IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DIC株式会社の特許一覧

特許7568175微架橋変性ポリアミノ酸誘導体及び増粘組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】微架橋変性ポリアミノ酸誘導体及び増粘組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20241008BHJP
   C08G 69/10 20060101ALI20241008BHJP
   C08L 79/04 20060101ALI20241008BHJP
   A61K 8/88 20060101ALI20241008BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C08G73/10
C08G69/10
C08L79/04
A61K8/88
A61Q1/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024534449
(86)(22)【出願日】2024-01-29
(86)【国際出願番号】 JP2024002644
【審査請求日】2024-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2023047050
(32)【優先日】2023-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【弁理士】
【氏名又は名称】成田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】岡 康孝
(72)【発明者】
【氏名】笹本 茜
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/062207(WO,A1)
【文献】特開平11-302378(JP,A)
【文献】特開2005-344061(JP,A)
【文献】特開2000-191777(JP,A)
【文献】国際公開第2023/276396(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第115449074(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00-73/26
C08G 69/00-69/50
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるα型又はβ型ポリアスパラギン酸単量体単位A-U、下記一般式(2)で表されるα型又はβ型ポリアスパラギン酸単量体単位B-U、及び下記一般式(3)で表される架橋部Crosslink-Uを含む微架橋変性ポリアミノ酸誘導体であって、
前記微架橋変性ポリアミノ酸誘導体における、前記単量体単位B-Uのモル%に対する前記単量体単位A-Uのモル%の比(A-U)/(B-U)が、40/60~60/40であり、
前記微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の水酸基価が、80~170mgKOH/gであり、前記微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の架橋量が、0.1~2.0モル%である微架橋変性ポリアミノ酸誘導体。
【化1】
(式中、Rは炭素原子数3~22の炭化水素基を示す。)
【化2】
(式中、Rは炭素原子数2~8のヒドロキシアルキル基を示す。前記ヒドロキシアルキル基はヘテロ原子を含んでも構わない。また式中、-NH-Rは-NR -R であっても良く、Rは炭素原子数1~6の炭化水素基である。また前記-NR -R は、RとRが共有結合する環状アミノ基でもよい。)
【化3】
(式中、波線は、架橋箇所を示す。)
【請求項2】
下記一般式(4)で表されるスクシンイミド単量体単位C-Uを含み、
前記単量体単位C-Uのモル%に対する前記単量体単位A-U及び前記単量体単位B-Uの合計のモル%の比[(A-U)+(B-U)]/(C-U)が、80/20~99/1である請求項1に記載の微架橋変性ポリアミノ酸誘導体。
【化4】
【請求項3】
前記微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の架橋量が0.5~1.8モル%であり、
前記微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の水酸基価が、90~130mgKOH/gである、請求項1又は2に記載の微架橋変性ポリアミノ酸誘導体。
【請求項4】
前記一般式(3)で表される架橋部Crosslink-Uは、架橋剤由来構造を含み、
前記架橋剤が多官能アミンである、請求項1又は2に記載の微架橋変性ポリアミノ酸誘導体。
【請求項5】
前記架橋剤が、エーテル系ジアミンまたはトリス(2-アミノアルキル)アミンである、請求項4に記載の微架橋変性ポリアミノ酸誘導体。
【請求項6】
前記架橋剤が、1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタン(AEE)、ビス[2-(3-アミノプロポキシ)エチルエーテル(APEE)、トリス(2-アミノエチル)アミン(TREN)からなる群から選択される少なくとも1種ある、請求項4に記載の微架橋変性ポリアミノ酸誘導体。
【請求項7】
請求項1に記載の微架橋変性ポリアミノ酸誘導体を含む増粘組成物。
【請求項8】
水をさらに含む、請求項7に記載の増粘組成物。
【請求項9】
請求項7または8に記載の増粘組成物と、
化粧料有効成分と、
を含む化粧料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微架橋変性ポリアミノ酸誘導体及び増粘組成物に関する。
本願は、2023年3月23日に、日本に出願された特願2023-047050号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
化粧品用増粘剤にはポリアクリル酸系であるカルボマーが市場で最も多く使用されている。他の増粘剤にはないカルボマーの特徴として非常に高い増粘性と肌に塗る際のさっぱりとした触感が挙げられる。
ポリアスパラギン酸は化学構造がポリアクリル酸と類似しており同様の機能を発現できる可能性があり、且つ生分解性を有することから環境負荷の小さい代替材料として期待される。
例えば、塩の存在下でも増粘作用や起泡増泡作用を低下させることがない非イオン性のポリアミノ酸誘導体が報告されている(特許文献1)。
一方、ポリアミノ酸主鎖に架橋構造を持たせるポリアミノ酸誘導体が報告されている(特許文献2及び3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4546158号公報
【文献】特開2002-179791号公報
【文献】国際公開第2006/062207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1は、増粘効果が不十分である。また、特許文献2は、誘導体化していない架橋ポリアスパラギン酸が水中で加水分解しやすく、粘度を保つのが難しい。特許文献2の架橋ポリアスパラギン酸を増粘剤として応用する場合、水中に配合して増粘溶液を作成した際、経時で粘度が低下する問題があった。特にスキンケア用品などに多い弱酸性域での粘度低下が著しい。
一方、特許文献3には、ポリアミノ酸主鎖に架橋構造を持たせる目的は、分子量を増大させることより、整髪剤等の形成剤として用いる場合の皮膜を強くし、セット力の高い樹脂を得るためである。増粘効果を高めながら粘度安定性も維持するために、架橋構造とポリアミノ酸主鎖の非架橋構造との関係を着目し、両方をバランス良く設計する開示がなかった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の微架橋変性ポリアミノ酸誘導体は側鎖の長鎖アルキル基による疎水―疎水相互作用によって増粘性発現しながら、一定の量の親水性側鎖及び微架橋構造を導入することより、増粘効果と粘度安定性との両方を同時に実現する微架橋変性ポリアミノ酸誘導体及び増粘組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の内容は、以下の実施態様[1]~[9]を含む。
[1] 下記一般式(1)で表されるα型又はβ型ポリアスパラギン酸単量体単位A-U、下記一般式(2)で表されるα型又はβ型ポリアスパラギン酸単量体単位B-U、及び下記一般式(3)で表される架橋部Crosslink-Uを含む微架橋変性ポリアミノ酸誘導体であって、
前記微架橋変性ポリアミノ酸誘導体における、前記単量体単位B-Uのモル%に対する前記単量体単位A-Uのモル%の比(A-U)/(B-U)が、40/60~60/40であり、
前記微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の水酸基価が、80~170mgKOH/gであり、
前記微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の架橋量が、0.1~2.0モル%である微架橋変性ポリアミノ酸誘導体。
【化1】
(式中、Rは炭素原子数3~22の炭化水素基を示す。)
【化2】
(式中、Rは炭素原子数2~8のヒドロキシアルキル基を示す。前記ヒドロキシアルキル基はヘテロ原子を含んでも構わない。また式中、-NH-Rは-NR-Rであっても良く、Rは炭素原子数1~6の炭化水素基である。また前記-NR-Rは、RとRが共有結合する環状アミノ基でもよい。)
【化3】
(式中、波線は、架橋箇所を示す。)
[2] 下記一般式(4)で表されるスクシンイミド単量体単位C-Uを含み、
前記単量体単位C-Uのモル%に対する前記単量体単位A-U及び前記単量体単位B-Uの合計のモル%の比[(A-U)+(B-U)]/(C-U)が、80/20~99/1である[1]に記載の微架橋変性ポリアミノ酸誘導体。
【化4】
[3] 前記微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の架橋量が、0.5~1.8モル%であり、 前記微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の水酸基価が、90~130mgKOH/gである、[1]又は[2]に記載の微架橋変性ポリアミノ酸誘導体。
[4] 前記一般式(3)で表される架橋部Crosslink-Uは、架橋剤由来構造を含む構造であり、
前記架橋剤が多官能アミンである、[1]~[3]のいずれかに記載の微架橋変性ポリアミノ酸誘導体。
[5] 前記架橋剤が、エーテル系ジアミンまたはトリス(2-アミノアルキル)アミンである、[4]に記載の微架橋変性ポリアミノ酸誘導体。
[6] 前記架橋剤が、1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタン(AEE)、ビス[2-(3-アミノプロポキシ)エチルエーテル(APEE)、トリス(2-アミノエチル)アミン(TREN)からなる群から選択される少なくとも1種ある、[4]又は[5]に記載の微架橋変性ポリアミノ酸誘導体。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の微架橋変性ポリアミノ酸誘導体を含む増粘組成物。
[8] 水をさらに含む、[7]に記載の増粘組成物。
[9] [7]または[8]に記載の増粘組成物と、
化粧料有効成分と、
を含む化粧料組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、親水基として水酸基、疎水基として長鎖アルキル基を導入し、一定の水酸基価を有する微架橋変性ポリアミノ酸誘導体に、微量の架橋構造を導入していることで、より高い粘度とより長い時間一定以上の粘度を保持し、増粘力と保存安定性を両立する微架橋変性ポリアミノ酸誘導体及び増粘組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
【0009】
「~」は「~」という記載の前の値以上、「~」という記載の後の値以下を意味する。
【0010】
(微架橋変性ポリアミノ酸誘導体)
本発明の一実施形態の微架橋変性ポリアミノ酸誘導体は、下記一般式(1)で表されるα型又はβ型ポリアスパラギン酸単量体単位A-U、下記一般式(2)で表されるα型又はβ型ポリアスパラギン酸単量体単位B-U、及び下記一般式(3)で表される架橋部Crosslink-Uを含む。前記架橋部Crosslink-Uは、架橋剤由来構造を含むことが好ましい(後述の合成方法で詳細に説明する)。
なお、「微架橋変性ポリアミノ酸誘導体」とは、架橋量が0.1~2.0モル%である変性ポリアミノ酸誘導体の意味である。「微架橋」は、架橋量が2.0モル%超える通常の「架橋」と区別する。
【0011】
【化5】
(式中、Rは炭素原子数3~22の炭化水素基を示す。)
【0012】
【化6】
(式中、Rは炭素原子数2~8のヒドロキシアルキル基を示す。前記ヒドロキシアルキル基はヘテロ原子を含んでも構わない。また式中、-NH-Rは-NR-Rであっても良く、Rは炭素原子数1~6の炭化水素基である。また前記-NR-Rは、RとRが共有結合する環状アミノ基でもよい。)
【0013】
【化7】
(式中、波線は、架橋箇所を示す。)
【0014】
また、本発明の微架橋変性ポリアミノ酸誘導体は、単量体単位A-U、B-U、及びCrosslink-Uに加え、さらに下記一般式(4)で表されるスクシンイミド単量体単位C-Uを繰り返し単位として含むことが好ましい。
【0015】
【化8】
【0016】
一般式(1)中、Rは、炭素原子数3~22の炭化水素基を含有する基であれば特に制限されず、炭素原子数3~22の炭化水素基は飽和であっても不飽和であってもよい。炭素原子数3~22の炭化水素基としては、例えば、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、オクタデシル基等の直鎖状アルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、イソヘキシル基等の分岐状アルキル基;シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;シクロブチルメチル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、シクロブチルエチル基、シクロペンチルエチル基、シクロヘキシルエチル基、シクロブチルプロピル基、シクロペンチルプロピル基、シクロヘキシルプロピル基、シクロブチルブチル基、シクロペンチルブチル基、シクロヘキシルブチル基等のシクロアルキルアルキル基;プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基が挙げられる。
この中でも、アルキル基が好ましい。
【0017】
炭素原子数3~22の炭化水素基の炭素原子数は、好ましくは6~20であり、さらに好ましくは8~18である。炭素原子数3~22の炭化水素基は、分岐鎖状であっても直鎖状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
【0018】
一般式(2)中、Rは、炭素原子数2~8のヒドロキシアルキル基であれば特に限定されない。
例えば、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、ヒドロキシペンチル基、ヒドロキシヘキシル、ヒドロキシヘプチル基、ヒドロキシオクチル基盤などのヒドロキシアルキル基などが挙げられる。
【0019】
また、Rにおける炭素原子数2~8のヒドロキシアルキル基は、ヘテロ原子を含んでも構わない。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子からなる群から選択される一以上が挙げられる。
ヘテロ原子を含む炭素原子数2~8のヒドロキシアルキル基としては、上述した炭素原子数2~8のヒドロキシアルキル基の1以上の水素原子が、ヘテロ原子を含む置換基で置換されたものが挙げられる。ヘテロ原子を含む置換基としては、ヒドロキシ基(-OH)、アミノ基(-NH)、及びチオール基(-SH)からなる群から選択される1以上が挙げられる。
ヘテロ原子を含む置換基で置換された炭素原子数2~8のヒドロキシアルキル基としてはジヒドロキシエチル基、ジヒドロキシプロピル基、ジヒドロキシブチル基等のジヒドロキシアルキル基;D-グルカミンからアミノ基(-NH-)を除いた基等のポリヒドロキシアルキル基等が挙げられる。
また、ヘテロ原子を含む炭素原子数2~8のヒドロキシアルキル基として、上述した炭素原子数2~8のヒドロキシアルキル基にヘテロ原子が介在しているものが挙げられる。介在するヘテロ原子としては、-O-、-N-、及び-S-からなる群から選択される1以上が挙げられる。ヘテロ原子が介在している炭素原子数2~8のヒドロキシアルキル基としては、具体的には、例えば、ヒドロキシエトキシエチル基(-CHCHOCHCHOH)、ヒドロキシエトキシプロピル基(-CHCHCHOCHCHOH)、ヒドロキシエトキシブチル基(-CHCHCHCHOCHCHOH)、ヒドロキシエトキシペンチル基(-CHCHOCHCHCHOCHCHOH)、ヒドロキシプロポキシプロピル基(-CHCHCHOCHCHCHOH)、ヒドロキシプロポキシブチル基(-CHCHCHCHOCHCHCHOH)等のヒドロキシアルコキシアルキル基等が挙げられる。
【0020】
この中でも、Rは、分岐鎖状又は直鎖状のヒドロキシアルキル基が好ましく、直鎖状のヒドロキシアルキル基がより好ましい。
【0021】
本発明の化合物において、一般式(2)で表される単量体単位は、1種を単独で含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。
【0022】
また一般式(2)中、-NH-Rは-NR-Rであっても良く、Rは炭素原子数1~6の炭化水素基であれば特に限定されない。
として例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられ、中でもメチル基が特に好ましい。
-NR-Rとして例えばN-メチルエタノールアミン、N-メチル-D-グルカミンのアミノ基から水素原子を除いた基等が挙げられる。
また-NR-Rは、RとRが共有結合する環状アミノ基でもよく、例えば、プロリノールのアミノ基から水素原子を除いた基等が挙げられる。
【0023】
微架橋変性ポリアミノ酸誘導体に含まれる単量体単位B-Uは、1種を単独で含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。
【0024】
単量体単位A-U、B-U、C-U、及びCrosslink-Uの結合形態は、それぞれ、ランダム状、ブロック状、テーパード状のいずれであってもよい。また、単量体単位A-U、B-U、及びC-Uの結合形態は、ポリアミノ酸誘導体の水溶性と粘性の向上を両立する観点から、直鎖状であることが好ましい。
【0025】
微架橋変性ポリアミノ酸誘導体における、単量体単位B-Uのモル%に対する単量体単位A-Uのモル%の比((A-U)/(B-U)とも表す)は、40/60~60/40であり、好ましくは45/55~60/40であり、より好ましくは50/50~60/40である。上記範囲であれば、水への相溶性に優れ、粘性が向上する。本開示において、前記比はH NMRから算出したものをいう。H NMRからの詳細な算出方法は、実施例で説明する。
【0026】
なお、(A-U)/(B-U)は、原料の配合量から算出することもできる。この場合は、(合成時に添加したアミンAの合計モル数)/(合成時に添加したアミンBの合計モル数)により算出することができる。
【0027】
微架橋変性ポリアミノ酸誘導体における、単量体単位C-Uのモル%に対する、単量体単位A-U及び単量体単位B-Uの合計のモル%の比([(A-U)+(B-U)]/(C-U)とも表す)は、80/20~99/1であり、好ましくは85/15~98/2であり、より好ましくは90/10~97/3であり、さらに好ましくは90/10~95/5である。本開示において、前記比はH NMRから算出したものをいう。H NMRからの詳細な算出方法は、実施例で説明する。
【0028】
微架橋変性ポリアミノ酸誘導体における単量体単位A-Uのモル%は、40モル%~60モル%が好ましく、43モル%~58モル%がより好ましく、45モル%~57モル%がさらに好ましい。なお、本開示において微架橋変性ポリアミノ酸誘導体における単量体単位A-Uのモル%とは、微架橋変性ポリアミノ酸誘導体1分子における単量体単位A-Uの存在量(モル%)をいう。A-Uのモル%は、後述するアミンA及びその他の各原料の合成時における配合量により調整することができる。
【0029】
微架橋変性ポリアミノ酸誘導体における単量体単位B-Uのモル%は、30モル%~60モル%が好ましく、32モル%~50モル%がより好ましく、35モル%~45モル%がさらに好ましい。なお、本開示において微架橋変性ポリアミノ酸誘導体における単量体単位B-Uのモル%とは、微架橋変性ポリアミノ酸誘導体1分子における単量体単位B-Uの存在量(モル%)をいう。B-Uのモル%は、合成時における後述するアミンB及びその他の各原料の配合量により調整することができる。
【0030】
ここで、微架橋変性ポリアミノ酸誘導体における単量体単位A-U及びB-Uのモル%は、それぞれ、H NMRから算出したものをいう。具体的には、得られたNMRスペクトルを用いて、次の式で算出する。
単量体単位A-Uのモル%=(アミンAのメチル基のピーク積分値/3)×100/((アミンAのメチル基のピーク積分値/3)+(アミンBのメチレン基のピーク積分値/2)+(スクシンイミドのメチン基のピーク積分値))
単量体単位B-Uのモル%=(アミンBのメチレン基のピーク積分値/2)×100/((アミンAのメチル基のピーク積分値/3)+(アミンBのメチレン基のピーク積分値/2)+(スクシンイミドのメチン基のピーク積分値))
【0031】
なお、微架橋変性ポリアミノ酸誘導体における単量体単位A-U及びB-Uのモル%は、原料の配合量から次の式で算出することもできる。
単量体単位A-Uのモル%=(合成時に添加したアミンAの合計モル数/合成時に添加したポリコハク酸イミド(PSI)の合計モル数)×100
単量体単位B-Uのモル%=(合成時に添加したアミンBの合計モル数/合成時に添加したPSIの合計モル数)×100
【0032】
微架橋変性ポリアミノ酸誘導体における架橋量(微架橋変性ポリアミノ酸誘導体における架橋部Crosslink-Uのモル%)は0.1~2.0モル%である。例えば、微架橋ポリマーは、架橋量が少ないので、所定濃度の溶液は、ゲル化せず、一定の流動性を維持することができる。
【0033】
微架橋変性ポリアミノ酸誘導体における架橋量(微架橋変性ポリアミノ酸誘導体における架橋部Crosslink-Uのモル%)は、好ましくは0.1モル%~2.0モル%であり、より好ましくは0.3モル%~1.8モル%であり、さらに好ましくは0.5モル%~1.7モル%である。
架橋部Crosslink-Uにおいて、架橋部は、架橋剤由来構造を含むことが好ましい(後述の製造方法で詳細に説明する)。架橋量は、合成時に用いる架橋剤及びその他の各原料の配合量で調整することができる。また、架橋量(モル%)は、(合成時に添加した架橋剤の合計モル数/合成時に添加したポリコハク酸イミド(PSI)の合計モル数)×100により算出することができる。
【0034】
微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の水酸基価は、80mgKOH/g~170mgKOH/gであり、90mgKOH/g~130mgKOHがより好ましく、95mgKOH/g~110mgKOHがより好ましい。
水酸基価は、後述するアミンA及びアミンBの配合量により調整することができる。水酸基価の算出方法は、実施例で説明する。
【0035】
微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、8万以上が好ましく、10万以上がより好ましく、12万以上がさらに好ましい。また、80万以下が好ましく、70万以下がより好ましく、60万以下がさらに好ましい。例えば、8万以上80万以下、10万以上70万以下、又は12万以上60万以下である。重量平均分子量は、合成に用いるポリコハク酸イミドの分子量や、後述するアミンA及びアミンBの種類により調整することができる。
なお、ここでの重量平均分子量は、GPC法(示差屈折計)によるポリスチレンを標準物質とした換算値をいい、具体的には、G1000HHRカラム、G4000HHRカラム、及びGMHHR-Hカラム(TSKgel(登録商標)、東ソー株式会社製)を使用し、溶離液として10mM臭化リチウムを含むジメチルホルムアミドを使用して測定した重量平均分子量をいう。
【0036】
本態様の微架橋変性ポリアミノ酸誘導体において、単量体単位A-U、B-U、C-Uは、それぞれ、アミンA由来の構造単位、アミンB由来の構造単位、コハク酸イミド由来の構造単位である(後述の製造方法で詳細に説明する)。
【0037】
単量体単位A-U及びB-Uを含む微架橋変性ポリアミノ酸誘導体は、モノアミンを用いて、ポリコハク酸イミド(PSI)を開環することにより得られる。また、単量体単位C-Uは、未反応イミド環が残存することにより構成される。微架橋変性ポリアミノ酸誘導体は、モノアミンを用いて、ポリコハク酸イミド(PSI)を開環して得られるモノアミン変性ポリアミノ酸誘導体に対して、さらに、微量の架橋剤で架橋させてなるものである。
【0038】
本発明の「微架橋変性ポリアミノ酸誘導体」とは、架橋量が0.1~2.0モル%である変性ポリアミノ酸誘導体の意味である。「微架橋」は、架橋量が2.0モル%超える通常の「架橋」と区別する。例えば、微架橋ポリマーは、架橋量が少ないので、所定濃度の溶液は、ゲル化せず、一定の流動性を維持することができる。微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の架橋量の算出方法は、実施例で説明する。
【0039】
〔ポリコハク酸イミド(PSI)〕
本実施形態に係るポリコハク酸イミド(PSI)は、以下式(2)に表すポリマーである。
【0040】
【化9】
(式中、n=10~10000)
【0041】
ポリコハク酸イミド(PSI)の製造方法については特に限定されないが、例えば、アスパラギン酸をリン酸の存在下で真空中170~190℃で加熱、脱水縮合することにより製造される。更に高分子量のポリコハク酸イミド(PSI)を得る場合には、上記のようにして得られたポリコハク酸イミド(PSI)をジシクロヘキシルカルボジイミド等の縮合剤で処理すればよい。ポリコハク酸イミド(PSI)の分子量は、特に限定されない。例えば、重量平均分子量で2万以上であることが好ましく、5万以上であることがより好ましく、7万以上であることがさらに好ましい。ポリコハク酸イミド(PSI)の分子量は、50万以下であることが好ましく、20万以下であることがより好ましい。この場合の重量平均分子量は、GPC法によるポリスチレンを標準物質とした換算値である。
【0042】
〔架橋剤〕
本実施形態に係る架橋剤としては、その結合を形成することができるものであればよく、特に制限されない。ここで、架橋部に使用されるアミド結合を形成するのに好ましい架橋剤としては、具体的には例えば、多官能アミンが挙げられる。
【0043】
本実施態様に係る多官能アミンとしては、好ましくは1級及び/又は2級アミノ基を少なくとも2個有するアミンである。
ジアミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、キシレンジアミン等の芳香環を含む脂肪族ジアミン;ノルボルネンジアミン等の脂環式ジアミン;1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタン(AEE)、ジエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル(ビス[2-(3-アミノプロポキシ)エチルエーテル(APEE))、ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン等のエーテル系ジアミン;リジン、オルニチンに代表されるような側鎖にアミノ基を持つアミノ酸類及びその誘導体;シスチン、シスタミン等に代表されるような、モノアミノ化合物がジスルフィド結合によりつながったもの及びその誘導体等があげられる。本実施形態に係る多官能アミンは、上記アミノ酸類及びその誘導体を含まないことが好ましい。本実施形態に係る多官能アミンは、柔軟な構造を持つことで架橋反応時にブツが発生しにくい観点や架橋反応を制御しやすい観点から、上記エーテル系ジアミンであることが好ましい。
【0044】
ジアミン以外の多官能アミン化合物としては、例えば、トリス(2-アミノエチル)アミン(TREN)、トリス(3-アミノプロピル)アミンなどのトリス(2-アミノアルキル)アミン(アルキルの炭酸素数が1~5であることが好ましく、2~4であることがより好ましい。);ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等があげられる。
【0045】
本実施形態に係る多官能アミンとしては、1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタン(AEE)、ビス[2-(3-アミノプロポキシ)エチルエーテル(APEE)、トリス(2-アミノエチル)アミン(TREN)等が好ましい例として挙げられる。
【0046】
ポリコハク酸イミドと多官能アミンを反応させる方法としては、例えば、有機溶剤中で行う方法がある。本実施形態に係る多官能アミンがジアミンである場合の例を用いて、説明する。
有機溶剤中でポリコハク酸イミドとジアミンを反応させる方法では、ポリコハク酸イミドをジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等の非プロトン性極性有機溶剤中に溶解した後、ジアミン、又は、ジアミンの該有機溶剤溶液を滴下する。この時、ポリコハク酸イミドを溶解するのに用いられる有機溶剤の量は特に限定されないが、通常、ポリマー濃度が1~50質量%にして使用する。
【0047】
ポリコハク酸イミドとジアミンを反応させる温度は、特に限定されないが、例えば、室温~80℃である。
【0048】
上記反応の条件(反応温度、反応時間、反応濃度、ジアミンの使用量等)は特に限定されないが、反応液全体がゲル化しない条件とすることが望ましい。
【0049】
〔モノアミン〕
本実施形態に係るモノアミンは、下記一般式(6)に表すモノアミン(疎水性アミンAまたはアミンAともいうことがある)と一般式(7)又は一般式(8)に表すモノアミン(親水性アミンBまたはアミンBともいうことがある)を用いる。
-NH (6)
(式中、Rは炭素原子数3~22の炭化水素基を示す。)
-NH (7)
(式中、Rは炭素原子数2~8のヒドロキシアルキル基を示す。前記ヒドロキシアルキル基はヘテロ原子を含んでも構わない)
-NH-R (8)
(式中、Rは炭素原子数2~8のヒドロキシアルキル基を示す。前記ヒドロキシアルキル基はヘテロ原子を含んでも構わない。また式中、Rは炭素原子数1~6の炭化水素基である。またRとRが共有結合する環状アミンでもよい。)
【0050】
一般式(6)中のRに関しては、一般式(1)におけるRに関する説明を援用する。また、一般式(7)および一般式(8)中のRおよびRに関しては、一般式(2)におけるRおよびRに関する説明を援用する。
一般式(6)~一般式(8)に表すモノアミンは、市販品を用いてもよいし、公知の方法により調製したものを用いてもよい。
【0051】
〔微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の製造方法〕
本実施形態に係る微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の製造方法としては、例えば、ポリコハク酸イミド(PSI)と、微量の多官能アミン化合物などの架橋剤と、モノアミンとを用いて、ポリコハク酸イミド(PSI)の開環反応方法が挙げられる。架橋剤とモノアミンの添加順は特に限定されない。先にモノアミンを添加してから架橋剤を添加してもよく、モノアミンと架橋剤を同時に添加してもよく、先に架橋剤を添加してからモノアミンを添加してもよい。架橋量を制御しやすい観点から、先に架橋剤を添加して、架橋反応が進んでから、モノアミンを添加する方が好ましい。
【0052】
例えば、架橋剤として、多官能アミン化合物を用いた場合、ポリコハク酸イミド(PSI)と、微量の多官能アミン化合物などの架橋剤とを反応した後、モノアミンを添加し、モノアミンとの反応によるポリコハク酸イミド(PSI)の開環反応方法が挙げられる。ポリコハク酸イミド(PSI)と、微量の多官能アミン化合物などの架橋剤とを反応した後、ポリコハク酸イミド(PSI)と前記モノアミンとを反応させることにより、ポリコハク酸イミド(PSI)のイミド環は開環する。また、微量の多官能アミン化合物などの架橋剤を用いたため、得られたポリアミノ酸誘導体は、微量程度の架橋構造を有する。前記架橋剤及びモノアミンの全使用量を、ポリコハク酸イミド(PSI)の単量体単位の当量に対して、1倍当量未満使用して開環反応を行ない、未反応イミド環が残存してもよく、1倍当量以上使用して開環反応を行ない、未反応イミド環が残存しなくてもよい。
【0053】
本実施形態に係る微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の製造方法において、前記モノアミンが、上記一般式(6)に表すモノアミン(疎水性アミンAともいうことがある)と一般式(7)又は一般式(8)に表すモノアミン(親水性アミンBともいうことがある)とを含み、かつ、原料として使用する疎水性アミンAと親水性アミンBのモル比が45/55~60/40であることが好ましい。前記モノアミンが、疎水性アミンAと親水性アミンBを含み、かつ、疎水性アミンAと親水性アミンBのモル比が50/55~55/45であることがより好ましい。
【0054】
本実施形態に係る微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の製造方法において、前記モノアミンが、疎水性アミンAと親水性アミンBを含む以外に、疎水性アミンAと親水性アミンB以外のモノアミンなどを含んでもよい。その場合、前記モノアミンにおける疎水性アミンAと親水性アミンBの合計モル数が、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましい。また、前記モノアミンが、疎水性アミンAと親水性アミンBであってもよい。
【0055】
上記未反応イミド環が残存したままでも良いし、他のモノアミンを用いてさらに開環反応を行なっても良い。また、所望により、上記未反応イミド環を、システアミン、ジブチルアミン等の置換アミンで開環しても良い。
【0056】
「有機溶剤」
本実施形態に係る微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の製造方法において、有機溶剤は、ポリコハク酸イミド(PSI)、架橋剤、及びモノアミンを実質的に溶解するものであれば、及び又は、反応の進行を実質的に阻害しないものであれば、特に制限されない。
【0057】
上記有機溶剤の具体例としては、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等の非プロトン性極性有機溶剤が挙げられ、これらは単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0058】
「架橋剤の使用量」
本実施態様に係る架橋剤の使用量は、ゲル化をしない程度の微量の架橋構造を導入した微架橋変性ポリアミノ酸誘導体を得ればよく、特に限定しない。例えば、最終合成した上記一般式(1)で表される微架橋変性ポリアミノ酸誘導体において、架橋量が、0.1~2.0モル%であればよい。0.3~1.8モル%であること好ましく、0.4~1.7モル%であることがより好ましく、0.5~1.5モル%であることが更に好ましい。例えば、架橋剤として、多官能アミン用いる場合、多官能アミンの使用量は、合成時に添加したポリコハク酸イミドの合計モル数100モルに対して、0.1~2.0モルであり、好ましくは0.2~1.5モルであり、より好ましく0.3~1.3モルであり、さらに好ましく0.4~1.0モルである。多官能アミンの使用量は、合成時に添加したポリコハク酸イミドの合計モル数100モルに対して、2モルである場合、単に、「多官能アミンの使用量が2モル%」とする。
多官能アミンの使用量を0.1~2.0モル%の範囲にすると、増粘組成物としたときに高い増粘効果を達成しながら、より長い時間一定以上の粘度を保持することができる。
なお、本開示において「合成時に添加したポリコハク酸イミド(PSI)の合計モル数」とは、微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の合成時に添加したポリコハク酸イミドの重量を、ポリコハク酸イミドの繰り返し単位の分子量で割った値を意味する。
【0059】
「モノアミンの使用量」
本実施形態に係るモノアミンの全使用量は、有機溶剤に実質的に溶解すれば、及び又は、反応の進行を実質的に阻害しなければ、特に制限されない。前記使用量は、一般的には、ポリコハク酸イミド(PSI)の単量体単位の当量に対して、0.1~10倍当量が用いられ、0.1~1.0倍当量が好ましい。
【0060】
「塩基性触媒」
本実施形態に係る微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の製造方法において、触媒を用いなくても良く、塩基性触媒を用いてもよい。任意に用いる塩基性触媒は、反応速度を実質的に促進するものであれば、特に制限されない。上記塩基性触媒の具体例としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)、トリエタノールアミン、トリエチレンジアミン(DABCO)等の脂肪族3級アミン、N-メチルモルホリン等の脂環式3級アミン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン等の芳香族3級アミン及びテトラメチルグアニジン等が挙げられ、これらは単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0061】
「塩基性触媒の使用量」
本実施形態に係る微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の製造方法において、塩基性触媒の使用量は、反応速度を実質的に促進すれば、特に制限されない。上記した塩基性触媒の使用量は、一般的には、モノアミンの当量に対して、0~2倍当量を用いる。
【0062】
「反応温度」
本実施形態に係る微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の製造方法において、反応温度は、反応の進行を実質的に維持できれば、特に制限されない。上記反応温度は、一般的には、5~150℃の温度範囲から選択される。上記反応温度は使用するモノアミンや反応時間の短縮、反応率の向上などの観点から最適な温度を選択することもできる。
本実施形態に係る微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の製造方法は、先に架橋剤を添加して架橋反応が進む架橋反応工程と、その後、モノアミンを添加するモノアミン反応工程と、を含むことが好ましい。その場合、架橋反応の温度及びモノアミン反応の温度は、同じでも、異なってもよい。架橋反応の温度がモノアミン添加後の反応温度より低いことが好ましい。ポリコハク酸イミド(PSI)に対して、架橋剤を添加して架橋反応が進む架橋反応工程において、反応温度は、120℃以下であってもよく、100℃以下であってもよい。また、20℃以上あっても良い。例えば、架橋剤がエーテル系ジアミンまたはトリス(2-アミノアルキル)アミンである場合、前記架橋反応工程において、反応温度は、100℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましく、60℃以下であることが更に好ましく、50℃以下であってもよい。また、20℃以上があっても良い。前記架橋反応工程において、反応温度が上記範囲内にあれば、架橋を均一に進めることができる。その結果、上記製造方法で得られた、微架橋変性ポリアミノ酸誘導体を含む増粘組成物は、増粘力と保存安定性を両立することができる。
【0063】
「反応系の濃度」
本実施形態に係る微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の製造方法において採用する反応系の濃度は、反応の進行を実質的に維持できれば、特に制限されない。上記反応系の濃度は、ポリコハク酸イミド(PSI)の濃度を基準として選択され、一般的には、ポリコハク酸イミド(PSI)濃度は1~50重量%の濃度範囲から選択される。上記反応系の濃度は、ポリコハク酸イミド(PSI)濃度は1~50重量%の範囲から、使用するモノアミンに最適な濃度を選択することもできる。
【0064】
<微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の単離方法>
本実施形態に係る微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の製造方法において、反応終了後に反応液から生成重合体を単離する方法は、実質的に、反応生成物を所望の純度で単離できるものであれば、特に制限されない。上記単離方法は、公知・公用のいずれの方法によってもよい。一般的には、濃縮、再結晶、又は再沈澱等の公知・公用の単離操作が採用される。
【0065】
上記単離方法の具体例としては、例えば、反応終了後に、適当な温度において、反応生成物が溶解している反応液に、過剰の貧溶媒(例えば、酢酸エチル、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等)を加え、析出した反応生成物を、デカンテーション、濾過又は吸引濾過等により単離し、該結晶を溶解しない貧溶媒で充分に洗浄後、乾燥する方法等が挙げられる。他の具体例としては、例えば、反応終了後に、適当な温度において、反応生成物が溶解している反応液を、前記と同じ過剰の貧溶媒に加え、析出した反応生成物を、前記と同様にして単離し、洗浄し、乾燥する方法等が挙げられる。
【0066】
本実施形態に係る微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の製造方法において、得らえた微架橋変性ポリアミノ酸誘導体を単離せず、反応後の混合液をそのまま用いてもよい。また、必要に応じて、溶媒以外の一部未反応原料のみを除去し、後述の組成物に参加してもよい。また、混合液の溶媒を増減して、濃度を調整してもよい。
【0067】
(増粘組成物)
本実施形態に係る増粘組成物は、微架橋変性ポリアミノ酸誘導体を少なくとも含有し、任意で水を含有しても良い。
水としては、例えば、イオン交換水などが挙げられる。
水を含む増粘組成物の合計100質量%に対して、水の含有量が40質量%~99.99質量%であってもよく、60質量%~99.95質量%であってもよく、80質量%~99.9質量%であってもよい。
【0068】
<その他の成分>
本実施形態の増粘組成物は、さらに、その他の成分を含んでもよい。例えば、化粧品有効成分などが挙げられる。また、化粧品によく使用される添加剤、例えば、界面活性剤、安定剤、保湿剤などが挙げられる。
【0069】
<増粘組成物の調製方法>
本実施形態の増粘組成物を調製する方法としては、例えば、前述の本実施形態に係る微架橋変性ポリアミノ酸誘導体を所定の量で秤量し、必要があれば、水、又はその他の成分を所定の量を添加し、攪拌して調製する方法が挙げられる。
本実施形態の化粧料組成物が水を含む場合、先に、本実施形態に係る微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の水分散液を調製し、必要があれば、他の成分と混合してもよい。
本実施形態の化粧料組成物が水を含まない場合、固体状の微架橋変性ポリアミノ酸誘導体を所定の量で秤量し、必要があれば、他の固形成分と混合してもよい。あるいは、先に微架橋変性ポリアミノ酸誘導体と水とを含む分散液を調製し、必要があれば、他の成分と混合して混合液を作成し、乾燥処理を行ってから調製してもよい。
調整温度は特に制限されないが、60~80℃に加温することで水への分散・溶解が速くなる。
【0070】
(化粧料組成物)
本実施形態に係る化粧料組成物は、前述増粘組成物と化粧料有効成分とを含む。化粧料有効成分としては、例えば、高級アルコール、低級アルコール、多価アルコール、pH調整剤、界面活性剤、金属イオン封鎖剤、酸化防止剤、物理的及び化学的日焼け止め剤、ビタミン類、皮膚保護剤、油脂、炭化水素油剤、保湿剤、制汗剤、洗浄剤、香料、化粧料用着色剤、抗菌剤、殺菌剤、感触向上剤及び泡安定化剤、他の増粘剤などが挙げられる。本実施形態に係る化粧料組成物は、さらに水を含んでもよい。
本実施形態に係る化粧料組成物が水を含む場合、化粧料組成物の合計100質量%に対して、本実施形態に係る微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の含有量が0.05~10質量%であることが好ましく、0.1~7.0質量%であることがより好ましく、0.3~5.0質量%であることがさらに好ましく、0.5~3.0質量%であることが特に好ましい。
【0071】
化粧料組成物が水を含む場合には、そのpH値が4.5~8.0の範囲であることが好ましく、5~7の範囲であることがより好ましい。
pH値の調製方法としては、特に限定がなく、酸性物質や塩基性物質を用いて調製する方法が挙げられる。酸の具体例としては、クエン酸などの有機酸が挙げられる。塩基の具体例としては、アンモニアなどの有機塩基性化合物や水酸化ナトリウムなどの無機塩基性化合物が挙げられる。
【実施例
【0072】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0073】
(合成例1)
<ポリコハク酸イミド(PSI)の合成>
アスパラギン酸(YIXING QIANCHENG BIO-ENGINEERING社製)160部と85%リン酸83部を乳鉢で混合し、トレイに移し替えて、190℃、1.3kPa、6時間反応させた。反応混合物を粉砕した後、蒸留水を用いて、ろ液が中性になるまで洗浄し、80℃にて真空乾燥することにより、重量平均分子量8万のポリコハク酸イミド(PSI)115部を得た。
【0074】
<ポリコハク酸イミド(PSI)および微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の重量平均分子量の測定>
ポリコハク酸イミド(PSI)の重量平均分子量は、GPC法(示差屈折計)によるポリスチレン換算値を求めた。測定には、G1000HHRカラム、G4000HHRカラム、及びGMHHR-Hカラム(TSKgel(登録商標)、東ソー株式会社)を使用した。溶離液には、10mM臭化リチウムを含むジメチルホルムアミドを使用した。また、後述する微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の重量平均分子量も同様の方法で測定した。
【0075】
(実施例1)
<微架橋変性ポリアミノ酸誘導体No.1の合成>
反応容器内にPSI 10.0gとDMF 95.3gを入れ、60℃加熱下で完全に溶解させた。40℃まで温度を下げた後、架橋剤として1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタン(AEE) 0.229gとDMF 2.06gを混合したものを添加し、7時間反応させた。次いで、疎水性アミンAとしてn-ドデシルアミン10.3gを添加し、30分間反応させた。さらに、親水性アミンBとして3-アミノ-1-プロパノール3.45gを添加し、反応容器内の温度を60℃に保ちながら7時間反応させ、次いで反応容器を冷却し、室温になったところで一晩静置させた。その後、反応液を酢酸エチル1200mL中に攪拌しながら排出することにより反応物を沈澱させ、濾過により固体を回収した。さらに酢酸エチル600mL中で撹拌しながら洗浄し、濾過により固体を回収した。回収した固体を60℃で減圧下12時間乾燥させることにより、重量平均分子量12500の微架橋変性ポリアミノ酸誘導体No.1を22.0g得た。
上記の方法で算出した架橋量は1.5モル%であり、水酸基価は110mgKOH/gであった。単量体単位B-Uのモル%に対する単量体単位A-Uのモル%の比(A-U)/(B-U)は54/46であり、単量体単位C-Uのモル%に対する単量体単位A-U及び単量体単位B-Uの合計のモル%の比[(A-U)+(B-U)]/(C-U)は92/8であった。その結果を表1に示す。
【0076】
(実施例2~13、比較例1~3)
<微架橋変性ポリアミノ酸誘導体No.2-13、c1-c3の合成>
実施例1をもとに、疎水性アミンA、親水性アミンB、架橋剤を適宜変更し、実施例2~13、比較例1~3の微架橋ポリアミノ酸誘導体No.2-13、No.c1-c3を得た。その結果を表1に示す。
【0077】
<微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の組成比の算出方法>
微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の組成比(モル%)は、得られたNMRスペクトルを用いて、次の式で算出した。
単量体単位B-Uのモル%に対する単量体単位A-Uのモル%の比(A-U)/(B-U)=(アミンAのメチル基のピーク積分値/3)/(アミンBのメチレン基のピーク積分値/2)
単量体単位C-Uのモル%に対する単量体単位A-U及び単量体単位B-Uの合計のモル%の比[(A-U)+(B-U)]/(C-U)=[(アミンAのメチル基のピーク積分値/3)+(アミンBのメチレン基のピーク積分値/2)]/(スクシンイミドのメチン基のピーク積分値)
【0078】
<微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の水酸基価の算出方法>
次いで、次の式より、単量体単位A-U及びB-Uのモル%をそれぞれ算出し、算出されたモル%に基づき水酸基価を算出した。
単量体単位A-Uのモル%=(モノアミンAのメチル基の積分値/3)×100/((モノアミンAのメチル基の積分値/3)+(モノアミンBのメチレン基の積分値/2)+(スクシンイミドのメチレン基の積分値/2))
単量体単位B-Uのモル%=(モノアミンBのメチレン基の積分値/2)×100/((モノアミンAのメチル基の積分値/3)+(モノアミンBのメチレン基の積分値/2)+(スクシンイミドのメチレン基の積分値/2))
水酸基価=(単量体単位B-Uのモル%/100)×56.11×1000/[97+架橋剤の分子量×(架橋剤のモル%/100)+アミンAの分子量×(単量体単位A-Uのモル%/100)+アミンBの分子量×(単量体単位B-Uのモル%/100)]
なお、上記式における「架橋剤のモル%」は、合成時に添加したPSIの合計モル数に対する、合成時に添加した架橋剤の合計モル数の割合(モル%)を指す。
また、上記式における「合成時に添加したPSIの合計モル数」は、合成時に添加したPSIの重量を、PSIの繰り返し単位の分子量で割った値を指す。
【0079】
<微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の架橋量の算出方法>
微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の架橋量(モル%)は、(添加した多官能アミンのモル/PSIの仕込みモル)×100で算出した。
【0080】
【表1】
【0081】
表1中の略語の意味は以下に示す。
DDA:n-ドデシルアミン
CCA:ココナッツアミン(花王株式会社製「ファーミン(登録商標)CS」)
3-AP:3-アミノ-1-プロパノール
EA:エタノールアミン
EEA:N-メチルエタノールアミン
PL:プロリノール
AEE:1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタン
APEE:ビス[2-(3-アミノプロポキシ)エチルエーテル
TREN:トリス(2-アミノエチル)アミン
【0082】
(実施例14~26、比較例4~6)
<増粘溶液の調整>
実施例14~26、比較例4~6において、粘度評価用にそれぞれ実施例1~13、比較例1~3で得た微架橋変性ポリアミノ酸誘導体No.1~13,No.c1~c3 1.0部とイオン交換水99部を、混合した後、60℃で2時間撹拌し、実施例14~26、比較例4~6の増粘組成物を得た。
後述の評価方法で各増粘組成物のせん断粘度及び保存安定性を評価した。その結果を表2に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
(実施例27~39、比較例7~9)
<増粘溶液の調整>
実施例27~39、比較例7~9において、保存安定性評価用に実施例1~13、比較例1~3で得た微架橋変性ポリアミノ酸誘導体No.1~13,No.c1~c3 1.5部とイオン交換水98.5部をそれぞれ混合した後、60℃で2時間撹拌し、実施例27~39、比較例7~9の増粘組成物を得た。
後述の評価方法で各増粘組成物のせん断粘度及び保存安定性を評価した。その結果を表3に示す。
【0085】
【表3】
【0086】
(評価方法)
<粘度評価>
微架橋変性ポリアミノ酸誘導体1.0部とイオン交換水99部を混合した後、60℃で2時間撹拌した。回転式レオメーター(ブルックフィールド社製R/Splus)でせん断粘度を測定し、せん断速度が5(1/sec)の時の粘度を表1に記載した。
【0087】
<保存安定性評価>
微架橋変性ポリアミノ酸誘導体1.5部とイオン交換水98.5部を混合した後、60℃で2時間撹拌した。増粘溶液を50℃の恒温機内で30日間保存した後、回転式レオメーター(ブルックフィールド社製R/Splus)で測定したせん断速度5(1/sec)の時の粘度が、保存前の粘度の70%以上を保持している場合を○、70%未満になっているものを×と評価した。
【0088】
(考察)
微架橋変性ポリアミノ酸誘導体の実施例1~13と比較例1~3、及び、増粘組成物の実施例14~26と比較例4~6、実施例27~39と比較例7~9の結果から、本発明の効果が確認された。
すなわち、微量の架橋によって見かけの分子量が増大(分子が大きくなる)する。更に、1分子中の疎水―疎水相互作用点が増えることで分子間での相互作用が促進され増粘力が上がる。
また、水に溶解するかしないかの微妙なバランスを保つ組成がもっとも粘度と安定性の両方を高くできる。親水基が多く水への親和性が高くなると主鎖の加水分解により減粘し安定性が低くなる。更に、疎水基の量が減少してしまうため疎水―疎水相互作用が弱くなり増粘力も低下する。また、疎水基が多過ぎると分子内での相互作用が多くなり、1分子だけで粒子化してしまうため増粘力が小さくなる。
【要約】
親水基として水酸基、疎水基として長鎖アルキル基を導入し、一定の水酸基価を有し、微量の架橋構造を導入することで、より高い粘度とより長い時間一定以上の粘度を保持し、増粘力と保存安定性を両立する微架橋変性ポリアミノ酸誘導体を提供することができる。本発明の微架橋変性ポリアミノ酸誘導体は、下記一般式(1)で表される単量体単位A-U、下記一般式(2)で表される単量体単位B-U、及び下記一般式(3)で表される単量体単位Crosslink-Uを含む。前記単量体単位B-Uのモル%に対する前記単量体単位A-Uのモル%の比(A-U)/(B-U)が、40/60~60/40である。水酸基価が、80~170mgKOH/gであり、架橋量が、0.1~2.0モル%である。
[化1]
(式中、Rは炭素原子数3~22の炭化水素基を示す。Rは炭素原子数2~8のヒドロキシアルキル基を示す。波線は、架橋箇所を示す。)