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  • 特許-ビピロリノン化合物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ビピロリノン化合物
(51)【国際特許分類】
   C09B 57/00 20060101AFI20241008BHJP
   C07D 403/14 20060101ALI20241008BHJP
   C09D 7/41 20180101ALI20241008BHJP
   C09D 11/00 20140101ALI20241008BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C09B57/00 Z CSP
C07D403/14
C09D7/41
C09D11/00
C09D201/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023524409
(86)(22)【出願日】2022-07-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-23
(86)【国際出願番号】 CN2022105933
(87)【国際公開番号】W WO2024011573
(87)【国際公開日】2024-01-18
【審査請求日】2023-04-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】桑名 康弘
(72)【発明者】
【氏名】ヤン シア
(72)【発明者】
【氏名】スイ グォホン
(72)【発明者】
【氏名】ジ シュウマイ
(72)【発明者】
【氏名】チャオ ウェイ
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-084522(JP,A)
【文献】国際公開第2004/089941(WO,A1)
【文献】特開2003-335974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 57/00
C07D 403/14
C09D 7/41
C09D 11/00
C09D 201/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物。

(1)
(式中、Rは炭素数1~3のアルキル基、炭素数2~3のアルケニル基を表し、Xは、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン、アセチル基のいずれか一つを表す。)
【請求項2】
前記化合物がビピロリノン化合物である請求項1記載の化合物。
【請求項3】
光波長における800~1400nmに透過性を有することを特徴とする請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
請求項1または2記載の化合物を含有することを特徴とする近赤外域透過性のインキ、印刷物、塗料、塗装物、プラスチック、繊維、フィルム、化粧品、および成形体。
【請求項5】
請求項3記載の化合物を含有することを特徴とする近赤外域透過性のインキ、印刷物、塗料、塗装物、プラスチック、繊維、フィルム、化粧品、および成形体。
【請求項6】
請求項1または2記載の化合物を色材、着色材、または顔料として含有することを特徴とするインキ、印刷物、塗料、塗装物、プラスチック、繊維、フィルム、化粧品、および成形体。
【請求項7】
請求項3記載の化合物を色材、着色材、または顔料として含有することを特徴とするインキ、印刷物、塗料、塗装物、プラスチック、繊維、フィルム、化粧品、および成形体。
【請求項8】
請求項1または2記載の化合物を近赤外域透過性の色材、着色材、または顔料として含有することを特徴とするインキ、印刷物、塗料、塗装物、プラスチック、繊維、フィルム、化粧品、および成形体。
【請求項9】
請求項3記載の化合物を近赤外域透過性の色材、着色材、または顔料として含有することを特徴とするインキ、印刷物、塗料、塗装物、プラスチック、繊維、フィルム、化粧品、および成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビピロリノン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、赤外領域の波長の制御が要求される装置や設備、あるいは、材料が、幅広い分野において増加傾向にある。例えば、医療包装用のプレススルーパッケージ(PTP)印刷、食品パッケージ、赤外線センサー、自動車塗装、外壁材、道路舗装等が挙げられる。
【0003】
PTP印刷された医薬包装用の異物検査装置においては、赤外線センサーを用いて、錠剤、あるいは、パッケージ自体の異物を検出する。その際、赤外領域に吸収を有する物質がパッケージに存在すると、光源からの赤外光をパッケージの基材であるアルミから十分に反射することができずに異物として認識される。そのため、色材には赤外領域の吸収が少ない、あるいは小さい材料が求められる。
【0004】
食品パッケージのリサイクルにおいては、赤外線センサーを用いて、リサイクルの可否を判断、あるいは、材料識別等を行っている。赤外領域に吸収を有するものは、光源からの赤外光を透過、あるいは識別装置によっては反射であるが、いずれもできずにリサイクル不可品として識別されてしまうことから、色材には赤外領域に吸収の少ない、あるいは小さい材料が求められている。
【0005】
赤外線センサーにおいては、センサーに相当する検出器、あるいは、光源等が必ずしも赤外領域のみを検出したり、発光したりする素子から形成されているとは限らないので、赤外センサーが赤外領域のみの検出を求められる場合や光源からの出射光に対して、可視領域を吸収あるいは反射し、赤外領域のみを透過する材料が求められる。
【0006】
一方、LCDやOLED等のカラーフィルタに用いられるブラックマトリックスやLCDのフォトスペーサーの製造においては、各々のポストベーク後の後工程においてフォトマスクとの位置合わせに赤外線カメラを使用するため、精度良く位置合わせするには、赤外領域を透過する材料が望まれている。
【0007】
自動車塗装、外壁材、道路舗装等においては、暑い季節に前記対象物が太陽光を吸収することによって昇温するのをできるだけ防ぐ必要がある。これは、快適に過ごす観点のみならず、省エネルギーの観点からも重要な課題であるため、熱に変換される度合いの大きい近赤外領域の光を透過する材料が望まれている。さらに自動車塗装においては、将来の普及が期待されている自動運転システム搭載車の周辺環境距離計測で用いられる赤外線レーザーシステムのLiDAR(Light Detection And Racing)に対しても有用でもある。
【0008】
前記例示用途では、様々な理由から外観に有彩色以外に黒色も使用される傾向にある。PTP印刷や食品パッケージは、主に文字認識のために、赤外線センサーは、主にセンサーそのものを覆い隠すために、自動車塗装や外壁材では人気色であり、主に個人の嗜好を満たすために、道路塗装はアスファルト由来のためと、理由は異なるが無彩色である黒色は、白色と並び前記用途に限定されず数多くの用途に使用される基本色である。
【0009】
以上のように上記用途の黒色色材は、基本的には赤外領域の波長を透過する材料が望ましい。しかしながら、一般的に使用される黒色色材であるカーボンブラックは、熱に変換される度合いの大きい800~1400nmを含め、赤外領域の波長の大範囲において光を吸収することから、カーボンブラックに代わる黒色色材が望まれている。
【0010】
一方、黒色色材の中の一つにビピロリノン系顔料があり(特許文献1)、黒色を呈することが明らかとなっているが、赤外領域にもかなりの吸収を有しており、赤外透過性に問題があった。また、ペリレンブラック顔料として知られているPigment Black31やPigment Black32も高濃度で用いた場合、黒色を呈するものの、低濃度で用いた場合、深緑色となってしまい、限定的に用いることしかできない状況であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2009-84522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、赤外領域に吸収が少なく、黒色の色材として使用した場合、黒色性が高いビピロリノン化合物を提供するこにある。また、当該化合物を含有するインキ、印刷物、塗料、塗装物、プラスチック、繊維、フィルム、化粧品、成形体等、及び、それらを用いた近赤外線透過性物品、波長制御素子、赤外線センサー用フィルター、固体撮像素子用フィルター、LiDAR用カバー、自動運転システム搭載車用塗装、及び、画像表示装置用ブラックマトリックス等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定の構造を有するビピロリノン化合物を見出し、当該化合物が赤外領域に吸収が少なく、黒色性の高い特徴を有することを見出し、上記の課題を解決できたものである。
【0014】
すなわち本発明は、以下を含む。
【0015】
[1]下記一般式(1)で表される化合物。
【0016】
【化1】
(1)
(式中、Rは炭素数1~3のアルキル基、炭素数2~3のアルケニル基を表し、Xは、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン、アセチル基のいずれか一つを表す。)
[2]前記化合物がビピロリノン化合物である請求項1記載の化合物。
[3]光波長における800~1400nm透過性を有することを特徴とする1または2に記載の化合物。
[4]1~3いずれか1つに記載の化合物を含有することを特徴とする近赤外域透過性のインキ、印刷物、塗料、塗装物、プラスチック、繊維、フィルム、化粧品、および成形体。
[5]1~3いずれか1つに記載の化合物を色材、着色材、または顔料として含有することを特徴とするインキ、印刷物、塗料、塗装物、プラスチック、繊維、フィルム、化粧品、および成形体。
[6]1~3いずれか1つに記載の化合物を近赤外域透過性の色材、着色材、または顔料として含有することを特徴とするインキ、印刷物、塗料、塗装物、プラスチック、繊維、フィルム、化粧品、および成形体。
を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明のビピロリノン化合物は、赤外領域に吸収が少なく、黒色性の高い特徴を有する。また、当該化合物を含有する波長制御素子、例えば、近赤外線の透過性を必要とする赤外線センサー用フィルター、固体撮像素子用フィルター、LiDAR用カバー、自動運転システム搭載車用塗装、あるいは前記用途に用いられるインキ、印刷物、塗料、塗装物、プラスチック、繊維、フィルム、化粧品、および成形体等のアプリケーションにおいても赤外領域に吸収が少なく、黒色性が高いため、幅広い産業分野に使用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のビピロリノン化合物の反射スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に示す本発明の実施形態は本発明の一部の実施形態を表すにすぎず、要旨を大幅に逸脱しない限りにおいて記載内容のみには限定されない。
【0020】
[ビピロリノン化合物]
本発明のビピロリノン化合物は、下記一般式(1)
【0021】
【化2】
(1)
(式中、Rは炭素数1~3のアルキル基、炭素数2~3のアルケニル基を表し、Xは、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン、アセチル基のいずれか一つを表す。)
で表される化合物である。
【0022】
ビピロリノン化合物は、下記一般式(1-1)
【0023】
【化3】

(1-1)
【0024】
で表される5員環不飽和ラクタム骨格を有する化合物であり、例えば、アスタリスク位にフェニル基やビフェニル基のような芳香族化合物が結合しているものが挙げられる。
【0025】
本発明のビピロリノン化合物は、置換基を有するカルバゾール化合物が一般式(1-1)のアスタリスク位に結合しており、一般式(1)において、Rがエチル基、プロピル基、エテニル基、プロペニル基が好ましく、エチル基、エテニル基が特に好ましい。Xはニトロ基、シアノ基、塩素、臭素が好ましく、ニトロ基、シアノ基が特に好ましい。
【0026】
本発明のビピロリノン化合物として表される例示化合物としては、以下に示されるが、これに限定される訳ではない。
【0027】
【化4】
【0028】
これらの化合物は、単独で使用することもできるし、2種類以上混合して使用することもできる。
【0029】
[ビピロリノン化合物の製造方法]
本発明のビピロリノン化合物は、公知の製造法により製造される。このビピロリノン化合物の製造方法としては、例えばβ-アリーロイルプロピオン酸化合物を出発原料として用いることが出来る。β-アリーロイルプロピオン酸化合物は、公知慣用な種々の方法によって得ることができるが、例えば、簡便な方法としては、無水コハク酸によるアレーンのアシル化が挙げられる。該アシル化反応は、ニトロベンゼン、ジクロロエタン、二硫化炭素などの溶剤中、塩化アルミニウム、塩化鉄、臭化鉄、塩化スズなどのルイス酸触媒によって進行する。
【0030】
このβ-アリーロイルプロピオン酸化合物は、ニトロベンゼンの様な酸化剤を含有する均一系または酢酸を含有する無水酢酸の様な脱水剤中で、エナミン化後脱水環化してピロリノン化合物とし、これを酸化することで二量化して、ビピロリノン系化合物とすることが出来る。前記方法は、副反応を抑制出来る上、原料から最終生成物まで、反応容器の移し替え等の手間が必要なく、それによる得量損失も少ない。
【0031】
具体的には、酸化剤を含有する均一系で、β-アリーロイルプロピオン酸化合物をエナミン化後、脱水環化する。
【0032】
前記方法は、比較的低温で反応制御することで、ピロリノン系化合物のみを選択的に製造することが出来るが、後記する様に、比較的高温で反応制御することで、ピロリノン系化合物を経由してビピロリノン系化合物のみを選択的に製造することが出来る。
【0033】
前記方法における酸化剤は、反応原料を仕込んだ時に均一系を形成できる、液体または固体の酸化剤である。この酸化剤は、後記するピロリノン系化合物を酸化する作用を有するものであり、例えば、過酸化水素、m-クロロ過安息香酸(mCPBA)などの過酸化物、ニトロベンゼンなどのニトロ化合物、クロラニル、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノン(DDQ)などのキノン化合物、ジメチルスルフォキシド(DMSO)などのスルフォキシド化合物、クロム酸、二酸化マンガン、二酸化セレンなどの金属酸化物、四酢酸鉛などの金属塩などが挙げられる。
【0034】
この酸化剤は、β-アリーロイルプロピオン酸化合物に対し、1当量以上用いることが出来る。均一系を形成させるために、前記した様に酸化剤にそれを溶解する様な有機溶媒を併用することも出来るが、常温液状の酸化剤の場合には、それを酸化剤として機能する量を越えた使用量を用いることで、酸化剤が溶媒を兼ねた反応系とすることが出来る。この様な使い方の場合には、酸化剤は、質量換算でβ-アリーロイルプロピオン酸化合物100部当たり、50~2000部とすることが好ましい。
【0035】
酸化剤としては、有機溶媒への溶解性を高め易い点で、有機酸化剤が好ましい。また、安全性の面から酸化性の高い酸化剤を多量に用いることは避けることが好ましい。この様な観点から、酸化剤として空気や酸素を用いて、これを反応系に吹き込む様な不均一となりやすい方法よりも、仮に過剰に用いても、反応性が温和で、かつ、安全性が高い点で、ニトロ化合物、キノン化合物を用いる方法が好ましく、原料の入手が容易な点でニトロ化合物、とりわけニトロベンゼンを用いる方法が好ましい。
【0036】
ピロリノン系化合物の製造工程では、上記の反応系で、β-アリーロイルプロピオン酸化合物をエナミン化後、脱水環化する。
【0037】
β-アリーロイルプロピオン酸のエナミン化には、アミノ化剤が用いられる。このアミノ化剤としては、アンモニアまたはアミン、あるいは反応時にアンモニアやアミンを発生する化合物を用いることが出来る。この様な化合物としては、例えば、アンモニアガス、液体アンモニアや、酢酸アンモニウム、塩酸アンモニウムなどのアンモニウム塩、尿素、メチルアミン、エチルアミン、n-ブチルアミンなどの1級アミンなどが挙げられる。アミノ化剤が固体や液体の場合は、それをそのまま反応系に仕込めば良いし、それが気体の場合は、それを反応系にバブリングすれば良い。
【0038】
エナミン化反応の反応率を高めるために、アミノ化剤はβ-アリーロイルプロピオン酸化合物に対し過剰に用いることが好ましく、アミノ化剤が酢酸アンモニウムの場合、それをβ-アリーロイルプロピオン酸化合物1モルに対し2~2.5モル用いれば良い。
【0039】
β-アリーロイルプロピオン酸のエナミン化は、β-アリーロイルプロピオン酸とアミ
ノ化剤を、必要に応じて用いる有機溶媒中で混合攪拌することにより行うことが出来る。
この時に用いる有機溶媒としては、前記した常温液状の酸化剤や、常温液状の脱水剤を用
いることが出来る。
【0040】
このエナミン化反応は、例えば、50~200℃かつ1~50時間の範囲から選択することが出来る。
【0041】
また、酸などの触媒によってもエナミン化反応速度を向上させることが出来る。酸触媒としては、例えば、パラトルエンスルフォン酸、酢酸などの有機酸、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸などが挙げられる。酸触媒は、アミノ化剤と塩を形成するため、強酸性触媒の場合は、β-アリーロイルプロピオン酸1モルに対して触媒量、例えば、0.05~0.5モルを用いることが出来る。
【0042】
また、酸触媒が酢酸などの弱酸性の場合、アミノ化剤と形成された酢酸塩は、反応時に可逆的にアミンを生成できるので、β-アリーロイルピロピオン酸1モルに対して1~1.5モルの範囲で用いれば良い。
【0043】
エナミン化の進行にともなって遊離する水は、生成したエナミンを加水分解するため、例えば、ディーン・シュターク・トラップなどを用いて反応系外に除くことが好ましい。
【0044】
アミノ化により生成したエナミン中間体は、さらに分子内でカルボキシル基と脱水縮合し、ピロリノン化合物を与える。この分子内脱水縮合反応は、例えば、酸触媒により促進出来る。よって、予め前記した様な酸触媒を反応系に仕込んでおくことが好ましい。この酸触媒としては、エナミン化時に用いられる前記の酸触媒が挙げられる。
【0045】
また、分子内脱水縮合反応においても、エナミン化反応同様、平衡を生成系に傾かせる
ために、この分子内脱水により生成した水を反応系外に除くことが好ましい。
【0046】
この脱水環化反応を行うに当たって、加熱温度及び加熱時間は、例えば、60~170℃かつ30分~10時間の範囲から選択することが出来る。
【0047】
エナミン化と脱水環化の反応温度としては、ピロリノン系化合物を最終目的物とする場合は、80~150℃であることが好ましい。
【0048】
ピロリノン系化合物の製造方法での反応の終点は、例えば、反応液を一又は複数のクロマトグラフィー工程にかけ、ピロリノン系化合物の生成量が飽和することにより確認することが出来る。
【0049】
こうして得られたピロリノン系化合物は、濾過や乾燥することにより、任意の形態として用いることが出来る。また、洗浄、再結晶等を行うことにより精製することも出来る。
【0050】
次にビピロリノン系化合物の製造方法について、説明する。
【0051】
ビピロリノン系化合物は、前記方法によって製造されたピロリノン系化合物を酸化することで製造出来る。この反応は、2モルのピロリノン系化合物から1モルのビピロリノン系化合物が生成する反応である。
【0052】
ピロリノン系化合物を前記方法にて製造した場合には、その反応終了後に既に、反応系に酸化剤として作用する物質が含まれているため、ビピロリノン系化合物の製造において特段に酸化剤を反応系に加えることなく酸化を行うことが出来る。
【0053】
一分子のピロリノン系化合物は、そのカルボニル基のアルファ位のメチレン炭素が酸化されて、2,3-ジケトピロリンを生じ、さらにそれは別の分子のピロリノン系化合物との分子間脱水縮合によってビピロリノン系化合物が生成すると推定される。ピロリノン系化合物からビピロリノン系化合物を製造する際は、ピロリノン系化合物の酸化により生成する2,3-ジケトピロリンに対し、それと反応するピロリノン系化合物が不足して、ビピロリノン系化合物の収率が低下しないように、酸化性の高い酸化剤を過剰に用いることは避けることが好ましい。このことから、前記したのと同様に、反応性が温和で、かつ、より均一な酸化を行え、安全性が高い酸化剤を用いた方法を採用するのが好ましい。
【0054】
ピロリノン系化合物の酸化は、有機溶媒の存在下で行っても良い。この際の有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒が挙げられる。
【0055】
このピロリノン系化合物のビピロリノン系化合物への酸化反応を行うに当たって、加熱温度及び加熱時間は、例えば、70~250℃かつ1~50時間の範囲から選択することが出来る。一定時間一定温度を保持してから昇温する様にして、段階的な加熱を行ってもよい。
【0056】
この酸化反応は、脱水縮合反応により生成する水が突沸しない様に反応混合物を攪拌することが好ましい。反応温度は、ニトロベンゼンを酸化剤兼反応溶媒とした場合、50~250℃に加熱することが酸化反応速度を向上させる点で好ましく、100~220℃に加熱することが脱水縮合反応を促進する点で好ましい。さらに155~200℃に加熱することにより、ビピロリノン系化合物の生成速度をさらに向上させることができる。
【0057】
ビピロリノン系化合物の製造方法においては、酸化剤兼反応溶媒として機能する量の酸化剤を含む均一系を用いて、かつ比較的低温(例えば50~150℃)で反応を行う様にした方法を採用し、そこで得られたピロリノン系化合物を酸化することで、直ちにビピロリノン系化合物を得ることが出来る。
【0058】
ピロリノン系化合物の酸化反応の終点は、例えば、反応液を各種クロマトグラフィーにかけ、ビピロリノン系化合物の生成量が飽和することにより確認することが出来る。
【0059】
こうして得られたビピロリノン系化合物は、濾過や乾燥することにより、任意の形態として用いることが出来る。また、洗浄、再結晶等を行うことにより精製することも出来る。更に、微細化や各種表面処理を行うことで、被着色媒体の着色に適した色材、着色材、または顔料として用いることが出来る。
【0060】
前記製造方法で得られたビピロリノン化合物は、製造後は、大きな粒子サイズや粒子の不均一を有していることが多く、アプリケーションによっては分散性が悪いため、粒子サイズや結晶型を所望のものにするため、必要に応じて更なる粒子制御の工程が必要となる。
【0061】
粒子制御を行う場合は、公知慣用の方法をいずれも用いることができる。具体的には本発明のビピロリノン化合物を水溶性無機塩と水溶性有機溶剤と共に混練磨砕する方法(ソルベントソルトミリング法)、本発明のビピロリノン化合物と前記ビピロリノン化合物が不溶の溶剤中で加熱する方法(ソルベント法)、粉砕機又は分散機を用いて微細化する方法、等が挙げられる。
【0062】
ソルベントソルトミリング法としては、例えば、本発明のビピロリノン化合物を、塩化ナトリウムや硫酸ナトリウムの様な水溶性無機塩と、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールの様な水溶性有機溶媒と共に加熱しながら混練摩砕し、得られた粒子を水洗する方法が挙げられる。
【0063】
ソルベント法を行う場合の液媒体は、本発明のビピロリノン化合物を溶解しないものを選択して用いる。この液媒体としては、本発明のビピロリノン化合物の結晶制御をより安定的に行うために、水可溶性有機溶媒を必須成分として含む液媒体を用いるのが好ましい。
【0064】
微細化する方法を行う場合は、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、横型連続媒体分散機、ニーダー、連続式一軸混練機、連続式二軸混練機、三本ロール、及びオープンロール連続混練機等の顔料磨砕機や顔料分散機を用いることができる。また、前記磨砕機や分散機は、ソルベントソルトミリング法でも用いることができる。
【0065】
本発明のビピロリノン化合物は、粒子制御をすることにより、分子的性質ではなく結晶的性質を発現することもできる。具体的には、結晶的性質を有することで、黒色性、堅牢性、波長制御を高次元で維持することができる。
【0066】
(近赤外線透過性物品)
本発明のビピロリノン化合物は、近赤外線の透過を必要とするインキ、印刷物、塗料、塗装物、プラスチック、繊維、フィルム、化粧品、および成形体等の物品に使用することができる。
【0067】
例えば、赤外線センサー用フィルター、固体撮像素子用フィルター、LiDAR用カバー、自動運転システム搭載車用塗装、画像表示装置用ブラックマトリックス等に好適に使用することができる。
【0068】
本発明のビピロリノン化合物は、赤外線センサーを用いた物品に使用することができ、その理由は以下のとおりである。赤外線センサーを搭載した機器は、前記機器の用途や種類によるが、赤外線を出射する発振器側では、光源からの赤外光を機器の外側に出力するため、または、赤外線を受光する検出器側では外からの赤外光を遮らないようにするため、赤外線透過性が必要となる。特に発振器や受光器を保護する役割、物品そのものが赤外線センサーであることを隠す役割、及び、物品そのもの存在を目立たなくする役割等で、これらの機器には黒色が好まれる傾向にある。
【0069】
本発明のビピロリノン化合物は、固体撮像素子用の物品に使用することができ、その理由は以下のとおりである。前記赤外線センサーと類似の役割で用いられるが、前記赤外線センサーの役割に加え、屋外で使用される頻度が増えるため、さらなる耐光性が望まれることから、染料系色素よりは顔料系色素が好まれる傾向にある。
【0070】
本発明のビピロリノン化合物は、LiDAR用途の物品に使用することができ、その理由は以下のとおりである。前記赤外線センサーに相当するLiDAR(ライダー)「light detection and ranging(光による検知と測距)」として使用される例とLiDARで距離を計測したい対象物、特に自動車やトラック等の移動媒体の塗装膜として使用される例が挙げられる。
【0071】
LiDARの主な原理の一つにTOF(Time of Filght)法があり、出射したレーザー光が対象物に到達し、対象物で反射したレーザー光が受光センサーで受信されることによって、対象物までの距離や方向、対象物の形状を算出するものである。
【0072】
本発明のビピロリノン化合物を含む物品がLiDAR機器そのもので使用される場合は、前記赤外線センサーと同様であるが、光源に使用される赤外線レーザーの波長が905nmや1550nmであることから、前記波長のみを透過すればよいが、バンドパスフィルターは高価なため、近赤外線全域を透過する材料が好まれる傾向にある。
【0073】
本発明のビピロリノン化合物を含む物品が移動媒体の塗装膜として使用される場合は、移動媒体の筐体、車体自体、あるいは前記塗装のプライマー層や下地層が赤外線を反射することを前提にしている。前記レーザー光が移動媒体に到達すると、赤外線透過性の前記塗装膜を透過し、前記プライマー層や下地層で反射した後、再び、前記塗装膜を透過し、前記移動媒体から放出される。前記移動媒体は、白色系や黒色系のベースカラーを用いた色合いが一般的には好まれる傾向にある。
【0074】
本発明のビピロリノン化合物は、画像表示装置用ブラックマトリックス等で使用することができ、その理由は以下のとおりである。各種光源から可視光がカラーフィルターを通過する際にRGB各色の混色を防止する必要があるため、可視光領域における高い遮光率が求められる。また、ブラックマトリックスは、基板に材料を塗布乾燥後、フォトマスクを介しての露光、現像、ポストベークといったフォトリソグラフィ工程によって得られることから、マスク露光部に対する一定の光硬化性を得るために紫外光領域に一定の透過性を有する染料や顔料、また、ポストベーク時に遮光率を保持するだけの耐熱性を有する染料や顔料が好まれる傾向にある。
【0075】
(色材用途)
本発明のビピロリノン化合物を利用することで、インキ、印刷物、塗料、塗装物、プラスチック、繊維、フィルム、化粧品、および成形体等の物品のみならず、近赤外線の透過を必要とする前記物品を提供することができる。下記詳述する用途は一例であり、本発明のビピロリノン化合物をアプリケーションとして、いかなる用途へも使用することができる。
【0076】
(インキ用途)
本発明のビピロリノン化合物は、印刷インキに使用することができる。印刷インキは、本発明のビピロリノン化合物に対して、公知慣用の各種バインダー樹脂、各種溶媒、各種添加剤等を、従来の調製方法に従って混合することにより調製することができる。具体的には、顔料濃度の高いリキッドインキ用ベースインキを調整し、各種バインダー、各種溶媒、各種添加剤等を前記ベースインキに添加することにより、リキッドインキを調整することができる。
【0077】
本発明のビピロリノン化合物は、PUインキやNCインキの製造が可能であり、グラビア印刷インキやフレキソ印刷インキ用の有機顔料組成物として好適である。PUインキはPU樹脂、顔料、溶剤、各種添加剤よりなり、NCインキはNC樹脂、顔料、溶剤、各種添加剤よりなる。PU樹脂は、ウレタン構造を骨格内に有していれば、特に、限定されず、ポリウレタン、ポリウレタンポリウレア等も含む。それぞれ溶剤としては、トルエン、キシレンなどの芳香族有機溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル系溶剤、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノールなどのアルコール系溶剤、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-i-プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ-i-プロピルエーテルなどの(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどの(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート系溶剤、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどの他のエーテル系溶剤などが挙げられる。なお、溶剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。各種添加剤としては、アニオン性、ノニオン性、カチオン性、両イオン性などの界面活性剤、ガムロジン、重合ロジン、不均化ロジン、水添ロジン、マレイン化ロジン、硬化ロジン、フタル酸アルキッド樹脂などロジン類、顔料誘導体、分散剤、湿潤剤、接着補助剤、レベリング剤、消泡剤、帯電防止剤、トラッピング剤、ブロッキング防止剤、ワックス成分などを使用することができる。
【0078】
本発明のビピロリノン化合物を印刷インキとして用いる場合、上記のようにして調製された本発明のビピロリノン化合物を使用した印刷インキを酢酸エチルやポリウレタン系ワニス、ポリアミド系ワニスに希釈して用いることができる。印刷インキの調製は公知慣用の方法を採用することができる。
【0079】
(塗料用途)
本発明のビピロリノン化合物を塗料とする場合、塗料として使用される樹脂としては、アクリル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂など様々である。
【0080】
塗料に使用される溶媒としては、トルエンやキシレン、メトキシベンゼン等の芳香族系溶剤、酢酸エチルや酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の酢酸エステル系溶剤、エトキシエチルプロピオネート等のプロピオネート系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、n-ブタノール、イソブタノール等のアルコール系溶剤、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤、N,N-ジメチルホルムアミド、γ-ブチロラクタム、N-メチル-2-ピロリドン、アニリン、ピリジン等の窒素化合物系溶剤、γ-ブチロラクトン等のラクトン系溶剤、カルバミン酸メチルとカルバミン酸エチルの48:52の混合物のようなカルバミン酸エステル、水等がある。溶媒としては、特にプロピオネート系、アルコール系、エーテル系、ケトン系、窒素化合物系、ラクトン系、水等の極性溶媒で水可溶のものが適している。
【0081】
また、顔料添加剤及び/又は顔料組成物を、液状樹脂中で分散し又は混合し、塗料用樹脂組成物とする場合には、通常の添加剤類、例えば、分散剤類、充填剤類、塗料補助剤類、乾燥剤類、可塑剤類及び/又は補助顔料を前記液状樹脂に添加することができる。これは、それぞれの成分を、単独又は幾つかを一緒にして、全ての成分を集め、又はそれらの全部を一度に加え、分散又は混合することによって、前記塗料用樹脂組成物が得られるということである。
【0082】
上記のように用途にあわせて調製されたビピロリノン化合物を含む組成物を分散する分散機としては、ディスパー、ホモミキサー、ペイントコンディショナー、スキャンデックス、ビーズミル、アトライター、ボールミル、二本ロール、三本ロール、加圧ニーダー等の公知の分散機が挙げられるが、これらに限定されるものではない。顔料組成物の分散は、これらの分散機にて分散が可能な粘度になるよう、樹脂、溶剤が添加され分散される。分散後の高濃度塗料ベースは固形分5~20%であり、これにさらに樹脂、溶剤を混合し塗料として使用に供される。
【0083】
(プラスチック用途)
本発明のビピロリノン化合物は、プラスチック着色用途にも使用できる。着色プラスチック成形品を得る場合には、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンやポリ塩化ビニル樹脂等の、射出成形やプレス成形等の熱成形用の熱可塑性樹脂(プラスチック)が用いられるが、本発明の顔料はこれらの樹脂に従来公知の方法で練り込んで使用することができる。
【0084】
(化粧品用途)
本発明のビピロリノン化合物は、化粧品として使用できる。使用される化粧品には特に制限はなく、本発明のビピロリノン化合物は、様々なタイプの化粧品に使用することができる。
【0085】
前記化粧品は、化粧料としての機能を有効に発現することができる限り、いかなるタイプの化粧品であってもよい。前記化粧品は、ローション、クリームゲル、スプレー等であってよい。前記化粧品としては、洗顔料、メーク落とし、化粧水、美容液、パック、保護用乳液、保護用クリーム、美白化粧品、紫外線防止化粧品等のスキンケア化粧品、ファンデーション、白粉、化粧下地、口紅、アイメークアップ、頬紅、ネイルエナメル等のメークアップ化粧品、シャンプー、ヘアリンス、ヘアトリートメント、整髪剤、パーマネント・ウェーブ剤、染毛剤、育毛剤等のヘアケア化粧品、身体洗浄用化粧品、デオドラント化粧品、浴用剤等のボディケア化粧品などを挙げることができる。
【0086】
前記化粧品に使用される本発明のビピロリノン化合物は、化粧品の種類に応じて適宜設定することができる。前記化粧品中の本発明のビピロリノン化合物の含有量は、通常0.1~99質量%の範囲であり、一般的には、0.1~10質量%の範囲となるような量であることが好ましい。一方で、着色が目的のメークアップ化粧品では、好ましくは5~80質量%の範囲、さらに好ましくは10~70質量%の範囲、最も好ましくは20~60質量%の範囲となるような量であることが好ましい。前記化粧品に含まれる本発明のビピロリノン化合物の含有量が前記範囲であると、着色性等の機能を有効に発現することができ、かつ化粧品に要求される機能も保持することができる。
【0087】
前記化粧品は、化粧品の種類に応じて、本発明のビピロリノン化合物の他、化粧品成分として許容可能な、担体、顔料、油、ステロール、アミノ酸、粉体、着色剤、pH調整剤、香料、精油、化粧品活性成分、ビタミン、必須脂肪酸、スフィンゴ脂質、セルフタンニング剤、賦形剤、充填剤、乳化剤、酸化防止剤、界面活性剤、キレート剤、ゲル化剤、濃厚剤、エモリエント剤、湿潤剤、保湿剤、鉱物、粘度調整剤、流動調整剤、角質溶解剤、レチノイド、ホルモン化合物、アルファヒドロキシ酸、アルファケト酸、抗マイコバクテリア剤、抗真菌剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、鎮痛剤、抗アレルギー剤、抗ヒスタミン剤、抗炎症剤、抗刺激剤、抗腫瘍剤、免疫系ブースト剤、免疫系抑制剤、抗アクネ剤、麻酔剤、消毒剤、防虫剤、皮膚冷却化合物、皮膚保護剤、皮膚浸透増強剤、剥脱剤(exfoliant)、潤滑剤、芳香剤、染色剤、脱色剤、色素沈着低下剤(hypopigmenting agent)、防腐剤、安定剤、医薬品、光安定化剤、及び球形粉末等を含むことができる。
【0088】
前記化粧品は、本発明のビピロリノン化合物およびその他の化粧品成分を混合することによって製造することができる。
また、本発明のビピロリノン化合物を含む化粧品は、該化粧品のタイプ等に応じて、通常の化粧品と同様に使用することができる。
【実施例
【0089】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例の組成物における「%」は『質量%』を意味する。
【0090】
(合成例1)
3-ニトロエチルカルバゾール7.4g、無水コハク酸3.0gを窒素パージした状態でニトロベンゼン85gと混合し、さらに塩化アルミニウム8.5gを加えた。得られた混合物を室温で2時間攪拌した後、60℃で4時間反応させ、室温に戻した後、反応溶液に濃塩酸17mlと水170gを注ぎ、室温で2時間攪拌した。その後、ろ過、水洗、乾燥して、5.67g中間体1を得た。得られた中間体1の純度は94.5%であった。
次に、得られた中間体1 4.08gを酢酸アンモニウム1.85g、ニトロベンゼン50gからなる溶液に混合し、90℃で2時間攪拌し、さらに125℃で1時間攪拌した。得られた混合物を水を除去するために200℃で4時間加熱した後、冷却し、黒緑色の沈殿物を得た。得られた沈殿物をアセトン100mlで2回、さらにメタノール50mlと水で洗浄ろ過を繰り返し、得られたウエットケーキをDMFに加え、2時間還流した。その後、DMF、アセトン、水で洗浄、乾燥して2.17gの黒色化合物を得た。収率は57%であった。また、電子衝撃質量スペクトル(MS-EI)測定を行ったところ、分子量が638(m/z=638)であることを確認した。
得られた黒色化合物は、塩化ナトリウム10.85g、ジエチレングリコール2.5gを用いて塩磨砕を行った後、水洗、ろ過を繰り返し、得られたウエットケーキを乾燥することで2.01gの実施例1の黒色化合物を得た。
【0091】
なお、MS-EI測定に使用した装置、及び、条件は、以下のとおりである。
【0092】
装置名:アジレント・テクノロジーズ株式会社製GC/MS 5973N
測定条件:GC条件
初期温度:50℃
昇温速度 100℃/分(ターゲット温度:450℃)
MS条件
質量範囲 50~800
四重極温度 150℃
不活性イオン源温度 230℃
得られた黒色化合物の赤外吸収をフーリエ変換赤外線分光光度計(FT-IR)で測定したところ、3395cm-1にNH結合に相当する吸収ピーク、1675cm-1にカルボニル結合に相当する吸収ピーク、1321cm-1に二トロ基に相当する吸収ピークが観察された。
【0093】
なお、FT-IR測定に使用した装置、及び、条件は、以下のとおりである。
【0094】
装置名:日本分光株式会社製FT/IR-6100
測定条件:試料状態 粉末
測定方式 全反射吸収測定(ATR)法
測定波長 400~4000cm-1
得られた黒色化合物の結晶状態をX線回折装置で測定したところ、8.8°、11.0°、14.5°、17.6°、21.8°、23.9°、25.3°、27.1°、29.2°にX線回折ピークが観察された
なお、X線回折測定に使用した装置、及び、条件は、以下のとおりである。
【0095】
装置名:株式会社リガク製X線回折装置MiniFlex II
測定条件:試料状態 粉末
測定角度 2~40°、スキャン速度 2°/分
次に得られた黒色化合物の近赤外線透過性を分光光度計で測定したところ、図1に示すとおり、本発明のビピロリノン化合物は、特許文献1である特開2009-84522号公報の実施例6のビピロリノン化合物(合成例2の黒色化合物)と比較して、凡そ800nm以上の近赤外線領域で高い透過性が得られたことがわかる。
【0096】
なお、近赤外線透過性の測定に使用した装置、及び、条件は、以下のとおりである。
【0097】
装置名:日本分光株式会社製紫外可視赤外分光光度計V-770
測定条件:試料 粉末(粉末セルPSH-002使用)
測定範囲 300~2500nm
また、図1において縦軸は反射率を示している。これは透過率の指標として用いられたものである。化合物のみでは透過率の測定ができないため、化合物の無い状態の前記粉末セルの反射率を100%として、化合物を入れた前記粉末セルを反射した光量から、反射率を示すパーセンテージを算出した。
【0098】
【化5】
【0099】
(合成例2)
カルバゾール20g、無水コハク酸6.0gを窒素パージした状態でニトロベンゼン340gと混合し、さらに塩化アルミニウム34gを加えた。得られた混合物を室温で4時間攪拌した後、一晩静置させ、反応混合物に濃塩酸68ml、及び、水680mlを注ぎ、室温で2時間攪拌した。得られた淡黄色沈殿物をろ過し、水洗後、得られたウエットケーキに水酸化カリウム20g、及び、水800gを加え、攪拌した。その後、不溶物をろ過し、得られたろ液を攪拌しながら、濃塩酸を用いてpHを約2に調整した。得られた白色沈殿物をろ過、水洗、乾燥して5.22gの中間体2を得た。前記反応は2回行った。得られた中間体2の純度は、87.7%であった。
次に得られた中間体2 6.49gを酢酸アンモニウム3.74g、ニトロベンゼン100gからなる溶液に混合し、90℃で2時間、さらに125℃で1時間攪拌した。得られた混合物を水を除去するために200℃で4時間加熱した後、冷却し、黒緑色の沈殿物を得た。得られた沈殿物をアセトン100mlで2回、さらにメタノール50mlと水で洗浄ろ過を繰り返し、得られたウエットケーキをDMF30mlに加え、2時間還流した。その後、前記混合物をDMF50ml、アセトン100ml、お湯1500mlで洗浄ろ過し、得られた固形物を乾燥して2.6gの黒色化合物を得た。電子衝撃質量スペクトル(MS-EI)測定を行ったところ、分子量が492(m/z=492)であることを確認した。
得られた黒色化合物は、塩化ナトリウム10.85g、ジエチレングリコール2.5gを用いて塩磨砕を行った後、水洗、ろ過を繰り返し、得られたウエットケーキを乾燥することで2.2gの比較例2の黒色化合物を得た。
得られた黒色化合物の赤外吸収をフーリエ変換赤外線分光光度計(FT-IR)で測定したところ、3419cm-1にNH結合に相当する吸収ピーク、1668cm-1にカルボニル結合に相当するピークが観察された。
【0100】
【化6】
【0101】
(合成例3)
3-ニトロエチルカルバゾール7.4g、無水コハク酸3.0gを窒素パージした状態でニトロベンゼン85gと混合し、さらに塩化アルミニウム8.5gを加えた。得られた混合物を室温で2時間攪拌した後、50℃で4時間反応させ、室温に戻した後、反応溶液に濃塩酸17mlと水170gを注ぎ、室温で2時間攪拌した。その後、ろ過、水洗、乾燥して、5.32g中間体3を得た。得られた中間体3の純度は95.6%であった。
次に、得られた中間体3 5.05gを酢酸アンモニウム2.39g、ニトロベンゼン50gからなる溶液に混合し、90℃で2時間攪拌し、さらに125℃で1時間攪拌した。得られた混合物を水を除去するために200℃で4時間加熱した後、冷却し、黒緑色の沈殿物を得た。得られた沈殿物をアセトン100mlで2回、さらにメタノール50mlと水で洗浄ろ過を繰り返し、得られたウエットケーキをDMFに加え、2時間還流した。その後、DMF、アセトン、水で洗浄、乾燥して2.50gの黒色化合物を得た。収率は53%であった。また、電子衝撃質量スペクトル(MS-EI)測定を行ったところ、分子量が610(m/z=610)であることを確認した。
得られた黒色化合物は、塩化ナトリウム12.50g、ジエチレングリコール2.91gを用いて塩磨砕を行った後、水洗、ろ過を繰り返し、得られたウエットケーキを乾燥することで2.30gの実施例2の黒色化合物を得た。
得られた黒色化合物の赤外吸収をフーリエ変換赤外線分光光度計(FT-IR)で測定したところ、3398cm-1にNH結合に相当する吸収ピーク、1673cm-1にカルボニル結合に相当するピーク、及び、1322cm-1に二トロ基に相当するピークが観察された。
【0102】
次に得られた黒色化合物の近赤外線透過性を分光光度計で測定した。結果は、図1に示すとおり、本発明のビピロリノン化合物は、凡そ800nm以上の近赤外線領域で高い透過性が得られたことがわかる。
【0103】
【化7】
【0104】
(実施例1)
<色相評価>
合成例1で得られた化合物1.6g、ウレタンアクリル樹脂(固形分濃度:40%、溶剤:キシレン/イソブチルアルコール=50/50)6.4g、キシレン3.2g、イソブチルアルコール0.8gをガラス瓶に入れ、さらに直径3mmのガラスビーズを加えてペイントコンディショナーで1時間前記化合物を分散した。その後、前記ウレタンアクリル樹脂20.0gを加えてペイントコンディショナーで10分間前記化合物を分散し、さらに得られた分散物7.5g、前記ウレタンアクリル樹脂10.6g、キシレン0.8g、イソブチルアルコール0.2g、前記ガラスビーズをガラス瓶に入れ、10分間分散して実施例1の塗料を得た。
【0105】
得られた塗料を白色アート紙にアプリケーターで塗布し、膜厚25μmの塗膜を得た。得られた塗膜は目視で黒色であったので、色相を分光光度計(機器名:「DC650」datacolor社)で測定した結果、L*=26.1、a*=0.03、b*=0.10であった。
反射率評価
得られた塗料を白色アート紙にアプリケーターで塗布し、膜厚20μmの塗膜を得、得られた塗膜の赤外領域の反射率を分光光度計(機器名:「V-770」日本分光株式会社)で測定した。
【0106】
なお、905nmにおける反射率の評価基準は、
反射率80%以上:◎
反射率60~80%:〇
反射率40~60%:△
反射率40%以下:×
とした。
得られた塗膜の905nmにおける反射率は、◎、また、780~2500nmにおける平均反射率は、91.9%であった。
【0107】
(実施例2)
合成例1で得られた化合物の代わりに合成例3で得られた黒色化合物を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2の塗料を得た。
得られた塗料を白色アート紙にアプリケーターで塗布し、膜厚25μmの塗膜を得た。得られた塗膜は目視で灰色であったが、色相を分光光度計(機器名:「DC650」datacolor社)で測定した。
結果、L*=26.0、a*=0.01、b*=0.48であった。
反射率評価
実施例1と同様にして得られた膜厚20μmの塗膜の赤外領域の反射率を分光光度計で測定した。得られた塗膜の905nmにおける反射率は、〇、また、780~2500nmにおける平均反射率は、89.6%であった。
【0108】
[比較例1]
合成例1で得られた化合物の代わりにカーボンブラック(銘柄「#2600」三菱ケミカル株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例1の塗料を得た。
得られた塗料を白色アート紙にアプリケーターで塗布し、膜厚25μmの塗膜を得た。得られた塗膜は目視で灰色であったが、色相を分光光度計(機器名:「DC650」datacolor社)で測定した結果、L*=25.9、a*=-0.01、b*=-0.79であった。
反射率評価
実施例1と同様にして得られた膜厚20μmの塗膜の赤外領域の反射率を分光光度計で測定した。得られた塗膜の905nmにおける反射率は、×、また、780~2500nmにおける平均反射率は、10.7%であった。
【0109】
[比較例2]
合成例1で得られた化合物の代わり合成例2で得られた黒色化合物を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例2の塗料を得た。
得られた塗料を白色アート紙にアプリケーターで塗布し、膜厚25μmの塗膜を得た。得られた塗膜は目視で灰色であったが、色相を分光光度計(機器名:「DC650」datacolor社)で測定した。
結果、L*=25.7、a*=-0.03、b*=-1.38であった。
反射率評価
実施例1と同様にして得られた膜厚20μmの塗膜の赤外領域の反射率を分光光度計で測定した。得られた塗膜の905nmにおける反射率は、△、また、780~2500nmにおける平均反射率は、82.9%であった。
【0110】
[比較例3]
合成例1で得られた化合物の代わりペリレンブラック顔料(商品名:「Paliogen Black S0084」サンケミカルカラー&エフェクト社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例3の塗料を得た。
得られた塗料を白色アート紙にアプリケーターで塗布し、膜厚25μmの塗膜を得た。得られた塗膜は目視で灰色であったが、色相を分光光度計(機器名:「DC650」datacolor社)で測定した結果、L*=26.4、a*=-0.06、b*=1.06であった。
反射率評価
実施例1と同様にして得られた膜厚20μmの塗膜の赤外領域の反射率を分光光度計で測定した。得られた塗膜の905nmにおける反射率は、◎、また、780~2500nmにおける平均反射率は、92.4%であった。
本発明のビピロリノン化合物は、赤外領域に吸収が少なく、黒色の色材として使用した場合、黒色性が高いことがわかった。
図1