IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社SUMCOの特許一覧

<>
  • 特許-シリコン単結晶の製造方法 図1
  • 特許-シリコン単結晶の製造方法 図2
  • 特許-シリコン単結晶の製造方法 図3
  • 特許-シリコン単結晶の製造方法 図4
  • 特許-シリコン単結晶の製造方法 図5
  • 特許-シリコン単結晶の製造方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】シリコン単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20241008BHJP
   C30B 15/04 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C30B29/06 502H
C30B15/04
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022553849
(86)(22)【出願日】2021-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2021034487
(87)【国際公開番号】W WO2022071014
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2020163638
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】小林 省吾
(72)【発明者】
【氏名】深津 宣人
(72)【発明者】
【氏名】金原 崇浩
(72)【発明者】
【氏名】山本 瞳
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-525308(JP,A)
【文献】特開2016-060667(JP,A)
【文献】特開2014-125402(JP,A)
【文献】国際公開第2009/025336(WO,A1)
【文献】特表2014-511146(JP,A)
【文献】特開2012-206874(JP,A)
【文献】特開2018-140915(JP,A)
【文献】特開2015-101498(JP,A)
【文献】特開2004-307305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主ドーパントを含むシリコン融液を生成する溶融工程と、
前記シリコン融液からシリコン単結晶を引き上げる結晶引き上げ工程とを備え、
前記結晶引き上げ工程は、前記主ドーパントと反対の導電型を有する副ドーパントを前記シリコン融液に投下する少なくとも1回の追加ドープ工程を含み、
前記副ドーパントを投下していない第1期間中に引き上げ炉内に供給するArガスの流量を第1流量に設定し、
前記副ドーパントを投下している期間を含む第2期間中に前記引き上げ炉内に供給する前記Arガスの流量を前記第1流量よりも大きい第2流量に設定することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記第1流量に対する前記第2流量の増加量は、室温且つ大気圧下での換算流量で40L/min以上300L/min以下である、請求項1に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記第2流量は、室温且つ大気圧下での換算流量で120L/min以上である、請求項1又は2に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記第2流量は、前記第1流量の1.5倍以上5倍以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記追加ドープ工程は、前記副ドーパントの投下を開始する前に前記Arガスの流量を前記第2流量まで増加し、前記副ドーパントの投下が終了した後に前記Arガスの流量を前記第1流量に戻す、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記第1期間中に前記引き上げ炉内の圧力を第1炉内圧に設定し、
前記第2期間中に前記引き上げ炉内の前記圧力を前記第1炉内圧よりも低い第2炉内圧に設定する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項7】
前記第1炉内圧に対する前記第2炉内圧の減少量は、1Torr以上10Torr以下である、請求項6に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項8】
前記シリコン融液から引き上げられた前記シリコン単結晶を取り囲むように前記シリコン融液の上方に略円筒状の熱遮蔽部材を配置する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項9】
前記シリコン単結晶中の酸素濃度が6×1017atoms/cm(ASTM F-121,1979)以下である、請求項1乃至8のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項10】
前記シリコン単結晶の電気抵抗率が10Ωcm以上1000Ωcm以下である、請求項1乃至9のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項11】
主ドーパントを含むシリコン融液を生成する溶融工程と、
前記シリコン融液からシリコン単結晶を引き上げる結晶引き上げ工程とを備え、
前記結晶引き上げ工程は、前記主ドーパントと反対の導電型を有する副ドーパントを前記シリコン融液に投下する少なくとも1回の追加ドープ工程を含み、
前記副ドーパントを投下していない第1期間中に引き上げ炉内の圧力を第1炉内圧に設定し、
前記副ドーパントを投下している期間を含む第2期間中に前記引き上げ炉内の前記圧力を前記第1炉内圧よりも低い第2炉内圧に設定することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項12】
前記第1炉内圧に対する前記第2炉内圧の減少量は、1Torr以上10Torr以下である、請求項11に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(CZ法)によるシリコン単結晶の製造方法に関し、特に、結晶引き上げ工程の途中でドーパントを追加供給する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの基板材料となるシリコン単結晶の多くはCZ法により製造されている。CZ法は、石英ルツボ内に収容されたシリコン融液に種結晶を浸漬し、種結晶及び石英ルツボを回転させながら種結晶を徐々に引き上げることにより、種結晶の下方に大きな直径の単結晶を成長させる。CZ法によれば、高品質のシリコン単結晶を高い歩留まりで製造することが可能である。
【0003】
シリコン単結晶の育成では、単結晶の電気抵抗率(以下、単に抵抗率と称す)を調整するために各種のドープ剤(ドーパント)が使用される。代表的なドーパントは、ボロン(B)、リン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)などである。通常、これらのドーパントは、多結晶シリコン原料と共に石英ルツボ内に投入され、ヒータによる加熱で多結晶シリコンと共に融解される。これにより、所定量のドーパントを含んだシリコン融液が生成される。
【0004】
しかし、シリコン単結晶中のドーパント濃度は偏析によって引き上げ軸方向に変化するため、引き上げ軸方向に均一な抵抗率を得ることが難しい。この問題を解決するには、シリコン単結晶の引き上げ途中でドーパントを供給する方法が有効である。例えば、n型シリコン単結晶の引き上げ途中でシリコン融液にp型トーパントを加えることにより、n型ドーパントの偏析の影響によるシリコン単結晶の抵抗率の低下を抑制することができる。このような主ドーパントと逆の導電型の副ドーパントを追加供給する方法は、カウンタードープと呼ばれている。
【0005】
カウンタードープ技術に関し、例えば特許文献1には、初期に投入した型(例えばn型)と反対の型(例えばp型)のドーパントの投入速度が所定の関係式を満たすようにドーパントを添加することが記載されている。また特許文献2には、副ドーパントを含む棒状シリコン結晶を原料融液へ挿入することで、育成されるシリコン単結晶の軸方向の抵抗率を制御する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平3-247585号公報
【文献】特開2016-216306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、石英ルツボ内のシリコン融液に粒状のドーパントを投下するカウンタードープでは、固体のドーパントが融液に溶けきる前に固液界面に取り込まれ、シリコン単結晶が有転位化するという問題がある。このような有転位化の問題は、単結晶の低酸素化のため引き上げ炉内に導入するArガスの流量を少なくするIGBT用シリコン単結晶の引き上げにおいて顕著であり、改善が求められている。
【0008】
したがって、本発明の目的は、結晶引き上げ途中で副ドーパントを投下するカウンタードープ法において単結晶の有転位化を防止することが可能なシリコン単結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明によるシリコン単結晶の製造方法は、主ドーパントを含むシリコン融液を生成する溶融工程と、前記シリコン融液からシリコン単結晶を引き上げる結晶引き上げ工程とを備え、前記結晶引き上げ工程は、副ドーパントを前記シリコン融液に投下する少なくとも1回の追加ドープ工程を含み、前記副ドーパントを投下していない第1期間中に引き上げ炉内に供給するArガスの流量を第1流量に設定し、前記副ドーパントを投下している期間を含む第2期間中に前記引き上げ炉内に供給する前記Arガスの流量を前記第1流量よりも大きい第2流量に設定することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、シリコン融液に投下した副ドーパントが未溶融の状態で固液界面に到達してシリコン単結晶中に取り込まれることによるシリコン単結晶の有転位化を防止することができる。
【0011】
本発明において、前記第1流量に対する前記第2流量の増加量は、室温且つ大気圧下での換算流量で40L/min以上300L/min以下であることが好ましい。40L/min未満の場合、効果が小さく、300L/min超の場合、液面温度の低下を招き単結晶の有転位化の恐れがある。特に、前記第1流量に対する前記第2流量の増加量は80L/min以上160L/min以下が好ましい。また、前記第2流量は、室温且つ大気圧下での換算流量で120L/min以上であることが好ましく、前記第1流量の1.5倍以上5倍以下であることが好ましく、特に2倍以上3倍以下が好ましい。これにより、未溶融の副ドーパントが固液界面に取り込まれることによるシリコン単結晶の有転位化を防止することができる。
【0012】
本発明において、前記追加ドープ工程は、前記副ドーパントの投下を開始する前に前記Arガスの流量を前記第2流量まで増加し、前記副ドーパントの投下が終了した後に前記Arガスの流量を前記第1流量に戻すことが好ましい。これにより、シリコン融液に投下したドーパントが未溶融の状態で固液界面に取り込まれる確率をさらに低減することができる。
【0013】
本発明において、前記第1期間中に前記引き上げ炉内の圧力を第1炉内圧に設定し、前記第2期間中に前記引き上げ炉内の前記圧力を前記第1炉内圧よりも低い第2炉内圧に設定することが好ましい。Arガス流量と同時に炉内圧も変更することで有転位化の確率をさらに低減することができる。
【0014】
本発明において、前記第1炉内圧に対する前記第2炉内圧の減少量は、1Torr以上10Torr以下であることが好ましい。一般的に第1炉内圧は数十Torrである場合が多く、第2炉内圧の減少量を10Torr超とすると、第2炉内圧が低くなり過ぎて引き上げている単結晶の有転位化を招くおそれがある。また、第2炉内圧の減少量を1Torr未満とすると、第2炉内圧は第1炉内圧とほとんど変わらないため、有転位化の確率を低減する効果を得にくくなる。これに対し、第1炉内圧に対する第2炉内圧の減少量が1Torr以上10Torr以下であれば、単結晶の有転位化の確率をさらに低減することができる。
【0015】
本発明によるシリコン単結晶の製造方法は、前記シリコン融液から引き上げられた前記シリコン単結晶を取り囲むように前記シリコン融液の上方に略円筒状の熱遮蔽部材を配置し、前記熱遮蔽部材の下端と融液面との間のギャップを通過する前記Arガスの流速を制御しながら前記シリコン単結晶を引き上げることが好ましい。熱遮蔽部材が設置された炉内で酸素濃度が低いシリコン単結晶を引き上げる場合、前記熱遮蔽部材の下端と融液面との間のギャップを流れるArガスの流速を精密に制御する必要がある。本発明によれば、カウンタードープ中のArガス流量を増加させることにより、シリコン融液の液面近傍においてシリコン単結晶の中心側から外側に向かって流れるArガスの流速を強めることができ、未溶融のドーパントが固液界面に近づくことを防止することができる。特に熱遮蔽部材の下端よりも石英ルツボ側に副ドーパントを投下する場合、熱遮蔽部材の下端と融液面との間のギャップを通過するシリコン単結晶の中心軸側から外側に向かうArガスの流速を強めることができ、未溶融のドーパントが固液界面に近づくことを防止する上で効果的である。
【0016】
本発明において、前記シリコン単結晶中の酸素濃度は6×1017atoms/cm(ASTM F-121,1979)以下であることが好ましく、4×1017atoms/cm(ASTM F-121,1979)以下であることが特に好ましい。また、前記シリコン単結晶の電気抵抗率は10Ωcm以上1000Ωcm以下であることが好ましく、20Ωcm以上100Ωcm以下であることが特に好ましい。このように、酸素濃度が低くかつ抵抗率範囲が狭いシリコン単結晶を引き上げる場合には、結晶引き上げ工程中の炉内のArガス流量を少なくする必要があり、Arガス流量が少ない条件下でカウンタードープを実施した場合にはシリコン単結晶の有転位化の確率が高くなる。しかし、本発明のようにカウンタードープ工程中のみArガス流量を増加させた場合には、シリコン単結晶の有転位化の確率を低くすることができる。
【0017】
また、本発明によるシリコン単結晶の製造方法は、主ドーパントを含むシリコン融液を生成する溶融工程と、前記シリコン融液からシリコン単結晶を引き上げる結晶引き上げ工程とを備え、前記結晶引き上げ工程は、副ドーパントを前記シリコン融液に投下する少なくとも1回の追加ドープ工程を含み、前記副ドーパントを投下していない第1期間中に引き上げ炉内の圧力を第1炉内圧に設定し、前記副ドーパントを投下している期間を含む第2期間中に前記引き上げ炉内の前記圧力を前記第1炉内圧よりも低い第2炉内圧に設定することを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、シリコン融液に投下した副ドーパントが未溶融の状態で固液界面に到達してシリコン単結晶中に取り込まれることによるシリコン単結晶の有転位化を防止することができる。
【0019】
本発明において、前記第1炉内圧に対する前記第2炉内圧の減少量は、1Torr以上10Torr以下であることが好ましい。一般的に第1炉内圧は数十Torrである場合が多く、第2炉内圧の減少量を10Torr超とすると、第2炉内圧が低くなり過ぎて引き上げている単結晶の有転位化を招くおそれがある。また、第2炉内圧の減少量を1Torr未満とすると、第2炉内圧は第1炉内圧とほとんど変わらないため、有転位化の確率を低減する効果を得にくくなる。これに対し、第1炉内圧に対する第2炉内圧の減少量が1Torr以上10Torr以下であれば、単結晶の有転位化の確率をさらに低減することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、結晶引き上げ途中で副ドーパントを投下するカウンタードープ法において単結晶の有転位化を防止することが可能なシリコン単結晶の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の実施の形態による単結晶製造装置の構成を示す略断面図である。
図2図2は、本発明の実施の形態によるシリコン単結晶の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図3図3は、カウンタードープ工程を含む直胴部育成工程S16を説明するためのフローチャートである。
図4図4は、ドーパント投下期間とArガス流量及び炉内圧との関係を示すグラフである。
図5図5は、2回のカウンタードープを実施したときのシリコン単結晶中の抵抗率の変化を示すグラフである。
図6図6は、実施例によるシリコン単結晶の抵抗率を四探針法にて測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施の形態による単結晶製造装置の構成を示す略断面図である。
【0024】
図1に示すように、単結晶製造装置1は、シリコン単結晶2の引き上げ炉を構成するチャンバー10と、チャンバー10内に設置された石英ルツボ12と、石英ルツボ12を支持するグラファイト製のサセプタ13と、サセプタ13を昇降及び回転可能に支持するシャフト14と、サセプタ13の周囲に配置されたヒータ15と、石英ルツボ12の上方に配置された熱遮蔽部材16と、石英ルツボ12の上方であってシャフト14と同軸上に配置された単結晶引き上げワイヤー17と、チャンバー10の上方に配置されたワイヤー巻き取り機構18と、石英ルツボ12内にドーパント原料5を供給するドーパント供給装置20と、各部を制御する制御部30とを備えている。
【0025】
チャンバー10は、メインチャンバー10aと、メインチャンバー10aの上部開口を覆うトップチャンバー10bと、トップチャンバー10bの上部開口に連結された細長い円筒状のプルチャンバー10cとで構成されており、石英ルツボ12、サセプタ13、ヒータ15及び熱遮蔽部材16はメインチャンバー10a内に設けられている。サセプタ13はチャンバー10の底部中央を貫通して鉛直方向に設けられたシャフト14の上端部に固定されており、シャフト14はシャフト駆動機構19によって昇降及び回転駆動される。
【0026】
ヒータ15は、石英ルツボ12内に充填された多結晶シリコン原料を融解してシリコン融液3を生成するために用いられる。ヒータ15はカーボン製の抵抗加熱式ヒータであり、サセプタ13内の石英ルツボ12を取り囲むように設けられている。ヒータ15の外側には断熱材11が設けられている。断熱材11はメインチャンバー10aの内壁面に沿って配置されており、これによりメインチャンバー10a内の保温性が高められている。
【0027】
熱遮蔽部材16は、ヒータ15及び石英ルツボ12からの輻射熱によってシリコン単結晶2が加熱されることを防止すると共に、シリコン融液3の温度変動を抑制するために設けられている。熱遮蔽部材16は上方から下方に向かって直径が縮小した略円筒状の部材であり、シリコン融液3の上方を覆うと共に、育成中のシリコン単結晶2を取り囲むように設けられている。熱遮蔽部材16の材料としてはグラファイトを用いることが好ましい。熱遮蔽部材16の中央にはシリコン単結晶2の直径よりも大きな開口部が設けられており、シリコン単結晶2の引き上げ経路が確保されている。図示のように、シリコン単結晶2は開口部を通って上方に引き上げられる。熱遮蔽部材16の開口の直径は石英ルツボ12の口径よりも小さく、熱遮蔽部材16の下端部は石英ルツボ12の内側に位置するので、石英ルツボ12のリム上端を熱遮蔽部材16の下端よりも上方まで上昇させても熱遮蔽部材16が石英ルツボ12と干渉することはない。
【0028】
シリコン単結晶2の成長と共に石英ルツボ12内の融液量は減少するが、融液面と熱遮蔽部材16との間隔(ギャップ)が一定になるように石英ルツボ12の上昇を制御することにより、シリコン融液3の温度変動を抑制すると共に、融液面近傍(パージガス誘導路)を流れるArガスの流速を一定にしてシリコン融液3からのドーパントの蒸発量を制御することができる。したがって、単結晶の引き上げ軸方向の結晶欠陥分布、酸素濃度分布、抵抗率分布等の安定性を向上させることができる。
【0029】
石英ルツボ12の上方には、シリコン単結晶2の引き上げ軸であるワイヤー17と、ワイヤー17を巻き取るワイヤー巻き取り機構18が設けられている。ワイヤー巻き取り機構18はワイヤー17と共にシリコン単結晶2を回転させる機能を有している。ワイヤー巻き取り機構18はプルチャンバー10cの上方に配置されており、ワイヤー17はワイヤー巻き取り機構18からプルチャンバー10c内を通って下方に延びており、ワイヤー17の先端部はメインチャンバー10aの内部空間まで達している。図1には、育成途中のシリコン単結晶2がワイヤー17に吊設された状態が示されている。単結晶の引き上げ時には種結晶をシリコン融液3に浸漬し、石英ルツボ12と種結晶をそれぞれ回転させながらワイヤー17を徐々に引き上げることにより単結晶を成長させる。
【0030】
プルチャンバー10cの上部にはチャンバー10内にArガス(パージガス)を導入するためのガス吸気口10dが設けられており、メインチャンバー10aの底部にはチャンバー10内のArガスを排気するためのガス排気口10eが設けられている。ここで、Arガスとは、ガスの主成分(50vol.%超)がアルゴンであるものを意味し、水素や窒素といったガスを含んでも構わない。
【0031】
Arガス供給源31はマスフローコントローラ32を介してガス吸気口10dに接続されており、Arガス供給源31からのArガスはガス吸気口10dからチャンバー10内に導入され、その導入量はマスフローコントローラ32により制御される。また密閉されたチャンバー10内のArガスはガス排気口10eからチャンバー10の外部へ排気されるので、チャンバー10内のSiOガスやCOガスを回収してチャンバー10内を清浄に保つことが可能となる。ガス吸気口10dからガス排気口10eに向かうArガスは、熱遮蔽部材16の開口を通過し、融液面に沿って引き上げ炉の中心部から外側に向かい、さらに降下してガス排気口10eに到達する。
【0032】
ガス排気口10eには配管を介して真空ポンプ33が接続されており、真空ポンプ33でチャンバー10内のArガスを吸引しながらバルブ34でその流量を制御することでチャンバー10内は一定の減圧状態に保たれている。チャンバー10内の気圧は圧力計によって測定され、ガス排気口10eからのArガスの排気量はチャンバー10内の気圧が一定となるように制御される。
【0033】
ドーパント供給装置20は、チャンバー10の外側からその内部に引き込まれたドーパント供給管21と、チャンバー10の外側に設置され、ドーパント供給管21の上端に接続されたドーパントホッパー22と、ドーパント供給管21が貫通するトップチャンバー10bの開口部10fを密閉するシールキャップ23とを備えている。
【0034】
ドーパント供給管21は、ドーパントホッパー22の設置位置からトップチャンバー10bの開口部10fを通って石英ルツボ12内のシリコン融液3の直上まで到達する配管である。シリコン単結晶2の引き上げ途中において、ドーパント供給装置20から石英ルツボ12内のシリコン融液3にドーパント原料5が追加供給される。ドーパントホッパー22から排出されたドーパント原料5は、ドーパント供給管21を通ってシリコン融液3に供給される。
【0035】
ドーパント供給装置20から供給されるドーパント原料5は、副ドーパントを含む粒状シリコンである。このようなドーパント原料5は、副ドーパントを高濃度に含むシリコン結晶を例えばCZ法により育成した後、細かく破砕して作製される。ただし、カウンタードープに用いるドーパント原料5は副ドーパントを含むシリコンに限定されず、ドーパント単体であってもよく、ドーパント原子を含む化合物であってもよい。またドーパント原料5の形状は粒状に限定されず、板状や棒状であってもよい。
【0036】
図2は、本発明の実施の形態によるシリコン単結晶の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0037】
図2に示すように、シリコン単結晶2の製造では、まず石英ルツボ12内に主ドーパントと共に多結晶シリコン原料を充填する(原料充填工程S11)。n型シリコン単結晶を引き上げる場合の主ドーパントは例えばリン(P)、ヒ素(As)あるいはアンチモン(Sb)であり、p型シリコン単結晶を引き上げる場合の主ドーパントは例えばボロン(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)あるいはインジウム(In)である。次に、石英ルツボ12内の多結晶シリコンをヒータ15で加熱して溶融し、主ドーパントを含むシリコン融液3を生成する(溶融工程S12)。
【0038】
次に、ワイヤー17の先端部に取り付けた種結晶を降下させてシリコン融液3に着液させる(ステップS13)。その後、シリコン融液3との接触状態を維持しながら種結晶を徐々に引き上げて単結晶を成長させる結晶引き上げ工程(ステップS14~S17)を実施する。
【0039】
結晶引き上げ工程では、無転位化のために結晶直径が細く絞られたネック部を形成するネッキング工程S14と、結晶直径が徐々に大きくなったショルダー部を形成するショルダー部育成工程S15と、結晶直径が規定の直径(例えば約300mm)に維持された直胴部を形成する直胴部育成工程S16と、結晶直径が徐々に小さくなったテール部を形成するテール部育成工程S17が順に実施され、最終的には単結晶が融液面から切り離される。以上により、シリコン単結晶インゴットが完成する。
【0040】
直胴部育成工程S16は、シリコン単結晶2に含まれる主ドーパントと反対の導電型を有する副ドーパントをシリコン融液3中に投入する少なくとも1回のカウンタードープ工程(追加ドープ工程)を有することが好ましい。これにより、シリコン単結晶2の直胴部の結晶長手方向における抵抗率の変化を抑制することができる。
【0041】
IGBT用シリコン単結晶中の酸素濃度は6×1017atoms/cm(ASTM F-121,1979)以下であることが好ましく、4×1017atoms/cm(ASTM F-121,1979)以下であることが特に好ましい。また、IGBT用シリコン単結晶の抵抗率は10Ωcm以上1000Ωcm以下であることが好ましく、20Ωcm以上100Ωcm以下であることが特に好ましい。
【0042】
このように、酸素濃度が低くかつ抵抗率範囲が狭いIGBT用シリコン単結晶の引き上げでは、引き上げ炉の中心軸側から外側に向かう融液面に沿ったArガスの流速を遅くすることが好ましく、このような炉内条件下で追加ドープを実施した場合にはシリコン単結晶の有転位化の確率が高くなる。しかし、本実施形態のようにカウンタードープ工程中の炉内条件を変更した場合には、シリコン単結晶の有転位化の確率を低くすることができる。
【0043】
図3は、カウンタードープ工程を含む直胴部育成工程S16を説明するためのフローチャートである。
【0044】
図3に示すように、直胴部育成工程S16の開始時には、Arガス流量及び炉内圧がシリコン単結晶の育成に適した値にそれぞれ設定される(ステップS21)。例えば、IGBT用シリコン単結晶の場合、抵抗率が低く、且つ格子間酸素濃度が低いことが求められる。このようなシリコン単結晶を育成するためには、一般的な半導体デバイス用のシリコン単結晶よりもArガス流量を小さくする必要がある。通常の直胴部育成工程S16に必要なArガス流量を第1流量F、炉内圧を第1炉内圧Pとする。
【0045】
シリコン単結晶中のドーパント濃度は結晶引き上げが進むにつれて上昇するため、所望の抵抗率範囲から外れてしまう。そのため、工程中、カウンタードープが必要なタイミングになると、カウンタードープを開始する(ステップS22Y,S23~S25)。
【0046】
カウンタードープでは、シリコン融液3に副ドーパントを含むドーパント原料5を投下する(ステップS24)。n型シリコン単結晶を引き上げる場合の副ドーパントは例えばボロン(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)あるいはインジウム(In)であり、p型シリコン単結晶を引き上げる場合の副ドーパントは例えばリン(P)、ヒ素(As)あるいはアンチモン(Sb)である。
【0047】
ドーパント投下期間中は、Arガス流量及び炉内圧がカウンタードープに適した値にそれぞれ変更される。ドーパント投下期間(第2期間)中のArガス流量F(第2流量)は、通常の結晶引き上げ期間(第1期間)中のArガス流量F(第1流量)よりも大きい値(F>F)に設定される。またカウンタードープ期間中の炉内圧P(第2炉内圧)は、通常の結晶引き上げ期間中の炉内圧P(第1炉内圧)よりも低い値(P<P)に設定される。なお、ドーパント投下期間とは、狭義にはドーパント原料5を実際に投下している期間であるが、広義にはシリコン融液中に投下したドーパントが溶け切って有転位化の問題が生じなくなるまでに必要な期間のことを言う。
【0048】
Arガス流量Fに対するArガス流量Fの増加量は、室温且つ大気圧下での換算流量で40L/min以上300L/min以下であることが好ましい。また、Arガス流量Fは、室温且つ大気圧下での換算流量で120L/min以上であることが好ましく、Arガス流量Fの1.5倍以上5倍以下であることが好ましい。これにより、未溶融の副ドーパントが固液界面に取り込まれることによるシリコン単結晶の有転位化を防止することができる。
【0049】
炉内圧Pに対する炉内圧Pの減少量は、1Torr以上10Torr以下であることが好ましい。Arガス流量と同時に炉内圧も変更することで有転位化の確率をさらに低減することができる。
【0050】
カウンタードープが終了すると、通常の結晶引き上げ期間(第1期間)中のArガス流量F及び炉内圧Pに戻され、直胴部の育成を継続する(ステップS25,S26)。
【0051】
カウンタードープ工程は求められる結晶長さに応じて繰り返し行われる(ステップS27Y,S22Y,S23~S25)。カウンタードープ終了後も直胴部の育成を継続し、カウンタードープが再び必要なタイミングになると、カウンタードープを開始する。カウンタードープの繰り返し回数は予め決められており、規定回数のカウンタードープが終了するまで繰り返し行われる。カウンタードープ中は毎回、Arガス流量及び炉内圧をカウンタードープに適した値(F,P)にそれぞれ変更する。こうして、規定回数のカウンタードープを行いながら所望の長さのシリコン単結晶を引き上げることにより、抵抗率の引き上げ軸方向の変化が小さなシリコン単結晶の歩留まりを高めることができる。
【0052】
図4は、ドーパント投下期間とArガス流量及び炉内圧との関係を示すグラフである。
【0053】
図4に示すように、ドーパント投下期間中はArガス流量を増加させると共に、炉内圧を減少させる。例えば、ドーパント投下期間(第2期間)中のArガス流量は、ドーパントを投下していない通常の引き上げ期間(第1期間)におけるArガス流量の2倍に設定される。また、ドーパント投下期間(第2期間)における炉内圧は、通常の引き上げ期間(第1期間)における炉内圧の80%に設定される。
【0054】
チャンバー10内に導入するArガスの流量を増加させると、チャンバー10の中心側から外側に向かって流れる融液面に沿ったArガスの流速が速くなるので、融液面近傍に漂う未溶融のドーパントがシリコン単結晶2とシリコン融液3との固液界面に近づくことを抑制することができる。炉内圧を高くした場合も同様に、チャンバー10の中心側から外側に向かって流れる融液面に沿ったArガスの流速が速くなるので、ドーパントが固液界面に近づくことを抑制することができる。したがって、Arガス流量及び炉内圧を一時的に変化させることにより、ドーパントがシリコン単結晶2とシリコン融液3との固液界面に取り込まれることによる単結晶の有転位化を防止することができる。
【0055】
図5は、2回のカウンタードープを実施したときのシリコン単結晶中の抵抗率の変化を示すグラフであって、横軸は結晶長(直胴部の全長を1としたときの相対値)、縦軸は抵抗率(相対値)をそれぞれ示している。
【0056】
図5に示すように、主ドーパントとしてリンを単独でドープしたシリコン単結晶の場合、シリコン単結晶の抵抗率は引き上げ開始時が最も高く、引き上げが進むにつれて徐々に低下するだけであるため、結晶長が約0.44を超えたところで抵抗率が規格から外れることになる。
【0057】
しかし、1回目のカウンタードープを結晶長が約0.44の位置で実施し、2回目カウンタードープを結晶長が0.63の位置で実施することにより、抵抗率が規格内に収まる単結晶の長さをできるだけ長くすることができる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態によるシリコン単結晶の製造方法は、シリコン単結晶の引き上げ工程中にシリコン単結晶の主ドーパントと逆導電型の副ドーパントをシリコン融液に投下する工程を含み、副ドーパント投下期間中のArガス流量を副ドーパント非投下期間中よりも大きくし、炉内圧を低くしているので、単結晶の有転位化を防止することができる。
【0059】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【実施例
【0060】
(比較例)
リン(P)を主ドーパントとするn型シリコン単結晶の直胴部育成工程中にArガス流量及び炉内圧を変更することなくカウンタードープを行った。カウンタードープでは、Pの偏析による抵抗率の変化を予測し、抵抗率が規格から外れる直前で副ドーパントであるボロン(B)を投下した。その結果、副ドーパントの投下直後にシリコン単結晶の有転位化が発生した。
【0061】
(実施例)
リン(P)を主ドーパントとするn型シリコン単結晶の直胴部育成工程の途中で2回のカウンタードープを行った。カウンタードープ時にはArガス流量を通常時の2倍まで増加させ、このArガス流量が増加した状態を15分間維持した後、通常時のArガス流量に戻した(図4参照)。またこれと同じタイミングで炉内圧を通常時よりも5Torr低下させ、この炉内圧が低下した状態を15分間維持した後、通常時の炉内圧に戻した(図4参照)。Arガス流量及び炉内圧の変更(増加及び減少)には20分を要した。副ドーパントの投下は、Arガス流量が増加した状態及び炉内圧が低下した状態が一定に維持された期間中に行った。その結果、シリコン単結晶は有転位化することなく最後まで引き上げることができた。
【0062】
こうして得られたシリコン単結晶の結晶長手方向の抵抗率分布を確認するため、ドーパント投下位置近辺の結晶ブロックを縦割りしてサンプルを取得し、サンプルの厚さが1.0mmとなるように研削加工し、さらに抵抗率測定のためのドナーキラー処理(650℃、40分の熱処理)を行った。
【0063】
続いてサンプルの抵抗率を四探針法にて測定した。抵抗率の測定ピッチは、副ドーパント投下位置近傍では1mmピッチ、それ以外では5mmピッチとした。抵抗率連続測定の結果を図6に示す。図示のように、ドーパント投下直後に抵抗率が上昇し、その後は偏析に従った抵抗率を得た。2回目の副ドーパント投下後の抵抗率は狙いの抵抗率よりも少し低くなったが、概ね良好な結果が得られた。
【0064】
以上のようなカウンタードープを伴うシリコン単結晶の引き上げを4回行ったが、いずれのシリコン単結晶においても有転位化は発生せず、良好な結果が得られた。
【符号の説明】
【0065】
1 単結晶製造装置
2 シリコン単結晶
3 シリコン融液
5 ドーパント(副ドーパント)
10 チャンバー
10a メインチャンバー
10b トップチャンバー
10c プルチャンバー
10d ガス吸気口
10e ガス排気口
10f 開口部
11 断熱材
12 石英ルツボ
13 サセプタ
14 シャフト
15 ヒータ
16 熱遮蔽部材
17 ワイヤー
18 ワイヤー巻き取り機構
19 シャフト駆動機構
20 ドーパント供給装置
21 ドーパント供給管
22 ドーパントホッパー
23 シールキャップ
30 制御部
31 Arガス供給源
32 マスフローコントローラ
33 真空ポンプ
34 バルブ
S11 原料充填工程
S12 溶融工程
S13 着液工程
S14 ネッキング工程
S15 ショルダー部育成工程
S16 直胴部育成工程
S17 テール部育成工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6