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特許7568214リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池
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  • 特許-リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20241008BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20241008BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020167590
(22)【出願日】2020-10-02
(65)【公開番号】P2022059781
(43)【公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】相田 平
(72)【発明者】
【氏名】藪内 直明
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-214005(JP,A)
【文献】特開平08-250119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:Li1+2yNi2+y-xで表され、
元素Mが4価以上の金属であり、
xが0<x≦0.5
yが0≦y≦0.3
a+b=1.0、かつa≧b>0であり、
岩塩型構造を有するリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記元素Mが、Mn、Nb、Ti、Zr、V、Y、W、Moから選択された1種類以上である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質を含む正極を備えたリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンやタブレットPCなどの小型情報端末の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な二次電池の開発が強く望まれている。また、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の電池として高出力の二次電池の開発が強く望まれている。
【0003】
このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池は、負極および正極と電解質等で構成され、負極および正極の活物質として、リチウムを脱離および挿入することが可能な材料が用いられている。
【0004】
リチウムイオン二次電池については、現在研究開発が盛んに行われているが、中でも、層状またはスピネル型のリチウム金属複合酸化物を正極活物質に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0005】
リチウムイオン二次電池の正極活物質として、現在、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)などのリチウム金属複合酸化物が提案されている(特許文献1等を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-62668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のようにリチウムイオン二次電池は各種用途で用いられるようになっている。このため、正極活物質の需要も増加することが予想されるが、予測される需要に対して、原料となるニッケルの生産量は十分ではなく、需給の逼迫によりニッケル等の価格が上昇する恐れもある。そこで、ニッケルの使用量を抑制しつつも、リチウムイオン二次電池に用いた場合に十分な電池性能、例えば十分な電池容量を発揮できるリチウムイオン二次電池用正極活物質が求められていた。
【0008】
上記従来技術が有する問題に鑑み、本発明の一側面では、ニッケルの含有割合を抑制しつつ、リチウムイオン二次電池に適用した場合に電池容量に優れたリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
一般式:Li1+2yNi2+y-xで表され、
元素Mが4価以上の金属であり、
xが0<x≦0.5
yが0≦y≦0.3
a+b=1.0、かつa≧b>0であり、
岩塩型構造を有するリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供する。

【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、ニッケルの含有割合を抑制しつつ、リチウムイオン二次電池に適用した場合に電池容量に優れたリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1、2、比較例1で作製したコイン型電池の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[リチウムイオン二次電池用正極活物質]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質の一構成例について説明する。
【0013】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」とも記載する)は、一般式:Li1+2yNi2+y-xで表すことができる。
【0014】
上記一般式中の元素Mが4価以上の金属であり、xが0<x≦0.5、yが0≦y≦0.3であることが好ましい。また、a、bについては、a+b=1.0、かつa≧b>0であることが好ましい。
【0015】
本実施形態の正極活物質について以下に説明する。
(1)組成について
【0016】
本実施形態の正極活物質が含有する元素と、その含有割合について、以下に説明する。
(1-1)Ni(ニッケル)、元素Mについて
本発明の発明者は、従来から用いられているLiNiOを基礎として、Niの一部を他の元素である元素Mで置換した正極活物質について検討を行った。このように、Niの一部を他の元素Mで置換することで、Niの含有割合を抑制した正極活物質とすることができる。
【0017】
そして、Niの一部を置換する元素Mとしては、4価以上の価数を取りうる金属元素であることが好ましい。
【0018】
LiNiOをリチウムイオン二次電池に用いた場合、Liイオンが脱離する前、すなわち放電時、Niは3価である。そして、Liイオンが脱離した後、すなわち充電時Niは4価である。
【0019】
一方、Niの一部を4価以上の価数を取りうる金属元素で置換した正極活物質をリチウムイオン二次電池に用いた場合、正極活物質内の価数のバランスをとるため、Liイオンが脱離する前、Niは3価より小さい、例えば2価を取るようになる。そして、Liイオンが脱離した後は、LiNiOの場合と同様にNiは4価となる。このため、Niを上記元素Mで置換した正極活物質をリチウムイオン二次電池に用いた場合、充放電を行った際のNiの価数変化が大きくなる。従って、Niの一部を4価以上の価数を取りうる元素Mで置換した正極活物質を用いることで、LiNiOを正極活物質に用いた場合よりも、Niの含有割合を抑制しつつ、Niで電荷補償が可能な電気量を向上させることも可能になる。
【0020】
上記Niで電荷補償が可能な電気量とは、正極活物質からLiイオンが脱離する際にNiが価数変化することで供給できる電気量を意味する。正極活物質からLiイオンが脱離する前のNiの価数をn、正極活物質からLiイオンが脱離した後のNiの価数を4価とする。そして、正極活物質のNiの含有割合、すなわち正極活物質内のNiの物質量の比を既述の一般式にあわせてaとする。この場合、Niで電荷補償が可能な電気量、すなわち正極活物質からLiイオンが脱離する際に、Niが価数変化することで供給できる電気量は、例えばa(4-n)eで表される。係る式からも明らかなように、正極活物質からLiイオンが脱離する前のNiの価数nを小さくすることで、Niで電荷補償が可能な電気量は大きくなる。
【0021】
既述の4価以上の価数を取りうる金属元素とは、上記正極活物質のNiを、該金属元素で置換した化合物からLiイオンが脱離していない放電時の状態において、該金属元素が4価以上の価数を取りうる金属元素であることを意味する。4価以上の価数を取りうる金属元素としては、遷移金属元素であることがより好ましい。
【0022】
本発明の発明者の検討によれば、Niを置換する元素Mとしては、Mn(マンガン)、Nb(ニオブ)、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、V(バナジウム)、Y(イットリウム)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)から選択された1種類以上であることが好ましい。Niの一部を置換した場合に、これらの元素は4価以上の価数を取ることができ、上述のようにLiNiOを正極活物質に用いた場合よりも、Niで電荷補償が可能な電気量を向上させることも可能だからである。
【0023】
特に入手の容易さから、元素Mは、Mn、Nb、Ti、Zr、Vから選択された1種類以上であることがより好ましい。
【0024】
元素Mは、LiNiOのNi元素の一部を置換するため、上記一般式中のNiの含有割合を示す添え字をa、元素Mの含有割合を示す添え字bとした場合に、a+bは1.0を満たすことが好ましい。
【0025】
Ni元素を、元素Mで置換する程度は特に限定されないが、Niの半分以下であることが好ましい。このため、a≧bであることが好ましい。Niの一部を元素Mで置換することで、LiNiOの場合よりもNiの使用量を抑制できるため、bは0<bであればよいが、Niの含有割合を特に抑制する観点から、0.2≦bであることがより好ましい。
(1-2)O(酸素)、S(硫黄)について
上述のように、Niの一部を元素Mで置換することで、Niの含有割合を抑制しつつ、該正極活物質をリチウムイオン二次電池に用いた場合の電池容量を、正極活物質としてLiNiOを用いた場合と同程度に維持できる。
【0026】
しかしながら、本発明の発明者の検討によれば、Niを元素Mで置換した場合、Liイオンを脱離させるために要する電圧が高くなり、リチウムイオン二次電池を通常使用する際の実用電圧の範囲では引き抜けるLiイオンが少なくなり容量が低下する場合があった。そこで、さらなる検討を行ったところ、Oの一部を、Oよりも電気陰性度の低い元素で置換することで、Liイオンを脱離させるために要する電圧を抑制し、実用電圧でも容量を高くできることを見出した。
【0027】
そして、本発明の発明者は、Oを置換する元素として、S(硫黄)が好適であることを見出した。そこで、本実施形態の正極活物質は、上記一般式に示したように、Oの一部をSにより置換できる。
【0028】
Sによる置換割合を示すxは特に限定されないが、例えば0<x≦0.5であることが好ましく、0.01≦x≦0.2であることがより好ましい。
【0029】
なお、正極活物質内の電荷のバランスをとるため、Oの含有割合は、Liの含有割合に応じて変化できる。後述するように、本実施形態の正極活物質は、LiNiOにおけるLiの量論比1よりも過剰にLiを含有することもできる。このため、Oもこれに対応した含有割合とすることができる。
(1-3)Li(リチウム)について
本実施形態の正極活物質は、Niの一部を元素Mで置換することで、カチオンミキシングが生じやすくなっている。このため、Liは、LiNiOの場合のLiの量論比1.0よりも多くし、カチオンミキシングの発生を抑制することもできる。
【0030】
Liは、上記一般式に示したように、1+2yで表すことができ、過剰量を示す2yのyは、0≦y≦0.3とすることが好ましく、0≦y≦0.2とすることがより好ましい。
【0031】
上述のように、カチオンミキシングの発生を抑制する観点から、Liの含有割合は多い方が好ましいが、Liの含有割合が過剰に多くなると、目的としないリチウム化合物が混入する恐れもある。このため、Liの含有割合を示す、1+2yのうち、yは上記範囲を充足することが好ましい。
(2)結晶構造について
本実施形態の正極活物質の結晶構造は特に限定されないが、岩塩型構造をとることが好ましく、岩塩型の層状構造をとることがより好ましい。
[正極活物質の製造方法]
本実施形態の正極活物質の製造方法の一構成例について説明する。
【0032】
本実施形態の正極活物質の製造方法によれば、既述の正極活物質を製造できるため、既に説明した事項については、一部説明を省略する。
【0033】
本実施形態の正極活物質の製造方法は以下のミリング工程を有することができる。
【0034】
リチウム、ニッケル、元素M、および硫黄を含有する原料混合物をミリングするミリング工程。
【0035】
本発明の発明者は、既述の正極活物質の製造方法について検討を行ったところ、目的組成となるように混合した原料混合物をミリングすることで、製造できることを見出した。
(原料混合物について)
原料混合物は、上記リチウム、ニッケル、元素M、硫黄を、目的とする正極活物質の組成比に応じて、すなわち既述の一般式と同じ組成比となるように秤量して調製することが好ましい。
【0036】
原料混合物は、物質量の比でLi:Ni:M:S=1+2y:a:b:xとなるように、調製することが好ましい。なお、ミリング工程の前後で、各元素の価数はほとんど変化しないことから、正極活物質における各元素の価数に応じた化合物を、原料として用いることが好ましい。すなわち、Niについては2価で含む化合物を、元素Mについては4価以上で含む化合物を、それぞれ用いることが好ましい。
【0037】
なお、各元素について個別に化合物を原料として用意する必要はなく、2種類以上の元素を同時に含有する化合物を原料として用いることもできる。
【0038】
原料混合物を調製する際に用いる原料としては、例えばNiO、NiS、LiMO、LiS、NiO、MO等から選択された1種類以上が挙げられる。
(ミリングの条件について)
ミリングの条件は特に限定されないが、例えばミリング容器内を不活性雰囲気として、乾式で行うことができる。
【0039】
ミリング工程の間に、原料混合物に対して十分なエネルギーを付与し、目的とする正極活物質が得られるようにミリング条件を選択できる。
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態のリチウムイオン二次電池(以下、「二次電池」ともいう。)は、既述の正極活物質を含む正極を有することができる。
【0040】
以下、本実施形態の二次電池の一構成例について、構成要素ごとにそれぞれ説明する。本実施形態の二次電池は、例えば正極、負極および非水系電解質を含み、一般のリチウムイオン二次電池と同様の構成要素から構成される。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、下記実施形態をはじめとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
(正極)
本実施形態の二次電池が有する正極は、既述の正極活物質を含むことができる。
【0041】
以下に正極の製造方法の一例を説明する。まず、既述の正極活物質(粉末状)、導電材および結着剤(バインダー)を混合して正極合剤とし、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合剤ペーストを作製することができる。
【0042】
正極合剤中のそれぞれの材料の混合比は、リチウムイオン二次電池の性能を決定する要素となるため、用途に応じて、調整することができる。材料の混合比は、公知のリチウムイオン二次電池の正極と同様とすることができ、例えば、溶剤を除いた正極合剤の固形分の全質量を100質量%とした場合、正極活物質を60質量%以上95質量%以下、導電材を1質量%以上20質量%以下、結着剤を1質量%以上20質量%以下の割合で含有することができる。
【0043】
得られた正極合剤ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して溶剤を飛散させ、シート状の正極が作製される。必要に応じ、電極密度を高めるべくロールプレス等により加圧することもできる。このようにして得られたシート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等し、電池の作製に供することができる。
【0044】
導電材としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラック(登録商標)などのカーボンブラック系材料などを用いることができる。
【0045】
結着剤(バインダー)としては、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂およびポリアクリル酸等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0046】
必要に応じ、正極活物質、導電材等を分散させて、結着剤を溶解する溶剤を正極合剤に添加することもできる。溶剤としては、具体的には、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合剤には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することもできる。
【0047】
正極の作製方法は、上述した例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。例えば正極合剤をプレス成形した後、真空雰囲気下で乾燥することで製造することもできる。
(負極)
負極は、金属リチウム、リチウム合金等を用いることができる。また、負極は、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる負極活物質に結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合剤を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを用いてもよい。
【0048】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
(セパレータ)
正極と負極との間には、必要に応じてセパレータを挟み込んで配置することができる。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、公知のものを用いることができ、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微小な孔を多数有する膜を用いることができる。
(非水系電解質)
非水系電解質としては、例えば非水系電解液を用いることができる。
【0049】
非水系電解液としては、例えば支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものを用いることができる。また、非水系電解液として、イオン液体にリチウム塩が溶解したものを用いてもよい。なお、イオン液体とは、リチウムイオン以外のカチオンおよびアニオンから構成され、常温でも液体状の塩をいう。
【0050】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネートや、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらにテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチルなどのリン化合物等から選ばれる1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いることもできる。
【0051】
支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiN(CFSO、およびそれらの複合塩などを用いることができる。さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
【0052】
また、非水系電解質としては、固体電解質を用いてもよい。固体電解質は、高電圧に耐えうる性質を有する。固体電解質としては、無機固体電解質、有機固体電解質が挙げられる。
【0053】
無機固体電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質等が挙げられる。
【0054】
酸化物系固体電解質としては、特に限定されず、例えば酸素(O)を含有し、かつリチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものを好適に用いることができる。酸化物系固体電解質としては、例えば、リン酸リチウム(LiPO)、LiPO、LiBO、LiNbO、LiTaO、LiSiO、LiSiO-LiPO、LiSiO-LiVO、LiO-B-P、LiO-SiO、LiO-B-ZnO、Li1+XAlTi2-X(PO(0≦X≦1)、Li1+XAlGe2-X(PO(0≦X≦1)、LiTi(PO、Li3XLa2/3-XTiO(0≦X≦2/3)、LiLaTa12、LiLaZr12、LiBaLaTa12、Li3.6Si0.60.4等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0055】
硫化物系固体電解質としては、特に限定されず、例えば硫黄(S)を含有し、かつリチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものを好適に用いることができる。硫化物系固体電解質としては、例えば、LiS-P、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiS-B、LiPO-LiS-SiS、LiPO-LiS-SiS、LiPO-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0056】
なお、無機固体電解質としては、上記以外のものを用いてよく、例えば、LiN、LiI、LiN-LiI-LiOH等を用いてもよい。
【0057】
有機固体電解質としては、イオン伝導性を示す高分子化合物であれば、特に限定されず、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、これらの共重合体などを用いることができる。また、有機固体電解質は、支持塩(リチウム塩)を含んでいてもよい。
(二次電池の形状、構成)
【0058】
以上のように説明してきた本実施形態のリチウムイオン二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、本実施形態の二次電池が非水系電解質として非水系電解液を用いる場合であれば、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉した構造とすることができる。
【0059】
なお、既述の様に本実施形態の二次電池は非水系電解質として非水系電解液を用いた形態に限定されるものではなく、例えば固体の非水系電解質を用いた二次電池、すなわち全固体電池とすることもできる。全固体電池とする場合、正極活物質以外の構成は必要に応じて変更することができる。
【実施例
【0060】
以下に、本発明の実施例および比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
(正極活物質の評価方法)
【0061】
ICP発光分光分析装置(VARIAN社製、725ES)を用いた分析により正極活物質の組成の評価を行った。
(リチウムイオン二次電池の評価方法)
製造したリチウムイオン二次電池の性能は、以下のように評価した。
【0062】
各実施例、比較例で作製したコイン型電池を作製してから12時間程度放置し、開回路電圧OCV(open circuit voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cmとしてカットオフ電圧3.6Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧2.0Vまで放電したときの容量を放電容量とした。放電容量は、比較例1における放電容量を1.00として、指数で示している。
[実施例1]
以下の手順により正極活物質を作製した。
【0063】
NiSと、NiOと、LiMnOを、物質量の比でLi:Ni:Mn:S=1:0.5:0.5:0.1となるように、秤量混合し、原料混合物を調製した。
【0064】
得られた原料混合物を、ジルコニアボールとともにジルコニア製のミリング容器内に入れ、容器内をArガスで置換した。次いで、遊星ボールミルにより、ミリングを行い、正極活物質を調製した。
【0065】
得られた正極活物質について、組成分析を行ったところ、LiNi0.5Mn0.51.90.1が得られていることを確認できた。また、粉末X線回折の回折パターンから、岩塩型構造を有することが確認できた。
(コイン型電池)
得られた正極活物質を用いてリチウムイオン二次電池を作製し、充放電容量を測定した。
【0066】
図1に示すように、コイン型電池10は、ケース11と、このケース11内に収容された電極12とから構成されている。
【0067】
ケース11は、中空かつ一端が開口された正極缶111と、この正極缶111の開口部に配置される負極缶112とを有しており、負極缶112を正極缶111の開口部に配置すると、負極缶112と正極缶111との間に電極12を収容する空間が形成されるように構成されている。
【0068】
電極12は、正極121、セパレータ122および負極123からなり、この順で並ぶように積層されており、正極121が正極缶111の内面に接触し、負極123が負極缶112の内面に接触するようにケース11に収容されている。
【0069】
なお、ケース11は、ガスケット113を備えており、このガスケット113によって、正極缶111と負極缶112との間が非接触の状態、すなわち電気的に絶縁状態を維持するように相対的な移動を規制し、固定されている。また、ガスケット113は、正極缶111と負極缶112との隙間を密封して、ケース11内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
【0070】
このコイン型電池10を、以下のようにして作製した。まず、得られた正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂7.5mgを混合し、直径11mmで75mg程度の重量になるまでペレット化して、正極121を作製し、これを真空乾燥機中100℃で12時間乾燥した。
【0071】
この正極121、負極123、セパレータ122および電解液とを用いて、コイン型電池10を、露点が-60℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
【0072】
負極123には、直径13mmの円盤状に打ち抜かれたリチウム金属を用いた。
【0073】
セパレータ122には、膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。電解液には、1MのLiPFを支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)の混合比が体積基準で4:6混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。
【0074】
作製した正極活物質を用いて、既述の放電容量を測定した。結果を表1に示す。
[実施例2]
NiSと、NiOと、LiMnOを、物質量の比でLi:Ni:Mn:S=1.4:0.5:0.5:0.2となるように、秤量混合し、原料混合物を調製した点以外は、実施例1と同様にして正極活物質、コイン型電池を作製し、評価を行った。
【0075】
得られた正極活物質について、組成分析を行ったところ、Li1.4Ni0.5Mn0.50.2が得られていることを確認できた。また、粉末X線回折の回折パターンから、岩塩型構造を有することが確認できた。評価結果を表1に示す。
[比較例1]
LiOと、NiOを、物質量の比でLi:Ni=1:1となるように、秤量混合し、原料混合物を調製した点以外は、実施例1と同様にして正極活物質、コイン型電池を作製し、評価を行った。
【0076】
得られた正極活物質について、組成分析を行ったところ、LiNiOが得られていることを確認できた。評価結果を表1に示す。
【0077】
【表1】
表1に示すように、実施例1、2で得られた正極活物質によれば、比較例1のLiNiOよりもNiの含有割合を抑制しつつ、リチウムイオン二次電池に用いた場合に、電池容量を向上できることを確認できた。
図1