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特許7568036位置計測装置、位置計測方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】位置計測装置、位置計測方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01C 21/28 20060101AFI20241008BHJP
   G01C 21/36 20060101ALI20241008BHJP
   G01S 19/49 20100101ALI20241008BHJP
【FI】
G01C21/28
G01C21/36
G01S19/49
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023194310
(22)【出願日】2023-11-15
(62)【分割の表示】P 2021545048の分割
【原出願日】2019-09-12
(65)【公開番号】P2024016253
(43)【公開日】2024-02-06
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004381
【氏名又は名称】弁理士法人ITOH
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124844
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 隆治
(72)【発明者】
【氏名】吉田 誠史
【審査官】佐藤 吉信
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-530958(JP,A)
【文献】特開平9-062353(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0095177(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 21/00-21/36
G01C 23/00-25/00
G08G 1/00-99/00
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G01S 19/00-19/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の絶対位置を計測するための位置計測装置であって、
航法衛星から送信される信号に基づいて、前記移動体の絶対位置を計測する絶対位置計測部と、
前記移動体のある位置からの変位を計測する相対変位計測部と、
予め作成された、又は、前記移動体の移動中に作成された計画に従って、前記絶対位置計測部と前記相対変位計測部とを切り替えて使用することにより前記移動体の絶対位置を計測する測位制御部とを備え、
前記測位制御部は、航法衛星から送信される信号に基づく測位の精度を表す指標であって、位置と時刻又は時間帯との関数である指標を格納するデータベースから、前記移動体が移動する予定の経路上の指標を取得し、当該指標に基づいて前記計画を作成し、
前記指標は、GNSS搬送波位相測位の収束解が得られた実績に基づき算出された指標である
位置計測装置。
【請求項2】
前記位置計測装置は更に時計部を備え、前記時計部は、
前記絶対位置計測部により取得される絶対時刻と同期し、
前記絶対位置計測部が絶対時刻を取得できない場合には、ホールドオーバ動作により、絶対時刻を計測する
請求項1に記載の位置計測装置。
【請求項3】
前記計画は、前記移動体が移動する予定の経路上における前記絶対位置計測部による計測を行う第1区間と、前記相対変位計測部による計測を行う第2区間とを含む情報である
請求項1又は2に記載の位置計測装置。
【請求項4】
前記第2区間は、航法衛星からの信号を品質良く受信できない区間と、当該区間の前後のバッファからなる区間である
請求項3に記載の位置計測装置。
【請求項5】
移動体の絶対位置を計測するための位置計測装置が実行する位置計測方法であって、
前記位置計測装置は、航法衛星から送信される信号に基づいて、前記移動体の絶対位置を計測する絶対位置計測部と、前記移動体のある位置からの変位を計測する相対変位計測部とを備え、
予め作成された、又は、前記移動体の移動中に作成された計画に従って、前記絶対位置計測部と前記相対変位計測部とを切り替えて使用することにより前記移動体の絶対位置を計測する位置計測方法であり、
航法衛星から送信される信号に基づく測位の精度を表す指標であって、位置と時刻又は時間帯との関数である指標を格納するデータベースから、前記移動体が移動する予定の経路上の指標を取得し、当該指標に基づいて前記計画を作成し、
前記指標は、GNSS搬送波位相測位の収束解が得られた実績に基づき算出された指標である
位置計測方法。
【請求項6】
コンピュータを、請求項1ないし4のうちいずれか1項に記載の位置計測装置における測位制御部として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体の絶対位置を高精度に計測する技術に関連するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、GNSS(Global Navigation Satellite System)による測位が幅広いアプリケーションに活用されている。
【0003】
GNSSによる測位には、数メートルの測位精度が得られるコード測位(Code based positioning)や、センチメートル級の測位精度を実現する搬送波位相測位(Carrier-phase based positioning)等がある。
【0004】
GNSSによる測位を用いるアプリケーションの1つとして、自動走行車両のための測位がある。自動走行車両ではレーン判定が可能なサブメートル(数cm~数10cmオーダー)の絶対位置の測位精度が要求されるため、搬送波位相測位を用いることが想定される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】菊地錬、「GNSS/INS複合測位における 信頼度指標の算出に関する研究」、修士論文、東京海洋大学、2016年、http://www.denshi.e.kaiyodai.ac.jp/jp/content2.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
GNSSによる測位では、周辺に建造物のあるアーバンキャニオン受信環境でGNSS測位精度が大幅に劣化する課題がある。また、トンネル、高架下等ではGNSS信号(航法衛星から送信される信号であり、航法衛星信号と呼んでもよい)を受信できなくなるため、GNSSによる測位を実施できない。
【0007】
そこで、GNSS信号の受信品質に応じて、GNSSによる絶対測位とIMU(Inertial Measurement Unit、慣性計測装置)、センサ等による相対変位測位とをリアクティブに切り替えて併用することが考えられる。なお、本明細書での「受信品質」とは、航法衛星信号の受信強度等に加えて、精度の良い測位のために十分な数の見通し状態の航法衛星から信号を受信できているかどうか等の意味を含む。また、「絶対測位」とは絶対位置を計測することであるが、本明細書では、GNSSによる測位を意味する。
【0008】
しかし、絶対位置の計測精度が低い場合、たとえ相対変位の計測精度が高くても高精度な絶対位置の計測は実現できない。そのため、GNSS信号の受信品質が悪くなってから切り替えを行うリアクティブな切り替え方法では絶対位置の計測精度が劣化する可能性がある。
【0009】
また、道路の車線や3D構造物(カードレール、信号等)の情報を含むダイナミックマップを使用して、車両に搭載したカメラやリモートセンシングにより、当該車両の絶対位置を推定する技術があるが、そのダイナミックマップを製作する際には更に高精度な絶対位置の測位が必要となり、上記と同様の課題がある。
【0010】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、移動体の移動経路にGNSS信号を受信できない場所あるいは受信品質が良くない場所が含まれる場合でも、精度良く移動体の絶対位置を計測することを可能とする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
開示の技術によれば、移動体の絶対位置を計測するための位置計測装置であって、
航法衛星から送信される信号に基づいて、前記移動体の絶対位置を計測する絶対位置計測部と、
前記移動体のある位置からの変位を計測する相対変位計測部と、
予め作成された、又は、前記移動体の移動中に作成された計画に従って、前記絶対位置計測部と前記相対変位計測部とを切り替えて使用することにより前記移動体の絶対位置を計測する測位制御部とを備え、
前記測位制御部は、航法衛星から送信される信号に基づく測位の精度を表す指標であって、位置と時刻又は時間帯との関数である指標を格納するデータベースから、前記移動体が移動する予定の経路上の指標を取得し、当該指標に基づいて前記計画を作成し、
前記指標は、GNSS搬送波位相測位の収束解が得られた実績に基づき算出された指標である
位置計測装置が提供される。
【発明の効果】
【0012】
開示の技術によれば、移動体の移動経路にGNSS信号を受信できない場所あるいは受信品質が良くない場所が含まれる場合でも、精度良く移動体の絶対位置を計測することを可能とする技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態における位置計測装置の機能構成図である。
図2】位置計測装置のハードウェア構成の例を示す図である。
図3】位置計測装置の処理手順例1を示すフローチャートである。
図4】位置計測装置の処理手順例2を示すフローチャートである。
図5】シナリオの例を示す図である。
図6】絶対測位と相対測位の切り替えの例を説明するための図である。
図7】時刻取得の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態(本実施の形態)を説明する。以下で説明する実施の形態は一例に過ぎず、本発明が適用される実施の形態は、以下の実施の形態に限られるわけではない。
【0015】
以下の実施の形態では、位置計測を行う対象となる移動体として、道路を走行する車両を挙げているが、これは一例である。本発明は道路を走行する車両に限らない移動体全般に適用可能である。
【0016】
(装置構成)
図1に、本実施の形態における位置計測装置100の機能構成図を示す。図1に示すように、本実施の形態における位置計測装置100は、測位制御部110、絶対位置計測部120、相対変位計測部130、ルート計算部140、進路推定部150、指標DB160、時計部170、出力部180を有する。
【0017】
本実施の形態では、指標DB160に格納される指標の計算を位置計測装置100の外部で行うこととしており、それを指標計算部190として示している。ただし、指標計算部190を位置計測装置100内に備えてもよい。各機能部の概要は以下のとおりである。より具体的な動作については、後述する実施例にて説明する。
【0018】
測位制御部110は、走行する予定のルートに基づいて決定したシナリオ(計画と呼んでもよい)に従って、絶対位置計測部120による測位と相対変位計測部130による測位とをプロアクティブに切り替える制御を実行する。
【0019】
絶対位置計測部120は、GNSS搬送波位相測位受信機である。ただし、位置計測装置100の用途に応じて、絶対位置計測部120として、搬送波位相測位方式以外のGNSS受信機を用いてもよい。
【0020】
相対変位計測部130は、車速パルス計測機、IMU、車載カメラ等である。車速パルス計測機により、車両の速さ、つまり、単位時間に進む距離がわかる。IMUにより、3軸のジャイロと3方向の加速度計によって、3次元の角速度と加速度が求められる。例えば、車速パルス計測機とIMUにより、単位時間におけるある位置からの変位(移動した方位と距離)を求めることができる。
【0021】
ルート計算部140は、出発地(始点)と目的地(終点)に基づいて、移動体が走行するルートを計算し、出力する。進路推定部150は、例えば過去の移動履歴や現在日時、現在位置、進行方向、速度等に基づいて、移動体の今後の進路(現在地からある地点までの時刻情報を含むルート)を推定し、出力する。なお、ルート計算部140と進路推定部150のうちのいずれかを備えることとしてもよい。
【0022】
指標DB160には、指標計算部190により計算された絶対測位精度指標が格納される。絶対測位精度指標とは、GNSSによる絶対測位をどの程度正確にできるかを表す指標であり、位置毎、あるいは、位置及び時間帯毎の値である。
【0023】
時計部170は、水晶等の発振器を有する時計である。出力部180は、測位結果である現在位置を出力する。現在位置は(x,y,z)の3次元座標で表されるが、出力される情報は、用途によって様々である。例えば、自動走行車両の制御部への制御信号が出力されてもよいし、地図上に位置を示した画像情報が出力されてもよい。
【0024】
位置計測装置100は、物理的にまとまった1つの装置であってもよいし、いくつかの機能部が物理的に分離していて、分離された複数の機能部がネットワーク接続された装置であってもよい。例えば、測位制御部110がプログラムにより動作するコンピュータであり、その他の機能部が、当該コンピュータに接続される構成であってもよい。また、測位制御部110、ルート計算部140、進路推定部150、指標DB160、時計部170、出力部180がプログラムにより動作するコンピュータであり、その他の機能部が、当該コンピュータに接続される構成であってもよい。
【0025】
また、位置計測装置100はその全体が移動体に搭載されて使用されてもよいし、その一部が移動体に搭載されて使用されてもよい。例えば、絶対位置計測部120と相対変位計測部130が移動体に搭載され、その他の機能部が遠隔の場所(例:クラウドを実現するデータセンタ等)に備えられてもよい。
【0026】
また、絶対位置計測部120のGNSS搬送波位相測位受信機から観測データ(Raw dataとも呼ばれる)を出力し、当該観測データをクラウド上に設けた搬送波位相測位演算処理機能部に送信することで、搬送波位相測位演算をクラウド上で実施してもよい。この場合、クラウド上の搬送波位相測位演算処理機能部から測位制御部110へ測位演算結果が返される。
【0027】
(ハードウェア構成例)
図2は、本実施の形態における上記コンピュータのハードウェア構成例を示す図である。図2のコンピュータは、それぞれバスBで相互に接続されているドライブ装置1000、補助記憶装置1002、メモリ装置1003、CPU1004、インタフェース装置1005、表示装置1006、及び入力装置1007等を有する。
【0028】
当該コンピュータでの処理を実現するプログラムは、例えば、CD-ROM又はメモリカード等の記録媒体1001によって提供される。プログラムを記憶した記録媒体1001がドライブ装置1000にセットされると、プログラムが記録媒体1001からドライブ装置1000を介して補助記憶装置1002にインストールされる。但し、プログラムのインストールは必ずしも記録媒体1001より行う必要はなく、ネットワークを介して他のコンピュータよりダウンロードするようにしてもよい。補助記憶装置1002は、インストールされたプログラムを格納すると共に、必要なファイルやデータ等を格納する。
【0029】
メモリ装置1003は、プログラムの起動指示があった場合に、補助記憶装置1002からプログラムを読み出して格納する。CPU1004は、メモリ装置1003に格納されたプログラムに従って、測位制御部110等に係る機能を実現する。インタフェース装置1005は、ネットワークに接続するためのインタフェースとして用いられる。表示装置1006はプログラムによるGUI(Graphical User Interface)等を表示する。入力装置1007はキーボード及びマウス、ボタン、又はタッチパネル等で構成され、様々な操作指示を入力させるために用いられる。
【0030】
(絶対測位精度指標の算出)
指標DB160に格納する絶対測位精度指標の算出方法について説明する。指標計算部190は、予め、道路の周辺の構造物(建物、高架、トンネル等)の状況から、各地点において期待される絶対測位精度の指標を算出する。
【0031】
指標計算部190は、各地点(各位置)の指標から、位置の関数としての指標情報を作成し、それを指標DB160に格納する。位置及び時刻(あるいは時間帯)の関数としての指標情報を作成し、それを指標DB160に格納することとしてもよい。
【0032】
絶対測位精度指標の算出方法として、例えば、位置計測の実績データから算出する方法がある。この方法では、例えば、正確な位置がわかっている各地点で、絶対位置計測部120に相当する計測手段で位置計測を行う。指標計算部190は、各地点の位置情報と計測結果とを収集し、これらに基づき指標を算出する。例えば、実際の位置と、計測結果の位置との誤差が予め定めた閾値A以下であれば、指標を5とし、誤差が閾値A~閾値B(>閾値A)の範囲であれば、指標を4にする、といったようにして、各地点の指標を算出する。指標は、時刻に応じて変化するため、各地点で、時刻あるいは時間帯毎の指標を算出してもよい。
【0033】
また、位置計測の実績データから算出する方法として、GNSS搬送波位相測位の収束(FIX)解が得られた実績や本来、車や歩行者が位置する道路上から外れて測位されるといった測位結果のはらつきを、指標計算部190がクラウドソーシングで収集し、これらの情報から各地点の指標を算出してもよい。
【0034】
また、指標計算部190が、GNSS信号シミュレータを有し、GNSS信号シミュレータを用いて指標を算出してもよい。
【0035】
GNSS信号シミュレータにより、地球上の任意の地点、任意の時刻のGNSS受信信号を生成し、当該GNSS受信信号により位置計測を模擬的に行うことができる。
【0036】
GNSS信号シミュレータを用いる場合、地理空間情報(3D地図)を使用することで、任意の時刻において、ある受信位置におけるGNSS信号のLOS(Line-Of-Sight:見通し状態)、NLOS(Non Line-Of-Sight:構造物に遮られた状態)を判別できる。
【0037】
その機能を利用して、一定の期間(例:24時間)の天空(水平線上)の、全GNSS信号の数に対するLOS衛星からのGNSS信号の数の比率(割合)であるLOS衛星比率の時間平均を算出することができる。また、任意の位置の将来のある時刻におけるLOS衛星比率を推定することもできる。LOS衛星比率が高い程、高い測位精度が期待されるため、LOS衛星比率を指標として用いることが可能である。
【0038】
アーバンキャニオン受信環境ではGNSS信号を見通し状態で受信できる開空間が制限され、GNSS信号が建物で反射・回折したマルチパス信号を受信することによって測位精度が大幅に劣化する。GNSS信号シミュレータで地理空間情報(3D地図)を使用するレイトレースシミュレーションにより、任意の地点、任意の時刻のマルチパス信号の発生状況を推定することができる。
【0039】
指標計算部190が、上記のマルチパス信号推定機能を備えることで、遅延の大きいマルチパス信号が測位精度を劣化させることを反映して指標を計算することとしてもよい。例えば、ある閾値以上の遅延を持つマルチパス信号の有無、ある閾値以上の遅延を持つマルチパス信号の数、あるいは、直接波の数に対するある閾値以上の遅延を持つマルチパス信号の数の割合等に基づいて指標を算出してもよい。
【0040】
また、GNSS信号シミュレータにより任意の地点、任意の時刻での擬似信号を発生させ、絶対位置計測部120に相当するGNSS受信機で測位し、測位結果の真値とのかい離から指標を算出してもよい。例えば、前述した方法と同様にして、指標計算部190は、真値と、測位結果の位置との誤差が予め定めた閾値A以下であれば、指標を5とし、誤差が閾値A~閾値B(>閾値A)の範囲であれば、指標を4にする、といったようにして、各地点の指標を算出する。
【0041】
指標計算部190は、上記のGNSS信号シミュレータにより、位置毎の指標(あるいは位置毎、時刻毎の指標)を作成し、指標DB160に格納する。
【0042】
なお、事前に指標及びシナリオを準備しておくことは一例である。走行の際に、指標計算部190(又は測位制御部110)が、走行が予定されるルート上の各地点の位置と到着予測時刻に基づいて、上記GNSS信号シミュレータの機能を用いることで、ルート上の各地点の到着予測時刻における指標を例えばLOS衛星比率に基づき算出し、指標DB160に格納し、シナリオ作成に利用する(あるいは、指標DB160に格納せずにそのままシナリオ作成に利用する)こととしてもよい。
【0043】
(実施例)
以下、位置計測装置100の処理手順例を実施例として説明する。図3は、位置計測装置100の処理手順例1を示すフローチャートである。
【0044】
処理手順例1では、位置計測装置100を搭載した車両が、予め決めた出発地(始点)から予め決めた目的地(終点)まで走行する場合を想定する。この車両は、自動走行車であってもよいし、人が運転する車両であってもよい。
【0045】
S101(ステップ101)において、ルート計算部140に、始点である出発地と終点である目的地が入力される。S102において、ルート計算部140は出発地から目的地までのルートを計算し、測位制御部110に出力する。計算されたルートの情報には、ルートの位置の情報とともに、想定される車速に基づく、出発地での時刻を0とした時刻毎の位置が含まれる。なお、想定される車速に加えて、渋滞情報等を反映してもよい。
【0046】
S103において、測位制御部110は、指標DB160を参照して、S102で算出したルート上の各地点の絶対測位精度指標を取得する。
【0047】
S104において、測位制御部110は、S103で取得したルート上の絶対測位精度指標に基づいて、ルート上において、絶対測位を行う区間、及び相対変位測位を行う区間を選択することで測位のシナリオを決定する。決定したシナリオはメモリ等の記憶手段に格納される。
【0048】
図5は、S104において作成されるシナリオのイメージを示す。図5に示すように、シナリオは、出発点から目的地までのルート上における絶対測位を行う区間、及び相対変位測位を行う区間からなる。絶対測位を行う区間と相対変位測位を行う区間との境界が切り替えポイントとなる。なお、車両の走行中に指標を算出し、シナリオを作成する場合、例えば、出発時には出発地からある地点までの経路のシナリオが作成され、その地点に到達するまでに、その地点から別の地点までの経路のシナリオが作成され、最後に、ある地点から目的地までの経路のシナリオが作成される。
【0049】
測位制御部110は、基本的には、ルート上の各位置における指標を用い、例えば、指標の値が所定の値以上であるルート上の各位置からなる区間を絶対測位を行う区間として決定し、そうでない区間を相対変位測位を行う区間として決定する。見通しのよい受信環境が連続して得られるルート上の領域や見通しのよい交差点等が絶対測位を行う区間となる。
【0050】
また、測位制御部110は、位置計測装置100が備える相対変位計測部130の性能に応じて相対変位測位区間と絶対測位区間を調整してもよい。例えば、相対変位計測部130が精度の良い計測を長い距離で行うことができる場合、そうでない相対変位計測部130の場合よりも相対変位測位区間を長くとることができる。
【0051】
なお、相対変位測位区間の入口(切り替えポイント)と、出口(切り替えポイント)では、品質の良いGNSS信号を受信して正確な絶対測位結果を取得する必要があることから、トンネル等のGNSS信号を受信できない区間や、受信品質の悪い区間に対して、その前後に、ある程度のバッファを持った区間が相対変位測位区間として設定される。例えば、トンネルの入口の直前まで指標の値が良い場合であっても、トンネルの入口よりもバッファ長だけ前から相対変位測位区間が開始するように設定される。
【0052】
また、相対変位測位区間の出口側については、GNSS信号の捕捉の時間、及び、搬送波位相測位の波数アンビギュイティの解決のための時間、言い換えると初期位置算出時間(Time To First Fix:TTFF)を考慮したバッファが必要である。
【0053】
測位制御部110は、例えば、想定される車速、該当地点への到達予想時刻におけるGNSS信号の受信品質等によりバッファ長を決定する。また、測位制御部110は、車両走行中に、実際の車速、実際のGNSS信号の受信品質等に基づいてバッファ長を決定してもよい。
【0054】
図3のS105において、測位制御部110は、S104で作成したシナリオに従って、絶対位置計測部120又は相対変位計測部130に測位を行わせ、S106において測位結果を出力部180から出力する。S105の詳細は後述する。
【0055】
例えば、対象の車両が自動走行車である場合、出力部180から出力される測位結果(現在位置)は、自動走行車の制御部に送られ、ハンドル制御やスピード制御等に用いられる。また、対象の車両が、人が運転する車両である場合、出力部180から出力される測位結果(現在位置)は、ナビゲーション画面に表示される。
【0056】
図4は、処理手順例2を示すフローチャートである。図4の例は、出発地や目的地を入力せずに、推定した進路に基づいて切り替えポイントを設定する例である。
【0057】
まず、S201では、出発時において、進路推定部150が、過去の移動履歴や現在日時、現在位置等に基づいて、車両の進路(現在地からある地点までのルート)を推定する。
【0058】
S202~S205における処理内容は、図3におけるS103~S106と同じである。S206において、進路推定部150は、過去の移動履歴や現在日時、現在位置等に基づいて、現在地が目的地かどうかを判断し、目的地でなければS201に戻り、次の進路についてのS202~S205の処理を行う。S206で目的地であると判断されれば処理を終了する。
【0059】
<測位制御動作>
図3のS105(図4のS204)における測位制御の動作例を図6を参照して説明する。図6の例では、「トンネル+前後のバッファ」の区間が相対変位測位区間として設定され、相対変位測位区間の前と後が絶対測位区間として設定されている。
【0060】
車両は図6における左から右へ進行している。図6において、「絶対測位区間―>相対変位測位区間」の切り替えポイントからトンネルの入口までのバッファAと、トンネルの出口から「相対変位測位区間―>絶対測位区間」の切り替えポイントまでのバッファBが示されている。
【0061】
測位制御部110は、車両の現在位置が、絶対測位区間から相対変位測位区間への切り替えポイントの位置になったことを検知すると、測位手段を絶対位置計測部120から相対変位計測部130に切り替える。
【0062】
すなわち、図6に示すように、絶対測位区間を走行している車両において、測位制御部110が、絶対位置計測部120(GNSS)の測位結果が絶対測位区間から相対変位測位区間への切り替えポイントになったことを検知すると、測位手段を絶対位置計測部120から相対変位計測部130に切り替える。
【0063】
測位手段を絶対位置計測部120から相対変位計測部130に切り替えるとは、絶対位置計測部120に対して測定停止を指示し、相対変位計測部130に対して測定開始を指示することであってもよいし、絶対位置計測部120と相対変位計測部130は両方とも常に動作していて、測位制御部110が、使用する測位結果を絶対位置計測部120による測位結果から相対変位計測部130による測位結果に切り替えることであってもよい。
【0064】
測位制御部110は、切り替えポイントでの絶対位置計測部120による測位結果である位置Pと、絶対位置計測部120により測位結果とともに得られる絶対時刻とを保持し、相対変位測位区間での車両の絶対位置を、位置Pと、相対変位計測部130により測定された変位とに基づいて算出する。
【0065】
例えば、図6に示すように、時刻Tにおける絶対位置Pは、Tでの絶対位置Pと、相対変位計測部130により計測した(T-T)間での相対変位との和として算出される。
【0066】
ここで、Tは、絶対位置計測部120により、GNSS信号に基づき得られた正確な絶対時刻である。一方、Tは、位置計測装置100が持つ時計部170により得られた時刻である。
【0067】
仮に、車両がまっすぐに単位時間当たりSの速さで進むとし、相対変位計測部130はそれを正しく計測したとする。この場合、時計部170が計測したTが正確な絶対時刻であるとすると、ΔP=S(T-T)は正確な変位である。
【0068】
一方、例えば時計部170が正確な絶対時刻よりも遅れていて、時計部170が計測したTの時点が、実際には絶対時刻「T+ΔT」であるとすると、ΔP=S(T-T)として計算したΔPは、実際の変位よりもSΔTだけ小さいことになる。すなわち、時計部170が不正確であると、位置Pと相対変位計測部130の測位結果ΔPにより得られた測位結果は不正確になる。
【0069】
これが不正確である場合、相対変位測位区間から絶対測位区間へ切り替わる際に、相対変位測位区間の出口での測位結果と、絶対測位区間の入口での測位結果が異なってしまい、不具合が生じる。絶対測位の測位精度内程度の誤差は許容できるが、誤差が絶対測位の測位精度を超える大きさの場合、相対変位測位区間から絶対測位区間へ切り替わる際に、急に測位結果が変化してしまう等の不具合が生じる。
【0070】
そこで、本実施例では、図7に示すように、絶対位置計測部120により得られた正確な絶対時刻を時計部170に渡すことで、絶対位置計測部120により得られた絶対時刻と、時計部170が計測する時刻とを同期させる。GNSS信号を受信できない(あるいは受信品質の悪い)相対変位測位区間においては、時計部170は水晶等の発振器の周波数安定度でホールドオーバ動作を行うので、正確な絶対時刻を出力できる。
【0071】
図6におけるトンネルの出口からCの位置の時点までに、絶対位置計測部120は衛星からのGNSS信号を捕捉している。ただし、搬送波位相測位の波数アンビギュイティの解決のための時間が必要であり、波数アンビギュイティを解決できる距離(時間)の後に相対変位測位区間から絶対測位区間への切り替えポイントが設定されている。
【0072】
波数アンビギュイティの解決のための演算開始がCの点(初期座標)である。測位制御部110は、初期座標の位置を、絶対測位区間->相対変位測位区間の切り替えポイントと、相対変位測位区間->絶対測位区間の切り替えポイントとの間の車両の相対変位に基づき決定する。
【0073】
初期座標は通常、Cの点においてコード測位により算出するが、本実施の形態では、コード測位ではなく正確な時計による相対変位に基づき算出した、真値に近い初期座標を使用している。これにより、波数アンビギュイティの解決のための演算時間、つまりTTFFを短縮できるという効果がある。
【0074】
相対変位測位区間から絶対測位区間への切り替えポイントにおいて、測位制御部110は、測位手段を相対変位計測部130から絶対位置計測部120に切り替える。その後、絶対位置計測部120による絶対測位が行われる。
【0075】
(実施の形態の効果)
以上説明したように、本実施の形態によれば、移動体の移動経路にGNSS信号を受信できない場所あるいは受信品質が良くない場所が含まれる場合でも、精度良く移動体の絶対位置を計測することが可能となる。すなわち、道路環境等に応じてプロアクティブに測位手段を使い分けることにより、測位の可用性を高め、高精度な測位を実現できる。
【0076】
(実施の形態のまとめ)
本実施の形態において、少なくとも、下記の位置計測装置、位置計測方法、及びプログラムが提供される。
(第1項)
移動体の絶対位置を計測するための位置計測装置であって、
航法衛星から送信される信号に基づいて、前記移動体の絶対位置を計測する絶対位置計測部と、
前記移動体のある位置からの変位を計測する相対変位計測部と、
予め作成された、又は、前記移動体の移動中に作成された計画に従って、前記絶対位置計測部と前記相対変位計測部とを切り替えて使用することにより前記移動体の絶対位置を計測する測位制御部と
を備える位置計測装置。
(第2項)
前記測位制御部は、航法衛星から送信される信号に基づく測位の精度を表す指標を位置毎に格納するデータベースから、前記移動体が移動する予定の経路上の指標を取得し、当該指標に基づいて前記計画を作成する
第1項に記載の位置計測装置。
(第3項)
前記指標は、前記移動体が移動する予定の経路上の各位置の到達予測時刻における、航法衛星から受信する全信号の数に対する見通し状態にある航法衛星から受信する信号の数の比率に基づいて決定された値である
第2項に記載の位置計測装置。
(第4項)
前記位置計測装置は更に時計部を備え、前記時計部は、
前記絶対位置計測部により取得される絶対時刻と同期し、
前記絶対位置計測部が絶対時刻を取得できない場合には、ホールドオーバ動作により、絶対時刻を計測する
第1項ないし第3項のうちいずれか1項に記載の位置計測装置。
(第5項)
前記計画は、前記移動体が移動する予定の経路上における前記絶対位置計測部による計測を行う第1区間と、前記相対変位計測部による計測を行う第2区間とを含む情報である
第1項ないし第4項のうちいずれか1項に記載の位置計測装置。
(第6項)
前記第2区間は、航法衛星からの信号を品質良く受信できない区間と、当該区間の前後のバッファからなる区間である
第5項に記載の位置計測装置。
(第7項)
移動体の絶対位置を計測するための位置計測装置が実行する位置計測方法であって、
前記位置計測装置は、航法衛星から送信される信号に基づいて、前記移動体の絶対位置を計測する絶対位置計測部と、前記移動体のある位置からの変位を計測する相対変位計測部とを備え、
予め作成された、又は、前記移動体の移動中に作成された計画に従って、前記絶対位置計測部と前記相対変位計測部とを切り替えて使用することにより前記移動体の絶対位置を計測する
位置計測方法。
(第8項)
コンピュータを、第1項ないし第6項のうちいずれか1項に記載の位置計測装置における測位制御部として機能させるためのプログラム。
【0077】
以上、本実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0078】
100 位置計測装置
110 測位制御部
120 絶対位置計測部
130 相対変位計測部
140 ルート計算部
150 進路推定部
160 指標DB
170 時計部
180 出力部
190 指標計算部
1000 ドライブ装置
1002 補助記憶装置
1003 メモリ装置
1004 CPU
1005 インタフェース装置
1006 表示装置
1007 入力装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7