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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】コーティング組成物、及び、硬化物
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/04 20060101AFI20241008BHJP
   C09D 4/02 20060101ALI20241008BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20241008BHJP
【FI】
C09D133/04
C09D4/02
C09D7/63
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024517478
(86)(22)【出願日】2023-06-15
(86)【国際出願番号】 JP2023022184
(87)【国際公開番号】W WO2024009717
(87)【国際公開日】2024-01-11
【審査請求日】2024-03-19
(31)【優先権主張番号】P 2022109705
(32)【優先日】2022-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】大橋 興多
(72)【発明者】
【氏名】土肥 健太
【審査官】井上 莉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-038981(JP,A)
【文献】特開2015-140423(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0213692(US,A1)
【文献】特開2004-018859(JP,A)
【文献】特開平10-045993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂(1)、アクリレート化合物(2)、及び、第4級アンモニウム化合物(3)を含有するコーティング組成物であって、
前記アクリル樹脂(1)を構成するモノマー成分として、
β-ジケトン基含有モノマー(A)を5~50質量%、
カルボキシル基含有モノマー(B)を0.1~0.8質量%、および、
前記モノマー(A)、及び、前記モノマー(B)以外であり、かつ、水酸基、ニトリル基、及び、アミド基のいずれの官能基も含まない、ホモポリマーのガラス転移温度が60℃以上のモノマー(C)を49.5~94.5質量%、含有し、
前記β-ジケトン基含有モノマー(A)が、(メタ)アクリル酸2-アセトアセトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-アセトアセトキシプロピル、及び(メタ)アクリル酸アセトアセトキシブチルからなる群より選ばれる1種以上のモノマーであり、
前記カルボキシル基含有モノマー(B)が、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルサクシネート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸からなる群より選ばれる不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸からなる群より選ばれる不飽和ジカルボン酸、及び前記不飽和ジカルボン酸のハーフエステルのいずれか1種以上であり、
前記モノマー(C)が、スチレン、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸3,3,5-トリメチルシクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニル、及びアクリル酸イソボニルからなる群より選ばれる1種以上のモノマーである、コーティング組成物。
【請求項2】
前記アクリル樹脂(1)の重量平均分子量が、3000~80000である請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記アクリル樹脂(1)のガラス転移温度が、40~100℃である請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のコーティング組成物の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング組成物、及び、硬化物に関する。特に、自動車内外装、家庭電化製品、建材向け塗料、及び、フィルム用コート剤等の各種分野に要求される基材付着性、耐薬品性、及び、耐溶剤性に優れた硬化物(コーティング)を得ることができるコーティング組成物、及び、前記コーティング組成物を用いて得られる硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、家庭電化製品、建材などで使用される塗料組成物には、耐薬品性、耐擦傷性、基材付着性など様々な性能が求められる。これらの要求性能を満たす硬化形式として、イソシアネート基(NCO)と水酸基(OH)とを反応させるNCO-OH硬化系が一般的に広く使用されている。
【0003】
NCO-OH硬化系において、イソシアネート化合物が硬化剤として、塗料等の硬化剤として使用され、イソシアネート化合物を用いた硬化反応を促進させる触媒として、ジブチル錫オキサイド、ジブチル錫ジラウレートなどの有機錫化合物が一般的に用いられている(特許文献1参照)。
【0004】
しかし、有機錫化合物は、その触媒性能が高いものの、近年は、その毒性が問題となっており、有機錫化合物に代わる触媒が求められている。
【0005】
また、NCO-OH硬化系は、汎用性が高い反面、空気中の水分の影響や、イソシアネート化合物を硬化剤として配合した後の可使時間(ポットライフ)が短くなるなど、保存安定性や取り扱い性の問題を有している。
【0006】
また、イソシアネート化合物についても身体への毒性や、原料の供給不足が問題となっており、イソシアネート化合物を硬化剤として用いずに、基材付着性や耐薬品性などに優れる非NCO-OH硬化系が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-307800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明が解決しようとする課題は、イソシアネート系硬化剤を使用することなく、基材付着性、耐薬品性、及び、耐溶剤性に優れた硬化物(コーティング)を得ることができるコーティング組成物、及び、硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、特定のモノマーを特定割合で配合し得られるアクリル樹脂、架橋性を有するアクリレート化合物、及び、特定の塩基触媒を含有するコーティング組成物を用いることにより、基材付着性、耐薬品性、及び、耐溶剤性に優れた硬化物(コーティング)が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、本発明は、アクリル樹脂(1)、アクリレート化合物(2)、及び、第4級アンモニウム化合物(3)を含有するコーティング組成物であって、
前記アクリル樹脂(1)を構成するモノマー成分として、
β-ジケトン基含有モノマー(A)を5~50質量%、
カルボキシル基含有モノマー(B)を0.1~0.8質量%、および、
前記モノマー(A)、及び、前記モノマー(B)以外であり、かつ、水酸基、ニトリル基、及び、アミド基のいずれの官能基も含まない、ホモポリマーのガラス転移温度が60℃以上のモノマー(C)を49.5~94.5質量%、含有するコーティング組成物に関する。
【0011】
本発明のコーティング組成物は、前記アクリル樹脂(1)の重量平均分子量が、3000~80000であることが好ましい。
【0012】
本発明のコーティング組成物は、前記アクリル樹脂(1)のガラス転移温度が、40~100℃であることが好ましい。
【0013】
本発明は、前記コーティング組成物の硬化物に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のコーティング組成物を用いることで、基材付着性、耐薬品性、及び、耐溶剤性に優れた硬化物(コーティング)が得られ、自動車内外装、家庭電化製品、建材向け塗料、および、フィルム用コート剤等の高い耐久性と安全性が要求される分野に使用することができ、有用である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[アクリル樹脂(1)]
本発明のコーティング組成物は、アクリル樹脂(1)を含有し、前記アクリル樹脂(1)を構成するモノマー成分として、β-ジケトン基含有モノマー(A)を5~50質量%、カルボキシル基含有モノマー(B)を0.1~0.8質量%、および、前記モノマー(A)、及び、前記モノマー(B)以外であり、かつ、水酸基、ニトリル基、及び、アミド基のいずれの官能基も含まない、ホモポリマーのガラス転移温度が60℃以上のモノマー(C)を49.5~94.5質量%、含有することを特徴とする。
前記アクリル樹脂(1)は、特定のモノマーを特定割合で使用することで、前記アクリル樹脂(1)を用いて得られる硬化物(コーティング)は、基材付着性、耐水性、耐候性、耐薬品性、及び、耐溶剤性に優れ、有用となる。
【0016】
[β-ジケトン基含有モノマー(A)]
前記アクリル樹脂(1)を構成するモノマー成分として、β-ジケトン基含有モノマー(A)(以下、「モノマー(A)」という場合がある。)をモノマー成分全量に対して、5~50質量%含有し、好ましくは、10~40質量%であり、より好ましくは、10~20質量%である。前記アクリル樹脂(1)中、前記モノマー(A)を前記範囲内で使用することで、成膜時の硬化収縮と架橋密度のバランスが最適となり、得られる硬化物が優れた硬化性を発現し、硬化物の基材への付着性(基材付着性)にも優れ、有用である。なお、前記モノマー(A)は、後述するモノマー(B)~(E)等とは相違する。
【0017】
前記モノマー(A)としては、β-ジケトン基を有する重合性モノマーであれば、特に制限なく使用でき、たとえば、(メタ)アクリル酸2-アセトアセトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-アセトアセトキシプロピル、(メタ)アクリル酸アセトアセトキシブチル等が挙げられ、中でも、メタクリル酸2-アセトアセトキシエチル(AAEM)が好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
[カルボキシル基含有モノマー(B)]
前記アクリル樹脂(1)を構成するモノマー成分として、カルボキシル基含有モノマー(B)(以下、「モノマー(B)」という場合がある。)をモノマー成分全量に対して、0.1~0.8質量%含有し、好ましくは、0.1~0.5質量%であり、より好ましくは、0.1~0.3質量%である。前記アクリル樹脂(1)中、前記モノマー(B)を前記範囲内で使用することで、触媒との相溶性や、硬化性とポットライフのバランスが両立され、有用である。なお、前記モノマー(B)が多い場合(例えば、1.0質量%)、得られるコーティング組成物において、硬化不良が生じやすく、好ましくない。なお、前記モノマー(B)は、前記モノマー(A)、後述するモノマー(C)~(E)等とは相違する。
【0019】
前記モノマー(B)としては、カルボキシル基を有する重合性モノマーであれば、特に制限なく使用でき、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルサクシネート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸等の不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸又はこれら不飽和ジカルボン酸のハーフエステルなどが挙げられ、中でも、他モノマーとの共重合性の観点から、(メタ)アクリル酸がより好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
[前記モノマー(A)、及び、前記モノマー(B)以外であり、かつ、水酸基、ニトリル基、及び、アミド基のいずれの官能基も含まない、ホモポリマーのガラス転移温度が60℃以上のモノマー(C)]
前記アクリル樹脂(1)を構成するモノマー成分として、前記モノマー(A)、及び、前記モノマー(B)以外であり、かつ、水酸基、ニトリル基、及び、アミド基のいずれの官能基も含まない、ホモポリマーのガラス転移温度が60℃以上のモノマー(C)(以下、「モノマー(C)」という場合がある。)をモノマー成分全量に対して、49.5~94.5質量%含有し、好ましくは、52~88質量%含有し、より好ましくは、54~86質量%含有する。前記アクリル樹脂(1)中、前記モノマー(C)を前記範囲内で使用することで、得られるアクリル樹脂(1)のガラス転移温度が向上し、高耐久性を有する塗膜となり、得られるコーティング組成物を用いた硬化物の耐溶剤性や耐薬品性が向上し、有用である。なお、前記モノマー(C)は、前記モノマー(A)、(B)、後述するモノマー(D)、及び、モノマー(E)等とは相違する。
【0021】
前記モノマー(C)としては、前記モノマー(A)、及び、前記モノマー(B)以外であり、かつ、水酸基、ニトリル基、及び、アミド基のいずれの官能基も含まない、ホモポリマーのガラス転移温度が60℃以上の重合性モノマーであれば、特に制限なく使用でき、例えば、スチレン、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸3,3,5-トリメチルシクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニル、アクリル酸イソボニル等が挙げられ、中でも、モノマーの極性の観点から、メタクリル酸メチルがより好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
[ホモポリマーのガラス転移温度が60℃未満の炭素数2~10のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(D)]
前記アクリル樹脂(1)を構成するモノマー成分として、更に、ホモポリマーのガラス転移温度が60℃未満の炭素数2~10のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(D)(以下、「モノマー(D)」という場合がある。)を含有することができ、中でも、重合後のポリマーの極性と溶剤への溶解性の観点から、ホモポリマーのガラス転移温度が60℃未満の炭素数が2~4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含有することができる。なお、前記モノマー(D)は、前記モノマー(A)~(C)、及び、後述するモノマー(E)等とは相違する。
【0023】
前記モノマー(D)としては、例えば、アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル等が挙げられ、中でも、重合後のポリマーの極性と溶剤への溶解性の観点から、(メタ)アクリル酸ブチルがより好ましく用いられ得る。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
前記モノマー(D)は、前記アクリル樹脂(1)を構成するモノマー成分全量に対して、好ましくは、15質量%以下であり、より好ましくは、10質量%以下である。
【0025】
[その他モノマー成分]
前記アクリル樹脂(1)を構成するモノマー成分として、前記モノマー(A)等に加えて、必要に応じて、その他モノマー成分(以下、「モノマー(E)」という場合がある。)として、水酸基含有モノマー、アミド基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、および、エポキシ基含有モノマーなどの重合性モノマーを使用することができる。
【0026】
前記モノマー(E)は、前記アクリル樹脂(1)を構成するモノマー成分全量に対して、好ましくは0~5質量%であり、より好ましくは0~3質量%である。
【0027】
前記アクリル樹脂(1)は、前記モノマー(A)などを、所望の特性に応じて、適宜、組み合わせて重合することにより、得ることができる。また、前記アクリル樹脂(1)としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体など、いずれを含んでいてもよい。
【0028】
(重合方法)
前記アクリル樹脂(1)の重合方法としては、任意の適切な方法を採用することができ、例えば、溶液重合、塊状重合、乳化重合、各種ラジカル重合が挙げられ、中でも、取り扱いやすさの観点から、溶液重合が好ましい。
【0029】
(ラジカル重合開始剤)
前記アクリル樹脂(1)は、例えば、ラジカル重合する際に、ラジカル重合開始剤を含んでもよい。前記ラジカル重合開始剤としては、例えば、加熱時にフリーラジカルを発生させる熱重合開始剤であり得る。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
前記ラジカル重合開始剤としては、例えば、過酸化物系ラジカル重合開始剤、アゾ系ラジカル重合開始剤等が挙げられる。中でも、過酸化物系ラジカル重合開始剤が好ましい。
【0031】
前記過酸化物系ラジカル重合開始剤としては、例えば、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド化合物;tert-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ジ-tert-ヘキシルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、1,4-ビス(1-tert-ブチルパーオキシ-1-メチルエチル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン等のジアルキルパーオキサイド化合物;ジラウロイルパーオキサイド、ジデカノイルパーオキサイド、ジシクロヘキシルパーオキシジカーボネート、ビス(4-tert-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等のジアシルパーオキサイド化合物;tert-ブチルパーオキシアセテート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシネオデカノエート、tert-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、tert-ブチルパーオキシラウレート、(1,1-ジメチルプロピル)2-エチルパーヘキサノエート、tert-ブチル2-エチルパーヘキサノエート、tert-ブチル3,5,5-トリメチルパーヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、tert-ブチルパーオキシマレイン酸等のパーオキシエステル化合物;等が挙げられる。
【0032】
前記アゾ系ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、1-[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、2-フェニルアゾ-4-メトキシ-2,4-ジメチル-バレロニトリル等のアゾニトリル化合物;2,2’-アゾビス[2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)エチル]プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-[2-(1-ヒドロキシブチル)]-プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)-プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミド)ジハイドレート、2,2’-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)等のアゾアミド化合物;2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロパン)等のアルキルアゾ化合物;等が挙げられる。
【0033】
前記ラジカル重合開始剤の市販品としては、例えば、日油社製の「パーブチルC」、「パーブチルA」、「パーブチルP」、「パーブチルL」、「パーブチルO」、「パーブチルND」、「パーブチルZ」、「パーブチルI」、「パークミルP」、「パークミルD」、「パーヘキシルD」、「パーヘキシルA」、「パーヘキシルI」、「パーヘキシルZ」、「パーヘキシルND」、「パーヘキシルO」、「パーヘキシルPV」、「パーヘキシルO」等が挙げられる。
【0034】
前記重合開始剤の使用量としては、通常の使用量であればよく、例えば、前記アクリル樹脂(1)を構成するモノマー成分全量の合計100質量部に対して、0.3~15質量部程度の範囲から選択することができ、好ましくは0.5~10質量部である。
【0035】
重合温度、及び、重合時間としては、使用するモノマーの種類、重合開始剤の種類等に応じて、適宜選択することができ、例えば、重合温度は80~130℃程度とすることができ、重合時間は5時間~20時間程度とすることができる。
【0036】
(連鎖移動剤)
また、重合には、必要に応じて、従来公知の各種の連鎖移動剤(分子量調節剤あるいは重合度調節剤)を使用することができる。前記連鎖移動剤としては、例えば、n-ラウリルメルカプタン、t-ラウリルメルカプタン、グリシジルメルカプタン、2-メルカプトエタノール等のメルカプタン類から選択され、中でもt-ラウリルメルカプタンの使用が好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
前記連鎖移動剤の使用量としては、通常の使用量であればよく、前記アクリル樹脂(1)を構成するモノマー成分全量の合計100質量部に対して、0.1~10質量部程度の範囲から選択することができる。
【0038】
前記アクリル樹脂(1)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは、3000~80000であり、より好ましくは、3500~70000であり、更に好ましくは、4000~60000である。前記重量平均分子量(Mw)が前記範囲内であると、塗膜物性と作業性のバランスが良好となり、有用である。
【0039】
前記アクリル樹脂(1)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは、40~100℃であり、より好ましくは、45~95℃であり、更に好ましくは、50~90℃である。前記ガラス転移温度(Tg)が前記範囲内であると、塗膜物性のバランスが良好となり、有用である。
【0040】
[アクリレート化合物(2)]
本発明のコーティング組成物は、前記アクリル樹脂(1)に加えて、前記アクリル樹脂(1)に使用する原料以外のアクリレート化合物(2)を含有することを特徴とする。前記アクリレート化合物(2)は、前記アクリル樹脂(1)とは異なるものであり、架橋剤(架橋性モノマー)としての役割を果たし、前記コーティング組成物を用いて、硬化物を得るために重要となる。また、前記アクリレート化合物(2)は、1分子中に(メタ)アクリロイル基(不飽和二重結合を有する)を1個以上有する化合物であればよく、耐薬品性、及び、耐溶剤性の向上の観点から、1分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有することが好ましい。
【0041】
前記アクリレート化合物(2)としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸イソステアリル、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸(メトキシエチル)、アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、アクリル酸(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)、アクリル酸[{シクロヘキサンスピロ-2-(1,3-ジオキソラン-4イル)}メチル]、アクリル酸{(3-エチルオキセタン-3-イル)メチル}等のモノエステル類;エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ブタンジオールジアクリレート、ペンタンジオールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、ヘプタンジオールジアクリレート、オクタンジオールジアクリレート、ノナンジオールジアクリレート、デカンジオールジアクリレート、グリセリン-1,2-ジアクリレート、グリセリン-1,3-ジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート等のジエステル類;グリセリントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、エトキシ化グリセリントリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリスペンタエリスリトールオクタアクリレート等が挙げられ、中でも、基材付着性と耐薬品性、及び、耐溶剤性の両立の観点から、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジペンタエリストールペンタアクリレー、ジペンタエリストールヘキサアクリレートがより好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
(その他架橋剤(硬化剤))
前記コーティング組成物には、前記アクリレート化合物(2)に加えて、必要に応じて、更に、その他硬化剤(架橋剤)を含んでもよい。前記架橋剤としては、特に制限されないが、例えば、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤等が挙げられる。前記架橋剤としては、使用するコーティング組成物に含まれる官能基の種類等に応じて、適宜使用することができる。なお、イソシアネート系架橋剤は、前記コーティング組成物の可使時間(ポットライフ)が短くなるなどの問題を有することから、使用しないことが好ましい。これらは、単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0043】
前記アクリレート化合物(2)の使用量としては、前記アクリレート化合物(2)中の不飽和二重結合C=Cに対する、前記アクリル樹脂(1)を構成する前記β-ジケトン基含有モノマー(A)中の活性プロトンC-Hのモル比が、0.5~2.0の範囲を選択することができ、基材付着性と耐薬品性、及び、耐溶剤性のバランスの観点から、0.8~1.2の範囲を選択することが好ましい。
【0044】
[第4級アンモニウム化合物(3)]
本発明のコーティング組成物は、前記アクリル樹脂(1)、及び、前記アクリレート化合物(2)に加えて、第4級アンモニウム化合物(3)を含有することを特徴とする。前記第4級アンモニウム化合物(3)は塩基触媒であり、加温と同時に硬化反応を促進する観点から、熱潜在性硬化触媒(硬化促進剤)としての役割を果たし、前記コーティング組成物を用いて、硬化物を得るために重要となる。また、前記第4級アンモニウム化合物(3)としては、好ましくは、第4級アンモニウム化合物中の第4級アンモニウム基(カチオン基)中の窒素原子に結合する炭化水素基の3つ以上の炭素数が2以上であることが好ましく、前記カチオン基とイオン結合するアニオンが、水酸化物イオン(OH)、酢酸イオン(RCOO)、炭酸イオン(RCO3-)、アルコキシドイオン(RO)であることが好ましい。なお、前記Rは、水素原子、またはアルキル基であることが好ましい。
【0045】
前記第4級アンモニウム化合物(3)としては、例えば、テトラn-プロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラn-ブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラn-ペンチルアンモニウムヒドロキシド、テトラn-ヘキシルアンモニウムヒドロキシド、テトラシクロヘキシルアンモニウムヒドロキシド、テトラキス(トリフルオロメチル)アンモニウムヒドロキシド、トリメチルシクロヘキシルアンモニウムヒドロキシド、トリメチル(トリフルオロメチル)アンモニウムヒドロキシド、トリメチルt-ブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラn-プロピルホスホニウムヒドロキシド、テトラn-ブチルホスホニウムヒドロキシド、テトラn-ペンチルホスホニウムヒドロキシド、テトラn-ヘキシルホスホニウムヒドロキシド、テトラシクロヘキシルホスホニウムヒドロキシド、テトラキス(トリフルオロメチル)ホスホニウムヒドロキシド、トリメチルシクロヘキシルホスホニウムヒドロキシド、トリメチル(トリフルオロメチル)ホスホニウムヒドロキシド、トリメチルt-ブチルホスホニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムアセテート、テトラブチルアンモニウムアセテート、トリエチルメチルアンモニウム2-エチルヘキサン塩等を挙げることができ、中でも、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムアセテート、トリエチルメチルアンモニウム2-エチルヘキサン塩が、硬化性とポットライフの両立の観点から好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
前記コーティング組成物には、前記第4級アンモニウム化合物(3)に加えて、必要に応じて、更に、その他硬化触媒を含んでもよい。前記その他硬化触媒としては、例えばトリエチルアミン、N,N-ベンジルメチルアミン、N,N-ジメチルフェニルアミン、N,N-ジメチルアニリンなどのアミン類;メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-メチル-4-メチルイミダゾールなどのイミダゾール類;トリフェニルフォスフィン、トリブチルフォスフィン等のフォスフィン類等を使用することができる。なお、1,8-ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデカ-7-エン(DBU)等のアミジンを硬化触媒として用いた塗料やインク等は、塗膜物性とポットライフのバランスの観点から使用しないことが好ましい。
【0047】
前記第4級アンモニウム化合物(3)の使用量としては、前記アクリル樹脂(1)を構成するモノマー成分全量の合計100質量部に対して、基材付着性と耐薬品性、及び、耐溶剤性の観点から、0.1~6.0質量部程度の範囲から選択することができ、好ましくは、0.3~3.2質量部である。
【0048】
(その他添加剤)
前記コーティング組成物には、必要に応じて、その他の添加剤を含有してもよい。前記その他の添加剤としては、例えば、シランカップリング剤、潤滑剤、充填剤、チキソ付与剤、粘着付与剤、ワックス、熱安定剤、耐光安定剤、蛍光増白剤、発泡剤等の添加剤、pH調整剤、レベリング剤、ゲル化防止剤、分散安定剤、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、耐熱性付与剤、無機充填剤、有機充填剤、可塑剤、補強剤、抗菌剤、防カビ剤、防錆剤、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、顔料、染料、導電性付与剤、帯電防止剤、透湿性向上剤、撥水剤、撥油剤、中空発泡体、結晶水含有化合物、難燃剤、吸水剤、吸湿剤、消臭剤、整泡剤、消泡剤、防黴剤、防腐剤、防藻剤、顔料分散剤、ブロッキング防止剤、加水分解防止剤などを用いることができる。これら添加剤の配合量は、特に制限されず、適宜、選択し得る。
【0049】
(溶剤)
前記コーティング組成物には、必要に応じて、溶剤を使用することができる。前記溶剤としては、例えば、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸プロピル、n-ペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、n-ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、四塩化炭素、ジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエタン、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、アセトニトリル、ダイアセトンアルコール、ノルマルブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等を使用することができる。これら溶剤の配合量は、特に制限されず、適宜、選択し得る。
【0050】
[コーティング組成物]
本発明のコーティング組成物は、アクリル樹脂(1)、アクリレート化合物(2)、及び、第4級アンモニウム化合物(3)を含有し、前記アクリル樹脂(1)を構成するモノマー成分として、β-ジケトン基含有モノマー(A)を5~50質量%、カルボキシル基含有モノマー(B)を0.1~0.8質量%、および、前記モノマー(A)、及び、前記モノマー(B)以外であり、かつ、水酸基、ニトリル基、及び、アミド基のいずれの官能基も含まない、ホモポリマーのガラス転移温度が60℃以上のモノマー(C)を49.5~94.5質量%、含有するコーティング組成物に関する。
前記コーティング組成物は、熱潜在性があり、加熱により急激に反応が進行するため、組成物(溶液)のポットライフが長く、保存安定性や取り扱い性に優れ、前記コーティング組成物により得られる硬化物(コーティング)は、基材付着性、耐薬品性、及び、耐溶剤性に優れ、有用である。
【0051】
前記コーティング組成物の調製方法としては、特に限定されることなく、公知の方法によって調製することができる。例えば、前記アクリル樹脂(1)等の各成分を均一に混合することなどにより、調製することができる。より具体的には、前記アクリル樹脂(1)と、前記アクリレート化合物(2)に溶剤を加えて、粘度を調整し、ここに、塩基触媒である第4級アンモニウム化合物(3)を配合して、コーティング組成物(溶液)を調製する方法などが挙げられる。この方法では、粘度調製後に、塩基触媒を配合することで、塩基触媒の部分的な不溶や局部的に高濃度になるのを避けることができ、有用である。また、この方法により、前記コーティング組成物(溶液)のポットライフの向上を図ることができ、塗工性などに有効である。
【0052】
[硬化物]
本発明は、前記コーティング組成物の硬化物に関する。前記硬化物は、前記コーティング組成物の架橋反応によって得られる硬化した塗膜(皮膜)等であり、基材付着性、耐薬品性、及び、耐溶剤性に優れた硬化物(コーティング)となり、有用である。
【0053】
前記硬化物(コーティング)は、基材などの表面に、前記コーティング組成物を塗布・乾燥させること等により形成することができる。前記硬化物(コーティング)の形成方法としては、例えば、前記コーティング組成物をローラー法、スプレー法、アプリケーター、バーコーター、刷毛などその他公知の方法で、前記基材表面に前記コーティング組成物を均一に塗布し、次いで常温または加熱下で硬化させることによって形成する方法が挙げられる。前記前記コーティング組成物が溶媒として有機溶剤を含む場合には、前記塗布後に加熱ローラーや熱風、熱板等を用いて、加熱乾燥することが好ましい。
【0054】
また、前記硬化は、例えば、前記コーティング組成物の架橋反応によって硬化した塗膜(皮膜)を形成する場合には、硬化性の観点から、例えば、40~120℃で加熱することが好ましく、60~90℃がより好ましい。また、その他の硬化としては、例えば、加圧(例えば、1~5MPa)下での加熱(例えば、50~120℃)、または光照射によって、ラジカル重合させることによって進行させることができる。このような場合には、上述した公知の架橋剤(熱硬化剤や光硬化剤)等を組み合わせ使用することもできる。
【0055】
[用途]
本発明のコーティング組成物は、優れた基材付着性、耐薬品性、及び、耐溶剤性を有する硬化物(コーティング)が得られることから、コーティングを使用する自動車内外装、家庭電化製品、建材向け塗料、および、フィルム用コート剤等の高い耐久性と安全性が要求される分野に使用することが可能である。
【実施例
【0056】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0057】
(製造例1)
冷却菅、温度計、滴下漏斗、および攪拌機を備えたフラスコに、酢酸ブチル390.6質量部を加え、内温を110℃まで昇温した。
次いで、メタクリル酸メチル392.6質量部、アクリル酸ブチル60.5質量部、メタクリル酸2-アセトアセトキシエチル50.4質量部、メタクリル酸0.5質量部、n-酢酸ブチル98.9質量部、及び、商品名:パーブチルO(日油社製、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート)5.0質量部との混合物を5時間かけて滴下した。滴下終了1時間後に、n-酢酸ブチル3.9質量部とパーブチルO0.5質量部との混合物を加えた。その後、内温110℃を保持したまま、17時間重合反応をさせた。次いで、酢酸ブチルを追加で投入し、不揮発分が50質量%の目的とする樹脂を得た。前記樹脂の重量平均分子量(Mw)は32000であった。
【0058】
(製造例2~14)
製造例1と同様の手順にて、表1の配合内容にて、製造例2~14の樹脂を調製した。
【0059】
(実施例1~13、及び、比較例1~8)
(塗膜の作製方法:非NCO-OH硬化系)
製造例1~14で得られた樹脂(β-ジケトン基含有アクリル樹脂)と、多官能アクリレート(アクリレート化合物)を配合し、溶剤として、酢酸ブチル/酢酸イソブチル/ノルマルブタノール/プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(30/30/30/10(質量比)の混合溶剤を用いて、NK-2岩田粘度カップ(アネスト岩田社製)にて、約10秒となるように粘度を調整した。
次いで、塩基触媒である第4級アンモニウム塩(第4級アンモニウム化合物)を配合して、コーティング組成物(溶液)を調製し、前記コーティング組成物(溶液)を用いて、基材(ABS:アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、及び、PC:ポリカーボネート)にスプレー塗装した。その後、10分セッティングし、80℃で1時間乾燥させ、更に、室温(約23℃)で7日程静置して、基材上に塗膜(膜厚:20~30μm(乾燥後))を形成した。
【0060】
(比較例7及び8)
(塗膜の作製方法:NCO-OH硬化系)
製造例13及び14で得られた樹脂(水酸基含有アクリル樹脂)と、硬化剤であるポリイソシアネート(住化コベストロウレタン社製、スミジュールN-3300)、更に、触媒(ジブチル錫ジラウレート)を配合し、溶剤として、ダイアセトンアルコール/酢酸イソブチル/酢酸エチル/酢酸ブチル(30/30/30/10)(質量比)の混合溶剤を用いて、NK-2岩田粘度カップ(アネスト岩田社製)にて約10秒となるように粘度を調整したコーティング組成物(溶液)を得た。
次いで、前記コーティング組成物(溶液)を用いて、基材(ABS、及び、PC)にスプレー塗装した。その後、10分セッティングし、80℃で1時間乾燥させ、更に、室温(約23℃)で7日程静置して、基材上に塗膜(膜厚:20~30μm(乾燥後))を形成した
【0061】
(GPC測定)
上記製造例で得られた樹脂の重量平均分子量(Mw)は、下記のGPC測定条件で測定したものである。
[GPC測定条件]
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC-8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度4mg/mLのテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の単分散ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
[単分散ポリスチレン]
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-550」
【0062】
(ガラス転移温度(Tg))
FOXの式で計算されるガラス転移温度(以下 、「設計Tg」と略称する。)は、得られる塗膜の耐日焼け止め性、耐溶剤性、耐水性が向上することから、上記製造例で得られた樹脂(アクリル樹脂(1))のガラス転移温度(設計Tg)は、40~100℃の範囲が好ましい。
なお、本発明において、FOXの式で計算されるガラス転移温度とは、FOXの式:1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・(Tg:求めるべきガラス転移温度、W1:成分1の重量分率、Tg1:成分1のホモポリマーのガラス転移温度)に従い計算にり求めたものである。
各成分のホモポリマーのガラス転移温度の値は、Polymer Handbook(4th Edition)J.Brandrup,E.H.Immergut,E.A.Grulke著(Wiley Interscience)記載の値およびホモポリマーを合成後、示差走査熱量測定(DSC)にて測定した実測値を用いた。
【0063】
(ポットライフ)
上記の通り、得られたコーティング組成物(溶液)を23℃で保管し、経過時間ごとの粘度をNK-2岩田粘度カップ(アネスト岩田社製)にて測定した。
なお、AまたはBの評価であれば、実用上問題のないレベルと判断した(Aが最も良い評価)。
(評価基準)
A:24時間経過時に、流動性があり、初期粘度の2倍未満の場合
B:24時間経過時に、流動性はあるが、初期粘度の2倍以上、4倍未満の場合
C:10時間を超え、24時間以内において、流動性なし
D:0時間を超え、10時間以内において、流動性なし
【0064】
(基材付着性試験)
上記の通り、基材(ABS、及び、PC)上に得られた塗膜について、JIS K 5600-5-6に準拠して、碁盤目試験(1mm、100マス、4方向)を行い、塗膜の基材(ABS、及び、PC)への付着性を、目視にて、確認した。
なお、5Bの評価であれば、実用上問題のないレベルと判断した(5Bが最も良い評価)。
(評価基準)
5B:欠損なし
4B:欠損部が5%以内
3B:欠損部が5%を超え、15%以内
2B:欠損部が15%を超え、35%以内
1B:欠損部が35%を超え、65%以内
0B:欠損部が65を超える
【0065】
(耐水性試験)
上記の通り、基材(ABS、及び、PC)上に得られた塗膜を、40℃に加熱した水(水道水)中に240時間浸漬し、JIS K 5600-5-6に準拠して、碁盤目試験(1mm、100マス、4方向)を行い、塗膜の基材(ABS、及び、PC)への付着性を、目視にて、評価した。
なお、5Bの評価であれば、実用上問題のないレベルと判断した(5Bが最も良い評価)。
(評価基準)
5B:欠損なし
4B:欠損部が5%以内
3B:欠損部が5%を超え、15%以内
2B:欠損部が15%を超え、35%以内
1B:欠損部が35%を超え、65%以内
0B:欠損部が65を超える
【0066】
(耐日焼止め性試験)
日焼止め(エスエスエルヘルスケアジャパン株式会社製「コパトーン・スポーツ ウルトラスウェットプルーフ SPF30」)クリームを用いた評価試験を行った。
上記の通り、塗膜を形成した基材(ABS)上に得られた塗膜を、サイズが50mm×70mmになるようにカットし、前記塗膜上に、前記日焼止めクリームを均一に塗布した(0.5g/100cm)。その後、55℃で4時間乾燥した。乾燥後、中性洗剤(花王株式会社製、商品名「キュキュット」)で前記日焼け止めクリームを洗浄し、塗膜外観を以下の基準で、目視にて、評価した。
なお、AまたはBの評価であれば、実用上問題のないレベルと判断した(Aが最も良い評価)。
(評価基準)
A:痕残りなし
B:塗膜の一部に痕残りあり
C:塗膜全体に痕残りあり
D:日焼止めクリームが落ちない
【0067】
(耐エタノール性試験)
エタノール(試薬1級95%以上)を含ませたフェルト(株式会社バルカー製、幅10mm×高さ10mm×奥行40mm)を、上記の通り、基材(ABS)上に得られた塗膜に押し当て、1kgの荷重を加えながら、上限500回往復させるラビング試験を行った。ラビング後の塗膜の状態を目視で観察し、基材であるABSの素地が見えるまでの回数に応じて以下の基準で、評価した。
なお、AまたはBの評価であれば、実用上問題のないレベルと判断した(Aが最も良い評価)。
(評価基準)
A:500回を超える
B:350回を超え、500回以下
C:150回を超え、350回以下
D:150回以下
【0068】
【表1】
【0069】
表2及び表3中の略語について、以下に説明する。
DPHA:東亞合成株式会社製、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート/ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(商品名:アロニックス M-402)
TMPTA:MIWON社製、トリメチロールプロパントリアクリレート(商品名:Miramar M300)
A-DCP:新中村化学株式会社製、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(商品名:NKエステル A-DCP)
N-3300:住化コベストロウレタン株式会社製、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート体(商品名:スミジュールN-3300)
tBAOH:東京化成工業株式会社製、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド
tBAAc:東京化成工業株式会社製、テトラブチルアンモニウムアセテート
U-CAT 18X:サンアプロ株式会社製、トリエチルメチルアンモニウム2-エチルヘキサン塩(商品名:U-CAT 18X)
DBU:関東化学株式会社製、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン
DBTDL:日東化成株式会社製、ジブチル錫ジラウレート
ABS(板):昭和電工マテリアルズ株式会社製、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(商品名:コウベポリシート ABS-BKWB)
PC(板):タキロン社製、ポリカーボネート (商品名:PC1600)
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
上記評価結果より、全ての実施例において、得られたコーティング組成物(溶液)のポットライフが実用上問題なく、保存安定性に優れ、前記コーティング組成物を用いて得られたコーティング(塗膜)についても、基材付着性、耐水性、耐日焼止め性(耐薬品性)、及び、耐エタノール性(耐溶剤性)に優れることが確認できた。
【0073】
一方、上記評価結果より、比較例1~4、7及び8においては、所望のモノマー成分を所望の配合割合で使用しない樹脂を使用したため、全ての特性を実用上問題のないレベルで、同時に満足するものは得られなかった。また、比較例5~8においては、触媒として、第4級アンモニウム化合物を使用しなかったことで、ポットライフが短く、その他の特性についても、全てを満足することはできなかった。