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  • 特許-積層体およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】積層体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/01 20060101AFI20241008BHJP
   C23C 18/42 20060101ALI20241008BHJP
   C23C 18/52 20060101ALI20241008BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
B32B15/01 E
C23C18/42
C23C18/52 B
C23C28/00 B
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021545174
(86)(22)【出願日】2020-08-11
(86)【国際出願番号】 JP2020030620
(87)【国際公開番号】W WO2021049235
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-07-24
(31)【優先権主張番号】P 2019167048
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古谷 章
(72)【発明者】
【氏名】小島 忠昭
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 広志
(72)【発明者】
【氏名】那賀 文彰
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-056978(JP,A)
【文献】特開2008-311316(JP,A)
【文献】再公表特許第2009/072544(JP,A1)
【文献】特開2001-234360(JP,A)
【文献】再公表特許第2014/010662(JP,A1)
【文献】特開平06-158384(JP,A)
【文献】米国特許第08273466(US,B1)
【文献】特開2010-037603(JP,A)
【文献】特開2010-077529(JP,A)
【文献】特開2013-127115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C32C 18/00-30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材と、
前記金属基材上に形成された第1のニッケル含有めっき被膜層と、
前記第1のニッケル含有めっき被膜層上に形成された金めっき被膜層と、
前記金めっき被膜層上に形成された第2のニッケル含有めっき被膜層と、
前記第2のニッケル含有めっき被膜層上に形成されたフッ化ニッケル被膜層とを有する積層体であって、
前記金めっき被膜層のピンホールがニッケル単体の金属によって封孔され、かつ、
前記第1および第2のニッケル含有めっき被膜層のピンホールが金単体の金属によって封孔されている、積層体
【請求項2】
前記金属基材が、ステンレス鋼、鉄、アルミニウム、アルミニウム合金、銅および銅合金からなる群より選ばれる少なくとも1つの金属を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記金属基材と前記第1のニッケル含有めっき被膜層の間、および、前記金めっき被膜層と前記第2のニッケル含有めっき被膜層の間に、ニッケルストライク層を有する、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記第1のニッケル含有めっき被膜層が、リン濃度が8質量%以上10質量%未満のニッケル-リン合金めっき層を含み、かつ、前記第2のニッケル含有めっき被膜層が、リン濃度が10質量%以上12質量%以下のニッケル-リン合金めっき層を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
前記金めっき被膜層が、置換型金めっき被膜層および還元型金めっき被膜層を、前記第1のニッケル含有めっき被膜層側からこの順で含む、請求項1~のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
前記フッ化ニッケル被膜層の厚みが70nm以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
金属基材上に第1のニッケル含有めっき被膜層を形成する工程(A)、
前記第1のニッケル含有めっき被膜層上に金めっき被膜層を形成する工程(B)、
前記金めっき被膜層上に第2のニッケル含有めっき被膜層を形成する工程(C)、および
前記第2のニッケル含有めっき被膜層上にフッ化ニッケル被膜層を形成する工程(D)を含む、積層体の製造方法であって、
前記工程(C)と前記工程(D)の間に、工程(C)で得られた積層体を温度250℃以上の条件で加熱処理することにより、前記金めっき被膜層のピンホールをニッケル単体の金属によって封孔し、かつ、前記第1および第2のニッケル含有めっき被膜層のピンホールを金単体の金属によって封孔する工程(X)を含む、積層体の製造方法
【請求項8】
前記工程(D)が、フッ素ガス濃度8体積%以上および温度250℃以上の雰囲気下で行われる、請求項に記載の積層体の製造方法。
【請求項9】
前記工程(A)の前および前記工程(C)の前に、金属基材に対し電流密度3~20A/dm2の条件でニッケルストライク処理を施す工程を含む、請求項7または8に記載の積層体の製造方法。
【請求項10】
前記工程(A)が、リン濃度が8質量%以上10質量%未満のニッケル-リン合金めっき層を形成させる工程を含み、かつ、
前記工程(C)が、リン濃度が10質量%以上12質量%以下のニッケル-リン合金めっき層を形成させる工程を含む、請求項7~9のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項11】
前記工程(B)が、置換型金めっき被膜層を形成させる工程(b1)と、該工程(b1)の後に、還元型金めっき被膜層を形成させる工程(b2)とを含む、請求項7~10のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項12】
請求項1~のいずれか1項に記載の積層体からなる、半導体製造装置の構成部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体およびその製造方法に関する。より具体的には、半導体製造装置等の構成部材として好適な積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造プロセスでは、ドライエッチング工程および製造装置のクリーニング等において、フッ素、塩化水素、三塩化ホウ素、三フッ化窒素、三フッ化塩素、臭化水素等のハロゲン系の反応性および腐食性の強い特殊ガス(以下「腐食性ガス」ともいう。)が使用されている。
【0003】
しかしながら、前記腐食性ガスが雰囲気下の水分と反応して加水分解すると、フッ化水素、シュウ酸、および塩化水素等の生成物が発生する。前記生成物は、前記腐食性ガスを使用する際のバルブ、継ぎ手、配管および反応チャンバー等の構成部材の金属表面を容易に腐食するため、問題となっている。
【0004】
これまで、耐食性の向上を図るために、金属基材にニッケル-リン合金めっきを施し、ニッケルのフッ化不働態膜を形成する方法が行われている(例えば、特許文献1~3を参照)が、これらの方法は十分ではない場合があった。
【0005】
さらに、めっき表面のピンホールも腐食を進ませる原因となり得る。ピンホールの発生要因は、例えば、めっき反応により発生した水素ガスが、めっき被膜の形成時に泡となり成膜を阻害する、または、基材に残された不純物(酸化膜、汚れ、油分等)が前処理工程で除去されず成膜を阻害する等、複数の原因が考えられる。これに対して、特許文献4には、金めっき上に硬質の合金めっき層が形成され、耐摩耗性の向上及びガスや水分に起因する酸化、硫化等による変色や腐食が防止できる手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第2954716号公報
【文献】特許第3094000号公報
【文献】特開2004-360066号公報
【文献】特許第2581021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らの検討によれば、特許文献1~3のように、ニッケル-リン合金めっき表面にニッケルのフッ化不働態膜を形成する方法では、ニッケル-リン合金めっきのピンホールを起点とした腐食が発生し、塩酸耐食性について不十分な場合があることが分かった。また、特許文献4の方法では、最表面層が合金めっきであるため、著しい耐食性向上は見込めないという課題があった。
【0008】
そこで本発明の課題は、半導体製造装置の構成部材に適用可能であり、耐食性、特に酸に対する耐食性に優れた金属材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、例えば以下の[1]~[14]に関する。
[1]金属基材と、前記金属基材上に形成された第1のニッケル含有めっき被膜層と、前記第1のニッケル含有めっき被膜層上に形成された金めっき被膜層と、前記金めっき被膜層上に形成された第2のニッケル含有めっき被膜層と、前記第2のニッケル含有めっき被膜層上に形成されたフッ化ニッケル被膜層とを有する積層体。
【0010】
[2]前記金めっき被膜層のピンホールがニッケル単体の金属によって封孔され、かつ、前記第1および第2のニッケル含有めっき被膜層のピンホールが金単体の金属によって封孔されている、前記[1]に記載の積層体。
[3]前記金属基材が、ステンレス鋼、鉄、アルミニウム、アルミニウム合金、銅および銅合金からなる群より選ばれる少なくとも1つの金属を含む、前記[1]または[2]に記載の積層体。
【0011】
[4]前記金属基材と前記第1のニッケル含有めっき被膜層の間、および、前記金めっき被膜層と前記第2のニッケル含有めっき被膜層の間に、ニッケルストライク層を有する、前記[1]~[3]のいずれかに記載の積層体。
[5]前記第1のニッケル含有めっき被膜層が、リン濃度が8質量%以上10質量%未満のニッケル-リン合金めっき層を含み、かつ、前記第2のニッケル含有めっき被膜層が、リン濃度が10質量%以上12質量%以下のニッケル-リン合金めっき層を含む、前記[1]~[4]のいずれかに記載の積層体。
【0012】
[6]前記金めっき被膜層が、置換型金めっき被膜層および還元型金めっき被膜層を、前記第1のニッケル含有めっき被膜層側からこの順で含む、前記[1]~[5]のいずれかに記載の積層体。
[7]前記フッ化ニッケル被膜層の厚みが70nm以上である、前記[1]~[6]のいずれかに記載の積層体。
【0013】
[8]金属基材上に第1のニッケル含有めっき被膜層を形成する工程(A)、前記第1のニッケル含有めっき被膜層上に金めっき被膜層を形成する工程(B)、前記金めっき被膜層上に第2のニッケル含有めっき被膜層を形成する工程(C)、および前記第2のニッケル含有めっき被膜層上にフッ化ニッケル被膜層を形成する工程(D)を含む、積層体の製造方法。
【0014】
[9]前記工程(C)と前記工程(D)の間に、工程(C)で得られた積層体を温度250℃以上の条件で加熱処理することにより、前記金めっき被膜層のピンホールをニッケル単体の金属によって封孔し、かつ、前記第1および第2のニッケル含有めっき被膜層のピンホールを金単体の金属によって封孔する工程(X)を含む、前記[8]に記載の積層体の製造方法。
【0015】
[10]前記工程(D)が、フッ素ガス濃度8体積%以上および温度250℃以上の雰囲気下で行われる、前記[8]または[9]に記載の積層体の製造方法。
[11]前記工程(A)の前および前記工程(C)の前に、金属基材に対し電流密度3~20A/dm2の条件でニッケルストライク処理を施す工程を含む、前記[8]~[10]のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【0016】
[12]前記工程(A)が、リン濃度が8質量%以上10質量%未満のニッケル-リン合金めっき層を形成させる工程を含み、かつ、前記工程(C)が、リン濃度が10質量%以上12質量%以下のニッケル-リン合金めっき層を形成させる工程を含む、前記[8]~[11]のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【0017】
[13]前記工程(B)が、置換型金めっき被膜層を形成させる工程(b1)と、該工程(b1)の後に、還元型金めっき被膜層を形成させる工程(b2)とを含む、前記[8]~[12]のいずれかに記載の積層体の製造方法。
[14]前記[1]~[7]のいずれかに記載の積層体からなる、半導体製造装置の構成部材。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、耐食性、特に酸に対する耐食性に優れた積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】封孔処理前後の積層体を示す概略図である((a):封孔処理前、(b):封孔処理後)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について具体的に説明する。
本発明の一実施形態の積層体は、金属基材と、前記金属基材上に形成された第1のニッケル含有めっき被膜層と、前記第1のニッケル含有めっき被膜層上に形成された金めっき被膜層と、前記金めっき被膜層上に形成された第2のニッケル含有めっき被膜層と、前記第2のニッケル含有めっき被膜層上に形成されたフッ化ニッケル被膜層とを有する。
【0021】
また、本発明の一実施形態の積層体は、前記金めっき被膜層のピンホールがニッケル単体の金属によって封孔され、かつ、前記第1および第2のニッケル含有めっき被膜層のピンホールが金単体の金属によって封孔されていることが好ましい。
【0022】
本発明の一実施形態の積層体の製造方法は、金属基材上に第1のニッケル含有めっき被膜層を形成する工程(A)、前記第1のニッケル含有めっき被膜層上に金めっき被膜層を形成する工程(B)、前記金めっき被膜層上に第2のニッケル含有めっき被膜層を形成する工程(C)、および前記第2のニッケル含有めっき被膜層上にフッ化ニッケル被膜層を形成する工程(D)を含む。
【0023】
また、本発明の一実施形態の積層体の製造方法は、前記工程(C)と前記工程(D)の間に、工程(C)で得られた積層体を温度250℃以上および2時間以上の条件で加熱処理することにより、前記金めっき被膜層のピンホールをニッケル単体の金属によって封孔し、かつ、前記第1および第2のニッケル含有めっき被膜層のピンホールを金単体の金属によって封孔する工程(X)を含むことが好ましい。
【0024】
[金属基材]
本発明の一実施形態に用いられる金属基材は、少なくとも表面が金属からなる基材である。前記金属基材としては、特に限定されず、半導体製造装置の構成部材に一般的に用いられる金属が挙げられ、好ましくはステンレス鋼、鉄、アルミニウム、アルミニウム合金、銅および銅合金である。
【0025】
前記金属基材は、ニッケル含有めっき被膜層との密着性を強固にするために、工程(A)の前処理として、脱脂、酸洗浄またはニッケルストライク処理等の基材に応じた処理を施してもよい。ニッケルストライク処理は、ニッケル含有めっき浴を使った予備的めっき処理であり、ニッケルストライク処理における電流密度は、好ましくは3~20A/dm2、より好ましくは6~10A/dm2である。また、ニッケルストライク処理の時間は、1分以上5分以下が好ましい。
【0026】
[第1のニッケル含有めっき被膜層]
第1のニッケル含有めっき被膜層は、工程(A)により前記金属基材上に形成される。なお、前記金属基材にニッケルストライク処理を施した場合、金属基材と第1のニッケルめっき被膜層の間にニッケルストライク層を有する。
【0027】
ニッケル含有めっき被膜層は、耐食性向上の観点から、リンを含有することが好ましく、リン濃度が8質量%以上10質量%未満のニッケル-リン合金めっき層を含むことが好ましい。
【0028】
第1のニッケル含有めっき被膜層中のニッケル含有量は、ニッケル含有めっき被膜層全体を100質量%とした場合、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85~95質量%、特に好ましくは90~92質量%である。ニッケル含有量が前記範囲であることにより、被膜層中のリンの比率が増え、優れた耐食性が発揮できる。
【0029】
<工程(A)>
前記第1のニッケル含有めっき被膜層は、ニッケル塩と、還元剤としてリン化合物とを含む無電解メッキ浴を用いて金属基材上に形成することができる。ニッケル塩としては、例えば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、炭酸ニッケルなどが挙げられる。リン化合物としては、例えば、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウムなどが挙げられる。
【0030】
前記第1のニッケル-リン合金めっき層の成膜速度は、好ましくは20~30μm/h(時間)、より好ましくは22~25μm/h(時間)である。第1のニッケル-リン含有めっき被膜層の膜厚は、5μm以上が好ましく、7~25μmがより好ましく、ピンホールが発生しにくい被膜性能およびコストの観点から9~20μmがさらに好ましい。
【0031】
[金めっき被膜層]
金めっき被膜層は、工程(B)により前記ニッケル含有めっき被膜層上に形成される。
金めっき被膜中の金含有量は、金めっき被膜全体層全体を100質量%とした場合、好ましくは90質量%以上、より好ましくは99質量%以上、特に好ましくは99.9質量%以上である。金含有量が前記範囲であることにより、本願発明の積層体の耐食性が安定する。金含有量は、不純物定量法で求められる、すなわち、金めっきを王水で溶解し、原子吸光分析および高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析で測定される。
【0032】
金めっき被膜の厚みは、ピンホールが発生しにくい被膜性能およびコストの観点から、好ましくは0.1μm~2μmであり、より好ましくは0.2~1.5μmが好ましく、特に好ましくは0.3~0.8μmである。貴金属めっき被膜を厚くするとピンホールが減少していくことは、従来技術から公知であり、高い耐食性が期待されるが、価格が高額になるため適切な厚さとすることが好ましい。
【0033】
<工程(B)>
前記金めっき被膜層の形成方法としては、特に限定されないが、無電解金めっき法が好ましい。無電解金めっき法では、置換型金めっきを行った後、還元型金めっきを行うことが好ましい。すなわち、前記工程(B)は、置換型金めっき被膜層を形成させる工程(b1)と、該工程(b1)の後に、還元型金めっき被膜層を形成させる工程(b2)とを含むことが好ましい。
【0034】
置換型金めっきでは、ニッケル被膜からニッケルが溶解し、その際に放出される電子によって溶液中の金イオンが還元され金めっき被膜として析出する。還元型金めっきでは、溶液中の金イオンが還元剤の酸化反応で放出される電子によって還元され、金めっき被膜が析出する。
【0035】
無電解金めっき液としては、例えば、シアン化金カリウム、塩化金、亜硫酸金、チオ硫酸金などを含んだめっき浴などが挙げられ、還元剤としては例えば、水酸化ナトリウム、ジメチルアミンボラン、ヘキサメチレンテトラミン、炭素数3個以上のアルキル基と複数アミノ基を有する鎖状ポリアミンなどが挙げられる。
【0036】
置換金めっきを、好ましくは50~90℃で3~7分、より好ましくは65~75℃で3~7分、還元型金めっきを、好ましくは55~65℃で7~15分、より好ましくは58~62℃で7~15分実施することで金めっき被膜層を形成することができる。
【0037】
[第2のニッケル含有めっき被膜層]
第2のニッケル含有めっき被膜層は、工程(C)により前記金めっき被膜層上に形成される。なお、前記金めっき被膜層にニッケルストライク処理を施した場合、金めっき被膜層と第2のニッケルめっき被膜層の間にニッケルストライク層を有する。
【0038】
ニッケル含有めっき被膜層は、耐食性向上の観点から、リンを含有することが好ましく、リン濃度が10質量%以上12質量%以下のニッケル-リン合金めっき層を含むことが好ましい。
【0039】
第2のニッケル含有めっき被膜層中のニッケル含有量は、ニッケル含有めっき被膜層全体を100質量%とした場合、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85~95質量%、特に好ましくは90~92質量%である。ニッケル含有量が前記範囲であることにより、被膜層中のリンの比率が増え、優れた耐食性が発揮できる。また、リン濃度を変えた無電解ニッケル-リン合金めっき被膜を積層させると、ピンホール欠陥が異なる位置に形成されながら成膜するため、外乱が直接的に基材へと到着しにくくなり、耐食性向上が期待できる。
【0040】
<工程(C)>
前記第2のニッケル含有めっき被膜層は、ニッケル塩と、還元剤としてリン化合物とを含む無電解メッキ浴を用いて金属基材上に形成することができる。ニッケル塩としては、例えば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、炭酸ニッケルなどが挙げられる。リン化合物としては、例えば、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウムなどが挙げられる。
【0041】
前記第2のニッケル-リン合金めっき層の成膜速度は、好ましくは10~15μm/h(時間)、より好ましくは11~13μm/h(時間)である。第2のニッケル-リン合金めっき被膜層の膜厚は、それぞれ5μm以上が好ましく、7~25μmがより好ましく、ピンホールが発生しにくい被膜性能およびコストの観点から10~20μmがさらに好ましい。
【0042】
[封孔処理]
封孔処理は、前記金めっき被膜層のピンホールをニッケル単体の金属によって封孔し、前記第1および第2のニッケル含有めっき被膜層のピンホールを金単体の金属によって封孔することにより行われる。
【0043】
<工程(X)>
工程(X)では、前記工程(C)と後述する工程(D)の間に、工程(C)で得られた積層体を加熱処理することにより、金属が熱拡散して、前記金めっき被膜層のピンホールをニッケル単体の金属によって封孔し、かつ、前記第1および第2のニッケル含有めっき被膜層のピンホールを金単体の金属によって封孔処理する。金およびニッケル単体の存在はエネルギー分散型X線分析(EDS)によって確認できる。
加熱条件は、好ましくは、250℃以上で2時間以上、より好ましくは300~350℃で2~6時間である。
【0044】
[フッ化ニッケル被膜層]
フッ化ニッケル被膜層は前記第2のニッケル含有めっき被膜層上に形成される。フッ化ニッケル被膜層は不働態被膜である。前記第2のニッケル含有めっき被膜層表面を工程(D)にてフッ化処理することにより、前記ニッケル含有めっき被膜層上に不働態被膜としてフッ化ニッケル被膜層が形成される。
【0045】
フッ化ニッケル被膜層の厚みは、好ましくは70nm以上、より好ましくは80~200nm、さらに好ましくは100~150nmである。フッ化ニッケル被膜層の厚さが前記範囲であることにより、金めっき被膜層と第2のニッケル含有めっき被膜層との密着性が向上する。
【0046】
<工程(D)>
工程(D)では、前記工程(A)~(C)および必要に応じて前記工程(X)を経て、前記ニッケル含有めっき被膜層表面をフッ素ガスにてフッ化することでフッ化ニッケル被膜層を形成する。
【0047】
工程(D)は、フッ素ガス濃度が、好ましくは8体積%以上、より好ましくは10体積%以上の雰囲気下で行われる。成膜温度は好ましくは、250℃以上、より好ましくは300℃以上である。また、フッ化処理時間は2時間以上が好ましい。フッ素ガスに同伴されるガスとしては、窒素ガスなどの不活性ガスが挙げられる。本発明の一実施形態では、上記反応条件により厚膜のフッ化ニッケルからなるフッ化不働態膜が得られるが、部材の使用目的によって、ニッケル合金めっき皮膜の厚み、反応温度、反応時間を調節することにより、フッ化ニッケル被膜の膜厚を任意に調整できる。なお、上記反応温度は反応炉内のガス雰囲気を熱伝対で測定した温度を意味する。
【実施例
【0048】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。積層体の各層(フッ化ニッケル被膜層を除く)の膜厚は、重量の増加分と層面積と既知の密度とから算出した。フッ化ニッケル被膜層の膜厚は、X線光電子分光法(XPS)により後述する方法にて算出した。
【0049】
[実施例1]
<工程(A)>
ステンレス鋼(SUS316L)の表面に、前処理として、脱脂、酸洗浄およびニッケルストライク処理を施した。該ニッケルストライク処理を施したステンレス鋼の表面に、無電解ニッケル-リンめっき薬剤「ニムデン(商標)NSX」(上村工業(株)製)を使用して、めっき温度90℃、pH4.5~4.8の条件下、めっき時間25分で、成膜時のリン含有量が8質量%以上10質量%未満である第1のニッケル含有めっき被膜層(膜厚:10μm)を形成した。
【0050】
<工程(B)>
2種類の無電解金めっき液「フラッシュゴールドNC(置換型)」および「セルフゴールドOTK-IT(還元型)」(いずれも奥野製薬工業(株)製)をこの順で使用して、工程(A)で形成した第1のニッケル含有めっき被膜層上に、それぞれ置換型めっき温度70℃で5分および還元型めっき温度60℃で10分の処理をこの順で行い、合計0.6μm厚の金めっき被膜層を形成した。
【0051】
<工程(C)>
工程(B)で形成した金めっき被膜層の表面に、工程(A)と同様にしてニッケルストライク処理を施した。該ニッケルストライク処理を施した金めっき被膜層の表面に、無電解ニッケル-リンめっき薬剤「ニムデン(商標)HDX」(上村工業(株)製)を使用して、めっき時間50分で、成膜時のリン含有量が10質量%以上12質量%以下である第2のニッケル含有めっき被膜層(膜厚:10μm)を形成した。
【0052】
<工程(X)>
工程(A)、工程(B)および工程(C)で形成した第1のニッケル含有めっき被膜層、金めっき被膜層および第2のニッケル含有めっき被膜層を有するステンレス鋼を常圧気相流通式反応炉の内部に装着し、炉内温度を300℃まで昇温させ、その状態を2時間保持した。
【0053】
加熱後、該ステンレス鋼をエネルギー分散型X線分析(EDS)で分析したところ、第1および第2のニッケル含有めっき被膜層のピンホールは金単体の金属で封孔され、金めっき被膜層のピンホールはニッケル単体の金属で封孔されたことを確認した。
【0054】
<工程(D)>
工程(X)の後、前記常圧気相流通式反応炉内部の大気を窒素ガスで置換し、続いて100体積%酸素ガスを導入して窒素ガスを酸素ガスに完全置換し、その状態を12時間保持した。次いで、酸素ガスを窒素ガスに置換した後、10体積%フッ素ガス(残り90体積%は窒素ガス)を導入して、その状態を12時間保持してフッ化ニッケル被膜層を形成させた。さらに、窒素ガスを12時間流通させ成膜安定化した。得られた最表面層がフッ化ニッケル被膜であるステンレス鋼について、X線光電子分光法(XPS)により検出したFおよびNi量比からフッ化ニッケルの存在を確認した。FおよびNiのスパッタリングタイムおよび既知のスパッタレート2.4nm/min(SiO2換算)から、フッ化ニッケル被膜の厚みを求めたところ、103nmであった。
【0055】
[実施例2]
実施例1と同様に工程(A)を実施した後、実施例1の工程(B)において金の還元めっき処理を20分に変更した以外は実施例1と同様の方法で、1.2μm厚の金めっき被膜層を形成させた。その後、実施例1と同様に、工程(C)、工程(X)および工程(D)を実施した。実施例1と同様にフッ化ニッケル被膜の厚みを求めたところ、103nmであった。
【0056】
[実施例3]
実施例1においてステンレス鋼(SUS316L)の代わりにアルミニウム合金(A5052)を用いて、前処理として、脱脂、活性化処理、酸洗浄および亜鉛置換処理を施した。その後、実施例1と同様の方法で工程(A)、工程(B)、工程(C)、工程(X)および工程(D)を実施した。実施例1と同様にフッ化ニッケル被膜の厚みを求めたところ、103nmであった。なお、前記活性化処理は、処理剤として酸性フッ化アンモニウムと硝酸の混酸を用い、室温で30秒間行った。前記酸洗浄は、洗浄剤として硝酸を用い、室温で25秒間行った。前記亜鉛置換処理は、処理剤としてジンケート浴を用い、室温で25秒間行った。また、前記酸洗浄および前記亜鉛置換処理は、上記条件でそれぞれ2回ずつ行った。
【0057】
[比較例1]
ステンレス鋼(SUS316L)の表面に、前処理として、脱脂、酸洗浄およびニッケルストライク処理を施した。該ニッケルストライク処理を施したステンレス鋼の表面に、無電解ニッケル-リンめっき薬剤「ニムデン(商標)NSX」(上村工業(株)製)を使用して、めっき温度90℃、pH4.5~4.8の条件下、成膜速度10μm/25分で、成膜時のリン含有量が8質量%以上10質量%未満である第1のニッケル含有めっき被膜層を形成した。次いで、無電解ニッケル-リンめっき薬剤「ニムデン(商標)HDX」(上村工業(株)製)を使用して、成膜速度10μm/50分で、成膜時のリン含有量が10質量%以上12質量%以下の第2のニッケル含有めっき被膜層を形成した。これにより、ニッケルストライク処理を施したステンレス鋼上に、合計20μm厚のニッケル含有めっき被膜層を形成させた。その後、実施例1と同様の方法で工程(D)を実施して、ニッケルストライク処理を施したステンレス鋼の表面にニッケル含有めっき被膜層およびフッ化ニッケル被膜層を形成した。
【0058】
[比較例2]
比較例1において、金属基材をステンレス鋼(SUS316L)からアルミニウム合金(A5052)を用いて、前処理として、脱脂、活性化処理、酸洗浄および亜鉛置換処理を施した後、比較例1と同様に無電解ニッケル-リン合金めっき被膜層およびフッ化ニッケル被膜層を形成した。
【0059】
[比較例3]
実施例1において工程(A)、工程(B)および工程(C)のみを実施し、つまり工程(X)および工程(D)は実施せず、ステンレス鋼上に第1のニッケル含有めっき被膜層、金めっき被膜層および第2のニッケル含有めっき被膜層を形成した。
【0060】
[評価]
上記実施例1~3および比較例1~3で得られた金属基材表面上の被膜について、塩酸耐食試験を行った。評価結果を表1に示す。
【0061】
<塩酸耐食試験>
縦15mm×横15mm×厚さ1mmの試験片を35質量%塩酸溶液に25℃で5時間浸漬させた。浸漬前後の質量減少量[mg/dm2]に基づいて下記基準で塩酸耐食性を評価した。
(評価基準)
A:0.1mg/dm2未満
B:0.1mg/dm2以上3.0mg/dm2未満
C:3.0mg/dm2以上10.0mg/dm2未満
D:10.0mg/dm2以上
【0062】
【表1】
【0063】
表1中、SUSはステンレス鋼(SUS316L)、Alはアルミニウム合金(A5052)を示す。
【符号の説明】
【0064】
1・・・金属基材
2・・・第1のニッケル含有めっき被膜層
3・・・金めっき被膜層
4・・・第2のニッケル含有めっき被膜層
5・・・フッ化ニッケル被膜層
6・・・ピンホール
7・・・ピンホールが封孔処理された箇所
図1