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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】断線検知方法および断線検知装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/54 20200101AFI20241008BHJP
   G01R 31/58 20200101ALI20241008BHJP
【FI】
G01R31/54
G01R31/58
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022025897
(22)【出願日】2022-02-22
(65)【公開番号】P2023122281
(43)【公開日】2023-09-01
【審査請求日】2024-04-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 文乃
(72)【発明者】
【氏名】深作 泉
(72)【発明者】
【氏名】今井 規之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 高宏
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-162570(JP,A)
【文献】特開2010-176961(JP,A)
【文献】特開2019-061957(JP,A)
【文献】特開平01-254876(JP,A)
【文献】特開2002-014130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/54
G01R 31/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の素線を撚り合わせた撚線導体からなる導体を有するケーブルの前記素線の断線を検知する方法であって、
前記ケーブルを周方向に周期的に捻回させる捻回動作を行い、
前記捻回動作により時系列的に変化する前記導体の抵抗値を測定し、
測定した前記時系列的に変化する前記導体の抵抗値を周波数解析し、
前記周波数解析の解析結果から、前記捻回動作の動作周期に相当する動作周波数を基準とする高次周波数のうち、予め設定した周波数範囲に含まれる所定の高次周波数の抵抗値変動成分を抽出し、
抽出した前記高次周波数の抵抗値変動成分の大きさに基づいて、前記捻回動作によって前記導体に加わる捻回の方向が変わるときの抵抗値の減少を検知することにより、前記素線の断線を検知する、
断線検知方法。
【請求項2】
前記予め設定した周波数範囲は、前記捻回動作により前記導体に付与されるひずみに起因して抵抗値変動が生じる周波数よりも大きい周波数範囲に設定される、
請求項1に記載の断線検知方法。
【請求項3】
前記予め設定した周波数範囲は、前記動作周波数の10倍以上の周波数範囲に設定される、
請求項1または2に記載の断線検知方法。
【請求項4】
複数の素線を撚り合わせた撚線導体からなる導体を有するケーブルの前記素線の断線を検知する装置であって、
前記ケーブルを周方向に周期的に捻回させる捻回動作を行う捻回動作機構と、
前記捻回動作により時系列的に変化する前記導体の抵抗値を測定する抵抗測定器と、
前記抵抗測定器で測定した前記時系列的に変化する前記導体の抵抗値を周波数解析する周波数解析部と、
前記周波数解析の解析結果から、前記捻回動作の動作周期に相当する動作周波数を基準とする高次周波数のうち、予め設定した周波数範囲に含まれる所定の高次周波数の抵抗値変動成分を抽出する抽出部と、
前記抽出部が抽出した前記高次周波数の抵抗値変動成分の大きさに基づいて、前記捻回動作によって前記導体に加わる捻回の方向が変わるときの抵抗値の減少を検知することにより、前記素線の断線を検知する断線検知部と、を備えた、
断線検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捻回されるケーブルにおいて導体の断線を検知する断線検知方法および断線検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数の素線を撚り合わせた撚線導体からなる導体を有するワイヤケーブルを対象として、屈曲に起因した導体の断線の予兆を検知する方法が示される。具体的には、当該方法では、ワイヤケーブルを、電流を流した状態で一方向に向けて周期的に屈曲伸長させ、この屈曲周期に同期して変化する電流成分を検知している。すなわち、当該方法では、一部の断線箇所が屈曲周期に同期して接触と分離とを繰り返している状態が検知される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-139488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
捻回されるケーブルの導体における断線の発生は、一般的に、ケーブル内の導体の電気抵抗を測定することで検知されている。導体に含まれる素線の一部に断線が発生すると、導体の抵抗値が増大するため、例えば、断線が発生していない初期状態における導体の抵抗値をあらかじめ測定しておくことで、抵抗値の初期状態からの抵抗値の増加率に基づいて断線の発生を検知することができる。
【0005】
しかしながら、導体に含まれる素線の極一部で断線が発生した場合、すなわち素線の断線本数が少ない場合には、抵抗値の増加率は極めて微小となる。このため、実用上、導体における素線の断線本数の割合が少なくとも50%以上といったレベルに達しない限り、抵抗値の増加率に基づく明確な断線検知は困難となり得る。その結果、断線が発生した直後となる初期の段階で断線を検知することは容易でなく、断線の発生を高感度で検知できないおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、導体に断線が発生したことを高感度で検知可能な断線検知方法および断線検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、複数の素線を撚り合わせた撚線導体からなる導体を有するケーブルの前記素線の断線を検知する方法であって、前記ケーブルを周方向に周期的に捻回させる捻回動作を行い、前記捻回動作により時系列的に変化する前記導体の抵抗値を測定し、測定した前記時系列的に変化する前記導体の抵抗値を周波数解析し、前記周波数解析の解析結果から、前記捻回動作の動作周期に相当する動作周波数を基準とする高次周波数のうち、予め設定した周波数範囲に含まれる所定の高次周波数の抵抗値変動成分を抽出し、抽出した前記高次周波数の抵抗値変動成分の大きさに基づいて、前記素線の断線を検知する、断線検知方法を提供する。
【0008】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、複数の素線を撚り合わせた撚線導体からなる導体を有するケーブルの前記素線の断線を検知する装置であって、前記ケーブルを周方向に周期的に捻回させる捻回動作を行う捻回動作機構と、前記捻回動作により時系列的に変化する前記導体の抵抗値を測定する抵抗測定器と、前記抵抗測定器で測定した前記時系列的に変化する前記導体の抵抗値を周波数解析する周波数解析部と、前記周波数解析の解析結果から、前記捻回動作の動作周期に相当する動作周波数を基準とする高次周波数のうち、予め設定した周波数範囲に含まれる所定の高次周波数の抵抗値変動成分を抽出する抽出部と、前記抽出部が抽出した前記高次周波数の抵抗値変動成分の大きさに基づいて、前記素線の断線を検知する断線検知部と、を備えた、断線検知装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、導体に断線が発生したことを高感度で検知可能な断線検知方法および断線検知装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施の形態に係る断線検知装置を示す概略図である。
図2】断線検知の対象となるケーブルの概略的な構成例を示す断面図である。
図3】導体の素線に断線が発生していない場合において、導体に捻回を加えた際の抵抗値の変化について説明する図である。
図4】導体の素線に断線が発生している場合において、導体に捻回を加えた際の抵抗値の変化について説明する図である。
図5】(a),(b)は、抵抗測定器の概略的な構成例を示す図である。
図6】(a),(b)は、周波数解析部により得られる周波数解析データの一例を示す図である。
図7】断線検知方法の手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0012】
(断線検知装置1の概略構成)
図1は、本実施の形態に係る断線検知装置1を示す概略図である。図2は、断線検知の対象となるケーブル10の概略的な構成例を示す断面図である。
【0013】
図2に示すケーブル10は、5本の電線11と糸状の介在12とを撚り合わせたケーブルコア13の周囲に押さえ巻きテープ14をらせん状に巻きつけ、押さえ巻きテープ14の周囲を覆うようにシース15を設けて構成されている。各電線11は、複数の素線を撚り合わせた撚線導体からなる導体11aと、導体11aの周囲を覆うように設けられた絶縁体11bと、をそれぞれ有している。導体11aは、例えば、外径0.08mmの軟銅線からなる素線を19本集合撚りして構成されている。絶縁体11bは、例えば、ETFE(テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体)等のフッ素樹脂からなる。介在12は、例えばジュートやスフからなる。なお、ケーブル10に使用する電線11の本数は5本に限定されない。押さえ巻きテープ14は、例えば、不織布や紙、樹脂等からなるテープ部材からなる。シース15は、例えばPE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PVC(ポリ塩化ビニル)等からなる。なお、ケーブル10は、図示の構成に限らず、少なくとも撚線導体からなる導体11aを含んでいれば様々な構成であってよい。すなわち、電線11は、1本でもよいし、数本でもよいし、数十本以上でもよい。なお、電線11が1本の場合は、介在12、押さえ巻きテープ14、及びシース15を無くす場合が多い。この場合、ケーブル10と電線11は、同じものを示す。
【0014】
図1に示すように、断線検知装置1は、複数の素線を撚り合わせた撚線導体からなる導体11aを有するケーブル10の素線の断線を検知する装置であり、捻回動作機構2と、抵抗測定器3と、演算装置4と、を備えている。
【0015】
捻回動作機構2は、ケーブル10をその周方向(図2に示すケーブル10の外周に沿った方向)に周期的に捻回させる捻回動作を行う機構である。本実施の形態では、ケーブル10が産業用ロボット2aに搭載されており、このケーブル10が搭載された産業用ロボット2aを、捻回動作機構2を有する捻回動作装置として用いた。ただし、これに限らず、捻回動作機構2は、ケーブル10を周期的に捻回可能な機構であればよく、例えば捻回試験を行うための捻回試験装置により実現してもよい。また、捻回動作機構2は、捻回動作のみを行う機構に限らず、周期的に屈曲させる屈曲動作を捻回動作とともに行う機構であってもよい。
【0016】
捻回動作機構2を有する産業用ロボット2aには、産業用ロボット2aの動作を制御するためのロボット制御装置2bが設けられている。ロボット制御装置2bには、ケーブル10内での導体11aの断線を検知するための試験を行うべく、捻回動作機構2に対して試験用の動作制御(以下、試験動作制御という)を行わせる試験動作制御部2cが搭載されている。本実施の形態では、試験動作制御部2cは、導体11aの断線を検知する試験の際に、産業用ロボット2aの捻回動作機構2、すなわち検査対象となる可動部(例えば産業ロボット2aの関節部などの検査対象箇所)において周期的に捻回させる試験動作制御を行うことで、ケーブル10に周期的な捻回動作を付与する。なお、導体11aの断線を検知する試験は、例えば、産業用ロボット2aの定期検査の際に行ってもよいし、例えば、産業用ロボット2aの稼働開始時に毎回行われてもよい。また、試験動作制御部2cは、例えば産業用ロボット2aの起動時、あるいは工場の始業時など、決まった時間に試験動作制御を行い、導体11aの断線を検知する試験を行うように構成されていてもよい。
【0017】
抵抗測定器3は、捻回動作により時系列的に変化する導体11aの抵抗値を測定する。本実施の形態では、抵抗測定器3は、試験動作制御部2cによる試験動作制御の開始から終了までの導体11aの抵抗値を経時的に測定する。抵抗測定器3で測定した時系列的に変化する導体11aの抵抗値のデータ(=抵抗値データ50)は、演算装置4に入力され、記憶部42に記憶される。
【0018】
本実施の形態では、抵抗測定器3は、産業用ロボット2aのロボット制御装置2bに搭載されている。ただし、これに限らず、抵抗測定器3は、ロボット制御装置2bと別体に構成されていてもよく、また、その機能の一部が演算装置4に搭載されていてもよい。抵抗測定器3の詳細については後述する。
【0019】
演算装置4は、制御部41と、記憶部42と、を有している。これら制御部41や記憶部42の詳細については後述する。演算装置4には、表示器43が接続されており、抵抗値データ50や断線検知の結果など各種のデータを表示器43に表示可能に構成されている。また、図示していないが、演算装置4にはキーボード等の入力装置が設けられており、入力装置の入力により各種設定や表示器43の表示内容の操作が行えるようになっている。なお、表示器43をタッチパネルディスプレイで構成して、表示器43が入力装置を兼ねるように構成してもよい。さらに、表示器43は、演算装置4と有線接続されていなくてもよく、無線により接続されていてもよい。この場合、表示器43は、例えばスマートフォンやタブレットのディスプレイであってもよい。
【0020】
(断線検知の原理)
まず、導体11aの素線に断線が発生していない場合において、導体11aに捻回を加えた際の抵抗値の変化(すなわち、捻回のひずみによる導体11aの抵抗値の変化)について説明する。図3に示すように、周方向に捻回を加えていない基本状態Cから、導体11aの撚りが締まる方向(ここでは正方向とする)に所定角度(例えば+180度)捻回させて第1状態Aとする。その後、反対方向(導体11aの撚りがほぐれる方向、ここでは負方向とする)に所定角度捻回させて基本状態Cに戻し、さらに負方向に所定角度(例えば-180度)捻回して第2状態Bとする。その後、正方向に所定角度捻回して基本状態Cに戻す。このように、基本状態Cから、第1状態A、基本状態C、第2状態B、基本状態Cとなるように導体11aを周方向に捻回させることで、1回(1周期)の捻回動作とする。ここでは、1回の捻回動作にかかる時間、すなわち動作周期を1秒とし、1回の捻回動作を行うときの周波数である動作周波数は1.0Hzとしている。
【0021】
導体11aは複数本の素線111を撚り合わせて構成されているため、導体11aの撚りが締まる正方向に捻回する(すなわち基本状態Cから第1状態Aに遷移させる)と、各素線111のひずみが増大し、各素線111が引き延ばされて断面積が小さくなるため、導体11aの抵抗値が増大する。そして、第1状態Aから捻じれのない基本状態Cに戻すと、各素線111のひずみが減少すると共に、引き延ばされていた各素線111の断面積が復元して導体11aの抵抗値が減少する。次に、導体11aの撚りがほぐれる負方向に捻回する(すなわち基本状態Cから第2状態Bに遷移させる)と、撚りがほぐれて各素線111が外側に拡がろうとする。しかし、導体11aの外周には絶縁体11bが形成されているために、外側に拡がろうとする各素線111が絶縁体11bに押さえ付けられた状態となり、各素線111のひずみが増大して導体11aの抵抗値が増大する。そして、第2状態Bから捻じれのない基本状態Cに戻すと、各素線111のひずみが減少して抵抗値が減少する。
【0022】
このように、導体11aに捻回動作を付与すると、1回の動作周期において、2度の抵抗値の増大が生じる。換言すれば、導体11aに捻回動作を付与すると、主として、動作周波数の2倍の周波数の抵抗値変動成分が大きくなる。なお、図3では図の簡略化のため導体11aの素線111を5本のみ示しているが、実際に導体11aを構成する素線111の本数は5本よりも多い。
【0023】
次に、素線111に断線が発生した場合において、導体11aに捻回を加えた際の抵抗値の変化について説明する。図4に示すように、導体11aの撚りが締まる正方向に捻回する(すなわち基本状態Cから第1状態Aに遷移させる)と、導体11aの引き延ばしに伴って断線箇所が徐々に拡がり、導体11aの抵抗値が増大する。そして、第1状態Aから捻じれのない基本状態Cに戻すと、断線箇所が徐々に縮まり抵抗値が減少する。
【0024】
次に、導体11aの撚りがほぐれる負方向に捻回するが、この正方向の捻回から負方向の捻回に捻回の向きが変わる際に、ごく僅かな時間、素線111が押し込まれて断線箇所が短くなり(あるいは断線箇所を挟む素線111同士が接触し)、ごく短時間抵抗値が大きく減少する。そして、導体11aの撚りがほぐれる負方向に捻回する(すなわち基本状態Cから第2状態Bに遷移させる)と、撚りがほぐれて各素線111が外側に拡がろうとするために断線箇所が拡がり、導体11aの抵抗値が増大する。そして、第2状態Bから捻じれのない基本状態Cに戻すと、断線箇所が徐々に縮まり抵抗値が減少する。
【0025】
このように、素線111の断線による抵抗値の変動は、基本的にひずみによる抵抗値変動と同期して生じる。しかし、導体11aに加えられる捻回の方向が変わる際の短時間の抵抗値の減少は、素線111に断線が生じている場合にのみ発生することが分かる。そして、この「導体11aに加えられる捻回の方向が変わる際の抵抗値の減少」は、短時間の間に抵抗値が変動する事象であるため、動作周波数を基準とした高次周波数の成分としてあらわれる。そこで、本実施の形態では、動作周波数の高次周波数の成分に注目して「導体11aに加えられる捻回の方向が変わる際の抵抗値の減少」を検知することにより、素線111の断線を検知する。
【0026】
(抵抗測定器3の詳細)
図5(a)は、抵抗測定器3の概略的な構成例を示す図である。図5(a)に示すように、抵抗測定器3は、直流信号源(例えば、直流定電圧源)35a、入力抵抗35b、及び抵抗値検出器35cを有する抵抗測定部35を備えている。なお、直流信号源35aとして直流定電流源を用いる場合は、入力抵抗35bは不要である。直流信号源35aは、入力抵抗35bを介してケーブル10(導体11a)に直流信号(ここでは直流電圧)を印加する。これに応じて、ケーブル10(導体11a)からは、捻回動作により、図3,4に示したような動作周波数f(=1Hz)の成分を含んだ変調信号(例えば電圧信号)が出力される。抵抗値検出器35cは、例えば、この変調信号を所定のゲインで増幅することで、導体11aの抵抗値の時系列的な変化を検出する。抵抗値検出器35cからの信号は、A/Dコンバータ37によりデジタル信号に変換され、抵抗値データ50として演算装置4へと出力される。
【0027】
なお、図5(a)に示した抵抗測定器3の構成はあくまで一例であり、適宜変更可能である。例えば、図5(b)に示すように、抵抗測定器3は、周波数解析部36を一体に有していてもよい。この場合、後述する演算装置4の周波数解析部411(図1参照)を省略可能になる。
【0028】
周波数解析部36は、例えば、キャリア信号生成器36a、ミキサ36bおよびロウパスフィルタ(LPF)36c等を備える。キャリア信号生成器36aは、動作周波数f、つまり断線による抵抗値変動周波数と同じキャリア周波数(ωc、図3,4の場合1Hz)であって、抵抗値変動周波数と同じ位相を持つキャリア信号を生成する。ミキサ36bは、このキャリア信号と、抵抗値検出器35cからの出力信号とを乗算(言い換えれば同期検波)することで、直流成分の信号と"2×ωc"成分の信号とが重畳された信号を出力する。なお、図5(b)に示すキャリア信号生成器36aにおいて、sin(ωct)は、ωc=2πfであるとした場合に動作周波数fの抵抗値変動成分を抽出することができる。
【0029】
ロウパスフィルタ36cは、ミキサ36bからの出力信号を受けて、"2×ωc"成分の信号を遮断し、直流成分の信号を通過させる。この直流成分の信号は、動作周波数f(=ωc)の抵抗値変動成分の大きさを表す。このように、キャリア信号生成器36a、ミキサ36bおよびロウパスフィルタ36cを用いることで、所定周波数の成分(例えば、後述する所定の高次周波数の成分)を検出することができる。ロウパスフィルタ36cからの信号は、A/Dコンバータ37によりデジタル信号に変換され、演算装置4に出力されることになる。
【0030】
なお、図5(a),(b)の構成例は、ケーブル10(導体11a)に直流信号を印加するものであったが、直流信号に限らず、交流信号源を用いて所定周波数(例えば10kHz程度)の交流信号を印加するものであってもよい。この場合、ケーブル10からは、この交流信号を動作周波数fの変調信号で振幅変調したような信号が出力される。そこで、この出力信号に対して、ミキサを用いて交流信号源の交流信号と同じ周波数のキャリア信号を乗算すれば、動作周波数fの変調信号を復調できる。このような方式を用いると、より高い周波数(例えば10kHz程度)での測定を行える結果、ノイズ成分の影響がより生じ難くなる。
【0031】
(演算装置4)
演算装置4の制御部41には、周波数解析部411と、抽出部412と、断線検知部413と、警報部414と、が搭載されている。これら周波数解析部411、抽出部412、断線検知部413、及び警報部414は、CPU等の演算素子、RAMやROM等のメモリ、ソフトウェア、インターフェイス、記憶装置等を適宜組み合わせて実現されている。
【0032】
周波数解析部411は、抵抗測定器3で測定した抵抗値データ(すなわち、時系列的に変化する導体11aの抵抗値のデータ)50を周波数解析する。周波数解析の結果は、周波数解析データ51として記憶部42に記憶される。なお、周波数解析とは、抵抗値データ50に含まれる各周波数の成分の大きさをそれぞれ解析し、周波数毎に成分の大きさを抽出したデータである周波数解析データ51を得ることを意味している。
【0033】
図6(a),(b)は、周波数解析部411により得られる周波数解析データ51の一例を示す図である。図6(a)では1Hz以上10Hz以下の周波数範囲、図6(b)では30Hz以上50Hz以下の周波数範囲を示している。また、図6(a),(b)では、ケーブル10として28AWGの電線11を5本用いたものを用い、捻回長を50mmとし、捻回角度を±180度とした場合の周波数解析結果を示している。
【0034】
図6(a)に示すように、周波数が低い領域では、捻回を付与することによるひずみの影響やノイズの影響が大きく、素線111に断線があるか否かで成分の大きさはほとんど変化していない。これに対して、図6(b)に示すように、30Hz以上50Hz以下の周波数が高い範囲では、断線発生以後に成分が大きくなっていることが分かる。これは、図4で説明した「導体11aに加えられる捻回の方向が変わる際の抵抗値の減少」があらわれているものと考えられる。
【0035】
抽出部412は、周波数解析の解析結果である周波数解析データ51を基に、捻回動作の動作周期に相当する動作周波数fを基準とする高次周波数f×n(nは2以上の自然数)のうち、予め設定した周波数範囲に含まれる所定の高次周波数の抵抗値変動成分を抽出する。ここで、「予め設定した周波数範囲」は、捻回動作により導体11aに付与されるひずみに起因して抵抗値変動が生じる周波数(図6(a),(b)の例では、10Hz以下の周波数)よりも大きい周波数範囲に設定されるとよく、より具体的には、動作周波数fの10倍以上の周波数範囲に設定されるとよい。例えば、図6(a),(b)の例では、周波数範囲を30Hz以上50Hz以下に設定し、この周波数範囲に含まれる約33Hz、約36Hz、約40Hzの3つの高次周波数の抵抗値変動成分を抽出するとよい。周波数範囲、及びその周波数範囲内で抽出する高次周波数の周波数については、予め実験を行い、その実験結果に基づき適宜設定するとよい。
【0036】
断線検知部413は、抽出部412が抽出した高次周波数の抵抗値変動成分の大きさに基づいて、素線111の断線を検知する。より具体的には、抽出部412が抽出した高次周波数の抵抗値変動成分の大きさ(図6(a),(b)の例では、約33Hz、約36Hz、約40Hzの3つの高次周波数の抵抗値変動成分)それぞれを、予め設定した閾値と比較し、いずれかの抵抗値変動成分が閾値以上でれば断線が発生したと判定する。なお、これに限らず、例えば、抽出した抵抗値変動成分のうち所定数(例えば半数)が閾値以上になったときに、断線が発生したと判定してもよい。判定結果は、断線検知データ52として記憶部42に記憶される。
【0037】
警報部414は、断線検知部413が断線を検知したとき、警報を発する。警報部414は、例えば、警報音の鳴動、表示器43への警報表示、管理装置等の外部装置への警報信号の発報等により警報を発し、管理者に断線を検知したことを通知する。
【0038】
演算装置4は、例えばパーソナルコンピュータで構成される。なお、これに限らず、演算装置4は、例えば、サーバ装置であってもよい。この場合、抵抗測定器3で測定された抵抗値データ50は、ネットワークを介してサーバ装置である演算装置4に送信されることになる。演算装置4をサーバ装置で構成する場合、断線検知の結果(すなわち、断線検知データ52)等を、例えば産業用ロボット2aを使用するユーザやロボットメーカと共有できるように構成してもよい。また、制御部41と記憶部42とを別の装置で構成してもよい。例えば、サーバ装置の記憶部42に記憶された抵抗値データ50を、他のサーバ装置やパーソナルコンピュータ等に搭載された制御部41でダウンロードし、断線検知を行うよう構成することもできる。
【0039】
(断線検知方法)
図7は、本実施の形態に係る断線検知方法の手順を示すフロー図である。まず、ステップS10にて、ロボット制御装置2bに搭載された試験動作制御部2cが、産業用ロボット2aの試験動作制御を開始する。これにより、検査対象となるケーブル10を周方向に周期的に捻回させる捻回動作が開始される。その後、ステップS11にて、抵抗測定器3による導体11aの抵抗値の測定を開始する。
【0040】
次いで、ステップS12において、試験動作制御及び導体11aの抵抗値の測定を所定の期間継続する。所定の期間とは、断線の検知のために十分な抵抗値のデータが得られるのに要する期間である。この所定の期間は、抵抗測定器3の構成や測定環境(すなわちノイズ成分の大きさ)等によって適宜変わり得る。これにより、捻回動作により時系列的に変化する導体11aの抵抗値が抵抗測定器3により測定される。
【0041】
続いて、ステップS13において、試験動作制御及び導体11aの抵抗値の測定を停止する。測定した導体11aの抵抗値のデータは、抵抗値データ50として演算装置4に送信され、演算装置4の記憶部42に記憶される。なお、本実施の形態では、試験動作制御時にのみ断線の検知をしているが、これに限らず、産業用ロボット2aの駆動中に断線の検知を常時行うように構成することも可能である。この場合、上述のステップS10~S13に替えて、産業用ロボット2aの駆動中に抵抗測定器3による導体11aの抵抗値の測定が継続して行われる。
【0042】
その後、ステップS14において、周波数解析部411が、抵抗値データ50の周波数解析を行う。周波数解析の結果は、周波数解析データ51として記憶部42に記憶される。
【0043】
その後、ステップS15にて、抽出部412が、周波数解析データ51から、予め設定した周波数範囲に含まれる所定の高次周波数の抵抗値変動成分を抽出する。そして、ステップS16にて、断線検知部413が、抽出部412が抽出した高次周波数の抵抗値変動成分の大きさが、予め設定した閾値以上かを判定する。ステップS16でYESと判定された場合、ステップS17にて、断線検知部413が、導体11aに断線が有ると判定し、ステップS18にて、警報部414が警報を発した後、処理を終了する。ステップS16でNOと判定された場合、断線検知部413が、導体11aに断線が無いと判定し、処理を終了する。
【0044】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る断線検知方法では、ケーブル10を周方向に周期的に捻回させる捻回動作を行い、捻回動作により時系列的に変化する導体11aの抵抗値を測定し、測定した時系列的に変化する導体11aの抵抗値を周波数解析し、周波数解析の解析結果から、捻回動作の動作周期に相当する動作周波数を基準とする高次周波数のうち、予め設定した周波数範囲に含まれる所定の高次周波数の抵抗値変動成分を抽出し、抽出した高次周波数の抵抗値変動成分の大きさに基づいて、素線111の断線を検知する。
【0045】
これにより、図4で説明した「導体11aに加えられる捻回の方向が変わる際の抵抗値の減少」を検知することが可能になり、ケーブル10の導体11aでの素線111の断線を精度よく検知することが可能になる。「導体11aに加えられる捻回の方向が変わる際の抵抗値の減少」は、きわめて短時間で、かつ小さい変化になるが、周波数解析を行うことで、ノイズ等の影響を取り除いて精度よく検出することが可能である。つまり、本実施の形態によれば、ケーブル10の導体11aでの素線111の断線を、抵抗値の増加率を用いた一般的な検知方式では検知することが困難であった初期の断線を含めて検知することが可能になり、断線を高感度で検知することが可能になる。その結果、ケーブル10が装着される各種装置において、重大な障害(例えば、ほぼ全断線)が生じる前に対策を講じることができ、装置の信頼性を向上させることが可能になる。
【0046】
また、従来の抵抗値の増加率を用いた一般的な検知方式では、断線前の導体11aの抵抗値、すなわち初期抵抗値が必要であったが、本実施の形態では、抵抗値の絶対値ではなく、捻回動作中の抵抗値の変動量(相対量)を用いて断線の発生を検知するため、初期抵抗値は不要となる。よって、本実施の形態によれば、導体11aの初期抵抗値の不明な場合であっても、導体11aの素線111に断線が発生していることを高感度に検出できる。
【0047】
さらに、導体11aの抵抗値や、導体11aと抵抗測定器3間の接触抵抗は、温度によって大きく変動するが、温度による抵抗値の変動は捻回動作の動作周期とは無関係となるため、本実施の形態によれば、温度変化の影響を受けずに導体11aの断線検知を行うことが可能である。
【0048】
(変形例)
上記実施の形態では、導体11aにおいて断線が発生したことを検知する方法について述べたが、断線の発生後、その断線の進行状態を推定すること(=断線進行状態推定)も可能である。
【0049】
本発明者らの検討の結果、導体11a抵抗値の時系列的な変化において、素線111の断線本数が増加し断線が進むほど、導体11aの抵抗値の最大値と最小値との差が大きくなることがわかっている。よって、この抵抗値の最大値と最小値との差を基に、導体11aの断線進行状態を推定することが可能である。例えば、段階的に複数の閾値を設定しておき、各閾値と、抵抗値の最大値と最小値との差とを比較することで、導体11aの断線進行状態を推定することができる。なお、導体11aの断線進行状態とは、導体11aを構成する全ての素線111のうち、何本の素線111が断線しているかという割合である。また、推定して得られた断線進行状態は、断線進行状態データとして図4に示す記憶部42に記憶される。
【0050】
そして、この断線進行状態が所定の割合(例えば80%以上)となった場合に、ケーブル10が寿命(=ケーブル寿命)に到達したと設定しておけば、推定して得られた断線進行状態がケーブル寿命に到達したか否かを予測することで、ケーブル10の寿命予測が可能になる。そのケーブル10の寿命予測結果に基づいて、ケーブル10の交換やケーブル10の予知保全等を行うか否かを判断することができる。なお、断線進行状態に基づいて得られたケーブル10の寿命予測結果は、ケーブル寿命予測データとして図4に示す記憶部42に記憶される。また、演算装置4は、得られた断線進行状態データやケーブル寿命予測データを表示器43に表示可能に構成されていてもよい。
【0051】
また、本実施の形態では、産業用ロボット2aに搭載されたケーブル10の断線検知をする場合について説明したが、予め、捻回動作機構2として捻回試験装置等を用いて、産業用ロボット2a等の装置に用いられるケーブル10と同種のケーブルの寿命特性を製造段階で取得しておき、その結果を産業用ロボット2a等の装置のメンテナンスに反映させることも有益である。これにより、ケーブル10において初期の断線が発生し得る屈曲回数が判明するため、例えば、産業用ロボット2a等の装置の管理者に、この屈曲回数の情報を提供することができる。この場合、管理者は、提供された屈曲回数と、産業用ロボット2a等の装置の稼働履歴とを照合することで、ケーブル10に重度の断線が生じる(すなわち、ケーブル寿命に達する)前に各種対策を講じることが可能になる。
【0052】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0053】
[1]複数の素線(111)を撚り合わせた撚線導体からなる導体(11a)を有するケーブル(10)の前記素線(111)の断線を検知する方法であって、前記ケーブル(10)を周方向に周期的に捻回させる捻回動作を行い、前記捻回動作により時系列的に変化する前記導体(11a)の抵抗値を測定し、測定した前記時系列的に変化する前記導体(11a)の抵抗値を周波数解析し、前記周波数解析の解析結果から、前記捻回動作の動作周期に相当する動作周波数を基準とする高次周波数のうち、予め設定した周波数範囲に含まれる所定の高次周波数の抵抗値変動成分を抽出し、抽出した前記高次周波数の抵抗値変動成分の大きさに基づいて、前記素線(111)の断線を検知する、断線検知方法。
【0054】
[2]前記予め設定した周波数範囲は、前記捻回動作により前記導体(11a)に付与されるひずみに起因して抵抗値変動が生じる周波数よりも大きい周波数範囲に設定される、[1]に記載の断線検知方法。
【0055】
[3]前記予め設定した周波数範囲は、前記動作周波数の10倍以上の周波数範囲に設定される、[1]または[2]に記載の断線検知方法。
【0056】
[4]複数の素線(111)を撚り合わせた撚線導体からなる導体(11a)を有するケーブル(10)の前記素線(111)の断線を検知する装置であって、前記ケーブル(10)を周方向に周期的に捻回させる捻回動作を行う捻回動作機構(2)と、前記捻回動作により時系列的に変化する前記導体(11a)の抵抗値を測定する抵抗測定器(3)と、前記抵抗測定器(3)で測定した前記時系列的に変化する前記導体(11a)の抵抗値を周波数解析する周波数解析部(411)と、前記周波数解析の解析結果から、前記捻回動作の動作周期に相当する動作周波数を基準とする高次周波数のうち、予め設定した周波数範囲に含まれる所定の高次周波数の抵抗値変動成分を抽出する抽出部(412)と、前記抽出部(412)が抽出した前記高次周波数の抵抗値変動成分の大きさに基づいて、前記素線(111)の断線を検知する断線検知部(413)と、を備えた、断線検知装置(1)。
【0057】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0058】
1…断線検知装置
2…捻回動作機構
2a…産業用ロボット
2b…ロボット制御装置
2c…試験動作制御部
3…抵抗測定器
4…演算装置
41…制御部
411…周波数解析部
412…抽出部
413…断線検知部
414…警報部
10…ケーブル
11…電線
11a…導体
111…素線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7