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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】研磨剤と研磨方法、および研磨用添加液
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20241008BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20241008BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20241008BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20241008BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
B24B37/00 H
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022190376
(22)【出願日】2022-11-29
(62)【分割の表示】P 2017215520の分割
【原出願日】2017-11-08
(65)【公開番号】P2023024484
(43)【公開日】2023-02-16
【審査請求日】2022-12-23
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】大槻 寿彦
【審査官】鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-191548(JP,A)
【文献】国際公開第2013/180079(WO,A1)
【文献】特開2002-134444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C09K 3/14
C09G 1/02
B24B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ケイ素および酸化ケイ素を含む半導体基板の被研磨面に対し、前記窒化ケイ素に対して前記酸化ケイ素を選択的に研磨するために用いられる研磨剤であって、
単量体(A)と、単量体(A)以外の単量体(B)との共重合体である水溶性ポリマー(ただし、ピロリドン環を有するものを除く)と、
酸化セリウム粒子と、
水と、を含有し、
pHが4以上9以下であり、
前記単量体(A)は、不飽和ジカルボン酸、およびその塩から選ばれる少なくとも1つを含み、
前記単量体(B)は、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン、p-t-ブチルスチレン、クロロメチルスチレン、o-(またはp-,m-)ヒドロキシスチレン、o-(またはp-,m-)ヒドロキシフェニルアクリレート、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、イソプロピレン、イソブテン、イソペンテン、イソヘキセン、イソヘプテン、イソオクテン、イソノネン、およびイソデセンから選択される少なくとも1つを含み、
前記単量体(A)と前記単量体(B)のモル比が10:90~90:10であり、
前記酸化セリウム粒子の含有量は、前記研磨剤の全質量に対して、0.05質量%以上2.0質量%以下であり、
前記酸化セリウム粒子の平均粒子径は、0.01μm以上0.5μm以下である、研磨剤(ただし、第四級アンモニウム化合物を0.001~1重量%含有するもの、並びに、pKaが9より大きいアミノ基および3個以上の水酸基を有する化合物を含有するものを除く)
【請求項2】
前記pHは、6以上9以下である、請求項1に記載の研磨剤。
【請求項3】
前記不飽和ジカルボン酸におけるカルボキシ基を除く炭素数は、2~5である、請求項1に記載の研磨剤。
【請求項4】
前記不飽和ジカルボン酸は、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、2-アリルマロン酸、およびイソプロピリデンコハク酸から選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載の研磨剤。
【請求項5】
前記不飽和ジカルボン酸は、マレイン酸を含む、請求項1に記載の研磨剤。
【請求項6】
前記単量体(B)は、スチレンを含む、請求項1に記載の研磨剤。
【請求項7】
更にpH調整剤として酸を含む、請求項1に記載の研磨剤。
【請求項8】
研磨剤を供給しながら、半導体基板の被研磨面と、研磨パッドとを接触させ、両者の相対運動により研磨を行う研磨方法であって、
前記研磨剤として請求項1~7のいずれか1項に記載の研磨剤を使用し、
前記被研磨面は窒化ケイ素および酸化ケイ素を含み、
前記窒化ケイ素に対して前記酸化ケイ素を選択的に研磨することを特徴とする、研磨方法。
【請求項9】
酸化セリウム粒子の分散液に添加して研磨剤を調製するための研磨用添加液であって、
前記研磨剤は、窒化ケイ素および酸化ケイ素を含む被研磨面に対し、前記窒化ケイ素に対して前記酸化ケイ素を選択的に研磨するために用いられるものであり、
単量体(A)と、単量体(A)以外の単量体(B)との共重合体である水溶性ポリマー(ただし、ピロリドン環を有するものを除く)と、
水と、を含有し、
前記単量体(A)は、不飽和ジカルボン酸、およびその塩から選択される少なくとも1つを含み、
前記単量体(B)は、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン、p-t-ブチルスチレン、クロロメチルスチレン、o-(またはp-,m-)ヒドロキシスチレン、o-(またはp-,m-)ヒドロキシフェニルアクリレート、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、イソプロピレン、イソブテン、イソペンテン、イソヘキセン、イソヘプテン、イソオクテン、イソノネン、およびイソデセンから選択される少なくとも1つを含み、
前記単量体(A)と前記単量体(B)のモル比が10:90~90:10である、
研磨用添加液(ただし、第四級アンモニウム化合物を0.001~1重量%含有するもの、並びに、pKaが9より大きいアミノ基および3個以上の水酸基を有する化合物を含有するものを除く)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨剤と研磨方法、および研磨用添加液に係り、特に、半導体集積回路の製造における化学的機械的研磨のための研磨剤と、その研磨剤を用いた研磨方法、および研磨剤を調製するための研磨用添加液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路の高集積化や高機能化に伴い、半導体素子の微細化および高密度化のための微細加工技術の開発が進められている。従来から、半導体集積回路装置(以下、半導体デバイスともいう。)の製造においては、層表面の凹凸(段差)がリソグラフィの焦点深度を越えて十分な解像度が得られなくなる、などの問題を防ぐため、化学的機械的研磨法(Chemical Mechanical Polishing:以下、CMPという。)を用いて、層間絶縁膜や埋め込み配線等を平坦化することが行われている。素子の高精細化や微細化の要求が厳しくなるにしたがって、CMPによる高平坦化の重要性はますます増大している。
【0003】
また近年、半導体デバイスの製造において、半導体素子のより高度な微細化を進めるために、素子分離幅の小さいシャロートレンチによる分離法(Shallow Trench Isolation:以下、STIという。)が導入されている。
【0004】
STIは、シリコン基板にトレンチ(溝)を形成し、トレンチ内に絶縁膜を埋め込むことで、電気的に絶縁された素子領域を形成する手法である。STIにおいては、まず、図1(a)に示すように、シリコン基板1の素子領域を窒化ケイ素膜2等でマスクした後、シリコン基板1にトレンチ3を形成し、トレンチ3を埋めるように二酸化ケイ素膜4等の絶縁膜を堆積する。次いで、CMPによって、凹部であるトレンチ3内の二酸化ケイ素膜4を残しながら、凸部である窒化ケイ素膜2上の二酸化ケイ素膜4を研磨し除去することで、図1(b)に示すように、トレンチ3内に二酸化ケイ素膜4が埋め込まれた素子分離構造が得られる。
【0005】
STIにおけるCMPでは、二酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜との選択比を高くすることで、窒化ケイ素膜が露出した時点で研磨の進行を停止させることができる。このように窒化ケイ素膜をストッパー膜として用いる研磨方法では、通常の研磨方法と比べて、より平滑な面を得ることができる。そして、近年のCMP技術では、上記した選択比の高さが重要となっている。
【0006】
このような要求特性に対応して研磨剤の研磨特性を改善する方法が提案されている。特許文献1には、砥粒として酸化セリウム粒子等を含有し、ポリアクリル酸またはポリアクリル酸アンモニウムを含有する、ケイ素含有誘電体基材用の研磨剤が開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に示された研磨剤では、二酸化ケイ素膜の研磨速度はある程度高い値が確保されても、窒化ケイ素膜の研磨速度の抑制が十分でないため、二酸化ケイ素膜と窒素ケイ素膜との選択比は十分に高いとはいえなかった。そのため、得られる基材の平坦性が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2004/010487号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであって、例えばCMP、特にはSTIにおける酸化ケイ素面を含む被研磨面のCMPにおいて、二酸化ケイ素膜のような酸化ケイ素膜に対する十分に高い研磨速度を維持しながら、窒化ケイ素膜に対する研磨速度を低く抑え、二酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜との選択比(二酸化ケイ素膜の研磨速度と窒化ケイ素膜の研磨速度との比を意味する。以下、単に「選択比」ともいう。)を高めるとともに良好な平坦性を達成することができる研磨剤、および研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の研磨剤は、窒化ケイ素および酸化ケイ素を含む半導体基板の被研磨面に対し、窒化ケイ素に対して酸化ケイ素を選択的に研磨するために用いられる研磨剤であって、単量体(A)と、単量体(A)以外の単量体(B)との共重合体である水溶性ポリマーと、酸化セリウム粒子と、水と、を含有し、pHが4以上9以下であり、単量体(A)は、不飽和ジカルボン酸、およびその塩から選ばれる少なくとも1つを含み、単量体(B)は、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン、p-t-ブチルスチレン、クロロメチルスチレン、o-(またはp-,m-)ヒドロキシスチレン、o-(またはp-,m-)ヒドロキシフェニルアクリレート、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、イソプロピレン、イソブテン、イソペンテン、イソヘキセン、イソヘプテン、イソオクテン、イソノネン、およびイソデセンから選択される少なくとも1つを含み、酸化セリウム粒子の含有量は、研磨剤の全質量に対して、0.05質量%以上2.0質量%以下であり、酸化セリウム粒子の平均粒子径は、0.01μm以上0.5μm以下である。
【0011】
本発明の研磨方法は、研磨剤を供給しながら、半導体基板の被研磨面と、研磨パッドとを接触させ、両者の相対運動により研磨を行う研磨方法であって、上記本発明に係る研磨剤を使用し、被研磨面は窒化ケイ素および酸化ケイ素を含み、窒化ケイ素に対して酸化ケイ素を選択的に研磨することを特徴とする。
【0012】
本発明の研磨用添加液は、酸化セリウム粒子の分散液に添加して研磨剤を調製するための添加液であって、不飽和ジカルボン酸、その誘導体、およびそれらの塩から選ばれる単量体(A)と、エチレン性二重結合を含み、酸性基を含まない、単量体(A)以外の単量体(B)との共重合体である水溶性ポリマーと、水とを含有し、pHが4以上9以下であることを特徴とする。
【0013】
なお、本発明において、「被研磨面」とは、研磨対象物の研磨される面であり、例えば表面を意味する。本明細書においては、半導体デバイスを製造する過程で半導体基板に現れる中間段階の表面も、「被研磨面」に含まれる。本発明において、「酸化ケイ素」は具体的には二酸化ケイ素であるが、それに限定されず、二酸化ケイ素以外のケイ素酸化物も含むものとする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の研磨剤および研磨方法によれば、例えばCMP、特にはSTIにおける酸化ケイ素面を含む被研磨面のCMPにおいて、酸化ケイ素膜に対する十分に高い研磨速度を維持しながら、窒化ケイ素膜に対する研磨速度を低く抑え、酸化ケイ素と窒化ケイ素との高い選択比と良好な平坦性を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】STIにおいて、CMPにより研磨する方法を示す半導体基板の断面図である。
図2】本発明の研磨方法に使用可能な研磨装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施の形態も本発明の範疇に属し得る。
【0017】
<研磨剤>
本発明の研磨剤は、不飽和ジカルボン酸、その誘導体、およびそれらの塩から選ばれる単量体(A)と、エチレン性二重結合を含み、酸性基を含まない、単量体(A)以外の単量体(B)との共重合体である水溶性ポリマー、酸化セリウム粒子、および水を含有し、pHが4以上9以下であることを特徴とする。
【0018】
本明細書において、水溶性とは、「25℃において水100gに対して10mg以上溶解する」ことを意味する。単量体(A)と単量体(B)との共重合体において、単量体(A)に基づく単位を単位(A)、単量体(B)に基づく単位を単位(B)という。単量体(A)と単量体(B)との共重合体である水溶性ポリマーを、単に「水溶性ポリマー」という。本明細書において、数値範囲を表す「~」では、上下限を含む。本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、「メタクリル酸」と「アクリル酸」の総称である。
【0019】
本発明の研磨剤を、例えば、STIにおける酸化ケイ素膜(例えば、二酸化ケイ素膜)を含む被研磨面のCMPに使用した場合、酸化ケイ素膜に対して高い研磨速度を有するうえに、窒化ケイ素膜に対する研磨速度が十分に低く、酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜との高い選択比を達成することができる。そして、平坦性の高い研磨を実現することができる。
【0020】
本発明の研磨剤において、酸化セリウム粒子は砥粒として機能する。本発明の研磨剤において、単量体(A)と単量体(B)との共重合体である水溶性ポリマーは、水に溶解してpHが4以上9以下の範囲で、以下に説明するように砥粒の働きを補助するように機能することで、本発明の研磨剤は上記した顕著な効果が発揮できると考えられる。
【0021】
本発明の研磨剤が上記した優れた研磨特性を発揮する機構については、明らかではないが、水溶性ポリマーが有するカルボキシ基が、酸化セリウム粒子の表面および窒化ケイ素膜を含む被研磨面に吸着することで、窒化ケイ素膜に対する研磨速度を抑制すると考えられる。なお、カルボキシ基は塩であっても上記と同様に機能すると考えられる。ただし、カルボキシ基が誘導体化されるとその機能は低下する。よって、単量体(A)は少なくともカルボキシ基またはカルボキシ基の塩を含むことが好ましい。
【0022】
さらに、水溶性ポリマーを構成する共重合体は、単位(A)が親水性であり単位(B)は疎水性である。共重合体が疎水性部分と親水性部分を有することで、酸化ケイ素膜に対する高い研磨速度を維持しながら、窒化ケイ素膜に対する研磨速度を抑制し、結果的に高い選択比が得られるものと考えられる。
【0023】
本発明の研磨剤は、水溶性ポリマー、酸化セリウム粒子、水以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分を含有してもよい。以下、本発明の研磨剤に含有される酸化セリウム粒子、水溶性ポリマー、水、その他の成分等の各成分、および液のpHについて説明する。
【0024】
(酸化セリウム粒子)
本発明の研磨剤において、含有される酸化セリウム粒子は特に限定されない。例えば、特開平11-12561号公報や特開2001-35818号公報に記載された方法で製造された酸化セリウム粒子が使用できる。すなわち、硝酸セリウム(IV)アンモニウム水溶液にアルカリを加えて水酸化セリウムゲルを作製し、これをろ過、洗浄、焼成して得られた酸化セリウム粒子、または高純度の炭酸セリウムを粉砕後焼成し、さらに粉砕、分級して得られた酸化セリウム粒子を使用できる。また、特表2010-505735号に記載されているように、液中でセリウム(III)塩を化学的に酸化して得られた酸化セリウム粒子も使用できる。
【0025】
酸化セリウム粒子の平均粒子径は、0.01μm以上0.5μm以下が好ましく、0.03μm以上0.3μm以下がより好ましい。平均粒子径が0.5μmを超えると、被研磨面にスクラッチ等の研磨キズが発生するおそれがある。また、平均粒子径が0.01μm未満であると、研磨速度が低下するおそれがあるばかりでなく、単位体積あたりの表面積の割合が大きいため、表面状態の影響を受けやすく、pHや添加剤の濃度等の条件によっては凝集しやすくなる。
【0026】
酸化セリウム粒子は、液中において一次粒子が凝集した凝集粒子(二次粒子)として存在しているので、酸化セリウム粒子の好ましい粒径を、平均二次粒子径で表すものとする。すなわち、上記数値範囲を示した平均粒子径は、通常、平均二次粒子径である。平均二次粒子径は、純水などの分散媒中に分散した分散液を用いて、レーザー回折・散乱式などの粒度分布計を使用して測定される。
【0027】
酸化セリウム粒子の含有割合(濃度)は、研磨剤の全質量に対して0.05質量%以上2.0質量%以下が好ましい。特に好ましい範囲は、0.15質量%以上1.0質量%以下である。酸化セリウム粒子の含有割合が0.05質量%以上2.0質量%以下の場合には、酸化ケイ素膜に対して十分に高い研磨速度が得られる。また、研磨剤の粘度も高すぎることがなく、取扱いが良好である。
【0028】
酸化セリウム粒子は、事前に媒体に分散した状態のもの(以下、酸化セリウム粒子分散液という。)を使用してもよい。また最適な分散効果を得るために分散剤を含んでもよい。媒体としては、特に限定されないが、水が好ましく使用できる。
【0029】
(水)
本発明の研磨剤には、酸化セリウム粒子を分散させ、かつ後述する水溶性ポリマー等を溶解させる媒体として、水が含有される。水の種類については特に限定されないものの、水溶性ポリマー等への影響、不純物の混入の防止、pH等への影響を考慮して、純水、超純水、イオン交換水等を用いることが好ましい。
【0030】
(水溶性ポリマー)
本発明の研磨剤に含有される水溶性ポリマーは、酸化ケイ素膜に対する研磨速度の向上、および酸化ケイ素膜と窒素ケイ素膜との選択比の向上のために含有される。
【0031】
水溶性ポリマーは、以下の単量体(A)と単量体(B)との共重合体からなる。単量体(A)は不飽和ジカルボン酸、その誘導体、およびそれらの塩から選ばれる少なくとも1種である。単量体(B)は、エチレン性二重結合を含み、酸性基を含まない、単量体(A)以外の化合物からなる。
【0032】
共重合体は、単量体(A)に基づく単位(A)と、単量体(B)に基づく単位(B)の、それぞれ1種または2種以上からなり、各単位は、互いにランダムに結合していてもブロックに結合していてもよい。
【0033】
単量体(A)にかかる、不飽和ジカルボン酸は、一分子内にカルボキシ基を2個有し、かつエチレン性二重結合を有する化合物であれば特に制限なく使用できる。不飽和ジカルボン酸は、鎖式化合物であっても環式化合物であってもよいが、鎖式化合物が好ましい。不飽和ジカルボン酸におけるエチレン性二重結合の数に制限はないが、1~2が好ましく、1が好ましい。不飽和ジカルボン酸のカルボキシ基を除く炭素数は、2~5が好ましく、2~3がより好ましく、2が特に好ましい。
【0034】
不飽和ジカルボン酸として、具体的には、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、2-アリルマロン酸、イソプロピリデンコハク酸等が挙げられる。これらのうちでも、マレイン酸、フマル酸およびイタコン酸から選ばれる少なくとも1種が好ましく、重合性の観点からマレイン酸が特に好ましい。
【0035】
単量体(A)は、不飽和ジカルボン酸の誘導体、不飽和ジカルボン酸の塩、不飽和ジカルボン酸の誘導体の塩であってもよい。不飽和ジカルボン酸の誘導体の塩とは、不飽和ジカルボン酸のカルボキシ基の一方が誘導体とされ、一方が塩となった化合物をいう。
【0036】
不飽和ジカルボン酸の塩としてはアルカリ金属塩、アミン塩が挙げられる。具体的な塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、モノエタノールアンモニウム塩、ジエタノールアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩が挙げられ、金属不純物の混入を考慮しなくてよい点からアンモニウム塩がより好ましい。
【0037】
不飽和ジカルボン酸の誘導体としては、酸無水物、エステル誘導体、アミド誘導体が挙げられ、誘導体としてはエステル誘導体が好ましい。不飽和ジカルボン酸のエステルまたはアミドは、不飽和ジカルボン酸のカルボキシ基の両方または一方がエステル化またはアミド化されたものであってよい。
【0038】
不飽和ジカルボン酸のエステル誘導体としては、例えば、不飽和ジカルボン酸のカルボキシ基(-C(=O)-OH)の少なくとも一方が、-C(=O)-O-R(Rは、一価の置換基である。)となった化合物である。Rは、炭素数1~50の炭素-炭素原子間に酸素原子を有してもよい飽和炭化水素基が好ましい。Rは、より好ましくは炭素数2~30の、さらに好ましくは炭素数5~20の、炭素-炭素原子間に酸素原子を有してもよい飽和炭化水素基である。飽和炭化水素基は、直鎖、分岐鎖または環状であってよく、環状構造を含む直鎖または分岐鎖であってもよい。
【0039】
不飽和ジカルボン酸のアミド誘導体としては、例えば、不飽和ジカルボン酸のカルボキシ基(-C(=O)-OH)の少なくとも一方が、-C(=O)-NR(R、Rは、独立に水素原子または一価の置換基である。)となった化合物である。R、Rが一価の置換基の場合、具体的には、上記Rと同様の基が挙げられる。好ましい態様についてもRと同様である。
【0040】
単量体(A)は、不飽和ジカルボン酸、その誘導体、およびそれらの塩から選ばれる少なくとも1種からなる。単量体(A)がこれらの2種以上からなる場合、不飽和ジカルボン酸の種類が異なる組み合せであってもよく、不飽和ジカルボン酸は同一であって、不飽和ジカルボン酸とその誘導体および/またはそれらの塩の組み合わせであってもよい。
【0041】
単量体(A)は不飽和ジカルボン酸の塩を含むことが好ましい。すなわち、共重合体は、単量体(A)に基づく単位(A)がカルボキシ基の塩を有することが好ましい。単量体(A)が不飽和ジカルボン酸の塩を含むと、共重合体の水溶性が高められる。
【0042】
単量体(A)は、不飽和ジカルボン酸の少なくとも一部がエステル化されたエステル誘導体およびその塩から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。なお、この場合の塩は、不飽和ジカルボン酸の一部がエステル化されたエステル誘導体の塩である。単量体(A)が不飽和ジカルボン酸のエステル誘導体を含むことで、本発明の研磨剤は、選択比をより高めることができるため、単量体(A)は、不飽和ジカルボン酸の一部がエステル化されたエステル誘導体の塩であることが特に好ましい。
【0043】
上記好ましい態様において、単量体(A)としては、不飽和ジカルボン酸のカルボキシ基の一方または両方がエステル化されたエステル誘導体、不飽和ジカルボン酸の一方がエステル化され一方が塩となった化合物、および、これらの混合物を含む態様が挙げられる。また、上記において単量体(A)が塩である場合、単量体(A)は、不飽和ジカルボン酸の少なくとも一部がエステル化されたエステル誘導体と、不飽和ジカルボン酸の塩の組み合わせを含む態様であってもよい。
【0044】
なお、本発明において単量体(A)が不飽和ジカルボン酸の塩を含むとは、単量体(A)と単量体(B)との共重合体において、単位(A)がカルボキシ基の塩を含むことを意味する。すなわち、単量体(A)が不飽和ジカルボン酸の塩を含むとは、上記共重合体を製造する際に単量体(A)が塩である場合と、共重合体を得た後、単位(A)のカルボキシ基を塩とした場合の両方を含む。
【0045】
単量体(A)において不飽和ジカルボン酸として好適なマレイン酸を例に示すと、単量体(A)は、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステルおよびマレイン酸モノエステルの塩から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。この場合、単量体(A)はマレイン酸を含んでもよく、マレイン酸塩を含んでもよい。単量体(A)は、マレイン酸モノエステルの塩またはマレイン酸エステルとマレイン酸塩を組み合せて含むことがより好ましく、マレイン酸モノエステルの塩を含むことが特に好ましい。
【0046】
単量体(A)全体とした場合、すなわち、共重合体中の単位(A)において、エステル化されたカルボキシ基と、カルボキシ基の塩の割合は、1:9~9:1が好ましく、5:5が特に好ましい。なお、単量体(A)において、カルボキシ基が塩を形成している場合、製造上、単量体(A)中にカルボキシ基(-COOH)は存在しない。
【0047】
単量体(B)は、エチレン性二重結合を含み、酸性基を含まない、単量体(A)以外の化合物である。単量体(B)は、鎖式の化合物であっても環構造を含む環式化合物であってもよく、環構造を含む環式化合物が好ましい。単量体(B)が環構造を含むと、得られる研磨剤の保存安定性が高められる。
【0048】
単量体(B)が環構造を含む場合、共重合体において、単位(B)は側鎖に環構造を有することが好ましい。この場合、環は、脂肪族環または芳香族環であり、5員環または6員環が好ましい。エチレン性二重結合の数は、特に制限されないが、1~5が挙げられ、1~2が好ましく、1が特に好ましい。また、単量体(B)が環構造を含む場合、環は骨格に炭素原子以外の元素、例えば、酸素原子、窒素原子を含む複素環でもよく、環に結合する水素原子は酸性基以外の置換基に置換されていてもよい。置換基としては、炭素数1~30の炭化水素基、オキシ基(-O-R)、オキソ基(=O)、カルボニル基(-CO-R)、アミノ基(-NH-R)、イミノ基(=N-R)、アゾ基(-N=N-R)、ジアゾ基(-N≡N-R)、ハロゲン基、チオ基(-S-R)、ホスフィノ基等が挙げられる。ここでRは1価の有機基である。
【0049】
単量体(B)が鎖式の化合物の場合、エチレン性二重結合の数は、特に制限されないが、1~5が挙げられ、1~2が好ましく、1が特に好ましい。鎖式の化合物は、直鎖または分岐鎖であり、炭素数は特に制限されないが、2~30が挙げられ、2~10が好ましい。
【0050】
環構造を含む単量体(B)として、具体的には、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの単環環状オレフィンまたはこれらの誘導体、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエン、シクロオクタジエンなどの環状共役ジエンまたはこれらの誘導体、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、トリシクロデセン、テトラシクロドデセン、ヘキサシクロヘプタデセンなどの多環状オレフィンまたはこれらの誘導体、ビニルシクロブタン、ビニルシクロブテン、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロペンテン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘプタン、ビニルシクロヘプテン、ビニルシクロオクタン、ビニルシクロオクテン、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカルバゾール、4-ビニルピリジンなどのビニル脂環式炭化水素又はこれらの誘導体、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン、p-t-ブチルスチレン、クロロメチルスチレン、o-(またはp-,m-)ヒドロキシスチレン、o-(またはp-,m-)ヒドロキシフェニルアクリレート、などのビニル芳香族系単量体またはこれらの誘導体が挙げられる。
【0051】
鎖式の化合物である単量体(B)として、具体的には、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、イソプロピレン、イソブテン、イソペンテン、イソヘキセン、イソヘプテン、イソオクテン、イソノネン、イソデセン、などのオレフィンまたはこれらの誘導体、ブタジエン、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンなどの脂肪族共役ジエンまたはこれらの誘導体、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸エステルまたはこれらの誘導体、アクリル酸β-ヒドロキシエチル、アクリル酸β-ヒドロキシプロピル及びメタクリル酸β-ヒドロキシエチルなどのエチレン性不飽和カルボン酸ヒドロキシアルキルエステルまたはその誘導体、アクリル酸グリシジルおよびメタクリル酸グリシジルなどの不飽和カルボン酸グリシジルエステルまたはその誘導体、アクロレインおよびアリルアルコール等のビニル化合物またはその誘導体、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのエチレン性不飽和ニトリルまたはその誘導体、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミドおよびジアセトンアクリルアミドなどのエチレン性不飽和カルボン酸アミドおよびその誘導体が挙げられる。
【0052】
これらの中でも単量体(B)としては、スチレン、N-ビニルピロリドン、4-ビニルピリジン、ヘプテン、オクテン、ノネン、イソブテンが好ましく、スチレン、N-ビニルピロリドン、4-ビニルピリジンがより好ましく、スチレンが特に好ましい。
【0053】
なお、単量体(B)は1種であってもよく、2種以上であってもよい。例えば、単量体(B)がスチレンを含む場合、N-ビニルピロリドン、ヘプテン、オクテン、ノネン、イソブテン等のスチレン以外の単量体を含んでもよい。この場合、スチレンの含有割合は、単量体(B)全体に対して、50~100モル%が好ましく、70~100モル%が好ましく、100モル%が特に好ましい。
【0054】
共重合体における、単量体(A)と単量体(B)をそれぞれ説明した。単量体(A)と単量体(B)は上記からそれぞれ1種または2種以上を適宜選択して組み合せることができる。好ましい組み合わせは、上記において、それぞれ好ましいとした単量体(A)と単量体(B)の組み合わせである。本発明の研磨剤に用いる共重合体においては、特に、単量体(A)における不飽和ジカルボン酸がマレイン酸を含み、単量体(B)がスチレンを含む組み合せが好ましい。
【0055】
共重合体において、単量体(A)と単量体(B)の割合、すなわち単位(A)と単位(B)の割合は、特に制限されない。単位(A)の親水性と単位(B)の疎水性のバランスを考慮すると、単位(A)と単位(B)のモル比として、10:90~90:10が挙げられ、該モル比は、20:80~40:60が好ましく、40:60~60:40がさらに好ましい。
【0056】
共重合体の重量平均分子量は、500以上100万以下が好ましく、1000以上2万以下がより好ましく、2000以上1万以下がさらに好ましい。共重合体の重量平均分子量が500以上であると、共重合体が、酸化セリウム粒子の表面および窒化ケイ素膜を含む被研磨面に吸着した状態を安定的に確保できる。共重合体の重量平均分子量が100万以下であれば取り扱い性等が良好である。なお、本明細書における重量平均分子量(以下、「Mw」で示すこともある。)は、特に断りのない限りゲル浸透クロマトグラフ(GPC)により測定される重量平均分子量である。
【0057】
水溶性ポリマーは、単量体(A)と単量体(B)との共重合体の1種または2種以上からなる。水溶性ポリマーにおける酸価および重量平均分子量は、上記共重合体の酸価および重量平均分子量と同様の範囲が好ましい。
【0058】
水溶性ポリマーの含有割合(濃度)は、酸化ケイ素膜に対して高い研磨速度が得られるとともに高い選択比が得られることから、研磨剤の全質量に対して0.001質量%以上10.0質量%以下が好ましく、0.01質量%以上5.0質量%以下がより好ましい。また、0.05質量%以上、2.0質量%以下の場合には、酸化ケイ素膜に対して十分に高い研磨速度が得られるとともにより高い選択比が得られ、さらに好ましい。
【0059】
(pH)
本発明の研磨剤のpHは、4以上9以下である。研磨剤のpHが9以下の場合には、窒化ケイ素膜の研磨速度の抑制、および選択比の向上の効果が十分に得られる。またpHが4以上の場合には酸化ケイ素膜の研磨速度の向上が得られる。研磨剤のpHは、5以上9以下がより好ましく、6以上8以下が特に好ましい。
【0060】
本発明の研磨剤には、pHを所定の値にするために、pH調整剤を含有してもよい。pH調整剤としては、酸が好ましく、種々の無機酸または有機酸、またはそれらの塩の使用が可能である。無機酸としては、特に限定されるものではないが、例えば、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸が挙げられる。有機酸としては、特に限定されるものではないが、例えばカルボン酸、スルホン酸、リン酸などがあげられる。その中でもカルボン酸が好ましい。カルボン酸は任意の適切なカルボン酸であることができるが、より好ましいカルボン酸を以下に例示する。
【0061】
含窒素複素環基を有するカルボン酸(モノカルボン酸、ポリカルボン酸):2-ピリジンカルボン酸、3-ピリジンカルボン酸、4-ピリジンカルボン酸、2,3-ピリジンジカルボン酸、2,4-ピリジンジカルボン酸、2,5-ピリジンジカルボン酸、2,6-ピリジンジカルボン酸、3,4-ピリジンジカルボン酸、3,5-ピリジンジカルボン酸、ピラジンカルボン酸、2,3-ピラジンジカルボン酸、2-キノリンカルボン酸、ピログルタミン酸、ピコリン酸、DL-ピペコリン酸。
【0062】
窒素以外の環状化合物を有するカルボン酸:2-フランカルボン酸、3-フランカルボン酸、テトラヒドロフラン-2-カルボン酸、テトラヒドロフラン-2,3,4,5-テトラカルボン酸。
【0063】
アミノ基を有するカルボン酸(アミノ酸など):アラニン、グリシン、グリシルグリシン、アミノ酪酸、N-アセチルグリシン、N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)グリシン、N-(tert-ブトキシカルボニル)グリシン、プロリン、trans-4-ヒドロキシ-L-プロリン、フェニルアラニン、サルコシン、ヒダントイン酸、クレアチン、N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸。
【0064】
水酸基を有するカルボン酸(ヒドロキシカルボン酸など):乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、グリコール酸、グルコン酸、サリチル酸、2-ヒドロキシイソ酪酸、グリセリン酸、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)酪酸。
【0065】
ケトン基を有するカルボン酸(ケト酸):ピルビン酸、アセト酢酸、レブリン酸。
【0066】
環状カルボン酸:シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロヘプタンカルボン酸、シクロヘキシルカルボン酸。
【0067】
上記以外のポリカルボン酸:シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、グルタル酸、アジピン酸、フタル酸。
【0068】
また上記無機酸または有機酸は塩としても用いることができる。これらの塩としては、アルカリ金属塩もしくはアミン塩等を用いることができる。具体的にはナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、モノエタノールアンモニウム塩、ジエタノールアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩が挙げられる。
【0069】
また、本発明の研磨剤には、pH調整剤として、種々の塩基性化合物を添加してもよい。塩基性化合物は水溶性であることが好ましいが、特に限定されない。塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(以下、TMAHという。)やテトラエチルアンモニウムヒドロキシド等の4級アンモニウムヒドロキシド、モノエタノールアミン(以下、MEAという。)、エチレンジアミン等の有機アミンなどを用いることができる。
【0070】
本発明の研磨剤には、上記成分以外に、凝集防止剤または分散剤を含有させることができる。
【0071】
分散剤とは、酸化セリウム粒子を純水等の分散媒中に安定的に分散させるために含有させるものである。分散剤としては、陰イオン性、陽イオン性、ノニオン性、両性の界面活性剤や、陰イオン性、陽イオン性、ノニオン性、両性の高分子化合物が挙げられ、これらの1種または2種以上を含有させることができる。
【0072】
また、本発明の研磨剤には、潤滑剤、粘性付与剤または粘度調節剤、防腐剤等を必要に応じて適宜含有させることができる。
【0073】
本発明の研磨剤は、保管や輸送の利便性のため、酸化セリウム粒子の分散液(以下、分散液という。)と、水に水溶性ポリマーを溶解させた水溶液(研磨用添加液)の2液として別々に準備し、使用時に混合してもよい。
【0074】
<研磨用添加液>
本発明の研磨用添加液は、酸化セリウム粒子の分散液に添加して研磨剤を調製するための添加液であって、不飽和ジカルボン酸、その誘導体、およびそれらの塩から選ばれる単量体(A)と、エチレン性二重結合を含み、酸性基を含まない、単量体(A)以外の単量体(B)との共重合体である水溶性ポリマーと、水とを含有し、pHが4以上9以下であることを特徴とする。研磨剤の調製において、この研磨用添加液を使用し酸化セリウム粒子の分散液に添加する方法を採ることで、研磨剤の保管や輸送の利便性を向上させることができる。
【0075】
本発明の研磨用添加液において、含有される水溶性ポリマー、水の各成分、および液のpHについては、上記研磨剤に含有される各成分および液のpHについての記載と同様である。
【0076】
本発明の研磨用添加液において、水溶性ポリマーの含有割合(濃度)は、添加液全体の0.001質量%以上、30質量%以下が好ましい。0.01質量%以上20質量%以下がよりに好ましく、0.1質量%以上10質量%以下がさらに好ましい。
【0077】
このような添加液が添加される酸化セリウム粒子の分散液において、液中の酸化セリウム粒子の含有割合は、0.2質量%以上40質量%以下が好ましく、1質量%以上20質量%以下がより好ましく、5質量%以上10質量%以下がさらに好ましい。
【0078】
本発明の研磨用添加液を、酸化セリウム粒子の分散液に添加することで、酸化ケイ素膜の高い研磨速度を維持しながら、窒化ケイ素膜の研磨速度を低く抑え、高い選択比と平坦性を達成できる研磨剤を得ることができる。
【0079】
なお、酸化セリウム粒子の分散液と本発明の研磨用添加液との2液に分け、これらを混合して研磨剤を調製する場合は、分散液における酸化セリウム粒子の濃度、および研磨用添加液における水溶性ポリマーの濃度を、研磨剤使用時の2倍~100倍に濃縮しておき、使用時に希釈して所定の濃度にすることができる。より具体的には、例えば、分散液における酸化セリウム粒子の濃度と、添加液における水溶性ポリマーの濃度をいずれも10倍に濃縮した場合は、分散液を10質量部、研磨用添加液を10質量部、水を80質量部の割合で混合し撹拌して、研磨剤として使用する。
【0080】
<研磨剤の調製方法>
本発明の研磨剤を調製するには、純水やイオン交換水等の水に上記酸化セリウム粒子を分散させた分散液に、水溶性ポリマーを加えて混合する方法が用いられる。混合後、撹拌機等を用いて所定時間撹拌することで、均一な研磨剤が得られる。また、混合後、超音波分散機を用いて、より良好な分散状態を得ることもできる。
【0081】
本発明の研磨剤は、必ずしも予め構成する研磨成分をすべて混合したものとして、研磨の場に供給する必要はない。研磨の場に供給する際に、研磨成分が混合されて研磨剤の組成になってもよい。
【0082】
本発明の研磨剤は、保管や輸送の利便性のため、上記のように分散液と研磨用添加液の2液として別々に準備し、使用時に混合してもよい。分散液と、研磨用添加液との2液に分け、これらを混合して研磨剤を調製する方法は上記のとおりである。
【0083】
<研磨方法>
本発明の実施形態の研磨方法は、上記した研磨剤を供給しながら研磨対象物の被研磨面と研磨パッドとを接触させ、両者の相対運動により研磨を行う方法である。ここで、研磨が行われる被研磨面は、例えば、半導体基板の二酸化ケイ素からなる面を含む表面である。半導体基板としては、上記したSTI用の基板が好ましい例として挙げられる。本発明の研磨剤は、半導体デバイスの製造において、多層配線間の層間絶縁膜の平坦化のための研磨にも有効である。
【0084】
STI用基板における二酸化ケイ素膜としては、テトラエトキシシラン(TEOS)を原料にしてプラズマCVD法で成膜された、いわゆるPE-TEOS膜が挙げられる。また、二酸化ケイ素膜として、高密度プラズマCVD法で成膜された、いわゆるHDP膜を挙げることができる。また、その他のCVD法で成膜されたHARP膜やFCVD膜、スピンコートで製膜されるSOD膜を使用することもできる。窒化ケイ素膜としては、シランまたはジクロロシランとアンモニアを原料として、低圧CVD法やプラズマCVD法で成膜したものやALD法で成膜したものが挙げられる。
【0085】
本発明の実施形態の研磨方法には、公知の研磨装置を使用できる。図2は、本発明の研磨方法に使用可能な研磨装置の一例を示す図である。
【0086】
この研磨装置20は、STI基板のような半導体基板21を保持する研磨ヘッド22と、研磨定盤23と、研磨定盤23の表面に貼り付けられた研磨パッド24と、研磨パッド24に研磨剤25を供給する研磨剤供給配管26とを備えている。研磨剤供給配管26から研磨剤25を供給しながら、研磨ヘッド22に保持された半導体基板21の被研磨面を研磨パッド24に接触させ、研磨ヘッド22と研磨定盤23とを相対的に回転運動させて研磨を行うように構成されている。なお、本発明の実施形態に使用される研磨装置はこのような構造のものに限定されない。
【0087】
研磨ヘッド22は、回転運動だけでなく直線運動をしてもよい。また、研磨定盤23および研磨パッド24は、半導体基板21と同程度またはそれ以下の大きさであってもよい。その場合は、研磨ヘッド22と研磨定盤23とを相対的に移動させることにより、半導体基板21の被研磨面の全面を研磨できるようにすることが好ましい。さらに、研磨定盤23および研磨パッド24は回転運動を行うものでなくてもよく、例えばベルト式で一方向に移動するものであってもよい。
【0088】
このような研磨装置20の研磨条件には特に制限はないが、研磨ヘッド22に荷重をかけて研磨パッド24に押し付けることでより研磨圧力を高め、研磨速度を向上させることができる。研磨圧力は0.5~50kPa程度が好ましく、研磨速度における半導体基板21の被研磨面内の均一性、平坦性、スクラッチなどの研磨欠陥防止の観点から、3~40kPa程度がより好ましい。研磨定盤23および研磨ヘッド22の回転数は、50~500rpm程度が好ましいがこれに限定されない。また、研磨剤25の供給量については、研磨剤の組成や上記各研磨条件等により適宜調整される。
【0089】
研磨パッド24としては、不織布、発泡ポリウレタン、多孔質樹脂、非多孔質樹脂などからなるものを使用することができる。研磨パッド24への研磨剤25の供給を促進し、あるいは研磨パッド24に研磨剤25が一定量溜まるようにするために、研磨パッド24の表面に格子状、同心円状、らせん状などの溝加工を施してもよい。また、必要に応じて、パッドコンディショナーを研磨パッド24の表面に接触させて、研磨パッド24表面のコンディショニングを行いながら研磨してもよい。
【0090】
本発明の研磨方法によれば、半導体デバイスの製造における層間絶縁膜の平坦化やSTI用絶縁膜の平坦化等のCMP処理において、酸化ケイ素(例えば、二酸化ケイ素)からなる被研磨面を高い研磨速度で研磨することができるうえに、酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜との高い選択比を実現し、高い平坦性を達成することができる。
【実施例
【0091】
以下、本発明を実施例および比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の例において、「%」は、特に断らない限り質量%を意味する。また、特性値は下記の方法により測定し評価した。例1~14が実施例であり、例15~18が比較例である。
【0092】
[pH]
pHは、東亜ディーケーケー社製のpHメータHM-30Rを使用して測定した。
【0093】
[平均二次粒子径]
平均二次粒子径は、レーザー散乱・回折式の粒度分布測定装置(堀場製作所製、装置名:LA-920)を使用して測定した。
【0094】
[研磨特性]
研磨特性は、全自動CMP装置FREX300(荏原製作所製)を用いて評価した。研磨パッドは、2層パッド(Rodel 社製IC-1570)、研磨パッドのコンディショニングには、ダイヤモンドパッドコンディショナー(スリーエム社製、商品名:A165)を使用した。研磨条件は、研磨圧力を21kPa、研磨定盤の回転数を100rpm、研磨ヘッドの回転数を102rpmとした。また研磨剤の供給速度は、特に断らない限り250ミリリットル/分とした。
【0095】
研磨速度および選択比の評価のための研磨対象物(被研磨物)として、12インチシリコン基盤上に、テトラエトキシシランまたはモノシランを原料にプラズマCVDにより二酸化ケイ素膜が成膜された二酸化ケイ素膜付きウェハを使用した。また、同様にCVDにより窒化ケイ素膜が成膜された窒化ケイ素膜付きウェハ(以下、これらを「ブランケットウェハ」という。)を用いた。
【0096】
なお、ブランケットウェハ上に成膜された二酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜の膜厚の測定には、SCREEN社の膜厚計VM-3210を使用した。ブランケットウェハの研磨前の膜厚と1分間研磨後の膜厚との差を求めることで、それぞれ二酸化ケイ素膜、および窒化ケイ素膜の研磨速度を算出した。基板の面内49点の研磨速度より得られた研磨速度の平均値(nm/分)を、研磨速度の評価指標とした。また、二酸化ケイ素膜の研磨速度と窒化ケイ素膜の研磨速度の比率(二酸化ケイ素膜の研磨速度/窒化ケイ素膜の研磨速度)を選択比として算出した。
【0097】
表1にまとめた結果は、本発明の研磨剤を用いて、ブランケットウェハを研磨することで二酸化ケイ素に対する高い研磨速度が得られ、かつ窒化ケイ素に対する二酸化ケイ素の極めて高い選択比を有することを実施例である例10~12と、比較例である例1~9および13~18を用いて実証している。
【0098】
(水溶性ポリマーおよび比較例の水溶性ポリマー)
以下の各例に用いた単量体(A)と単量体(B)の共重合体からなる水溶性ポリマー(実施例用水溶性ポリマー)および比較例用の水溶性ポリマーの分子構成を以下に示す。
【0099】
(実施例用水溶性ポリマー)
水溶性ポリマーA;単量体(A)であるマレイン酸アルキル(ただし、アルキルは炭素数19-20の直鎖アルキル)エステルアンモニウム塩と、単量体(B)であるスチレンとの50:50(モル比)共重合体。Mwは3000である。
水溶性ポリマーB;単量体(A)であるマレイン酸2-ブトキシエチルエステルアンモニウム塩と、単量体(B)であるスチレンとの50:50(モル比)共重合体。Mwは7000である。
【0100】
水溶性ポリマーC;単量体(A)であるマレイン酸アンモニウム塩と、単量体(B)であるオクテン(C16)との共重合体。
水溶性ポリマーD;単量体(A)であるマレイン酸アンモニウム塩と、単量体(B)であるイソブチレンとの共重合体。Mwは55000-65000である。
水溶性ポリマーE;単量体(A)であるマレイン酸アンモニウム塩と、単量体(B)であるスチレンとの共重合体。Mwは600,000である。
水溶性ポリマーF;単量体(A)であるマレイン酸1-プロピルエステル(付加物は想定)アンモニウム塩と、単量体(B)であるスチレンとの33:66(モル比)共重合体。Mwは9000である。
上記においてマレイン酸エステルアンモニウム塩におけるエステルとアンモニウム塩の割合はいずれの単量体(A)においても、1:1である。
【0101】
(比較例用の水溶性ポリマー)
水溶性ポリマーG;アクリル酸アンモニウム塩の単独重合体。Mwは5000である。
水溶性ポリマーH;マレイン酸の単独重合体。
【0102】
[例1]
平均粒子径の異なる2種類の酸化セリウム粒子と、分散剤である分子量5000のポリアクリル酸アンモニウムとを、100:0.7の質量比になるように、脱イオン水に加えて撹拌しながら混合し、超音波分散、フィルタリングを施して、酸化セリウム粒子の濃度が10%、分散剤の濃度が0.07%の酸化セリウム粒子分散液を調製した。なお、酸化セリウム粒子の平均二次粒子径は0.11μmのもの(以下、酸化セリウム分散液Aと示す。)と、0.18μmもの(以下、酸化セリウム分散液Bと示す。)であった。
【0103】
次に、脱イオン水に、水溶性ポリマーAを研磨剤の全量に対して濃度が0.005%になるように加え、上記酸化セリウム分散液Aを研磨剤の全量に対して、酸化セリウム粒子の濃度が0.25%になるように加え、さらに硝酸を加えてpHが7.0になるよう調整して、研磨剤(1)を得た。
【0104】
[例2~8、10、12~14]
例1と同じ酸化セリウム分散液Aと水溶性ポリマーを、それぞれ表1に示す濃度になるように純水に加えて撹拌し、さらにpH調整剤を加えて表1に示すpHに調整して、研磨剤(2)~(8)、(10)、(12)~(14)を得た。
【0105】
[例9、例11]
酸化セリウム粒子分散液Bと水溶性ポリマーを、それぞれ表1に示す濃度になるように純水に加えて撹拌し、さらにpH調整剤を加えて表1に示すpHに調整して、研磨剤(9)、(10)を得た。
【0106】
[例15]
例1と同じ酸化セリウム分散液Aを、表1に示す濃度になるように純水に加えて撹拌し、水溶性ポリマーを加えることなく、研磨剤(15)を得た。
【0107】
[例16~18]
例1と同じ酸化セリウム分散液Aと水溶性ポリマーを、それぞれ表1に示す濃度になるように純水に加えて撹拌し、さらにpH調整剤を加えて表1に示すpHに調整して、研磨剤(16)~(18)を得た。
【0108】
例1~18で得られた研磨剤(1)~(18)の研磨特性(二酸化ケイ素膜の研磨速度、窒化ケイ素膜の研磨速度、および選択比)を、それぞれ上記方法で測定した。なお、研磨特性の測定には、研磨対象物(被研磨物)として、ブランケットウェハを用いた。
【0109】
【表1】
【0110】
[保存安定性]
脱イオン水に、下記表2に示す水溶性ポリマーを研磨剤の全量に対して濃度が0.2%になるように加え、上記酸化セリウム分散液Aを研磨剤の全量に対して、酸化セリウム粒子の濃度が1.0%になるように加え、さらに硝酸を加えて指定のpHになるよう調整した研磨剤を、25℃前後の室温下に保存して、pHの経時変化を確認し保存安定性の試験とした。結果を表2に示す。
【0111】
【表2】
【0112】
表1および表2から、以下のことがわかる。すなわち、酸化セリウム粒子と、不飽和ジカルボン酸、その誘導体、およびそれらの塩から選ばれる単量体(A)と、エチレン性二重結合を含み、酸性基を含まない、単量体(A)以外の単量体(B)との共重合体である水溶性ポリマーと、水とを含有し、pHが4以上9以下である例1~14の研磨剤(1)~(14)を用いて研磨を行うことで、二酸化ケイ素膜に対する高い研磨速度が得られ、かつ二酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜との選択比が高くなることがわかる。単量体(A)がエステル誘導体の場合、選択比を高くできる。単量体(B)が環状構造の場合、保存安定性を高くできる。
【0113】
それに対して、単量体(A)と単量体(B)との共重合体である水溶性ポリマーを含まない研磨剤(15)では、二酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜との選択比が、実施例である例1~14の研磨剤(1)~(14)を用いた場合に比べて低くなることがわかる。
【0114】
また構造としては近いが単量体(A)と単量体(B)との共重合体ではない水溶性ポリマーを用いた研磨剤(16)ならびに研磨剤(17)も、二酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜との選択比が、例1~14の研磨剤(1)~(14)を用いた場合に比べて低くなることがわかる。さらに、単量体(A)と単量体(B)との共重合体である水溶性ポリマーを含んでいるが、pHが10以上である研磨剤(18)を用いた場合も、二酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜との選択比が、例1~14の研磨剤(1)~(14)を用いた場合に比べて低くなることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明によれば、例えば、酸化ケイ素からなる面を含む被研磨面のCMPにおいて、酸化ケイ素膜に対する十分に高い研磨速度を維持しながら、窒化ケイ素膜の研磨速度を低く抑え、酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜との高い選択比を達成することができる。したがって、本発明の研磨剤および研磨方法は、半導体デバイス製造におけるSTI用絶縁膜の平坦化に好適している。
【符号の説明】
【0116】
1…シリコン基板、2…窒化ケイ素膜、3…トレンチ、4…酸化ケイ素膜、20…研磨装置、21…半導体基板、22…研磨ヘッド、23…研磨定盤、24…研磨パッド、25…研磨剤、26…研磨剤供給配管。
図1
図2