材料において、前記有機組成物は、温度40℃の大気圧下において液体である有機化合物の含有割合が0質量%以上20質量%以下であることが好ましい。温度40℃の大気圧下において液体である有機化合物の含有割合が上記範囲内であれば、セパレータ材料を更に燃焼し難くすることができる。
【0017】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系電気化学デバイスは、上述したセパレータ材料の何れかを備えることを特徴とする。このように、上述したセパレータ材料を用いれば、内部または外部から着火した場合であっても、燃焼し難く、且つ、外部への物質漏えいが少ない非水系電気化学デバイスが得られる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、内部または外部から着火した場合であっても、燃焼し難く、且つ、外部への物質漏えいが少ない非水系電気化学デバイスが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のセパレータ材料は、特に限定されることなく、例えば、リチウム一次電池等の一次電池;リチウムイオン二次電池、リチウム金属二次電池、ナトリウムイオン二次電池、カリウムイオン二次電池、マグネシウム二次電池、アルミニウム二次電池等の非水系二次電池;色素増感型太陽電池等の太陽電池;電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等のキャパシタ;エレクトロクロミック表示デバイス;電気化学発光素子;電気二重層トランジスタ;電気化学アクチュエータなどの非水系電気化学デバイスに用いることができる。中でも、本発明のセパレータ材料は、非水系二次電池、特にはリチウムイオン二次電池に好適に用いることができる。
そして、本発明のセパレータ材料は、燃焼性が低く、且つ、着火等により外装が破壊された場合であっても外部に物質が漏えいし難い。また、本発明の非水系電気化学デバイスは、内部または外部から着火した場合であっても、燃焼し難く、且つ、外部への物質漏えいが少ない。
【0020】
(セパレータ材料)
本発明のセパレータ材料は、厚さが300μm以下の多孔性薄膜材料に対して電解質組成物を含浸させたものである。
【0021】
<多孔性薄膜材料>
本発明のセパレータ材料の多孔性薄膜材料としては、特に限定されることなく、例えば、ポリオレフィン多孔膜、ポリオレフィン不織布、フッ素樹脂多孔膜、紙、セルロース不織布、アラミド不織布およびガラス繊維フィルターなどの細孔を多数有する薄膜材料を用いることができる。
【0022】
そして、多孔性薄膜材料は、厚さが300μm以下であることを必要とし、200μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。多孔性薄膜材料の厚さが300μm超の場合、燃焼し易くなると共に外部に物質が漏えいし易くなる。一方、多孔性薄膜材料の厚さが上記上限値以下であれば、燃焼性が低く、且つ、外部に物質が漏えいし難いセパレータ材料が得られる。
なお、多孔性薄膜材料の厚さを300μm以下とすることでセパレータ材料の燃焼性が低下する理由は、明らかではないが、電解質組成物の保持量を低減すると共に電解質組成物の移動を抑制することで、電解質組成物が燃焼に寄与するのを防止することができるためであると推察される。
【0023】
また、多孔性薄膜材料は、融点を有するものであることが好ましく、溶融開始温度が100℃以上400℃以下であることがより好ましい。多孔性薄膜材料の端部が加熱によって溶融し、多孔形状を失えば、電気化学デバイスの内部または外部から着火した際に多孔性薄膜材料が芯となってセパレータ材料が燃焼するのを抑制することができる。
なお、本発明において、「溶融開始温度」は、示差走査熱量測定(DSC)により3℃/分で昇温した時の融解ピークから求めることができる。
【0024】
そして、多孔性薄膜材料は、表面に不燃性の微粒子が付着していることが好ましく、多孔性薄膜材料の外縁部以外の部分の表面に不燃性の微粒子が付着していることがより好ましい。表面に不燃性の微粒子が付着していれば、セパレータ材料を更に燃焼し難くすることができる。
なお、本発明において、「不燃」とは、800℃まで加熱しても発火も引火もしないことを指す。
【0025】
ここで、不燃性の微粒子としては、特に限定されることなく、例えば、シリカ微粒子やアルミナ微粒子等の無機微粒子、並びに、その他の金属の酸化物、硫酸塩および炭酸塩の微粒子などが挙げられる。
そして、微粒子の粒子径は、特に限定されることなく、例えば10μm以下であることが好ましく、0.1μm以上5μm以下であることがより好ましい。なお、本発明において、「粒子径」は、JIS K8825に準拠して測定することができる。
【0026】
また、多孔性薄膜材料は、親水化処理が施されていてもよい。親水化処理を施せば、電解質組成物に対する濡れ性を高め得る。ここで、多孔性薄膜材料を親水化処理する方法としては、特に限定されることなく、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、界面活性剤処理、親水性ポリマー被覆処理、無機フィラー添加などの方法を用いることができる。
【0027】
<電解質組成物>
電解質組成物は、少なくとも1種のイオン性物質と、所定の化合物を所定の割合で含む有機組成物とを含有し、任意に、高分子成分および/または添加剤を更に含有し得る。そして、本発明の電解質組成物は、温度100℃の大気圧下において液状であることを必要とする。
【0028】
[イオン性物質]
ここで、イオン性物質としては、セパレータ材料が用いられる非水系電気化学デバイスにおける電気化学反応に利用されるイオンの種類に応じた任意のイオン性物質を用いることができる。
なお、イオン性物質の配合量は、非水系電気化学デバイスの種類に応じて適宜に設定することができる。具体的には、電解質組成物中のイオン性物質の濃度は、電解質組成物を取り扱い易い粘度範囲とする観点からは、0.01mol/L以上2.5mol/L未満とすることが好ましい。一方、電気化学デバイスの安全性、耐熱性および寿命を向上する観点からは、電解質組成物中のイオン性物質の濃度は、2.5mol/L以上とすることが好ましい。
【0029】
具体的には、セパレータ材料が用いられる非水系電気化学デバイスがリチウムイオン二次電池やリチウムイオンキャパシタ等の場合には、イオン性物質としては、特に限定されることなく、例えば、LiBF4、LiPF6、リチウムビス(オキサレート)ボレート、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどのリチウム塩を用いることができる。また、セパレータ材料が用いられる非水系電気化学デバイスがマグネシウム二次電池等の場合には、イオン性物質としては、特に限定されることなく、例えば、マグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド等のマグネシウム塩を用いることができる。
これらのイオン性物質は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
[有機組成物]
有機組成物は、温度5℃の大気圧下において固体である化合物を80質量%以上の割合で含むことを必要とし、任意に、温度5℃の大気圧下において液体である化合物および難燃剤からなる群より選択される少なくとも1種を更に含有し得る。また、有機組成物は、大気圧下における沸点が130℃未満の低沸点有機化合物の含有割合が0質量%以上20質量%以下であることを必要とする。
温度5℃の大気圧下において固体である化合物および低沸点有機化合物の含有割合が上記範囲内でなければ、着火等により外装が破壊された際に電解質組成物が外部に漏えいするのを十分に抑制することができない。なお、温度5℃の大気圧下において固体である化合物および低沸点有機化合物の含有割合を上記範囲内とすることで着火等により外装が破壊された際に電解質組成物が外部に漏えいするのを抑制することができる理由は、明らかではないが、温度5℃の大気圧下において固体である化合物を主成分とする有機組成物を用いることで、電解質組成物が高粘度になると共に、火災などで高温にさらされた際に成分の一部が揮散して電解質組成物が液状を保てる範囲を逸脱する(固体が析出する)ためであると推察される。
【0031】
〔温度5℃の大気圧下において固体である化合物〕
ここで、温度5℃の大気圧下において固体である化合物としては、特に限定されることなく、大気圧下における沸点が130℃以上の高沸点有機化合物が挙げられる。また、温度5℃の大気圧下において固体である化合物は、通常、難燃性を有さない化合物であり、難燃剤とは異なるものである。更に、温度5℃の大気圧下において固体である化合物は、分子量が10000未満であることが好ましい。
そして、温度5℃の大気圧下において固体である化合物としては、例えば、グルタル酸無水物、コハク酸無水物、スクシノニトリル、ジグリコール酸無水物、スルホラン、エチルメチルスルホン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホレン、硫酸エチレン(1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド)、イタコン酸無水物、エチレンカーボネート、N-メチルオキサゾリドン、フルオロエチレンカーボネート、メチルカーバメート、N,N-ジメチルイミダゾリジノン、シュウ酸ジメチル、ビニレンカーボネート、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
これらの化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、温度5℃の大気圧下において固体である化合物は、2種類以上を併用することが好ましく、3種類以上を併用することがより好ましい。
【0032】
中でも、イオン性物質の溶解性向上および電解質組成物の性能向上の観点からは、温度5℃の大気圧下において固体である化合物としては、酸素原子および/または窒素原子を有する極性化合物を用いることが好ましく、エチレンカーボネート、ジメチルスルホン、スクシノニトリル、イタコン酸無水物、ジグリコール酸無水物、スルホレン、1,3,2-ジオキサチオラン2,2-ジオキシド、ビニレンカーボネートおよびフルオロエチレンカーボネートからなる群より選択される1種以上を用いることがより好ましく、上記群より選択される2種以上を用いることが更に好ましく、上記群より選択される3種以上を用いることが特に好ましい。
また、燃焼時に発生する熱を低減する観点からは、温度5℃の大気圧下において固体である化合物は、炭素数が8以下の化合物であることが好ましく、炭素数5以下の化合物であることがより好ましい。
なお、温度5℃の大気圧下において固体である化合物を用いて液状となる組成を知りたい場合は、組成物の配合に使用する化合物全てを等量ずつ混合し、それらの化合物のうちの最も融点の高い化合物の融点以上にまで全体を加熱して融解させ、その後液体として使用したい温度まで冷却して、全体が液状のままならばそのまま使用でき、一部が固体となった場合は上澄みの組成をガスクロマトグラフや液体クロマトグラフにて定量すれば、液状を呈する組成を知ることができる。
【0033】
そして、温度5℃の大気圧下において固体である化合物の有機組成物中における含有割合は、80質量%以上100質量%以下であり、85質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
【0034】
〔温度5℃の大気圧下において液体である化合物〕
また、温度5℃の大気圧下において液体である化合物としては、特に限定されることなく、大気圧下における沸点が130℃以上の高沸点有機化合物が挙げられる。また、温度5℃の大気圧下において液体である化合物は、通常、難燃性を有さない化合物であり、難燃剤とは異なるものである。更に、温度5℃の大気圧下において液体である化合物は、分子量が10000未満であることが好ましい。
そして、温度5℃の大気圧下において液体である化合物としては、例えば、リン酸トリスエチルヘキシル、アジポニトリル、1,3-プロパンスルトン、リン酸トリブチル、テトラグライム、リン酸トリスブトキシエチル、ビニルエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、トリグライム、リン酸トリエチル、シトラコン酸無水物、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、リン酸トリメチルなどが挙げられる。
これらの化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
中でも、ハンドリング性および電解質組成物の調製の容易性の観点から、温度5℃の大気圧下において液体である化合物としては、プロピレンカーボネートを用いることが好ましい。
【0035】
なお、温度5℃の大気圧下において液体である化合物の有機組成物中における含有割合は、通常、0質量%以上20質量%以下であり、0質量%以上15質量%以下であることが好ましい。
【0036】
〔難燃剤〕
難燃剤としては、炭素数が24以下のリン酸エステル類、炭素数が24以下の亜リン酸エステル類、ホスファゼン類などを用いることができる。そして、有機組成物に難燃剤を含有させれば、セパレータ材料を更に燃焼し難くすることができる。
【0037】
ここで、炭素数が24以下のリン酸エステル類としては、例えば、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジルおよびリン酸トリキシレニル等のアルキルリン酸エステル;並びに、リン酸トリス(トリフルオロエチル)、リン酸ビス(トリフルオロエチル)メチルおよびリン酸トリス(ヘキサフルオロイソプロピル)等のフッ素化リン酸エステル;などが挙げられる。
また、炭素数が24以下の亜リン酸エステル類としては、例えば、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリイソプロピルおよび亜リン酸トリブチル等のアルキル亜リン酸エステルなどが挙げられる。
更に、ホスファゼン類としては、例えば、モノエトキシシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、ジエトキシシテトラフルオロシクロトリホスファゼン、モノフェノキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンなどが挙げられる。
なお、上述した化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
そして、難燃性を有する化合物は、火災等の際には電解液から分離せずに共に移動した方がよいことから、温度5℃の大気圧下において液体であることが好ましい。また、難燃性を有する化合物は、大気圧下における沸点が130℃以上であることが好ましい。
【0039】
なお、有機組成物中における難燃剤の含有割合は、通常、0質量%以上20質量%以下であり、非水系電気化学デバイスの性能低下を抑制する観点から、0質量%以上10質量%以下であることが好ましく、難燃剤としてリン化合物を用いた場合に人体の健康への影響を少なくする観点からは、0質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。
【0040】
〔低沸点有機化合物〕
低沸点有機化合物としては、大気圧下における沸点が130℃未満であれば特に限定されることなく、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピルなどが挙げられる。これらの化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、低沸点有機化合物は、分子量が10000未満であることが好ましい。
【0041】
そして、着火等により外装が破壊された際に電解質組成物が外部に漏えいするのを十分に抑制する観点から、有機組成物中における低沸点有機化合物の含有割合は、0質量%以上20質量%以下であることが必要であり、0質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0042】
なお、セパレータ材料を更に燃焼し難くする観点から、有機組成物は、温度40℃の大気圧下において液体である有機化合物の含有割合が0質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。
【0043】
ここで、温度40℃の大気圧下において液体である有機化合物としては、特に限定されることなく、例えば、スルホラン、エチルメチルスルホン、エチレンカーボネート、N-メチルオキサゾリドン、フルオロエチレンカーボネート、ジメチルイミダゾリジノン、ビニレンカーボネート、ジメチルスルホキシドなどの大気圧下における沸点が130℃以上の高沸点有機化合物が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
なお、温度40℃の大気圧下において液体である有機化合物は、通常、難燃性を有さない化合物であり、難燃剤とは異なるものである。また、温度40℃の大気圧下において液体である有機化合物は、温度5℃の大気圧下において固体であることが好ましい。更に、温度40℃の大気圧下において液体である有機化合物は、分子量が10000未満であることが好ましい。
【0045】
そして、上述した化合物を含む有機組成物としては、特に限定されることなく、例えば、エチレンカーボネート単体、エチレンカーボネートとジメチルスルホンとの混合物、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとの混合物、エチレンカーボネートとスクシノニトリルとの混合物、ジメチルスルホンとスクシノニトリルとの混合物、スクシノニトリルとイタコン酸無水物との混合物、エチレンカーボネートとフルオロエチレンカーボネートとの混合物、エチレンカーボネートとジメチルスルホンとスクシノニトリルとの混合物、エチレンカーボネートとジメチルスルホンとビニレンカーボネートとの混合物、エチレンカーボネートとジメチルスルホンと難燃剤(例えば、リン酸トリメチル)との混合物などが挙げられる。
【0046】
[高分子成分]
任意成分である高分子成分としては、特に限定されることなく、例えば、置換基を有していてもよいエチレンオキシド連鎖を有する重合体、および、エピクロロヒドリン系重合体が挙げられる。そして、置換基を有していてもよいエチレンオキシド連鎖を有する重合体としては、例えば、ポリエチレンオキサイド、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル共重合体、エチレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル共重合体、オキシエチレン連鎖を有するポリアクリレート系重合体などのエチレンオキサイド系重合体が挙げられる。これらの重合体は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。そして、電解質組成物に高分子成分を含有させれば、セパレータ材料を更に燃焼し難くすることができる。
【0047】
ここで、本発明のセパレータ材料に含まれる高分子成分は、非水系電気化学デバイスの組み立て後に内部で熱重合などの重合方法を用いて重合したものであってもよい。そして、高分子成分は、非水系電気化学デバイスの製造などの操作温度に於いて電解質組成物に均一に溶解している方が好ましい。
【0048】
また、高分子成分の重量平均分子量は、10000以上であれば特に限定はされないが、10万以上3000万以下であることが好ましい。
更に、高分子成分は、架橋構造を有していてもよいが、電解質組成物中で良好に溶解させる観点からは架橋構造を有さないことが好ましい。ここで、架橋構造は、例えば紫外線照射などの任意の架橋方法を用いて高分子成分に導入することができる。また、電解質組成物中で良好に溶解させる観点から、高分子成分は、ゲル含有量が少ないことが好ましい。ゲル含有量は高分子成分のうちの20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましい。高分子成分のゲル含有量は、プロピレンカーボネートに対して高分子成分を5質量%の比率で添加して、100℃で12時間掛けて攪拌溶解させて、不溶分を100℃においてメンブレンフィルタで濾別し、真空乾燥してプロピレンカーボネートを除去し、残渣重量を測ることにより知ることができる。
【0049】
そして、電解質組成物中における高分子成分の含有割合は、有機組成物100質量部当たり、通常、0質量部以上100質量部以下であり、電解質組成物のイオン伝導度の低下を抑制する点から、0質量部以上50質量部以下であることが好ましい。
【0050】
[添加剤]
任意成分である添加剤としては、特に限定されることなく、例えば濡れ剤などの電気化学デバイスの分野において使用し得る任意の添加剤を用いることができる。
【0051】
〔濡れ剤〕
ここで、濡れ剤としては、親水部と疎水部を分子内に有するものであれば特に限定されることなく、例えば、炭素数8以上の長鎖アルキルカルボン酸塩、炭素数8以上の長鎖アルキルスルホン酸塩、炭素数8以上の長鎖パーフルオロアルキルカルボン酸塩、炭素数8以上の長鎖パーフルオロアルキルスルホン酸塩、炭素数8以上の長鎖アルキルリン酸エステル、炭素数8以上の長鎖パーフルオロアルキルリン酸エステル、フッ素置換エーテル、炭素数8以上の末端アルキル基を有するエチレンオキシド重合体、エチレンオキサイド(EO)-プロピレンオキサイド(PO)ブロック共重合体などが挙げられる。なお、上記の化合物が有するアルキル基は、一部に不飽和結合を有していてもよいし、分岐鎖を有していてもよい。そして、これらの濡れ剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0052】
なお、濡れ剤の配合量は、特に限定されることなく、例えば、有機組成物100質量部当たり、5質量部以下とすることが好ましく、3質量部以下とすることがより好ましい。
【0053】
[電解質組成物の性状]
電解質組成物は、温度100℃の大気圧下において液状であることを必要とする。ここで、「液状」には、単一の液相状態以外に、主となる液相中に5体積%以下の割合で別の液相が一つ以上する状態や、液相中に5体積%以下の微量な固相を含む状態も含まれる。
【0054】
そして、電解質組成物は、温度-20℃におけるイオン伝導度が1.0×10-4S/cm以上であることが好ましく、また、電解質組成物は、温度25℃におけるイオン伝導度が1.0×10-3S/cm以上であることが好ましい。電解質組成物のイオン伝導度が上記下限値以上であれば、セパレータ材料を用いた非水系電気化学デバイスにおいて電気化学反応を良好に進行させることができる。
【0055】
また、電解質組成物は、粘度が、10mPa・s以上であることが好ましく、20mPa・s以上であることがより好ましく、50mPa・s以上であることが更に好ましい。電解質組成物の粘度が上記下限値以上であれば、着火等により外装が破壊された際に電解質組成物が更に外部に漏えいし難くなると共に、電解質組成物が燃えたとしても全量が燃え難くなるので燃焼性が低下する。
なお、本発明において、「粘度」とは、温度25℃においてEMS粘度計(京都電子工業製、EMS-1000S)を用いて密閉条件で有機組成物が揮散せず、空気中の水分が混入しないようにモーター回転数1000rpmで測定した粘度を指す。なお、この測定方法で測定した粘度は、基本的には、JIS Z8803に準拠して測定した値と同じ値となる。そして、電解質組成物の粘度は電解質組成物の組成を変更することにより調整することができる。具体的には、例えば、高粘度の化合物を配合したり、イオン性物質の濃度を高くしたりすることで、電解質組成物の粘度を高めることができる。
【0056】
<セパレータ材料の作製>
多孔性薄膜材料への電解質組成物の含浸は、特に限定されることなく、電解質組成物中への多孔性薄膜材料の浸漬、多孔性薄膜材料への電解質組成物の注液などの任意の方法を用いて行うことができる。
【0057】
(非水系電気化学デバイス)
本発明の非水系電気化学デバイスは、本発明のセパレータ材料を備えている。具体的には、本発明の非水系電気化学デバイスは、通常、正極および負極と、正極と負極とを隔離するセパレータ材料と、電解液とを備えている。そして、本発明の非水系電気化学デバイスは、本発明のセパレータ材料を備えているので、内部または外部から着火した場合であっても、燃焼し難く、且つ、外部への物質漏えいが少ない。
【0058】
ここで、正極および負極としては、特に限定されることなく、非水系電気化学デバイスの分野において使用し得る任意の正極および負極を用いることができる。
【0059】
また、電解液としては、本発明のセパレータ材料に用いられている電解質組成物を用いることができる。
【実施例】
【0060】
まず、下記の参考例1~2を実施し、様々な化合物について単体での燃焼性を調査した。
【0061】
(参考例1)
直径2cmのステンレス製の皿に評価対象の化合物100mgを入れ、ライターの炎を1秒間当てて着火の有無を調べた。結果を以下に示す。
この結果より、沸点が130℃を下回る化合物や、表面積の大きい評価対象は着火し易いことが分かる。
<着火した化合物>
ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体(粉末状)
<着火しなかった化合物>
スクシノニトリル、エチレンカーボネート、ジメチルスルホン、シュウ酸ジメチル、グリコリド、アジポニトリル、テトラグライム、プロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、リン酸トリメチル等の難燃剤、ヒドリンゴム(塊状)、アクリルゴム(塊状)
【0062】
(参考例2)
参考例1で着火しなかった化合物のうち、スクシノニトリル、エチレンカーボネート、ジメチルスルホン、シュウ酸ジメチル、グリコリド、アジポニトリル、テトラグライム、プロピレンカーボネートおよびフルオロエチレンカーボネートについて、着火するまで炎を当て続ける試験を実施した。
その結果、いずれの化合物も着火した。なお、スクシノニトリル、エチレンカーボネート、ジメチルスルホン、シュウ酸ジメチル、グリコリドおよびフルオロエチレンカーボネートの燃焼は、アジポニトリル、テトラグライムおよびプロピレンカーボネートの燃焼と比較して穏やかであり、炎は皿の内側に収まっていた。
【0063】
次に、以下の参考例3を実施し、様々な化合物について単体での揮発性を調査した。
【0064】
(参考例3)
エチレンカーボネートやジメチルスルホン等の温度5℃の大気圧下において固体である化合物と、プロピレンカーボネート等の温度5℃の大気圧下において液体である化合物とについて、それぞれ、プラスチック製の直径5cmの皿に10g計り取り、125℃のホットプレートに乗せた。そして、上方2cmの位置にガラス板を水平に設置した。
その結果、エチレンカーボネートやジメチルスルホン等の温度5℃の大気圧下において固体である化合物は、蒸気がガラス上に付着したものの、その場に留まっていた。一方、プロピレンカーボネート等の温度5℃の大気圧下において液体である化合物は、蒸気がガラス上に付着した後、付着量が増えると周囲に移動する挙動を示した。
これより、温度5℃の大気圧下において固体である化合物は、火災時等でも流動し難く、燃焼の拡大を招き難いことが分かった。
【0065】
更に、下記の参考例4~5を実施し、化合物の揮発による電解質組成物の状態変化を確認した。
【0066】
(参考例4)
エチレンカーボネートを45g、ジメチルスルホンを45g、LiBF4を10g秤り取り、混合して均一な溶液の電解質組成物とした。
この電解質組成物をガラス板に1g取り、60℃のホットプレート上で放置しておいたところ有機化合物が揮散して重量の減少が見られた。
重量の減少に伴って粘性が上がる様子が観察され、重量の20%ほどが失われた時点でホットプレートから降ろして観察したところ固体が析出しており、流動性はなくなっていた。
これは電解質組成物を構成する有機化合物の一部揮散により、組成がアンバランスになり、有機化合物と塩とが相互に溶けた状態を維持できなくなったためと考えられる。
【0067】
(参考例5)
ジメチルカーボネートを90g、LiBF4を10g秤り取り、混合して均一な溶液の電解質組成物とした。
参考例4と同様に試験したところ、ジメチルカーボネートの沸点が90℃と低いことから重量減少のスピードが著しく早かった。
重量の60%が失われた時点でホットプレートから降ろして観察したが固体の析出は見られなかった。
【0068】
最後に、下記の参考例6を実施し、多孔性薄膜材料について単独で着火試験を行った。
【0069】
(参考例6)
表1に示す多孔性薄膜材料をそれぞれ2cm×2cmの正方形に切抜き、ピンセットで1辺をつまんで下から3秒間炎に当てた。そして、着火の有無および形状の変化の有無を確認した。結果を表1に示す。
【0070】
【0071】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
また、実施例および比較例において、各種評価は以下の方法で行った。
【0072】
<多孔性薄膜材料の厚み>
多孔性薄膜材料の厚みは、定圧デジタル測厚計(東洋精機製)を用いて測定した。
<電解質組成物の粘度>
電解質組成物の粘度は、温度25℃において、EMS粘度計(京都電子工業製、EMS-1000S)を用いてモーター回転数1000rpmで測定した。
<電解質組成物のイオン伝導度>
インピーダンスアナライザ(ソーラトロン社製)を用いて温度-20℃および25℃において測定した。
<セパレータ材料の着火試験>
作製したセパレータ材料を、直径16mm、厚み500μmの円盤状ステンレス板2枚で全周からセパレータ材料が2mmはみ出すように挟んで、試験片とした。
そして、試験片のはみ出し部付近にバーナーを当てて着火の有無を調べた。その後、試験片の中央部に5秒間バーナーの火を当てることにより燃焼性を評価した。具体的には、バーナーの火を離した後の継続燃焼の有無、および、はみ出し部の状態について、目視観察を行った。
試験後にステンレス板を剥がして、ステンレス板に接していた部分のセパレータ材料が乾いているか湿っているか、および、セパレータ材料の多孔性薄膜材料に損傷(穴空き)があるか否かを観察した。そして、湿っている部分の面積(湿潤面積)の割合が電解質組成物が燃焼せずに残った量を反映していると判断した。
【0073】
(実施例1)
<電解質組成物の調製>
イオン性物質としてのLiBF4を10gと、有機組成物としてのエチレンカーボネート80gおよびジメチルスルホン20gとを秤り取り、混合して均一な溶液の電解質組成物とした。
そして、粘度およびイオン伝導度を測定した。結果を表2に示す。
<多孔性薄膜材料の準備>
厚み210μmのガラス繊維フィルタ(ADVANTEC社製、GA-55)を直径20mmの円形に切り出し、多孔性薄膜材料とした。
<セパレータ材料の作製>
電解質組成物に多孔性薄膜材料を浸漬し、電解質組成物を多孔性薄膜材料に含浸させた。そして、電解質組成物が含浸した多孔性薄膜材料を引き上げ、余剰の電解質をこそぎ取ってセパレータ材料とした。
そして、着火試験を行った。結果を表2に示す。
【0074】
(実施例2~3)
多孔性薄膜材料の準備時に、ガラス繊維フィルタ(ADVANTEC社製、GA-55)のガラス繊維を表面からピンセットで慎重に剥がして厚みをそれぞれ100μm(実施例2)および50μm(実施例3)とした以外は実施例1と同様にして、電解質組成物の調製、多孔性薄膜材料の準備およびセパレータ材料の作製を行った。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0075】
(実施例4~7)
多孔性薄膜材料の準備時に、ガラス繊維フィルタ(ADVANTEC社製、GA-55)に替えて、それぞれ、厚み25μmのポリオレフィン(PO)微多孔膜(ポリポア製、セルガード2325)(実施例4)、厚み29μmのアルミナコートポリオレフィン(PO)微多孔膜(実施例5)、厚み100μmのPTFEメンブレンフィルター(メルク社製、オムニポアJMWP04700)(実施例7)、および、厚み35μmの紙(ニッポン高度紙工業製、TF4535)(実施例8)を用いた以外は実施例1と同様にして、電解質組成物の調製、多孔性薄膜材料の準備およびセパレータ材料の作製を行った。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表2に示す。
なお、実施例4のポリオレフィン(PO)微多孔膜(ポリポア製、セルガード2325)は、特開2000-103886号公報の実施例に従って親水化処理を行ってから用いた。また、実施例5のアルミナコートポリオレフィン(PO)微多孔膜としては、親水化処理を行った実施例4のポリオレフィン(PO)微多孔膜の両面に対し、特開2014-149935号公報に記載の方法に従って、端部3mmを除く部分に厚さ2μmのアルミナ粒子層を形成したものを用いた。
【0076】
(実施例8~11)
電解質組成物の調製時に、有機組成物として表2に示す化合物を表2に示す量で用いた以外は実施例1と同様にして、電解質組成物の調製、多孔性薄膜材料の準備およびセパレータ材料の作製を行った。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表2に示す。
なお、表中、「EO-PO共重合体」とは、重量平均分子量が100万のエチレンオキサイド(EO)-プロピレンオキサイド(PO)共重合体(EO:PO=90:10)を指す。
【0077】
(実施例12~15および17~18)
電解質組成物の調製時に、イオン性物質として10gのLiBF4に替えて30gのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を使用し、有機組成物として表2に示す化合物を表2に示す量で用いた以外は実施例1と同様にして、電解質組成物の調製、多孔性薄膜材料の準備およびセパレータ材料の作製を行った。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0078】
(実施例16)
電解質組成物の調製時に、イオン性物質として10gのLiBF4に替えて40gのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を使用し、有機組成物として表2に示す化合物を表2に示す量で用いた以外は実施例1と同様にして、電解質組成物の調製、多孔性薄膜材料の準備およびセパレータ材料の作製を行った。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0079】
(実施例19)
電解質組成物の調製時に、イオン性物質として10gのLiBF4に替えて30gのマグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Mg(TFSI)2)を使用し、有機組成物として表2に示す化合物を表2に示す量で用いた以外は実施例1と同様にして、電解質組成物の調製、多孔性薄膜材料の準備およびセパレータ材料の作製を行った。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0080】
(比較例1)
電解質組成物の調製時に、有機組成物として表2に示す化合物を表2に示す量で用いた以外は実施例1と同様にして、電解質組成物の調製、多孔性薄膜材料の準備およびセパレータ材料の作製を行った。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0081】
(比較例2)
多孔性薄膜材料の準備時に、ガラス繊維フィルタ(ADVANTEC社製、GA-55)に替えて、厚み25μmのポリオレフィン(PO)微多孔膜(ポリポア製、セルガード2325)を用いた以外は比較例1と同様にして、電解質組成物の調製、多孔性薄膜材料の準備およびセパレータ材料の作製を行った。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0082】
(比較例3)
多孔性薄膜材料の準備時に、ガラス繊維フィルタ(ADVANTEC社製、GA-55)に替えて、厚み675μmのガラス繊維フィルタ(GEヘルスケアライフサイエンス社製、Whatman(登録商標) GF/B)を用いた以外は実施例1と同様にして、電解質組成物の調製、多孔性薄膜材料の準備およびセパレータ材料の作製を行った。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0083】
(比較例4~5)
電解質組成物の調製時に、有機組成物として表2に示す化合物を表2に示す量で用いた以外はそれぞれ比較例1および比較例2と同様にして、電解質組成物の調製、多孔性薄膜材料の準備およびセパレータ材料の作製を行った。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0084】
【0085】
表2より、実施例1~19のセパレータ材料は、着火試験後の湿潤面積の割合が大きく、また、多孔性薄膜材料の穴空きも無いので、外部から着火した場合であっても、燃焼し難いことが分かる。また、表2より、比較例1,3,4のセパレータ材料は、着火試験後の湿潤面積の割合が小さく、電解質組成物が燃焼し易いことが分かる。更に、表2より、比較例2,5のセパレータ材料は、多孔性薄膜材料に穴空きがあり、多孔性薄膜材料が損傷し易いため、電気化学デバイスが内部ショートし易いことが分かる。
また、実施例1~19のセパレータ材料は、温度5℃の大気圧下において固体である化合物の割合が高く、外部への物質漏えいが起こり難かった。
【0086】
(実施例20)
実施例10で作製したセパレータ材料を介在させて、セパレータ材料と同じ電解質組成物を含浸させた正極合材層(正極活物質:リン酸鉄リチウム)を有する正極と、リチウム金属製の負極とを貼り合わせ、リチウムイオン二次電池を製造した。作製後、直ぐに電圧3.8~3.0V、電流値0.1Cの条件で繰り返し充放電を行ったところ、充放電が可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明によれば、内部または外部から着火した場合であっても、燃焼し難く、且つ、外部への物質漏えいが少ない非水系電気化学デバイスが得られる。