IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DIC株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ウレタン樹脂組成物、及び、積層体
(51)【国際特許分類】
   C08L 75/06 20060101AFI20241008BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20241008BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20241008BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20241008BHJP
   C08G 18/00 20060101ALI20241008BHJP
   C08G 18/44 20060101ALI20241008BHJP
   C08G 18/48 20060101ALI20241008BHJP
   C08J 9/30 20060101ALI20241008BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C08L75/06
C08L75/04
C08L71/02
C08K5/09
C08G18/00
C08G18/44
C08G18/48 033
C08J9/30 CFF
B32B27/40
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023561554
(86)(22)【出願日】2022-11-10
(86)【国際出願番号】 JP2022041827
(87)【国際公開番号】W WO2023090236
(87)【国際公開日】2023-05-25
【審査請求日】2023-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2021187750
(32)【優先日】2021-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】藤下 章恵
(72)【発明者】
【氏名】前田 亮
(72)【発明者】
【氏名】鉄井 智博
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/084953(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/246132(WO,A1)
【文献】特開2000-297211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
C08G
C08J
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノニオン性基を有するウレタン樹脂(A)、水(B)、並びに、ポリエチレングリコール(c1)、及び/又は炭素原子数が11以下のアルコキシ基を有するポリエチレングリコール(c2)である成膜助剤(C)を含有するウレタン樹脂組成物であって、
前記ウレタン樹脂(A)が、鎖伸長剤(a1)、ポリオール(a2)、ポリイソシアネート(a3)及びオキシエチレン構造を有する化合物を必須原料とするものであり、
前記ポリオール(a2)が、1,6-ヘキサンジオールを必須原料とするポリカーボネートポリオールを含むものであり、
前記オキシエチレン構造を有する化合物の含有量が、ウレタン樹脂(A)の原料の合計質量中に0.25~3質量%の範囲であることを特徴とするウレタン樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリエチレングリコール(c1)及び前記ポリエチレングリコール(c2)の重量平均分子量が、100~4,000の範囲である請求項1記載のウレタン樹脂組成物。
【請求項3】
更に、炭素原子数が10以上の疎水部を有する界面活性剤(D)を含有するものである請求項1又は2記載のウレタン樹脂組成物。
【請求項4】
前記界面活性剤(D)が、ステアリン酸塩である請求項記載のウレタン樹脂組成物。
【請求項5】
少なくとも、基材(i)、及び、請求項1~のいずれか1項記載のウレタン樹脂組成物により形成された発泡層(ii)を有することを特徴とする積層体。
【請求項6】
前記発泡層(ii)が、前記ウレタン樹脂組成物を機械発泡することにより形成されたものである請求項記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を含有するウレタン樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ウレタン樹脂は、その機械的強度や風合いの良さから、合成皮革(人工皮革含む。)の製造に広く利用されている。この用途においては、これまでN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を含有する溶剤系ウレタン樹脂が主流であった。しかしながら、欧州でのDMF規制、中国や台湾でのVOC排出規制の強化、大手アパレルメーカーによるDMF規制などを背景に、合成皮革を構成する各層用のウレタン樹脂組成物の脱DMF化が求められている。
【0003】
このような環境下、ウレタン樹脂を水中に分散させたウレタンディスパージョン(PUD)は、従来の溶剤系ウレタン樹脂を湿式凝固させて形成する中間多孔層の代替原料として検討され始めている。この代替には、湿式成膜品と同等の風合い等を付与するため、PUDの発泡体とする検討が種々行われている。
【0004】
前記PUDの発泡体を得る方法としては、例えば、マイクロカプセルを配合したり、二酸化炭素等の気体をPUD配合液に分散させる機械発泡などが検討されている(例えば、特許文献1を参照。)。しかしながら、マイクロカプセルを配合する方法では、得られる発泡体の風合いが不良となったり、マイクロカプセルの膨張による平滑性不良が問題となる。また、気体を分散させる方法では、発泡体を製造する過程で配合液にかませた気泡が消失等するため、泡サイズ等の制御が困難であり、風合いの良好な合成皮革を安定して得ることは困難であった。
【0005】
このような背景から、近年では簡便に発泡体を得る方法として、PUDを機械で撹拌して泡立てる機械発泡手法が検討されている。しかしながら、機械発泡方法では、PUDの水を乾燥している最中にウレタン皮膜に亀裂(クラック)が入ることにより、風合い、剥離強度、低温耐屈曲性等の物性発現が安定しない問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-191810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、機械発泡させても優れた耐クラック性、風合い、剥離強度、及び、低温での屈曲性を有する皮膜を形成することができる、水を含有するウレタン樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ノニオン性基を有するウレタン樹脂(A)、水(B)、並びに、ポリエチレングリコール(c1)、及び/又は炭素原子数が11以下のアルコキシ基を有するポリエチレングリコール(c2)である成膜助剤(C)を含有することを特徴とするウレタン樹脂組成物を提供するものである。また、本発明は、少なくとも、基材(i)、及び、前記ウレタン樹脂組成物により形成された発泡層(ii)を有することを特徴とする積層体を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のウレタン樹脂組成物は、水を含有するものであり、環境対応型のものである。また、本発明のウレタン樹脂組成物は、機械発泡させても優れた耐クラック性、風合い、剥離強度、及び、低温屈曲性を有する皮膜を形成することができる。よって、本発明のウレタン樹脂組成物は、合成皮革の材料として好適に使用することができ、特に合成皮革の発泡層として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のウレタン樹脂組成物は、ノニオン性基を有するウレタン樹脂(A)、水(B)、及び、特定の成膜助剤(C)を含有するものである。
【0011】
本発明においては、前記特定の成膜助剤(C)を含有することが必須である。特定の成膜助剤(C)を用いることにより、ウレタン樹脂組成物中の水の乾燥時の、水の揮発速度をマイルドかつ均一にできるため、皮膜のクラックを抑制することができ、風合い、剥離強度等に優れる皮膜が得られたと推察される。
【0012】
前記成膜助剤(C)としては、ポリエチレングリコール(c1)、及び/又は炭素原子数が11以下のアルコキシ基を有するポリエチレングリコール(c2)を用いることが必須である。
【0013】
前記ポリエチレングリコール(c2)における前記アルコキシ基の炭素原子数としては、より一層優れた耐クラック性が得られる点から、1~5の範囲が好ましく、1~3の範囲がより好ましく、1~2の範囲が更に好ましく、1(メトキシ基)が特に好ましい。また、前記ポリエチレングリコール(c2)1分子中における前記アルコキシ基の数は1~2個の範囲であり、好ましくは1個である。
【0014】
前記ポリエチレングリコール(c1)及び前記ポリエチレングリコール(c2)の重量平均分子量としては、より一層優れた耐クラック性が得られる点から、100~4,000の範囲が好ましく、100~3,000の範囲がより好ましく、400~2,000の範囲が更に好ましい。なお、前記ポリエチレングリコール(c1)及び前記ポリエチレングリコール(c2)の重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・カラムクロマトグラフィー(GPC)法により測定した値を示す。
【0015】
前記成膜助剤(C)の使用量としては、後述するウレタン樹脂(A)(=固形分)100質量部に対して、0.05~50質量部の範囲が好ましく、0.1~20質量部の範囲が好ましい。
【0016】
前記ウレタン樹脂(A)は、ノニオン性基を有するものであり、水に分散し得るものであり、また架橋剤を必要としないため、優れた低温屈曲性を得ることができる。
【0017】
前記ノニオン性基を有するウレタン樹脂を得る方法としては、例えば、オキシエチレン構造を有する化合物を原料として用いる方法が挙げられる。
【0018】
前記オキシエチレン構造を有する化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコールジメチルエーテル等のオキシエチレン構造を有するポリエーテルポリオールを用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、より簡便に親水性を制御できる点から、ポリエチレングリコール、及び/又は、ポリエチレングリコールジメチルエーテルを用いることが好ましい。
【0019】
前記オキシエチレン構造を有する化合物の数平均分子量としては、より一層優れた乳化性、及び、水分散安定性が得られる点から、200~10,000の範囲であることが好ましく、300~3,000の範囲がより好ましく、300~2,000の範囲であることがより好ましく、300~1,000の範囲が特に好ましい。なお、前記オキシエチレン構造を有する化合物の数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・カラムクロマトグラフィー(GPC)法により測定した値を示す。
【0020】
前記ウレタン樹脂(A)としては、具体的には、例えば、鎖伸長剤(a1)、ポリオール(a2)、ポリイソシアネート(a3)、及び、前記オキシエチレン構造を有する化合物の反応物を用いることができる。
【0021】
前記鎖伸長剤(a1)としては、分子量が500未満(好ましくは50~450の範囲)のものを用いることができ、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、サッカロース、メチレングリコール、グリセリン、ソルビトール、ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、トリメチロールプロパン等の水酸基を有する鎖伸長剤;エチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、1,2-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、ヒドラジン等のアミノ基を有する鎖伸長剤などを用いることができる。これらの鎖伸長剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、前記鎖伸長剤(a1)の分子量は、化学式から算出される値を示す。
【0022】
前記鎖伸長剤(a1)としては、30℃以下の比較的低い温度下でも容易に鎖伸長でき、反応時のエネルギー消費を抑制できる点、及び、ウレア基導入によるより一層優れた機械的強度、造膜性、泡保持性、風合い、低温屈曲性、及び、剥離強度が得られる点、ウレタン樹脂(A)の高固形分化がより一層容易となる点から、アミノ基を有する鎖伸長剤(以下「アミン系鎖伸長剤」と略記する。)が好ましく、より一層優れた泡保持性、乳化性、低温屈曲性、風合い、及び、水分散安定性が得られる点から、分子量が30~250の範囲のアミン系鎖伸長剤を用いることがより好ましい。なお、前記鎖伸長剤として2種類以上を併用する場合には、前記分子量はその平均値を示し、平均値が前記好ましい分子量の範囲に包含されればよい。
【0023】
前記鎖伸長剤(a1)の使用割合としては、より一層優れた機械的強度、造膜性、風合い、剥離強度、泡保持性、乳化性、低温屈曲性、及び、水分散安定性が得られる点、ウレタン樹脂(A)の高固形分化がより一層容易となる点から、ウレタン樹脂(X)を構成する原料の合計質量中0.1~30質量%の範囲が更に好ましく、0.5~10質量%の範囲が特に好ましい。
【0024】
前記ポリオール(a2)としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリアクリルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリブタジエンポリオール等を用いることができる。これらのポリオールは単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、前記ポリオール(a2)としては、前記ノニオン性基を付与する前記オキシエチレン構造を有する化合物以外のものを用いる。
【0025】
前記ポリオール(a2)の数平均分子量としては、得られる皮膜の機械的強度の点から、500~100,000の範囲であることが好ましく、800~10,000の範囲であることがより好ましい。なお、前記ポリオール(a2)の数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・カラムクロマトグラフィー(GPC)法により測定した値を示す。
【0026】
前記ポリオール(a2)の使用割合としては、より一層優れた機械的強度が得られる点から、ウレタン樹脂(A)を構成する原料の合計質量中40~90質量%の範囲が更に好ましく、50~80質量%の範囲が特に好ましい。
【0027】
前記ポリイソシアネート(a3)としては、例えば、フェニレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、カルボジイミド化ジフェニルメタンポリイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート又は脂環式ポリイソシアネートなどを用いることができる。これらのポリイソシアネートは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0028】
前記ポリイソシアネート(a3)の使用割合としては、より一層優れた機械的強度が得られる点から、ウレタン樹脂(A)を構成する原料の合計質量中5~40質量%の範囲が更に好ましく、10~35質量%の範囲が特に好ましい。
【0029】
前記オキシエチレン構造を有する化合物の使用割合としては、より一層優れた泡保持性、乳化性、水分散安定性、低温屈曲性、及び、造膜性が得られる点から、ウレタン樹脂(A)を構成する原料の合計質量中5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下がより好ましく、0.25~3質量%の範囲が更に好ましい。
【0030】
前記ウレタン樹脂(A)の平均粒子径としては、より一層優れた泡保持性、表面平滑性、風合い、低温屈曲性、及び、造膜性が得られる点から、0.01~1μmの範囲であることが好ましく、0.05~0.9μmの範囲がより好ましい。なお、前記ウレタン樹脂(A)の平均粒子径の測定方法は、後述する実施例にて記載する。
【0031】
本発明のウレタン樹脂組成物における、前記ウレタン樹脂(A)の含有率としては、50~80質量%が好ましく、50~70質量%がより好ましい。水分散体中のいわゆるウレタン樹脂(A)固形分が高いことにより、機械発泡により泡をかませてもより一層保持性に優れ、かつウレタン樹脂組成物の乾燥性が向上するため、乾燥時及び/又は乾燥後における耐クラック性にも一掃優れ、また、優れた風合い、低温屈曲性を得ることができる。
【0032】
本発明で用いる水(B)としては、イオン交換水、蒸留水等を用いることができる。これらの水は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0033】
次に、本発明で用いるウレタン樹脂(A)の製造方法について説明する。
【0034】
本発明で用いるウレタン樹脂(A)の製造方法としては、前記ポリオール(a2)、前記ポリイソシアネート(a3)、及び、前記オキシエチレン構造を有する化合物を無溶媒下で反応させて、イソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(i)を得(以下、「プレポリマー工程」と略記する。)、次いで、ウレタンプレポリマー(i)を前記水に分散させ(以下、「乳化工程」と略記する。)、その後、前記鎖伸長剤(a1)を反応させてウレタン樹脂(A)を得る工程(以下、「鎖伸長工程」と略記する。)を有するものである。
【0035】
前記プレポリマー工程は、無溶媒下で行うことが好ましい。従来技術では、プレポリマー工程の際に、メチルエチルケトン、アセトン等の有機溶媒中で行うことが一般的であったが、乳化工程後に前記有機溶剤を留去する脱溶剤工程が必要であり、実生産現場では数日の生産日数を要していた。また、前記脱溶剤工程で完全に有機溶剤を留去することも困難であり、若干の有機溶剤を残存しているケースが多く、環境対応に完全に対応することは困難であった。一方、無溶媒下でプレポリマーを製造することで、有機溶剤を完全に含まないウレタン樹脂が得られ、かつ、その生産工程も省力化することが可能である。
【0036】
前記プレポリマー工程における、前記ポリオール(a2)が有する水酸基、及び、前記オキシエチレン構造を有する化合物が有する水酸基及びアミノ基の合計と、前記ポリイソシアネート(a3)が有するイソシアネート基とのモル比[イソシアネート基/(水酸基及びアミノ基)]としては、より一層優れた泡保持性、低温屈曲性、耐クラック性、表面平滑性、造膜性、風合い、剥離強度、及び、機械的強度が得られる点から、1.1~3の範囲であることが好ましく、1.2~2の範囲がより好ましい。
【0037】
前記プレポリマー工程の反応は、例えば、50~120℃で1~10時間行うことが挙げられる。
【0038】
前記乳化工程は、例えば、撹拌翼を備えた反応釜;ニーダー、コンテイニアスニーダー、テーパーロール、単軸押出機、二軸押出機、三軸押出機、万能混合機、プラストミル、ボデーダ型混練機等の混練機;ホモミキサー、スタティックミキサー、フィルミックス、エバラマイルダー、クレアミックス、ウルトラターラックス、キャビトロン、バイオミキサー等の回転式分散混合機;超音波式分散装置;インラインミキサー等の可動部がなく、流体自身の流れによって混合できる装置などを使用することにより行うことができる。
【0039】
前記乳化工程は、水が蒸発しない温度下で行うことが好ましく、例えば、10~90℃の範囲が挙げられる、前記乳化工程は、前記プレポリマー工程と同様の設備を使用して行うことができる。
【0040】
前記鎖伸長工程は、前記ウレタンプレポリマー(i)が有するイソシアネート基と、前記鎖伸長剤(a1)との反応により、ウレタンプレポリマー(i)を高分子量化させ、ウレタン樹脂(A)を得る工程である。前記鎖伸長工程の際の温度としては、生産性の点から、50℃以下で行うことが好ましい。
【0041】
前記鎖伸長工程における、前記ウレタンプレポリマー(i)が有するイソシアネート基と、前記鎖伸長剤(a1)が有する水酸基及びアミノ基の合計とのモル比[(水酸基及びアミノ基)/イソシアネート基]としては、より一層優れた低温屈曲性、耐クラック性、造膜性、及び、機械的強度が得られる点から、0.8~1.1の範囲であることが好ましく、0.9~1の範囲がより好ましい。
【0042】
前記鎖伸長工程は、前記プレポリマー工程と同様の設備を使用して行うことができる。
【0043】
本発明のウレタン樹脂組成物は、前記ウレタン樹脂(A)、水(B)、及び、成膜助剤(C)を必須成分として含有するが、必要に応じてその他の添加剤を含有してもよい。
【0044】
前記その他の添加剤としては、例えば、界面活性剤、架橋剤、乳化剤、中和剤、増粘剤、ウレタン化触媒、充填剤、顔料、染料、難燃剤、レベリング剤、ブロッキング防止剤等を用いることができる。これらの添加剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、前記ウレタン樹脂(A)を製造する際には、実質的に有機溶剤を含まないことが好ましいが、添加剤として有機溶剤を添加してもよい。
【0045】
前記界面活性剤としては、機械発泡により生じた泡を消失から防止し、一層優れた耐クラック性および風合いが得られる点から、炭素原子数が10以上の疎水部を有する界面活性剤(D)を用いることが好ましい。
【0046】
前記界面活性剤(D)としては、例えば、下記式(2)で示される界面活性剤;脂肪酸塩、コハク酸塩、スルホコハク酸塩、オクタデシルスルホコハク酸塩、スルホコハク酸エステル等を用いることができる。これらの界面活性剤は単独で用いても2種以上を併用しても良い。
【0047】
【化1】
(式(2)中、Rは炭素原子数10~20の直鎖又は分岐状のアルキル基を示し、XはNa、K、NH、モルホリン、エタノールアミン、トリエタノールアミンを示す。)
【0048】
前記界面活性剤(D)としては、前記したものの中でも、より一層優れた泡保持性が得られる点から、前記式(2)で示される界面活性剤を用いることが好ましく、炭素原子数が13~19の直鎖のアルキル基を示すものがより好ましく、ステアリン酸塩を用いることが特に好ましい。
【0049】
前記界面活性剤(D)を用いる場合の使用量としては、より一層優れた泡保持性が得られる点から、前記ウレタン樹脂(A)(=固形分)100質量に対して、0.01~30質量部の範囲であることが好ましく、0.1~20質量部の範囲がより好ましい。
【0050】
次に、本発明の積層体について説明する。
【0051】
前記積層体は、少なくとも、基材(i)、及び、前記ウレタン樹脂組成物により形成された発泡層(ii)を有するものである。
【0052】
前記基材(i)としては、例えば、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリウレタン繊維、アセテート繊維、レーヨン繊維、ポリ乳酸繊維、綿、麻、絹、羊毛、グラスファイバー、炭素繊維、それらの混紡繊維等による不織布、織布、編み物等の繊維基材;前記不織布にポリウレタン樹脂等の樹脂を含浸させたもの;前記不織布に更に多孔質層を設けたもの;熱可塑性ウレタン(TPU)等の樹脂基材などを用いることができる。
【0053】
次に、本発明の積層体の製造方法について説明する。
【0054】
前記積層体の製造方法としては、例えば、
(X)前記ウレタン樹脂組成物を気泡させて起泡液を得、この起泡液を離型紙上に塗布し、乾燥させ、前記基材(i)と貼り合わせる方法、
(Y)前記ウレタン樹脂組成物を起泡させ起泡液を得、この起泡液を、離型紙上に作製した表皮層上に塗布し、乾燥させ、前記基材(i)と貼り合わせる方法、
(Z)前記ウレタン樹脂組成物を起泡させ起泡液を得、この起泡液を前記基材(i)上に塗布し、乾燥させ、必要に応じて、その上に、離型紙上に作製した表皮層(iii)を貼り合わせる方法などが挙げられる。
【0055】
前記ウレタン樹脂組成物を起泡させ起泡液を得る方法としては、例えば、手による撹拌、メカニカルミキサー等のミキサーを使用する機械発泡などが挙げられる。これらの中でも、簡便に起泡液が得られる点から、ミキサーを使用する方法が好ましい。ミキサーを使用する場合には、例えば、500~3,000rpmにて10秒~10分間撹拌させる方法が挙げられる。この際、風合いの良好な発泡層(ii)が得られる点から、起泡させる前後にて、1.3~7倍の体積にすることが好ましく、1.2~2倍の体積にすることがより好ましい。
【0056】
得られた起泡液を基材(i)等に塗布する方法としては、例えば、ロールコーター、ナイフコーター、コンマコーター、アプリケーター等を使用する方法が挙げられる。
【0057】
前記塗布物の乾燥方法としては、例えば、60~130℃の温度で30秒~10分間乾燥させる方法が挙げられる。
【0058】
以上の方法により得られる発泡層(ii)の厚さとしては、例えば、5~300μmである。
【0059】
前記発泡層(ii)の密度としては、より一層優れた風合いが得られる点から、200~1,000kg/mであることが好ましく、400~800kg/mの範囲がより好ましい。なお、前記発泡層(ii)の密度は、10cm四方あたりの積層体の重量から10cm四方あたりの基材(i)の重量を減じた値を、発泡層(ii)の厚さで除した値を示す。
【0060】
前記表皮層(iii)としては、公知の材料により公知の方法で形成することができ、例えば、溶剤系ウレタン樹脂、水系ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂等を用いることができる。柔軟な風合い、及び耐熱性、耐加水分解性を重視する場合は、ポリカーボネート系ウレタン樹脂を用いることが好ましい。また、環境対応でのDMF低減化のためには、水系ポリカーボネート系ウレタン樹脂を用いることがより好ましい。
【0061】
前記表皮層(iii)上には、必要に応じて、耐擦傷性向上やグロス性付与等を目的に表面処理層(iv)を更に設けてもよい。前記表面処理層(iv)としては、公知の材料により公知の方法で形成することができる。
【0062】
以上、本発明のウレタン樹脂組成物は、水を含有するものであり、環境対応型のものである。また、本発明のウレタン樹脂組成物は、機械発泡させても優れた耐クラック性、風合い、剥離強度、及び、低温屈曲性を有する皮膜を形成することができる。よって、本発明のウレタン樹脂組成物は、合成皮革の材料として好適に使用することができ、特に合成皮革の発泡層として好適に使用することができる。
【実施例
【0063】
以下、実施例を用いて、本発明をより詳細に説明する。
【0064】
[合成例1]ウレタン樹脂(A-1)組成物の調製
オクチル酸第一錫0.1質量部の存在下、ポリエーテルポリオール(三菱化学株式会社製「PTMG2000」、数平均分子量;2,000)1,000質量部と、ポリエチレングリコール(日油株式会社製「PEG600」、数平均分子量;600)38質量部と、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI)262質量部とをNCO%が2.8%に達するまで100℃で反応させてウレタンプレポリマーを得た。
70℃に加熱した前記ウレタンプレポリマーと乳化剤ドデシルベンゼンスルホン酸Na20%水溶液(第一工業製薬株式会社製「ネオゲンS-20F」)65質量部、水948質量部をホモミキサーで攪拌、混合して乳化液を得た。その後、直ちにNCO基と等モル量に相当するアミノ基含量のイソホロンジアミン(IPDA)の水希釈液を添加して鎖伸長させ、最終的にウレタン樹脂(A-1)の含有率が、58質量%のウレタン樹脂(A-1)組成物を得た。
【0065】
[合成例2]ウレタン樹脂(A-2)組成物の調製
オクチル酸第一錫0.1質量部の存在下、ポリカーボネートポリオール(1,6-ヘキサンジオールを原料とするもの、数平均分子量;2,000)を1,000質量部と、PEG600を18質量部と、HMDI262質量部とをNCO%が3.1質量%に達するまで100℃で反応させてウレタンプレポリマーを得た。
70℃に加熱した前記ウレタンプレポリマーと乳化剤ドデシルベンゼンスルホン酸Na20%水溶液(第一工業製薬株式会社製「ネオゲンS-20F」)64質量部、水811質量部をホモミキサーで攪拌、混合して乳化液を得た。その後、直ちにNCO基の95%に相当するアミノ基含量のIPDAの水希釈液を添加して鎖伸長させ、最終的にウレタン樹脂(A-2)の含有率が60質量%のウレタン樹脂(A-2)組成物を得た。
【0066】
[実施例1]
合成例1で得られたウレタン樹脂(A-1)組成物100g、増粘剤「Borch Gel ALA」(Borchers社製)2.0g、ステアリン酸アンモニウム2.0g、メトキシポリエチレングリコール(日油株式会社製「ユニオックスM-550」、以下「MPEG」と略記する。) 5.0gをメカニカルミキサー2,000rpmにて撹拌し、空気を含ませることで初期体積に対し150%体積にした配合液を調整した。
これを離型紙上に塗工し、80℃で3分間乾燥させることで、厚さ300μmのウレタン発泡層を得、これを不織布に貼り合わせることで合成皮革を得た。
【0067】
[実施例2]
合成例1で得られたウレタン樹脂(A-1)組成物100gと増粘剤「Borch Gel ALA」(Borchers社製)2.0g、ステアリン酸アンモニウム2.0g、ポリエチレンコール(日油株式会社製「PEG#400」、数平均分子量;400、以下「PEG」と略記する。)5.0gをメカニカルミキサー2,000rpmにて撹拌し、空気を含ませることで初期体積に対し150%体積にした配合液を調整した。
これを離型紙上に塗工し、80℃で3分間乾燥させることで、厚さ300μmのウレタン発泡層を得、これを不織布に貼り合わせることで合成皮革を得た。
【0068】
[実施例3]
合成例2で得られたウレタン樹脂(A-2)組成物100gと増粘剤「Borch Gel ALA」(Borchers社製)2.0g、ステアリン酸アンモニウム2.0g、MPEG5.0gをメカニカルミキサー2,000rpmにて撹拌し、空気を含ませることで初期体積に対し150%体積にした配合液を調整した。
これを離型紙上に塗工し、80℃で3分間乾燥させることで、厚さ300μmのウレタン発泡層を得、これを不織布に貼り合わせることで合成皮革を得た。
【0069】
[比較例1]
アニオン性水性ウレタン樹脂(DIC株式会社製「ハイドランWLS-120AR」)100g増粘剤「Borch Gel ALA」(Borchers社製)2.0g、ステアリン酸アンモニウム2.0g、MPEG5.0g、架橋剤(日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライトSV-02」)4.0gをメカニカルミキサー2,000rpmにて撹拌し、空気を含ませることで初期体積に対し150%体積にした配合液を調整した。
これを離型紙上に塗工し、80℃で3分間乾燥させることで、厚さ300μmのウレタン発泡層を得、これを不織布に貼り合わせることで合成皮革を得た。
【0070】
[比較例2]
アニオン性水性ウレタン樹脂(DIC株式会社製「ハイドランWLS-120AR」)100g増粘剤「Borch Gel ALA」(Borchers社製)2.0g、ステアリン酸アンモニウム2.0g、PEG5.0g、架橋剤(日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライトSV-02」)4.0gをメカニカルミキサー2,000rpmにて撹拌し、空気を含ませることで初期体積に対し150%体積にした配合液を調整した。
これを離型紙上に塗工し、80℃で3分間乾燥させることで、厚さ300μmのウレタン発泡層を得、これを不織布に貼り合わせることで合成皮革を得た。
【0071】
[比較例3]
合成例1で得られたウレタン樹脂(A-1)組成物100gと増粘剤「Borch Gel ALA」(Borchers社製)2.0g、ステアリン酸アンモニウム3.0gをメカニカルミキサー2,000rpmにて撹拌し、空気を含ませることで初期体積に対し150%体積にした配合液を調整した。
これを離型紙上に塗工し、80℃で3分間乾燥させることで、厚さ300μmのウレタン発泡層を得、これを不織布に貼り合わせることで合成皮革を得た。
【0072】
[数平均分子量等の測定方法]
合成例及び比較合成例で用いたポリオール、成膜助剤等の数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・カラムクロマトグラフィー(GPC)法により、下記の条件で測定し得られた値を示す。
【0073】
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC-8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度0.4質量%のテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
【0074】
(標準ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-550」
【0075】
[ウレタン樹脂(A)の平均粒子径の測定方法]
実施例及び比較例で得られたウレタン樹脂組成物をレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製「LA-910」)を使用して、分散液として水を使用し、相対屈折率=1.10、粒子径基準が面積の時の平均粒子径を測定した。
【0076】
[耐クラック性の評価方法]
実施例及び比較例で得られた合成皮革の外観を観察し、クラックの有無を確認した。クラックがないものを「〇」、クラックが確認されたものを「×」と評価した。
【0077】
[風合いの評価方法]
実施例及び比較例で得られた合成皮革を手で触り、以下のように評価した。
「〇」:柔軟性と弾力がある
「×」:柔軟性が劣り、硬い。
【0078】
[剥離強度の評価方法]
2.5cm幅のホットメルトテープ(サン化成株式会社製「BW-2」)を、実施例及び比較例で得られた合成皮革のウレタン発泡層側に置いて150℃で30秒加熱し、ホットメルトテープを接着した。ホットメルトテープの幅に沿って試料を切断した。この試料の一部を剥離し、基材とホットメルトテープをチャックで挟み、オートグラフ(島津製作所製)で剥離強度を測定し、以下の様に評価した。得られたデータの平均値を求め、1cm幅に換算した。
「〇」;3kgf/cm以上
「×」;3kgf/cm未満
【0079】
[低温屈曲性の測定方法]
実施例及び比較例で得られた合成皮革をフレキソメーター(株式会社安田精機製作所製「低温槽付フレキシオメーター」)での屈曲性試験(-35℃、100回/毎分)を行い、合成皮革の表面に割れが生じるまでの回数を測定し、以下のように評価した。
「○」:10,000回以上
「×」:10,000回未満
【0080】
【表1】
【0081】
本発明のウレタン樹脂組成物である実施例1~3は、優れた耐クラック性、風合い、剥離強度、及び、低温屈曲性を有する合成皮革が得られることが分かった。
【0082】
一方、比較例1~2は、ノニオン性基を有するウレタン樹脂(A)の代わりに、アニオン性基を有するウレタン樹脂を用いた態様であるが、低温屈曲性が不良であった。
【0083】
比較例3は、成膜助剤(C)を使用しない態様であるが、耐クラック性、風合い、剥離強度、低温屈曲性いずれも不良であった。