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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】脂肪族ポリエステル共重合体
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/06 20060101AFI20241008BHJP
   B29C 55/06 20060101ALI20241008BHJP
   B29C 61/00 20060101ALI20241008BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20241008BHJP
   D01F 6/84 20060101ALI20241008BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20241008BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20241008BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20241008BHJP
【FI】
C08G63/06 ZBP
B29C55/06
B29C61/00
C08J5/18 CFD
D01F6/84
A61L27/18
A61L27/58
C08L101/16
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021519451
(86)(22)【出願日】2020-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2020019066
(87)【国際公開番号】W WO2020230807
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2019090739
(32)【優先日】2019-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】前原 晃
(72)【発明者】
【氏名】岩田 忠久
(72)【発明者】
【氏名】加部 泰三
(72)【発明者】
【氏名】川村 祐貴
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-168159(JP,A)
【文献】特開2002-371431(JP,A)
【文献】特開平09-208817(JP,A)
【文献】特開平07-300720(JP,A)
【文献】特開平06-336523(JP,A)
【文献】特開平09-300845(JP,A)
【文献】特開昭61-120724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C
D01F
C08G
A61L
C08J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-ヒドロキシブチレート単位と、4-ヒドロキシブチレート単位を含み、4-ヒドロキシブチレート単位の全モノマー単位に対する割合が10モル%~30モル%であるポリエステルであって、α構造とアモルファス構造とを含み、α構造のX線配向度が50%以上95%以下であり、
延伸された状態においては広角X線回析測定及び小角X線散乱測定によりβ構造が検出され、除荷された状態においては広角X線回析測定及び小角X線散乱測定により、延伸された状態と比較してβ構造が減少するか、またはβ構造が検出されず、
下記方法で測定される引張伸長回復率が20%以上100%以下である伸縮性を有する、
延伸ポリエステル:
繊維の場合、長さ3cm、繊維径約0.1~0.3mmの繊維を、引張試験機を使用
して、温度23℃、初期長10mmの条件で、20mm/分にてひずみ100%(最初の長さの2倍の長さである20mm、つまり変位長さ10mm)まで伸張し、続いてもとの長さにまでつかみ具を同速度で移動させ、繊維を収縮させるという操作を繰り返す。2回目の伸長の最初の時点における変位長さをXmmとすると、引張伸長回復率R(%)は、R=[(20-(X+10))/10]×100で示される。
キャストフィルムの場合、長さ3cm、幅3mmに切り取られたフィルムを、引張試験機を使用して、温度23℃、初期長10mmの条件で、引張速度20mm/分にてひずみ1000%(最初の長さの11倍の長さである110mm、つまり変位長さ100mm)まで伸張し、続いてもとの長さにまでつかみ具を同速度で移動させ、フィルムを収縮させるという操作を繰り返す。2回目の伸長の最初の時点における変位長さをymmとすると、未延伸フィルムの変位長さ0mmを基準にしたみなし引張伸長回復率r(%)
は、r=[(110-(y+10))/100]×100で示される。引張伸長回復率R(%)は、R=r /r ×100
で示される。ただし、r は1回目延伸後のみなし引張伸長回復率であり、r は2回目延伸後のみなし引張伸長回復率である。
【請求項2】
結晶化後、延伸を施し、その除荷後、伸縮性を発揮する、請求項1に記載の延伸ポリエステル。
【請求項3】
延伸により結晶構造が配向処理されている、請求項1又は2に記載の延伸ポリエステル。
【請求項4】
2~20倍の延伸により結晶構造が配向処理されている、請求項2又は3に記載の延伸ポリエステル。
【請求項5】
ラメラ結晶構造とアモルファス構造とを含み、延伸中に特異的な伸びきり鎖構造を発現し、引張荷重を除荷すると、前記伸びきり鎖構造が有意に減少あるいは消失する、請求項1からの何れか一項に記載の
延伸ポリエステル。
【請求項6】
前記伸びきり鎖構造が平面ジグザグ構造である、請求項1からの何れか一項に記載の延伸ポリエステル。
【請求項7】
前記のラメラ結晶構造がらせん構造の折り畳みからなる請求項1からの何れか一項に記載の延伸ポリエステル。
【請求項8】
ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量が100,000~3,000,000である、請求項1からの何れか一項に記載の延伸ポリエステル。
【請求項9】
生分解性である、請求項1からの何れか一項に記載の延伸ポリエステル。
【請求項10】
生体吸収性である、請求項1からの何れか一項に記載の延伸ポリエステル。
【請求項11】
生物合成由来または化学合成由来である、請求項1から10の何れか一項に記載の延伸ポリエステル。
【請求項12】
請求項1から11の何れか一項に記載の延伸ポリエステルを含有する、フィルム。
【請求項13】
請求項1から11の何れか一項に記載の延伸ポリエステルを含有する、繊維。
【請求項14】
請求項1から11の何れか一項に記載の延伸ポリエステルを含有する、成形体。
【請求項15】
3-ヒドロキシブチレート単位と、4-ヒドロキシブチレート単位を含み、4-ヒドロキシブチレート単位の全モノマー単位に対する割合が10モル%~30モル%であるポリエステルを結晶化後延伸により配向処理する延伸工程;および
前記延伸工程により配向処理されたポリエステルの引張荷重を除荷する除荷工程:
を含む、請求項1から11の何れか一項に記載の延伸ポリエステルの製造方法。
【請求項16】
製造される延伸ポリエステルの形態が、フィルム、繊維又は成形体である、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状追従性及び柔軟性が高く繰り返し伸縮性を合わせ持つ延伸ポリエステルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大量の合成プラスチックが製造・廃棄され、焼却処分や埋め立て処理がなされているが、燃焼時の有毒ガスの発生、埋め立て処分能力の圧迫や地盤弛緩等の問題が注目されている。また合成プラスチックが環境中へ廃棄、漏出することにより、生態系への悪影響も懸念されている。プラスチックの種類の多様性から分別や再利用には手間やコストがかかり、リサイクルされるプラスチックはごく一部で行われているにすぎない。そこで生物の利用できる炭素源にまで環境中で分解する生分解性プラスチックが注目されてきている。
【0003】
一方、医療分野において、回収不要なインプラント材料や薬物徐放性担体、再生医療におけるスキャホールド等、生体分解性の材料としても生分解性プラスチックは注目されている。
【0004】
ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ハイドロキシアパタイト、コラーゲン及びヒアルロン酸など生分解性材料が医療現場に使用されている。これらの材料は生体適合性や生体吸収性といった特徴を持ち、抜糸できない患者や再切開を必要としない部位の縫合、一定期間の強度を保った後に吸収され生体組織に置換されることが望ましい埋込物、医薬品や生理活性物質など薬物徐放性の担体、再生医療におけるスキャホールドなど医療の向上に寄与してきた。一方で、これら既存の生体吸収性材料の多くは伸縮性にかけ、素材単体としては堅いものが多く、使用される場面は限られてきた。
【0005】
ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)は微生物が蓄積する熱可塑性のポリエステルであり、生分解性・生体適合性・生体吸収性のプラスチックとして注目され、多くの研究がなされてきた(非特許文献1)。PHAを構成するモノマーユニットは100種類以上知られており、もっとも代表的なものは(R)-3-ヒドロキシブチレート(以下、3HBと略す)からなるポリ-3-ヒドロキシブチレート(以下、P(3HB)と略す)である(非特許文献1)。
【0006】
P(3HB)はポリプロピレン(以下、PPと略す)と同程度の高い融点を持ち、破壊強度もPPと同程度であるが破壊伸びが5%以下であり、ガラス転移点が4℃と室温以下であり、結晶性が高く、固くて脆い材料である。工業的にPHAを利用しようとする場合、その物性を向上させる方法として、第二成分モノマーユニットを導入し共重合体化する方法や、分子量を増大させる方法が知られている。
【0007】
第二成分モノマーユニットを導入し共重合体化する方法としては、3-ヒドロキシバレレート(以下、3HV)や3-ヒドロキシヘキサノエート(以下、3HH)、4-ヒドロキシブチレート(以下、4HB)、ラクテート(以下、LA)、グリコレート(以下、GA)、3-ヒドロキシプロピオネート(以下、3HP)、あるいはさらに長鎖長のヒドロキシアルカノエート等を導入した共重合体等が例としてあげられる。
【0008】
また、分子量を増大させる方法としては、PHA合成系・分解系を持たない大腸菌 Escherichia coli XL1-BlueへP(3HB)合成細菌Cupriavidus necatorから取り出したP(3HB)生合成遺伝子(phaCAB)を導入し、その遺伝子組換え菌をpH6で培養し超高分子量P(3HB)を製造する方法(非特許文献2)や、PHA生産野生株のPHA分解酵素遺伝子を破壊した株を培養する方法(特許文献1)、PHA生産野生株の培養条件を調節し超高分子量体PHAを得る方法(特許文献2)などがある。
【0009】
PHAをはじめとする脂肪族ポリエステルは一般に結晶化速度が遅く、ガラス転移点は室温以下であり、成形した後に二次結晶化による経時劣化が進行し、破壊伸びは減少する傾向がある。なお、最初の結晶化において結晶化しなかった非晶部分はラメラ結晶間に存在しているが、二次結晶化とは、その非晶部の分子鎖が分子運動によって結晶部に取り込まれて結晶化度が向上することを言う。また、プラスチックの成形後にプラスチック内部のひずみを解消するために熱処理するアニーリングが行われる場合があるが、この熱処理中に進行する結晶化のことを二次結晶化とも言う。二次結晶化により非晶部の分子鎖には張力が働き、クラックが発生し、経時的に劣化することが知られている。また、結晶自体が大きくなると、結晶と結晶をつなぐタイ分子に大きな力がかかり、全体として弱くなることもある。
P(3HB)は、結晶化速度は遅いが結晶性が高く、ガラス転移点が4℃と室温以下であり、保管中に二次結晶化が進み、硬くてもろく物性の経時劣化が進むポリマーである。3-ヒドロキシバレレート(3HV)ユニットを共重合体化することで、P(3HB-co-3HV)はしなやかさに改善は見られたが、3HBユニットと3HVユニットは同じ結晶格子内に存在することができ、ガラス転移点は共重合体化でさらに下がる方向に向かい、成形後の二次結晶化による経時劣化は進行していくことが知られている。
【0010】
4-ヒドロキシブチレート(4HB)ユニットや3-ヒドロキシヘキサノエート(3HH)ユニットなど、3HBユニットとは共結晶化しない第二成分ユニットからなる共重合PHAはその第二ユニット成分の比率を変化させることで3HVユニットとの共重合体よりも伸展性やしなやかさの改善が見込めるが、ガラス転移点は室温以下であり、成形後に3HBのリッチな領域を中心として二次結晶化しやすいという性質はまだ残っており、伸びなどの機械物性が経時劣化する問題はまだ残っている。
【0011】
よって、PHA重合体に窒化ホウ素、酸化チタン、タルク、層状ケイ酸塩、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、金属リン酸塩などの無機物を配合して結晶化を促進しようとする提案(特許文献3)や、ソルビトールアセタール、アミド結合を有する化合物とペンタエリスリトールを配合する提案(特許文献4)などがあった。これらはPHAの遅い結晶化速度を促進し、成形加工時の加工性の改善を図るためにとられた手段であるが、強度の低下を引き起こしたり、成形体表面外観が悪化するなど効果が不十分であったり、添加物を加えなければならないことや二次結晶化による経時劣化などの問題はなお残っている。また、成形体の伸縮性についての記載はない。
【0012】
伸縮性を示す生分解性プラスチックとしてP(3HB-co-4HB)(非特許文献3及び4)、P(3HB-co-3HH)(特許文献5)、カプロラクトンと乳酸および/またはグリコール酸との共重合体に光反応性のアクリレート基および/またはメタクリレート基をつけ光硬化させた材料(特許文献6)などの報告がある。
【0013】
4HBユニットが3~60%有するP(3HB-co-4HB)共重合体が柔軟性に富み、この共重合体を用いてしなやかでかつ強靱な成形品が得られることはすでに知られている(特許文献7)。また4HBの比率も任意に調節でき(特許文献8、9及び10)、特許文献11にはP(3HB)から形成される成形体に、延伸加工を施すことも記載されている。しかし、延伸力を解くとほとんど完全に弛緩し、収縮することはなく、P(3HB-co-3HV)においても共結晶化する高い結晶性から延伸性は100%以下であり伸縮性はほとんどない。また二次結晶化による経時劣化の問題も残されたままであった。
【0014】
非特許文献3には4HB比率31%のP(3HB-co-4HB)共重合体ソルベントキャストフィルムを引き延ばし、その後ほぼ元の形状にもどる伸縮性を示したことを報告しているが、二次結晶化による経時劣化の問題はいまだになお残っていると考えられる。非特許文献4には4HBと3HBの共重合体(約20~35%の4HB含有量)がエラストマー性であり、力を加えて伸びて戻る材料であると記載されているが二次結晶化による経時劣化の問題は依然として残っていると考えられる。どちらの文献にも繰り返し伸縮を示すヒステリシスは示されていない。
【0015】
特許文献12には3HBと4HBの共重合体(60%~95%の4HB比率)や結晶性生分解性ポリエステルとの混合ポリエステル成形品であって、延伸により得られたものが生分解性と低歪みにおける初期弾性率の低さとを兼ね備えた成型品であり、柔軟性、強靭性、生分解性があると記載されている。延伸熱処理糸およびフィルムが延伸直後の60~70%に収縮することが記載されているが、繰り返し伸縮される弾性体であるか不明であり、また二次結晶化による経時劣化の問題は依然として残っていると考えられる。
【0016】
特許文献13には3HBと4HBの共重合体(30%~99%の4HB)が生体適合性、伸縮性、柔軟性が良好で、かつ細胞毒性等の安全上の問題を引き起こさない軟組織用医療材料になりうることが記載されているが、繰り返し伸縮される弾性体であるか不明であり、二次結晶化による経時劣化の問題は依然として残っていると考えられる。またポリエチレンテレフタレート等、他の繊維複合体編物・織物との複合物であり、ポリグリコール酸やポリ乳酸などの繊維複合体との複合物の記載もあるが、必ずしも完全分解性を目指したものではない。
【0017】
特許文献14にはP(3HB-co-3HH)共重合体を溶融紡糸する際に溶融押出されたフィラメントをガラス転移温度以下に急冷した後、ガラス転移温度以上の温度で部分的に結晶化を進行させることにより得られる予備延伸物がさらに延伸可能でありかつ球晶の成長を抑制しうる性質を有する伸縮性を示すフィラメントであることを記載している。この方法ではガラス転移温度以下へ急冷が必要なこと、しばらく室温で放置しても3次元球晶に成長せず、脆性を示しにくい傾向があると記載されているが、この段階では依然二次結晶化による経時劣化は進行していくものと推察される。また伸縮性の程度は明確になっていない。
【0018】
また、カプロラクトンと乳酸及び/又はグリコール酸との共重合体にアクリレートなどの基をつけて光硬化させると伸縮性のある素材が得られることが知られている(特許文献6)。しかし分子量2000から10000の乳酸-カプロラクトン共重合体を用いて、ひずみ約20~60%までしか弾性変形せず、またその時の応力は2~0.2 N/mm以下と低いものであり(非特許文献5)、十分に高分子量体とは言えず、さらに強い強度と弾性が求められる領域には使用できない。またカプロラクトンと乳酸及び/又はグリコール酸との共重合体はオクチル酸スズ(2-エチルヘキサン酸スズ)などの重合触媒を用いた化学合成で得られるものであり、医療用途においてはその触媒の使用量に注意が払われなければならない。
【0019】
環状デプシペプチドとε-カプロラクトンとを共重合して得られる共重合体にポリイソシアネート類で架橋を施すことにより弾性変形を示す生分解性材料も得られている(特許文献15)。共重合体の合成には2-エチルヘキサン酸スズ等の重合触媒が用いられており、また架橋体を作成後に溶融成型できるかどうか知られておらず、実用に耐えうるものであるか明らかでない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【文献】国際公開WO2014/065253
【文献】国際公開WO2019/044837
【文献】国際公開WO2008/099586
【文献】特許第6368245号
【文献】特許4562316号
【文献】特許3680132号
【文献】特開昭64-48821号
【文献】特開平3-216193号
【文献】特開平3-292889号
【文献】特開平5-64591号
【文献】特開昭59-059419号
【文献】特開平6-336523号
【文献】特開平7-275344号
【文献】特許4562316号
【文献】特開2008-120888号
【非特許文献】
【0021】
【文献】Alistair J. Anderson et al.,Microbiological Reviews,Vol.54,No.4,450-472,1990
【文献】S.Kusaka et al.,Applied Microbiology and Biotechnology,Vol.47,140-143,1997
【文献】Kai-Hee Huong et al.,International Journal of Biological Macromolecules,Vol.101 ,983-995,2017
【文献】David P.Martin et al.,Biochemical Engineering Journal, Vol.16,97-105,2003
【文献】牛田多加志,日本機械学会誌,Vol.106,897,2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、弾性応答により形状追従性と柔軟性を有する延伸ポリエステルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、P(3HB-co-4HB)共重合体成形物は無秩序な向きを示すα構造(α結晶)を保持し、α結晶の周期は均一ではないが、結晶化処理を一定時間施した後に延伸することにより成形体を変形させ、α構造のX線配向度を50%以上に保ったまま、伸びた方向にα結晶の配向度を増加させると同時にα結晶とα結晶との間にある非晶部の分子鎖が引き延ばされてβ構造(平面ジグザク構造)が発現し、除荷するとα晶の配向度を保ったまま、β構造を減少または消失させ、弾性応答を示す成形体になることを見出し、本発明を完成するに至った。ここでα構造は折り畳みのラメラ結晶であり、β構造は平面ジグザグ伸びきり鎖構造を表す。
【0024】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
<1> 2種類以上のモノマー単位を含む脂肪族共重合ポリエステルであって、α構造とアモルファス構造とを含み、α構造のX線配向度が50%以上である、延伸ポリエステル。
<2> 延伸された状態においては広角X線回析測定及び小角X線散乱測定によりβ構造が検出され、除荷された状態においては広角X線回析測定及び小角X線散乱測定により、延伸された状態と比較してβ構造が有意に減少するか、またはβ構造が検出されない、<1>に記載の延伸ポリエステル。
<3> 引張伸長回復率が20%以上100%以下である伸縮性を有する、<1>又は<2>に記載の延伸ポリエステル。
<4> 2種類以上のモノマー単位を含む脂肪族共重合ポリエステルであって、引張伸長回復率が20%以上100%以下である伸縮性を有する、延伸ポリエステル。
<5> 結晶化後、延伸を施し、その除荷後、伸縮性を発揮する、<1>から<4>の何れか一に記載の延伸ポリエステル。
<6> 延伸により結晶構造が配向処理されている、<1>から<5>の何れか一に記載の延伸ポリエステル。
<7> 2~20倍の延伸により結晶構造が配向処理されている、<5>又は<6>に記載の延伸ポリエステル。
<8> ラメラ結晶構造とアモルファス構造とを含み、延伸中に特異的な伸びきり鎖構造を発現し、引張荷重を除荷すると、前記伸びきり鎖構造が有意に減少あるいは消失する、<1>から<7>の何れか一に記載の延伸ポリエステル。
<9> 前記伸びきり鎖構造が平面ジグザグ構造である、<1>から<8>の何れか一に記載の延伸ポリエステル。
<10> 前記のラメラ結晶構造がらせん構造の折り畳みからなる<1>から<9>の何れか一に記載の延伸ポリエステル。
<11> 2種類以上のモノマー単位が、主鎖長の異なる2種類以上のモノマー単位の組み合わせである、<1>から<10>の何れか一に記載の延伸ポリエステル。
<12> ポリエステルが、モノマー単位として3-ヒドロキシブチレート単位を含む、<1>から<11>の何れか一に記載の延伸ポリエステル。
<13> ポリエステルが、モノマー単位としてさらに4-ヒドロキシブチレート単位を含む、<12>に記載の延伸ポリエステル。
<14> 全モノマー単位に対する4-ヒドロキシブチレート単位の割合が10モル%~30モル%である、<13>に記載の延伸ポリエステル。
<15> ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量が100,000~3,000,000である、<1>から<14>の何れか一に記載の延伸ポリエステル。
<16> 生分解性である、<1>から<15>の何れか一に記載の延伸ポリエステル。
<17> 生体吸収性である、<1>から<16>の何れか一に記載の延伸ポリエステル。
<18> 生物合成由来または化学合成由来である、<1>から<17>の何れか一に記載の延伸ポリエステル。
<19> <1>から<18>の何れか一に記載の延伸ポリエステルを含有する、フィルム。
<20> <1>から<18>の何れか一に記載の延伸ポリエステルを含有する、繊維。
<21> <1>から<18>の何れか一に記載の延伸ポリエステルを含有する、成形体。
<22> 2種類以上のモノマー単位を含む脂肪族共重合ポリエステルを結晶化後延伸により配向処理する延伸工程;および
前記延伸工程により配向処理されたポリエステルの引張荷重を除荷する除荷工程:
を含む、<1>から<18>の何れか一に記載の延伸ポリエステルの製造方法。
<23> 製造される延伸ポリエステルの形態が、フィルム、繊維又は成形体である、<22>に記載の方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明の脂肪族延伸ポリエステルは、延伸処理により変形し、除荷により弾性応答を発揮することができ、架橋剤を添加しなくてもその弾性応答により形状追従性と柔軟性を有する。これまで実用化されていない本発明の延伸ポリエステルを用いることで、伸縮性を有する環境分解性や生体吸収性の器具や装置を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、製造例1~12、14のフィルムについての引張試験の応力ひずみ曲線を示す。
図2図2は、製造例1サンプルのフィルム成形体のWAXD測定およびSAXS測定の結果を示す。上側はWAXD測定を下側はSAXS測定を示す。Originalは延伸前フィルム成形体、×5は5倍延伸中を、×10は10倍延伸中を、After releaseは除荷後を、Drawing againは再延伸中を示す。
図3図3は、PHAポリマーの結晶構造変化を示す。未延伸時、成形体中のα構造(α結晶)は無秩序な配向状態だが、延伸によって配向し、間の非晶質鎖が伸びきり鎖であるβ構造になる。除荷すると、α構造は配向を保ったまま、α構造の間にあるβ構造の部分は非晶質に戻る。これにより(121)面にピークが生じる。再度延伸すると非晶質の部分が再び伸びきり鎖であるβ構造に戻り、再度除荷するとまた非晶質へ戻る。
図4図4は、フィルムの伸縮性の評価の手順を示す。
図5図5は、実施例15(製造例2)のPHA繊維の応力-ひずみ曲線(ひずみ0%~100%)を示す。
図6図6は、実施例16(製造例5)のPHA繊維の応力-ひずみ曲線(ひずみ0%~100%)を示す。
図7図7は、実施例17(製造例13)のPHA繊維の応力-ひずみ曲線(ひずみ0%~100%)を示す。
図8図8は、実施例17(製造例13)のPHA繊維の応力-ひずみ曲線(ひずみ0%~100%)を示す。
図9図9は、実施例17(製造例13)のPHA繊維の応力-ひずみ曲線(ひずみ0%~10%)を示す。
図10図10は、実施例2(製造例2)のPHAフィルムの応力-ひずみ曲線(ひずみ0%~1000%)を示す。
図11図11は、実施例5(製造例5)のPHAフィルムの応力-ひずみ曲線(ひずみ0%~1000%)を示す。
図12図12は、実施例14(製造例14)のPHAフィルムの応力-ひずみ曲線(ひずみ0%~1000%)を示す。
図13図13は、製造例2のサンプルのフィルム成形体のWAXD測定およびSAXS測定の結果を示す。
図14図14は、製造例3のサンプルのフィルム成形体のWAXD測定およびSAXS測定の結果を示す。
図15図15は、製造例4のサンプルのフィルム成形体のWAXD測定およびSAXS測定の結果を示す。
図16図16は、製造例5のサンプルのフィルム成形体のWAXD測定およびSAXS測定の結果を示す。
図17図17は、製造例6のサンプルのフィルム成形体のWAXD測定およびSAXS測定の結果を示す。
図18図18は、製造例7のサンプルのフィルム成形体のWAXD測定およびSAXS測定の結果を示す。
図19図19は、製造例8のサンプルのフィルム成形体のWAXD測定およびSAXS測定の結果を示す。
図20図20は、製造例9のサンプルのフィルム成形体のWAXD測定およびSAXS測定の結果を示す。
図21図21は、製造例10のサンプルのフィルム成形体のWAXD測定およびSAXS測定の結果を示す。
図22図22は、製造例11のサンプルのフィルム成形体のWAXD測定およびSAXS測定の結果を示す。
図23図23は、製造例12のサンプルのフィルム成形体のWAXD測定およびSAXS測定の結果を示す。
図24図24は、配向度の算出方法を示す図である。
図25図25は、実施例19で作製したP(3HB-co-3HV)繊維のWAXD測定の結果を示す。
図26図26は、実施例19で作製したP(3HB-co-3HV)繊維の応力-ひずみ曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されない。
【0028】
[ポリエステル]
本発明のポリエステルは、2種類以上のモノマー単位を含む脂肪族共重合ポリエステルであって、α構造とアモルファス構造とを含み、α構造のX線配向度が50%以上である、延伸ポリエステルである。
2種類以上のモノマー単位を含む脂肪族共重合ポリエステルを使用すること、並びにα構造とアモルファス構造とを含むことにより、本発明の延伸ポリエステルは形状追従性及び柔軟性を有することが可能になる。
また、本発明の延伸ポリエステルは、結晶核剤などの添加なしでも二次結晶化による経時劣化を抑制することができる。
本発明のポリエステルは、2種類以上のモノマー単位を含むものであるが、好ましくは2種類以上のモノマー単位は、主鎖長の異なる2種類以上のモノマー単位の組み合わせである。重合単位としては、3-ヒドロキシブチレート単位を含むことが好ましい。重合単位としては、3-ヒドロキシブチレート単位に加えて、4-ヒドロキシブチレート単位を含むことが好ましい。
【0029】
ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量は、好ましくは10万以上であり、より好ましくは20万以上であり、さらに30万以上、40万以上又は50万以上でもよい。ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量は、60万以上、70万以上、80万以上、90万以上、100万以上、110万以上、120万以上、130万以上、140万以上、150万以上、200万以上、300万以上、または400万以上でもよい。ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量の上限は特に限定されないが、一般的には、2000万以下であり、1000万以下、800万以下、700万以下、600万以下、500万以下、400万以下、又は300万以下でもよい。ただし溶融成型を行う場合には熱分解による分子量低下と溶融時の粘度が高くなりすぎないことを勘案し、ポリスチレン換算ゲル浸透クロマトグラフィー測定による重量平均分子量は40万以上、250万以下が望ましく、より好ましくは50万以上、220万以下であり、さらに好ましくは60万以上、200万以下である。
【0030】
本発明の脂肪族延伸ポリエステルは、重合単位として、好ましくは3-ヒドロキシブチレート単位を含み、より好ましくは3-ヒドロキシブチレート単位と4-ヒドロキシブチレート単位とを含む。本発明のポリエステルが3-ヒドロキシブチレート単位を含む場合、並びに本発明のポリエステルが3-ヒドロキシブチレート単位と4-ヒドロキシブチレート単位とを含む場合、重合単位として3-ヒドロキシブチレート単位及び4-ヒドロキシブチレート単位以外の別の重合単位を含んでいてもよい。上記した別の重合単位としては、ラクテート(LA)、グリコレート(GA)、3-ヒドロキシプロピオネート(3HP)、3-ヒドロキシバレレート(3HV)、5-ヒドロキシバレレート(5HV)、5-ヒドロキシヘキサノエート(5HH)、6-ヒドロキシヘキサノエート(6HH)、又は3-ヒドロキシヘキサノエート(3HH)、あるいは炭素数7以上のヒドロキシアルカノエート等を挙げることができる。また2元共重合体としてではなく上記の重合単位を含む3元共重合体や多元共重合体を用いることもできる。また上記共重合体組成物を任意の比率にて混合し用いることもできる。
【0031】
本発明において、3-ヒドロキシブチレート単位と4-ヒドロキシブチレート単位はそれぞれ次式で表される。
3-ヒドロキシブチレート単位:-OCH(CH)CHC(=O)-
4-ヒドロキシブチレート単位:-OCHCHCHC(=O)-
【0032】
本発明の延伸ポリエステルが、4-ヒドロキシブチレート単位を含む場合においては、全モノマー単位に対する4-ヒドロキシブチレート単位の割合は、好ましくは10モル%~30モル%である。全モノマー単位に対する4-ヒドロキシブチレート単位の割合は、11モル%以上、12モル%以上、13モル%以上、14モル%以上、15モル%以上、または16モル%以上でもよく、17モル%以上、18モル%上、19モル%以上、20モル%以上でもよい。全モノマー単位に対する4-ヒドロキシブチレート単位の割合は、30モル%以下、29モル%以下、28モル%以下、27モル%以下、26モル%以下、25モル%以下、24モル%以下、23モル%以下、22モル%以下、または21モル%以下でもよい。
【0033】
全モノマー単位に対する4-ヒドロキシブチレート単位の割合は、後記する実施例に記載した方法に準じて測定することができる。
本発明のポリエステルは、ランダムポリマー、ブロックポリマー、交互ポリマー、またはグラフトポリマーの何れでもよいが、好ましくはランダムポリマーである。
【0034】
P(3HB-co-4HB)は伸展性がありしなやかであることが知られるが、上記の共重合体に、一定時間結晶化を施し、その後延伸することで変形した後、伸展性があると同時に弾性変形して伸縮性が付与されることを本発明において見出した。さらに本発明の好ましい態様によれば、二次結晶化による経時劣化が抑制されることが見出された。
【0035】
好ましくは、本発明の延伸ポリエステルは、α構造とアモルファス構造とを含み、α構造のX線配向度が50%以上である。X線配向度の算出は、後記する実施例における[配向度の算出]に記載した方法に準じて行うことができる。
α構造のX線配向度は50%以上であればよいが、55%以上でもよく、60%以上でもよく、65%以上でもよく、70%以上でもよく、75%以上でもよく、80%以上でもよく、85%以上でもよい。α構造のX線配向度の上限は特に限定されないが、一般的には95%以下であり、90%以下でもよい。
【0036】
好ましくは、本発明の延伸ポリエステルは、伸縮性を有する。伸縮性とは、弾性体であるポリエステルに外力を加えて延伸した後に、外力を除去したときに元の状態に戻る性質である。本発明のポリエステルは、引張伸長回復率が20%以上100%以下である伸縮性を有する。引張伸長回復率の下限は25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上または50%以上でもよい。引張伸長回復率の上限は特に限定されないが、95%以下、90%以下、85%以下または80%以下でもよい。
【0037】
繊維の場合、引張伸長回復率とは、後記する実施例の[伸縮性評価:繊維]において記載する方法で評価した場合の引張伸長回復率を意味する。すなわち、長さ3cm、繊維径約0.1~0.3mmの繊維を、引張試験機を使用して、温度23℃、初期長10mmの条件でサイクル試験を行う。引張速度20mm/分にてひずみ100%(最初の長さの2倍の長さである20mm、つまり変位長さ10mm)まで伸張し、続いてもとの長さにまでつかみ具を同速度で移動させ、繊維を収縮させるという操作を繰り返す。2回目の伸長の最初の時点(すなわち、1回目の収縮の終了時点にほぼ等しい)における変位長さをXmmとすると、引張伸長回復率R(%)は、
R=[(20-(X+10))/10]×100
で示される。
【0038】
キャストフィルムの場合、引張伸長回復率とは、後記する実施例の[伸縮性評価:フィルム]において記載する方法で評価した場合の引張伸長回復率を意味する。すなわち、長さ3cm、幅3mmに切り取られたフィルムを、引張試験機を使用して、温度23℃、初期長10mmの条件でサイクル試験を行う。引張速度20mm/分にてひずみ1000%(最初の長さの11倍の長さである110mm、つまり変位長さ100mm)まで伸張し、続いてもとの長さにまでつかみ具を同速度で移動させ、フィルムを収縮させるという操作を繰り返す。キャストフィルムは未延伸フィルムであり、引張試験での1回目の延伸操作(変位長さ100mmまで延伸すること)が終わった後から、本願の発明物に相当する。2回目の伸長の最初の時点(すなわち、1回目の収縮の終了時点にほぼ等しい)における変位長さをymmとすると、未延伸フィルムの変位長さ0mmを基準にしたみなし引張伸長回復率r(%)は、
r=[(110-(y+10))/100]×100
で示される。
しかし、本発明は延伸ポリエステルであり、初回延伸後フィルムの変位長さを0mmとして基準にし直すと、
引張伸長回復率R(%)は、
R=r/r×100
で示される。ただし、rは1回目延伸後のみなし引張伸長回復率であり、rは2回目延伸後のみなし引張伸長回復率である。
【0039】
後記する実施例に記載の通り、本発明の延伸ポリエステルは、結晶化後に延伸を施し、その除荷後に、伸縮性を発揮することができる。本発明のポリエステルにおいては、上記した延伸により結晶構造が配向処理されている。延伸処理としては、破断しない範囲において2~20倍の延伸を行うことが好ましく、より好ましくは、2~15倍の延伸を行うことが好ましく、より好ましくは、2~10倍の延伸(例えば、2倍、5倍、又は10倍の延伸)を行うことができる。必要な伸縮幅に合わせて、延伸倍率や延伸回数を適宜調節すればよい。
【0040】
本発明の延伸ポリエステルは、好ましくは、ラメラ結晶構造(らせん構造の折り畳みからなる構造:α構造とも言う)とアモルファス構造とを含み、延伸中に特異的な伸びきり鎖構造(平面ジグザグ構造:β構造とも言う)を発現し、除荷すると、前記伸びきり鎖構造が有意に減少あるいは消失する。
【0041】
伸びきり鎖構造(β構造)の測定は、後記の実施例に記載する広角X線回析測定及び小角X線散乱測定により行うことができる。本発明の延伸ポリエステルにおいては、好ましくは、延伸された状態においては広角X線回析測定及び小角X線散乱測定によりβ構造が検出されるが、除荷された状態においては、広角X線回析測定及び小角X線散乱測定により、延伸された状態と比較してβ構造が有意に減少するか、またはβ構造が検出されない。
【0042】
本発明の延伸除荷後ポリエステルにおいては、広角X線回析測定により前記伸びきり鎖構造が検出されないことが好ましいが、除荷後に伸びきり鎖構造に由来するシグナルが減少していればよい。
【0043】
本発明の延伸ポリエステルの結晶化度は、特に限定されないが、好ましくは10%以上であり、20%以上、30%以上、又は40%以上でもよい。結晶化度の上限は特に限定されないが、一般的には、80%以下である。
【0044】
本発明の延伸ポリエステルは、好ましくは生分解性であり、より好ましくは生体吸収性である。生分解性とは、自然環境(例えば、土壌、堆肥、湖沼、海水など)において微生物や酵素によって分解され得るか、または生体内で非毒性成分に分解され得ることを意味する。生体吸収性とは、ヒトまたは動物などの生体により代謝され得ることを意味する。
【0045】
本発明は架橋剤や結晶核剤等の添加無しで、弾性応答により形状追従性と柔軟性を有し、二次結晶化による経時劣化を抑制することができる延伸ポリエステルであるが、その物性を壊さない限りにおいてそれらを添加することもできる。
【0046】
[ポリエステルの製造方法]
一般に、PHA類を合成する方法としては、発酵合成法(生物合成法)と化学合成法とがある。本発明の脂肪族ポリエステルを製造する方法は発酵合成法(生物合成法)でも化学合成法でもよいが、分子量の大きなポリエステルを得るためには発酵合成法(生物合成法)の方が好ましい。
【0047】
化学合成法は、通常の有機合成の手法に従って、PHA類を化学合成する方法である。化学合成法として、具体的には、例えば、(R)-β-ブチロラクトン、ε-カプロラクトン等の脂肪酸ラクトンを触媒下で開環重合すること等によりP(3HB-co-6HHx)を合成することができ(Abe et al., Macromolecules, 28, 7630 (1995))、(R)-β-ブチロラクトン、γ-ブチロラクトン等の脂肪酸ラクトンを触媒下で開環重合することによりP(3HB-co-4HB)等を合成することができ(Hori et al., Polymer,36, 4703(1995))、グリコリドとラクチド等を触媒下で開環重合することによりP(GA-co-LA)等を合成することができる(Gilding et al., Polymer 20, 1459 (1979))。
【0048】
発酵合成法(生物合成法)は、通常の培養工学の手法に従って、PHA類を生物合成する方法である。発酵合成法として、具体的には、例えば、本発明の4HBを含有するポリエステルは、P(3HB)生産能を有する微生物を、炭素源としてε-カプロラクトン(別名6-ヘキサノラクトン)、またはそのけん化物である6-ヒドロキシヘキサノエートまたはその塩、γ-ブチロラクトン、またはそのけん化物である4-ヒドロキシブチレートまたはその塩、4-クロロブチレート、4-ブロモブチレートなどの酪酸誘導体等、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオールなどの炭素数4以上の偶数鎖α、ω-アルカンジオールなどの存在下に培養を行うことにより、製造することができる(Saito et al., Polymer International 39, 169 (1996)、及び国際公開WO2019/044837)。
【0049】
P(3HB)生産能を有する微生物としては、Cupriavidus属、Alcaligenes属、Ralstonia属、Delftia属、Comamonas属、Hydrogenophaga属、 Burkholderia属、Escherichia属、Azotobacter属、Methylobacterium属、またはParacoccos属、Acinetobacter属、Aeromonas属、Allochromatium属、Azorhizobium属、Bacillus属、Caulobacter属、Chromobacterium属、Ectothiorhodospira属、Klebsiella属、Nocardia属、Pseudomonas属、Rhodobacter属、Rhodococcus属、Rhodospirillum属、Rickettsia属、Sinorhizobium属、Sphingomonas属、Synechocystis属、Thiococcus属、Thiocystis属、Vibrio属、Wautersia属などP(3HB)を合成することが知られている微生物を使用することができる。上記の中でも、Cupriavidus属は好ましく、Cupriavidus necatorがより好ましい。一例としては、Cupriavidus necator H16株(ATCC17699)を使用することができる。
【0050】
なお、Cupriavidus necator H16株野生株では3HB、3HV、3HP,4HB、5HVなどは十分PHAに取り込み可能であるが、基質特異性の異なるPHA重合酵素遺伝子を導入した遺伝子組換え菌を用いれば他のヒドロキシ酸もPHAに重合可能である。従って、Cupriavidus necator H16株だけではなく、その遺伝子組換株や、上記した通り、他のCupriavidus属、Alcaligenes属、Ralstonia属、Delftia属、Comamonas属、Hydrogenophaga属、 Burkholderia属、Escherichia属、Azotobacter属、Methylobacterium属、Paracoccos属、Acinetobacter属、Aeromonas属、Allochromatium属、Azorhizobium属、Bacillus属、Caulobacter属、Chromobacterium属、Ectothiorhodospira属、Klebsiella属、Nocardia属、Pseudomonas属、Rhodobacter属、Rhodococcus属、Rhodospirillum属、Rickettsia属、Sinorhizobium属、Sphingomonas属、Synechocystis属、Thiococcus属、Thiocystis属、Vibrio属、Wautersia属などPHAを重合する能力を有する、あるいは付与した微生物を使用することも可能である。
【0051】
培養液のpHは、一般的には約4~約10であり、好ましくは約5~約8であり、より好ましくは約5.8~約7.5である。培養温度は、一般的には15℃~45℃であり、好ましくは20℃~40℃であり、より好ましくは25℃~38℃である。培養方式は、回分培養、流加培養または連続培養のいずれでもよい。
【0052】
培地成分は、使用する微生物が資化し得る物質であれば特に制限はない。
炭素源としては、例えば、アラビノース、グルコース、マンノース、フラクトースおよびガラクトースなどの糖類、ソルビトール、マンニトールおよびイノシトールなどの糖アルコール類、メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール類、酢酸、酪酸、脂肪酸や植物油などの有機炭素源、二酸化炭素などの無機炭素源、酵母エキス、糖蜜、ペプトンおよび肉エキスなどの天然物等を使用することができる。
【0053】
窒素源としては、例えば、アンモニア、アンモニウム塩(塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム)、硝酸塩などの無機窒素化合物および/または、たとえば、尿素、コーン・スティープ・リカー、カゼイン、ペプトン、酵母エキス、肉エキスなどの有機窒素含有物を使用することができる。
【0054】
無機成分としては、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、モリブデン塩、コバルト塩、ニッケル塩、クロム塩、ホウ素化合物およびヨウ素化合物等からそれぞれ選択され、より具体的には、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。
そのほかの有機栄養源としては、例えばグリシン、アラニン、セリン、スレオニン、プロリン等のアミノ酸類、ビタミンB1、ビタミンB12、葉酸、ビタミンC、等のビタミン等が挙げられる。
【0055】
4HB含有PHAを製造する方法としては、PHA生産野生株に4HB-CoAになりうる前駆体を入れて培養する方法と、遺伝子組換えによって4HB-CoAの供給経路を導入する方法とがある。本発明において、PHA生産野生株に4HB-CoAになりうる前駆体を入れて培養する方法を採用してもよいし、遺伝子組換えによる4HB-CoA供給経路を導入してもよい。4HB-CoAになりうる前駆体としてはε-カプロラクトン(別名6-ヘキサノラクトン)、またはそのけん化物である6-ヒドロキシヘキサノエートまたはその塩、γ-ブチロラクトン、またはそのけん化物である4-ヒドロキシブチレートまたはその塩、4-クロロブチレート、4-ブロモブチレートなどの酪酸誘導体等、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオールなどの炭素数4以上の偶数鎖α、ω-アルカンジオールなどが知られており、その存在下にP(3HB)合成能を有する微生物を培養することにより、4HB含有PHAを製造することができる(国際公開WO2019/044837、及びPolymer International 39, 169-174(1996))。4HB-CoAになりうる前駆体の使用量は特に制限されないが、増殖阻害を引き起こさない程度に回分式、連続式、間歇式に供給することができる。一般にこれら前駆体の使用量、使用濃度、供給速度等を変化させることでPHA中の4HBの比率を変化させることができる。またLiらによって示される、遺伝子組換えによって4HBとは構造的に異なる炭素源から4HB-CoA供給経路とPHA合成経路を大腸菌に組みこむことにより、4HB含有PHAを製造する方法を使用することもできる(Metabolic Engineering, Volume 12, 352-359(2010))。
【0056】
3HBや4HB以外のモノマーユニットを含むPHA類を製造する発酵合成方法としてはプロピオン酸、吉草酸、1,3-プロパンジオールや1,5-ペンタンジオールあるいはプロパノールやペンタノール等を使用して3HVや3HPあるいは5HVモノマーユニットを取り込ませる方法や3HB-CoAと3HH-CoAを認識できる広い基質特異性のPHA重合酵素を保持する微生物を使用して、β酸化経路によって3HH-CoAが供給されうる炭素源を用いることで3HHモノマーユニットを取り込ませる方法を使用することもできる。さらにはPHA重合酵素の基質特異性を遺伝子置換によって変化させ、乳酸やグリコール酸、3HHモノマーユニットなどを取り込ませることができる遺伝子組換菌を使用することもできる。4HB含有PHAを製造する方法とこれら他のモノマーユニットを導入する方法を併用することにより、P(3HB-co-3HV)、P(3HB-co-3HP)、P(3HB-co-4HB)、P(3HB-co-3HH)、P(3HB-co-5HV)、P(3HB-co-6HH)、P(3HB-co-LA)、P(3HB-co-GA)等の二元共重合体だけでなく、3HB、3HV、3HP、3HH、4HB、5HV、6HH、LA、GA、あるいはさらに長鎖長のヒドロキシアルカノエート等の組み合わせの3元共重合体やさらに多元共重合体を発酵合成することもできる。
【0057】
PHAの生成のための培養に先立って菌体を増殖させ、後段で培地交換あるいは増殖に伴ってリン源や窒素源等の栄養制限状態のPHA蓄積条件に移行させる、いわゆる増殖非連動的なPHA生産を行うこともできるし、菌体の増殖とPHAの蓄積を同時に行う増殖連動的な生産を行うこともできる。
【0058】
上記に従って培養することにより得られた培養液から、ろ過及び遠心分離などの通常の固液分離手段によって菌体を分離回収し、この菌体を洗浄、乾燥して乾燥菌体を得ることができる。この乾燥菌体から、常法により、たとえば、クロロホルムのような有機溶剤で、生成されたポリエステルを抽出し、この抽出液に、例えば、ヘキサンのような貧溶媒を加えることによってPHAを沈澱させ、回収することができる。
【0059】
あるいは回収された菌体を高圧ホモジナイザーや超音波処理のごとき物理的破砕処理や水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、次亜塩素酸ナトリウムのごときアルカリ処理、界面活性剤処理、プロテアーゼ、リゾチーム、リパーゼなどの酵素処理、過酸化水素など酸化剤による酸化処理、メタノール、エタノール、アセトンなどの溶剤による洗浄、乾燥など公知の方法によってPHA以外の成分を除去しPHAを回収することもできる。
【0060】
[弾性成形体の作成]
上記のPHAを原料として使用し、溶融紡糸、溶融押出、射出成型のような溶融加工工程を行うことができる。この成型体に対して熱処理結晶化を施し、その後に、延伸することによりゴム弾性を有する繊維、フィルム、成型体を得ることができる。
【0061】
溶融条件としては、溶融温度が100℃から220℃の間であり、溶融時間が20分以下であり、金型温度や巻き取り温度が5℃から50℃の範囲にあることが製造加工上望ましい。このように溶融加工した繊維、フィルム、成型体に結晶化処理を施す。この結晶化処理の条件として、結晶化温度が20℃から120℃、結晶化時間が1分から120分の範囲に入って入れば次の延伸プロセスに進むことが可能である。
溶媒キャスト法でフィルム等成形体が作成される場合には溶媒の蒸発時に結晶化も同時に起きるため、次の延伸プロセスに進むことができる。
【0062】
結晶化した繊維、フィルム等、成型体を延伸倍率2倍以上(例えば、5倍以上)に延伸することでゴム弾性の発現が生じる。
例えば、溶融温度180℃において、5分間の溶融を行ったのち、23℃で巻き取った繊維を、23℃で30分間結晶化させ、約5倍に延伸するとゴム弾性を有する繊維を製造することができる。
溶融紡糸、結晶化、延伸を経て作成された後の繊維の長さを100%とすると(延伸前ではなく、全ての工程が終了した時点の長さを100%とする)、およそ200%(ひずみ100%)まで破断せず引き延ばすことが可能であり、その後、除荷することによって、130~150%(ひずみ30~50%)近くまでひずみが回復する性質を示し、伸張伸長回復率(%)が約70%~約50%であった。延伸倍率や延伸回数を適宜調節し、必要とされる伸縮幅に合わせればよい。
【0063】
あるいはホットプレス180℃にて2~5分間溶融成型したフィルムを23℃で60分結晶化させ、2~10倍に延伸するとゴム弾性を有するフィルムを作成することができる。
溶融成型、結晶化、延伸を経て作成された後のフィルムの長さを100%とすると(延伸して収縮した後の長さを100%とする)、およそ200%(ひずみ100%)まで破断せず引き延ばすことが可能であり、その後、除荷すると140%(ひずみ40%)近くまでひずみが回復する性質を有する。
このようにして製造された繊維やフィルムは、その後、半年以上の長期間にわたる保存後も良好な弾性応答を保持しており、二次結晶化による経時劣化が抑制された成形体である。
【0064】
以下の製造例、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により特に限定されるものではない。
【実施例
【0065】
[ポリマーの製造(ジャー培養)]
<製造例1>
Cupriavidus necator H16株(ATCC17699)を使用してPHAを製造した。
KH2PO4 2.72g/L、Na2HPO4 4.26g/L、NaHCO3 0.3g/L、(NH42SO4 2g/L、MgSO4・7H2O 0.2g/L、酵母エキス0.2g/L、下記ミネラル溶液3.5mLからなる滅菌された培地1に、フルクトースを14.24g/Lにて加えた培地にて試験管振とう培養を30℃24時間行い、前前培養液を得た。
ミネラル溶液:FeC657・xH2O 6g/L、ZnSO4・7H2O 2g/L、CuSO4・5H2O 0.1g/L、MnCl2・4H2O 1g/L、KI 0.1g/L、(NH46Mo724・4H2O 0.1g/L、CoCl2・6H2O 0.1g/L、H3BO3 0.2g/L、NaCl 5g/L、CaCl2・2H2O 4g/Lを水に溶解させたもの。
【0066】
上記培地1にフルクトースを14.24g/Lにて加えた培地、あるいはフルクトース8.86g/Lとε-カプロラクトン5.38g/Lにて加えた培地、あるいはフルクトース8.86g/Lとγ-ブチロラクトン5.38g/Lを加えた培地100mLが入った500mL容積の三角フラスコに上記した前前培養液1mLを植菌し、30℃、150rpmにて48時間から96時間培養し、培養主母(前培養液)とした。
【0067】
上記培地1の(NH42SO4を7.5g/Lに変更した培地を3L容ジャーファーメンターに2L用意、滅菌し、培養主母100mLを植菌し、42質量%フルクトースとγ-ブチロラクトンを滅菌フィルター(PTFE0.2μmポア)を介して無菌的に流加することを開始した。炭素源の流加速度や流加比率は任意に設定することができるが、炭素源を菌体が消費しきれず培養槽内に過剰に残存し菌体増殖が停止するのを避けるために、42質量%フルクトースの流加速度は1~2g/h程度(0.5~1g/h・L)、γ-ブチロラクトンの流加速度は0.2~0.5g/h(0.1~0.25g/h・L)程度と低流速で培養開始し、菌体の増殖に合わせて段階的あるいは連続的に流加速度を増加させた。通気量は0.2~0.3L/分、攪拌速度は500~700rpm、培養温度は36℃、培養pH下限は6.0にて制御し、2N NaOH溶液をpH調整用アルカリに使用した。γ-ブチロラクトン:フルクトースの比率は約0.5とした。培養開始後140時間で培養終了した。
【0068】
培養後、菌体を遠心分離により回収し、-20℃にて凍結後、凍結乾燥に供した。
菌体からPHAを抽出精製する方法は以下のように行った。スクリューキャップ付きガラス製三角フラスコにて、凍結乾燥菌体4~10g程度を400mLのクロロホルムに懸濁し、30℃にて24~48時間抽出した。得られた粘調の溶液をろ紙にてろ過し、菌体残渣をとり除いた。得られた清澄液をエバポレーターにて100~200mL程度に濃縮し、5倍量の貧溶媒であるヘキサンにてPHAを析出させた。得られた白色沈殿物をエタノールにて洗浄後、真空乾燥させ、精製PHAを得た。
【0069】
<製造例2>
ジャー培養での培養時間を170時間とした以外は製造例1と同様に行った。
【0070】
<製造例3>
ジャー培養での培養時間を96時間とした以外は製造例1と同様に行った。
【0071】
<製造例4>
ジャー培養での培養時間を120時間とした以外は製造例1と同様に行った。
【0072】
<製造例5>
ジャー培養での培養時間を144時間とした以外は製造例1と同様に行った。
【0073】
<製造例6>
ジャー培養での培地で(NH42SO4を12.5g/Lに変更した培地を使用し、流加炭素源として42質量%フルクトース溶液とε-カプロラクトンを使用し、ε-カプロラクトン:フルクトースの比率は約0.4とし、12.5%アンモニア水をpH調整用アルカリに使用し、培養時間を149時間とした以外は製造例1と同様に行った。
【0074】
<製造例7>
ジャー培養での培養時間を172時間とし、ε-カプロラクトン:フルクトースの比率は約0.5とした以外は製造例6と同様に行った。
【0075】
<製造例8>
ジャー培養での培養時間を172時間とし、ε-カプロラクトン:フルクトースの比率は約0.6とした以外は製造例6と同様に行った。
【0076】
<製造例9>
ジャー培養での培養時間を205時間とし、ε-カプロラクトン:フルクトースの比率は約0.6とした以外は製造例6と同様に行った。
【0077】
<製造例9>
ジャー培養での培養時間を205時間とし、ε-カプロラクトン:フルクトースの比率は約0.6とした以外は製造例6と同様に行った。
【0078】
<製造例10>
ジャー培養での培養時間を114時間とし、ε-カプロラクトン:フルクトースの比率は約0.4とし、培養後に高圧破砕処理、アルカリ処理、酸化剤処理、溶剤洗浄等を組み合わせて精製した以外は製造例1と同様に行った。
【0079】
<製造例11>
ジャー培養での培養時間を111時間とし、ε-カプロラクトン:フルクトースの比率は約0.5とした以外は製造例10と同様に行った。
【0080】
<製造例12>
ジャー培養での培養時間を113時間とし、ε-カプロラクトン:フルクトースの比率は約0.5とした以外は製造例10と同様に行った。
【0081】
<製造例13>
ジャー培養での培養時間を113時間とし、ε-カプロラクトン:フルクトースの比率は約0.4とした以外は製造例10と同様に行った。
【0082】
<製造例14>
ジャー培養での培養時間を113時間とし、ε-カプロラクトン:フルクトースの比率は約0.5とした以外は製造例6と同様に行った。
【0083】
[PHA分子量測定]
PHA分子量(重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mn)の測定は以下のようにゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により行った。各製造例のPHAについて分子量(Mw及びMn)の測定結果を下記表1に示す。
精製したPHAを約0.5mg/mlとなるようにクロロホルムを加え、60℃で4時間溶解させた後、室温に戻し、孔径0.2μmのPTFEフィルターでろ過して不溶物を除き、測定サンプルとした。GPC条件は以下の通りである。
装置:島津製作所製 HPLC Prominenceシステム
カラム:昭和電工製 Shodex K-806L(2本直列)
カラム温度: 40℃
移動相: クロロホルム(1ml/分)
検出器: RI(40℃)
スタンダード:Shodexポリスチレン分子量スタンダード(687万~1270)
注入量:60μl
分析時間:30分
【0084】
[ポリマーの分析]
H-NMR>
各製造例の精製PHAの組成分析は核磁気共鳴分光装置(日本分光ECA500)を使用し決定した。精製したPHAを1.5質量%濃度でCDCl3に溶解し、測定サンプルとした。1H-NMRスペクトルは500MHz、にて室温で計測した。
【0085】
各製造例のPHAについてNMRにより測定した4HB比率を下記表1に示す。
【0086】
[熱的性質の測定]
ガラス転移温度(Tg)と融点(Tm)は、イントラクーラーを取り付けた示差走査熱量計(PerkinElmer,DSC8500)を用いて測定した。測定雰囲気は窒素(20ml/分)とし、-50℃から200℃まで20℃/分で昇温し、1分間保持することで完全にサンプルを溶融させた。続いて、200℃/分で-50℃まで急冷し、3分間保持した跡、再度200℃まで20℃/分で昇温(この昇温をセカンドランとする)した。上記のセカンドランにおいて測定されるDSC曲線(サーモグラム)によってTgおよびTmを測定した。なお、急冷冷却状態のガラス状態から昇温していくと、ガラス状態からアモルファス状態へ移行するときにベースラインの変動が起きるので、その変動が起きる温度を読み取ることによりTgとした。さらに昇温を続けていくと、DSC曲線に溶融ピーク(吸熱ピーク)が下に凸のピークとして表れるのでその頂点ピーク位置の温度をTmとした。サンプルは1mg前後とし、アルミ製のサンプルパンを使用した。温度校正にはインジウムを使用した。測定結果を下記表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
<実施例1~14>
[フィルム結晶化]
製造例1~14で得られたP(3HB-co-4HB)ポリマー(各0.25g)をクロロホルム10mlに溶解し、得られたポリマー溶液を直径5cmのテフロンシャーレに注ぎ、穴をあけたフィルム(アルミホイル)で覆い、1日間程度かけて溶媒を蒸発させることにより溶媒キャストフィルムを作製した。得られたフィルムは23℃にて1週間静置することにより結晶化を進行させ、PHAキャストフィルムを得た。なお、ホットプレスなど溶融成型によってフィルムを作成する場合には180℃にて2~5分間加熱し溶融させた後、23℃にて1分~120分程度の結晶化時間をとり、次の延伸工程に移行できる。
【0089】
[延伸処理]
上記で得られたPHAフィルムを長さ3cm、幅3mmの短冊状に切り、23℃にて、延伸機を用いて任意の倍率例えば2倍、5倍、10倍等に延伸した。必要に応じて延伸をやめ除荷し、再度、延伸操作を繰り返し行った。製造例1~14で得られたP(3HB-co-4HB)ポリマーを使用して製造したPHAキャストフィルムに、上記の通り延伸を施したものをそれぞれ、実施例1~14のフィルムとする。
【0090】
[広角X線回析(WAXD)測定および小角X線散乱(SAXS)の測定]
製造例1~12のPHAから作成されたPHAキャストフィルムについて、 延伸前、延伸中、除荷後、再延伸中のフィルムの構造解析を、広角X線回折(WAXD)測定及び小角X線散乱(SAXS)測定により行った。
【0091】
WAXD測定及びSAXS測定は、大型放射光施設SPring-8を用いて、X線の波長は0.1nm、カメラ長は250mmとした。フィルムをX線ビームに垂直に、検出器に平行に設置した。SAXS測定の場合、X線の波長は0.1nm、カメラ長は2500mmとした。
【0092】
製造例1~12のサンプルについてのWAXD測定及びSAXS測定の結果を図2及び図13~23に示した。上側はWAXD測定を下側はSAXS測定を示す。Originalは延伸前フィルム成形体、×5は5倍延伸中を、×10は10倍延伸中を、After releaseあるいはZero stressは除荷後を、Drawing againは再延伸中を示す。
【0093】
WAXD測定において、強い強度のリングパターン部分は結晶で回折されたピークを示し、弱い強度の部分はアモルファスに由来する部分を示す。WAXD測定の結果、延伸前のフィルム成形体では、2回らせん構造(α構造)に起因した同心円状(リングパターン)の回折が見られ、α構造は無秩序に存在している。よって、延伸前のフィルムはα構造とアモルファス構造とを含むことが分かる(なお、ポリマーについては100%の結晶化度はありえないのでアモルファス構造は当然含まれている)。この時点では平面ジグザグ構造(β構造)に起因した回折は見られなかった。対して、5倍、10倍延伸後のWAXD解析結果では、α構造は延伸方向に若干配向を始めるが、α結晶の周期は均一ではない。5倍、10倍延伸及び除荷後の再延伸の場合に、WAXD赤道線上にβ構造に起因した回折点が観察されたことから、α構造とα構造の間にある非晶部の分子鎖が引き延ばされてβ構造(平面ジグザグ構造)が発現していることが判明した。このβ構造に起因する回折点は引張荷重を除荷し、伸びが回復した状態では消失しており、β構造は除荷状態では再度ランダムコイルへと戻っていると考えられた。除荷し収縮した後であっても、一度目の延伸によって生じた配向したα構造に起因する回折点は観察されており、α構造は配向したままであることがわかる。除荷し収縮した後、再度引張荷重をかけた再延伸においても配向したα構造に起因する回折点は観察されている。上記の通り、延伸後のフィルムはα構造とアモルファス構造とを含むことが分かる。
【0094】
これらのフィルムに対してSAXS測定を行った結果、荷重を除荷したフィルムには延伸方向と平行な子午線上にドロップライクパターンが見られた。これは、ラメラ結晶が特定の周期を有して延伸方向に対して配向していることを示している。WAXDの結果より、延伸前からラメラ結晶に由来するリングパターンが生じており、これを延伸するとα構造で形成される結晶の十字配向とβ構造の出現が認められ、除荷すると、配向度が下がりβ構造が消失することが認められた。SAXSの結果より、延伸前は明確な散乱ピークが存在せず(積層ラメラのランダム配向)、延伸過程に出現する子午線上の散乱と除荷後のフィルムに認められる明確な子午線上のドロップライク状の散乱パターンが観察された。以上の結果から、このフィルム中では、延伸前に存在していた積層ラメラ構造が延伸されることで回転し、延伸方向に対して水平あるいは垂直に配向すると考えられる。この時、延伸倍率の増加によって、ラメラ結晶間に存在するタイ分子鎖が緊張状態となり集まることでβ構造(WAXDにおける赤道線の強い回折)が出現すると考えられる。このβ構造は安定な状態ではないため、緊張状態が解かれると熔解し通常のタイ分子鎖に戻ると予想される。さらに除荷後はゴム弾性によって全体が収縮する。ラメラ結晶で構成される高次構造はこの時、ダイナミックに再配置されることが可能であるため、ある程度周期性のある構造になると予想され、除荷後のフィルムのSAXS測定で子午線上に強い散乱パターンが観察される理由であると考えられる。
【0095】
[配向度の算出]
上記の広角X線回析(WAXD)の測定において測定したWAXD画像における特定の回折点(今回は(020)面)を含む領域を、リング状に選択し、同一の方位角を有する回折強度をすべて積算し、この強度を方位角に対してプロットすることで、方位角一次元プロファイルを作成した。回折点の存在する箇所では頂点を有する正規分布のようなカーブが得られるので、その半値幅(FWHM(full width at half maximum):ピークの半分の高さのピーク幅)を計測する(図24を参照)。半値幅をβとする場合、配向度F[%]は、
F=(180-β)/180 ×100[%]
で表される。
【0096】
実施例1~12のフィルムの配向度[%]を測定した結果を表2に示す。
【0097】
【表2】
【0098】
[引張試験:フィルム]
長さ3cm、幅3mmの短冊状に切り取ったPHAフィルムは引張試験機AGS-XあるいはEZ-Test((株)島津製作所製)を使用して、温度23℃、試験速度20mm/分、初期長10mmの条件でフィルムの破断までの引張試験を行った。なお、長方向の長さが3cmのうち、フィルムの固定にフィルムの端から1cmずつの領域を使用し、引張試験に使用する部分は中心の1cm(10mm)となり、その10mmの部分を初期長とした。応力ひずみ曲線の結果を図1に示す。
【0099】
[フィルムの伸縮性の評価]
実施例2、4、5、6、8及14のフィルムの伸縮性を、図4に示したような方法で評価した。長さ3cm、幅3mmの短冊片に切ったフィルムをチャック間距離(固定治具間距離)1cmをひずみ0%とし、11倍の11cm(ひずみ1000%、変位長さ10cm)に引き伸ばし戻した際のひずみL1(%)、再び、11倍(ひずみ1000%)に伸ばして戻した際のひずみL2(%)を表3にまとめた。ひずみは、変位長さ/固定治具間距離(1cm)により求めた。
【0100】
【表3】
【0101】
<実施例15~18>
[繊維結晶化]
製造例2、5、13で得られたP(3HB-co-4HB)を170℃~180℃にて5~10分間加熱し溶融させた後、2mmの吐出ダイから押出し吐出させた。具体的には、株式会社井元製作所(京都)の高温溶融押出紡糸装置(IMC-19F8)を使用し、直径6mmのシリンダーに約5gのポリマーを充填し、ピストン押出速度は0.5mm/sにて押出した。23℃にてローラーに巻き取り、ローラーに巻き取った状態にて23℃で30分間静置して結晶化させ、1次PHA繊維を得た。結晶化の時間は4HBの比率や結晶化温度にもよるが、4HB比率10モル%~30モル%程度のP(3HB-co-4HB)であれば1分~120分程度で、次の延伸工程に移行できる。
【0102】
[結晶化後延伸]
上記1次PHA繊維を、60℃に加熱した金属ピン(断面が直径7-8mmの円形であり、表面が平滑なステンレス又はクロムメッキのピン)に押し当てながら約5倍に延伸した繊維を得た。23℃で1か月間静置したものを、それぞれ実施例15、16、17とする。フィルムの場合と同様に、実施例15~17の繊維についてもα構造のX線配向度は50%以上であることが推察される。なお、フィルム形状ではあるが、ポリ3-ヒドロキシブチレートのホモポリマーの未延伸フィルムにおいては経時劣化によって、破壊伸びが大幅に低下することが報告されている(G.J.M.de Koning et al, POLYMER, 1993, Vol.34, No.19, 4089-4094のFigure 2)。
[長期安定性の評価]
実施例17で製造した繊維を23℃で半年間保存した繊維を実施例18とした。
【0103】
[引張試験:繊維]
長さ3cm、繊維径約0.1~0.3mmの延伸PHA繊維(実施例17及び実施例18)を引張試験機AGS-XあるいはEZ-Test((株)島津製作所製)を使用して、温度23℃、試験速度20mm/分、初期長10mmの条件で繊維の破断までの引張試験を行った。引張試験結果を表4に示した。引張試験の結果、破断ひずみ(破壊伸び)は同程度であり、経時劣化はほぼ抑えられていた。
【0104】
【表4】
【0105】
[伸縮性評価:繊維]
実施例15~17で作成したPHA繊維を繰り返し伸縮させるサイクル試験にて評価した。長さ3cm、繊維径約0.1~0.3mmの延伸PHA繊維を、引張試験機AGS-XあるいはEZ-Test((株)島津製作所製)を使用して、温度23℃、初期長10mmの条件でサイクル試験を行った。引張速度20mm/分にてひずみ100%(2倍の長さ)まで伸張し、続いてもとの長さにまでつかみ具を同速度で移動させ、PHA繊維を収縮させた。これを5回繰り返した。2回目から5回目の収縮時の応力-ひずみ曲線を図5図7に示した。
【0106】
実施例15で作成された製造例2由来のPHA繊維は、2回目の伸長の最初の時点(すなわち、1回目の収縮の終了時点にほぼ等しいとみなす)において、引張伸長回復率(%)が約70%であり、3回目~5回目の伸長の最初の時点において、引張伸長回復率(%)が約70%~約60%であった(図5)。
実施例16で作成された製造例5由来のPHA繊維は、2回目の伸長の最初の時点(すなわち、1回目の収縮の終了時点にほぼ等しいとみなす)において、引張伸長回復率(%)が約65%であり、3回目~5回目の伸長の最初の時点において、引張伸長回復率(%)が約65%~約60%であった(図6)。
実施例17で作成された製造例13由来のPHA繊維は、2回目の伸長の最初の時点(すなわち、1回目の収縮の終了時点にほぼ等しいとみなす)において、引張伸長回復率(%)が約60%であり、3回目~5回目の伸長の最初の時点において、引張伸長回復率(%)が約60%~約55%であった(図7)。
【0107】
上記と同様に実施例17で作成したPHA繊維を引張速度20mm/分にてひずみ100%(2倍の長さ)まで伸張し、続いてひずみ90%の伸張にまでつかみ具を同速度で移動させ、PHA繊維を収縮させた。これを5回繰り返した。1回目から5回目の伸縮時の応力-ひずみ曲線を図8に示した。
実施例17で作成されたPHA繊維はひずみ100%に伸張させた後、およそ90%へ繰り返し伸縮した。
【0108】
上記と同様に実施例17で作成したPHA繊維を引張速度20mm/分にてひずみ10%(1.1倍の長さ)まで伸張し、続いてもとの長さにまでつかみ具を同速度で移動させ、PHA繊維を収縮させた。これを5回繰り返した。1回目から5回目の伸縮時の応力-ひずみ曲線を図9に示した。
実施例17で作成されたPHA繊維はひずみ10%に伸張させた後、およそ1%(1.01倍)へ繰り返し伸縮した。
【0109】
[伸縮性評価:フィルム]
製造例2由来のPHAフィルムを繰り返し伸縮させるサイクル試験にて評価した。長さ3cm、幅3mmに切り取られたPHAフィルムを、引張試験機AGS-XあるいはEZ-Test((株)島津製作所製)を使用して、温度23℃、初期長10mmの条件でサイクル試験を行った。引張速度20mm/分にてひずみ1000%(11倍の長さ)まで伸張し、続いてもとの長さにまでつかみ具を同速度で移動させ、PHAフィルムを収縮させた。これを5回繰り返した。2回目から5回目の伸縮時の応力-ひずみ曲線を図10に示した。
【0110】
製造例2から作成されたPHAキャストフィルムは、2回目の伸長の最初の時点(すなわち、1回目の収縮の終了時点にほぼ等しいとみなす)において、みなし引張伸長回復率(%)が約50%であり、3回目~5回目の伸長の最初の時点において、みなし引張伸長回復率(%)が約45%~約40%であった(図10)。2回目の伸張の最初の時点の変位0mmを基準として引張伸張回復率(%)を計算すると、サイクル試験3回目での引張伸張回復率(%)は92%であり、4回目では88%、5回目では85%となる。
【0111】
製造例5由来のPHAフィルムを上記と同様にサイクル試験にて評価した。2回目から5回目の収縮時の応力-ひずみ曲線を図11に示した。
製造例5由来のPHAフィルムは、2回目の伸長の最初の時点(すなわち、1回目の収縮の終了時点にほぼ等しいとみなす)において、みなし引張伸長回復率(%)が約50%であり、3回目~5回目の伸長の最初の時点において、みなし引張伸長回復率(%)が約45%~約40%であった。2回目の伸張の最初の時点の変位0mmを基準として引張伸張回復率(%)を計算すると、サイクル試験3回目での引張伸張回復率(%)は91%であり、4回目では87%、5回目では85%となる。
【0112】
製造例14由来のPHAフィルムを上記と同様にサイクル試験にて評価した。2回目から5回目の収縮時の応力-ひずみ曲線を図12に示した。
製造例14由来のPHAフィルムは、2回目の伸長の最初の時点(すなわち、1回目の収縮の終了時点にほぼ等しいとみなす)において、みなし引張伸長回復率(%)が約50%であり、3回目~5回目の伸長の最初の時点において、みなし引張伸長回復率(%)が約50%~約40%であった。2回目の伸張の最初の時点の変位0mmを基準として引張伸張回復率(%)を計算すると、サイクル試験3回目での引張伸張回復率(%)は96%であり、4回目では94%、5回目では92%となる。
【0113】
実施例19:伸縮性を有したP(3HB-co-3HV)繊維の作製とその構造解析
<実験>
P(3HB-co-12%-3HV)(Metabolix社)を、溶融紡糸装置を用いて150℃で5分間溶融させた。その後押し出された樹脂を手で5倍までネッキング延伸することで、2倍にまで伸びる伸縮性を有する繊維を作製した。大型放射光施設SPring-8(FSBL03XU)で、得られた伸縮性繊維をサイクル試験しながらX線を照射させ、構造解析を行った。具体的には0.5N→2N→0.5N→4N→0.5N→6N→0.5N→10N→0.5N のようにサイクル試験を行い、伸縮性と分子鎖構造の関係を分析した。さらに得られた繊維を1倍延伸、1.5倍延伸、2倍延伸し、100℃、24時間でアニーリングを行った。延伸及び構造解析は、具体的には実施例1~14と同様に行った。以上より1倍、1.5倍、2倍二段階延伸熱処理繊維を作製し、引張試験機、X線回折によって物性評価と構造解析を行った。
【0114】
<結果及び考察>
[伸縮性と分子鎖構造の関係]
伸縮性繊維をサイクル試試験しながらX線を照射させる動的試験を行い、構造解析を行った。WAXDから、荷重をかけるとβ晶の強いピークが発現したが、除荷するとそのピークが減少した(図25)。またSAXS から、荷重をかけるとα晶間の長周期は増加し、除荷するとその長周期は減少した。さらにこの長周期の周期的な変化は繊維のつかみ具間距離の変化とほとんど一致していた。このことから、載荷時はα晶とα晶の間のタイ分子が伸び切りβ晶を発現するが、除荷時は発現していたβ晶がタイ分子に戻ることが考えられる。以上の結果より、伸縮性の要因は、タイ分子とβ晶が可逆的に変化するためだと考えらえる。
【0115】
[伸縮性繊維の高強度化に向けた検討]
1倍、1.5倍、2倍二段階延伸熱処理繊維の引張試験を行った結果、破壊強度は延伸倍率の上昇に伴って増加し、2倍二段階延伸熱処理繊維の破壊強度は302MPaであった。一方、繊維の破壊伸びは延伸倍率の上昇に伴って減少した(図26)。これらの構造解析を行った結果、WAXDから1.5倍、2倍二段階延伸熱処理繊維に関して、α晶(2回らせん構造からなるラメラ結晶)とα晶の間の非晶領域のタイ分子が伸びきり、分子の伸びきり鎖に由来するβ晶(平面ジグザグ構造)を発現し、さらにSAXSから、1.5、2倍二段階延伸熱処理繊維はストリーク散乱が観察されたことから、シシカバブ構造のシシ部分が規則正しくパッキングしていることが分かった。以上から、破壊強度の上昇はシシ部分の分子鎖が伸び切りβ晶を形成しながら規則正しくパッキングしているため、また破壊伸びの低下は分子鎖が十分に伸び切っているためだ考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の生分解性、生体適合性、生体吸収性の伸縮性を示すフィルム、繊維、その他成形物はしなやかで外力や形状に対して追従性があり、伸縮性の必要なフィルム、繊維、繊維を使用した編織物、フィルムや繊維の複合物等、産業の利用に有用である。農業、漁業、商業、工業、医療等で使用されているプラスチックの生分解性、生体吸収性を活かした用途に利用することができる。
図1
図2
図3
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図5
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