IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立化成株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】樹脂
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/00 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
C08F8/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023166256
(22)【出願日】2023-09-27
(62)【分割の表示】P 2020541026の分割
【原出願日】2019-06-17
(65)【公開番号】P2024014872
(43)【公開日】2024-02-01
【審査請求日】2023-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2018164843
(32)【優先日】2018-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一博
(72)【発明者】
【氏名】池谷 達宏
(72)【発明者】
【氏名】中西 健一
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-087725(JP,A)
【文献】特開2005-154708(JP,A)
【文献】特開2005-002064(JP,A)
【文献】特開2009-084435(JP,A)
【文献】特開2000-204130(JP,A)
【文献】特開2017-206637(JP,A)
【文献】国際公開第2008/139679(WO,A1)
【文献】特開2000-072814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/00
C08G 59/42
C08G 18/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1-1)で示される樹脂であって、重量平均分子量が20万~100万であり、ガラス転移温度が-80~0℃である、樹脂。
【化1】
【化2】
(式(1-1)において、k、l、m、nは、k+l+m+n=100としたときのモル組成比を示す。kは0超~92以下である。lは0~50である。mは0超~90以下である。k、l、mの合計は65~95である。nは5~35である。R~Rは-Hまたは-CHである。Rは炭素数1~16のアルキル基である。Rは炭素数3~30の脂環式炭化水素基または芳香族炭化水素基を含有する炭素数6~20の基である。Rは-Hまたは-(CH-COOH(式中のjは1または2である。)である。R8は上記一般式(1-2)または(1-3)である。式(1-2)および(1-3)において、pおよびqは0、1、2から選ばれるいずれかである。sはpが0のときは0であり、pが1または2のときは1である。Rは-Hまたは-CHである。)
【請求項2】
前記式(1-1)におけるnが10~33である請求項1に記載の樹脂。
【請求項3】
前記式(1-1)におけるkが45~90であり、lが4~40であり、mが1~15であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂。
【請求項4】
カルボキシ基含有樹脂(b)と、脂環式エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物(c)との付加反応生成物であり、
前記カルボキシ基含有樹脂(b)が、
カルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a)を含むエチレン性不飽和単量体の重合体である請求項1に記載の樹脂。
【請求項5】
前記カルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a)が、(メタ)アクリル酸及びβ-カルボキシエチル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種である請求項4に記載の樹脂。
【請求項6】
前記カルボキシ基含有樹脂(b)が、
前記カルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a)と、前記カルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a)と共重合可能なエチレン性不飽和単量体(d)とを少なくとも含む原料単量体を共重合したものである請求項4または請求項5に記載の樹脂。
【請求項7】
前記エチレン性不飽和単量体(d)が、イソボルニル(メタ)アクリレート及びベンジル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種である請求項6に記載の樹脂。
【請求項8】
前記脂環式エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物(c)が、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートである請求項4または請求項5に記載の樹脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤組成物および粘着シートに関する。
本出願は、2018年9月3日に日本に出願された特願2018-164843に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体の製造工程などにおいて、様々な粘着シートが用いられている。具体的には、半導体ウエハの裏面研削(バックグラインド)工程においてウエハを保護するための保護シート、半導体ウエハから素子小片への切断分割(ダイシング)工程において用いられる固定用シートなどがある。これらの粘着シートは、被着体である半導体ウエハに貼付され、所定の加工工程が終了した後に被着体から剥離される再剥離型の粘着シートである。
再剥離型の粘着シートの粘着剤層に用いられる粘着剤組成物としては、分子内にエチレン性不飽和基を有し、UV(紫外線)硬化する樹脂を含むものが知られている。
【0003】
特許文献1には、2以上の水酸基を側鎖に有する(メタ)アクリル系ポリマーと、イソシアナト基を有する化合物とを、第1触媒の存在下で反応させ、ウレタン結合を有する(メタ)アクリル系ポリマーを形成する工程、および、該ウレタン結合を有する(メタ)アクリル系ポリマーと、一分子中に2以上のイソシアナト基を有する化合物とを、第2触媒の存在下で反応させ、粘着剤層を形成する工程を含み、第1触媒がジルコニウム、チタン、アルミニウムから選択される少なくとも1種の金属の錯体であり、第2触媒がアミン系触媒である粘着シートの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5996985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
再剥離型の粘着シートには、所定の加工工程を行う際に被着体に対して十分な粘着力を有すること、所定の加工工程が終了した後の被着体から容易に剥離でき(易剥離性)ること、剥離後の被着体に粘着シートの粘着剤層が転写されない(糊残りしない)ことが求められる。
しかしながら、従来の粘着シートは、上記の条件を全て満足するものではなかった。特に、粘着シートを被着体に貼付し、200℃程度の高温で被着体の加工を行ってから、UV照射して剥離した場合に、糊残りが発生しやすいことが問題となっていた。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、粘着シートの粘着剤層を形成する材料として用いることで、被着体に対して十分な粘着力を有し、粘着シートを貼付した被着体を高温状態にしてから室温に戻し、UV照射した後に剥離しても、優れた易剥離性が得られるとともに、糊残りが発生しにくい粘着シートが得られる粘着剤組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、上記粘着剤組成物を含む粘着剤層を有する粘着シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた。その結果、カルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a)を必須単量体成分として重合してなるカルボキシ基含有樹脂(b)と、脂環式エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物(c)との付加反応により得た樹脂(A)と、光重合開始剤(B)とを必須成分として含有する粘着剤組成物を用いればよいことを見出した。
【0008】
樹脂(A)と光重合開始剤(B)とを含有する粘着剤組成物は、樹脂(A)が脂環式化合物に由来する構造を有するため、良好な耐熱性を有する。また、上記粘着剤組成物は、紫外線(UV)を照射することにより樹脂(A)中の不飽和結合が三次元架橋構造を形成して硬化し、粘着力が変化する。具体的には、粘着剤組成物にUVを照射する前には被着体に対して十分な粘着力が得られ、UVを照射した後には粘着力が低下して優れた易剥離性が得られるとともに、剥離後の被着体への糊残りを十分に防止できる。
本発明者は、このような知見に基づいて本発明を想到した。すなわち、本発明は以下の事項に関する。
【0009】
[1]下記一般式(1-1)で示される樹脂(A)と、光重合開始剤(B)とを含むことを特徴とする粘着剤組成物。
【0010】
【化1】
【0011】
【化2】

(式(1-1)において、k、l、m、nは、k+l+m+n=100としたときのモル組成比を示す。kは0超~92以下である。lは0~50である。mは0超~90以下である。k、l、mの合計は65~95である。nは5~35である。R~Rは-Hまたは-CHである。Rは炭素数1~16のアルキル基である。Rは炭素数3~30の脂環式炭化水素基または炭素数6~20の芳香族炭化水素基である。Rは-Hまたは-(CH-COOH(式中のjは1または2である。)である。Rは上記一般式(1-2)または(1-3)である。式(1-2)および(1-3)において、pおよびqは0、1、2から選ばれるいずれかである。sはpが0のときは0であり、pが1または2のときは1である。Rは-Hまたは-CHである。)
【0012】
[2]前記樹脂(A)の重量平均分子量が20万~100万であることを特徴とする[1]に記載の粘着剤組成物。
[3]前記式(1-1)におけるnが10~33である[1]または[2]に記載の粘着剤組成物。
[4]前記式(1-1)におけるkが45~90であり、lが4~40であり、mが1~15であることを特徴とする[1]~[3]の何れかに記載の粘着剤組成物。
【0013】
[5]架橋剤(C)をさらに含有することを特徴とする[1]~[4]の何れかに記載の粘着剤組成物。
[6]前記樹脂(A)のガラス転移温度が-80~0℃であることを特徴とする[1]~[5]の何れかに記載の粘着剤組成物。
【0014】
[7]シート状の基材と、前記基材上に形成された粘着剤層とを有し、前記粘着剤層が、[1]~[6]の何れかに記載の粘着剤組成物を含むことを特徴とする粘着シート。
【発明の効果】
【0015】
本発明の粘着剤組成物を粘着シートの粘着剤層を形成する材料として用いることで、被着体に対して十分な粘着力を有し、粘着シートを貼付した被着体を高温状態にしてから室温に戻し、UV照射した後に剥離しても、優れた易剥離性が得られるとともに、糊残りが発生しにくい粘着シートが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の粘着剤組成物および粘着シートについて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
「粘着剤組成物」
本実施形態の粘着剤組成物は、樹脂(A)と、光重合開始剤(B)とを含む。
(樹脂(A))
本実施形態の粘着剤組成物に含まれる樹脂(A)は、下記一般式(1-1)で示される化合物である。
【0017】
【化3】
【0018】
【化4】
(式(1-1)において、k、l、m、nは、k+l+m+n=100としたときのモル組成比を示す。kは0超~92以下である。lは0~50である。mは0超~90以下である。k、l、mの合計は65~95である。nは5~35である。R~Rは-Hまたは-CHである。Rは炭素数1~16のアルキル基である。Rは炭素数3~30の脂環式炭化水素基または炭素数6~20の芳香族炭化水素基である。Rは-Hまたは-(CH-COOH(式中のjは1または2である。)である。Rは上記一般式(1-2)または(1-3)である。式(1-2)および(1-3)において、pおよびqは0、1、2から選ばれるいずれかである。sはpが0のときは0であり、pが1または2のときは1である。Rは-Hまたは-CHである。)
【0019】
式(1-1)において、k、l、m、nは、k+l+m+n=100としたときのモル組成比を示す。kは0超~92以下である。lは0~50である。mは0超~90以下である。k、l、mの合計は65~95である。k、l、mの合計が65以上であると、UV照射前に被着体に対して十分な粘着性が得られる粘着剤組成物となる。k、l、mの合計は70~94であることが好ましく、80~90であることがより好ましい。
【0020】
式(1-1)において、kでくくられる( )内で示される繰り返し単位(以下、「繰り返し単位k」という。)は、必須の繰り返し単位である。繰り返し単位kは、UV照射前の粘着剤組成物の粘着力に寄与する。繰り返し単位kの繰り返し数kは、0超~92以下であり、45~90であることが好ましく、60~88がより好ましい。
【0021】
式(1-1)においては、lでくくられる( )内で示される繰り返し単位(以下、「繰り返し単位l」という。)はなくてもよい。言い換えると、繰り返し単位lの繰り返し数は0でもよい。
繰り返し単位lは、粘着剤組成物の耐熱性に寄与する。繰り返し単位lの繰り返し数lは、0~50であり、4~40であることが好ましく、5~30であることがより好ましい。
【0022】
式(1-1)において、mでくくられる( )内で示される繰り返し単位(以下、「繰り返し単位m」という。)は、必須の繰り返し単位である。繰り返し単位mは、UV照射前の粘着剤組成物の粘着力および耐熱性に寄与する。また、粘着剤組成物がカルボキシ基と反応する官能基を有する架橋剤を含む場合、繰り返し単位mは、架橋剤と反応して粘着剤組成物の凝集力を向上させる。繰り返し単位mの繰り返し数mは、0超~90以下であり、1~15であることが好ましく、1~5がより好ましい。
【0023】
式(1-1)において、nでくくられる( )内で示される繰り返し単位(以下、「繰り返し単位n」という。)は、必須の繰り返し単位である。繰り返し単位nは、粘着剤組成物の耐熱性に寄与する。繰り返し単位nの繰り返し数nは5~35であり、10~33であることが好ましく、10~20がより好ましい。繰り返し単位nが35以下であると、UV照射することにより樹脂(A)中の不飽和結合が三次元架橋構造を形成して硬化し、粘着力が適切な範囲に低下する粘着剤組成物となる。また、nが5以上であると、脂環式化合物に由来する構造に起因する耐熱性向上効果が得られる。
【0024】
これらの各繰り返し単位が寄与する機能の相乗効果により、樹脂(A)を含む粘着剤組成物は、紫外線(UV)照射前の粘着力とUV照射後の粘着力とのバランスがより一層良好となる。その結果、UV照射前には被着体に対して十分な粘着力が得られ、UV照射後には粘着力が低下してより優れた易剥離性が得られる粘着剤組成物となる。しかも、この粘着剤組成物は、UV照射前に高温状態にしてから室温に戻しても粘着力が高くなり過ぎることがなく、UV照射後に優れた易剥離性が得られるとともに、剥離後の被着体への糊残りが生じにくい。
【0025】
繰り返し単位kにおいて、Rは-Hまたは-CHであり、-Hであることが好ましい。Rは炭素数1~16のアルキル基であり、炭素数1~8のアルキル基であることが好ましく、特に炭素数2、4または8のアルキル基であることが好ましい。
【0026】
繰り返し単位kは、R、Rの異なる複数種の繰り返し単位であってもよい。繰り返し単位kが、複数種の繰り返し単位を含む場合、繰り返し単位kのモル組成比kは、複数種の繰り返し単位のモル組成比の合計を示す。例えば、繰り返し単位kが、Rおよび/またはRの異なる繰り返し単位AおよびBを含み、繰り返し単位Aのモル組成比が2モル%、繰り返し単位Bのモル組成比が3モル%である場合、繰り返し数kのモル組成比kは繰り返し単位Aと繰り返し単位Bのモル組成比を合計して「5」となる。
【0027】
繰り返し単位lにおいて、Rは-Hまたは-CHであり、-Hであることが好ましい。Rは炭素数3~30の脂環式炭化水素基または炭素数6~20の芳香族炭化水素基であり、炭素数6~20の脂環式炭化水素基または炭素数6~10の芳香族炭化水素基が好ましい。
繰り返し単位lは、R、Rの異なる複数種の繰り返し単位であってもよい。繰り返し単位lが、複数種の繰り返し単位を含む場合、繰り返し単位lのモル組成比lは、複数種の繰り返し単位のモル組成比の合計を示す。
【0028】
繰り返し単位mにおいて、Rは-Hまたは-CHであり、-Hであることが好ましい。Rは-Hまたは-(CH-COOH(式中のjは1または2である。)であり、-Hであることが好ましい。
繰り返し単位mは、R、Rの異なる複数種の繰り返し単位であってもよい。この場合、繰り返し単位mのモル組成比mは、複数種の繰り返し単位のモル組成比の合計を示す。
【0029】
繰り返し単位nにおいて、Rは-Hまたは-CHであり、-Hであることが好ましい。Rは式(1-2)または(1-3)である。式(1-2)または(1-3)で示される基は、いずれも脂環式化合物に由来する構造を含み、粘着剤組成物の耐熱性を向上させる機能を有する。式(1-2)または(1-3)において、pおよびqは0、1、2から選ばれるいずれかである。sはpが0のときは0であり、pが1または2のときは1である。Rは-Hまたは-CHである。
繰り返し単位nは、R、Rの異なる複数種の繰り返し単位であってもよい。この場合、繰り返し単位nのモル組成比nは、複数種の繰り返し単位のモル組成比の合計を示す。
【0030】
式(1-1)で示される樹脂(A)は、繰り返し単位kと、繰り返し単位lと、繰り返し単位mと、繰り返し単位nとからなるランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体のいずれであってもよい。式(1-1)で示される樹脂(A)は、繰り返し単位lを含まなくてもよく、繰り返し単位kと、繰り返し単位mと、繰り返し単位nとからなるランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体のいずれであってもよい。
【0031】
樹脂(A)の重量平均分子量は、20万~100万であることが好ましく、より好ましくは30万~80万である。樹脂(A)の重量平均分子量が20万以上であると、粘着剤組成物を含む粘着剤層を有する粘着シートを被着体に貼り付けた後に剥離した場合に、粘着剤層が被着体により一層残存しにくくなる。樹脂(A)の重量平均分子量が100万以下であると、樹脂(A)の粘度が高くなりすぎず、作業性が良いという効果が得られる。樹脂(A)の重量平均分子量は、実施例に記載の方法で測定した値である。
【0032】
樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、-80~0℃であることが好ましく、より好ましくは-60~-10℃、さらに好ましくは-50~-10℃である。樹脂(A)のガラス転移温度が-80℃~0℃の範囲であると、UV照射前の粘着剤組成物の粘着力が良好となる。樹脂(A)のTgは、実施例に記載の方法で測定した値である。
樹脂(A)の酸価は、0超~20mgKOH/gであることが好ましく、3~10mgKOH/gであることがより好ましい。樹脂(A)の酸価が0超~20mgKOH/gの範囲内であると、加熱後の被着体汚染(糊残り)が無く良好となる。また、粘着剤組成物が架橋剤を含む場合、樹脂(A)の酸価が上記範囲内であると、樹脂(A)と架橋剤とが反応して粘着剤組成物の凝集力が良好となる。樹脂(A)の酸価は、実施例に記載の方法で測定した値である。
【0033】
(樹脂(A)の製造方法)
本実施形態の粘着剤組成物に含まれる樹脂(A)は、例えば、以下に示す方法により製造できる。
まず、カルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a)と、エチレン性不飽和単量体(d)とを含む原料単量体を重合し、カルボキシ基含有樹脂(b)を製造する。ここで、エチレン性不飽和単量体(d)は、重合後に、繰り返し単位kを形成する単量体を含み、繰り返し単位lの骨格を形成する単量体を含むものであってもよい。
次に、カルボキシ基含有樹脂(b)と、特定の脂環式エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物(c)との付加反応により、樹脂(A)を製造する。
【0034】
(カルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a))
カルボキシ基含有樹脂(b)を製造する際に使用するカルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a)は、重合することで繰り返し単位mの骨格を形成する単量体である。カルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a)は、1個のカルボキシ基を有する。
カルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、等が例示できる。
これらの中でも、カルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a)としては、反応性の点で、(メタ)アクリル酸および/またはβ-カルボキシエチル(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。
【0035】
本明細書中で(メタ)アクリルとは、「アクリル」または「メタクリル」を意味する。(メタ)アクリレートとは、「アクリレート」または「メタクリレート」を意味する。
【0036】
(カルボキシ基含有樹脂(b))
カルボキシ基含有樹脂(b)は、カルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a)と、カルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a)と共重合可能なエチレン性不飽和単量体(d)とを少なくとも含む原料単量体を共重合したものである。
カルボキシ基含有樹脂(b)は、式(1-1)で示される樹脂(A)の骨格となる成分である。繰り返し単位kと、繰り返し単位lと、繰り返し単位mは、いずれもカルボキシ基含有樹脂(b)に由来する繰り返し単位である。
【0037】
エチレン性不飽和単量体(d)としては、重合することで繰り返し単位kの骨格を形成する単量体を1種以上用いる。エチレン性不飽和単量体(d)として、重合することで繰り返し単位kの骨格を形成する単量体とともに、重合することで繰り返し単位lの骨格を形成する単量体を1種以上用いてもよい。
【0038】
重合することで繰り返し単位kの骨格を形成するエチレン性不飽和単量体(d)は、炭素数1~16のアルキル(メタ)アクリレートであり、粘着剤組成物の剥離強度の調整の観点から、炭素数2~16のアルキル(メタ)アクリレートを含むことが好ましく、炭素数4~12のアルキル(メタ)アクリレートを含むことがより好ましい。具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのなかでも、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0039】
重合することで繰り返し単位lの骨格を形成するエチレン性不飽和単量体(d)としては、例えば、炭素数3~30の環状アルキル基含有(メタ)アクリレート、炭素数6~20の芳香族基含有(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0040】
重合することで繰り返し単位lの骨格を形成するエチレン性不飽和単量体(d)として用いられる炭素数3~30の環状アルキル基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルナニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも特に、イソボルニル(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。カルボキシ基含有樹脂(b)の原料単量体中に環状アルキル(メタ)アクリレートが含まれていると、カルボキシ基含有樹脂(b)を用いて製造した樹脂(A)を含む粘着剤組成物の耐熱性が良好となる。
【0041】
重合することで繰り返し単位lの骨格を形成するエチレン性不飽和単量体(d)として用いられる炭素数6~20の芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、フェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも特に、ベンジル(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。カルボキシ基含有樹脂(b)の原料単量体中に芳香族基含有(メタ)アクリレートが含まれていると、カルボキシ基含有樹脂(b)を用いて製造した樹脂(A)を含む粘着剤組成物の耐熱性が良好となる。
【0042】
カルボキシ基含有樹脂(b)の原料単量体中には、上記のカルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a)および上記のエチレン性不飽和単量体(d)だけでなく、上記のエチレン性不飽和単量体(d)以外の、カルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a)と共重合可能な単量体が含まれていてもよい。
【0043】
上記のエチレン性不飽和単量体(d)以外の、カルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a)と共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、アルコキシ(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレート、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート、フッ素化アルキル(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0044】
アルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2-メトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0045】
アルコキシ(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレートとしては、例えば、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0046】
ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオール(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオール(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、3-メチルペンタンジオール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0047】
フッ素化アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0048】
(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-ヘキシル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、ジアセトンアクリルアミド等が挙げられる。
【0049】
エチレン性不飽和単量体(d)以外の、カルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a)と共重合可能な単量体の上記以外の具体例として、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、スチレン、α-メチルスチレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アルキルビニルエーテル、ビニルトルエン、N-ビニルピリジン、N-ビニルピロリドン、イタコン酸ジアルキルエステル、フマル酸ジアルキルエステル、アリルアルコール、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、4-ヒドロキシメチルシクロヘキシルメチルビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテルまたはジエチレングリコールモノビニルエーテル、メチルビニルケトン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルビニルケトン等が挙げられる。
【0050】
カルボキシ基含有樹脂(b)を製造する方法としては、特に限定されない。
例えば、カルボキシ基含有樹脂(b)の構成成分となるカルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a)とエチレン性不飽和単量体(d)とを含む原料単量体を、公知の重合方法により共重合することにより得られる。
具体的には、重合方法として、溶液重合法、乳化重合法、塊状重合法、懸濁重合法、交互共重合法などを用いることができる。これらの重合方法の中でも、重合後に得られるカルボキシ基含有樹脂(b)と脂環式エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物(c)との付加反応を考慮すると、反応のし易さの点で溶液重合法を用いることが好ましい。
【0051】
溶液重合法によりカルボキシ基含有樹脂(b)を製造する際には、必要に応じて、ラジカル重合開始剤および/または溶媒を用いる。
ラジカル重合開始剤としては、特に限定されず、公知のものの中から適宜選択して使用できる。
ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)等のアゾ系重合開始剤;ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン等の過酸化物系重合開始剤などの油溶性重合開始剤が例示される。
【0052】
これらのラジカル重合開始剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
ラジカル重合開始剤の使用量は、カルボキシ基含有樹脂(b)の原料単量体の合計100質量部に対して、0.01~5質量部であることが好ましく、0.02~4質量部であることがより好ましく、0.03~3質量部であることがさらに好ましい。
【0053】
カルボキシ基含有樹脂(b)を製造する際に用いる重合用の溶媒としては、一般的な各種の溶媒を用いることができる。溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸n-ブチル等のエステル類、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類、n-ヘキサン、n-ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどのグリコール類、メチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル類、エチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのグリコールエステル類が挙げられる。
これらの溶媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0054】
カルボキシ基含有樹脂(b)を製造する際には、カルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a)と、エチレン性不飽和単量体(d)と、必要に応じて含有されるその他の単量体とを含む原料単量体中におけるカルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a)の含有量を、5~40質量%とすることが好ましく、7~30質量%がより好ましく、10~25質量%がさらに好ましい。原料単量体中におけるカルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a)の含有量を上記範囲とすることで、カルボキシ基含有樹脂(b)と脂環式エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物(c)との付加反応により製造した樹脂(A)を含む粘着剤組成物から得られる粘着層のUV照射前の粘着力が良好となる。
【0055】
(脂環式エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物(c))
脂環式エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物(c)は、脂環式エポキシ基を有するエチレン性不飽和基含有化合物であって、一般式(1-2)または一般式(1-3)の構造を与える化合物である。本実施形態における脂環式エポキシ基とは、脂環式炭化水素化合物の環上の隣接する2個の炭素原子に1個の酸素が結合して形成されるエポキシ基をいう。
脂環式エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物(c)は、式(1-1)で示される感光性樹脂(A)の繰り返し単位nにおける下記部分構造式(1-2’)または(1-3’)を付加するために用いられる。式(1-1)中の繰り返し単位nにおける部分構造式(1-2’)または(1-3’)は、脂環式エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物(c)に由来する基である。
【0056】
【化5】
(式(1-2’)および(1-3’)において、qは0、1、2から選ばれるいずれかである。Rは-Hまたは-CHである。)
【0057】
脂環式エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物(c)としては、例えば、下記式(1)または(2)で示される化合物が挙げられる。
【0058】
【化6】

(式(1)において、Rは-Hまたは-CHである。qは0、1、2から選ばれるいずれかである。)
(式(2)において、Rは-Hまたは-CHである。qは0、1、2から選ばれるいずれかである。)
【0059】
式(1)において、Rは-Hまたは-CHである。qは0、1、2から選ばれるいずれかであり、qが1であることが好ましい。
式(2)において、Rは-Hまたは-CHである。qは0、1、2から選ばれるいずれかであり、qが1であることが好ましい。
【0060】
脂環式エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物(c)としては、式(1)で示される化合物であることが好ましく、特に、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。
脂環式エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物(c)は、1種のみ単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0061】
本実施形態の樹脂(A)は、カルボキシ基含有樹脂(b)のカルボキシ基に、脂環式エポキシ基含有エチレン性不飽和単量体(c)の脂環式エポキシ基を付加反応させることによって製造できる。
樹脂(A)は、カルボキシ基含有樹脂(b)のカルボキシ基1molに対して好ましくは0.2~0.99mol、より好ましくは0.3~0.95mol、さらに好ましくは0.6~0.95molの脂環式エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物(c)を付加反応させて製造することが好ましい。カルボキシ基含有樹脂(b)と脂環式エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物(c)とを上記の割合で用いて得られた樹脂(A)を含む粘着剤組成物は、UV照射前には被着体に対して十分な粘着性が得られ、UV照射後には粘着力が低下してより優れた易剥離性が得られる。しかも、この粘着剤組成物は、UV照射前に高温状態にしてから室温に戻しても粘着力が高くなりにくく、UV照射後に優れた易剥離性が得られるとともに、剥離後の被着体への糊残りをより効果的に防止できる。
【0062】
樹脂(A)を製造する際における付加反応の温度は、80~130℃であることが好ましく、特に90~120℃であることが好ましい。付加反応の温度が80℃以上であると、十分な反応速度が得られる。付加反応の温度が130℃以下であると、熱によるラジカル重合によって二重結合部が架橋し、ゲル化物が生じることを防止できる。
【0063】
樹脂(A)を製造する際における付加反応には、必要に応じて、公知の触媒を使用できる。触媒としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルベンジルアミン、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ-7-エン、1,5-ジアザビシクロ[4,3,0]ノナ-5-エン、1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン等の3級アミン、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイドなどの4級アンモニウム塩、テトラメチル尿素などのアルキル尿素、テトラメチルグアニジンなどのアルキルグアニジン、トリフェニルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリス(4-メチルフェニル)ホスフィン、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(2,6-ジメチルフェニル)ホスフィン、トリス(2,6-ジメトキシフェニル)ホスフィン、トリス(2,4,6-トリメチルフェニル)ホスフィン、トリス(2,4,6-トリメトキシフェニル)ホスフィンなどのホスフィン化合物などが挙げられる。
付加反応の触媒としては、上記の中でも、反応性の点でホスフィン化合物を用いることが好ましい。
【0064】
付加反応における触媒の使用量は、カルボキシ基含有樹脂(b)と脂環式エポキシ基含有エチレン性不飽和単量体(c)との合計100質量部に対して、0.01~30質量部が好ましく、0.05~5質量部がさらに好ましく、0.1~2質量部が最も好ましい。
【0065】
さらに、付加反応時には、重合禁止効果のあるガスを反応系中に導入したり、重合禁止剤を添加したりしてもよい。重合禁止効果のあるガスを反応系中に導入したり、重合禁止剤を添加したりすることにより、付加反応時のゲル化を防ぐことができる。
重合禁止効果のあるガスとしては、系内物質の爆発範囲に入らない程度の酸素を含むガス、例えば、空気などが挙げられる。
【0066】
重合禁止剤としては、公知のものを使用することができ、特に制限はされないが、例えば、4-メトキシフェノール、ヒドロキノン、メトキノン、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,2’―メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、フェノチアジン等が挙げられる。これら重合禁止剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0067】
重合禁止剤の使用量としては、カルボキシ基含有樹脂(b)と脂環式エポキシ基含有エチレン性不飽和単量体(c)との合計100質量部に対して、0.005~5質量部が好ましく、0.03~3質量部がさらに好ましく、0.05~1.5質量部が最も好ましい。重合禁止剤の量が少なすぎると、重合禁止効果が十分でない場合がある。一方、重合禁止剤の量が多すぎると、樹脂(A)の露光感度が低下する恐れがある。
また、重合禁止効果のあるガスと重合禁止剤とを併用すると、使用する重合禁止剤の量を低減したり、重合禁止効果を高めたりできるのでより好ましい。
【0068】
(光重合開始剤(B))
粘着剤組成物に含まれる光重合開始剤(B)としては、例えば、ベンゾフェノン、ベンジル、ベンゾイン、ω-ブロモアセトフェノン、クロロアセトン、アセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、p-ジメチルアミノアセトフェノン、p-ジメチルアミノプロピオフェノン、2-クロロベンゾフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、4,4’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン-n-ブチルエーテル、ベンジルメチルケタール、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、メチルベンゾイルホルメート、2,2-ジエトキシアセトフェノン、4-N,N’-ジメチルアセトフェノン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン等のカルボニル系光重合開始剤が挙げられる。
【0069】
光重合開始剤(B)としては、ジフェニルジスルフィド、ジベンジルジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルアンモニウムモノスルフィド等のスルフィド系光重合開始剤;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルエトキシホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド類;ベンゾキノン、アントラキノン等のキノン系光重合開始剤;スルホクロリド系光重合開始剤;チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン等のチオキサントン系光重合開始剤等を用いてもよい。
【0070】
これらの光重合開始剤(B)の中でも、粘着剤組成物への溶解性の点から、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン及び/または、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドを用いることが好ましい。
上記の光重合開始剤(B)は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0071】
粘着剤組成物に含まれる光重合開始剤(B)は、樹脂(A)100質量部に対して、0.1~5.0質量部であることが好ましく、0.5~2.0質量部であることがより好ましい。樹脂(A)100質量部に対する光重合開始剤(B)の含有量が0.1質量部以上であると、UV照射することにより十分に速い硬化速度で粘着剤組成物が硬化するとともに、UV照射後の粘着剤組成物の粘着力が十分に小さくなり、好ましい。光重合開始剤(B)の含有量が5.0質量部以下であると、粘着剤組成物を含む粘着剤層を有する粘着シートを、被着体に貼り付けた後に剥離した場合に、粘着剤層が被着体に残存しにくくなる。また、光重合開始剤(B)の含有量が5.0質量部を超えても、光重合開始剤(B)の含有量に見合う効果が見られない。
【0072】
(架橋剤(C))
本実施形態の粘着剤組成物は、樹脂(A)と光重合開始剤(B)だけでなく、架橋剤(C)を含有していてもよい。架橋剤(C)を含有することで、UV照射前の粘着力とUV照射後の粘着力とのバランスがより一層良好な粘着剤組成物となる。
架橋剤(C)としては、特に限定されないが、繰り返し単位nの水酸基または、繰り返し単位nの水酸基および繰り返し単位mのカルボキシ基に対して反応性を有する官能基を2つ以上有する化合物が好ましい。
【0073】
架橋剤(C)としては、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、水素化トリレンジイソシアネート、1,3-キシリレンジイソシアネート、1,4-キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3-ビス(N,N´-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物、トリメチロールプロパンのキシリレンジイソシアネート付加物、トリフェニルメタントリイソシアネート、メチレンビス(4-フェニルメタン)トリイソシアネート等のイソシアネート系化合物、
ビスフェノールA・エピクロルヒドリン型のエポキシ樹脂、N,N’-[1,3-フェニレンビス(メチレン)]ビス[ビス(オキシラン-2-イルメチル)アミン]、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエリスリトール、ジグリセロールポリグリシジルエーテル等のエポキシ系化合物、
テトラメチロールメタン-トリ-β-アジリジニルプロピオネート、トリメチロールプロパン-トリ-β-アジリジニルプロピオネート、N,N′-ジフェニルメタン-4,4′-ビス(1-アジリジンカルボキシアミド)、N,N′-ヘキサメチレン-1,6-ビス(1-アジリジンカルボキシアミド)等のアジリジン系化合物、
ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサエトキシメチルメラミン、ヘキサプロポキシメチルメラミン、ヘキサプトキシメチルメラミン、ヘキサペンチルオキシメチルメラミン、ヘキサヘキシルオキシメチルメラミン等のメラミン系化合物等が挙げられる。
【0074】
これらの中でも、架橋剤(C)としては、樹脂(A)との反応性が良好であるため、エポキシ系化合物、及び/またはイソシアネート系化合物を用いることが好ましい。
上記の架橋剤(C)は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0075】
粘着剤組成物に含まれる架橋剤(C)は、樹脂(A)100質量部に対して、0.05~10質量部であることが好ましく、0.1~5質量部であることがより好ましく、0.1~1.0質量部であることがさらに好ましい。樹脂(A)100質量部に対する架橋剤(C)の含有量が0.05質量部以上であると、粘着剤組成物に三次元架橋構造が十分に形成される。その結果、UV照射後の粘着剤組成物の粘着力が十分に小さくなり、好ましい。樹脂(A)100質量部に対する架橋剤(C)の含有量が10質量部以下であると、UV照射前の粘着剤組成物の粘着力が良好となる。
【0076】
(他の成分)
本実施形態の粘着剤組成物は、必要に応じて、上述した樹脂(A)、光重合開始剤(B)、架橋剤(C)以外の他の成分を含有していてもよい。
他の成分としては、粘着付与剤、溶媒、各種添加剤などが挙げられる。
【0077】
(粘着付与剤)
粘着付与剤としては、従来公知のものを特に限定なく使用できる。粘着付与剤としては、例えば、テルペン系粘着付与樹脂、フェノール系粘着付与樹脂、ロジン系粘着付与樹脂、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、共重合系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、キシレン樹脂、エポキシ系粘着付与樹脂、ポリアミド系粘着付与樹脂、ケトン系粘着付与樹脂、エラストマー系粘着付与樹脂などが挙げられる。これらの粘着付与剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0078】
本実施形態の粘着剤組成物が粘着付与剤を含む場合、その含有量は樹脂(A)100質量部に対して、30質量部以下であることが好ましく、5~20質量部であることがより好ましい。
【0079】
(溶媒)
溶媒は、粘着剤組成物を塗工する場合に、粘着剤組成物の粘度の調整を目的として粘着剤組成物を希釈するために用いることができる。
溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロヘキサノン、n-へキサン、トルエン、キシレン、n-プロパノール、イソプロパノールなどの有機溶媒を用いることができる。これらの溶媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0080】
(添加剤)
添加剤としては、可塑剤、表面潤滑剤、レベリング剤、軟化剤、酸化防止剤、老化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤、ベンゾトリアゾール系等の光安定剤、リン酸エステル系およびその他の難燃剤、界面活性剤のような帯電防止剤などが挙げられる。
【0081】
[粘着剤組成物の製造方法]
本実施形態の粘着剤組成物は、従来公知の方法により製造できる。
例えば、上述した樹脂(A)および光重合開始剤(B)と、必要に応じて含有される架橋剤(C)、粘着付与剤、溶媒、各種添加剤を、従来公知の方法を用いて混合し、撹拌することにより製造できる。
【0082】
本実施形態の粘着剤組成物は、粘着シートの粘着剤層を形成する材料として好適である。特に、本実施形態の粘着剤組成物は、再剥離型の粘着シートの粘着剤層を形成する材料として好ましい。
本実施形態の粘着剤組成物は、式(1-1)で示される樹脂(A)と、光重合開始剤(B)とを含むため、粘着シートの粘着剤層を形成する材料として用いることで、被着体に対して十分な粘着力を有する粘着シートが得られる。しかも、この粘着シートは、粘着シートを貼付した被着体を高温状態にしてから室温に戻して剥離しても、UV照射後に優れた易剥離性が得られるとともに、糊残りが発生しにくい。
【0083】
「粘着シート」
本発明の粘着シートは、シート状の基材と、基材上に形成された粘着剤層とを有する。
粘着剤層の基材と反対側の面には、剥離シート(セパレーター)が備えられていることが好ましい。粘着剤層上に剥離シートが備えられている場合、剥離シートによって使用時まで粘着剤層を保護できる。また、粘着剤層上に剥離シートが備えられている場合、剥離シートを剥がして粘着剤層を露出させ、粘着剤層(貼付面)を被着体に圧着する作業を効率よく行うことができる。
本実施形態の粘着シートは、打ち抜き法などにより被着体の形状に応じた形状とされた粘着テープとして用いてもよい。また、本実施形態の粘着シートは、巻き取って切断することにより、粘着テープとして用いてもよい。
【0084】
基材としては、公知のシート状の材料を適宜選択して使用できる。基材としては、透明な樹脂材料からなる樹脂シートを用いることが好ましい。
樹脂材料としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルシート;ポリ塩化ビニル(PVC);ポリイミド(PI);ポリフェニレンサルファイド(PPS);エチレン酢酸ビニル(EVA);ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などが挙げられる。これらの樹脂材料の中でも、適度な可撓性を有するシートが得られるため、PE、PP、PETを用いることが好ましい。樹脂材料は、1種のみ単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0085】
基材として樹脂シートを用いる場合、樹脂シートは、単層であってもよいし、二層以上の多層構造(例えば三層構造)であってもよい。多層構造を有する樹脂シートにおいて、各層を構成する樹脂材料は、1種のみを単独で含む樹脂材料であってもよいし、2種以上を含む樹脂材料であってもよい。
【0086】
基材の厚さは、粘着シートの用途、基材の材料などに応じて適宜選択できる。粘着シートが、ウエハのダイシング工程を行う際にウエハを保護するものであって、基材として樹脂シートが用いられている場合、基材の厚さは、例えば10~1000μmであることが好ましく、より好ましくは50~300μmである。基材の厚さが10μm以上であると、粘着シートの剛性が高く(コシが強く)なる。そのため、粘着シートをウエハなどの被着体に貼り付けたり、被着体から剥離したりする際に、粘着シートにしわや浮きが生じ難くなる傾向がある。また、基材の厚さが10μm以上であると、被着体に貼り付けた粘着シートを被着体から剥離しやすくなり、作業性(取扱い性、ハンドリング)が良好となる。基材の厚さが1000μm以下であると、粘着シートの剛性が高く(コシが強く)なりすぎて作業性が低下することを防止できる。
【0087】
基材として、樹脂シートを用いる場合、従来公知の一般的なシート成形方法(例えば押出成形、Tダイ成形、インフレーション成形等あるいは、単軸あるいは2軸延伸成形等)を適宜採用して、基材を製造できる。
【0088】
基材の粘着剤層と接する側の表面には、基材と粘着剤層との接着性を向上させるための表面処理が施されていてもよい。
表面処理としては、例えば、コロナ放電処理、酸処理、紫外線照射処理、プラズマ処理、下塗剤(プライマー)塗付等が挙げられる。
【0089】
本実施形態の粘着シートの有する粘着剤層は、上述した粘着剤組成物を含む。
粘着剤層の厚みは、1~100μmとすることが好ましく、2~80μmとすることがより好ましく、5~50μmとすることがさらに好ましい。粘着剤層の厚みが1μm以上であると、粘着剤層の厚みの均一性が良好となる。一方、粘着剤層の厚みが100μm以下であると、溶媒を用いて粘着剤層を形成した場合であっても、溶媒を容易に除去できるため好ましい。
【0090】
粘着剤層の基材と反対側の面に剥離シートが備えられている場合、剥離シートとして、公知のシート状の材料を適宜選択して使用できる。剥離シートとしては、基材として使用される上述した樹脂シートと同様のものを用いることができる。
剥離シートの厚さは、粘着シートの用途、剥離シートの材料などに応じて適宜選択できる。剥離シートとして樹脂シートを用いる場合、剥離シートの厚さは、例えば5~300μmであることが好ましく、より好ましくは10~200μm、さらに好ましくは25~100μmである。
【0091】
剥離シートの剥離面(粘着剤層に接して配置される面)には、必要に応じてシリコーン系、長鎖アルキル系、フッ素系等の従来公知の剥離剤を用いて剥離処理が施されていてもよい。
【0092】
[粘着シートの製造方法]
本実施形態の粘着シートは、例えば、以下に示す方法により製造できる。
まず、上述した粘着剤組成物を溶媒に溶解または分散させた粘着剤溶液を作製する。上述した粘着剤組成物は、そのまま粘着剤溶液として使用してもよい。
次に、基材上に粘着剤溶液を塗布し、加熱乾燥して、粘着剤層を形成する。その後、粘着剤層上に、必要に応じて剥離シートを貼り合せることにより得られる。
また、本実施形態の粘着シートを製造する別の方法としては、剥離シート上に上記の粘着剤溶液を塗布し、加熱乾燥して、粘着剤層を形成する。その後、粘着剤層を有する剥離シートを基材上に、粘着剤層側の面を基材に向けて設置し、基材上に粘着剤層を転写(移着)する方法が挙げられる。
【0093】
上記の粘着剤溶液を基材上に(または剥離シート上に)塗布する方法としては、公知の方法を用いることができる。具体的には、慣用のコーター、例えば、グラビヤロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター、コンマコーター、ダイレクトコーターなどを用いて塗布する方法が挙げられる。
【0094】
[粘着シートの用途]
本実施形態の粘着シートは、再剥離型の粘着シートとして用いることができる。本実施形態の粘着シートは、例えば、電子部品を製造する際に用いることができる。本実施形態の粘着シートは、具体的には、電子部品を製造する際の各工程において、被着体を固定し、種々の加工工程に付した後に、紫外線(UV)を照射して被着体を剥離し、回収する用途に用いられる。したがって、本実施形態の粘着シートは、半導体ウエハを加工する際のバックグラインドテープ、ダイシングテープなどとして用いることができる。また、本実施形態の粘着シートは、極薄ガラス基板等の脆弱部材、プラスチックスフィルム、フレキシブルプリント基板(FPC基板)等の反り易い部材の支持用テープなどとして好適に用いることができる。特に、本実施形態の粘着シートは、ウエハのダイシング工程を行う際にウエハを保護するダイシングテープとして好適である。
【0095】
本実施形態の粘着シートをウエハのダイシングテープとして用いる場合、ダイシング工程を行う前に、複数の部品が形成されているウエハに粘着シートを貼り付ける。次に、ウエハを切断して、個々の部品に切り分け(ダイシングして)、素子小片(チップ)とする。その後、各素子小片上に貼り付けられている粘着シートに、UVを照射する。このことにより、粘着シートの基材を介して、粘着剤層にUVが照射され、粘着剤中の不飽和結合が三次元架橋構造を形成して硬化する。その結果、粘着剤層の粘着力が低下する。その後、各素子小片上から粘着シートを剥離する。
【0096】
被着体に貼り付けられた剥離前の粘着シートに、UV照射を行う際に使用される光源としては、例えば、高圧水銀灯、超高圧水銀灯カーボンアーク灯、キセノン灯、メタルハライドランプ、ケミカルランプ、ブラックライトなどが挙げられる。
粘着シートに照射するUV照射量は、50~3000mJ/cmであることが好ましく、100~600mJ/cmであることがより好ましい。粘着シートに照射するUV照射量が50mJ/cm以上であると、UV照射することにより十分に速い硬化速度で粘着剤層が硬化するとともに、UV照射後の粘着剤層の粘着力が十分に小さくなり、好ましい。粘着シートに照射するUV照射量を3000mJ/cm以上にしても、それに見合う効果が得られない。
【実施例
【0097】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0098】
「樹脂(A)の製造」
(製造例1)
〔第1混合溶液の調製〕
表1に示すように、カルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a)であるアクリル酸23.9質量部と、上記(a)と共重合可能なエチレン性不飽和単量体(d)であるn-ブチルアクリレート71.8質量部および2-エチルヘキシルアクリレート143.6質量部とを含有する原料単量体と、カルボキシ基含有樹脂(b)の原料単量体の合計100質量部に対して重合開始剤である2,2′-アゾビスイソブチロニトリル0.1質量部とを含有する第1混合溶液を調製した。
【0099】
〔第2混合溶液の調製〕
表1に示すように、脂環式エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物(c)である3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート59.8質量部と、カルボキシ基含有樹脂(b)と脂環式エポキシ基含有エチレン性不飽和単量体(c)との合計100質量部に対して触媒としてのトリス(4-メチルフェニル)ホスフィン(TPTP)0.6質量部と、溶媒としての酢酸n-ブチル100.0質量部およびトルエン91.1質量部とを含有する第2混合溶液を調製した。
【0100】
攪拌機、滴下ロート、冷却管および窒素導入管を備えた四ツ口フラスコに、溶媒として酢酸n-ブチルを175.6質量部仕込み、窒素ガス雰囲気下で80℃に昇温した。そして、反応温度を80℃±2℃に保ちながら、上記四ツ口フラスコに上記第1混合溶液を4時間かけて均一に滴下し、滴下完了後、80℃±2℃の温度でさらに6時間攪拌を続け、カルボキシ基含有樹脂(b)を重合した。その後、反応系に、カルボキシ基含有樹脂(b)と脂環式エポキシ基含有エチレン性不飽和単量体(c)との合計100質量部に対して重合禁止剤として4-メトキシフェノール0.15質量部を添加した。
【0101】
4-メトキシフェノールを添加した反応系を100℃に昇温し、上記第2混合溶液を0.5時間かけて滴下した後、100℃の温度で8時間攪拌を続け、樹脂(A-1)を合成し、室温(23℃)に冷却した。
樹脂(A-1)を核磁気共鳴法(NMR法)により同定した結果、一般式(2-1)で示される化合物であった。一般式(2-1)で示される化合物における式(1-1)での繰り返し単位kは、Rの異なる2種の繰り返し単位(k-1、k-2)である。
【0102】
【化7】

(式(2-1)において、k-1は34であり、k-2は47であり、mは1であり、k-1、k-2、mの合計は82である。nは18である。)
【0103】
樹脂(A-1)について、以下に示す方法により、重量平均分子量とガラス転移温度とを調べた。また、樹脂(A-1)の酸価を、JIS K0070に従って測定した。その結果を表3に示す。
【0104】
<重量平均分子量(Mw)>
ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(昭和電工株式会社製、ショウデックス(登録商標)GPC-101)を用いて、下記条件にて常温で測定し、ポリスチレン換算にて算出した。
カラム:昭和電工株式会社製、ショウデックス(登録商標)LF-804
カラム温度:40℃
試料:樹脂(A)の0.2質量%テトラヒドロフラン溶液
流量:1ml/分
溶離液:テトラヒドロフラン
検出器:RI検出器
【0105】
<ガラス転移温度(Tg)>
樹脂(A)から10mgの試料を採取した。示差走査熱量計(DSC)を用いて、10℃/分の昇温速度で-100℃から200℃まで試料の温度を変化させて示差走査熱量測定を行い、観察されたガラス転移による吸熱開始温度をTgとした。なお、Tgが2つ観察された場合には、2つのTgの単純平均値とした。
【0106】
(製造例2~8、10~12)
表1および表2に示す含有量(質量部)で、カルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a)と、エチレン性不飽和単量体(d)と、重合開始剤とを用いたこと以外は、製造例1と同様にして第1混合溶液を調製した。
また、表1および表2に示す含有量(質量部)で、脂環式エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物(c)(製造例8においてはメタクリル酸グリシジル(GMA))と、触媒とを用いたこと以外は、製造例1と同様にして第2混合溶液を調製した。
【0107】
上記第1混合溶液および上記第2混合溶液を用いたこと以外は、製造例1と同様にして樹脂(A-2)~(A-8)(A-10)~(A-12)を得た。
樹脂(A-2)~(A-8)(A-10)~(A-12)をそれぞれ製造例1と同様にして同定した結果、一般式(2-2)~(2-8)(2-10)~(2-12)で示される化合物であった。一般式(2-2)~(2-8)(2-10)で示される化合物における式(1-1)での繰り返し単位kは、Rまたは、RとRの両方が異なる2種の繰り返し単位(k-1、k-2)である。
【0108】
樹脂(A-2)は、下記一般式(2-2)で示される化合物である。
樹脂(A-3)は、下記一般式(2-3)で示される化合物である。
樹脂(A-4)は、下記一般式(2-4)で示される化合物である。
樹脂(A-5)は、上記一般式(2-5)で示される化合物である。
樹脂(A-6)は、下記一般式(2-6)で示される化合物である。
樹脂(A-7)は、下記一般式(2-7)で示される化合物である。
樹脂(A-8)は、下記一般式(2-8)で示される化合物である。
樹脂(A-10)は、下記一般式(2-10)で示される化合物である。
樹脂(A-11)は、下記一般式(2-11)で示される化合物である。
樹脂(A-12)は、下記一般式(2-12)で示される化合物である。
【0109】
【化8】

(式(2-2)において、k-1は32であり、k-2は48であり、mは1であり、k-1、k-2、mの合計は81である。nは19である。)
(式(2-3)において、k-1は70であり、k-2は16であり、mは1であり、k-1、k-2、mの合計は87である。nは13である。)
【0110】
【化9】

(式(2-4)において、k-1は52であり、k-2は34であり、mは3であり、k-1、k-2、mの合計は89である。nは11である。)
(式(2-5)において、k-1は11であり、k-2は52であり、mは4であり、k-1、k-2、mの合計は67であり、nは33である。)
【0111】
【化10】

(式(2-6)において、k-1は56であり、k-2は24であり、mは0.2であり、k-1、k-2、mの合計は80.2である。nは19.8である。)
(式(2-7)において、k-1は15であり、k-2は72であり、mは1であり、k-1、k-2、mの合計は88である。nは12である。)
【0112】
【化11】

(式(2-8)において、k-1は37であり、k-2は44であり、mは2であり、k-1、k-2、mの合計は83である。n′は17である。)
(式(2-10)において、k-1は34であり、k-2は47であり、mは4であり、k-1、k-2、mの合計は85である。nは15である。)
【0113】
【化12】

(式(2-11)において、kは66であり、lは12であり、mは2であり、k、l、mの合計は80である。nは20である。)
(式(2-12)において、kは55であり、lは23であり、mは2であり、k、l、mの合計は80である。nは20である。)
【0114】
樹脂(A-2)~(A-8)(A-10)~(A-12)について、それぞれ感光性樹脂(A-1)と同様にして、重量平均分子量、ガラス転移温度、酸価を調べた。その結果を表3に示す。
【0115】
(製造例9)
表2に示す含有量(質量部)で、カルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a)と、エチレン性不飽和単量体(d)と、重合開始剤とを用いたこと以外は、製造例1と同様にして第1混合溶液を調製した。
【0116】
攪拌機、滴下ロート、冷却管および窒素導入管を備えた四ツ口フラスコに、溶媒として酢酸エチルを261.7質量部仕込み、加熱還流を実施した。加熱還流後、表2に記載の第1混合溶液を4時間かけて均一に滴下し、滴下後、加熱還流で6時間攪拌を続けた。その後、反応系を60℃に冷却し、溶媒として酢酸エチルを286.4質量部、カルボキシ基含有樹脂(b)と後述の2-イソシアナトエチルメタクリレート(MOI)との合計100質量部に対して重合禁止剤として4-メトキシフェノールを0.15質量部、カルボキシ基含有樹脂(b)と後述の2-イソシアナトエチルメタクリレート(MOI)との合計100質量部に対して触媒としてジオクチルスズジラウレートを0.3質量部添加した。
【0117】
4-メトキシフェノールが溶解した後、反応系に2-イソシアナトエチルメタクリレート(MOI)を47.8質量部加え、60℃で8時間攪拌を続け、樹脂(A-9)を合成し、室温(23℃)に冷却した。
樹脂(A-9)を製造例1と同様にして同定した結果、一般式(2-9)で示される化合物であった。一般式(2-9)で示される化合物における式(1-1)での繰り返し単位kは、Rの異なる2種の繰り返し単位(k-1、k-2)である。
【0118】
【化13】

(式(2-9)において、k-1は48であり、k-2は32であり、mは1であり、k-1、k-2、mの合計は81である。jは2であり、n′′は17である。)
【0119】
樹脂(A-9)について、樹脂(A-1)と同様にして、重量平均分子量、ガラス転移温度、酸価を調べた。その結果を表3に示す。
また、樹脂(A-1)~(A-12)について、それぞれ化学式(2-1)~(2-12)中のk-1、k-2、k(k-1とk-2の合計)、l、m、n、n´、n´´の数値を表3に示す。
【0120】
【表1】
【0121】
【表2】
【0122】
【表3】
【0123】
表1および表2には、樹脂(A-1)~(A-12)の製造に使用したカルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体(a)と、上記(a)と共重合可能なエチレン性不飽和単量体(d)と、重合開始剤と、脂環式エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物(c)と、触媒と、重合禁止剤および溶媒の種類と使用量(質量部)、メタクリル酸グリシジル(GMA)および2-イソシアナトエチルメタクリレート(MOI)の使用量(質量部)をそれぞれ示す。
【0124】
「実施例1~12、比較例1~2」
製造例1~12で合成した樹脂(A-1)~(A-12)の反応溶液に、溶媒である酢酸エチルを加え、それぞれ樹脂(A-1)~(A-12)の含有量が30質量%となるように調整した。樹脂(A-1)~(A-12)の含有量が30質量%である樹脂(A-1)~(A-12)溶液を用いて、以下に示す方法により粘着剤組成物を得た。
【0125】
活性線の遮断された室内でプラスチック製容器に、表4~表6に示す樹脂(A)と光重合開始剤(B)と架橋剤(C)とを、それぞれ表4~表6に示す含有量(質量部)で加えて攪拌し、実施例1~12、比較例1~2の粘着剤組成物を得た。
表4~表6中の樹脂(A-1)~(A-12)の数値は、樹脂(A-1)~(A-12)の含有量が30質量%である樹脂(A-1)~(A-12)溶液の使用量(質量部)である。光重合開始剤(B)の数値は、樹脂(A)100質量部に対する光重合開始剤(B)の使用量(質量部)である。架橋剤(C)の数値は、樹脂(A)100質量部に対する架橋剤(C)の使用量(質量部)である。
【0126】
【表4】
【0127】
【表5】
【0128】
【表6】
【0129】
表4~表6における「TETRAD-C」「HX」「TPO」、表4および表5における「TETRAD-X」は、それぞれ以下に示すものである。
「TETRAD-C」1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン(三菱ガス化学株式会社製、商品名:TETRAD-C)
「TETRAD-X」N,N’-[1,3-フェニレンビス(メチレン)]ビス[ビス(オキシラン-2-イルメチル)アミン](三菱ガス化学株式会社製、商品名:TETRAD-X)
「HX」ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(東ソー株式会社製、商品名:コロネート(登録商標)HX)
「TPO」2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(BASF社製、商品名:L-TPO)
【0130】
「粘着シートの製造」
実施例1~12、比較例1~2の粘着剤組成物をそのまま、乾燥後の膜厚が20μmになるように基材上に塗工し、100℃で2分間、加熱乾燥させて粘着剤層を形成した。その後、粘着剤層上に剥離シートを貼り合せることにより、実施例1~12、比較例1~2の粘着シートを得た。基材および剥離シートとしては、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いた。
【0131】
このようにして得られた実施例1~12、比較例1~2の粘着シートについて、以下に示す方法により、以下に示す項目の評価を行った。その結果を表4~表6に示す。
【0132】
「UV照射前剥離強度」
粘着シートを縦25mm、横100mmの大きさに切り取り、剥離シートを剥がして粘着剤層を露出させた。次に、露出させた粘着剤層(測定面)がガラス板に接するように、粘着シートをガラス板に貼付し、2kgのゴムローラー(幅:約50mm)を1往復させ、UV照射前剥離強度の測定用サンプルとした。
得られた測定用サンプルを、温度23℃、湿度50%の環境下で24時間放置した。その後、JIS Z0237に準じて、剥離速度300mm/分で180°方向の引張試験を行い、粘着シートのガラス板に対する剥離強度(N/25mm)を測定した。
【0133】
「UV照射後剥離強度」
UV照射前剥離強度の測定用サンプルと同じものを作製し、粘着シート側の面から照射量500mJ/cmの条件で紫外線(UV)を照射し、UV照射後剥離強度の測定用サンプルとした。UV照射には、コンベヤー型紫外線照射装置(アイグラフィックス社製、2KWランプ、80W/cm)を用いた。
得られた測定用サンプルについて「UV照射前剥離強度」と同様にして、粘着シートのガラス板に対する剥離強度(N/25mm)を測定した。
【0134】
「耐熱UV照射後剥離強度」
UV照射前剥離強度の測定用サンプルと同じものを作製し、200℃で2時間保持する熱処理を行ってから室温(23℃)に冷却し、「UV照射後剥離強度」と同じ条件でUVを照射し、耐熱UV照射後剥離強度の測定用サンプルとした。
得られた測定用サンプルについて「UV照射後剥離強度」と同様にして、粘着シートのガラス板に対する剥離強度(N/25mm)を測定した。
【0135】
「糊残り」
UV照射後剥離強度の測定を行った後のガラス板を目視で観察し、以下の基準で評価した。その結果を表4~表6に示す。
(評価基準)
○:ガラス板に粘着剤が残らない。
△:ガラス板の一部に粘着剤が残った。
×:ガラス板全面に粘着剤が残った。
【0136】
表4および表5に示すように、実施例1~12の粘着シートは、いずれも「UV照射前剥離強度」が1.0N/25mm以上であり、「耐熱UV照射後剥離強度」が2.5N/25mm未満であり、糊残りの評価が〇または△であった。
これに対し、表6に示すように、樹脂(A)が脂環式化合物に由来する構造を含まない比較例1および比較例2の粘着シートは、いずれも「UV照射後剥離強度」が十分に低いにも関わらず「耐熱UV照射後剥離強度」が高く、糊残りの評価が×であった。