(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】マルチ荷電粒子ビーム描画領域の実効温度算出方法、マルチ荷電粒子ビーム描画装置、マルチ荷電粒子ビーム描画方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20241008BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H01L21/30 541W
G03F7/20 521
G03F7/20 504
(21)【出願番号】P 2024509504
(86)(22)【出願日】2023-10-18
(86)【国際出願番号】 JP2023037658
【審査請求日】2024-02-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】森 紳悟
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-092467(JP,A)
【文献】特表2004-505462(JP,A)
【文献】特開2015-177032(JP,A)
【文献】特開2019-201071(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20
H01L 21/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
描画データに基づいて、パターン描画中に移動するステージ上に載置された試料の描画領域を分割した複数の画素の各々のドーズ量を算出するステップと、
温度計算対象の注目メッシュ領域をマルチ荷電粒子ビームのビームアレイ領域が通過する時間領域で、前記注目メッシュ領域の周囲の複数の単位熱源領域が前記注目メッシュ領域に与える温度上昇量を積算して、前記注目メッシュ領域の実効温度を算出するステップと、
を備え、
前記実効温度を算出するステップでは、
前記ビームアレイ領域が前記注目メッシュ領域を通過する時間領域内のトラッキングサイクルの照射終了時刻である複数の観測時刻で、前記注目メッシュ領域の周囲の複数の単位熱源領域の各々について、前記単位熱源領域の総照射時間、前記単位熱源領域への照射開始から前記観測時刻までの時間、及び前記単位熱源領域から前記注目メッシュ領域までの距離に基づいて、前記注目メッシュ領域に与える温度上昇量を求め、この温度上昇量を積算し、前記複数の観測時刻に対応する積算値を平均化して、前記注目メッシュ領域の実効温度を算出し、
前記マルチ荷電粒子ビームの照射を、前記トラッキングサイクルを周期とするパルス状のビーム照射とした時間構造を用いて、温度の時間積分を行う、マルチ荷電粒子ビーム描画領域の実効温度算出方法。
【請求項2】
前記単位熱源領域は、前記注目メッシュ領域からの距離が長い程、サイズが大きい、請求項1に記載のマルチ荷電粒子ビーム描画領域の実効温度算出方法。
【請求項3】
マルチ荷電粒子ビームを試料面上の描画領域に照射する描画装置であって、
描画データに基づいて、前記描画領域を分割した複数の画素の各々のドーズ量を算出するドーズ量算出部と、
前記描画領域を分割した複数のメッシュ領域のうち温度計算対象の注目メッシュ領域を前記マルチ荷電粒子ビームのビームアレイ領域が通過する時間領域で、前記注目メッシュ領域の周囲の複数の単位熱源領域が前記注目メッシュ領域に与える温度上昇量を積算して、前記注目メッシュ領域の実効温度を算出する温度算出部と、
前記実効温度を用いて、前記注目メッシュ領域を照射するビームのドーズ量又は前記注目メッシュ領域内に描画される図形パターンのサイズを補正する補正量を算出する補正部と、
算出された前記補正量を用いて、前記試料にパターンを描画する描画機構と、
を備え、
前記温度算出部は、前記ビームアレイ領域が前記注目メッシュ領域を通過する時間領域内の複数の観測時刻で、前記注目メッシュ領域の周囲の複数の単位熱源領域の各々について、前記単位熱源領域の総照射時間、前記単位熱源領域への照射開始から前記観測時刻までの時間、及び前記単位熱源領域から前記注目メッシュ領域までの距離に基づいて、前記注目メッシュ領域に与える温度上昇量を求め、この温度上昇量を積算し、前記複数の観測時刻に対応する積算値を平均化して、前記注目メッシュ領域の実効温度を算出し、
前記描画機構は、
前記試料を載置する移動可能なステージと、
前記ステージの移動に追従するように前記マルチ荷電粒子ビームを偏向することによるトラッキング制御を行う偏向器と、
を有し、
前記複数の観測時刻は、トラッキングサイクルの照射終了時刻であり、
前記温度算出部は、前記マルチ荷電粒子ビームの照射を、前記トラッキングサイクルを周期とするパルス状のビーム照射とした時間構造を用いて、温度の時間積分を行う、マルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項4】
前記ステージの移動速度は可変であり、
前記温度算出部は、前記ステージの速度変化に基づいて、前記注目メッシュ領域の周囲の単位熱源領域の総照射時間及び照射開始から観測時刻までの時間を求め、温度上昇量を算出する、請求項3に記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項5】
前記単位熱源領域は、前記注目メッシュ領域からの距離が長い程、サイズが大きい、請求項3に記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項6】
描画データに基づいて、試料面上の描画領域を分割した複数の画素の各々のドーズ量を算出するステップと、
温度計算対象の注目メッシュ領域をマルチ荷電粒子ビームのビームアレイ領域が通過する時間領域で、前記注目メッシュ領域の周囲の複数の単位熱源領域が前記注目メッシュ領域に与える温度上昇量を積算して、前記注目メッシュ領域の実効温度を算出するステップと、
前記実効温度を用いて、前記注目メッシュ領域を照射するビームのドーズ量又は前記注目メッシュ領域内に描画される図形パターンのサイズを補正する補正量を算出するステップ、
算出された前記補正量を用いて、移動可能なステージ上に載置された前記試料に対し、前記ステージの移動に追従するようにマルチ荷電粒子ビームを偏向するトラッキング制御を行い、パターンを描画するステップと、
を備え、
前記実効温度を算出するステップでは、
前記ビームアレイ領域が前記注目メッシュ領域を通過する時間領域内のトラッキングサイクルの照射終了時刻である複数の観測時刻で、前記注目メッシュ領域の周囲の複数の単位熱源領域の各々について、前記単位熱源領域の総照射時間、前記単位熱源領域への照射開始から前記観測時刻までの時間、及び前記単位熱源領域から前記注目メッシュ領域までの距離に基づいて、前記注目メッシュ領域に与える温度上昇量を求め、この温度上昇量を積算し、前記複数の観測時刻に対応する積算値を平均化して、前記注目メッシュ領域の実効温度を算出し、
前記マルチ荷電粒子ビームの照射を、前記トラッキングサイクルを周期とするパルス状のビーム照射とした時間構造を用いて、温度の時間積分を行う、マルチ荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項7】
描画データに基づいて、パターン描画中に移動するステージ上に載置された試料の描画領域を分割した複数の画素の各々のドーズ量を算出するステップと、
温度計算対象の注目メッシュ領域をマルチ荷電粒子ビームのビームアレイ領域が通過する時間領域で、前記注目メッシュ領域の周囲の複数の単位熱源領域が前記注目メッシュ領域に与える温度上昇量を積算して、前記注目メッシュ領域の実効温度を算出するステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記実効温度を算出するステップでは、
前記ビームアレイ領域が前記注目メッシュ領域を通過する時間領域内のトラッキングサイクルの照射終了時刻である複数の観測時刻で、前記注目メッシュ領域の周囲の複数の単位熱源領域の各々について、前記単位熱源領域の総照射時間、前記単位熱源領域への照射開始から前記観測時刻までの時間、及び前記単位熱源領域から前記注目メッシュ領域までの距離に基づいて、前記注目メッシュ領域に与える温度上昇量を求め、この温度上昇量を積算し、前記複数の観測時刻に対応する積算値を平均化して、前記注目メッシュ領域の実効温度を算出する処理、及び
前記マルチ荷電粒子ビームの照射を、前記トラッキングサイクルを周期とするパルス状のビーム照射とした時間構造を用いて、温度の時間積分を行う処理を前記コンピュータに実行させるプログラム。
【請求項8】
描画データに基づいて、パターン描画中に移動するステージ上に載置された試料の描画領域を分割した複数の画素の各々のドーズ量を算出するステップと、
温度計算対象の注目メッシュ領域をマルチ荷電粒子ビームのビームアレイ領域が通過する時間領域で、前記注目メッシュ領域の周囲の複数の単位熱源領域が前記注目メッシュ領域に与える温度上昇量を積算して、前記注目メッシュ領域の実効温度を算出するステップと、
を備え、
前記実効温度を算出するステップでは、
記憶部に格納されている、前記描画領域における単位熱源領域が、前記描画領域を分割した複数のメッシュ領域に与える温度上昇量を、前記単位熱源領域の総照射時間、前記
単位熱源領域への照射開始からの経過時間、及び前記単位熱源領域からの距離の複数の組合せについて規定したテーブルを参照し、
前記ビームアレイ領域が前記注目メッシュ領域を通過する時間領域内の観測時刻で、前記注目メッシュ領域の周囲の複数の単位熱源領域の各々について、前記単位熱源領域の総照射時間、前記単位熱源領域への照射開始から前記観測時刻までの時間、及び前記単位熱源領域から前記注目メッシュ領域までの距離に対応する温度上昇量を前記テーブルから取得し、この温度上昇量を積算する、マルチ荷電粒子ビーム描画領域の実効温度算出方法。
【請求項9】
前記ビームアレイ領域が前記注目メッシュ領域を通過する時間領域内の複数の観測時刻について、前記テーブルからの温度上昇量の取得及び積算を行い、前記複数の観測時刻に対応する積算値を平均化して、前記注目メッシュ領域の実効温度を算出する、請求項8に記載のマルチ荷電粒子ビーム描画領域の実効温度算出方法。
【請求項10】
前記単位熱源領域は、前記注目メッシュ領域からの距離が長い程、サイズが大きい、請求項8に記載のマルチ荷電粒子ビーム描画領域の実効温度算出方法。
【請求項11】
マルチ荷電粒子ビームを試料面上の描画領域に照射する描画装置であって、
前記描画領域における単位熱源領域が、前記描画領域を分割した複数のメッシュ領域に与える温度上昇量を、前記単位熱源領域の総照射時間、前記単位熱源領域への照射開始からの経過時間、及び前記単位熱源領域からの距離の複数の組合せについて規定した参照テーブルを格納する記憶部と、
描画データに基づいて、前記描画領域を分割した複数の画素の各々のドーズ量を算出するドーズ量算出部と、
温度計算対象の注目メッシュ領域を前記マルチ荷電粒子ビームのビームアレイ領域が通過する時間領域で、前記注目メッシュ領域の周囲の複数の単位熱源領域が前記注目メッシュ領域に与える温度上昇量を積算して、前記注目メッシュ領域の実効温度を算出する温度算出部と、
前記実効温度を用いて、前記注目メッシュ領域を照射するビームのドーズ量又は前記注目メッシュ領域内に描画される図形パターンのサイズを補正する補正量を算出する補正部と、
算出された前記補正量を用いて、前記試料にパターンを描画する描画機構と、
を備え、
前記温度算出部は、前記ビームアレイ領域が前記注目メッシュ領域を通過する時間領域内の観測時刻で、前記注目メッシュ領域の周囲の複数の単位熱源領域の各々について、前記単位熱源領域の総照射時間、前記単位熱源領域への照射開始から前記観測時刻までの時間、及び前記単位熱源領域から前記注目メッシュ領域までの距離に対応する温度上昇量を前記参照テーブルから取得し、この温度上昇量を積算する、マルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項12】
前記温度算出部は、前記ビームアレイ領域が前記注目メッシュ領域を通過する時間領域内の複数の観測時刻について、前記参照テーブルからの温度上昇量の取得及び積算を行い、前記複数の観測時刻に対応する積算値を平均化して、前記注目メッシュ領域の実効温度を算出する、請求項11に記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項13】
前記描画機構は、
前記試料を載置する移動可能なステージと、
前記ステージの移動に追従するように前記マルチ荷電粒子ビームを偏向することによるトラッキング制御を行う偏向器と、
を有し、
前記複数の観測時刻は、トラッキングサイクルの照射終了時刻である、請求項12に記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項14】
前記温度算出部は、前記マルチ荷電粒子ビームの照射を、前記トラッキングサイクルを周期とするパルス状のビーム照射とした時間構造を用いて、温度の時間積分を行う、請求項13に記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項15】
前記ステージの移動速度は可変であり、
前記温度算出部は、前記ステージの速度変化に基づいて、前記注目メッシュ領域の周囲の単位熱源領域の総照射時間及び照射開始から観測時刻までの時間を求め、前記参照テーブルから温度上昇量を取得する、請求項13に記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項16】
前記単位熱源領域は、前記注目メッシュ領域からの距離が長い程、サイズが大きい、請求項11に記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項17】
描画データに基づいて、試料面上の描画領域を分割した複数の画素の各々のドーズ量を算出するステップと、
温度計算対象の注目メッシュ領域をマルチ荷電粒子ビームのビームアレイ領域が通過する時間領域で、前記注目メッシュ領域の周囲の複数の単位熱源領域が前記注目メッシュ領域に与える温度上昇量を積算して、前記注目メッシュ領域の実効温度を算出するステップと、
前記実効温度を用いて、前記注目メッシュ領域を照射するビームのドーズ量又は前記注目メッシュ領域内に描画される図形パターンのサイズを補正する補正量を算出するステップ、
算出された前記補正量を用いて、前記試料にパターンを描画するステップと、
を備え、
前記実効温度を算出するステップでは、
記憶部に格納されている、前記描画領域における単位熱源領域が、前記描画領域を分割した複数のメッシュ領域に与える温度上昇量を、前記単位熱源領域の総照射時間、前記
単位熱源領域への照射開始からの経過時間、及び前記単位熱源領域からの距離の複数の組合せについて規定したテーブルを参照し、
前記ビームアレイ領域が前記注目メッシュ領域を通過する時間領域内の観測時刻で、前記注目メッシュ領域の周囲の複数の単位熱源領域の各々について、前記単位熱源領域の総照射時間、前記単位熱源領域への照射開始から前記観測時刻までの時間、及び前記単位熱源領域から前記注目メッシュ領域までの距離に対応する温度上昇量を前記テーブルから取得し、この温度上昇量を積算する、マルチ荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項18】
描画データに基づいて、パターン描画中に移動するステージ上に載置された試料の描画領域を分割した複数の画素の各々のドーズ量を算出するステップと、
温度計算対象の注目メッシュ領域をマルチ荷電粒子ビームのビームアレイ領域が通過する時間領域で、前記注目メッシュ領域の周囲の複数の単位熱源領域が前記注目メッシュ領域に与える温度上昇量を積算して、前記注目メッシュ領域の実効温度を算出するステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記実効温度を算出するステップでは、
記憶部に格納されている、前記描画領域における単位熱源領域が、前記描画領域を分割した複数のメッシュ領域に与える温度上昇量を、前記単位熱源領域の総照射時間、前記単位熱源領域への照射開始からの経過時間、及び前記単位熱源領域からの距離の複数の組合せについて規定したテーブルを参照する処理、及び
前記ビームアレイ領域が前記注目メッシュ領域を通過する時間領域内の観測時刻で、前記注目メッシュ領域の周囲の複数の単位熱源領域の各々について、前記単位熱源領域の総照射時間、前記単位熱源領域への照射開始から前記観測時刻までの時間、及び前記単位熱源領域から前記注目メッシュ領域までの距離に対応する温度上昇量を前記テーブルから取得し、この温度上昇量を積算する処理を前記コンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチ荷電粒子ビーム描画領域の実効温度算出方法、マルチ荷電粒子ビーム描画装置、マルチ荷電粒子ビーム描画方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。半導体デバイスへ所望の回路パターンを形成するためには、縮小投影型露光装置を用いて、石英基板上に形成された高精度の原画パターンをウェーハ上に縮小転写する手法が採用されている。高精度の原画パターンの作製には、電子ビーム描画装置によってレジストを露光してパターンを形成する、所謂、電子ビームリソグラフィ技術が用いられている。
【0003】
電子ビーム描画装置として、これまでの1本のビームを偏向して試料上の必要な箇所にビームを照射するシングルビーム描画装置に代わって、マルチビームを使った描画装置の開発が進められている。マルチビームを用いることで、1本の電子ビームで描画する場合に比べて多くのビームを照射できるので、スループットを大幅に向上させることができる。マルチビーム方式の描画装置では、例えば、電子源から放出された電子ビームを複数の開口部を持った成形アパーチャアレイ部材に通してマルチビームを形成し、ブランキングアパーチャアレイ基板で各ビームのブランキング制御を行い、遮蔽されなかったビームが光学系で縮小され、移動可能なステージ上に載置された試料に照射される。
【0004】
電子ビームを用いた描画では、照射エネルギー量を、より高密度な電子ビームで短時間に照射しようとすると、基板温度が過熱してレジスト感度が変化し、線幅精度が悪化する、レジストヒーティングと呼ばれる現象が生じるという問題があった。
【0005】
例えば、シングルビーム描画では、1本のビームによる過去のショット毎の温度上昇の影響を累積して現在のショットのドーズ補正量を決定するといった手法がとられていた。しかし、マルチビーム描画では、多数のビームが用いられるため、過去のショット毎かつビーム毎の温度上昇の影響を累積する手法では、計算量が膨大となる。また、マルチビーム描画では、複数のビームが同時にショットされるため、同時に照射される広範囲の領域に位置する他の複数のビームからの温度上昇の影響を考慮する必要がある。
【0006】
特許文献1:特表2003-503837号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明は、マルチビーム描画におけるレジストヒーティングの補正を精度良く高速に計算できる装置及び方法を提供することを課題とする。
【0008】
本発明の一態様によるマルチ荷電粒子ビーム描画領域の実効温度算出方法は、描画データに基づいて、パターン描画中に移動するステージ上に載置された試料の描画領域を分割した複数の画素の各々のドーズ量を算出するステップと、温度計算対象の注目メッシュ領域をマルチ荷電粒子ビームのビームアレイ領域が通過する時間領域で、前記注目メッシュ領域の周囲の複数の単位熱源領域が前記注目メッシュ領域に与える温度上昇量を積算して、前記注目メッシュ領域の実効温度を算出するステップと、を備え、前記実効温度を算出するステップでは、前記ビームアレイ領域が前記注目メッシュ領域を通過する時間領域内のトラッキングサイクルの照射終了時刻である複数の観測時刻で、前記注目メッシュ領域の周囲の複数の単位熱源領域の各々について、前記単位熱源領域の総照射時間、前記単位熱源領域への照射開始から前記観測時刻までの時間、及び前記単位熱源領域から前記注目メッシュ領域までの距離に基づいて、前記注目メッシュ領域に与える温度上昇量を求め、この温度上昇量を積算し、前記複数の観測時刻に対応する積算値を平均化して、前記注目メッシュ領域の実効温度を算出し、前記マルチ荷電粒子ビームの照射を、前記トラッキングサイクルを周期とするパルス状のビーム照射とした時間構造を用いて、温度の時間積分を行うものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、マルチビーム描画におけるレジストヒーティングの補正を精度良く高速に計算できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る描画装置の概略図である。
【
図4】マルチビームの照射領域と描画対象画素との一例を示す図である。
【
図5】マルチビーム描画動作の一例を説明する図である。
【
図6】同実施形態に係るマルチ荷電粒子ビーム描画方法を説明するフローチャートである。
【
図8】注目メッシュ領域の温度上昇に寄与する矩形熱源の例を示す図である。
【
図9】注目メッシュ領域の温度上昇に寄与する矩形熱源の例を示す図である。
【
図10】注目メッシュ領域の温度上昇に寄与する矩形熱源の例を示す図である。
【
図11】複数の矩形熱源による温度上昇値の足し上げを示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
図1は本発明の実施形態に係る描画装置100の概略図である。描画装置100は、描画機構150と制御系回路160を備えている。描画装置100は、マルチ荷電粒子ビーム描画装置の一例であると共に、マルチ荷電粒子ビーム露光装置の一例である。
【0013】
本実施形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の他の荷電粒子ビームでもよい。
【0014】
描画機構150は、電子鏡筒102(電子ビームカラム)と描画室103を備える。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、成形アパーチャアレイ基板203、ブランキングアパーチャアレイ機構204、縮小レンズ205、制限アパーチャ基板206、対物レンズ207、主偏向器208、及び副偏向器209が配置されている。
【0015】
描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画時(露光時)には描画対象基板となるマスク等の試料101が配置される。試料101には、半導体装置を製造する際の露光用マスク、或いは、半導体装置が製造される半導体基板(シリコンウェハ)等が含まれる。また、試料101には、レジストが塗布されている。試料101には、例えば、レジストが塗布された、まだ何も描画されていないマスクブランクスが含まれる。XYステージ105上には、さらに、XYステージ105の位置測定用のミラー210が配置される。
【0016】
制御系回路160は、制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路130、デジタル・アナログ変換(DAC)アンプユニット132,134、レンズ制御回路136、ステージ制御機構138、ステージ位置測定器139及び磁気ディスク装置等の記憶装置140,142,144を有している。
【0017】
制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路130、レンズ制御回路136、ステージ制御機構138、ステージ位置測定器139及び記憶装置140,142,144は、図示しないバスを介して互いに接続されている。偏向制御回路130には、DACアンプユニット132,134及びブランキングアパーチャアレイ機構204が接続されている。
【0018】
副偏向器209は、4極以上の電極により構成され、電極毎にそれぞれのDACアンプ132を介して偏向制御回路130により制御される。主偏向器208は、4極以上の電極により構成され、電極毎にそれぞれのDACアンプ134を介して偏向制御回路130により制御される。ステージ位置測定器139は、ミラー210からの反射光を受光することによって、レーザ干渉法の原理でXYステージ105の位置を測長する。
【0019】
制御計算機110内には、パターン密度算出部50、ドーズ量算出部52、参照テーブル作成部54、温度算出部57、補正部62、照射時間データ生成部72、データ加工部74、転送制御部79、及び描画制御部80が配置される。制御計算機110内の各部は、処理回路を有する。処理回路は、例えば、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置を含む。
【0020】
各部は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いても良いし、或いは異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。各部に入出力される情報および演算中の情報はメモリ112に格納される。
【0021】
描画装置100の描画動作は、描画制御部80によって制御される。各ショットの照射時間データの偏向制御回路130への転送処理は、転送制御部79によって制御される。
【0022】
描画装置100の外部から描画データが入力され、記憶装置140に格納される。描画データには、チップデータ及び描画条件データが含まれる。チップデータには、図形パターン毎に、例えば、図形コード、座標、及びサイズ等が定義される。描画条件データには、多重度を示す情報、及びステージ速度が含まれる。
【0023】
記憶装置144には、矩形熱源が計算対象領域(注目メッシュ領域)に与える温度上昇量を取得するための後述する参照テーブルが格納される。本実施形態では、単位熱源領域の形状が矩形である矩形熱源について説明するが、単位熱源領域の形状は矩形に限定されない。
【0024】
図2に示すように、成形アパーチャアレイ基板203には、縦(y方向)p列×横(x方向)q列(p,q≧2)の開口部22が所定の配列ピッチでマトリクス状に形成されている。
図2は、横縦(x,y方向)に32列×32行の開口部22が形成される例を示す。各開口部22は、共に同じ寸法形状の矩形又は円形で形成される。これらの複数の開口部22を電子ビーム200の一部がそれぞれ通過することで、マルチビーム20が形成される。
【0025】
ブランキングアパーチャアレイ機構204には、成形アパーチャアレイ基板203の各開口部22の配置位置に合わせて貫通孔が形成され、各貫通孔には、対となる2つの電極からなるブランカが配置される。各貫通孔を通過するマルチビーム20は、それぞれ独立に、ブランカに印加される電圧によって偏向される。この偏向によって、各ビームがブランキング制御される。このように、ブランキングアパーチャアレイ機構204により、成形アパーチャアレイ基板203の複数の開口部22を通過したマルチビーム20の各ビームに対してブランキング偏向が行われる。
【0026】
次に、描画機構150の動作の具体例について説明する。電子銃201(放出源)から放出された電子ビーム200は、照明レンズ202によりほぼ垂直に成形アパーチャアレイ基板203全体を照明する。電子ビーム200は、成形アパーチャアレイ基板203の複数の開口部22が含まれる領域を照明する。複数の開口部22の位置に照射された電子ビーム200の各一部が、開口部22をそれぞれ通過することによって、例えばビームアレイ形状が矩形のマルチビーム(複数の電子ビーム)20が形成される。
【0027】
マルチビーム20は、ブランキングアパーチャアレイ機構204のそれぞれ対応するブランカ内を通過する。ブランカは、それぞれ、設定された描画時間(照射時間)の間、ビームがON状態になるように個別に通過するビームをブランキング制御する。
【0028】
ブランキングアパーチャアレイ機構204を通過したマルチビーム20は、縮小レンズ205によって、縮小され、制限アパーチャ基板206に形成された中心の穴に向かって進む。ブランキングアパーチャアレイ機構204のブランカによって偏向された電子ビームは、制限アパーチャ基板206の中心の穴から位置がはずれ、制限アパーチャ基板206によって遮蔽される。一方、ブランキングアパーチャアレイ機構204のブランカによって偏向されなかった電子ビームは、
図1に示すように制限アパーチャ基板206の中心の穴を通過する。
【0029】
このように、制限アパーチャ基板206は、ブランカによってビームOFFの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽する。そして、ビームONになってからビームOFFになるまでに形成された、制限アパーチャ基板206を通過したビームにより、1回分のショットの各ビームが形成される。
【0030】
制限アパーチャ基板206を通過したマルチビーム20は、対物レンズ207により焦点が合わされ、所望の縮小率のパターン像となり、主偏向器208及び副偏向器209によって、制限アパーチャ基板206を通過したマルチビーム20全体が同方向にまとめて偏向され、各ビームの試料101上のそれぞれの照射位置に照射される。
【0031】
例えば、XYステージ105が連続移動している時、ビームの照射位置がXYステージ105の移動に追従するように主偏向器208によってマルチビーム20を偏向することによるトラッキング制御が行われる。
【0032】
一度に照射されるマルチビーム20は、理想的には成形アパーチャアレイ基板203の複数の開口部22の配列ピッチに上述した所望の縮小率を乗じたピッチで並ぶことになる。
【0033】
図3は、描画動作の一例を説明するための概念図である。
図3に示すように、試料101の描画領域30は、例えば、y方向に向かって所定の幅で短冊状の複数のストライプ領域32に仮想分割される。まず、XYステージ105を移動させて、第1番目のストライプ領域32の左端に1回のマルチビーム20のショットで照射可能な照射領域34が位置するように調整し、描画が開始される。
【0034】
第1番目のストライプ領域32を描画する際には、XYステージ105を例えば-x方向に移動させることにより、相対的に+x方向へと描画を進めていく。XYステージ105は例えば等速で連続移動させる。第1番目のストライプ領域32の描画終了後、ステージ位置を-y方向に移動させて、今度は、XYステージ105を例えば+x方向に移動させることにより、-x方向に向かって同様に描画を行う。
【0035】
このような動作を繰り返し、各ストライプ領域32を順に描画する。交互に向きを変えながら描画することで描画時間を短縮できる。但し、交互に向きを変えながら描画する場合に限らず、各ストライプ領域32を描画する際、同じ方向に向かって描画を進めるようにしてもよい。
【0036】
XYステージ105を等速で移動させる場合において、ストライプ毎に連続移動速度が異なっていてもよい。1回のショットでは、成形アパーチャアレイ基板203の各開口部22を通過することによって形成されたマルチビームによって、最大で各開口部22と同数の複数のショットパターンが一度に形成される。
【0037】
図4は、マルチビームの照射領域と描画対象画素との一例を示す図である。
図4において、ストライプ領域32は、例えば、マルチビーム20を構成する個別ビームのサイズでメッシュ状の複数のメッシュ領域に分割される。各メッシュ領域が、描画対象の画素36(単位照射領域、照射位置、或いは描画位置)となる。描画対象の画素36のサイズは、ビームサイズに限定されるものではなく、ビームサイズとは関係なく任意の大きさで構成されるものでも構わない。例えば、ビームサイズの1/a(aは1以上の整数)のサイズで構成されても構わない。
【0038】
図4の例では、試料101の描画領域30が、例えばy方向に、1回のマルチビーム20の照射で照射可能な照射領域34(ビームアレイ領域)のサイズと実質同じ幅サイズで複数のストライプ領域32に分割された場合を示している。矩形の照射領域34のx方向のサイズは、x方向のビーム数×x方向のビーム間ピッチで定義できる。矩形の照射領域34のy方向のサイズは、y方向のビーム数×y方向のビーム間ピッチで定義できる。
【0039】
照射領域34内に、1回のマルチビーム20のショットで照射可能な複数の画素28(ビームの描画位置)が示されている。試料面上における隣り合う画素28間のピッチがマルチビーム20の各ビーム間のピッチとなる。x,y方向にビームピッチのサイズで囲まれた矩形の領域で1つのサブ照射領域29(ピッチセル)を構成する。各サブ照射領域29は、1つの画素28が含まれる。
図4の例では、例えば、各サブ照射領域29の左上の角部の画素がビームの描画位置となる画素28として示されている。
【0040】
各サブ照射領域29は、例えば10×10画素で構成される。
図4では、10×10画素の各サブ照射領域29を、4×4画素に省略して示している。
【0041】
図5は、マルチビーム描画動作の一例を示す。
図5の例では、試料101面上の各サブ照射領域29内を10本の異なるビームで描画する場合を示している。また、
図5の例では、各サブ照射領域29内の1/10(照射に用いられるビーム本数分の1)の領域を描画する間に、XYステージ105が、例えば、25ビームピッチ分の距離Lだけ移動する速度で、連続移動する描画動作を示している。
【0042】
図5の例に示す描画動作では、例えば、XYステージ105が25ビームピッチ分の距離Lを移動する間に副偏向器209によって順に照射位置(画素36)をシフトさせながらショットサイクル時間でマルチビーム20を10ショットすることにより同じサブ照射領域29内の異なる10個の画素を描画(露光)する場合を示している。
【0043】
10個の画素を描画(露光)する間、照射領域34がXYステージ105の移動によって試料101との相対位置がずれないように、主偏向器208によってマルチビーム20全体を一括偏向することによって、照射領域34をXYステージ105の移動に追従させる。言い換えれば、トラッキング制御が行われる。よって、1回あたりのトラッキング制御中に主偏向器208によって一括偏向される距離Lがトラッキング距離となる。
【0044】
1回のトラッキングサイクルが終了するとトラッキングリセットして、前回のトラッキング開始位置に戻る。各サブ照射領域29の上から1番目の画素行の描画は終了しているので、トラッキングリセットした後、次回のトラッキングサイクルにおいて、副偏向器209は、各サブ照射領域29のまだ描画されていない画素列、例えば上から2行目の画素列、を描画するようにビームを偏向し、描画位置をシフトする。
【0045】
このように、トラッキングリセット毎に、描画する画素列を変えていく。10回のトラッキング制御を行う間に、各サブ照射領域29内の各画素36は1回ずつ描画されることになる。ストライプ領域32の描画中、このような動作を繰り返すことで、
図3に示すように、照射領域34a~34oのように照射領域34の位置が順次移動していき、ストライプ領域32の描画を行う。
【0046】
図5の例では、幅Wの照射領域34の右下角部に位置した試料面上のサブ照射領域29が、2回目のトラッキング制御では、照射領域34の右下角部から左方向に距離Lだけ移動した位置になる。よって、1回目のトラッキング制御で照射領域34の右下角部に位置したサブ照射領域29は、2回目のトラッキング制御では、照射領域34の右下角部から左方向に距離Lだけ離れた位置の別のビームによって描画される。ここでは、右下角部のビームから、-x方向に、例えば、画素25個分の距離(25ビームピッチ分の距離L)離れたビームによって描画されることになる。
【0047】
例えば、ステージ1パスあたり多重度2に設定される描画処理では、各サブ照射領域29内の各画素36は、20回のトラッキング制御によって、2回ずつ描画される。
【0048】
マルチビーム描画では、多数のビームが用いられるため、レジストヒーティングが生じる。本実施形態では、周辺のビーム照射領域から与えられる温度上昇値を高速かつ高精度に算出し、温度上昇値に基づいてドーズ量を補正し、レジストヒーティングによる影響を補正する。
【0049】
図6は、本発明の実施形態にかかる描画方法を説明するフローチャートである。この描画方法は、参照テーブル作成工程(S102)と、パターン密度算出工程(S104)と、ドーズ量算出工程(S106)と、温度上昇値算出工程(S108)と、ドーズ量補正工程(S110)と、照射時間データ生成工程(S112)と、データ加工工程(S114)と、描画工程(S116)とを備える。
【0050】
まず、参照テーブル作成工程(S102)において、参照テーブル作成部54が、1つの矩形熱源が周辺のメッシュ領域に対して発生させる温度を、矩形熱源の総照射時間(Δtshot)、矩形熱源への照射開始時を基準とした観測時刻(tobs)、及び矩形熱源中央からの距離(x)の複数の組合せについて規定した、3次元の参照テーブルを作成し、記憶装置144に格納する。矩形熱源及びメッシュ領域の大きさや形状は特に限定されないが、例えば、1辺がマルチビームの25ビームピッチ分の距離の正方形とすることができる。矩形熱源への照射開始時を基準とした観測時刻(tobs)は、言い換えれば、矩形熱源への照射を開始してから観測時刻(tobs)までの経過時間である。
【0051】
参照テーブルの各要素は、下記の数式(1)、(2)を用いて、Td(x,y,t=tobs,Δtshot)として計算する。参照テーブルの次元を減らすため、y=0とする。Td(x,y=0,t=tobs,Δtshot)は、原点位置に中心を持つ矩形領域に矩形の連続ビームを時刻0から時刻Δtshotまで照射するときに、観測時刻tobsで、距離x(yは0)離れた点に与える温度上昇値を示す。
【0052】
【0053】
【0054】
上記の数式(1)において、DPECは、近接効果補正(PEC)後の照射量を示す。
Nmultiは、ストライプ多重度(多重描画の重ね書き回数)を示す。
Jcurrは、電流密度を示す。
θ(tobs-t´)は、ヘビサイド関数(ステップ関数)を示す。照射時間t´についての積分範囲から、観測時刻tobsよりも未来の領域の効果をゼロにする。t<0の場合はθ(t)=0となり、t≧0の場合はθ(t)=1となる。
【0055】
N
BASは、ビームアレイ領域1つ分だけx方向に進むときのトラッキングサイクル回数を示す。
図7は、N
BAS=4とした場合の、矩形領域をビームアレイ領域が通過している間にビームが照射されているタイミングを示す。上述したように、トラッキング制御中は、照射領域34がXYステージ105の移動に追従し、ビームが照射される。トラッキングリセットして、前回のトラッキング開始位置へビームを戻している間は、ビーム照射は行われない。ビーム照射時間の合計が上記のΔt
shotに相当する。
【0056】
t
0(i
BAS)は、i
BAS回目のトラッキングサイクルでの照射開始時刻を表す。例えば、N
BAS=4の場合、i
BASは1~4の値をとり、t
0(1)、t
0(2)、t
0(3)、t
0(4)が表す時刻を
図7に示している。
【0057】
LBAは、ビームアレイ領域1つ分の長さを示す。
Δtpassは、ビームアレイ領域がLBAだけ進むのに要する時間を示す。言い換えれば、NBAS回のトラッキングサイクルに要する時間に相当する。
vstageは、ステージ速度を示す。
【0058】
上記の数式(2)において、pは、矩形熱源のサイズを示す。
dT/dtは、矩形熱源を仮定した熱拡散方程式から得られる解析解を示す。
Pは、矩形熱源の入力電力密度を示す。
ρは、試料101の質量密度を示す。
Cpは、試料101の比熱を示す。
αは、試料101の熱拡散係数を示す。
Erfは、誤差関数を示す。
tは、照射開始時刻からの相対的な観測時刻を示す。
t´は、積分される照射時間を示す。
【0059】
数式(1)に示すように、本実施形態による温度計算では、マルチビームの照射を、連続ビームの照射として扱わずに、トラッキングサイクルの周期のパルス状のビームの照射として扱い、パルス状の時間構造を取り入れた温度の時間積分を行う。
【0060】
上記の数式(1)、(2)を用いて、x、tobs、Δtshotの値を変えた複数の組合せの各々について温度上昇量(時間積分)を算出し、x、tobs、Δtshotの組合せに対応する温度上昇値を規定した参照テーブルを作成する。
【0061】
参照テーブルにおいて温度上昇量を規定するxの範囲は例えばゼロからビームアレイ領域の3倍までであり、温度上昇量を規定するxの間隔は例えば温度メッシュサイズである。参照テーブルにおいて温度上昇量を規定するtobsの範囲は例えばゼロからビームアレイの通過時間の2倍であり、温度上昇量を規定するtobsの間隔は例えばビームアレイの通過時間の1/10倍である。参照テーブルにおいて温度上昇量を規定するΔtshotの範囲は例えばステージ1パス当たりの最大照射量を電流密度で割った時間であり、温度上昇量を規定するΔtshotの間隔は例えば最大値の1/20倍などである。
【0062】
図8に示すように、矩形熱源H1への照射開始時を基準として、観測時刻t
obsにおいて矩形熱源H1が計算対象領域T1(注目メッシュ領域)に対して発生させる温度は、矩形熱源H1の中央から計算対象領域T1の中央までの距離、観測時刻t
obsまでの矩形熱源H1の総照射時間、及び観測時刻t
obsに対応する温度上昇値を参照テーブルから抽出することで、取得できる。矩形熱源H2、H3が計算対象領域T1に対して発生させる温度も同様にして取得できる。
【0063】
図8に示す例では、計算対象領域T1からの距離によらず矩形熱源のサイズを一定として参照テーブルを作成している。時間的、空間的に遠い熱源の発した熱は、周辺の熱源が発した熱と平均化されるため、
図9に示すように、計算対象領域T1からの距離が長い程(計算対象領域T1から遠い程)、矩形熱源のサイズを大きくして、参照テーブルを作成してもよい。
【0064】
また、マルチビーム描画では、温度分布はy方向に広がりを持つため、
図10に示すように、矩形熱源の形状を、y方向を長辺とする長方形として、参照テーブルを作成してもよい。
【0065】
パターン密度算出工程(S104)において、パターン密度算出部50は、ストライプ領域32毎に、記憶装置140から描画データを読み出し、対象のストライプ領域32内の画素36毎にパターン密度(パターンの面積密度)を算出する。パターン密度算出部50は、ストライプ領域32毎に、算出された各画素36のパターン密度を使ってパターン密度マップを作成する。各画素36のパターン密度は、パターン密度マップの各要素として定義される。作成されたパターン密度マップは記憶装置144に格納される。
【0066】
ドーズ量算出工程(S106)において、ドーズ量算出部52は、画素36毎に、当該画素36に照射するためのドーズ量(照射量)を演算する。ドーズ量は、例えば、予め設定された基準照射量に近接効果補正照射係数とパターン密度とを乗じた値として演算すればよい。このように、ドーズ量は、画素36毎に算出されたパターンの面積密度に比例して求めると好適である。
【0067】
近接効果補正照射係数の演算では、まず、描画領域(ここでは、例えばストライプ領域32)を所定のサイズでメッシュ状に複数の近接メッシュ領域(近接効果補正計算用メッシュ領域)に仮想分割する。近接メッシュ領域のサイズは、近接効果の影響範囲の1/10程度、例えば、1μm程度に設定すると好適である。そして、記憶装置140から描画データを読み出し、近接メッシュ領域毎に、当該近接メッシュ領域内に配置されるパターンのパターン面積密度を演算する。そして、近接メッシュ領域のパターン面積密度に基づいて、近接効果を補正するための近接効果補正照射係数を算出する。近接効果補正照射係数の計算手法は従来のシングルビーム描画方式で使用されている手法と同様で構わない。
【0068】
そして、ドーズ量算出部52は、ストライプ領域32毎に、算出された各画素36のドーズ量を使ってドーズマップ(1)を作成する。各画素36のドーズ量は、ドーズマップ(1)の各要素として定義される。作成されたドーズマップ(1)は記憶装置144に格納される。
【0069】
温度上昇値算出工程(S108)において、温度算出部57が、温度上昇値の計算対象のメッシュ領域(注目メッシュ領域)について、観測時刻tobsにおける周辺の矩形熱源からの温度上昇の寄与を全て加算し、温度上昇値を算出する。温度算出部57は、周辺の矩形熱源の各々について、ドーズマップ(1)から求めた照射量と、注目メッシュ領域までの距離と、照射開始から測定した相対的な観測時刻とを用いて、参照テーブルから温度上昇値を取得し、各矩形熱源による温度上昇値を足し合わせる。参照テーブルからの温度上昇値の取得は、補間や補外を含む。
【0070】
例えば、下記の数式(3)を用いて、周辺の矩形熱源からの温度上昇値を参照テーブルから取得し、足し合わせる。
【0071】
【0072】
数式(3)において、ix、iyは、ストライプ領域のx方向、y方向のメッシュインデックスのうち、注目メッシュ領域の座標に対応するものである。注目メッシュ領域のサイズをpとした場合、注目メッシュ領域のx方向の座標は、p・ixとなる。
tobsは、ストライプ領域の照射開始時刻を原点とした観測時刻を示す。
rtは、注目メッシュ領域のビーム照射開始からの経過時間を、ビームアレイ領域通過時間Δtpassを単位として測定したものであり、0~1の範囲の値となる。
【0073】
T(ix,iy,rt)は、注目メッシュ領域における、相対時刻rtでの温度上昇値を示す。
ix´,iy´は、注目メッシュ領域の周辺の矩形熱源を表すメッシュ座標でのインデックスを示す。
Nyは、ストライプ領域内のy方向の矩形熱源の数を示す。
rは、注目メッシュ領域と矩形熱源との距離を示す。
tobs-t0(ix´)は、ix´の位置にある矩形熱源の照射開始から測定した相対的な観測時刻を示す。
Δtshotは、(ix´,iy´)の位置の矩形熱源の総照射時間を示す。
【0074】
図11は、周辺の矩形熱源からの温度上昇値の足し合わせを説明する概念図である。
図11の横軸がビームアレイ領域の進行方向と平行な軸を表す。直線L1がビームアレイ領域の先頭位置を示し、直線L2がビームアレイ領域の後端位置を示す。直線L1と直線L2の間隔がビームアレイ領域のサイズに相当する。実際の描画ではビームアレイ領域1つ分だけ進む間に複数回のトラッキングサイクルが含まれるが、
図11では説明の便宜上、ビームアレイ領域が試料面を等速直線運動しているとしてモデル化する。
【0075】
観測時刻tobsにおける注目メッシュ領域の温度上昇値は、周辺の矩形熱源からの温度上昇値Td1、Td2等を足し合わせたものである。
【0076】
温度算出部57は、注目メッシュ領域をビームアレイ領域が通過する時間領域で、T(ix,iy,rt)を所定時間間隔で算出し、平均化して、注目メッシュ領域の実効温度を算出する。
【0077】
例えば、トラッキングサイクルの照射終了時刻でT(ix,iy,r
t)を所定算出し、平均化して、注目メッシュ領域の実効温度を算出する。例えば、N
BAS=4の場合(
図7参照)、4つの観測時刻でT(ix,iy,r
t)を算出し、平均化する。
【0078】
このような計算を繰り返すことで、ストライプ領域内の実効温度マップが得られる。
【0079】
ドーズ量補正工程(S110)において、補正部62は、実効温度と、単位温度当たりのドーズ変化量を示す変調率とを用いて、各注目メッシュ領域を照射する複数のビームのドーズ量を補正する。変調率は、基板の単位温度当たりの描画パターンの線幅変化量と、単位ドーズ当たりの線幅変化量とに基づいて事前に算出し、記憶装置144に格納する。
【0080】
補正部62は、画素36のドーズ量をドーズマップ(1)から取り出し、この画素36を含む注目メッシュ領域の実効温度に変調率を乗じて補正量を求め、取り出したドーズ量から補正量を減じることで、補正ドーズ量を算出する。そして、補正部62は、ストライプ領域32毎に、算出された各画素36の補正ドーズ量を用いてドーズマップ(2)を作成する。各画素36の補正ドーズ量は、ドーズマップ(2)の各要素として定義される。これにより、補正後(変調後)のドーズ分布が求まる。作成されたドーズマップ(2)は記憶装置144に格納される
【0081】
照射時間データ生成工程(S112)において、照射時間データ生成部72は、画素36毎に、当該画素36に演算された補正ドーズを入射させるための電子ビームの照射時間を演算する。照射時間は、補正ドーズ量を電流密度で割ることで演算できる。各画素36の照射時間は、マルチビーム20の1ショットで照射可能な最大照射時間内の値として演算される。各画素36の照射時間は、最大照射時間を例えば1024階調(10ビット)とする0~1023の階調値データに変換する。階調化された照射時間データは記憶装置142に格納される。
【0082】
データ加工工程(S114)において、データ加工部74は、描画シーケンスに沿ってショット順に照射時間データを並び替える。
【0083】
描画工程(S116)において、描画制御部80による制御のもと、転送制御部79は、ショット順に照射時間データを偏向制御回路130に転送する。偏向制御回路130は、ブランキングアパーチャアレイ機構204にショット順にブランキング制御信号を出力すると共に、DACアンプユニット132,134にショット順に偏向制御信号を出力する。そして、描画機構150は、実効温度を用いてそれぞれ補正されたドーズ量のマルチビーム20を用いて、試料101にパターンを描画する。
【0084】
以上のように、本実施形態によれば、注目メッシュ領域と矩形熱源との間での温度計算コストを、参照テーブルからの温度上昇値読み出し及び補間に抑えることができるため、マルチビーム描画におけるレジストヒーティングの補正を精度良く高速に計算できる。
【0085】
上記実施形態による手法は、ステージ速度が等速の場合だけでなく、可変であっても適用できる。ステージ速度が等速の場合は、位相空間においてビームアレイ領域の先頭位置、後端位置は直線で示されるが(例えば
図11の直線L1、L2)、ステージ速度が可変の場合は、直線に代えて折れ線や曲線で示すことができる。
【0086】
例えば、ストライプ領域をx方向にブロック状の複数の計算処理単位領域(DPB領域)に分割し、DPB領域毎に描画時間を算出する。描画時間とDPB領域の幅に基づいてDPB領域毎のステージ速度を算出し、
図12Aに示すような、ストライプ領域内でのステージ速度分布を求める。
【0087】
このステージ速度分布から、
図12Bに示すようなビームアレイ領域の位相空間が得られる。
図12Bにおいて、折れ線L3がビームアレイ領域の先頭位置を示し、折れ線L4がビームアレイ領域の後端位置を示す。この位相空間から、注目メッシュ領域の周辺の矩形熱源の総照射時間、及び照射開始から観測時刻までの時間を求め、これらと矩形熱源から注目メッシュ領域までの距離に対応する温度上昇量を参照テーブルから取得し、積算して、注目メッシュ領域の実効温度を算出する。
【0088】
トラッキングサイクルを考慮する場合は、階段状の位相空間を使用すればよい。
【0089】
上記実施形態では、注目メッシュ領域をビームアレイ領域が通過する時間領域で、T(ix,iy,rt)を所定時間間隔で算出し、平均化して、注目メッシュ領域の実効温度を算出する例について説明したが、後方散乱電子が注目メッシュ領域に到達し得る時間領域でT(ix,iy,rt)を所定時間間隔で算出してもよい。
【0090】
注目メッシュ領域をビームアレイ領域が通過した直後の単一の観測時刻でのみT(ix,iy,rt)を算出し、これを注目メッシュ領域の実効温度としてもよい。
【0091】
上記実施形態では、注目メッシュ領域の実効温度を算出し、この実効温度に基づくドーズ量の補正によってレジストヒーティングを補正する構成を説明したが、レジストヒーティングを補正する手法はこれに限るものではない。例えば、算出した実効温度に基づいて、描画する図形パターン自体をリサイズすることにより、レジストヒーティングを補正してもよい。
【0092】
この場合、記憶装置144には、単位温度ΔTあたりのCD変化量ΔCDを近似した相関データが格納されている。補正部62は、この相関データを参照し、注目メッシュ領域の実効温度とパターンの寸法変化量(ΔCD/ΔT)とを乗じた値を補正量として算出する。そして、補正部62は、この補正量を用いて図形パターンのサイズをリサイズする。リサイズされた各図形パターンのデータは、記憶装置144に格納される。
【0093】
パターン密度算出部50は、リサイズされた図形パターンのデータを用いて、対象のストライプ領域32内の画素36毎にパターン密度ρ(パターンの面積密度)を算出し、パターン密度マップを作成する。ドーズ量算出部52は、パターン密度マップを用いて、画素36毎に、当該画素36に照射するためのドーズ量(照射量)を演算し、ドーズマップを作成する。
【0094】
照射時間データ生成部72は、画素36毎に、当該画素36に演算されたリサイズ補正後のドーズ量を入射させるための電子ビームの照射時間tを演算する。照射時間tは、ドーズ量を電流密度で割ることで演算できる。照射時間データは記憶装置142に格納される。その後、
図6のデータ加工工程(S114)及び描画工程(S116)と同様の処理を行うことで、試料101にリサイズされたパターンが描画される。リサイズ処理によりレジストヒーティングを補正できる。
【0095】
上述した実施形態で説明した制御計算機110の少なくとも一部の機能を実現するプログラムをCD-ROM等の非一時的な記録媒体に収納し、コンピュータ(CPU)に読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。
図1は、記憶装置140にプログラムが格納される例を示している。
【0096】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
【符号の説明】
【0097】
20 マルチビーム
32 ストライプ領域
101 試料
102 電子鏡筒
103 描画室
105 XYステージ
110 制御計算機
200 電子ビーム
201 電子銃
202 照明レンズ
203 成形アパーチャアレイ基板
204 ブランキングアパーチャアレイ機構
205 縮小レンズ
206 制限アパーチャ基板
207 対物レンズ
208 主偏向器
209 副偏向器
【要約】
マルチ荷電粒子ビーム描画領域の実効温度算出方法は、温度計算対象の注目メッシュ領域をビームアレイ領域が通過する時間領域で、注目メッシュ領域の周囲の複数の単位熱源領域が注目メッシュ領域に与える温度上昇量を積算して、注目メッシュ領域の実効温度を算出する。ビームアレイ領域が注目メッシュ領域を通過する時間領域内のトラッキングサイクルの照射終了時刻である複数の観測時刻で、各単位熱源領域について、単位熱源領域の総照射時間、単位熱源領域への照射開始から観測時刻までの時間、及び単位熱源領域から注目メッシュ領域までの距離に基づいて、注目メッシュ領域に与える温度上昇量を求め、この温度上昇量を積算し、複数の観測時刻に対応する積算値を平均化して、注目メッシュ領域の実効温度を算出する。マルチ荷電粒子ビームの照射を、トラッキングサイクルを周期とするパルス状のビーム照射とした時間構造を用いて、温度の時間積分を行う。